説明

雄性の精子染色体異常の減少のための卵胞刺激ホルモンの使用

本発明は、雄性、特に精子の異数性に罹患している男性における配偶子の染色体変化を軽減するためのFSH活性を有する物質の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雄性における配偶子の精子染色体異常の減少のための卵胞刺激ホルモン(FSH)及びFSH変異体の使用に関する。更に具体的には、本発明は、精子の異数性、特に二倍性及び二染色体性に罹患している雄性における卵胞刺激ホルモン(FSH)及びFSH変異体から選択される物質の使用を提供する。本発明は更に、雄性における配偶子の染色体変化の処置及び/又は予防のための医薬組成物の調製のための卵胞刺激ホルモン(FSH)及びFSH変異体を含む医薬製剤の使用を含んで成る。
【背景技術】
【0002】
かなりの割合の不妊男性が異常な核型を有しており、そのため、これらの対象者が染色体変化を有する配偶子を産生することが明らかとなっている。更に、正常な核型を有していても、染色体変化を有する精子が存在している可能性を排除することはできない。これは、染色体分離におけるエラーが精子形成における有糸分裂及び/又は減数分裂の間に起こりうるためである。文献で利用可能となった最初のデータによると(Vegetti et al., 2000 Human Reproduction, 15 (2), 351-365)、健常な男性の精子の約0.3〜1.08%が数的な染色体異常を有しており、そしてこのパーセンテージは精子減少症の男性の精子(0.7〜9.44%)及び奇形精子症の男性の精子(1.3〜3.9%)を試験した場合により高くなっていることが示唆されている。これらの変化は、性染色体及び常染色体、特に第1、第18、及び第21染色体に関連しているようである。
【0003】
これらの精子の核型の異常は、通常、受精率の低下及び/又は流産率の増大をもたらし、すなわち、染色体が変化している配偶子を産生する、受精能力のある男性が女性のパートナーに対し複数回流産の経験をさせている(Egozcue et al., 2003, Placenta, 24,S62-565 ; Egozcue et al., 2000, Human reproduction, 6, 93-105)。
【0004】
過剰な又は不足した染色体を特徴とする数的な染色体異常は、「異数性」と称されている。
【0005】
異なるタイプの異数性が知られており、そしてそれらは染色体の数的な異常の種類に応じて命名されている。例えば、二倍体細胞における正常な数と比較して1つ余分な染色体が存在しているものは、三染色体性(2n+1)として知られており;二倍体細胞における相同対の一方の染色体の不在は一染色体性として知られており(2n−1)、一方、二倍体細胞における染色体対全体の欠失は零染色体性(2n−2)として知られている。ここで、nは染色体の型の数である。
【0006】
類推すると、一倍体細胞、例えば配偶子の場合、用語「異数体」は、数的異常の染色体、例えば過剰な染色体を有するか、あるいは1つ染色体を欠いている配偶子を特徴とする。これらの「異数体」配偶子は、正常な配偶子と融合した場合に異常な数の染色体(異数性)を有する接合体を形成する。多くの場合、異数体の接合体は妊娠出産時に死ぬ。しかしながら、場合によっては、前記接合体は、「異数性」に影響を受けた子供となり、そしてこの染色体の数的異常の保因者に対する結果は、関与する染色体に依存する。
【0007】
常染色体及び性染色体の配偶子の異数性の発生は、例えば、精原細胞の有糸分裂の間、そして第一及び第二減数分裂の間に起こる兄弟染色分体の分離の失敗、あるいは、例えば減数分裂時の相同染色体の分離の失敗のようなエラーから生じる。染色体が第一減数分裂期の間に分離を失敗すると、全ての産生した精子は異常な数の染色体を有する(2n:二倍体又は0n)。染色体が第二染色体期に分離を失敗すると、同一の精母細胞に起因する4つの一倍体細胞のうちわずかに2つの一倍体細胞が、染色体の数的異常に影響を受ける。
【0008】
従って、配偶子の異数性の産生は、それらが子孫に異数性を誘導し、これが胎児及び生存可能な乳児において多数の異常を引き起こすため、遺伝的危険因子を構成する。
【0009】
例えば、乳児における異数性は乳児に対し、将来の不妊、流産及び当該乳児の周産期死亡、、先天性奇形、精神遅滞、及び異常行動 (Hook, 1985, in : Aneuploidy : Etiology and mechanisms. (eds) V. L. Dellarco, P. E. Voytek A. Hollander, pp. 7-33. New York. Plenum ; Hecht et al., 1987, in : Aneuploidy. Part A : Incidence and etology. (eds J B. K Vig, A. X. Sandberg, 9-49. New York : Alan R. Liss)、感染症に対する感受性の増大、白血病に罹る傾向が高いこと、あるいは子孫のアルツハイマー病の早期発病、を引き起こすことがある。
【0010】
常染色体の異数性、例えば一倍性は常に胎児にとって致死性であるが、三倍性はそれらが第13、18及び21染色体に関与する場合にだけ致死性がないが、子孫にとって劇的なハンディキャップとなる。
【0011】
一般的な性染色体の異数性の例は、男性における異数性の最も一般的な形態であるクラインフェルター症候群の患者(47、XXX)、そしてSandberg及び共同研究者によって発見された異数性の別の型である患者(47、XYY)において見られる。
【0012】
精子染色体異常の存在は、(数的、構造的のいずれでも)多数の割合の不妊患者において指摘されており(Bourrouillou et al., 1985, Hum Genet. 71, 366-367)、そして受精補助技術(assisted fertilization technique)を用いることで患者が子孫を作ることが可能となり、同時に染色体が変化している子供を持つ危険性が増大すると広く受け入れられている。
【0013】
異数体の配偶子はまた、正常な染色体組を有する乏精子−精子無力−奇形精子症(oligoasthenoteratozoospermia)(OAT)の対象者においても発生し、これは、有毒な睾丸の病原が精子形成の間の染色体分離の繊細な過程を妨害しうるためである。異数体の配偶子はまた、老齢の対象者又は異数体誘発剤(aneuploidogenic agent)に潜在的に曝露されている患者においても発生する。このため、精子における異数性の頻度を評価するのは、不妊患者の診断過程の基礎段階となっており、これは特に彼等が受精補助技術を受けることを希望している場合である。
【0014】
既報のデータは、OAT患者が先天的な染色体異数性を有する精子の割合が高いことを示唆している。この異数性の高い頻度は、受精補助技術の間の精子の受精能を低下させる(Storeng et al., 1998, Acta Obstet Gynecol Scand, 77(2), 191-197)。
【0015】
体外受精・胚移植(FIVET)の間に使用する精子分離法が異数体の精子の比率を変えないという事実を考慮すると、OAT患者は染色体異数性の子供を作る危険性が高い(Pfeffer et al., 1999, Fertil Steril, 72, 472-478)。
【0016】
体外受精(IVF)のような受精技術の開発は、精子の核型異常が受精障害の原因となることがあり、そして/あるいは子孫の染色体異常を誘導することがあるため、精子の核型異常をモニタリングすることの重要性を高めてきた(Levron et al., 2001, Molecular and Cellular Endocrinology, 183, S23-S28)。
【0017】
IVFを受けている雄性の患者は、通常、卵管障害、無排卵又は特発性不妊症が原因の不妊女性のパートナーであるか、又は精子の量が少ない雄性である。
【0018】
この分野の研究は、ここ数年細胞内精子注入法(ICSI)の開発とより臨床的に関連するようになっている。ICSIは不妊治療に非常に有効であることが示されているが、子孫に対する細胞発生障害の伝播はこの受精技術に対する大きな懸案事項であり、このことは観察されてきている(Ushijima et al, 2000, Human Reproduction, 15 (5), 1107-1111 ; Levron et al., 2001, 上記)。この危険性は、例えば、高い血縁関係又は転座を有するドナーの精子の場合に高い(Baccetti et al., 2002, Contraception, 65, 283-287)。ICSIを受けている雄性患者は、通常、軽度又は重度の乏精子症及び/又は奇形精子症及び/又は精子無力症の患者である。更に、外科手術的手順(精巣内精子吸引:TESA;精巣内精子回収:TESE;微鏡下精巣上体精子吸引:MESA;経皮的精巣上体精子吸引:PESA)により得られた精子試料もICSIで治療される。
【0019】
このため、精子の異数性は受精補助技術を受ける予定の全ての患者において評価されるべきである。
【0020】
精子、特に生殖補助技術(ART)を受ける予定の男性の精子の異数性、例えば二倍性の比率を低下させる方法を開発することが望ましい。
【0021】
卵胞刺激ホルモン(FSH)は、セルトリ細胞の初期発生及び精原細胞を制御するためのそれらの刺激において役割を果たすことが知られている。実験的な研究により、FSHがいずれもFSH受容体を発現しているセルトリ細胞及び丸い胚細胞に存在することが示唆されている(Baccetti et al., 1998, Human Reproduction, 12, 9, 1955-1968)。
【0022】
更に、外因性FSH治療は、電子顕微鏡を通じて可視化した場合、アクロソーム、クロマチン及び軸糸が変化している男性(Baccetti et al., 1997, The FASEB Journal, 12, 1045-1054)及び特発性の乏精子−精子無力症(oligoasthenozoospermia)の男性(Ben- Rafael, 2000, Fertzlity and Sterility, 73 (1), 24-30 ; Strehler et al., 1997, Journal of Andrology, 18(4), 439-447)の精子形態及びの超構造の改善をもたらした。
【0023】
FSHは精子減少症に罹患している男性の精子形成を誘導するのにも使用される。150IUのFSHを週3回、2500IUのhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)を週2回、併用する計画は、低ゴナドトロピン性性機能低下症に罹患している男性の精子数の向上をもたらすのに成功している(Burges et al., 1997, Hum. Reprod., 12, 980-6)。大量のFSH(150IU)は特発性の精子減少症を処置するのにも使用されている(Iacono et al., 1996, J. Urol., 102, 81-4)。
【0024】
これらの研究は、受精率の増大及び、走査電子顕微鏡(SEM)/透過型電子顕微鏡(TEM)で可視化した場合の精子の形態の改善に焦点が当てられている。
【0025】
異数性は、SEM/TEMで観察した場合に核型に影響を及ぼさず、且つSEM/TEMの特徴と相関せず、すなわち、SEM/TEMにおいて正常な特徴を有する精液は、異数性によって影響を受けることがある。上記Baccettiらは(1997年)、遺伝的欠陥を有する患者はFSHで処置されるべきでないことを示唆している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明の目的は、雄性、好ましくは受精補助技術を受けようとしている男性、における配偶子の染色体変化、特に精子の異数性、例えば二倍性及び二染色体性の軽減及び/又は予防のための方法を提供するものであり、ここで、医薬として活性な量のFSH又はFSH変異体がこれを必要とする雄性に投与される。
【0027】
第一の観点において、本発明は、雄性における配偶子の染色体変化、特に精子の異数性、例えば二倍性及び二染色体性の処置及び/又は軽減のための医薬組成物の調製のための、卵胞刺激ホルモン(FSH)及びFSH変異体から選択される物質の使用を提供する。
【0028】
第二の観点において、本発明は、雄性の対象者における配偶子の数的な染色体変化、特に精子の異数性、例えば二倍性及び二染色体性を軽減する方法であって、有効量のFSH及びFSH変異体から選択される物質を雄性の患者に対し受胎前に投与することを含んで成る方法を提供する。
【0029】
第三の観点において、本発明は、雄性の対象者の子孫における染色体異常の発生を予防する方法であって、有効量のFSH及びFSH変異体から選択される物質を雄性の対象者に対し受胎前に投与することを含んで成る方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下の段落は、種々の用語の定義を提供し、そして、これらは、他の明示された定義が異なる定義を提供しない限り、本明細書及び特許請求の範囲を通じて一様に適用することが意図される。
【0031】
「精子減少症」は、低精子含量の精液を特徴とする。通常、精子濃度が20x106/ml未満の男性がそのように診断される。
【0032】
「精子無力症」は、精子の運動障害を有する精液を特徴とする、通常、50%未満の精子が前進するか、あるいは25%未満の精子が迅速に直進する男性がそのように診断される。
【0033】
「奇形精子症」は、異常な形態の精子を有する精液を特徴とする。通常、30%未満の精子が正常な形態を有する男性がそのように診断される。
【0034】
「乏精子−精子無力−奇形精子症」は、前述の3つの精子の質についての変化が全てに支障をきたしている精液を特徴とする。WHOの基準によると、患者が以下のパラメーターを示す場合にこのように診断される:密度<20x106精子/ml、グレード3の運動性<25%及び/又はグレード2+3の運動性<50%、及び正常な精子の形態<30%。
【0035】
用語「核型」は、個体の染色体の構成、例えば染色体数及び可能性のあるあらゆる異常、を意味する。
【0036】
染色体異常が関与する例示的な疾患には、ダウン症候群、クラインフェルター症候群(XXY)、ターナー症候群(XO)、トリプルX症候群、テトラX症候群、ペンタX症候群、XYY症候群、任意の染色体、例えば第7,10,11,13,18,21、X及びY染色体のモノソミー又はポリソミー、染色体モザイク(XY/XXY)を有する男性及び多数のX染色体(例えば、XXXXY;XXXYY)を有する男性の性染色体異数性がある。
【0037】
用語「投与」は、本発明の製剤を、疾患又は症状を処置する必要がある患者の体内に導入することを意味する。
【0038】
用語「染色体異常(aberration)」は、染色体の異常(abnormality)に使用され、そして染色体の数的異常、例えば倍数性及び異数性を含み、これには、少なくとも1つ過剰な染色体の存在又は1つの染色体の欠如が含まれる。半数体細胞、例えば配偶子における異数性には二倍性が含まれる。
【0039】
「異数性」及び「倍数性」は、細胞が通常の半数(「n」)又は二倍数(「2n」)と異なる染色体数を有する症状である。
【0040】
知られているとおり、高等植物及び動物において、それぞれの特定の型の染色体は通常2コピーの相同染色体として存在する(二倍体状態)。例えば、ヒトにおいては、二倍対数は46である。
【0041】
性細胞、すなわち配偶子(精子及び卵子)を形成する2回の細胞分割の後、それぞれ生じた精子及び卵子は通常わずかに1コピーの各染色体を含む(半数体状態)。例えば、ヒトにおいて、正常な半数体数(半数体細胞、例えば配偶子の染色体数)は23である。
【0042】
受精の間の精子と卵子の融合は、雄性の親に由来する1つの相同染色体及び雌性の親に由来するもう一方の相同染色体を含む「接合体」をもたらし、その結果正常な二倍体の染色体の構成が回復する。
【0043】
正常な体細胞は、23対の二倍体染色体含量を有し、又は合計で46個の染色体を有する。
【0044】
従って、異数体の体細胞は正常な半数体数の2倍(2n)以外の染色体数を有する。例えば、異数体の体細胞が、トリソミーを有する細胞、すなわちある染色体を3コピー有する細胞、モノソミーを有する細胞、すなわちある染色体を1コピーを有する細胞であることもある。異数性は、有糸分裂の間の染色体不分離から生じることもある。倍数体細胞は、通常の二倍体数、すなわち2nより多い正常な半数体数の何倍かの染色体数を有する細胞である。例えば、倍数体細胞は三倍体(n=69)又は四倍体(n=92)であってもよい。
【0045】
半数体細胞、例えば配偶子において、天然の状態は半数体であり、これはnの染色体を意味する。異数性とは、細胞がn以外の染色体数を有することを意味する。例えば、1つの染色体が欠失していることもあり(n−1)、あるいは1つ過剰な染色体が加わっている場合もあり(n+1)、例えば、これは二染色体において起こり、あるいは染色体数が二倍となっていることがあり、例えば、これは二倍性において起こる(2n)。
【0046】
細胞の「二染色体性」は、1つの過剰な染色体の存在を特徴とする。半数体細胞、例えば配偶子において、二染色体性はn+1の染色体を特徴とする。
【0047】
細胞の「二倍性」は、染色体数の倍加を特徴とする。半数体細胞、例えば配偶子において、二倍性は2nの染色体を特徴とする。
【0048】
用語「患者」は、疾患又は症状が治療される哺乳類を意味する。患者は、限定しないが、以下の起源のもの、ヒト、ヒツジ、ブタ、ウマ、ウシ、ウサギ等である。
【0049】
用語「生殖補助技術」には、IVF(体外受精)、ICSI(細胞内精子注入法)が含まれる。
【0050】
「有効量」とは、雄性の対象者における配偶子の染色体変化を軽減する、特に雄性の患者における異数性、例えば二倍性及び二染色体の割合を軽減するのに十分なFSHの量を意味する。FSHの量は当業者がルーチンに決定することができる。実際に投与される化合物の量は、典型的には医師が、関連する状況、例えば処置されるべき症状、選択される投与経路、投与される実際の化合物、個々の患者の年齢、体重及び応答、患者の内因性FSHレベル等の観点から決定される。あるいは、「有効量」は処置の期間によって達成することもできる。典型的に、処置の期間には、少なくとも1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月又は1年の処置が含まれる。
【0051】
「医薬として許容される」の表現は、活性成分の生物学的活性の有効性を実質的に妨げず、且つ投与される宿主にとって毒性でない任意の担体又は塩を包含することを意味する。
【0052】
用語「組換え体」は、組換えDN技術の使用を通じて産生するFSH又はFSH変異体の調製物を意味する。
【0053】
異数性、二倍性又は二染色体性の割合は、射精された精子における数的な染色体異常の評価を、例えば蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)、特に多色FISH (上記Egozcue et al., 2003)で行うことで決定することができる。FISHは、Shi et al., 2001, Reproduction, 121, 655-666に記載のとおり、標的染色体上の相補的DNA配列に対する蛍光色素で標識した特異的DNAプローブのハイブリダイゼーション、続いて、蛍光顕微鏡のもとでの結合したプローブの検出、を包含する。極度に少量の精子を有するドナー由来の精液試料に対してFISHを実施するために、マイクロ波脱凝縮/共変性(microwave decondensation/codenaturation)技術が開発され、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)で使用するための解析可能な精子数を増大させている(Rademaker et al., 2001, Cytogenet Cell Genet 95 (3-4), 143-5)。異数性又は二倍性の比率を決定するためのFISHプロトコールの例を実施例1で詳述する。
【0054】
基底血清テストステロンのレベルは、市販のELISA/化学発光イムノアッセイで測定することができる。
【0055】
「FSH変異体」の表現は、アミノ酸配列、グリコシル化パターン又はサブユニット間の連結がヒトFSHと異なるが、FSH活性を示す分子を包含することを意味する。例としては長期作用性修飾型組換えFSHであるCTP−FSHがあり、これは野生型α−サブユニット及び、hCGのカルボキシ末端ペプチドがFSHのβ−サブユニットのC末端と融合しているハイブリッドβ−サブユニット、から成る(La Polt et al. ; Endocrinology; 1992, 131, 2514- 2520;又はKlein et al., 2003, Human Reprod. 2003,18, 50-56)。また、一本鎖分子である一本鎖CTP−FSHも含まれ、これは以下の配列(N末端からC末端へ)から成り:
【化1】

(ここで、βFSHはFSHのβ−サブユニットを表しており、βhCG CTP(113−145)はhCGのカルボキシ末端ペプチドを表し、そしてαFSHはFSHのα−サブユニットを表している)、これはKleinらにより説明されたとおりである。FSH変異体の他の例には、WO01/58493、特にWO01/58493の請求項10及び11に開示されているような、α−サブユニット及び/又はβ−サブユニットに追加のグリコシル化部位が組み込まれているFSH分子、そしてWO98/58957に開示されているようなサブユニット間S−S結合を有するFSH分子が含まれる。
【0056】
本明細書で言及されるFSH変異体には、完全長成熟タンパク質よりも短いベータサブユニットのカルボキシ末端を欠失したものも含まれる。
【0057】
本発明で使用するFSHは、「組換え体」であってもよく、あるいは天然のものであってもよい。
【0058】
本発明のFSH変異体は、「組換え体」であってもよく、あるいは化学合成で得ることもできる。
【0059】
FSHを産生するための組換えDNA技術の一例はWO85/01958に記載されている。
【0060】
組換え技術を用いてFSHを発現させる方法の一例は、真核細胞にFSHのアルファサブユニット及びベータサブユニットをコードするDNA配列をトランスフェクションすることによるものであり、これは、欧州特許EP0211894及びEP0487512に記載のように、それぞれ別個のプロモーターを有するサブユニットを持つ1つのベクター又は2つのベクターのいずれかで提供される。
【0061】
FSHを産生するための組換え技術の使用の別の例は、欧州特許EP0505500に記載のように、FSHのサブユニットの一方又は両方をコードする内因性配列に、作用可能に連結するよう異種の制御セグメントを挿入するための相同組換えの使用によるものである。
【0062】
また、WO99/57263に開示されているような方法であって、サブユニットのうちの1つが細胞内に非相同的に挿入され、そして他のサブユニットが相同組換えによる異種の制御セグメントの挿入によるゲノム配列の活性化により発現するものも考慮される。本発明の方法はFSHを発現させるこれらの方法のうちのいずれかと一緒に使用することができる。
【0063】
本発明における使用に適した組換えヒトFSHは、例えば、セロノ社のGONAL−f(登録商標)(FSH、フォリトロピンアルファ)である。
【0064】
本発明に従い使用されるFSHは、生物学的起源、例えば尿起源、尿FSH又はウロフォリトロピン(uFSH)から精製してもよい。許容される方法には、Hakola, 1997, Molecular and Cellular Endocrznology, 127 : 59-69, Keene et al., 1989, J. Biol. Chem., 264 : 4769-4775, Cerpa-Poljak et al., 1993, Endocrinolo, 132 :351-356, Dias et al. 1994, J. Biol. Chem., 269 : 25289-25294 ; Flack et al., 1994, J. Biol. Chem., 269 : 14015-14020及びValove, et al., 1994, Endocrinolov, 135:2657-2661 ; 米国特許第3,119,740号及び米国特許第5,767,067号に記載のものが含まれる。
【0065】
FSH又はFSH変異体は、筋肉内又は皮下注射、好ましくは皮下注射用に製剤化してもよい。
【0066】
FSH製剤は凍結乾燥してもよく、この場合、これはあらかじめ注射前に注射用水に溶解される。FSH製剤はまた液体製剤であってもよく、この場合、溶解することなく直接注射される。
【0067】
FSH製剤は、単回投与又は多数回投与用の液体フォーマットのいずれでもよく、バイアル又はアンプル中にあってもよい。単回投与フォーマットは、使用前の保存の際安定で且つ強力なままでなければならない。多数回投与フォーマットは、使用前の保存の際安定で且つ強力なままでなければならないだけでなく、アンプルの密封が損なわれた後、多数回投与に使用するための治療計画の投与期間を通じて安定で、強力で、且つ比較的細菌を含まない状態で維持されなければならない。このため、多数回投与フォーマットは静菌剤、例えばベンジルアルコール、メタ−クレゾール、チモール又はフェノール、好ましくはベンジルアルコール又はメタ−クレゾールを含んでいる。単回投与製剤も静菌剤を含んで成ることがある。
【0068】
FSH又はFSH変異体は、既知の賦形剤及び安定化剤、例えばスクロース及びマンニトールと一緒に製剤化されることがある。当該製剤はまた、抗酸化剤、例えばメチオニンを含んで成ることもある。これは更に界面活性剤、例えばTWEEN(好ましくはTWEEN20)又はPluronic(好ましくはPluronic F68)を含んで成ることもある。
【0069】
FSHは筋肉内(IM)又は皮下(SC)注射用に現在製剤化されている。FSHは、2〜25℃で保存した場合に1年半から2年の貯蔵寿命を有する75IU/バイアル、そして150IU/バイアルのバイアル又はアンプルにおいて凍結乾燥(固体)型で供給される。注射溶液は、凍結乾燥型の製品を注射用水(WFI)で再構成することで形成する。患者の反応に応じて、漸増用量のFSHを用いる最大3サイクルの治療を使用することができる。凍結乾燥製剤を用いる場合、患者は新規バイアル中の凍結乾燥材料を希釈剤で再構成し、そして毎日それを再構成直後に投与する必要がある:例えば:[Serono Laboratories, Inc., Randolph, MAにより皮下注射用のFertinex(登録商標)(精製型注射用尿性卵胞性刺激ホルモン)について1996年2月に発行された添付文書N1700101A];Metrodin HP(登録商標);Gonal F(登録商標)ペン(Serono Laboratories, Inc)、すなわち予め充填され、そしてすぐに使用することができる多数回投与FSH。
【0070】
FSH用の製剤の例を以下に列記する。
【0071】
EP0618 808(Applied Research Systems ARS Holding N.V.)は、ゴナドトロピンと、安定量のスクロース単独又はスクロースとグリシンの固形均質混合物を含んで成る安定な液体医薬組成物を開示している。
【0072】
PCT/EP2004/050432(Applied Research Systems ARS Holding N.V.)は、FSHとPluronicの医薬組成物を開示している。
【0073】
EP0 448 146(AKZO N. V.)は、1重量部のゴナドトロピン;及び当該ゴナドトロピンと会合した200〜10,000重量部のジカルボン酸塩の安定化剤を含んで成る安定化したゴナドトロピン含有凍結乾燥物を開示している。
【0074】
EP0 853 945(Akzo Nobel N. V.)は、ゴナドトロピンと、安定化量のポリカルボン酸又はその塩及び安定化量のチオエーテル化合物を含んで成ることを特徴とする液体ゴナドトロピン含有製剤を開示している。
【0075】
FSHのレベルは、配偶子の染色体変化に罹っている雄性において、FSHアゴニスト、例えばWO0209706及びWO0008015に記載のFSHアゴニストの投与を通じて内因性FSHレベルを上昇させることで増大させることができる。
【0076】
1つの態様において、本発明は、雄性における配偶子の染色体変化、特に精子の数的異常、例えば配偶子の異数性、例えば二倍性及び二染色体性の処置及び/又は軽減のための医薬組成物の調製のための、卵胞刺激ホルモン(FSH)及びFSH変異体から選択される物質の使用を提供する。
【0077】
別の態様において、本発明は、雄性における配偶子の染色体変化、特に精子の数的異常、例えば配偶子の異数性、例えば二倍性及び二染色体性と関連する疾患又は障害を処置及び/又は予防するための方法であって、有効量のFSH及びFSH変異体から選択される物質を、必要とされる雄性の対象者に対し投与することを含んで成り、対象者がヒト又は動物であってもよい、方法を提供する。
【0078】
別の態様において、本発明は、雄性における配偶子の染色体変化、特に精子の数的異常、例えば配偶子の異数性、例えば二倍性及び二染色体性を軽減するための方法であって、有効量のFSH及びFSH変異体から選択される物質を患者に対し投与することを含んで成る方法を提供する。
【0079】
別の態様において、本発明は、雄性の対象者の子孫における染色体異常の発生を予防する方法であって、有効量のFSH及びFSH変異体から選択される物質を雄性の対象者に対し受胎前に投与することを含んで成る方法を提供する。
【0080】
別の態様において、本発明は、体外受精、例えばICSIの方法であって、精子のドナーを、精子の回収前に、精子の染色体異常を予防又は軽減するのに十分なFSH又はFSH変異体の量で処置する段階を含んで成る方法を提供する。
【0081】
更なる態様において、本発明は、体外受精、例えばICSIの方法であって、患者の精子の異数性及び/又は二倍性を蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)のような技術で検出する段階、異数体及び/又は二倍体の精子のドナーを、精子の回収前に、精子の染色体異常を予防又は軽減するのに十分なFSH又はFSH変異体の量で処置する段階を含んで成る方法を提供する。
【0082】
本発明の好ましい態様において、雄性はヒトである。
【0083】
本発明の別の好ましい態様において、前記物質はFSHである。
【0084】
本発明の別の好ましい態様において、前記物質はrFSHである。
【0085】
本発明の別の好ましい態様において、雄性は精子の数的な染色体異常を示す。
【0086】
本発明の別の好ましい態様において、精子の数的な染色体異常は二倍性である。
【0087】
本発明の別の好ましい態様において、精子の数的な染色体異常は、性染色体の二染色体性である。
【0088】
本発明の別の好ましい態様において、雄性は少なくとも1%又は約1%の精子の異数性を示す。
【0089】
本発明の別の好ましい態様において、雄性は少なくとも0.5%又は約0.5%の精子の二倍性を示す。
【0090】
別の好ましい患者群は、少なくとも0.8%又は約0.8%の二倍性を示す雄性に代表される。
【0091】
別の好ましい患者群は、異数性、そして少なくとも5,000pg/ml又は約5,000pg/mlの総テストステロンの基底の血清レベルを示す雄性に代表される。
【0092】
本発明の別の好ましい態様において、前記物質の投与は一日おきに実施される。
【0093】
本発明の別の好ましい態様において、前記物質は約75〜300IU/投与量、好ましくは150IU/投与量で投与される。
【0094】
本発明の別の好ましい態様において、雄性の患者は、生殖補助技術、例えばIVF(体外受精)及びICSI(細胞内精子注入法)を受ける。
【0095】
本発明の別の好ましい態様において、FSH及びFSH変異体から選択される物質による雄性の患者の処置は、生殖補助技術を受ける前に少なくとも一週間、一ヶ月、三ヶ月、六ヶ月及び一年前から選択される時間、好ましくは少なくとも3ヶ月の間実施される。
【0096】
1つの好ましい態様において、本発明は、患者の精子の異数性の処置及び/又は軽減のための医薬組成物の調製のためのrFSHの使用を提供する。
【0097】
別の更に好ましい態様において、本発明は、患者の精子の異数性を軽減する方法であって、有効量のrFSHから選択される物質を当該患者に投与することを含んで成る方法を提供する。
【0098】
続いて本発明を以下の実施例により説明するが、これは、本発明を何ら限定するものとしてみなされるべきではない。実施例は、下文で説明する図を参照する。
【0099】
略語:
Kg(キログラム)、mg(ミリグラム)、min(分)、ml(ミリリットル)、mM(ミリモル)、m2(平方メートル)、ng(ナノグラム)、pg(ピコグラム)、ART(生殖補助技術)、BMI(体格指数)、CEP(Chromosome Enumeration Probe)(染色体列挙プローブ)、DAPI(4,6ジアミジノ-2-フェニルインドール)、DHEA(デヒドロエピアンドロステロン)、DTT(ジチオスレイトール、Biorad)、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、FIVET(体外受精・胚移植)、FISH(蛍光in situハイブリダイゼーション)、FSH(卵胞刺激ホルモン)、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)、ICSI(細胞内精子注入法)、IM(筋肉内)、IVF(体外受精)、IU(国際単位)、LIS(3,5−ジヨードサリチル酸リチウム塩)、MESA(微鏡下精巣上体精子吸引)、OAT(乏精子−精子無力−奇形精子症)、PESA(経皮的精巣上体精子吸引)、rFSH(組換えFSH)、RIA(ラジオイムノアッセイ)、RT(室温)、SEM(走査電子顕微鏡)、SC(皮下)、SCC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)、TEM(透過型電子顕微鏡)、TESA(精巣内精子吸引)、TESE(精巣内精子回収)、TSH(甲状腺刺激ホルモン)、uFSH(尿FSH)、USP(米国薬局方)、WFI(注射用水)。
【実施例】
【0100】
本発明を以下の実施例で例示するが、これらは本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0101】
実施例1:GONAL−f(登録商標)(セロノ社の組換えhFSH)がヒト不妊男性(8人の患者)の精子の異数性に対して及ぼす効果
【0102】
a)不妊患者の選別
患者の不妊症は、スペルミオグラム(spermiogram)記録、ホルモン測定(アンドロステンジオン(A)、全テストステロン(Ttot)、DHEA、プロラクチン(PRL)、TSH、遊離チロキシン(FT4))及びY染色体微小欠失を含む男性病学への往診の後に決定される。
【0103】
正常値は以下の通りである:
A:1200〜5000ng/ml;Ttot:1500〜11400pg/ml;PRL:2〜15ng/ml;FT4:50〜120ng/ml;FSH:0.7〜10mIU/ml.
【0104】
血液試料は午前9〜11時の間に得る。測定は市販のRIA又はELISAキットで実施する。
【0105】
b)処置前のFISH解析による性染色体における異数性/二倍性の比率の決定
新鮮な精子試料を150mMのNaCl及び10mMのTris−HCl(pH8)で洗浄し、スライドガラス上に塗抹し、そして風乾させた。それらを続いて3:1のメタノール−酢酸中で10分間固定した。スライドを70%、80%及び100%冷エタノールで脱水し、風乾させた。試料を0.01MのDTT(ジチオスレイトール、Biorad)/0.1MTris−HCl(pH8)、続いて20mMLIS(3,5−ジヨードサリチル酸リチウム塩、Sigma)/前記緩衝液で膨張処理し、精子頭部が膨張しているかを調べた。2xSSC(pH7)中ですすぎ、そして風乾したスライドを脱水し、そして70%ホルムアミド(Aldrich)、2xSSC中で73℃で4分間変性させた。それらを続いてすぐに段階的エタノール系で脱水した。
【0106】
この最終段階の間に、異なる蛍光色素で直接標識したX、Y、第18染色体用のCEP(染色体列挙プローブ、Vysis, IL, USA)−サテライトDNAプローブを使用した。このプローブ混合物を5分間水浴中73℃で変性させた。ハイブリダイゼーションを37℃の湿室で12時間実施した。続いてスライドを0.4xSSC−0.3%NP40を用い2分間73℃で洗浄し、すぐに2xSSC−0.1%NP40中室温で洗浄し、そして最終的にantifade溶液(Vysis, IL, USA)中125ng/mlのDAPIでマウントした。合計3500〜5000の精子を三色FISHで解析した。
【0107】
スコアリング基準
全体のハイブリダイゼーション効率は99%超であった。精子核をMartin et al 1995, Mol Reprod. Dev., 42 (l) : 89-93の基準に従いスコアリングした。精子核は、それらが無傷で、オーバーラップしておらず、且つはっきりと定まった境界線を有する場合に限りスコアリングされる。
【0108】
異数性の場合、精子尾部の存在が確認された。精子は、2つの蛍光スポットが同じ色であり、同程度のサイズ、形状及び強度であり、そして精子頭部の縁の内側に少なくとも1つの領域と離れて位置する場合に二染色性であるとみなされた。
【0109】
二倍性は、上記基準に従い、2つの二重の蛍光スポットの存在により認識した。観察及びスコアリングは、水色、橙色、緑色の蛍光色素用のトリプルバンドパスフィルター(Vysis, IL, USA)及びDAPI用のモノクロームフィルターを持つ蛍光装置を備えたLeitz Aristoplanの光学顕微鏡上で実施した。
【0110】
以下の特徴を有する患者を選別した:
二倍性は処置前に観察した全ての異数性のうちの50.24%に相当した。
−二倍性の存在についての陽性試験が、上述の射精した精子に対するFISH測定で0.8%以上であること。
−FSH血清レベルが10UI/ml未満であること。
【0111】
これらの特徴のうち少なくとも1つを示す患者は本研究から排除される:
−体格指数[(BMI=体重(kg)/身長(m2)x100)]が30未満であること;
−ベースライン時の精管の通路における感染の存在(すなわち、クラミジア、ウレアプラズマ、マイコプラズマ);
−既知の自己免疫障害;
−甲状腺障害及び/又は病理学;
−慢性肝障害;
−FSH処置に禁忌の付随の病状の存在。
【0112】
c)処置プロトコール
患者は3ヶ月間1日おきに150UIに等しい量を投与される(2バイアル、皮下)。
【0113】
d)処置後のFISH解析による異数性/二倍性の比率の決定
性染色体における異数性/二倍性の比率は、上記(b)で詳述したプロトコールに従い処置後にFISH解析することで測定する。
【0114】
二倍性が−54%低下したことが8人全ての患者の試料サイズで明らかとなった(95%の信頼区間:−20%〜−87%;n=3;p=0.02)。
【0115】
性染色体の異数性の頻度の低下は8人全ての患者の試料で見られた。
【0116】
実施例2:GONAL−f(登録商標)が19人のヒト不妊男性の二倍性及び異数性に対して及ぼす効果
a)患者の選別:
18〜55歳の全23人の不妊男性患者を選択する。彼等の不妊症は、実施例1で詳述したプロトコールに従い決定する。
【0117】
b)処置:
19人の患者に3ヶ月間1日おきに150UI(2バイアル、皮下)に等しい量を投与し、そして4人の患者には処置をしない。
【0118】
総異数性、二倍性及び総二染色体性のパーセンテージをFISH試験(実施例1を参照のこと)で処置45日前(−45)、処置の前の処置当日(0)に測定する。
【0119】
総異数性は、二倍性と総二染色体性との和として算出する。特定の二染色体性(性染色体の二染色体性及び第18染色体の二染色体性)のパーセンテージを算出する。性染色体の二染色体性は更に、XX、YY及びXY染色体についての二染色体性の詳細なパーセンテージへと解析する。
【0120】
c)終点測定:
処置の3ヶ月後(90)、患者は本研究の開始時に実施するものと同一の試験を受け、そしてFISH試験を繰り返し、異数性、二倍性及び二染色体性の各パラメーターを測定する。
【0121】
d)測定値の統計解析:
平均値間の差異の統計的な有意性は、実施例1で詳述したプロトコールを用いて算出する。
【0122】
総異数性及び二倍性に対するGONAL−f(登録商標)を用いた3ヶ月の処置の効果をそれぞれ図1及び2で報告する。
【0123】
総異数性における38.4%の低下及び二倍性における40.7%の低下が観察される。
【0124】
総二染色体性に対するGONAL−f(登録商標)を用いた3ヶ月の処置の効果を図3で報告する。総二染色体性に対する主要な減少効果は、処置後に性染色体の総二染色体性の減少(−29.3%)により観察された。性染色体の総二染色体性の減少の主な原因は、XX二染色体性のパーセンテージの低下(−35.5%)及びYY二染色体性のパーセンテージの低下(−50%)に起因するものと見られる。
【0125】
これらの結果は、男性における組換えFSHによる処置が総異数性、特に二倍性及び性染色体の二染色体性を有意に減少させることができることを示す。
【0126】
実施例3:GONAL−f(登録商標)が22人のヒト不妊男性の二倍性及び異数性に対して及ぼす効果
実施例2で選別したが、実施例2の計算において含められなかった3人以上の患者についての統計的データを解析した。
【0127】
総異数性、二倍性及び性染色体の二染色体性に対する実施例2で示した効果を、拡張した患者の試料(22人の患者)で確認する:総異数性においては32%の低下、二倍性においては33%の低下、そして性染色体の総二染色体性においては26%の低下が観察される。
【0128】
性染色体の総二染色体性の減少の主な原因は、XX二染色体性のパーセンテージの低下(−32%)及びYY二染色体性のパーセンテージの低下(−21%)に起因するものと見られる。
【0129】
実施例4:GONAL−f(登録商標)が6人のヒト不妊男性の二倍性及び異数性に対して及ぼす効果
使用したプロトコールは実施例2で使用したものと同じであるが、但し、FSHの投与量は1日おきに300IUであり、そして登録した患者の数は6人であった。
【0130】
処置90日後の変量の解析は実施例に記載の通りに実施し、そしてこれも染色体異常(異数性、二倍性、全性染色体の二染色体性、XY、YY、XX染色体の二染色体性)の減少を示した。
【0131】
統計学的な有意性のために、より多くの投与量(300IU)による6人の患者の結果は、より少量の投与量(実施例3の150IUの投与量)を受けている22人の患者に対する研究結果と一緒にした。
【0132】
この一緒にした解析は、以下の結論をもたらした:FSH処置は、総異数性においては30%の低下、二倍性においては32%の低下、そして性染色体の総二染色体性においては28%の低下、XY染色体の二染色体性においては23%の低下、そしてXX染色体の二染色体においては30%の低下をもたらした。
【0133】
従って、患者数の増大とともに統計的な有意性が増大したことで、男性の異数性におけるFSHの有益な効果が裏付けられた。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】図1は、処置、すなわち150UI/日(隔日)の異なる段階での総異数性のパーセンテージの変化を表す(−45:処置45日前;0:処置の前の処置当日;90:処置開始90日後)。
【図2】図2は、処置、すなわち150UI/日(隔日)の異なる段階でのそれぞれの二倍性のパーセンテージの変化を表す(−45:処置45日前;0:処置の前の処置当日;90:処置開始90日後)。
【図3】図3は、処置、すなわち150UI/日(隔日)の異なる段階での総二染色体性のパーセンテージの変化を表す(−45:処置45日前;0:処置の前の処置当日;90:処置開始90日後)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雄性における配偶子の染色体変化の処置及び/又は軽減のための医薬組成物の調製のための、卵胞刺激ホルモン(FSH)及びFSH変異体から選択される物質の使用。
【請求項2】
配偶子の染色体変化が数的な変化である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
配偶子の数的な染色体変化が精子の二倍性である、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
配偶子の数的な染色体変化が性染色体の二染色体性である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
雄性がヒトである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記物質がFSHである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
前記物質がrFSHである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記物質が1日おきに投与される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
前記物質が投与量当たり約75〜約300IU投与される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
前記物質が投与量当たり約150IU投与される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
前記物質がrFSHであり、且つヒトの雄性が配偶子の異数性に罹っており、請求項1〜10のいずれか1項に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−528651(P2006−528651A)
【公表日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−521576(P2006−521576)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【国際出願番号】PCT/EP2004/051593
【国際公開番号】WO2005/011726
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(504320031)ラボラトワール セローノ ソシエテ アノニム (14)
【Fターム(参考)】