説明

雑音低減回路及び雑音低減方法

【課題】臨場感を維持しつつ、環境音に含まれる聴き手にとっては耳障りとなる音声成分を除去するという課題を解決する。
【解決手段】
本発明の雑音低減回路は、第1のマイクロフォンが接続される第1の入力部と、第1のマイクロフォンよりも広い指向性を備え、出力が前記環境音加工部に入力される第2のマイクロフォンが接続される第2の入力部と、直列に接続された、信号の高域の周波数成分を低減するイコライザ部及び信号の振幅を変化させる不明瞭化処理部を備え、第2の入力部から入力された信号を前記イコライザ部及び不明瞭化処理部で処理して出力する環境音加工部と、環境音加工部から出力された信号を、第1のマイクロフォンから出力された信号と混合して出力する第1の混合部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雑音低減回路及び雑音低減方法に関し、特に、複数のマイクロフォンによる集音の際の環境雑音を低減するための雑音低減回路及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロフォンを用いた集音装置には、集音の目的とする音声のみを明瞭化するために指向性の非常に高いマイクロフォンが採用されている。このようなマイクロフォンは鋭指向性マイクロフォンあるいは超指向性マイクロフォンと呼ばれることがある。しかしながら、音場において集音の目的とする音声以外の音(環境音)を除去するために指向性の高いマイクロフォンを採用すると、指向性の高いマイクロフォンの向きが目的とする音声の発生源からわずかに逸れても、目的とする音声の信号強度が急激に低下する。その結果、目的とする音声の信号の信号対雑音比が悪化する。
【0003】
このため、指向性の高い主マイクロフォンと指向性が比較的緩やかな副マイクロフォンとを組み合わせ、主マイクロフォンが出力する信号から副マイクロフォンが出力する環境音信号を差し引くことで、環境音を除去する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、特許文献2には、電話中にハンドセット自体から特定のノイズを拡声放射することで、周りから会話内容を聞き取りづらくする技術が記載されている。
【0005】
図10は、本発明に関連する雑音低減回路300の構成を示す図である。雑音低減回路300は、主マイクロフォン301から出力された、目的とする音声と環境音とが混合された信号から、環境音の信号を除去あるいは低減するために用いられる。主マイクロフォン301は、目的とする音声を集音するためのマイクロフォンであり、高い指向性を備えている。以下、主マイクロフォンが収集する、人の音声帯域内の音を「目的音声」という。目的音声は、収集の目的とする音声を含んでいる。また、主マイクロフォンが収集する目的音声以外の音を「狭域環境音」という。
【0006】
副マイクロフォン302は、目的音声の発生源を含むより広い範囲の音を集音する。副マイクロフォン302は、主マイクロフォンよりも広い指向性を備えている。以下、副マイクロフォンが広い指向性で収集する環境音を「広域環境音」という。広域環境音には、主マイクロフォン301が収集できない広い範囲の環境音及び主マイクロフォン301が収集する目的音声及び狭域環境音が含まれる。信号強度調整回路303は、主マイクロフォン301から入力された信号の強度を調整する。同様に信号強度調整回路304は、副マイクロフォン302から入力された信号の強度を調整する。帯域フィルタ回路305は、入力された信号のうち、人の音声帯域に含まれる周波数の信号強度を減衰させる。位相反転回路306は、帯域フィルタ回路305から入力された信号の位相を反転する。混合回路307は、位相反転回路306から入力された信号と信号強度調整回路303から入力された信号とを混合する。信号強度調整回路308は、混合回路307から入力された信号の強度を調整する。
【0007】
次に、雑音低減回路300の動作を説明する。副マイクロフォン302は、集音した広域環境音の信号を信号強度調整回路304へ出力する。信号強度調整回路304で信号強度が調整された広域環境音の信号は、帯域フィルタ回路305によって人の音声帯域内の周波数成分に対して減衰を受け、位相反転回路306によって位相が反転される。位相反転回路306によって位相が反転された信号は、混合回路307へ入力される。
【0008】
一方、主マイクロフォン301は、集音した目的音声及び狭域環境音を含む信号を、信号強度調整回路303へ出力する。信号強度調整回路303は、入力された信号の強度を調整して混合回路307へ出力する。信号強度調整回路303から出力された信号と位相反転回路306から出力された信号とは混合回路307において混合される。
【0009】
人の音声帯域周辺の周波数成分が除去され逆位相の信号となった副マイクロフォン302からの広域環境音の信号は、主マイクロフォン301からの信号と混合回路307にて混合される。その結果、信号強度調整回路303、304の調整量を適切に設定することにより、主マイクロフォン301と副マイクロフォン302で同時に集音された狭域環境音の信号が相殺される。その結果、混合回路307から出力される信号では狭域の環境音は消去あるいは減衰される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−218583号公報
【特許文献2】特開平5−22391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本願発明に関連する雑音低減回路300の持つ問題点について説明する。雑音低減回路300においては、指向性の高い主マイクロフォン301と指向性の緩やかな副マイクロフォン302とから同時に入力された狭域環境音は混合回路307において相殺される。しかし、広域環境音のうち副マイクロフォン302だけに入力された音は混合回路307において相殺されずに残留する。これにより生ずる第1の問題点について以下に説明する。
【0012】
まず、信号強度調整回路303から出力される信号において、主マイクロフォン301から出力された信号の振幅をAとする。そして、主マイクロフォン301から出力された信号に含まれる目的音声の信号の振幅をVo、主マイクロフォン301から出力された信号に含まれる狭域環境音の信号の振幅をNnとすると、
A=Vo+Nn ・・・(1)
である。なお、上式及び以降の式において、同一の信号成分に対する加算記号(+)及び減算記号(−)は、信号の位相が一致した状態で振幅が加算又は減算されることを示す。 次に、信号強度調整回路304から出力される信号において、広い指向性を持つ副マイクロフォン302から出力された信号の振幅をBとする。そして、副マイクロフォン302から出力された信号には、主マイクロフォン301から出力された信号に加えて、主マイクロフォンで収集されない、音声帯域外の環境音の信号(振幅Nw)及び音声帯域の環境音の信号(振幅Vw)が含まれる。従って、Bは下式で表される。
【0013】
B=A+Nw+Vw
=Vo+Nn+Nw+Vw ・・・(2)
そして、(2)式において、音声帯域の信号の振幅はVo及びVwであるので、帯域フィルタによってBから音声帯域成分の減衰を受けた信号の振幅Cは、下式で表される。
【0014】
C=B−Vo−Vw
=[Vo+Nn+Nw+Vw]−Vo−Vw
=Nn+Nw ・・・(3)
これは、帯域フィルタ回路305の出力を表す。ここで、「−Vo−Vw」は帯域フィルタ回路においてVo及びVwが減衰を受けて消去されることを示す。
【0015】
さらに、位相反転回路の出力信号の振幅Dは、
D=−C
=−[Nn+Nw] ・・・(4)
となる。負の符号は、位相反転回路306によって位相が反転したことを示す。
【0016】
その結果、混合回路307で混合されて出力される信号の振幅E1は
E1=A+D
=[Vo+Nn]−[Nn+Nw]
=Vo−Nw ・・・(5)
となる。
【0017】
このように、雑音低減回路300の出力信号には、目的音声の信号Voに加えて広域の環境音Nwがそのまま残留する。ここで、広域環境音Nwに、高い周波数の音が繰り返し鳴動する音等(例えば咳、ボールペンの出し入れ音、椅子のキシミ音等)が含まれていると、環境音の信号強度が低くても、聴き手にとっては環境音が耳障りとなってしまう。これが第1の問題点である。
【0018】
ここで、主マイクロフォン301の指向性を広げることで、混合回路307で相殺される環境音が増加するので、第1の問題点が改善される。しかし、以下に説明するように、主マイクロフォン301の指向性を広げると、広域環境音に含まれる音声成分が増加する。広域環境音に含まれる音声成分は、目的音声を理解しようとする聴き手の注意を妨げる。これが雑音低減回路300の第2の問題点である。
【0019】
以下では、主マイクロフォン301の指向性を広げた例として、主マイクロフォン301に副マイクロフォン302と同じマイクロフォンを用いた場合について説明する。信号強度調整回路304の出力における、副マイクロフォン302から出力される信号Bは、(2)式に示したように以下で表される。
【0020】
B=Vo+Nn+Nw+Vw
主マイクロフォン301からの信号Aは、Bと同じとなる。
【0021】
A=B
=Vo+Nn+Nw+Vw ・・・(6)
これは、信号強度調整回路303の出力を表す。
【0022】
そして、帯域フィルタ回路305によってBから音声帯域の信号が除去された信号Cは、下式で表される。
【0023】
C=B−Vo−Vw
=Nn+Nw ・・・(7)
従って、位相反転回路306の出力信号Dは以下のようになる。
【0024】
D=−C
=−Nn−Nw・・・(8)
その結果、雑音低減回路300の出力信号E2は、以下のようになる。
【0025】
E2=A+D
=[Vo+Nn+Nw+Vw]−Nn−Nw
=Vo+Vw ・・・(9)
このように、雑音低減回路300の出力信号E2には、広い指向性で収集された広域の音声帯域の環境音(Vw)が残留する。ここで、広域の環境音に目的外の会話音声が含まれており、その内容が聴き手にとって興味深いものであった場合には、環境音の信号強度が低くても、聴き手が目的音声の内容を理解する妨げとなる。これが雑音低減回路300の第2の問題点である。
【0026】
雑音低減回路300の第3の問題点は、第2の問題点とは逆に副マイクロフォン302の特性を指向性の鋭い主マイクロフォン301に近づけると、その場の臨場感が低下することである。
【0027】
その理由について以下に説明する。以下では、副マイクロフォン302に主マイクロフォン301と同じマイクロフォンを用いた場合について説明する。
【0028】
主マイクロフォン301の出力信号Aは、(1)式の通りである。
【0029】
A=Vo+Nn
これは、信号強度調整回路303の出力を表す。
【0030】
副マイクロフォン302が出力する信号は主マイクロフォン301と同じである。従って、信号強度調整回路303及び304を調整することによって、信号強度調整回路304から出力される信号の振幅Bが下式を満たすように各信号の振幅を調整できる。
【0031】
B=A
=Vo+Nn
すなわち、副マイクロフォン302にも指向性の高いマイクロフォンを用いると、副マイクロフォン302が出力する信号には、広い指向性で収集された信号Vwは含まれなくなる。従って、帯域フィルタ回路305によって音声帯域が低減された信号の振幅Cは、下式で表される。
【0032】
C=B−Vo
=Vo+Nn−Vo
=Nn ・・・(10)
となる。そして、位相反転回路306の出力信号の振幅Dは、以下のようになる。
【0033】
D=−C
=−Nn ・・・(11)
その結果、雑音低減回路300の出力信号の振幅E3は、以下のようになる。
【0034】
E3=A+D
=V+Nn−Nn
=Vo ・・・(12)
式(12)に示すように、雑音低減回路300の出力信号E3は目的とする信号のみとなる。すなわち、雑音低減回路300の出力には目的とする音声の信号のみが出力される。この場合、目的音声以外の環境音が消去されることにより、臨場感が低下するという問題が生じる。これは、1本のマイクロフォンからの信号を、音声帯域のみを通過させるフィルタを通した場合と同様の結果である。
【0035】
以上のように、本願発明に関連する雑音低減回路300には、(a)広範囲の環境音が相殺されず残留する、(b)広域の環境音により目的とする音声の理解が妨げられる、(c)環境音が消去されることにより臨場感が低下する、という課題があった。
【0036】
このため、雑音低減回路300は、聴き手にとって好ましい出力信号を得るために主マイクロフォンと副マイクロフォンの特性を選定したり、環境音を相殺する割合を調整したりする必要があった。
【0037】
また、特許文献2に記載された技術は、加えるノイズが送話中の音声には無関係かつ単調であるため、聞き手にとって逆に耳障りなノイズとなるという課題があった。
【0038】
(発明の目的)
本発明の目的は、臨場感を維持しつつ、環境音に含まれる聴き手にとっては耳障りとなる音声成分を除去するという課題を解決するための雑音低減回路及び雑音低減方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0039】
本発明の雑音低減回路は、第1のマイクロフォンが接続される第1の入力部と、第1のマイクロフォンよりも広い指向性を備え、出力が前記環境音加工部に入力される第2のマイクロフォンが接続される第2の入力部と、直列に接続された、信号の高域の周波数成分を低減するイコライザ部及び信号の振幅を変化させる不明瞭化処理部を備え、第2の入力部から入力された信号を前記イコライザ部及び不明瞭化処理部で処理して出力する環境音加工部と、環境音加工部から出力された信号を、第1のマイクロフォンから出力された信号と混合して出力する第1の混合部とを備える。
【0040】
本発明の雑音低減方法は、第1のマイクロフォンよりも広い指向性を備える第2のマイクロフォンが接続される第2の入力部に入力された信号に対して高域の周波数成分を低減するとともに及び振幅を変化させ、高域の周波数成分の除去及び振幅の変化を受けた信号を、第1のマイクロフォンが接続される第1の入力部から入力された信号と混合して出力する。
【発明の効果】
【0041】
本発明は、臨場感を維持しつつ、聴き手にとって聴き取りやすい信号を生成できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第1の実施形態の雑音低減回路及びその周囲の音場の概要を説明するための図である。
【図2】雑音低減回路の詳細な構成を示す図である。
【図3】不明瞭化回路の構成及び動作を説明するための図である。
【図4】不明瞭化回路の処理を具体的に説明するための図である。
【図5】本発明の第2の実施形態の雑音低減回路の概要を説明するための図である。
【図6】本発明の第2の実施形態の雑音低減回路の詳細な構成を示す図である。
【図7】混合回路206における処理を説明するための図である。
【図8】本発明の第3の実施形態の雑音低減回路の構成を示す図である。
【図9】混合回路705の前後における信号の波形を模式的に示す図である。
【図10】本発明に関連する雑音低減回路300の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
次に、発明を実施するための最良の形態について図面を参照して詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態の雑音低減回路100及びその周囲の音場の概要を説明するための図である。図1を参照すると、雑音低減回路100は、入力部111及び112と、信号強度調整回路204及び207と、環境音加工回路105と、混合回路107とを備える。
【0044】
入力部111及び112には、それぞれ主マイクロフォン101及び副マイクロフォン102が接続される。主マイクロフォン101は、極めて高い指向性を備え、目標音源103が発する音の集音に用いられる。目標音源は、目的音声を生成する音源であり、例えば音声の収集対象となる話し手である。副マイクロフォン102は、主マイクロフォン101よりも広い指向性を持つ。副マイクロフォン102は、目標音源103を含めた、主マイクロフォンよりも広い範囲の音場113に存在する環境音源104で発生する環境音を集音する。環境音源104は、収集の対象とならない音の発生源であり、音場113で発生する騒音や目標音源以外の話し手の音声が含まれる。
【0045】
雑音低減回路100において、信号強度調整回路207は、入力部111から入力された信号を増幅しあるいは減衰させる。信号強度調整回路207及び204は、それぞれ、入力部111及び入力部112から入力された信号を増幅しあるいは減衰させる。
【0046】
副マイクロフォン102が出力した信号は、信号強度調整回路204で強度(振幅)が調整された後、環境音加工回路105で所定の処理が施される。環境音加工回路105が出力した信号は、信号強度調整回路207が出力した信号と混合回路107によって混合される。そして混合回路107は、混合された信号を雑音低減回路100の出力である出力信号108として出力する。なお、混合回路107の出力信号の強度を調整するために、雑音低減回路100は信号強度調整回路209を備えていてもよい。
【0047】
図2は、雑音低減回路100の詳細な構成を示す図である。環境音加工回路105は、イコライザ回路210及び不明瞭化回路211を備える。雑音低減回路100においては、信号強度調整回路204の出力は、イコライザ回路210に入力される。
【0048】
イコライザ回路210は、信号強度調整回路204から入力された信号の周波数特性を操作する。不明瞭化回路211は、イコライザ回路210から出力された信号に対して、後述する所定の音響的な加工を施す。
【0049】
次に、第1の実施形態の雑音低減回路100の動作について説明する。入力部111を介して主マイクロフォン101に接続された信号強度調整回路207が出力する信号の振幅をAとすると、Aは式(1)と同様に表される。
【0050】
A=Vo(目的音声の信号の振幅)+Nn(狭域環境音の信号の振幅)
入力部112を介して副マイクロフォン102に接続された信号強度調整回路204が出力する信号の振幅Bは、式(2)と同様に表される。
【0051】
B=A+[Vw+Nw](広域環境音)
と表される。ここで、広域環境音は、副マイクロフォンのみで収集される音声帯域の信号の振幅Vwと音声帯域外の信号の振幅Nwの和である。信号強度調整回路204の出力信号は、イコライザ回路210に入力される。
【0052】
第1の実施形態ではイコライザ回路210として一般的な5チャンネル程度のグラフィック・イコライザ回路を用いるものとする。イコライザ回路210は、聴き手にとって耳障りな周波数域の環境音を低減させる。さらに、不明瞭化回路211は、イコライザ回路210から出力された環境音の信号に、以下で説明する音響的な加工を施すことで環境音を不明瞭化する。この不明瞭化処理により、環境音に含まれる目的音声以外の音声が、聴き手に内容を意識させないレベルまで不明瞭化できる。そして、混合回路107は、不明瞭化された信号と、指向性の高い主マイクロフォンからの音声とを混合して出力する。
【0053】
本実施形態における不明瞭化回路211からの出力信号及びその振幅をF1とすると、F1は、信号強度調整回路204が出力する信号(振幅B=Vw+Nw)をイコライザ回路210で処理し、その出力を不明瞭化回路211で不明瞭化した信号(不明瞭化信号)である。
【0054】
従って、混合回路107の出力Gは以下で表される。
【0055】
G=A+F1
=Vo+Nn+F1 ・・・(13)
と表される。
【0056】
次に、イコライザ回路210及び不明瞭化回路211の動作についてより詳細に説明する。
【0057】
副マイクロフォン102から出力された信号は、信号強度調整回路204で振幅が調整される。イコライザ回路210は、信号強度調整回路204から出力された信号に含まれる、耳障りな高周波数成分を減衰させる。例えば、イコライザ回路210は、環境音に含まれる音声帯域外の周波数成分を減衰させてもよい。具体的には、イコライザ回路210は、通常の電話の音声帯域の上限である3.4kHz以下の周波数の信号を減衰させずに通過させ、周波数が3.4kHzを越える信号を減衰させるように設定されてもよい。これにより、周波数が3.4kHzを越える耳障りな環境音を減衰させることができる。また、上限の周波数は3.4kHz以外の周波数でもよい。
【0058】
また、雑音低減回路100は、操作部106を外部に備え、操作部106からの入力により、イコライザ回路210の周波数特性を自由に設定できるようにしてもよい。そして、雑音低減回路100が出力する信号の品質に応じて、操作部106からの入力によりイコライザ回路の周波数特性を変更してもよい。
【0059】
続いて、不明瞭化回路211による、デジタル信号処理を用いた音響的な加工について説明する。
【0060】
図3は、図2に記載された不明瞭化回路211の構成及び動作を説明するための図である。図3を参照すると、不明瞭化回路211は、イコライザ回路210と直列に接続されている。そして、不明瞭化回路211は、信号強度調整回路509および510、AD変換回路504、蓄積メモリ505、クロスフェード処理部507、DA変換回路508及び混合回路503を備える。ここで、ADはanalog to digital、DAはdigital to analogを意味する。
【0061】
信号強度調整回路509及び510は、イコライザ回路210から入力された信号の強度を調整する。AD変換回路504は、信号強度調整回路509から出力された信号をAD変換してデジタル音声データに変換する。蓄積メモリ505は、AD変換回路504が生成したデジタル音声データを蓄積する。
【0062】
蓄積メモリ505は複数の記憶領域を備え、AD変換された信号を一定の間隔で時間的に分割し、分割した信号をデジタル音声データとしていずれかの記憶領域に蓄積する。なお、蓄積メモリ505は、環状的に使用されてもよい。すなわち、蓄積メモリ505において、デジタル音声データがクロスフェード処理部507から読み出されて空となった記憶領域には、その後AD変換回路504から新たに出力された音声デジタルデータが蓄積されるようにしてもよい。
【0063】
クロスフェード処理部507は、蓄積メモリ505に蓄積されている複数のデジタル音声データから複数のデータを選択し、選択したデジタル音声データにクロスフェード処理を施した後に時間遅延を与える。クロスフェード処理とは、各々のデジタル音声データの先端と終端の振幅変化がなだらかとなるような加工を行う処理をいう。クロスフェード処理の結果、デジタル音声データが混合回路503で混合された際に、混合回路503の出力振幅が急激に変化することを防止できるので、振幅の急変による耳障りな雑音の発生を抑制できる。ここで、クロスフェード処理部507は、蓄積メモリ505からランダムにデジタル音声データを選択してもよい。また、クロスフェード処理部507は、選択されたデジタルデータにランダムな大きさの遅延量を与えてもよい。クロスフェード処理を受け時間遅延を与えられたデジタル音声データは、DA変換回路508によって再びアナログ信号に戻される。
【0064】
混合回路503は、DA変換回路508が出力するアナログ信号と信号強度調整回路510から出力される信号とを混合して、不明瞭化回路211の出力信号として出力する。
【0065】
以上のように、不明瞭化回路211は、DA変換回路508が出力するデジタル処理された信号と信号強度調整回路510が出力する不明瞭化処理を受けていない信号とを混合回路503で混合する。その結果、不明瞭化回路211は「ザワザワ感」のある擬似的な環境音の信号を生成することができる。
【0066】
図4は、図3に示した不明瞭化回路211の処理を具体的に説明するための図である。以下の説明では、適宜、図3の構成要素及び符号を参照する。なお、説明を簡単にするために、AD変換回路504及びDA変換回路508によるアナログ信号とデジタルデータとの間の変換処理についての記載は図4では省略されている。
【0067】
図4を参照すると、不明瞭化回路211への入力信号は、入力信号ストリーム602と出力信号ストリーム604に分配される。図4において、入力信号ストリーム602を構成するデータがデジタル音声データA、B、C、D(図4の603)として時間的に分割されて蓄積メモリ505の記憶領域へ蓄積される。複数の記憶領域に蓄積されたデジタル音声データは、クロスフェード処理部507によって蓄積メモリ505から抽出され、クロスフェード処理が施されて信号a、b、c、dとなる(図4の605)。信号a、b、c、dは図示されないDA変換回路によりアナログ信号に変換された後、混合処理(図4の606)によって出力信号ストリーム604と混合されて出力信号607となる。図4における混合処理606は、具体的には図3に示した混合回路503で行われる。
【0068】
以上の手順により、イコライザ回路210から入力された環境音の信号は不明瞭化回路211においてデータの順序の入れ換え及びクロスフェード処理による音響的な加工が施されて出力される。そして、加工された環境音の信号を、図2の混合回路107で主マイクロフォン101から出力された信号と混合することで、環境音の不明瞭化処理が実行される。
【0069】
混合回路107から出力される信号に含まれる環境音からは高い周波数域の成分が除かれているとともに、環境音に含まれる広域の信号は不明瞭化されている。その結果、雑音低減回路100は、環境音に含まれる聴き手にとっては耳障りとなる音声成分等を低減できるという効果を奏する。また、雑音低減回路100の出力には不明瞭化された環境音が残留しているため、環境音を完全に除去した場合に生じる臨場感の喪失という問題も生じない。
【0070】
第1の実施形態の雑音低減回路100では、副マイクロフォンでは除去できなかった広い範囲の環境音について注目した。そして、環境音を完全に除去するのではなく、環境音に含まれる聴き手にとっては耳障りとなる音声成分を低減した。さらに、第1の実施形態の雑音低減回路100では、特に環境音に含まれる会話内容を「ザワザワ感」として不明瞭化することで、聴者の環境音の会話内容への注意をそらせる処理を施している。この処理により、環境音を敢えて不明瞭化して残しつつその場の臨場感を維持することが可能となった。その結果、第1の実施形態の雑音低減回路100は、臨場感を維持しつつ、聴き手にとって聴き取りやすい信号を生成できるという効果を奏する。
【0071】
なお、図2に示した第1の実施形態の効果は、以下の最小構成の雑音低減回路でも実現される。すなわち、最小構成の雑音低減回路は、入力部111及び112と、環境音加工回路105と、混合部107とを備えていてもよい。
【0072】
入力部111及び112には、それぞれ主マイクロフォン101及び副マイクロフォン102が接続される。環境音加工回路105は、入力された信号の高域の周波数成分を低減するイコライザ回路210と入力された信号の振幅を変化させる不明瞭化処理回路211とが直列に接続されている。また、副マイクロフォン102は主マイクロフォン101よりも広い指向性を備え、副マイクロフォン102の出力は環境音加工回路109に入力される。そして、混合部107は、環境音加工回路105から出力された信号を、主マイクロフォンから出力された信号と混合して出力する。
【0073】
最小構成の雑音低減回路において、イコライザ回路210は、入力された信号に含まれる高い周波数の環境音を除去する。そして、不明瞭化回路211は、不明瞭化処理を行う。
【0074】
ここで、図2においてはイコライザ回路210から出力された信号が不明瞭化回路211で処理される構成としているが、最小構成においてもイコライザ回路210及び不明瞭化回路211における処理の順序は問わない。
【0075】
混合回路107は、環境音加工回路105から出力された信号と主マイクロフォン101から出力された信号とを混合して出力する。すなわち、最小構成の雑音低減回路においても、第1の実施形態の雑音低減回路100と同様に、環境音に含まれる聞き手にとっては耳障りとなる音声成分が低減される。さらに、最小構成の雑音低減回路は、環境音を不明瞭化することで、例えば他者の会話に対する聴者の注意をそらせる処理を施している。この処理により、最小構成の雑音低減回路は臨場感を維持しつつ、環境音に含まれる、目的音声を聴き取りにくくする成分を低減させることが可能である。従って、最小構成の雑音低減回路も、臨場感を維持しつつ、聴き手にとって聴き取りやすい信号を生成できるという効果を奏する。
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。なお、本実施形態を説明する各々の図において、第1の実施形態と同一の構成要素には同一の参照符号を付して、各々の詳細な説明は省略する。
【0076】
図5は、本発明の第2の実施形態の雑音低減回路200の概要を説明するための図である。図5を参照すると、雑音低減回路200は、入力部111及び112、信号強度調整回路203、204及び207を備える。また、雑音低減回路200は、さらに、位相反転回路205、混合回路206、環境音加工回路105及び混合回路107を備える。信号強度調整回路203は、入力部111から入力された信号を増幅しあるいは減衰させて環境音加工回路105に入力する。
【0077】
このように、雑音低減回路200は、第1の実施形態で説明した雑音低減回路に加えて、信号強度調整回路203、位相反転回路205及び混合回路206をさらに備える。雑音低減回路200の入力部111及び112には、それぞれ主マイクロフォン101及び副マイクロフォン102が接続されている。
【0078】
副マイクロフォン102が出力した信号は、信号強度調整回路204で強度が調整された後、混合回路206を経由して環境音加工回路105に入力される。環境音加工回路105から出力された信号は、主マイクロフォン101が出力した信号と混合回路107によって混合される。そして混合回路107は、混合された信号を雑音低減回路200の出力信号として出力する。なお、混合回路107の出力信号の強度を調整するために、雑音低減回路200は信号強度調整回路209を備えていてもよい。
【0079】
なお、信号強度調整回路203、204及び207は、目的音声に含まれる環境音の割合を変更するために用いられる。
【0080】
図6は、雑音低減回路200の詳細な構成を示す図である。位相反転回路205は、信号強度調整回路203から出力された信号の位相を反転させる。位相反転回路205は、さらに、信号強度調整回路203から出力された信号に所定の遅延を与える機能を備えていてもよい。混合回路206は、位相反転回路205から入力された信号と、信号強度調整回路204から入力された信号とを混合する。
【0081】
環境音加工回路105は、イコライザ回路210及び不明瞭化回路211を備える。イコライザ回路210は、環境音に含まれる耳障りな高域の周波数成分を低減させる。また、雑音低減回路200は、外部からの操作で任意にイコライザ回路210の周波数特性を変更するための操作部106を備えていてもよい。第2の実施形態における、イコライザ回路及び不明瞭化回路211による不明瞭化処理は第1の実施形態において図3及び図4を用いて説明した処理と同様であるので、これらの処理の詳細な説明は省略する。
【0082】
混合回路107は、信号強度調整回路207が出力した信号と不明瞭化回路211が出力した信号とを混合し、信号強度調整回路209へ入力する。信号強度調整回路209は、雑音低減回路200が出力する信号の強度を調整する。
【0083】
雑音低減回路200においては、副マイクロフォン102から出力され、入力部111へ入力された信号は、信号強度調整回路204で強度が調整された後混合回路206へ送られる。また、主マイクロフォン101から出力され、入力部112へ入力された信号は2分岐され、その一方は信号強度調整回路203で強度が調整される。そして、信号強度調整回路203が出力した信号は、位相反転回路205にて位相が反転されるとともに所定の遅延が与えられた後、混合回路206によって信号強度調整回路204の出力信号と混合される。
【0084】
位相反転回路205の作用により、混合回路206の入力において、主マイクロフォン101が収集した音の信号と、副マイクロフォン102が収集した、主マイクロフォン101が収集した同一の信号とは逆位相となる。このため、信号強度調整回路203及び204においてそれぞれを通過する信号の振幅及び遅延を適切に調整することで、主マイクロフォン101と副マイクロフォン102が同時に収集した同一の信号成分を相殺することができる。すなわち、混合回路206において主マイクロフォン101と副マイクロフォン102から同時に取り込まれた信号が、振幅が同一で逆位相の信号として同時に混合されるように、混合回路206へ入力される信号の振幅及び遅延量を調整する。こうすることで、混合回路206において、副マイクロフォン102から入力された信号から、主マイクロフォン101から入力された出力する信号の成分を除去することができる。
【0085】
なお、遅延量を調整する機能は、入力部112と混合回路206との間に設けられていてもよい。あるいは、遅延量を調整する機能は、入力部111と混合回路206との間及び入力部112と混合回路206との間の両方に設けられていてもよい。そうすることで、入力部111に入力された信号が入力部112に入力された信号よりも遅れている場合でも、入力部111に入力された信号と入力部112に入力された信号とのタイミングを混合回路206の入力部分において一致させることができる。
【0086】
以上説明した雑音低減回路200の信号処理についてさらに説明する。入力部111を介して主マイクロフォン101に接続された信号強度調整回路203が出力する信号の振幅Aは、以下のように表される。
【0087】
A=Vo+Nn
入力部112を介して副マイクロフォン102に接続された信号強度調整回路204が出力する信号の振幅Bは、式(2)と同様に表される。
【0088】
B=A+[Vw+Nw]
と表される。そして、位相反転及び遅延回路205から出力される信号の振幅Gは、以下のように表される。
【0089】
G=−A
=−Vo−Nn
その結果、混合回路206から出力される信号の振幅Hは、式(14)のようになる。
【0090】
H=G+B
=(−Vo−Nn)+(A+Vw+Nw)
=(−Vo−Nn)+(Vo+Nn+Vw+Nw)
=Vw+Nw ・・・(14)
すなわち、混合回路206からは、広域環境音としてVw+Nwが出力される。なお、混合回路206でVo+Nnが相殺されるように、信号強度調整回路203、204によって信号の振幅が調整される。
【0091】
ここで、主マイクロフォン101から出力される信号が混合回路206で相殺される処理について図7を用いて説明する。図7は、雑音低減回路200における、位相反転及び混合の作用を説明するための図である。図7(a)〜(d)において、縦軸は信号の強度、横軸は主マイクロフォン101及び副マイクロフォン102への入射角を示す。中央の入射角0度は各マイクロフォンの正面方向を示し、入力された音声に対する感度が最も高くなる。図7(a)に示すように、指向性の高い主マイクロフォンでは入射角が大きくなると急激に信号の振幅が小さくなる。それに対して、図7(c)に示すように、比較的広い指向性を持つ副マイクロフォンでは、入射角が大きくなった場合の信号の振幅の減少量は小さい。
【0092】
図7において、主マイクロフォン101から出力された信号401(図7(a))は、狭い指向性で収集された目的音声及び狭域環境音の信号である。信号401は、位相反転回路205で位相が反転されて転信号403(図7(b))となる。副マイクロフォンから出力された信号402(図7(c))は、信号403と混合されて、信号404となる(図7(d))。信号404に残留している環境音は、続くイコライザ回路210によって所定の周波数帯に対して減衰を受ける。
【0093】
混合回路206から出力された信号404は、イコライザ回路210に入力される。不明瞭化回路211から出力される信号の振幅をF2とすると、F2は、イコライザ回路210の出力を不明瞭化回路211で不明瞭化した信号(不明瞭化信号)の振幅である。
【0094】
従って、混合回路107から出力される信号の振幅Iは以下のようになる。
【0095】
I=A+F2
=Vo+Nn+F2
すなわち、雑音低減回路100から出力される信号は、信号強度調整回路207から出力される信号に、イコライザ回路210及び不明瞭化回路211による不明瞭化処理を施した信号を加えたものである。
【0096】
第1の実施形態においては、イコライザ回路210へ入力される信号の振幅はA+Vw+Nwであった。すなわち、第1の実施形態においては、イコライザ回路210へ入力される広域環境音には、主マイクロフォン101から出力される信号が含まれていた。このような信号に対して図1の環境音加工回路105で不鮮明化処理を行うと、不鮮明化された環境音に主マイクロフォン101から出力された信号に由来する成分が含まれることになる。環境音加工回路105の出力は不明瞭化処理を受けているものの、混合回路107で、主マイクロフォン101からの信号と混合されると、雑音低減回路100から出力される目的音声の明瞭度が低下する場合がある。
【0097】
これに対して、本実施形態では、主マイクロフォン101から出力される信号は、信号強度調整回路203で振幅が調整された後、混合回路206で相殺される。すなわち、雑音低減回路200では、環境音加工回路105に入力される信号には、主マイクロフォン101が収集した目的音声及び狭域環境音は含まれない。従って、環境音加工回路105から出力される信号には、主マイクロフォン101から出力された信号に由来する成分は含まれない。その結果、第2の実施形態の雑音低減回路200は、主マイクロフォン101からの信号と環境音加工回路105から出力される信号とが混合されても、目的音声の明瞭度が低下しないという効果を奏する。
【0098】
以上説明したように、第2の実施形態の雑音低減回路200は、位相反転回路205及び混合回路206によって、副マイクロフォン102が収集した信号から主マイクロフォン101が収集した目的音声を除去する。さらに、イコライザ回路210によって、環境音から耳障りな高周波成分を低減させた環境音を生成する。加えて、雑音低減回路200は、不明瞭化回路211によって、これらの処理を行った環境音に音響的な加工を施すことで環境音を不明瞭化する。
【0099】
すなわち、第2の実施形態の雑音低減回路200は、第1の実施形態と同様に、不明瞭化された信号と指向性の高い主マイクロフォンからの信号とを混合することで、主マイクロフォンと副マイクロフォンを組み合わせた場合に生じる、周囲の環境音がそのまま残留することによる問題を改善することができる。
【0100】
そして、第2の実施形態の雑音低減回路200においても、第1の実施形態と同様に、環境音を完全に除去するのではなく、環境音に含まれる聞き手にとっては耳障りとなる高い周波数の成分を低減し、環境音に含まれる会話内容を「ザワザワ感」として不明瞭化した。これにより、聴者にとって耳障りな高い周波数の環境音が除去されるとともに環境音の会話内容への注意をそらせることができる。さらに、環境音を敢えて不明瞭化して残すことによってその場の臨場感を維持することが可能となった。
【0101】
なお、第1及び第2の実施形態において、主マイクロフォン101が収集する指向性の狭い範囲の環境音(狭域環境音)は混合回路107の出力にそのまま現れ、不明瞭化処理は施されない。これは狭域環境音に不明瞭化を施すと著しく臨場感が損なわれるからである。すなわち、広域環境音についてのみ「ザワザワ感」として不明瞭化することで臨場感を維持する効果がより強く得られる。
【0102】
しかしながら、主マイクロフォン101が収集する狭域環境音を低減する必要がある場合には、信号強度調整回路207と混合回路107との間にイコライザ回路210と同様の回路を追加してもよい。追加されたイコライザ回路を用いて、主マイクロフォン101が収集する環境音に含まれる人の音声帯域以外の耳障りな音声成分の強度を下げることで、主マイクロフォン101が収集する環境音を低減することができる。
【0103】
なお、第1及び第2の実施形態では、イコライザ回路210で処理された信号が不明瞭化回路211で処理される構成について説明した。しかしながら、イコライザ回路210と不明瞭化回路211とは入れ替わって配置されてもよい。すなわち、まず不明瞭化回路211が不明瞭化処理を行い、不明瞭化回路211から出力される信号に対してイコライザ回路210が所定の周波数帯域の信号を減衰させるようにしてもよい。このような構成においても、環境音を不明瞭化するとともに周波数の高い耳障りな環境音を減衰させることが可能である。
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。第1及び第2の実施形態で説明した不明瞭化回路211の処理はデジタル処理であった。これに対して、副マイクロフォン102から出力される信号の不明瞭化は、アナログ回路を用いて行ってもよい。
【0104】
図8は、本発明の第3の実施形態の雑音低減回路700の構成を示す図である。本実施形態を説明する各々の図において、第1及び第2の実施形態と同一の構成要素には同一の参照符号を付して、各々の詳細な説明は省略する。第3の実施形態の雑音低減回路700は、第2の実施形態の図6に示した不明瞭化回路211に代えて不明瞭化回路701を備える点で第1の実施形態とは異なっている。不明瞭化回路701は、雑音源702及び混合回路703を備える。雑音源702は、雑音信号を発生して混合回路703に入力する。雑音信号としては、主マイクロフォン101が収集する目的音声との相関が小さい信号、例えば正弦波、ホワイトノイズ、矩形波が用いられる。しかし、雑音信号はこれらに限定されるものではない。混合回路703は、イコライザ回路210から出力される信号と雑音信号とをアナログ信号のまま混合して混合回路208へ出力する。
【0105】
第3の実施形態では、イコライザ回路210から出力される環境音の信号に対して雑音信号をアナログ的に混合することで、目的音声の聴取の障害となる周囲の会話等の内容を不明瞭化している。
【0106】
図9は、混合回路703の前後における信号の波形を模式的に示す図である。出力信号704は、イコライザ回路210から出力された広域環境音を含む信号705とホワイトノイズ706とが混合されて生成される信号である。すなわち、雑音低減回路700の出力信号は、混合回路107において主マイクロフォン101から入力された目的音声及び狭域環境音の信号と、不明瞭化回路701の出力信号(図9の704)とが混合された信号である。
【0107】
このように、第3の実施形態の雑音低減回路700は、副マイクロフォン102が出力する広域環境音をイコライザ回路210で処理する。そして、不明瞭化回路701は、イコライザ回路210の出力と雑音信号とをアナログ信号のまま混合して不明瞭化している。そして、雑音低減回路700は、不明瞭化回路701の出力と主マイクロフォン101からの音声とを混合する。その結果、雑音低減回路700は、環境音に含まれる耳障りな高周波成分を低減させるとともに、主マイクロフォンと副マイクロフォンを組み合わせた場合に生じる、周囲の環境音がそのまま残留することによる問題を改善することができる。すなわち、第3の実施形態の雑音低減回路700も、臨場感を維持しつつ、聴き手にとって聴き取りやすい信号を生成できるという効果を奏する。
【0108】
なお、第3の実施形態では、図5及び図6に示した第2の実施形態の雑音低減回路200において、不明瞭化回路211を不明瞭化回路701に置き換えた構成を説明した。しかしながら、図1及び図2で説明した第1の実施形態の雑音低減回路100において、不明瞭化回路211を不明瞭化回路701に置き換えても第1の実施形態と同様な効果が得られることは明らかである。
【0109】
また第3の実施形態においても、第1及び第2の実施形態と同様に、イコライザ回路210と不明瞭化回路701との処理の順序を入れ換えてもよい。
【0110】
なお、本発明の実施形態は以下の付記のようにも記載されうるが、これらには限定されない。
【0111】
(付記1)
第1のマイクロフォンが接続される第1の入力部と、
前記第1のマイクロフォンよりも広い指向性を備え、出力が前記環境音加工部に入力される第2のマイクロフォンが接続される第2の入力部と、
直列に接続された、信号の高域の周波数成分を低減するイコライザ部及び信号の振幅を変化させる不明瞭化処理部を備え、前記第2の入力部から入力された信号を前記イコライザ部及び前記不明瞭化処理部で処理して出力する環境音加工部と、
前記環境音加工部から出力された信号を、前記第1のマイクロフォンから出力された信号と混合して出力する第1の混合部とを備える、雑音低減回路。
(付記2)
前記イコライザ部は、周波数が3.4kHzを越える信号を減衰させる、付記1に記載された雑音低減回路。
(付記3)
前記不明瞭化処理部は、前記イコライザ部から出力された信号を2分岐して一方の信号を時間的に分割し、前記分割した信号の伝送順序をランダムに入れ換えて前記2分岐した他方の信号と混合して出力する、付記1又は2に記載された雑音低減回路。
(付記4)
前記不明瞭化処理部は、前記2分岐した一方の信号をA/D変換し、前記A/D変換された信号を時間的に分割し、前記分割された各々の信号に先頭と末尾との振幅変化を滑らかにするクロスフェード処理を行い、前記クロスフェード処理を行った信号の順序をランダムに入れ換えて前記2分岐した他方の信号と混合して出力する、付記3に記載された雑音低減回路。
(付記5)
前記不明瞭化処理部は、雑音信号を発生する雑音発生部と、入力された信号と前記雑音信号とを混合して出力する第2の混合部と、を備える、付記1又は2に記載された雑音低減回路。
(付記6)
前記第1の入力部へ入力された信号の位相を反転させる位相反転部及び前記位相反転部から出力された信号と前記第2の入力部へ入力された信号とを混合して前記環境音加工部に出力する第3の混合部をさらに備える、付記1乃至5のいずれかに記載された雑音低減回路。
(付記7)
前記第3の混合部に入力される信号の遅延量を制御する遅延制御部をさらに備える、付記6に記載された雑音低減回路。
(付記8)
前記位相反転部は、前記遅延制御部を含んで構成される、付記7に記載された雑音低減回路。
(付記9)
さらに、前記位相反転部へ入力される信号の強度を可変する第1の振幅制御部を備える、付記6乃至8のいずれかに記載された雑音低減回路。
(付記10)
さらに、前記第1の入力部へ入力された信号の強度を可変する第2の振幅制御部を備える、付記1乃至9のいずれかに記載された雑音低減回路。
(付記11)
さらに、前記第2の入力部へ入力された信号の強度を可変する第3の振幅制御部を備える、付記1乃至10のいずれかに記載された雑音低減回路。
(付記12)
付記1乃至11のいずれかに記載された雑音低減回路の前記第1の入力部に前記第1のマイクロフォンが接続され、前記第2の入力部に前記第2のマイクロフォンが接続された、雑音低減装置。
(付記13)
第1のマイクロフォンよりも広い指向性を備える第2のマイクロフォンが接続される第2の入力部に入力された信号に対して高域の周波数成分を低減するとともに及び振幅を変化させ、
前記高域の周波数成分の除去及び前記振幅の変化を受けた信号を、前記第1のマイクロフォンが接続される第1の入力部から入力された信号と混合して出力する、雑音低減方法。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明応用の一例としては、ICレコーダの音声処理への応用が挙げられる。多くのICレコーダは、環境音を低減させるために各種の工夫を凝らしているが環境音を充分には消去できないという課題がある。また、残留した環境音の信号強度を下げられたとしても耳障りな高音や内容が聞き取れる会話等が含まれていると、集音目的の音声から意識が削がれる等の課題もある。環境音自体の低減を目的としない本発明をICレコーダに採用することで、環境音に含まれる耳障りなノイズや会話内容が不明瞭化される。その結果前述の課題を解決することができる。また、不明瞭化を施す程度を可変すれば超指向性マイクロフォンのみで集音した場合に生じる「場の臨場感」の低下も抑えることが可能である。
【符号の説明】
【0113】
100、200、700 雑音低減回路
101、301 主マイクロフォン
102、302 副マイクロフォン
103 目標音源
104 環境音源
105 環境音加工回路
106 操作盤
107、206、307、503、703 混合回路
111、112 入力部
113 音場
203、204、207、209、303、304、308、509、510 信号強度調整回路
205 位相反転及び遅延回路
210 イコライザ回路
211、701 不明瞭化回路
305 帯域フィルタ回路
306 位相反転回路
401 主マイクロフォンから出力された信号
402 副マイクロフォンから出力された信号
403、404 信号
504 AD変換回路
505 蓄積メモリ
507 クロスフェード処理部
508 DA変換回路
602 入力信号ストリーム
603 デジタル音声データ
604 出力信号ストリーム
605 クロスフェード処理された信号
606 混合処理
702 雑音源
704 出力信号
705 イコライザ回路210から出力される信号
706 ホワイトノイズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のマイクロフォンが接続される第1の入力部と、
前記第1のマイクロフォンよりも広い指向性を備え、出力が前記環境音加工部に入力される第2のマイクロフォンが接続される第2の入力部と、
直列に接続された、信号の高域の周波数成分を低減するイコライザ部及び信号の振幅を変化させる不明瞭化処理部を備え、前記第2の入力部から入力された信号を前記イコライザ部及び前記不明瞭化処理部で処理して出力する環境音加工部と、
前記環境音加工部から出力された信号を、前記第1のマイクロフォンから出力された信号と混合して出力する第1の混合部とを備える、雑音低減回路。
【請求項2】
前記不明瞭化処理部は、前記イコライザ部から出力された信号を2分岐して一方の信号を時間的に分割し、前記分割した信号の伝送順序をランダムに入れ換えて前記2分岐した他方の信号と混合して出力する、請求項1に記載された雑音低減回路。
【請求項3】
前記不明瞭化処理部は、前記2分岐した一方の信号をA/D変換し、前記A/D変換された信号を時間的に分割し、前記分割された各々の信号に先頭と末尾との振幅変化を滑らかにするクロスフェード処理を行い、前記クロスフェード処理を行った信号の順序をランダムに入れ換えて前記2分岐した他方の信号と混合して出力する、請求項2に記載された雑音低減回路。
【請求項4】
前記不明瞭化処理部は、雑音信号を発生する雑音発生部と、入力された信号と前記雑音信号とを混合して出力する第2の混合部と、を備える、請求項1に記載された雑音低減回路。
【請求項5】
前記第1の入力部へ入力された信号の位相を反転させる位相反転部及び前記位相反転部から出力された信号と前記第2の入力部へ入力された信号とを混合して前記環境音加工部に出力する第3の混合部をさらに備える、請求項1乃至4のいずれかに記載された雑音低減回路。
【請求項6】
前記第3の混合部に入力される信号の遅延量を制御する遅延制御部をさらに備える、請求項5に記載された雑音低減回路。
【請求項7】
さらに、前記位相反転部へ入力される信号の強度を可変する第1の振幅制御部を備える、請求項5又は6に記載された雑音低減回路。
【請求項8】
さらに、前記第1の入力部へ入力された信号の強度を可変する第2の振幅制御部を備える、請求項1乃至7のいずれかに記載された雑音低減回路。
【請求項9】
さらに、前記第2の入力部へ入力された信号の強度を可変する第3の振幅制御部を備える、請求項1乃至8のいずれかに記載された雑音低減回路。
【請求項10】
第1のマイクロフォンよりも広い指向性を備える第2のマイクロフォンが接続される第2の入力部に入力された信号に対して高域の周波数成分を低減するとともに及び振幅を変化させ、
前記高域の周波数成分の除去及び前記振幅の変化を受けた信号を、前記第1のマイクロフォンが接続される第1の入力部から入力された信号と混合して出力する、雑音低減方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2013−110579(P2013−110579A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253956(P2011−253956)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(303013763)NECエンジニアリング株式会社 (651)
【Fターム(参考)】