説明

離型フィルム

【課題】セラミックシート製造時の加熱張力下における寸法変化率が工程適正に優れるとともに、セラミック乾燥時の熱収縮バランスにも優れ、同時に、表面平滑性を備えた、すなわち、セラミックシート製造の際に離型フィルムに求められる性能を十分に満足した離型フィルムを提供すること。
【解決手段】荷重下における伸縮率が特定範囲にあり、無荷重下における熱収縮率が特定範囲にあり、さらに、特定の表面高さを有する離型フィルムを、セラミックシート製造用離型フィルムとして用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は離型フィルムに関する。さらに詳しくは、セラミックシート製造の際に離型フィルムに求められる性能を、十分に満足させることのできる離型フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステルフィルムを基材とする離型フィルムは、積層セラミックコンデンサ、セラミック基板等の各種セラミック電子部品製造時に使用するセラミックシート(グリーンシート)等を製造する際のキャリアフィルムとして用いられる。
【0003】
セラミックシート(グリーンシート)は、例えば、離型層が形成されたポリエチレンテレフタレートフィルムからなるキャリアフィルムの上に、内部電極となる金属膜を蒸着等により形成した後、当該金属膜上に、セラミック粉体とバインダー剤等を溶媒に分散させたセラミックスラリーをリバースロール法等により塗布してセラミック前駆体−金属膜とキャリアフィルムとの複合体を作成し、その後、溶媒を加熱乾燥除去し、さらに、キャリアフィルムを剥離除去することにより製造される。
【0004】
次に、積層セラミックコンデンサは、上記のようにして製造した金属膜−セラミック一体化シートを、所望の寸法で積層し、熱プレス後、矩形状に切断することによりチップ状の積層体を得て、このチップ状の積層体を焼成し、焼成体の所定の表面に外部電極を形成することにより得ることができる。
【0005】
ところで、近年、積層セラミックコンデンサ等のコンデンサの分野においては、小型化・大容量化に伴う回路部品の高密度化が要求されている。したがって、使用するセラミックシート(グリーンシート)の厚みも益々薄膜化し、内部電極をさらに多層化する必要が生じている。
【0006】
しかしながら、セラミックシートの厚みを薄くしたり、積層枚数を増やしたりすると、セラミックシートのわずかな厚み斑ですら、内部電極の位置ずれを引き起こす原因となってしまう。
【0007】
そこで、セラミックシート製造時のキャリアフィルムの熱変形を小さくし、製造されるセラミックシートの厚み斑を低減させることが提案されている(特許文献1参照)。特許文献1には、120℃における1.47MPa応力下での寸法変化率の絶対値が、長手方向および幅方向共に0.3%以下である離型フィルムであれば、加熱処理時の熱変形が非常に小さくなるため、得られるセラミックシートの厚み斑を抑制できることが記載されている。
【0008】
しかしながら、セラミックシートは、通常100℃付近の温度下で、幅方向には把持されることなく乾燥される。このため、セラミックシート製造の際に用いられるキャリアシートは、セラミック乾燥時には、幅方向への張力がほとんどかからない状態で収縮する。したがって、特許文献1に記載されたように、張力がかかった状態における長手方向と幅方向のそれぞれの熱収縮率が低い離型フィルムを用いたのみでは、セラミックの乾燥に至るまでの全ての工程におけるキャリアシートの収縮斑までは解消することはできず、いまだなお、製造されるセラミックシートには厚み斑が発生し、積層時に内部電極の位置ずれが起こる問題が残されていた。
【0009】
また、セラミックシートの厚みが薄い場合には、離型フィルムの表面粗度が高いと、ピンホールの発生による不良、あるいは、セラミックシート剥離時にセラミックシートの破断等を生じさせ、生産性の低下を引き起こす。すなわち、セラミックシートが薄い場合には、従来は問題とならなかった程度の離型フィルム表面のキズや異物等の微細な表面欠点ですら、得られるセラミックシートのピンホール欠点等の原因として顕在化してしまう。
【0010】
したがって、昨今のコンデンサ分野の小型化・大容量化に伴って、セラミックシートを製造するためのキャリアフィルムには、さらに高い精度の寸法安定性、および、さらに高いレベルの表面凹凸の平滑化が要求されている。
【特許文献1】特開2000−343663号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、このような従来技術に鑑みてなされたものであり、セラミックシート製造時の加熱張力下における寸法変化率が工程適正に優れるとともに、セラミック乾燥時の熱収縮バランスにも優れ、同時に、表面平滑性を高度に備えた、セラミックシート製造の際に離型フィルムに求められる性能を、十分に満足させることのできる離型フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、荷重下における特定の伸縮率、無荷重下における特定の熱収縮率、および、特定の表面粗さを有する離型フィルムが、セラミックシート製造の際に離型フィルムに求められる性能を満足させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に離型層を有する離型フィルムであって、前記離型フィルムの長手方向に0.2MPa以上4.0MPa以下の張力を加えた場合の100℃における長手方向の伸縮率SMDが、下記式(1)を満たし、前記離型フィルムの長手方向に垂直な方向に0.01MPaの張力を加えた場合の100℃における長手方向に垂直な方向の伸縮率STDが、下記式(2)を満たし、前記離型フィルムの無荷重下での100℃における長手方向の熱収縮率HSMDが、下記式(3)を満たし、前記離型フィルムの無荷重下での100℃における長手方向に垂直な方向の熱収縮率HSTDが、下記式(4)を満たし、且つ、前記長手方向の熱収縮率HSMDと前記長手方向に垂直な方向の熱収縮率HSTDとが、下記式(5)を満たし、前記離型層表面の接触式三次元表面粗さ計で測定した最大高さRmaxが、100nm以上600nm以下の範囲であることを特徴とする離型フィルムである。
【0014】
[式1]
0.0961X−0.45≦SMD≦0.0961X−0.25 (1)
(式中、Xは、フィルム単位面積にかかる張力(MPa)であり、Xは0.2MPa以上4.0MPa以下の値を示す。)
[式2]
−0.6≦STD≦−0.2 (2)
[式3]
−0.4≦HSMD≦−0.1 (3)
[式4]
−0.6≦HSTD≦−0.2 (4)
[式5]
HSMD>HSTD (5)
【発明の効果】
【0015】
本発明の離型フィルムは、セラミックシート製造時の加熱張力下における寸法変化率が工程適正に優れるとともに、セラミック乾燥時の熱収縮バランスに優れ、同時に、表面平滑性を備えている。すなわち、セラミックシート製造の際に離型フィルムに求められる性能を、十分に満足している。
【0016】
したがって、本発明の離型フィルムをセラミックシート製造用のキャリアフィルムとして用いた場合には、搬送工程のみならず乾燥工程におけるキャリアシートの収縮バランスに優れるため、得られるセラミックシートの厚み斑を高度に抑制することができる。その結果、本発明の離型フィルムを用いて製造されたセラミックシートを用いて、セラミックコンデンサを製造した場合には、得られるコンデンサの内部電極の位置ずれを高度に抑制することができる。
【0017】
また同時に、本発明の離型フィルムは平面平滑性を維持しながら、得られるセラミックシートのピンホール発生を抑制することができ、かつ、セラミックシート製造時のセラミックシート剥離性にも優れる。
したがって、本発明の離型フィルムによれば、セラミックシートおよびセラミックコンデンサの生産性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
<離型フィルム>
本発明の離型フィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に離型層を有する離型フィルムであって、荷重下における特定の伸縮率、無荷重下における特定の熱収縮率、および、特定の表面粗さを有するものである。以下に、本発明の離型フィルムの物性および構成につき、説明する。
【0019】
[長手方向の伸縮率(SMD)]
本発明の離型フィルムは、離型フィルムの長手方向に0.2MPa以上4.0MPa以下の張力を加えた場合の100℃における長手方向の伸縮率SMDが、下記式(1)を満たす。セラミック−離型フィルム複合体は、通常、100℃付近の温度下で張力がかかった状態で搬送される。したがって、温度条件として100℃を選択することにより、より実際の工程に即した状況判断が可能となる。
〔式1〕
0.0961X−0.45≦SMD≦0.0961X−0.25 (1)
(式中、Xは、フィルム単位面積にかかる張力(MPa)であり、
Xは0.2MPa以上4.0MPa以下の値を示す。)
【0020】
長手方向の伸縮率SMDが式(1)の左辺の値より小さい場合には、セラミック−離型フィルム複合体の搬送張力に対してフィルムの長手方向の収縮応力が大きくなり、その結果、縦方向に不均一に収縮し、セラミック層の厚み斑を引き起こしてしまう。一方で、長手方向の伸縮率SMDが式(1)の右辺の値より大きい場合には、セラミック−離型フィルム複合体の搬送張力に対してフィルムの長手方向の収縮応力が小さいため、フィルムの平坦性が悪くなり、セラミック層の厚み斑を引き起こしてしまう。長手方向の伸縮率SMDが式(1)を満足する範囲にあれば、セラミック−離型フィルム複合体の搬送張力に対して適正バランスを有する長手方向の収縮応力となり、得られるセラミック層の長手方向の厚み斑を抑制することができる。
【0021】
なお、長手方向の伸縮率SMD、および後記する長手方向に垂直な方向の伸縮率STDは、下記式によって求める。式中、Mは、熱処理前のフィルムの長手方向または長手方向に垂直な方向の長さ、Mは、熱処理後のフィルムの同方向の長さを示す。すなわち、伸縮率SMDおよび伸縮率STDは、マイナスの場合にはフィルムが収縮していることを示し、プラスの場合にはフィルムが伸長していることを示す。
伸縮率(SMD、STD)=(ΔM/M)×100(%)
ΔM=M−M
【0022】
[長手方向に垂直な方向の伸縮率(STD)]
本発明の離型フィルムは、離型フィルムの長手方向に垂直な方向に0.01MPaの張力を加えた場合の100℃における長手方向に垂直な方向の伸縮率STDが、下記式(2)を満たす。ここで、温度条件として100℃を選択することにより、上記と同様に、より実際の工程に即した状況判断が可能となる。なお、伸縮率STDは、上記の式によって、熱処理前後のフィルムの長手方向に垂直な方向の長さから求める。
〔式2〕
−0.6≦STD≦−0.2 (2)
【0023】
長手方向に垂直な方向の伸縮率STDが−0.6%よりも小さい場合には、セラミック−離型フィルム複合体の搬送張力に対してフィルムの長手方向に垂直な方向(幅方向)の収縮が大きく、セラミック層の厚み斑を引き起こしてしまう。一方で、長手方向に垂直な方向の伸縮率STDが−0.2%よりも大きい場合には、セラミック−離型フィルム複合体の搬送中にフィルムの長手方向に垂直な方向(幅方向)の収縮が飽和してしまい、その結果、フィルムの長手方向に垂直な方向(幅方向)でフィルムの平面性が崩れ、セラミック層の厚み斑を引き起こしてしまう。
【0024】
[長手方向の熱収縮率(HSMD)および長手方向に垂直な方向の熱収縮率(HSTD)]
本発明の離型フィルムは、無荷重下での100℃における長手方向の熱収縮率HSMDが、下記式(3)を満たし、同時に、無荷重下での100℃における長手方向に垂直な方向の熱収縮率HSTDが、下記式(4)を満たし、且つ、長手方向の熱収縮率HSMDと長手方向に垂直な方向の熱収縮率HSTDとが、下記式(5)を満たす。
〔式3〕
−0.4≦HSMD≦−0.1 (3)
〔式4〕
−0.6≦HSTD≦−0.2 (4)
〔式5〕
HSMD>HSTD (5)
【0025】
フィルムの長手方向の熱収縮率HSMDと長手方向に垂直な方向(幅方向)の熱収縮率HSTDがそれぞれ上記の範囲にあり、且つ、長手方向の熱収縮率HSMDを長手方向に垂直な方向の熱収縮率HSTDよりも大きくすることにより、セラミックスラリー塗布後にセラミック層に含まれる溶媒を加熱乾燥除去する際において、キャリアフィルムの長手方向(縦方向)の収縮と長手方向に垂直な方向(幅方向)の収縮のバランスがとれ、その結果、得られる乾燥セラミック層の厚み斑を低減することができる。
【0026】
なお、長手方向の熱収縮率HSMD、および長手方向に垂直な方向の熱収縮率HSTDは、下記式によって求める。式中、Lは、熱処理前のフィルムの長手方向または長手方向に垂直な方向の長さ、Lは、熱処理後のフィルムの同方向の長さを示す。すなわち、熱収縮率HSMDおよび熱収縮率HSTDは、マイナスの場合にはフィルムが収縮していることを示し、プラスの場合にはフィルムが伸長していることを示す。
熱収縮率(HSMD、HSTD)=(ΔL/L)×100(%)
ΔL=L−L
【0027】
[最大高さ(Rmax)]
本発明の離型フィルムは、離型層表面の接触式三次元表面粗さ計で測定した最大高さRmaxが、100nm以上600nm以下の範囲、好ましくは200nm以上550nm以下の範囲、さらに好ましくは300nm以上500nm以下の範囲である。最大高さRmaxは、JIS規格(B0601:表面粗さ−定義および表示、B0651:触針表面粗さ測定器)に準拠し、三次元表面粗さ計を使用して求められる粗さ曲線から、基準長さを抜き取った部分の最大高さをいう。
【0028】
最大高さRmaxは最大突起高さを示し、ピンホール欠点の指標となる。具体的には、離型層表面のRmax(最大突起高さ)が600nmを超える場合には、当該部分のセラミックグリーンシートの厚みが薄くなり、結果としてピンホール欠点となってしまう。一方で、離型層表面のRmaxが100nm未満の場合には、滑り性が得られず巻取性が悪くなり生産性が悪くなるため好ましくない。
【0029】
すなわち、本発明の離型フィルムの離型層表面の最大高さRmaxが上記範囲にあると、表面平滑性および滑り性に優れることから、得られるセラミックシートの凹凸形状を抑制することができ、厚み斑の抑制されたセラミックシートを得ることができる。その結果、得られるセラミックシートを用いてセラミックコンデンサを製造した場合には、内部電極の位置ずれが抑制されたコンデンサを得ることができる。また同時に、本発明の離型フィルムの両表面の最大高さRmaxが上記範囲にあると、得られるセラミックシートのピンホール発生が抑制できるとともに、セラミックシート製造時のセラミックシートの剥離性に寄与することができる。
【0030】
<離型フィルムの製造方法>
上記のような物性を有する本発明の離型フィルムを製造する方法につき、以下に説明する。本発明の離型フィルムは、以下に述べる未延伸ポリエステルフィルム成形工程、一次延伸工程、インライン塗布工程、二次延伸工程、および、熱固定工程、を必須の工程とし、これらの工程を適宜調整することにより製造されるものである。
【0031】
[未延伸ポリエステルフィルム成形工程]
本発明の離型フィルムを得るにあたり、先ず、未延伸ポリエステルフィルム成形工程において、後に記載するポリエステル原料を押し出し成形して、未延伸ポリエステルフィルムを得る。
【0032】
押し出し成形にあたっては、押出し機を用いて、ダイより押し出された溶融シートを冷却ロールにて冷却固化して未延伸ポリエステルフィルムを得る。このとき、100nm以上600nm以下の範囲の最大高さRmax値とするためには、ポリマー中の粗大粒子の個数を減らすことによって達成することができる。ポリマー中の粗大粒子を減らすためには、例えば、溶融押出しに先立ち、フィルターとして線径15μm以下のステンレス鋼細線よりなる平均目開き10μm以上30μm以下、好ましくは15μm以上25μm以下の不織布型フィルターを用いて、溶融ポリマーを濾過することが好ましい。
【0033】
また、シートと回転冷却ドラムとの密着性を高めることにより、未延伸シートの平面性を向上させることができ、例えば、静電印加密着法および/または液体塗布密着法が好ましく採用される。
【0034】
[一次延伸工程]
一次延伸工程においては、上記の未延伸ポリエステルフィルム成形工程により得られた未延伸ポリエステルフィルムを、長手方向(縦方向)に延伸(縦延伸)することにより、長手方向延伸ポリエステルフィルムを得る。
このとき、一次延伸工程に先立ち、あらかじめ(Tg−10)℃以上(Tg−2)℃以下の温度条件下で予熱しておくことが、均一な厚みを有するとともに、所望の長手方向の伸縮率SMDおよび熱収縮率HSMDを有するフィルムを得るため好ましい。
【0035】
一次延伸工程においては、任意に予熱が施された未延伸ポリエステルフィルムを、(Tg+2)℃以上(Tg+40)℃以下の温度条件下で、長手方向に3.3倍以上4.0倍以下の範囲で延伸する。延伸倍率が3.3倍より小さい場合には、長手方向の熱収縮率HSMDが伸長方向(プラス値)になり好ましくない。一方で、延伸倍率が4.0倍より大きい場合には、長手方向の熱収縮率HSMDが大きくなり、かつ、張力下での長手方向の伸縮率SMDが収縮方向(マイナス方向)になってしまい好ましくない。延伸倍率を3.3倍以上4.0倍以下とすることは、所望の長手方向の伸縮率SMDおよび熱収縮率HSMDを得るためにも重要である。
【0036】
[インライン塗布工程]
インライン塗布工程においては、長手方向延伸ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に、インラインにて、離型層形成組成物を塗布することにより、塗膜を有するポリエステルフィルムを得る。
インライン塗布工程において用いられる離型層形成組成物としては、後に記載する水系の熱硬化型シリコーン組成物を用いることが好ましい。
【0037】
また、塗布方法としては、特に限定されるものではなく、水性エマルションの塗布方法として既知の任意の塗工技法を用いることができる。例えば、ローラーコーティング、スプレーコーティング、グラビアコーティング、リバースグラビアコーティング、または、スロットコーティング等の方法により、一次延伸工程で得られた長手方向延伸ポリエステルフィルム上に離型層形成組成物を塗布することができる。
【0038】
本発明の離型フィルムは、離型層形成組成物をインラインで塗布することに特徴がある。本発明の離型フィルムは、インラインで離型層形成組成物を塗布し、その後に二軸目の延伸がなされ、さらに熱固定がなされることで離型フィルムにかかる熱加工が完了する。そして、その後はオフラインにて熱がかからない。このため、離型フィルムの製造の目標値として定めた物性、とりわけ、荷重下での長手方向の伸縮率SMD、長手方向に垂直な方向の伸縮率STDや、無荷重下での長手方向の熱収縮率HSMD、長手方向に垂直な方向の伸縮率HSTDを、そのまま維持した状態で、実際の使用をすることができる。したがって、本発明の離型フィルムは、離型剤をインラインで塗布することで、離型フィルム製造にあたっての物性目標値がそのまま離型フィルムの最終的な物性となっており、寸法安定性に優れた離型フィルムとなる。
【0039】
一方で、一度製膜したポリエステルフィルムを使用して、オフラインにてシリコーン等の離型層形成組成物を塗布する方法では、離型層形成組成物に含まれる溶媒を乾燥除去し、離型層となる樹脂を硬化させる工程を経らねばならない。離型層を硬化させる工程では、150℃付近の温度をかける必要があるため、オフラインで離型層を形成した離型フィルムは、離型フィルムの長手方向(縦方向)および長手方向に垂直な方向(幅方向)の両者において、伸縮率が大きくなり、セラミックスラリー塗工時に縦方向にかかる張力に対してフィルムが伸びてしまい好ましくない。
【0040】
なお、本発明の離型フィルムにおいては、インラインにて離型層形成組成物を塗布して塗膜を得た後には、塗布後の予熱、二軸目の延伸、および、熱固定の各工程で加えられる熱のみにより、塗膜からの溶媒を蒸発させ、離型層形成組成物に含まれる樹脂を硬化させ、そして、離型層となる樹脂をポリエステルフィルムに結合させることができる。したがって、塗膜を乾燥硬化させる工程を特別に設ける必要がなく、このため、寸法安定性に優れた離型フィルムを得るとともに、離型フィルムを得るための工程を煩雑にすることもない。
【0041】
[二次延伸工程]
二次延伸工程においては、インライン塗布工程により得られた離型剤塗膜を有するポリエステルフィルムを、長手方向に垂直な方向に延伸(横延伸)することにより、二軸延伸ポリエステルフィルムを得る。
このとき、二次延伸工程に先立ち、あらかじめ(Tg+10)℃以上(Tg+30)℃以下の温度条件下で補助加熱を施すと、シリコーン塗料等の離型剤に含まれる溶媒を十分に乾燥することができ、その後に行う二次延伸工程において均一に延伸を行うことができるため好ましい。
二次延伸工程においては、(Tg+10)℃以上(Tg+70)℃以下の温度条件下で、長手方向に垂直な方向に3.0倍以上5.0倍以下の範囲で延伸を実施する。
【0042】
なお、本発明の離型フィルムにおける一次延伸工程の延伸倍率(縦延伸)と二次延伸工程における延伸倍率(横延伸)との関係は、縦延伸倍率≦横延伸倍率であることが好ましい。縦延伸倍率≦横延伸倍率の関係にあれば、荷重下での長手方向の伸縮率SMD、長手方向に垂直な方向の伸縮率STD、および、無荷重下での長手方向の熱収縮率HSMD、長手方向に垂直な方向の熱収縮率HSTDを、所望の値に制御することが容易となる。
【0043】
[熱固定工程]
熱固定工程においては、二次延伸工程によって得られた二軸延伸ポリエステルフィルムを、熱固定することにより、離型フィルムを得る。
熱固定の温度条件は、離型フィルムを構成するポリエステル材料の種類により異なるが、一般に、(Tg+70)℃以上(Tm)℃以下の温度範囲にて行うことが好ましい。例えば、ポリエステル材料がポリエチレンテレフタレートである場合には、180℃以上235℃以下の温度範囲で熱固定することが好ましい。また、ポリエステル材料がポリエチレン−2,6−ナフタレートである場合には、185℃以上240℃以下の温度範囲で熱固定することが好ましい。この温度範囲で熱固定することにより、所望のSMD、STD、HSMD、HSTDを得ることができる。
【0044】
また、熱固定は1ゾーンのみで実施するのでなく、複数のゾーンに分けて段階的に実施することが望ましく、好ましくは3ゾーン以上として温度を制御して行うことが望ましい。例えば、熱固定を3ゾーンで実施する場合には、第1ゾーンは180℃以上210℃以下、第2ゾーンは第1ゾーンよりも高く、3ゾーンの中で最大の温度となるように設定する。そして、第3ゾーンは第2ゾーンよりも低い温度とし、180℃以上200℃以下に設定することが好ましい。このように第2ゾーンを最高温度とし、第3ゾーンをそれよりも低い温度として熱固定することにより、得られる離型フィルムの平面性を良好に保ち、セラミック塗布時の厚み斑を低減させることができる。
【0045】
なお、熱固定時間は、特に限定されるものではなく、例えば1秒以上60秒以下程度行うことが好ましい。
また、離型フィルムの長手方向に垂直な方向(幅方向)の熱収縮率HSTDを所望の値にするために、熱固定領域の最後のゾーンにおいて、レール幅を2%以上5%以下程度縮めてフィルムを弛緩処理することが好ましい。
【0046】
[冷却工程](任意工程)
本発明の離型フィルムは、熱固定工程の後に、任意に冷却工程を設けてもよい。冷却工程を設けることにより、得られる離型フィルムの平面性を良好に保ち、セラミック塗布時の厚み斑を低減させることができる。
【0047】
冷却工程においては、フィルム冷却温度を(Tg−30)℃以上(Tg+20)℃以下の範囲として実施することが好ましく、上記の熱固定工程と同様に、複数のゾーンに分けて行うことが好ましい。冷却温度が上記範囲よりも低いと、100℃における熱収縮率HSMD、HSTDがともに小さくなりすぎる場合があり、他方、冷却温度が上記範囲より高いと、フィルムの長手方向の中心線付近では物性が各方向に均等であっても、長手方向の側縁部では斜め配向が強くなる現象を生じるため好ましくない。なお、長手方向の側縁部が斜め配向となる現象は、上記の熱固定温度の好適範囲の下限側でも起こりうるが、その程度は比較的小さい。
【0048】
<ポリエステルフィルム>
[ポリエステル材料]
また、本発明に用いられるポリエステルフィルムの材料となるポリエステルは、ホモポリエステルであっても共重合ポリエステルであってもよい。
【0049】
本発明に用いられるポリエステルフィルムがホモポリエステルからなる場合には、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られるものが好ましい。ここで、用いられる芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。また、用いられる脂肪族グリコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。本発明に用いられるポリエステルフィルムの代表的なホモポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(PEN)等が例示できる。
【0050】
一方、本発明に用いられるポリエステルフィルムの材料が共重合ポリエステルの場合には、全酸成分に対して、20モル%以下の第三成分となるジカルボン酸および/またはグリコールを共重合させた共重合体であることが好ましい。
【0051】
共重合ポリエステルのモノマー成分となるジカルボン酸としては、例えば、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸セバシン酸、オキシカルボン酸(例えば、P−オキシ安息香酸等)等を挙げることができ、これらの一種または二種以上を用いることができる。また、共重合ポリエステルのモノマー成分となるグリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等を挙げることができ、これらの一種または二種以上を用いることができる。
【0052】
本発明に用いられるポリエステルフィルムの材料としては、これらの中でも、80モル%以上、好ましくは90モル%以上がエチレンテレフタレート単位であるポリエチレンテレフタレート、あるいは、80モル%以上、好ましくは90モル%以上がエチレン−2,6−ナフタレート単位であるポリエチレン−2,6−ナフタレートが好ましく、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。一般にポリエチレンテレフタレートのTgは、78℃付近と低温であることから、100℃付近の温度にて処理されるセラミックシートの製造用キャリアフィルムとしてポリエチレンテレフタレートフィルムを用いる場合には、工程中における寸法安定性が特に問題となっていた。これに対して、本発明の離型フィルムは、寸法安定性に優れることから、Tgをはるかに超える温度における使用であっても、離型フィルムとしての性能を十分に発揮することができる。
【0053】
[添加剤]
本発明に用いられるポリエステルフィルムの材料となるポリエステルには、フィルムとした場合の易滑性付与を主たる目的として、粒子を配合することが好ましい。配合する粒子の種類としては、易滑性付与が可能な粒子であれば特に限定されるものではなく、具体的には、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化チタン等の粒子が挙げられる。
【0054】
また、特公昭59−5216号公報、特開昭59−217755号公報等に記載されているような、耐熱性の有機粒子を用いてもよい。耐熱性有機粒子のまた別の例としては、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂、熱硬化性エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等からなる粒子を挙げることもできる。さらには、ポリエステルの製造工程中にて、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる。
【0055】
上記のような易滑性を付与するための粒子の形状は、特に限定されるわけではなく、球状、塊状、棒状、扁平状等の何れを用いてもよい。また、その硬度、比重、色等についても特に制限されるものではない。さらに、これらの粒子は、必要に応じて2種類以上を併用することもできる。
【0056】
なお、粒子の平均粒径としては、0.1μm以上1μm以下を満足することが好ましく、さらに好ましくは0.2μm以上0.5μm以下の範囲である。平均粒径が0.1μm未満の場合には、粒子が凝集しやすく、分散性が不十分となることがあり、一方で、1μmを超える場合には、得られるポリエステルフィルムの表面粗度が粗くなりすぎて、後の工程において離型層を設けて離型フィルムとした場合に、100nm以上600nm以下の範囲の最大高さRmaxとすることが困難となる場合がある。
【0057】
また、易滑性を付与するために配合する粒子の含有量は、ポリエステル中において、0.01質量%以上2質量%以下を満足することが好ましく、さらに好ましくは0.01質量%以上1質量%以下の範囲である。粒子の含有量が0.01質量%未満の場合には、フィルムの易滑性が不十分になる場合があり、一方で、2質量%を超える場合には、フィルム表面の平坦性が不十分になる場合がある。
【0058】
ポリエステル中に粒子を含有させる方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用することができる。例えば、ポリエステルを製造する任意の段階において、配合したい粒子を添加することが可能であるが、エステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後に粒子を配合し、その後、重縮合反応を進めることが好ましい。また、ベント付き混練押出機を用いて、エチレングリコールまたは水等に分散させた粒子のスラリーとポリエステル原料とをブレンドする方法、あるいは、混練押出機を用いて、乾燥させた粒子とポリエステル原料とをブレンドする方法等によっても行うことができる。
【0059】
[層構成]
本発明の離型フィルムを構成するポリエステルフィルムの構成は、特に限定されるものではなく、単層構成であっても積層構成であってもよい。また、積層構成である場合には、2層、3層構成以外にも、本発明の要旨を越えない限り、4層またはそれ以上の多層であってもよい。積層構成としても特に限定されるものではなく、例えば、A/B、A/B/A、A/B/C、A/B/A´等を挙げることができる。
【0060】
[ポリエステルフィルムの厚み]
本発明の離型フィルムを構成するポリエステルフィルム全体の厚みは、特に限定されるものではないが、好ましくは9μm以上50μm以下、さらに好ましくは15μm以上38μm以下、特に好ましくは25μm以上31μm以下の範囲である。
【0061】
<離型層>
本発明の離型フィルムを構成する離型層は、エマルジョンとして安定であることから、シリコーン樹脂組成物から形成されることが好ましい。特に、本発明においては、熱硬化性シリコーン樹脂組成物からなる水性塗液を、離型層形成組成物として用いることが好ましい。熱硬化性シリコーン樹脂組成物であれば、ポリエステルフィルム製膜における熱固定ゾーンでの架橋反応による硬化を十分に進めることができる。
【0062】
本発明の離型層の形成に好ましく用いられる水系の熱硬化性シリコーン樹脂組成物としては、例えば、シリコーン樹脂がエマルションとして含まれ、触媒として白金が使用されるものを挙げることができる。しかしながら、縮合タイプのシロキサンを用いてもよく、この場合には、シリコーン樹脂エマルションとともに、触媒として錫が使用される。なお、熱硬化のために使用する架橋剤は、使用する水性のシリコーン樹脂組成物について、当該シリコーン樹脂組成物の製造者が推奨するものであれば、特に限定されるものではない。
【0063】
また、熱硬化性シリコーン樹脂組成物におけるシリコーン樹脂の含有量は、0.5質量%以上30質量%以下の範囲とすることが好ましく、1質量%以上15質量%以下の範囲とすることがさらに好ましく、1.5質量%以上10質量%の範囲とすることが特に好ましい。組成物中の熱硬化性シリコーン樹脂の含有量が0.5質量%未満である場合には、ポリエステルフィルム表面への離型層形成組成物(塗液)の塗工時に、塗液がポリエステル表面ではじかれてしまい、均一に塗工できないため好ましくない。一方で、30質量%を超える場合には、得られる離型層に曇りが生じたり、離型層形成組成物がゲル化しやすくなったり、コーティングの費用がかかるわりには効果が低くなるという問題が生じる場合がある。
【0064】
以下に、離型層形成組成物として好適に用いることのできる水性のシリコーン樹脂組成物を具体的に示す。
【0065】
1) Wacker Silicone(ミシガン州、Adrian)の水性の400Eシリコーン樹脂組成物。ポリシロキサン、白金触媒、および、メチル水素ポリシロキサンから成るV20架橋剤系を含む。
【0066】
2) Dow Corning(ミシガン州、Midland)の水性のX2−7720シリコーン樹脂組成物。メチルビニルポリシロキサン、および、白金ポリシロキサンから成るX2−7721架橋剤系を含むメチル水素ポリシロキサンから成る。
【0067】
3)PCL(Phone−Poulenc Inc., サウスカロライナ州、Rock Hill)の水性のPC−105シリコーン樹脂組成物。メチルビニルポリシロキサン、白金ポリシロキサンから成るPC−95の触媒成分を含むメチル水素ポリシロキサンから成る。
【0068】
4) PCL PC−107水性のシリコーン樹脂組成物(PC−105と類似)。上記のPC−95架橋剤を含む。
【0069】
5) PCL PC−188水性のシリコーン樹脂組成物(PC−105と類似)。上記のPC−95架橋剤を含む。
【0070】
なお、離型層形成組成物に含まれる脱イオン水の量は、塗布方法およびポリエステルフィルムの上に塗布すべき所望の固形分重量(塗工量)により、適宜設定することができる。
【0071】
さらに、離型層形成組成物にはシランカップリング剤を添加することもできる。シランカップリング剤としては、ポリエステル樹脂および熱硬化性シリコーン樹脂のいずれか、または、双方と結合する反応基を持つ有機けい素低分子化合物が好ましく、反応基としては、メトキシ基、エトキシ基、シラノール基、ビニル基、エポキシ基、メタアクリル基、アミノ基、メルカプト基、クロル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基等の少なくとも1種以上を有しているものが好ましい。
【0072】
本発明の離型フィルムを構成する離型層の厚み(すなわち乾燥後の厚み)は、特に限定されるものではないが、好ましくは20nm以上90nm以下である。一般に、20nm未満では剥離層としての効果を発揮することが困難となり、他方、90nmを超える場合には、費用の割に得られる効果が少なくなる。
【0073】
<離型フィルムの用途>
本発明の離型フィルムは、樹脂シート、セラミックシート等のシート成形用フィルム、あるいは、ラベル用、医療用、事務用品用等の粘着用フィルムとして用いることができる。
【0074】
とりわけ、本発明の離型フィルムは、セラミックシート製造の際に離型フィルムに求められる性能を十分に満足させていることから、セラミックシート製造用のキャリアフィルムとして好適に用いることができる。本発明の離型フィルムを用いてセラミックシートを製造すると、薄膜のセラミックシートが精度よく得られ、また、得られた薄膜のセラミックシートは、小型化・大容量化に伴って内部電極の多層化が求められている積層セラミックコンデンサに好適に用いることができる。
【0075】
なお、セラミックシートの製造にあたっては、用意したセラミックスラリーを、本発明の離型フィルムの離型層表面に塗布し、セラミックスラリーに含まれる溶媒を乾燥除去すればよい。セラミックスラリーの塗布方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の塗布方法を用いることができる。例えば、セラミック粉体とバインダー剤等を溶媒に分散させたセラミックスラリーを、リバースロール法により塗布し、加熱乾燥により溶媒を除去する方法を用いることができる。用いるバインダー剤としては特に限定されず、例えば、ポリビニルブチラール等を挙げることができる。また、用いる溶媒としても特に限定されず、例えば、エタノール、トルエン等を挙げることができる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例および比較例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これらに限定されるものではない。
【0077】
<測定・評価方法>
実施例および比較例においては、以下の項目について、以下の方法によって各測定・評価を実施した。
【0078】
(1)粒子の平均粒径1(フィルム内添フィラー)
島津製作所製、商品名:CP−50型セントリフューグル パーティクルサイズ アナライザー(Centrifugal Particle Size Analyzer)を用いて、フィルムに含まれている粒子について測定を行った。測定により得られる遠心沈降曲線を基に算出した各粒径の粒子と、その存在量との積算曲線から、50マスパーセントに相当する粒径である「等価球直径」を読み取り、この値をフィルムに含まれている粒子の平均粒径とした(Book「粒度測定技術」日刊工業新聞発行、1975年、頁242〜頁247参照)。
【0079】
(2)最大高さ(Rmax)
JIS規格(B0601:表面粗さ−定義および表示、B0651:触針表面粗さ測定器)に準拠し、三次元表面粗さ計(小坂研究所社製、商品名:SE−3AK)により、倍率:2万倍、走査ピッチ:2μm、走査長:1mm、走査本数:100本、カットオフ:0.25mmの条件にて、その面積の最大高さを求め、これを10点測定した結果の平均値をRmaxとした。
【0080】
(3)荷重下の伸縮率(SMD、STD
TMA(セイコーインスツルメント社製、商品名:SS6000)を用い、50%RH下において、サンプル幅:4mm、チャック間:20mmにて、製膜方向(長手方向)に、単位面積あたりそれぞれ0.3MPa、1.0MPa、2.5MPaの荷重をかけて、昇温速度:10℃/分で昇温させた。100℃に達したときのフィルムの伸縮挙動から、下記式にて0.3MPa、1.0MPa、2.5MPaにおける伸縮率(SMD)を求めた。同様に、長手方向に垂直な方向(幅方向)には0.01MPaの荷重をかけて、伸縮率(STD)を求めた。なお、伸縮率SMD、STDは、各々10枚の試料について採取し、その平均値を求めた。
伸縮率(SMD、STD)=(ΔM/M)×100 (%)
ΔM=M−M
式中、Mは、熱処理前のフィルムの長手方向または長手方向に垂直な方向の長さ、Mは、熱処理後のフィルムの同方向の長さを示す。すなわち、伸縮率SMDおよび伸縮率STDは、マイナスの場合にはフィルムが収縮していることを示し、プラスの場合にはフィルムが伸長していることを示す。
【0081】
(4)無荷重下の熱収縮率(HSMD、HSTD
温度100℃に設定されたオーブン中に、予め正確な長さを測定した長さ約30cm四方のフィルムサンプルを懸垂し、無荷重下に30分間保持処理した。30分経過後、オーブンからフィルムサンプルを取り出し、室温に戻してた後に、その寸法変化を計測し、下記式にて熱収縮率(HSMD、HSTD)を求めた。なお、伸縮率HSMD、HSTDは、10枚の試料について各々採取し、その平均値を求めた。
熱収縮率(HSMD、HSTD)=(ΔL/L)×100 (%)
ΔL=L−L
、式中、Lは、熱処理前のフィルムの長手方向または長手方向に垂直な方向の長さ、Lは、熱処理後のフィルムの同方向の長さを示す。すなわち、熱収縮率HSMDおよび熱収縮率HSTDは、マイナスの場合にはフィルムが収縮していることを示し、プラスの場合にはフィルムが伸長していることを示す。
【0082】
(5)離型フィルムを用いたグリーンシート表面平滑性評価(実用特性代用評価)
離型フィルムの離型層側の面に、下記組成からなるセラミックスラリーをダイコーターを用いて塗布し、乾燥後の厚みが5μmとなるセラミック層を形成し、200mを巻き取った。その後、離型フィルムからセラミック層を剥離することによりグリーンシートを得た。得られたグリーンシート(測定対象面積:1m)につき、走査型レーザー顕微鏡(レーザーテック社製)を用いて両面について表面観察を行い、下記の評価基準にて表面平坦性の評価を実施した。
(セラミックスラリー組成)
・チタン酸バリウム(富士チタン社製、平均粒径:0.7μm):100部
・ポリビニルブチラール樹脂(積水化学社製、商品名:エスレックBM−S):30部
・可塑剤(フタール酸ジオクチル):5部
・トルエン/エタノール混合溶媒(混合比率:6:4):200部
(表面平坦性評価基準)
○:深さ0.5μm以上のクレーター(凹み)が2個/m以下
(実用上、問題ないレベル)
△:深さ0.5μm以上のクレーター(凹み)が2個/mを超え6個/m未満
(実用上、問題になる場合があるレベル)
×:深さ0.5μm以上のクレーター(凹み)が6個/m以上
(実用上、問題あるレベル)
【0083】
(6)セラミックグリーンシートの積層評価(実用特性代用評価)
上記(5)で得られたグリーンシートの上に、パターン印刷されたNi電極印刷層(乾燥後の厚みが3μm)を積層した。得られたグリーンシート−電極積層体を用いて、片側の端部を基準にして10層積層し、その際の電極印刷層の位置ずれの程度につき、下記の評価定基準により位置ずれ評価を実施した。
(位置ずれ評価基準)
◎:位置ずれが200μm未満(実用上全く問題ないレベル)
○:位置ずれが200μm以上400μm未満(実用上問題ないレベル)
×:位置ずれが400μm以上(実用上問題あるレベル)
【0084】
<実施例1>
[ポリエステルの製造]
ジメチルテレフタレート100部とエチレングリコール70部との混合物に、エステル交換触媒として酢酸マンガン・4水塩を、得られるポリエステル中のマンガンの元素量が80ppmとなるように添加し、内温を150℃から徐々に上げながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応が95%となった時点で、安定剤として亜リン酸を0.01部添加し、充分撹拌した後、三酸化アンチモンを0.03部添加した。引き続き、系内に混入した水を充分留出させた後、内添フィラー(易滑剤)として、平均粒径0.6μmの合成炭酸カルシウム粒子を0.2質量%となるように添加し、充分に撹拌した。次いで、反応生成物を重合反応器に移し、高温真空下(最終内温295℃)にて重縮合を行うことにより、固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレート組成物を得た。
【0085】
[熱硬化性シリコーン樹脂組成物の調整]
88.5部の脱イオン水、10部のシリコーンエマルション400E(Wacker Silicones社製、シリコーン:ビニル基を有するメチルポリシロキサン、架橋剤が添加されている場合には、白金触媒と早熟な反応を防止するための禁止剤が併用されている)、1部の架橋剤V72(Wacker Silicones社製、メチル水素ポリシロキサンのエマルションであり、メチルシロキサンの中で二重結合と反応する)に、0.5部のシランカップリング剤(信越シリコーン社製、商品名:KBM−403)を添加することにより、水性の熱硬化性シリコーン樹脂組成物を得た。なお、固形分重量は5質量%であった。
【0086】
[未延伸ポリエステルフィルム成形工程]
上記で得られたポリエチレンテレフタレート組成物を、170℃でポリマーの水分率が0.05質量%になるまで5時間乾燥した。引き続き、乾燥されたポリエチレンテレフタレート組成物を押し出し機に供給し、溶融温度280〜300℃にて溶融し、平均目開き11μmの鋼線フィルターを用いて高精度ろ過したのち、押出しダイを用いて、静電密着法にて冷却ドラムに接触急冷させることにより、厚さ450μmの未延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0087】
[一次延伸工程]
得られた未延伸フィルムを、75℃で予熱し、引き続き、低速・高速のロール間にてフィルム温度105℃で長手方向に3.6倍に延伸し、その後、急冷することにより長手方向(縦方向)延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0088】
[インライン塗布工程]
次いで、得られた長手方向延伸ポリエステルフィルムに、上記で調整した水系の熱硬化型シリコーン樹脂組成物からなる離型層形成組成物を、乾燥後の厚みが40nmになるよう塗布することにより、塗膜を有するポリエステルフィルムを得た。
【0089】
[二次延伸工程]
続いて、得られた塗膜を有するポリエステルフィルムをステンターに供給し、105℃、115℃の2ゾーンで、それぞれ2秒間ずつ予備加熱した後、120℃、130℃、145℃、155℃の4ゾーンで、それぞれ2秒間ずつ、合計で長手方向に垂直な方向(幅方向)に4.1倍となるように均一に延伸し、二軸延伸ポリエステルフィルムとした。
【0090】
[熱固定工程]
得られた二軸延伸ポリエステルフィルムにつき、210℃、225℃、195℃の3ゾーンにおいて、それぞれ2秒間、合計6秒間の熱固定を実施し、最後の195℃の熱固定ゾーンにおいては、長手方向と垂直な方向(幅方向)に2.5%の弛緩処理を実施することにより、全厚み31μmの離型フィルムを得た。得られた離型フィルムを用いて、各種の測定・評価を行った。結果を表1に示す。
【0091】
【表1】

【0092】
<実施例2>
二次延伸工程において、長手方向に垂直な方向(幅方向)の延伸倍率を4.5倍とし、熱固定工程の3ゾーン目における弛緩量を4.0%とする以外は、実施例1と同様にして離型フィルムを得た。得られた離型フィルムを用いて、各種の測定・評価を行った結果を表1に示す。
【0093】
<比較例1>
離型フィルムの製造において、インラインで水系の熱硬化型シリコーン組成物からなる離型剤塗液を塗布しない以外は、実施例1と同様にして、離型層を有しない二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
また、付加型シリコーン系化合物(東芝シリコーン社製、商品名:TPR−6721)のトルエン溶液(固形分濃度:3質量%)に、Pt触媒(東芝シリコーン社製、商品名:CM670)を、付加型シリコーン型化合物の固形分100質量部に対して1質量部となるよう加えて、離型剤塗液を調整した。
【0094】
引き続き、上記で得られた離型層を有しない二軸延伸ポリエステルフィルムロールを巻き出し、巻き出された二軸延伸ポリエステルフィルムの長手方向に垂直な方向(幅方向)における中央部に、上記で調整した離型剤塗液を、塗布量(wet)6g/mとなるよう塗布し、下方および上方の空気流吹き出し口の間隔がそれぞれ38cmの空気浮上搬送式乾燥装置を用いて、搬送張力:2000kPa、乾燥温度:160℃で16秒間乾燥させて離型層を形成し、離型層の乾燥硬化後の重量が0.2g/mの離型フィルムを得た。得られた離型フィルムを用いて、各種の測定・評価を行った結果を表1に示す。
【0095】
<比較例2>
一次延伸工程において、長手方向(縦方向)の延伸倍率を3.0倍とした以外は、実施例1と同様にして離型フィルムを得た。得られた離型フィルムを用いて、各種の測定・評価を行った結果を表1に示す。
【0096】
<比較例3>
一次延伸工程における長手方向(縦方向)の延伸倍率を4.8倍、二次延伸工程における長手方向に垂直な方向(幅方向)の延伸倍率を3.0倍とした以外は、実施例1と同様にして離型フィルムを得た。得られた離型フィルムを用いて、各種の測定・評価を行った結果を表1に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に離型層を有する離型フィルムであって、
前記離型フィルムの長手方向に0.2MPa以上4.0MPa以下の張力を加えた場合の100℃における長手方向の伸縮率SMDが、下記式(1)を満たし、
前記離型フィルムの長手方向に垂直な方向に0.01MPaの張力を加えた場合の100℃における長手方向に垂直な方向の伸縮率STDが、下記式(2)を満たし、
前記離型フィルムの無荷重下での100℃における長手方向の熱収縮率HSMDが、下記式(3)を満たし、
前記離型フィルムの無荷重下での100℃における長手方向に垂直な方向の熱収縮率HSTDが、下記式(4)を満たし、且つ、
前記長手方向の熱収縮率HSMDと前記長手方向に垂直な方向の熱収縮率HSTDとが、下記式(5)を満たし、
前記離型層表面の接触式三次元表面粗さ計で測定した最大高さRmaxが、100nm以上600nm以下の範囲である離型フィルム。
[式1]
0.0961X−0.45≦SMD≦0.0961X−0.25 (1)
(式中、Xは、フィルム単位面積にかかる張力(MPa)であり、Xは0.2MPa以上4.0MPa以下の値を示す。)
[式2]
−0.6≦STD≦−0.2 (2)
[式3]
−0.4≦HSMD≦−0.1 (3)
[式4]
−0.6≦HSTD≦−0.2 (4)
[式5]
HSMD>HSTD (5)
【請求項2】
前記離型フィルムは、セラミックシート製造用である請求項1記載の離型フィルム。
【請求項3】
前記セラミックシートは、セラミックコンデンサ製造用である請求項2記載の離型フィルム。