説明

難燃性、着色性、及び耐スクラッチ性に優れる熱可塑性樹脂組成物

【課題】優れた難燃性、衝撃強度、耐スクラッチ性、着色性、及び表面硬度を有する熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】A)アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系共重合体10乃至89重量%と、スチレン−アクリロニトリル系共重合体89乃至10重量%と、メチルメタクリレート系重合体1乃至40重量%とからなる基本樹脂100重量部;B)ブロモアルキルまたはブロモフェニルシアヌレート系化合物1乃至30重量部;及びC)アンチモン系化合物1乃至20重量部;を含めてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性、着色性、及び耐スクラッチ性に優れる熱可塑性樹脂組成物に関するものであって、より詳しくはアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系共重合体を含む樹脂に、メチルメタクリレート系重合体、ブロモアルキルまたはブロモフェニルシアヌレート系化合物、及びアンチモン系化合物を含むことでシナジー効果を発揮する難燃性、衝撃強度、耐スクラッチ性、着色性、及び表面硬度を有する熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般には、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂(以下、‘ABS樹脂’という)は、アクリロニトリル成分による優秀な剛性及び耐化学性と、ブタジエン及びスチレン成分による優秀な加工性と、機械的強度とによって電気/電子製品、事務用機器などの外装材として広く使用されているが、容易に燃焼される性質があって火災に弱いという問題がある。
【0003】
従って、前記電気/電子製品、事務用機器などに使用されるABS樹脂は、火災に対する安定性を保障するために所定の難燃性(難燃規格)が要求される。
【0004】
前記ABS樹脂に難燃性を付与する方法としては、ゴム変性スチレン系樹脂製造時に難燃性単量体を含めて重合する方法や製造されたゴム変性スチレン系樹脂に難燃剤及び難燃補助剤を混合する方法などがある。
【0005】
前記難燃剤は、ハロゲン系難燃剤と非ハロゲン系難燃剤とで大きく分けられるが、前記非ハロゲン系難燃剤としては窒素系難燃剤及び水酸化系難燃剤などがある。
【0006】
前記非ハロゲン系難燃剤は、前記ハロゲン系難燃剤に比べて難燃効率が大きく劣って相対的に過量投入しなければならないが、これは必然的にゴム変性スチレン系樹脂の機械的物性を劣らせる。従って、現在ABS樹脂に難燃性を付与する最も一般的な方法はハロゲン系難燃剤を使用することである。
【0007】
前記ハロゲン系難燃剤は、ゴム変性スチレン系樹脂の機械的物性を保持すると同時に難燃性を向上させる効果があるが、この中でブロム系難燃剤は特に効果的である。
【0008】
しかしながら、難燃性が付与されたABS樹脂の場合、ABS樹脂自体に入っているブタジエンゴムの特性によって耐スクラッチ性に大きく劣り、従って高光沢の製品を作っても容易にスクラッチになる問題がある。
【0009】
現在、大部分の難燃ABS樹脂の場合、耐スクラッチ性が鉛筆硬度3Bまたは4B程度の水準に留まっているあり様である。
【0010】
従って、優れる耐スクラッチ性、衝撃強度、及び流動性を保持しながらも難燃性に優れるABS樹脂に対する開発が大きく要求される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記のような従来技術の問題点を解決するために、本発明は、ABS樹脂を含む樹脂にメチルメタクリレート系重合体、ブロモアルキルまたはブロモフェニルシアヌレート系化合物、及びアンチモン系化合物を含むことでシナジー効果を発揮する難燃性、衝撃強度、耐スクラッチ性、着色性、及び表面硬度を有する熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【0012】
本発明の前記目的及びその他の目的は、以下の構成によって達成することができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の目的を達成するために、本発明は、
A)アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系共重合体10乃至89重量%と、スチレン−アクリロニトリル系共重合体89乃至10重量%と、メチルメタクリレート系重合体1乃至40重量%とからなる基本樹脂100重量部;
B)ブロモアルキルまたはブロモフェニルシアヌレート系化合物1乃至30重量部;及び
C)アンチモン系化合物1乃至20重量部;
を含めてなることを特徴とする難燃性、着色性、及び耐スクラッチ性に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明の難燃性、着色性、及び耐スクラッチ性に優れる熱可塑性樹脂組成物は、
A)アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系共重合体10乃至89重量%と、スチレン−アクリロニトリル系共重合体89乃至10重量%と、メチルメタクリレート系重合体1乃至40重量%とからなる基本樹脂100重量部;
B)ブロモアルキルまたはブロモフェニルシアヌレート系化合物1乃至30重量部;及び
C)アンチモン系化合物1乃至20重量部;
を含めてなることを特徴とする。
【0016】
前記アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系共重合体は、特に限定されないが、ブタジエン系ゴムと、アクリロニトリル系単量体と、スチレン系単量体とを乳化グラフト重合した後、これを凝集、脱水、及び乾燥して粉末状態で製造されたものでもあり、望ましくは、単量体及びブタジエン系ゴムの総100重量部を基準にして、平均粒径0.1乃至0.5μmのブタジエン系ゴム30乃至70重量部と、乳化剤0.6乃至2重量部と、分子量調節剤0.2乃至1重量部と、重合開始剤0.05乃至0.5重量部とからなる混合溶液に、アクリロニトリル系単量体5乃至40重量部とスチレン系単量体20乃至65重量部とからなる単量体混合物を連続または一括に投入して乳化グラフト重合した後、これを5%硫酸水溶液による凝集、脱水、及び乾燥して粉末状態で製造されたものでもある。
【0017】
前記スチレン−アクリロニトリル系共重合体は、重量平均分子量が5万乃至15万であり、アクリロニトリル系単量体が20乃至40重量%で含まれるものが望ましく、単一または2種以上混合して使用し得る。
【0018】
前記メチルメタクリレート系重合体は、特に限定されないが、重量平均分子量が5万乃至15万であるものが望ましいが、ブロム系有機難燃剤のブロモアルキルまたはブロモフェニルシアヌレート系化合物と共に使用される場合、シナジー効果でこれを含めて製造される本発明の熱可塑性樹脂組成物は鉛筆硬度などが著しく向上される。
【0019】
前記メチルメタクリレート系重合体は、前記基本樹脂に対して1乃至40重量%で含まれるものが望ましいが、1重量%未満である場合には耐スクラッチ性が低下する問題があり、40重量%を超える場合には耐衝撃性が低下するといった問題がある。
【0020】
前記ブロモアルキルまたはブロモフェニルシアヌレート系化合物は、ブロム系有機難燃剤であって、望ましい例としてトリス(トリブロモフェニル)シアヌレートでもあり、前記基本樹脂100重量部を基準にして1乃至30重量部で含まれるものが望ましいが、この範囲内において製造される熱可塑性樹脂組成物は機械的強度と流動性が低下することなく、優れた熱安定性と耐候性とを有する効果を奏する。
【0021】
参考として、前記トリス(トリブロモフェニル)シアヌレートは、下記化学式1の構造を有する化合物である。
【0022】
【化1】

【0023】
前記アンチモン系化合物は難燃補助剤であって、前記ブロム系有機難燃剤と共に使用される場合、シナジー効果によって、製造される熱可塑性樹脂組成物の難燃性を大きく向上させる。
【0024】
前記アンチモン系化合物としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、金属アンチモン、または三塩化アンチモンなどを使用することが望ましいが、三酸化アンチモンを使用するのがさらに望ましい。
【0025】
前記アンチモン系化合物は、前記基本樹脂100重量部に対して1乃至20重量部で含まれるものが望ましいが、この範囲内において製造される熱可塑性樹脂組成物は衝撃強度が低下することなく、優れた難燃性を有する効果を奏する。
【0026】
前記熱可塑性樹脂組成物は、添加剤として、衝撃補強剤、活性剤、熱安定剤、滴下防止剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線遮断剤、顔料、及び無機充填剤とからなる群から選ばれる1種以上をさらに含むことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の理解を助けるために望ましい実施例を提示しているが、下記実施例は本発明を例示するのみならず、本発明の範疇及び技術思想の範囲内において当業者にとって多様な変更及び修正が可能であることは明らかであり、このような変形及び修正が添付された特許請求範囲に属することも当然である。
【0028】
<実施例>
[実施例1]
平均粒径0.3μmのブタジエンゴムラテックスを使用して乳化グラフト重合で製造されたABS共重合体(DP270、LG化学製造)20重量%と、アクリロニトリルの含量が25重量%であり重量平均分子量が12万であるスチレン−アクリロニトリル共重合体70重量%と、重量平均分子量が13万程度であるメチルメタクリレート重合体(EH910、LG MMA製造)10重量%とからなる基本樹脂100重量部に、ブロム系有機難燃剤のトリス(トリブロモフェニル)シアヌレート20重量部と、難燃補助剤の三酸化アンチモン3重量部と、黒色着色剤3重量部と、酸化防止剤0.3重量部と、活性剤1.5重量部と、滴下防止剤0.1重量部とを添加し、ヘンシェルミキサーを用いて均一に混合した後、二軸押出機を通じてペレット形態の熱可塑性樹脂組成物を製造した。前記ペレット形態の熱可塑性樹脂組成物を射出成型して物性及び難燃試験のための試験片として製造した。
【0029】
[実施例2]
前記実施例1において、スチレン−アクリロニトリル共重合体60重量%、メチルメタクリレート重合体20重量%を使用したことを除いては前記実施例1と同一な方法で施した。
【0030】
[比較例1]
前記実施例2において、ブロム系有機化合物難燃剤としてテトラブロモビスフェノールAを使用し、ブロム含量を同一にするために23.5重量部を使用したことを除いては、前記実施例2と同一な方法で施した。
【0031】
[比較例2]
前記実施例2において、ブロム系有機化合物難燃剤としてノンキャップ(Non-Cap)形態の臭素化エポキシオリゴマーを使用し、ブロム含量を同一にするために24重量部を使用したことを除いては、前記実施例2と同一な方法で施した。
【0032】
[比較例3]
前記実施例において、メチルメタクリレート重合体20重量%の代わりにメチルメタクリレート−スチレン−アクリロニトリル共重合体(LG化学製造)20重量%を使用したことを除いては、前記実施例2と同一な方法で施した。
【0033】
[比較例4]
前記実施例2において、メチルメタクリレート重合体20重量%を使用しないことを除いては、前記実施例2と同一な方法で施した。
【0034】
<試験例>
前記実施例1乃至2及び比較例1乃至4で製造した熱可塑性樹脂組成物の試験片の特性を下記の方法で測定し、その結果を下記の表1に示した。
【0035】
*衝撃強度(Notched Izod Impact Strength):1/8試片を用いてASTM D-256に基づいて測定した。
*鉛筆硬度(Pencil Hardness):ASTM D-3365に基づいて測定した。
*着色度(Colorability):カラーメーター(SUGA Color Computer)を用いて黒色を基準にして着色剤3重量部に対する着色程度を測定してL、a、b値で表示するが、この中でL値は明るさを示す寸法で値が低いほど黒色の程度が強いことを表す。
*難燃度(Vertical Flammability):UL-94に基づいて測定した。
【0036】
【表1】

【0037】
表1に示したように、本発明のメチルメタクリレート重合体及びブロム系有機難燃剤としてトリス(トリブロモフェニル)シアヌレートを含む熱可塑性樹脂組成物(実施例1、2)は、衝撃強度、鉛筆硬度(耐スクラッチ性)、着色度(L)、及び難燃度の全てにおいて優れていることが確認できたが、ブロム系有機難燃剤としてトリス(トリブロモフェニル)シアヌレートの代わりにテトラブロモビスフェノールAまたは臭素化エポキシオリゴマーを使用した場合(比較例1、2)は、衝撃強度、鉛筆硬度、及び着色度が著しく低下し、メチルメタクリレート重合体の代わりにメチルメタクリレート−スチレン−アクリロニトリル共重合体を使用した場合(比較例3)は、鉛筆硬度及び着色度が低下し、特に難燃度が低下し、メチルメタクリレート重合体を含まない場合(比較例4)は鉛筆硬度が非常に低くなることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0038】
前記から調べてみたように、本発明によると、ABS樹脂を含む樹脂にメチルメタクリレート系重合体、ブロモアルキルまたはブロモフェニルシアヌレート系化合物、及びアンチモン系化合物を含むことでシナジー効果を発揮する難燃性、衝撃強度、耐スクラッチ性、美麗な外観設計ができる着色性、及び表面硬度を有する熱可塑性樹脂組成物が提供されるといった効果がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系共重合体10乃至89重量%と、スチレン−アクリロニトリル系共重合体89乃至10重量%と、メチルメタクリレート系重合体1乃至40重量%とからなる基本樹脂100重量部;
B)ブロモアルキルまたはブロモフェニルシアヌレート系化合物1乃至30重量部;及び
C)アンチモン系化合物1乃至20重量部;
を含めてなることを特徴とする、難燃性、着色性、及び耐スクラッチ性に優れる熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系共重合体は、ブタジエン系ゴムが30乃至70重量%の量で含まれ、乳化グラフト重合で製造されることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記スチレン−アクリロニトリル系共重合体は、重量平均分子量が5万乃至15万であり、アクリロニトリル系単量体が20乃至40重量%の量で含まれることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記メチルメタクリレート系重合体は、重量平均分子量が5万乃至15万であることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記ブロモフェニルシアヌレート系化合物は、トリス(トリブロモフェニル)シアヌレートであることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記アンチモン系化合物は、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、金属アンチモン、及び三塩化アンチモンからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂組成物は、衝撃補強剤、活性剤、熱安定剤、滴下防止剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線遮断剤、顔料、及び無機充填剤からなる群から選ばれる1種以上をさらに含むことを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。

【公開番号】特開2010−70760(P2010−70760A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−212208(P2009−212208)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(500239823)エルジー・ケム・リミテッド (1,221)
【Fターム(参考)】