説明

難燃性プラスチック光ファイバー被覆用樹脂組成物

【課題】高い難燃性を有しながら火災時の安全性が高く、環境への影響が少なく、簡単な工程で製造できる難燃性プラスチック光ファイバー被覆用樹脂組成物を提供する。 【解決手段】酢酸ビニル含有量が30〜50重量%でメルトフローレート30〜80g/10minのエチレン−酢酸ビニル共重合体10〜30重量%及びメルトフローレート0.2〜1.0g/10minのポリオレフィンエラストマー5〜20重量%に、水酸化マグネシウム65〜80重量%及びシリコーンオイル1〜5重量%を含んでなることを特徴とする難燃性プラスチック光ファイバー被覆用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性プラスチック光ファイバー被覆用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
光を伝送する光ファイバーとしては、石英ガラス製のものとプラスチック製のものがある。石英ガラス光ファイバーは伝送損失が非常に小さいため、長距離の光伝送及びデータ伝送に広く使用されている。一方、プラスチック光ファイバーは、石英ガラス光ファイバーに比較し伝送損失は大きいが、軽量で、大口径でも可撓性に優れ、加工が容易で、安価である等の長所を有しているため、家庭内通信、オーディオ、家電、自動車内通信等の短距離伝送用として使用されている。特に、ポリメチルメタクリレート(PMMA)は、安価で光学特性に優れているため、広く使用されている。
【0003】
プラスチック光ファイバーは、光の透過性が良好なポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート等のポリマーを芯材(コア)とし、フッ化ビニリデン系ポリマー、パーフルオロアルキルメタクリレート系ポリマー等のコア材よりも屈折率の小さいポリマーを鞘材(クラッド)とした同心型の形態になっており、その一端から入射した光をコアとクラッドの界面で屈折率差によって生じる全反射により反射を繰り返しながら、他端に伝送するものである。
【0004】
クラッドの外側は耐熱性及び強度を付与し、水、化学薬品、酸素、光等から保護するため、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアセタール系樹脂等で被覆されているが、難燃性の要求が強まると共に、火災時の安全性及び環境への配慮からハロゲンを含まない難燃性被覆材が求められている。また、プラスチック光ファイバーは、不燃性のガラス光ファイバーと比べそれ自体が燃焼し、炎に接した時にドリップするので、その被覆材には特に高い難燃性が求められる。
【0005】
特許文献1には、ポリオレフィン樹脂に難燃剤として水酸化マグネシウムを添加混練したポリオレフィン樹脂コンパウンドと、ポリアミド樹脂と、マレイン化重合体とを混練してなるプラスチック光ファイバー被覆用樹脂組成物が開示され、高温多湿条件下でも強度が低下せず、難燃性、耐摩耗性及び柔軟性に優れているとしている。
【0006】
しかしながら、特許文献1の樹脂組成物は、前もって水酸化マグネシウムを添加混練してポリオレフィン樹脂コンパウンドを製造し、それにポリアミド樹脂及びマレイン化重合体を混練し、且つ、十分な難燃性を付与するには、このポリアミド樹脂にも難燃剤としてメラミンシアヌレートを混練しておくなど、複雑な製造工程により製造されるためコストアップが避けられない。さらに、火災時にはポリアミド、メラミンシアヌレートなどの含窒素化合物に由来するシアン化合物の発生の恐れもある。
【0007】
特許文献2には、難燃剤として平均粒径が2μm以下の金属水酸化物を含有するプラスチック光ファイバー被覆用樹脂組成物が開示され、該樹脂組成物を被覆層とすることで、機械的特性を低下させずに、難燃性を有するプラスチック光ファイバーを提供できるとしている。該プラスチック光ファイバー被覆用樹脂組成物は、金属水酸化物の含有量が35〜60%が好ましく、40〜50%が特に好ましいとされ、金属水酸化物の添加量が少ないと難燃性が不十分で、多いと機械的性能が低下するとしているが、この範囲の添加量では、UL−94試験でV−0レベルの高い難燃性を達成するには不十分である。
【0008】
【特許文献1】特開2004−53707号
【特許文献2】特開2004−29339号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決することを鑑みてなされたものであり、高い難燃性を有しながら火災時の安全性が高く、環境への影響が少なく、簡単な工程で製造できる難燃性プラスチック光ファイバー被覆用樹脂組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、酢酸ビニル含有量が30〜50重量%でメルトフローレート30〜80g/10minのエチレン−酢酸ビニル共重合体10〜30重量%及びメルトフローレート0.2〜1.0g/10minのポリオレフィンエラストマー5〜20重量%に、水酸化マグネシウム65〜80重量%及びシリコーンオイル1〜5重量%を含んでなることを特徴とする難燃性プラスチック光ファイバー被覆用樹脂組成物である。
【0011】
また、本発明は、水酸化マグネシウムがシランカップリング剤で処理された平均粒子径0.5〜2μmの水酸化マグネシウムであることを特徴とする請求項1記載の難燃性プラスチック光ファイバー被覆用樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、火災等の燃焼時にハロゲンを含む有毒なガスを発生することなく高い難燃性、十分な機械的強度及び柔軟性を有するとともに、低温で加工でき、溶融粘度が低いためプラスチック光ファイバーのコア及びグリットへの機械的影響の少ないプラスチック光ファイバー被覆用樹脂組成物を低コストで提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本実施形態に係るプラスチック光ファイバー被覆用樹脂組成物について説明する。なお、本実施形態は、本発明を実施するための一形態に過ぎず、本発明は本実施形態によって限定されるものではない。
【0014】
本発明で用いられるエチレン−酢酸ビニル共重合体は、酢酸ビニル含有量が30〜50重量%、メルトフローレートが30〜80g/10minである。該エチレン−酢酸ビニル共重合体は、酢酸ビニルの含有量が30重量%未満では柔軟性及び難燃性が低下し、50重量%を超えると機械的強度が低下するので好ましくない。また、そのメルトフローレートは、30g/10min未満では柔軟性が低下し、80g/10minを超えると機械的強度が低下するため好ましくない。
【0015】
本発明で用いられるポリオレフィンエラストマーとしては、エチレンと炭素数3以上のα−オレフィンとの共重合エラストマーが使用され、そのメルトフローレートは0.2〜1.0g/10minが好ましい。メルトフローレートが1.0g/10minを越えると柔軟性だけでなく難燃性も低下するので好ましくない。また、エチレンと共重合させる炭素数3以上のα−オレフィンとしてはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等が挙げられ、これらと共に1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネン等の非共役ジエンを使用することもできる。
【0016】
本発明において、水酸化マグネシウムは難燃剤として用いられるが、その含有量はプラスチック光ファイバー被覆用樹脂組成物の65〜80重量%である。含有量が65重量%未満では十分な難燃性が発揮されず、80重量%を越えると機械的強度及び柔軟性が不十分となる。該水酸化マグネシウムはシランカップリング剤で処理されていることが好ましい。処理されていないと難燃効果が低下し、樹脂への分散性も低下する。また、該水酸化マグネシウムの平均粒子径は0.5〜2μmが好ましい。粒子径が2μmを越えると樹脂中に均一細密に分散しないため難燃性が低下し、0.5μm未満では溶融粘度が大きくなるため加工性に劣る。なお、粒子径はレーザー式粒度分布測定機、例えば日機装株式会社製マイクロトラックを用いて測定できる。
【0017】
本発明で用いられるシリコーンオイルは、粘度が5000〜10000mPa・sが好ましい。該シリコーンオイルは、本発明の樹脂組成物の粘度を下げるための滑剤としての役割の他、水酸化マグネシウムとともに難燃性付与の役割も担っているが、粘度が5000mPa・s未満では被覆材からのブリードが大きくなるため、また粘度が10000mPa・sを越えると作業性が悪化するため好ましくない。また、その含有量は、本発明の樹脂組成物の1〜5重量%である。1重量%未満では効果がなく、5重量%を越えると経時的な変化としてブリードが発生するため好ましくない。
【0018】
本発明の樹脂組成物中の上記各成分の含有量は、エチレン−酢酸ビニル共重合体10〜30重量%、ポリオレフィンエラストマー5〜20重量%、水酸化マグネシウム65〜80重量%及びシリコーンオイル1〜5重量%である。この含有量は、高い難燃性、機械的強度及び柔軟性を有しながら、低温で押出加工ができ、溶融粘度を低くして被覆加工時に光ファイバーのコア及びグリットに過大な力が掛からないようにするための配合割合として最適化されたものである。
【0019】
なお、本発明の難燃性プラスチック光ファイバー被覆用樹脂組成物には、その特性に影響しない範囲で、酸化防止剤、耐候性改良剤、紫外線吸収剤、着色剤、顔料、充填剤、スリップ剤、ブロッキング防止剤、帯電防止剤、架橋剤、難燃剤、防錆剤、抗菌剤、香料、可塑剤、加工助剤等の添加物を添加しても良い。
【0020】
本発明の難燃性プラスチック光ファイバー被覆用樹脂組成物は、上記で説明したエチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリオレフィンエラストマー、水酸化マグネシウム、シリコーンオイル及び必要に応じて上記添加物を混合し、二軸押出機、バンバリーミキサーまたは加圧ニーダー等の混練機で混練し、単軸押出機で造粒することによって容易に製造できる。
【0021】
光ファイバーへ本発明の樹脂組成物を被覆するには、従来公知の任意の方法、例えば単軸押出機などで溶融押出しすることで行われるが、溶融温度は140℃以下である。この温度ではPMMAなどの光ファイバーのコア樹脂への影響が殆どないが、140℃を越えると光ファイバーが熱で変形することがある。また、溶融粘度が高いと光ファイバーに過大な力が掛かって破損の原因となることがある。
【実施例】
【0022】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。なお、実施例及び比較例において部と記載されているものは重量部を表す。
【0023】
実施例1
酢酸ビニル含有量32重量%でメルトフローレート30g/10min(JIS K−7210に準拠)のエチレン−酢酸ビニル共重合体(東ソー社製:ウルトラセン750)17.08部、メルトフローレート0.5g/10minのエチレン−オクテン共重合体(デュポン社製:エンゲージ8150)7.32部、水酸化マグネシウム(堺化学社製:MGZ−1、平均粒子径0.8μm、表面がシランカップリング処理されている)72.50部、粘度10000mPa・sのジメチルシリコーンオイル3.00部、及び酸化防止剤(チバガイギー社製:IRGANOX 1010)0.10部を加圧ニーダーで150℃、10分間混練した後、単軸押出機で造粒して直径3mm、長さ3mmのペレットを得た。
【0024】
実施例2
実施例1のエチレン−酢酸ビニル共重合体を、酢酸ビニル含有量42重量%でメルトフローレート70g/10minのエチレン−酢酸ビニル共重合体(東ソー社製:ウルトラセン760)に変更した以外は実施例1と同様にして直径3mm、長さ3mmのペレットを得た。
【0025】
比較例1
実施例1のエチレン−酢酸ビニル共重合体を、酢酸ビニル含有量28重量%でメルトフローレート18g/10minのエチレン−酢酸ビニル共重合体(東ソー社製:ウルトラセン710)に変更した以外は実施例1と同様にして直径3mm、長さ3mmのペレットを得た。
【0026】
比較例2
実施例1のポリオレフィンエラストマーを、メルトフローレート3.0g/10minのエチレン−オクテン共重合体(デュポン社製:エンゲージ8452)に変更した以外は実施例1と同様にして直径3mm、長さ3mmのペレットを得た。
【0027】
比較例3
実施例1の水酸化マグネシウムを、平均粒子径0.4μmの水酸化マグネシウム(堺化学社製:MGZ−3、表面がシランカップリング処理されている)変更した以外は実施例1と同様にして直径3mm、長さ3mmのペレットを得た。
【0028】
比較例4
実施例1のシリコーンオイルを粘度4000mPa・sのジメチルシリコーンオイルに変更した以外は実施例1と同様にして直径3mm、長さ3mmのペレットを得た。
【0029】
比較例5
実施例1のエチレン−酢酸ビニル共重合体を18.83部、ポリオレフィンエラストマーを8.07部、ジメチルシリコーンオイルを0.50部と変更した以外は実施例1と同様にして直径3mm、長さ3mmのペレットを得た。
【0030】
比較例6
酢酸ビニル含有量32重量%でメルトフローレート30g/10min(エチレン−酢酸ビニル共重合体(東ソー社製:ウルトラセン750)25.83部、メルトフローレート0.5g/10minのエチレン−オクテン共重合体(デュポン社製:エンゲージ8150)11.07部、水酸化マグネシウム(堺化学社製:MGZ−1、平均粒子径0.8μm、表面がシランカップリング処理されている)60.00部、粘度10000mPa・sのジメチルシリコーンオイル3.00部、及び酸化防止剤(チバガイギー社製:IRGANOX 1010)0.10部を加圧ニーダーで150℃、10分間混練した後、単軸押出機で造粒して直径3mm、長さ3mmのペレットを得た。
【0031】
比較例7
流動開始温度が103℃、メルトフローレート80g/10minで密度が0.916g/cmのポリエチレン(東ソー社製;ペトロセン249)39.90部及び水酸化マグネシウム60.00部(堺化学社製:MGZ−1、平均粒子径0.8μm、シランカップリング処理されている)を混合し、加圧ニーダーで150℃、10分間混練した後、単軸押出機で造粒して直径3mm、長さ3mmのペレットを得た。
【0032】
「プラスチック光ファイバー被覆用樹脂組成物の物性評価」
実施例及び比較例で得られた樹脂組成物ペレットを圧縮成形によりシート状に成形し、このシート状物から試験片を作成した。
【0033】
<難燃性1:垂直燃焼試験>
長さ125±5mm、幅13±0.5mm、厚さ2±0.25mmの試験片を作成し、東洋精機社製UL燃焼テストチャンバーHVUL2を用いて、UL−94 V−0に準拠した垂直燃焼試験によりV−0適合性を判定し、適合している場合を○、不適合を×とした。
【0034】
<難燃性2:酸素指数>
幅6.5±0.5mm、厚さ3±0.25mmの試験片を作成し、東洋精機社製酸素指数測定器Dを用いて、JIS K7201−2に準拠して測定し、45.0以上で該試験での難燃性合格とした。
【0035】
<溶融粘度>
JIS K7199(キャピラリーダイ法)に準拠し、キャピラリーダイ内径1mm、長さ10mm、試験温度140℃で東洋精機社製キャピログラフPMD−Cを用いて測定し、せん断速度12sec−1における溶融粘度が22000Pa・s以下、122sec−1における溶融粘度が3000Pa・s以下を合格とした。
【0036】
<引張試験>
2号形試験片を使用し、厚み2mm、標線間25mm、引張速度100mm/minの条件でJIS K7113に準拠してインテスコ社製万能材料試験機201Bを用いて、引張降伏強度、引張伸び率を測定した。
【0037】
<耐白化性試験>
溶融粘度測定において作成した、直径1mmのストランドに2kgfの荷重を付与した状態で、直径10mmの円筒に巻き付け、その後解きほどいた時の白い筋の有無を目視確認によって測定し、白い筋がある場合を不合格×、無い場合を合格○とした。
【0038】
【表1】

【0039】
以上の実施例及び比較例の物性評価結果を表1に記載した。それによると、実施例1及び2では、難燃性1の垂直難燃試験、難燃性2の酸素指数とも優れた難燃性を示し、適度な溶融粘度をもっていることから加工性に優れ、耐白化性試験で○、引張伸び率が高いことから柔軟性にも優れ、引張降伏強度試験においても適度な引張強度を有することが分かる。
【0040】
一方、比較例1〜4では、実施例と各成分の配合比率は同じで、種類を1種類ずつ変化させているが、難燃性が不十分であったり、加工性に問題を抱えていたり、柔軟性が不足したりするなどプラスチック光ファイバー用被覆材料として適さないことが分かる。
【0041】
また、比較例5は、シリコーンオイルの配合量を減らしたものであるが、酸素指数が小さいこと(不合格)から難燃性が不十分で、耐白化性試験で不合格であることから柔軟性が不足していることが分かる。
【0042】
比較例6及び7は水酸化マグネシウムの添加量を減らして60重量%としたものであるが垂直難燃試験、酸素指数の双方から難燃性が不十分なことが分かる。なお、比較例7は前記特許文献2の実施例を参考にしたもので、難燃剤である水酸化マグネシウムを特許文献2でいう最高濃度60重量%とし、該水酸化マグネシウムの分散性を上げるためシリンカップリング処理をしているにも拘らず、難燃性が劣り、引張伸び率が0と脆くて成形加工できないレベルにある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸ビニル含有量が30〜50重量%でメルトフローレート30〜80g/10minのエチレン−酢酸ビニル共重合体10〜30重量%及びメルトフローレート0.2〜1.0g/10minのポリオレフィンエラストマー5〜20重量%に、水酸化マグネシウム65〜80重量%及びシリコーンオイル1〜5重量%を含んでなることを特徴とする難燃性プラスチック光ファイバー被覆用樹脂組成物。
【請求項2】
水酸化マグネシウムがシランカップリング剤で処理された平均粒子径0.5〜2μmの水酸化マグネシウムであることを特徴とする請求項1記載の難燃性プラスチック光ファイバー被覆用樹脂組成物。

【公開番号】特開2007−140239(P2007−140239A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−335343(P2005−335343)
【出願日】平成17年11月21日(2005.11.21)
【出願人】(000219912)東京インキ株式会社 (120)
【Fターム(参考)】