説明

難燃性ポリエステル系人工毛髪

【課題】通常のポリエステル繊維の耐熱性、強伸度など繊維物性を維持し、セット性、耐ドリップ性、べたつき、くし通りを損なうことなく、難燃性に優れ、さらに、繊維の艶がコントロールされた難燃性ポリエステル系人工毛髪を提供する。
【解決手段】ポリアルキレンテレフタレートまたはポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルの1種以上からなるポリエステル(A)と赤リン含有難燃剤(B)を含有するした組成物から溶融紡糸して得られた人工毛髪を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルと赤リン含有難燃剤から形成された難燃性ポリエステル系人工毛髪に関する。さらに詳しくは、セット性、耐ドリップ性、べたつき、くし通りを損なうことなく、難燃性を付与した人工毛髪に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンテレフタレートを主体とするポリエステルからなる繊維は、高融点、高弾性率で優れた耐熱性、耐薬品性を有していることから、カーテン、敷物、衣料、毛布、シーツ地、テーブルクロス、椅子張り地、壁装材、人工毛髪、自動車内装資材、屋外用補強材、安全ネットなどに広く使用されている。
【0003】
一方、かつら、ヘアーウィッグ、付け毛、ヘアーバンド、ドールヘアーなどの頭髪製品においては、従来、人毛や人工毛髪(モダクリル繊維、ポリ塩化ビニル繊維)などが使用されてきている。しかし、人毛の提供は困難になってきており、人工毛髪の重要性が高まってきている。人工毛髪素材として、難燃性の特徴を生かしてモダクリル繊維が多く使用されてきているが、耐熱性の点では不充分である。
【0004】
近年、耐熱性に優れたポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステルを主成分とする繊維を用いた人工毛髪が提案されるようになってきている。しかしながら、ポリエチレンテレフタレートを代表とするポリエステルからの繊維は、可燃性素材であるため、耐燃性が不充分である。
【0005】
従来、ポリエステル繊維の耐燃性を向上させようとする試みは種々なされており、たとえばリン原子を含有する難燃性モノマーを共重合させたポリエステルから繊維にする方法や、ポリエステル繊維に難燃剤を含有させる方法などが知られている。
【0006】
前者の難燃性モノマーを共重合させる方法としては、たとえば、リン原子が環員子となっていて熱安定性の良好なリン化合物を共重合させる方法(特許文献1)、また、カルボキシホスフィン酸を共重合させる方法(特許文献2)、ポリアリレートを含むポリエステルにリン化合物を共重合させる方法(特許文献3)などが提案されている。
【0007】
前記難燃化技術を人工毛髪に適用したものとしては、たとえばリン化合物を共重合させたポリエステル繊維が提案されている(特許文献4、特許文献5など)。
【0008】
しかしながら、人工毛髪には高い難燃性が要求されるため、これらの共重合ポリエステル繊維を人工毛髪に使用するには、その共重合量を多くしなければならず、その結果、ポリエステルの耐熱性が大幅に低下し、溶融紡糸が困難になったり、火炎が接近した場合、着火・燃焼はしないが、溶融・ドリップするという別の問題が発生する。また、前記リン系難燃剤を配合した場合、難燃性を発現するためその添加量を多くする必要があることにも起因するべたつき感の増加に加え、得られたポリエステル繊維からなる人工毛髪に熱履歴や高湿の条件下において、失透という繊維の外観上の問題が発生しやすいという課題がある。
【0009】
一方、後者の難燃剤を含有させる方法としては、ポリエステル繊維に、微粒子のハロゲン化シクロアルカン化合物を含有させる方法(特許文献6)、臭素含有アルキルシクロヘキサンを含有させる方法(特許文献7)などが提案されている。しかし、ポリエステル繊維に難燃剤を含有させる方法では、充分な難燃性を得るために、含有処理温度を150℃以上の高温にすることが必要であったり、含有処理時間を長時間にする必要があったり、あるいは大量の難燃剤を使用しなければならないといった問題があり、繊維物性の低下や生産性の低下、製造コストがアップするなどの問題が発生する。
【0010】
このように、従来のポリエステル繊維の難燃性、耐熱性、強伸度などの繊維物性を維持し、セット性、耐失透性、べたつきに優れた人工毛髪は、いまだ得られていないのが実状である。
【特許文献1】特公昭55−41610号公報
【特許文献2】特公昭53−13479号公報
【特許文献3】特開平11−124732号公報
【特許文献4】特開平3−27105号公報
【特許文献5】特開平5−339805号公報
【特許文献6】特公平3−57990号公報
【特許文献7】特公平1−24913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前述のごとき従来の問題を解決し、通常のポリエステル繊維の耐熱性、強伸度など繊維物性を維持し、セット性、耐ドリップ性、べたつき、くし通りを損なうことなく、難燃性に優れ、さらに、繊維の艶がコントロールされた難燃性ポリエステル系人工毛髪を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、赤リンを含有する難燃剤をポリエステル系樹脂に配合することにより、セット性、耐ドリップ性、べたつき、くし通りを損なうことなく、難燃性を確保できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、ポリアルキレンテレフタレートまたはポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルの1種以上からなるポリエステル(A)100質量部と赤リン含有難燃剤(B)0.5〜10質量部から形成される人工毛髪からなることを特徴とするものである。
【0014】
このように、ポリエステルに赤リン含有難燃剤を配合することにより、ポリエステル系人工毛髪の長所であるセット性を損なうことなく、難燃性を付与することができ、さらに、人工毛髪に要求される品質である耐ドリップ性、べたつき、くし通りを維持することができる。
【0015】
また、前記人工毛髪が、前記ポリエステル(A)100質量部に対して、(C)無機粒子、有機樹脂粒子および無機有機樹脂複合粒子から選ばれる少なくとも1種の粒子を0.2〜10質量部含有する場合には、人毛に近似した光沢を発現させることができる点から好ましい。
【0016】
また、前記ポリエステル(A)として、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートから選ばれる少なくとも1種のポリマーを含有することが耐熱性、ヘアセット性、カール保持性に優れている点から好ましい。
【0017】
また、前記赤リン含有難燃剤(B)としては、赤リン、赤リンをマスターペレット化したもの、赤リン表面を熱硬化樹脂および/または無機材料を用いてマイクロカプセル化されている赤リン、および、赤リン表面を熱硬化樹脂および/または無機材料を用いてマイクロカプセル化されている赤リンをマスターペレット化したものよりなる群から選ばれた少なくとも1種の難燃剤であることが、セット性、耐ドリップ性、べたつき、くし通りを維持し、難燃性を確保できる点から好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、ポリエステル系人工毛髪において、その長所であるセット性を損なうことなく、難燃性を付与することができ、さらに、人工毛髪に要求される品質である耐ドリップ性、べたつき、くし通りを維持することができる。また、副次的に、前記特性を維持しながら、人毛に近似した光沢を備えた人工毛髪を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の難燃性ポリエステル系人工毛髪は、ポリアルキレンテレフタレートまたはポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルの1種以上からなるポリエステル(A)と赤リン含有難燃剤(B)を含有するした組成物から得られた繊維である。
【0020】
本発明に用いられるポリエステル(A)に含まれるポリアルキレンテレフタレートまたはポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルとしては、たとえばポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートおよび/またはこれらのポリアルキレンテレフタレートを主体とし、少量の共重合成分を含有する共重合ポリエステルがあげられる。前記主体とするとは、80モル%以上含有することをいう。
【0021】
前記共重合成分としては、たとえばイソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、パラフェニレンジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スぺリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの多価カルボン酸、それらの誘導体、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルなどのスルホン酸塩を含むジカルボン酸、その誘導体、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、4−ヒドロキシ安息香酸、ε−カプロラクトンなどがあげられる。
【0022】
前記共重合ポリエステルは、通常、主体となるテレフタル酸および/またはその誘導体(たとえばテレフタル酸メチル)と、アルキレングリコールとの重合体に少量の共重合成分を含有させて反応させることにより製造するのが、安定性、操作の簡便性の点から好ましいが、主体となるテレフタル酸および/またはその誘導体(たとえばテレフタル酸メチル)と、アルキレングリコールとの混合物に、さらに少量の共重合成分であるモノマーまたはオリゴマー成分を含有させたものを重合させることにより製造してもよい。
【0023】
前記共重合ポリエステルは、主体となるポリアルキレンテレフタレートの主鎖および/または側鎖に前記共重合成分が重縮合していればよく、共重合の仕方などには特別な限定はない。
【0024】
前記ポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルの具体例としては、たとえばポリエチレンテレフタレートを主体とし、ビスフェノールAのエチレングリコールエーテルを共重合したポリエステル、1,4−シクロヘキサンジメタノールを共重合したポリエステル、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルを共重合したポリエステルなどが挙げられる。
【0025】
前記ポリアルキレンテレフタレートおよびその共重合ポリエステルは、1種で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうちでは、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、共重合ポリエステル(ポリエチレンテレフタレートを主体とし、ビスフェノールAのエチレングリコールエーテルを共重合したポリエステル、1,4−シクロヘキサンジメタノールを共重合したポリエステル、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルを共重合したポリエステルなど)が好ましく、これらを2種以上混合したものも好ましい。
【0026】
(A)成分の固有粘度としては、0.5〜1.4が好ましく、さらには0.5〜1.0が好ましい。固有粘度が0.5未満の場合、得られる繊維の機械的強度が低下する傾向があり、1.4をこえると、分子量の増大に伴い溶融粘度が高くなり、溶融紡糸が困難になったり、繊度が不均一になる傾向がある。
【0027】
本発明に用いられる赤リン含有難燃剤(B)としては、一般の赤リンの他に、赤リン表面を熱硬化樹脂及び/または無機材料を用いてマイクロカプセル化した赤リンを使用することができる。さらに、マイクロカプセル化した赤リンは、安全性、作業性を改善するためマスターペレット化して使用してもよい。
【0028】
前記マイクロカプセル化に使用される無機材料としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化チタン、水酸化スズ、水酸化セリウムなどが挙げられ、熱硬化樹脂としてはフェノール・ホルマリン系、尿素・ホルマリン系、メラミン・ホルマリン系樹脂などが挙げられる。
【0029】
さらに、無機材料で被覆されたものの上に、熱硬化性樹脂を用いて被覆を形成し、二重に被覆処理した赤リンなども好ましく使用できる。
【0030】
また、本発明の赤リンは無電解メッキしたものも使用可能であり、無電解メッキ被膜としては、ニッケル、コバルト、銅、鉄、マンガン、亜鉛またはこれらの合金から選ばれた金属メッキ被膜を使用することができる。さらに、無電解メッキされた赤リンに、上記の無機材料および熱硬化性樹脂で被覆された赤リンを使用することもできる。
【0031】
前記マイクロカプセル化した赤リン含有難燃剤の市販品としては、例えば、ノーバエクセル140、ノーバレッド120UF、ノーバレッド280C、ノーバクエルFST100(以上、燐化学工業(株)製)、ヒシガードTP−10、ヒシガードホワイト、ヒシガードマスターPSCP、ヒシガードマスターPSTP(日本化学工業(株)製:商品名)、ホスタフラムRP614(クラリアント・ジャパン(株)製:商品名)などが挙げられる。
【0032】
前記赤リン含有難燃剤(B)の平均粒径としては、1〜20μm、さらには1.5〜10μm、とくには2〜5μmであることが好ましい。粒径が小さいほど得られる人工毛髪の外観および難燃性が向上する傾向がある。
【0033】
また、前記赤リン含有難燃剤(B)の使用量は、前記ポリエステル(A)100質量部に対して、0.5〜10質量部、さらには0.8〜9質量部、とくには1〜8質量部であることが好ましい。使用量が0.5質量部未満では難燃効果が得られ難くなり、10質量部を超えると機械的特性、耐ドリップ性が損なわれる。
【0034】
前記前記赤リン含有難燃剤(B)は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
また、本発明の人工毛髪は、無機粒子、有機樹脂粒子および無機有機樹脂複合粒子から選ばれる1種以上の粒子を含有することが好ましい。前記粒子を含有することにより、得られる繊維の表面に微細な突起を形成し、人工毛髪に人毛に近似した光沢、着色した際の優れた発色性を発現させることができるとともに、しなやかさ等を付与することができる。
【0036】
前記無機微粒子としては、具体的には、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸カルシウムとリン酸カルシウムとの複合体、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、タルク、カオリン、モンモリロナイト、ベントナイト、マイカなどが挙げられる。また、前記有機樹脂粒子としては、前記ポリエステルと相溶しないか、部分的に相溶しない構造を有する有機樹脂粒子が挙げられ、具体的には、例えば、架橋アクリル樹脂粒子、架橋ポリスチレン粒子、架橋ポリエステル粒子、ポリアリレート粒子、フッ素樹脂粒子、シリコン樹脂粒子などが挙げられる。なお、前記粒子は、樹脂成分との密着性を高めるために、エポキシ化合物、シラン化合物、イソシアネート化合物、チタネート化合物等で表面処理されてもよい。
【0037】
また、前記無機有機樹脂複合粒子とは、無機化合物と有機樹脂が複合化されて形成された粒子であり、具体的には、例えば、メラミン樹脂とシリカとの複合粒子が挙げられる。
これらの無機粒子、有機樹脂粒子および無機有機樹脂複合粒子は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、有機樹脂粒子および無機有機樹脂複合粒子、特に、架橋アクリル粒子、架橋ポリエステル粒子およびメラミン樹脂とシリカとの無機有機樹脂複合粒子が、耐熱性に優れ、また、樹脂組成物中での分散性に優れているために光沢を調整する効果が高い点から好ましく、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸カルシウムとリン酸カルシウムとの複合体は、樹脂成分の屈折率と比較的近い屈折率を有するために、繊維の着色時の発色性に優れ、また、セット時にスチーム等で処理した場合に、有機成分を含有しないために変色し難い点から好ましい。
【0038】
前記無機粒子、有機樹脂粒子および無機有機樹脂複合粒子の平均粒子径としては、0.1〜15μm、さらには、0.2〜10μm、とくには、0.5〜8μmであることが、光沢調整効果に優れている点から好ましい。
【0039】
前記粒子の含有量は、前記ポリエステル(A)100質量部に対して、無機粒子、有機樹脂粒子および無機有機樹脂複合粒子から選ばれる少なくとも1種の粒子を0.2〜10質量部、さらには、0.5〜8質量部、とくには、0.8〜6質量部であることが好ましい。
【0040】
本発明の人工毛髪は、必要に応じて、さらに、耐熱性、光安定性、蛍光剤、酸化防止剤、静電防止剤、顔料などの各種添加剤を含有してもよい。
【0041】
本発明の人工毛髪は、紡糸後に染色する方法(後染法)や樹脂の溶融混練の際に顔料や染料を配合して着色する方法(原着)により着色して使用することができる。後染色により着色する場合には、通常のポリエステル系繊維と同様の条件で染色することができる。また、原着の場合には、通常のポリエステル系繊維に用いられる顔料を溶融混練することにより、原着繊維を得ることができる。
【0042】
染色に使用される顔料、染料、助剤などとしては、耐候性および難燃性のよいものが好ましい。
【0043】
本発明の人工毛髪は、前記各成分をドライブレンドした後、種々の一般的な混練機を用いて溶融混練して得られる樹脂組成物を溶融紡糸することにより形成される。
【0044】
樹脂組成物の製造に用いられる前記混練機の例としては、例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどがあげられる。これらのうちでは、二軸押出機が、混練度の調整、操作の簡便性の点から好ましい。
【0045】
前記樹脂組成物を溶融混練する際の条件は、ポリアルキレンテレフタレート系ポリエステルおよびポリビニルアルコールの種類によるため具体的には特定できないが、前記ポリエステルおよびポリビニルアルコールが十分に溶融して、両者が均一に混合されるように温度条件等を調整する。
【0046】
例えば、一例として、ポリエチレンテレフタレートとポリビニルアルコールを含有する樹脂組成物を二軸押出機を用いて溶融混練する場合には、バレル設定温度を260〜300℃程度の温度条件が挙げられる。
【0047】
そして、得られた樹脂組成物を用いて溶融紡糸することにより、本発明の人工毛髪が得られる。
【0048】
本発明の人工毛髪を、通常の溶融紡糸法で溶融紡糸する場合には、例えば、押出機、ギアポンプ、口金などの温度を250〜300℃とし、溶融紡糸し、紡出糸条を加熱筒に通過させた後、ガラス転移点以下に冷却し、50〜5000m/分の速度で引き取ることにより紡出糸条が得られる。また、紡出糸条を冷却用の水を入れた水槽で冷却し、繊度のコントロールを行なうことも可能である。加熱筒の温度や長さ、冷却風の温度や吹付量、冷却水槽の温度、冷却時間、引取速度は、吐出量および口金の孔数によって適宜調整することができる。
【0049】
なお、本発明の人工毛髪を得る別の方法としては、前記各成分をドライブレンドした組成物を、ギアポンプおよび紡糸ノズルを備えた二軸押出機または混練能を有するスクリューを使用した単軸押出機を用いて、樹脂組成物を一旦ペレット化することなく、直接溶融紡糸してもよい。
【0050】
本発明においては、得られた紡出糸条は熱延伸されるが、延伸は紡出糸条を一旦巻き取ってから延伸する2工程法および、巻き取ることなく連続して延伸する直接紡糸延伸法のいずれの方法によってもよい。熱延伸は、1段延伸法または2段以上の多段延伸法で行なわれる。熱延伸における加熱手段としては、加熱ローラ、ヒートプレート、スチームジェット装置、温水槽などを使用することができ、これらを適宜併用することもできる。
【0051】
さらに、繊維処理剤、柔軟剤などの油剤を使用し、触感、風合いを付与して、より人毛に近づけることができる。
【0052】
前記繊維処理剤としては、例えば、触感やくし通りを向上させるためのシリコーン系繊維処理剤や非シリコーン系繊維処理剤などが挙げられる。
【0053】
このようにして得られる本発明の人工毛髪は、人毛に近似したしっとり感を付与する点から、吸水率が3%以上15%以下、さらには、5%以上、とくには、7%以上であることが好ましい。吸水率は、得られた繊維を繊維処理剤で表面処理すること等により調整してもよい。
【0054】
また、本発明の人工毛髪の繊度としては、10〜100dtex、さらには20〜90dtexであることが好ましい。
【0055】
このようにして得られた本発明の人工毛髪は、ヘアセット性に優れ、また、毛質を特徴付ける重要な要素であるしっとり感を備えるものである。また、繊維表面に適度に凹凸が形成されるために、艶消しされており、人工毛髪として好適に使用することができる。さらに、ポリエステル系繊維からなるため、美容熱器具を用いたカールセット性に優れ、カールの保持性にも優れている。したがって、ヘアウィッグ、ツーペ、ウィービング、ヘアエクステンション、ブレード、ヘアアクセサリーなどの頭飾製品や、ドールヘアなどの人工毛髪として好ましく用いられる。
【0056】
また、これらの頭飾製品を作製する場合に、本発明の人工毛髪と、モダアクリル繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリアミド繊維などの他の人工毛髪や、人毛や獣毛などの天然繊維とを組み合わせて用いてもよい。
【実施例】
【0057】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0058】
本実施例および比較例において使用した原料は、以下のとおりである。
ポリエチレンテレフタレート:三菱化学(株)製、BK−2180
ポリトリメチレンテレフタレート:Shell Chemicals社製、コルテラCP509200
ポリブチレンテレフタレート:東レ(株)製、トレコン1401X04
赤リン含有難燃剤A:燐化学工業(株)製、ノーバレッド120UF、赤燐含量75%、平均粒子径10μm
赤リン含有難燃剤B:燐化学工業(株)製、ノーバレッド280C、赤燐含量31.5%、平均粒子径7μm
赤リン含有難燃剤C:燐化学工業(株)製、ノーバクエルFST−100、赤燐含量37%、平均粒子径3.5μm
赤リン含有難燃剤D:日本化学工業(株)製、ヒシガードホワイト、赤燐含量33%、平均粒子径13μm
赤リン含有難燃剤E:日本化学工業(株)製、ヒシガードマスターPSTP(ペレット)、赤燐含量14.4%
炭酸カルシウムとリン酸カルシウムとの複合粒子:丸尾カルシウム(株)製、HAP−30NP、平均粒子径3μm
メラミン樹脂とシリカとの複合粒子:日産化学工業(株)製、オプトビーズ500S、平均粒子径0.6μm
架橋アクリル粒子:綜研化学(株)製、MX−180TA、平均粒子径1.8μm
縮合リン酸エステル系難燃剤:大八化学工業(株)製、PX−200
顔料:顔料マスタバッチ、カーボンブラック20wt%含有、大日精化工業(株)製、PESM22367BLACK。
【0059】
(実施例1〜10、比較例1〜5)
表1に示す配合比率の配合組成物の各成分を、水分率100ppm以下に乾燥した後、ドライブレンドし、二軸押出機(日本製鋼所(株)製、TEX44)に供給し、バレル設定温度260℃で溶融混練し、ペレット化した。そして、水分率100ppm以下に乾燥させた前記ペレットを、溶融紡糸機(シンコーマシナリー(株)製、SV30)に供給し、バレル設定温度260℃で扁平比が1.4:1の繭形断面ノズル孔を有する紡糸口金より溶融ポリマーを吐出し、20℃の冷却風により空冷し、100m/分の速度で巻き取って未延伸糸を得た。そして前記未延伸糸を、75℃に加熱したヒートロールを用いて3.5倍に延伸し、180℃に加熱したヒートロールで熱処理し、30m/分の速度で巻き取り、単繊維繊度が60dtex前後のポリエステル系繊維(マルチフィラメント)を得た。
【0060】
得られたポリエステル系繊維に、親水性繊維処理剤であるKWC−Q(エチオキサイド−プロピレンオキサイドのランダム共重合ポリエーテル;丸菱油化(株)製)/加工剤29(カチオン性界面活性剤;丸菱油化(株)製)=0.20/0.20%omfとなるように、それぞれの純分を0.80%含む水溶液を調製し、総繊度10万dtexのトウフィラメントに、トウ重量に対して含液率25%になるように溶液を付着させ、熱風乾燥機を用いて120℃にて10分間乾燥させた。
【0061】
【表1】

【0062】
得られた繊維を用いて、以下に示す評価方法により評価した。
【0063】
<毛質>
(くし通り)
長さ30cm、総繊度10万dtexのトウフィラメントに繊維表面処理剤を付着させる。処理されたトウフィラメントにくし(デルリン樹脂製)を通し、くしの通り易さを評価した。
◎:全く抵抗ない(非常に軽い)
○:ほとんど抵抗ない(軽い)
△:若干抵抗がある(重い)
×:かなり抵抗がある、または、途中で引っかかる
(べたつき)
長さ30cm、総維度10万dtexのトウフィラメントを恒温恒湿室(23℃、相対湿度55%)内で3時間静置した後に、右手親指、人差し指、中指を使って評価した。
◎:べたつき感なし
○:ほとんどべたつき感なし
△:若干べたつき感あり
×:べたつき感あり。
【0064】
<外観>
(光沢)
長さ30cm、総繊度10万dtexのトウフィラメントを太陽光のもと、目視により、以下の基準で評価した。
◎:対比して注意深く比較しても、人毛との差を認めることができない程度の光沢。
○:対比して注意深く比較した場合に、人毛よりも光沢が多い、または、少ないと判 断できる光沢。
△:対比して通常の注意力で比較した場合に、人毛よりも光沢が多い、または、少な いと判断できる光沢。
×:対比を要することなく、明らかに人毛よりも光沢が多すぎる、または、少なすぎ ると判断できる光沢。
【0065】
<ヘアセット性>
繊維束を蓑毛にし、これを直径60mmφのパイプに巻いて、120℃でスチームセットしてカールを付与し、カールの付いた蓑毛をヘアキャップに縫い付けてショートボブスタイルのウィッグを作製し、専門美容師により、毛先カール保持性、カールの安定性、中間部のストレート性、スタイルの順応性、商品の触感およびくし通りを評価した。
【0066】
(毛先カール保持性)
スタイルに必要なカールを毛先に付与した時にその形状を維持し、また、霧吹きなどで水分を十分に吸収させ後、乾燥しても、その形状を維持している時を○、そうでないときを×とした。
【0067】
(カールの安定性)
商品を実用的な範囲で振り、その際にスタイルが維持している時を○、そうでない時を×とした。
【0068】
(中間部のストレート性)
スタイルに不要な中間部のカールの出現が抑えられている時を○、そうでない時を×とした。
【0069】
(スタイルの順応性)
ヘアアイロンを用いて、フォワード巻き、フォワード縦巻き、リバース巻き、リバース・フォワード・フリップ(外はね)のスタイルセットをし、そのカール形状が安定な場合を○、不安定な場合を×とした。
【0070】
<スチームによる変色>
長さ30cm、総繊度5万dtexの繊維束を、高圧滅菌装置(平山製作所(株)製)内に入れて密閉し、スチームを発生させて120℃に昇温した。120℃に到達してから1時間経過後に繊維束を取り出し、80℃の熱風乾燥機で30分間乾燥し、専門美容師の目視により、変色の程度を処理前の繊維束と比較して以下の基準により評価した。
◎:注意深く対比して比較しても白化が確認できない
○:注意深く対比して比較することにより白化したことが確認できる
△:対比して比較することにより白化が確認できる
×:対比して比較しなくとも白化したことが明らかである。
【0071】
<難燃性>
得られたフィラメントを150mmの長さに切断した。そして、前記フィラメント0.7g分を束ね、一方の端をクランプで挟んでスタンドに有効長120mmになるように固定して垂直に垂らした。前記固定したフィラメントに20mmの炎を3秒間接炎し、火炎を遠ざけた後の燃焼時間を測定し、以下の基準により判定した。
− 燃焼性 ―
◎:燃焼時間が1秒未満
○:1秒〜5秒未満
△:5秒〜8秒未満
×:8秒以上
また、そのときのドリップ数をカウントし、耐ドリップ性を評価した。
− 耐ドリップ性 −
◎:ドリップ数が0
○:ドリップ数が5以下
△:ドリップ数が6〜10
×:ドリップ数が11以上。
【0072】
<繊維物性>
(強度および伸度)
引張圧縮試験機(インテスコ社製、INTESCO Model201型)を用いて、フィラメントの引張強伸度を測定した。長さ40mmのフィラメント1本をとり、フィラメントの両端10mmを、接着剤を糊付けした両面テープを貼り付けた台紙(薄紙)で挟み、一晩風乾させて、長さ20mmの試料を作製した。そして、前記試験機に試料を装着し、温度24℃、湿度80%以下、引張速度20mm/分で試験を行ない、破断時の引張強度および伸度を測定した。なお、測定はN=10で行い、その平均値を求めた。
評価結果を、表2に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
本発明の人工毛髪である実施例1〜10においては、いずれも繊維物性を維持し、難燃性、耐ドリップ性およびくし通り、べたつきに優れ、また、ヘアセット性(美容特性)にも優れていることがわかる。また、特に、実施例〜5、6、9、10おいては、光沢、スチームによる変色にも優れていることがわかる。
【0075】
一方、赤リン含有難燃剤が本発明の範囲外である比較例1〜5の人工毛髪においては、いずれも難燃性、耐ドリップ性およびくし通り、べたつきを兼ね備えたものが得られていないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアルキレンテレフタレートまたはポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルの1種以上からなるポリエステル(A)100質量部と赤リン含有難燃剤(B)0.5〜10質量部から形成された難燃性ポリエステル系人工毛髪。
【請求項2】
前記人工毛髪が、前記ポリエステル(A)100質量部に対して、(C)無機粒子、有機樹脂粒子および無機有機樹脂複合粒子から選ばれる少なくとも1種の粒子を0.2〜10質量部含有する請求項1に記載の人工毛髪。
【請求項3】
前記ポリエステル(A)として、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートから選ばれる少なくとも1種のポリマーを含有する請求項1または2に記載の人工毛髪。
【請求項4】
前記赤リン含有難燃剤(B)が、赤リン、赤リンをマスターペレット化したもの、赤リン表面を熱硬化樹脂および/または無機材料を用いてマイクロカプセル化されている赤リン、および、赤リン表面を熱硬化樹脂および/または無機材料を用いてマイクロカプセル化されている赤リンをマスターペレット化したものよりなる群から選ばれた少なくとも1種の難燃剤である請求項1〜3のいずれか1項に記載の難燃性ポリエステル系人工毛髪用繊維。

【公開番号】特開2008−88585(P2008−88585A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−269350(P2006−269350)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】