説明

難燃性メルトブローン不織布

【目的】 吸音性及び難燃性を共に有する不織布を提供する。
【構成】 メルトブローン法で紡糸して作られた極細繊維と難燃性短繊維からなる難燃性メルトブローン不織布において、該極細繊維100重量部に対して難燃性短繊維が50重量部以上含まれたことを特徴とする難燃性メルトブローン不織布。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、難燃性メルトブローン不織布に関する。エアーコンディショナーの室外機に設置されているコンプレッサーの吸音材として、吸音特性が優れているためにグラスウールが広く用いられてきた。グラスウールはガラス繊維で構成されているため皮膚に対する刺激性が強く、作業者に嫌われるため吸音特性が著しく劣るため再生フェルトがグラスウールの代替品として使用されるようになった。
【0002】しかし、業務用等の大型のコンプレッサーを使用する用途では発生する騒音が大きいためにフェルトで代替することができず、未だにグラスウールが使用され続けているが、最近では作業者を確保することすら難しく、吸音特性の優れた代替材料が強く望まれている。さらに、フェルトを使用している分野に於いても、グラスウール並に吸音特性の優れた物に対する要求は強い。
【0003】
【従来の技術】特開昭53−41577には、平均直径10μm未満の微細繊維90重量部とそれより大きいステープルファイバー10重量部から成り、30cm3 /gの嵩高さを有する繊維質ウエブが記載されている。このウエブは吸音性に優れているが難燃性がないため用途が限定される。
【0004】前述したように、エアーコンディショナーのコンプレッサーの騒音防止等に使用される吸音材としては、グラスウールと再生フェルトが使用されているが、グラスウールは溶融されたガラスが溶融炉底部の小孔から高速で引き出された物であり、不燃性であるとともに、断熱性吸音性共に優れた材料である。グラスウールの欠点は、ガラスから作られていることである。すなわち脆く硬いために、切断加工や打ち抜き加工の時に発生する破片や粉塵が作業者の皮膚に突き刺さり、長時間かゆみを訴えるのである。
【0005】電気製品の部品加工や組み立ては人手に頼る部分が多いため、グラスウールのような作業者に嫌われる材料は徐々に使用されなくなり、その優れた断熱性及び吸音性にも関わらず難燃性の再生フェルト等の代替品への転換が進行した。また、吸音材は、補強材や遮音材と組み合わせて使用される場合があり、多くの場合打ち抜き加工等で所定の形状に加工した後に使用されるため、かかるグラスウールは、加工時に粉塵等が発生し、加工が困難という問題も有していた。
【0006】難燃性の再生フェルトは、織布あるいは不織布をほぐして回収した繊維の層を形成し、ニードルパンチあるいは接着剤を塗布した後に圧縮、加熱乾燥する等の工程により製造される。フェルトはこのようにして製造されるので、構成する繊維はグラスウールに比べて太く、細いものでも1.5デニール程度である。この繊維の太さ故に再生フェルトの吸音特性はグラスウールに比べて劣る。
【0007】厚み当たりの吸音特性は通常使用される範囲では密度が高い方がすぐれているために、グラスウールに比べて高い密度のものが使用される。再生フェルトの欠点は、このようにグラスウールに比べて密度が高いこと即ちできあがった遮音用の部品の重量が大きくなること、さらにグラスウールに比べて重量が大きいにもかかわらず吸音特性が劣ることである。また、フェルトもグラスウールと同様に、加工時に、粉塵等が発生し、加工が困難という問題があった。
【0008】ガラス繊維の皮膚への刺激性を低減するために、接着剤でガラス繊維を固定する方法が試みられており、特開昭58−118244には動植物性または合成樹脂性の繊維材料90〜10重量%に対し、平均径が2μm以下のガラス繊維を10〜90重量%混合開繊した後に、熱硬化性合成樹脂又は熱可塑性合成樹脂の結合剤を混合し、ウエブ形成機でウエブとした後に加熱して嵩高性不織布を得る方法が開示されている。しかしながらこのような方法では、皮膚への刺激性を減少することは可能になるものの、重量当たりの吸音効率は低下する。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】従って、本発明は、難燃性と吸音性とをともに有し、かつ人体への刺激がなく、加工性にすぐれた不織布を提供しようとするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の課題を解決すべく種々検討した結果、メルトブローン法で紡糸して作られた極細繊維と難燃性短繊維からなる難燃性メルトブローン不織布において、該極細繊維100重量部に対して難燃性短繊維を50重量部以上含ませた難燃性メルトブローン不織布が前記課題を解決することを見出し、本発明を完成した。以下、本発明について、具体的に説明する。
【0011】メルトブローン極細繊維メルトブローン極細繊維は、例えば特開昭53−41577に記載の製造方法により作られる微細繊維である。本発明においては、極細繊維の直径は特に限定されるものではないが、平均直径で約10μm以下のものが好ましい。繊維直径が、小さい程、吸音性能が向上するためである。すなわち、振動している空気の運動エネルギーを表面積の大きい極細繊維が、効率的に吸収し、吸音特性を発現させるためである。
【0012】また、本発明において、極細繊維の材料も特に限定されるものではないが、具体的にはポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、アクリル系樹脂等が挙げられる。特に、ポリプロピレンは、安価で、溶融温度が低く、かつ適当な耐熱性を有するため、好ましい材料である。メルトブローン極細繊維成形後に、難燃化剤を吹き付けたり、難燃化剤に浸せきし、難燃化したものも、本発明において使用可能である。
【0013】難燃性短繊維難燃性短繊維に関しても、特開昭53−41577に記載のステープルファイバーを難燃化したものが使用可能である。難燃性短繊維の直径としては、嵩高さを得るため、微細繊維よりも、大きいことが望ましく、具体的には、15〜25μm程度が好ましい。更に、難燃性短繊維は、捲縮していることが望ましく、例えば1〜10捲縮数/cmが適当である。難燃性短繊維が捲縮していると、嵩高さが有効に得られ、また、メルトブローン極細繊維との絡み合いが、強固になるためである。
【0014】難燃性短繊維の難燃化の方法としては、特に限定されるものではないが、公知の難燃化剤、例えばハロゲン系難燃化剤やリン系難燃化剤あるいは、シリカやアルミナ粒子を短繊維素材の中の練り込んだり、表面にコーティングしたり、あるいは積層する等の方法が取られる。ここで、難燃性短繊維の難燃化の程度は、好ましくは、LOI値(限界酸素指数)が30以上、更に好ましくは、32以上である。ここで、難燃性短繊維の材料も特に限定されるものではないが、具体的には、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂等が使用可能である。特に、アクリル系樹脂は、難燃化剤あるいは、他の難燃性樹脂、例えば塩化ビニル樹脂との相溶性に富み、難燃化が容易なため好ましい。
【0015】かかる難燃性短繊維は、市販されているものが使用可能であり、例えば、カネカロン(鐘淵化学)、プロテックス(鐘淵化学)、N21FCA(東洋紡)等が挙げられる。メルトブローン極細繊維と難燃性短繊維との重量比率は40/60〜60/40であることが好ましい。
【0016】本発明において、難燃性短繊維の配合量は極細繊維100重量部に対して50重量部以上が好ましい。難燃性短繊維が50重量部未満では後述の難燃性試験にパスせず、実用上適当な難燃性が得られないためである。また、難燃性メルトブローン不織布において、難燃性、吸音性の他に、特に軽量性を要求される場合や、更に優れた吸音性能を得るためには、難燃性短繊維の配合量は、極細繊維100重量部に対して、50〜200重量部が好ましい。
【0017】難燃性メルトブローン不織布難燃性メルトブローン不織布の密度について説明する。難燃性メルトブローン不織布の密度は、吸音性、軽量性等に大きな影響を与える因子である。すなわち、本発明において、難燃性メルトブローン不織布の密度は、50kg/m3 以下が望ましい。50kg/m3 を超えると、吸音性が低下し、軽量性に問題が生じるためである。また、望ましくは密度が、13kg/m3 以上である。密度が13kg/m3 未満となると難燃性メルトブローン不織布の製造が困難となるおそれがあるためである。
【0018】次に、難燃性メルトブローン不織布の製造方法について説明する。本発明の不織布は、例えば図1に示すようにして製造することができる。この装置の微細繊維吹き付け部分は、たとえば、インダストリアル・エンジニアリング・ケミストリー(Industrial Engineering Chemistry)第48巻1342ページ以下参照(1956年)のウエンテ、バンA(Wente,Van A)によるスーパーファイン・サーモプラスチック・ファイバー(Superfine Thermoplastic Fiber)」に教示されているような通常の構造であることができる。
【0019】そのような構造は液状化繊維形成性材料が進行する押出室11を有する成形型10、成形型の前部末端を横切り交叉する線に排列された液状繊維形成性材料が押出される成形型オリフィス12、ガス、代表的には加熱空気が非常な高速で吹き出される協働するガスオリフィス13を包含する。高速ガス状流れが吹き出し、押出された繊維形成性材料を細くし、そこで繊維形成性材料は採集機14に進行する間に微細繊維として固化する。
【0020】採集機14は代表的には微細有孔スクリーンであり、この場合には連結したループベルトの形であるが、別の形、たとえば、平面スクリーンまたはドラムまたはシリンダーを採用することもできる。繊維の付着、そしてガスの除去を助けるためガス吸引装置をスクリーンの背後に設置させてもよい。
【0021】微細繊維吹き付け装置の上部に配置されているリッケリン(Lickerin)ロール16を使用し図1に示した説明用装置中の吹き付け難燃性繊維の流れに難燃性繊維を導入する。難燃性繊維のウエブ17は代表的にはばらばらの不織布、たとえば、ガーネット機(garnet machine)またはランド−ウエバー(Rando−Webber)で製造される不織布は駆動ロール19の下のテーブル18に沿って推進され、そこで先導末端がリッケリンロール16に噛み合う。リッケリンロールは矢印の方向に回転し、不織布17の先導末端から繊維をむしり取り、相互に繊維を分離する。
【0022】むしり取った繊維は傾斜した樋または導管20を通して空気の流れで運ばれ、吹き付け微細繊維の流れに入り、それらは吹き付け微細繊維と混合される。空気の流れはリッケリンロールの回転で空気の流れを固有に発生させるか、または、技術上既知のように導管21を経て稼動する補助機または送風機を使用して空気の流れを増加させてもよい。
【0023】次いで微細繊維と難燃性繊維の混合した流れが採集機14に続き、そこで繊維はランダムに混合および交絡された繊維のウエブを形成する。電子顕微鏡で微細繊維と難燃性繊維は十分に混合されていることが判明し、たとえば、不織布には難燃性繊維のかたまりがない(すなわち、もし難燃性フィラメントの多末端トウの切断した部分が分離されず、または、もし微細繊維の流れに導入される前にいっしょに球になって得られるような直径1cmまたはそれ以上の多くの難燃性繊維が採集物にない。)不織布22を採集機からはがし、代表的には貯蔵ロールに巻く。
【0024】
【実施例】次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
実施例1.特開昭53−41577に開示されている方法にしたがって、メルトフローレートが30のポリプロピレン樹脂をメルトブローン法により紡糸して得られたポリプロピレン極細繊維と難燃性短繊維(カネカロン SR 2d×51mm)の混合比率を重量比で50:50とし、目付量が200g/m2 で密度が13.0kg/m3 のメルトブローン不織布を作成した。次にこの不織布を2本の加熱したエンボスロールの間に通し、ロール間隙を調節することにより圧縮加工を行い密度が20.0,28.5,40.0および50.0kg/m3 の試料を作成した。密度は次の式により算出した。
【0025】
【数1】


【0026】またこの時の厚みは0.002psi (0.142g/cm2 )の荷重下における厚みを採用した。次に5種類の試料の垂直入射吸音率をJIS A 1405に従い測定し、結果を図2にプロットした。図2から次のようなことがわかる。
【0027】(1)密度が小さい(同一の目付ならば厚みの大きい)ものの方が全周波数領域に於いて高い吸音率を示す。
(2)本発明の難燃性メルトブローン不織布はフェルトに比べ高い吸音率を示す。特に500hz以上の高周波数領域に於いて目付量が1/2であるにもかかわらず効果が顕著である。
(3)50kg/m3 以下の密度であれば本発明の意図するようなフェルトに対し明らかに優位性をもつ吸音材を得ることができる。
【0028】本来、特開昭36−41577に開示されている製造方法によれば、圧縮加工すること無く密度の調節をすることが可能であるが、本実施例では繊維径等の密度以外の要因のバラツキを防ぐためにこの方法によった。また、この密度を変えた、5種類の試料を用いて燃焼試験を行った。燃焼試験はUL94 HF−1に準拠して行い、判断の条件としては、燃焼せず、燃え尽きない場合を○(合格)、燃え尽きず残炎時間10秒以下△(合格)、残炎時間10秒以上×(不合格)、とした。
【0029】実施例2.実施例1と同じく、特開昭53−41577に開示されている方法によって、ポリプロピレン極細繊維100重量部に対して、アクリル系難燃性短繊維(カネカロン SR2dx51mm 及び プロテックスR 2dx51mm)を50,65,100,150,200重量部と変えて作成した。目付け量は、200g/m2 、密度は20kg/m3 とした。そして、前述の燃焼性試験を行い、結果を表1に示す。
【0030】
【表1】


【0031】本試験の結果から、前述の燃焼性の基準に合格するには、難燃性短繊維の配合割合を極細繊維100重量部に対して、50重量部以上必要とし、更に、100重量部以上であれば好ましいことが判明した。
【0032】実施例3.実施例1と同じく、特開昭53−41577に開示されている方法にしたがって、目付が200g/m2 で密度が15kg/m3 の試料を作成した。この時難燃性短繊維としてLOI値が28,29,30,32、および34の5段階の繊維を使用し、ポリプロピレン極細繊維と難燃性短繊維の混合割合を重量比で50/50とした。このLOI値の異なる難燃性短繊維を用いた5種類の試料を前述の難燃性試験に供した。結果を表2に示した。
【0033】
【表2】


【0034】本実施例から短繊維のLOI値が30以上であれば要求を満たし、32以上であれば更に好ましいことが判明した。
【0035】
【発明の効果】グラスウールがその繊維径の小ささ故に断熱材としても吸音材としても優れた性質を持つ材料であるように、メルトブローン法で作られた極細繊維と短繊維を一体化した不織布もまた本質的に両方の用途に適した材料である。極細繊維と短繊維の比率が本発明の範囲内にある不織布は同じ厚さのグラスウールとほぼ同一の熱伝導率及びほぼ2倍の垂直入射吸音率を示す。さらにグラスウールがガラス繊維を成分とするために密度が24kg/m3 から32kg/m3 であるのに対し、本発明の不織布の密度は13kg/m3 から50kg/m3 の間で吸音特性及び加工性を損なうこと無く任意に設定可能である。対応する用途に於いて主に必要とされる強度により適宜密度が選ばれるべきである。
【0036】再生フェルトと比較した場合には、本発明の不織布はほぼ1/6の重量で同一の吸音性能を得ることができる。このようにメルトブローン法で作られた極細繊維と短繊維とを一体化して得られた不織布は断熱材及び吸音材としての性能は理想的なものを持っているのであるが、このような材料が必要とされる多くの用途に於いては難燃性が不可欠な物として要求される。本発明は、このように優れた特性を持つ不織布に対し、諸特性を損なうことなく難燃性を付与しようとした結果できあがった物である。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明の不織布の製造装置の1例を示す。
【図2】図2は本発明の不織布の密度kg/m2 と吸音効果との関係を示す。
【符号の説明】
10…成形型
11…押出室
12…成形型オリフィス
13…ガスオリフィス
14…採集機
16…ロール
17…嵩高繊維のウエブ
18…テーブル
19…駆動ロール
20…導管
21…導管

【特許請求の範囲】
【請求項1】 メルトブローン法で紡糸して作られた極細繊維と難燃性短繊維とからなる難燃性メルトブローン不織布において、該極細繊維100重量部に対して難燃性短繊維が50重量部以上含まれたことを特徴とする難燃性メルトブローン不織布。
【請求項2】 メルトブローン法で紡糸して作られた極細繊維と難燃性短繊維とからなる難燃性メルトブローン不織布において、該極細繊維100重量部に対して難燃性短繊維が50重量部〜200重量部含まれたことを特徴とする難燃性メルトブローン不織布。
【請求項3】 前記難燃性短繊維の限界酸素指数(LOI)値が30以上であることを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載の難燃性メルトブローン不織布。
【請求項4】 前記極細繊維の平均繊維径が10μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の難燃性メルトブローン不織布。
【請求項5】 前記極細繊維がポリプロピレン樹脂からなり、そして前記難燃性短繊維の短繊維がアクリル系樹脂からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の難燃性メルトブローン不織布。
【請求項6】 密度が50kg/m3 以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の難燃性メルトブローン不織布。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate