説明

難燃性不織布およびそれを用いた布張り家具製品

【課題】 高い難燃性を有し、かつ、加工性が良好で、しかも繊維素材本来の優れた風合や触感などが損なわれておらず、高い意匠性及び快適性を有する難燃性不織布を提供する。また、前記難燃性不織布で内部構造物を覆うことにより、高度に難燃化され、しかも高い意匠性及び快適性を有するマットレス等の布張り家具製品を提供する。
【解決手段】 160℃における乾熱収縮率が5%以下であり、かつガラス成分を含有するハロゲン含有繊維(A)15重量部以上、セルロース系繊維(B)0〜85重量部、ポリエステル系繊維(C)0〜40重量部の合計100重量部からなり、かつ、目付けが200g/m2以上であることを特徴とする難燃性不織布およびこれを用いた布張り家具製品は、高い自己消火性能と炭化膜の形成及び形態保持能力を有し、上記課題を解決したものとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性不織布およびそれを用いた難燃性マットレス等の布張り家具製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、衣食住における安全性確保の要求が高まっている。そのなかでも、特に発生時に人的被害が大きい就寝中の火災を防止するために、寝具や家具等の製品に難燃性を付与することが重要な課題である。
【0003】
布張り家具製品においては、使用時の快適さや意匠性のために綿やポリエステル、ウレタンフォームなどの易燃性素材がその内部構造物や、それを覆う生地として用いられることが多い。このような布張り家具製品における防炎性の確保には、易燃性素材からなる内部構造物を、適当な難燃性素材よりなる生地で覆うことで、内部構造物への着炎を長時間にわたり防止することが重要である。難燃性素材は、高度な難燃性を有するとともに、寝具や家具等の製品としての快適さや意匠性を損なわないものでなければならない。
【0004】
内部構造物を覆う生地に用いられる難燃性素材として、過去様々な難燃性合成繊維や防炎薬剤が検討されてきた。しかし、高度な難燃性と布張り家具製品に求められる快適さや意匠性とを充分に兼ね合わせたものは未だ現れていない。
【0005】
内部構造物を覆う生地に難燃性を付与する手法として、例えば、綿布に防炎薬剤を塗布する、いわゆる後加工防炎という手法があるが、防炎薬剤の均一付着の困難性に起因する防炎性能のばらつき発生や、洗濯などによる防炎薬剤脱落に起因する防炎性能低下、および防炎薬剤の付着による布の硬化に起因する側地の触感・快適さの低下などの問題があった。
【0006】
また、内部構造物を覆う生地の主材料として、安価なポリエステルを用いた場合には、ポリエステルは炭化成分となりえないため、強制燃焼させた場合には溶融し穴が空き、構造を維持することが出来ず、前述の寝具や家具等に用いられる綿やウレタンフォームへ着炎してしまい、難燃性は全く不充分であった。
【0007】
また、内部構造物を覆う生地として耐熱性不燃繊維を用いた場合には、難燃性は優れているが極めて高コストであり、さらに開繊時の加工性の問題や、吸湿性や触感の悪さ、そして染色性の悪さから意匠性の高い色柄を得るのが難しいという問題もある。
【0008】
家具、寝具等の製品に使用される難燃性素材の欠点を改良し、一般的な特性として要求される優れた風合、吸湿性、触感を有し、かつ、安定した難燃性を有する素材として、難燃剤を大量に添加した高度に難燃化した含ハロゲン繊維と、難燃化していない他の繊維とを組み合わせた難燃性繊維複合体が提案されている(特許文献1)。しかし、この手法では、難燃剤を多量に添加するため、コスト的にも製造工程上も不利であり、また布張り家具製品に使用するには難燃性が不足する場合があるという問題点があった。また、作業服用途に使用可能な難燃性素材として、有機耐熱性繊維を少量混ぜることで、風合いや吸湿性に優れ、かつ高度な難燃性を有する難燃性繊維複合体が提案されている(特許文献2)。しかし、この手法では、有機耐熱繊維は一般に着色し布帛の白度が不十分であり、また染色による発色にも問題があり、さらに、含ハロゲン繊維と有機耐熱性繊維といった別々の性質を持った複数の繊維を複合化しなければならず、意匠性にも問題があった。さらに、本質的に難燃性である繊維と含ハロゲン繊維から嵩高さを有する難燃性不織布が提案されている(特許文献3)。しかし、この方法では本質的に難燃性である繊維と含ハロゲン繊維といった別々の性質を有する複数の繊維を複合化して用いなければ高度な難燃性が得られず、製品の製造工程が複雑になり、また、本質的に難燃性である繊維は一般的に高価でありコスト的に不利であるという問題点があった。また、ガラス成分により難燃化した難燃ポリエステル素材もある(特許文献4)。しかし、ガラス成分量が著しく多いためコスト高や繊維化時の工程安定性に問題があり繊維化には至っていない。
【0009】
【特許文献1】特開昭61−89339号公報
【特許文献2】特開平8−218259号公報
【特許文献3】国際公開第03/023108号パンフレット
【特許文献4】特開平9−278999号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、高い難燃性を有し、かつ、加工性が良好で、しかも繊維素材本来の優れた風合や触感などが損なわれておらず、高い意匠性及び快適性を有する難燃性不織布を提供することである。また、前記難燃性不織布で内部構造物を覆うことにより、高度に難燃化され、しかも高い意匠性及び快適性を有するマットレス等の布張り家具製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ガラス成分を含有するハロゲン含有繊維を必須成分とし、必要に応じてセルロース系繊維、および/またはポリエステル系繊維を用いることで、自己消火性に優れ、かつ高い炭化膜形成能を有し、しかも高い意匠性及び快適性を有する難燃性不織布、およびそれを用いた難燃性のマットレス等の布張り家具製品が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明に係る難燃性不織布は、160℃における乾熱収縮率が5%以下であり、かつガラス成分を含有するハロゲン含有繊維(A)15重量部以上、セルロース系繊維(B)0〜85重量部、ポリエステル系繊維(C)0〜40重量部の合計100重量部からなり、かつ、目付けが200g/m2以上であることを特徴とする。
【0013】
ここで、ハロゲン含有繊維(A)が、アクリロニトリル30〜70重量%、ハロゲン含有ビニルおよび/またはハロゲン含有ビニリデン単量体70〜30重量%、およびこれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10重量%からなるアクリル系重合体100重量部に対し、前記ガラス成分を4〜50重量部含有してなることが好ましい。
【0014】
また、前記ガラス成分のガラス転移温度が、200〜400℃の範囲内であることが好ましく、前記ガラス成分が、リン化合物および/または亜鉛化合物を含有してなることがより好ましい。
【0015】
また、ハロゲン含有繊維(A)が、前記アクリル系重合体100重量部に対し、前記ガラス成分とガラス成分以外の無機系添加剤とを合計5〜50重量部含有してなることが好ましく、前記ガラス成分以外の無機系添加剤が、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸、オキシ塩化アンチモン等のアンチモン化合物、カオリン、ゼオライト、モンモリロナイト、タルク、ベントナイト、黒鉛等の天然もしくは合成鉱産物系化合物、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、ケイ酸アルミニウム等のアルミニウム系化合物、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム等のマグネシウム化合物、酸化亜鉛、ホウ酸亜鉛、炭酸亜鉛、スズ酸亜鉛等の亜鉛化合物、酸化第二スズ、メタスズ酸、オキシハロゲン化第一スズ、オキシハロゲン化第二スズ、水酸化第一スズ、四塩化スズ等のスズ化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種であることがより好ましい。
【0016】
また、セルロース系繊維(B)が、木綿、麻、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、アセテートおよびトリアセテートよりなる群から選ばれた少なくとも1種の繊維であることが好ましい。
【0017】
また、ポリエステル系繊維(C)が、低融点バインダー繊維であることが好ましく、前記低融点バインダー繊維が、低融点ポリエステル単一成分よりなる繊維、通常のポリエステルと低融点ポリエステルの複合よりなる繊維、通常のポリエステルと低融点ポリオレフィンの複合よりなる繊維よりなる群から選ばれた少なくとも1つの繊維であることがより好ましい。
【0018】
また、本発明の布張り家具製品は、前記難燃性不織布を、内部構造物を覆う生地として用いたことを特徴とする。
【0019】
また、前記布張り家具製品が、米国カリフォルニア州Technical Bulletin 603(以下TB603)燃焼試験において、内部構造物に着炎しないマットレスであることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の難燃性不織布は、160℃における乾熱収縮率が5%以下であり、かつガラス成分を含有するハロゲン含有繊維(A)15重量部以上、セルロース系繊維(B)0〜85重量部、ポリエステル系繊維(C)0〜40重量部の合計100重量部からなり、かつ、目付けが200g/m2以上であることを特徴とすることで、高い難燃性を有し、かつ、加工性が良好で、しかも繊維素材本来の優れた風合や触感などが損なわれておらず、高い意匠性及び快適性を有するものとなる。また、本発明の布張り家具製品は、前記難燃性不織布で内部構造物を覆うことにより、高度に難燃化され、しかも高い意匠性及び快適性を有するものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の難燃性不織布は、ガラス成分を含有するハロゲン含有繊維(A)を必須成分とし、必要に応じてセルロース系繊維(B)、および/またはポリエステル系繊維(C)を含有してなることを特徴とする。
【0022】
本発明に用いる(A)成分は、160℃における乾熱収縮率が5%以下であり、かつガラス成分を含有するハロゲン含有繊維である(以下、(A)成分を、単に「ハロゲン含有繊維(A)」という場合がある。)。ハロゲン含有繊維(A)は、難燃性不織布が燃焼した際の、炭化膜の形成能力、および炭化膜の形態保持能力を高めるとともに、難燃性不織布に高い自己消火性を与える成分である。ハロゲン含有繊維(A)の自己消化性は、ハロゲン含有繊維(A)を含む不織布の表面が炎に晒された際に、酸素欠乏ガス、すなわち不燃性のハロゲン原子を含んだガス、例えば塩素ガスや塩酸ガスを発生することで、不織布表面の炎の消火を助けることにより発揮される。
【0023】
本発明に用いる(A)成分の基質であるハロゲン含有重合体(すなわち、後述するガラス成分以外の(A)成分)としては、例えば塩化ビニル、塩化ビニリデンなどのハロゲン含有モノマーの単独重合体や共重合体、これらのハロゲン含有モノマーと共重合可能なモノマー、例えばアクリロニトリル、スチレン、酢酸ビニル、アクリル酸エステルなどとの共重合体、またはハロゲン含有モノマーがPVA系ポリマーにグラフトした形のグラフト重合体などがあげられるが、これらに限定されるものではない。これらハロゲン含有重合体の中では、炎遮蔽性生地に難燃性と共に優れた風合い、触感、意匠性を与えるという点から、ハロゲン含有モノマーとアクリロニトリルとの共重合体からなるアクリル系重合体が好ましい。
【0024】
前記アクリル系重合体は、アクリロニトリル30〜70重量%、ハロゲン含有ビニルおよび/またはハロゲン含有ビニリデン系単量体70〜30重量%、およびそれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10重量%からなることが、得られる繊維が所望の性能(強度、難燃性、染色性など)を有しつつアクリル繊維の風合を有するため好ましく、アクリロニトリル40〜60重量%、ハロゲン含有ビニルおよび/またはハロゲン含有ビニリデン系単量体60〜40重量%、およびそれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10重量%からなることが、より好ましい。
【0025】
前記共重合可能なビニル系単量体としては、たとえばアクリル酸、そのエステル、メタクリル酸、そのエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、ビニルスルホン酸、その塩、メタリルスルホン酸、その塩、スチレンスルホン酸、その塩、2−アクリルアミド−2−メチルスルホン酸、その塩などがあげられ、それらの1種または2種以上が用いられる。また、そのうち少なくとも1種がスルホン酸基含有ビニル系単量体の場合には、染色性が向上するため好ましい。
【0026】
前記ハロゲン含有ビニルおよび/またはハロゲン含有ビニリデン系単量体とアクリロニトリルからの単位を含む共重合体の具体例としては、例えば塩化ビニル50重量%、アクリロニトリル49重量%、スチレンスルホン酸ソーダ1重量%よりなる共重合体、塩化ビニリデン47重量%、アクリロニトリル51.5重量%、スチレンスルホン酸ソーダ1.5重量%よりなる共重合体、塩化ビニリデン41重量%、アクリロニトリル56重量%、2−アクリルアミド−2−メチルスルホン酸ソーダ3重量%よりなる共重合体などが挙げられる。これらは、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法等の公知の重合方法で得ることが出来る。
【0027】
本発明に用いるハロゲン含有繊維(A)は、前記ハロゲン含有重合体に加えて、ガラス成分を含有する。ガラス成分は、難燃性不織布が燃焼した際の、炭化膜の形成能力、および炭化膜の形態保持能力をさらに高める効果を奏する成分である。ガラス成分としては、例えばSiO2−PbO系、SiO2−PbO−ZnO系、SiO2−B23−Na2O系、SiO2−B23−PbO系、SiO2−Al23系、B23−PbO系、B23−ZnO系、B23−Na2O−PbO系、B23−PbO−ZnO系、B23−P25系、B23−Bi23−ZnO系、P25−ZnO系などを挙げることができ、そのなかでも、リン化合物および/または亜鉛化合物を含むものが特に好ましいが、これらに限定されるものではない。また、前記のようなガラス成分を単独で用いてもよく、これらを組み合わせて使用しても何ら支障はない。ガラス成分の割合は、好ましくは前記ハロゲン含有重合体100重量部に対して4〜50重量部、より好ましくは7〜40重量部、さらに好ましくは10〜30重量部である。ガラス成分の割合が、前記ハロゲン含有重合体100重量部に対して4重量部未満の場合には、燃焼時に炭化膜の形態保持効果が充分ではなく、求める難燃性を得ることが難しくなる。ガラス成分の割合が、前記ハロゲン含有重合体100重量部に対して50重量部を超えると、十分な炭化膜の形態保持効果は得られるものの、繊維のしなやかさが失われて繊維が脆くなる傾向があり、繊維化時の製造工程においての糸切れやコスト高の要因となるため好ましくない。
【0028】
また、前記ガラス成分のガラス転移温度は、好ましくは200〜400℃以下の範囲内であり、より好ましくは200〜300℃である。ガラス転移温度が200℃未満の場合には、燃焼時にガラス成分の溶融が早く、炭化膜の形態保持効果は得やすいと考えられるが、ガラス成分の製造が困難となる傾向がある。一方、ガラス転移温度が400℃を超えると、燃焼時にハロゲン含有繊維(A)が分解する温度においてガラス成分が溶融しないため、炭化膜形成効果、および炭化膜の形態保持効果を得ることが難しい。
【0029】
前記ガラス成分は粒子状であることが好ましい。ガラス成分を粒子状とすることで、ハロゲン含有繊維(A)におけるガラス成分の割合を高くしたような場合でも、繊維のしなやかさが失われにくく繊維が脆くなりにくいため、製造工程において糸切れが発生せず、加工性が良好となる。前記ガラス成分が粒子状である場合の平均粒子径としては、3μm以下であることが、ハロゲン含有繊維(A)の製造工程上におけるノズル詰りなどのトラブル回避、繊維の強度向上、繊維中でのガラス成分粒子の分散性などの点から好ましい。さらに前記ガラス成分は、ブロッキング性改善のために粒子表面に化学的修飾を施しても何ら支障はない。
【0030】
本発明に用いるハロゲン含有繊維(A)は、前記ガラス成分以外の無機系添加剤をも含有していることが好ましい。ここでいうガラス成分以外の無機系添加剤とは、前記ガラス成分を含有しない無機系化合物であって、例えば三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸、オキシ塩化アンチモン等のアンチモン化合物、カオリン、ゼオライト、モンモリロナイト、タルク、ベントナイト、黒鉛等の天然もしくは合成鉱産物系化合物、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、ケイ酸アルミニウム等のアルミニウム系化合物、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム等のマグネシウム化合物、酸化亜鉛、ホウ酸亜鉛、炭酸亜鉛、スズ酸亜鉛等の亜鉛化合物、酸化第二スズ、メタスズ酸、オキシハロゲン化第一スズ、オキシハロゲン化第二スズ、水酸化第一スズ、四塩化スズ等のスズ化合物等を挙げることが出来るがこれらに限定されるものではない。ガラス成分以外の無機系添加剤の割合は、前記ハロゲン含有重合体100重量部に対して、好ましくは0〜46重量部、より好ましくは5〜30重量部、さらに好ましくは7〜20重量部である。ハロゲン含有繊維(A)が、ガラス成分以外の無機系添加剤を全く含まなくても、前記ガラス成分による炭化膜の形態保持効果は得られるが、さらに高度な炭化膜の形態保持効果を得るためには、ガラス成分以外の無機系添加剤を、前記ハロゲン含有重合体100重量部に対して5重量部以上添加することが好ましい。またガラス成分以外の無機系添加剤が、前記ハロゲン含有重合体100重量部に対して46重量部を超えると、十分な炭化膜の形態保持効果は得られるものの、繊維化時の製造工程においての糸切れの要因となるため好ましくない。
【0031】
本発明に用いるハロゲン含有合成繊維(A)は、160℃における乾熱収縮率が5%以下である。ここでいう乾熱収縮率とは、セイコー電子工業(株)製TMA/SS150Cにより、試料繊度3333dtex、試料長5mm、荷重18mN、昇温速度3℃/分、チッソ雰囲気下で測定した際の、160℃における収縮率のことである。160℃における収縮率が5%を超えると、難燃性不織布が炎に晒された際に、その熱により難燃性不織布が炭化膜を形成する以前にハロゲン含有繊維(A)が熱収縮を起こし、均一な炭化膜を形成することができない。また、難燃性不織布が炎に晒された際の炎の激しさによっては、炭化膜に穴が空き炎遮蔽性能を充分に発揮することが出来なくなる。
【0032】
ここでいう炎遮蔽性とは、難燃性不織布の表面が炎に晒された際に、難燃性不織布が繊維の形態を維持したまま炭化することで炎を遮蔽し、炎に晒された表面の反対側の面に炎が移るのを防ぐことである。具体的にはマットレス等の布張り家具製品において、本発明の難燃性不織布を、ウレタンフォームや詰め綿等の内部構造物を覆う生地として用いることで、布張り家具製品が災に晒された際に内部構造物への炎の着火を防ぎ、燃焼を最小限に食い止めることができるものである。
【0033】
本発明に用いるハロゲン含有繊維(A)は、湿式紡糸法、乾式紡糸法、半乾半湿式法等の公知の製造方法で製造される。例えば湿式紡糸法では、上記ハロゲン含有重合体をN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトン、ロダン塩水溶液等の溶媒に溶解後、ガラス成分を添加して紡糸原液とし、該紡糸原液をノズルを通じて凝固浴に押出すことで凝固させ、次いで水洗、乾燥、延伸、熱処理し、必要であれば捲縮を付与し切断することで製造する。本発明に用いるハロゲン含有繊維(A)は、短繊維でも長繊維でもよく、使用方法において適宜選択することが可能であり、例えば他の天然繊維および化学繊維と複合させて加工するには複合させる繊維に近似なものが好ましく、繊維製品用途に使用される他の天然繊維および化学繊維に合わせて、1.7〜12dtex程度、カット長38〜128mm程度の短繊維が好ましい。
【0034】
本発明に用いるセルロース系繊維(B)は、難燃性不織布の強度維持のために重要な成分であり、かつ、風合や吸湿性に優れ、快適性を与えると共に、燃焼時に炭化膜形成能力を有する成分である。セルロース系繊維(B)の具体例としては、木綿、麻、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、アセテートおよびトリアセテートなどが挙げられ、これらは単独で使用しても良く、2種類以上組み合わせて使用してもよい。特に、風合いや吸湿性の観点から、木綿、麻、レーヨン繊維が好ましい。
【0035】
本発明に用いるポリエステル系繊維(C)は、本発明の難燃性不織布に優れた風合、触感、意匠性、製品強度、耐久性を与えるための成分である。また、ポリエステル系繊維(C)自体は可燃性であるが、燃焼時に生じた溶融物がハロゲン含有繊維(A)やセルロース系繊維(B)の燃焼により生成した炭化物を覆うことで、炭化膜を強固なものとする効果がある。また、本発明の難燃性不織布にポリエステル系繊維(C)を含有させることにより、不織布を嵩高性のものとすることが容易となる。
【0036】
また、ポリエステル系繊維(C)として、ポリエステル系低融点バインダー繊維を用いることも可能である。ポリエステル系低融点バインダー繊維としては、低融点ポリエステル単一型繊維でもよく、ポリエステルと、低融点ポリエステル或いは低融点ポリオレフィンとからなる並列型もしくは芯鞘型複合型繊維でも良い。前記低融点ポリオレフィンとしては、例えば、低融点プロピレン、低融点ポリエチレンなどが挙げられる。一般的に低融点ポリエステルの融点は概ね110〜200℃、低融点ポリプロピレンの融点は概ね140〜160℃、低融点ポリエチレンの融点は概ね95〜130℃であり、概ね110〜200℃程度で融解接着能力を有するものであれば特に限定はない。低融点バインダー繊維としては、例えば東レ(株)製のサフメット(4.4dtex×51mm、溶融温度110℃)が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0037】
本発明の難燃性不織布には、必要に応じて帯電防止剤、熱着色防止剤、耐光性向上剤、白度向上剤、失透性防止剤などを含有せしめてもよいし、染料や顔料などによる着色や染色を行っても何ら支障ない。これらは、前記ハロゲン含有繊維(A)、セルロース系繊維(B)、及びポリエステル系繊維(C)自体に含有させてもよいし、不織布とした後に添加してもよい。
【0038】
本発明の難燃性不織布は、例えば、マットレス等の布張り家具製品において、内部構造物を覆う生地として好適に用いられる。
【0039】
難燃性不織布の製造方法としては、一般的な熱溶融接着法、ケミカルボンド法、ウォータージェット法、ニードルパンチ法、ステッチボンド法等の方法が採用でき、複数の種類の繊維を混綿した後にカードにより開繊、ウェブ作成を行い、このウェブを不織布製造装置にかけることにより作成される。装置の簡便さからはニードルパンチ方式が好ましく、また、ポリエステル系繊維(C)として、低融点バインダー繊維を用いれば熱溶融接着方式による製造が、簡便なうえ生産性が高いため好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0040】
本発明の難燃性不織布は、炎遮蔽性の観点から目付けは200g/m2以上である。目付けが200g/m2未満であると、例えば米国カリフォルニア州TB603燃焼試験のような激しい炎に晒された場合、形態保持が困難となり炎遮蔽性能を発揮することが困難となる。
【0041】
本発明の難燃性不織布は、ハロゲン含有繊維(A)15重量部以上とセルロース系繊維(B)0〜85重量部、およびポリエステル系繊維(C)0〜40重量部からなるが、それらの混合割合は、得られる難燃性不織布から製造される布張り家具製品に要求される難燃性とともに、吸水性、風合、吸湿性、触感、意匠性、製品強力、耐洗濯性、耐久性などの品質に応じて、上記範囲内で適宜決定される。好ましくは、ハロゲン含有繊維(A)15〜85重量部、セルロース系繊維(B)0〜85重量部、ポリエステル系繊維(C)0〜40重量部であり、それらの合計が100重量部になるように複合する。さらに好ましくは、ハロゲン含有繊維(A)20〜60重量部、セルロース系繊維(B)10〜75重量部、ポリエステル系繊維(C)10〜30重量部であり、それらの合計が100重量部になるように複合する。不織布製造の際に、熱溶融接着法を選択する場合には、ポリエステル系繊維(C)として、ポリエステル系低融点バインダー繊維を少なくとも10重量部含むことが好ましい。
【0042】
ハロゲン含有繊維(A)の割合が15重量部未満の場合、激しい炎に長時間晒されたときに寝具や家具に用いられる内部構造物への着炎を防ぐための炭化膜形成力が不充分となり、自己消火性も低下するため、必要とされる高度な難燃性を得ることが難しい。
【0043】
セルロース系繊維(B)の割合が、難燃性不織布100重量部のうち、85重量部を超える場合には、炭化膜は形成するものの、必然的にハロゲン含有繊維(A)の割合が少なくなるため、難燃性不織布が燃焼、炭化した後の形態保持能力が低下し、結果として不織布の難燃性が低下するため好ましくない。
【0044】
ポリエステル系繊維(C)の割合が、難燃性不織布100重量部のうち40重量部を超える場合には、炭化膜に対するポリエステル系繊維(C)の燃焼により生じた溶融部分の面積が大きくなり、難燃性が低下するため好ましくない。
【0045】
以上にしてなる本発明の難燃性不織布は、高い難燃性を有し、かつ、加工性が良好で、しかも繊維素材本来の優れた風合や触感などが損なわれておらず、高い意匠性及び快適性を有するものとなる。
【0046】
本発明の布張り家具製品は、内部構造物を覆う生地として、前記難燃性不織布を用いたものある。
【0047】
布張り家具製品としては、マットレス等の寝具や、椅子、ソファー等の家具が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
前記マットレスとしては、例えば、金属製のコイルが内部に用いられたポケットコイルマットレス、ボックスコイルマットレス等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
また、前記家具としては、屋内にて使用される、ストゥール、ベンチ、サイドチェア、アームチェア、ラウンジチェア・ソファー、シートユニット(セクショナルチェア、セパレートチェア)、ロッキングチェア、フォールディングチェア、スタッキングチェア、スィーブルチェアのみならず、例えば屋外で車両用座席等に使用される、自動車座席、船舶用座席、航空機用座席、鉄道用座席などが挙げられる。
【0050】
内部構造物としては、ポリウレタンフォームやポリスチレンフォーム等の樹脂発泡体、中綿、及び不織布等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。尚、ここでいう中綿とは、布張り家具製品の内部に用いられる繊維系素材の構造物を意味する概念であり、特に木綿を意味するものではない。
【0051】
内部構造物を覆う生地としては、本発明の難燃性不織布1枚のみを用いてもよいし、少なくとも本発明の難燃性不織布1枚を含む2枚以上の生地を重ね合わせて用いてもよい。すなわち、内部構造物を覆う生地を2枚以上用いる場合には、少なくとも本発明の難燃性不織布1枚を含んでさえいれば、その他の生地を従来の生地としてもよい。
【0052】
本発明の布張り家具製品に用いる難燃性不織布は、布張り家具製品の表面を形成する側地として用いてもよいし、側地とポリウレタンフォームなどの内部構造物との間に挟み込んでもよい。ここで、本発明において側地とは、内部構造物を覆う生地のうちで、最も外側にある生地のことを言い、内部構造物を覆う生地を2枚以上用いる場合には、最も外側に位置して布張り家具製品の表面層を形成する生地のことを言う。内部構造物を覆う生地を1枚のみ用いる場合には、難燃性不織布が、従来の側地にとってかわることとなる。また、側地と内部構造物との間に難燃性不織布を挟み込んで用いる場合には、側地を従来の生地として、これと内部構造物との間に難燃性不織布を挟み込んで用いてもよいし、側地をも難燃性不織布として、難燃性不織布を2枚重ねて用いてもよい。側地と内部構造物との間に難燃性不織布を挟み込んで用いる場合には、内部構造物全体を難燃性不織布で覆い、その上から側地で覆うのは勿論である。
【0053】
本発明の布張り家具製品において、内部構造物を覆う生地を不織布とすることにより、織物や編物と違い、紡績により糸を作成する必要がなく、綿から直接生地が作成できるため、素材の混率に関して自由度が高い特長を有する。また、不織布は織布に比べて伸縮性を有することから、燃焼時に形成される炭化膜に亀裂が生じにくいという特徴がある。
このような布張り家具製品は、難燃性不織布が有する優れた特性、すなわち優れた難燃性を有し、かつ、加工性が良好で、しかも繊維素材本来の優れた風合や触感などが損なわれておらず、高い意匠性及び快適性を有するものとなる。
【0054】
また、内部構造物を覆う生地として、前記難燃性不織布を用いたマットレスは、米国カリフォルニア州TB603燃焼試験において、内部構造物への延焼が生じないものとなる。
【0055】
ハロゲン含有繊維(A)、セルロース系繊維(B)、及びポリエステル系繊維(C)を、前述のような割合で含有する難燃性不織布が優れた炎遮蔽性を示す理由は、以下のように考えられる。難燃性不織布が炎に晒された際に、前述したとおりハロゲン含有繊維(A)から不燃性ガスを発生するとともに、ハロゲン含有繊維(A)に含まれるガラス成分が溶融し、発生する易燃性ガスの表面拡散を抑制することで、不織布の燃焼が抑制される(自己消火性)。また溶融したガラス成分は、ハロゲン含有繊維(A)やセルロース系繊維(B)、ポリエステル系繊維(C)の燃焼により生成した炭化物やハロゲン含有繊維(A)に含まれるガラス成分以外の無機系添加剤の間に入り込み、固化することで、前記生成した炭化物は焼失、焼損することなく強固な炭化膜を形成する。また、ハロゲン含有繊維(A)は熱に対する収縮率が低いため、形成された炭化膜は、亀裂や穴が生じにくいものとなる(炭化効果、形態保持効果)。これらの結果、本発明の難燃性不織布は、燃焼後も崩壊することなく形成された炭化膜の形態を保持するので、炎に晒された表面の反対側の面に炎が移るのを防止し、それ以上の延焼が抑制される高度な炎遮蔽性を示す。
【実施例】
【0056】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0057】
(難燃性評価方法)
(1)難燃性評価試験用簡易マットレスの作成
ハロゲン含有繊維(A)、セルロース系繊維(B)、及びポリエステル系繊維(C)を所定の割合で混合し、ローラーカードにより開繊した後、熱溶融接着法により、縦45cm×横30cmの不織布を作成した。該不織布の上に同サイズのポリエステル製不織布(目付け300g/m2)を重ね、さらにポリエステル製布帛(目付け120g/m2)を重ねた3層構造物をカタン糸を用いキルティングし、縦30cm×横45cm×厚さ7.5cm、密度22Kg/m3のポリウレタンフォーム(東洋ゴム工業(株)製タイプ360S)の上に、側地が前記ポリエステル製布帛となるように、ステープラーを用いて固定した。
【0058】
(2)難燃性評価試験方法
米国カリフォルニア州のベッドマットレスの燃焼試験方法TB603のうち、ベッドマットレス上面試験方法に準じて実施した。すなわち難燃性評価試験用簡易マットレスの上面から39mmの所に水平にT字型のバーナーをセットし、プロパンガスを燃焼ガスとして、ガス圧力101KPa、ガス流量12.9L/分の条件にて、70秒間接炎した。この時に、不織布の炭化膜に厚み斑がなく全く穴やひびもなく、かつ、自己消火し、内部のウレタンフォームへの着炎のない場合を◎、炭化膜に僅かなひびがあるものの、貫通した穴やひびがなく、かつ、自己消火し、内部のウレタンフォームへの着炎のない場合を○、炭化膜に小穴や、貫通した小さなひびがあるものの、自己消火し、内部のウレタンフォームへの着炎のない場合を△、炭化膜に小穴や、貫通した小さなひびがあり、自己消火するまえにウレタンフォームに着炎した場合を×として評価を実施した。また、炭化膜の穴あき及びひび発生の有無や、内部のウレタンフォームへの着炎の有無にかかわらず、試験用簡易マットレスの上面に着炎した炎が側面まで移動し、なおも自己消火しなかった場合は、全て×とした。
前記評価結果のうち、◎または○を「合格」、△または×を「不合格」とした。
【0059】
(ハロゲン含有繊維(A)の乾熱収縮率の測定方法)
得られたハロゲン含有繊維(A)をセイコー電子工業(株)製TMA/SS150Cにより、試料繊度3333dtex、試料長5mm、荷重18mN、昇温速度3℃/分、チッソ雰囲気下で測定することにより、160℃における乾熱収縮率を求めた。
【0060】
(ハロゲン含有繊維(A)の製造例1〜7)
アクリロニトリル51重量%、塩化ビニリデン48重量%およびp−スチレンスルホン酸ソーダ1重量%よりなる共重合体(ハロゲン含有量:35重量%)をアセトンに樹脂濃度が30%になるように溶解させ、得られた樹脂溶液中の樹脂成分100重量部に対して、所定のガラス成分(P25−ZnO系ガラス ガラス転移温度240℃ 旭ファイバーグラス製ZP450)と無機系添加剤(水酸化アルミニウム、および三酸化アンチモン)とを表1に示す割合で添加し、紡糸原液とした。ガラス成分および水酸化アルミニウム、三酸化アンチモンを含んだ紡糸原液をノズル孔径0.10mmおよび孔数1000ホールのノズルを用い、40%アセトン水溶液中へ押し出し、水洗したのち120℃で乾燥し、ついで150℃で3倍に延伸した後、表1に示す温度において1分間熱処理し、さらにカット長64mmに切断することでハロゲン含有繊維(A)を得た。得られた繊維は繊度7.8dtexの短繊維であった。
【0061】
表1に、ハロゲン含有繊維(A)の製造例1〜7、および160℃における乾熱収縮率の測定結果を示す。
【0062】
【表1】

【0063】
(実施例1〜8、比較例1〜9)
ハロゲン含有繊維(A)の製造例1〜4で作成したハロゲン含有繊維(A)、レーヨン繊維(B)(1.5dtex、カット長38mm)、ポリエステル系低融点バインダー繊維(C)である東レ(株)製のサフメット(4.4dtex×51mm、溶融温度110℃)が所定の割合となる不織布を用いて、難燃性評価試験用簡易マットレスの作成難燃性評価方法に従い簡易マットレスを作成し、難燃性評価を実施した。結果を表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
実施例1〜8においては、難燃性試験結果が良好であり、用いた難燃性不織布には燃焼試験終了後も亀裂や穴あきの発生がなく、良好な炭化膜を形成し、内部構造物であるウレタンフォームへの着炎は防止された。これに対して比較例1,3,5では、ハロゲン含有繊維(A)の割合が低いため、良好な炭化膜を形成できず不織布に穴あきが発生し、内部構造物であるウレタンフォームに着炎し不合格となった。比較例2,4,6では、ポリエステル繊維(C)の割合が高いため、ポリエステル繊維部分が溶融して穴あきが発生し、内部構造物であるウレタンフォームに着炎し不合格となった。比較例7〜9では、ハロゲン含有繊維(A)にガラス成分を含まないために、良好な炭化膜を形成できず不織布に穴あきが発生し、内部構造物であるウレタンフォームに着炎し不合格となった。
【0066】
(比較例10〜17)
ハロゲン含有繊維(A)の製造例1〜3で作成したハロゲン含有繊維(A)、レーヨン繊維(B)(1.5dtex、カット長38mm)、ポリエステル系低融点バインダー繊維(C)である東レ(株)製のサフメット(4.4dtex×51mm、溶融温度110℃)が所定の割合となる不織布を用いて、難燃性評価試験用簡易マットレスの作成難燃性評価方法に従い簡易マットレスを作成し、難燃性評価方法に基づき難燃性評価を実施した。結果を前記実施例1〜8の結果とともに表3に示す。
【0067】
【表3】

【0068】
比較例10〜17では、不織布を構成する(A)〜(C)成分の割合は実施例1〜8と同様であるが、不織布の目付けが低いために良好な炭化膜を形成できなかった。なかでも比較例10〜14,及び16では内部構造物であるウレタンフォームに着炎し不合格となった。比較例15,17では内部構造物のウレタンフォームへの着炎は免れたが、炭化膜に亀裂が生じ実施例6,8と比較して炎遮蔽性において大きく劣るものとなった。
【0069】
(比較例18〜25)
ハロゲン含有繊維(A)の製造例5〜7で作成したハロゲン含有繊維(A)、レーヨン繊維(B)(1.5dtex、カット長38mm)、ポリエステル系低融点バインダー繊維(C)である東レ(株)製のサフメット(4.4dtex×51mm、溶融温度110℃)が所定の割合となる不織布を用いて、難燃性評価試験用簡易マットレスの作成難燃性評価方法に従い簡易マットレスを作成し、難燃性評価方法に基づき難燃性評価を実施した。結果を前記実施例1〜8の結果とともに表4に示す。
【0070】
【表4】

【0071】
比較例18〜25ではハロゲン含有繊維(A)の160℃における乾熱収縮率が高いために、バーナーの炎に晒された際にハロゲン含有繊維(A)が炭化する前に収縮し、良好な炭化膜を形成できなかった。なかでも比較例18,22,24では、内部構造物であるウレタンフォームに着炎し不合格となった。比較例19,20,21,23,25では内部構造物のウレタンフォームへの着炎は免れたが、バーナーの圧力により炭化膜に数箇所に小穴が生じ、実施例2,3,4,6,8に対して炎遮蔽性に大きく劣るものとなり不合格となった。
【0072】
(比較例26〜27)
ハロゲン含有繊維(A)、レーヨン繊維(B)に替えて珪酸含有レーヨン繊維であるサテリ(Sateri)社製のヴィジル(Visil)(繊度1.7dtex、カット長40mm)を使用し、これと、ポリエステル系低融点バインダー繊維(C)である東レ(株)製のサフメット(4.4dtex×51mm、溶融温度110℃)とが所定の割合となる不織布を用いて、難燃性評価試験用簡易マットレスの作成難燃性評価方法に従い簡易マットレスを作成し、難燃性評価方法に基づき難燃性評価を実施した。結果を前記実施例1〜8の結果とともに表5に示す。
【0073】
【表5】

【0074】
比較例26,27では実施例1〜8同様に良好な炭化膜は形成するものの、自己消火性能が全く不足しており、難燃性評価試験用簡易マットレスの上面を通過して側面側に炎が移動し、なおも消火しなかったために、表5に示す時間にて強制消火を行ったため、不合格であった。また、ヴィジル(Visil)を用いた際には、ハロゲン含有繊維(A)を用いた場合に比べて、ローラーカードにおいて糸切れが大量に発生し、繊維長数mm程度の細かい粉状に砕かれた繊維が発生し、これが飛散したり不織布に混入する、といった加工性の問題も確認された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
160℃における乾熱収縮率が5%以下であり、かつガラス成分を含有するハロゲン含有繊維(A)15重量部以上、セルロース系繊維(B)0〜85重量部、およびポリエステル系繊維(C)0〜40重量部の合計100重量部からなり、かつ、目付けが200g/m2以上である難燃性不織布。
【請求項2】
ハロゲン含有繊維(A)が、アクリロニトリル30〜70重量%、ハロゲン含有ビニルおよび/またはハロゲン含有ビニリデン単量体70〜30重量%、およびこれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10重量%からなるアクリル系重合体100重量部に対し、前記ガラス成分を4〜50重量部含有してなる請求項1記載の難燃性不織布。
【請求項3】
前記ガラス成分のガラス転移温度が、200〜400℃の範囲内である請求項1または2に記載の難燃性不織布。
【請求項4】
前記ガラス成分が、リン化合物および/または亜鉛化合物を含有してなる請求項1〜3のいずれかに記載の難燃性不織布。
【請求項5】
ハロゲン含有繊維(A)が、前記アクリル系重合体100重量部に対し、前記ガラス成分とガラス成分以外の無機系添加剤とを合計5〜50重量部含有してなる請求項1〜4のいずれかに記載の難燃性不織布。
【請求項6】
前記ガラス成分以外の無機系添加剤が、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸、オキシ塩化アンチモン等のアンチモン化合物、カオリン、ゼオライト、モンモリロナイト、タルク、ベントナイト、黒鉛等の天然もしくは合成鉱産物系化合物、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、ケイ酸アルミニウム等のアルミニウム系化合物、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム等のマグネシウム化合物、酸化亜鉛、ホウ酸亜鉛、炭酸亜鉛、スズ酸亜鉛等の亜鉛化合物、酸化第二スズ、メタスズ酸、オキシハロゲン化第一スズ、オキシハロゲン化第二スズ、水酸化第一スズ、四塩化スズ等のスズ化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項5記載の難燃性不織布。
【請求項7】
セルロース系繊維(B)が、木綿、麻、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、アセテートおよびトリアセテートよりなる群から選ばれた少なくとも1種の繊維であることを特徴とする請求項1記載の難燃性不織布。
【請求項8】
ポリエステル系繊維(C)が、低融点バインダー繊維であることを特徴とする請求項1記載の難燃性不織布。
【請求項9】
前記低融点バインダー繊維が、低融点ポリエステル単一成分よりなる繊維、通常のポリエステルと低融点ポリエステルの複合よりなる繊維、通常のポリエステルと低融点ポリオレフィンの複合よりなる繊維よりなる群から選ばれた少なくとも1つの繊維である請求項8記載の難燃性不織布。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の難燃性不織布を、内部構造物を覆う生地として用いた布張り家具製品。
【請求項11】
米国カリフォルニア州Technical Bulletin 603(以下TB603)燃焼試験において、内部構造物に着炎しないマットレスである請求項10記載の布張り家具製品。


【公開番号】特開2008−190048(P2008−190048A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−140781(P2005−140781)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】