説明

難燃性吸音断熱材

【課題】アクリル系合成繊維を酸化して得られた耐炎繊維を用いた不織布からなり、難燃性に優れ、しかも高密度で薄く、特に自動車のエンジン回りのボンネット裏、エンジン下、エンジンとキャビンとの間等に吸音、遮音および断熱を目的として配置するのに好適な難燃性吸音断熱材を提供する。
【解決手段】アクリル系合成繊維を酸化して得られた限界酸素指数(LOI)が50以上の耐炎繊維からなるフリース状繊維シートに、糸を用いないステッチボンドを施す。このステッチボンド不織布は、繊維シート中の一部の耐炎繊維が繊維シートを貫通して繊維シートの片面に経編のニードルループ列を形成し、他面に経編のシンカーループが埋没してフリース状の外観を呈する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、難燃性吸音断熱材に関し、特に自動車のエンジン回りのボンネット裏、エンジン下、エンジンとキャビンとの間等に吸音、遮音や断熱を目的として好適に配置される。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジン回りのボンネット裏等に配置するのに適した難燃性断熱材を製造する方法として、雲母粒子、全芳香族ポリアミド紙料およびアニオン系又はカチオン系高分子凝集剤を水中に分散させ、湿造によりシート化し、次いで乾燥、加熱、加圧して製造することが下記の特許文献1に記載されている。この方法で製造された断熱材は、雲母粒子を用いているため、難燃性のポリプロピレン繊維やポリエチレンテレフタレート繊維からなる不織布製の難燃性断熱材に比べて難燃性に優れ、かつ特定の高分子凝集剤を用いているため、使用中に雲母粒子の脱落することがない。しかしながら、上記の断熱材は、雲母粒子を用いて湿造するので、雲母粒子を必要とし、かつ工程が複雑になるという問題があった。
【特許文献1】特開平6−212593号公報
【0003】
また、下記の特許文献2には、単独または複数の繊維(例えば、ポリエステル繊維やポリオレフィン繊維)を混綿してからニードルパンチで一体化し、得られたフェルト材の片面または両面に難燃性樹脂層をコーティングした自動車用の吸音材が開示されている。この吸音材は、自動車のフェンダ部下面およびエンジンルーム内の騒音などの中・高音域において高い吸音性を有する反面、フェルト材の中間に上記のポリエステル繊維やポリオレフィン繊維からなる繊維の単独層が存在するので、高熱で溶融するなど、難燃性に問題があり、かつ工程が複雑になるという問題があった。
【特許文献2】特開2003−216161号公報
【0004】
他方、自動車用内装材料には安全上難燃性を有する素材の使用が決められており、その難燃性規格として米国の難燃性規格FMVSS.No302があり、広く用いられているが、最近は、自動車におけるエンジンルームの高温化、騒音の拡大、安全性に対する要望の高まりなどから難燃性に対する市場の要望がきわめて強くなり、上記のFMVSS.No302に合格するのみでは市場要求を満たすことが不可能になってきた。そこで、難燃性能やコンパクト性の向上を目的として、アクリル系合成繊維を酸化して得られる耐炎繊維の利用が試みられるようになったが、この耐炎繊維は、通常の合成繊維に比べて強度が低く、機械的処理によって破損し易いため、ニードルパンチ法で不織布を製造しようとしても、繊維が切断し、高密度で薄い不織布を製造することができなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は、アクリル系合成繊維を酸化して得られた耐炎繊維を用いた不織布からなり、難燃性に優れ、かつ比較的短い工程で容易に製造することができ、しかも高密度で薄く、特に自動車のエンジン回りのボンネット裏、エンジン下、エンジンとキャビンとの間等に吸音、遮音および断熱を目的として配置するのに好適な難燃性吸音断熱材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る難燃性吸音断熱材は、アクリル系合成繊維を酸化して得られた限界酸素指数(LOI)が50以上の耐炎繊維からなるフリース状繊維シートに、糸を用いないステッチボンドを施してなるステッチボンド不織布であり、上記繊維シート中の一部の耐炎繊維が上記繊維シートを貫通して繊維シートの片面に経編のニードルループ列を形成し、他面に経編のシンカーループが埋没してフリース状の外観を呈していることを特徴とする。
【0007】
上記の本発明に係る難燃性吸音断熱材は、LOIが50以上の耐炎繊維のみで形成されており、他の有機繊維が用いられていないので、耐炎性に優れている。しかも、ステッチボンド不織布であり、該不織布が片面のニードルループと他面のシンカーループとをつなぐ耐炎繊維の張力で厚さ方向に圧縮され、高密度化されている。したがって、厚みを薄くして狭いエンジンルームでの取付けを容易にすることができ、目付量を適宜に設定することにより、所望の難燃性と遮音性、吸音性を付与することができる。そして、ステッチボンド不織布であり、ニードルパンチ用のバーブ(突起)付きニードルでなく、経編用のパイプニードルやひげ針、べら針等の編み針を用いるので、繊維の損傷が大幅に減少し、かつ繊維間の絡みが規則的となり、繊維シートを確実に圧縮して不織布化することができる。
【0008】
この発明で用いる耐炎繊維は、限界温度指数(LOI)が50以上の耐炎繊維であり、このLOIが50未満では耐炎性が不足し、所望の難燃性が得られない。なお、上記の耐炎繊維は、アクリル系合成繊維を温度200〜300℃で加熱することによって製造することができ、市販品では東邦テナックス株式会社製「パイロメックス」が知られており、市販品の多くは、上記のLOIが50〜60であるから、容易に入手が可能である。また、上記の耐炎繊維は、ステープルの形で用いられるが、繊度は1〜3デニールが好ましく、繊維長は50〜100mmが好ましい。
【0009】
上記の耐炎繊維は、カードで開繊してウエブとし、これを複数枚重ねて所望の目付量のフリース状繊維シートに作られ、しかるのちステッチボンド加工を施すが、上記の目付量は、70〜180g/m2が好ましく、この目付量が70g/m2未満では、厚み斑で薄地となった部分では編み目形成が困難となり、反対に180g/m2を超えると、編み針等の機械部分に対する負担が過大になって編成が困難になる。なお、上記のステッチボンド加工により、フリース状繊維シートの厚さは、見かけ上100mm程度以上のものが1.0〜2.0mmとなる。
【発明の効果】
【0010】
この発明に係る難燃性吸音断熱材は、耐炎繊維からなるステッチボンド不織布であるから、耐炎繊維のみを用いながら、この耐炎繊維に損傷を与えることなく、フリースの圧縮された形の高密度で薄いシート状に形成される。したがって、目付量や密度の設定により難燃性および吸音性、遮音性を市場要求に合せることができ、例えば自動車のエンジン回りのボンネット裏、エンジン下、エンジンとキャビンとの間等に配置することが可能になる。特に、請求項2に係る発明は、目付量と厚さを限定したものであるから、難燃性、吸音性およびコンパクト性のバランスが良好であり、市場要求の特に厳しい自動車用の難燃性吸音断熱材として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
市販のアクリル系耐炎繊維(東邦テナックス株式会社製「パイロメックス」、LOI:50〜60、繊度:1〜3デニール、繊維長50〜100mm)をローラーカードに供給してカードウエブを製造し、得られた耐炎繊維ウエブをコンベアに積層して目付量70〜180g/m2のフリースとし、このフリースを無給糸方式のステッチボンド機(カールマイヤー社製マリフリース型)に供給し、上記のフリースをフリース自身の構成繊維で綴じて目付量70〜180g/m2、厚さ1.0〜2.0mmのステッチボンド不織布(通称「マリフリース」)を製造する。得られたステッチボンド不織布(マリフリース)を所望の大きさに裁断して自動車用難燃性吸音断熱材とし、これを自動車のエンジン回りのボンネット裏、エンジン下、エンジンとキャビンとの間等に取付ける。
【実施例】
【0012】
実施例1
市販のアクリル系耐炎繊維(東邦テナックス株式会社製「パイロメックス」、LOI:50〜60、繊度:2デニール、繊維長:51mm)を用いて目付量120g/m2のフリースを製造し、これを無給糸方式のステッチボンド機(カールマイヤー社製マリフリース型、18ゲージ、編み速度:800回/分、不織布生産速度:0.96m/分)に、フリースの繊維方向が機械方向と直交するように供給し、厚さ1.5mmのステッチボンド不織布(マリフリース)を製造した。なお、厚さは、直径25mmの円板形圧子に3Nの加重をかけて測定したときの厚さで、尾崎製作所製の測定器(型式K−4)を用いて測定した。
【0013】
上記実施例のステッチボンド不織布(マリフリース)から縦方向(機械方向)に長い試料と横方向(機械幅方向)に長い試料とを、それぞれ幅5cm、長さ35cmの大きさに5枚づつ切り取り、得られた縦方向試料および横方向試料の各5枚につき、難燃性(自消性)を自動車用難燃性規格FMVSS.No.302法で試験したところ、いずれも下端の炎に接する部分に若干の変色が認められるのみで、燃焼や溶融による欠損部分が皆無、すなわち燃焼距離が計測線(A標線)に達せず、合格であり、しかも上記のとおり欠損部が皆無で、最近の市場要求を十分に満たすものであった。
【0014】
比較例1
上記実施例1のアクリル系耐炎繊維からなる目付量120g/m2のフリースを用い、ニードルパンチ不織布を針密度100本/cm2で製造しようとしたが、耐炎繊維の切断が多くて、フリースの圧縮ができず、高密度の不織布が得られなかった。
【0015】
比較例2
市販の難燃性ポリエステル繊維からなる目付量50g/m2のスパンボンド不織布を用い、これを2枚重ねて針密度100本/cm2のニードルパンチを施し、得られたニードルパンチ不織布について、前記実施例1と同様に縦方向試料および横方向資料を5枚づつ作成し、前記同様の試験を行なったところ、いずれも自動車用難燃性規格FMVSS.No.302法で定める燃焼距離は計測線(A標線)に達せず、合格となったが、縦方向試料の試料1、試料2、試料3、試料4および試料5の下端にそれぞれ20×14mm、50×10mm、30×10mm、20×11mmおよび36×15mm、平均31×60mmの欠損部が生じ、また横方向試料の試料1、試料2、試料3、試料4および試料5の下端にそれぞれ20×14mm、20×9mm、20×7mm、20×5mmおよび20×8mm、平均20×9mmの欠損部が生じ、市場の要求を満たし得ないものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系合成繊維を酸化して得られた限界酸素指数(LOI)が50以上の耐炎繊維からなるフリース状繊維シートに、糸を用いないステッチボンドを施してなるステッチボンド不織布であり、上記繊維シート中の一部の耐炎繊維が上記繊維シートを貫通して繊維シートの片面に経編のニードルループ列を形成し、他面に経編のシンカーループが埋没してフリース状の外観を呈していることを特徴とする難燃性吸音断熱材。
【請求項2】
目付け量が70〜180g/m2、厚さが1.0〜2.0mmである請求項1に記載の難燃性吸音断熱材。


【公開番号】特開2006−195104(P2006−195104A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−5805(P2005−5805)
【出願日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(592162922)株式会社ユウホウ (5)
【Fターム(参考)】