説明

難燃性樹脂組成物及び樹脂シート、樹脂成形品

【課題】オレフィン系樹脂を主体とし、少ないポリアミド樹脂の混合で、長時間接炎に対する難燃性、真空成形性、耐衝撃性に優れた難燃性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】実質的にハロゲンを含まず、次の(A)(B)(C1)(D)成分を必須成分とする樹脂組成物で構成され、270℃における溶融張力が10〜40mNである。(A)成分:(A)成分の合計を100質量%として、プロピレン単独重合体10〜30質量%、エチレンプロピレンブロック共重合体30〜50質量%、高密度ポリエチレン20〜30質量%、低密度ポリエチレン5〜10質量%を含む樹脂組成物であり、その270℃における溶融張力が20〜50mNである樹脂組成物、(B)成分:270℃における剪断速度121s−1で測定した溶融粘度が300〜600Pa・sであるポリアミド樹脂、(C1)成分:リン酸塩系難燃剤、(D)成分:ポリプロピレン系ポリマーアロイ相溶化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼時における有害ガスの発生を抑え、かつ、耐衝撃性、真空成形性に優れた非ハロゲン系の難燃性樹脂組成物に関する。また、この難燃性樹脂組成物で構成された樹脂シート、樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オレフィン系樹脂の難燃化手段としては、リン酸塩系難燃剤を始めとして、ハロゲン系難燃剤、赤リンやポリリン酸アンモニウムに代表される無機リン系難燃剤、トリアリールリン酸エステル化合物に代表される有機リン系難燃剤、金属水酸化物や難燃助剤である酸化アンチモン、メラミン化合物を単独又は組み合わせて用いることが広く知られている。
【0003】
その中でも、環境保護の観点から、非ハロゲン系難燃性樹脂が求められており、リン酸塩系の難燃剤と組み合わせた難燃性樹脂組成物が提案されている。
例えば、特許文献1には、オレフィン系樹脂に対してリン酸塩系の難燃剤とシリコーン化合物および高級脂肪族カルボン酸塩を配合してなる、難燃性オレフィン系樹脂組成物が開示されている。
【0004】
一方、特許文献2には、ポリプロピレン系樹脂とポリアミド系樹脂および変性ポリプロピレンにリン系難燃剤を配合してなる樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−031129号公報
【特許文献2】特開平11−199721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された樹脂組成物は、優れた耐衝撃性、真空成形性を保持し、UL規格のような10秒程度の短時間の着炎では、V−0レベルの難燃性を示している。しかしながら、鉄道車両用材料の燃焼性規格に要求されるような90秒を超える長時間の着炎では、延焼が大きく、また、炎を取り去った後の残炎があり、鉄道車両用材料燃焼試験規格での難燃性樹脂のランクには到達できていないという問題がある。
【0007】
また、特許文献2に記載された樹脂組成物は、ポリプロピレン系重合体と、ポリアミド系樹脂の混合物にリン系難燃剤と変性ポリプロピレンを溶融混合することによる、ポリプロピレン系の難燃性樹脂組成物であり、難燃性と、優れた外観、耐水性および機械特性の向上を目的としたものであるが、長時間接炎に対する難燃性や機械的特性および本発明の目的のひとつである真空成形性については一切開示されていない。
【0008】
上記の点に鑑み、本発明の目的は、オレフィン系樹脂を主体とし、少ないポリアミド系樹脂の混合で、90秒を超える長時間の着炎でも難燃性に優れ、高い耐衝撃性を保持し真空成形性に優れた難燃性樹脂組成物を提供することである。また、この難燃性樹脂組成物で構成された樹脂シート、樹脂成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、燃焼時の樹脂の粘性挙動に着目し、鋭意検討を重ねた結果、延焼しにくい最適な樹脂組成と樹脂粘性範囲と難燃剤との組み合わせがあることを見出し、下記の構成を採用することにより、90秒を超える長時間の着炎でも難燃性に優れ、高い耐衝撃性を保持し、真空成形性に優れた難燃性樹脂組成物が得られるという本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明に係る難燃性樹脂組成物は、実質的にハロゲンを含まず、以下の(A)(B)(C1)(D)成分を必須成分とする樹脂組成物で構成され、270℃における溶融張力が10〜40mNであることを特徴とする(請求項1)。
(A)成分:(A)成分の合計を100質量%として、プロピレン単独重合体10〜30質量%、エチレンプロピレンブロック共重合体30〜50質量%、高密度ポリエチレン20〜30質量%、低密度ポリエチレン5〜10質量%を含む樹脂組成物であり、その270℃における溶融張力が20〜50mNである樹脂組成物
(B)成分:270℃における剪断速度121s−1で測定した溶融粘度が300〜600Pa・sであるポリアミド樹脂
(C1)成分:リン酸塩系難燃剤
(D)成分:ポリプロピレン系ポリマーアロイ相溶化剤
上記の発明において、好ましくは、さらに、(C2)成分:液状の縮合リン酸エステル系難燃剤を含み(請求項2)、(D)成分が、無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂である(請求項3)。
また、好ましくは、(A)(B)成分の合計を100質量%として、(A)成分70〜95質量%と(B)成分30〜5質量%からなる混合物100質量部に対して、(C1)成分20〜35質量部、(C2)成分0〜5質量部、(D)成分が5〜20質量部とする(請求項4)。
【0011】
本発明に係る樹脂シートは、上記の難燃性樹脂組成物で構成されることを特徴とする(請求項5)。また、本発明に係る樹脂成形品は、上記の難燃性樹脂組成物で構成されることを特徴とする(請求項6)。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る難燃性樹脂組成物は、オレフィン系樹脂組成物である(A)成分とポリアミド樹脂である(B)成分に、難燃剤である(C1)成分とオレフィン系ポリマーアロイ相溶化剤である(D)成分を必須成分とする。
そして、270℃における溶融張力を10〜40mNとすることにより、燃焼時に、樹脂表面に発生した炭化層の表面保持性を高めることができ、優れた難燃性を得ることができる。また、高い耐衝撃性、及び良好な真空成形性を有する樹脂組成物を得ることができる。
【0013】
(B)成分としてポリアミド樹脂を用いるが、一般的に、ポリアミド樹脂は融点(225℃〜250℃)以上の温度では、溶融張力が1mN以下に大きく低下するため、難燃性樹脂組成物の溶融張力を低化させる傾向がある。
本発明では、(B)成分として、270℃における剪断速度121s−1で測定した溶融粘度が300〜600Pa・sであるポリアミド樹脂を用いることにより、難燃性樹脂組成物の溶融張力の低下を少なく抑えることができる。その結果、燃焼時に、樹脂表面に炭化層を保持して酸素遮断の役目をすると同時に、リン酸塩系難燃剤から発生した気泡の保持力を高め、断熱膜を形成する。これにより、長時間炎が当たっても燃焼が抑制され、90秒を超える長時間の着炎でも、延焼が少なく、難燃性に優れた樹脂組成物を得ることができる。
【0014】
(A)成分として、270℃における溶融張力が20〜50mNであるオレフィン系樹脂組成物を用いることにより、上記の難燃性を向上させる効果を増大させるとともに、樹脂シートの真空成形性に優れ、射出成形品にも適用できる樹脂組成物を得ることができる。
【0015】
(C1)成分として、リン酸塩系難燃剤を用いることにより、燃焼時に発生するガスがハロゲン系の成分を含まない難燃性樹脂組成物を構成することが可能であり、燃焼後に有害ガスの発生を抑制することができる。
【0016】
(D)成分として、無水マレイン酸で変性され、非極性のオレフィン部分と、極性の無水マレイン酸の部分を有するオレフィンを混合することにより、(A)成分のオレフィン系樹脂組成物と(B)成分ポリアミド樹脂の相溶性を高め、ポリマーアロイ化による物性の低下を抑制することができる。また、難燃剤の分散剤としての効果を持ち、特別に分散剤を加えなくても、良好に難燃剤が分散した難燃性樹脂組成物を得ることができる。
【0017】
上記において、さらに、(C2)成分:液状の縮合リン酸エステル系難燃剤を併用した場合は、難燃性樹脂組成物を溶融混練しペレット状に製造する過程で、原料である樹脂ペレットと粉末状の難燃剤を混練するときに、粉末状難燃剤の飛散を防止し、作業環境を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係る難燃性樹脂組成物は、ベースとなるオレフィン系樹脂組成物である(A)成分とポリアミド樹脂である(B)成分に、難燃剤である(C1)成分、好ましくは、さらに(C2)成分と、相溶化剤である(D)成分を、インラインスクリュウタイプの押出機にて溶融混練した後、押出して得ることができる。
本発明に係る樹脂シートは、前記押出してペレット状にした材料を押出成形して製造することができる。また、前記押出してペレット状にした材料を射出成形して本発明に係る樹脂成形品を製造することができる。
【0019】
本発明では、難燃性樹脂組成物の270℃における溶融張力を10〜40mNとする。これにより、優れた難燃性と、高い耐衝撃性、及び良好な真空成形性を有する樹脂組成物を得ることができる。
【0020】
ここで、特許文献1(特開2010−031129号公報)には、230℃における溶融張力が25〜50mNである難燃性樹脂組成物が開示されている。しかしながら、前記の溶融張力は真空成形性を確保するために必要な特性であり、長時間接炎に対する難燃性については一切開示されていない。
本発明では、(B)成分としてポリアミド樹脂を用いており、その融点(225℃〜250℃)以上では急激に溶融張力が低下する。このため、ポリアミド樹脂を含む難燃性樹脂組成物では、230℃における溶融張力が25〜50mNであっても、必ずしも270℃における溶融張力が本発明の10〜40mNになるとは限らない。
【0021】
実測すると接炎部の燃焼面温度は270〜300℃であり、この温度で炭化層が生成されると推測される。そして、樹脂表面に生成した炭化層は酸素遮断の役目をすると同時に、リン酸塩系難燃剤から発生した気泡を保持し、断熱膜を形成する。この炭化層を樹脂表面に保持するためには一定以上の溶融張力が必要となる。樹脂表面での溶融張力が小さいと、この炭化層が流れ落ちてしまい、断熱と酸素供給遮断機能が得られなくなり、結果として、難燃性が低下する。本発明では、長時間接炎に対する難燃性を得るためには、270℃における溶融張力が重要な特性であり、10mN以上必要であることを見出したものである。なお、本発明で用いられる難燃性樹脂組成物では、実施例に示すように270℃における溶融張力が10〜40mNを確保した組成物は、230℃における溶融張力が25mN以上得られており、優れた真空成形性を有している。
【0022】
(A)成分のオレフィン系樹脂組成物は、(A)成分の合計を100質量%として、プロピレン単独重合体10〜30質量%、エチレンプロピレンブロック共重合体30〜50質量%、高密度ポリエチレン20〜30質量%、低密度ポリエチレン5〜10質量%を含む樹脂組成物である。そして、270℃における溶融張力が20〜50mNとなるような配合に調整する。
【0023】
なお、前記溶融張力は、例えば、分子量により調整することができ、一定以上の分子量の樹脂を選定する。ここで分子量の大きさはメルトフローレート(以下、MFRと略記する)が指標となる。分子量が大きくなるほど、メルトフローレートが小さくなるという関係にある。本発明に用いる(A)成分を構成する樹脂は、それぞれ190℃におけるメルトフローレートが1.0g/10min以下とすることが好ましい。このような樹脂を選定することで、(A)成分の270℃における溶融張力が20〜50mNである樹脂組成物を得ることができる。
【0024】
また、(A)成分:270℃における溶融張力が20〜50mNであるオレフィン系樹脂組成物と、(B)成分:270℃における剪断速度121s−1で測定した溶融粘度が300〜600Pa・sであるポリアミド樹脂を混合することにより、270℃における溶融張力が10〜40mNの難燃性樹脂組成物を得ることができる。
【0025】
(B)成分のポリアミド樹脂は、ナイロン6、ナイロン66等を使用することができ、これらを単独あるいは2種以上を混合して使用することができる。そして、270℃における剪断速度121s−1で測定した溶融粘度が300〜600Pa・sのものを使用する。溶融粘度が300Pa・s未満であると、難燃性樹脂組成物の溶融張力の低下が大きく、燃焼時に、リン酸塩系難燃剤から発生した気泡の保持力が小さく、難燃性が低下する。また、600Pa・sを超えると、オレフィン系樹脂組成物との混練が困難となる。
なお、ポリアミド樹脂の溶融粘度は、分子量の大きさにより調整することができる。
【0026】
ナイロン66は融点が240℃以上であり(C)成分の難燃剤の分解温度に近いため、溶融混合してペレットに押出加工するときに、難燃剤が一部分解する。このため、ナイロン66を溶融混合する場合には、一度、ナイロン66とオレフィン樹脂を溶融混練し、混合した樹脂の溶融温度を低下させた混合物に難燃剤を再度、溶融混練することが好ましい。ナイロン6を使用する場合は、1回の溶融混練で目的の樹脂組成物が製造できるため、ナイロン6を用いることが好ましい。
【0027】
上記(A)成分と(B)成分からなる混合物は、(A)成分70〜95質量%、(B)成分5〜30質量%とすることが好ましい。(B)成分が5質量%未満では、難燃性の向上効果は小さく、90秒を超える接炎に耐えられない。(B)成分の混合割合が大きくなるにしたがい難燃性向上効果は大きくなるが、30質量%を越えると、難燃性、耐衝撃性、真空成形性が低下する。
【0028】
(C1)成分のリン酸塩系難燃剤は、ポリリン酸アンモニウム化合物、リン酸アミン塩、ポリリン酸アミン塩等を使用することができる。例えば、ADEKA製アデカスタブ「FP2100」や「FP2200」、クラリアントジャパン製「AP750」等が挙げられる。
【0029】
(C2)成分の液状の縮合リン酸エステル系難燃剤は、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、1,3フェニレンビス(ジキシレニル)ホスフェート等を使用することができる。例えば、ADEKA製アデカスタブ「FP600」、味の素ファインテクノ製レオフォス「BAPP」等が挙げられる。
【0030】
なお、(C1)成分と(C2)成分とを併用することが好ましい。一般的に、原料である樹脂ペレットを粉末状フィラとともに溶融混練するときは、樹脂ペレットの表面に粉末状フィラを付着させる目的で、流動パラフィンなどの液状のものを添加することが行われている。しかし、流動パラフィンは、溶融混練後の樹脂組成物の難燃性を阻害する。一方、縮合リン酸エステル系難燃剤は液状であるため、樹脂ペレットの表面に粉末状のリン酸塩系難燃剤を付着させることができ、しかも、溶融混練後の樹脂組成物の難燃性を阻害することもない。
【0031】
(C1)成分及び(C2)成分の配合量は、(A)成分と(B)成分からなる混合物100質量部に対して、(C1)成分20〜35質量部、(C2)成分0〜5質量部であることが好ましい。(C1)成分を上記の範囲とすることにより、難燃性及び樹脂シートの物性、特に耐衝撃性や引張り伸びを十分に確保することができる。また、(C2)成分はオレフィン系樹脂との相溶性が悪いため、5質量部を超えて配合すると耐衝撃性が低下する。(C2)成分を上記の範囲とすることにより、縮合リン酸エステル系難燃剤とオレフィン系樹脂とを十分に相溶させることができ、耐衝撃性を十分に確保することができる。
【0032】
相溶化剤である(D)成分は、(A)〜(C)成分を溶融混練するときに、(A)成分と(B)成分を相溶させ均一なものとするための助剤であり、また、(A)成分と(B)成分の樹脂に難燃剤である(C1)成分と(C2)成分の均一分散性を向上させる作用をも発揮する。相溶化剤としては、オレフィン系樹脂と熱可塑性ポリエステル樹脂との相溶化を促進するものであればよいが、なかでも、無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂が、樹脂の相溶化剤と難燃剤の分散性向上効果が高い。無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂としては、例えば、三洋化成製「ユーメックス1001」が挙げられる。
【0033】
(D)成分の配合量は、(A)成分と(B)成分からなる混合物100質量部に対して、(D)成分5〜20質量部が好ましい。(D)成分を上記の範囲とすることにより、(A)成分と(B)成分とを十分に相溶させることができ、(C)成分を十分に分散させることができる。また、材料をコンパウンド押出しでペレタイズするときのコンパウンド作業性も良好である。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明を詳細に示す。ただし、本発明は以下の実施例により何ら制限されるものではない。
実施例に使用する材料は以下の通りである。
(A)成分として、
(a)プロピレン単独重合体:住友化学工業製「ノーブレンFH1016」(270℃における溶融張力:12mN、MFR=0.5g/10min)
(b)エチレンプロピレン共重合体:日本ポリプロ製「ノバテックPP EC9」(270℃における溶融張力:25mN、MFR=0.5g/10min)
(c)高密度ポリエチレン:日本ポリエチレン製「ノバテックHD HY434」(270℃における溶融張力:35mN、MFR=0.55g/10min)
(d)低密度ポリエチレン:住友化学工業製「スミカセンF102−0」(270℃における溶融張力:45mN、MFR=0.4g/10min)
(B)成分として、
(e)ナイロン6:270℃における剪断速度121s−1で測定した溶融粘度350Pa・s
(f)ナイロン6:270℃における剪断速度121s−1で測定した溶融粘度115Pa・s
(g)ナイロン66:270℃における剪断速度121s−1で測定した溶融粘度590Pa・s
(C1)成分として、
(h)リン酸塩系難燃剤:ADEKA製「FP2200」
(C2)成分として、
(i)縮合リン酸エステル系難燃剤:ADEKA製「FP600」
(D)成分として、
(j)無水マレイン酸変性PP:三洋化成製「ユーメックス1001」
実施例1〜9
各例毎にそれぞれ表1〜3に示す樹脂組成物を2軸押出し機で押出しペレット化し、射出成形による2.5mm厚の射出成形板と押出成形による厚さ2mmの樹脂シートを作製した。
なお、(A)成分のオレフィン系樹脂組成物は、プロピレン単独重合体26質量%、エチレンプロピレンブロック共重合体41〜40質量%、高密度ポリエチレン26質量%、低密度ポリエチレン7〜8質量%を含む樹脂組成物である。
【0035】
比較例1〜5
各例毎にそれぞれ表4〜5に示す樹脂組成物を2軸押出し機で押出しペレット化し、射出成形による2.5mm厚の射出成形板と押出成形による厚さ2mmの樹脂シートを作製した。
【0036】
上記実施例および比較例について、難燃性および真空成形性、耐衝撃性を評価した。その結果を表1〜5に併せて示した。なお、表中において、上記材料(a)〜(g)は、(A)成分:オレフィン系樹脂組成物と(B)成分:ポリアミド樹脂からなる混合物を100質量%とした配合量(質量%)で、また、上記材料(h)〜(j)は、(A)成分と(B)成分からなる混合物100質量部に対する配合量(質量部)で、それぞれ記載している。
【0037】
また、表中に示した各特性は、次のようにして評価した。
(1)溶融張力:キャピラリーレオメーター(東洋精機製「キャピログラフIB」)を使用し、所定温度で加熱溶融した樹脂を、長さ10mm、内径1mmのキャピラリーを通して押出す。このときのシリンダ径9.9mmでピストン押出速度は10mm/分である。押出された溶融樹脂フィラメントを、テンションプーリを介して引取りロールで巻き取る。このときの引張速度は3.15m/分である。そして、テンションプーリにかかる力を溶融張力として測定する。なお、測定温度は、230℃及び270℃で実施した。
(2)溶融粘度:キャピログラフ(ノズル径:1.0mm、ノズル長:10mm)を使用し、温度270℃、剪断速度121s−1の条件で測定した。
(3)メルトフローレート:島津製作所製「フローテスタCFT−500T」を使用し、JIS−K7210に準拠して測定した。このとき、ダイ長さ8.0mm、ダイ内径2.0mm、荷重2.16kg、測定温度は190℃にて行った。
(4)難燃性:鉄道車両用材料の燃焼性試験方法である、0.5ccのアルコール燃焼(燃焼時間約90秒)の方法の代替方法として、厚み2.5mm、幅50mm、長さ60mmの射出成形試験片を用い、試験片を水平に対し45°傾斜させて固定した。そして、燃焼ガスとして標準ガスを用い、口径9.8mmのバーナで炎長が30mm〜40mmの火炎をその試験片の中央に当て、炎により試験片に10mm程度の貫通孔が発生するまでの時間(穴あき時間)と、火炎を除去した後に残炎が消えるまでの時間(残炎時間)を測定した。この方法で穴あき時間が90秒以上で、残炎無しであれば、鉄道車両用材料の燃焼性規格の難燃性ランクに相当するものとした。
(5)ドローダウン性:真空成形機(布施真空製「CUPF−1013−PWB」)を使用し、真空成形機のクランプ(大きさ:1000mm×800mm)に、厚み2mmの樹脂シートをセットし、加熱後のクランプ中央部の樹脂シートの垂下がり量を測定した。このとき、加熱条件は、ヒータ温度上下360℃、加熱時間90秒とした。
(6)真空成形後型形状再現性:真空成形機(布施真空製「CUPF−1013−PWB」)を使用し、凸型成形品(形状:縦幅800mm×横幅600mm×高さ150mm)を成形したときの型形状再現性、コーナ再現性、皺発生の有無、変形、ゆがみの大きさについて、目視により成形性の良否を判断した。このとき、成形前の樹脂シートは1000mm×1000mm×厚み2mmである。なお、評価は下記により行なった。
【0038】
◎:外観の異常、ゆがみ変形なく良好,○:型形状再現性は良好も天面にゆがみ発生,△:皺、変形発生,×:成形不可
(7)耐衝撃性:厚さ3.0mm×幅12.7mm×長さ64.5mmの射出成形試験片を用い、JIS−K7110に準拠した、ノッチなしアイゾット衝撃試験法により評価した。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
【表4】

【0043】
【表5】

【0044】
実施例1〜9に示すように、本発明に係る難燃性樹脂組成物は、オレフィン系樹脂組成物である(A)成分とポリアミド樹脂である(B)成分に、難燃剤である(C1)成分とオレフィン系ポリマーアロイ相溶化剤である(D)成分を必須成分とし、(A)成分及び(B)成分の270℃における粘度特性を特定することにより、長時間接炎に対する難燃性、真空成形性、耐衝撃性を満足し、バランスのとれた性能が得られることが理解できる。
【0045】
一方、比較例1は、オレフィン系ポリマーアロイ相溶化剤である(D)成分を含んでいないため、耐衝撃性が大きく低下している。また、比較例2は、ポリアミド樹脂である(B)成分を含んでいないため、難燃性が低下している。
【0046】
比較例3は、ポリアミド樹脂である(B)成分を含む場合であっても、難燃性樹脂組成物の270℃における溶融張力が低いため、難燃性が低下している。これは、長時間接炎に対する難燃性の確保には、ポリアミド樹脂を含むことと、難燃性樹脂組成物の270℃における溶融張力が高いことが不可欠であることを示している。
【0047】
また、比較例4は、ポリアミド樹脂である(B)成分を含む場合であっても、ポリアミド樹脂の270℃における溶融粘度が低いため、難燃性及び耐衝撃性が低下している。これは、270℃において一定以上の溶融粘度を有するポリアミド樹脂が必要であることを示している。
【0048】
比較例5は、ポリアミド樹脂である(B)成分の配合量が多い場合には、難燃性樹脂組成物の270℃における溶融張力が低くなるため、難燃性、真空成形性、耐衝撃性が低下している。
【0049】
以上のことから判るように、オレフィン系樹脂組成物とポリアミド樹脂からなる混合物に、リン酸塩系難燃剤(好ましくは、さらに縮合リン酸エステル系難燃剤)と、オレフィン系ポリマーアロイ相溶化剤を組み合わせ、溶融混合した樹脂組成物とすることにより、従来困難であった非ハロゲン系難燃性オレフィン系樹脂で、長時間接炎に対する難燃性、真空成形性、耐衝撃性のバランスの取れた難燃性樹脂組成物を提供することが可能となる。これにより、車両内装品、医療機器部品などの工業部品に適用でき、本発明の工業的価値はきわめて大なるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的にハロゲンを含まず、以下の(A)(B)(C1)(D)成分を必須成分とする樹脂組成物で構成され、270℃における溶融張力が10〜40mNであることを特徴とする難燃性樹脂組成物。
(A)成分:(A)成分の合計を100質量%として、プロピレン単独重合体10〜30質量%、エチレンプロピレンブロック共重合体30〜50質量%、高密度ポリエチレン20〜30質量%、低密度ポリエチレン5〜10質量%を含む樹脂組成物であり、その270℃における溶融張力が20〜50mNである樹脂組成物
(B)成分:270℃における剪断速度121s−1で測定した溶融粘度が300〜600Pa・sであるポリアミド樹脂
(C1)成分:リン酸塩系難燃剤
(D)成分:ポリプロピレン系ポリマーアロイ相溶化剤
【請求項2】
さらに、(C2)成分:液状の縮合リン酸エステル系難燃剤を含む請求項1記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
(D)成分が、無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂である請求項1又は2記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
(A)成分70〜95質量%と(B)成分5〜30質量%からなる混合物100質量部に対して、(C1)成分20〜35質量部、(C2)成分0〜5質量部、(D)成分5〜20質量部である請求項1〜3のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物で構成された樹脂シート。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物で構成された樹脂成形品。

【公開番号】特開2012−144671(P2012−144671A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−5630(P2011−5630)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】