説明

難燃性樹脂組成物

【課題】 従来の難燃性樹脂組成物は、有害ガスの発生や有害物が溶出するという欠点があり、安全で低環境負荷で、かつ機械的強度にも優れた難燃性樹脂組成物が求められている。
【解決手段】 芳香環を含有する非シリコーン樹脂(A)と、式R2 SiO1.0で示される単位と式RSiO1.5 で示される単位を持ち、重量平均分子量が10,000以上270,000以下であり、かつ、前記Rが炭化水素基であるシリコーン樹脂(B)とを含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は難燃性樹脂組成物、特に芳香環を含有する非シリコーン樹脂組成物に耐燃性を付与するシリコーン樹脂に関するものである。
【0002】
【従来の技術】難燃性樹脂組成物は、例えば電気・電子機器部品、建材、自動車部品、日用品等の製品に広く使われている。これらの樹脂組成物には一般的に、部品や製品を構成する母材樹脂成分に、有機ハロゲン化合物、またはこれと三酸化アンチモンとを添加することにより耐燃性が付与されている。しかし、これらの難燃性樹脂組成物は燃焼時に有害なハロゲン系ガスを発生するという欠点があった。
【0003】これに対して、母材樹脂成分にシリコーンを添加することにより、燃焼時に有害なガスを発生させずに耐燃性を付与できることが知られている。
【0004】シリコーン(オルガノポリシロキサン)は、以下に示す4つの単位(M単位、D単位、T単位、Q単位)の少なくともいずれかから構成され、この中で、シリコーン樹脂はT単位、Q単位の少なくともいずれかを含むものを一般的に指す。
【0005】
【化1】


【0006】特開平1−318069号公報、特開平2−150436号公報には、一般的なシリコーンを用いた耐焔剤、難燃性樹脂組成物が記載され、特公昭62−60421号公報、特公平3−48947号公報には、特定の単位を多く含有するシリコーン樹脂、もしくは特定の単位のみからなるシリコーン樹脂など特殊な構造のシリコーンを用いた難燃剤が開示されている。以下に各従来技術を説明する。
【0007】特開平1−318069号公報には、上記4単位全てから構成されアルコキシ基又は水酸基を有するシリコーン樹脂(Rx Si(OR’)y (4-x-y)/2)と、熱可塑性重合体からなる粉末状重合体混合物が、熱可塑性材料を耐燃化すると記載されている。
【0008】特開平2−150436号公報には、ジメチルシリコーンのような通常よく使用される一般的なシリコーン粉末と、金属水酸化物と、亜鉛化合物の混合物が、熱可塑性樹脂を耐燃化すると記載されている。
【0009】特公昭62−60421号公報には、式RSiO1.5 で示されるT単位を80重量%以上含むポリシロキサン樹脂が、熱可塑性非シリコーンポリマーを難燃化し、特にポリシロキサン樹脂の分子量が2,000以上6,000以下で、式中のRがモル比で80%以下がフェニル基で残りがメチル基であることがポリマー組成物の耐燃化には好ましいと記載されている。
【0010】特公平3−48947号公報には、シリコーン樹脂、特に平均式R3 SiO0.5 で示される単位(M単位)と平均式SiO2 で示される単位(Q単位)からなるMQシリコーン樹脂と、シリコーン及び第IIA族金属塩が熱可塑性プラスチックを耐燃化すると記載されている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、特開平1−318069号公報及び特開平2−150436号に示した一般的なシリコーン樹脂単独では耐燃化が不十分なため、現実には特開平1−318069号公報の実施例に記載のようにハロゲン系化合物やリン系化合物、特開平2−150436号公報では金属水酸化物のような無機充填剤など公知の難燃剤を併用して添加する必要があった。
【0012】また、特公昭62−60421号公報及び特公平3−48947号公報に記載の特殊な構造のシリコーン樹脂は、単独では上記一般的なシリコーン樹脂のものよりも耐燃効果が認められるものの、まだその効果が不十分であり、このため添加量を多くする必要があった。特公昭62−60421号公報では、非シリコーン樹脂100重量部に対して、シリコーン樹脂を10重量部〜300重量部添加することにより耐燃化がなされ、特に好ましくはシリコーン樹脂を20重量部以上100重量部以下としている。しかしながら、シリコーン樹脂の添加量を多くすると、樹脂組成物の成形性や機械的強度等の諸物性が大幅に低下してしまうという課題があった。
【0013】よって、ハロゲン系化合物やリン系化合物、金属水酸化物等の難燃剤を含まずとも、また少ないシリコーン樹脂の添加量でも難燃効果が大きく、かつ樹脂組成物の成形性や機械的強度にも優れた難燃性樹脂組成物が求められている。
【0014】本発明は、前記の事情を考慮してなされたもので、その目的とするところは、上記課題を解決し、火災発生時や焼却処分時に有害ガスを発生させず、安全で環境負荷の少ない難燃性樹脂組成物を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】本発明は、特定の構造及び分子量を持つシリコーン樹脂と、芳香環を有する非シリコーン樹脂とからなる難燃性樹脂組成物により、上記課題を解決するものである。
【0016】本発明の難燃性樹脂組成物は、芳香環を含有する非シリコーン樹脂(A)及び、式R2 SiO1.0 で示される単位と式RSiO1.5 で示される単位を持つシリコーン樹脂(B)を有し、前記シリコーン樹脂(B)の重量平均分子量が10,000以上270,000以下であり、かつ、前記Rが炭化水素基であることを特徴とする。
【0017】本発明で使用する芳香環を含有する非シリコーン樹脂(A)の芳香環とは、ベンゼン環、縮合ベンゼン環、非ベンゼン系芳香環、複素芳香環など芳香族に属する環の総称を指す。縮合ベンゼン環の例としてナフタレン環、複素芳香環の例としてピロール環を下記に示す。
【0018】
【化2】


【0019】芳香環を含有する非シリコーン樹脂(A)としては、例えば芳香族系ポリカーボネート樹脂、芳香族系ポリカーボネートのアロイ、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレンの共重合体(以下ABS)、ポリスチレン樹脂などの芳香環を含有する熱可塑性樹脂や、芳香環を含有するエポキシ樹脂、フェノール樹脂などの芳香環を含有する熱硬化性樹脂などが単独あるいは複数種混合して使用でき、なかでも芳香族系ポリカーボネート樹脂及び、芳香族系ポリカーボネート樹脂のアロイが耐燃化には好ましい。
【0020】本発明で使用するシリコーン樹脂(B)は、式R2 SiO1.0 で示される単位(D単位)と式RSiO1.5 で示される単位(T単位)を持ち、各Rはそれぞれ飽和又は芳香環の炭化水素基からなる群から選んだ基であり、シリコーン樹脂(B)の重量平均分子量は10,000以上から270,000以下のものである。
【0021】シリコーン樹脂(B)の分子量(重量平均分子量)は、10,000未満であると粘度が低すぎて、母材樹脂である非シリコーン樹脂(A)との混練が困難でかつ成形性も悪い。さらに、難燃効果、特に燃焼時の樹脂組成物の耐ドリップ(樹脂の溶融による滴下)性が低下する。また、シリコーン樹脂(B)の分子量が大きすぎる場合は、溶融粘度が高くなりすぎて、母材の非シリコーン樹脂(A)との混練性や成形性が低下する。さらに、成形時や燃焼時での非シリコーン樹脂表面へのシリコーン樹脂の移行性が低下してしまい、樹脂表面での耐炎皮膜の形成性が低下するため、難燃効果も低下する。特に270,000を超えると、この難燃効果は大幅に低下する。
【0022】また、本発明で使用するシリコーン樹脂(B)を構成するR2 SiO1.0 単位に対して、RSiO1.5 単位は、好ましくはモル比で0.5倍以上7倍未満がよい。式RSiO1.5 で示される単位が式R2 SiO1.0 で示される単位に対して0.5倍未満であると、シリコーン樹脂がオイル状になりやすいため、非シリコーン樹脂との混練が困難になり成形性も低下する。さらに、シリコーン樹脂自体の耐熱性が低下するため、非シリコーン樹脂への難燃効果が低くなりドリップも起こりやすくなる。また、式RSiO1.5 で示される単位が式R2 SiO1.0 で示される単位に対して7倍以上であると、立体障害により非シリコーン樹脂への分散が悪くなり、また耐炎皮膜中でのシリコーン樹脂中のフェニル基同士の縮合も起こりにくくなり、シリコーン樹脂自体の耐炎性が低下する。このため、非シリコーン樹脂に対しての難燃効果が低下する。
【0023】シリコーン樹脂(B)のR2 SiO1.0 単位とRSiO1.5 単位のRとしては、メチル基とフェニル基であり、さらに好ましくはフェニル基の割合がモル比で40%以上80%未満で、残りがメチル基である。フェニル基の割合がモル比で40%未満であると、芳香環を含有する非シリコーン樹脂との相溶性が低下するため、混練性が低下する。さらに、シリコーン自体の耐炎性が低下するために、非シリコーン樹脂への難燃効果も低くなる。一方、フェニル基の割合がモル比で80%以上であると、芳香環を含有する非シリコーン樹脂との相溶性が高くなりすぎるため、非シリコーン樹脂の成形時や燃焼時での、非シリコーン樹脂表面へのシリコーン樹脂の移行性が低下してしまい、樹脂表面での耐炎皮膜を形成しににくなるため、難燃効果が低下する。さらに、シリコーン樹脂中のフェニル基同士の立体障害により、耐炎皮膜中でのフェニル基同士の効率的な縮合が起こりにくくなり、皮膜の耐炎性が低下する。
【0024】また、シリコーン樹脂(B)は、式R2 SiO1.0 で示される単位(D単位)と式RSiO1.5 で示される単位(T単位)に加えて、末端基が式R’3 SiO0.5 で示される単位(M単位)から構成されるのが耐燃化には好ましい。式中のR’は飽和炭化水素基及び/または芳香族炭化水素基、または飽和炭化水素基及び/または芳香族炭化水素基と水酸基及び/またはアルコキシ基の混合系が良く、特に好ましくは、水酸基及び/またはアルコキシ基がモル比で10%未満であり、残りがメチル基及び/またはフェニル基である。水酸基及び/またはアルコキシ基の割合が10%以上であると、非シリコーン樹脂との混練の際に、シリコーン樹脂の自己縮合が起こりやすくなり、その結果、非シリコーン樹脂中でのシリコーン樹脂の分散性や、樹脂組成物の成形時や燃焼時での非シリコーン樹脂表面へのシリコーン樹脂の移行性が低下してしまい、そのために難燃効果が低下する。
【0025】本発明で使用するシリコーン樹脂(B)は、非シリコーン樹脂(A)成分100重量部に対して0.1重量部以上30重量部以下が好ましい。これらの配合が上記で示した範囲未満であると上記範囲に比べて耐燃効果が低下し、この範囲を越えると上記範囲に比べて成形体の機械的強度が低下するためである。
【0026】本願発明で使用するシリコーン樹脂(B)は、単独で非シリコーン樹脂(A)と混練してもよいし、複数種類のシリコーン樹脂(B)を混合して非シリコーン樹脂と混練して使用しても良い。非シリコーン樹脂(A)についても同様に単独もしくは複数種の非シリコーン樹脂を混合して使用できる。
【0027】さらに、必要に応じて補強剤を、本発明の難燃性樹脂組成物に添加することができる。補強剤として、酸化防止剤、中和剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、顔料、分散剤、滑剤、増粘剤、充填剤、炭化促進触媒、ドリップ防止剤など、必要に応じて樹脂組成物に配合されるものは配合することができる。
【0028】特に充填剤として、本発明で使用するシリコーン樹脂(B)に対して、シリカ粉、炭酸カルシウム粉、タルク粉などの無機充填剤、特にシリカ粉と併用することにより、芳香環を含有する非シリコーン樹脂(A)との混練性を向上させることが可能である。その際の難燃性は良好に保持できる。無機充填剤の添加量は、シリコーン樹脂(B)に対して重量比で0.1倍以上が好ましい。
【0029】
【発明の実施の形態】次に、本発明の難燃性樹脂組成物からなる難燃性樹脂の製造方法の一実施の形態を説明する。
【0030】芳香環を含有する非シリコーン樹脂成分(A)としては、例えば芳香族系ポリカーボネート樹脂、芳香族系ポリカーボネートのアロイ、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレンの共重合体(以下ABS)、ポリスチレン樹脂などの芳香環を含有する熱可塑性樹脂や、芳香環を含有するエポキシ樹脂、フェノール樹脂などの芳香環を含有する熱硬化性樹脂などを単独あるいは複数種混合して使用する。
【0031】シリコーン樹脂成分(B)は、シリコーン樹脂の一般的な製造方法に従って製造される。すなわち、シリコーン樹脂成分(B)の分子量及びシリコーン樹脂(B)を構成する式R2 SiO1.0 で示される単位(D単位)と式RSiO1.5で示される単位(T単位)の割合に応じて、適量のジオルガノジクロロシランとモノオルガノトリクロロシランを加水分解して部分的に縮合したシリコーン樹脂を形成し、さらにトリオルガノクロロシランと反応させることによって、シリコーン樹脂(B)の架橋末端基をR’3 SiO0.5 単位として重合を終了させる。
【0032】本発明で使用するシリコーン樹脂成分(B)は、分子量(重量平均分子量)、式R2 SiO1.0 で示される単位(D単位)と式RSiO1.5 で示される単位(T単位)の割合、Rのフェニル基とメチル基の割合などで特徴づけられる。分子量の測定は、一般の高分子と同様にゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で行うことができる。本発明で使用されるシリコーン樹脂の構造式(一般式)を示す。
【0033】
【化3】


【0034】本発明で使用するシリコーン樹脂成分(B)の分子量は、10,000以上270,000以下であり、分子量の制御は、シリコーン樹脂製造時の反応時間の制御によって行う。
【0035】シリコーン樹脂成分中の式R2 SiO1.0 で示される単位(D単位)と式RSiO1.5 で示される単位(T単位)の割合は、シリコーン樹脂製造時のジオルガノジクロロシランとモノオルガノトリクロロシランの使用量により調整することができる。なお、シリコーン樹脂製造原料中の塩素は、加水分解反応時に塩酸となり液々抽出によって除かれるので、シリコーン樹脂成分中には含有されない。本発明では、R2 SiO1.0 単位(D単位)とRSiO1.5 単位(T単位)の両方を有し、好ましくはシリコーン樹脂(B)を構成するR2 SiO1.0単位に対して、RSiO1.5 単位はモル比で0.5倍以上7倍未満がよい。
【0036】また、シリコーン樹脂成分のRのメチル基とフェニル基の割合は、シリコーン樹脂製造時の、ジメチルジクロロシラン、モノメチルトリクロロシランなどのメチルシラン系原料と、ジフェニルジクロロシランやモノフェニルトリクロロシランの使用量によって調整する。
【0037】芳香環を有する非シリコーン樹脂成分(A)と、シリコーン樹脂成分(B)の各成分はそれぞれ計量混合され、従来のプラスチック形成の場合と同様の装置、方法により形成される。すなわち、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー等の混合攪拌機を用いてA,B各成分の原料を十分混合分散させた後、バンバリロール、押出機等の溶融混練機によって非シリコーン樹脂成分(A)とシリコーン樹脂成分(B)とを混練し目的物を得る。ただし、常温で固形でないシリコーン樹脂(B)の場合は、直接溶融混練機で非シリコーン樹脂(A)と混練することもできる。
【0038】混練後、例えば射出成形法、押出し成形法、圧縮成形法、真空成形法などの成形方法により、所望の形に成形し、難燃性樹脂成形体を得ることができる。
【0039】成形後、JIS K7201(酸素指数法による高分子材料の燃焼試験方法)に準拠して難燃性の評価を行った。酸素指数法による高分子材料の燃焼試験方法とは、所定の大きさの試験片の燃焼時間が3分以上継続して燃焼するか、又は着炎後の燃焼長さが50mm以上燃え続けるのに必要な最低の酸素流量とその時の窒素流量を決定する方法であり、上記方法で求めた最低酸素濃度(容量パーセント)の数値を酸素指数という。酸素指数値が高いほど耐燃性がよい評価となる。
【0040】本発明のように、芳香環を含有する非シリコーン樹脂(A)に、式R2 SiO1.0 で示される単位(D単位)と式RSiO1.5 で示される単位(T単位)の両方を持ち重量平均分子量が10,000以上270,000以下であり、かつRが炭化水素基であるシリコーン樹脂(B)を含有させると、燃焼時に有害ガスを発生させずに、従来よりも少ないシリコーン樹脂添加量で樹脂の耐燃化を達成することができる。
【0041】次に、本発明の実施例及びその燃焼試験結果を示す。
【0042】
【実施例】まず、上述のシリコーン樹脂製造方法に従い、シリコーン樹脂の分子量(重量平均分子量)、式R2 SiO1.0 で示される単位(D単位)と式RSiO1.5で示される単位(T単位)の割合、及びシリコーン樹脂中のRのフェニル基とメチル基の割合が異なる37種類のシリコーン樹脂1〜37を合成した。
【0043】各シリコーン樹脂1〜37の分子量と、D単位とT単位の割合、及びシリコーン樹脂の炭化水素基R中のフェニル基とメチル基の割合(モル比)を表1に示す。表1に記載のシリコーン樹脂の末端は、過剰量のトリメチルクロロシランを使用して封鎖されている。
【0044】
【表1】


【0045】本発明の難燃性樹脂組成物に使用するシリコーン樹脂成分(B)は、その重量平均分子量が10,000以上270,000以下であり、式R2 SiO1.0単位(D単位)と式RSiO1.5 単位(T単位)の両方を有し、かつ前記Rが炭化水素基である。従って、本発明で使用することができるシリコーン樹脂成分は、表1のシリコーン樹脂6〜13、19〜27及び32〜37であり、シリコーン樹脂1〜5、14〜18及び28〜31は、比較例で使用するシリコーン樹脂である。
【0046】尚、シリコーン樹脂14は、分子量が大きく、T単位よりD単位の割合が高く溶融粘度が高すぎるため、非シリコーン樹脂(ポリカーボネート樹脂)との混練成形ができなかったものである。
【0047】非シリコーン樹脂(A)としてビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂(住友ダウ製 カリバー301−10)、あるいはビスフェノールA型ポリカーボネートとABSのアロイ(住友ダウ製 H−270、以下PC/ABS)、あるいはポリスチレン樹脂(新日鐵化学製 H−65)を用い、上記各シリコーン樹脂(B)と非シリコーン樹脂(A)とを石臼式の押出し機で溶融混練した。その時の混練温度は、ポリカーボネート樹脂で280℃(270℃〜290℃が好ましい。)、PC/ABSで260℃(250℃〜270℃が好ましい。)、ポリスチレン樹脂で220℃(210℃〜230℃が好ましい。)である。
【0048】なお、シリコーン樹脂(6、9、11)は、上記ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂とシリカ粉A(電気化学工業製 FB−48:平均粒径16μm)あるいはシリカ粉B(日本アエロジル製 AEROSIL130:平均粒径16nm)併用系についても、石臼式の押出し機で溶融混練した。その時の混練温度は280℃である。
【0049】溶融混練された樹脂組成物を120℃で3時間乾燥後、圧縮成形法により厚さ3.0mmの平板を成形した。成形温度は、ポリカーボネート系で270℃、PC/ABS系で240℃、ポリスチレン系で200℃であり、成形時間は1分間である。
【0050】成形された平板を長さ150mm、幅6.5±0.5mmの試験片に加工して、JIS K7201(酸素指数法による高分子材料の燃焼試験方法)により難燃性の評価を行い、酸素指数を求めた。
【0051】表2〜表10及び図1〜図2に、各樹脂組成物の非シリコーン樹脂(A)100重量部に対するシリコーン樹脂(B)の配合量と、各樹脂組成物の酸素指数の結果を示す。
【0052】表11〜表12に、各樹脂組成物の非シリコーン樹脂(A)100重量部に対するシリコーン樹脂(B)とシリカ粉の配合量と、各樹脂組成物の混練性の結果を示す。
【0053】表2には本願発明の実施例による結果を、表3にはシリコーン樹脂を添加しない場合、および重量平均分子量が10,000未満か、もしくはD単位またはT単位のいずれかを持たないシリコーン樹脂を使用した場合の比較例による結果を示す。
【0054】
【表2】


【0055】
【表3】


【0056】表2の実施例1〜3と、表3の比較例1〜7に記載のように、実施例の式R2SiO1.0 で示される単位(D単位)と式RSiO1.5 で示される単位(T単位)の両方を持ち、かつその重量平均分子量が10,000以上270,000以下であり、かつRがメチル基とフェニル基であるシリコーン樹脂(6〜8)を含有するポリカーボネート樹脂組成物は、比較例のこれらの特徴を持たないシリコーン樹脂(1〜5)を含有するもの(比較例2〜7)、及びシリコーン樹脂を含有しないもの(比較例1)よりも高い酸素指数値が得られ、難燃性が良くなっていることがわかる。
【0057】次に、シリコーン樹脂を構成するD単位とT単位の割合と、メチル基とフェニル基の割合による耐燃性への効果を表4に示す。
【0058】
【表4】


【0059】実施例4〜5に示すように、実施例1〜3のシリコーン樹脂(6〜8)の特徴に加えて、さらにD単位に対してT単位がモル比で0.5倍以上7倍未満であることを特徴とするシリコーン樹脂(9、10)を含有するポリカーボネート樹脂組成物は、実施例1〜3及び比較例1〜7のシリコーン樹脂(1〜5)を含有するものよりも、さらに高い耐燃性を示すことがわかる。
【0060】また、実施例6〜9に示すように、実施例1〜5に示すシリコーン樹脂(6〜10)の特徴に加えて、さらにRがモル比で40%以上80%未満がフェニル基で、残りがメチル基であることを特徴とするシリコーン樹脂(11〜13)を含有するポリカーボネート樹脂組成物は、比較例1〜7や実施例1〜5のシリコーン樹脂を含有するものよりも、さらに高い難燃性を示すことがわかる。
【0061】さらに、シリコーン樹脂の分子量、D単位とT単位の割合(D/T比)及びフェニル量の割合による耐燃性への効果を詳細に調査した。
【0062】
【表5】


【0063】
【表6】


【0064】
【表7】


【0065】表5〜表6の比較例8〜15、実施例10〜18及び図1は分子量及びフェニル量の割合を変化させたシリコーン樹脂を、ポリカーボネート樹脂に4phr添加したときの酸素指数の結果を示す。
【0066】表5〜表7の実施例11〜17、実施例19〜24及び図2はD/T比及びフェニル量の割合を変化させたシリコーン樹脂を、ポリカーボネート樹脂に4phr添加したときの酸素指数の結果を示す。
【0067】表5〜表7の比較例8、10、13、15、及び実施例10、14、18は分子量を変化させたシリコーン樹脂を、ポリカーボネート樹脂に4phr添加したときの酸素指数の結果を示す。
【0068】また、図1は、分子量及びフェニル量を変化させたシリコーン樹脂について、ポリカーボネート樹脂に4pbr添加した際の酸素指数の結果を示すグラフであり、図2は、D/T比及びフェニル量を変化させたシリコーン樹脂について、ポリカーボネート樹脂に4phr添加した際の酸素指数の結果を示すグラフであり、グラフ中の番号は実施例番号に対応する。
【0069】表5〜表7、図1及び図2に示すように、重量平均分子量が10,000以上270,000以下で、且つD単位に対してT単位がモル比で0.5倍以上7倍未満であり、且つRがモル比で40%以上80%未満がフェニル基で残りがメチル基であることを特徴とするシリコーン樹脂は、芳香環を含有するポリカーボネート樹脂の耐燃性を著しく高くすることがわかる。
【0070】次に、シリコーン樹脂中の末端基の影響について、以下に示す。
【0071】シリコーン樹脂を合成する際に、トリメチルメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、及びトリフェニルメトキシシランの配合量を調節し、添加したシランをすべてシリコーン樹脂と反応させて、末端の官能基(M単位)を変化させた11種のシリコーン樹脂を合成した。これらのシリコーン樹脂を4phr添加したポリカーボネート樹脂について、各添加シランに対する酸素指数とドリップ性を評価した結果を表8に示す。ドリップ性の評価は、以下の方法で行った。シリコーン樹脂を添加したポリカーボネート樹脂のペレットを用いて、厚みが3.0mmの試験片を圧縮法(成形温度270℃)で成形した後、長さ125±5mm、幅13.0±0.5mmの試験片を切り出し、アンダーラーターズ・ラボラトリーズが定める20mm垂直燃焼試験(UL94V)に準拠して、10秒間接炎後のドリップ性を評価した。尚、表8に示すシリコーン樹脂はすべて、分子量4万、D/T=1/4,RのPh/Me=60/40である。
【0072】
【表8】


【0073】実施例25〜35に示すように、これらの実施例の式R2 SiO1.0 単位(D単位)と式RSiO1.5 単位(T単位)及び式R’3 SiO0.5 単位(M単位)からなり、その重量平均分子量が10,000以上270,000以下であり、かつRがメチル基とフェニル基であり、さらにR’のうち、水酸基及び/またはメトキシ基がモル比で10%未満であり、残りがメチル基及び/またはフェニル基であることを特徴とする、シリコーン樹脂を含有するポリカーボネート樹脂組成物(実施例25〜27及び35)は、これらの特徴を併せ持たないシリコーン樹脂を含有するポリカーボネート樹脂組成物(実施例28〜34)よりも、難燃効果、特にドリップ性の改善に著しい効果があることが分かる。
【0074】次に、芳香環を含有する非シリコーン樹脂(A)として、PC/ABSを用いた場合の耐燃性評価結果を表9に示す。
【0075】
【表9】


【0076】実施例36〜38と、比較例14〜16に示すように、これらの実施例の式R2 SiO1.0 単位(D単位)と式RSiO1.5 単位(T単位)の両方を持ち、その重量平均分子量が10,000以上270,000以下であり、かつRが炭化水素基であるシリコーン樹脂(6、9、12)を含有するPC/ABS組成物は、比較例のこれらの特徴を持たないシリコーン樹脂(2、4)を含有するもの(比較例15〜16)、及びシリコーン樹脂を含有しない比較例14よりも高い酸素指数値が得られ、耐難燃が良くなっていることがわかる。
【0077】次に、芳香環を含有する非シリコーン樹脂(A)として、ポリスチレン樹脂を用いた場合の耐燃性評価結果を表10に示す。
【0078】
【表10】


【0079】実施例39〜41と比較例17〜19に示すように、実施例の式R2 SiO1.0 単位(D単位)と式RSiO1.5 単位(T単位)の両方を持ち、その重量平均分子量が10,000以上270,000以下であり、かつRが炭化水素基であるシリコーン樹脂(6、9、12)を含有するポリスチレン樹脂組成物(実施例38〜40)は、比較例のこれらの特徴を持たないシリコーン樹脂(2、4)を含有するもの(比較例18〜19)、及びシリコーン樹脂を含有しないもの(比較例17)よりも高い酸素指数値が得られ、耐難燃が良くなっている。
【0080】次に、分子量が低くて、D単位の割合が高いため、混練性に若干問題があるシリコーン樹脂(6、9、11)に、シリカ粉を併用して混練性を改良した結果を表11〜表12に示す。
【0081】
【表11】


【0082】
【表12】


【0083】実施例42〜47と比較例20〜24に示すように、これらの実施例の混練性に若干問題があるシリコーン樹脂(6、9、11)に、シリカ粉などの無機充填剤を前記成分と併用することにより混練性が改良される。加えるシリカ粉は0.1倍以上が好ましく、平均粒径は10nm以上30μm以下とする。30μmより大きいものは難燃性が低くなり、10nmより小さいものは作業時の危険性が高い。
【0084】以上、本実施例に示すように、芳香環を含有する非シリコーン樹脂(A)及び式R2 SiO1.0 で示される単位と式RSiO1.5 で示される単位を持つシリコーン樹脂(B)からなり、Bの重量平均分子量が10,000以上270,000以下であり、Rが炭化水素基であることを特徴とする樹脂組成物は、大幅に耐燃性の向上の効果を持つ。
【0085】さらに、本発明の難燃性樹脂組成物は、アンダーライターズ・ラボラトリーズが定めている燃焼性試験に関する安全規格(UL94)においても、従来の難燃性樹脂組成物と同等以上の耐燃効果がある。
【0086】また、耐燃性が従来よりも向上したことにより、シリコーン樹脂成分の添加量を削減でき、樹脂組成物の成形性や機械的強度などの物性も従来より向上した。
【0087】また、本発明の難燃性樹脂組成物によれば、耐燃性が向上したため、他の難燃剤(例えば、ハロゲン化物、ハロゲン化物と酸化アンチモンの組合せ、又はリン化合物)を用いなくとも上記のように相当の耐燃性を有し、燃焼時に有害ガスを発生せず安全で環境負荷の少ない成型品を形成することができる。
【0088】尚、本発明のシリコーン樹脂は、上記難燃剤と併用して相乗効果を利用することも可能であるが、本発明の難燃性樹脂組成物の耐燃性が従来よりも向上したため、シリコーン樹脂及びそれ以外の難燃剤の使用量を大幅に低減できる。
【0089】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の難燃性樹脂組成物は、シリコーン樹脂の少ない添加量で優れた耐燃性を有すると共に、燃焼時に有害なガスを発生しない成形品が得られるため、各種の成形品、例えばOA機器部品、電気・電子部品の素材として好適に用いられる。
【0090】さらに、耐燃性が従来よりも向上したことにより、シリコーン樹脂成分の添加量を削減でき、樹脂組成物の成形性や機械的強度などの物性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】分子量及びフェニル量を変化させたシリコーン樹脂について、ポリカーボネート樹脂に4phr添加した際の酸素指数の結果を示すグラフ。
【図2】D/T比及びフェニル量を変化させたシリコーン樹脂について、ポリカーボネート樹脂に4phr添加した際の酸素指数の結果を示すグラフ。
【符号の説明】
実11 実施例11
実12 実施例12
実13 実施例13
実14 実施例14
実15 実施例15
実16 実施例16
実17 実施例17
実19 実施例19
実20 実施例20
実21 実施例21
実22 実施例22
実23 実施例23
実24 実施例24
比9 比較例9
比10 比較例10
比11 比較例11
比12 比較例12
比13 比較例13
比14 比較例14

【特許請求の範囲】
【請求項1】芳香環を含有する非シリコーン樹脂(A)及び、式R2 SiO1.0 で示される単位と式RSiO1.5 で示される単位を持つシリコーン樹脂(B)を有し、前記シリコーン樹脂(B)の重量平均分子量が10,000以上270,000以下であり、かつ、前記Rが炭化水素基であることを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】前記芳香環を含有する非シリコーン樹脂(A)が、芳香族系ポリカーボネート樹脂、又は芳香族系ポリカーボネートのアロイ、又はアクリロニトリル・ブタジエン・スチレンの共重合体(ABS)、又はポリスチレン樹脂、又は芳香環を含有するエポキシ樹脂、又はフェノール樹脂の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】前記シリコーン樹脂(B)中の前記RSiO1.5 単位が、前記R2 SiO1.0 単位に対してモル比で0.5倍以上7倍未満であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】前記シリコーン樹脂(B)のRがメチル基とフェニル基からなることを特徴とする請求項1又は請求項2又は請求項3記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項5】前記シリコーン樹脂(B)のRのうちフェニル基がモル比で40%以上80%未満であり、残りのRがメチル基であることを特徴とする請求項4に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項6】前記芳香環を含有する非シリコーン樹脂(A)が芳香族系ポリカーボネート樹脂、又は芳香族系ポリカーボネートのアロイであることを特徴とする請求項1〜5記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項7】前記シリコーン樹脂(B)が式R2 SiO1.0 で示される単位、式RSiO1.5 で示される単位及び、式R’3 SiO0.5 で示される単位からなり、且つR’が飽和炭化水素基及び/または芳香族炭化水素基、または飽和炭化水素基及び/または芳香族炭化水素基と水酸基及び/またはアルコキシ基の混合系であることを特徴とする請求項1〜6記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項8】前記シリコーン樹脂(B)のR’うち、水酸基及び/またはアルコキシ基がモル比で10%未満であり、残りが飽和炭化水素基及び/または芳香族炭化水素基であることを特徴とする請求項7記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項9】前記シリコーン樹脂(B)のR’のうち、飽和炭化水素基及び/または芳香族炭化水素基がメチル基及び/またはフェニル基であることを特徴とする請求項8記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項10】補強剤として、シリカ粉、炭酸カルシウム粉、タルク粉などの無機充填剤を含むことを特徴とする請求項1〜9記載の難燃性樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開平10−139964
【公開日】平成10年(1998)5月26日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−244971
【出願日】平成9年(1997)9月10日
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)