説明

難燃性湿気硬化型樹脂組成物

【課題】ハロゲン系難燃剤や酸化アンチモンなどを使用せず、UL94垂直燃焼性試験にてV−0であり、しかも、難燃性が高いにもかかわらず低粘度であるため作業性が良く、接着性も良好であり、また、低揮発性、低ブリードアウト性を有し、硬化物も強靱である難燃性湿気硬化型樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)架橋可能な加水分解性シリル基を2個以上含有する有機重合体、(B)平均粒径0.1〜200μmの金属水酸化物、(C)架橋可能な加水分解性シリル基を片末端のみに有するポリエーテル化合物を必須成分として含有することを特徴とする難燃性湿気硬化型樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃焼時にハロゲン系ガスが発生せず、しかも高い難燃性と高い硬化物物性を両立させた難燃性湿気硬化型樹脂組成物に関するものである。さらに、本願の樹脂組成物は長期保存安定性に優れ、ブリードアウトが無く、硬化収縮の小さいものであり、接着剤、シール剤として有用な難燃性湿気硬化型樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気・電子市場、建築市場、土木市場等では難燃性を付与した接着剤、シール剤、塗料、注型材が強く求められている。また接着剤及びシーリング材においては、近年、異種材料の接着における熱膨張の差を吸収する弾性接着剤が広く使われるようになってきており、熱膨張の差による歪みに追従し、クラックを防止する接着性、変位追従性の優れた組成物が求められている。
【0003】
従来より、アルコキシシリル基を有する硬化性樹脂、いわゆる変成シリコーンを主成分とする硬化性組成物が種々提案されている。これらの硬化性組成物は、雰囲気の湿気により架橋し、耐久性、耐侯性に優れた硬化物を与える。そのため、上記硬化性組成物は、塗料、コーティング剤、接着剤、感圧接着剤、シーラント及びシーリング剤等の様々な用途に用いられている。
【0004】
上述の硬化性組成物に難燃性を付与する方法としては、塩素原子に代表されるハロゲン系難燃剤を硬化性樹脂に配合する方法が採用されてきた。ところが、この種のハロゲン原子含有化合物を配合したものは燃焼時に大量の黒煙を発生するうえに、人体に有害なガスあるいは金属類を腐食するガスを発生するという問題点があった。このハロゲン系難燃剤は酸化アンチモンとの併用で難燃効果が大幅に向上するが、酸化アンチモンは毒性をもつため好ましくないという問題もあった。また、ポリリン酸アンモニウム等のポリリン酸塩及び五酸化リン等のリン系難燃剤を使用することも採用されてきたが、耐水性の低下や銅を腐食させるおそれがあった。他にも、ハイドロタルサイトや、有機系フィラーとしてメラミンシアヌレート等も使用されるようになったが粘度が高く、低粘度化を測るものにはふさわしくなかった。
【0005】
他方、金属水酸化物である水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムはノンハロゲンの難燃剤として、近年各種プラスチックの難燃化剤として使われている。しかしながら、シリル基変性ポリエーテル型組成物の難燃化にこれらの金属水酸化物を適用した場合、樹脂成分に対し多量に添加しないとUL94V−0(試料厚さ1.5mm)相当の難燃性が発揮されず、組成物が高粘度になってしまう。また、それだけにとどまらず、各種プラスチックへの接着性が劣り、熱老化性が低い等の問題があった。なお、家電製品の難燃規制は米国のUL規格が基本になっており、多くの製品が規制対象となっている。UL94は、電気製品およびプラスチック材料の中の難燃性を評価するものであり、その中でUL94V−0は垂直燃焼性試験の中で最も難燃性の高いクラスとして、規定されている。
【0006】
特許文献1には、反応性珪素基を有するアクリル系共重合体と金属水酸化物を含む難燃性を有する湿気硬化型組成物が記載されているが、該湿気硬化型組成物は粘度が非常に高く、小さい部品の接着や固定をすることが作業性に困難である。このため接着剤の低粘度化やフロー性を向上させることも求められている。このような該湿気硬化型組成物を低粘度にするために可塑剤などの低粘度の液体を添加した組成物では電池やバッテリー内の部品の内部抵抗を上昇させてしまうという問題があることが判明した。
【0007】
特許文献2においては、上記の問題を解決するため、有機溶剤を添加することにより、低粘度化をはかり、作業性と接着性を向上させたものが開示されている。しかしながら、希釈剤が溶剤であるため被着体がプラスチックなどの場合、被着体を侵してしまうという点や、硬化収縮性・揮発性が大きく、保存安定性等にもまだまだ問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−310682号公報
【特許文献2】特開2007−332258号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、反応性希釈剤として低分子量片末端反応性シリル化ポリエーテルを添加することにより、接着・シール剤としての基本的機能を満たし、UL94V−0(試料厚み1.5mm)に合格しうる難燃性を有する硬化物が得られ、かつ電気・電子部品に悪影響を与えることなく作業性良好・低揮発性・硬化収縮性良好・長期保存安定性に優れることを見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は(A)架橋可能な加水分解性シリル基を2個以上含有する有機重合体、(B)平均粒径0.1〜200μmの金属水酸化物、(C)架橋可能な加水分解性シリル基を片末端のみに有するポリエーテル化合物、を必須成分として含有することを特徴とする難燃性湿気硬化型樹脂組成物である。
【0011】
また、本発明の好ましい態様として前記(A)成分と(C)成分の配合比率は80:20〜50:50であり、(B)成分は(A)成分と(C)成分の合計量100質量部に対し、150〜350質量部である難燃性湿気硬化型樹脂組成物である。
【0012】
また、本発明の好ましい態様として前記(A)成分が両末端に加水分解性シリル基を有するビニル系重合体および/または両末端に加水分解性シリル基を有するポリエーテル系重合である難燃性湿気硬化型樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の難燃性湿気硬化型樹脂組成物はハロゲン系難燃剤や酸化アンチモンなどを使用せず、UL94垂直燃焼性試験にてV−0を有するものである。しかも、難燃性が高いにもかかわらず低粘度であるため作業性が良く、接着性も良好である。また、低揮発性、低ブリードアウト性を有している。また、硬化物も強靱であり、難燃性組成物にありがちな脆くなるという問題もない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明で用いられる有機重合体(a)は、架橋可能な加水分解性シリル基を1分子中に2個以上有するものであれば特に制限されるものではない。(a)成分は上記加水分解性シリル基が加水分解してシロキサン結合を形成することにより有機重合体が架橋しゴム状の硬化物となる。
【0015】
上記加水分解性シリル基とは、珪素原子に1〜3個の加水分解性基が結合したものであり、該加水分解性基としては、例えば、水素、ハロゲン原子、メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基、アシルオキシド基、ケトキシメート基、アミノ基、アミド基、酸アミド基、アミノオキシ基、メルカプト基、アルケニルオキシド基などが好ましい例として挙げられ、反応の際に有害な副生成物を生成しないアルコキシ基が特に好ましい。
【0016】
上記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、フェノキシ基、ベンジルオキシ基等を挙げることができ、これらアルコキシ基は同じ種類であってもよいし異なった種類が組み合わされていても良い。
【0017】
アルコキシ基が珪素原子に結合したアルコキシシリル基としては、例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリイソプロポキシシリル基、トリフェノキシシリル基等のトリアルコキシシリル基;ジメトキシメチルシリル基、ジエトキシメチルシリル基等のジメトキシシリル基;メトキシジメトキシシリル基、エトキシジメチルシリル基等のモノアルコキシシリル基を挙げることができる。これらを複数個組み合わせて用いてもよいし、異なるアルコキシ基を複数個組み合わせて用いてもよい。
【0018】
上記(a)成分の主鎖構造は特に限定されず、ポリエーテル主鎖構造、ポリエステル主鎖構造、ポリカーボネート主鎖構造、ポリウレタン主鎖構造、ポリアミド主鎖構造、ポリウレア主鎖構造、ポリイミド主鎖構造、ポリシロキサン主鎖構造、重合性不飽和基を重合して得られるビニル系重合体主鎖構造などが挙げられる。(a)成分はこれらの構造を1分子中に複数組み合わせて得られた主鎖構造であってもよい。また、これら構造を持つ化合物2種以上の混合物であっても良い。前述の主鎖構造の中でも特にビニル系重合体および/またはポリエーテル系重合体が好適である。すなわち、主鎖構造が、ビニル系重合体主鎖構造であっても、ポリエーテル主鎖構造であっても、ポリエーテル主鎖構造部分及びビニル系重合体主鎖構造部分の双方を有していてもよい。
【0019】
上記ポリエーテル主鎖構造としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の主鎖構造や、これらの共重合体構造、置換基を有するこれら誘導体を挙げることができる。加水分解性シリル基を有するポリエーテル主鎖構造の市販の重合体として、株式会社カネカ製の商品名MSポリマーとしてMSポリマーS−203、S−303、S−903等、サイリルポリマーとしてサイリルSAT−200、MA−403、MA−447等、旭硝子(株)からエクセスターESS−2410、ESS−2420、ESS−3630等を挙げることができる。
【0020】
上記ポリエステル主鎖構造としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、テトラメチレングリコール等のグリコールとテレフタル酸、イソフタル酸、セバシン酸、コハク酸、フタル酸、アジピン酸等のジカルボン酸を縮合させて得られるポリエステル主鎖構造が挙げられる。
【0021】
上記ポリウレタン主鎖構造としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール等のポリオールとキシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンジフェニルジイソシアネート、トルイレンジイソシアネート等のジイソシアネートを重付加させて得られるポリウレタン主鎖構造等が挙げられる。
【0022】
上記ポリアミド主鎖構造としては、ジアミンとジカルボン酸を縮合、あるいはカプロラクタムを開環重合させて得られるポリアミド主鎖構造が挙げられる。上記ポリウレア主鎖構造としては、ジアミンとジイソシアネートを重付加させて得られるポリウレア主鎖構造が挙げられる。ポリイミド主鎖構造としては、ジアミンと一分子中に2個の環状酸無水物構造を有する化合物のイミド化によって得られるポリイミド主鎖構造が挙げられる。ポリシロキサン主鎖構造としては、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン等のポリシロキサン主鎖構造が挙げられる。
【0023】
また、重合性不飽和基を重合して得られるビニル系重合体主鎖構造としては、重合性不飽和基を有する化合物を重合して得られるビニル系重合体構造であれば特に限定されない。上記重合性不飽和基を有する化合物を重合して得られるビニル系重合体としては、ビニルモノマーを重合して得られる重合体であれば良く、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルエーテル等を挙げることができる。また、これらビニル重合体部分を有する共重合体であっても良い。
【0024】
上記有機重合体(A)のうち、上記反応性珪素基含有(メタ)アクリル系重合体、上記反応性珪素基を有するポリエーテル重合体、及びこれらの混合物は、他の重合体に比べ特に耐熱性が優れている点で優れている。また、上記反応性珪素基を有する(メタ)アクリル系重合体、上記反応性珪素基を有するポリエーテル重合体、及びこれらの混合物は、上記反応基を有するシロキサンに比べ、接点障害の要因となる低分子環状シロキサンを含有もしくは発生させない点で好適である。前記有機重合体(A)の好ましい例として、上記反応性珪素基を有する(メタ)アクリル酸エステル系共重合体と、反応性珪素基を有するポリエーテル重合体とからなる混合物を用いる場合、両者の配合割合は上記反応性珪素基を有する(メタ)アクリル酸エステル系共重合体100質量部に対して、上記反応性珪素基を有するポリエーテル重合体を10〜200質量部配合することが好ましい。
【0025】
(B)成分の平均粒径0.1〜200μmの金属水酸化物は本発明組成物に難燃性を付与する働きをする。この(B)成分は周期率表のIIa属、IIIb属またはIVb属の金属水酸化物であり、その分解開始温度が150〜450℃の範囲にあるものが好ましい。具体的には、粉末状水酸化マグネシウム、粉末状水酸化アルミニウム、またはこれらの表面がカップリング剤、高級脂肪酸等の表面処理剤で処理されたものが例示される。これらの中でも、粉末状水酸化マグネシウムが好ましい。また、(A)成分への分散性が良好であり、樹脂組成物の塗布性を低下させないためには、(B)成分の平均粒径が0.1〜300μmの範囲内にあるものが好ましい。
【0026】
上記表面処理剤のカップリング剤としては、例えば、有機チタネート化合物、有機アルミニウム化合物、有機ジルコニウム化合物、アルコキシシラン化合物、脂肪酸化合物などが挙げられる。具体的な有機チタネート化合物として、例えば、テトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタン、テトラステアリルオキシチタン、ジプロキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタン、チタニウムプロポキシオクチレングリコレート、チタニウムステアレート、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジートリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、トリス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネートなどが挙げられる。有機アルミニウム化合物はアセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレートなどが例示され、有機ジルコニウム化合物としてはジルコニウムブチレート、ジルコニウムアセチルアセトネート、アセチルアセトンジルコニウムブチレート、ジルコニウムラクテート、ステアリン酸ジルコニウムブチレートなどが使用できる。また、シラン化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビストリス(2−メトキシエトキシ)シラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルメチルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザンなどが挙げられる。
【0027】
上記脂肪酸化合物としては、例えば、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラギン酸などの飽和脂肪酸、オレイン酸、エライジン酸、リノーリ酸、リシノール酸などの不飽和脂肪酸、ナフテン酸などの脂環族カルボン酸が挙げられる。 上記樹脂酸としては、例えば、アビチエン酸、ピマル酸、パラストリン酸、ネオアビエチン酸等が挙げられる。
【0028】
水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム又はその混合物は高分子材料の分解温度と近似する約180〜320℃で構造水を放出するため、炎の着火、延焼を防ぐことが出来、優れた難燃性を発揮することができる。また、上記金属水酸化物が芳香族アミン、フェノール、ナフトール類もしくは活性メチレン化合物などで処理されたカップリング剤、脂肪酸または樹脂酸で表面処理されたものを使用した場合、多少難燃効果は薄れるが、粘度安定性及び電気特性が向上する。
【0029】
上記金属水酸化物の粒径は0.1μm〜200μmが用いられるが、0.3μm〜100μmが更に好ましく、1μm〜70μmが最も好ましい。該金属水酸化物の粒径が、0.1μmより小さいと、組成物粘度が著しく高くなり、作業性が悪くなる。一方200μmより大きいと、微量定量吐出の場合に針先や装置嵌合部で詰まる問題がある。
【0030】
(B)成分の金属水酸化物の量は、(A)成分と後述する(C)成分の合計量100質量部に対して150質量部〜350質量部が配合されることが好ましく、170質量部〜300質量部が更に好ましく、210質量部〜250質量部が最も好ましい。この金属水酸化物の量が、150量部より少ないと、充分な難燃性が得られず、例えば着火すると延焼し続けたりポリマーが解重合し液状化することがあり、一方350質量部を超えると、組成物粘度が高くなり作業性が悪くなる問題の他、接着強さ等の基本的物性が保てなくなる場合がある。また金属水酸化物の粒径によっても難燃効果は多少異なる。
【0031】
上記のハロゲン系、リン系、酸化アンチモン等の難燃剤は通常の使用において上述したような問題があるが、本発明においては、所望によりこれらの難燃剤を金属水酸化物と併用することも可能である。この他に、硼酸亜鉛、錫酸亜鉛等も発煙量の低減効果が有るため、添加することができる。
【0032】
本発明の(C)成分は架橋可能な加水分解性シリル基を片末端のみに有するポリエーテル化合物である。架橋可能な加水分解性シリル基は前述と同様である。また、(C)成分の主鎖部分であるポリエーテルも前述と同様である。また、(C)成分は粘度が100〜1000mPa・s が好ましい。また、(C)成分の分子量は1000〜5000程度が好ましい。工業的に入手可能な(C)成分は株式会社カネカの商品名サイリルポリマーとしてサイリルSAT−115が挙げられる。
【0033】
(C)成分は低粘度であることから製品粘度の低下に寄与しながらも、反応に組み込まれる為、ブリードアウトを起こさない。また、官能基が片末端であることから、樹脂物性が脆くならず、機械的物性も維持することができる。単に組成物の粘度を下げる目的であれば(A)成分として低粘度のものを使用するということも考えられるが、この手法は硬化後樹脂物性が脆くなるという問題が起こる。また、可塑剤や有機溶剤を用いて低粘度かをはかると、硬化不良・ブリードアウト、硬化収縮率が悪くなるなどの問題があるが、本発明の(C)成分を用いることによりこれらの問題を解決することができる。
【0034】
前記(A)成分と(C)成分の配合割合は特に限定されないが、質量比で(A)成分:(C)成分=80:20〜50:50である。さらに好ましくは(A)成分:(C)成分=80:20〜60:40(重量比)がさらに好ましい。前記重合体(A)の配合により、減粘効果が得られ、低粘度化が可能となるが、50質量部をこえると体積変化が大きくなり、接着力の低下、長期保存安定性に影響し、また、ブリードアウトが発生する場合がある。
【0035】
本発明の難燃性湿気硬化型接着剤組成物には、必要に応じて、種々の添加剤を添加してもよい。添加剤としては、例えば、湿潤分散剤、水分吸収剤、接着付与剤、硬化触媒、充填剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、着色剤などが挙げられる。
【0036】
前記水分吸収剤としては組成物の水分を吸収したり、水分と反応するものであれば特に限定されない。例えば、メチルシリケート、エチルシリケート、プロピルシリケート、ブチルシリケートに代表されるシリケート化合物類およびそのオリゴマー類、ビニルシラン類、酸化カルシウムなどが挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0037】
前記接着付与剤としては、例えば、ビニルシラン、エポキシシラン、スチリルシラン、メタクリロキシシラン、アクリロキシシラン、アミノシラン、ウレイドシラン、クロロプロピルシラン、メルカプトシラン、スルフィドシラン及びイソシアネートシランなどが挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種類以上が併用されてもよい。
【0038】
前記硬化触媒としては、前記重合体(A)を架橋させる触媒であれば特に限定されない。具体的には、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫オキサイド、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジステアレート、ジブチル錫ラウレートオキサイド、ジブチル錫ジアセチルアセトナート、ジブチル錫ジオレイルマレート、ジブチル錫オクトエート、ジオクチル錫オキサイド、ジオクチル錫ジラウレート等の錫化合物;金属錯体としてはテトラ−n−ブトキシチタネート、テトライソプロポキシチタネート等のチタネート系化合物;オクチル酸鉛、ナフテン酸鉛、ナフテン酸ニッケル、ナフテン酸コバルト、亜鉛系化合物、鉄系化合物、ビスマス等のカルボン酸金属塩;アルミニウムアセチルアセトナート錯体、バナジウムアセチルアセトナート錯体等の金属アセチルアセトナート錯体が挙げられる。またジブチルアミン−2−エチルヘキソエート等のアミン塩や、モノメチル燐酸、ジ−n−ブチル燐酸などの有機燐酸化合物や他の酸性触媒及び塩基性触媒等も使用することができる。これらは単独で用いられてもよく、2種類以上が併用されてもよい。
【0039】
前記充填剤としては、各種形状の有機又は無機のものが挙げられるが、タルク、クレー、炭酸マグネシウム、無水珪素、含水珪素、珪酸カルシウム、シラスバルーン、ガラスバルーン等の無機物が好ましく、このような無機物を添加した場合、難燃性や作業性が向上することがある。
【0040】
前記難燃助剤としては、特に限定されないが、難燃剤として市販されているシリコーン化合物が好ましく、ノンハロゲンの難燃助剤として用いることができる。
【0041】
また、本発明の難燃性湿気硬化型樹脂組成物にさらにエポキシ樹脂を併用すると、残炭率が向上してドリップ性(燃焼中に落下すること)が改善するため、金属水酸化物の配合量を低減できる。
【0042】
本発明の難燃性湿気硬化型樹脂組成物は、必要に応じて1液型とすることも可能であるし、2液型とすることも可能である。また、本発明の難燃性湿気硬化型樹脂組成物は、接着剤や固着剤としての使用が最も適しているが、必要に応じて、シーリング材、粘着材、コーティング材、ポッティング材等としても使用可能である。本発明の難燃性湿気硬化型接着剤組成物は、各種電気・電子分野用、建築物用、自動車用、土木用等に使用可能である。
【実施例】
【0043】
以下に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例は例示的に示されるもので限定的に解釈されるべきでないことはいうまでもない。
【0044】
(実施例1〜4、比較例4〜12)
表1に示した配合(単位:質量部)で成分(A)〜(C)に密着付与剤と硬化触媒を加え混合し、湿気硬化型組成物を作製した。
【0045】
【表1】

【0046】
表1中の各配合化合物は以下の通りである。
*カネカサイリルMA440:(株)カネカ製、加水分解性シリル基2個含有ポリオキシアルキレン重合体とアクリル系重合体との混合物、23℃の粘度70Pa・s
*ハイジライトH−34:昭和電工(株)製、水酸化アルミニウム、平均粒径4μm
*カネカサイリルSAT115:(株)カネカ製、加水分解性シリル基を片末端にのみ有するポリエーテル、23℃の粘度0.5Pa・s
*カネカサイリルSAT200:(株)カネカ製、加水分解性シリル基2個含有ポリエーテル、23℃の粘度25Pa・s
*カネカサイリルSAT030:(株)カネカ製、加水分解性シリル基2個含有ポリエーテル、23℃の粘度4Pa・s
*カネカサイリルSAT010:(株)カネカ製、加水分解性シリル基2個含有ポリエーテル、23℃の粘度0.7Pa・s
*メザモール:ランクセス(株)製、アルキスルフォン酸系可塑剤、23℃の粘度0.1Pa・s、
*密着付与剤:γ−アミノプロピルトリメトキシシラン
*安定剤:メチルトリメトキシシラン
*硬化触媒:ジブチルスズアセテート
【0047】
前記により得られたそれぞれの組成物を用いて下記性能評価を行った。結果を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
表2の各種試験項目は以下のとおり行った。
1)難燃性
フッ素板上に各組成物を塗布し、1.5mmのスペーサーを用いてシート状に形成した。23±5℃×55±10%RH環境下で7日後養生して組成物を硬化させた。その後、フッ素板から剥がし、1.5×12.5×130mmの硬化シートを作製した。得られた硬化シートに対し、UL94V垂直燃焼試験方法に基づき試験を行い、難燃性を評価した。具体的には以下の各項目を全て満たすものを合格、一つでも満たさないものを不合格とした。
(1)各試料の残炎時間t1またはt2が「10秒以下」
(2)全ての処理による各組の残炎時間の合計(5枚の試料のt1+t2)が「50秒以下」
(3)第2回接炎の各試料の残炎時間と残じん時間の合計(t2+t3)が「30秒以下」
(4)各試料の保持クランプまでの残炎または残じんが「無い事」
(5)発炎物質または滴下物による標識用綿の着火が「無い事」
t1〜t3は下記の通りである。
t1:第1回接炎の試料の残炎時間(秒)
t2:第2回接炎の試料の残炎時間(秒)
t3:第2回接炎の試料の残じん時間(秒)
【0050】
2)初期粘度
各種組成物の初期粘度を(JIS K 7117を用いて)測定した。粘度が100Pa・s 以下のものを○とし、粘度が100Pa・sを超えたものを×とした。
【0051】
3)柔軟性
各種組成物を燃焼性と同様にフッ素板上に1.5mmのシートを作製した。23±5℃×55±10%RH環境下で7日間養生し、硬化させた後、フッ素板から剥がし、硬さを(JIS K 6253を用いて)測定した。その評価基準はA80未満を○とし、A80以上を×とした。
【0052】
4)ブリードアウトの有無
各種組成物を150MLラミネートチューブに充填し、70℃で1週間保存し、液状分のブリードアウトを観察した。評価基準は、チューブよりの吐出時にブリードアウトのないものを○とし、ブリードアウトしたものを×とした。
【0053】
5)硬化収縮率
前記1)で作製したシートを用いて、硬化収縮率の測定を行った。
【0054】
6)接着強さ
アルミ板(1.0×25×100mm)に各種組成物を10×25mmの接着面積で接着剤を薄く均一に塗布し、貼り合わせ、23±5℃×55±10%RH環境下で7日間養生し、引張り速さ50mm/minで接着強さを測定した。
【0055】
7)耐熱性
各種組成物を、フッ素板上で厚み2mmのスペーサーを用いてシートを作製した。23±5℃×55±10%RH環境下で7日後、フッ素板から剥がし、3号ダンベルの形にくりぬいてから、120℃環境下で7日間養生して、外観を観察した。評価基準は、外観の変色や形状が初期状態とほぼ同じものを○とし、外観に変色があり、粉末化したものを×とした。
【0056】
表2の結果から明らかなように、反応性珪素基含有有機重合体(高分子量)と反応性希釈剤として片末端反応性シリル化ポリエーテル(低分子量)の配合を行ったものについては、低粘度であり作業性にも優れ、かつUL94垂直燃焼性試験にてV−0認定し得る、著しい難燃性を示すことができた。また、従来のように、溶剤や可塑剤にて希釈する際に発生するような、硬化後樹脂物性が脆くなる・硬化不良・ブリードアウトが起こる、硬化収縮率が悪くなる、増粘するというこれらの問題を解決した。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の難燃性樹脂組成物及びその樹脂組成物からなる成形体は、電気・電子部品、OA部品、車両部品、機械部品等の幅広い分野に使用することができ、とりわけ、電気・電子部品としての産業上利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)架橋可能な加水分解性シリル基を2個以上含有する有機重合体
(B)平均粒径0.1〜200μmの金属水酸化物
(C)架橋可能な加水分解性シリル基を片末端のみに有するポリエーテル化合物
を必須成分として含有することを特徴とする難燃性湿気硬化型樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)成分と(C)成分の配合比率は80:20〜50:50であり、(B)成分は(A)成分と(C)成分の合計量100質量部に対し、150〜350質量部である請求項1に記載の難燃性湿気硬化型樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)成分が両末端に加水分解性シリル基を有するビニル系重合体および/または両末端に加水分解性シリル基を有するポリエーテル系重合である請求項1または2に記載の難燃性湿気硬化型樹脂組成物。

【公開番号】特開2011−225695(P2011−225695A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95907(P2010−95907)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(000132404)株式会社スリーボンド (140)
【Fターム(参考)】