説明

難燃樹脂組成物

【課題】難燃性を有し,且つ柔軟性、耐熱性,耐寒性等に優れる難燃樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(a)エチレン−酢酸ビニル共重合体等のエチレン系共重合体17〜35重量%、(b)ビニル芳香族炭化水素含有量10重量%以上20重量%未満である水素添加ブロック共重合体にα、β−不飽和カルボン酸またはその誘導体が結合してなる変性水素添加ブロック共重合体等の変性水素添加ブロック共重合体3〜15重量%および(c)無機充填剤50〜80重量%を含む難燃樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン系共重合体を用いた非ハロゲンの難燃樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は、エチレン系共重合体、変性水素添加ブロック共重合体および無機充填剤を主成分とした柔軟性に富んだ難燃樹脂組成物に関する。そして、本発明の難燃樹脂組成物は、柔軟性、耐熱性(加熱老化性、加熱変形性等)に優れ、且つ耐寒性に優れることから、電線の被覆材料等をはじめ、軟質塩化ビニル樹脂が使用されている各用途に好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
家電部品、自動車部品等の電線の被覆材料として、一般に難燃性に優れた塩化ビニル樹脂が使用されている。軟質塩化ビニル樹脂は、柔軟性があり、且つ耐熱性や耐寒性に優れる。しかしながら、分子中に塩素を多量に含むために環境に対する負荷が懸念され、その代替材料が求められている。
近年、オレフィン系樹脂を中心に非塩化ビニル樹脂系難燃材料の開発が進められており、ポリエチレン等のオレフィン系樹脂に水和金属酸化物を配合した難燃性樹脂組成物(例えば、特許文献1参照)が開示されている。また、熱可塑性エラストマーとポリオレフィンに無機難燃剤を配合した組成物(例えば、特許文献2参照)、オレフィン系エラストマー、変性ポリスチレン、スチレン系エラストマー、プロピレン系樹脂に金属水和物を配合した難燃性樹脂組成物(例えば、特許文献3参照)などが開示されている。
【特許文献1】特開平05−301996号公報
【特許文献2】特公平07−110912号公報
【特許文献3】特開2002−138175号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、優れた難燃性を有するとともに、塩化ビニル樹脂に匹敵する柔軟性と耐熱性、耐寒性を有する難燃樹脂組成物を提供することを課題とする。
前述したオレフィン系樹脂を中心とした非塩化ビニル樹脂系難燃材料は、硬質の樹脂や多量の金属水和物を含有している。そのため、柔軟性に乏しく、耐熱性、耐寒性等が低下した組成物となってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0004】
このような状況下、本発明者らは、上記の問題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、本発明者らは、エチレン系共重合体と特定の変性水素添加ブロック共重合体と無機充填剤を主成分とした組成物によって、上記課題が解決できることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
1.(a)エチレン系共重合体17〜35重量%、(b)変性水素添加ブロック共重合体3〜15重量%および(c)無機充填剤50〜80重量%を含む難燃樹脂組成物、
2.成分(b)が、ビニル芳香族炭化水素含有量10重量%以上20重量%未満である水素添加ブロック共重合体にα、β−不飽和カルボン酸又はその誘導体が結合してなる変性水素添加ブロック共重合体であることを特徴とする上記1に記載の難燃樹脂組成物、
3.成分(a)が、エチレン−酢酸ビニル共重合体であることを特徴とする上記1または2のいずれかに記載の難燃樹脂組成物、
4.成分(c)が、金属水酸化物であることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の難燃樹脂組成物、
5.JISK6251準拠の100%伸び時の引張弾性率(100%Mo)が、10MPa以下であることを特徴とする上記1〜4のいずれかに記載の難燃樹脂組成物、
である。
【発明の効果】
【0005】
本発明の難燃樹脂組成物は、難燃性でありながら、柔軟性、耐熱性、耐寒性に優れる。この特性を活かし、電線の被覆材料等をはじめ、軟質塩化ビニル樹脂が使用されている各用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の成分(a)はエチレン系共重合体である。本発明に用いることのできるエチレン系共重合体は、エチレンを50重量%以上含有するエチレンとこれと共重合可能な他のモノマーとの共重合体、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−メタクリレート共重合体、エチレン−ブチルアクリレート共重合体、エチレン−プロピレン共重合体などが挙げられる。これらは、単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。そして、柔軟性および難燃性の点では、エチレン−酢酸ビニル共重合体が好ましい。また、柔軟性向上という点では酢酸ビニル含有量が25〜45重量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体が特に好ましい。
【0007】
本発明で用いるエチレン系共重合体のメルトフローレートは加工性、機械的特性の点から0.1〜30g/10分が好ましく、0.5〜15g/10分がさらに好ましい。
本発明の成分(b)は、官能基を含有する分子単位が結合した変性水素添加ブロック共重合体である。該成分を用いることが、本願の目的である柔軟性、耐熱性、耐寒性を付与するための重要な要素となっている。
官能基を有する分子単位が結合する前のベースとなる水素添加ブロック共重合体は、ビニル芳香族炭化水素−共役ジエンブロック共重合体を水素添加したブロック共重合体である。
はじめに、ベースとなる水素添加ブロック共重合体について説明する。水添ブロック共重合体は、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとを含む非水添ブロック共重合体を水素添加して得られる。該非水添ブロック共重合体の製造方法については特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。例えば、炭化水素溶媒中で有機アルカリ金属化合物等の重合開始剤を用いてアニオンリビング重合により製造することができる。そして、得られた非水添共重合体を水素添加することにより、水添ブロック共重合体が得られる。尚、水添触媒に特に限定はなく、公知の水添触媒を用いることができる。
【0008】
本発明のブロック共重合体において、使用するビニル芳香族炭化水素の例として、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルエチレン、N,N−ジメチル−p−アミノエチルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレンなどが挙げられる。これらのうち特に好ましいのはスチレンである。また、使用する共役ジエンは1対の共役二重結合を有するジオレフィンである。共役ジエンの例として、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(即ちイソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンが挙げられる。これらのうち特に好ましいのは1,3−ブタジエンである。
【0009】
本発明で用いる水素添加ブロック共重合体の構造に関しては特に限定はなく、いかなる構造のものでも使用できる。水添ブロック共重合体の一態様として、下記式で表されるような構造を有するものが挙げられる。
(A−B)n+1 、 A−(B−A)
B−(A−B)n+1
[(A−B) −X、 [(B−A)−B]−X、
[(A−B)−A]−X、 [(B−A)n+1−X
上記式において、各Aはそれぞれ独立してビニル芳香族炭化水素からなる重合体ブロックを表す。各Bはそれぞれ独立して、共役ジエン化合物からなる重合体ブロックを水添して得られる水添重合体ブロックを表す。各ブロックの境界は必ずしも明瞭に区別されていなくてもよい。各nはそれぞれ独立して1以上の整数、好ましくは1〜5の整数である。各mはそれぞれ独立して2以上の整数、好ましくは2〜11の整数である。各Xはそれぞれ独立してカップリング剤の残基又は多官能開始剤の残基を表す。この中でも、ビニル芳香族ブロックAを2個以上有する水添ブロック共重合体の変性品を用いた組成物が、耐熱性の点で好ましい。
【0010】
本発明で用いる変性水素添加ブロック共重合体中のビニル芳香族炭化水素含有量は、耐熱性と耐寒性の点から10重量%以上20重量%未満が好ましく、12重量%〜19重量%がより好ましく、14重量%〜18重量%が特に好ましい。
また、本発明で用いる変性水素添加ブロック共重合体において、水添前の共役ジエン化合物重合体ブロック中の共役ジエン単量体単位のビニル結合量(1,2−結合、3,4−結合及び1,4−結合の結合様式で組み込まれている)の中、1,2−結合及び3,4−結合で組み込まれているものの割合は、耐寒性の点で40%〜80%が好ましく、45〜60%がより好ましい。
【0011】
また、本発明で用いる変性水素添加ブロック共重合体の重量平均分子量は、2万〜30万が好ましく、3〜20万がさらに好ましい。重量平均分子量が上記範囲にあることにより、機械的強度と成形加工性とのバランスに優れた組成物が得られる。
また、本発明で用いる変性水素添加ブロック共重合体の該共役ジエン化合物に基づく二重結合の水添率は、75〜100%が好ましい。水添率は、耐熱性の点から、好ましくは80〜100%、更に好ましくは85〜100%、特に好ましくは90〜100%である。なお、水添ブロック共重合体におけるビニル芳香族化合物の二重結合の水添率に関しては特に限定はないが、水添率は好ましくは50%以下、更に好ましくは30%以下、特に好ましくは20%以下である。
【0012】
上記で得られた水添ブロック共重合体を変性することによって、本願発明で使用する変性水素添加ブロック共重合体が得られる。変性方法や変性剤の種類については、特に限定されない。その一例として、α,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体、例えばその無水物、エステル化物、アミド化物、イミド化物等の官能基含有化合物でグラフト変性した水素添加ブロック共重合体を挙げることができる。α、β−不飽和カルボン酸又はその誘導体の具体例としては、無水マレイン酸、マレイン酸イミド、アクリル酸又はそのエステル、メタアクリル酸又はそのエステル、エンド−シス−ビシクロ〔2,2,1〕−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸又はその無水物が挙げられる。
【0013】
α、β−不飽和カルボン酸又はその誘導体等の添加量は、水素添加ブロック共重合体100重量部当たり、通常0.02〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部である。グラフト変性する場合の反応温度は、好ましくは100〜300℃、より好ましくは120〜280℃である。グラフト変性する方法の詳細については、例えば、特開昭62−79211号公報を参照できる。
また、別の例として末端変性した水添ブロック共重合体を挙げることができる。たとえば、有機リチウム化合物を重合触媒として得たベース共重合体のリビング末端に、官能基含有化合物(以後、変性剤とも云う)を反応させることにより変性水添ブロック共重合体が得られる。
【0014】
官能基含有変性剤基の例として、水酸基、カルボニル基、チオカルボニル基、酸ハロゲン化物基、酸無水物基、カルボキシル基、チオカルボキシル酸基、アルデヒド基、チオアルデヒド基、カルボン酸エステル基、アミド基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、リン酸基、リン酸エステル基、アミノ基、イミノ基、シアノ基、ピリジル基、キノリン基、エポキシ基、チオエポキシ基、スルフィド基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、ハロゲン化ケイ素基、シラノール基、アルコキシシラン基、ハロゲン化スズ基、アルコキシスズ基、フェニルスズ基等からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有するものが挙げられる。上記の官能基のうち、カルボニル基、カルボキシル基、酸無水物基、水酸基、アミノ基が好ましい。
【0015】
変性剤の具体例としては、例えば特公平4−39495号公報(米国特許第5,115,035号に対応)やJP03/02222号公報(国際公開)に記載された末端変性処理剤を用いることができる。具体的には、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、テトラグリシジル−1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、ε−カプロラクトン、4−メトキシベンゾフェノン、γ−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルピロリドンなどが挙げられる。
尚、エチレン−ブチレン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−オクテン共重合体等のオレフィン系エラストマーを変性した変性オレフィン系エラストマーを用いた難燃樹脂組成物は、耐熱老化性が著しく劣った組成物となる。
【0016】
本発明の成分(c)は、無機充填剤である。無機充填剤としては、金属水酸化物、金属炭酸化物、金属酸化物、シリカ系無機充填剤等が挙げられる。
この中でも、難燃性の効果の点で特に有用なのが金属水酸化物である。金属水酸化物の例としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化ジルコニウム、水和珪酸アルミニウム、水和珪酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、酸化錫の水和物、硼砂等の無機金属化合物の水和物等であり、中でも水酸化マグネシウムが好ましい。また、水酸化マグネシウムでもシランカップリング剤又は脂肪酸等で粒子表面に表面処理したものを用いるとよい。ポリマーへの分散性を高めるためにアミノシランやメタクリロキシシラン等のカップリング剤で表面処理した水酸化マグネシウムが市販されている。具体例としては、キスマ5L(協和化学工業社)が挙げられる。
【0017】
また、金属炭酸化物としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。
また、金属酸化物としては、化学式M(Mは金属原子、X、Yはそれぞれ独立して1〜6の整数)を構成単位の主成分とする固体粒子であり、例えばアルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛等が挙げられる。
また、シリカ系無機充填剤は、化学式SiOを構成単位の主成分とする固体粒子であり、例えば、シリカ、クレイ、タルク、カオリン、マイカ、ウォラストナイト、モンモリロナイト、ゼオライト、ガラス繊維等の無機繊維状物質などが挙げられる。
本発明に係わる難燃樹脂組成物において、各成分の配合比率は、成分(a)エチレン系共重合体が17〜35重量%、成分(b)変性水添ブロック共重合体が3〜15重量%、成分(c)無機充填剤が50〜80重量%である。
【0018】
成分(a)が17重量%よりも少ないと、引張強度等の機械的特性が劣る組成物となり、また35重量%を越えると難燃性に劣る組成物となる。
また、成分(b)は、柔軟性、耐熱性、耐寒性を改良する重要な成分である。その配合量が3重量%よりも少ないと、これらの特性が劣る組成物となり、また15重量%を越えると加工性に劣る組成物となる。
また、成分(c)が50重量%よりも少ないと、難燃性に劣る組成物となり、また80重量%を越えると柔軟性や引張強度等の機械的特性が劣る組成物となる。
本願発明の難燃樹脂組成物は、柔軟性に富むことが特徴である。組成物の引張弾性率(100%Mo)が10Mpa以下が好ましく、8MPa以下がより好ましい。
【0019】
本発明の難燃樹脂組成物は、望むならば、その他の成分、ゴム状重合体、熱可塑性樹脂、添加剤等を含んでいてもよい。
ゴム状重合体の例としては、スチレン−ブタジエンブロック共重合体及びその水添物、スチレン−イソプレンブロック共重合体及びその水添物等のスチレン系エラストマー、1,2−ポリブタジエン、オレフィン系エラストマー、ブチルゴム等が挙げられる。
熱可塑性樹脂の例としては、ポリテトラフルオロエチレン、共役ジエンとビニル芳香族とのブロック共重合樹脂及びその水添物、ポリスチレン、ゴム変性スチレン系樹脂等のスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等が挙げられる。特にポリテトラフルオロエチレンを配合すると、燃焼時におけるドリップ(滴下)性を改良した組成物が得られる。
【0020】
添加剤は、ゴム状重合体等の配合に一般的に配合されるものであれば特に限定はない。添加剤の例として、「ゴム・プラスチック配合薬品」(ラバーダイジェスト社編)などに記載された添加剤が挙げられる。具体例として、硫黄、有機過酸化物等の架橋剤;加硫促進剤;パラフィンオイル、ポリブテン等のゴム用軟化剤;カーボンブラック、酸化鉄等の顔料;ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、エチレンビスステアロアミド等の滑剤;離型剤;有機ポリシロキサン、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、りん系熱安定剤等の酸化防止剤;ヒンダードアミン系光安定剤;ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;難燃剤;帯電防止剤、有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属ウィスカ等の補強剤;着色剤などである。これらの添加剤は、2種以上を混合して用いてもよい。
【0021】
本発明の難燃樹脂組成物は、その製造方法には特に限定はなく、公知の方法が利用できる。例えば、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、2軸スクリュー押出機、コニーダ、多軸スクリュー押出機等の一般的な混和機を用いた溶融混練方法等を用いることができる。
本発明の難燃樹脂組成物を成形品として使用する場合、成形方法としては、押出成形、射出成形、中空成形、圧空成形、真空成形、発泡成形、複層押出成形、複層射出成形、スラッシュ成形及びカレンダー成形などを用いることができる。
また、本発明の難燃樹脂組成物は、難燃性が必要とされる様々な用途に用いることができる。たとえば、家電部品、自動車部品等の電線の被覆材料、電力ケーブル、通信ケーブル、送電用ケーブルなどの被覆用材料や建築材料等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0022】
以下、製造例、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら
の例によって何ら限定されるものではない。
I.変性水素添加ブロック共重合体の作製
使用する変性水素添加ブロック共重合体は、まず非水添共重合体を作製、その後水添、変性反応して得た。この非水添共重合体を、しばしば「ベース非水添共重合体」と称する。
尚、水素添加ブロック共重合体等の特性は次の方法で測定した。
I−1)スチレン含有量
スチレン含有量は、ベース非水添共重合体を検体として、紫外分光光度計(UV−2450;島津製作所製)を用いて測定した。
I−2)ジエン部のビニル結合量
ベース非水添共重合体におけるブタジエン重合体ブロックのビニル結合量は、赤外分光光度計(FT/IR−230;日本分光社製)を用いて測定し、ハンプトン法により算出
した。
【0023】
I−3)重量平均分子量及び分子量分布
水素添加ブロック共重合体の重量平均分子量はベース非水添共重合体の重量平均分子量とほぼ等しいので、水添共重合体の重量平均分子量はベース非水添共重合体の重量平均分子量として求める。ベース非水添共重合体の重量平均分子量は、GPCにより測定した(米国ウォーターズ社製の装置を用いた)。溶媒としてテトラヒドロフランを用い、温度40℃で測定した。分子量が既知の市販の標準単分散ポリスチレン系ゲルを用いて作成した検量線を使用し、GPCクロマトグラムから重量平均分子量を求めた。
また、上記GPCクロマトグラムから数平均分子量を求めた。
分子量分布は、得られた重量平均分子量(Mw)の得られた数平均分子量(Mn)に対
する比として求める。
I−4)共役ジエン化合物の二重結合の水添率
水添率は、核磁気共鳴装置(DPX−400;ドイツ国BRUKER社製)を用いて測
定した。
I−5)変性量
無水マレイン酸の付加量は、ナトリウムメチラートによる滴定により求めた。
【0024】
製造例1;水素添加ブロック共重合体1の作製
内容積が100リットルの攪拌装置及びジャケット付き槽型反応器を用いて、共重合を以下の方法で行った。
シクロヘキサン10重量部を反応器に仕込んで温度70℃に調整した後、n−ブチルリ
チウムを全モノマー(反応器に投入したブタジエンモノマー及びスチレンモノマーの総量
)の重量に対して0.11重量%、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン
(以下TMEDAと称する)をn−ブチルリチウム1モルに対して0.5モル添加し、そ
の後モノマーとしてスチレン7.5重量部を含有するシクロヘキサン溶液(モノマー濃度22重量%)を約3分間かけて添加し、反応器内温を約70℃に調整しながら30分間反応させた。
【0025】
次に、ブタジエン85重量部を含有するシクロヘキサン溶液(モノマー濃度22重量%)を60分間かけて一定速度で連続的に反応器に供給した。この間、反応器内温は約70℃になるように調整した。
その後、更にモノマーとしてスチレン7.5重量部を含有するシクロヘキサン溶液(モノマー濃度22重量%)を約3分間かけて添加し、反応器内温を約70℃に調整しながら30分間反応させ、ブロック共重合体を得た。得られた共重合体のスチレン含有量は15重量%であり、ブタジエン部のビニル量は55%であった。また、共重合体の重量平均分子量は、9.8万、分子量分布は1.1であった。
【0026】
次に、得られたブロック共重合体に、下記水添触媒を共重合体の重量に対してチタンとして100重量ppm添加し、水素圧0.7MPa、温度65℃で水添反応を行った。反応終了後にメタノールを添加し、次に安定剤としてオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートを重合体の重量に対して0.3重量%添加し、水素添加ブロック共重合体1を得た。水添率は99%であった。
<水添触媒の調製:窒素置換した反応容器に乾燥、精製したシクロヘキサン1リットルを仕込み、ビス(η5−シクロペンタジエニル)チタニウムジクロリド100ミリモルを添加し、十分に攪拌しながらトリメチルアルミ二ウム200ミリモルを含むn−ヘキサン溶液を添加して、室温にて約3日間反応させた。>
【0027】
製造例2;水素添加ブロック共重合体2の作製
製造例1と同様に共重合を行った。 但し、TMEDAの添加量を0.4モルに、第1ステップで添加するスチレンの量を8.5重量部に、第2ステップで添加するブタジエンの量を83重量部に、第3ステップで添加するスチレンの量を8.5重量部に変更した。
得られた共重合体のスチレン含有量は17重量%であり、ブタジエン部のビニル量は48%であった。また、共重合体の重量平均分子量は、10.4万、分子量分布は1.1であった。
次に、製造例1と同様の方法で水添反応を行い、水素添加ブロック共重合体2を得た。水添率は99%であった。
【0028】
製造例3;変性水素添加ブロック共重合体1(ポリマー1)の作製
水添ブロック共重合体1を用い、下記の方法によって変性水素添加ブロック共重合体1(ポリマー1)を作製した。
100重量部の水素添加ブロック共重合体1に対して、2重量部の無水マレイン酸、0.1重量部のパーヘキサ25B<日本油脂社製>を均一に混合した後、二軸押出機(装置名;PCM−30<池貝鉄工社製>)に供給し、シリンダー温度240℃で変性反応を行った。得られた変性水素添加ブロック共重合体から、未反応の無水マレイン酸を加熱減圧除去し、ポリマー1を作製した。尚、ポリマー1の変性量を測定したところ、1.0重量%であった。
製造例4;変性水素添加ブロック共重合体2(ポリマー2)の作製
製造例1と同様にし、水素添加ブロック共重合体2を用いて変性水素添加ブロック共重合体2(ポリマー2)を作製した。ポリマー2の変性量を測定したところ、0.92重量%であった。
II.難燃樹脂組成物の製造
実施例1〜3、比較例1、2において、難燃樹脂組成物を製造した。
【0029】
[実施例1〜3および比較例1、2]
表1に示した配合で各成分を混合、二軸押出機(装置名;PCM30<池貝鉄工社製>)で混練し、ペレット化することにより組成物を得た。押出条件は、シリンダー温度が220℃、回転数が300rpmであった。得られた組成物を圧縮成形して2mm厚のシートを作成し、このシートを用いて種々の測定を行った。結果を表1に示す。
使用した成分を下記に示す。
(a)エチレン系共重合体
・EVA−1:エバフレックスEV270{VA量:28%、MFR:1のエチレン−酢酸ビニル共重合体<三井・デュポンポリケミカル社製>}
・EVA−2:エバフレックスEV40LX{VA量:41%、MFR:2のエチレン−酢酸ビニル共重合体<三井・デュポンポリケミカル社製>}
(b)変性共重合体
ポリマー1:製造例3で作製した変性水素添加ブロック共重合体1を使用
ポリマー2:製造例4で作製した変性水素添加ブロック共重合体2を使用
ポリマー3:タフマーMH5010{無水マレイン酸変性したオレフィン系エラストマー<三井化学社製>}
(c)無機充填剤
水マグ−1:キスマ5A{ステアリン酸処理した水酸化マグネシウム<協和化学工業(株)製>}
水マグ−2:キスマ5L{シランカップリング剤処理した水酸化マグネシウム<協和化学工業(株)製>}
その他成分
PTFE:ポリフロン MPA FA500{ポリテトラフルオロエチレン<ダイキン工業(株)製>}
【0030】
難燃樹脂組成物の物性は次の方法で測定した。
II−1)柔軟性(100%Mo)、引張強度、伸び
JIS K6251に準拠して引張強度と100%延伸時の応力(100%Mo)、破断伸びを測定した。引張速度は500mm/min、測定温度は23℃であった。100%Moは柔軟性の尺度である。100%Moが小さいほど柔軟性が良好である。
II−2)加熱老化性
サンプル片をオーブンに入れ、136℃で168時間加熱した。加熱後のサンプルを用い、II−1)と同様に引張試験を行った。加熱前の伸びに対する保持率を加熱老化性とした。保持率が100%に近い程、加熱老化性が優れている。
II−3)加熱変形性
JIS K6723に準拠して加熱変形試験を行った。条件は、温度120℃、荷重1kg、1時間で行った。変形率(%)が小さい程、加熱変形性が優れる。
II−4)耐寒性
シートを−25℃の条件下に4時間置いた。状態調節後のシートを折り曲げ、耐寒性を割れの有無により判断した。 ・割れない:○
・割れる :×
II−5)難燃性
VW1に準じた燃焼性試験を行った。
【0031】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の難燃樹脂組成物は、難燃性を有し、且つ柔軟性、耐熱性(加熱老化性、加熱変形性等)、耐寒性に優れる。この特性を活かし、難燃性が必要とされる様々な用途、軟質塩化ビニル樹脂が使用されている各用途に好適に用いることができる。具体的には、家電部品、自動車部品等の電線の被覆材料、電力ケーブル、通信ケーブル、送電用ケーブルなどの被覆用材料や建築材料等に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)エチレン系共重合体17〜35重量%、(b)変性水素添加ブロック共重合体3〜15重量%および(c)無機充填剤50〜80重量%を含む難燃樹脂組成物。
【請求項2】
成分(b)が,ビニル芳香族炭化水素含有量10重量%以上20重量%未満である水素添加ブロック共重合体にα、β−不飽和カルボン酸又はその誘導体が結合してなる変性水素添加ブロック共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の難燃樹脂組成物。
【請求項3】
成分(a)が、エチレン−酢酸ビニル共重合体であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の難燃樹脂組成物。
【請求項4】
成分(c)が、金属水酸化物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の難燃樹脂組成物。
【請求項5】
JISK6251準拠の100%伸び時の引張弾性率(100%Mo)が、10MPa以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の難燃樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−249311(P2006−249311A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−69070(P2005−69070)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】