説明

難燃繊維複合体

【目的】 風合や吸湿性などに優れ、実用的に高度の難燃性を有する難燃繊維複合体をうる。
【構成】 ハロゲン原子を17〜86重量%含む重合体に、Sb化合物と周期表IIB属の元素を有する水酸化物、 IIIA属の元素を有する水酸化物、 IIIB属の元素を有する水酸化物、IVB属の元素を有する水酸化物、VIB属の元素を有する水酸化物、 VIIB属の元素を有する水酸化物およびVIII属の元素を有する水酸化物よりなる群から選ばれた少なくとも1種とからなる難燃剤を前記重合体に対して合計6〜50重量%含有させた繊維85〜15重量部に対して、天然繊維および化学繊維よりなる群から選ばれた少なくとも1種の繊維15〜85重量部を複合した難燃繊維複合体。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、難燃剤で高度に難燃強化されたハロゲン含有繊維と天然繊維および化学繊維の少なくとも1種の繊維とを複合した難燃繊維複合体に関する。さらに詳しくは、Sb化合物と特定の水酸化物の少なくとも1種とからなる難燃剤を多量に含有せしめたハロゲン含有繊維と、天然繊維および化学繊維の少なくとも1種の他の繊維とを複合して、他の繊維のもつ風合や吸湿性などの優れた特性を有し、かつ実用的に高度の難燃性を有する難燃繊維複合体に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、インテリアのみならず、衣料や寝具用繊維製品においても難燃化が強く要望され、しかも難燃性以外の視感、風合、吸湿性、耐洗濯性、耐久性などの性能に対する要望も強まってきている。
【0003】従来より繊維の難燃化に関する研究は、モダアクリル系繊維やポリクラール系繊維を中心に、ポリエステル系繊維やビスコースレーヨン繊維など特定繊維の単独物について主に行なわれており、1種の繊維の単独物では難燃性能に優れたものもえられているが、消費者のますます多様化し、高度化する要求にはほとんどこたえられていないのが現状である。したがって、必然的に難燃性繊維と他の繊維との混綿、混紡、交織などが必要となるが、2種以上の異種の繊維を混合した複合体に対する難燃化の研究は数が少ない。
【0004】たとえば、含燐ポリエステル繊維とアクリロニトリル系繊維との混合による複合体(特公昭52-21612号公報)や、スズ酸およびアンチモン酸含有ポリクラール繊維とポリエステル繊維、アクリル繊維、木綿などとを混合した複合体繊維(特開昭53-6617 号公報)が有効であるとの記載があるが、難燃性、風合、吸湿性などの点で充分とはいいがたい。
【0005】そこで、本発明者らはすでに、消費者のますます多様化し、高度化する難燃性、視感、風合、吸湿性、耐洗濯性、耐久性などに対する要求にこたえるため、特開昭61-89339号公報において難燃性繊維と難燃性に劣る天然繊維または化学繊維との互いの長所を生かした難燃繊維複合体について提案している。
【0006】しかしながら、その難燃性は実用的には未だ充分とはいえない。
【0007】すなわち、実用的な難燃性を評価する方法として各種の燃焼試験が定められており、炭化長や炭化面積あるいは残炎時間などの基本的な項目とともに、炎が消えたあとの無炎燃焼(以下、残燼時間という)をも含めた高度な難燃性を有することが要求される。
【0008】特開昭61-89339号公報における難燃繊維複合体は、酸素指数(以下、LOI という)しか示されていないだけでなくこれらの実用的な評価方法によると、基本的な項目においては良好な難燃性を示すが、残燼時間をも含めた高度な難燃性においていまだ充分とはいえない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、前記のごとき本発明者らの提案した難燃繊維複合体における、実用的に充分高度な難燃性を有する難燃繊維複合体がえられていないという問題を解決するためになされたものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、かかる実情に鑑み鋭意検討を重ねた結果、Sb化合物と特定の水酸化物とからなる難燃剤を多量に含有したハロゲン含有重合体よりなる繊維を他の可燃性繊維と混合して複合体にすると、従来の難燃繊維複合体と比べて、実用的な難燃性の低下の度合が極めて小さくなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】すなわち、本発明は、ハロゲン原子を17〜86%(重量%、以下同様)含む重合体に、Sb化合物と周期表IIB属の元素を有する水酸化物、 IIIA属の元素を有する水酸化物、 IIIB属の元素を有する水酸化物、IVB属の元素を有する水酸化物、VIB属の元素を有する水酸化物、 VIIB属の元素を有する水酸化物およびVIII属の元素を有する水酸化物よりなる群から選ばれた少なくとも1種とからなる難燃剤を前記重合体に対して合計6〜50%含有させた繊維(以下、ハロゲン難燃剤含有繊維ともいう)85〜15部(重量部、以下同様)に対して、天然繊維および化学繊維よりなる群から選ばれた少なくとも1種の繊維(以下、他の繊維ともいう)15〜85部を複合した難燃繊維複合体に関するものであって、実用的に高度な難燃性を有し、かつ視感、風合、吸湿性、耐洗濯性、耐久性などの消費者の多様化し、高度化した要求を満足させるものである。
【0012】前記難燃繊維複合体とは、ハロゲン難燃剤含有繊維と他の繊維とを混紡または混綿したもの、ハロゲン難燃剤含有繊維と他の繊維とを交撚したもの、前記混紡もしくは混綿したものを用いて製造した糸または前記交撚したものを用いて製造した交織または交編したもの、さらにはこれらの組合わせによってえられるものすべてを含む概念である。
【0013】また、前記水酸化物とは、前述の金属または非金属の水和水酸化物、水和酸化物あるいはこれらの中間のもの(水和オキシ水酸化物)などをいい、たとえば一般式:M(OH)nまたはMmO・nH2 O(Mは前述の金属または非金属の元素、m、nは整数)で表わされるようなものであり、陰性成分が水酸基である化合物に限らない。
【0014】
【実施例】本発明においては、ハロゲン原子を17〜86%、好ましくは17〜73%含む(共)重合体に、Sb化合物と特定の水酸化物の少なくとも1種とからなる難燃剤を該重合体に対して合計6〜50%含有させた繊維(ハロゲン難燃剤含有繊維)が使用される。
【0015】本発明に用いるハロゲン原子を17〜86%含む重合体としては、たとえばハロゲン含有単量体の重合体、ハロゲン含有単量体を含有する単量体の共重合体、ハロゲン原子を含有しない単量体からの重合体にハロゲン含有化合物を添加した重合体、後加工によりハロゲン原子を導入した重合体、これら重合体の混合物またはこれら重合体もしくはこれら重合体の混合物とハロゲン原子を含有しない単量体からの重合体との混合物などがあげられる。これらのうちではハロゲン含有単量体の単独重合体や共重合体が好ましい。
【0016】このような重合体の具体例としては、たとえば塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデンなどのハロゲン含有単量体の単独重合体または2種以上の共重合体、アクリロニトリル- 塩化ビニリデン、アクリロニトリル- 塩化ビニル、アクリロニトリル- 塩化ビニル- 塩化ビニリデン、アクリロニトリル-臭化ビニル、アクリロニトリル- 塩化ビニリデン- 臭化ビニル、アクリロニトリル- 塩化ビニル- 臭化ビニルなどハロゲン含有ビニル系単量体とアクリロニトリルとの共重合体、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデンなどのハロゲン含有ビニル系単量体の1種以上とアクリロニトリルおよびこれらと共重合可能なビニル系単量体との共重合体、アクリロニトリル単独重合体にハロゲン含有化合物(たとえばデカブロモジフェニルオキサイドなど)を添加した重合体、ハロゲン含有ポリエステル、ポリ塩化ビニルなどとポリビニルアルコールやポリアクリロニトリルとの混合物などがあげられるが、これらに限定されるものではない。また前記単独重合体や共重合体を適宜混合して使用してもよい。これらのうちではアクリロニトリルを共重合したモダクリル重合体が好ましい。
【0017】前記共重合可能なビニル系単量体としては、繊維としての特性を改良するためのたとえばアクリル酸やそのエステル、メタクリル酸やそのエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、ビニルスルホン酸やその塩、メタクリルスルホン酸やその塩、スチレンスルホン酸やその塩などのビニル系単量体が1種または2種以上用いられうる。
【0018】前記ハロゲン原子を17〜86%含む重合体がアクリロニトリル30〜70%、ハロゲン含有ビニル系単量体70〜30%およびこれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10%からなる重合体のばあいには、えられる繊維が所望の難燃性を有しつつアクリル繊維の風合を有するため好ましい。また共重合可能なビニル系単量体の少なくとも1種がスルホン酸基含有ビニル系単量体のばあいには、染色性が向上するので好ましい。
【0019】なお、前記ハロゲン原子を17〜86%含む重合体中のハロゲン含量が17%未満では、繊維を難燃化することが困難となり、また86%をこえると、製造された繊維の物性(強度、伸度、耐熱性など)、染色性、風合などの性能が充分でなくなり、いずれも好ましくない。
【0020】本発明に用いるSb化合物は難燃剤として用いられるものであり、その具体例としては酸化アンチモン(Sb2 3 、Sb2 4 、Sb2 5 )、アンチモン酸、オキシ塩化アンチモンなどの無機アンチモン化合物があげられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】これらはSb化合物のみで用いると実用的に高度な難燃性をうることができないため、周期表IIB属の元素を有する水酸化物、 IIIA属の元素を有する水酸化物、 IIIB属の元素を有する水酸化物、IVB属の元素を有する水酸化物、VIB属の元素を有する水酸化物、 VIIB属の元素を有する水酸化物およびVIII属の元素を有する水酸化物の少なくとも1種以上と組合わせて用いられる。
【0022】前記Sb化合物と組合わせて用いられる周期表IIB 族の元素を有する水酸化物の具体例としては、たとえば水酸化亜鉛、 IIIA族の元素を有する水酸化物の具体例としては、たとえば水酸化アルミニウム、 IIIB族の元素を有する水酸化物の具体例としては、たとえば水酸化ジルコニウム、VIB族の元素を有する水酸化物の具体例としては、たとえば水酸化クロム、 VIIB族の元素を有する水酸化物の具体例としては、たとえば水酸化マンガン、VIII族の元素を有する水酸化物の具体例としては、たとえば水酸化鉄、水酸化コバルト、水酸化ニッケルなどがあげられる。これらのうちでは水酸化アルミニウム、水酸化亜鉛、水酸化ジルコニウムが難燃性やその他の品質、たとえば繊維の着色などを防止するという点から好ましい。
【0023】ハロゲン原子を17〜86%含む重合体に対するSb化合物と特定の水酸化物の少なくとも1種の難燃剤との合計の含有量は6〜50%、好ましくは8〜40%、さらに好ましくは8〜30%である。前記Sb化合物と特定の水酸化物との合計の含有量が6%未満では、難燃繊維複合体として必要な難燃性をうるために、ハロゲン難燃剤含有繊維の複合体中における混合率を高める必要がある。このようにハロゲン難燃剤含有繊維の混合率を高めると、難燃繊維複合体の難燃性以外の、たとえば視感、風合、吸湿性、耐洗濯性、耐久性などの性能がえられにくくなる。一方、前記合計の含有量が50%をこえると、繊維製造時のノズル詰まりや繊維物性(強度、伸度など)の低下がおこり、高度に難燃強化した繊維の製造面や品質面などで問題が生じ、好ましくない。
【0024】前記ハロゲン難燃剤含有繊維におけるSb化合物と特定の酸化物との割合は、通常Sb化合物に対して重量で特定の水酸化物1/5 〜5倍量、好ましくは1/3 〜1倍量である。前記特定の水酸化物の割合が1/5 倍量未満では残燼時間が増し、5倍量をこえると炭化長や炭化面積あるいは残炎時間などの基本的な特性値が増加するなどSb化合物と特定の水酸化物を併用する効果が小さくなり、実用的に好ましい難燃性をうることができなくなる傾向が生ずる。
【0025】本発明においてはハロゲン難燃剤含有繊維15〜85部に対して、天然繊維および化学繊維よりなる群から選ばれた少なくとも1種の繊維85〜15部を複合した難燃繊維複合体が製造される。
【0026】本発明におけるハロゲン難燃剤含有繊維と天然繊維および化学繊維よりなる群から選ばれた少なくとも1種の繊維との使用割合は、最終製品に要求される難燃性、視感、風合、吸湿性、耐洗濯性、耐久性などの性能により決定されるものである。なお、ハロゲン難燃剤含有繊維の種類およびその構成割合、特定の水酸化物の種類および添加量、混合する他の繊維の種類および組合わせなどにより前記使用割合が決められる。
【0027】前記ハロゲン難燃剤含有繊維が15部未満、すなわち混合する他の繊維の割合が85部をこえるばあいには、難燃繊維複合体の難燃性が不足し、一方、ハロゲン難燃剤含有繊維が85部をこえ、混合する他の繊維の割合が15部未満のばあいには、難燃性は優れているが他の視感、風合、吸湿性、耐洗濯性、耐久性などの性能が充分でなくなり、いずれも好ましくない。
【0028】本発明の難燃繊維複合体が所望の難燃性を有し、しかも混合する天然繊維や化学繊維の特徴をはっきりとださせるためには、ハロゲン難燃剤含有繊維が85〜20部で、混合する天然繊維や化学繊維の割合が15〜80部であることがより好ましい。
【0029】本発明の難燃繊維複合体が優れた難燃性を有する理由は、ハロゲン難燃剤含有繊維にガス型の難燃効果を生ずるSb化合物が多量に混合されているため、不燃性のハロゲン化水素、ハロゲン、ハロゲン化アンチモンなどのガスを比較的低温で生成するととともに、該不燃性の分解物が可燃性の繊維を被覆してしまうこと、およびSb化合物のみを使用したばあいの下記欠点が特定の水酸化物の使用により解消されるためである。
【0030】前記Sb化合物のみを使用したばあいの欠点とは、Sb化合物の反応と不燃性ガス生成が比較的低温でおこるために、幾分かの可燃性成分が残り、高温の炎の中にさらされると完全に消火せず、無炎燃焼するばあいがあることである。実用的燃焼試験などにおいて、残燼といわれている現象である。
【0031】本発明では、特定の水酸化物をSb化合物と併用することにより、この残燼の問題をも解決することができ、実用的に高度な難燃性をうることが可能となっている。これは、併用する特定の水酸化物の水を含む分解ガスの発生や吸熱効果、反応温度、炭化型の難燃効果などがSb化合物のばあいと異なっているために、これらを併用することにより難燃性を互いに補完強化するためと推察される。
【0032】前記天然繊維の具体例としては、たとえば綿、麻などの植物繊維や、羊毛、らくだ毛、山羊毛、絹などの動物繊維など、また化学繊維の具体例としては、たとえばビスコースレーヨン繊維、キュプラ繊維などの再生繊維、アセテート繊維などの半合成繊維、あるいはナイロン繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維などの合成繊維などがあげられるが、これらに限定されるものではない。これらのうちでは、天然繊維、再生繊維と複合したばあいに顕著に難燃性を向上させうる。これらの天然繊維や化学繊維は単独でハロゲン難燃剤含有繊維と複合してもよく、2種以上で複合してもよい。
【0033】本発明に用いるハロゲン難燃剤含有繊維は、無機金属化合物などの難燃剤を多量に含むものであるが、製造に際しては無機金属化合物などの難燃剤を振動ミルなどで充分粉砕し、粒径を2μm以下に揃えることにより、ノズル詰まりや糸切れなどの紡糸上のトラブルを起こすことなく、通常の紡糸方法で製造することができる。
【0034】難燃繊維複合体を製造する方法としては、ハロゲン難燃剤含有繊維と他の繊維を単繊維の状態で混綿したり、混紡したりしてもよく、それらの糸またはそれぞれの糸を交撚してもよく、あるいは前記糸の一部または全部の糸を長繊維にして交撚してもよく、それぞれの糸を製造したのち交織してもよく、紡績のときに固まりにしてスラブやネップにしたり、巻きつけたりしてもよい。
【0035】なお、本発明における難燃繊維複合体には、長繊維、短繊維のごときいわゆる繊維のみならず、糸、織物、編物、不織布などのごとき繊維製品も含まれる。
【0036】本発明の難燃繊維複合体の難燃性が優れていることは、可燃性の天然繊維や化学繊維が複合体中に局在しているほど、すなわち混紡より交撚、交織のものほど、実用的に高度な難燃性をうることが難しいにもかかわらず、本発明の難燃繊維複合体が交撚、交織のばあいにもその効果が顕著であることからも明らかである。
【0037】本発明の難燃繊維複合体には、必要に応じて帯電防止剤、熱着色防止剤、耐光性向上剤、白度向上剤、失透性防止剤、Sb化合物および特定の水酸化物以外の難燃剤などを含有せしめてもよいことは当然のことである。
【0038】このようにしてえられる本発明の難燃繊維複合体は、所望の実用的に高度な難燃性を有し、しかも混合する他の繊維の視感、風合、吸湿性、耐洗濯性、耐久性などが良好であるという特性を有している。
【0039】以下、実施例をあげて本発明の難燃繊維複合体をさらに詳しく説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0040】実施例1アクリロニトリル49.0%および塩化ビニル51.0%よりなる共重合体をアセトンに樹脂濃度が27.0%になるように溶解した。えられた樹脂溶液の一部をアセトンで3倍に希釈した液に、三酸化アンチモンを固形分濃度が50%になるように加え、振動ミルを用いて分散させた。この分散液を三酸化アンチモンが樹脂に対し20%になるように前記樹脂溶液に添加混合し、同様に水酸化アルミニウムを樹脂に対して10%となるように添加混合して、紡糸原液を調製した。
【0041】えられた紡糸原液をノズル孔径0.08mmおよび孔数300 ホールのノズルを用い、30%アセトン水溶液中へ押出し、水洗したのち120 ℃で乾燥し、ついで3倍に熱延伸して、さらに140 ℃で5分間熱処理を行なうことにより、ハロゲン難燃剤含有モダアクリル繊維をえた。
【0042】この繊維に油剤を付与し、捲縮し、切断したのち紡績して綿番手10/1の紡績糸をえた。
【0043】さらに製織、仕上げなどの工程を経て経糸が木綿30/1、160 本/インチ、緯糸が該ハロゲン難燃剤含有モダアクリル繊維10/1、65本/インチの織布(難燃繊維複合体)をえた。えられた織布中における繊維の混合割合は、ハロゲン難燃剤含有モダアクリル繊維が55%、木綿が45%であった。
【0044】えられた織布の残燼時間(秒)、LOI 値および易燃繊維(木綿)の特徴の有無を下記方法にしたがって測定した。また、残燼時間測定時の残燼時間以外の評価項目(残炎時間、炭化面積など)、LOI 値、燃焼状態(炎の大きさが小さくて燃え拡がらないか)、燃焼後のサンプルの状態(炭の硬さが硬くなっており燃え拡がらないか)を含めて総合的に難燃性に優れたものを、優、良、不良の3段階で評価した。
【0045】結果を表1に示す。
【0046】(残燼時間)JIS L 1091A-1 法に準じて測定したときの最大残燼時間(秒)によって評価した。残燼時間は小さいほど、難燃性が高い。
【0047】(LOI 値)難燃繊維と易燃繊維との複合体のばあいには、複合体の組成に応じて混綿して測定される。
【0048】所定の割合で混綿した綿を2g取り、これを8等分して約6cmのコヨリを8本作って酸素指数試験器のホルダーに直立させ、この試料が5cm燃え続けるのに必要な最少酸素濃度を測定し、これをLOI 値とした。なお、一般に繊維の難燃性は織物の状態で測定、評価されているが、織物では糸の撚数、太さ、打込本数などにより燃焼性に差を生じ、繊維複合体自体の実用的な燃焼性を正しく評価しえないため、コヨリを用いたLOI 値を難燃性評価の値として記載した。LOI 値が大きいほど燃えにくく、難燃性が高い。
【0049】(易燃繊維の特徴の有無)繊維複合体が易燃繊維(綿)の特徴(視感、風合、吸湿性など)を有するか否かについて目視、指触法による官能試験および重量法による評価を行なった。○は易燃繊維(綿)としての特徴を有する、×は有しないことを示す。
【0050】比較例1〜2実施例1における三酸化アンチモン20%および水酸化アルミニウム10%のかわりに、三酸化アンチモンを30%にした繊維をえ、実施例1と同様にして織布をえ、評価した(比較例1)。
【0051】また、同様に水酸化アルミニウムを30%にした繊維をえ、実施例1と同様にして織布をえ、評価した(比較例2)。
【0052】それらの結果を表1に示す。
【0053】
【表1】


【0054】表1から、実施例1、比較例1〜2ともに、木綿の混合割合が45%であり、木綿としての良好な特徴をいずれも有しているが、難燃性において残燼、総合判定ともに実施例1が優れた結果を示したのに対して、比較例1は残燼時間の点で劣り、比較例2は炭化長が20cmをこえ全焼するなど基本的難燃性能の点においてはるかに劣っており、総合判定を不良とした。
【0055】実施例2〜4および比較例3〜5実施例1と同様にアクリロニトリル49.5%、塩化ビニリデン50.5%よりなる共重合体に対して、三酸化アンチモン15%と、特定の水酸化物として水酸化亜鉛6%(実施例2)、水酸化アルミニウム6%(実施例3)または水酸化ジルコニウム6%(実施例4)とをそれぞれ混合含有させたハロゲン難燃剤含有モダクリル繊維をえた。
【0056】比較例のために三酸化アンチモンのみを21%(比較例3)、三酸化アンチモン15%とメタスズ酸6%(比較例4)、または三酸化アンチモン15%と酸化マグネシウム6%(比較例5)をそれぞれ含有したハロゲン難燃剤含有モダクリル繊維をえた。
【0057】えられた繊維を用いてそれぞれ綿番手20/1の紡績糸をえ、経糸が木綿30/1、130 本/インチ、緯糸が前記紡績糸を90本/インチ打込んだ交織布をえた。
【0058】えられた織布を用いて実施例1と同様にして評価を行なった。結果を表2に示す。
【0059】
【表2】


【0060】表2から、実施例2〜4は、残燼時間、総合判定がともに良好であるのに対して、比較例3〜5は残燼時間が劣り、実用的に高度の難燃性を有していないことがわかる。
【0061】実施例5および比較例6平均重合度1700、ケン化度99モル%のPVA を70℃で水に溶解して16%のPVA 水溶液を調製し、これに濃度30%のポリ塩化ビニル(以下、PVC という)エマルジョンを加え、さらに別途調製した50%濃度の三酸化アンチモンと水酸化アルミニウムを含む水分散液を加えてよく攪拌し、重量比でPVC :PVA :三酸化アンチモン:水酸化アルミニウム=50:50:10:5となるように混合し、紡糸原液を調製した。
【0062】えられた紡糸原液を湿式エマルジョン紡糸法により45℃の飽和芒硝水溶液(350g/l)中に吐出し、ついで95℃の飽和芒硝水溶液中で熱処理して水洗したのち、乾燥、延伸、熱処理を行なった。
【0063】えられた繊維をさらに70℃のアセタール化浴中でアセタール化したのち、炭酸ナトリウム水溶液で中和、水洗、乾燥を行ない、重量比でPVC :部分アセタール化PVA :三酸化アンチモン:水酸化アルミニウム=49:51:10:5の2dの高度に難燃性を付与したハロゲン難燃剤含有ポリクラール繊維をえた。
【0064】えられた繊維60部と綿40部とを混紡し、経糸用30/1、緯糸用20/1の糸をえて経糸80本/インチ、緯糸60本/インチの織布をえた(実施例5)。
【0065】一方、三酸化アンチモンのみを前記樹脂に対し15%添加したものを同様に紡糸し、重量比でPVC :部分アセタール化PVA :三酸化アンチモン=49:51:15の2dのポリクラール繊維を比較のために製造し、同様の混綿比率と織規格により織布をえて評価した(比較例6)。
【0066】結果を表3に示す。
【0067】
【表3】


【0068】表3から、実施例5は、残燼時間、総合判定がともに優れているのに対して、比較例5は残燼時間が劣っていることがわかる。
【0069】実施例6〜7および比較例7〜8アクリロニトリル48%および塩化ビニル52%よりなる共重合体に対して、五酸化アンチモン8%および水酸化アルミニウム7%を含有した1.5dのハロゲン難燃剤含有モダクリル繊維をえた。これを常法により綿番手10/1の紡績糸とし、経糸がビスコースレーヨンフィラメント75d/2 、100 本/インチ、緯糸が前記紡績糸、35本/インチの織布をえた(実施例6)。
【0070】また、経糸をキュプラフィラメントとした他は前記と同様にして織布をえた(実施例7)。
【0071】実施例6、7の緯糸のかわりにそれぞれ五酸化アンチモン15%を含有したモダクリル繊維にしたものを比較例7、8として製造した。
【0072】えられた4種の織布について実施例1と同様にして評価した。結果を表4に示す。
【0073】
【表4】


【0074】表4から、実施例6、7は比較例7、8と比較して残燼時間、総合評価ともに優れていることがわかる。
【0075】実施例8〜11および比較例9〜10実施例1と同組成のハロゲン難燃剤含有モダクリル繊維と木綿との混合比率を表5に示すように変えた混紡糸をえた。これらの糸をそれぞれ緯糸30/1、80本/インチ、経糸20/1、60本/インチとして用い、織布をえ、実施例1と同様にして評価した。結果を表5に示す。
【0076】
【表5】


【0077】表5から、比較例9は難燃性において優れているが、木綿の特徴である風合、吸湿性などの長所を複合体に与えることができない。また比較例10は燃焼試験において全焼してしまうなど、難燃性の総合評価で劣る。
【0078】一方、実施例8〜11は実用的に高度な難燃性に優れ、木綿としての特徴を有することがわかる。
【0079】
【発明の効果】本発明の難燃繊維複合体は、風合や吸湿性などに優れ、かつ実用的に高度の難燃性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ハロゲン原子を17〜86重量%含む重合体に、Sb化合物と周期表IIB属の元素を有する水酸化物、 IIIA属の元素を有する水酸化物、 IIIB属の元素を有する水酸化物、IVB属の元素を有する水酸化物、VIB属の元素を有する水酸化物、 VIIB属の元素を有する水酸化物およびVIII属の元素を有する水酸化物よりなる群から選ばれた少なくとも1種とからなる難燃剤を前記重合体に対して合計6〜50重量%含有させた繊維85〜15重量部に対して、天然繊維および化学繊維よりなる群から選ばれた少なくとも1種の繊維15〜85重量部を複合した難燃繊維複合体。
【請求項2】 前記Sb化合物とともに使用される水酸化物が、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウムおよび水酸化ジルコニウムから選ばれた少なくとも1種である請求項1記載の難燃繊維複合体。
【請求項3】 前記Sb化合物とともに使用される水酸化物の量が、Sb化合物の重量の1/5 〜5倍量である請求項1記載の難燃繊維複合体。
【請求項4】 前記ハロゲン原子を17〜86重量%含む重合体が、アクリロニトリル30〜70重量%、ハロゲン含有ビニル系単量体70〜30重量%およびこれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10重量%よりなる共重合体である請求項1記載の難燃繊維複合体。
【請求項5】 前記共重合可能なビニル系単量体の少なくとも1種がスルホン酸基含有ビニル系単量体である請求項4記載の難燃繊維複合体。

【公開番号】特開平5−148728
【公開日】平成5年(1993)6月15日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−310872
【出願日】平成3年(1991)11月26日
【出願人】(000000941)鐘淵化学工業株式会社 (3,932)