説明

雨水幹線及びその施工方法

【課題】 シールド工法により形成した流水管路と、NATM工法により形成した貯水トンネルとを組み合わせて形成することで、流水管路の管径を小径に形成することを可能にして流水管路を形成するための施工を簡単にさせ、イニシャルコストを安価にすると共に、工期を短縮することができ、さらに流水管路の最下流部に形成させた貯水トンネルに雨水を貯水させることで、排水ポンプの小型化及びポンプ場設備の簡素化を可能にして、ランニングコストを低減でき、イニシャルコストとランニングコストを低減させて、ライフサイクルコスト(L.C.C)を大幅に低減できる雨水幹線の提供。
【解決手段】 シールド工法により形成された流水管路1と、前記流水管路の最下流部に連続してNATM工法により形成された貯水トンネル2を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、都市部の浸水被害対策として、地中に形成される雨水幹線の構造と、その施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
都市部においては、舗装面等の不透水路面の拡大等により雨水が地下に浸透しにくくなっており、このため、大雨時、特に集中豪雨時等には道路等に雨水が溢れ、浸水被害が発生し易い環境になっている。
このような浸水被害を解消するための対策として、従来、地中に形成した雨水幹線に雨水を流入させ、この雨水幹線に雨水を貯水させることで、地上に雨水が溢れるのを抑制するようにした技術が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
図3及び図4に示すように、従来の雨水幹線Bは、全長がシールド工法により形成された管路で形成され、その最下流部に排水ポンプ6を設けた構造が一般的である。なお、図中70,71,72は作業用立坑である。
なお、前記図3及び図4に示した雨水幹線Bの例では、管径5m、全長2000m、貯水量40,000mの管路5に設計されている。
【0004】
このように、雨水幹線Bの全長をシールド工法により形成した管路5で形成すると、その全長(距離)を一定とした場合、貯水量を増大させるには、管路5の管径を大径にする必要が生じる。
管路5の管径を大径にすると、掘削設備が大掛かりになると共に、セグメントも大径になるため、イニシャルコストや工期の面で不利になる。
又、管径が大きな管路であるにもかかわらず、大雨時以外の通常時は単なる雨水用の下水管としてだけの機能しかなく、数年に一度あるかないかの大雨対策としてのコスト負担から見れば、不経済設備になってしまう。
【0005】
又、管路5内に雨水を貯水させる従来の雨水幹線Bでは、大雨によって管路5内が雨水で満水になった場合を想定して排水ポンプ6の排水能力を大きく設定させる必要がある。
このように、従来では、排水ポンプ6に排水能力が大きい大型排水ポンプを用い、この大型排水ポンプを大雨時以外の常時排水用としても稼動させる必要があるし、また、ポンプ場設備が全体的に大掛かりになるため、メンテナンスに要するコストを含めたランニングコストが高くなってしまうという問題があった。
【特許文献1】特開平6−264495号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、シールド工法により形成した流水管路と、NATM工法により形成した貯水トンネルとを組み合わせて形成することで、流水管路の管径を小径に形成することを可能にし、これにより流水管路を形成するための施工を簡単にさせて、イニシャルコストを安価にすると共に、工期を短縮することができるようにする。
さらに流水管路の最下流部に貯水トンネルを形成させ、この貯水トンネルに雨水を貯水させることで、従来に比べて排水ポンプの小型化及びポンプ場設備の簡素化を可能にし、ランニングコストを低減できるようにする。
このように、イニシャルコストとランニングコストを低減させ、ライフサイクルコスト(L.C.C)を大幅に低減できる雨水幹線を提供することを第1の課題としている。
【0007】
又、NATM工法により貯水トンネルを形成するに際してのイニシャルコストを安価にすると共に、工期を短縮することができるようにした雨水幹線の施工方法を提供することを第2の課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記第1の課題を解決するために、本発明(請求項1)の雨水幹線は、
シールド工法により形成された流水管路と、前記流水管路の最下流部に連続してNATM工法により形成された貯水トンネルを備えている構成とした。
【0009】
又、本発明(請求項2)の雨水幹線は、前記請求項1記載の雨水幹線において、前記貯水トンネルが軟岩層(例えば、頁岩層)に形成されている構成とした。
【0010】
又、上記の第2の課題を解決するために、本発明(請求項3)の雨水幹線の施工法は、
前記請求項1又は2記載の雨水幹線を形成するための施工方法であって、前記貯水トンネルをNATM工法により形成させる際に、前記流水管路を形成するためにシールド工法により形成したシールド孔を先進導坑として利用する構成とした。
【0011】
シールド工法は、掘進機を発進させるための立坑を造り,その中に掘進機をおろし、掘進機の前面の土を掘削しながら油圧ジャッキで前進させる。そして、掘進機の後部でセグメントを組み立ててトンネルを形成するもので、本発明では、このシールド工法を用いて流水管路を形成している。なお、雨水幹線の流水管路には、コンクリート製セグメントを用いるのが一般的である。
【0012】
又、NATM工法は、掘ったトンネルの壁面にコンクリートを吹きつけて壁面を固め、さらにロックボルトを打設してグランドアーチを築くようにしたもので、その吹き付けコンクリートとロックボルト等を主な支保部材として、地盤が持つ固有の強度を積極的に活用してトンネルを安定に支持しようという工法で、本発明では、このNATM工法を用いて貯水トンネルを形成している。
【0013】
なお、シールド工法とNATM工法で同一軟岩層に同一規模の地下大空間を施工した場合、NATM工法の方がシールド工法に比べて施工が容易で、コストや工期の面で有利であり、又、NATM工法は必要に応じて断面形状や断面寸法を自在に設定できるという設計自由度も有している。

【発明の効果】
【0014】
本発明(請求項1)の雨水幹線は、シールド工法により形成した流水管路と、NATM工法により形成した貯水トンネルとを組み合わせて形成した構成に特徴がある。
即ち、流水管路の最下流部に連続して貯水部として機能する貯水トンネルを形成させることによって、流水管路には貯水機能を持たせる必要がなくなり、基本的には流水機能を持たせれば足りる。
なお、流水管路は、雨水を貯水トンネルに導水させる流水機能を基本的な機能としているが、この貯水トンネルが満水になった場合、それ以上の雨水はこの流水管路に貯水されることになる。
【0015】
このように、流水管路には貯水機能を持たせる必要がなく、流下機能を持たせれば足りるため、その管径を小径にすることが可能になる。これによりシールド工法により流水管路を形成するための施工が簡単になり、イニシャルコストや工期の面で有利になる。
【0016】
又、施工が容易なNATM工法により貯水トンネルを形成したので、この貯水トンネルを形成するための施工コストや工期についても有利になる。
【0017】
又、貯水トンネルをNATM工法により形成したので、必要とする貯水量に応じて断面寸法や長さを自在に設定でき、設計自由度が得られるし、貯水量の変更にも容易に対応できる。
このようにNATM工法によれば、断面寸法や長さを自在に設定できるため、貯水量に余裕を持たせるように、その断面寸法を設定できる。
従って、必要とする貯水量以上に余裕を持たせるように貯水量を増量させれば、治水安全性を確保することができる。
【0018】
又、流水管路の最下流部に貯水トンネルを形成させ、この貯水トンネルに雨水を貯水させるようにしたので、排水ポンプの小型化及びポンプ場設備の簡素化が可能になり、ランニングコストを低減できるもので、このように、イニシャルコストとランニングコストを低減させ、ライフサイクルコスト(L.C.C)を大幅に低減することができる
【0019】
又、貯水トンネルに雨水を貯水できるため、その溜まった雨水を消火用や路面散布用等として使用するなど、利水性も得られる。
【0020】
なお、前記貯水トンネルを軟岩層に形成させると(請求項2)、この軟岩層は、掘削し易く、しかも地震に対し安定しているという利点が有ることから、NATM工法による施工地層として好適地層と言える。例えば、福岡市(福岡県)は、地下15m以下が軟岩層(頁岩層)で形成されており、本願発明の雨水幹線を形成するのに非常に適した地域である。
【0021】
本発明(請求項3)の雨水幹線の施工方法は、前記流水管路を形成するためにシールド工法により形成したシールド孔を、貯水トンネルをNATM工法により形成させる際の先進導坑として利用する構成に特徴がある。
このように、シールド孔を貯水トンネルの先進導坑として利用するため、貯水トンネルをNATM工法により形成させる際に、わざわざ先進導坑を形成するといった必要がなくなり、その分、イニシャルコストや工期の面で有利になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は本発明実施例にかかる雨水幹線の平面説明図、図2はその雨水幹線の断面説明図で、前記図3及び図4によって従来例として挙げた雨水幹線と同一の幹線経路で形成されている。
【0023】
本実施例の雨水幹線Aは、流水管路1と、この流水管路1の最下流部に連続して形成された貯水トンネル2を備えている。
【0024】
前記流水管路1は、シールド工法によって形成されたもので、最上流から下流に向けて長さ(距離)870mまでの上流部1aが管径2.2mに形成され、この上流部1aから最下流に至る長さ(距離)600mまでの下流部1bが管径2.6mに形成されている。
【0025】
前記貯水トンネル2は、軟岩層(頁岩層)にNATM工法により形成されたもので、断面寸法が横幅10m×縦幅14m、長さ(距離)350mに形成され、その上流上端部分が前記流水管路1(下流部1b)の最下流部に連続するように形成されている。なお、この貯水トンネル2の貯水量は、49,000mに形成されている。
又、貯水トンネル2の下流下端部分に連続してポンプ管路3が長さ(距離)180m、管径2.6mで形成されると共に、このポンプ管路3の下流端に排水ポンプ30が配設されている。
このように、前記貯水トンネル2は、その断面口面積が流水管路1の断面口面積よりも大きく、貯水トンネル2の全長が流水管路1の全長よりも短く形成されている。
【0026】
従って、図1及び図2で示した本実施例の雨水幹線Aと、前記図3及び図4によって従来例として挙げた雨水幹線Bとを比較すると、その全長及び経路を同一とした上で、雨水幹線Aの流水管路1の管径が雨水幹線Bの管路の管径の略半分でありながら、雨水幹線Aにおける貯水トンネル2だけの貯水量が雨水幹線Bの全体貯水量よりも略9,000mも多く、流水管路1及びポンプ管路3の貯水量を加えると、さらに略1,000m増加して、全体では略10,000mも多くなっている。
【0027】
このように、貯水部として機能する貯水トンネル2を形成させることによって、流水管路1には貯水機能を持たせる必要がなくなる。
これにより流水管路1の管径を小径にすることが可能になるため、流水管路1を形成するための施工が簡単になる。
又、貯水トンネル2に雨水を貯水させることができるため、排水ポンプ30を小型化することができるし、ポンプ場設備を簡素にできる。
【0028】
次に、本実施例の雨水幹線Aの施工法を説明する。
図2で示すように、流水管路1の上流部1aの上流端、流水管路1の上流部1aと下流部1bとの境部分、貯水トンネル2の下流端及びポンプ管路3の下流端にそれぞれ作業用立坑40,41,42,43を掘り、この作業用立坑から掘り進んで流水管路1の上流部1a、流水管路1の下流部1b、ポンプ管路3をシールド工法により形成させ、かつ貯水トンネル2をNATM工法により形成させるものである。
【0029】
前記流水管路1の下流部1bは、作業用立坑42から貯水トンネル2を越えて次の作業用立坑41まで形成されるもので、このとき、貯水トンネル2の部分については、コンクリート製セグメントの代わりに鋼製セグメントを用いてシールド孔を形成させるようにしている。
【0030】
そして、このシールド孔を、貯水トンネル2をNATM工法により形成させる際の先進導坑として利用するもので、この場合の施工方法としては、鋼製セグメントに穴を明け、この穴から地層に硬化剤を注入し、この硬化剤によって地層を硬化させたのち鋼製セグメントを外して先進導坑としてのシールド孔を所定の寸法に掘り広げながらトンネルを形成させ、後は定法に従ってNATM工法により貯水トンネル2を形成していくものである。
【0031】
このように、シールド孔を貯水トンネル2の先進導坑として利用すると、わざわざ先進導坑を形成するといった必要がなくなり、イニシャルコストや工期の面で有利になる。
【0032】
なお、本発明において、雨水幹線の全長、流水管路及びポンプ管路の管径、貯水トンネルの断面寸法及び長さは実施例に限定されるものではなく、浸水対策の対象地域の面積や必要とされる貯水量等に応じで設計できるし、貯水トンネルを形成する地層についても軟岩層に限らず硬岩層や土砂層でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明実施例にかかる雨水幹線の平面説明図である。
【図2】本発明実施例にかかる雨水幹線の断面説明図である。
【図3】従来技術にかかる雨水幹線の平面説明図である。
【図4】従来技術にかかる雨水幹線の断面説明図である。
【符号の説明】
【0034】
1 流水管路
1a 上流部
1b 下流部
2 貯水トンネル
3 ポンプ管路
30 排水ポンプ
40 作業用立坑
41 作業用立坑
42 作業用立坑
43 作業用立坑
A 雨水幹線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド工法により形成された流水管路と、前記流水管路の最下流部に連続してNATM工法により形成された貯水トンネルを備えていることを特徴とする雨水幹線。
【請求項2】
前記貯水トンネルが軟岩層に形成されている請求項1記載の雨水幹線。
【請求項3】
前記請求項1又は2記載の雨水幹線を形成するための施工方法であって、前記貯水トンネルをNATM工法により形成させる際に、前記流水管路を形成するためにシールド工法により形成したシールド孔を先進導坑として利用することを特徴とする雨水幹線の施工方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−101382(P2008−101382A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−284304(P2006−284304)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【出願人】(599052967)日本技術開発株式会社 (4)
【Fターム(参考)】