説明

雨水濾過調整システム

【課題】池や河川の雨水を濾過して、長期間に亘って農業用水や中水として利用できる清浄な水を保持すると共に、洪水の発生と、下流側への泥水の流出を防止した雨水濾過調整システムを提供するものである。
【解決手段】貯水池2の近傍に、ピット7を形成してこの内側に芝生8を張ってこれを第1の濾過層9とし、この下層に砂や石を敷き詰めた第2の濾過層11を形成し、上部に流入口18を設け、下部側に流出口20を設けた濾過水貯水槽17を、前記第2の濾過層11の下部に設けて濾過調整池1Aを形成し、この濾過調整池1Aから高さの順次低くなる場所に中間と最終濾過調整池1B、1Cを設置して、各濾過水貯水槽1A、1B、1Cを通水管22を介して順次接続し、貯水池2からの水5をピット7内に流入させて濾過した後、順次下流側の濾過調整池1B、1Cに導いて濾過するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、池や河川の泥水を調整すると共に濾過して中水として利用できる雨水濾過調整システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
沖縄などの島は、サンゴ質の地盤の上に表土で覆われた状態となっており、一旦、大雨が降ると、地面の表土が流されて泥水(赤水)となって河川を流れ、また地中にしみ込んだ雨水がサンゴ質の地盤を急速に通過して下流側に流れて、河川の下流側で洪水となることがある。このように雨が降ると一気に海に流れ出してしまうので、農業用水の確保が難しい問題があった。このため貯水池(溜め池)を設けて雨水を貯めることも行なわれているが、晴天が続くと蒸発量も多くなり、また小さな貯水池では水質が劣化する問題もあった。
【0003】
また本発明者は、芝生を張ったグランドの地中に濾過水貯水槽を設け、芝生を天然の濾過材として利用し、ここを第1の濾過層とし、更にこの下に砂や石で形成した第2の濾過層を設けて、濾過水貯水槽の水を前記濾過層内に埋設した地中散水管から濾過層内に散水して循環させ、これを繰り返して濾過することにより濾過水貯水槽内の水を清浄にして利用することができる雨水濾過調整システム(特許文献1)を先に開発した。しかしながらこれは、学校や工場、公園など芝生のグランドがある狭い範囲に降った雨水を濾過するシステムであり、池や河川など広い範囲に降って泥水となったものを大量に濾過するシステムではなかった。
【特許文献1】特開2005ー16269
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記問題を改善し、雨水を濾過して、長期間に亘って農業用水や工業用水、中水として利用できる清浄な水を保持すると共に、洪水の発生と、下流側への泥水の流出を防止した雨水濾過調整システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の請求項1記載の雨水濾過調整システムは、池または河川の近傍に、ピットを形成してこのピットの内側に芝生を張ってこの芝生を第1の濾過層とし、この第1の濾過層の下層に、砂や石を敷き詰めた第2の濾過層を形成し、上部に流入口を設け、下部側に流出口を設けた濾過水貯水槽を、前記第2の濾過層の下部に設けて濾過調整池を形成し、この濾過調整池を高さの順次低くなる場所に複数ヶ所設置して、各濾過水貯水槽の流出口と下流側に設置した濾過調整池のピットとを通水管を介して順次接続し、池または河川からの水を濾過調整池のピット内に流入させて濾過した後、順次下流側の濾過調整池に導いて濾過することを特徴とするものである。
【0006】
本発明の請求項2記載の雨水濾過調整システムは、請求項1の雨水濾過調整システムにおいて、更に最下流側に設置した最終濾過調整池の濾過水貯水槽内にポンプを設けて、これを第2の濾過層内に配管した地中散水管に接続し、濾過水貯水槽内の水を、地中散水管から第2の濾過層内に散水して濾過して、循環するループを繰り返すことにより、水を常時、流動させながら濾過するようにしたことを特徴とするものである。
【0007】
本発明の請求項3記載の雨水濾過調整システムは、池または河川と濾過調整池のピットとの間にバルブを取付けた導水管を設け、更に必要に応じて濾過調整池内に導かれた導水管に散水管を設けて、ピット内に間欠的に水を流入または散水するようにしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る請求項1記載の雨水濾過調整システムによれば、短時間に大量の雨が降ると、池や河川から水が溢れて濾過調整池のピット内に流入して、ピット内に溜まると芝生が水没した状態となる。ピット内に溜った水は、第1の濾過層となる芝生の葉の間を通って地中に浸透して根を通過し、更に砂や石で形成された第2の濾過層を通過して、濾過水貯水槽内に流入する。次に濾過水貯水槽に貯められた水は通水管を通って隣接する濾過調整池のピットに流入して、ピット内の芝生が水没した状態となり、再び芝生で形成された第1の濾過層を通って、更に砂や石で形成された第2の濾過層を通過して濾過水貯水槽内に貯められる。
【0009】
このように複数の濾過調整池を通過する間に水が順次濾過され、最終の濾過水貯水槽に貯められた水は、長期の保存が可能で農業用水や工業用水あるいはトイレなどの中水、防火用水や災害時の給水タンクとして利用することができる。更に芝生の根には好気性の微生物が繁殖し、これが砂や土の間を移動することにより空隙が形成されるので長期間に亘って目詰まりを防止して濾過作用を維持することができる。
【0010】
また請求項2記載の雨水濾過調整システムによれば、濾過水貯水槽内の水を地中に埋設した地中散水管から第2の濾過層内に散水して、循環するループを繰り返すことにより、水は常時、流動しながら濾過され、また第2の濾過層から濾過水貯水槽に滴下する水の衝撃により、波動が水全体に伝達されるので、水は腐敗することがなく、長期間の保存性に優れ、災害用の飲料水を確保する上でも有効なシステムである。
【0011】
また請求項3記載の雨水濾過調整システムによれば、バルブを開放して池や河川の水をピットに導き、ピット内が満水状態になったらバルブを閉じて導水を停止し、また間欠的に散水してピットの水が濾過されて無くなったら、再び導水または散水して濾過するようにすれば、集中豪雨で水が溢れた時だけではなく、常時、池や河川の水を濾過して中水とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明の実施の一形態を図1ないし図3を参照して詳細に説明する。図において1Aは第1の濾過調整池を示すもので貯水池2の近傍に設置されている。貯水池2には図3に示すように、畑3の用水路4から水5が流れ込むようになっている。第1の濾過調整池1Aは図1に示すように、地面6を掘ってピット7を形成し、このピット7の内側に芝生8を張って、この芝生8で第1の濾過層9が形成されている。
【0013】
この第1の濾過層9の下層には、防水シート10で囲って、この内側に砂や石を敷き詰めた第2の濾過層11が形成されている。この第2の濾過層11は、例えば最上層にバクテリアを多く含む川砂12を敷き、この下層に川石13を設け、この下層に多孔質で透水性がありバクテリアの繁殖に効果的な火山石14を設け、最下層に含水性に富む、例えば発泡させた黒曜石15を層状に設けて形成されている。
【0014】
更に第2の濾過層11の下部にはコンクリートで形成された濾過水貯水槽17が埋設されている。この濾過水貯水槽17の上面には複数個の流入口18が形成され、これに対応して防水シート10の底部に孔19が開孔されている。また濾過水貯水槽17の下部側壁には流出口20が開孔し、ここに通水管22を介して集水桝23に接続されている。
【0015】
また上記第1の濾過調整池1Aより低い位置に中間濾過調整池1Bが設置され、通水管22を介して接続されている。更に中間濾過調整池1Bより低い位置に最終濾過調整池1Cが設置され、同様に通水管22で接続されている。前記中間濾過調整池1Bと最終濾過調整池1Cは、濾過調整池1Aと同様にピット7の内側に芝生8を張った第1の濾過層9と、下層に砂や石を敷き詰めた第2の濾過層11と、この下部に設けた濾過水貯水槽17とからそれぞれ構成されている。
【0016】
次に上記構成の雨水濾過調整システムの作用について説明する。良い天気が続いている状態では各濾過調整池1A、1B、1Cのピット7内は図1に示すように乾燥した状態で、芝生8が露出して太陽光線を受けながら生長している。雨が降ると畑3の用水路4から雨水5が貯水池2に流れ込んでここに貯められる。台風などの集中豪雨により短時間に大量の雨が降ると、図2に示すように貯水池2から水5が溢れて第 1の濾過調整池1Aのピット7内に雨水5が流入する。雨水5がピット7内に溜まると芝生8が水没した状態となる。
【0017】
ピット7内に溜った雨水5は、第1の濾過層9となる芝生8の葉の間を通って地中に浸透して根を通過し、更に砂や石で形成された第2の濾過層11を通過して、防水シート10に沿って流れ、この底部に開口した孔19から、濾過水貯水槽17の上部に形成した流入口18を通って濾過水貯水槽17内に流入する。
【0018】
この過程で、芝生8に降った雨は、第1の濾過層9となる芝生8の葉や根で、透水速度が遅くなり、絡み合った根や、細かい土や砂で、土砂25やゴミが濾過される。更にこの下の第2の濾過層11を構成する最上層の川砂12で、雨水に含まれる大気中の粉塵などは濾過されて、この下層の透水作用のある川石13を通過し、更にこの下層の多孔質で透水性のある火山石14を通過し、最後に含水性に富む発泡させた黒曜石15を通過して濾過水貯水槽17に流入し、この濾過過程で雨水5はかなり浄化される。またバクテリアを多く含む川砂12や、バクテリアの繁殖に効果的な火山石14を通過する時に、雨水に含まれる有機物がバクテリアにより分解される。
【0019】
このように雨水5に含まれる土砂25やゴミなどは大部分がこの第1の濾過調整池1Aで除去され、濾過水貯水槽17に貯められた水5は流出口20から、通水管22を通り集水桝23を経て、隣接する中間濾過調整池1Bのピット7に流入する。
【0020】
中間濾過調整池1Bのピット7に水5が流入してピット7内に溜まると、芝生8が水没した状態となり、第1の濾過層9となる芝生8の葉の間を通って地中に浸透して根を通過し、更に砂や石で形成された第2の濾過層11を通過する間に再度濾過されて濾過水貯水槽17内に流入する。
【0021】
更に中間濾過調整池1Bの濾過水貯水槽17に貯められた水5は流出口20から通水管22を通り集水桝23を経て、隣接する最終濾過調整池1Cのピット7に流入する。ここでもピット7内に溜まった水5は、第1の濾過層9となる芝生8の葉の間を通って地中に浸透して根を通過し、更に砂や石で形成された第2の濾過層11を通過する間に濾過されて濾過水貯水槽17内に流入する。
【0022】
このように、ポンプなど動力を一切使用せず、落差だけで第1濾過調整池1Aと中間濾過調整池1Bおよび最終濾過調整池1Cを通過する間に水5が順次濾過される。最終の濾過水貯水槽17に貯められた水5は、長期の保存が可能で農業用水や工業用水あるいはトイレなどの中水として利用される。また防火用水や災害時の給水タンクとしても利用することができる。また雨が降らない日が続くとピット7内の水5が無くなり、芝生8が再び露出して生長を続ける。
【0023】
このように貯水池2から溢れた水5が複数の濾過調整池1A、1B、1Cに貯水されて順次濾過されるので、豪雨時に河川の水位を低く調整して洪水を防止することができると共に、土砂25をピット7内で捕集して下流への流出を防止することができる。また濾過水貯水槽17は地中に埋設されているので、ゴミや塵の侵入を防止できると共に、ここに貯められた水5は大気中に蒸発しにくく、蒸発による水5の減少も少なくすることができる。
【0024】
また数年経過して濾過調整池1A、1B、1Cのピット7内に次第に土砂25が堆積し、ピット7の底が浅くなってきた時には、堆積した土砂25と芝生8を掘り出して新たな芝生8を植える。この掘り出した土砂25は、肥料分を多く含むので、畑や水田の土壌改良材としても有効利用することができる。
【0025】
図4は本発明の他の実施の形態を示すもので、最終濾過調整池1Cの濾過水貯水槽17の底部に、嫌気性バクテリアの住み家となる石を敷き詰めた濾過材26と、ポンプ27が設けられ、このポンプ27は第2の濾過層11内に埋設した地中散水管28に接続されている。
【0026】
この雨水濾過調整システムは、最終濾過調整池1Cの濾過水貯水槽17の底部に敷き詰めた濾過材26が嫌気性バクテリアの住み家となっているので、ここに触れて水中に含まれている有機物が分解される。この濾過材26を通過した水5はポンプ27により地中散水管28に導かれてここから砂や石で形成された第2の濾過層11内に散水され、ここで濾過された水は、再び流入口18から濾過水貯水槽17内に流入する。
【0027】
このように濾過水貯水槽17から第2の濾過層11を循環するループを繰り返すことにより、水5は常時、流動しながら濾過され、また第2の濾過層11から濾過水貯水槽17に滴下する水5の衝撃により、波動が水全体に伝達されるので、水は腐敗することがなく、長期間の保存性に優れ、災害用の飲料水を確保する上でも有効なシステムである。またこの場合、水5は僅かでも流動していれば良いので、ポンプ27は少量ずつ汲み上げて循環させるか、間欠的に運転すれば良い。このため使用するポンプ27もソーラー発電でまかなえる程度の動力の小さな小型のもので十分である。
【0028】
図5は本発明の他の実施の形態を示すもので、貯水池2と第1の濾過調整池1Aのピット7との間に導水管29を設け、ここにバルブ30を設けたものである。これはバルブ30を開放して貯水池2内の水5をピット7に導き、ピット7内が満水状態になったらバルブ30を閉じて導水を停止し、ピット7内の水5が濾過されて無くなったら、再び導水して濾過するようにすれば、常時、貯水池2の水5を濾過して中水とすることができる。
【0029】
なお上記説明では3段階の濾過調整池1A、1B、1Cを設置した場合について示したが、2段階または4段階以上設置しても良い。また上記説明では貯水池2から溢れた水5を濾過する場合について示したが、天然の池や河川の脇に設置して大雨で河川から溢れた水5を導いて濾過しても良く、また貯水池2や河川との間に沈殿池を設けて、ここで一旦、浮遊物を沈殿させてから第1の濾過調整池1Aに導くようにしても良い。また図4に示す最終濾過調整池1C内を循環する水5にカルシウム除去剤を添加して、水中に含まれるカルシウム分を除去するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の一形態による雨水濾過調整システムの構成を示す断面図である。
【図2】図1の雨水濾過調整システムにより水を濾過している状態を示す断面図である。
【図3】図2の雨水濾過調整システムの構成を示す平面図である。
【図4】本発明の他の実施の形態による雨水濾過調整システムの最終濾過調整池の構成を示す断面図である。
【図5】本発明の他の実施の形態による雨水濾過調整システムの第1の濾過調整池の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 第1の濾過調整池
1B 中間濾過調整池
1C 最終濾過調整池
2 貯水池
3 畑
4 用水路
5 水
6 地面
7 ピット
8 芝生
9 第1の濾過層
10 防水シート
11 第2の濾過層
12 川砂
13 川石
14 火山石
17 濾過水貯水槽
18 流入口
19 孔
20 流出口
22 通水管
25 土砂
26 濾過材
27 ポンプ
28 地中散水管
29 導水管
30 バルブ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
池または河川の近傍に、ピットを形成してこのピットの内側に芝生を張ってこの芝生を第1の濾過層とし、この第1の濾過層の下層に、砂や石を敷き詰めた第2の濾過層を形成し、上部に流入口を設け、下部側に流出口を設けた濾過水貯水槽を、前記第2の濾過層の下部に設けて濾過調整池を形成し、この濾過調整池を高さの順次低くなる場所に複数ヶ所設置して、各濾過水貯水槽の流出口と下流側に設置した濾過調整池のピットとを通水管を介して順次接続し、池または河川からの水を濾過調整池のピット内に流入させて濾過した後、順次下流側の濾過調整池に導いて濾過することを特徴とする雨水濾過調整システム。
【請求項2】
請求項1の雨水濾過調整システムにおいて、更に最下流側に設置した最終濾過調整池の濾過水貯水槽内にポンプを設けて、これを第2の濾過層内に配管した地中散水管に接続し、濾過水貯水槽内の水を、地中散水管から第2の濾過層内に散水して濾過して、循環するループを繰り返すことにより、水を常時、流動させながら濾過するようにしたことを特徴とする雨水濾過調整システム。
【請求項3】
池または河川と濾過調整池のピットとの間にバルブを取付けた導水管を設け、更に必要に応じて濾過調整池内に導かれた導水管に散水管を設けて、ピット内に間欠的に水を流入または散水するようにしたことを特徴とする請求項1または2記載の雨水濾過調整システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−144265(P2007−144265A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−339244(P2005−339244)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(503236027)有限会社藤島建設 (4)
【Fターム(参考)】