説明

雲台装置

【課題】外力などによる伝動系への過負荷を抑制し、上下左右への撮影方向の移動を長期に亘って円滑に行うことのできる動作性に優れた軽便な雲台装置を提供する。
【解決手段】カメラ1を固定する台座2と、台座2に連結される回転出力軸31を有してカメラ1による撮影方向を上下方向に移動させる歯車減速機3G付きのチルトモータ3と、チルトモータ3を固定する可動台4と、可動台4に連結する回転出力軸61を有してカメラ1による撮影方向を左右方向に移動させる歯車減速機6G付きのパンモータ6と、パンモータ6の回転出力軸61に介在される摩擦クラッチ8とを有する。チルトモータ3の回転出力軸31の外周部には、台座2と可動台4とを繋ぐ捩りコイルバネ5が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、監視カメラなどを保持する装置に係わり、詳しくはチルトモータとパンモータを備えてカメラによる撮影方向を上下左右に移動させることのできる雲台装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、カメラによる撮影方向を上下左右方向に移動させる装置として、撮影方向を上下方向に移動させるためのチルトモータと、撮影方向を左右方向に移動させるためのパンモータとを備えた直交2軸型の雲台装置が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−307929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1などに開示されるチルトモータとパンモータとを備える直交2軸型の雲台装置によれば、モータの回転数を減じてその出力トルクを増大させるため、チルトモータとパンモータに歯車減速機を一体に備えたものが用いられることが通例であるところ、例えばパンモータの回転出力軸に外部から回転力が作用した場合、歯車減速機を構成する歯車が過負荷により破壊されて動作不能に陥ることがあった。
【0005】
又、チルトモータの駆動によりカメラを上下方向に回転移動させるとき、安定感のある動作が得られなくなることがあった。例えば、チルトモータの駆動によってカメラを横向きの姿勢から下向きに傾けるとき、歯車減速機を構成する減速歯車のバックラッシに関係してカメラが急速に回転移動してしまうことがあり、逆にカメラを横向きの姿勢に戻すとき、カメラの荷重により回転出力軸が減速歯車のバックラッシ分だけ逆転してカメラの回転移動が一時的に停止してしまうことがある。
【0006】
本発明は以上のような事情に鑑みて成されたものであり、その目的は外力などによる伝動系への過負荷を抑制し、上下左右への撮影方向の移動を長期に亘って円滑に行うことのできる動作性に優れた軽便な雲台装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る雲台装置は、
カメラを固定する台座と、
前記台座に連結される回転出力軸を有して前記カメラによる撮影方向を上下方向に移動させる歯車減速機付きのチルトモータと、
前記チルトモータを固定する可動台と、
前記可動台に連結する回転出力軸を有して前記カメラによる撮影方向を左右方向に移動させる歯車減速機付きのパンモータと、
前記パンモータの回転出力軸に介在される摩擦クラッチと、
を有することを特徴とする。
【0008】
加えて、前記パンモータの回転出力軸は、当該パンモータに付属する歯車減速機から突出する主軸部と、前記可動台に結合する伝動軸とに分けられ、
前記摩擦クラッチは、前記主軸の一端に固定されるバネ受座と、このバネ受座に対向して前記伝動軸の一端に固定されるクラッチ板と、前記バネ受座と前記クラッチ板との間に配置される板バネとを有し、
前記板バネには前記クラッチ板の偏心位置にて凸部が設けられると共に、前記板バネは前記クラッチ板と前記バネ受座のいずれか一方に対して回転を抑止され、前記クラッチ板と前記バネ受座の他方には前記板バネの凸部に対応する凹部が設けられていることを特徴とする。
【0009】
又、前記チルトモータの回転出力軸の外周部には、前記台座と前記可動台とを繋ぐ捩りコイルバネが設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る雲台装置によれば、カメラによる撮影方向を左右方向に移動させるパンモータの回転出力軸に摩擦クラッチが介在されることから、パンモータに付属する歯車減速機が外力による過負荷を受けて破壊されることを防止し、装置の信頼性を上げることができる。
【0011】
又、摩擦クラッチはクラッチ板とバネ受座との間に板バネを配置した簡易構成であるから、製品コストを抑制できる。
【0012】
加えて、チルトモータの回転出力軸の外周部に台座と可動台とを繋ぐ捩りコイルバネが設けられていることから、チルトモータの回転出力軸に対して捩りコイルバネによる捩りモーメントをカメラの荷重による捩りモーメントと逆向きに作用させることにより、上下方向へのカメラの回転移動中において、チルトモータの回転出力軸やカメラがチルトモータに付属する歯車減速機の減速歯車のバックラッシに関係して一時的に停止してしまったり、カメラの荷重が作用する方向に急速に回転移動してしまったりすることを防止でき、しかも回転出力軸をカメラの荷重による捩りモーメントの作用方向に対して逆向きに回転させる場合には、捩りコイルバネによる捩りモーメントによりチルトモータにかかる負荷を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る雲台装置を部分的に破断して示した正面図
【図2】チルトモータの周辺を示す部分断面図
【図3】本発明に係る雲台装置の構成部品を示す斜視分解図
【図4】台座の動作を示す説明図
【図5】捩りコイルバネの作用を示す説明図
【図6】摩擦クラッチの構造を示す部分断面図
【図7】摩擦クラッチを構成する板バネの平面図
【図8】図7に示した板バネの縦断面図
【図9】摩擦クラッチを構成するクラッチ板の底面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳しく説明する。先ず、図1により本発明に係る雲台装置の全体的な構成を概説すれば、1はカメラ、2はカメラ1を固定する台座である。台座2は、金属板を屈曲せしめて水平部21と垂直部22が連なるようにしたL字形で、その水平部21には固定ネジ23が設けられており、その固定ネジ23により水平部21上にカメラ1が着脱自在に固定されている。
【0015】
3は台座2と当該台座に固定されたカメラ1を水平軸回りに回転移動させるチルトモータであり、その回転出力軸31(水平軸)は台座2の垂直部22に結合されている。このため、チルトモータ3を駆動してその回転出力軸31を正逆に回転させることにより、カメラ1による撮影方向を上下方向に移動させることができる。特に、チルトモータ3は歯車減速機3Gを一体に備える可逆モータであり、その歯車減速機3Gには回転出力軸31のトルクを増大させるための図示せぬ減速歯車が内蔵されている。そして、係るチルトモータ3は、その回転出力軸31を水平方向に向けて可動台4に固定されている。
【0016】
可動台4は、金属板を屈曲せしめてなるもので、チルトモータ3を固定する垂直部41と、その垂直部41に直交する底面部42とを有しており、底面部42にはチルトモータ3を覆うモータカバー43が取り付けられている。尚、可動台4の垂直部41にはチルトモータ3の回転出力軸31を貫通せしめるルーズホール41aが穿設され、回転出力軸31の外周部には台座2と可動台4との垂直部22,41の間で後述する捩りコイルバネ5が設けられている。又、可動台4の底面部42には、チルトモータ3の回転出力軸31に対して直交するパンモータ6の回転出力軸61を連結するための接続スリーブ44が取り付けられている。
【0017】
パンモータ6は、台座2に固定したカメラ1による撮影方向を左右方向に移動させるもので、チルトモータ3と同じく歯車減速機6Gを一体に備える可逆モータであり、その歯車減速機6Gには回転出力軸61のトルクを増大させるための図示せぬ減速歯車が内蔵されている。そして、係るパンモータ6は、その回転出力軸61を上下方向に向けて据付台7に固定されている。
【0018】
据付台7は、平板状のベースプレート71と、このベースプレート71上に固定した門形の保持フレーム72とを有し、その保持フレーム72にパンモータ6が取り付けられ、ベースプレート71にはパンモータ6を覆うカップ状のモータカバー73が取り付けられている。
【0019】
又、図1から明らかなように、モータカバー73内において、パンモータ6の回転出力軸61には後述する摩擦クラッチ8が介在され、保持フレーム72上には支柱74を介してスリップリング9が設けられている。スリップリング9は、据付台7に対して回転移動するチルトモータ3と台座2上のカメラ1とを外部の電源部(AC又はDC電源)に対して導電接続するロータリコネクタであり、これによりチルトモータ3とカメラ1とに接続する図示せぬ電気配線の捩れが防止可能とされている。更に、上記支柱74には座板75が固定されると共に、その座板75には軸受ユニット76が取り付けられ、その軸受ユニット76によりパンモータ6の回転出力軸61が回転自在に支持されている。
【0020】
次に、上記のように構成される雲台装置の細部について説明する。図2および図3から明らかなように、台座2の垂直部22には捩りコイルバネ5の内側となる位置に円柱状の芯金24が固定される。ここに、台座2の垂直部22には芯金24を固定するためのビス25を通す透孔22aが穿設され、芯金24にはビス25をねじ込むためのネジ孔24aが穿設されている。又、台座2の垂直部22と芯金24には、それぞれチルトモータ3の回転出力軸31を通す貫通孔22b,24bが穿設されている。
【0021】
加えて、芯金24の側面には貫通孔24bに通じるネジ孔24cが穿設されている。そのネジ孔24cは図3に示されるような無頭の締付ネジ26を螺入するためのもので、係る締付ネジ26は貫通孔24bに通されたチルトモータ3の回転出力軸31の外周面に緊結される。このため、台座2は、芯金24を介してチルトモータ3の回転出力軸31に固定され、回転出力軸31の回転駆動により当該回転出力軸31を中心にして上下方向に回転移動することになる。
【0022】
尚、図3において、22cは台座2の回転移動量を制限するべく当該台座の垂直部22に形成した突片であり、可動台4の垂直部41には突片22cに干渉するストッパ片41bが形成されている。しかして、本例によれば、台座2が図4の実線で示す位置から一点鎖線で示す位置まで90度の回転移動のみ許容され、その台座2に固定されるカメラの重心位置が回転出力軸31を通る鉛直線上と水平線上との間で90度だけ角変位するようになっている。要するに、カメラ1は横向きの直立姿勢から上向き又は下向きの倒伏姿勢に変化し、その角変位によりカメラ1から回転出力軸31に対して捩りモーメントが与えられる。
【0023】
一方、図3において、捩りコイルバネ5は、台座2と可動台4を繋ぐ2つの腕部51,52を有している。ここに、台座2の垂直部22には一方の腕部51を差し込む孔部22dが形成され、可動台4の垂直部41には他方の腕部52を差し込む孔部41cが形成されている。要するに、係る捩りコイルバネ5は、回転出力軸31の外周部にあって台座2と可動台4との垂直部22,41を連繋し、チルトモータ3の回転出力軸31に対して台座2に固定されるカメラ1の荷重による捩りモーメントとは逆向きの捩りモーメントを与えるようになっている。換言すれば、捩りコイルバネ5は、回転出力軸31に対する捩りモーメントの作用方向がカメラ1の荷重による捩りモーメントとは逆向きになるよう装備される。
【0024】
尚、図4において、回転出力軸31には捩りコイルバネ5による捩りモーメントが時計回りに作用するところ、本例に係る雲台装置は、カメラ1(図4には図示せず)の荷重による捩りモーメントが捩りコイルバネ5による捩りモーメントとは逆向き(図4の反時計回り)に作用するよう天井取付型として図1に示されるベースプレート71が天井面に取り付けられ、図4に示す台座2が上下逆となる使用態様とされる。又、図1に示されるベースプレート71を卓上に固定して使用する場合、カメラ1による捩りモーメントは回転出力軸31に対して図4の時計回りに作用するところ、図4では捩りコイルバネ5が右巻きとされているが、これを左巻きにして当該捩りコイルバネ5による捩りモーメントが回転出力軸31に対して図4の反時計回りに作用するようにされる。
【0025】
このような捩りコイルバネ5を備える雲台装置によれば、カメラ1を上下方向に回転移動させるべくチルトモータの回転出力軸31を例えば図5の反時計回り(A方向)に回転させたとき、その回転出力軸31に対してカメラ1(図5では図示せず)の荷重による捩りモーメントが同方向(A方向)に作用しても、その作用方向とは逆に、捩りコイルバネ5から回転出力軸31に対して図5の時計回り(B方向)の捩りモーメントが与えられるため、回転出力軸31やカメラ1が歯車減速機3G内の減速歯車G1,G2のバックラッシδ分だけA方向に急速回転してしまうことを防止できる。
【0026】
又、回転出力軸31の回転方向が図5のB方向であって、このときのカメラ1の荷重による捩りモーメントが図5のA方向に作用する場合、回転出力軸31が一時的に停止してしまうこと(正確にはカメラの荷重により回転出力軸31がバックラッシδ分だけA方向に押し戻されてしまうこと)を防止することができる。
【0027】
更に、回転出力軸31をカメラ1の荷重による捩りモーメントの作用方向に対して逆向きに回転させる場合には、捩りコイルバネ5による捩りモーメントによりチルトモータ3にかかる負荷を軽減することができる。
【0028】
次に、パンモータ6の回転出力軸61に介在する摩擦クラッチ8について言及すると、パンモータ6の回転出力軸61は、図6のようにパンモータ6に付属する歯車減速機6Gから突出する主軸部61aと、先端部が可動台4(図2参照)に結合する伝動軸61bとに分けられており、その両者61a,61bが摩擦クラッチ8を介して連結する構成とされている。
【0029】
ここに、摩擦クラッチ8は、伝動軸61bの一端に固定されるクラッチ板81と、このクラッチ板81に対向してバネ受座82上に配置される板バネ83とを有する。バネ受座82は締付ネジ84により主軸部61aの一端に固定され、その外周部には袋状のナット部材85を結合するための雄ネジ部82aが形成されている。そして、バネ受座82とナット部材85との間にクラッチ板81と板バネ83が収容されるようになっている。
【0030】
図6〜図8から明らかなように、板バネ83はバネ受座82上に着座する平面部83aと、その平面部83aに対して曲げ起された円弧部83bとを有する。平面部83aには主軸部61aを通す中心孔83cが穿設され、円弧部83bの中央にはクラッチ板81の偏心位置に対して弾性接触する凸部83dが形成されている。尚、図7に示されるハッチングは板バネ82を明示するためのもので、断面をあらわすものではない。又、図7において、82bはバネ受座82の上面に形成した隆起部であり、これによりバネ受座82に対する板バネ83の回転が抑止されている。
【0031】
一方、図9に示すように、クラッチ板81は円板形であり、その中心部には主軸部61aを通す中心孔81aが穿設されている。又、クラッチ板81には、中心孔81aを挟んで半径方向に延びる2つの凹部81bが形成され、その凹部81bに板バネ83の凸部83dが嵌り込むようになっている。
【0032】
そして、以上のように構成される摩擦クラッチ8によれば、主軸部61aの回転駆動力をバネ受座82、板バネ83、及びクラッチ板81を介して伝動軸61bに伝達しながら、カメラ1を固定した台座2に対して回転出力軸61回りの外力が作用したときなどには、クラッチ板81が空転して主軸部61aに対する外力の伝達を遮断する。このため、パンモータ6に付属する歯車減速機(詳しくはこれに内蔵される減速歯車の歯)が外力による過負荷で破損することを防止できる。
【0033】
以上、本発明に係る雲台装置について説明したが、摩擦クラッチ8は図示例の構成に限らず、板バネ83をクラッチ板81に固定し、その凸部83dに対応する凹部81bをバネ受座82に形成するようにしてもよい。又、摩擦クラッチ8はパンモータ6の回転出力軸61にのみ介在させることに限らず、これをチルトモータ3の回転出力軸31にも介在させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 カメラ
2 台座
3 チルトモータ
3G 歯車減速機
31 回転出力軸
4 可動台
5 捩りコイルバネ
6 パンモータ
6G 歯車減速機
61 回転出力軸
61a 主軸部
61b 伝動軸
7 据付台
8 摩擦クラッチ
81 クラッチ板
81b 凹部
82 バネ受座
83 板バネ
83d 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カメラを固定する台座と、
前記台座に連結される回転出力軸を有して前記カメラによる撮影方向を上下方向に移動させる歯車減速機付きのチルトモータと、
前記チルトモータを固定する可動台と、
前記可動台に連結する回転出力軸を有して前記カメラによる撮影方向を左右方向に移動させる歯車減速機付きのパンモータと、
前記パンモータの回転出力軸に介在される摩擦クラッチと、
を有することを特徴とする雲台装置。
【請求項2】
前記パンモータの回転出力軸は、当該パンモータに付属する歯車減速機から突出する主軸部と、前記可動台に結合する伝動軸とに分けられ、
前記摩擦クラッチは、前記主軸の一端に固定されるバネ受座と、このバネ受座に対向して前記伝動軸の一端に固定されるクラッチ板と、前記バネ受座と前記クラッチ板との間に配置される板バネとを有し、
前記板バネには前記クラッチ板の偏心位置にて凸部が設けられると共に、前記板バネは前記クラッチ板と前記バネ受座のいずれか一方に対して回転を抑止され、前記クラッチ板と前記バネ受座の他方には前記板バネの凸部に対応する凹部が設けられていることを特徴とする請求項1記載の雲台装置。
【請求項3】
前記チルトモータの回転出力軸の外周部には、前記台座と前記可動台とを繋ぐ捩りコイルバネが設けられていることを特徴とする請求項1、又は2記載の雲台装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−114621(P2011−114621A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−269679(P2009−269679)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【特許番号】特許第4487014号(P4487014)
【特許公報発行日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(593163254)ツバメ無線株式会社 (5)
【Fターム(参考)】