説明

電力用半導体素子

【課題】150℃以上のような、ワイドバンドギャップ半導体が作動可能な温度環境下であっても、電極、接続端子、及び半導体素子基板が導通接続されながら、ヒートサイクルによる亀裂破壊が低減された接合部を有する電力用半導体素子を提供する。
【解決手段】ワイドバンドギャップ半導体素子基板1に電極4、5が積層されると共に、電極5には外部配線へ接続するための接続端子6が接合されており、150℃以上の温度環境下で作動可能な電力用半導体素子であって、電極5、接続端子6を形成する芯材、及び前記半導体素子基板1の3つの線膨脹係数の差が、最大で5.2×10-6/Kであり、かつ、接続端子6と電極5とが直接接合されてなる接合部を有する電力用半導体素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温環境下で使用できる電力用半導体素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電力変換用の素子として、ダイオード、トランジスタ、MOSFET、IGBTなどが用いられているが、これら素子は一般にシリコン半導体材料により構成されている。シリコン半導体材料を用いた素子製造プロセスにより所定の機能を付与されてダイシングされた半導体チップは、表面の電極とワイヤー(接続線)を半田で接合し、金属ワイヤーの他方は外部と接続するための電極に接続された構成からなり、素子やモジュールとして組み立てられる。
【0003】
接合に用いる半田は一般にはSn/Pb系で融点は180℃程度であり、その温度近傍で軟化しワイヤーとの接合を維持できない状態となることから、一般にこれらの半導体素子は150℃程度の温度以下で使用される。また、半田の溶融温度に到達しなくても、通電、非通電の繰り返し等で生じるヒートサイクル破壊モードも知られている。これはシリコンチップとワイヤー、半田の個々の線膨脹係数が異なるため、これらの接合部位にせん断応力が働き、ヒートサイクルにより、やがて亀裂が発生し破壊するという現象である(非特許文献1参照)。
【0004】
このような半田接合部の信頼性を高めるため、特許文献1には、融点の異なる2種類の半田を用いて、高融点の半田で半田厚みを確保し、高融点の半田の上を低融点の半田で被膜して接続端子と半導体素子を接合する技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、シリコン半導体チップとアルミニウムワイヤーを用いたパワー半導体モジュールでは、シリコンチップの線膨脹率に対し、アルミニウムワイヤーの線膨脹率に大きな差あるために、該モジュールの加熱・冷却時にワイヤーとパッド(電極)との接合界面に高い熱応力が発生し、この熱応力の繰り返しによってワイヤーが疲労を起こし、短時間でワイヤーが剥離するという問題が示されている。そして、前記問題を解決するために、超音波ワイヤーボンディングで接合されたアルミニウムワイヤー接合部に発生する熱応力、具体的には、パッドに接合されたワイヤーに発生する引張応力を軽減するようにパッドに幾何学的な加工を施す(溝を形成する)という方法が開示されている。
【0006】
一方、半導体チップを接続するワイヤーとしては、一般に、金(Au)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)等を主とした金属ワイヤーが使用されている。そして、特許文献3には、極細線での強度を確保するためにタングステン(W)を芯にして銅(Cu)被覆層とした電子ワイヤー用複合金属線材が開示され、半導体装置や電子機器類の内部に用いることができるとしている。
【0007】
近年、シリコン半導体材料より、真性半導体である温度が高く、高温での動作が可能でかつ高い飽和ドリフト速度、絶縁破壊電界を持つことが判明しているワイドバンドギャップ材料と呼ばれる炭化珪素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、ダイヤモンド等の素子を用いたデバイスの開発や実用化が進みつつあり、250℃から600℃に及ぶ高温での動作実験も既に報告されている(非特許文献2)。
【0008】
ワイドバンドギャップ半導体を用いた素子であれば、例えば、野外や自動車内などの高温に曝される環境下でも、空冷程度で安定に動作させることができる。また、高い電流密度や高周波動作で素子設計しても、使用温度上限に自由度を持たせることができるなど、シリコン半導体にはないメリットを持つ。さらに、高い絶縁破壊電界強度を有するため、ショットーキバリヤダイオード、MOSFETなどのユニポーラデバイスを、高電圧の高周波スイッチング回路にて使用できるため、高出力電源機器を小型化できるなどの長所を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006-339174号公報
【特許文献2】特開平10-199923号公報
【特許文献3】特開平10-130882号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】両角朗、山田克己、宮坂忠志“パワー半導体モジュールにおける信頼性設計技術”富士時報 vol.74 No.2 p.145-148(2001)
【非特許文献2】吉田貞史“ワイドバンドギャップ半導体による高パワーデバイス特性の向上”電子技術総合研究所彙報 第62巻 第10,11号 p.493-507(1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ワイドバンドギャップ半導体材料を用いて高温動作する素子を構成しようとした場合、接続端子との接合に半田を用いると、融点が低いため150℃以上の温度では半田が軟化して、その接合を保てない。さらに、高い融点を有する成分系の半田を用いても、半田として適切な特性を有する材料系は、260℃以上の領域では現在見当たらない。
【0012】
一方、半田接合以外ではアルミニウムワイヤー等をチップに直接圧着を行う手段もあるが、半導体材料と線膨脹係数差がありヒートサイクルによって、圧着接合部に破壊が生じる。具体的な室温近傍の線膨脹係数に関し、ワイドバンドギャップ材料では、炭化珪素は4.2×10-6/K(a軸)、GaNは5.6×10-6/K(a軸)、ダイヤモンドは1.1×10-6/Kであるのに対し、パワーデバイスの接合ワイヤーで一般に用いられるアルミニウムは23×10-6/K、銅は16.8×10-6/K、金は14.3×10-6/Kであって、両者は桁で異なる差異を有している。現在主流であるシリコン半導体材料の線膨脹係数は2.4×10-6/Kであるが、シリコン半導体材料が使用できる温度までは、例えば特許文献2のように、アルミニウムワイヤーの圧着接合部に関し、パッドの幾何学的構造を工夫すれば、該ワイヤーとの線膨脹係数差による問題は回避できるものであった。しかしながら、ワイドバンドギャップ半導体材料を用いて高温作動する素子とする場合には、前記のようなパッドの幾何学的構造を考えるだけでは不十分であることが分かってきた。
【0013】
また、半導体材料を接合した具体的な例は示されていないが、特許文献3には、上述のように、タングステンを芯材として銅を被覆層とした電子ワイヤー用複合金属線が提案されているが、この特許文献3に記載されたワイヤーは極細線化が望まれる用途に使用するものであって、可撓性を備えて低い導体抵抗を実現するために該ワイヤーの線径は15μm以下であるとするため、上記のようなワイドバンドギャップ半導体を用いた素子には使用できない。特に、電力用半導体素子とする場合には、ワイヤーに大きな電流を流すことになるので、実際に特許文献3のワイヤーは使えない。電力用半導体素子として、150℃以上にもなるような、より高温下で使用される場合は、半導体素子基板と接続線との線膨脹係数差は、これらの接合部の亀裂破壊の原因となる。
【0014】
本発明は、上述の問題を鑑み、半田が軟化、溶融する150℃以上のワイドバンドギャップ半導体が作動可能な温度環境下であっても、半導体素子の電極と、接続線と、半導体基板とがそれぞれ導通接続され、ヒートサイクルによる亀裂破壊が低減された接合部を有するようにした電力用半導体素子を提供することを目的とする。更に、前記信頼性の高い接合部を有する電力用半導体素子であって、該素子が高周波回路で使用される場合でも、電力損失の小さい電力用半導体素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、本発明は、ワイドバンドギャップ半導体素子基板に電極が積層されると共に、該電極には外部配線へ接続するための接続端子が接合されており、150℃以上の温度環境下で作動可能な電力用半導体素子であって、前記電極、接続端子を形成する芯材、及び前記半導体素子基板の3つの線膨脹係数の差が、最大で5.2×10-6/Kであり、かつ、前記接続端子と電極とが直接接合されてなる接合部を有することを特徴とする電力用半導体素子である。
【0016】
前記半導体素子を形成する電極と接続端子とは、超音波振動により接合されていることが好ましい。また、前記半導体素子基板は、炭化珪素、GaN、又はダイヤモンドであることが好ましい。更に、前記電極は、モリブデン、タングステン、または、これらの1種以上を含有する化合物(又は合金)で構成されることが好ましい。更にまた、前記接続端子を形成する芯材が、モリブデン、タングステン、または、これらの1種以上を含有する化合物(又は合金)であることが好ましい。
【0017】
また、接続端子については、電気抵抗率が4×10-8Ωm以下の金属被膜で芯材を被覆するようにしても良いが、その場合、前記金属被膜を有した接続端子の横断面における前記金属の被膜面積が、該横断面に対して70%以下となるようにするのが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、150℃以上のような、ワイドバンドギャップ半導体が作動可能な温度環境下であっても、半導体素子の電極、接続端子、及び半導体素子基板が導通接続され、ヒートサイクルによる亀裂破壊が低減された該接合部を有する電力用半導体素子とすることができる。よって、高温でも使用できる、信頼性の高い電力用半導体素子を提供できる。また、信頼性の高い接合部を有する電力用半導体素子であって、該素子が高周波回路で使用される場合も、電力損失の小さい電力用半導体素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は本発明第1の実施形態に係わる構成図
【図2】図2は本発明第2の実施形態に係わる構成図
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者らは、以下のような考えに基づき、接続端子の接合部が高温にさらされても安定で信頼性の高いものとするために、半導体素子の電極、接続端子を形成する芯材、及び半導体素子基板の線膨脹率差を特定の値にすることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0021】
従来のように、シリコン(線膨脹係数:2.4×10-6/K)とアルミニウム(線膨脹係数:23×10-6/K)との線膨脹係数差が20.6×10-6/Kであることに比較して、その差を1/4の線膨脹率差(5.2×10-6/K)とすることで、線膨脹係数が温度に比例すると仮定すれば、せん断応力差異の視点では、シリコン基板とアルミニウムワイヤーとの接合部における上限温度150℃の約4倍となる600℃温度環境下でも、シリコンと同程度のせん断力程度にとどめることが可能となる。すなわち、半導体素子基板と、電極と、接続端子を形成する芯材とを前記線膨脹係数差になるような組み合せにすれば、特にヒートサイクルによる熱負荷が掛かり易い、接続端子を形成する芯材と電極との接合部の亀裂破壊を抑制できることになる。600℃の温度とは、先に述べたようにワイドバンドギャップ半導体の動作可能な温度でもある。
【0022】
したがって、半導体素子の電極、接続端子を形成する芯材、及び半導体素子基板の線膨脹係数差が、最大で5.2×10-6/Kであれば、電力用半導体素子とした場合に、接続端子の接合部が導電接続を安定的に維持しながら、電力用半導体素子が曝されるヒートサイクルによる亀裂破壊を低減できることを見出した。前記効果は、半田が軟化、溶解する150℃以上の温度環境下であっても得られるものである。更に、前記効果は、高温半田の融点以上、例えば、200℃以上や400℃以上の温度環境下であっても得られるものである。もちろん、上記理由で、ワイドバンドギャップ半導体の作動可能な600℃の温度環境下でも、前記効果が得られるものである。即ち、少なくとも150℃以上600℃以下の温度範囲では、前記効果が得られるものである。
【0023】
また、前記線膨脹係数差は小さいほど好ましく、ゼロにするのが最も好ましい。但し、異種材料の組み合せで前記線膨脹係数差をゼロにするのは難しく、限られた材料の組み合せになるので、前記線膨脹係数差が5.2×10-6/K以内であれば幅広い材料選択が可能となる。この線膨脹係数差について、好ましくは1.5×10-6/K以内でるのが良く、なかでも、ヒートサイクルによる負荷が掛かり易い箇所である、接続端子を形成する芯材と電極との間での線膨脹係数差が1.5×10-6/K以内となるようにするのが好ましい態様である。なお、本発明において線膨張係数は、いずれも1atm、20℃で測定した値である。
【0024】
本発明の電力用半導体素子における、接続端子(ワイヤー)と半導体素子の電極との接続は、半田やロウ材等の接合材料を介在せずに、直接接合されたものである。前記接合方法としては、接合部に超音波振動を与えて接合する超音波ワイヤーボンディング法のほか、ワイヤー端部をアーク放電等で溶融ボールを形成して接合するボールボンディング法等が挙げられる。これらの接合方法によれば、半田やロウ材等の接合材料を用いないため、150℃以上の高温でも該接合材料の軟化や溶融により接続不良が発生しない。前記接合方法の中でも、超音波振動を利用した接合方法は、常温、短時間で接合することができ、素子に与える機械的圧力も抑制可能で安全に(接合不良を起こさず)接合できる。よって、超音波振動を利用して形成された接合部は、素子に与える機械的圧力が抑制されているので、より信頼性の高いものとなり、より好ましい。
【0025】
本発明の電力用半導体素子に使用される半導体素子基板については、バンドギャップが2.8eV以上のワイドバンドギャップ半導体材料であり、例えば、炭化珪素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、ダイヤモンド、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)等が挙げられる。中でも、特に、好ましい前記半導体素子基板は、炭化珪素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、又はダイヤモンドである。これらは、真性半導体温度が高く、600℃程度の高温環境下でも半導体としての動作が可能である。
【0026】
本発明の電力用半導体素子に使用される接続端子を形成する芯材、及び電極については、上述の半導体素子基板を含めてこれら3つの部材間の線膨脹係数差が5.2×10-6/K以下となるものであればよく、例えば、モリブデン(線熱膨張係数:4.9×10-6/K)、タングステン(熱膨張係数:4.3×10-6/K)、クロム(熱膨張係数:6.2×10-6/K)、または、それらの合金からなるものが挙げられる。ここで、合金とは、2種以上の金属元素を含む金属の固溶体、金属間化合物を意味するものであり、前記金属の合金とは、前記金属を主要として、即ち、これらを50モル%以上含む金属の固溶体、金属間化合物を示す。前記金属の中でも、モリブデン、タングステン、又はそれらの合金が、より好ましい。これらの金属又は合金は、金属であるため接続線部材としては伸線による細線製造が可能であること、また、電極部材としてはスパッタリング等により電極形成できることから、それぞれ製造は容易であり、柔軟な素子内配置設計もできる。前記電極に関しては、接続端子との界面、半導体素子基板との界面に、本発明の作用効果を損なわない範囲で界面層(例えばスパッタによる薄膜等)を有していてもよい。前記界面層は、前記電極とする厚さの1/5以下が好ましい。なお、本発明における接続端子には、いわゆるボンディングワイヤー等の線材のほか、ブスバーのように電極に対して所定の接合面を有して接合される部材も含まれる。また、本発明で線膨張係数を規定する電極は、接続端子と直に接合されるものを意味する。
【0027】
また、本発明における電力用半導体素子について、高周波回路で用いる場合には、接続端子に流れる電流は表皮効果により、端子表面に集中して流れるため、比較的電気抵抗が高いモリブデン、タングステン、及び、それらの合金の接続端子では損失が増大するおそれがある。この対策としては、モリブデン、タングステン、及びそれらの合金を芯材とし、芯材よりも低い抵抗の金属の被膜を設けた接続端子を用いることにより、高周波電流の抵抗成分を減じることができる。このような金属被膜は、例えば、蒸着法やメッキ法で形成できるが、特に、メッキ法で形成するのが容易である。具体的な金属被膜としては、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、パラジウム等が挙げられ、特に、電気抵抗率が低い金、銀、又は銅から選択することがより好ましい。さらに、前記被膜の厚さは、電力用半導体素子を使用する高周波回路の周波数、環境温度における表皮深さ程度を目安とすることが望ましい。表皮深さLは下記式1にて求められる。
【数1】

〔ここで、fは周波数(Hz)、μは透磁率(H/m)、σは導電率(S/m)で電気抵抗率の逆数である。〕
【0028】
例えば、銅では、室温近傍でその電気抵抗率が1.7×10-8Ωm程度であり、その透磁率は約4π×10-7H/mである(尚、銅の比透磁率はほぼ1であるので、μ=μ0=4π×10-7H/mとした。)ことから、100kHzの表皮深度を、上記式1により求めると0.2mmと計算され、100kHzの環境下では0.2mm程度の厚さを持った銅被膜を有する接続端子が好ましいことを意味する。また、100kHzという周波数帯域は、高周波回路で設計上広く用いられる帯域であり、対応する電気回路部品も多い。100kHzで電気抵抗率が4.0×10-8Ωmである金属の被膜を用いた場合には、式1より表皮深度が約0.3mmとなる。電力用半導体素子内における配線用の接続端子の寸法としては、一般に、直径1.2mmφ以下の丸線もしくは1.2mm厚さ以下のブスバーとして用いられることが多い。そのため、芯材にモリブデン、タングステン、またはそれらの合金を用いて、低い抵抗率を有する金属の被膜を形成しようとしても、該被膜の厚さが接続端子の横断面方向に合計で0.6mm(=0.3mm×2)となり、該芯材と同等の厚さになることから、金属の被膜の電気抵抗率が4.0×10-8Ωmを超える場合には、該被膜が芯材の厚さを上回り、接合部における線膨脹係数の影響は、該被膜成分が支配的となって好ましくない場合が生じる。なお、前記被膜とする金属として、電気抵抗率が低いものは、例えば銀で1.5×10-8Ωm、金で2.2×10-8Ωmである。
【0029】
また、上記のような考え方に基づけば、前記接続端子の横断面における前記金属被膜の面積が、該横断面に対して70%以下、好ましくは40%以下であるのが良い。なお、接続端子については、モリブデン、タングステン、クロム、または、それらの合金からなる芯材を単独で(金属被膜を形成せずに)用いてもよいことは勿論である。
【0030】
芯材の表面に金属被膜を形成する方法としては、所望の厚さを形成できれば手法を問わないが、生産性の観点からは浴中浸漬法が好ましい。高周波帯域では流れる電流が集中的となるため、例えば銅の被膜を形成する場合には、均一性に優れ、該被膜の結晶構造が緻密となるピロリン酸銅浴を用いるのが望ましい。また、金属の被膜を有する接続端子の接合部位は、例えば、研磨により前記被膜を剥離した上で、芯材と電極との間で超音波接合を実施するのが好ましい。特に、電極がモリブデン、タングステン、または、それらの合金からなる場合には、金属の被膜を有する接続端子を該電極と接合するために、前記方法を実施するのがより好ましい。但し、20μm未満程度の薄い被膜を有する接続端子の場合は、超音波接合時に剥離や周囲部材と融合するため、被膜除去の工程を省くこともできる。
【0031】
さらに、半導体素子基板として炭化珪素基板を用いた場合においては、モリブデンやタングステンはショットキー障壁を有するため、ショットキーダイオードを構成するために、ショットキー金属、電極、及び接続端子の芯材として同じ金属を用いれば素子全体の線膨脹係数の整合性が高まり、より信頼性の高い電力用半導体素子を構成できる長所もある。
【0032】
以下、図面を用いて本発明をより具体的に説明する。
図1は本発明の第1の実施例を示す構成図である。図中の1は炭化珪素基板(線膨係数:4.2×10-6/K)であり、4H、n型、厚さ約200μmであってサイズが5mm×5mmの正方形材料である。図中の2は炭化珪素のホモエピタキシャル層であって、厚さは10μm程度とした。エピタキシャル層2の上にはスパッタにより厚さ1μmのモリブデン膜(線膨張係数:4.9×10-6/K)3を形成し、ショットキー電極とした。また、図中の4はスパッタで形成した厚さ0.3μmのニッケル膜であり、ニッケル膜4を形成後1000℃で2分間程度の熱処理を施して、炭化珪素基板(半導体素子基板)1裏面のオーミックを形成した。さらにニッケル膜4の表面にスパッタによりモリブデン金属(膜)5を厚さ2μm程度形成した。
【0033】
次に、幅5mm、厚さ0.6mmの平型モリブデン芯材(線膨張係数:4.9×10-6/K)の表面(表裏両側)に厚さ0.2mmの銅メッキしたブスバー(接続端子)6を用意し、超音波接合により接合した。銅メッキの厚さは、銅の電気抵抗率を1.7×10-8Ωm、透磁率を約4π×10-7H/m、動作周波数を100KHzとして先の式1より求めた。接合の際には、炭化珪素基板1の一方の面に形成したモリブデン膜3に保護テープを付け、この保護テープ側を超音波接合装置の台座に載せた状態でモリブデン膜5の表面にブスバーを搭載し、直径3mmφの超音波振動端子を接合するブスバーの接触部位表面に満遍なく押しあてる方法で行った。超音波の周波数は100kHz、振幅は1μmで実施した。なお、素子電極(モリブデン膜5)とブスバーの接合にあたる部位については、予めブスバーの銅被膜を研磨紙により剥いで、かつ滑らかな研磨表面に仕上げた状態で超音波接合を行った。
【0034】
次に、上記の保護テープを剥がし、直径0.6mmのモリブデンを芯材とし、先と同じく、芯材の表面に銅を0.2mmの厚さで被膜した線材(接続端子)7を用意し、モリブデン膜3との接合部位8に対して超音波接合を実施した。音波の周波数は100kHz、振幅は1μmで実施した。ブスバー同様、線材7の超音波接合部位は、研磨により被膜をはいだ滑らかな表面とした状態で接続した。
【0035】
以上のような方法により形成したショットキーダイオード素子の順方向に、120Aの電流を通電して定常状態の素子の表面温度を放射温度計により観測したところ、200℃であった。この状態から電圧の正負を反転したところ、通電電流は遮断された。再び順方向に戻したところ、先と同様の通電が確認された。これらから、素子の温度が150℃以上に到達してもダイオードとして正常に機能していることがわかった。さらに5分間隔で1000時間、12,000回、直流通電と遮断とを繰り返した後、表裏の素子との接合部位を顕微鏡により観察したが、亀裂等は見られなかった。
【0036】
さらに、上記で得られたショットキーダイオード素子の高周波特性を調べるために、ダイオードのON、OFFのサイクルを100kHz、通電電流を120Aとした条件で通電を行い、素子表面の温度を計測したところ、250℃程度で直流通電時より約50℃の温度上昇であった。一方、本発明の範囲内にある、第1の実施例の変形例として、銅メッキを有さずに、上記と同じサイズのモリブデン線材、及び、同じく銅メッキを有さずに、上記と同じサイズのブスバーで接続した素子を別途用意し、100kHz/120AのON、OFF条件で通電し、定常状態の温度を測定したところ、280℃で約80℃の温度上昇であった。先に示した実施例にあたる、銅メッキした線材とブスバーとを用いた素子の方が、上昇温度は約30℃程度低い温度であり、銅メッキによる交流損失の低減効果、すなわち見かけの電気抵抗上昇の抑制を確認できた。
【0037】
また、比較例として、金線(線膨張係数:14.3×10-6/K)からなる線材7を用いた以外は第1の実施例と同様にして、上記と同様のショットキーダイオード素子を作製した。構成、組み立て方法は第1の実施例と同様であるが、金線の場合は電気抵抗率(2.2×10-8Ωm)が十分に低いため、銅の皮膜は付与していない。以上のような方法により形成したショットキーダイオード素子の順方向に、120Aの電流を通電して定常状態の素子の表面温度を放射温度計により観測したところ、250℃であった。この状態から電圧の正負を反転したところ、通電電流は遮断された。再び順方向に戻したところ、先と同様の通電が確認されたこれらから、素子の温度が150℃以上に到達してもダイオードとして正常に機能していることがわかった。さらに5分間隔で1000時間、12,000回、直流通電と遮断とを繰り返す実験を行おうとしたが、約1時間で通電不能となった。その後の顕微鏡観察等により、原因は線材7と電極(モリブデン膜3)との接合剥離であり、電極との線膨脹係数差による亀裂破壊が進展したものであることがわかった。
【0038】
図2は本発明の第2の実施例を示す構成図である。図中の9はn型のGaN基板(熱膨張係数:5.6×10-6/K)であり、厚さ約300μmであってサイズが3mm×3mmの正方形材料である。図中の10はGaNのホモエピタキシャル層(膜)であり、厚さは10μm程度とした。このエピタキシャル膜の上にはスパッタにより厚さ0.2μmのパラジウム膜(線膨張係数:11.8×10-6/K)11を形成し、ショットキー電極とした。その上に厚さ2μmのタングステン電極(線膨張係数:4.3×10-6/K)12をスパッタにより形成した。
【0039】
また、図中の13は、スパッタ法で形成したチタンと金の多層膜であり、厚さは0.3μmとした。多層膜13を形成後900℃で30秒程度の熱処理を施し、GaN基板裏面のオーミックを形成した。さらに多層膜13の表面にスパッタ法によりタングステン金属(膜)14を厚さ2μm程度形成した。次に、幅3mm、厚さ0.6mmの平型タングステン芯材の表面(表裏両面)に厚さ0.25mmの金メッキを施したブスバー15を用意し、タングステン膜14に超音波接合により接合した。金メッキの厚さは、金の電気抵抗率を2.4×10-8Ωm、透磁率を約4π×10-7H/m、動作周波数を100kHzとして、先の式1より求めた。接合の際には、GaN基板の一方の面側に形成したタングステン膜12に保護テープを付け、この保護テープ側を超音波接合装置の台座に載せた状態でタングステン膜14の表面にブスバーを搭載し、直径3mmφの超音波振動端子を接合するブスバーの接触部位表面に満遍なく押しあてる方法で行った。超音波の周波数は100kHz、振幅は1μmで実施した。なお、タングステン膜14と接合されるブスバーの接合部位は予め研磨紙により金の被膜を剥いで、かつ滑らかな研磨表面にした状態で接続を行った。
【0040】
次に、表面の保護テープを剥がし、先の第1の実施例と同じく直径0.6mmのモリブデン(線膨張係数:4.9×10-6/K)を芯材とし、この芯材の表面に金を0.25mmの厚さで被膜したブスバー16を用意し、タングステン膜12との接合部位に対して超音波接合を実施した。音波の周波数は100kHz、振幅は1μmで実施した。裏面のブスバー同様、ブスバー16の超音波接合部位は、研磨により被膜をはいだ滑らかな表面とした状態で接続した。
【0041】
以上のような方法により形成したショットキーダイオード素子の順方向に、150Aの電流を通電して定常状態の素子の表面温度を放射温度計により観測したところ、250℃であった。この状態から電圧の正負を反転したところ、通電電流は遮断された。再び順方向に戻したところ、先と同様の通電が確認された。これらから、素子の温度が150℃以上に到達してもダイオードとして正常に機能していることがわかった。さらに5分間隔で1000時間、12,000回、直流通電と遮断とを繰り返した後、表裏の素子との接合部位を顕微鏡により観察したが、亀裂等は見られなかった。
【0042】
さらに、高周波特性を調べるために、ダイオードのON、OFFのサイクルを100kHz、通電電流を150Aとした条件で通電を行い、素子表面の温度を計測したところ、300℃程度で直流通電時より約50℃の温度上昇であった。一方、本発明の範囲内にある、第2の実施例の変形例として、第2の実施例における2つのブスバーのいずれも金メッキを有さずに、上記と同じサイズのタングステンのブスバーで接続した素子を用いて100kHz/150AのON、OFF条件で通電し、定常状態の温度を測定したところ、340℃で約90℃の温度上昇であった。先の金メッキしたブスバーの方が約40℃程度低い温度であり、金メッキによる交流損失の低減効果、すなわち見かけの電気抵抗上昇の抑制効果を確認できた。
【0043】
また、比較例として、第2の実施例におけるブスバー15、16を、いずれも銅で形成した以外は第2の実施例と同様にして素子を作製した。構成、組み立て方法は第2の実施例と同様であるが、銅のブスバーの場合は電気抵抗率(1.7×10-8Ωm程度)が十分に低いため、特に皮膜は付与していない。
【0044】
以上のような方法により形成したショットキーダイオード素子の順方向に、150Aの電流を通電して定常状態の素子の表面温度を放射温度計により観測したところ、200℃であった。この状態から電圧の正負を反転したところ、通電電流は遮断された。再び順方向に戻したところ、先と同様の通電が確認された。これらから、素子の温度が150℃以上に到達してもダイオードとして正常に機能していることがわかった。さらに5分間隔で1000時間、12,000回、直流通電と遮断とを繰り返す実験を行おうとしたが、約30分間で通電不能となった。その後の顕微鏡観察等により、原因はブスバー15、16と電極(タングステン膜12、14)との接合剥離であり、電極との線膨脹係数差による亀裂破壊が進展したものであることがわかった。
【0045】
上記で記載した実施例では炭化珪素基板、及びGaN基板を用いたが、半導体素子基板としてダイヤモンドやAlGaNを用いた素子においても本発明は適用可能である。また、接続端子、及び電極として、モリブデン、タングステンを例にしたが、クロムやそれらを主成分とした合金系であっても、接続端子、電極、及び半導体素子基板での間の線膨脹係数の差が、5.2×10-6/K以内であれば利用可能である。また、ショットキーダイオードのみならず、MOSFET、JFET、MESFET、PiNダイオード、IGBT、サイリスタ等、素子の構造を問わず本発明の適用は可能である。
【符号の説明】
【0046】
1.炭化珪素基板
2.エピタキシャル層
3.モリブデン膜
4.Ni膜
5.モリブデン膜
6.ブスバー
7.接続線
8.接合部位
9.GaN基板
10.エピタキシャル層
11.パラジウム膜
12.タングステン膜
13.チタン金多層膜
14.タングステン膜
15.ブスバー
16.ブスバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイドバンドギャップ半導体素子基板に電極が積層されると共に、該電極には外部配線へ接続するための接続端子が接合されており、150℃以上の温度環境下で作動可能な電力用半導体素子であって、
前記電極、接続端子を形成する芯材、及び前記半導体素子基板の3つの線膨脹係数の差が、最大で5.2×10-6/Kであり、かつ、
前記接続端子と電極とが直接接合されてなる接合部を有することを特徴とする電力用半導体素子。
【請求項2】
前記接続端子を形成する芯材が、モリブデン、タングステン、又は、それらの合金からなる請求項1記載の電力用半導体素子。
【請求項3】
前記接続端子を形成する芯材が、モリブデン、タングステン、または、それらの合金からなり、かつ、該芯材の表面に、電気抵抗率が4×10-8Ω・m以下の金属が被膜されて接続端子が形成される請求項1又は2に記載の電力用半導体素子。
【請求項4】
前記接続端子の横断面における前記金属被膜の面積が、該横断面に対して70%以下である請求項3に記載の電力用半導体素子。
【請求項5】
前記半導体素子基板が、炭化珪素、窒化ガリウム、又は、ダイヤモンドからなる請求項1〜4のいずれかに記載の電力用半導体素子。
【請求項6】
前記電極と接続端子との接合部が、超音波振動により接合してなる接合部である請求項1〜5のいずれかに記載の電力用半導体素子。
【請求項7】
前記電極が、モリブデン、タングステン、又は、それらの合金からなる請求項1〜6のいずれかに記載の電力用半導体素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−171529(P2011−171529A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34284(P2010−34284)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)