説明

電力系統における事故復旧目標系統決定方法

【課題】事故から迅速に復旧可能な復旧目標系統を決定することができるようにする。
【解決手段】コンピュータが、事故が発生した前記電力設備である事故設備の指定を受け付け、所定の運用制約を満たし、かつ事故設備が停電状態となる復旧目標系統候補を複数作成し、常時系統または事故系統を構成する各電力設備の状態を表す文字を並べた第1の文字列と、復旧目標系統候補を構成する各電力設備の状態を表す文字を並べた第2の文字列との間のハミング距離に応じて、復旧目標系統候補のひとつを復旧目標系統として決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統における事故復旧目標系統決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力会社等は電力設備のスリム化を促進し、最小限の電力設備で最大のサービスを提供することが求められている。一方、電力の安定供給のためには、電力設備の新増設や点検(以下、「停電作業」という。)など、電力設備の機能を停止させる作業を遂行する必要があり、停電作業に際しては、可能な限り停電作業による需要者への影響を抑えるように作業計画(以下、「停電作業計画」という。)を立てる必要がある。停電作業計画を作成する際には、停電作業中において供給支障を伴う事故が電力設備に発生した場合の復旧を検討する必要がある。例えば、特許文献1や特許文献2には、想定事故に対する復旧目標系統を立案して、想定事故に対する信頼度が確保できているかどうかの評価を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−32892号公報
【特許文献2】特開2008−187870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
供給支障を解消する系統は数多く存在するが、なるべく迅速に復旧することのできる系統を決定するべきである。しかしながら、特許文献1および特許文献2のいずれにも復旧目標系統を立案する具体的な構成は記載されていない。
【0005】
本発明はこのような背景に鑑みてなされたもので、事故から迅速に復旧可能な復旧目標系統を決定することができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明の主たる発明は、複数の電力設備によって構成される電力系統における事故からの復旧を支援するシステムであって、事故が発生した前記電力設備である事故設備の指定を受け付ける事故設備指定部と、前記電力系統を構成する前記電力設備のそれぞれの状態の組合せのうち、所定の運用制約を満たし、かつ前記事故設備が停電状態となるものである復旧目標系統候補を複数作成する復旧目標系統候補作成部と、ある所定の系統を構成する前記各電力設備の状態を表す文字を並べた第1の文字列を作成し、前記復旧目標系統候補のそれぞれについて、前記復旧目標系統候補を構成する前記各電力設備の状態を表す文字を並べた第2の文字列を作成し、前記第1および第2の文字列間のハミング距離を算出するハミング距離算出部と、前記ハミング距離に応じて、前記復旧目標系統候補のひとつを復旧目標系統として決定する復旧目標系統決定部と、を備えることとする。
【0007】
また、本発明の電力系統復旧支援システムでは、前記所定の系統は常時系統であるようにしてもよい。
【0008】
また、本発明の電力系統復旧支援システムでは、前記所定の系統は、常時系統において前記事故設備を停電状態とした系統であるようにしてもよい。
【0009】
また、本発明の電力系統事故対策支援システムでは、前記復旧目標系統決定部は、前記ハミング距離が最も短い前記復旧目標系統候補を、前記復旧目標系統として決定するようにしてもよい。
【0010】
また、本発明の電力系統事故対策支援システムは、前記電力設備を特定する情報に対応付けて、前記電力系統の供給信頼度を算出するための信頼度情報を記憶する信頼度情報記憶部を備え、前記復旧目標系統決定部は、前記復旧目標系統候補のそれぞれについて、前記復旧目標系統候補を構成する前記電力設備の状態および対応する前記信頼度情報に基づいて、前記供給信頼度を算出し、前記ハミング距離および前記供給信頼度に応じて前記復旧目標系統を決定するようにしてもよい。
【0011】
また、本発明の電力系統事故対策支援システムでは、前記復旧目標系統決定部は、前記ハミング距離が最も短い前記復旧目標系統候補が複数ある場合にのみ、当該ハミング距離が最も短い復旧目標系統候補のそれぞれについて、前記供給信頼度を算出し、前記算出した供給信頼度の最も高いものを前記復旧目標系統として決定するようにしてもよい。
【0012】
また、本発明の他の態様は、複数の電力設備によって構成される電力系統における事故への対策を支援する方法であって、CPUとメモリとを有するコンピュータが、事故が発生した前記電力設備である事故設備の指定を受け付け、前記電力系統を構成する前記電力設備のそれぞれの状態の組合せのうち、所定の運用制約を満たし、かつ前記事故設備が停電状態となるものである復旧目標系統候補を複数作成し、ある所定の系統を構成する前記各電力設備の状態を表す文字を並べた第1の文字列を作成し、前記復旧目標系統候補のそれぞれについて、前記復旧目標系統候補を構成する前記各電力設備の状態を表す文字を並べた第2の文字列を作成し、前記第1および第2の文字列間のハミング距離を算出し、前記ハミング距離に応じて、前記復旧目標系統候補のひとつを復旧目標系統として決定することとする。
【0013】
また、本発明の他の態様は、複数の電力設備によって構成される電力系統における事故への対策を支援するためのプログラムであって、CPUとメモリとを有するコンピュータに、事故が発生した前記電力設備である事故設備の指定を受け付けるステップと、前記電力系統を構成する前記電力設備のそれぞれの状態の組合せのうち、所定の運用制約を満たし、かつ前記事故設備が停電状態となるものである復旧目標系統候補を複数作成するステップと、ある所定の系統を構成する前記各電力設備の状態を表す文字を並べた第1の文字列を作成し、前記復旧目標系統候補のそれぞれについて、前記復旧目標系統候補を構成する前記各電力設備の状態を表す文字を並べた第2の文字列を作成し、前記第1および第2の文字列間のハミング距離を算出するステップと、前記ハミング距離に応じて、前記復旧目標系統候補のひとつを復旧目標系統として決定するステップと、を実行させることとする。
【0014】
その他本願が開示する課題やその解決方法については、発明の実施形態の欄及び図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、事故から迅速に復旧可能な復旧目標系統を決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る復旧作業支援システムを実現する情報処理装置200を示す図である。
【図2】復旧作業支援システムのソフトウェア構成を示す図である。
【図3】常時系統の一例を示す図である。
【図4】基準系統の一例を示す図である。
【図5】復旧目標系統を決定する処理の流れを説明する図である。
【図6】復旧目標系統の候補の一例を示す図である。
【図7】復旧目標系統の候補の一例を示す図である。
【図8】操作票の出力処理の流れを示す図である。
【図9】基準系統と復旧目標系統とのそれぞれにおける各電力設備の状態の例を示す図である。
【図10】事故系統から復旧目標系統への遷移を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態にかかる復旧作業支援システムについて、図面とともに詳細に説明する。
【0018】
==システムの概要==
本実施形態の復旧作業支援システムは、常時系統において電力設備に事故が発生した場合に、事故の発生した系統(以下、「事故系統」という。)から、停電を解消する系統(以下、「復旧目標系統」という。)を決定するものである。常時系統とは通常の運用状態における電力系統の状態である。事故系統とは、常時系統を構成する電力設備のうち、事故が発生した電力設備(以下、「事故設備」という。)を停電状態にするとともに、事故設備の停電に連動して停電する他の電力設備についても停電状態とする電力系統である。本実施形態の復旧作業支援システムでは、後述するように、停電からの復旧作業を迅速に行うことができるような復旧目標系統を決定し、その候補が複数ある場合には供給信頼度の高いものを選択するようにしている。ここで供給信頼度とは、電力の安定性を示す指標であり、例えば、停電作業により電力設備の機能が停止されると電力系統の冗長性が低下し、これにより供給信頼度は低下することになる。供給信頼度の指標としては、需要家側での停電回数や停電時間などがある。また、供給者側での供給信頼度の指標としては、電源部門での供給予備率や電力不足確率、送配電部門でのアデカシーやセキュリティなどがある。アデカシーとは、電力系統を構成する電力設備の運用制約を考慮に入れ、電力系統に異常を生じることなく電力を供給することができる電力系統の能力の尺度であり、静的な供給信頼度である。これらの指標は、電力設備ごとに、あるいは電力系統全体の値(総和や平均)として評価される。
【0019】
本実施形態にかかる停電作業計画システムでは、供給信頼度を定量化するために、供給信頼度の指標として、N−2供給支障電力、N−2過負荷電力、N−2余裕電力量等、を用いている。ここで電力系統の構成要素の一つが事故等で機能を停止した場合がN−1であり、電力設備の二つが機能を停止した場合がN−2である。一般にN−1を想定した設備構成の考え方は、N−1基準と呼ばれている。N−2基準は、さらに厳しい事故等を想定したものである。N−2基準はN−1に比べてより高レベルの信頼度が要求される場合に採用される基準である。一般的な電力設備は、N−1基準に従って作成されている。本実施例ではN−2基準を原則としている。但し、後述するように、N−2基準だけでは必ずしも採用すべき作業系統候補の優先順位を完全に順序づけることができない場合もありうる。そこでそのような場合には、より高次の基準であるN−3基準、N−4基準、・・・等を適宜採用する。
【0020】
N−2基準のうち上述したN−2供給支障電力は、電力系統を構成している電力設備のうち二つの電力設備が事故等により機能を停止している場合における供給支障電力である。供給支障電力には、負荷への電力供給が完全に遮断されているものと、電力供給が完全に遮断されているわけではないが負荷に必要とされる電力よりも減少しているものとが含まれる。本実施例では、N−2供給支障電力として、二つの電力設備が機能を停止している全ての電力系統のバリエーションについての各負荷の供給支障電力の総和、もしくは、前記総和を前記バリエーション数で除した平均値を採用している。供給支障電力が少ないほど、供給信頼度は高くなる。
【0021】
N−2基準のうち上述したN−2過負荷量は、電力系統を構成している電力設備のうち二つの電力設備が事故等により機能を停止している場合において、機能を停止していない他の電力設備に定格容量を超えて流れている過負荷の電力量である。本実施例では、N−2供給支障電力と同様に、二つの電力設備が機能を停止している全ての電力系統のバリエーションについての各電力設備のN−2過負荷量の総和、もしくは、前記総和を前記バリエーション数で除した平均値を採用している。過負荷量が小さいほど、供給信頼度は高くなる。
【0022】
N−2基準のうち上述したN−2余裕電力量は、電力系統を構成している電力設備のうち二つの電力設備が事故等により機能を停止している場合において、機能を停止していない他の電力設備における、電力の定格容量とその電力設備における送電量の差である。N−2余裕電力量が大きいほど、供給信頼度は高くなる。
【0023】
なお、供給信頼度は、上述したものに限ることなく、他の電力の安定性を示す指標を適宜採用することができる。
【0024】
==情報処理装置==
図1は本実施形態に係る復旧作業支援システムを実現する情報処理装置200である。CPU201は、情報処理装置200の全体の制御を司るもので、記憶手段としてのメモリ202や記憶装置208に格納されたプログラム202cを実行することにより復旧作業支援システムの機能やデータベースの機能等を実現する。記録媒体読取装置204は、記録媒体207に記録されているプログラムやデータを読み取るための装置である。読み取られたプログラムやデータは、メモリ202や記憶装置208に格納される。従って、例えば記録媒体207に記録された復旧作業支援システムの機能を実現するためのプログラム202cを、記録媒体読取装置204を用いて上記記録媒体207から読み取って、メモリ202や記憶装置208に格納するようにすることができる。例えば、上述のデータベースに記憶されるデータは、メモリ202や記憶装置208に格納される。記録媒体207としてはフレキシブルディスクやCD−ROM、DVD−ROM/RAM、DVD−RAM/RAM、半導体メモリ等を用いることができる。
【0025】
記録媒体読取装置204は、情報処理装置200に内蔵されている形態とすることもできるし、外付されている形態とすることもできる。記憶装置208は、例えばハードディスク装置やフレキシブルディスク装置、半導体記憶装置等である。入力装置205はオペレータ等による情報処理装置200へのデータ入力等のために用いられる。入力装置205としては例えばキーボードやマウス等が用いられる。出力装置206は情報を外部に出力するための装置である。出力装置206としては例えばディスプレイやプリンタ等が用いられる。通信インタフェース203は、情報処理装置200をLAN等の外部ネットワークに接続するためのインタフェースである。情報処理装置200は、通信インタフェース203を介して他のコンピュータ等の外部装置との間で通信を行うことができる。
【0026】
図2は、本実施形態の復旧作業支援システムのソフトウェア構成を示す図である。復旧作業支援システムは、事故設備指定部211、復旧目標系統候補作成部212、復旧目標系統決定部213、切替作業計画作成部214、常時系統記憶部231を備えている。なお、事故設備指定部211、復旧目標系統候補作成部212、復旧目標系統決定部213は、例えば情報処理装置200が備えるCPU201がメモリ202に記憶されているプログラム202cを実行することにより実現される。また、常時系統記憶部231は、例えば情報処理装置200が備えるメモリ202が提供する記憶領域として実現される。
【0027】
常時系統記憶部231は、常時系統における電力設備の状態を示す情報(以下、「系統情報」という。)を記憶している。図3は常時系統の一例を示す図である。図3の例では、常時系統は電力設備であるブランチb1−b9が含まれており、4つのブランチb2、b3、b5、b6がオン状態であり、その他のブランチはオフ状態である。系統情報は、例えば、図3の下段に示すように、各電力設備の状態(図3の例では「1」がオン状態、「0」がオフ状態を示している。)を含んでいる。また、常時系統記憶部231には、電力系統を構成している各電力設備に係る、例えば、消費電力、定格電力、送電容量、電力損失などの情報(上述の供給信頼度を算出するための情報である。以下、「信頼度情報」という。)や、後述する復旧目標系統の決定処理に用いられる各種のデータが適宜記憶されている。
【0028】
事故設備指定部211は、ユーザから事故が発生した、あるいは事故が起きたと想定する事故設備の指定を受け付ける。事故系統の一例を図4に示す。図4の例では、ブランチb5が事故設備であり、これにより負荷L3が停電している。
【0029】
復旧目標系統候補作成部212は、復旧目標系統の候補となる系統(以下、「復旧目標系統候補」という。)を作成する。復旧目標系統候補は、事故設備がオフ状態であり、かつ、負荷の全てに給電されている電力設備の組合せである。
【0030】
復旧目標系統決定部213は、復旧目標系統候補の中から復旧目標系統を決定する。本実施形態の復旧作業支援システムでは、復旧目標系統決定部213は、常時系統において事故設備のみをオフ状態とした系統(以下、「基準系統」という。)に最も近い距離にある復旧目標系統候補を復旧目標系統として決定する。基準系統と復旧目標系統候補との距離は、ハミング距離により算出する。すなわち、基準系統における各電力設備のオンオフ状態を示す文字を並べた文字列(以下、「状態文字列」という。)と、復旧目標系統候補における各電力設備のオンオフ状態を示す文字を並べた状態文字列とを比較して、異なる文字の数であるハミング距離を、常時系統と復旧目標系統候補との距離として算出する。
【0031】
切替作業計画作成部214は、事故系統から復旧目標系統に移行するための手順を計画する。
【0032】
==復旧目標系統決定処理==
図5は、復旧目標系統の決定処理の流れを説明する図である。
事故設備指定部211は、事故設備の入力を受け付けて(S311)、復旧目標系統決定部213は、ハミング距離nを0に設定し(S312)、常時系統において事故設備のみをオフ状態とした基準系統を作成する(S313)。例えば、上述の図4の例では、事故設備がブランチb5である場合に、ブランチb5のみがオフ状態とされる。なお、図3および図4の例では、常時系統においてブランチb5がオフ状態となっても他のブランチがオフ状態になることはないので、事故系統と基準系統とは同一である。
【0033】
復旧目標系統決定部213は、基準系統において停電する負荷があるか否かを判定し(S314)、基準系統においても停電する負荷がなければ(S314:NO)、基準系統が運用制約を満たすか否かを判定する(S315)。なお、運用制約は、運用箇所によって異なるため、様々なバリエーションに変更されるが、少なくとも、事故設備がオフ状態となったことにより他の電力も停電状態となり、全ての負荷に電力供給が行われるか否かを判定するものとする。例えば、ブランチの接続状態によっては、あるブランチがオフ状態となった場合に、そのブランチに接続されている他のブランチも停電(オフ)状態となることがありうる。上述したように、基準系統においては、運用時には停電するとしても事故設備のみをオフ状態として、他の電力設備の状態は常時系統と同じ状態のままにするが、ステップS315の判定処理では、復旧目標系統決定部213は、事故設備がオフ状態となったことによりその他のブランチや負荷などの電力設備がオフ状態になるか否かを判定していき、最後に全ての負荷が通電状態であるか否かを判定する。また、その他の運用制約の判断は、例えば、潮流計算を用いて行われる。潮流計算手法としては処理が高速に行われるものが望ましく、例えば、OSPF(Optimal Switching Power Flow:例えば、R.Bacher,H.Glavitsch:" Network Topology Optimization with Security Constraints " IEEE Trans.PS, Vol.PWRS-1,No.4,103-111(1986)を参照)を用いる。
【0034】
基準系統が運用制約を満たす場合には(S315:YES)、基準運用系統を復旧目標系統として決定し(S316)、処理を終了する。
【0035】
一方、停電する負荷がある場合(S314:YES)、または基準運用系統が運用制約を満たさない場合には(S315:NO)、復旧目標系統決定部213は、nをインクリメントする(S317)。
【0036】
復旧目標系統候補作成部212は、常時系統における各電力設備の状態から、事故設備をオフ状態とするとともに、その他のn−1個の電力設備の状態を変更(オン状態の電力設備はオフ状態とし、オフ状態の電力設備はオン状態とする。)した系統を復旧目標系統候補として作成する(S318)。本実施形態では、復旧目標系統候補作成部212は、ブランチb1−b9の状態を示す状態文字列を作成し(図4の例では、「011001000」)、そのうち事故設備以外のn−1の電力設備に対応する文字を変更(「1」を「0」に、あるいは「0」を「1」に)した状態文字列を作成する。図6および図7は、復旧目標系統候補の一例を示す図であり、例えば、図6に示す復旧目標系統候補1の場合、ブランチb4に対応する文字が変更され、状態文字列は「011101000」となり、図7に示す復旧目標系統候補2の場合、ブランチb9に対応する文字が変更されて状態文字列は「011001001」となる。このように、本実施形態では、基準系統に係る状態文字列からのハミング距離が短い順、すなわち基準系統に近い順に、復旧目標系統候補を作成していくことになる。
【0037】
ここで、電力系統の状態の数は、各電力設備が通電および停電の2つの状態を取り得るため、単純に計算すると2[b:電力設備の数(例えば、送電線の数+変圧器の数)]という莫大な数となる。そこで本実施形態においては、処理の対象とする電力系統の状態の数を絞り込むために、二つの制約を課すこととしている。
【0038】
そのうちの一つは、同一の電力設備が冗長な構成を有している場合にこれを一つの電力設備として扱うようにすること(以下、「縮約」という)である。例えば、同じ電気所(発電所・変電所等)間が複数回線の送電線で構成される場合には、これら複数回線を一つの電力設備として扱うようにする。また同じ電力設備(母線)間が複数の変圧器で構成される場合には、これら複数の変圧器を一つの電力設備として扱うようにする。このような制約を課すことにより、復旧目標系統候補の供給信頼度を殆ど低下させることなく計算量を減らすことができる。
【0039】
二つめの制約は、採用する復旧目標系統候補を、基準系統における停電設備の数を増減させた基準系統に近似する構成(周辺)に絞ることである。例えば、基準系統における停電設備数が2である場合には、停電設備数が1あるいは3などの場合が基準系統周辺である。停電作業のための系統は、基準系統に近い(周辺)作業系統であるという結果が調査で得られており経験的にも納得できるものであることから、このようにサンプルとして採用する系統を基準系統周辺に制約することにより、最適化の精度を低下させることなく計算量を減らすことができる。なお、基準系統周辺に制約した場合の系統数は、例えば、次式により求められる。

M=1,2,…,MM,N=1,2,…,MN
なお、上式において、MMは常時停電状態にある電力設備の中から同時に通電状態とする最大数、MNは常時通電状態にある電力設備の中から同時に停電状態とする最大数、offは常時停電状態にある電力設備の数、onは常時通電状態にある電力設備の数、mは常時停電状態にある電力設備から同時に通電状態とする数、nは常時通電状態の電力設備から同時に停電状態とする数である。基準系統周辺の範囲は、上式におけるMMやMNの値を変えることにより任意に設定することができる。
【0040】
次に、復旧目標系統候補決定部213は、復旧目標系統候補のそれぞれについて、復旧目標系統候補において停電する負荷がある場合(S319:YES)、または復旧目標系統候補が上述した運用制約を満たさない場合には(S320:NO)、当該復旧目標系統候補を削除する(S321)。
【0041】
復旧目標系統決定部213は、復旧目標系統候補がない場合には(S322:0)、ステップS317からの処理を繰り返し、復旧目標系統候補が1つのみである場合には(S322:1)、当該復旧目標系統候補を復旧目標系統とする(S323)。復旧目標系統決定部213は、復旧目標系統候補が2以上ある場合には(S322:2以上)、各復旧目標系統候補について供給信頼度を算出して(S324)、もっとも供給信頼度が高い復旧目標系統候補を復旧目標系統として決定する(S325)。
【0042】
上述したように、図3に示す常時系統からブランチb5をオフ状態とした基準系統(本実施形態では図4に示す事故系統と同じである。)に係る状態文字列は「011001000」であり、図6に示す復旧目標系統候補1係る状態文字列は「011101000」、図7に示す復旧目標系統候補2に係る状態文字列は「011001001」である。したがって、復旧目標系統候補1および復旧目標系統候補2ともに、基準系統からのハミング距離は「1」である。復旧目標系統候補1の供給信頼度がaであり、復旧目標系統候補2の供給信頼度がbである場合、例えばa≧bであれば復旧目標系統候補1が復旧目標系統として決定され、a<bであれば復旧目標系統候補2が復旧目標系統として決定されるようにすることができる。
【0043】
以上のようにして、本発明の復旧作業支援システムによれば、運用制約の範囲内でかつ迅速に復旧可能な復旧目標系統を決定することができる。さらに、ハミング距離が同じ復旧目標系統候補が複数ある場合には供給信頼度が高いものを復旧目標系統とすることができる。つまり、本発明の復旧作業支援システムは、迅速な復旧を可能としつつ、顧客に対する利益をも大きくするように復旧目標系統を決定することができる。
【0044】
==系統切替手順計画作成処理==
上記のようにして復旧目標系統が決定されると、次に、事故系統から復旧目標系統に移行するための手順を示す情報(以下、「操作票」という。)の出力処理が行われる。事故系統から復旧目標系統への電力系統の状態の移行は、電力設備を1つずつ通停電していくことにより行われる。復旧作業支援システムは操作票を作成(出力)し、電力系統の制御操作を行う運用者は、操作票に基づいて電力系統の制御操作を行う。
【0045】
図8は、操作票の出力処理の流れを示す図である。
切替作業計画作成部214は、まず事故系統を作成する(S510)。すなわち、切替作業計画作成部214は、常時系統において事故設備をオフ状態とし、さらに常時系統を構成する他の電力設備のそれぞれについて、事故設備をオフ状態としたことにより停電するか否かを判定していき、停電する他の電力設備をオフ状態とした系統を事故系統として作成する。切替作業計画作成部214は、事故系統と復旧目標系統との間で状態が変化する電力設備(以下、「差分設備」という。)を抽出する(S511)。図9に事故系統と復旧目標系統とのそれぞれにおける各電力設備の状態の例を示す。図9の例では、事故系統と復旧目標系統との間で状態が変化しているのは、電力設備b3、b4およびb9である(図中丸で示す部分)。
【0046】
切替作業計画作成部214は、まず事故系統を現在系統とし(S512)、通電状態となっている電力設備の数(以下、「通電設備数」という。)が、現在系統における通電設備数から「1」減算した数であり、かつ、差分設備の状態が現在系統における差分設備の状態と異なる系統を作成する(S513)。図9の例において事故系統が現在系統である場合、上記差分設備の状態が変化して通電設備数が1減ることから、電力設備b3の状態が停電状態(0)になる系統を作成することになる。
【0047】
切替作業計画作成部214は、作成した系統(以下、「操作中系統候補」という。)を供給信頼度の高い順に一つずつ操作中系統として選択し(S514)、選択した操作中系統に対して、現在系統から操作中系統に電力設備の状態を変化させることに関する制約(以下、「操作制約」という。)を満たすかどうかの判断を行う(S515)。本実施形態では、操作制約として、現在系統と操作中系統との相差角の範囲が15°以内であることを採用している。操作中系統が操作制約を満たす場合には(S515:YES)、後述の(S519)に進む。
【0048】
上記の操作中系統候補のいずれも操作制約を満たさないとき、切替作業計画作成部214は、通電設備数が現在系統における通電設備数に「1」加算した数であり、差分設備の状態が現在系統における差分設備の状態と異なる操作中系統候補を作成する(S516)。図9の例において事故系統が現在系統である場合には、電力設備b4またはb9の状態が通電状態(1)になる作業系統候補を選択することになる。
【0049】
切替作業計画作成部214は、作成した操作中系統候補を、供給信頼度の高い順に一つずつ操作中系統として選択し(S517)、選択した操作中系統に対して、上記(S515)と同様に操作制約を満たすかどうかの判断を行う(S518)。操作中系統が操作制約を満たすか(S518:YES)、または上記(S515)において操作中系統が操作制約を満たす場合(S515:YES)、切替作業計画作成部214は、操作中系統を現在系統とする(S519)。現在系統と作業系統とが一致した場合(S520:YES)、切替作業計画作成部214は、事故系統と操作中系統と復旧目標系統とを出力装置206に出力し(S521)、処理を終了する。現在系統と復旧目標系統とが同じでない場合(S521:NO)は、(S513)からの処理を繰り返す。
【0050】
一方、上記の操作中系統候補のいずれも操作制約を満たさないときには、操作制約を満たす手順を示すことができない旨のメッセージを表示するなどの、エラー処理を行い(S523)、処理を終了する。
【0051】
上記のようにして、電力系統の状態が事故系統から操作中系統を経て復旧目標系統になるまでの各状態が出力される。これにより、どの電力設備を通停電していくのかを示すことが可能となり、操作票が作成されることになる。したがって、作成された操作票に基づいて、自動的又は半自動的に電力設備の通停電を行うことが可能となり、停電作業計画から系統切替手順計画まで一連の流れとして処理が可能となる。
【0052】
図10は事故系統から復旧目標系統への遷移を説明する図である。図10の例では、1回目の操作で事故系統から電力設備b3を停電状態に変更し(S601)、2回目の操作で電力設備b4を通電状態にし(S602)、3回目の操作で電力設備b9を通電状態にする(S603)という手順を示している。このように事故系統から復旧目標系統に至るまでの電力系統の状態の遷移を基に各電力設備を通停電させる手順を定めることにより、事故系統から復旧目標系統に移行するための操作票を容易かつ確実に作成することができる。操作票が作成されることにより、電力系統の制御操作を行う運用者は、操作中系統の各段階において、通停電を行う対象となる電力設備を容易かつ確実に把握することができる。また、運用者は出力された操作票の各状態に合わせるように電力設備の通停電を行うことにより、容易に電力系統の系統操作を遂行することが可能となり、事故からの復旧を迅速に行うとともに、操作のミスを防止することができる。
【0053】
なお、上記図8の(S514)において、操作中系統候補の供給信頼度が高く相差角が小さいものから順に一つずつ操作中系統を選択するようにしてもよい。この場合には、操作制約を満たす可能性が高いものから順に操作制約を満たすかどうかを判断していくことになるので、操作中系統候補が操作制約を満たさなかった場合には、他の操作中系統候補が操作制約を満たすかどうかを判断することなく(S516)に進むようにすることができる。
【0054】
また、本実施形態では、基準系統とのハミング距離が近い系統を復旧目標系統として決定するようにしたが、常時系統とのハミング距離が近い系統を復旧目標系統として決定するようにしてもよい。一般に常時系統は供給信頼度が高く、その周辺の系統も供給信頼度が高いことが期待されるので、復旧目標系統の信頼度が高くなることが期待される。
【0055】
また、常時系統における一部の設備について停電作業を行うための系統(以下、「作業系統」という。)からハミング距離が近い系統を復旧目標系統として決定するようにしてもよい。一般に停電設備が増えると供給信頼度は低下するため、作業系統は常時系統周辺から選択されることが多く、常時系統と同様に供給信頼度が高いことが期待される。
【0056】
さらに、事故系統からハミング距離の近い系統を復旧目標系統として決定するようにしてもよい。この場合、復旧作業に係る電力設備の状態変化が少なくなるので、復旧を迅速に行うことが可能となる。
【0057】
以上、本実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物も含まれる。
【符号の説明】
【0058】
200 情報処理装置
201 CPU
202 メモリ
202c プログラム
205 入力装置
206 出力装置
207 記録媒体
208 記憶装置
211 事故設備指定部
212 復旧目標系統候補作成部
213 復旧目標系統決定部
214 切替作業計画作成部
231 常時系統記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電力設備によって構成される電力系統における事故からの復旧を支援するシステムであって、
事故が発生した前記電力設備である事故設備の指定を受け付ける事故設備指定部と、
前記電力系統を構成する前記電力設備のそれぞれの状態の組合せのうち、所定の運用制約を満たし、かつ前記事故設備が停電状態となるものである復旧目標系統候補を複数作成する復旧目標系統候補作成部と、
ある所定の系統を構成する前記各電力設備の状態を表す文字を並べた第1の文字列を作成し、前記復旧目標系統候補のそれぞれについて、前記復旧目標系統候補を構成する前記各電力設備の状態を表す文字を並べた第2の文字列を作成し、前記第1および第2の文字列間のハミング距離を算出するハミング距離算出部と、
前記ハミング距離に応じて、前記復旧目標系統候補のひとつを復旧目標系統として決定する復旧目標系統決定部と、
を備えることを特徴とする電力系統復旧支援システム。
【請求項2】
請求項1に記載の電力系統復旧支援システムであって、
前記所定の系統は常時系統であること、
を特徴とする電力系統復旧支援システム。
【請求項3】
請求項1に記載の電力系統復旧支援システムであって、
前記所定の系統は、常時系統を構成する電力設備の少なくとも一部に対して停電作業を行うための作業系統であること、
を特徴とする電力系統復旧支援システム。
【請求項4】
請求項1に記載の電力系統復旧支援システムであって、
前記所定の系統は、常時系統において前記事故設備を停電状態とした系統であること、
を特徴とする電力系統復旧支援システム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電力系統事故対策支援システムであって、
前記復旧目標系統決定部は、前記ハミング距離が最も短い前記復旧目標系統候補を、前記復旧目標系統として決定すること、
を特徴とする電力系統事故対策支援システム。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電力系統事故対策支援システムであって、
前記電力設備を特定する情報に対応付けて、前記電力系統の供給信頼度を算出するための信頼度情報を記憶する信頼度情報記憶部を備え、
前記復旧目標系統決定部は、前記復旧目標系統候補のそれぞれについて、前記復旧目標系統候補を構成する前記電力設備の状態および対応する前記信頼度情報に基づいて、前記供給信頼度を算出し、前記ハミング距離および前記供給信頼度に応じて前記復旧目標系統を決定すること、
を特徴とする電力系統事故対策支援システム。
【請求項7】
請求項6に記載の電力系統事故対策支援システムであって、
前記復旧目標系統決定部は、前記ハミング距離が最も短い前記復旧目標系統候補が複数ある場合にのみ、当該ハミング距離が最も短い復旧目標系統候補のそれぞれについて、前記供給信頼度を算出し、前記算出した供給信頼度の最も高いものを前記復旧目標系統として決定すること、
を特徴とする電力系統事故対策支援システム。
【請求項8】
複数の電力設備によって構成される電力系統における事故への対策を支援する方法であって、
CPUとメモリとを有するコンピュータが、
事故が発生した前記電力設備である事故設備の指定を受け付け、
前記電力系統を構成する前記電力設備のそれぞれの状態の組合せのうち、所定の運用制約を満たし、かつ前記事故設備が停電状態となるものである復旧目標系統候補を複数作成し、
ある所定の系統を構成する前記各電力設備の状態を表す文字を並べた第1の文字列を作成し、前記復旧目標系統候補のそれぞれについて、前記復旧目標系統候補を構成する前記各電力設備の状態を表す文字を並べた第2の文字列を作成し、前記第1および第2の文字列間のハミング距離を算出し、
前記ハミング距離に応じて、前記復旧目標系統候補のひとつを復旧目標系統として決定すること、
を特徴とする電力系統事故対策支援方法。
【請求項9】
複数の電力設備によって構成される電力系統における事故への対策を支援するためのプログラムであって、
CPUとメモリとを有するコンピュータに、
事故が発生した前記電力設備である事故設備の指定を受け付けるステップと、
前記電力系統を構成する前記電力設備のそれぞれの状態の組合せのうち、所定の運用制約を満たし、かつ前記事故設備が停電状態となるものである復旧目標系統候補を複数作成するステップと、
ある所定の系統を構成する前記各電力設備の状態を表す文字を並べた第1の文字列を作成し、前記復旧目標系統候補のそれぞれについて、前記復旧目標系統候補を構成する前記各電力設備の状態を表す文字を並べた第2の文字列を作成し、前記第1および第2の文字列間のハミング距離を算出するステップと、
前記ハミング距離に応じて、前記復旧目標系統候補のひとつを復旧目標系統として決定するステップと、
を実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−34437(P2012−34437A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169493(P2010−169493)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(595115592)学校法人鶴学園 (39)
【Fターム(参考)】