説明

電力系統安定化装置の制御方法

【課題】変動性電源が連系していると共に電力系統安定化装置が導入されている電力系統における電力系統安定化装置の制御方法において、変動性電源の常時の変動及び基準周波数の常時の変動を考慮して電力系統を安定化させることができるようにする。
【解決手段】電力系統の系統周波数の変動Δfのうち第一の周期以下の周期成分Δfaを抽出すると共に変動性電源の有効電力の出力変動ΔPのうち第二の周期(ただし、第二の周期<第一の周期)以下の周期成分ΔPbを抽出し、第一の周期以下の周期成分Δfaと第二の周期以下の周期成分ΔPbとを足し合わせたものを用いて電力系統安定化装置の出力の変化を導出し、当該電力系統安定化装置の出力の変化を電力系統安定化装置の出力の制御に用いるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統安定化装置の制御方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、周波数が常時変動しているような電力系統に適用して特に好適な電力系統安定化装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電力系統安定化装置としては、例えば、電力を出力する第一の設備と電力を消費する第二の設備とを接続する電力供給系統の基準周波数,基準電圧,有効電力量及び無効電力量と現状との差を検出する検出手段と、当該検出手段の検出結果に応じて二次電池システムから出力される有効電力量及び無効電力量を制御する制御手段とを含むものがある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−292531号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の電力系統安定化装置では、周波数の偏差のとり方が、基準周波数が定格周波数50/60〔Hz〕で一定であると仮定した上での基準周波数からの偏差になっているので、例えば小規模離島などにおける電力系統のように周波数が時々刻々大きく変動しているために基準周波数が定格周波数で一定値であるとはみなせないような系統においては適用することができないという問題がある。このため、多様な種類・特性の電力系統に対して広く適用可能であって汎用性が高いとは言い難い。
【0005】
そこで、本発明は、変動性電源の常時の変動及び基準周波数の常時の変動を考慮して電力系統を安定化させることができる電力系統安定化装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するため、請求項1記載の電力系統安定化装置の制御方法は、変動性電源が連系していると共に電力系統安定化装置が導入されている電力系統における電力系統安定化装置の制御方法であって、電力系統の系統周波数の変動Δfのうち第一の周期以下の周期成分Δfaを抽出すると共に変動性電源の有効電力の出力変動ΔPのうち第二の周期(ただし、第二の周期<第一の周期)以下の周期成分ΔPbを抽出し、第一の周期以下の周期成分Δfaと第二の周期以下の周期成分ΔPbとを足し合わせたものを用いて電力系統安定化装置の出力の変化を導出し、当該電力系統安定化装置の出力の変化を電力系統安定化装置の出力の制御に用いるようにしている。
【0007】
したがって、この電力系統安定化装置の制御方法によると、電力系統安定化装置の制御に、変動性電源の有効電力の出力変動ΔPを考慮するようにしているので電力系統への電力の主たる供給主体である例えば内燃力発電機や系統周波数の変動Δfに基づく制御方式による周波数変動抑制効果が小さいと考えられる負荷変動の周期成分に対して適切に対応することができると共に、電力系統の系統周波数の変動Δfも考慮するようにしているので残りの負荷変動の周期成分に対しても適切に対応することができる。
【0008】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の電力系統安定化装置の制御方法において、前記第一の周期が10〜20秒の範囲のいずれかの値であるようにしている。 また、請求項3記載の発明は、請求項1記載の電力系統安定化装置の制御方法において、前記第二の周期が0.1〜10秒の範囲のいずれかの値であるようにしている。これらの場合には、第一の周期や第二の周期が適切に設定される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電力系統安定化装置の制御方法によれば、電力系統安定化装置の制御に、考慮対象とする周期を区分した上で時々刻々の変動性電源の有効電力の出力変動ΔPに加えて電力系統の系統周波数の変動Δfも考慮するようにしているので、電力系統の系統周波数の変動の周期特性に影響されることなく主に系統周波数面についての系統への影響を適切に抑制することができ、電力系統の安定化の汎用性の向上を図ると共に信頼性の向上を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の電力系統安定化装置の制御方法の制御ブロック図(前半部分)である。
【図2】本発明の電力系統安定化装置の制御方法の制御ブロック図(後半部分)である。
【図3】実施例1の本発明を適用する電力系統の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0012】
図1及び図2に、本発明の電力系統安定化装置の制御方法の実施形態の一例を示す。この電力系統安定化装置の制御方法は、変動性電源が連系していると共に電力系統安定化装置が導入されている電力系統における電力系統安定化装置の制御方法であって、電力系統の系統周波数の変動Δfのうち第一の周期以下の周期成分Δfaを抽出すると共に変動性電源の有効電力の出力変動ΔPのうち第二の周期(ただし、第二の周期<第一の周期)以下の周期成分ΔPbを抽出し、第一の周期以下の周期成分Δfaと第二の周期以下の周期成分ΔPbとを足し合わせたものを用いて電力系統安定化装置の出力の変化を導出し、当該電力系統安定化装置の出力の変化を電力系統安定化装置の出力の制御に用いるようにしている。
【0013】
ここで、本発明の電力系統安定化装置の制御方法は、例えば島嶼地域の小規模独立電力系統における風力発電設備等の変動性電源(或いは分散形電源や間欠電源とも呼ばれる)による、主に系統周波数面についての系統への影響を抑制する場合に特に効果を発揮する。具体的には、一例を挙げれば、最大需要が1000[kW]程度の電力系統に、非間欠電源として合計1000[kW]程度の内燃力発電機、並びに合計500[kW]程度の風力発電設備等の変動性電源が連系していると共に電力系統安定化装置として200〜250[kW]程度のフライホイールが導入されている状況において、変動性電源による系統周波数への影響をフライホイールで緩和する場合の当該フライホイールの有効電力の制御に用いて本発明は特に効果的である(なお、数値[kW]はいずれも定格出力である)。
【0014】
本発明の電力系統安定化装置の制御方法の全体構成を示す制御ブロック図を図1及び図2に示す。なお、図1及び図2における「s」はラプラス演算子(微分演算子)である。
【0015】
まず、電力系統の周波数fがリセット回路29Aに入力され、系統周波数の変動Δf[PU]が出力される。なお、電力系統の周波数fは、例えば、発電所の母線電圧をトランスデューサに入力して計測する。
【0016】
リセット回路29Aは、入力が一定の場合は出力を出さず、入力の変化分を出力する要素である。例えば、ステップ状のように急峻に変化する入力に対しては大きな出力を出す一方で、ゆっくりと変化する入力に対しては小さな出力を出す。すなわち、周期の長い振動成分は通過させないフィルタと同様の作用をする。
【0017】
リセット回路29Aの変数Tfは、時定数であり、どの程度長い振動成分であれば出力を小さくするかを決定づけるための定数である。時定数Tfは、系統の分析などを踏まえて適宜設定され、具体的には例えば、系統周波数の或る周期以上の入力要素のみを出力に反映するかを考慮して10[秒]程度に設定される。
【0018】
リセット回路29Aから出力された系統周波数の変動Δf[PU]は検出遅れ回路1に入力される。
【0019】
検出遅れ回路1は、急峻に変化する入力(具体的には周波数偏差)に対してその入力値に或る時間をかけて漸近していく出力をするものである。一次遅れ要素とも呼ばれる。
【0020】
検出遅れ回路1の変数T1は、時定数であり、ステップ状の変化があったときに、変化発生時からその変化の63.2%に達するまでの時間を時定数として定義される。時定数T1は、具体的には例えば、電気諸量の検出遅れ(即ち、検出するために必要な時間)を考慮して0.01[秒]に設定される。
【0021】
検出遅れ回路1からの出力に対して周波数変動感度としての系統定数C1が掛け合わされる(図1中符号2)。系統定数C1は、或る周波数変化に対して電力消費がどれだけ変化するかを静特性の観点から表す係数であり、ガバナ(即ち調速機)の速度調定率の逆数で表される。系統定数C1は、具体的には例えば、速度調定率0.83%を考慮して120に設定される。なお、速度調定率は、周波数が基準値から変化したときに発電機の出力をどれだけ増減させられるかを定量的に示した定数であり、発電機ごとに異なる値である。
【0022】
系統定数C1が掛け合わされた検出遅れ回路1からの出力はリセット回路3に入力される。
【0023】
リセット回路3は、入力の変化速度を出力する要素である。具体的には、入力がステップ状に変化した場合には最大値を1として時定数T2で出力が減衰する一方で、入力が一定値の場合には出力はゼロになる。すなわち、周期の長い振動成分は通過させないハイパスフィルタの作用をする。
【0024】
リセット回路3の変数T2は、時定数であり、どの程度長い振動成分であれば通過させないようにするかを決定づけるための定数である。本発明においては、この時定数T2が、系統周波数の変動Δfの抑制の対象範囲を決定づけるという点において重要な変数である(以下、第一の時定数T2と呼ぶ)。第一の時定数T2は、系統の分析などを踏まえて適宜設定され、具体的には例えば制御対象とする振動周期を考慮して10〜20[秒]程度に設定される。また、第一の時定数T2は、後述する変動性電源の有効電力の出力変動ΔPに対する前処理におけるリセット回路8の時定数T4よりも大きい数値(即ち長周期となる数値)に設定される。
【0025】
ここで、第一の時定数T2によって規定される振動周期が第一の周期であり、リセット回路3からの出力が主として第一の周期以下の周期成分Δfaである。
【0026】
リセット回路3からの出力Δfaはリミッタ4に入力される。
【0027】
リミッタ4は、制御信号の上限と下限とを決定するものである。
【0028】
リミッタ4の変数Ffは、ハードウェアの限界を超えないように設定するための定数であり、フライホイールの定格容量を考慮して設定される。
【0029】
リミッタ4からの出力は、単位変換回路5に入力されてPU単位系からkW単位系への変換が行われる。
【0030】
単位変換回路5の変数B1は、PU単位系に纏わる単位変換に用いるベース値である。ベース値B1は、具体的には例えば、PUから%に変換する場合には100に設定される。
【0031】
以上の検出遅れ回路1から単位変換回路5までを順に経ることにより、時々刻々の電力系統の周波数fに基づく系統周波数の変動Δf[PU]に対する前処理が行われる。
【0032】
一方、例えば風力発電設備などの変動性電源の出力である有効電力Pがリセット回路29Bに入力され、有効電力の出力変動ΔP[PU]が出力される。なお、変動性電源の有効電力Pは、例えば、風力発電の端子電圧と電流とをトランスデューサに入力して計測する。リセット回路29Bは前述のリセット回路29Aと同様の働きをするものであり、リセット回路29Bの変数Tpはリセット回路29Aの時定数Tfと同様である。
【0033】
リセット回路29Bから出力された有効電力の出力変動ΔP[PU]は検出遅れ回路6に入力される。
【0034】
検出遅れ回路6は、急峻に変化する入力(具体的には変動性電源(分散形電源,間欠電源)の出力変動)に対してその入力値に或る時間をかけて漸近していく出力をするものである。一次遅れ要素とも呼ばれる。
【0035】
検出遅れ回路6の変数T3は、時定数であり、ステップ状の変化があったときに、変化発生時からその変化の63.2%に達するまでの時間を時定数として定義される。時定数T3は、具体的には例えば、電気諸量の検出遅れを考慮して0.02秒に設定される。
【0036】
検出遅れ回路6からの出力に対して入力信号を増幅させる程度としてのゲインGが掛け合わされる(図1中符号7)。ゲインGは、入力信号を何倍するかを指定する係数である。ゲインGは、具体的には例えば、入力信号の80%の大きさを出力させたい場合には0.8に設定される。
【0037】
ゲインGが掛け合わされた検出遅れ回路6からの出力はリセット回路8に入力される。
【0038】
リセット回路8は、入力の変化速度を出力する要素である。具体的には、入力がステップ状に変化した場合には最大値を1として時定数T4で出力が減衰する一方で、入力が一定値の場合には出力はゼロになる。すなわち、周期の長い振動成分は通過させないハイパスフィルタの作用をする。
【0039】
リセット回路8の変数T4は、時定数であり、どの程度長い振動成分であれば通過させないようにするかを決定づけるための定数である。本発明においては、この時定数T4が、変動性電源の出力である有効電力の出力変動ΔPの抑制の対象範囲を決定づけるという点において重要な変数である(以下、第二の時定数T4と呼ぶ)。第二の時定数T4は、系統の分析などを踏まえて適宜設定され、具体的には例えば制御対象とする振動周期を考慮して0.1〜10[秒]程度に設定される。そして、第二の時定数T4は、前述の電力系統の系統周波数の変動Δfに対する前処理におけるリセット回路3の第一の時定数T2よりも小さい数値(即ち短周期となる数値)に設定される。
【0040】
ここで、第二の時定数T4によって規定される振動周期が第二の周期であり、リセット回路8からの出力が主として第二の周期以下の周期成分ΔPbである。
【0041】
リセット回路8からの出力ΔPbはリミッタ9に入力される。
【0042】
リミッタ9は、制御信号の上限と下限とを決定するものである。
【0043】
リミッタ9の変数Fpは、ハードウェアの限界を超えないように設定するための定数であり、フライホイールの定格容量を考慮して設定される。
【0044】
リミッタ9からの出力は、単位変換回路10に入力されてPU単位系からkW単位系への変換が行われる。
【0045】
単位変換回路10の変数B2は、PU単位系に纏わる単位変換に用いるベース値である。
【0046】
以上の検出遅れ回路6から単位変換回路10までを順に経ることにより、時々刻々の変動性電源の有効電力Pに基づく有効電力の出力変動ΔP[PU]に対する前処理が行われる。
【0047】
そして、前処理が施されて単位変換回路5から出力された電力系統の系統周波数の変動Δfに基づく値[kW]と、前処理が施されて単位変換回路10から出力された変動性電源の有効電力の出力変動ΔPに基づく値[kW]とが足し合わされる(図1中符号23)。さらに、後述するゲイン付きリミッタ22からの出力が足し合わされて(図2中符号24)リミッタ11に入力される。
【0048】
リミッタ11は、制御信号の上限と下限とを決定するものであり、外部からの信号によってこれら上限・下限を任意に変更・設定することができる。そして、前記上限は後述する上限設定回路18からの出力によって設定され、前記下限は後述する下限設定回路20からの出力によって設定される。
【0049】
リミッタ11からの出力は、単位変換回路12に入力されてkW単位系からPU単位系への変換が行われる。
【0050】
単位変換回路12の変数B3は、PU単位系に纏わる単位変換に用いるベース値である。ベース値B3は、具体的には例えば、1[PU]=240[kW]の場合には1/240とする。
【0051】
単位変換回路12からの出力に対して符号変換として「−1」が掛け合わされる(図2中符号13)。そして、「−1」が掛け合わされて入力信号として正負が変換されたものが制御遅れ回路14に入力される。
【0052】
制御遅れ回路14は、急峻に変化する入力に対してその入力値に或る時間をかけて漸近していく出力をするものである。一次遅れ要素とも呼ばれる。
【0053】
制御遅れ回路14の変数T5は、時定数であり、ステップ状の変化があったときに、変化発生時からその変化の63.2%に達するまでの時間を時定数として定義される。時定数T5は、具体的には例えば、インバータ制御系の制御遅れを考慮して0.02[秒]に設定される。
【0054】
制御遅れ回路14からの出力に対してω0/ωが掛け合わされる(図2中符号15)。ω0/ωはフライホイール制御出力からフライホイールの制御トルクを算出するための係数であり、ω0はフライホイールの定格角速度であり、ωはフライホイールの時々刻々の角速度である。
【0055】
ω0/ωが掛け合わされて算出されたフライホイールの制御トルクの変化からフライホイールの回転数の変化(言い換えると、電力系統安定化装置としてのフライホイールの出力の変化)が導かれる(図2中符号16)。ここで、Mはフライホイールの単位慣性定数であり、sはラプラス演算子である。
【0056】
そして、フライホイールの定格回転数ωREF[PU]から、上述の処理によって導かれたフライホイールの回転数の変化が引かれて(図2中符号25)、フライホイール回転数(以下、FW回転数と表記する)ωt[PU]が算出される。
【0057】
FW回転数ωt[PU]は、電力系統安定化装置としてのフライホイールの制御系(図示していない)に送られてフライホイールの制御に用いられる。
【0058】
FW回転数ωt[PU]は、また、フライホイール制御出力(以下、FW制御出力と表記する)の上限の設定と下限の設定とに用いられる。
【0059】
まず、FW制御出力の上限の設定のため、FW回転数ωt[PU]が単位変換回路17によってPU単位系からrpm単位系に変換(変換後:ωr)されると共に、フライホイールの仕様上の最高回転数Rmax[rpm]との差分(即ち、Rmax−ωr[rpm])が算出される(図2中符号26)。
【0060】
そして、上記差分(=Rmax−ωr[rpm])が上限設定回路18に入力され、当該上限設定回路18によってFW制御出力の上限が設定される。上限設定回路18は、FW制御出力の上限をフライホイールの現在の回転数と最高回転数Rmaxとの差に基づいて決定し、具体的には、フライホイールの回転数が最高回転数Rmaxに達したらFW制御出力の上限をゼロにしてフライホイールの出力がそれ以上上がらないように制御する作用をする。
【0061】
上限設定回路18の係数10000は、フライホイールの回転数が最高回転数Rmaxに達したらフライホイールの出力をそれ以上上げないようにFW制御出力の上限を0にするためのゲイン係数である。当該ゲイン係数は、FW回転数が最高回転数Rmaxに達するまではFW制御出力を所定値(例えば、後述する変数F1[kW])にしておき、最高回転数Rmaxに達する直前でFW制御出力を0[kW]に変化させられるように設定されるものであり、本実施形態では10000に設定される。なお、ゲイン係数は10000に限られるものではない。
【0062】
また、上限設定回路18の変数F1は、フライホイールの出力の上限(単位[kW])であり、フライホイールの仕様を考慮して設定される。
【0063】
一方、FW制御出力の下限の設定のため、FW回転数ωt[PU]が単位変換回路19によってPU単位系からrpm単位系に変換(変換後:ωr)されると共に、フライホイールの仕様上の最低回転数Rmin[rpm]との差分(即ち、Rmin−ωr[rpm])が算出される(図2中符号27)。
【0064】
そして、上記差分(=Rmin−ωr[rpm])が下限設定回路20に入力され、当該下限設定回路20によってFW制御出力の下限が設定される。下限設定回路20は、FW制御出力の下限をフライホイールの現在の回転数と最低回転数Rminとの差に基づいて決定し、具体的には、フライホイールの回転数が最低回転数Rminに達したらFW制御出力の下限をゼロにしてフライホイールの出力がそれ以上下がらないように制御する作用をする。
【0065】
下限設定回路20の係数10000は、フライホイールの回転数が最低回転数Rminに達したらフライホイールの出力をそれ以上下げないようにFW制御出力の下限を0にするためのゲイン係数である。当該ゲイン係数は、FW回転数が最低回転数Rminに達するまではFW制御出力を所定値(例えば、−F1[kW])にしておき、最低回転数Rminに達する直前でFW制御出力を0[kW]に変化させられるように設定されるものであり、本実施形態では10000に設定される。なお、ゲイン係数は10000に限られるものではない。
【0066】
なお、下限設定回路20の変数F1は、上限設定回路18の変数F1と同じである。
【0067】
そして、上限設定回路18によって設定されたFW制御出力の上限値、並びに、下限設定回路20によって設定されたFW制御出力の下限値は、リミッタ11に入力され、当該リミッタ11の上限値並びに下限値として用いられる。
【0068】
さらに、単位変換回路19によってrpm単位系に変換されたFW回転数ωrを用いて、フライホイールの仕様上の中心回転数Rmid[rpm]との差分(即ち、Rmid−ωr[rpm])が算出される(図2中符号28)。そして、当該差分(=Rmid−ωr[rpm])が制御遅れ回路21に入力される。
【0069】
制御遅れ回路21は、フライホイールの回転数が中心回転数Rmidから外れたときにその回転数を中心回転数Rmidに引き戻すための機能の一つであり、急峻に変化する入力(具体的には中心回転数Rmidからの外れ分)に対してその入力値に或る時間をかけて漸近していく出力をするものである。一次遅れ要素とも呼ばれる。制御遅れ回路21は、周期的な入力に対しては振動周期の短い振動成分は通過させないローパスフィルタの作用をする。
【0070】
制御遅れ回路21の変数T6は、時定数であり、どの程度短い振動成分であれば通過させないようにするかを決定づけるための定数である。時定数T6は、系統の分析などを踏まえて適宜設定される。具体的には例えば、変動性電源(分散形電源)の主たる出力変動周期には影響を及ぼさないこと、及び、フライホイールのエネルギーの枯渇を阻止することを考慮して5[秒]程度に設定される。
【0071】
制御遅れ回路21からの出力はゲイン付きリミッタ22に入力される。
【0072】
ゲイン付きリミッタ22は、フライホイールの回転数が中心回転数Rmidから外れたときにその回転数を中心回転数Rmidに引き戻すための機能の一つであり、中心回転数Rmidからの外れ分(即ち、Rmid−ωr[rpm])に上述の制御遅れ回路21による制御遅れが加味された入力信号を増幅して出力制御信号の上限と下限とを決定するものである。
【0073】
ゲイン付きリミッタ22の係数0.1は、中心回転数Rmidに引き戻す力を決定する作用をするものであり、すなわち、フライホイールの回転数が中心回転数Rmidからずれたときにどの程度早く中心回転数Rmidに戻すかを決定する作用をするものである。なお、このゲイン付きリミッタ22の係数は0.1に限られるものではなく、どの程度早く中心回転数Rmidに戻すべきかを勘案した上で適宜設定される。
【0074】
また、ゲイン付きリミッタ22の変数F2は、中心回転数Rmidに引き戻す力の上限及び下限を決定するものである。変数F2は、具体的には例えば、フライホイールの回転数がどの程度の大きさと頻度とで中心回転数Rmidから外れるかを検討した上で15程度に設定される。
【0075】
そして、ゲイン付きリミッタ22からの出力は、前述の単位変換回路5からの出力と単位変換回路10からの出力とが足し合わされたもの(図1中符号23)と足し合わされて(図2中符号24)リミッタ11に入力される。
【0076】
以上のように構成された本発明の電力系統安定化装置の制御方法によれば、風力発電設備等の変動性電源の出力変動の短周期成分をΔP部分で直接的に抑制することが可能であると共に内燃力発電機が抑制することができない比較的長い周波数変動成分をΔf部分で抑制することが可能であり、加えて、フライホイールの中心回転数制御の応答を早くすることでフライホイールの充放電エネルギーの枯渇(即ち、回転数が上下限に達する)を極力避けることも可能である。特に、この中心回転数制御の即応性を高めることで、フライホイールの充放電エネルギーの枯渇時に生じる周波数変動のリスクを回避することが可能となり、大幅な周波数変動が短時間に断続的に生じる場合でも本発明の電力系統安定化装置の制御方法によれば電力系統の安定を保つことが可能である。
【0077】
また、本発明の電力系統安定化装置の制御方法によれば、電力系統の安定化に周波数変動成分Δfを用いるようにしているので、何らかの事情や事故によって電力系統に異常が生じた場合にも電力系統の安定を保つことが可能である。具体的には例えば、内燃力発電機が停止してしまった場合や大規模需要家における需要変動がある場合でも本発明の電力系統安定化装置の制御方法によれば電力系統の安定を保つことが可能である。すなわち、周波数変動成分Δfは系統全体におけるものであるので、風力発電設備等の変動性電源のみの出力(P)を計測するようにしている場合であっても、内燃力発電機を含む系統全体の状態は系統周波数の変動として感知することができ、例えば大規模需要家における需要変動のように直接モニターしていない事態も踏まえた電力系統の安定化が可能である。
【0078】
さらに、本発明の電力系統安定化装置の制御方法によれば、電力系統の系統周波数の時々刻々の変動Δfを考慮する(具体的には、主に、図1中の符号29Aから符号5まで及び符号23の処理で、基準周波数からの偏差ではない)と共に、変動性電源の有効電力の時々刻々の出力変動ΔPを考慮する(同じく、符号29Bから符号10まで及び符号23の処理)ようにしているので、系統周波数が時々刻々大きく変動しているために基準周波数が定格周波数で一定値であるとはみなせないような系統においても適用可能であり、汎用性が高い。
【0079】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、本実施形態では電力系統安定化装置としてフライホイールを用いて当該フライホイールを制御するものとして構成されているが、本発明が適用され得る電力系統安定化装置は、フライホイールに限られるものではなく、所定の制御に従って有効電力の出力を調整することができるものであれば良く、例えば電池,超電導電力貯蔵装置(SMES),キャパシタなどの他の電力貯蔵装置であっても良い。
【0080】
また、本発明によって安定化を図る電力系統に連系している変動性電源(分散形電源、間欠電源)としては、具体的には例えば、風力発電機や太陽光発電が考えられる。
【実施例1】
【0081】
本発明の電力系統安定化装置の制御方法を適用してのフライホイールによる系統周波数変動の抑制効果を検証するために行ったシミュレーション結果を図3を用いて説明する。
【0082】
本実施例では、図3に示す小規模独立電力系統30を対象とした。電力系統30は、具体的には、負荷34に纏わる最大需要が約800[kW]であり、四基のディーゼル発電機31A,31B,31C,31D(定格出力はそれぞれ150,150,300,300[kW])並びに二基の風力発電機32A,32B(定格出力はどちらも245[kW])が連系していると共に、系統安定化装置としてフライホイール33(図3中ではFWと表記;定格出力は200[kW])が導入されている。なお、周波数変動(具体的には、周波数変動の最大最小値の片振れ幅)は±0.30[Hz]程度が通常は管理目標値とされるので、本実施例においても周波数変動±0.30[Hz]以内を管理目標値とした。
【0083】
また、本実施例では、第一の周期を規定するリセット回路3の第一の時定数T2を10[秒]とすると共に、第二の周期を規定するリセット回路8の第二の時定数T4を5[秒]とした。
【0084】
そして、電力系統30において実測された時系列データを用いてシミュレーションを行った。なお、実測の時系列データとしては、日々のデータのうち、風力発電出力の最大値が159[kW]であって風力発電出力変動のピークが大きく、且つ、出力変動が定常的に継続している日のものを選定した。
【0085】
また、本実施例では、風力発電の出力変動が系統周波数へ与える影響をシミュレーションによって検討するため、風車のピッチ角制御が遅く、159[kW]の出力が現れ、10秒弱周期のかなり大きな風力発電出力の変動が見られる実測結果を解析対象としてピックアップした(風力発電機32Aの一基分)。さらに、この実測の時系列データに対して2.75倍を乗じることで風車導入比率を約50%に高めた状態を模擬してシミュレーションを行った。
【0086】
なお、シミュレーションでは、風力発電機32Aの高速発電機が起動してから停止するまでの5分間の実測データを時系列データとして用いた。風力発電機32Aの起動・停止が時系列データに含まれているため、カットイン,常時の出力変動,カットアウトの三つの現象に対する特徴を一つの時系列データで検討することが可能であった。
【0087】
風力発電機出力の時系列データ(即ち、実測データを2.75倍した時系列データ)を用い、系統安定化装置がない場合の系統周波数の変動に関するシミュレーションを行った。当該シミュレーションの結果から、周波数変動(具体的には、周波数変動の最大最小値の片振れ幅)は±0.39[Hz]であり、定格周波数から上下方向に0.40[Hz]程度振動していることが分かった。そして、この値は管理目標値0.3[Hz]よりも大きいことが確認された。
【0088】
さらに、前述と同じ風力発電機出力の時系列データ(即ち、実測データを2.75倍した時系列データ)を用い、本発明を適用した場合の系統周波数の変動に関するシミュレーションを行った。当該シミュレーションの結果から、周波数変動(具体的には、周波数変動の最大最小値の片振れ幅)は±0.12[Hz]であった。そして、この値は管理目標値0.3[Hz]よりも十分に小さいことが確認された。
【0089】
これらの結果から、本発明の電力系統安定化装置の制御方法によれば、小規模独立電力系統であって変動性電源の影響が大きい電力系統であり且つ連系している変動性電源の出力変動が定常的に継続している電力系統であっても、電力系統周波数の変動を小さくすることができ、電力系統の安定化が十分に図られることが確認された。
【符号の説明】
【0090】
Δf 電力系統の系統周波数の変動
Δfa Δfのうち第一の周期以下の周期成分
ΔP 変動性電源の有効電力の出力変動
ΔPb ΔPのうち第二の周期以下の周期成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変動性電源が連系していると共に電力系統安定化装置が導入されている電力系統における前記電力系統安定化装置の制御方法であって、前記電力系統の系統周波数の変動Δfのうち第一の周期以下の周期成分Δfaを抽出すると共に前記変動性電源の有効電力の出力変動ΔPのうち第二の周期(ただし、第二の周期<第一の周期)以下の周期成分ΔPbを抽出し、前記第一の周期以下の周期成分Δfaと前記第二の周期以下の周期成分ΔPbとを足し合わせたものを用いて前記電力系統安定化装置の出力の変化を導出し、当該電力系統安定化装置の出力の変化を前記電力系統安定化装置の出力の制御に用いることを特徴とする電力系統安定化装置の制御方法。
【請求項2】
前記第一の周期が10〜20秒の範囲のいずれかの値であることを特徴とする請求項1記載の電力系統安定化装置の制御方法。
【請求項3】
前記第二の周期が0.1〜10秒の範囲のいずれかの値であることを特徴とする請求項1記載の電力系統安定化装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−85449(P2012−85449A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229884(P2010−229884)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】