電力系統状態推定装置およびそれを用いた電力系統システム
【課題】電力系統全体の状態監視を適切に行うために、電力系統の任意地点の電力状態を高精度に推定する。
【解決手段】電力系統各所に複数のセンサを配置し、センサ出力を用いて電力系統の状態を推定する電力系統状態推定装置において、電力系統の位置を示すノード情報とセンサを含む設備情報を対応付けて保持する電力系統データデータベースと、センサ出力を保持するセンサデータデータベースと、電力系統データデータベースの情報を用いて、特定ノードでの電力状態を推定するときに使用するセンサを決定する推定環境設定部と、推定環境設定部で決定した特定ノードでの使用センサに対応して、センサの出力をセンサデータデータベースから得て、電力系統全体について状態推定を行う状態推定部を備え、推定環境設定部は、電力系統に設置されたセンサについて、当該センサが特異な傾向を示すセンサであることを特定する手段と、特定されたセンサに対応するノードについて、このノードで用いるセンサを変更する手段を備える。
【解決手段】電力系統各所に複数のセンサを配置し、センサ出力を用いて電力系統の状態を推定する電力系統状態推定装置において、電力系統の位置を示すノード情報とセンサを含む設備情報を対応付けて保持する電力系統データデータベースと、センサ出力を保持するセンサデータデータベースと、電力系統データデータベースの情報を用いて、特定ノードでの電力状態を推定するときに使用するセンサを決定する推定環境設定部と、推定環境設定部で決定した特定ノードでの使用センサに対応して、センサの出力をセンサデータデータベースから得て、電力系統全体について状態推定を行う状態推定部を備え、推定環境設定部は、電力系統に設置されたセンサについて、当該センサが特異な傾向を示すセンサであることを特定する手段と、特定されたセンサに対応するノードについて、このノードで用いるセンサを変更する手段を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統全体の状態監視を適切に行うために、センサの計測情報を用いて電力系統の任意地点の電力状態を高精度に推定する電力系統状態推定装置およびそれを用いた電力系統システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統に関して、近年分散型電源導入時の周波数や電圧の維持、また電力会社の設備の効率利用の要求が高まっている。そのため、電力系統の実状を表す電圧、電流などの電力状態を管理する必要性がより一層増している。
【0003】
この電力状態管理においては、電力系統の限られた地点に設けられた電力状態を計測するセンサの計測情報を用いて、潮流計算や状態推定と呼ばれる電力状態計算手法で電力系統の任意地点の電力状態を推定していた。
【0004】
本技術分野の背景技術として、特許文献1には、「配電線の電圧管理や運用制御において、配電線の電圧分布や潮流状態を把握するために必要な計測器の設置箇所を、最少の数で最良の効果(配電線状態計算の精度など)が得られるように決定できる」と記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、「配電系統の電圧・電流計測値から配電系統の潮流状態及び各計測装置の誤差を併せて推定する」と記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、「各観測値に与えられる重みを定式化し、インピーダンスのばらつきの大きい系統においても確実に収束する電力系統の状態推定方法を提供する」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−72791号公報
【特許文献2】特開2008−154418号公報
【特許文献3】特開昭63−73831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これら公知の背景技術について検討すると、特許文献1〜3のいずれも、センサの計測情報に基づき電力状態を計算する手段を有している。このため、センサ次第で電力系統の状態推定精度が左右されることになり、望ましくは高精度のセンサが多数電力系統に配置されているのがよい。また、推定手法は高精度のものが望まれる。
【0009】
このうちセンサに関して、特許文献1では、電力系統においてセンサを増設する際に、電力状態の推定精度やコストを考慮して最適な設置個所を求める。また特許文献2では、高精度演算とするために、センサの計測情報と電力状態計算による推定値との偏差を用いて推定値の修正量を予め計算しておき、この修正量を用いて推定値を修正する。
【0010】
しかしながら、特許文献1、2はいずれも、電力系統に設置されている全てのセンサの計測情報を均一に用いている。このために、推定精度がばらつく場合があるが、この問題について考慮されていない。
【0011】
ばらつき事例を紹介すると、例えば、電圧の推定精度は、センサの計測情報の一つである力率に少なからず関係がある。このため、負荷が大きい工場の稼働時間帯においては、工場付近の力率は系統上の他の場所と大きく異なる特異値であるような特性(負荷特性)を示すことがある。また、工場に力率調整用の進相コンデンサを導入している場合には、逆に稼働時間帯においては特異でなく非稼働時間帯に特異値を示すことがある。
【0012】
然るに、系統に少ないセンサしか設置されていない場合の電力状態計算においては、その特異値の情報をセンサで挟まれた区間の代表値として用いて計算を行うことがある。センサで挟まれた区間の値を補間する場合に、その前後のセンサのいずれかが特異値であるような特性を示すものであれば、配電系統全体の電力状態推定値精度にばらつきが発生することが考えられる。
【0013】
特許文献3では、センサの計測情報に重みを持たせることで、電力系統に設置されている全てのセンサの計測情報を均一に用いずに収束解を求める。
【0014】
しかしながら、特許文献3は、線路ブランチのインピーダンス(電力系統に応じて定まった大きさ)によって重みを変更するものであり、センサ間の相対的な重みはいわば固定である。また、実際の電力系統においてはインピーダンスがゼロでないため重みはゼロにはならず、全てのセンサの計測情報を用いるという点では特許文献1、2と同様である。
【0015】
以上説明のように、動的に負荷特性が変わる場合に、一部のセンサの計測情報を用いないことを含めダイナミックに対応することは困難と考えられる。
【0016】
そこで、本発明の課題は上記問題点を解決するものであり、電力系統全体の状態監視を適切に行うために、センサの一部の計測情報を用いて電力系統の任意地点の電力状態を高精度に推定する電力系統状態推定装置およびそれを用いた電力系統システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するためになされた本発明に係る電力系統状態推定装置およびそれを用いた電力系統システムにおいては、電力状態を計測する複数のセンサを有する電力系統において、特異な傾向を示すセンサを特定し、当該センサを除いたセンサを用いて電力系統の任意の地点の電力状態を推定することを特徴とする。また、特異な傾向を示すセンサを特定する手法を提案する。
【0018】
具体的には、電力系統状態推定装置を以下のように構成する。
【0019】
電力系統各所に複数のセンサを配置し、センサ出力を用いて電力系統の状態を推定する電力系統状態推定装置において、
電力系統の位置を示すノード情報とセンサを含む設備情報を対応付けて保持する電力系統データデータベースと、センサ出力を保持するセンサデータデータベースと、電力系統データデータベースの情報を用いて、特定ノードでの電力状態(特に、無効電力)を推定するときに使用するセンサを決定する推定環境設定部と、
推定環境設定部で決定した特定ノードでの使用センサに対応して、センサの出力をセンサデータデータベースから得て、電力系統全体について状態推定を行う状態推定部を備え、
推定環境設定部は、電力系統に設置されたセンサについて、当該センサが特異な傾向を示すセンサであることを特定する手段と、特定されたセンサに対応するノードについて、このノードの電力状態(特に、無効電力)推定に用いるセンサを変更する手段を備えている。
【0020】
また、電力系統システムを以下のように構成する。
【0021】
電力系統各所に配置された複数のセンサと、電力系統各所に配置され電力系統の電力状態を制御できる電力状態制御機器と、センサ出力を用いて電力系統状態を推定する電力系統状態推定装置と、電力系統状態推定装置からの電力系統状態に応じて、電力状態制御機器に操作信号を与える電力系統制御中央装置を含む電力系統システムにおいて、
電力系統状態推定装置は、電力系統の位置を示すノード情報とセンサを含む設備情報を対応付けて保持する電力系統データデータベースと、センサ出力を保持するセンサデータデータベースと、電力系統データデータベースの情報を用いて、特定ノードでの電力状態を推定するときに使用するセンサを決定する推定環境設定部と、
推定環境設定部で決定した特定ノードでの使用センサに対応して、センサの出力をセンサデータデータベースから得て、電力系統全体について状態推定を行う状態推定部を備え、推定環境設定部は、電力系統に設置されたセンサについて、当該センサが特異な傾向を示すセンサであることを特定する手段と、特定されたセンサに対応するノードについて、このノードで用いるセンサを変更する手段を備えている。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、電力系統全体の状態監視を適切に行うために、特異な傾向を示すセンサを除外した残りのセンサの計測情報を用いて電力系統の任意地点の電力状態を推定するので、高精度に推定することができる。
【0023】
また実施例によれば、状態推定の精度が向上することで、柱上変圧器やSVRなどの系統設備の適切な導入計画支援が可能となり、設備の利用効率を向上することが可能になる。
【0024】
さらに実施例によれば、推定した電力状態を用いて各制御機器の最適な制御量を決定し、その結果、電力系統での電力損失量や電圧の規定範囲からの逸脱量を抑えることで、電力の品質を維持することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】電力系統状態推定装置の構成図。
【図2】変電所から負荷に至るまでの配電電力系統の典型的な一例を示す図。
【図3】図2の電力系統を、ノードとブランチにより模式的に表した電力系統図。
【図4】ノードに関する電力系統データの一例を示す図。
【図5】ブランチに関する電力系統データの一例を示す図。
【図6】センサデータデータベースに保持されるセンサデータの一例を示す図。
【図7】推定環境データの一例として、第1の推定環境データを示す図。
【図8】推定環境データの一例として、第2の推定環境データを示す図。
【図9】推定環境データの一例として、第3の推定環境データを示す図。
【図10】クラスタリング手法によるセンサのグループ分類の一例を示す図。
【図11】線形補間により任意の位置の電力状態を算出する考えを示す図。
【図12】電力方程式を用いた状態推定計算方法を示す図。
【図13】実施例2における電力系統システムの構成を示す図。
【図14】電力系統を構成する各機器の制御量を計算する方法の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施例を、図面を用いて説明する。実施例1では、センサの計測情報を用いて電力系統の任意地点の電力状態を推定する電力系統状態推定装置3の例を説明する。実施例2では、電力系統状態推定装置3を用いた電力系統システムの例を説明する。
【実施例1】
【0027】
本実施例では、センサの計測情報を用いて電力系統の任意地点の電力状態を推定する電力系統状態推定装置3の例を説明するが、その前に電力系統状態推定装置3が設置される典型的な電力系統について説明する。
【0028】
本発明の電力系統状態推定装置3が設置される典型的な電力系統の一例を図2、図3に示す。まず図2は、変電所から負荷に至るまでの配電電力系統の典型的な一例を示している。
【0029】
この図において、20は地点を表すノードである。例えば変電所の変圧器の設置場所を示すノードが20a、電柱の設置場所を示すノードが20bから20hである。なお、電柱には、適宜センサ22、柱上変圧器23、電圧調整機器25などの機器が設置されている。また変電所の変圧器にはセンサ22eが設置されている。このため、例えばセンサ22aを設置した電柱のノード20cについて、センサ22a設置箇所のノードと表現することもできる。同様に柱上変圧器23aを設置した電柱のノード20dについて柱上変圧器23aのノード、電圧調整機器25aを設置した電柱のノード20eについて電圧調整機器25aのノードと言い表すことができる。
【0030】
またこの図において、21はノード間を結ぶブランチを表す。従って電力系統におけるブランチは、送配電線を表している。
【0031】
また図2において24は、電力系統に接続された需要家である。従って、需要家24についても地点を表すノードで表現することが可能であり、図の例では24a、24bが需要家の地点を表すノードである。
【0032】
図3は、図2の電力系統を、ノード20とブランチ21により模式的に表した電力系統図である。つまり、変電所の変圧器位置を示すノード20aから、負荷側に向かって直列配置された複数の電柱の設置場所を示すノード(20b〜20h)が示されている。また、電柱の設置場所を示すノード(20bと20h)に対して、需要家のノード24a、24bが記述されている。ブランチは、隣接するノード間を接続している。
【0033】
図2、図3を比べると、例えばセンサ22、柱上変圧器23、電圧調整機器25は図2に含まれ、表示されているが、図3には現れていない。これらは、場所的には電柱ノード20と同じところにあり、したがって、電柱ノードの附属機器という位置付けになる。
【0034】
図2において、電柱ノードのうち、センサ22を積載する電柱ノード(20c、20e、20f、20h)と変電所の変圧器ノード20aおよびAMI(Advanced Metering Infrastructure)の計測対象である需要家ノード(24a、24b)と、電力系統情報収集装置26との間には、通信ネットワーク27が設けられている。これにより電力系統情報収集装置26には、電力系統各所の電圧、電流、力率、位相などの電力状態に関する情報aについて、図3では「が収集され、あるいは収集後の処理により生成される。なお、センサ22を積載する電柱ノード(20c、20e、20f、20h)と変圧器ノード20●」のように黒丸で表記している。
【0035】
図1は、本実施例の電力系統状態推定装置3の構成図の例である。電力系統状態推定装置3は、推定環境設定部30、推定環境データデータベースDB3、および状態推定部32から構成される。また、電力系統状態推定装置3は、センサデータデータベースDB2と電力系統データデータベースDB1に接続され、これらのデータを使用して所定の演算を実行する。このうち、センサデータデータベースDB2に記憶されたセンサデータは、図2の通信ネットワーク27を介して電力系統情報収集装置26に収集され、電力系統から得られたセンサ22の検知情報である。
【0036】
次に、電力系統状態推定装置3における大まかな処理の流れを説明する。まず、推定環境設定部30では、状態監視対象の電力系統を構成する設備(変電所変圧器20、柱上変圧器23、電圧調整機器25、需要家24などの設備。センサ22を含む)に関する電力系統データを、電力系統データデータベースDB1から読み出す。そのうえで、電力状態推定を行う際に用いるセンサを設定する。状態推定部32では、推定環境設定部30で設定されたセンサの計測情報を、センサデータデータベースDB2より読み出す。さらに、このデータを用いて、電力系統の任意地点の電力状態(電流、電圧、位相など)を状態推定計算によって算出する。
【0037】
本発明では、推定環境設定部30での処理に特徴があり、以下の説明では推定環境設定部30を中心に説明する。状態推定部32での処理は、推定環境設定部30が設定したセンサからの情報を用いて、既存の公知の手法を用いて実現することができる。
【0038】
推定環境設定部30で使用する電力系統データの一例が、図4、図5に示されている。電力系統データは、電力系統の構成に応じて予め設定され、電力系統データデータベースDB1に保管されているデータである。なお、図4、図5のデータとしては、図2、図3に示す典型的な電力系統におけるデータが示されている。
【0039】
図4のデータは、ノードに関する電力系統データの一例であり、地点を示すノード(20、24)と、この位置に設けられた設備の対応関係を表している。例えばノードNo.1と定義されたノード20aは、変電所からの距離が0メートルであり、設備としては変電所20aとセンサ20eに対応付けて記憶されている。同様に、ノードNo.2と定義されたノード20bは、変電所からの距離が500メートルの位置に存在する電柱であり、この位置には変電所変圧器20、柱上変圧器23、電圧調整機器25、需要家24、センサ22などの設備を備えていないので、設備情報は対応付けて記憶されていない。
【0040】
また、ノードNo.5と定義されたノード20eは、変電所からの距離が2000メートルであり、設備としてはセンサ22bと電圧調整機器25aに対応付けて記憶されている。ノードNo.9と定義されたノード24aは、変電所からの距離が1700メートルであり、設備としては需要家24aに対応付けて記憶されている。
【0041】
なお、図4のその他のノードについての記載の意味づけは以上の説明から容易に理解することができるので、図4の事例の全てについての説明は割愛する。但し図4において、変電所〜電圧調整機器までの各欄がゼロとなっているところは該当する設備、機器が設置されていないことを意味する。変電所〜電圧調整機器までの各欄がゼロ以外になっている箇所には、該当する設備、機器が設置されており、それを識別する機器IDが記載されている。
【0042】
図5のデータは、ブランチに関する電力系統データの一例であり、始点ノードと終点ノードによって、ブランチ21が定義されている。また、各ブランチ、従って当該部分の送電線の抵抗R及びリアクタンスXの情報が併記されて記憶されている。なお、始点ノードと終点ノードは、図4のノード名におけるノードNo.を使用して表現されている。図3のノード20、24には括弧書で、図4で用いたノードNo.を記述している。
【0043】
図5のデータの見方について、例えば始点ノード3、終点ノード4で定義されるブランチ名は21cであり、このブランチNo.は3である。またこの送電線区間の抵抗Rは0.06(Ω)、リアクタンスXは0.08(Ω)であることがこの表から読み取ることができる。なお、図3のブランチ21には括弧書で、図4で用いたブランチNo.を記述している。
【0044】
図5のその他のブランチについては、以上の説明から容易に理解することができるので、図5の事例の全てについての説明は割愛する。この表記によれば、ブランチは始点および終点ノードとインピーダンス等から成り、ノードを介して電線の接続関係を把握することができる。図4、図5に示された電力系統データは、図2、図3の電力系統構成とその設備の関係に応じて事前に準備され、電力系統データデータベースDB1に保存されている。また、この内容は、電力系統構成の変更や、設備、機器の変更に応じて、適宜修正されている。
【0045】
図1のセンサデータデータベースDB2に保持されるセンサデータの一例が、図6に示されている。なお、図6のデータとしては、図2、図3に示す典型的な電力系統におけるデータが示されている。またセンサ22は、図4の設備情報としてセンサを定義したときのセンサIDに関連付けて把握されている。この図6のデータ内容は、電力系統情報収集装置26により定期的に収集された情報であり、時刻情報とともに記録されている。
【0046】
図1で使用するセンサデータは、図2の電力系統に設置されたセンサ22で定期的に計測された電力状態(例えば、電流、電圧、力率、有効電力、無効電力など)に関するデータである。ここで、センサ22とは、図4の例では、ノード名20a、ノードNo.1で定義されたセンサID22eのセンサ、ノード名20c、ノードNo.3で定義されたセンサID22aのセンサ、ノード名20e、ノードNo.5で定義されたセンサID22bのセンサ、ノード名20f、ノードNo.6で定義されたセンサID22cのセンサ、ノード名20h、ノードNo.8で定義されたセンサID22dのセンサのことである。
【0047】
これらのセンサは通信ネットワーク27を介して電力系統情報収集装置26に接続され、センサで計測されたセンサデータは、電力系統情報収集装置26内のセンサデータデータベースDB2に収集、蓄積される。なお、電力系統状態推定装置3では、センサデータと電力系統データを含めて電力系統に関わる各種データを管理する。
【0048】
センサデータの一例を示す図6では、センサID22e、22a、22b、22c、22dのセンサが計測した例えば電流、電圧、力率の情報が、各相単位で記憶される。また、これらの検出は一定周期として例えば30分ごとに同時に実行されて記憶される。
【0049】
図1の推定環境設定部30では、予め準備された図4、図5の電力系統データを使用して推定環境データを作成、編集する。推定環境データとは、センサIDやセンサごとの重みなどのパラメータのことである。推定環境データは、推定環境データデータベースDB3に蓄積され、その後に状態推定部32において電力状態の推定計算を行うために使用される。
【0050】
図7、図8、図9に推定環境データの一例を示す。これらの推定環境データは、予め準備された図4、図5の電力系統データを使用して、推定環境設定部30内の処理により作成、編集された結果物である。ここでは、最初に結果物としての推定環境データの形態を説明し、この推定環境データを作成するための処理手順をその後に説明することにする。
【0051】
これらの推定環境データは、ノード番号とセンサIDが対になって構成されている。この意味するところは、各ノードに接続している需要家の電力状態として例えば負荷を算出するとして、この算出の際に使用するセンサIDの計測情報を用いることを示したものである。
【0052】
例えば、図7に示した第1の推定環境データでは、ノード1、2に接続する各需要家の無効電力を算出するのにセンサ22e(変電所のセンサ)の計測情報を用い、ノード3、4に接続する各需要家の無効電力を算出するのにセンサ22aの計測情報を用いる(具体的な算出方法は後述する)。他のノードについても同様である。この第1の推定環境データの考え方は、センサを備えるノードであれば、その位置のセンサの出力を電力状態推定に使用し、センサを備えていないノードであれば直近上流側のセンサの出力を電力状態推定に使用することを定義したものである。
【0053】
図8に示す第2の推定環境データでは、特異な傾向を示すセンサを特定し、このセンサを使用しないことにし、代わりに他のセンサを使用したものである。図8の例では、ノード3のセンサ22aが特異な傾向を示すセンサであるとされたときセンサ22aを使用せず、代わりに直近上流側のセンサ22eの出力を電力状態推定に使用することに変更したものである。この変更に対応してノード3の下流側ノード4のセンサも22eに変更される。
【0054】
図8の組み合わせ変更のほかの例は、ノード6のセンサ22cについてこれが特異な傾向を示すセンサであるとされたときセンサ22cを使用せず、代わりに直近上流側のセンサ22bの出力を電力状態推定に使用することに変更したものである。この変更に対応してノード6の下流側ノード7のセンサも22bに変更される。
【0055】
なおここで、「特異な傾向を示すセンサ」とは、センサのおかれた環境によりセンサが正しい値を示さない、あるいは平均的なセンサと比較したとき特異な傾向を示すセンサである、計測環境が均一でないなどの事情があるセンサであり、センサの故障ではない。例えば大口需要家近傍の力率は工場など大口需要家の運転状態や導入設備(進相コンデンサなど)の影響を受けて周囲とは異なる様相を示す場合があるので、このセンサを除外して図8の組み合わせにより各部の電力状態推定を行う。
【0056】
特異な傾向を示すセンサの特定については、判断手法を含めて、さらに具体的に後述する。なお、各ノードに接続する各需要家の負荷(有効電力P、無効電力Q)の利用については、状態推定部32の機能説明として後述する。
【0057】
このように、第2の推定環境データである図8では、ノード3、4およびノード6、7の無効電力計算にあたり、それぞれセンサ22aおよび22cの計測情報(力率)を用いないで代わりにそれぞれセンサ22e、22bの計測情報を用いることを示している。つまり、例えば力率を計測する場合に、全ての力率計センサを状態推定に使用するのではなく、一部のセンサに特定して使用することを提案している。
【0058】
第3の推定環境データを示す図9では、各ノードに接続する各需要家の無効電力を算出する際に、複数のセンサIDの計測情報を設定された重みを使って加重平均したものを使うようにしている。重みは、ノードごとにその総和が1になるように割り当てられる。
【0059】
図9の第3の推定環境データでは、センサを備えるノードで使用するセンサは、当該箇所に設置されたセンサのみとしている。ノードNO.1.3.5.6.8がこれに相当する。これに対し、センサを備えないノード(ノードNO.2、4、7、9、10)で使用するセンサは、直近上流と、直近下流のセンサの双方を使用する。
【0060】
例えばノードNO.2では、直近上流のセンサ22eと、直近下流のセンサ22aの双方を使用し、それぞれの出力にそれぞれ重み(均等荷重)として0.5を乗じて加算した値を、このノードでの計測信号として使用することを意味している。また、例えばノードNO.4では、直近上流のセンサ22aと、直近下流のセンサ22bの双方を使用し、それぞれの出力にそれぞれ異なる重み(不均等荷重)として0.8、0.2をそれぞれ乗じて加算した値を、このノードでの計測信号として使用することを意味している。重み配分をどうするかは、系統の環境を考慮して適宜決定される。
【0061】
なお、第3の推定環境データを得る場合に、図8で説明したセンサの一部を使用せず、代わりに直近上流、直近下流のセンサを使用するように変更できることはいうまでもない。
【0062】
次に、上記した図7、図8、図9の推定環境データの作成手法(推定環境データ作成)について説明する。この作成手法は、推定環境設定部30の内部で実行される。
【0063】
<第1の推定環境データ作成手法:図7の第1の推定環境データの作成手法>
この場合、推定環境データは、例えば電力系統の管理者などのユーザが、予め定めておき、所定のファイルフォーマットで保存しておけばよい。推定環境設定部30は、例えばテキストエディタなど推定環境データのファイル作成を支援する機能を有する。このケースでは、事前に準備したファイルフォーマットの内容をそのまま第1の推定環境データとする。
【0064】
<第2の推定環境データ作成手法:図8の第2の推定環境データの作成手法>
この説明の前提として、図4の電力系統データのノードデータには(図4には記述していないが)需要家IDが含まれる。さらに各需要家の情報として需要家種別が含まれる。ここで、需要家種別とは、例えば、工業、商業、住宅など需要家の業種や種類をいう。
【0065】
推定環境設定部30では、電力系統全体の需要家種別ごとの割合を求め、またセンサ毎にその周辺の需要家種別を考慮して代表需要家種別も求めておく。具体的には、例えば図2、3の電力系統において全需要家の70%が住宅地であり、工業、商業がそれぞれ15%だったとする。また個別には、例えば、センサ22a周辺が工業地帯、センサ22c周辺が商業地帯、それ以外のセンサ周辺が住宅地であるとする。
【0066】
ここで、センサの周辺とは、センサからの直線距離あるいはセンサから需要家までの電線の延長距離が所定以内であることをいう。この時、当該電力系統の代表重要家種別は最も割合が高い住宅とし、該代表需要家種別が住宅であるセンサ(22e、22b、22d)を選択し、それ以外の種別のセンサ(22a、22c)は選択しない。ここで、「選択しない」の意味は、図7の第1の推定環境データの表において、センサ(22a、22c)を使用せず、結果として図8の表による第2の推定環境データを得ることである。これにより、センサ(22a、22c)が設置された工業地帯、商業地帯の状態推定計算には、代表的な需要家種別(この場合には住宅地)と同じ種別のセンサを用いることになり、その結果、安定的に良好な精度で電力状態全体の推定解が得られるようになる。
【0067】
上記のようにして選択されたセンサのリストを基に、上述したように、各ノードに接続する各需要家の無効電力を算出するためのセンサを決定する。ノードごとのセンサの決定方法は、例えば、対象ノードの上流側(変電所側)にある最も近いセンサとする(上記で選択されなかったセンサを除く)。例えば、ノード1、2はセンサ22eがそのまま選択され、ノード3、4はセンサ22aが選択されなかったため、上流側で一番近い22eが選択される。他のノードについても同様に決定していくと、図8の推定環境データが作成される。このようにして、需要家種別に基づきセンサを取捨選択することで、推定環境データを作成することができる。
【0068】
このように、図8の第2の推定環境データを作成するための第2の推定環境データ作成手法では、以上述べた電力系統全体の需要家種別ごとの割合、またセンサ毎の周辺の需要家種別を考慮して特異な傾向を示すセンサを特定することができる。
【0069】
<第3の推定環境データ作成手法:図8の第2の推定環境データの作成手法>
本事例においても、図8の第2の推定環境データを得るが、導出手法が第2の推定環境データ作成手法とは相違する。第2の推定環境データ作成手法では、電力系統全体およびセンサの周辺の需要家種別に基づき特異な傾向を示すセンサを特定する考え方であったが、第3の推定環境データ作成手法では、統計的手法を採用する。具体的には、計測される電力状態に基づいたクラスタリングによって特異な傾向を示すセンサを特定する。
【0070】
この場合、推定環境設定部30では、電力系統データに加えてセンサデータを参照する。ここで、センサデータは、図6に例示されるように、蓄積された過去の所定期間(現在のデータを含んでもよい)の計測情報である。ここでは、計測情報のうち、例えば力率に注目する。
【0071】
力率Pfは、A相、B相、C相というように相毎に計測されるが、一例として三相の平均値を扱う例を示す。すわなち、時刻t・センサごとに三相平均力率が得られる。なお、三相平均値の代わりに、各相個別に扱ってもよい。次に、このようにして得られる時刻t・センサごとの三相平均力率(Pf(t))を基にセンサ単位にさらに平均化して、センサごとの平均力率Pfm((1)式)、および標準偏差σpf((2)式)を得る。なお、nはセンサ個数である。
【0072】
【数1】
【0073】
【数2】
【0074】
このようにして得られたセンサごとの平均力率Pfmおよび標準偏差σpfを基にクラスタリング(クラスター分析)を行い、センサを力率の特性分布に応じていくつかのグループに分ける。
【0075】
このセンサのクラスタリング手法には、例えばK−means法を使えばよい。クラスタリング手法によるセンサのグループ分類の一例を図10に示す。図10の横軸は平均力率Pfm、縦軸は力率の標準偏差σpfである。この図の二次元空間上にプロットされている各点は、上記のようにして求められた各センサの平均力率Pfmおよび標準偏差σpfによるものである。
【0076】
これを基にクラスタリング手法によって2つのグループに分類すると、80および81のグループに分類される。グループ80には22e、22b、22dが含まれ、グループ81には22a、22cが含まれる。かつグループ80の22e、22b、22dは、互いに近接して位置し同じ出力傾向を示す度合いが高いのに対して、グループ81の22a、22は比較的離散しており、グループに属するとしても異なる出力傾向を示す度合いが高いことが見て取れる。
【0077】
この結果、グループ80は、その中に3センサが含まれる多数派となり、このグループ80に属するセンサ22e、22b、および22dが選択される。選択されたこれらのセンサ22e、22b、22dは、いずれも住宅地周辺に配置されたセンサであり、選択されなかった工業地帯、商業地帯のセンサ22a、22cとは出力傾向が相違していることが判明する。これにより、同じような力率の特性分布にあるセンサを用いることになり、その結果、安定的で良好な精度で電力状態の推定解が得られるようになる。
このようにして選択されたセンサのリストを基に、第2の推定環境データ作成例と同様にして、各ノードに接続する各需要家の無効電力を算出するためのセンサを決定する。
【0078】
第3の推定環境データ作成手法では、以上のようにして、図8の第2の推定環境データが作成される。本例では、クラスタリングに用いるデータとして、平均力率Pfmおよび標準偏差σpfというように、2次元空間を扱ったが、力率の他に、電流、電圧、有効電力、無効電力などセンサが計測する情報でかつ1次元から3次元以上の空間としてもよい。
【0079】
<第4の推定環境データ作成手法:図8の第2の推定環境データの作成手法>
本事例においても、図8の第2の推定環境データを得る。ここでの導出手法は第3の推定環境データ作成手法で採用した統計的手法である。具体的には、センサの組み合わせを複数設定し、各組み合わせで計測される電力状態に基づき配電線全体と平均およびばらつきが最も近いセンサの組み合わせを選択する。
【0080】
推定環境設定部30では、第3の推定環境データ作成例と同様に、電力系統データに加えてセンサデータを参照する。ここでも第3の推定環境データ作成例と同様に、計測情報のうち、三相力率の平均値に注目し、(1)式によってセンサごとの平均力率Pfmを得る。次に、センサごとの平均力率Pfmから全センサについてさらに平均化することにより、全センサの平均力率PfMを得る。この全センサの平均力率PfMを当該電力系統の代表力率とみなす。
【0081】
次に、全センサのうち、ノード無効電力の計算に利用するセンサの組み合わせを求める。本例では、センサが5台(22a、22b、22c、22d、22e)あるため、センサの組み合わせ数は25−1(=31)通りあることになる(センサは1台以上使う)。
【0082】
そして、各組み合わせの平均力率Pfm(i)を算出する。ここで、iは組み合わせの番号である(1〜31)。このようにして求まった各組み合わせの平均力率Pfm(i)のうち、全センサの平均力率PfMに近くなる(例えば偏差が所定値以下)センサの組み合わせを1以上抽出する。なお、全センサを用いる組み合わせは全センサの平均力率PfMに近い(偏差がゼロ)ため必ず抽出される。
【0083】
このようにして抽出されたセンサの組み合わせのそれぞれについて、(2)式によって各センサの平均力率(Pf(t))の標準偏差σpfを得る(ただし、センサが1台の場合の標準偏差はゼロとする)。
【0084】
そして、抽出されたセンサの組み合わせの標準偏差をそれぞれ比較し、最小となる組み合わせを選択する。標準偏差が最小となる組み合わせが複数存在する場合は、平均力率Pfm(i)が、全センサの平均力率PfMにもっとも近いものを選択する。これにより、同じような力率の特性(平均およびばらつきが同程度)にあるセンサを用いることになり、その結果、安定的で良好な精度で電力状態の推定解が得られるようになる。
【0085】
このようにして選択された組み合わせに含まれるセンサのリストを基に、第2、第3の推定環境データ作成例と同様にして、各ノードに接続する各需要家の無効電力を算出するためのセンサを決定する。以上のようにして、図8の推定環境データが作成される。
【0086】
<第5の推定環境データ作成手法:図8の第2の推定環境データの作成手法>
本事例においても、図8の第2の推定環境データを得る。ここでの導出手法は第3、第4の推定環境データ作成手法で採用した統計的手法である。具体的には、センサの組み合わせを複数設定し、各組み合わせで計測される電力状態に基づき電力系統の評価地点における電力状態を算出し、該評価地点における算出値と計測データの偏差が最小となる組み合わせを選択する。
【0087】
推定環境設定部30では、第4の推定環境データ作成例と同様に、電力系統データに加えてセンサデータを参照する。ここではセンサごとの各計測情報(三相の電流、電圧、力率)の各三相平均値を用いて、(1)式と同様にしてそれぞれの平均値Sj(t)(平均電流Ij(t)、平均電圧Vj(t)、平均力率Pfj(t))を算出する。
【0088】
ここに、jはセンサを示す。次に、全センサのうち、ノード無効電力の計算に利用するセンサの組み合わせを求める。本例では、センサが5台(22a、22b、22c、22d、22e)あるため、センサの組み合わせ数は25−1(=31)通りあることになる(センサは1台以上使う)。
【0089】
そして、各組み合わせにおける推定環境データをそれぞれ作成する。該推定環境データの作成方法は、第2の推定環境データ作成例と同様であり、ノードごとのセンサの決定において、例えば、対象ノードの上流側(変電所側)にある最も近いセンサとすればよい。
【0090】
次に、各組み合わせについて、作成された推定環境データとセンサデータとを用いて、後述する状態推定部32で実施される電力状態推定計算を実行する。これにより、各組み合わせについて、電力系統の任意地点の電力状態(電流、電圧、力率、有効電力、無効電力など)の推定値を算出する。
【0091】
その上で、例えば(3)式によって、予め定められた期間における予め定められた当該電力系統上の評価地点j(1以上のセンサ設置地点)について、時刻tにおけるセンサデータSj(t)を真とし、算出された電力状態推定値Eij(t)との偏差の総和を、組み合わせiの評価値Yiとして算出する。
【0092】
【数3】
【0093】
ここに、wjはセンサデータごとに設定される重みである。センサデータSjおよび電力状態推定値Eijは、同一種類の電力状態であるが、必ずしも単一とする必要はなく複数としてもよい。
【0094】
例えば、電流と電圧の2種類とする場合、評価値Yiは電流と電圧それぞれの偏差の二乗和となる。このようにして算出された各組み合わせの評価値を比較し、評価値が最小となる組み合わせを抽出する。
【0095】
これにより、センサデータとの偏差が最小となる電力状態推定値が得られるようなセンサを用いることになり、その結果、安定的で良好な精度で電力状態の推定解が得られるようになる。このようにして選択された組み合わせに含まれるセンサのリストを基に、第2〜第4の推定環境データ作成例と同様にして、各ノードに接続する各需要家の無効電力を算出するためのセンサを決定する。以上のようにして、図8のような推定環境データが作成される。
【0096】
以上、図8の推定環境データを得るための幾つかの手法について説明したが、この実現に当っては、更に幾つかの事項を反映させたものとするのがよい。
【0097】
例えば、第2〜第5の推定環境データ作成手法において作成され推定環境データデータベースDB3に記憶される推定環境データは、365日終日必ずしも同じものであるべきものではなく、例えば、工場や商業などの稼働期間等を考慮して曜日や時間帯ごとに推定環境データを作成するようにしてもよい。
【0098】
あるいは、電力系統に流れる負荷電力(例えば、変電所から送り出される有効電力)の大きさに応じて動的に推定環境データを作成するようにしてもよい。例えば、変電所の有効電力が所定の閾値を超えた場合(重負荷)と閾値以下(軽負荷)の2つの場合に分けて推定環境データを作成する。なお、閾値の数を増やすことで、推定環境データの数を増やすようにしてもよい。
【0099】
以上のようにすることで、電力系統の負荷状態に合わせた推定環境データを作成するため、さらに精度よく状態推定計算をすることができるようになる。
【0100】
次に、図1に戻り、以上のようにして決定された推定環境データを用いて実行される状態推定部32内の処理について説明する。状態推定部32は、推定環境設定部30で作成され、推定環境データデータベースDB3に記憶される推定環境データとセンサデータデータベースDB2に記憶されたセンサデータを用いて、電力系統の任意地点の電力状態の推定値を算出するところである。
【0101】
状態推定計算の方法にはいくつかあるが、最も簡単な方法としては、図11に示すようなセンサの位置(変電所からの距離)とセンサデータデータベースDB2に記憶されたセンサデータに含まれる各電力状態を用いて、内挿法、外挿法といった線形補間により、任意の位置の電力状態120を算出するものがある。
【0102】
なお、同図において横軸は変電所からの距離であり、縦軸の電力状態が例えば電圧であり、2点(22e、22b)の電圧が計測されているときに、これらの電圧を結ぶ直線120を想定し、内挿法あるいは外挿法といった線形補間により任意点PXの電圧VXを推定する。
【0103】
他の状態推定計算方法として、電力方程式を用いた方法について、図12に示すモデル系統を用いて説明する。図12において、i、jはそれぞれノードを表し、ijはノードiとノードjを結ぶブランチを表す。G、Bはそれぞれブランチijのコンダクタンス、サセプタンスを表す。
【0104】
電力方程式では、はじめにノード(注入電力)の定式化を行う。ノードi、jの各位相角をそれぞれθi、θjとしたときの位相差をδ(=θi−θj)とすると、ノードiの有効電力Pi、無効電力Qiは(4)式、(5)式で表される。
【0105】
【数4】
【0106】
【数5】
【0107】
次に、ブランチ(線路電力)ijの定式化を行う。ノードi、jを結ぶブランチijの有効電力Pij、無効電力Qijは、それぞれ(6)式、(7)式で表される。
【0108】
【数6】
【0109】
【数7】
【0110】
次に、状態推定計算の定式化について述べる。状態推定計算は(8)式を満足する状態変数xを求める問題である。
【0111】
【数8】
【0112】
ただし、
z: 観測値(センサやAMIで計測される電圧の大きさ、ノード注入電力、ブランチの電力状態)
h: 非線形関数(上記で定式化したPij, Qij,Pi,Qiおよび電圧Vi)
x: 状態変数(Vi、δij)
ν: 観測値に含まれるノイズ
ここで、観測値に含まれるノイズνは白色ノイズとみなす。
【0113】
また、各ノードに接続する各需要家の負荷(有効電力Pi、無効電力Qi)の観測値について説明する。有効電力は別途計測されるAMI(Advanced Metering Infrastructure)で計測されるためその計測値を用いればよい。無効電力についてはAMIで計測されない(AMIは主として自動検針の用途のために使われるため有効電力のみが計測される)ため、AMIで計測される有効電力Piとセンサ22で計測される力率Pfより(9)式で求められる。(ただし、無効電力の符号は、遅れ力率の場合は正、進み力率の場合は負とする。)
【0114】
【数9】
【0115】
このように、ノードの負荷(無効電力)の計測値に相当するものを算出するのに、推定環境データで指定されたセンサの力率情報を用いることになる。
【0116】
状態推定計算の解を求めるにあたっては、状態変数Vi、δijの初期値として、それぞれ1.0[pu]、 0.0[deg]にして、(4)〜(7)よりそれぞれのh(x)を求める。ここで、最小二乗法を用いた状態推定計算では、(10)式の目的関数J(x)を最小化することになる。
【0117】
【数10】
【0118】
これにより、全観測値の重み付偏差二乗和の合計を最小化するような状態変数x(電圧Viおよび位相差δij)が求められる。この状態変数を用いて(4)〜(7)よりノード、ブランチの電力が求められる。さらに(11)式より電流Iijも求められる。
【0119】
【数11】
【0120】
以上のように、定式化した理論式に基づき、かつセンサデータとの誤差の総和が最小となるように各種電力状態(ノードの有効電力、無効電力、電圧、位相、ブランチの有効電力、無効電力、電流など)が求められるため、求められる電力状態は必ずしもセンサデータと一致しない。
【0121】
これは、センサデータに計測誤差や計測タイミングのズレなどによる誤差が含まれていることを前提に、電力系統全体の電力状態についてうまく辻褄が合うように、全体の電力状態が推定されることになるためである。
【0122】
以上説明したように、状態推定部32では、推定環境設定部30で作成される推定環境データとセンサデータを用いて、センサデータとの偏差を最小化するように電力系統の任意地点の電力状態の推定値を算出することができる。
【0123】
以上説明したように、本発明の電力系統状態推定装置を用いれば、電力系統の動的な負荷特性を考慮し、電力系統全体の状態監視を適切に行うために、センサの一部の計測情報を用いて電力系統の任意地点の状態を高精度に推定することができるようになる。また、状態推定の精度が向上することで、柱上変圧器やSVRなどの系統設備の適切な導入計画支援が可能となり、設備の利用効率を向上することが可能になる。なお、精度が悪いと誤差の分の余裕を持たせたオーバースペックな設備を導入せざるを得ない。
【実施例2】
【0124】
本実施例では、電力系統状態推定装置3を用いた電力系統システムの例を説明する。
図13は、実施例2における電力系統システムを示す構成図の例である。ここで、図1の電力系統状態推定装置3のうち、既に説明した図1に示された同一の符号を付された構成と、同一の機能を有する部分については、説明を省略する。
【0125】
電力系統状態推定装置3を用いた電力系統システムは、図示するように、電力系統データデータベースDB1、センサデータデータベースDB2、電力系統状態推定装置3、電力状態推定データデータベースDB4、電力系統制御中央装置5、変電所20やセンサ22、電圧調整機器25、需要家24、柱上変圧器23等から成る電力系統、電力系統情報収集装置26、および通信ネットワーク27から構成される。
【0126】
電力系統を構成する機器、電力系統状態推定装置3、電力系統情報収集装置26、および電力系統制御中央装置5は通信ネットワーク27に接続されている。図13の構成は、図1とは電力系統制御中央装置5、電力状態推定データデータベースDB4が設けられている点で大きく相違する。
【0127】
次に、電力系統状態推定装置3を用いた電力系統システムにおける大まかな処理の流れを説明する。電力系統状態推定装置3は、通信ネットワーク27を介して得たリアルタイムのセンサデータ等を用いて状態推定計算を実施し、電力系統の任意地点の電力状態推定データを電力状態推定データデータベースDB4に出力する。
【0128】
電力系統制御中央装置5は、電力状態推定データデータベースDB4に記憶された電力状態推定データを用いて電力系統を構成する各機器の制御量を計算し、それに基づいて通信ネットワーク27を介して各機器へ制御指令を与える。電力系統を構成する各機器は、電力系統制御中央装置5から与えられた制御指令にしたがって制御動作を行う。
【0129】
続いて、電力系統状態推定装置3を用いた電力系統システムを構成する残りの各部の内容または機能について説明する。
【0130】
電力状態推定データデータベースDB4は、電力系統状態推定装置3が出力する電力系統の任意地点の電力状態推定データである。例えば、ノードの有効電力、無効電力、電圧、位相、ブランチの有効電力、無効電力、電流などが含まれる。
【0131】
電力系統制御中央装置5は、電力状態推定データ4を用いて電力系統を構成する各機器の制御量を計算し、それに基づいて通信ネットワーク27を介して各機器へ制御指令を与えるところである。
【0132】
ここで、電力系統を構成する各機器の制御量を計算する方法の一例について図14のフローチャートを用いて説明する。
【0133】
はじめに、電力系統に接続している制御可能な機器を抽出する。図13の例では、例えば、変電所(の変圧器)20a、電圧調整機器25a、25bの合計3台である。これら機器のうち、変電所の変圧器やSVR(Step Voltage Regulator)はタップで電圧を調正する機器であり、複数あるタップ位置のうちの一つを選択することで電圧を制御するものであるから、制御量の候補がタップの数だけあることになる。また、SVC(Static Var Compensator)は無効電力を容量の範囲で自由に出力できる装置であり、その意味で制御量の候補は連続的にあることになるが、ある所定量の刻み幅で制御量の候補を決めると、変電所の変圧器やSVRと同様に複数の制御量候補があることになる。
【0134】
例えば制御可能な機器が上記のものであるという前提の下で、最初のステップS110では、これら各機器の制御量候補の全組み合わせを設定する。
【0135】
次に、ステップS111では、ある一つの組み合わせにおいて、当該制御量を指令した時の電力系統の電力状態推定値を算出する。算出にあたっては、状態推定部32の機能を用いる。
【0136】
次に、ステップS112では評価指標を計算する。評価指標は、状態推定計算で得られた結果を用いて計算されるが、例えば、電力系統での電力損失量、電圧の規定範囲からの逸脱量の総和などが挙げられる。このような評価指標は、電力送配電の効率や電力品質の面から最小化するのが望ましい。
【0137】
次に、ステップS113では、現在の評価指標最小値と比較する。この場合に、最初の組み合わせにおける評価指標最小値(初期値)は、更新されることを前提に極めて大きな値としておけばよい。
【0138】
比較した結果、計算された評価指標が現在の評価指標最小値より小さい場合(ステップS113でYes)は、ステップS114において当該制御量組み合わせを記憶し、評価指標最小値をこの評価指標に更新する。
【0139】
計算された評価指標が現在の評価指標最小値より小さくない場合(ステップS113でNo)は、ステップS115へ進む。
【0140】
次にステップS115で、全組み合わせが終了したかをチェックする。全組み合わせが終了していなければ(ステップS115でNo)、ステップS110へ戻って処理を続ける。
【0141】
全組み合わせが終了していれば(ステップS115でYes)、ステップS116へ進み、現在記憶されている評価指標最小値である制御量組み合わせを参照し、各制御機器へ制御量指令する。
【0142】
以上のようにすれば、電力系統制御中央装置5にて電力系統状態推定装置3の出力を用いて各制御機器の最適な制御量を決定することができ、その結果、電力系統での電力損失量や電圧の規定範囲からの逸脱量を抑えることで、電力の品質を維持することができるようになる。
【符号の説明】
【0143】
DB1:電力系統データデータベース
DB2:センサデータデータベース
3:電力系統状態推定装置
30:推定環境設定部
DB3:推定環境データデータベース
32:状態推定部
20a:変電所変圧器(ノード))
20b〜20h:電柱(ノード)
21:送配電線(ブランチ)
22:センサ
23:柱上変圧器
24:需要家(ノード)
25:電圧調整機器
26:電力系統管理装置
27:通信ネットワーク
80、81:クラスタリングによって分類されたセンサのグループ
DB4:電力状態推定データデータベース
5:電力系統制御中央装置
120:線形補間による電力状態
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統全体の状態監視を適切に行うために、センサの計測情報を用いて電力系統の任意地点の電力状態を高精度に推定する電力系統状態推定装置およびそれを用いた電力系統システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統に関して、近年分散型電源導入時の周波数や電圧の維持、また電力会社の設備の効率利用の要求が高まっている。そのため、電力系統の実状を表す電圧、電流などの電力状態を管理する必要性がより一層増している。
【0003】
この電力状態管理においては、電力系統の限られた地点に設けられた電力状態を計測するセンサの計測情報を用いて、潮流計算や状態推定と呼ばれる電力状態計算手法で電力系統の任意地点の電力状態を推定していた。
【0004】
本技術分野の背景技術として、特許文献1には、「配電線の電圧管理や運用制御において、配電線の電圧分布や潮流状態を把握するために必要な計測器の設置箇所を、最少の数で最良の効果(配電線状態計算の精度など)が得られるように決定できる」と記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、「配電系統の電圧・電流計測値から配電系統の潮流状態及び各計測装置の誤差を併せて推定する」と記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、「各観測値に与えられる重みを定式化し、インピーダンスのばらつきの大きい系統においても確実に収束する電力系統の状態推定方法を提供する」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−72791号公報
【特許文献2】特開2008−154418号公報
【特許文献3】特開昭63−73831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これら公知の背景技術について検討すると、特許文献1〜3のいずれも、センサの計測情報に基づき電力状態を計算する手段を有している。このため、センサ次第で電力系統の状態推定精度が左右されることになり、望ましくは高精度のセンサが多数電力系統に配置されているのがよい。また、推定手法は高精度のものが望まれる。
【0009】
このうちセンサに関して、特許文献1では、電力系統においてセンサを増設する際に、電力状態の推定精度やコストを考慮して最適な設置個所を求める。また特許文献2では、高精度演算とするために、センサの計測情報と電力状態計算による推定値との偏差を用いて推定値の修正量を予め計算しておき、この修正量を用いて推定値を修正する。
【0010】
しかしながら、特許文献1、2はいずれも、電力系統に設置されている全てのセンサの計測情報を均一に用いている。このために、推定精度がばらつく場合があるが、この問題について考慮されていない。
【0011】
ばらつき事例を紹介すると、例えば、電圧の推定精度は、センサの計測情報の一つである力率に少なからず関係がある。このため、負荷が大きい工場の稼働時間帯においては、工場付近の力率は系統上の他の場所と大きく異なる特異値であるような特性(負荷特性)を示すことがある。また、工場に力率調整用の進相コンデンサを導入している場合には、逆に稼働時間帯においては特異でなく非稼働時間帯に特異値を示すことがある。
【0012】
然るに、系統に少ないセンサしか設置されていない場合の電力状態計算においては、その特異値の情報をセンサで挟まれた区間の代表値として用いて計算を行うことがある。センサで挟まれた区間の値を補間する場合に、その前後のセンサのいずれかが特異値であるような特性を示すものであれば、配電系統全体の電力状態推定値精度にばらつきが発生することが考えられる。
【0013】
特許文献3では、センサの計測情報に重みを持たせることで、電力系統に設置されている全てのセンサの計測情報を均一に用いずに収束解を求める。
【0014】
しかしながら、特許文献3は、線路ブランチのインピーダンス(電力系統に応じて定まった大きさ)によって重みを変更するものであり、センサ間の相対的な重みはいわば固定である。また、実際の電力系統においてはインピーダンスがゼロでないため重みはゼロにはならず、全てのセンサの計測情報を用いるという点では特許文献1、2と同様である。
【0015】
以上説明のように、動的に負荷特性が変わる場合に、一部のセンサの計測情報を用いないことを含めダイナミックに対応することは困難と考えられる。
【0016】
そこで、本発明の課題は上記問題点を解決するものであり、電力系統全体の状態監視を適切に行うために、センサの一部の計測情報を用いて電力系統の任意地点の電力状態を高精度に推定する電力系統状態推定装置およびそれを用いた電力系統システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するためになされた本発明に係る電力系統状態推定装置およびそれを用いた電力系統システムにおいては、電力状態を計測する複数のセンサを有する電力系統において、特異な傾向を示すセンサを特定し、当該センサを除いたセンサを用いて電力系統の任意の地点の電力状態を推定することを特徴とする。また、特異な傾向を示すセンサを特定する手法を提案する。
【0018】
具体的には、電力系統状態推定装置を以下のように構成する。
【0019】
電力系統各所に複数のセンサを配置し、センサ出力を用いて電力系統の状態を推定する電力系統状態推定装置において、
電力系統の位置を示すノード情報とセンサを含む設備情報を対応付けて保持する電力系統データデータベースと、センサ出力を保持するセンサデータデータベースと、電力系統データデータベースの情報を用いて、特定ノードでの電力状態(特に、無効電力)を推定するときに使用するセンサを決定する推定環境設定部と、
推定環境設定部で決定した特定ノードでの使用センサに対応して、センサの出力をセンサデータデータベースから得て、電力系統全体について状態推定を行う状態推定部を備え、
推定環境設定部は、電力系統に設置されたセンサについて、当該センサが特異な傾向を示すセンサであることを特定する手段と、特定されたセンサに対応するノードについて、このノードの電力状態(特に、無効電力)推定に用いるセンサを変更する手段を備えている。
【0020】
また、電力系統システムを以下のように構成する。
【0021】
電力系統各所に配置された複数のセンサと、電力系統各所に配置され電力系統の電力状態を制御できる電力状態制御機器と、センサ出力を用いて電力系統状態を推定する電力系統状態推定装置と、電力系統状態推定装置からの電力系統状態に応じて、電力状態制御機器に操作信号を与える電力系統制御中央装置を含む電力系統システムにおいて、
電力系統状態推定装置は、電力系統の位置を示すノード情報とセンサを含む設備情報を対応付けて保持する電力系統データデータベースと、センサ出力を保持するセンサデータデータベースと、電力系統データデータベースの情報を用いて、特定ノードでの電力状態を推定するときに使用するセンサを決定する推定環境設定部と、
推定環境設定部で決定した特定ノードでの使用センサに対応して、センサの出力をセンサデータデータベースから得て、電力系統全体について状態推定を行う状態推定部を備え、推定環境設定部は、電力系統に設置されたセンサについて、当該センサが特異な傾向を示すセンサであることを特定する手段と、特定されたセンサに対応するノードについて、このノードで用いるセンサを変更する手段を備えている。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、電力系統全体の状態監視を適切に行うために、特異な傾向を示すセンサを除外した残りのセンサの計測情報を用いて電力系統の任意地点の電力状態を推定するので、高精度に推定することができる。
【0023】
また実施例によれば、状態推定の精度が向上することで、柱上変圧器やSVRなどの系統設備の適切な導入計画支援が可能となり、設備の利用効率を向上することが可能になる。
【0024】
さらに実施例によれば、推定した電力状態を用いて各制御機器の最適な制御量を決定し、その結果、電力系統での電力損失量や電圧の規定範囲からの逸脱量を抑えることで、電力の品質を維持することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】電力系統状態推定装置の構成図。
【図2】変電所から負荷に至るまでの配電電力系統の典型的な一例を示す図。
【図3】図2の電力系統を、ノードとブランチにより模式的に表した電力系統図。
【図4】ノードに関する電力系統データの一例を示す図。
【図5】ブランチに関する電力系統データの一例を示す図。
【図6】センサデータデータベースに保持されるセンサデータの一例を示す図。
【図7】推定環境データの一例として、第1の推定環境データを示す図。
【図8】推定環境データの一例として、第2の推定環境データを示す図。
【図9】推定環境データの一例として、第3の推定環境データを示す図。
【図10】クラスタリング手法によるセンサのグループ分類の一例を示す図。
【図11】線形補間により任意の位置の電力状態を算出する考えを示す図。
【図12】電力方程式を用いた状態推定計算方法を示す図。
【図13】実施例2における電力系統システムの構成を示す図。
【図14】電力系統を構成する各機器の制御量を計算する方法の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施例を、図面を用いて説明する。実施例1では、センサの計測情報を用いて電力系統の任意地点の電力状態を推定する電力系統状態推定装置3の例を説明する。実施例2では、電力系統状態推定装置3を用いた電力系統システムの例を説明する。
【実施例1】
【0027】
本実施例では、センサの計測情報を用いて電力系統の任意地点の電力状態を推定する電力系統状態推定装置3の例を説明するが、その前に電力系統状態推定装置3が設置される典型的な電力系統について説明する。
【0028】
本発明の電力系統状態推定装置3が設置される典型的な電力系統の一例を図2、図3に示す。まず図2は、変電所から負荷に至るまでの配電電力系統の典型的な一例を示している。
【0029】
この図において、20は地点を表すノードである。例えば変電所の変圧器の設置場所を示すノードが20a、電柱の設置場所を示すノードが20bから20hである。なお、電柱には、適宜センサ22、柱上変圧器23、電圧調整機器25などの機器が設置されている。また変電所の変圧器にはセンサ22eが設置されている。このため、例えばセンサ22aを設置した電柱のノード20cについて、センサ22a設置箇所のノードと表現することもできる。同様に柱上変圧器23aを設置した電柱のノード20dについて柱上変圧器23aのノード、電圧調整機器25aを設置した電柱のノード20eについて電圧調整機器25aのノードと言い表すことができる。
【0030】
またこの図において、21はノード間を結ぶブランチを表す。従って電力系統におけるブランチは、送配電線を表している。
【0031】
また図2において24は、電力系統に接続された需要家である。従って、需要家24についても地点を表すノードで表現することが可能であり、図の例では24a、24bが需要家の地点を表すノードである。
【0032】
図3は、図2の電力系統を、ノード20とブランチ21により模式的に表した電力系統図である。つまり、変電所の変圧器位置を示すノード20aから、負荷側に向かって直列配置された複数の電柱の設置場所を示すノード(20b〜20h)が示されている。また、電柱の設置場所を示すノード(20bと20h)に対して、需要家のノード24a、24bが記述されている。ブランチは、隣接するノード間を接続している。
【0033】
図2、図3を比べると、例えばセンサ22、柱上変圧器23、電圧調整機器25は図2に含まれ、表示されているが、図3には現れていない。これらは、場所的には電柱ノード20と同じところにあり、したがって、電柱ノードの附属機器という位置付けになる。
【0034】
図2において、電柱ノードのうち、センサ22を積載する電柱ノード(20c、20e、20f、20h)と変電所の変圧器ノード20aおよびAMI(Advanced Metering Infrastructure)の計測対象である需要家ノード(24a、24b)と、電力系統情報収集装置26との間には、通信ネットワーク27が設けられている。これにより電力系統情報収集装置26には、電力系統各所の電圧、電流、力率、位相などの電力状態に関する情報aについて、図3では「が収集され、あるいは収集後の処理により生成される。なお、センサ22を積載する電柱ノード(20c、20e、20f、20h)と変圧器ノード20●」のように黒丸で表記している。
【0035】
図1は、本実施例の電力系統状態推定装置3の構成図の例である。電力系統状態推定装置3は、推定環境設定部30、推定環境データデータベースDB3、および状態推定部32から構成される。また、電力系統状態推定装置3は、センサデータデータベースDB2と電力系統データデータベースDB1に接続され、これらのデータを使用して所定の演算を実行する。このうち、センサデータデータベースDB2に記憶されたセンサデータは、図2の通信ネットワーク27を介して電力系統情報収集装置26に収集され、電力系統から得られたセンサ22の検知情報である。
【0036】
次に、電力系統状態推定装置3における大まかな処理の流れを説明する。まず、推定環境設定部30では、状態監視対象の電力系統を構成する設備(変電所変圧器20、柱上変圧器23、電圧調整機器25、需要家24などの設備。センサ22を含む)に関する電力系統データを、電力系統データデータベースDB1から読み出す。そのうえで、電力状態推定を行う際に用いるセンサを設定する。状態推定部32では、推定環境設定部30で設定されたセンサの計測情報を、センサデータデータベースDB2より読み出す。さらに、このデータを用いて、電力系統の任意地点の電力状態(電流、電圧、位相など)を状態推定計算によって算出する。
【0037】
本発明では、推定環境設定部30での処理に特徴があり、以下の説明では推定環境設定部30を中心に説明する。状態推定部32での処理は、推定環境設定部30が設定したセンサからの情報を用いて、既存の公知の手法を用いて実現することができる。
【0038】
推定環境設定部30で使用する電力系統データの一例が、図4、図5に示されている。電力系統データは、電力系統の構成に応じて予め設定され、電力系統データデータベースDB1に保管されているデータである。なお、図4、図5のデータとしては、図2、図3に示す典型的な電力系統におけるデータが示されている。
【0039】
図4のデータは、ノードに関する電力系統データの一例であり、地点を示すノード(20、24)と、この位置に設けられた設備の対応関係を表している。例えばノードNo.1と定義されたノード20aは、変電所からの距離が0メートルであり、設備としては変電所20aとセンサ20eに対応付けて記憶されている。同様に、ノードNo.2と定義されたノード20bは、変電所からの距離が500メートルの位置に存在する電柱であり、この位置には変電所変圧器20、柱上変圧器23、電圧調整機器25、需要家24、センサ22などの設備を備えていないので、設備情報は対応付けて記憶されていない。
【0040】
また、ノードNo.5と定義されたノード20eは、変電所からの距離が2000メートルであり、設備としてはセンサ22bと電圧調整機器25aに対応付けて記憶されている。ノードNo.9と定義されたノード24aは、変電所からの距離が1700メートルであり、設備としては需要家24aに対応付けて記憶されている。
【0041】
なお、図4のその他のノードについての記載の意味づけは以上の説明から容易に理解することができるので、図4の事例の全てについての説明は割愛する。但し図4において、変電所〜電圧調整機器までの各欄がゼロとなっているところは該当する設備、機器が設置されていないことを意味する。変電所〜電圧調整機器までの各欄がゼロ以外になっている箇所には、該当する設備、機器が設置されており、それを識別する機器IDが記載されている。
【0042】
図5のデータは、ブランチに関する電力系統データの一例であり、始点ノードと終点ノードによって、ブランチ21が定義されている。また、各ブランチ、従って当該部分の送電線の抵抗R及びリアクタンスXの情報が併記されて記憶されている。なお、始点ノードと終点ノードは、図4のノード名におけるノードNo.を使用して表現されている。図3のノード20、24には括弧書で、図4で用いたノードNo.を記述している。
【0043】
図5のデータの見方について、例えば始点ノード3、終点ノード4で定義されるブランチ名は21cであり、このブランチNo.は3である。またこの送電線区間の抵抗Rは0.06(Ω)、リアクタンスXは0.08(Ω)であることがこの表から読み取ることができる。なお、図3のブランチ21には括弧書で、図4で用いたブランチNo.を記述している。
【0044】
図5のその他のブランチについては、以上の説明から容易に理解することができるので、図5の事例の全てについての説明は割愛する。この表記によれば、ブランチは始点および終点ノードとインピーダンス等から成り、ノードを介して電線の接続関係を把握することができる。図4、図5に示された電力系統データは、図2、図3の電力系統構成とその設備の関係に応じて事前に準備され、電力系統データデータベースDB1に保存されている。また、この内容は、電力系統構成の変更や、設備、機器の変更に応じて、適宜修正されている。
【0045】
図1のセンサデータデータベースDB2に保持されるセンサデータの一例が、図6に示されている。なお、図6のデータとしては、図2、図3に示す典型的な電力系統におけるデータが示されている。またセンサ22は、図4の設備情報としてセンサを定義したときのセンサIDに関連付けて把握されている。この図6のデータ内容は、電力系統情報収集装置26により定期的に収集された情報であり、時刻情報とともに記録されている。
【0046】
図1で使用するセンサデータは、図2の電力系統に設置されたセンサ22で定期的に計測された電力状態(例えば、電流、電圧、力率、有効電力、無効電力など)に関するデータである。ここで、センサ22とは、図4の例では、ノード名20a、ノードNo.1で定義されたセンサID22eのセンサ、ノード名20c、ノードNo.3で定義されたセンサID22aのセンサ、ノード名20e、ノードNo.5で定義されたセンサID22bのセンサ、ノード名20f、ノードNo.6で定義されたセンサID22cのセンサ、ノード名20h、ノードNo.8で定義されたセンサID22dのセンサのことである。
【0047】
これらのセンサは通信ネットワーク27を介して電力系統情報収集装置26に接続され、センサで計測されたセンサデータは、電力系統情報収集装置26内のセンサデータデータベースDB2に収集、蓄積される。なお、電力系統状態推定装置3では、センサデータと電力系統データを含めて電力系統に関わる各種データを管理する。
【0048】
センサデータの一例を示す図6では、センサID22e、22a、22b、22c、22dのセンサが計測した例えば電流、電圧、力率の情報が、各相単位で記憶される。また、これらの検出は一定周期として例えば30分ごとに同時に実行されて記憶される。
【0049】
図1の推定環境設定部30では、予め準備された図4、図5の電力系統データを使用して推定環境データを作成、編集する。推定環境データとは、センサIDやセンサごとの重みなどのパラメータのことである。推定環境データは、推定環境データデータベースDB3に蓄積され、その後に状態推定部32において電力状態の推定計算を行うために使用される。
【0050】
図7、図8、図9に推定環境データの一例を示す。これらの推定環境データは、予め準備された図4、図5の電力系統データを使用して、推定環境設定部30内の処理により作成、編集された結果物である。ここでは、最初に結果物としての推定環境データの形態を説明し、この推定環境データを作成するための処理手順をその後に説明することにする。
【0051】
これらの推定環境データは、ノード番号とセンサIDが対になって構成されている。この意味するところは、各ノードに接続している需要家の電力状態として例えば負荷を算出するとして、この算出の際に使用するセンサIDの計測情報を用いることを示したものである。
【0052】
例えば、図7に示した第1の推定環境データでは、ノード1、2に接続する各需要家の無効電力を算出するのにセンサ22e(変電所のセンサ)の計測情報を用い、ノード3、4に接続する各需要家の無効電力を算出するのにセンサ22aの計測情報を用いる(具体的な算出方法は後述する)。他のノードについても同様である。この第1の推定環境データの考え方は、センサを備えるノードであれば、その位置のセンサの出力を電力状態推定に使用し、センサを備えていないノードであれば直近上流側のセンサの出力を電力状態推定に使用することを定義したものである。
【0053】
図8に示す第2の推定環境データでは、特異な傾向を示すセンサを特定し、このセンサを使用しないことにし、代わりに他のセンサを使用したものである。図8の例では、ノード3のセンサ22aが特異な傾向を示すセンサであるとされたときセンサ22aを使用せず、代わりに直近上流側のセンサ22eの出力を電力状態推定に使用することに変更したものである。この変更に対応してノード3の下流側ノード4のセンサも22eに変更される。
【0054】
図8の組み合わせ変更のほかの例は、ノード6のセンサ22cについてこれが特異な傾向を示すセンサであるとされたときセンサ22cを使用せず、代わりに直近上流側のセンサ22bの出力を電力状態推定に使用することに変更したものである。この変更に対応してノード6の下流側ノード7のセンサも22bに変更される。
【0055】
なおここで、「特異な傾向を示すセンサ」とは、センサのおかれた環境によりセンサが正しい値を示さない、あるいは平均的なセンサと比較したとき特異な傾向を示すセンサである、計測環境が均一でないなどの事情があるセンサであり、センサの故障ではない。例えば大口需要家近傍の力率は工場など大口需要家の運転状態や導入設備(進相コンデンサなど)の影響を受けて周囲とは異なる様相を示す場合があるので、このセンサを除外して図8の組み合わせにより各部の電力状態推定を行う。
【0056】
特異な傾向を示すセンサの特定については、判断手法を含めて、さらに具体的に後述する。なお、各ノードに接続する各需要家の負荷(有効電力P、無効電力Q)の利用については、状態推定部32の機能説明として後述する。
【0057】
このように、第2の推定環境データである図8では、ノード3、4およびノード6、7の無効電力計算にあたり、それぞれセンサ22aおよび22cの計測情報(力率)を用いないで代わりにそれぞれセンサ22e、22bの計測情報を用いることを示している。つまり、例えば力率を計測する場合に、全ての力率計センサを状態推定に使用するのではなく、一部のセンサに特定して使用することを提案している。
【0058】
第3の推定環境データを示す図9では、各ノードに接続する各需要家の無効電力を算出する際に、複数のセンサIDの計測情報を設定された重みを使って加重平均したものを使うようにしている。重みは、ノードごとにその総和が1になるように割り当てられる。
【0059】
図9の第3の推定環境データでは、センサを備えるノードで使用するセンサは、当該箇所に設置されたセンサのみとしている。ノードNO.1.3.5.6.8がこれに相当する。これに対し、センサを備えないノード(ノードNO.2、4、7、9、10)で使用するセンサは、直近上流と、直近下流のセンサの双方を使用する。
【0060】
例えばノードNO.2では、直近上流のセンサ22eと、直近下流のセンサ22aの双方を使用し、それぞれの出力にそれぞれ重み(均等荷重)として0.5を乗じて加算した値を、このノードでの計測信号として使用することを意味している。また、例えばノードNO.4では、直近上流のセンサ22aと、直近下流のセンサ22bの双方を使用し、それぞれの出力にそれぞれ異なる重み(不均等荷重)として0.8、0.2をそれぞれ乗じて加算した値を、このノードでの計測信号として使用することを意味している。重み配分をどうするかは、系統の環境を考慮して適宜決定される。
【0061】
なお、第3の推定環境データを得る場合に、図8で説明したセンサの一部を使用せず、代わりに直近上流、直近下流のセンサを使用するように変更できることはいうまでもない。
【0062】
次に、上記した図7、図8、図9の推定環境データの作成手法(推定環境データ作成)について説明する。この作成手法は、推定環境設定部30の内部で実行される。
【0063】
<第1の推定環境データ作成手法:図7の第1の推定環境データの作成手法>
この場合、推定環境データは、例えば電力系統の管理者などのユーザが、予め定めておき、所定のファイルフォーマットで保存しておけばよい。推定環境設定部30は、例えばテキストエディタなど推定環境データのファイル作成を支援する機能を有する。このケースでは、事前に準備したファイルフォーマットの内容をそのまま第1の推定環境データとする。
【0064】
<第2の推定環境データ作成手法:図8の第2の推定環境データの作成手法>
この説明の前提として、図4の電力系統データのノードデータには(図4には記述していないが)需要家IDが含まれる。さらに各需要家の情報として需要家種別が含まれる。ここで、需要家種別とは、例えば、工業、商業、住宅など需要家の業種や種類をいう。
【0065】
推定環境設定部30では、電力系統全体の需要家種別ごとの割合を求め、またセンサ毎にその周辺の需要家種別を考慮して代表需要家種別も求めておく。具体的には、例えば図2、3の電力系統において全需要家の70%が住宅地であり、工業、商業がそれぞれ15%だったとする。また個別には、例えば、センサ22a周辺が工業地帯、センサ22c周辺が商業地帯、それ以外のセンサ周辺が住宅地であるとする。
【0066】
ここで、センサの周辺とは、センサからの直線距離あるいはセンサから需要家までの電線の延長距離が所定以内であることをいう。この時、当該電力系統の代表重要家種別は最も割合が高い住宅とし、該代表需要家種別が住宅であるセンサ(22e、22b、22d)を選択し、それ以外の種別のセンサ(22a、22c)は選択しない。ここで、「選択しない」の意味は、図7の第1の推定環境データの表において、センサ(22a、22c)を使用せず、結果として図8の表による第2の推定環境データを得ることである。これにより、センサ(22a、22c)が設置された工業地帯、商業地帯の状態推定計算には、代表的な需要家種別(この場合には住宅地)と同じ種別のセンサを用いることになり、その結果、安定的に良好な精度で電力状態全体の推定解が得られるようになる。
【0067】
上記のようにして選択されたセンサのリストを基に、上述したように、各ノードに接続する各需要家の無効電力を算出するためのセンサを決定する。ノードごとのセンサの決定方法は、例えば、対象ノードの上流側(変電所側)にある最も近いセンサとする(上記で選択されなかったセンサを除く)。例えば、ノード1、2はセンサ22eがそのまま選択され、ノード3、4はセンサ22aが選択されなかったため、上流側で一番近い22eが選択される。他のノードについても同様に決定していくと、図8の推定環境データが作成される。このようにして、需要家種別に基づきセンサを取捨選択することで、推定環境データを作成することができる。
【0068】
このように、図8の第2の推定環境データを作成するための第2の推定環境データ作成手法では、以上述べた電力系統全体の需要家種別ごとの割合、またセンサ毎の周辺の需要家種別を考慮して特異な傾向を示すセンサを特定することができる。
【0069】
<第3の推定環境データ作成手法:図8の第2の推定環境データの作成手法>
本事例においても、図8の第2の推定環境データを得るが、導出手法が第2の推定環境データ作成手法とは相違する。第2の推定環境データ作成手法では、電力系統全体およびセンサの周辺の需要家種別に基づき特異な傾向を示すセンサを特定する考え方であったが、第3の推定環境データ作成手法では、統計的手法を採用する。具体的には、計測される電力状態に基づいたクラスタリングによって特異な傾向を示すセンサを特定する。
【0070】
この場合、推定環境設定部30では、電力系統データに加えてセンサデータを参照する。ここで、センサデータは、図6に例示されるように、蓄積された過去の所定期間(現在のデータを含んでもよい)の計測情報である。ここでは、計測情報のうち、例えば力率に注目する。
【0071】
力率Pfは、A相、B相、C相というように相毎に計測されるが、一例として三相の平均値を扱う例を示す。すわなち、時刻t・センサごとに三相平均力率が得られる。なお、三相平均値の代わりに、各相個別に扱ってもよい。次に、このようにして得られる時刻t・センサごとの三相平均力率(Pf(t))を基にセンサ単位にさらに平均化して、センサごとの平均力率Pfm((1)式)、および標準偏差σpf((2)式)を得る。なお、nはセンサ個数である。
【0072】
【数1】
【0073】
【数2】
【0074】
このようにして得られたセンサごとの平均力率Pfmおよび標準偏差σpfを基にクラスタリング(クラスター分析)を行い、センサを力率の特性分布に応じていくつかのグループに分ける。
【0075】
このセンサのクラスタリング手法には、例えばK−means法を使えばよい。クラスタリング手法によるセンサのグループ分類の一例を図10に示す。図10の横軸は平均力率Pfm、縦軸は力率の標準偏差σpfである。この図の二次元空間上にプロットされている各点は、上記のようにして求められた各センサの平均力率Pfmおよび標準偏差σpfによるものである。
【0076】
これを基にクラスタリング手法によって2つのグループに分類すると、80および81のグループに分類される。グループ80には22e、22b、22dが含まれ、グループ81には22a、22cが含まれる。かつグループ80の22e、22b、22dは、互いに近接して位置し同じ出力傾向を示す度合いが高いのに対して、グループ81の22a、22は比較的離散しており、グループに属するとしても異なる出力傾向を示す度合いが高いことが見て取れる。
【0077】
この結果、グループ80は、その中に3センサが含まれる多数派となり、このグループ80に属するセンサ22e、22b、および22dが選択される。選択されたこれらのセンサ22e、22b、22dは、いずれも住宅地周辺に配置されたセンサであり、選択されなかった工業地帯、商業地帯のセンサ22a、22cとは出力傾向が相違していることが判明する。これにより、同じような力率の特性分布にあるセンサを用いることになり、その結果、安定的で良好な精度で電力状態の推定解が得られるようになる。
このようにして選択されたセンサのリストを基に、第2の推定環境データ作成例と同様にして、各ノードに接続する各需要家の無効電力を算出するためのセンサを決定する。
【0078】
第3の推定環境データ作成手法では、以上のようにして、図8の第2の推定環境データが作成される。本例では、クラスタリングに用いるデータとして、平均力率Pfmおよび標準偏差σpfというように、2次元空間を扱ったが、力率の他に、電流、電圧、有効電力、無効電力などセンサが計測する情報でかつ1次元から3次元以上の空間としてもよい。
【0079】
<第4の推定環境データ作成手法:図8の第2の推定環境データの作成手法>
本事例においても、図8の第2の推定環境データを得る。ここでの導出手法は第3の推定環境データ作成手法で採用した統計的手法である。具体的には、センサの組み合わせを複数設定し、各組み合わせで計測される電力状態に基づき配電線全体と平均およびばらつきが最も近いセンサの組み合わせを選択する。
【0080】
推定環境設定部30では、第3の推定環境データ作成例と同様に、電力系統データに加えてセンサデータを参照する。ここでも第3の推定環境データ作成例と同様に、計測情報のうち、三相力率の平均値に注目し、(1)式によってセンサごとの平均力率Pfmを得る。次に、センサごとの平均力率Pfmから全センサについてさらに平均化することにより、全センサの平均力率PfMを得る。この全センサの平均力率PfMを当該電力系統の代表力率とみなす。
【0081】
次に、全センサのうち、ノード無効電力の計算に利用するセンサの組み合わせを求める。本例では、センサが5台(22a、22b、22c、22d、22e)あるため、センサの組み合わせ数は25−1(=31)通りあることになる(センサは1台以上使う)。
【0082】
そして、各組み合わせの平均力率Pfm(i)を算出する。ここで、iは組み合わせの番号である(1〜31)。このようにして求まった各組み合わせの平均力率Pfm(i)のうち、全センサの平均力率PfMに近くなる(例えば偏差が所定値以下)センサの組み合わせを1以上抽出する。なお、全センサを用いる組み合わせは全センサの平均力率PfMに近い(偏差がゼロ)ため必ず抽出される。
【0083】
このようにして抽出されたセンサの組み合わせのそれぞれについて、(2)式によって各センサの平均力率(Pf(t))の標準偏差σpfを得る(ただし、センサが1台の場合の標準偏差はゼロとする)。
【0084】
そして、抽出されたセンサの組み合わせの標準偏差をそれぞれ比較し、最小となる組み合わせを選択する。標準偏差が最小となる組み合わせが複数存在する場合は、平均力率Pfm(i)が、全センサの平均力率PfMにもっとも近いものを選択する。これにより、同じような力率の特性(平均およびばらつきが同程度)にあるセンサを用いることになり、その結果、安定的で良好な精度で電力状態の推定解が得られるようになる。
【0085】
このようにして選択された組み合わせに含まれるセンサのリストを基に、第2、第3の推定環境データ作成例と同様にして、各ノードに接続する各需要家の無効電力を算出するためのセンサを決定する。以上のようにして、図8の推定環境データが作成される。
【0086】
<第5の推定環境データ作成手法:図8の第2の推定環境データの作成手法>
本事例においても、図8の第2の推定環境データを得る。ここでの導出手法は第3、第4の推定環境データ作成手法で採用した統計的手法である。具体的には、センサの組み合わせを複数設定し、各組み合わせで計測される電力状態に基づき電力系統の評価地点における電力状態を算出し、該評価地点における算出値と計測データの偏差が最小となる組み合わせを選択する。
【0087】
推定環境設定部30では、第4の推定環境データ作成例と同様に、電力系統データに加えてセンサデータを参照する。ここではセンサごとの各計測情報(三相の電流、電圧、力率)の各三相平均値を用いて、(1)式と同様にしてそれぞれの平均値Sj(t)(平均電流Ij(t)、平均電圧Vj(t)、平均力率Pfj(t))を算出する。
【0088】
ここに、jはセンサを示す。次に、全センサのうち、ノード無効電力の計算に利用するセンサの組み合わせを求める。本例では、センサが5台(22a、22b、22c、22d、22e)あるため、センサの組み合わせ数は25−1(=31)通りあることになる(センサは1台以上使う)。
【0089】
そして、各組み合わせにおける推定環境データをそれぞれ作成する。該推定環境データの作成方法は、第2の推定環境データ作成例と同様であり、ノードごとのセンサの決定において、例えば、対象ノードの上流側(変電所側)にある最も近いセンサとすればよい。
【0090】
次に、各組み合わせについて、作成された推定環境データとセンサデータとを用いて、後述する状態推定部32で実施される電力状態推定計算を実行する。これにより、各組み合わせについて、電力系統の任意地点の電力状態(電流、電圧、力率、有効電力、無効電力など)の推定値を算出する。
【0091】
その上で、例えば(3)式によって、予め定められた期間における予め定められた当該電力系統上の評価地点j(1以上のセンサ設置地点)について、時刻tにおけるセンサデータSj(t)を真とし、算出された電力状態推定値Eij(t)との偏差の総和を、組み合わせiの評価値Yiとして算出する。
【0092】
【数3】
【0093】
ここに、wjはセンサデータごとに設定される重みである。センサデータSjおよび電力状態推定値Eijは、同一種類の電力状態であるが、必ずしも単一とする必要はなく複数としてもよい。
【0094】
例えば、電流と電圧の2種類とする場合、評価値Yiは電流と電圧それぞれの偏差の二乗和となる。このようにして算出された各組み合わせの評価値を比較し、評価値が最小となる組み合わせを抽出する。
【0095】
これにより、センサデータとの偏差が最小となる電力状態推定値が得られるようなセンサを用いることになり、その結果、安定的で良好な精度で電力状態の推定解が得られるようになる。このようにして選択された組み合わせに含まれるセンサのリストを基に、第2〜第4の推定環境データ作成例と同様にして、各ノードに接続する各需要家の無効電力を算出するためのセンサを決定する。以上のようにして、図8のような推定環境データが作成される。
【0096】
以上、図8の推定環境データを得るための幾つかの手法について説明したが、この実現に当っては、更に幾つかの事項を反映させたものとするのがよい。
【0097】
例えば、第2〜第5の推定環境データ作成手法において作成され推定環境データデータベースDB3に記憶される推定環境データは、365日終日必ずしも同じものであるべきものではなく、例えば、工場や商業などの稼働期間等を考慮して曜日や時間帯ごとに推定環境データを作成するようにしてもよい。
【0098】
あるいは、電力系統に流れる負荷電力(例えば、変電所から送り出される有効電力)の大きさに応じて動的に推定環境データを作成するようにしてもよい。例えば、変電所の有効電力が所定の閾値を超えた場合(重負荷)と閾値以下(軽負荷)の2つの場合に分けて推定環境データを作成する。なお、閾値の数を増やすことで、推定環境データの数を増やすようにしてもよい。
【0099】
以上のようにすることで、電力系統の負荷状態に合わせた推定環境データを作成するため、さらに精度よく状態推定計算をすることができるようになる。
【0100】
次に、図1に戻り、以上のようにして決定された推定環境データを用いて実行される状態推定部32内の処理について説明する。状態推定部32は、推定環境設定部30で作成され、推定環境データデータベースDB3に記憶される推定環境データとセンサデータデータベースDB2に記憶されたセンサデータを用いて、電力系統の任意地点の電力状態の推定値を算出するところである。
【0101】
状態推定計算の方法にはいくつかあるが、最も簡単な方法としては、図11に示すようなセンサの位置(変電所からの距離)とセンサデータデータベースDB2に記憶されたセンサデータに含まれる各電力状態を用いて、内挿法、外挿法といった線形補間により、任意の位置の電力状態120を算出するものがある。
【0102】
なお、同図において横軸は変電所からの距離であり、縦軸の電力状態が例えば電圧であり、2点(22e、22b)の電圧が計測されているときに、これらの電圧を結ぶ直線120を想定し、内挿法あるいは外挿法といった線形補間により任意点PXの電圧VXを推定する。
【0103】
他の状態推定計算方法として、電力方程式を用いた方法について、図12に示すモデル系統を用いて説明する。図12において、i、jはそれぞれノードを表し、ijはノードiとノードjを結ぶブランチを表す。G、Bはそれぞれブランチijのコンダクタンス、サセプタンスを表す。
【0104】
電力方程式では、はじめにノード(注入電力)の定式化を行う。ノードi、jの各位相角をそれぞれθi、θjとしたときの位相差をδ(=θi−θj)とすると、ノードiの有効電力Pi、無効電力Qiは(4)式、(5)式で表される。
【0105】
【数4】
【0106】
【数5】
【0107】
次に、ブランチ(線路電力)ijの定式化を行う。ノードi、jを結ぶブランチijの有効電力Pij、無効電力Qijは、それぞれ(6)式、(7)式で表される。
【0108】
【数6】
【0109】
【数7】
【0110】
次に、状態推定計算の定式化について述べる。状態推定計算は(8)式を満足する状態変数xを求める問題である。
【0111】
【数8】
【0112】
ただし、
z: 観測値(センサやAMIで計測される電圧の大きさ、ノード注入電力、ブランチの電力状態)
h: 非線形関数(上記で定式化したPij, Qij,Pi,Qiおよび電圧Vi)
x: 状態変数(Vi、δij)
ν: 観測値に含まれるノイズ
ここで、観測値に含まれるノイズνは白色ノイズとみなす。
【0113】
また、各ノードに接続する各需要家の負荷(有効電力Pi、無効電力Qi)の観測値について説明する。有効電力は別途計測されるAMI(Advanced Metering Infrastructure)で計測されるためその計測値を用いればよい。無効電力についてはAMIで計測されない(AMIは主として自動検針の用途のために使われるため有効電力のみが計測される)ため、AMIで計測される有効電力Piとセンサ22で計測される力率Pfより(9)式で求められる。(ただし、無効電力の符号は、遅れ力率の場合は正、進み力率の場合は負とする。)
【0114】
【数9】
【0115】
このように、ノードの負荷(無効電力)の計測値に相当するものを算出するのに、推定環境データで指定されたセンサの力率情報を用いることになる。
【0116】
状態推定計算の解を求めるにあたっては、状態変数Vi、δijの初期値として、それぞれ1.0[pu]、 0.0[deg]にして、(4)〜(7)よりそれぞれのh(x)を求める。ここで、最小二乗法を用いた状態推定計算では、(10)式の目的関数J(x)を最小化することになる。
【0117】
【数10】
【0118】
これにより、全観測値の重み付偏差二乗和の合計を最小化するような状態変数x(電圧Viおよび位相差δij)が求められる。この状態変数を用いて(4)〜(7)よりノード、ブランチの電力が求められる。さらに(11)式より電流Iijも求められる。
【0119】
【数11】
【0120】
以上のように、定式化した理論式に基づき、かつセンサデータとの誤差の総和が最小となるように各種電力状態(ノードの有効電力、無効電力、電圧、位相、ブランチの有効電力、無効電力、電流など)が求められるため、求められる電力状態は必ずしもセンサデータと一致しない。
【0121】
これは、センサデータに計測誤差や計測タイミングのズレなどによる誤差が含まれていることを前提に、電力系統全体の電力状態についてうまく辻褄が合うように、全体の電力状態が推定されることになるためである。
【0122】
以上説明したように、状態推定部32では、推定環境設定部30で作成される推定環境データとセンサデータを用いて、センサデータとの偏差を最小化するように電力系統の任意地点の電力状態の推定値を算出することができる。
【0123】
以上説明したように、本発明の電力系統状態推定装置を用いれば、電力系統の動的な負荷特性を考慮し、電力系統全体の状態監視を適切に行うために、センサの一部の計測情報を用いて電力系統の任意地点の状態を高精度に推定することができるようになる。また、状態推定の精度が向上することで、柱上変圧器やSVRなどの系統設備の適切な導入計画支援が可能となり、設備の利用効率を向上することが可能になる。なお、精度が悪いと誤差の分の余裕を持たせたオーバースペックな設備を導入せざるを得ない。
【実施例2】
【0124】
本実施例では、電力系統状態推定装置3を用いた電力系統システムの例を説明する。
図13は、実施例2における電力系統システムを示す構成図の例である。ここで、図1の電力系統状態推定装置3のうち、既に説明した図1に示された同一の符号を付された構成と、同一の機能を有する部分については、説明を省略する。
【0125】
電力系統状態推定装置3を用いた電力系統システムは、図示するように、電力系統データデータベースDB1、センサデータデータベースDB2、電力系統状態推定装置3、電力状態推定データデータベースDB4、電力系統制御中央装置5、変電所20やセンサ22、電圧調整機器25、需要家24、柱上変圧器23等から成る電力系統、電力系統情報収集装置26、および通信ネットワーク27から構成される。
【0126】
電力系統を構成する機器、電力系統状態推定装置3、電力系統情報収集装置26、および電力系統制御中央装置5は通信ネットワーク27に接続されている。図13の構成は、図1とは電力系統制御中央装置5、電力状態推定データデータベースDB4が設けられている点で大きく相違する。
【0127】
次に、電力系統状態推定装置3を用いた電力系統システムにおける大まかな処理の流れを説明する。電力系統状態推定装置3は、通信ネットワーク27を介して得たリアルタイムのセンサデータ等を用いて状態推定計算を実施し、電力系統の任意地点の電力状態推定データを電力状態推定データデータベースDB4に出力する。
【0128】
電力系統制御中央装置5は、電力状態推定データデータベースDB4に記憶された電力状態推定データを用いて電力系統を構成する各機器の制御量を計算し、それに基づいて通信ネットワーク27を介して各機器へ制御指令を与える。電力系統を構成する各機器は、電力系統制御中央装置5から与えられた制御指令にしたがって制御動作を行う。
【0129】
続いて、電力系統状態推定装置3を用いた電力系統システムを構成する残りの各部の内容または機能について説明する。
【0130】
電力状態推定データデータベースDB4は、電力系統状態推定装置3が出力する電力系統の任意地点の電力状態推定データである。例えば、ノードの有効電力、無効電力、電圧、位相、ブランチの有効電力、無効電力、電流などが含まれる。
【0131】
電力系統制御中央装置5は、電力状態推定データ4を用いて電力系統を構成する各機器の制御量を計算し、それに基づいて通信ネットワーク27を介して各機器へ制御指令を与えるところである。
【0132】
ここで、電力系統を構成する各機器の制御量を計算する方法の一例について図14のフローチャートを用いて説明する。
【0133】
はじめに、電力系統に接続している制御可能な機器を抽出する。図13の例では、例えば、変電所(の変圧器)20a、電圧調整機器25a、25bの合計3台である。これら機器のうち、変電所の変圧器やSVR(Step Voltage Regulator)はタップで電圧を調正する機器であり、複数あるタップ位置のうちの一つを選択することで電圧を制御するものであるから、制御量の候補がタップの数だけあることになる。また、SVC(Static Var Compensator)は無効電力を容量の範囲で自由に出力できる装置であり、その意味で制御量の候補は連続的にあることになるが、ある所定量の刻み幅で制御量の候補を決めると、変電所の変圧器やSVRと同様に複数の制御量候補があることになる。
【0134】
例えば制御可能な機器が上記のものであるという前提の下で、最初のステップS110では、これら各機器の制御量候補の全組み合わせを設定する。
【0135】
次に、ステップS111では、ある一つの組み合わせにおいて、当該制御量を指令した時の電力系統の電力状態推定値を算出する。算出にあたっては、状態推定部32の機能を用いる。
【0136】
次に、ステップS112では評価指標を計算する。評価指標は、状態推定計算で得られた結果を用いて計算されるが、例えば、電力系統での電力損失量、電圧の規定範囲からの逸脱量の総和などが挙げられる。このような評価指標は、電力送配電の効率や電力品質の面から最小化するのが望ましい。
【0137】
次に、ステップS113では、現在の評価指標最小値と比較する。この場合に、最初の組み合わせにおける評価指標最小値(初期値)は、更新されることを前提に極めて大きな値としておけばよい。
【0138】
比較した結果、計算された評価指標が現在の評価指標最小値より小さい場合(ステップS113でYes)は、ステップS114において当該制御量組み合わせを記憶し、評価指標最小値をこの評価指標に更新する。
【0139】
計算された評価指標が現在の評価指標最小値より小さくない場合(ステップS113でNo)は、ステップS115へ進む。
【0140】
次にステップS115で、全組み合わせが終了したかをチェックする。全組み合わせが終了していなければ(ステップS115でNo)、ステップS110へ戻って処理を続ける。
【0141】
全組み合わせが終了していれば(ステップS115でYes)、ステップS116へ進み、現在記憶されている評価指標最小値である制御量組み合わせを参照し、各制御機器へ制御量指令する。
【0142】
以上のようにすれば、電力系統制御中央装置5にて電力系統状態推定装置3の出力を用いて各制御機器の最適な制御量を決定することができ、その結果、電力系統での電力損失量や電圧の規定範囲からの逸脱量を抑えることで、電力の品質を維持することができるようになる。
【符号の説明】
【0143】
DB1:電力系統データデータベース
DB2:センサデータデータベース
3:電力系統状態推定装置
30:推定環境設定部
DB3:推定環境データデータベース
32:状態推定部
20a:変電所変圧器(ノード))
20b〜20h:電柱(ノード)
21:送配電線(ブランチ)
22:センサ
23:柱上変圧器
24:需要家(ノード)
25:電圧調整機器
26:電力系統管理装置
27:通信ネットワーク
80、81:クラスタリングによって分類されたセンサのグループ
DB4:電力状態推定データデータベース
5:電力系統制御中央装置
120:線形補間による電力状態
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統各所に複数のセンサを配置し、該センサ出力を用いて電力系統の状態を推定する電力系統状態推定装置において、
電力系統の位置を示すノード情報とセンサを含む設備情報を対応付けて保持する電力系統データデータベースと、
センサ出力を保持するセンサデータデータベースと、
前記電力系統データデータベースの情報を用いて、特定ノードでの電力状態を推定するときに使用するセンサを決定する推定環境設定部と、
該推定環境設定部で決定した特定ノードでの使用センサに対応して、該センサの出力を前記センサデータデータベースから得て、電力系統全体について状態推定を行う状態推定部を備え、
前記推定環境設定部は、電力系統に設置されたセンサについて、当該センサが特異な傾向を示すセンサであることを特定する手段と、特定されたセンサに対応するノードについて、このノードで用いるセンサを変更する手段を備えている
ことを特徴とする電力系統状態推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力系統状態推定装置において、
前記センサを変更する手段は、当該ノード直近上流のノードに設定されたセンサを当該ノードのセンサとする
ことを特徴とする電力系統状態推定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電力系統状態推定装置において、
前記センサが特異な傾向を示すセンサであることを特定する手段は、電力系統全体およびセンサの周辺の需要家種別に基づき決定する
ことを特徴とする電力系統状態推定装置。
【請求項4】
請求項1に記載の電力系統状態推定装置において、
前記センサが特異な傾向を示すセンサであることを特定する手段は、計測される電力状態に基づいたクラスタリングによって決定する
ことを特徴とする電力系統状態推定装置。
【請求項5】
請求項1に記載の電力系統状態推定装置において、
前記センサが特異な傾向を示すセンサであることを特定する手段は、センサの組み合わせを複数設定し、各組み合わせで計測される電力状態に基づき配電線全体と平均およびばらつきが最も近いセンサの組み合わせから決定されたセンサを前記状態推定部で使用するセンサとし、これ以外のセンサを前記特異な傾向を示すセンサとして決定する
ことを特徴とする電力系統状態推定装置。
【請求項6】
請求項1に記載の電力系統状態推定装置において、
前記センサが特異な傾向を示すセンサであることを特定する手段は、センサの組み合わせを複数設定し、各組み合わせで計測される電力状態に基づき電力系統の評価地点における電力状態を算出し、該評価地点における算出値と計測データの偏差が所定値以下となる組み合わせを選択し、選択されたセンサを前記状態推定部で使用するセンサとし、これ以外のセンサを前記特異な傾向を示すセンサとして決定する
ことを特徴とする電力系統状態推定装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の電力系統状態推定装置において、
前記センサが特異な傾向を示すセンサであることを特定する手段は、曜日や時間帯ごとに実施されるか、あるいは電力系統に流れる負荷電力の大きさごとに実施される
ことを特徴とする電力系統状態推定装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の電力系統状態推定装置において、
電力状態とは、電流、電圧、力率、有効電力、無効電力の少なくとも一つである
ことを特徴とする電力系統状態推定装置。
【請求項9】
電力系統各所に配置された複数のセンサと、電力系統各所に配置され電力系統の電力状態を制御できる電力状態制御機器と、前記センサ出力を用いて電力系統状態を推定する電力系統状態推定装置と、該電力系統状態推定装置からの電力系統状態に応じて、前記電力状態制御機器に操作信号を与える電力系統制御中央装置を含む電力系統システムにおいて、
前記電力系統状態推定装置は、
電力系統の位置を示すノード情報とセンサを含む設備情報を対応付けて保持する電力系統データデータベースと、
センサ出力を保持するセンサデータデータベースと、
前記電力系統データデータベースの情報を用いて、特定ノードでの電力状態を推定するときに使用するセンサを決定する推定環境設定部と、
該推定環境設定部で決定した特定ノードでの使用センサに対応して、該センサの出力を前記センサデータデータベースから得て、電力系統全体について状態推定を行う状態推定部を備え、
前記推定環境設定部は、電力系統に設置されたセンサについて、当該センサが特異な傾向を示すセンサであることを特定する手段と、特定されたセンサに対応するノードについて、このノードで用いるセンサを変更する手段を備えている
ことを特徴とする電力系統システム。
【請求項1】
電力系統各所に複数のセンサを配置し、該センサ出力を用いて電力系統の状態を推定する電力系統状態推定装置において、
電力系統の位置を示すノード情報とセンサを含む設備情報を対応付けて保持する電力系統データデータベースと、
センサ出力を保持するセンサデータデータベースと、
前記電力系統データデータベースの情報を用いて、特定ノードでの電力状態を推定するときに使用するセンサを決定する推定環境設定部と、
該推定環境設定部で決定した特定ノードでの使用センサに対応して、該センサの出力を前記センサデータデータベースから得て、電力系統全体について状態推定を行う状態推定部を備え、
前記推定環境設定部は、電力系統に設置されたセンサについて、当該センサが特異な傾向を示すセンサであることを特定する手段と、特定されたセンサに対応するノードについて、このノードで用いるセンサを変更する手段を備えている
ことを特徴とする電力系統状態推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力系統状態推定装置において、
前記センサを変更する手段は、当該ノード直近上流のノードに設定されたセンサを当該ノードのセンサとする
ことを特徴とする電力系統状態推定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電力系統状態推定装置において、
前記センサが特異な傾向を示すセンサであることを特定する手段は、電力系統全体およびセンサの周辺の需要家種別に基づき決定する
ことを特徴とする電力系統状態推定装置。
【請求項4】
請求項1に記載の電力系統状態推定装置において、
前記センサが特異な傾向を示すセンサであることを特定する手段は、計測される電力状態に基づいたクラスタリングによって決定する
ことを特徴とする電力系統状態推定装置。
【請求項5】
請求項1に記載の電力系統状態推定装置において、
前記センサが特異な傾向を示すセンサであることを特定する手段は、センサの組み合わせを複数設定し、各組み合わせで計測される電力状態に基づき配電線全体と平均およびばらつきが最も近いセンサの組み合わせから決定されたセンサを前記状態推定部で使用するセンサとし、これ以外のセンサを前記特異な傾向を示すセンサとして決定する
ことを特徴とする電力系統状態推定装置。
【請求項6】
請求項1に記載の電力系統状態推定装置において、
前記センサが特異な傾向を示すセンサであることを特定する手段は、センサの組み合わせを複数設定し、各組み合わせで計測される電力状態に基づき電力系統の評価地点における電力状態を算出し、該評価地点における算出値と計測データの偏差が所定値以下となる組み合わせを選択し、選択されたセンサを前記状態推定部で使用するセンサとし、これ以外のセンサを前記特異な傾向を示すセンサとして決定する
ことを特徴とする電力系統状態推定装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の電力系統状態推定装置において、
前記センサが特異な傾向を示すセンサであることを特定する手段は、曜日や時間帯ごとに実施されるか、あるいは電力系統に流れる負荷電力の大きさごとに実施される
ことを特徴とする電力系統状態推定装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の電力系統状態推定装置において、
電力状態とは、電流、電圧、力率、有効電力、無効電力の少なくとも一つである
ことを特徴とする電力系統状態推定装置。
【請求項9】
電力系統各所に配置された複数のセンサと、電力系統各所に配置され電力系統の電力状態を制御できる電力状態制御機器と、前記センサ出力を用いて電力系統状態を推定する電力系統状態推定装置と、該電力系統状態推定装置からの電力系統状態に応じて、前記電力状態制御機器に操作信号を与える電力系統制御中央装置を含む電力系統システムにおいて、
前記電力系統状態推定装置は、
電力系統の位置を示すノード情報とセンサを含む設備情報を対応付けて保持する電力系統データデータベースと、
センサ出力を保持するセンサデータデータベースと、
前記電力系統データデータベースの情報を用いて、特定ノードでの電力状態を推定するときに使用するセンサを決定する推定環境設定部と、
該推定環境設定部で決定した特定ノードでの使用センサに対応して、該センサの出力を前記センサデータデータベースから得て、電力系統全体について状態推定を行う状態推定部を備え、
前記推定環境設定部は、電力系統に設置されたセンサについて、当該センサが特異な傾向を示すセンサであることを特定する手段と、特定されたセンサに対応するノードについて、このノードで用いるセンサを変更する手段を備えている
ことを特徴とする電力系統システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−74639(P2013−74639A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209757(P2011−209757)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】
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