説明

電動圧縮機の取付け構造

【課題】支持する機能と防振する機能を併せ持った電動圧縮機の取付け構造を提供する。
【解決手段】内蔵電動モータにより駆動される電動圧縮機(10)を、一方側の連結部と他方側の連結部において、エンジンケーシング(E’)に取付ける電動圧縮機(10)の取付け構造において、前記一方側の連結部は、少なくとも回転自在に前記電動圧縮機と前記エンジンケーシングとの間を連結し、前記他方側の連結部は、振動吸収材(16)を介在させて前記電動圧縮機(10)と前記エンジンケーシング(E’)との間を連結させたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持する機能と防振する機能を併せ持った電動圧縮機の取付け構造に関するものであって、特に、電動圧縮機本体の一端部を少なくとも回転自在に支持し、他端部をゴムブッシュ等の減衰器でダンピングさせた電動圧縮機の取付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に見られるように、従来、車両空調用ベルト駆動圧縮機はエンジン側面に取付けられ、ベルトを介し原動機より動力を得ているものが知られている。ベルト駆動圧縮機は、自重を支持するための剛性と、ベルト張力を受けるための剛性が必要なので、原動機に高い剛性を持って取付けをしなければならない。このため、圧縮機運転時において圧縮機の振動が原動機に伝達しやすく、エンジン及び補機などを振動させることで、放射音となり騒音が悪化する要因となっていた。
【0003】
従来型の車両においては、車両用冷凍サイクル用の圧縮機は、エンジンから駆動力を得ていたが、ハイブリット車両では、車両の走行状態によってはエンジンが停止するので、エンジンのみから駆動力を得ていたのでは、圧縮機の停止とともに冷凍サイクルも停止してしまうという不具合が発生してしまう。そこで、ハイブリット車両等の冷凍サイクルでは、電動モータ部を内蔵した電動圧縮機が使用されている。
【0004】
ハイブリッド車両の場合、エンジンルームにはエンジン及び走行用電動モータが搭載されるため、従来型の車両に比べてエンジンルームのスペースが少なくなっており、車体に直接圧縮機を搭載することができない。このため、従来のベルト駆動圧縮機と同様にエンジンの側面にしか電動圧縮機を搭載するスペースを設けることができない。エンジンに圧縮機を取付けた場合、圧縮機はエンジンからの振動を受けるため、その振動に耐えられる位の剛性で、圧縮機をエンジンに取付けなければならず、その剛性を満足するためには、特許文献2に見られるように、4箇所ともボルトを用いた剛性の高い固定を行っていた。
【0005】
図1は、特許文献2の取付け構造を示す斜視図である。図2(a)は、特許文献2の取付け構造を模式的に示す側面図であり、(b)は、正面図である。
図1、2において、10は車両用冷凍サイクル用の電動圧縮機10であり、この電動圧縮機10は、冷媒を吸入圧縮するスクロール型の圧縮機構11と、この圧縮機構11を駆動する電動モータ部12とが一体になったものである。電動モータ部12のハウジングには、電動圧縮機10をエンジンEの一部に固定するためのボルト穴13が4個形成されており、電動圧縮機10は、ボルト穴13を貫通してボルト14をエンジンEのエンジンケースに形成された雌ねじ穴(図示せず)に挿入することにより固定されている。(G、G1は、それぞれ、エンジンEの重心、電動モータ部12の重心であり、L1、L2は、それぞれ、電動モータ部12の軸方向、エンジンEのクランク軸方向である。)
【0006】
特許文献2のように、エンジンEに高い剛性を持った取付けが行われることから、圧縮機の振動がエンジンに伝達しやすく、エンジン及び補機などを振動させることで、放射音となり騒音が悪化する要因となる。また、ハイブリッド車両(エコラン車も同様)においてはエンジン停止時にも電動圧縮機は運転されるため、電動圧縮機の振動によるエンジン及び補機などへの放射音が目立ってしまい、やはり騒音の問題を有していた。
【0007】
このような問題に対して、圧縮機の振動をエンジンに伝えない手段として、圧縮機とエンジンの間に防振ゴムを介在させたものが、特許文献3において開示されている。しかしながら、防振ゴムのみを用いた手段では、エンジンから受ける振動に防振ゴムが耐え切れず破断したりすることも考えられ、その場合には同様な騒音の問題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−2201号公報
【特許文献2】特開2008−138685号公報
【特許文献3】特開2000−130330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題に鑑み、支持する機能と防振する機能を併せ持った電動圧縮機の取付け構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、内蔵電動モータにより駆動される電動圧縮機(10)を、一方側の連結部と他方側の連結部において、エンジンケーシング(E’)に取付ける電動圧縮機(10)の取付け構造において、前記一方側の連結部は、少なくとも回転自在に前記電動圧縮機と前記エンジンケーシングとの間を連結し、前記他方側の連結部は、振動吸収材(16)を介在させて前記電動圧縮機(10)と前記エンジンケーシング(E’)との間を連結させた電動圧縮機の取付け構造である。
【0011】
これにより、エンジンの取付け壁面に対して電動圧縮機の振動が伝達するのを低減させることができるとともに、エンジンから受ける非常に強い振動に対して十分に耐えうる電動圧縮機の支持構造を実現することができる。ハイブリッド車両などの狭いエンジンルームにおいて、垂直に切り立った壁面に対しても、片持ちのような状態で防振取付けが可能となった。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記一方側の連結部は、位置変位することなく、かつ、少なくとも1自由度以上の回転変位が可能であるように回転自在であることを特徴とする。
【0013】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記一方側の連結部は、球面ジョイント(17)で連結されていることを特徴とする。これにより、球面ジョイントと電動圧縮機の重心G1を結んだ直線に対し、垂直な方向の振動をほぼ打ち消すことができ、エンジンEに入力される振動を減らすことができる。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1又は2の発明において、前記一方側の連結部は、1軸(15)又は2軸で枢着されていることを特徴とする。これにより、一方側の連結部の回転中心と圧縮機の重心G1を結んだ直線に対し垂直な方向、及び、枢着軸に対し垂直な方向の振動をほぼ打ち消すことができる。
【0015】
請求項5の発明は、請求項1の発明において、前記一方側の連結部は、所定角度に曲げられた低剛性板体(18)で連結されていることを特徴とする。これにより、圧縮機が振動すると低剛性板体は弾性体のように振る舞い、圧縮機を変位させることにより、振動吸収部材であらゆる方向の振動を吸収することができる。
【0016】
請求項6の発明は、請求項5の発明において、前記低剛性板体は、制振材料であることを特徴とする。
【0017】
請求項7の発明は、請求項1から6のいずれか1項記載の発明において、前記振動吸収材は、防振ゴム又はバネであることを特徴とする。
【0018】
なお、上記に付した符号は、後述する実施形態に記載の具体的実施態様との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】特許文献2の取付構造を示す斜視図である。
【図2】(a)は、特許文献2の取付構造を模式的に示す側面図であり、(b)は、正面図である。
【図3】(a)は、本発明の第1実施形態の側面図であり、(b)は、正面図である。
【図4】振動吸収材の取付け手段の一例を示す説明図である。
【図5】(a)は、本発明の第1実施形態の変形例の平面図であり、(b)は、正面図であり、(c)は、側面図である。
【図6】(a)は、本発明の第2実施形態の側面図であり、(b)は、正面図である。
【図7】(a)は、本発明の第2実施形態の変形例の側面図であり、(b)は、正面図であり、(c)は、他方側の連結部に防振ゴムを接着した振動吸収材の説明図である。
【図8】本発明の第3実施形態の側面図である。
【図9】本発明の第3実施形態の変形例の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、電動圧縮機がベルト駆動形圧縮機と異なりベルト張力が掛からないため、エンジンケーシング側面のような垂直に切り立った壁面においても、必ずしも、剛性の高い取付けを行わなくても良いという点に着目し、支持する機能と防振する機能を併せ持つようにしたものである。すなわち、エンジン側面に取付ける電動圧縮機の防振取付け構造として、「圧縮機の振動をエンジンに伝えない」+「エンジンからの強い振動に対しても十分に耐えうる支持」という要求に対して、一方側で圧縮機をしっかり支持し、他方側で防振するようにしたものである。
【0021】
具体的には、電動圧縮機本体の一端部を回転自在に支持し、他端部をゴムブッシュ等の減衰器でダンピングさせた電動圧縮機の取付け構造とすることによって、従来技術の「剛」の取付け構造に対して、「柔」の取付けを加味して、2つの要求を満足させたものである。そして、電動圧縮機を少なくとも1自由度以上の自由度とその自由度による振動を減衰する機構を併せ持って、垂直に切り立った壁面においても取付けを行い、取付け壁面に対して電動圧縮機の振動が伝達するのを低減させることを可能としたものである。
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態を説明する。各実施態様について、同一構成の部分には、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0022】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態は次のようなものである。第1実施形態は、一方側の連結部を球面ジョイントで連結させたものである。
図3(a)は、本発明の第1実施形態の側面図であり、(b)は、正面図である。なお、図3(b)は、エンジンEのクランク軸方向L2に垂直で、かつ水平方向(以下、エンジンEの側面方向という)から見た図である。電動圧縮機10の一方側の連結部を球面ジョイント17でエンジンEに連結している。球面ジョイント17は、位置変位はないものの、回転変位は、あらゆる方向(3回転軸)に回転自在である。一方、他方側の連結部は、振動吸収材16を介在させて電動圧縮機10とエンジンケーシングE’との間が連結されている。
【0023】
図4は、振動吸収材16の取付け手段の一例を示す説明図である。エンジンケーシングE’に設けたねじ孔に、オネジ22とナット21で固定して、電動圧縮機10の他方側の連結部を構成している。この際、2枚のワッシャ間に防振ゴムを接着して振動吸収材16として、電動圧縮機10とエンジンケーシングE’との間に介在させている。振動吸収材16やワッシャは、やや大きめの孔として、オネジ22を拘束しないように貫通させている。その他、オネジ22とナット21を用いず、電動圧縮機10とエンジンケーシングE’との間に防振ゴムを接着しても良い。振動吸収材16として防振ゴム、バネ等を用いる。
【0024】
図5(a)は、本発明の第1実施形態の変形例の平面図であり、(b)は、正面図であり、(c)は、側面図である。この場合には、電動圧縮機10の軸方向L1と、エンジンEのクランク軸方向L2とが平行に取付けられている。
本発明の第1実施形態、及び、その変形例では、電動圧縮機10は球面ジョイント17で位置変位が拘束されている。球面ジョイント17と電動圧縮機10の重心G1を結んだ直線に対し、垂直な方向の振動をほぼ打ち消すことができ、エンジンEに入力される振動を減らすことができる。電動圧縮機とエンジンケーシングとの2箇所の連結部において、一方側の連結部の自由度がある程度制限されて取付けられており、自由度のある方向に電動圧縮機が振動した時、電動圧縮機の変位が振動吸収材で吸収されて、電動圧縮機の振動がエンジンに伝わる振動を低減することができる。
【0025】
(第2実施形態)
図6(a)は、本発明の第2実施形態の側面図であり、(b)は、正面図である。図7(a)は、本発明の第2実施形態の変形例の側面図であり、(b)は、正面図であり、(c)は、他方側の連結部に防振ゴムを接着した振動吸収材の説明図である。
第2実施形態では、第1実施形態の球面ジョイント17の代わりに、枢着軸15が使われている。図6では、枢着軸15の方向は、エンジンEのクランク軸方向L2に平行な方向であり、図7では、枢着軸15の方向は、エンジンEのクランク軸方向L2に垂直な側面方向である。この場合は、1軸の回転軸(枢着軸15)を用いることで電動圧縮機を、1自由度の回転変位ができるように支持したものである。第1実施形態の球面ジョイント17の場合に比べて、さらに、電動圧縮機10の一方側の連結部の回転自由度が制限されている。1軸の回転軸(枢着軸15)の回転軸方向の位置変位は、図6(b)に示すように、規制されていないが、これを規制したり、振動吸収材で制限しても良い。
【0026】
本発明の第2実施形態においては、枢着軸15の回転中心と圧縮機の重心G1を結んだ直線に対し垂直な方向、及び、枢着軸15に対し垂直な方向の振動を、ほぼ打ち消すことができる。以上の実施形態においては、一方側の連結部が、1軸の枢着軸で枢着されている場合を説明したが、これが、ユニバーサルジョイントのように2軸の枢着軸であっても良い。
【0027】
(第3実施形態)
図8は、本発明の第3実施形態の側面図である。図9は、本発明の第3実施形態の変形例の側面図である。本発明の第3実施形態は、一方側の連結部を、U字状やL字状の所定角度に曲げられた低剛性板体18で連結したものである。低剛性板体18には、制振合金を用いると振動減衰効果を持たせることができる。低剛性板体18は、図7、8に示すように、U字状やL字状の所定角度に曲げられたもので、電動圧縮機が振動した時に電動圧縮機の変位が生じるように使用される。他方側の連結部は、振動吸収材16を介在させて電動圧縮機10とエンジンケーシングE’との間を連結している。なお、振動吸収部材は、バネ要素を持つことで、振動エネルギーを絶縁し、圧縮機の振動エネルギーをエンジンケーシングに伝えない部材である。制振材料は、自身が振動することで、振動エネルギーを熱エネルギーに変換し、振動エネルギーを消散させる部材である。制振材料の一例としては、制振合金あるいは制振鋼板である。
【0028】
低剛性板体18を用いることで電動圧縮機が変位するよう自由度をもたせて支持させることができるので、自由度方向に電動圧縮機が振動した時、電動圧縮機は変位し、その変位を振動吸収材16で吸収することにより、エンジンEに伝わる電動圧縮機10の振動を低減することができる。圧縮機が振動すると板体は弾性体のように振る舞い、一方側の連結部では回転変位を含む変位自由度を有して、圧縮機を変位させることにより、振動吸収部材であらゆる方向の振動を吸収することができる。
【0029】
本発明の上記各実施形態においては、減らせる振動の方向の指向性がある。エンジンEと電動圧縮機10の振動の方向性などを勘案して、適宜各実施形態採用するとともに、設置の方向性を選択すれば、振動軽減効果を著しく高めることができる。例えば、もし圧縮機を取付けているエンジンEの側面が、スピーカーのように振動して放射音が発生している場合ならば、本発明の上記各実施形態を、そのスピーカーとなっているエンジンの側面に対し垂直な方向の振動を減らせるように設置して、騒音の低減を図ることができる。
【0030】
重心G1を通る面に対して同じ側に、回転自在な一方側の連結と、他方側の振動吸収材を介在した連結を行う実施形態も本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0031】
10 電動圧縮機
16 振動吸収材
17 球面ジョイント
18 低剛性板体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内蔵電動モータにより駆動される電動圧縮機(10)を、一方側の連結部と他方側の連結部において、エンジンケーシング(E’)に取付ける電動圧縮機(10)の取付け構造において、
前記一方側の連結部は、少なくとも回転自在に前記電動圧縮機と前記エンジンケーシングとの間を連結し、
前記他方側の連結部は、振動吸収材(16)を介在させて前記電動圧縮機(10)と前記エンジンケーシング(E’)との間を連結させた電動圧縮機の取付け構造。
【請求項2】
前記一方側の連結部は、位置変位することなく、かつ、少なくとも1自由度以上の回転変位が可能であるように回転自在であることを特徴とする請求項1に記載の電動圧縮機の取付け構造。
【請求項3】
前記一方側の連結部は、球面ジョイント(17)で連結されていることを特徴とする請求項2に記載の電動圧縮機の取付け構造。
【請求項4】
前記一方側の連結部は、1軸(15)又は2軸で枢着されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電動圧縮機の取付け構造。
【請求項5】
前記一方側の連結部は、所定角度に曲げられた低剛性板体(18)で連結されていることを特徴とする請求項1に記載の電動圧縮機の取付け構造。
【請求項6】
前記低剛性板体は、制振材料であることを特徴とする請求項5に記載の電動圧縮機の取付け構造。
【請求項7】
前記振動吸収材は、防振ゴム又はバネであることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の電動圧縮機の取付け構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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