説明

電動式建設機械

【課題】
電動建設機械において、制御盤で発生した熱をキャブ内の暖房に有効に利用する。
【解決手段】
電動式建設機械100は、下部走行体10と、この下部走行体の上部に旋回可能に搭載されキャブ22を有する上部旋回体20と、この上部旋回体に一端部が回動可能に接続されたフロント作業機50と、フロント作業機を駆動する油圧ポンプ34用の電動モータ36と、この電動モータを制御する制御盤30とを備える。キャブ内にはこのキャブ内を空調する空調機65が設けられている。空調機で暖房運転が選択されたときに制御盤内空気をキャブ内に導く導入手段67、68および制御盤内部の空気をこの電動式建設機械外へ導く熱交換器61の稼動を停止させるリレー62を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動式建設機械に係り、特にキャブ内を空調する空調設備を備えた電動式建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の建設機械の例が、特許文献1に記載されている。この公報に記載の建設機械では、運転室本体に設けた電子機器の発熱により、運転室本体内の室温が上昇するのを防止するために、運転室本体内にコントローラを収容する収容ケースを設け、収容ケースの冷却風導入口を分岐配管により空調装置の冷却風導管の冷却風分配口に接続している。そして、収容ケースの排気口を排気配管により取り付けブラケットを介して運転室本体の外部に連通している。空調装置を作動させれば、冷却風の一部が収容ケース内に導かれ、コントローラの熱を奪い、運転室外へ排気するようになっている。
【0003】
従来の建設機械の他の例が、特許文献2に記載されている。この公報に記載のハイブリッド式建設機械では、インバータ/コンバータをエンジンルームに設置して、外気により本体を効果的に冷却するために、ハイブリッド機器の一つであるインバータ/コンバータを、本体とこの本体を覆うケーシングで構成し、エンジンルームに配置している。そしてケーシングに、ファンを有する空気取り入れ口と空気取り出し口を設け、エンジンルーム外の空気をケーシング内に取り込んで流通させた後に、空気取り出し口から排出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−127101号公報
【特許文献2】特開2007−106209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エンジン式の建設機械では、操作者が居るキャブ内を空調するために空調機が設けられているが、暖房運転時にエンジンの排熱を利用しており、ヒータ等の余分な機器を設ける必要がなく、省エネにも寄与している。これに対して、電動式の建設機械では、ヒータ等の温水発生装置を別途設けこの温水によりエンジンの排熱の代わりとしていた。そのため、温水発生用の余分な電力が必要となっていた。
【0006】
本発明は上記従来技術の不具合に鑑みなされたものであり、その目的は、電動式建設機械において、ヒータ等の温水発生装置を別途設けることなく、暖房運転を可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明の特徴は、下部走行体と、この下部走行体の上部に旋回可能に搭載されキャブを有する上部旋回体と、この上部旋回体に一端部が回動可能に接続されたフロント作業機と、前記フロント作業機を駆動する油圧ポンプ用の電動モータと、この電動モータを制御する制御盤と、を備えた電動式建設機械において、前記キャブ内にこのキャブ内を空調する空調機を設け、前記空調機で暖房運転が選択されたときに前記制御盤内空気を前記キャブ内に導く導入手段および前記制御盤内部の空気をこの電動式建設機械外へ導く手段の稼動を停止させる切替手段とを設けたことにある。
【0008】
そしてこの特徴において、前記制御盤内部の空気をこの電動式建設機械外へ導く手段は、前記制御盤の筐体に設けた熱交換器であるのが好ましく、前記切替手段は、前記空調機に付設したON/OFFスイッチ部に接続されたリレーと、このリレーを介して前記制御盤内部の空気を前記電動式建設機械外へ導く手段に接続された電源手段とを有するようにしてもよい。また、前記制御盤内空気を前記キャブ内に導く導入手段は、前記キャブと前記制御盤間を接続するダクトと、ファンを有し前記ダクトの一端側に設けられた温風取入れ部とを有するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電動式建設機械に制御盤とキャブとを連通する流路を設け、暖房運転時に制御盤内の空気をキャブ内に導くようにしたので、制御盤で発生した熱をキャブ内の暖房に有効に利用できる。そのため、ヒータ等の温水発生装置を別途設けることなく、暖房運転が可能となる。また、制御盤で発生した熱をキャブ内で使用できるので、電動式建設機械の省エネルギ化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る電動式建設機械の一実施例の斜視図である。
【図2】図1に示した電動式建設機械における、キャブと制御盤を含む部分の模式図である。
【図3】図2に示した空調設備の動作を説明する図である。
【図4】空調設備の動作のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る電動式建設機械の一実施例を、図面を用いて説明する。図1は、電動式建設機械100の斜視図である。javascript:CheckImage(2)電動式建設機械としては、電動ショベルを取り上げているが、本発明はショベル以外の、ホイールローダやクレーンなど他の建設機械にも適用できることは言うまでもない。
【0012】
電動ショベル100では、エンジンの代わりに電動モータ36を搭載し、この電動モータ36により油圧ポンプ34を駆動する。そのため、排気ガスを排出せず、騒音及び振動も大幅に低減する利点を有する。図1において、電動ショベル100は、外部の電源(図示せず)からの電力供給によって電動モータ36を駆動している。
【0013】
電動ショベル100は、大別して下部走行体10と上部旋回体20とフロント作業機50とから構成される。上部旋回体20は、下部走行体10に対して旋回可能に搭載されている。フロント作業機50は、上部旋回体20の前部に上下動可能に取り付けられている。
【0014】
下部走行体10は、この電動ショベル100の左右両端側であって、後端側に設けた走行装置11と、前方側に設けたフロントアイドラ12と、走行装置11とフロントアイドラ12に装架された無限履帯装置13とを有している。
【0015】
上部旋回体20には、前部左側にこの電動ショベル100を操作する操作者が搭乗するキャブ22が設けられており、後部側にはフロント作業機50とのバランスを取るためのカウンタウェイト24が配置されている。さらに、フロント作業機50を操作するために、油圧ポンプ34とその油圧ポンプ34のための作動油タンク32が、上部旋回体20の右側部後方に配置されている。
【0016】
上述したように、油圧ポンプ34は電動モータ36で駆動され、電動モータ36と油圧ポンプ34は上部旋回体20の後部に配設されている。また、電動モータ36の回転軸には、冷却ファン40が取り付けられている。そして、電動モータ36の駆動に伴って、冷却ファン40が回転し、これによって吸気口から外気が冷却風として導入され、電動モータ36を冷却する。
【0017】
フロント作業機50は、上部旋回体20にその一端部を取り付けられたブーム51と、このブーム51の他端に接続されるアーム54と、アーム54の先端に取り付けられたバケット56とを有する多関節構造である。ブーム51を回動駆動するために、ブームシリンダ52が、アーム54を回動駆動するためにアームシリンダ55が、バケット56を回動駆動するためにバケットシリンダ57がそれぞれ設けられている。ブームシリンダ52、アームシリンダ55、およびバケットシリンダ57には、電動モータ36により駆動される油圧ポンプ34で発生する圧油が供給され、バケット56に所定の動作をさせることが可能になる。
【0018】
ところで電動ショベル100では、油圧ポンプ34の駆動源である電動モータ36を制御するために従来に比して大きな制御盤30が必要になっており、従来燃料タンク等が搭載されている部分に配置されて、その他の電気部品の制御も含めた制御を実行する。この制御盤30には、インバータ等の多大な発熱部品も含まれ、制御盤30の冷却が電動ショベル100の安定した動作には、必要不可欠になっている。
【0019】
従来は、制御盤30で発生する熱を周囲空気と熱交換して、冷却していた。すなわち、制御盤30で発生する熱を周囲に排出することにより、制御盤30の安定した動作を確保していた。本発明では、図2に示すように、この制御盤30で発生した熱を有効利用することとしている。図2は、電動ショベル100における、キャブ22と制御盤30を含む部分の模式図である。上部旋回体20の側部に配置される制御盤30の筐体内とキャブ22内とをダクト67で接続し、連通させている。ダクト67は、制御盤30の筐体の下部に形成したダクト孔66に嵌合している。
【0020】
制御盤30には、主たる発熱源である電圧変換機63と、図示しないがその他多くの制御手段が収容されている。制御盤30の筐体の外部に面している部分には、熱交換器61が配置されている。この熱交換器61は、例えばコルゲート方式の熱交換器でコルゲートの一方を外部空気が、他方を筐体内の空気が通過することで熱交換される。外部空気を熱交換器61導くときに、外部空気に含まれる塵埃等が筐体内部に侵入するのを防止するため、熱交換器61の外気導入側表面に図示しないフィルタを備える。また外気の導入のために、熱交換器61が図示しないファンを備える。
【0021】
熱交換器61には熱交換器切替部62が付設されており、信号配線73で接続されている。この熱交換器切替部62は、後述する空調機65との相互動作を制御するときに使用される。熱交換器切替部62には、信号配線71,72も接続されている。信号配線71は、キャブ22内に設けた空調機65に接続されている。信号配線72は、グラウンドGに接地されている。
【0022】
一方キャブ22内には、空調機65が配設されており、夏季の冷房および冬季の暖房に供している。また、ダクト67の一端が接続された温風取入れ部69もキャブ22の床面近傍に配置されている。温風取入れ部69は、キャブ22の内部に温風を吹き出すことができるように、図示しない複数の吹き出し口を備えている。さらに温風取入れ部69は、ダクト67を介して制御盤30内の温風をキャブ22内に効率よく導くために、吸引ファンを備えている。
【0023】
ここで、熱交換器切替部62の詳細を、図3に示した模式図を用いて説明する。熱交換器切替部62内にはリレー80が配置されており、その1次側には、1次コイル81が配設されている。1次コイル81の一端側は、キャブ22内に配設した空調機65に付設された空調機ON/OFFスイッチ64からの信号が入力される。1次コイル81の他端側は、グラウンドGに接続されている。
【0024】
リレー80の2次側には、2次側スイッチ82が設けられている。一次コイル81の作動状態により、2次側スイッチ82がオンまたはオフし、制御盤30の筐体に設けた熱交換器61を動作させるか停止させるかを決定する。2次側スイッチ82を動作させるために、熱交換器切替部81は電源75を有しており、この電源75と2次側スイッチとが接続されている。
【0025】
次にこのように構成した本発明に係る電動ショベル100の空調動作について、図4に示したフローチャートを用いて説明する。
【0026】
キャブ22内に設置した空調機65には、室温設定手段が設けられている。電動ショベル100の操作者は、室温の設定手段を操作する。そして、ステップS200において空調機ON/OFFスイッチ64がONになっていれば、ステップS210に進む。ステップS210において設定温度により暖房運転と判断されると、制御盤30で発生した熱をキャブ22内に導くために空調機65が備える温風取り入れ部69に設けたファン68を回転作動させる(ステップS310)。
【0027】
また、制御盤30側では、空調機ON/OFFスイッチ64がON状態になった情報が、信号配線71を経由して熱交換器切替部62に送られ、熱交換器切替部62のリレー80が有する1次コイル81を励磁する(ステップS320)。
【0028】
リレー80は、1次コイル81が非励磁状態では熱交換器61と電源75とを接続状態に維持しており、励磁状態に切り替わると2次側スイッチ82が熱交換器61と電源との接続を遮断する(ステップS330)。このステップS330で2次側スイッチ82が切り替わったので、熱交換器61には電源から電力が供給されなくなる(ステップS340)。
【0029】
キャブ22の温風取り入れ部69に備えたファン68が稼動しているので、制御盤30で発生した熱はダクト67を介して温風取り入れ部69に導かれる(ステップS350)。そして、吹き出し口からキャブ22内の複数個所に温風が吹き出される。このとき制御盤30内には、外部空気が導入されないので、制御盤30内を冷却する積極的な手段はないものの、周囲空気温が低下して暖房を必要としている状態であるから、制御盤30内の冷却に関しては特に問題はない。
【0030】
一方、ステップS210で設定された温度から冷房運転が必要と判断される場合には、キャブ22内に設置された空調機65が本来備える制御手段の制御に任せる。すなわち、通常の運転モードに設定する(ステップS410)。
【0031】
制御盤30側では、空調機65に付設された空調機ON/OFFスイッチ64から信号配線71を介して空調運転をしないというスイッチOFF状態(ステップS200)の情報または冷房運転との情報(ステップ210)が得られると、熱交換器切替部62の1次コイル81を非励磁とする(ステップS420)。リレー80の1次コイル81が非励磁であるから、初期状態と同じく2次側スイッチ82が接続状態になり、熱交換器61と電源75とが通電し続ける(ステップS430)。
【0032】
熱交換器61が通電されているので、熱交換器61が備える図示しないファンは作動し続け、外気を熱交換器61に導き、制御盤30内の温度上昇した空気が外気と熱交換される(ステップS440)。このとき、空調機65の温風取り入れ部69に設けたファン68は停止しているので、キャブ22側にダクト67を介して制御盤30内の暖められた空気が流れることはほとんどない。その理由は、熱交換器61により制御盤30内の空気の温度が低下することと、ダクト67の流路断面積が小さく、流動抵抗が大きいためである。これにより、キャブ22内は冷房もしくは空調無しの状態でありながら、制御盤30内も外気により冷却することができる。
【0033】
本実施例によれば、ヒータ等の温水発生装置を別途設けることなく、簡単な構成で制御盤で発生する熱をキャブ内に導くことが可能になる。そのため、キャブ内を暖房運転することが必要なときに余分なエネルギを使用することなく、快適にキャブ内を暖房できる。
【符号の説明】
【0034】
10…下部走行体、11…走行装置、12…フロントアイドラ、14…無限履帯装置、20…上部旋回体、22…キャブ、24…カウンタウェイト、30…制御盤、32…作動油タンク、34…油圧ポンプ、36…電動モータ、38…オイルクーラ、40…冷却ファン、50…フロント作業機、51…ブーム、52…ブームシリンダ、54…アーム、55…アームシリンダ、56…バケット、57…バケットシリンダ、61…熱交換器、62…熱交換器切替部、63…電圧変換機、64…ON/OFFスイッチ部、65…空調機、66…ダクト穴、67…ダクト、68…ファン、69…温風取入れ部、71〜73…信号配線、75…電源、80…リレー、81…1次コイル、82…2次側スイッチ、100…電動ショベル(電動式建設機械)、G…グラウンド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体と、この下部走行体の上部に旋回可能に搭載されキャブを有する上部旋回体と、この上部旋回体に一端部が回動可能に接続されたフロント作業機と、前記フロント作業機を駆動する油圧ポンプと、この油圧ポンプ駆動用の電動モータと、この電動モータを制御する制御盤とを備えた電動式建設機械において、前記キャブ内に設けた空調機で暖房運転が選択されたときに前記制御盤内部を冷却する手段の稼動を停止させると共に前記制御盤内部の空気を前記キャブ内に導く導入手段を稼動させる切替手段を設けたことを特徴とする電動式建設機械。
【請求項2】
前記制御盤内部の空気を冷却する手段は、前記制御盤の筐体に設けた熱交換器であることを特徴とする請求項1に記載の電動式建設機械。
【請求項3】
前記切替手段は、前記空調機に付設したON/OFFスイッチ部に接続されたリレーと、このリレーを介して前記制御盤内部の空気を前記電動式建設機械外へ導く手段に接続された電源手段とを有することを特徴とする請求項1または2に記載の電動式建設機械。
【請求項4】
前記制御盤内空気を前記キャブ内に導く導入手段は、前記キャブと前記制御盤間を接続するダクトと、ファンを有し前記ダクトの一端側に設けられた温風取入れ部とを有することを特徴とする請求項1ないし3の何れか1項に記載の電動式建設機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−2160(P2013−2160A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135037(P2011−135037)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】