説明

電動機器の診断方法

【課題】制御棒駆動装置の診断をより簡易的な手法により行い得るようにした制御棒駆動装置の診断方法を提案する。
【解決手段】複数の電動機器のそれぞれに通電する電力線を収納した電線管における電力線との幾何学的な相対位置が変化しない部位に配置された複数の磁場センサにより各電力線から発生する磁気信号を取得し該磁気信号に対応する電気信号を電動機器の診断に用いる電動機器の診断方法において、複数の電力線のうちの一の電力線に基準電流を流したとき最も高いレベルの信号を検出した磁場センサを該一の電力線に対応する磁場センサとして特定する作業を複数の電力線のそれぞれについて行うことで複数の電力線と複数の磁場センサとの対応関係を特定し、この対応関係をデータベースとして保有し電動機器の診断に用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、電動弁等の電動機器の診断を行うための診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、電動機の回転力とか電磁コイルの磁気駆動力により駆動される電動機器の診断を行う場合、その前提として、電動機器に入力される電気量を正確に知ることが重要である。
【0003】
このような電動機器に入力される電気量を取得する手法としては、例えば、電動機への通電用に設けられた電気箱の蓋を開放し、該電気箱内に収納された電力線に電気量測定器を取付けて電流値等を計測する手法とか、特許文献1に示されるように、電動機の電力ケーブルに通電される電流を検出するクランプ式の電流センサを取付けて電流値を計測する手法等が知られている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−130531号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、電気箱内の電力線に電気量測定器を取付けて電流値等を計測する前者の手法では、測定の度に電気箱の蓋を開放する必要があることから測定器の取付作業が煩雑で作業性が悪いとか、測定器の取付作業時あるいは該測定器を使用しての測定作業時に作業者が感電するとか、電流の地絡・短絡が発生する恐れがある、等の問題がある。
【0006】
また、上記測定器が設置される電気箱は、電動機及びこれにより駆動される電動機器から距離的に離れているため、上記測定器によって取得した取得情報のみを用いて電動機器の診断を行うような場合にはさほど問題はないが、例えば、上記取得情報と電動機器側の他の情報とを相関させて診断を行う必要があるような場合には、問題となる。
【0007】
一方、クランプ式の電流センサを用いる手法では、電力ケーブルが収容された電線管の外側から電流センサを取付けて計測を行うことができず、例えば、電気箱を開放して電力ケーブルの電線に直接電流センサを取付ける必要があり、計測作業が煩雑になるという問題があった。
【0008】
さらに、複数の電動機器を備え、これら各電動機器に通電する電力線を一つの電線管に収容したものにおいて、該各電動機器に入力される電気量を測定する場合には、測定される電気量信号がどの電動機器からの信号であるかを正確に判断することが必要となるが、これについての有効な手段は提案されていない。
【0009】
そこで本願発明は、電動機器に入力される電気量を簡便且つ安全に、しかも正確に取得し、この取得情報に基づいて電動機器の各種診断を行い得るようにした電動機器の診断方法を提案することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明ではかかる課題を解決するための具体的手段として以下のような特有の構成を採用している。
【0011】
本願の第1の発明に係る電動機器の診断方法では、複数の電動機器のそれぞれに通電する電力線を収納した電線管における上記電力線との幾何学的な相対位置が変化しない部位に配置された複数の磁場センサにより上記各電力線から発生する磁気信号を取得し該磁気信号に対応する電気信号を電動機器の診断に用いる電動機器の診断方法において、上記複数の電力線のうちの一の電力線に基準電流を流したとき最も高いレベルの信号を検出した磁場センサを該一の電力線に対応する磁場センサとして特定する作業を上記複数の電力線のそれぞれについて行うことで上記複数の電力線と上記複数の磁場センサとの対応関係を特定し、この対応関係をデータベースとして保有し電動機器の診断に用いることを特徴としている。
【0012】
本願の第2の発明に係る電動機器の診断方法では、上記第1の発明に係る電動機器の診断方法において、電動機器に入力される電気量に対応する電気信号と、該電動機器において得られる他の物理量との相関に基づいて電動機器の診断を行うに際し、上記磁気信号を基準磁気信号とし、該基準磁気信号に対応する基準電気信号の相関データベースを参照して、測定により取得される磁気信号に対応する電気信号を取得するとともに、上記電気信号と上記他の物理量をそれぞれ波形信号として表示し、これら各波形信号相互間における発生タイミングの適否、又は繰り返して表示される各波形信号と該各波形信号の全繰り返し期間における平均値との偏差に基づいて診断を行うことを特徴としている。
【0013】
本願の第3の発明に係る電動機器の診断方法では、上記第1の発明に係る電動機器の診断方法において、電動機器が複数の電動部で構成され該各電動部のそれぞれに対応する電力線毎に該電動部に入力される電気量に対応する電気信号を取得し、該電気信号と該電動機器側において得られる他の物理量との相関に基づいて電動機器の診断を行うに際し、該基準磁気信号に対応する基準電気信号の相関データベースを参照して、測定により取得される磁気信号に対応する電気信号を取得するとともに、上記各電気信号と上記他の物理量をそれぞれ波形信号として表示し、上記各電動部毎に上記各波形信号相互間における発生タイミングの適否、又は繰り返して表示される各波形信号と該各波形信号の全繰り返し期間における平均値との偏差に基づいて診断を行うことを特徴としている。
【0014】
本願の第4の発明に係る電動機器の診断方法では、上記第3の発明に係る電動機器の診断方法において、上記各電気信号に基づく各波形信号のうちの何れか一つの波形信号を基準波形として選択し、該基準波形の特定の波形点を基準として、上記各波形信号及び上記他の物理量に基づいて上記各電動部の作動諸元を取得し、該作動諸元を分析処理することで診断を行うことを特徴としている。
【0015】
ここで、上記「電動機器側における他の物理量」とは、電動機器の動作に伴って生じる物理量であって、電動機器が、例えば、電動機の回転力により駆動される電動弁である場合には、そのヨークに発生するヨーク応力とか、弁棒に発生する弁棒応力等がこれに該当し、また、電磁コイルの磁気駆動力によって駆動される原子炉の制御棒駆動装置である場合には、制御棒の移動に伴う振動(音)がこれに該当する。
【0016】
また、上記電気信号に対応する波形信号は、上記各電動部への入力電気量に対応する状態量であり、また上記他の物理量に対応する波形信号は、上記各電動部側の出力に対応する状態量であることから、これら波形信号相互間における発生タイミングを確認することで、上記各電動部が適正な作動タイミングで作動しているかどうかを容易に診断することができる。
【0017】
さらに、繰り返して表示される各波形信号と該各波形信号の全繰り返し期間における平均値との偏差を確認することで、制御棒駆動装置の動作期間中において不適正な作動が発生したかどうかを容易に診断することができる。
【0018】
一方、電源が三相交流であれば、電力線は三本の電線(U相電線、V相電線、W相電線)を備え、これら各電線のそれぞれによって磁場が形成され、この磁場の大きさが上記磁場センサで感知され、その大きさに対応した信号が出力される。この場合、上記磁場センサで感知される磁場の大きさは、各電線からの距離が長くなるほど小さくなることから、例えば、単一の磁場センサでの測定では、該磁場センサの電線管に対する取付位置(換言すれば、電力線の各電線UVWに対する磁場センサの取付位置)によっては、各電線を流れる電気量に対応した磁気信号の取得が困難となる場合もある。
【0019】
また、電力線(各電線UVW)の電線管内における配置位置(電線管の管軸に直交する面内位置における配置位置)が不明であり、しかも各電線に対する上記磁場センサの感度が異なる場合でも、この電線管と電力線との幾何学的な相対位置が変化しない部位に複数の磁場センサを配置し、これら各磁場センサによって得られる磁気信号の総和を磁気信号として採用することで、確実に磁気信号が得られることも知られている。
【0020】
上記「磁場センサ」としては、例えば、上記電線管内の電力線から発せられる磁力線を感知して磁場の大きさに対応した信号(磁気信号)を出力するホール素子とかアモルファス素子を用いた磁場センサが採用される。
【0021】
また、上記磁場センサにより取得される「磁気信号」は、磁気信号そのものは勿論、これに限らず、これを積算した積算磁気信号等の磁気信号に基づく信号をも含む概念である。なお、「基準磁気信号」とは、電動部に基準電流を流したときに上記磁場センサによって取得される磁気信号である。また、この際の基準電流に対応する電気量が「基準電気信号」であり、この「電気信号」は、電流及びこれを積算した積算電流のみならず、これらに基づく電気信号を含む概念である。
【0022】
さらに、磁場の大きさ「H」は、電力線を流れる電流「I」に比例し、電力線からの距離(r)に反比例することが知られている(H∝I/2πr)。従って、磁場の大きさに対応して出力される磁気信号「G」と電力線を流れる電流「I」は比例関係にあり、このため磁気信号「G」と電流「I」の相関をデータベースとして取得しておけば、このデータベースに基づいて、測定により取得される磁気信号「G」に対応する現時点の電流「I」を取得することができる。また、このような磁気信号「G」と電流「I」の比例関係から、磁気信号の積算値「ΣG」と電流値の積算値「ΣI」も比例関係「ΣG∝ΣI」にあるといえる。
【0023】
以上のことから、電線管における電力線との幾何学的な相対位置が変化しない部位に配置した複数の磁場センサにより取得される基準磁気信号と該基準磁気信号に対応する基準電気信号の相関データベースを取得しておけば、次回以降は上記相関データベースを参照して、測定により取得される磁気信号に対応する電気信号を取得することができる。
【0024】
また、電動部の作動諸元とは、例えば、上記複数の電動部それぞれの作動継続時間とか、複数の電動部相互の作動の重なり期間等であり、従って、これらの作動諸元を分析処理することで、上記制御棒駆動装置全体としての作動特性をより容易且つ正確に把握することができる。
【発明の効果】
【0025】
本願各発明では以下のような効果が得られる。
【0026】
(1) 電動機器に入力される電気量に対応する電気信号と、該電動機器側において得られる他の物理量との相関に基づいて診断が行われるものであり、上記電磁コイルに入力される電気量に対応する電気信号と上記制御棒駆動装置の作動時の振動(加速度)センサとの相関に基づいて、その診断を行うことができ、その診断作業がより簡易且つ迅速に精度良く行われる。
【0027】
(2) 上記複数の磁場センサを電線管に配置するという簡単な手段によって、基準磁気信号とこれに対応する基準電気信号の相関データベースを取得でき、次回以降はこの相関データベースに基づいて、測定により取得される磁気信号に対応する電気信号を取得するものであることから、以下のような効果が得られる。
【0028】
(2−1) 例えば、電気箱内の電線に電気量測定器を取付けて電流値等を計測する従来の方法のように、電気箱の改造を必要とするとか、作業中の感電、地絡あるいは短絡等の危険性を伴うこともなく、簡易・迅速に且つ安全に電気信号を取得することができる。
【0029】
(2−2) 上記複数の磁場センサを、電線管における電力線との幾何学的な相対位置が変化しない部位に配置しているので、該磁場センサと電力線の位置関係が一定に維持され、安定した信頼性の高い測定結果を得ることができる。
【0030】
(2−3) 上記磁場センサでの測定に基づく電気信号の取得と、電動機器側における他の物理量の取得が該電動機器の近傍で共に行え、且つこれら両者の対比及び確認が容易であることから、例えば、電気信号は電気盤部分で、他の物理量は電動機器部分で、それぞれ個別に行う構成の場合に比して、上記電気信号と他の物理量の収集、及びこれらの対比確認が容易であり、延いては、上記電気信号と上記他の物理量との相関に基づく診断、例えば、上記電動部における駆動力の伝達効率の適否とか、該伝達効率の変化傾向等の診断を容易且つ迅速に、しかも高い信頼性をもって行うことができる。
【0031】
(4) 上記電気信号と上記他の物理量をそれぞれ波形信号として表示し、これら各波形信号相互間における発生タイミングの適否を確認することで、上記各電動機器が適正な作動タイミングで作動しているかどうかを容易に診断することができ、診断の迅速化及び診断精度の向上が図れる。また、繰り返して表示される各波形信号と該各波形信号の全繰り返し期間における平均値との偏差を確認することで、電動機器の動作期間中において不適正な作動が発生したかどうかを容易に診断することができ、診断の迅速化及び診断精度の向上が図れる。従って、この診断方法は、電動機器において、各ステップにおける電動部の作動タイミングの適正、不適正を目視等によって判断するとか、繰り返されるステップの全範囲内において電動部が適正に作動しているかどうかを目視等によって判断する「ステッピング試験」における診断方法として採用する場合に好適である。
【0032】
(5) 複数の電動部のそれぞれに対応する電力線毎に上記電気信号が取得されるものにおいて、上記各電気信号と上記他の物理量をそれぞれ波形信号として表示し、上記各電動部毎に、上記各波形信号相互間における発生タイミングを確認することで、上記各電動部がそれぞれ適正な作動タイミングで作動しているかどうかを容易に診断することができる。また、繰り返して表示される各波形信号と該各波形信号の全繰り返し期間における平均値との偏差に基づいて診断を行うことで、上記各電動部のそれぞれにおいて、その動作期間中において不適正な作動が発生したかどうかを容易に診断することができ、これらの結果、診断の精度及び信頼性のより一層の向上が図られる。従って、この診断方法は、電動機器において、各ステップにおける電動部の作動タイミングの適正、不適正を目視によって判断するとか、繰り返されるステップの全範囲内において電動部が適正に作動しているかどうかを目視によって判断する「ステッピング試験」における診断方法として採用する場合に好適である。
【0033】
(6) 上記各電気信号に基づく各波形信号のうちの何れか一つの波形信号を基準波形として選択し、該基準波形の特定の波形点を基準として、上記各波形信号及び上記他の物理量に基づいて上記各電動部の作動諸元を取得し、該作動諸元を分析処理することで上記電動機器の診断を行うものであることから、これらの作動諸元を分析処理することで、上記制御棒駆動装置全体としての作動特性をより容易且つ正確に把握することができ、それだけその診断精度及び信頼性が向上することになる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本願発明に係る電動機器の診断方法の第1の実施形態における全体システム図である。
【図2】磁場センサを用いた磁気信号測定手法の説明図である。
【図3】制御棒駆動装置の制御棒引抜操作と挿入操作における波形信号の表示画面である。
【図4】制御棒駆動装置の制御棒引抜操作と挿入操作における波形信号の分析データである。
【図5】本願発明に係る診断方法を制御棒駆動装置の診断に適用した第2の実施形態における全体システム図である。
【図6】連続ステッピング試験における波形例を示す波形図である。
【図7】連続ステッピング試験におけるACC信号の取込み手法の説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明を好適な実施形態に基づいて具体的に説明する。
【0036】
I:第1の実施形態
図1には、本願発明に係る診断方法を、電動機器としての制御棒駆動装置の診断に適用した場合のシステム構成を示しており、同図において符号50は原子炉に備えられる制御棒駆動装置である。この制御棒駆動装置50は、周知の構造をもつもので、ハウジング55内に、昇降駆動される駆動軸56と、該駆動軸56を磁気駆動力によって軸方向へ駆動する第1の電磁コイル51(以下、「LIFTコイル51」という)と、該駆動軸56を把持して昇降させる可動グリッパ用の第2の電磁コイル52(以下、「MGコイル52」という)と、該駆動軸56を固定位置で把持する固定グリッパ用の第3の電磁コイル53(以下、「SGコイル53」という)を収容して構成され、上記LIFTコイル51とMGコイル52及びSGコイル53が所定タイミングでそれぞれ一回作動することで上記駆動軸56が1ステップだけ上昇又は降下されるものである。
【0037】
そして、この1ステップの作動が多数回繰り返されることで、上記駆動軸56の下端側に連結された制御棒の炉心からの引抜、又は炉心への挿入が実現されるものである。なお、上記LIFTコイル51,MGコイル52及びSGコイル53は、それぞれ特許請求の範囲中の「電動部」に該当する。
【0038】
そして、係る制御棒の引抜操作又は挿入操作は、上記各コイル51〜53がそれぞれ電力線2からの通電を受けて順次所定タイミングで励磁又は消磁されることで行われる。また、この場合における上記各コイル51〜53への供給電流は、それぞれLIFT信号(図1では「LIFT」と略記する)、MG信号(図1では「MG」と略記する)及びSG信号(図1では「SG」と略記する)として、後述する診断装置41側へ入力される。
【0039】
ここで、これらLIFT信号とMG信号及びSG信号の取得手法について説明する。図1に示すように、上記各コイル51〜53には、制御盤29から電力線2を通して通電される。この場合、上記各電力線2は、それぞれ専用の電線管1A〜1Cに収容されている。このような配線構造に着目して、この実施形態では上記各電線管1A〜1Cの外側に配置した磁場センサを用いて上記電力線2を流れる電流値(電気量)を取得するようにしている。
【0040】
ここでは、先ず、上記各コイル51〜53に入力される電気量の取得手法等について説明し、しかる後、その電気量を用いた制御棒駆動装置の診断方法について説明する。
【0041】
A:電気量の取得手法
この実施形態では、上記各コイル51〜53に入力される電気量(特に、この実施形態では電流)を、磁場センサにより検出される磁気信号に基づいて取得するとともに、この磁気信号と電気信号の相関をデータベースとして取得することで、次回以降の電気信号の取得の容易化及び迅速化を図っている。
【0042】
即ち、図1に示すように、上記各電線管1A〜1Cにおける上記電力線2との幾何学的な相対位置が変化しないような部位の外周面に三個の磁場センサ8A,8B,8Cを周方向に所定間隔で取付け、該各磁場センサ8A,8B,8Cによって上記電力線2への通電によって発せられる磁気信号を取得する。そして、各電線管1A〜1Cのそれぞれに備えた上記各磁場センサ8A,8B,8Cの検出信号(磁気信号)をそれぞれ磁気信号演算手段31に入力する。
【0043】
ここで上記磁場センサ8A,8B,8Cによる上記電力線2への通電によって発せられる磁気信号の取得手法を、図2に基づいて説明する。
【0044】
図2において、上記電線管1内に電力線2が収容されている。この電力線2は三相ケーブルであって、三本の電線U,V,Wを有しており、上述のように、該電力線2の上記電線管1内における幾何学的な相対位置が変化しないものとされる。また、上記電線管1の外周には、上記各磁場センサ8A,8B,8Cが周方向にそれぞれ120度の位相をもって配置されている。なお、図2に例示する電力線2は三相ケーブルであるが、磁気信号の取得については図1に示すような二相ケーブルの電力線2においても同様である。
【0045】
上記各磁場センサ8A,8B,8Cは、各電線U,V,Wのそれぞれから発せられる磁力線を感知して磁場の大きさに対応した信号を出力する特性をもつものであるが、感知される磁場の大きさは、各電線U,V,Wの中心から各磁場センサ8A,8B,8Cまでの距離に反比例することが知られている。従って、上記各各磁場センサ8A,8B,8Cのそれぞれにおいて、上記各電線U,V,Wからの距離が異なることから、各電線U,V,Wからの磁力線から感知される信号は異なる。例えば、磁場センサ8Aにおいては、距離Aru,Arwが小さい電線U,Wから感知される信号は大きいが、距離Arvが大きい電線Vから感知される信号は小さいものとなる。
【0046】
従って、例えば、上記電線管1に1個の磁場センサを配置し、この磁場センサによって磁気信号を検出する構成とした場合には、上記電線管1内での上記電力線2の配置位置と、該電線管1に対する上記磁場センサの配置位置によっては、上記電力線2から感知される信号が小さく、精度の高い磁気信号を取得できない場合も有り得る。
【0047】
一方、上記電線管1内における上記電力線2の配置位置は不明であっても、上記電線管1に複数の磁場センサを配置すれば、磁力線から感知される信号が大きいものと小さいものが存在することになるため、例えば、感知される信号が大きい磁場センサの出力を磁気信号として採用するとか、感知される信号が大きい磁場センサの出力と感知される信号が小さい磁場センサの出力の総和を演算にて求め、これを磁気信号として採用することが考えられる。具体的には、各磁場センサ8A,8B,8Cの検知信号を、絶対値で加算、減算等することで、判別し易い大きな信号値として取得し、これを上記電力線2の磁場に対応する磁気信号として採用するものである。
【0048】
上記磁場センサ8A,8B,8Cで検出された信号値をそれぞれ磁気信号演算手段31に取り込み、これを該磁気信号演算手段31で演算処理をし、磁気信号として後述の各種の処理あるいは診断に用いる。
【0049】
図1に戻って、上記磁気信号演算手段31では、予め上記各電力線2のそれぞれに基準電流を流したときに上記各磁場センサ8A,8B,8Cで検出される基準磁気信号を求め、この基準電流と基準磁気信号の相関を上記電線管1A〜1C毎にデータベースとして保有する。従って、上記磁気信号演算手段31では、上記各電線管1A〜1Cに取付けた上記各磁場センサ8A,8B,8Cから磁気信号が入力されたとき、この計測された磁気信号に対応する電流を上記各データベースから読み出し、ここで読み出された電流を、それぞれLIFT信号、MG信号及びSG信号として上記診断装置41に出力するものである。なお、上記磁場センサ8A,8B,8Cのそれぞれで検出された磁気信号は、例えば、これらを加算して上記磁気信号演算手段31に入力される。
【0050】
従って、係る電流取得手法を採用することで、原子力設備の稼働中であっても、上記電気制御盤29を開いたりすることなく、安全に且つ容易に電流を取得することができるものである。
【0051】
一方、上記制御棒駆動装置50には、振動センサ(加速度計)54が備えられている。この振動センサ54は、上記制御棒駆動装置50の作動に伴って発生する作動音を検知し、これを振動信号(加速度信号)(以下、「ACC信号」という。図1では「ACC」と略記する)として、後述の診断装置41へ出力するようになっている。
【0052】
続いて、診断装置41の構成等について説明する。
【0053】
上記制御棒駆動装置50は、上述のように、上記各コイル51〜53の磁気駆動力によって作動されるものであって、その作動の的確性あるいは作動上の信頼性は、これら各コイル51〜53の作動タイミングあるいは作動時間等の作動状態が適正に維持されていることが必須要件となる。従って、制御棒駆動装置50の作動の的確性あるいは作動上の信頼性を確保するためには、これら各コイル51〜53の作動状態を定期的に診断することが必要であり、係る診断に供せられるのが上記診断装置41である。
【0054】
上記診断装置41は、二種類の診断、即ち、上記制御棒駆動装置50の各ステップにおける上記各コイル51〜53の作動タイミングの適否を目視にて簡易且つ迅速に診断する「ステッピング試験」と、さらに上記ACC信号と各電気信号、即ち、LIFT信号、MG信号及びSG信号の作動諸元を分析処理する「詳細分析」を同時に並行して行うことができるようになっており、図1に示すように、上記「ステッピング試験」を実施するための第1診断部42と上記「詳細分析」を実施するための第2診断部43を備えている。
【0055】
なお、上記「ステッピング試験」としては、上記制御棒駆動装置50の1ステップ毎の作動状態を確認する「個別ステッピング試験」と、全ステップを通して作動状態を確認する「連続ステッピング試験」とがある。
【0056】
上記第1診断部42は、それぞれ後述する第1演算部44と第2演算部45と表示部46及び第1出力部47を備えて構成される。一方、上記第2診断部43は、上記第1演算部44と上記第2演算部45の他に、後述する第3演算部48及び第2出力部49を備えて構成される。そして、これら何れの診断部42,43においても、上記磁気信号演算手段31からの各電気信号、即ち、上記LIFT信号とMG信号及びSG信号と、上記ACC信号、共に波形信号として用いるようにしている。
【0057】
上記第1演算部44は、上記磁気信号演算手段31から出力されるLIFT信号とMG信号とSG信号を波形信号としてそれぞれ収録するとともに、上記振動センサ54からのACC信号も波形信号として収録し、これらを次述の第2演算部45へ出力する。なお、この実施形態では、説明の便宜上、上記制御棒駆動装置50が単一の場合、即ち、電気信号としての上記LIFT信号とMG信号とSG信号がそれぞれ一つである場合を例示しているが、実際的には、後述するように、例えば、四つの制御棒駆動装置50を一組とし(即ち、4ロット分を一組とし)、これら四つの制御棒駆動装置50側からそれぞれ入力される各四つのLIFT信号とMG信号とSG信号を同時に収録し、これら4ロット分の波形信号を、ACC信号とともに第2演算部45へ同時に出力するようにしている(図5参照)。
【0058】
ここで、連続ステッピング試験において、振動センサ54からのACC信号を上記第1演算部44に取り込む場合の手法を、図3を参照して説明する。
【0059】
振動センサ54からのACC信号は、周波数の高い(主に2〜5kHz)交流信号である。このACC信号の波形についてステップ毎の平均値算出や比較をする時には、図3(イ)に示すように、交流波形そのものではなく、交流波形の振幅変化の形状を扱うことになる。
【0060】
ここで、この交流波形の振幅変化の形状を求めるためには、交流波形を全波整流し、その結果の包絡線(エンベロープ)を求める方法が一般的である。この時、元の交流波形をできるだけ詳細に測定しておく必要があるが、2〜5kHzの交流を測定するためには、10kHz以上の高い周波数(短い周期)でサンプリングしなければならない。しかし、連続ステッピング試験では、連続して長時間サンプリングを行うので、高いサンプリング周波数ではデータ量が膨大になってしまい、後の演算処理に不都合である(なお、他のLIFT信号,MG信号,SG信号では、1kHzのサンプリング周波数で充分である。)
【0061】
そこで、この実施形態では、次のような手法を採用した。即ち、図3(ロ)に示すように、ACC信号をサンプリングする前段に、エンベロープ処理器60を設置する。そして、このエンベロープ処理器60では、振動センサ54から入力されたACC信号を、アナログ式の全波整流回路61において全波整流をし、さらに平滑回路62において平滑処理をして、第1演算部44へ出力する。この場合、上記エンベロープ処理器60からの出力は比較的周波数が低くなっているので、他のLIFT信号,MG信号,SG信号と同様に、1kHzのサンプリング周波数で充分に測定できることになる。
【0062】
上記第2演算部45は、個別ステッピング試験においては、上記第1演算部44から入力された4ロット分のLIFT信号とMG信号とSG信号を1ロット分ずつ、上記ACC信号とともに順次上記第1診断部42側の上記表示部46と上記第2診断部43側の上記第3演算部48へそれぞれ出力する。また、連続ステッピング試験においては、全ステップを通して上記第1演算部44から入力された4ロット分のLIFT信号とMG信号とSG信号を1ロット分ずつ、上記ACC信号とともに順次上記第1診断部42側の上記表示部46と上記第2診断部43側の上記第3演算部48へそれぞれ出力する。
【0063】
上記表示部46は、個別ステッピング試験においては、上記第2演算部45から入力される1ロット毎の各波形信号をモニタに順次表示し(図3参照)、ここに表示された波形信号を目視することによる診断を可能とする。
【0064】
また、連続ステッピング試験においては、上記第2演算部45から入力される1ロット毎の各波形信号をモニタに連続的表示し(図6参照)、ここに表示された波形信号を目視すること、あるいは自動的に評価することによる診断を可能とする。
【0065】
なお、図6に連続ステッピング試験における波形表示を示している。ここで、連続ステッピング試験における評価手法を説明する。この例では、1ステップ毎に繰り返して表示されるLIFT信号が、適正状態であれば全ステップを通して同一波形となるところ、途中のステップにおいて、部位aで示すように他のステップの波形とは異なった波形が表示されている。このように本来同一波形が繰り返されるべきところ、異なる波形が現れたことで、上記LIFTコイル51側において故障あるいは作動不良が生じたことを、目視によって知ることができる。
【0066】
一方、係る評価をソフト上において自動的に行う場合には、先ず、各ステップにおいて繰り返して表示される各波形信号と該各波形信号の全繰り返し期間(全ステップ)の波形信号の平均値との偏差を求め、該偏差が所定の閾値を越えた波形信号が存在する場合には、この閾値を越えた波形信号が属するステップにおける作動は「注意を要する」あるいは「異常である」と評価するものである。図6に示す例の場合には、上記部位aが属するステップにおける作動は要注意あるいは異常であると評価される。この評価手法によれば、信頼性の高い高精度の評価をより迅速に得ることができる。
【0067】
なお、上記評価は、特定の電気信号に基づく波形信号、例えば、上記LIFT信号についての連続ステッピング試験であるが、係る手法を用いた連続ステッピング試験としてはこの他に、例えば、複数の電気信号に基づく波形信号、例えば、上記LIFT信号とMG信号とSG信号の三者間、あるいは適宜選択された二者間においても適用できる。例えば、全ステップのうち、あるステップではLIFT信号とMG信号に基づく波形信号は共に正常であるが、SG信号に基づく波形信号は異常であり、当該ステップ全体としてみた場合には「異常」であると評価するものである。
【0068】
さらに、個別、連続の何れのステッピング試験においても、必要に応じて、上記表示部46に表示された波形信号を上記第1出力部47においてプリントアウトし、紙面での確認あるいは保存が可能である。
【0069】
一方、上記第2診断部43側の上記第3演算部48においては、上記第2演算部45から1ロット毎に出力される電流に関するLIFT信号とMG信号とSG信号と、作動音に関するACC信号を受けて、これら各波形信号をモニタに1ロットずつ表示するとともに、これらLIFT信号とMG信号とSG信号の何れか一つ、例えば、LIFT信号を基準として、上記ACC信号と各電気信号の作動諸元を詳細に分析処理し、その分析結果をデータ化して表示する(図3、図4参照)。
【0070】
また、必要に応じて、第3演算部48での表示内容及び分析結果を第2出力部49においてプリントアウトし、紙面での確認あるいは保存を可能とする。
【0071】
ここで、上記診断装置41における診断の具体的な内容を、個別ステッピング試験を例にとり、図3及び図4を参照して説明する。
【0072】
図3(イ)は、制御棒駆動装置50による制御棒の引抜操作時の1ステップにおけるLIFT信号とMG信号とSG信号及びACC信号を表示している。また、図3(ロ)は、制御棒駆動装置50による制御棒の挿入操作時の1ステップにおけるLIFT信号とMG信号とSG信号及びACC信号を表示している。
【0073】
上記第1診断部42の上記表示部46での表示にあっては、図3(イ)、(ロ)における波形信号のみが表示される。この第1診断部42でのステッピング試験にあっては、上記LIFT信号とMG信号とSG信号及びACC信号の各信号間の時間的な発生タイミング、即ち、上記LIFTコイル51,MGコイル52及びSGコイル53の動作順序(ON−OFF)が目視により確認できれば足りることから、波形信号の表示のみで十分だからである。
【0074】
これに対して、上記第2診断部43の第3演算部48においては、図3(イ)、(ロ)のように、LIFT信号とMG信号とSG信号及びACC信号の波形表示とともに、分析処理の結果が付され、さらに図4(イ)、(ロ)に示すようなデータ表示がなされる。
【0075】
ここで、上記分析処理において分析対象となる諸元としては、図3及び図4に示すように、上記LIFTコイル51とMGコイル52及びSGコイル53のそれぞれについて規定されている。
【0076】
上記LIFTコイル51の動作に関しては、引抜操作においては可動グリッパによって駆動軸56を掴んだ状態でこれを引抜く時間であり、挿入操作においては駆動軸56を掴まない状態で上記可動グリッパが上昇する時間である時間「TLin」と、引抜操作においては引抜動作の完了後に上記可動グリッパが初期位置まで復帰する時間であり、挿入操作においては可動グリッパによって駆動軸56を掴んだ状態でこれを挿入する時間である「TLout」が規定され、
【0077】
上記MGコイル52の動作に関しては、該MGコイル52の励磁開始時点から駆動軸56に対するグリップ動作が完了するまでの時間「TMin」と、上記MGコイル52の消磁開始時点から駆動軸56に対するグリップ開放が終了するまでの時間「TMout」が規定され、
【0078】
上記SGコイル53の動作に関しては、該SGコイル53の消磁開始時点から駆動軸56に対するグリップ開放が完了するまでの時間「TSout」と、上記SGコイル53の励磁開始時点から駆動軸56に対するグリップ動作が完了するまでの時間「TSin」が規定されている。
【0079】
また、これらLIFTコイル51とMGコイル52及びSGコイル53の三者間における動作に関しては、
「TMin」の到達時点から「TSout」の開始時点までの時間「dTMS」と、
「TSin」の到達時点から「TMout」の開始時点までの時間「dTSM」と、
「TMout」の到達時点から「TLout」の到達時点までの時間「dTLM」である。
【0080】
なお、「TMin」の到達時点と、「TSout」の到達時点と、「TLin」の到達時点と、「TSin」の到達時点と、「TMout」の到達時点と、「TLout」の到達時点については、全て上記ACC信号の立上り時点で判断する。
【0081】
ところで、このような各諸元を分析処理しその適否を診断するに際しては、上記制御棒駆動装置50側からのデータを収集するが、通常、該制御棒駆動装置50を数ステップ連続して運転させるとともに、その連続運転期間におけるデータの全部を連続して収拾するようにしているため、分析の準備として、連続した数ステップ分のデータをステップ毎に切り分ける必要がある。また、このステップ毎の切り分けを行うためには、ステップ毎の収集開始時点を設定する必要がある。
【0082】
係る場合、一つの方法として、制御系全体を一括する制御信号を用いることが知られているが、この制御信号は制御の信頼性の確保等の観点からして極めて重要な信号であるため、あるいは測定回路をシンプルにし信頼性の向上と低コスト化のために、この制御信号を用いることなく上述のステップ毎の切り分けを行うことができれば好都合である。
【0083】
そこで、この実施形態では、上記LIFT信号とMG信号とSG信号の何れかを、切り分けのための基準信号として利用するようにしたものである。この場合、図3に示すように、これらLIFT信号とMG信号及びSG信号を対比すると、LIFT信号の立上り形状は、他の信号に比して明確で極めて判定がし易い点に着目し、このLIFT信号を基準信号として利用するようにしている。
【0084】
具体的には、図3に示すようにLIFT信号における上記LIFTコイル51の励磁開始時点(「TLin」の開始点)から時間「ts」だけ遡った時点を切り分けの基準位置として設定する。そして、この基準位置から、該基準位置における各信号の状態が再度繰り返される位置までの範囲を、1ステップの信号切り分け範囲としている。なお、この実施形態では上記LIFTコイル51の励磁開始時点が特許請求の範囲における「特定の波形点」に該当する。また、切り分けの基準位置を制御回路から求める(例えば、操作員による操作レバーのON操作から一定時間の経過時点を切り分けの基準位置とする等)ことも考えられる。
【0085】
このように各ステップの信号を順次収集し、これを上記第3演算部48において演算により分析する。そして、この分析結果が、図3に示すように数値が付された波形信号として、また図4に示すように数ステップの分析データとして表示される。
【0086】
従って、試験者は、表示される波形信号及びデータを目視してここに記載された各諸元及びその良否を確認し、これによって上記制御棒駆動装置50の診断を容易に且つ精度良く行うことができるものである。
【0087】
II:第2の実施形態
図5には、複数の制御棒駆動装置50A〜50Dが備えられ且つこれら複数の制御棒駆動装置50A〜50Dを、それぞれ4本を一組として同時にデータの収集を行い、さらに該データに基づく各種の諸元を分析して上記各制御棒駆動装置50A〜50Dの診断を行うものを示している。
【0088】
そして、この例では、上記4本の制御棒駆動装置50の各三個のコイル51,52,53のそれぞれに接続された12本の電力線2、即ち、各制御棒駆動装置50の上記各LIFTコイル51にそれぞれ接続された電力線2A1、2B1、2C1,2D1、上記各MGコイル52にそれぞれ接続された電力線2A2、2B2、2C2,2D2、及び上記SGコイル53にそれぞれ接続された電力線2A3、2B3、2C3,2D3を、同じコイルに接続された4本の電力線同士に区分けして一纏めとし、それぞれ電線管1A〜1Cに収容している。
【0089】
そして、これら同種の4本の電力線が収容された上記各電線管1A〜1Cのそれぞれに磁場センサ8A,8B,8C等を取付け、該各磁場センサ8A,8B,8C等によって検出される磁気信号に基づいて、上記各制御棒駆動装置50A〜50Dの各コイル51〜53に供給される電流を取得し、これを上記診断装置41に入力して上記各制御棒駆動装置50A〜50Dの診断を行うようになっている。
【0090】
なお、上記診断装置41における診断手法等については、上記第1の実施形態における場合と同様であるので、該第1の実施形態の該当説明を援用し、ここでの説明は省略する。
【0091】
ところで、上述のように、各電線管1A〜1Cのそれぞれに上記各制御棒駆動装置50A〜50Dの同じコイルに接続された電力線2A1〜2D1,2A2〜2D2,2A3〜2D3を収容した状態で、上記磁場センサ8A,8B,8C等によって電磁信号を検出する場合、どの信号がどの制御棒駆動装置からの信号であるかを正確に判断することは難しいが、この実施形態では以下のような手法を採用することで、これを解決している。
【0092】
即ち、上記電線管1Cについて説明すると、図5に拡大図示するように、該電線管1Cの外周に所定間隔で複数(この実施形態では6個)の磁場センサ8A〜8Fを取付ける。そして、この状態で、上記各制御棒駆動装置50A〜50Dのそれぞれに所要の時間差をもって基準電流を流すとともに、上記電線管1Cに設けられた上記各磁場センサ8A〜8Fによって磁気信号を検出する。この場合、上記各磁場センサ8A〜8Fのそれぞれにおいて、上記各電力線2A3〜2D3から発生する磁気信号が検出される。なお、同一の磁場センサで、該磁場センサからの距離が異なる電力線2から発生する複数の磁気信号を検出した場合、その距離が近い電力線2から発生した磁気信号ほど検出される信号レベル(電圧値)が高くなることは周知である。
【0093】
そこで、一つの制御棒駆動装置50のSGコイル53に基準電流を流したとき、上記各磁場センサ8A〜8Fのうち、最も高いレベルの信号を検出した磁場センサを選定する。これによって、その磁場センサ8で検出されるのは上記一つの制御棒駆動装置50のSGコイル53からの影響が最も大きい磁気信号であることが特定される。このようにして、上記各制御棒駆動装置50A〜50DのSGコイル53と、該SGコイル53からの磁気信号を検出する磁場センサ8の組み合わせを、上記各制御棒駆動装置50A〜50Dのすべてについて特定し、これをデータベース化して保有する。
【0094】
また、この制御棒駆動装置50A〜50Dとこれに対応する磁場センサ8の組み合わせを特定すると同時に、基準電流とそれに基づく磁気信号との対応関係を求め、これもデータデース化して保有すれば良い。
【0095】
このような二つのデータベースを保有すれば、次回以降は、上記磁場センサ8のみによって、複数の制御棒駆動装置50A〜50Dの各コイル51〜53に供給される電流を簡単且つ高精度で取得することができるものである。そして、この電気信号を用いることで、4本の制御棒駆動装置50A〜50Dの診断を上記診断装置41において同時に行うことができ、診断作業の効率化が促進される。
【符号の説明】
【0096】
1 ・・電線管
1A〜1C・・電線管
2 ・・電力線
8 ・・磁場センサ
29 ・・制御盤
31 ・・磁気信号演算手段
41 ・・診断装置
42 ・・第1診断部
43 ・・第2診断部
44 ・・第1演算部
45 ・・第2演算部
46 ・・表示部
47 ・・第1出力部
48 ・・第3演算部
49 ・・第2出力部
50 ・・制御棒駆動装置
51 ・・第1の電磁コイル(LIFTコイル)
52 ・・第2の電磁コイル(MGコイル)
53 ・・第3の電磁コイル(SGコイル)
54 ・・振動センサ(加速度計)
60 ・・エンベロープ処理器
61 ・・全波整流回路
62 ・・平滑回路
U,V,W ・・電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電動機器のそれぞれに通電する電力線を収納した電線管における上記電力線との幾何学的な相対位置が変化しない部位に配置された複数の磁場センサにより上記各電力線から発生する磁気信号を取得し該磁気信号に対応する電気信号を電動機器の診断に用いる電動機器の診断方法において、
上記複数の電力線のうちの一の電力線に基準電流を流したとき最も高いレベルの信号を検出した磁場センサを該一の電力線に対応する磁場センサとして特定する作業を上記複数の電力線のそれぞれについて行うことで上記複数の電力線と上記複数の磁場センサとの対応関係を特定し、この対応関係をデータベースとして保有し電動機器の診断に用いることを特徴とする電動機器の診断方法。
【請求項2】
請求項1において、
電動機器に入力される電気量に対応する電気信号と、該電動機器において得られる他の物理量との相関に基づいて電動機器の診断を行うに際し、上記磁気信号を基準磁気信号とし、該基準磁気信号に対応する基準電気信号の相関データベースを参照して、測定により取得される磁気信号に対応する電気信号を取得するとともに、上記電気信号と上記他の物理量をそれぞれ波形信号として表示し、これら各波形信号相互間における発生タイミングの適否、又は繰り返して表示される各波形信号と該各波形信号の全繰り返し期間における平均値との偏差に基づいて診断を行うことを特徴とする電動機器の診断方法。
【請求項3】
請求項1において、
電動機器が複数の電動部で構成され該各電動部のそれぞれに対応する電力線毎に該電動部に入力される電気量に対応する電気信号を取得し、該電気信号と該電動機器側において得られる他の物理量との相関に基づいて電動機器の診断を行うに際し、該基準磁気信号に対応する基準電気信号の相関データベースを参照して、測定により取得される磁気信号に対応する電気信号を取得するとともに、上記各電気信号と上記他の物理量をそれぞれ波形信号として表示し、上記各電動部毎に上記各波形信号相互間における発生タイミングの適否、又は繰り返して表示される各波形信号と該各波形信号の全繰り返し期間における平均値との偏差に基づいて診断を行うことを特徴とする電動機器の診断方法。
【請求項4】
請求項3において、
上記各電気信号に基づく各波形信号のうちの何れか一つの波形信号を基準波形として選択し、該基準波形の特定の波形点を基準として、上記各波形信号及び上記他の物理量に基づいて上記各電動部の作動諸元を取得し、該作動諸元を分析処理することで診断を行うことを特徴とする電動機器の診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−103270(P2012−103270A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−28833(P2012−28833)
【出願日】平成24年2月13日(2012.2.13)
【分割の表示】特願2009−537881(P2009−537881)の分割
【原出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【Fターム(参考)】