説明

電動歯刷子

【課題】 口腔内の洗浄及び殺菌を、短時間で効率よく行うことができる電動歯刷子を提供する。
【解決手段】 電動歯刷子1を口腔内で使用した場合は、口腔内の塩化物イオンを用いて、電気分解により有効塩素を発生させることができ、口腔内において効率的に有効塩素を殺菌に用いることができる。また、ヘッド部3に設けられた電極35a、35bが振動する構成となっているため、口腔内を洗浄しながら、有効塩素の生成効率を上昇させることができ、また、生成された有効塩素を瞬時に口腔内液に拡散することができる。これにより、有効塩素が短時間で殺菌に有効な濃度に達し、また、瞬時に口腔内の隅々に行き渡るため、口腔内の洗浄及び殺菌を、短時間で効率よく行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内の塩化物イオンを有効塩素に変化させて殺菌及び洗浄を行う電動歯刷子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、口腔内の洗浄に用いる歯刷子に、モータ等による動力機構や駆動機構を備え、刷子を振動させることによって口腔内を擦掃する電動歯刷子がある。
また、電動歯刷子に、洗浄効果等を向上させるための構成を備えたものも提案されている。
【0003】
電動歯刷子に、洗浄効果を向上させるための構成を備えた例として、マイナスイオンを発生する石英安山岩が配合されたナイロン毛で刷子を構成し、モータで本体部を振動させることによって、該本体部に取り付けられたヘッド部及び該ヘッド部に取り付けられた前記刷子を振動させる電動歯刷子が提案されている(例えば、特許文献1)
【0004】
また、ヘッド部に設けられた口内電極と、把持部に設けられた把持部電極と、前記把持部内に設けられて前記ヘッド部を振動させるモータと、該モータを駆動する駆動回路とを具備した電動歯刷子が提案されている(例えば、特許文献2)。
【0005】
また、把持部の長手方向の中心軸にほぼ沿って配置された回転軸を有し、回転軸に歯車が取り付けられたモータと、モータ回転軸の歯車に歯合する駆動歯車と、前記中心軸を挟んで前記駆動歯車と反対側に配置されるとともに駆動歯車と一体に取り付けられた従動歯車と、該従動歯車に歯合する最終歯車と、一端部が前記最終歯車に係合して最終歯車の回転を直線往復振動に変換する駆動軸と、該駆動軸に他端に取り付けられたヘッド部とを有する電動歯刷子が提案されている(例えば、特許文献3)。
【0006】
また、ヘッド部の内部に設けられた圧電変換器と、ヘッド部の植毛面に取り付けられた毛束とが記載された超音波歯刷子が提案されている(例えば、特許文献4)。
【0007】
また、近年、歯刷子においては、口腔内の洗浄作用に加え、他の機能も求められるようになっているが、口腔内を殺菌するための機能を備えた歯刷子に関する技術は知られていない。
【0008】
殺菌技術に関しては、電解槽内部に陰極、陽極およびこれらを隔てる隔膜とを有し、陽極側で電解水を生成するとともに、陰極側でアルカリ水を生成する電解水製造装置が提案されている(例えば、特許文献5)。
【特許文献1】特開2004−24805号公報
【特許文献2】特開平8−275961号公報
【特許文献3】特開2000−279432号公報
【特許文献4】特許第3313715号公報
【特許文献5】特開2004−25185号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の電動歯刷子は、刷子に配合された石英安山岩がマイナスイオンを発生することにより、歯垢の中のプラスイオンを引き寄せ、歯垢が歯から取れやすくなり、洗浄効果が向上するというものである。
しかしながら、特許文献1に記載の電動歯刷子は、石英安山岩のマイナスイオンの作用によって歯の表面等の洗浄効果は向上するものの、口腔内を殺菌する機能を有するものではなかった。
【0010】
特許文献2に記載の電動歯刷子は、使用者が歯磨き時に把持部電極に触れながら把持部を持ってヘッド部を口腔内に挿入した際に、口内電極が口腔内液と接触し、前記把持部電極と口内電極とが使用者の体を介して導通したことを駆動回路が検出して、モータを駆動して前記ヘッド部の振動を開始するものである。これにより、使用者がスイッチ操作を行わなくとも、電動歯刷子のオンオフを自動で行うことができ、また、使用者の体に、前記口内電極と把持部電極との間に微電流が流れることによってイオン効果が生じ、歯の歯垢等を効果的に取り除くことが出来るというものである。
しかしながら、特許文献2に記載の電動歯刷子も、体に流れる微電流によるイオン効果で歯の洗浄効果は向上するものの、口腔内を殺菌する機能を有するものではなかった。
【0011】
特許文献3に記載の電動歯刷子は、駆動歯車と従動歯車とを一体化することにより、小型化しながら高い回転トルクを維持して、駆動軸に取り付けられたヘッド部を駆動するものである。
しかしながら、特許文献3に記載の電動歯刷子は、高い回転トルクによって歯垢除去効果を高めているものの、口腔内を殺菌する機能を有するものではなかった。
【0012】
特許文献4に記載の超音波歯刷子は、圧電変換器の圧電結晶が共振周波数又は共振周波数付近で共振し、ヘッド部表面に取り付けられた毛束の毛の間で超音波を発生させて歯磨きを行うものである。
しかしながら、特許文献4に記載された超音波歯刷子は、超音波の作用によって歯垢を除去することはできるものの、口腔内を殺菌する機能を有するものではなかった。
【0013】
特許文献5に記載された電解水製造装置は、電解槽に食塩などの塩水を入れ、電気分解を行なって陰極、陽極において生成した酸性水、アルカリ水を取り出して用途に応じて使用するものであり、陽極側に生成した酸性水を殺菌に用いることができるというものである。
しかしながら、特許文献5に記載の電解水製造装置は大掛かりな構成であり、大きさやコストの点で、電動歯刷子への採用は困難である。
また、酸性水に含まれる有効塩素量は経時的に失活されることが知られている(「強電解水ハンドブック」医療情報社刊)。このため、生成された酸性水を瞬時に殺菌用として使用する必要があり、特許文献3に記載の電解水製造装置酸性水を生成した後、この酸性水を口腔内の殺菌に用いても、十分な殺菌効果が得られない虞がある。
【0014】
電気分解による殺菌作用は、以下のような反応式により、殺菌力のある有効塩素(Cl、HClO等)が発生するためと考えられている。
水溶液中の解離状態は、(1)式、(2)式の化学式で表される。
【0015】
NaCl→Na+Cl・・・(1)
【0016】
O→H+OH・・・(2)
【0017】
電気分解による陰極側の反応は、(3)式の化学式で表される。
【0018】
2H+2e→H・・・(3)
【0019】
電気分解による陽極側の反応は、(4)式、(5)式の化学式で表される。
【0020】
2Cl→Cl↑+2e・・・(4)
【0021】
Cl+HO⇔HCl+HClO・・・(5)
【0022】
通常の電気分解では、(4)式の化学式に示した塩素(Cl)ガスの細かい気泡が陽極側の電極表面に付着することにより、(4)式及び(5)式に示した反応が阻害され、反応効率が低下する虞があった。
【0023】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、口腔内の洗浄及び殺菌を、短時間で効率よく行うことができる電動歯刷子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本出願人は、上述の課題に対して鋭意研究を重ねた結果、以下の結論を導いて発明を完成させた。
(1)電動歯刷子の振動によって、陽極で発生したCl気体分子を拡散し、前記陽極に被膜となって付着するのを防止して、常に電極表面を露出させる。これにより、電気分解開始直後(開始〜開始後数分の間)の、(4)式の化学式における有効塩素(Cl)の生成効率(所定時間内での有効塩素の生成量)を向上させることができる。
(2)電動歯刷子の振動によって、(4)式及び(5)式の化学式で生成する有効塩素を瞬時に拡散することにより、有効塩素が自己拡散作用のみで口腔内に拡散して、口腔内液中での有効塩素が不均一な状態になるのを防止する。これにより、有効塩素が口腔内液中に均一に行き渡る。
従って、殺菌作用を有する有効塩素の生成効率が上がり、短時間での殺菌が可能となる。また、生成された有効塩素を瞬時に高速で拡散することによって、有効塩素が口腔内の隅々に行き渡るため、口腔内の細菌を効率良く殺菌することができる。
【0025】
本発明は、以下に示す構成の電動歯刷子を提供するものである。
第1の発明では、把持部と、前記把持部から延びて毛束が植毛されたヘッド部と、前記ヘッド部に設けられた一対の電極と、モータと、該モータの運動を前記ヘッド部に伝動する駆動部と、前記一対の電極及びモータに電流を供給する電源とを具備し、塩化物イオンを含有する口腔内液に前記一対の電極を接触させた状態で前記電極間を通電させることによって、前記塩化物イオンを有効塩素に変化させるように構成されたことを特徴とする電動歯刷子を提供する。
第2の発明では、前記一対の電極が、ヘッド部の植毛面に設けられていることを特徴とする電動歯刷子を提供する。
第3の発明では、前記口腔内液を生理食塩水としたときに、発生する有効塩素の濃度が2〜100ppmの範囲であることを特徴とする電動歯刷子を提供する。
【0026】
上述の構成によれば、電動歯刷子のヘッド部に備えられた一対の電極を口腔内に挿入し、塩化物イオンが含有されている口腔内液に接触させて口腔内液を電気分解し、有効塩素を生成させることができる。また、モータの運動を駆動部によってヘッド部に伝動し、ヘッド部に設けられた電極が振動する構成となっているため、有効塩素の生成効率を上昇させることができ、また、生成された有効塩素を瞬時に口腔内液に拡散することができる。これにより、有効塩素が短時間で殺菌に有効な濃度に達し、また、瞬時に口腔内の隅々に行き渡るため、効率良く殺菌することができる。
【0027】
なお、本発明における口腔内液とは、Clを含む溶液であり、例えば、唾液、歯磨き時の口腔液、洗口剤、うがい液、マウススプレー、スポーツドリンク(アクエリアス(登録商標)、ポカリスエット(登録商標))等である。
【0028】
本発明の電動歯刷子は、口腔内液を生理食塩水にしたとき発生する有効塩素濃度が2〜100ppmとなっている。効果と実使用性を考慮すると5ppm〜60ppmが一層好ましい。5ppm未満の場合、殺菌効果はあるものの十分ではなく、また、60ppmを越えると、僅かに塩素臭が放散されるためである。
【0029】
本発明の電動歯刷子は、ヘッド部を振動させることにより、上述の濃度の有効塩素を、低電圧条件においても効率的に発生させることができる。従って、安全な設計とすることが可能となる。
【0030】
以上により、本発明は、有効塩素の生成効率を向上し、高速で瞬時に拡散することにより、口腔内の隅々まで瞬時に行き渡らせることができる。従って、口腔内の殺菌を短時間で効率良く行うことができ、コンパクトで安全な電動歯刷子を提供することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の電動歯刷子によれば、口腔内の塩化物イオンを用い、電気分解により有効塩素を効率良く生成して、高速で瞬時に拡散するため、口腔内の隅々まで瞬時に行き渡らせる。従って、口腔内の洗浄及び殺菌を、短時間で効率よく行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明に係る電動歯刷子の実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1及び図2は、本発明の電動歯刷子の一例を示すものであり、この電動歯刷子1は、把持部2と、把持部2から延びて毛束32が植毛されたヘッド部3と、ヘッド部3に設けられた一対の電極35a、35bと、モータ4と、モータ4の運動をヘッド部3に伝動する駆動部5と、モータ4に電流を供給するモータ駆動電源61と、一対の電極35a、35bに電源を供給する電極用電源62とから概略構成されている。
【0033】
図示例のように、電動歯刷子は、使用者が掴む把持部2と、該把持部2の一端に取り付けられ、歯を擦掃する毛束32が植毛されたヘッド部3とが連なって細長に構成されている。把持部2の内部には、モータ4や駆動部5及び電源等が収容されるようになっている。
【0034】
把持部2は、細長に形成され、内部には、前記モータ4や駆動部5及び電源6等が収容される空間として確保された収容部21が設けられ、絶縁材料によって構成されている。把持部2の長手方向一端には、ヘッド部3が取り付けられるヘッド取付孔22が、前記収容部21に連通して開口するように設けられている。
また、把持部2の表面には、後述するモータスイッチ81及び塩素生成スイッチ82が取り付けられている。これらのスイッチ表面はゴム等で覆うことにより、絶縁及び防水構成とするのが好ましい。また、モータスイッチ81及び塩素生成スイッチ82は、把持部2の表面において、電動歯刷子1の使用時に、使用者が指で操作し易い位置に設けることが好ましい。
図示例では、把持部2は細長で直線状に形成されているが、把持部2は、電動歯刷子1を使用して口腔内の洗浄を行う際に手で把持しやすい形状に構成することが好ましく、適宜決定すれば良い。
【0035】
把持部2を構成する材質は特に限定されないが、例えば、ポリスチレン樹脂(PS)、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)、セルロースプロピオネート樹脂(CP)、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂(AS)、等の樹脂材料を単独又は混合して利用できる。把持部2の材質については、適宜決定して採用できるが、上述したように、把持部2を絶縁材料で構成することにより、電動歯刷子1の使用者の身体に電流が漏れる虞が無い。
【0036】
ヘッド部3は、植毛面33が設けられた細長のヘッド本体31と、刷毛が束ねられてなり、植毛面33に固定された毛束32とを有しており、植毛面33には棒状の電極35a、35bが、毛束32の両側方に対で配設されている。
ヘッド本体31の長手方向一端には、取付部34が、先端部34a方向に向かうに従って細くなるようにして設けられている。取付部34は、把持部2に形成されたヘッド取付孔22に対して、先端部34aから入り込ませるようにして、挿通自在に組み付けられるようになっている。先端部34aには、モータ4の回転運動を往復振動に変換してヘッド部3に伝動する駆動部5が接続されており、ヘッド部3全体を長手方向で往復振動させる構成になっている。
ヘッド本体31の内部には空洞部36が設けられており、電極35a、35bに接続されて電流を供給する導電線92が配設されている。図示例では、導電線92は、取付部34に設けられた孔部37に挿通され、把持部2内の収容部21に設けられた電極用電源62及び塩素生成スイッチ82に接続されている。
毛束32は、細長の刷毛が束ねられてなり、植毛面33の複数箇所に固定されている。毛束32は、電動歯刷子1を用いて歯磨きを行う際に歯を擦掃する。
【0037】
ヘッド部3の往復動作の速度は特に限定されないが、生成された有効塩素の拡散効果、歯の擦掃効果、使用感等を考慮して、1,000〜7,000(往復/分)の範囲となるように速度を設定することが好ましく、3,000〜6,000(往復/分)の範囲であれば一層好ましい。
ヘッド部3の往復動作が1,000(往復/分)未満の場合は、有効塩素の拡散効果や歯の擦掃効果が低下し、7,000(往復/分)を越えた場合は、使用者が不快に感じる虞がある。
【0038】
ヘッド本体31を構成する樹脂は特に限定されず、把持部4と同じ樹脂材料を用いても良いし、適宜決定して採用すれば良い。
【0039】
毛束32の材質は、公知の歯ブラシの刷毛を用いれば良く、例えば、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6−10、ナイロン6−12、ナイロン12等のポリアミド樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、及び、ポリフッ化ビニリデン等のポリハロゲン化ビニル等、溶融紡糸できる素材を使用することができる。これらの素材を単独又は混合して使用することができる他、導電用刷毛を用いる等、毛束32の材質については適宜決定して採用すれば良い。
【0040】
電極35a、35bは、電動歯刷子1を口腔内に挿入した際に、口腔内液に接触することによって通電回路を形成する一対の電極であり、導電性材料から構成される。
図示例のように、電極35a、35bは、口腔内における口腔内液との密着性を考慮して、植毛面33の毛束32両側方に配設されているが、電動歯刷子1の使用時に、口腔内液と接触できる位置であれば、電極35a、35bを設ける位置は特に限定されず、例えば植毛面33の背面側に電極35a、35bを設けても良い。
また、図示例では、電極35a、35bを棒状に構成して植毛部33の表面に取り付けているが、電極35a、35bは、該電極35a、35bの一部がヘッド部の表面に露出するように設けられていれば良く、電極35a、35bの形状や取付方法については適宜決定して採用することができる。
【0041】
電極35a、35bの材質としては、導電性材料であれば特に限定されず、例えば、白金、金、銅、亜鉛、スズ、ステンレス、カーボン等を採用することができる。また、上述の導電性材料を電極35a、32bの表面にメッキしたものを用いても良いし、導電性刷毛を用いても良い。
電極35a、35bは、両電極が口腔内液に接触して通電回路を形成することによって陽極側の電極から有効塩素を生成するものであり、ヘッド部3のように、振幅等の動作が行われる位置に取り付けることが、後述する有効塩素の生成効率の点で好ましい。
【0042】
また、電極35a、35bの電極間距離は、1mm以上20mm以下の範囲であることが好ましく、1mm以上15mm以下の範囲であることがより好ましい。電極間距離が1mm未満では、電極間距離が狭すぎて有効塩素の発生領域が狭くなり、殺菌のために必要十分な有効塩素が得られないので好ましくない。また電極間距離が20mmを越えると、有効塩素の発生領域が広すぎてしまい、局所的に有効塩素を発生させることができなくなるので好ましくない。なお厳密には、有効塩素は一対の電極35a、35bのうち、陽極側から発生し、発生した有効塩素は、主に陽極側を中心とする一定領域内に拡散する。
【0043】
モータ4は、把持部2の収容部21内に設けられ、モータ駆動電源61からモータ接続線91を介して電流が供給されて回転動作する。モータ4の起動及び停止は、モータスイッチ81を操作することによって行う。
モータ4は、出力軸(図示せず)に駆動部5が取り付けられ、該駆動部5を介してヘッド部3を振動させる構成となっている。
また、本実施形態の電動歯刷子1では、駆動源としてモータ4を用いているが、例えば超音波素子等を用いても良いし、駆動源については、適宜決定して採用すれば良い。
【0044】
駆動部5は、把持部2の収容部21内に設けられ、モータ4の回転運動を伝動してヘッド部3を駆動するものであり、本実施形態では、モータ4の回転運動を、駆動部5の長軸方向にスライドする往復振動に変換して、ヘッド部3を駆動する構成になっている。
駆動部5は、長軸方向一端側のモータ接続部5aがモータ4の回転軸(図示せず)に取り付けられ、他端側のヘッド接続部5bがヘッド部3に設けられた取付部34の先端部34aに取り付けられる。
本実施形態の電動歯刷子1では、モータ4の回転力を駆動部5で往復振動に変換してヘッド部3を駆動する構成を説明しているが、モータ4の動力をヘッド部3に伝動するものであれば、駆動部5については、上述の構成に限らず採用することができる。
【0045】
モータ駆動電源61は、モータ4に電流を供給する電源であり、電極用電源62は、後述する有効塩素生成回路7に電流を供給する電源である。
モータ駆動電源61及び電極用電源62は、電動歯刷子1の外部から交換可能に電池ボックスに収納されている構成とすることが好ましい。好ましくは乾電池、ボタン電池、ニッケル−カドミウム電池、ニッケル−水素電池、リチウムイオン電池等を用いることができる。モータ駆動電源61及び電極用電源62は、電池以外にも、半導体と金属による電位差を利用した電源や、光電変換素子などのいわゆる太陽電池が採用されてもよい。
【0046】
モータ駆動電源61は、モータ4を回転させてヘッド部3を往復振動させ、歯を擦掃できる電圧があれば良く、例えば、定格電圧が1〜12V程度の乾電池等を採用することができる。
【0047】
電極用電源62は、電源出力のための端子62a、62bを有し、図示例では、端子62aが有効塩素生成回路7に接続され、端子62bがヘッド部2に設けられた電極35bに接続されている。
電極用電源62は、供給電源として0.1〜12V程度あればよい。たとえば、定格電圧が1.5〜9V程度のボタン型電池を採用することができる。
電極用電源62には、増圧器及び抵抗器を用い、実際にかかる電圧を1.5〜9Vに調整するのが好ましい。
【0048】
電極用電源62として定格電圧が1.5〜9V程度のものを採用することにより、電極35a、35bの間の電位差を1.5V以上9V以下の範囲に設定することができる。電位差を特にこの範囲に設定することで、有効塩素を効率よく発生させることができる。電位差が1.5V未満では有効塩素が十分に発生しないので好ましくない。また、電位差が9Vを越えると、電動歯刷子1を口腔内で使用した際に、使用者に電気的ショックが加わる虞があり、好ましくない。
【0049】
モータ駆動電源61及び電極用電源62は、把持部2の収容部21内に収容できるように、小型の乾電池や充電池等で構成することが好ましいが、電動歯刷子の外部に電源部を設け、接続線等で電動歯刷子への電源供給を行う構成であっても良い。
また、本実施形態においては、モータ4及び有効塩素生成回路7に供給する電源を別々の構成としているが、電流調整手段を設け、共通の電源を用いるように構成しても良い。
【0050】
また、電動歯刷子1を使用する際の安全性を考慮し、モータ駆動電源61及び電極用電源62にタイマー回路を設けることにより、モータ4や電極35a、35bへの通電時間を、例えば30秒、1分、3分等の時間に設定することができる構成としても良い。
【0051】
有効塩素生成回路7は、口腔内液を介して電極35a、35b間に流れる電流の制御を行い、図示例では、回路端子71が電極用電源62の一方の端子62aに接続され、回路端子72が塩素生成スイッチ82の一端側に接続されている。電極用電源62の他方の端子62bは導電線92を介して電極35bに接続されており、塩素生成スイッチ82の他端側には導電線92を介して電極35aが接続されている。塩素生成スイッチ82は、口腔内液を介して電極35a、35b間に流れる電流の供給及び遮断の操作を行う。
有効塩素生成回路7を、口腔内液を介して電極35a、35b間に流れる電流値が、口腔内液の変化に左右されない定電流回路とする場合は、回路上に抵抗を介して構成すれば良く、用いる抵抗は固定抵抗でも可変抵抗でも良い。さらに、電流をより安定化させるために、トランジスタ等が付加されていてもよい。こうした定電流回路は、抵抗値が例えば750Ωないし4500kΩ程度の範囲であればよい。この構成によって、電極35a、35b間の抵抗値が大きく変化しても、電極35a、35b間の電流値を20μA〜3mA、好ましくは50μA〜2mAの規定値の範囲内に保つことが可能になる。従って、有効塩素の発生速度を常に一定に保つことができる。特に、有効塩素は経時劣化が大きいので、電流値を一定にして有効塩素の発生速度を一定に保つことで、有効塩素濃度をほぼ一定にすることができる。また、電流値を安定させることで、突入電流の発生を防止することができ、使用者に対する電気的ショックを低減させることもできる。
【0052】
なお、本実施形態では、モータスイッチ81と塩素生成スイッチ82とを別々に構成して操作する例を説明しているが、モータスイッチ81と塩素生成スイッチ82とが連動して、モータ4及び有効塩素生成回路7への電流の供給及び遮断を、同時に行うことができる構成としても良い。
【0053】
以上の構成により、電動歯刷子1を口腔内で使用した場合は、口腔内の塩化物イオンを用いて、電気分解により有効塩素を発生させることができ、口腔内において効率的に有効塩素を殺菌に用いることができる。
また、ヘッド部3に設けられた電極35a、35bが振動する構成となっているため、口腔内を洗浄しながら、有効塩素の生成効率を上昇させることができ、また、生成された有効塩素を瞬時に口腔内液に拡散することができる。これにより、有効塩素が短時間で殺菌に有効な濃度に達し、また、瞬時に口腔内の隅々に行き渡るため、口腔内の洗浄及び殺菌を、短時間で効率よく行うことができる。
【0054】
以下に、本発明に係る電動歯刷子の実施例について説明する。
【0055】
[電動歯刷子の仕様]
図1に示す、本発明にかかる電動歯刷子を作製した。
実験に用いた電動歯刷子は、安定した電流を提供するため、定電流を流す有効塩素生成回路用電源と、ヘッド部駆動(モータ駆動)用電源の、2つの電源を設けた。有効塩素生成回路では、ヘッド部に装着した一対の電極に直径0.8mm、長さ0.8mmの白金電極を採用し、2つの電極間の距離は10mmとした。電極の設置位置は、ヘッド部の植毛面側の毛束両側に設置した。有効塩素生成回路用電源にはボタン型電池を直列配列し、電位差を9Vとした。また定電流にするため、可変式抵抗器(MEXICO・BOURNS 100KΩ)およびトランジスター(FETK30−2K)を採用した。
一方、ヘッド部駆動(モータ駆動)用電源には3Vの乾電池を用いた。モータは小型モータ(マブチモータ社製)を用いた。
モータとヘッド部とを結ぶ冶具としては、長軸方向に往復動作するスライド軸を使用し、ヘッド部が往復振動するようにした。
【実施例1】
【0056】
以下の各実験例及び比較例に示すような電動歯刷子を使用して、電気分解により生成される有効塩素の濃度を測定した。
【0057】
[測定方法]
ビーカーに10mlの生理食塩水を入れ、実験例1〜3に示すような電動歯刷子を用い、刷毛部をビーカーに挿入し、1mAの一定電流が流れる条件で3分間稼動した。
また比較例として、実験例1の歯刷子を用いて、駆動部分の電源をOFFにして1mAの一定電流のみ流れる条件で、通常のブラッシングレベルの往復運動を、手動で3分間実施した。
開始から時系列的にビーカー内の有効塩素をサンプリングして、その濃度をSIBATA簡易測定キット及び吸光光度法を用いて測定した。
また、各実験例及び比較例における実験回数は各々3回として、☆その平均値を求めた。
【0058】
各実験例及び比較例の測定結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
[実験例1]
図1に示すような本発明にかかる電動歯刷子を使用し、振動条件は6,000ストローク/分とした。振動は、長軸方向の往復振動とした。
有効塩素濃度は、開始30秒後が8ppm、1分後が13ppm、3分後が23ppm、5分後が30ppmであった。
【0061】
[実験例2]
市販のソニケア(フィリップス社製)に、上述したような一定電流を流す有効塩素生成回路を付与した試作品を使用した(ソニケア音波歯刷子仕様:31,000ストローク/分)。
有効塩素濃度は、開始30秒後が10ppm、1分後が15ppm、3分後が25ppm、5分後が33ppmであった。
【0062】
[実験例3]
市販のクレストスピンブラシプロホワイト(P&G社製)に、上述したような一定電流を流す有効塩素生成回路を付与した試作品を使用した(クレストスピンブラシ仕様:反転回転+往復振動、7500ストローク/分)。
有効塩素濃度は、開始30秒後が8ppm、1分後が13ppm、3分後が22ppm、5分後が32ppmであった。
【0063】
[比較例1]
図1に示すような本発明に係る電動歯刷子を用い、モータへの通電を行わず、手動で往復運動を行った。
有効塩素濃度は、開始30秒後が1.5ppm、1分後が3ppm、3分後が10ppm、5分後が20ppmであった。
【0064】
[実施例1の結果]
表1より、実験例1〜3のいずれにおいても、開始直後30秒後、1分後の有効塩素の生成反応が手動よりも促進されることが明らかである。
比較例1のように、手動で往復運動を行った場合でも、開始3分後には10ppmの有効塩素濃度に達していたが、実験例1〜3のように電動歯刷子を用いて往復振動や音波による塩素の拡散を行った場合、短時間で有効な濃度に達することが明らかである。
従って、本発明に係る電動歯刷子で口腔内の洗浄及び殺菌を行った場合、通常の歯磨きに所要する3分間という短時間であっても、効率的に口腔内に有効塩素を生成でき、口腔内の洗浄及び殺菌を効率よく行うことができる。
【実施例2】
【0065】
[測定方法]
実験例1〜3に示す電動歯刷子を用いて、3分間稼動したときの口腔内細菌S.mutans菌に対する殺菌評価を実施した。
比較例1として、実験例1の電動歯刷子を用いて、モータの電源をOFFにして手動で往復運動させ、1mAの一定電流が流れる条件にした時の殺菌力について評価した。また、比較例2として、実験例1の電動歯刷子を用いて、モータの電源をONにして往復振動を行い、定電流の電源をOFFにして電極に電流が流れない条件にした時の殺菌力についても評価した。
培養したS.mutans菌が10cfu/mlになるように、滅菌生理食塩水を用いて調整した。
調整した菌液10mlをガラス試験管に移し、上記の実験例1〜3及び比較例1〜2の電動歯刷子を用いて3分間処理を行い、処理後の菌数をコロニーカウント法で測定した。
【0066】
各電動歯刷子を用いた測定結果に基き、以下の評価基準で合否判定(◎○×で表記)した。
(1)◎:10cfu/ml→10cfu/ml以下まで殺菌。
(2)○:10cfu/ml→10cfu/mlまで殺菌。
(3)×:変化なし。
【0067】
上記評価基準による判定を表2に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
[実験例1]
図1に示すような本発明にかかる電動歯刷子を使用し、振動条件は6,000ストローク/分とした。振動は、長軸方向の往復振動とした。
S.mutans菌が、10cfu/ml→10cfu/ml以下まで殺菌された。
結果は◎であった。
【0070】
[実験例2]
市販のソニケア(フィリップス社製)に、上述したような一定電流を流す有効塩素生成回路を付与した試作品を使用した(ソニケア音波歯刷子仕様:31,000ストローク/分)。
S.mutans菌が、10cfu/ml→10cfu/ml以下まで殺菌された。
結果は◎であった。
【0071】
[実験例3]
市販のクレストスピンブラシプロホワイト(P&G社製)に、上述したような一定電流を流す有効塩素生成回路を付与した試作品を使用した(クレストスピンブラシ仕様:反転回転+往復振動、7500ストローク/分)。
S.mutans菌が、10cfu/ml→10cfu/ml以下まで殺菌された。
結果は◎であった。
【0072】
[比較例1]
図1に示すような本発明に係る電動歯刷子を用い、モータへの通電を行わず、手動で往復運動を行った。
S.mutans菌が、10cfu/ml→10cfu/mlまで殺菌された。
結果は○であった。
【0073】
[比較例2]
図1に示すような本発明に係る電動歯刷子を用い、モータに通電して往復振動を行い、電極には電流が流れない状態とした。
S.mutans菌は、10cfu/mlから変化が無かった。
結果は×であった。
【0074】
[実施例2の結果]
S.mutans菌に対する殺菌効果は、手動条件よりも、振動及び音波による振動を加えた時の方が高いことが明らかとなった。
従って、本発明に係る電動歯刷子で歯磨きを行った場合、歯磨きに所要する3分間という短時間であっても、口腔内を殺菌する効果が著しく向上する。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の歯ブラシの一例を示す断面図である。
【図2】図1に示す歯ブラシの要部を示す概略図である。
【符号の説明】
【0076】
1…電動歯刷子、2…把持部、3…ヘッド部、35a、35b…電極、32…毛束、33…植毛面、4…モータ、5…駆動部、61…モータ駆動電源、62…電極用電源、7…有効塩素生成回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
把持部と、前記把持部から延びて毛束が植毛されたヘッド部と、前記ヘッド部に設けられた一対の電極と、モータと、該モータの運動を前記ヘッド部に伝動する駆動部と、前記一対の電極及びモータに電流を供給する電源とを具備し、
塩化物イオンを含有する口腔内液に前記一対の電極を接触させた状態で前記電極間を通電させることによって、前記塩化物イオンを有効塩素に変化させるように構成されたことを特徴とする電動歯刷子。
【請求項2】
前記一対の電極が、ヘッド部の植毛面に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電動歯刷子。
【請求項3】
前記口腔内液を生理食塩水としたときに、発生する有効塩素の濃度が2〜100ppmの範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電動歯刷子。



【図1】
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【図2】
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