説明

電場の確立に付随したピークの広幅化を少なくする方法および装置

【課題】毛細管電気泳動過程での作業電場の確立に付随したピーク広幅化を少なくする方法、およびこのような方法を行うのに有用な装置を提供すること。
【解決手段】このような方法は、初期電場傾斜中に使用される最大傾斜速度を規定する工程、その作業電場が確立される最短時間を規定する工程、および/または初期電場傾斜中に、分離媒体の温度を一定範囲内に維持する工程を包含する。それに加えて、ピーク広幅化を少なくするのに効果的な傾斜速度を決定する方法が開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、毛細管電気泳動を実行する方法および装置に関する。さらに具体的には、本発明は、この毛細管電気泳動方法を行うのに使用される作業の確立中に起こるピーク広幅化を少なくする方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
(背景)
生体高分子および小分子の電気泳動分離は、現代の生物学および生物工学で極めて重要であり、DNA配列決定、タンパク質の分子量決定、遺伝子地図作製などのような技術において、中心的な役割を果たす。特に好ましい電気泳動フォーマットは、毛細管電気泳動(CE)であり、その電気泳動は、内径が小さい(例えば、5μmと100μmの間)毛細管チャンネルで実行される。多くの用途では、毛細管電気泳動は、狭いボアの毛細管がジュール熱を消散する性能によって、高い電場を使用することが可能となり、それにより、分離が速くなって、分析物の拡散効果が少なくなるので、伝統的なスラブベースのフォーマットよりも高い分離性能が得られる。それに加えて、毛細管電気泳動は、試料装填工程、分析物検出工程および分離媒体補充工程を自動化する性能があるために、自動化に適している。
【0003】
毛細管電気泳動の商業的に重要な特定の用途には、極めて高い分離効率が必要である。例えば、DNA配列決定分離では、1メートルあたり二千万枚のプレート数が必要であり得る。この種の性能を達成するために、ピーク広幅化(従って、低い分離効率)、例えば、この毛細管の管腔内での放射状温度プロフィール、その試料注入容量、溶質−壁相互作用、サイホン作用、有限検出容量などにより生じるピーク広幅化を引き起こし得る機器の影響を少なくするように、可能な限り、あらゆることを行わなければならない(例えば、Capillary Electrophoresis Theory and Practice,Chap.1,Grossman and Colburn著、Academic Press(1992))。それに加えて、大規模なDNA配列決定操作では、高い処理能力が必要とされているために、その電気泳動分析の分離性能を高めるために行うあらゆる手段は、好ましくは、その速度を著しく遅くせず、従って、その工程の処理能力を低下させないようにする。
【0004】
従って、その分析速度を犠牲にすることなく、ピーク広幅化の根底にある機構およびCE分離に対するこのような機構の影響を減少するための技術をさらに理解すれば、毛細管電気泳動および関連した用途の分野に対して、重要な寄与となる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
(要旨)
本発明は、毛細管電気泳動プロセスの初期電場傾斜段階中での電場強度および/または流体分離媒体の温度の上昇割合を制御することにより、該分離媒体で実行される毛細管電気泳動分離の分離性能を高めるのに有用な方法および装置の発見に関する。
1局面では、本発明は、毛細管電気泳動方法を包含し、ここで、作業電場は、規定傾斜速度に従った制御様式で、初期電場傾斜中に確立される。本発明のこの局面の好ましい実施形態では、該作業電場は、約5V/cm−s以下の傾斜速度で、確立される。本発明のこの局面の他の好ましい実施形態では、該作業電場は、少なくとも約10秒間にわたって確立される。本発明のこの局面のさらに他の好ましい実施形態では、該作業電場は、該作業電場の該確立に付随したピーク広幅化の量を少なくとも約10%だけ少なくする傾斜速度で、確立される。本発明のこの局面の他の好ましい実施形態では、該作業電場は、該作業電場が制御様式で確立されていないときに達成される読み長さよりも少なくとも約20個のヌクレオチドだけ読み長さを大きくする傾斜速度で、確立される。
【0006】
他の局面では、本発明は、作業電場の確立中に起こるピーク広幅化の量の所望の低減を生じる方法を包含し、該方法は、複数の異なる傾斜速度の各々で、該作業電場を確立する工程であって、該傾斜速度の少なくとも一部は、約5V/cm−s以下である工程;各作業に対して観察されたピーク広幅化の程度を分析する工程;およびピーク広幅化の所望の低減が生じた傾斜速度以下の傾斜速度を選択する工程を包含する。
【0007】
さらに他の局面では、本発明は、毛細管電気泳動方法を包含し、ここで、分析物種は、作業電場の影響下にて、毛細管内に位置している流体分離媒体を介して、差動電気泳動移動により分離され、該作業電場の確立に付随したピーク広幅化を少なくする改良点は、初期電場傾斜中における該毛細管を取り囲む環境の温度を下げる工程を包含する。好ましい1実施形態では、該毛細管を取り囲む該環境の該温度は、該初期電場傾斜中の該分離媒体の平均温度をこのような初期電場傾斜を開始する前の該分離媒体の平均温度の約0.4℃以内まで維持するのに十分な量だけ、下げられる。他の好ましい実施形態では、初期電場傾斜中における該毛細管を取り囲む環境の温度は、該初期電場傾斜中の該分離媒体の平均温度をこのような初期電場傾斜中の該毛細管の入口末端で約600μm未満の該流体分離媒体の位置ずれを生じるのに十分な範囲まで該初期電場傾斜を開始する前の該分離媒体の平均温度に関して実質的に一定に維持するのに十分な量だけ、下げられる。さらに他の好ましい実施形態では、該初期電場傾斜中における該毛細管を取り囲む環境の温度は、初期電場傾斜中の分離媒体の平均温度を少なくとも約20個のヌクレオチドだけ読み長さを大きくするのに十分な範囲まで該初期電場傾斜を開始する前の該分離媒体の平均温度に関して実質的に一定に維持するのに十分な量だけ、下げられる。
【0008】
本発明のこれらのおよび他の局面、実施形態および特徴は、以下の説明、図面および添付の請求の範囲を参照して、よく理解できる。
【0009】
例えば、本発明は以下の項目を提供する。
【0010】
(項目1) 毛細管電気泳動方法であって、ここで、分析物種は、作業電場の影響下にて、流体分離媒体を介して、差動電気泳動移動により分離され、該作業電場を確立したときに起こるピーク広幅化を少なくする改良点は、
約5V/cm−s以下の傾斜速度で該作業電場を確立する工程を包含する、
方法。
【0011】
(項目2) 前記傾斜速度が、約0.05V/cm−s〜約3.0V/cm−sの範囲である、項目1に記載の方法。
【0012】
(項目3) 前記傾斜速度が、約0.1V/cm−s〜約1.0V/cm−sの範囲である、項目1に記載の方法。
【0013】
(項目4) 前記流体分離媒体が、非架橋重合体を含有する緩衝液である、項目1に記載の方法。
【0014】
(項目5) 前記流体分離媒体が、緩衝液である、項目1に記載の方法。
【0015】
(項目6) 前記作業電場が、約50V/cm〜約3000V/cmの範囲である、項目1に記載の方法。
【0016】
(項目7) 前記分析物種が、核酸である、項目1に記載の方法。
【0017】
(項目8) 毛細管電気泳動方法であって、ここで、分析物種は、作業電場の影響下にて、流体分離媒体を介して、差動電気泳動移動により分離され、該作業電場を確立したときに起こるピーク広幅化を少なくする改良点は、
少なくとも約10秒間にわたって、該作業電場を確立する工程を包含する、
方法。
【0018】
(項目9) 前記作業電場が、約20秒間〜約4000秒間の範囲の期間にわたって確立される、項目8に記載の方法。
【0019】
(項目10) 毛細管電気泳動方法であって、ここで、分析物種は、作業電場の影響下にて、流体分離媒体を介して、差動電気泳動移動により分離され、該作業電場の確立に付随したピーク広幅化を少なくする改良点は、
該作業電場の該確立に付随したピーク広幅化の量を少なくとも約10%だけ少なくする傾斜速度で、該作業電場を確立する工程を包含する、
方法。
【0020】
(項目11) 毛細管電気泳動方法であって、ここで、分析物種は、作業電場の影響下にて、流体分離媒体を介して、差動電気泳動移動により分離され、ピーク広幅化量の所望の低減を生じる改良点は、
複数の電気泳動作業の各々に対して、複数の異なる傾斜速度の各々で、該作業電場を確立する工程であって、該傾斜速度の少なくとも一部は、約5V/cm−s以下である工程;
各作業に対して観察されたピーク広幅化の程度を分析する工程;および
ピーク広幅化の所望の低減が生じた傾斜速度以下の傾斜速度を選択する工程を包含する、
方法。
【0021】
(項目12) 核酸種が、作業電場の影響下にて、流体分離媒体を介して、差動電気泳動移動により分離される型の毛細管電気泳動方法であって、改良点は、
該作業電場が制御様式で確立されていないときに達成される読み長さよりも少なくとも約20個のヌクレオチドだけ読み長さを大きくするのに十分な規定傾斜速度に従って、制御様式で、該作業電場を確立する工程を包含する、
方法。
【0022】
(項目13) 毛細管電気泳動を実行する方法であって、該方法は、
管腔を有する毛細管電気泳動チャンネルを提供する工程;
該管腔に位置している流動性分離媒体を提供する工程;
該管腔に分析物種を導入する工程;
該管腔内で、該分析物種の電気泳動を起こすのに十分な作業電場を確立する工程を包含し、
ここで、該作業電場は、約5V/cm−s以下の傾斜速度で確立される、
方法。
【0023】
(項目14) 毛細管電気泳動方法であって、ここで、分析物種は、作業電場の影響下にて、毛細管内に位置している流体分離媒体を介して、差動電気泳動移動により分離され、該作業電場の確立に付随したピーク広幅化を少なくする改良点は、
初期電場傾斜中の該分離媒体の平均温度を、このような初期電場傾斜を開始する前の該分離媒体の温度の約0.4℃以内まで維持するのに十分な量だけ、該初期電場傾斜中における該毛細管を取り囲む環境の温度を下げる工程を包含する、
方法。
【0024】
(項目15) 初期電場傾斜中の前記分離媒体の前記温度が、該初期電場傾斜を開始する前の該分離媒体の温度の約0.2℃以内まで維持される、項目14に記載の方法。
【0025】
(項目16) 初期電場傾斜中の前記分離媒体の前記温度が、該初期電場傾斜を開始する前の該分離媒体の温度の約0.1℃以内まで維持される、項目14に記載の方法。
【0026】
(項目17) 毛細管電気泳動方法であって、ここで、分析物種は、作業電場の影響下にて、毛細管内に位置している流体分離媒体を介して、差動電気泳動移動により分離され、該作業電場の確立に付随したピーク広幅化を少なくする改良点は、
初期電場傾斜中の該分離媒体の平均温度を、このような初期電場傾斜中の該毛細管の入口末端で約600μm未満の該流体分離媒体の位置ずれを生じるのに十分な範囲まで、該初期電場傾斜を開始する前の該分離媒体の平均温度に関して実質的に一定に維持するのに十分な量だけ、該初期電場傾斜中における該毛細管を取り囲む環境の温度を下げる工程を包含する、
方法。
【0027】
(項目18) 前記初期電場傾斜中の前記流体分離媒体の前記位置ずれが、約200μm未満である、項目17に記載の方法。
【0028】
(項目19) 前記初期電場傾斜中の前記流体分離媒体の前記位置ずれが、約20μm未満である、項目17に記載の方法。
【0029】
(項目20) 毛細管電気泳動方法であって、ここで、核酸種は、作業電場の影響下にて、毛細管内に位置している流体分離媒体を介して、差動電気泳動移動により分離され、該作業電場の確立に付随したピーク広幅化を少なくする改良点は、
初期電場傾斜中の分離媒体の平均温度を、少なくとも約20個のヌクレオチドだけ読み長さを大きくするのに十分な範囲まで、該初期電場傾斜を開始する前の該分離媒体の平均温度に関して実質的に一定に維持するのに十分な量だけ、該初期電場傾斜中における該毛細管を取り囲む環境の温度を下げる工程を包含する、
方法。
【0030】
(項目21) 前記初期電場傾斜中の分離媒体の平均温度を、少なくとも約50個のヌクレオチドだけ読み長さを大きくするのに十分な範囲まで、該初期電場傾斜を開始する前の該分離媒体の平均温度に関して実質的に一定に維持するのに十分な量だけ、該初期電場傾斜中における該毛細管を取り囲む環境の温度が下げられる、項目20に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1A】図1Aは、種々の代替的で不連続な多段階電場対時間プロフィールを含む数個の代表的な初期電場傾斜の概略図を示す。
【図1B】図1Bは、種々の代替的で不連続な多段階電場対時間プロフィールを含む数個の代表的な初期電場傾斜の概略図を示す。
【図1C】図1Cは、種々の代替的で不連続な多段階電場対時間プロフィールを含む数個の代表的な初期電場傾斜の概略図を示す。
【図1D】図1Dは、種々の代替的で不連続な多段階電場対時間プロフィールを含む数個の代表的な初期電場傾斜の概略図を示す。
【図2】図2は、種々の代替的で連続的な電場対時間プロフィールを含む代表的な初期電場傾斜のいくつかの概略図を示す。
【図3】図3は、初期電場傾斜を使用することなく、また、8M尿素を含有する分離媒体を使用して、多数の作業電場の各々における約96本の異なる毛細管での700個のヌクレオチドDNA断片のLOR対移動時間のプロットを示す。
【図4】図4は、初期電場傾斜を使用することなく、また、6M尿素を含有する分離媒体を使用して、多数の作業電場の各々における約96本の異なる毛細管での700個のヌクレオチドDNA断片のLOR対移動時間のプロットを示す。
【図5】図5は、0.25V/cm−sの初期電場傾斜を使用し、また、8M尿素を含有する分離媒体を使用して、多数の作業電場の各々における約96本の異なる毛細管での700個のヌクレオチドDNA断片のLOR対移動時間のプロットを示す。
【図6】図6は、0.25V/cm−sの初期電場傾斜を使用し、また、6M尿素を含有する分離媒体を使用して、多数の作業電場の各々における約96本の異なる毛細管での700個のヌクレオチドDNA断片のLOR対移動時間のプロットを示す。
【図7】図7は、160V/cmの作業電場および8M尿素を含有する分離媒体を使用して、LORに対する初期電場傾斜の種々の傾斜速度の効果を示す。
【図8】図8は、120V/cmの電場および6M尿素を含有する分離媒体を使用して、分解能限界に対する初期電場傾斜の種々の傾斜速度の効果を示す。
【図9】図9は、8M尿素を含有する分離媒体での作業電場の関数としてのLORに対する0.25V/cm−sの傾斜速度を有する初期電場傾斜を使用することの効果を示す。
【図10】図10は、6M尿素を含有する分離媒体での作業電場の関数としてのLORに対する0.25V/cm−sの傾斜速度を有する初期電場傾斜を使用することの効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(好ましい実施形態の詳細な説明)
今ここで、本発明の好ましい実施形態を詳細に参照するが、それらの例は、添付の図面で図示されている。本発明は、好ましい実施形態に関連して記述されているものの、このような実施形態は、本発明をそれらの実施形態に限定するように解釈されないことが分かる。逆に、本発明は、代替物、改良物および等価物を含むように解釈され、これらは、添付の請求の範囲で描写されるように、本発明の範囲内であり得る。
【0033】
本発明は、部分的には、作業電場がまず確立されたときに相当な量のピーク広幅化が起きること、およびこのようなピーク広幅化は、初期電場傾斜中において制御様式で作業電場を確立することにより、および/または作業電場の確立中において分離媒体の温度を一定値で維持することにより、大きく低減できるという発見に基づいている。
【0034】
(I.定義)
他に述べられていなければ、本明細書中で使用する以下の用語および語句は、以下の意味を有するように解釈される:
「分離媒体」とは、そこを通って電気泳動分離を行う毛細管の管腔内に典型的に位置している媒体を意味する。代表的な分離媒体には、架橋ゲル、未架橋重合体溶液、または重合体を含まない溶媒(例えば、緩衝水)が挙げられる。必要に応じて、分離媒体は、変性剤、例えば、分散剤(例えば、SDS)または有機物(例えば、尿素またはホルムアミド)を含有し得る。
【0035】
「流体分離媒体」とは、運動がないと剪断応力を保持できない電気泳動分離媒体、すなわち、剪断応力に応答して流動する媒体を意味する。流体分離媒体の例には、液体および溶液(例えば、緩衝化した重合体水溶液)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
「作業電場」とは、電気泳動分離を行うのに使用する電場を意味する。毛細管電気泳動で使用する典型的な作業電場は、約50V/cm〜約3000V/cmまたはそれ以上の範囲である。
【0037】
「初期電場傾斜」とは、作業電場が最初に確立される期間における電場対時間のプロフィールを意味する。
【0038】
「傾斜速度」とは、初期電場傾斜の全経過時間Tで割った作業電場Eを意味する。例えば、もし、作業電場が100V/cmであり、この作業電場に達するための初期電場傾斜が10秒かかるなら、傾斜速度は、10V/cm−sである。
【0039】
「毛細管」または「毛細管チューブ」とは、一定容量の分離媒体を支持できるチューブまたはチャンネルまたは他の構造体を意味する。毛細管の形状は、大きく変わり得、円形、長方形または正方形の断面を備えたチューブ、チャンネル、グローブド(groved)プレートなどが挙げられる。毛細管は、広範囲の周知技術(例えば、引張り、エッチング、光食刻法など)により作製され得る。本発明と共に使用する毛細管の重要な特徴には、その毛細管管腔の表面積:容量比がある。この比が高いと、電気泳動中に生じるジュール熱の効率的な消散が可能となる。好ましくは、約0.4〜0.04μm-1の範囲の比が使用される。これらの比は、約10μm〜約100μmの範囲の内径を有する円形断面を備えた管状毛細管の表面積:容量比に相当している。毛細管は、個々の要素として、またはモノリシック基板で形成されるチャンネルとして、形成され得る(例えば、Pace,米国特許第4,908,112号;Soane and Soane,米国特許第5,126,022号)。毛細管は、そこを通って試料分析物が毛細管の管腔へと導入される「入口末端」を含む。
【0040】
(II.好ましい実施形態の説明)
CE毛細管で作業電場が確立されたとき、この毛細管の管腔に位置している分離媒体の温度は、一般に、ジュール加熱のために高くなる(例えば、Capillary Electrophoresis Theory and Practice,Chap.1,Grossman and Colburn著、Academic Press,(1992))。ジュール加熱の結果、分離媒体の平均温度の上昇ΔTだけでなく、分離媒体の温度が管腔の中心線で高くなり周辺で低くなるように、分離媒体内で放物線状の放射温度プロフィールが形成される。
【0041】
温度上昇ΔTの規模は、多数のパラメータの関数であり、これらのパラメータには、この毛細管の形状、材料および寸法、この分離媒体および毛細管の材料の熱伝導性、毛細管と周囲の環境との間の熱移動効率、分離媒体の導電率、および分離媒体の導電率の温度依存性の規模が挙げられるが、これらに限定されない。ΔTの規模は、一般に、これらのパラメータの非線形関数である。
【0042】
一般に、物質が加熱されるとき、その構成原子のさらに激しい熱振動があるために、その物質は膨張する。温度上昇に応答して物質が膨張する程度は、その熱膨張率によって特徴付けられ、この場合、本明細書中で使用する「熱膨張率」との用語は、物質の温度上昇の結果として、その物質の初期寸法(例えば、長さ、面積または容量)に対する物質の寸法の増大に関連した比例定数を意味する。例えば、最初の近似値に対して、熱膨張による物質の長さの増大は、ΔL/Lは、以下の関係に従って、温度変化ΔTと比例している:ΔL/L=αLΔT
ここで、αLは、その物質の線膨張率である。しかしながら、綿密に検査すると、αLは、一般に、絶対的に一定ではなく、むしろ、温度と共に僅かに上昇することが分かる。数種の選択した物質の線膨張率の代表的な値は、以下の表1で示す。
【0043】
【表1】

【0044】
流体物質が、堅い壁および少なくとも1個の開放末端を有するチャンネルで、熱膨張を受けるとき、流れが誘発されて、この流体物質の有限な位置ずれが起こる。本発明者は、このような膨張で駆動された流れが、一定操作条件下にて、毛細管電気泳動過程の初期電場傾斜部分の間で現れること、およびこのような流れにより引き起こされる分離媒体の位置ずれが、分離性能に好ましくない影響を与え得ることを発見した。さらに、本発明者は、この効果が、CE技術分野で頻繁に見られるものと類似のシステム、すなわち、流体分離媒体、高い電場、および剛性材料から形成された長く狭いチャンネル(例えば、50μmの内径および50cmの長さを有する溶融シリカ毛細管チューブ)を使用するシステムにおいて、特に顕著に見られると決定した。特に、最初の近似値に対して、初期電場傾斜中における流体分離媒体の位置ずれの広がりによって、本発明者は、この位置ずれが、(1)毛細管の長さの増大と共に大きくなり、(2)流体分離媒体の熱膨張率の上昇と共に大きくなり、(3)流体分離媒体の導電性が高くなるにつれて大きくなり、(4)毛細管の外面とその周囲との間の熱移動率が低くなるにつれて大きくなり、(5)作業電場が高くなるにつれて大きくなり、そして(6)毛細管の内径が増大するにつれて大きくなることを発見した。
【0045】
前述の理論的な考察は、本発明を理解し説明するのを助けるために提供されているものの、この考察は、決して、本発明の範囲をこのまたは他の任意の特定の理論的な形態に限定するものと見なすべきではない。
【0046】
第一局面では、本発明は、流体分離媒体を使用するCE分離で作業電場を制御せずに確立することにより引き起こされるピーク広幅化の量を少なくする方法および装置を包含する。さらに具体的には、本発明のこの局面は、分析物種(例えば、核酸)が作業電場Eの影響下にて流体分離媒体を介して差動電気泳動移動により分離される毛細管電気泳動システムを包含し、ここで、この作業電場は、特徴的な傾斜速度を有する規定電場対時間プロフィールに従って、制御様式で、初期電場傾斜中にて、確立される。
【0047】
本発明に従った代表的な好ましい電場対時間プロフィールには、不連続な多段階プルフィール、連続線形プロフィール、連続非線形プロフィール、またはこのような非連続プロフィールおよび連続プロフィールの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。それに加えて、この初期電場傾斜の経過時間Tおよび作業電場Eの値は、要求に応じて、特定の用途により変えられ得る。好ましくは、この初期電場傾斜は、電場対時間プロフィールを含み、これは、ピーク広幅化を少なくするだけでなく、ピーク広幅化の所望の低減に一致したできるだけ短い経過時間Tで作業電場Eを達成するのに役立つ。
【0048】
好ましい1実施形態では、この初期電場傾斜は、複数の不連続段階を含む電場対時間プロフィールにより特徴付けられ、この場合、各段階は、電場および時間の特定の変化ΔEおよびΔtにより特徴付けられる。図1Aは、このような不連続な多段階の電場対時間プロフィールの概略図である。一般に、ΔEが小さくなるかおよび/またはΔtが大きくなるにつれて、この初期電場傾斜のピーク広幅化に対する影響は、少なくなる。
【0049】
特に好ましい1実施形態では、この初期電場傾斜は、複数の不連続段階を含む電場対時間プロフィールにより特徴付けられ、ここで、各段階に対するΔEおよびΔtの値は、例えば、図1Aで概略的に描写するように、等しい。それゆえ、このような電場対時間プロフィールを特徴付けるためには、作業電場Eに対する値、各段階での電場の変化ΔE、および各段階に対する時間Δtを特定する必要があるにすぎない。
【0050】
他の好ましい実施形態では、この初期電場傾斜は、複数の不連続段階を含む電場対時間プロフィールにより特徴付けられ、ここで、各段階に対するΔEおよびΔtの値は、例えば、図1B、図1Cおよび図1Dで概略的に描写するように、等しくない。図1Bは、不連続な多段階の電場対時間プロフィールを含む初期電場傾斜の概略図を示し、ここで、ΔEおよびΔtの両方の値は、各段階で大きくなっている。あるいは、図1Cは、電場対時間プロフィールを含む初期電場傾斜の概略図を示し、ここで、ΔEの値は、各段階で小さくなっており、そしてΔTの値は、各段階に対して同じである。最後に、図1Dは、電場対時間プロフィールを含む初期電場傾斜の概略図を示し、ここで、ΔEおよびΔtの両方の値は、各段階で無秩序に変わっている。ジュール加熱により起こる毛細管管腔の内側での温度上昇は、典型的には、電場強度の増大する非線形関数であるので、図1Cで概略的に描写している電場対時間プロフィール(ここで、ΔEの値は、各段階で小さくなっている)は、それが、この初期電場傾斜の経過時間Tが短くなると同時に、ピーク広幅化に対する初期電場傾斜の影響を少なくするのに役立つために、特に好ましい。
【0051】
E、ΔEおよびΔtの値は、好ましくは、不連続な多段階の電場対時間プロフィールを含む初期電場傾斜を使用している間、特定用途の要件に依存して変わるものの、作業電場値Eの値は、約50V/cmと3000V/cmの間であり、1段階あたりの時間Δtは、約5秒と200秒の間であり、そして1段階あたりの電場の変化ΔEは、約1V/cmと200V/cmの間である。さらに好ましくは、Eは、約80V/cmと320V/cmの間であり、Δtは、約10秒と100秒の間であり、そしてΔEは、約2V/cmと60V/cmの間である。
【0052】
他の好ましい実施形態では、この初期電場傾斜は、連続的な電場対時間プロフィールにより特徴付けられる。図2で示すように、この連続的な電場対時間プロフィールは、線形(例えば、図2の直線1)、凹状(例えば、図2の曲線2)、凸状(例えば、図2の曲線3)、または線形、凹状および/または凸状の種々の組合せ(例えば、図2の曲線4)であり得る。図1Cに関連して述べると、好ましくは、その連続的な電場対時間プロフィールは、ジュール加熱により起こる温度上昇の通常の非線形性のために、線形または凸状である。
【0053】
本発明のこの局面の他の好ましい実施形態では、この初期電場傾斜は、階段状プロフィールおよび連続プロフィールの組合せを含む電場対時間プロフィールにより、特徴付けられる。
【0054】
ピーク広幅化を少なくする(従って、分離性能を改良する)特定範囲の初期電場傾斜の傾斜速度値は、多数の実験パラメータに依存しており、これには、毛細管の形状、材料および寸法(特に、毛細管の長さ)、分離媒体および毛細管の熱伝導率、分離媒体の熱膨張率と毛細管の熱膨張率との差、毛細管と周囲の環境との間の熱移動の効率、分離媒体の導電率、および分離媒体の導電率の温度依存性が挙げられる。特に、最初の近似値に対して、(1)毛細管の長さの増大と共に、(2)流体分離媒体の熱膨張率の上昇と共に、(3)流体分離媒体の導電性が高くなるにつれて、(4)毛細管の外面とその周囲との間の熱移動率が低くなるにつれて、(5)作業電場が高くなるにつれて、そして(6)毛細管の内径が増大するにつれて、より低い傾斜速度が必要となる。
【0055】
従って、一定セットの操作条件下にて、ピーク広幅化を少なくする初期電場傾斜の傾斜速度を決定するためには、以下の手順が使用され得る。まず、複数の電気泳動作業の各々に対して、初期電場傾斜を使用して、作業電場を確立し、この場合、各作業は、異なる傾斜速度を使用し、また、この傾斜速度の少なくとも一部は、約5V/cm−s以下である。次に、例えば、各作業において、選択したピークの半分の高さでのピーク幅を測定することにより、各作業に対して観察されるピーク広幅化の程度を分析する。最後に、好ましい傾斜速度として、ピーク広幅化を所望程度で少なくするものを選択する。
【0056】
使用する特定の傾斜プロフィール(例えば、段差、連続、または段差と連続の組合せ)とは関係なく、好ましくは、この初期電場傾斜の傾斜速度は、約5V/cm−s未満である。さらに好ましくは、この初期電場傾斜の傾斜速度は、約0.05V/cm−s〜約3.0V/cm−sの範囲である。特に好ましい実施形態では、この傾斜速度は、約0.1V/cm−s〜約1.0V/cm−sの範囲である。
【0057】
あるいは、この作業電場は、少なくとも約10秒の経過時間Tを有する初期電場傾斜を使用して、確立すべきである。さらに好ましくは、この作業電場は、約20秒〜約500秒の経過時間Tを有する初期電場傾斜を使用して、確立すべきである。さらに好ましくは、この作業電場は、約500秒〜約4000秒の経過時間Tを有する初期電場傾斜を使用して、確立すべきである。
【0058】
好ましくは、作業電場Eは、約50V/cmと3000V/cmの間の範囲、さらに好ましくは、約80V/cmと500V/cmの間の範囲である。
【0059】
本発明のこの第一局面のさらに他の好ましい実施形態では、この作業電場は、初期電場傾斜を使用しないときに見られるものと比較して、この作業電場の確立に付随したピーク広幅化の低減が少なくとも約10%の量となる傾斜速度、さらに好ましくは、ピーク広幅化の低減が少なくとも約25%の量となる傾斜速度、ピーク広幅化の低減が少なくとも約40%の量となる傾斜速度を有する初期電場プロフィールを使用して、確立される。
【0060】
本発明の他の好ましい実施形態では、その分析物種は、核酸であり、その作業電場は、初期電場傾斜を使用しないときに見られるものと比較して、少なくとも約20個のヌクレオチド、好ましくは、約40個のヌクレオチド、さらに好ましくは、約80個のヌクレオチドだけ読み長さを大きくする傾斜速度を有する初期電場プロフィールを使用して、確立される。
【0061】
他の局面では、本発明は、初期電場傾斜中において、この分離媒体の平均温度を実質的に一定の値で維持するのに十分な量だけ、初期電場傾斜中における毛細管を取り囲む環境の温度を下げることにより、CE分離で作業電場を適用することにより起こるピーク広幅化の量を少なくする方法および装置を包含する。本明細書中で使用する「平均温度」との用語は、空間的な平均温度を意味し、この場合、この温度は、電気泳動移動方向に垂直な寸法(例えば、円筒形毛細管の場合、この寸法は、その半径である)を横切って、平均化される。
【0062】
特に、本発明のこの局面の方法によれば、この初期電場傾斜中において、この毛細管を横切る電場が大きくなるにつれて、この毛細管を取り囲む環境の温度は、毛細管の管腔内に位置している分離媒体の平均温度を初期電場傾斜を開始する前の分離媒体の平均温度の約0.4℃以内(さらに好ましくは、初期電場傾斜を開始する前の分離媒体の平均温度の約0.2℃以内、さらにより好ましくは、初期電場傾斜を開始する前の分離媒体の平均温度の約0.1℃以内)で維持するのに十分な量だけ、下げられる。
【0063】
本発明のこの第二局面の他の好ましい実施形態では、この初期電場傾斜中において、この毛細管の管腔内に位置している流体分離媒体の温度は、このような初期電場傾斜中の毛細管の入口末端で約600μm未満(好ましくは、約200μm未満、さらに好ましくは、約20μm未満)の流体分離媒体の位置ずれを生じるのに十分な量だけ、この毛細管を取り囲む環境の温度を下げることにより、初期電場傾斜を開始する前の分離媒体の平均温度に関して実質的に一定に維持される。
【0064】
本発明のこの局面の好ましい1実施形態では、この毛細管の管腔内に位置している分離媒体の温度は、毛細管を横切って加えられる電場と毛細管を通って測定した電流との間の関係を測定することにより、モニターされる。いかにして、特定の分離媒体の伝導率が温度の関数として変わるかを知ることにより、この電場が大きくなるにつれて、分離媒体の温度の正確な測定値を得ることが可能となる。それゆえ、この分離媒体の温度が上昇し始めるにつれて、その周囲の温度は、アクティブフィードバック制御を使用して低くされる。あるいは、この毛細管の管腔内に位置している分離媒体の温度は、この媒体の温度対電場の特性の事前の治験に基づいた事前にプログラムされた温度傾斜を用いて、実質的に一定で維持される。
【0065】
大ていは、本発明で具体化した改良を除いて、本発明に従ってCE分離を行うのに使用される方法および装置は、他の文献(例えば、Capillary Electrophoresis Theory and Practice,Grossman and Colburn著、Academic Press(1992))で一般的に記述されているように、従来のCE方法および装置を使用して実行され得る。例えば、本発明の方法を実施するには、標準的な毛細管チューブ(例えば、ポリイミド被覆した溶融シリカ毛細管チューブ)、流体分離媒体(例えば、緩衝化した重合体溶液または重合体を含まない緩衝液)、試料注入技術(例えば、動電学的な注入または水力学的な注入)、自動化したシステム制御装置(例えば、デジタルコンピュータ)、および検出技術(例えば、蛍光または吸光度)が利用され得る。
【0066】
しかしながら、本発明の方法を行うのに使用するCEシステムは、ある種の非標準的な機能および性能を含む。本発明で使用するCEシステムの電源部分は、初期電場傾斜の電場対時間プロフィールを制御できるように、プログラム化可能な電子制御装置(例えば、パーソナルコンピュータ)により制御可能であるべきである。それに加えて、この初期電場傾斜のアクティブフィードバック制御を使用する場合、この電子制御装置は、この電気泳動毛細管を通る電流をモニターする電流モニターに接続するべきであり、また、その電流測定に応答して毛細管を横切る電場を自動的に調節可能であるべきである。また、本発明と併用するCEシステムは、その毛細管チャンネルを取り囲む環境の温度を制御する温度制御システムを使用するべきである。この温度制御システムは、この周囲環境の温度を、この毛細管の実質的に全長に沿って、約0.1℃以内まで制御できるべきであり、この周囲環境の温度を0.1℃ずつ変えるべきであり、そして初期電場傾斜中において周囲環境の温度を調節できるべきであり、この場合、必要に応じて、このような変化は、この毛細管管腔で位置している分離媒体の温度変化に応答性である。
【0067】
(III.実施例)
本発明は、以下の実施例を考慮することにより、さらに明確となるが、これらの実施例は、純粋に、本発明を代表するものと解釈され、いずれの様式でも、その範囲を限定するものとは解釈されない。
【0068】
(材料および方法)
全ての電気泳動分離は、50cmの毛細管アレイ(p/n 4305787)を備えたABI PRISM(登録商標) 3700 DNA Analyzer(PE Biosystems,p/n 4308058)を使用して、実行した。この3700システムは、約96本の別個の溶融シリカ分離毛細管を含み、各毛細管は、被覆していない内面、50cmの全長、50cmの有効分離長、および50μmの内径を有する。この3700システムでの試料分析物の蛍光検出は、鞘流れ検出システムを使用して、達成される(例えば、Kambaraら、米国特許第5,529,679号;Dovichiら、米国特許第5,439,578号)。
【0069】
種々の操作条件下にて分離性能を特徴付けるために、サイズが35個、50個、75個、100個、139個、150個、160個、200個、250個、300個、340個、350個、400個、450個、490個、500個、550個、600個、650個および700個のヌクレオチドの20個の標準DNA断片を含む標準試料混合物を使用した。この混合物の各断片を、TET染料で標識した。この試料混合物を、約0.03nMの最終濃度まで、脱イオンホルムアミドおよび0.3mMのEDTA二ナトリウムに溶解した。
【0070】
この毛細管アレイの温度を、50℃±0.1℃で維持した。それらの毛細管の入口末端を試料混合物に浸漬しつつ、30秒間にわたって、50V/cmの電場を加えることにより、これらの毛細管に試料を注入した。
【0071】
使用した分離媒体は、市販のABI PRISM(登録商標)3700 POP6重合体(PE Biosystems,p/n 4306733)の改良型であり、ここで、その変性剤は、6Mまたは8Mのいずれかの濃度で尿素を含有する代替変性剤で置き換えた。このPOP6重合体は、直鎖状置換ポリアシルアミドの溶液である。
【0072】
各電気泳動図は、「分解能限界(limit of resolution)」、すなわち、「LOR」と呼ばれるパラメータを使用して、特徴付けた。LORは、電気泳動図中の1地点として規定され、これは、電気泳動図のその位置に位置しているポリヌクレオチド断片のサイズによって表され、その位置では、以下の関係が満たされる:
【0073】
【化1】

【0074】
ここで、X2は、ピーク2の中心位置であり、X1は、ピーク1の中心位置であり、W1は、ピーク1の半分の高さでのピーク幅であり、そしてW2は、ピーク2の半分の高さでのピーク幅であり、ここで、ピーク1および2は、単一のヌクレオチドだけサイズが異なるDNA断片である。この標準混合物中の実質断片は1個より多いヌクレオチドだけサイズが異なるので、その単一ヌクレオチド間隔(X2−X1)は、この試料混合物中の20個の断片の各々の位置Xをプロットすることにより、これらのデータ点を三次多項式に当てはめることにより、そして得られた適合曲線の内挿に基づいて、単一ヌクレオチド計算間隔(X2−X1)を決定することにより、サイズの関数として、概算した。半分の高さでのピーク幅W1およびW2は、単一のヌクレオチドだけサイズが異なる断片のピーク幅が20個の実際のピーク幅のうちの最も近いピークの幅と同じであると仮定して、概算した。実際には、実質自動化塩基呼び出しアルゴリズム(actual automated base−calling algorithms)は、典型的には、そのLORを超える100個〜200個のヌクレオチドを塩基呼び出しすることができ、それゆえ、もし、一定の分離に対して、そのLORが500であるなら、約700個のヌクレオチドまで、正確な(すなわち、約98%より高い精度)塩基呼び出しを予想できる。
【0075】
(実施例1)
(2種の異なる分離媒体でのLORに対する作業電圧の効果)
図3および4は、多数の異なる作業電場の各々において、約96枚の異なる電気泳動図に対するLOR値を示す。図3では、その分離媒体は、8Mの尿素変性剤を含有していたのに対して、図4では、その分離媒体は、6Mの尿素を含有していた。各プロットのy軸は、そのLOR値を示すのに対して、各プロットのx軸は、700個のヌクレオチド断片が検出器に到達するのに必要な時間T700を示す。このデータから明らかに分かるように、両方の分離媒体に対して、その電場が大きくなるにつれて、それゆえ、T700が短くなるにつれて、そのLORの平均値LORavgは、小さくなり、そしてLORの標準偏差SDLORは、大きくなった。それに加えて、SDLORの規模は、LORavgと比較して、大きかった。図3および4のデータに対するLORavgおよびSDLORの値は、以下の表2および3で提示する。それゆえ、これらのデータは、この作業電場を高くすることによりその分析速度を上げるとき、LORの低下およびSDLORの上昇という相当なペナルティを払わされることを示す。例えば、以下の表2で提示したデータによれば、この作業電場を90V/cmから130V/cmへと高めることにより、165個のヌクレオチドのLOR低下が観察された。
【0076】
【表2】

【0077】
【表3】

【0078】
(実施例2)
(作業電場の関数としてのLORに対する初期電場傾斜の効果)
図5および6は、図3および4と比較するとき、2種の異なる分離媒体における作業電場の関数としてのLORに対する制御した初期電場傾斜の効果を示す。図5では、その分離媒体は、8Mの尿素変性剤を含有していたのに対して、図6では、その分離媒体は、6Mの尿素を含有していた。図5および6の両方の実験では、その初期電場傾斜は、不連続な階段状の電場対時間プロフィールを使用して、0.25V/cm−sであり、ここで、ΔEは、10V/cmであり、そしてΔtは、各段階において、40秒であった。これらのデータから明らかに分かるように、この初期電場傾斜を導入すると、研究した作業電場の各々において、LORavgの実質的な上昇およびSDLORの低下が生じた。しかしながら、この効果は、さらに高い電場では、非常に顕著であった。それゆえ、これらのデータは、本発明による制御した初期電場傾斜を使用することにより、分離性能を犠牲にすることなく、さらに高い作業電場が使用でき、結果的に、相当に短い分析時間が達成され得、著しく高い全処理能力につながる。図5および6のデータに対するLORavgおよびSDLORに対する値は、以下の表4および5で提示する。
【0079】
【表4】

【0080】
【表5】

【0081】
(実施例3)
(LORに対する傾斜速度の効果)
図7および8は、2種の異なる分離媒体における2種の異なる作業電場でのLORに対する初期電場傾斜の傾斜速度の効果を示す。これらの初期電場傾斜の各々は、不連続な階段状の電場対時間プロフィールを含んでおり、ここで、各傾斜速度に対して、ΔEおよびΔtの値は、等しかった。
【0082】
図7では、その作業電場は、160V/cmであり、その分離媒体は、8Mの尿素を含有していた。図7で示した異なる傾斜速度は、ΔEを500Vで保持してΔtを10秒と80秒の間で変えることにより、達成された。図7のデータで明らかに分かるように、約0.12V/cm−sの傾斜速度を使用すると、殆ど80個のヌクレオチドのLORの上昇が得られた。
【0083】
図8では、その作業電場は、120V/cmであり、その分離媒体は、6Mの尿素を含有していた。これらの異なる傾斜速度は、ΔEを500Vで保持してΔtを5秒と40秒の間で変えることにより、達成された。図8のデータで明らかに分かるように、約0.25V/cm−sの傾斜速度を使用すると、殆ど100個のヌクレオチドのLORの上昇が得られた。
【0084】
(実施例4)
(作業電場の関数としてのLORに対する初期電場傾斜を使用することの効果)
図9および10は、作業電場の関数としてのLORに対する初期電場傾斜を使用することの効果を示している。この初期電場傾斜の傾斜速度は、両方の場合において、0.25V/cm−sであり、この場合、これらの初期電場傾斜は、不連続な階段状の電場対時間プロフィールを使用して達成され、ここで、ΔEの値は、10V/cmであり、そしてΔtの値は、40秒であった。図9では、その分離媒体は、8Mの尿素を含有していたのに対して、図10では、その分離媒体は、6Mの尿素を含有していた。図9および10の両方で示したプロットは、明らかに、初期電場傾斜が分離性能に対して有し得る劇的な効果を説明し、また、この効果がさらに高い作業電場ではより顕著になることを示している。分離速度に対する初期電場傾斜を使用することの劇的な効果もまた、図9および10のデータで、明らかに分かる。例えば、図10を参照すると、初期電場傾斜を使用することなく600のLORを達成するためには、その作業電場は、100V/cmを超えることができないのに対して、もし、0.25V/cm−sの初期電場傾斜を使用するなら、150V/cmの作業電場が使用され得、その結果、分析時間が約50%短くなる(この初期電場傾斜を起こすのに必要な10分間は含めない)。
【0085】
全ての文献および特許出願の内容は、各個々の文献または特許出願の内容が具体的かつ個別的に本明細書中で参考として援用されているように、同じ程度まで、本明細書中で参考として援用されている。
【0086】
少数の実施形態だけを詳細に上で記述したものの、電気泳動分野の当業者は、その教示から逸脱することなく、その好ましい実施形態において、改良が可能であることを明らかに理解している。例えば、制御した初期電場傾斜および温度傾斜プロトコルの両方を組み合わせて使用して、本発明を実施し得る。このような改良の全ては、上記請求の範囲の範囲内に含まれると解釈される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−174951(P2011−174951A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−133727(P2011−133727)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【分割の表示】特願2011−93402(P2011−93402)の分割
【原出願日】平成12年7月26日(2000.7.26)
【出願人】(310009775)アプライド バイオシステムズ リミテッド ライアビリティー カンパニー (19)