説明

電子レンジ用の小型抽出装置

【課題】マイクロ波の照射により熱水抽出状態となることがなく、バイオマス中の成分が熱劣化することもなく、電子レンジを利用して抽出操作を簡便に低コストで、短時間で行うことができる小型抽出装置を提供する。
【解決手段】マイクロ波照射による加熱によって動植物原料(バイオマス)から有効成分を抽出、取得するための小型抽出装置1であって、マイクロ波透過性材料からなる上部開口容器2と、該容器内に載置する回収容器3と、回収容器の上部開口に結合する漏斗状のアルミナボール収容容器4とその上に配置する多数の蒸気通過孔を設けたアルミナボール保持部材5とから構成される冷却容器と、を備え、少なくとも回収容器の周囲に動植物原料9を充填可能に構成した電子レンジ用の小型抽出装置。マイクロ波照射時には原料から有効成分が抽出され、該原料は回収した有効成分をマイクロ波から遮蔽するのでマイクロ波遮蔽材カバーは不要である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子レンジ用の小型抽出装置に関し、詳細には、マイクロ波照射による加熱を利用して動植物原料(以下、これを「バイオマス」と言うことがある。)から有効成分を簡易に抽出、取得するための電子レンジ用の小型抽出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
植物や動物原料から有効成分を簡便に取得するための抽出操作においては、原料を溶媒と混合したのち加熱すると、抽出効率を高めることができる。従来かかる場合における加熱方法としては、水浴あるいはマントルヒーター等による外部からの加熱方法が用いられていた。
【0003】
しかし、外部からの加熱においては、抽出容器を温める必要があり、また、原料を所望の温度に加熱するためには、加熱ロスを含めてそれ以上の温度設定に加熱する必要があった。また、原料が固体の場合には抽出効率を高めるために、原料を細かく粉砕する必要があり、あるいは長時間の抽出反応が必要であった。さらに、目的とする有効成分が熱に弱いものの場合には長時間の加熱、あるいは外部からの加熱により分解、劣化する問題もあった。このような問題点を考慮すると、動植物から有効成分を抽出する方法として外部加熱を用いる方法はあまり好ましい方法とは考えられない。
【0004】
特許文献1には、ろ過工程が不要で、マイクロ波照射による短時間の加熱を利用して有効成分を抽出できる抽出方法および装置が提案されている。特許文献1記載の抽出方法においては、マイクロ波加熱が利用されているが、ソックスレー抽出法が用いられ、電気またはガスによる外部加熱が併せて行われている。
【0005】
また、その他、外部加熱を利用しない装置として、常圧でのマイクロ波反応装置も幾つか製造あるいは市販されているが、特注品もしくは反応用のものであるため高価である。一方、一般家庭用のマイクロ波装置(電子レンジ)を抽出反応に使用するには、穴あけなど改造が必要である。
【0006】
そこで、マイクロ波照射により加熱することで、短時間で、省エネ、省コストにて有効成分を分離する方法や、該技術を一般家庭の電子レンジでも利用できるよう簡便、コンパクト化した小型抽出装置が考案された(特許文献2を参照)。この装置によれば、目的物を5〜10分程度の反応で得ることができるため、熱劣化のない目的物を得ることができるが、冷却材や回収した液体がマイクロ波で加熱されないように、装置をマイクロ波遮蔽材で構成する必要があった。
【0007】
ところが、マイクロ波遮蔽材として金属カバーや金属コーティング材を使用すると、マイクロ波遮蔽効果は優れているものの、破損、傷等が生じた場合にスパークが発生する恐れがあり、一般家庭で使用することを考慮すると傷や破損を防ぐために高コストのカバーを採用せざるを得ず、コスト増の要因となっていた。
【特許文献1】特表2000−510765号公報
【特許文献2】特開2007−289916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、バイオマスをマイクロ波遮蔽材として利用する小型抽出装置が考案された。この際、冷却材として氷を用いれば簡便、かつ短時間で大量の抽出物を得ることが可能であった。
【0009】
ところが、氷は反応が進むに連れて液化し、回収容器を経由して反応容器(上部開口容器がこれに相当する)に流れ込む仕組みとなっている。このため、反応後半では反応容器下部に充填しているバイオマスが冷却材由来の水に浸ってしまう現象が起きる。こうなると、マイクロ波の照射により熱水抽出状態となるため、バイオマス中の成分が熱劣化しやすくなり、また水蒸気蒸留効率も落ちてしまう。
【0010】
熱水抽出条件になることを防ぐには、以下の4つの手段がある。
(イ)氷を少なくし、反応時間を短くする。
(ロ)バイオマス充填位置を上げる。
(ハ)溶けた氷が回収容器に入らないようにする。
(ニ)冷却材としてアルミナなど溶けない材を用いる。
【0011】
このうち、(イ)〜(ハ)は少量のバイオマスには適用できるが、1回の反応で出来る限り大量に抽出物を得たい場合は、不適である。その点、(ニ)はバイオマスが少量でも大量でも同様に効果のある手段である。
【0012】
本発明は、マイクロ波照射により熱水抽出状態となることがなく、バイオマス中の成分が熱劣化することもなく、電子レンジを利用して抽出操作を簡便、安全、かつ、低コストで行い、短時間で有効成分を抽出することができる小型抽出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、−20℃で冷やしたアルミナボールを冷却材に用いることで、上記の目的を達成出来ることを見出し、本発明に到達した。
【0014】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)マイクロ波照射による加熱によって、動植物原料から有効成分を抽出、取得するための小型抽出装置であって、
マイクロ波透過性の材料からなる上部開口容器と、
前記上部開口容器内に載置される回収容器と、
前記回収容器の上部開口に結合する漏斗状のアルミナボール収容容器と、該収容容器の上に配置する多数の蒸気通過孔を設けたアルミナボール保持部材と、から構成される冷却容器と、を備え、
少なくとも前記回収容器の周囲に動植物原料を充填可能に構成したことを特徴とする電子レンジ用の小型抽出装置。
(2)前記回収容器は、凝縮された溶媒を上部開口容器内に戻すための枝管を有している、前記(1)に記載の電子レンジ用の小型抽出装置。
(3)前記上部開口容器の底面に、スペーサーを介して配置した目皿上に、前記回収容器を載置するように構成した、前記(1)または(2)に記載の電子レンジ用の小型抽出装置。
(4)前記上部開口容器の上部開口を覆う蓋を備えている、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の電子レンジ用の小型抽出装置。
(5)前記冷却容器がマイクロ波透過性の材料で形成されている、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の電子レンジ用の小型抽出装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る電子レンジ用小型抽出装置によれば、マイクロ波によって加熱融解しないアルミナボールを冷却材として用いたことにより、動植物原料の多少にかかわらず熱水抽出状態を回避することが出来、該原料中の成分が熱劣化することがなく、電子レンジを利用して抽出操作を簡便に行うことができる。
【0016】
しかも、上部開口容器の中に回収容器を置き、その周囲に動植物原料を充填するので、マイクロ波遮蔽材として金属カバーや金属コーティングを用いる必要がない。そのため、破損や傷等が原因でスパークが発生するおそれがなく安全である。傷や破損を防ぐために高コストのカバーを適用する必要がないため廉価な装置となる。また、回収容器と冷却容器が一つの容器内にコンパクトに収容された空間に原料を充填すれば良いので、装置の製造、取付け、取外し、部品の洗浄が簡単である。
【0017】
さらに、アルミナボール収容容器の上に、アルミナボール保持用に多数の蒸気通過孔を設けた部材を配置しているので、多量の冷却材を用いて大量の動植物原料を処理することが出来、しかも、冷却材により凝縮された溶媒と有効成分を確実に回収部に導くことができ、アルミナボール収容容器の外壁から動植物原料充填部分に伝い落ちてしまうことを防止することができる。
【0018】
また、回収容器の大きさを変えれば抽出量を増減することは可能であるが、該回収容器が凝縮された溶媒を上部開口容器に戻すための枝管を有していれば、溶媒を再利用できるため、省エネ、省溶媒量の抽出装置となる。
【0019】
また、動植物原料は一定量の水分を保有しているため、保有水のみを溶媒として抽出操作を行うことも可能であるが、水分含量が低い原料を用いる場合は溶媒を追添加する必要がある。その場合、上部開口容器内に目皿を入れ、その上に回収容器を載置する構成にすることにより、追加溶媒の上昇蒸気を利用することで抽出効率を高めることができる。
【0020】
また、冷却部をマイクロ波透過性の材料で形成することにより、マイクロ波による容器材の加熱が無いため、内部の冷却材の冷熱は蒸気の凝縮のみに使うことができるというメリットがある。逆に、冷却部をマイクロ波遮蔽性の材料で形成した場合、マイクロ波を反射して遮蔽する場合は反応上問題ないが、前述したように傷がついた場合などの安全性の問題や、値段が高くなってしまうというデメリットがある。さらに、マイクロ波を吸収して遮蔽する場合は、材料そのものが加熱され、その熱で冷却材が温められてしまうため、蒸気を十分に凝縮することができなくなるデメリットもある。
【0021】
また、マイクロ波透過性の材料としては、ガラスあるいはポリプロピレン系、ポリアミド系等の樹脂材料など、一般的な材料を用いればよいので、装置の製造も容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明を詳細に説明する。ここで、本発明において「動植物原料」(バイオマス)とは、一定量集積した動植物を起源とする有機性資源を言い、「有効成分」とは、動植物原料に含まれている精油、香味成分、香料成分、薬効成分などの有用な成分をいう。
【0023】
図1〜3は、本発明の小型抽出装置の好ましい形態を示す図である。図1は回収容器と冷却容器(漏斗状のアルミナボール収容容器と、その上に配置するアルミナボール保持部材)を示す側面図であり、図2,図3は小型抽出装置の概略上面図と概略側面図である。
【0024】
図1〜3において、1は小型抽出装置、2は回収容器と冷却容器と動植物原料を収容する上部開口容器、3は凝縮された溶媒と抽出された有効成分を回収する回収容器、4は回収容器の上部開口に結合する漏斗状のアルミナボール収容容器で、5は該収容容器4の上に配置するアルミナボール保持部材(51は蒸気通過孔)である。6は上部開口容器2の上部開口を覆う蓋、7は上部開口容器の中に載置するスペーサー、8は同じく目皿である。
【0025】
この抽出装置1では、上部開口容器2の中に別体の回収容器3を載置し、それに連通させるように別体のアルミナボール収容容器4を回収容器3の上部開口に結合し、さらに、冷却材保持用の部材5をアルミナボール収容容器4の上に配置する。図1に示す例では、回収容器3の上部32をスリガラスにし、それと収容容器4の下端とをスリガラスで結合させることで回収した有効成分が漏れない構成になっている。冷却用のアルミナボール収容容器4は、冷却材によって凝縮した溶媒と有効成分が回収容器に回収され易いように漏斗形状に形成されている。
【0026】
回収容器3の素材は、耐熱素材であれば特に限定することなく用いることができる。図1に示す例の通り、ガラスなど透明な材を用いれば外部から内部液面を確認できるようになり有効成分と溶媒を分離する際に操作しやすいというメリットがある。一方で、マイクロ波遮蔽性の材(例えば金属被膜)も用いることができ、特に周囲のバイオマスによるマイクロ波遮蔽が完全ではない場合には、精油回収率の面でメリットがある。ただし、当該マイクロ波遮蔽性の材には、マイクロ波反射性を有する材を用いるのが好ましい。マイクロ波を吸収することで遮蔽する材(例えばカーボン材)は、それ自身が加熱されて、回収された精油を再蒸発させてしまう恐れがあるため好ましくない。
【0027】
図1では、冷却材の脱落を防止し、かつ、冷却材によって溶媒蒸気が効率よく冷却されるように、マイクロ波透過性シート(テフロン(登録商標)シートなど)で作製された部材5が、円筒状に組まれて配置されている例を示している。部材5には、蒸気を導入するために多数の孔51が形成されている。部材5としては、多数の孔を設けたシート材、あるいはメッシュシートなどであってもよい。
【0028】
図4は、冷却材保持部材5の形態例を示したものであり、(a)はメッシュシートを円筒状に形成した例、(b)は小さ目の孔を多数設けたシート材を円筒状に組んだ例、(c)と(d)は大き目の孔を設けたシート材を円筒状に組んだ例、(e)は円筒状に形成したシート材の下端に孔を設けた例である。冷却材への蒸気入口が部材5の下部にあり、かつ、孔径が大きい方が抽出量は増加する傾向にあるが、孔は蒸気を通過させる機能を有していればよいので、孔の大きさや形状は抽出対象物の種類に応じて決定する。また、部材5の形態もこれらの例に限定されない。
【0029】
回収容器3は、図1に示す様に、凝縮された溶媒を容器に戻すための枝管31を有しているので、回収した溶媒を枝管を介して上部開口容器2内に戻すことができる。図1に示す態様では、この枝管31は、凝縮された溶媒量が枝管端の高さに到達すると、サイホンの原理により、回収溶媒(水)が容器2の中に戻される仕組みになっている。なお、枝管31は、回収容器の溶媒量が一定量に保持されるようになっていればよいので、取付け位置や取付け方法は特に限定されないが、図示したように枝管を回収部底面近傍に取付けるのがよい。なお、少量の抽出物を得る場合は枝管の無い回収容器を使用することも可能である。
【0030】
図2は、上部開口容器2の中に載置された回収容器3、アルミナボール収容容器4および部材5の位置関係を示したものである。図2では、容器2のほぼ真中に回収容器3が載置されているが、このように配置することは、回収容器の周りに充填する動植物原料に均等にマイクロ波が照射されることで抽出効率が高くなり、また、動植物原料のコゲや回収成分の分解を防止できる点で好ましい。
【0031】
本発明では、容器2として上部開口容器を使用するため、抽出前後の材料の出し入れが容易であり、洗浄も簡単である。上部開口容器2は、電子レンジ使用時に溶媒蒸気が容器外に留出しないように、上部開口を蓋で覆う必要がある。蓋6は容器2と同素材のものであってもよいし、異なる素材のものであってもよく、例えば、市販のラップ(シリコンラップ、塩化ビニリデンラップなど)を用いることもできる。また、別体として蓋体を用意したものを用いることもできる。蓋6には冷却部と対応させた蒸気穴61を単数または複数設け、過剰蒸気によって蓋が破裂するのを防止することが好ましい。なお、部材5を設置した場合には、該部材の上端が蓋6と密着するように配置するのがよい。
【0032】
図3は、本発明の小型抽出容器全体を側面から見た図である。回収容器3の周りの空間に充填された動植物原料をマイクロ波で加熱すると、発生した溶媒蒸気は、図中の矢印で示したように、部材5に設けられた孔を通って冷却材に接触して冷却され、凝縮されて液体となり、漏斗状の容器4に沿って流下し、回収容器3に溜められる。
【0033】
回収容器3においては、有効成分と抽出溶媒との間に比重の差があると、液化した溶媒と有効成分を比重差で分離させ、各別に回収することができる。但し、有効成分によっては溶媒に溶解した溶液として回収してもよい。図3では、比重の大きい抽出溶媒である水が下層、比重の小さい有効成分である精油が上層に、二層分離している状態を表している。
【0034】
回収された抽出溶媒は、枝管31を通って容器2の中に容易にリサイクルさせることができるので、動植物原料が少量の場合であっても過加熱の状態になることを防止し、適度な濃度の溶媒蒸気に保つことができる。
【0035】
本発明の小型抽出装置において、回収容器3を上部開口容器2の底面に直接載置してもよいが、図3に示すように、一定の高さを有するスペーサー7を介して目皿8を置き、目皿の上に回収容器3を載置することもできる。このように構成することにより、目皿8の下に出来た空間に抽出用の溶媒(水)を予め仕込むことができ、また、底面にたまった溶媒の加熱による回収容器内の有効成分の熱劣化や再蒸発を防ぐことができ、さらに、動植物原料が熱水蒸留されて劣化するのを防ぐことができる効果もある。
【0036】
小型抽出装置の上部開口容器2は、動植物原料にマイクロ波を照射するためにマイクロ波透過性の材料で形成されている。該材料としては、耐熱ガラス等のガラスまたはマイクロ波透過性の耐熱樹脂材が好ましく、マイクロ波を照射されると容器を透過したマイクロ波によって、収容されている動植物原料が加熱される。そのため、溶媒のみを加熱して加熱蒸気を動植物原料に供給した場合に比べて、原料中の有効成分の抽出が促進され、短時間でかつ多量の有効成分を抽出することが可能となる。
【0037】
上記のマイクロ波透過性耐熱樹脂材としては、例えば、ポリプロピレン系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテル系、ポリフェニレン系、ポリサルホン系、フッ素系、シリコン系、ポリベンゾイミダゾール系の樹脂が好ましいが、これ以外でも、シリカもしくはアルミナを被覆したポリエチレンテレフタレートを用いることもできる。さらに、セラミックス系材料等を用いることもできる。
【0038】
有効成分を抽出するための溶媒としては、安全性が高く入手容易である点より、水を好ましく挙げることができる。
【0039】
本発明に係る電子レンジ用小型抽出装置を用いて抽出操作を行う場合は、以下の方法が推奨される。先ず、図5に示したように、マイクロ波透過性の材料からなる上部開口容器2のほぼ真中に、回収容器3を載置し、該回収容器の周辺に動植物原料9を充填する。次いで、該回収容器3の上に漏斗状のアルミナボール収容容器4を結合し、その上に部材5を載置し、これら冷却容器の中に冷凍庫で冷やしたアルミナボール10を充填する。この後、抽出量を増やすために冷却容器の周辺にも動植物原料を追加充填してもよい。
【0040】
ここで、アルミナボールとしては、外径5mm〜20mm程度のものが使い勝手がよく好ましいが、大きさは限定されないので任意の大きさのものであってよい。
【0041】
最後に、容器2に蓋6を設置した後、小型抽出装置1を電子レンジに入れ、マイクロ波を照射する。バイオマスに含まれる水分量を勘案し、水分量が足りない場合は、容器2の底部に設けられた目皿8の下の領域に溶媒を入れる。また、抽出操作において、部材5の大きさは、抽出対象物の種類や量に応じて適宜決定すればよいが、一般的に部材5の容量を大きくして冷却材の量を増やすほど抽出量は増加する。
【0042】
本発明の小型抽出装置においては、回収容器3の直径を、抽出する有効成分の種類や含有量、使用する動植物原料の種類に応じて適宜なサイズに設計することで、回収量や回収時間を調整することができる。また、回収容器3の直径に合わせて漏斗状のアルミナボール収容容器4の容量を設定することで、抽出操作の安定化をはかることができる。回収容器3の周囲には動植物原料細片を充填するので、回収容器をマイクロ波から遮蔽することができ、回収容器を電磁波遮蔽材で被覆する必要がなく、また容器内の動植物原料から発生した蒸気の通路を確保することができるので、溶媒流通用のパイプ等を配設する必要がない。そのため、回収容器をマイクロ波透過性の材料(上述したマイクロ波透過性耐熱樹脂材が好ましい。)で形成することができるので、外から見やすく、操作もし易い。なお、回収容器表面に金属メッキ処理等を施して電磁波遮蔽性を付与しておくこともでき、このような構成にすることにより長時間に亘る抽出操作において抽出物の分解等をより一層防止する効果がある。
【0043】
動植物原料9の細片は、動植物原料をそのままもしくは乾燥し、適当な大きさに切断または粉砕したものであればよく、一旦、抽出に用いられた動植物原料の廃物を用いることもできる。例えば、動植物原料をミキサーなどで粉砕したものを用いれば、溶媒との接触面積を大きくすることができ、抽出効率を高めることができる。好ましい動植物原料は、植物の実、葉、茎、幹、根等のバイオマスである。
【0044】
上部開口容器2に直接、動植物原料を充填する際は、容器の底部に原料細片よりも小さめの孔を有する目皿8を設け、その上に原料細片を入れ、目皿8の下に溶媒を入れるのがよい。
【0045】
上記の小型抽出装置を用いて抽出操作を実施する場合は、本発明の小型抽出装置を電子レンジの中に載置し、周波数が0.5〜10GHz、出力が100W〜3.0kWのマイクロ波を照射する。それにより、上部開口容器2内に収容された動植物原料および、または溶媒がマイクロ波により加熱されることで有効成分が抽出され、溶媒の沸点を超えると蒸気が発生する。上部開口容器2内において発生した蒸気は、目皿の孔81を通って、充填された原料細片の間を抜け、部材5の孔51を通って、部材5の中に入り、冷却材と接触して冷却、凝縮される。凝縮溶媒と抽出物は、回収容器3に回収される。抽出操作終了後は、蓋6を取り外して回収容器3を取り出し、溶媒と抽出物とに分離することにより、簡単に抽出物を取得することができる。
【0046】
図5に示す小型抽出装置は、上部開口容器、回収容器および冷却容器が、簡単に取り外し可能に組み立てられているので、原料の供給、および抽出操作が終了した後の装置の洗浄が容易である。
【0047】
以上説明したように、本発明の小型抽出装置においては、上部開口容器2、回収容器3および冷却容器4,5の大きさを、動植物原料の種類、該原料中の有効成分の種類や含有量に応じて調製することにより、安全かつ効率よく抽出操作を実施することが可能になる。本発明の小型抽出装置は、直径を10〜20cm程度、高さを10〜20cm程度の大きさにすることで、一般家庭で用いられている電子レンジ用として適用することができる。
【実施例】
【0048】
次に、本発明を実施例により図面を参照しつつ詳細に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。尚、実験は図5の装置を用いて実施した。
【0049】
<実施例1>
内径134mmφ高さ180mmの円筒ガラス容器2に、純水300gと沸石を加え、高さ15mmのスペーサー7の上に磁製の厚さ6mmの目皿8を設置した。その上に、バイオマスが下にこぼれ落ちないようにメッシュサイズ0.75mmφのテフロン(登録商標)パンチングシートを設置した。この上に、純水20mlを呼び水として加えた内径30mmφ高さ65mmの油回収容器3を設置した後、この外周を覆うようにバイオマス9としてレモン果皮約350gを加えた。なお、油回収容器3には底部側面より内径8mmφの枝管31を設け、水位が枝管端の高さ以上になった際には下層の水が油回収容器から円筒ガラス容器に排出されるようにした。
【0050】
バイオマス9で油回収容器3の外周を覆った後、油回収容器3の上に、内径100mmφの冷却容器4を設置した。油回収容器と冷却用の容器とは透明すりにて接続した。冷却容器4には、冷却材として−20℃で一晩冷やした外径15mmのアルミナボールを97個(約650g)加えた。蒸気流路用に穴を開けたテフロン(登録商標)パンチングシート5を冷却用の容器4の側面および底面に設置して、冷却用の容器4からアルミナボールが落ちないようにし、かつ蒸気が冷却材(アルミナボール)に流れる流路を確保した。円筒フラスコ上部に蒸気逃がし穴61のついた蓋6としてシリコンラップを、部材5の上端と密着するようにして設置した。
【0051】
上記抽出装置をマイクロ波発生装置として市販の電子レンジ(ナショナルNE-EH22)内に設置し、周波数2.45GHzのマイクロ波を抽出装置に5〜7分照射し、水蒸気蒸留を行い、反応後の油回収容器内の液量及び反応後の冷却材の温度を計測した。出力は750W一定とした。
【0052】
<対照例>
冷却材として氷250gを用いた以外は、実施例1と同様の条件で実験した。
【0053】
上記の実験結果を表1にまとめて示す。
【0054】
【表1】

【0055】
反応後の油回収容器内の液量は、いずれの結果でも、反応開始時とほぼ同量の約20gであり、これにより、油回収容器内の液体がマイクロ波照射により蒸発しない、つまりは本発明の特徴である「バイオマスによる遮蔽効果」が得られたことが確認できた。アルミナボールを用いても精油を抽出することができたが、アルミナボールを増量しても、油収量および冷却材温度に劇的な効果は認められなかった。一方、油回収量は時間により変化し、時間とともに油回収量が増えた。
【0056】
対照例では、氷の残量がなくなった以降の時間帯では熱水抽出状態となったが、本発明例ではこのような状態になることはなかった。
【0057】
また、実施例1において得られた油を、ガスクロマトグラフにて分析したところ、油回収成分に熱劣化は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の小型抽出装置を用いると、電子レンジを用いて、植物原料または動物原料から、マイクロ波照射により、エネルギーの無駄なく、短時間で、簡便にそれらに含有される有効成分を抽出し、取得することができる。したがって、本発明の小型抽出装置は、一般家庭用、喫茶店や売店等での業務用、研究室での実験用等として、幅広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係る小型抽出装置の油回収容器と冷却容器の側面図である。
【図2】本発明に係る小型抽出装置の概略上面図である。
【図3】本発明に係る小型抽出装置の概略側面図である。
【図4】アルミナボール保持部材の形態例を示す外観斜視図である。
【図5】本発明に係る小型抽出装置を用いた抽出操作の一例を示す側面図である。
【符号の説明】
【0060】
1 小型抽出装置
2 上部開口容器
3 回収容器
31 枝管
4 アルミナボール収容容器
5 アルミナボール保持部材
51 孔
6 蓋
61 蒸気穴
7 スペーサー
8 目皿
81 孔
9 動植物原料(バイオマス)
10 アルミナボール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波照射による加熱によって、動植物原料から有効成分を抽出、取得するための小型抽出装置であって、
マイクロ波透過性の材料からなる上部開口容器と、
前記上部開口容器内に載置される回収容器と、
前記回収容器の上部開口に結合する漏斗状のアルミナボール収容容器と、該収容容器の上に配置する多数の蒸気通過孔を設けたアルミナボール保持部材と、から構成される冷却容器と、を備え、
少なくとも前記回収容器の周囲に動植物原料を充填可能に構成したことを特徴とする電子レンジ用の小型抽出装置。
【請求項2】
前記回収容器は、凝縮された溶媒を上部開口容器内に戻すための枝管を有している、請求項1に記載の電子レンジ用の小型抽出装置。
【請求項3】
前記上部開口容器の底面に、スペーサーを介して配置した目皿上に、前記回収容器を載置するように構成した、請求項1または2に記載の電子レンジ用の小型抽出装置。
【請求項4】
前記上部開口容器の上部開口を覆う蓋を備えている、請求項1〜3のいずれかに記載の電子レンジ用の小型抽出装置。
【請求項5】
前記冷却容器がマイクロ波透過性の材料で形成されている、請求項1〜4のいずれかに記載の電子レンジ用の小型抽出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−148658(P2009−148658A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−326820(P2007−326820)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】