説明

電子体温計

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は電子体温計、特に検出温度の経時変化に基づいて予測演算式を選択して予測演算を行い、この予測演算値を測定体温値として表示する電子体温計及びその予測精度検証方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】予測式電子体温計においては、検出温度が所定値以上、かつ温度上昇率が所定値以上になった時を予測演算の起点とし、予測演算値の変動が所定値以内になった時を予測成立点とする。予測式は一般に、予測値をY、検出温度をT、上乗量をUとすると、Y=T+Uで与えられる。
【0003】この場合の上乗量Uとしては種々の計算方法が知られており、例えばtを予測起点からの経過時間とすると、U=a1 ×dT/dt+b1 、あるいはU=(a2 ×t+b2 )×dT+(c2 ×t+d2 )などがある。
【0004】この上乗量Uの精度を被検者や検温素子の違いによらず一定に保つために、最適な計算式のパラメータa1 ,b1 ,a2 ,b2 ,c2 ,d2 を選択する工夫もなされている。また、被検者の特徴や検温素子の特性に基づいて温度上昇予測を群分けし、計算式のパラメータ群を割り当てることもなされている。さらに、表示値の連続性を保つために、Uに重みをかけることも考えられている。例えば表示値をHとし、重み関数M=(t/50)2 とすると、H=T+U×Mとなる。この場合、表示器に表示されるのは表示値Hであり、tが50秒からは表示値Hは予測値Yに等しい。
【0005】さてこのような予測式電子体温計の予測精度(信頼性)を評価するには、多数の検温による標本をとる必要がある。しかしながら、ユーザの取扱自体に問題があつては正確な検証とはならない。ところが、従来はこの不適当なデータを除くことが出来ないか、出来てもデータを除くか否かの判断を人に委ねていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、前記従来の欠点を除去し、取扱が不適当な場合は、その旨をユーザに知らせる電子体温計を提供する。
【0007】又、電子体温計の予測精度検証方法を信頼性のあるものにすることである。
【0008】
【課題を解決するための手段】この課題を解決するために、本発明の電子体温計は、被測定部位の温度を検出して経時変化に基づいて平衡温度を予測する電子体温計であつて、検出温度に基づいて、検温の信頼性を判断する信頼性判断手段と、該信頼性判断手段が信頼性が十分でないと判断した場合に、信頼性が十分でない旨を報知する報知手段とを備える。ここで、前記信頼性判断手段は、前記検出温度の温度値と温度上昇率と最大値,最少値の差の少なくとも1つから実測検温の妥当性を判断する。
【0009】また、本発明の電子体温計の予測精度検証方法は、被測定部位の温度を検出して経時変化に基づいて平衡温度を予測する電子体温計の予測精度検証方法であつて、前記電子体温計に検出温度に基づいて検温の信頼性を判断させて、その旨を報知させ、前記電子体温計の予測温度と実測温度との誤差から前記電子体温計の予測精度を検証する場合に、検温の信頼性が不十分と報知されたデータを予測精度検証データから除く。
【0010】
【実施例】以下添付図面を参照して、本発明の一実施例を説明する。尚、本実施例では温度予測の一例として群分けに基づく予測式の選択を行う電子体温計を説明するが、他の予測式体温計においても本発明の技術思想が適用される。
【0011】<電子体温計の温度予測の一例>図1及び図2は、群分けに基づく予測式の選択を行う電子体温計の予測原理を説明する図である。
【0012】予測式電子体温計では600秒の体温を逐次予測する。予測演算は、検出温度が30℃以上、かつ温度上昇率が0.25℃/4秒以上になった時を起点とする。
【0013】予測値Yは、検出温度をT、予測起点からの経過時間をtとして、以下の式で与えられる。
【0014】
U=(a×t+b)×dT(c×t+d)…上乗量Y=T+Uここで、a〜d:定数,dT:過去20秒間の温度上昇である。
【0015】予測起点からの経過時間t=40秒の時点で群分けを行う。30〜40秒間の温度上昇値(図1の縦軸)と30秒における温度(図1の横軸)とを用いて、計測データを1〜5群に分ける。尚、図1の6群は予測不可、7群は人体でないとして予測はせず、実測値の表示を行う。ここで、1群は最も熱応答の早い群であり、最初の温度は高いがすぐに上昇がおさまり、予測に必要な上乗量は小さい。逆に、5群は最も熱応答の遅い群で、最初の温度は低いが温度上昇が遅くまで続き、必要な上乗量が大きい(図2参照)。これらの関係は多数の計測標本から求められたものである。
【0016】40秒以後は、それぞれの群に応じたa〜dの係数を用いて予測演算を行う。一例として、40〜60秒間の各群のa〜dを挙げる。
【0017】
1群 a=0.03859 :b=-0.56178 :c=-0.00642 :d=0.78483 2群 a=0.03363 :b=-0.15209 :c=-0.00623 :d=0.7967 3群 a=0.03363 :b=-0.15209 :c=-0.00389 :d=0.7977 4群 a=0.03363 :b=-0.15209 :c=-0.00674 :d=1.0937 5群 a=0.06137 :b=-0.85641 :c=-0.00701 :d=0.95034 以下a〜dは40秒から120秒まで20秒おきに所定の値に切り替える。
【0018】更に、表示値の連続性を保つためにUに重みをかける。表示値をHとすると、50秒までは、H=T+U×M1 ,M1 =(t/50)2 …重み関数LCDに表示されるのは表示値Hである。tが50秒からは表示値Hは予測値Yに等しくなる。
【0019】50秒から120秒まではH=T+U×M2 ,M2 =1であり、重みはない。50〜120秒間に予測が成立するとブザーが鳴る。この予測成立の条件は、■実測値の温度上昇が、群,係数区間によって決められた一定値以下になる■予測値が安定する(予測値の回帰直線の傾きが一定値以下になる)
の2点が成立することである。
【0020】予測成立の条件の温度上昇は、一例として、40〜60秒間では、1群 ≦0.19℃/20秒2群 ≦0.23℃/20秒3群 ≦0.20℃/20秒4群 ≦0.15℃/20秒5群 ≦0.17℃/20秒である。
【0021】一方、予測値の回帰直線の傾きKAは、tに於ける予測値をY(t)として SY = Y(t)+Y(t-2)+Y(t-4)+Y(t-6)+Y(t-8)+Y(t-10) STY = 2*Y(t-2)+4*Y(t-4)+6*Y(t-6)+8*Y(t-8)+10*Y(t-10) KA = 20*(SY/14+STY/70) で求める。KAが0.04℃/20秒以下になったら予測値が安定したと判断する。
【0022】120秒までに予測が成立しない時は、120秒で強制成立させる。
【0023】120秒以降は、120秒時の上乗量U120 を用いて、H=T+U120 ×M33 =A×t+Bとする。ここで、A,Bは定数で270秒で切り替わり、M3 は120秒で1,600秒で0の折れ線とする。こうして、600秒以降は検出温度Tがそのまま表示温度Hとなる。
【0024】以上、最新の予測式電子体温計の予測方法の概略を説明した。
【0025】<予測精度検証の改善>本実施例では、例えば上記予測式電子体温計で予測精度の検証を行う場合、予測精度検証の補助として実測値の変化の様子を監視する。予測式電子体温計の予測精度を検証しようとした場合、ユーザの取扱自体に問題があつては正確な検証とはならない。そのため、取扱が不適当な場合はその旨をユーザに知らせる。
【0026】具体的には、図3に示すように、計測開始後300秒以降60秒おきに、過去180秒間の温度上昇量をそれぞれの群,時間毎に決められた上限値,下限値と比較し、許容範囲外にある場合は実測不良と判断する。この上限値、下限値の例を図7に示す。
【0027】また、600秒では120〜600秒間の温度上昇も検証する。この検証では、120秒までの予測値の変化が大きい場合は、上限,下限共により厳しい値(図7のg2)が設定される。
【0028】実測不良と判断されると、600秒でブザーを1回鳴らす(良好な時は3回)。実測不良の場合はこのデータを予測精度検証データから外すことにより、機器の実力としての予測精度が検証できる。
【0029】<電子体温計の構成例>第4図は本実施例の電子体温計の構成を示すブロツク図である。
【0030】本電子体温計は温度を計測し、それをデジタル値として出力する温度計測部10と、計測された温度から予測温度を演算すると共に本電子体温計を制御する演算制御部20と測定結果を表示する表示部30とブザ−40とから構成される。温度計測部10は、並列に接続された感温部に設置されたサーミスタ13及びコンデンサ14と、このサーミスタ13とコンデンサ14との時定数に従つて、ワンシヨツトをたたくワンシヨツトマルチ15と、基準クロツクを発生するクロツク発生器11と、基準クロツクを分周する分周器12と、ワンシヨツトマルチ15の出力がHighの間のクロツク発生器11からのクロツク数をカウントするカウンタ16とから成り、サーミスタ13の温度に対応してカウンタ16のカウント量が変化することにより、温度をデジタル量として出力する。尚、本温度計測部10の構成は一例であつて、これに限る必要はない。
【0031】演算制御部20は、演算制御用のCPU21と、制御プログラムを格納し、且つ本電子体温計で使用される予測式を記憶する予測式記憶部22aと、パラメータa,b,c,dを記憶するパラメータ記憶部22bと、検出温度の不安定を判断するための条件を記憶する判断条件記憶部22cとを有するROM22と、ブザー回数フラグ23aと補助記憶用及び計測温度を時系列で記憶するためのRAM23とから成り、プログラムに従つて、初期判断と群分けと予測演算と不安定判断及び成立条件の判断等の本電子体温計の動作制御を行う。
【0032】第5図に本電子体温計の本体外観図を示す。本体は表示部30に当る液晶表示器(LCD)1,ケース2,体温を第4図のサーミスタ13に伝導する先端金属キヤツプ3から構成される。
【0033】第6図に本電子体温計の動作手順を示す全体のフローチヤートを示す。ここで、ブザーは充分な予測精度が得られる条件を満たした場合等に鳴る。
【0034】まず、所定のスタートスイツチ,例えばリードスイッチ等により電源が入ると、ステツプS1で初期値化が行なわれる。ステツプS2で温度計測部10からのデータを時間経過に対応して記憶する。ステツプS3では群分け後予測式を基に予測演算が行なわれる。ステツプS4でブザーを鳴らすか否か(予測が終了した場合はステップS5に進み、一度ステップS5に進むと以降はステップS6に進む)を判断し、ステツプS5でブザーを鳴らす。
【0035】ステツプS6で実測値の検定か否かをチエツクする。実測値の検定でない場合は、ステツプS8に進む。実測値の検定の場合は、ステツプS6からS7に進んで実測値の検定を行い、ステツプS8に進む。
【0036】ステツプS8では600秒経過か否かを判定し、600秒経過してなければステツプS12でLCD表示をしてステツプS13からS2に戻る。一方、600秒経過していればステツプS9で実測良好か否かを判定し、良好の場合は、ステツプS10でブザーを3回鳴らし、不良の場合は、ステツプS11でブザーを1回鳴らし、ステツプS12でLCD表示をしてステツプS13からS2に戻る。
【0037】計測はリセツトがされるまで繰り返され、リセツト例えば体温計が測定部位からはずされた場合等に計測を終了する。
【0038】尚、本実施例では温度予測の一例として群分けに基づく予測式の選択を行う電子体温計を説明したが、他の予測式体温計においても本発明の技術思想が適用されることは自明である。
【0039】前記実施例において、実測良好か否かを判定の判定をより明確にユーザに伝えるフローチヤートを図8に示す。図6のAAの破線矩形内の部分を改良したもので、他のフローチヤート部分は図6で示したものとを同じなので省略する。
【0040】図8では、ステツプS8では600秒経過か否かを判定し、600秒経過してなければステツプS12でLCD表示をしてステツプS13からS2に戻る。一方、600秒経過していればステツプS9で実測良好か否かを判定し、良好の場合は、ステツプS10でブザーを3回鳴らしさらに表示値の小数点を点灯し(表示値の小数点を点灯のみでも良い)、不良の場合は、ステツプS11でブザーを1回鳴らしさらに表示値の小数点を消灯し(表示値の小数点を消灯のみでも良い)、ステツプS12でステップS5でブザーが鳴ったときの値(予測値)と600秒値を交互にLCD表示をして,ステツプS13で計測を終了する。
【0041】さらに図9に図8に示した部分フローチヤートをより詳細にし、予測値と実測値の表示とそれらの値が良好に測定されたかをユーザに明確に示すためのフローチヤートを示す。図8と同様に図6のA−A部分を改良したもので他のフロー部分は図6で示したものとを同じであるので省略している。
【0042】図9において、ステツプS8では600秒経過か否かを判定し、600秒経過してなければステツプS12でLCD表示をしてステツプS13からS2に戻る。一方、600秒経過していればステツプS9で実測良好か否かを判定し、良好の場合は、ステツプS101でブザーを3回鳴らし、不良の場合は、ステツプS11でブザーを1回鳴らす。
【0043】ステップS91では再度実測良好か否かを判定し、良好の場合は、ステツプS102で表示値の小数点を点灯し、不良の場合は、ステツプS112表示値の小数点を消灯し、ステップS121で600秒値を4秒間表示する。
【0044】ステップS92では、予測良好か否かを判定し、良好の場合は、ステツプS103で表示値の小数点を点灯し、不良の場合は、ステツプS113表示値の小数点を消灯し、ステップS122でステップS5でブザーが鳴ったときの値(予測値)を4秒間表示する。この後、再びステップS91に戻り、表示を繰り返すことを示している。
【0045】
【発明の効果】本発明により、取扱が不適当な場合は、その旨をユーザに知らせる電子体温計を提供できる。又、この電子体温計を使用した信頼性のある電子体温計の予測精度検証方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施例の電子体温計の群分けを説明する図である。
【図2】本実施例の電子体温計の温度上昇曲線例を示す図である。
【図3】本実施例の電子体温計の検出温度の判定の一例を説明する図である。
【図4】本実施例の電子体温計の構成例を示すブロツク図である。
【図5】本実施例の電子体温計の外観斜視図である。
【図6】本実施例の電子体温計の動作例を示すフローチヤートである。
【図7】群、時間毎に決められた上限値、下限値の例を示す図である。
【図8】本実施例の電子体温計の実測判定の他の報知例を示すフローチヤートである。
【図9】本実施例の電子体温計の実測判定の他の報知例を示すフローチヤートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】被測定部位の温度を検出して経時変化に基づいて平衡温度を予測する電子体温計であつて、検出温度に基づいて、検温の信頼性を判断する信頼性判断手段と、該信頼性判断手段が信頼性が十分でないと判断した場合に、信頼性が十分でない旨を報知する報知手段とを備えることを特徴とする電子体温計。

【請求項2】前記信頼性判断手段は、前記検出温度の温
度上昇量に基づいて判断することを特徴とする請求項1に記載の電子体温計。
【請求項3】被測定部位の温度を検出して経時変化に基
づいて平衡温度を予測する電子体温計の予測精度検証方法であつて、前記電子体温計に検出温度に基づいて検温の信頼性を判断させて、信頼性が十分でないと判断する場合に、信頼性が十分でない旨を報知させ、該検温の信頼性が十分でないと報知された場合のデータを予測精度検証データから除くことを特徴とする電子体温計の予測精度検証方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【特許番号】特許第3183421号(P3183421)
【登録日】平成13年4月27日(2001.4.27)
【発行日】平成13年7月9日(2001.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−205462
【出願日】平成4年7月31日(1992.7.31)
【公開番号】特開平5−322664
【公開日】平成5年12月7日(1993.12.7)
【審査請求日】平成11年7月21日(1999.7.21)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【参考文献】
【文献】特開 昭61−189425(JP,A)
【文献】特開 昭62−212534(JP,A)
【文献】特開 昭60−38629(JP,A)
【文献】特開 昭58−225323(JP,A)
【文献】実開 昭60−168029(JP,U)