説明

電子内視鏡装置及びその製造方法

【課題】耐熱性及び耐久性を高めた電子内視鏡装置を提供する。
【解決手段】電子内視鏡装置は、光学部材83と、光学部材83とは異なる熱膨張係数を有する材料からなり光学部材83を保持する枠体45とが、被検体内に挿入される挿入部に配置される。光学部材83と枠体45とは、互いに熱膨張係数の異なる3層構造の接着層85を介して接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子内視鏡装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡は、体腔内に挿入する挿入部を有し、挿入部の先端には、被写体に照明光を出射する照明光学系と被写体像を結像する撮像光学系とが設けられている。図18(A)に示すように、挿入部の先端131で外側に露出する照明光学系のレンズ133や、図18(B)に示すように、撮像光学系のカバーガラス135等、光学部材の固定には、光学部材と、光学部材を収納する保持部との隙間に接着材137を充填し、光学部材と保持部とを密閉構造として固定する方法が採られている。
上記のような照明光学系、撮像光学系の密閉構造においては、光学部材の側面と保持部との隙間に対してはエポキシ系接着材やシリコン系接着材が用いられる。また、光学部材外側の外周縁にはフレア防止用として土手盛り139が設けられ、土手盛り139には黒色化したエポキシ系接着材が用いられる。
【0003】
ところが、エポキシ系接着材やシリコン系接着材は透湿性が比較的高く、密閉構造としても内視鏡を洗浄する際には水分が接着材137の層内に浸透してしまう。このため、内視鏡内に洗浄材等が染み込み、内部汚染を生じることがある。また、エポキシ系接着材は、ブラシ洗浄やガーゼによる拭き取り時の擦れに対して必ずしも十分な強度でなく、エポキシの土手盛り139が削れて不要光のカットが不十分となったり、削れた部位から水分が進入したりする虞がある。
【0004】
また、一般的にガラス等の光学部材と金属製の保持部とを接続する場合、光学部材の熱膨張係数は金属に比較して小さく、その差が大きいため、各材料の熱膨張係数の違いによる影響を軽減させることが行われる。その際、光学部材、保持部、及び双方を接続する接着材の材料選択に制限が多くなる。熱膨張係数の小さな金属保持部とガラスからなる光学部材とを、低融点ガラスで加熱封止する構成が特許文献1に記載されるが、その場合でも耐薬品性の高い光学部材を選択して接続することは難しく、金属保持部の機械加工性が低下する不利もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−227728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
医療用の内視鏡装置は、体腔内に挿入して使用される度に、付着した汚染物を除去するため、洗浄、消毒、滅菌処理が行われる。近年、より確実に感染症発生を防止するために、100℃を超える高温高圧蒸気で洗浄するオートクレーブ処理の実施が望まれている。このような過酷な条件下に晒される内視鏡装置は、特に接着された部分が熱応力等のダメージを受けやすくなるため、更なる耐熱性や耐久性が要求されている。
【0007】
医療用の内視鏡装置は、内視鏡挿入部の先端部に撮像素子等の電子部品を搭載している。このため、オートクレーブ処理時において電子部品まで水分が侵入すると、内視鏡挿入部が故障してこれを取り替える必要が生じる。医療用の内視鏡装置では、内視鏡挿入部を頻繁に交換するような事態は避ける必要があり、オートクレーブ処理等の過酷な環境下に曝されても故障しにくいものの開発が求められている。
【0008】
本発明は、オートクレーブ処理等の過酷な条件下における耐熱性及び耐久性を高めることのできる電子内視鏡装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電子内視鏡装置は、光学部材と、該光学部材とは異なる熱膨張係数を有する材料からなり前記光学部材を保持する枠体とが、被検体内に挿入される挿入部の先端部に配置された電子内視鏡装置であって、前記先端部には、撮像素子を含む電子部品が内蔵されており、前記光学部材と前記枠体とが、互いに熱膨張係数の異なる3つ以上の接着層を介して接続されているものである。
【0010】
本発明の電子内視鏡装置の製造方法は、前記第2接着層形成ステップが、前記枠体の内周面の一端部に、段付により拡径する段付部が設けられ、該段付部の拡径された拡径内周面に前記第2の接着材の層を形成するものであり、前記第3接着層形成ステップが、前記第1の接着材の層の外側に第3の接着材の層を形成するものであり、前記挿入ステップでは、前記光学部材の外周面を、前記段付部の拡径内周面に形成された第2の接着材の層へ前記光学部材の挿入方向から押圧することで、前記第2の接着材の層を前記枠体の前記段付により形成された環状側面に延出させ、前記光学部材の外周面と該外周面に対面する前記段付部の拡径された拡径内周面との隙間、及び前記環状側面と該環状側面に対面する前記光学部材の外周縁部との隙間に対して、それぞれ全周にわたって前記第2の接着材の層を形成するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電子内視鏡装置によれば、オートクレーブ処理等の過酷な条件下ににおける耐熱性及び耐久性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態を説明するための図で、内視鏡の全体図である。
【図2】内視鏡先端部の斜視図である。
【図3】図2のA−A断面を示す概略断面図である。
【図4】(A)は白色光源からの出射光を光ファイババンドルにより内視鏡先端部まで導光する照明光学系の概略構成図、(B)はレーザ光を単線の光ファイバにより内視鏡先端部の蛍光体まで導光する照明光学系の概略構成図である。
【図5】先端硬質部の開口孔に、光学部材を複数の接着層を介して固定した概略的な断面図である。
【図6】(A),(B),(C)は先端硬質部の開口孔に光学部材を複数の接着層を介して固定する手順を示す工程図である。
【図7】先端硬質部と光学部材と間の接合部が温度変化により発生する熱応力の分布を示す説明図である。
【図8】先端硬質部の開口孔に、サファイアプレートからなる光学部材を複数の接着層を介して固定した概略的な断面図である。
【図9】第1の接着材のプリフォームを作製する様子を概略的に示す説明図である。
【図10】(A)は光学部材の外周面にプリフォームを挿入する工程、(B)はプリフォームを先端硬質部の開口孔に挿入する工程を示す説明図である。
【図11】先端硬質部の開口孔に、光学部材を3層の接着層を介して固定した概略的な断面図である。
【図12】図11に示す密閉構造においてクラックが発生した状態を示す図である。
【図13】先端硬質部の段付部に、光学部材を複数の接着層を介して固定した概略的な断面図である。
【図14】光学部材の正面図である。
【図15】(A),(B),(C),(D)は光学部材としてサファイアプレートを用い、先端硬質部に光学部材を固定する場合の工程図である。
【図16】図12のR部を拡大して示す拡大説明図である。
【図17】光学部材と先端硬質部との密閉構造の構成例1〜6の実験例を示す図である。
【図18】(A)は従来の照明光学系のレンズの接合構造、(B)は従来の撮像光学系のカバーガラスの接合構造を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態を説明するための図である。
医療機器である内視鏡100は、本体操作部11と、この本体操作部11に連設され体腔内に挿入される内視鏡挿入部13とを備える。本体操作部11には、ユニバーサルコード15が接続され、このユニバーサルコード15の先端に不図示のライトガイドコネクタが設けられる。ライトガイドコネクタは不図示の光源装置に着脱自在に連結され、これによって内視鏡挿入部13の先端部17の照明光学系に照明光が送られる。また、ライトガイドコネクタには、電気コネクタが接続され、この電気コネクタが画像信号処理等を行うプロセッサに着脱自在に連結される。
【0014】
内視鏡挿入部13は、本体操作部11側から順に軟性部19、湾曲部21、及び先端部(以降、内視鏡先端部とも呼称する)17で構成される。湾曲部21は、本体操作部11のアングルノブ23,25を回動することで遠隔的に湾曲操作され、これにより、先端部17を所望の方向に向けることができる。
【0015】
本体操作部11には、前述のアングルノブ23,25の他、送気送水ボタン、吸引ボタン、シャッターボタン等の各種ボタン27が並設される。また、本体操作部11から内視鏡挿入部13側へ延長された連設部29には、鉗子などの処置具が挿入される鉗子挿入部31を設けてある。鉗子挿入部31から挿入された処置具の先端は、内視鏡先端部17に形成された鉗子口41(図2参照)から導出される。
【0016】
図2に内視鏡先端部の概略的な外観図を示した。内視鏡先端部17の先端面には、撮像光学系の観察窓37、観察窓37の両脇側に照明光学系の照射窓39A,39Bが配置される。また、先端面には、鉗子口41や、観察窓37に向けて送気又は送水する送気送水ノズル43も配置される。
【0017】
図3に図2のA−A断面を表す概略断面図を示した。
内視鏡先端部17は、ステンレス鋼材等の金属材料やセラミックスからなる先端硬質部45を有する。先端硬質部45に穿設された開口孔47には、撮像部49の鏡筒51が挿入され、撮像光学系が配置される。撮像部49は、鏡筒51の光軸をプリズム53により直角に曲げて、基板55に実装された撮像素子57に結像させる。撮像素子57からの撮像信号は、基板55から信号線59を通じて不図示の制御装置に送信される。鏡筒51の光路前方にはカバーガラス61が設けられ、先端硬質部45との間で密閉構造が形成されている。
【0018】
また、照明光学系も同様に、図4(A),(B)に示すように、先端硬質部45に穿設された開口孔69へ、内視鏡先端部17から照明光を出射するレンズ71が挿入されている。照明光学系は、キセノンランプ、ハロゲンランプ等の白色光源からの出射光を光ファイババンドル73により内視鏡先端部17まで導光する構成の場合(図4(A))、光ファイババンドル73の光出射端に、上記のレンズ71を配置した構成となる。
【0019】
また、レーザ光を単線の光ファイバ75により内視鏡先端部17まで導光し、光ファイバ75の光出射端に蛍光体77を配置して、レーザ光により励起する蛍光体77からの蛍光と、蛍光体77を通過したレーザ光とにより照明光を生成する場合(図4(B))、蛍光体77のレーザ光入射側とは反対側に上記レンズ71を配置した構成となる。いずれの場合も、レンズ71と先端硬質部45との間で密閉構造が形成される。
【0020】
図3に示すように、先端硬質部45に穿設された開口孔63には、金属製の鉗子パイプ65が固設され、鉗子パイプ65の開口孔63とは反対側の端部には鉗子チューブ67が接続されている。これら鉗子パイプ65及び鉗子チューブ67は、内視鏡先端部17の鉗子口41から、本体操作部11側の鉗子挿入部31までを連通する鉗子チャンネルを形成している。
【0021】
次に、先端硬質部45の開口孔47,69にカバーガラス61やレンズ71等の光学部材を固定した密閉構造について詳細に説明する。
図5は先端硬質部45の開口孔81(47,69)に、光学部材83(61,71)を複数の接着層を介して固定した概略的な断面図である。なお、以下の説明では、先端硬質部45の形状を単純な円筒状に簡略化して説明する。
【0022】
内視鏡先端部の観察窓や照明窓には、レンズ又は透光性を有するカバープレート等の光学部材が内視鏡先端部の表面に露出して配置される。
【0023】
光学部材83は、枠体である先端硬質部45の開口孔81に保持されており、光学部材83と開口孔81とが、互いに熱膨張係数の異なる複数の接着層85を介して接続される。
【0024】
複数の接着層85は、光学部材83と開口孔81との隙間で、その隙間の厚み方向に積層されている。これら接着層85は、光学部材側における第1の接着材の層87と、開口孔81側における第2の接着材の層89からなる。第1の接着材の層87は、板状に形成された光学部材83の外周面に形成され、この外周面に対面する開口孔81内周面に第2の接着材の層89が形成される。
【0025】
例えば、第1の接着材の層87は、先端硬質部45より小さく光学部材83より大きい熱膨張係数を有する第1の接着材からなる。また、第2の接着材の層89は、第1の接着材より大きく先端硬質部45より小さい熱膨張係数を有する第2の接着材からなる。
【0026】
第1の接着材、第2の接着材は、主にビスマス系ガラスで構成される低融点ガラスフリットをフィラー(球形溶融シリカ)として含むものである。具体的には、第1の接着材はBi−ZnO−B系ガラスフリットを含むガラスペーストで、その熱膨張係数αは8.5×10−6[℃−1](100〜300℃)である。なお、ここでいう熱膨張係数は焼結固化後の値である。
【0027】
第2の接着材はBi−ZnO−B系ガラスフリットを含むガラスペーストで、その熱膨張係数αは11.5×10−6[℃−1](100〜300℃)である。第1の接着材は、第2の接着材に酸化亜鉛、アルミナ、微量の酸化硼素、酸化錫などの添加物を混合し、組成調製して得られる。
【0028】
上記の低融点ガラスの組成は、モル%表示で下記の通りに表せる。
BiO : 70〜80%
SiO : 1〜10%
ZnO : 1〜10%
Al : 1〜10%
: 1〜10%
【0029】
先端硬質部45は、ステンレス鋼(SUS304)とした場合、熱膨張係数αは17.3×10−6[℃−1]である。
【0030】
光学部材83は、ガラス(例えばK−LASFN17(商品名、住田光学製))からなり、熱膨張係数αOPは7.9×10−6[℃−1](100〜300℃)である。よって、各部材の熱膨張係数の関係は、αOP < α < α < α となる。なお、熱膨張係数の大小関係は上述したものに限らず、例えば、αOP<α<α>αや、αOP<α>α<αの関係であってもよい。つまり、複数の接着材は、それぞれ異なる熱膨張係数となっていればよい。
【0031】
次に、先端硬質部45の開口孔81に光学部材83を固定する工程を説明する。
図6(A),(B),(C)に先端硬質部45の開口孔81に光学部材83を複数の接着層を介して固定する手順を示した。
【0032】
図6(A)は、先端硬質部45の開口孔81の内周面にペースト状の第2の接着材を塗布した後、加熱して第2の接着材の層89を形成した様子、及び、光学部材83の外周面にペースト状の第1の接着材を塗布した後、加熱して第1の接着材の層87を形成した様子を示している。
【0033】
第1の接着材と第2の接着材は、ガラス軟化点(約400℃)より低い200〜300℃で加熱して30分以上保持することにより、ガラスペースト中に含まれる有機バインダや、塗布時に必要に応じて用いる希釈液が焼き飛ばされ、各層87,89が形成される。ここで、更に450℃以上に加熱保持して、各層87,89内にガラスを焼成してもよい。
【0034】
次に、図6(B)に示すように、光学部材83を先端硬質部45の開口孔81内に挿入して組み合わせる。第1の接着材と第2の接着材は固化されているため、挿入時に各接着材の層が乱れることなく接合される。そして、ガラス軟化点以上の450〜500℃で20分以上ベーキングすることで、図6(C)に示すように、光学部材83と先端硬質部45とを接着層85を介して焼結する。
【0035】
焼結後の第1の接着材の層87と第2の接着材の層89との界面は、実際には相互侵入により所定幅の境界領域を形成し、境界領域内で連続的に層が変化する分布となる。
【0036】
上記のように、熱膨張係数が層毎に異なる低融点ガラスを用いて光学部材83を先端硬質部45に焼結させることにより、水分の透過性がなく、十分な耐熱性、耐久性を有する密閉構造が得られる。
【0037】
図7は、先端硬質部45と光学部材83と間の接合部とが、温度変化により発生する熱応力の分布を示す説明図である。直線Pa−Pbで示す光学部材83、第1の接着材の層87、第2の接着材の層89、先端硬質部45の積層ラインにおける、光学部材83の半径方向(直線Pa−Pb方向)の熱応力は、第1の接着材の層87と第2の接着材の層89により緩和させることができる。
【0038】
つまり、所定量の温度上昇を生じた場合、熱膨張係数の大きい先端硬質部45側では熱膨張により大きな熱歪みが生じるので、S2で示す大きな熱応力が発生する。一方、熱膨張係数の小さい光学部材83側では熱膨張量は少ないが、光学部材83は先端硬質部45の膨張によってPaからPbに向かう方向に引張応力を受ける。しかし、第1の接着材の層87と第2の接着材の層89の熱膨張量が段階的に中間の熱膨張量となることで、先端硬質部45を直接光学部材83に接続する場合より、発生する引張応力が段階的に低減される。これにより、接合界面における破断や各層の破壊等を確実に防止できる。
【0039】
本構成においては、接着層が複数層からなることで、単層で先端硬質部45と光学部材83とを接合する場合より、発生する熱応力を緩和できる。医療用の電子内視鏡に求められる先端硬質部45と光学部材83との隙間は、0.01〜0.2mm程度であり、このような狭小の厚み内で熱膨張係数の大きく異なる材料同士を接合する場合、双方の材料の中間の熱膨張係数となる材料を双方の材料間に単層で介装させても、実質的な熱応力の緩和効果は小さい。
【0040】
本構成のように、先端硬質部45側から光学部材83側にかけての狭小の隙間で、敢えて複数の接着層を介装させることで、単層の接着層からは得られない熱応力低減効果が奏される。上記効果は、隙間寸法が狭いほど顕著となり、0.01〜0.1mm、特に0.01〜0.05mmで顕著となる。
【0041】
図7に示すように、第2の接着材の層89により、先端硬質部45側の熱応力S2が先端硬質部45側に対して反対側でS1aに低減され、更に第1の接着材の層87により、熱応力S1aからS1まで低減される。一方、接着層が単層構造である場合には、図中一点鎖線で示すように、熱応力値が緩やかなカーブとなって上記のS2からS1までの応力緩和量δSより小さいS2aまでの応力緩和量に留まる。
【0042】
本構成における異種材料の接着層界面は、まず、対面する接着層のうち一方の層が先に硬化する。次に、硬化した側の一方の層上に他方の層のガラスが硬化して、双方の層が接着される。この他方の層が硬化する際に、応力が界面方向に逃げ、応力緩和を生じるようになる。
【0043】
以上説明したように、光学部材83と先端硬質部45とを、互いに熱膨張係数の異なる複数の低融点ガラスの接着層85を介して接続することにより、光学部材83と、この光学部材83を支持する先端硬質部45とを、耐熱性及び耐久性を高めて密閉できる。また、煩雑な工程を伴うことがないので、加工性を損なうことがない。
【0044】
<光学部材の変形例>
上記の光学部材83は、ガラスの他、単結晶サファイアで形成することもできる。光学部材83を高強度な単結晶サファイアで形成することで、光学部材83の厚みを、例えば0.15mm〜0.3mm程度(直径1〜2mm)にまで薄肉化できる。
【0045】
図8は先端硬質部45の開口孔81に、サファイアプレート83Aからなる光学部材を複数の接着層85を介して固定した概略的な断面図である。サファイアプレート83Aは薄肉化できるため、第1の接着材の層87、第2の接着材の層89等の複数の接着層85の厚みも薄くできる。サファイアプレート83Aが照明窓で、発光面積が大きく、拡がり角の大きな照明光が出射される場合、照明窓の先端においてケラレ91を生じやすくなる。しかし、接着層85が薄く形成されているため、ケラレ91を生じさせる接着層85の領域は小さい範囲に限られ、その領域からの発熱は最小限に抑えられる。
【0046】
なお、迷光防止のために、第1の接着材の層87に黒色顔料を混合してもよい。黒色顔料としては、等方性黒鉛材が挙げられる。等方性黒鉛材の熱膨張係数は4.4〜7.1×10−6 −1であり、光学部材83の熱膨張係数に近いため、好適に用いることができる。
【0047】
<先端硬質部の変形例>
前述の先端硬質部45においては、その材料をステンレス鋼(SUS304)として説明したが、更に熱膨張係数の小さい材料を利用することができる。先端硬質部45の材料としては、例えば、コバール(商品名):Kovar(成分:Ni 29 wt%, Co17 wt%, Fe Bal.、熱膨張係数:4.8×10−6(30〜400℃)℃−1)、42アロイ(成分:Ni 40.5 wt%, Fe Bal.、熱膨張係数:5.0×10−6(30〜300℃)℃−1)、NSL(東芝マテリアル製)(成分:Ni 42 wt%, 特殊成分, Fe Bal.、熱膨張係数:5.0×10−6(30〜300℃)℃−1)が使用できる。
【0048】
上記のように先端硬質部45の材料として、Ni,Coのうち少なくともいずれかを含むFe系材料を用いることで、熱膨張係数が小さくなり、光学部材との熱膨張係数の差を小さくすることができる。
【0049】
<第1の接着材の層、第2の接着材の層の変形例>
次に、接着層を、予め作製した接着材のプリフォームを用いて形成する方法を説明する。上記例ではペースト状の第1の接着材を光学部材83の外周面に塗布し、第2の接着材を先端硬質部45の開口孔47の内周面に塗布することで、それぞれ接着層を形成していた。ここでは、予め第1の接着材、第2の接着材を固化させた円環状のプリフォームを用いて形成する。
【0050】
図9は第1の接着材のプリフォームを作製する様子を概略的に示す説明図である。まず、円柱形状の棒体93の側面にペースト状の第1の接着材を塗布し、ガラス軟化点より低い200〜300℃に加熱する。これにより、ガラスペースト中に含まれる有機バインダや希釈液を焼き飛ばし、棒体93の側面に第1の接着材の層95を形成する。その後、棒体93を支持した状態で、図示しないカッタにより棒体93の軸線に対して垂直にスライスして、層95を複数の円環状の個体に切断する。これら各個体の両側面を研磨してプリフォーム87Aとする。
【0051】
上記のように、第1の接着材を固化したプリフォームを予め用意しておけば、図10(A)に示すように、光学部材83の外周面にプリフォーム87Aを挿入して組み込むことで第1の接着材の層を簡単かつ迅速に形成できる。
【0052】
同様の製法により第2の接着材のプリフォームを作製し、作製したプリフォーム89Aを図10(B)に示すように、先端硬質部45の開口孔81に挿入して組み込むことで、第2の接着材の層を簡単かつ迅速に形成できる。
【0053】
各接着層をプリフォームを用いて形成する製法は、特に光学部材83が薄いサファイアプレートであり、このサファイアプレートを先端硬質部に固定する場合に有用である。サファイアプレートを固定する一工程例を以下に示す。(1)光学部材83であるサファイアプレートの外周面に第1の接着材のプリフォームを取り付け、加熱により仮止めする。(2)先端硬質部の開口孔にペースト状の第2の接着材を塗布する。(3)第1の接着材のプリフォームが設けられたサファイアプレートを先端硬質部の開口孔に嵌め込む。(4)ガラス軟化点以上の温度でベーキングする。
【0054】
上記工程によれば、取り扱いが難しい薄肉のサファイアプレートを、反りや脱落を生じさせることなく、簡単かつ確実に固定することができる。
【0055】
<第2の構成例>
次に、2層構造の接着層を3層構造とした構成例を説明する。
図11は先端硬質部45の開口孔81に、光学部材83を3層の接着層を介して固定した概略的な断面図である。前述の第1の接着材の層87と第2の接着材の層89との間に、例えば第1の接着材と第2の接着材の中間の熱膨張係数を有する第3の接着材の層97を形成する。第3の接着材の熱膨張係数は、第1の接着材と第2の接着材の中間の値に限らず、例えば、第1の接着材と第2の接着材より大きい値にしてもよい。つまり、第1の接着材、第2の接着材、及び第3の接着材は、それぞれ異なる熱膨張係数となっていればよい。
【0056】
第3の接着材は、前述の第1の接着材、第2の接着材と同様に、主にビスマス系ガラスで構成される低融点ガラスフリットをフィラーとして含むものである。具体的には、第3の接着材はBi−ZnO−B系ガラスフリットを含むガラスペーストで、その熱膨張係数αは8.8×10−6[℃−1](100〜300℃)である。また、他の例として、第3の接着材はP−ZnO−R2O系ガラスフリットを含むガラスペースト(熱膨張係数12.3×10−6[℃−1])を用いることができる。
【0057】
上記の3層構造は、次にようにして形成することができる。まず、第3の接着材の層97を第1の接着材の層87の外側に形成し、その後、先端硬質部45の第2の接着材の層89が形成された開口孔81に挿入して焼結する。又は、第3の接着材の層97を第2の接着材の層89の内側に形成し、その後、第1の接着材の層87が形成された光学部材83を開口孔81に挿入して焼結する。或いは、第3の接着材の層97を、第1の接着材の層87の外側と、第2の接着材の層89の内側にそれぞれ形成し、光学部材83を開口孔81に挿入して焼結する。焼結処理は前述同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0058】
図12は、図11に示す3層構造の接着層を含む密閉構造を持つ内視鏡挿入部に対し、高温高圧(例えば134℃、圧力2.2bar)条件でのオートクレーブ処理を、接着層にクラックが発生するまで行った結果を示す先端部の断面模式図である。
【0059】
図12に示すように、オートクレーブ処理をくり返し行っていくと、第1の接着材の層87と第3の接着材の層97の界面、及び、第2の接着材の層89と第3の接着材の層97の界面にはクラックは発生せず、第3の接着材の層97の内部においてクラックCが発生する。
【0060】
この結果は、接着層にかかる応力が第3の接着材の層97に集中し、第1の接着材の層87と光学部材83との界面、第1の接着材の層87と第3の接着材の層97との界面、第2の接着材の層89と第3の接着材の層97との界面、及び第2の接着材の層89と先端硬質部45との界面にかかる応力を低減させていることを意味する。
【0061】
なお、図12のようなクラックCが発生するのは、オートクレーブ処理を500〜2000回程度まで実施した場合であり、しかも、この程度の回数のオートクレーブ処理を行っても、クラックが発生するのはサンプル数の50%程度である。
【0062】
このように接着層を3層構造にすることで、オートクレーブ処理のように過酷な条件下であっても、真ん中の第3の接着材の層97に応力を集中させて、第3の接着材の層97以外の各層や各界面におけるクラックの発生を防ぐことができ、密閉構造の耐久性を一層向上できる。
【0063】
図11に示すように接着材の層を3層以上の構造にすると、先端硬質部と光学部材との間に材料同士の界面が2層構造に比べて多く存在するため、この界面に応力が集中してクラックが発生しやすくなると通常は考えられる。
【0064】
しかし、発明者は、図12に示す結果から、接着層を3層構造にすることで、界面への応力集中がむしろ緩和されて、真ん中の接着材の層に応力を集中させられることを見出した。
【0065】
クラックは、界面において発生しやすくなるため、この界面にかかる応力を低減できることで、接着層を複数層構造にして界面が増える場合でも、各界面におけるクラックの発生を効果的に抑制することができ、耐久性及び耐熱性を更に向上させることができる。
【0066】
前述したように、医療用の電子内視鏡に求められる先端硬質部45と光学部材83との隙間は、0.01〜0.2mm程度である。このような狭小の厚み内で、敢えて、3層構造の接着層を設けることで、これまでにない、耐久性及び耐熱性を持った内視鏡装置を実現することが可能になる。
【0067】
本構成は、特に先端硬質部45と光学部材83の熱膨張係数の差が大きく、温度変化過程でより大きな歪みが生じる接続構造に対して有用である。
【0068】
一般に、図8に示すような先端硬質部45に薄肉のサファイアプレート83Aを固定する場合、双方を高い寸法精度で作製し、正確に位置合わせすることは難しい。しかし、本構成のように、第1の接着材の層87と第2の接着材の層89との間に粘性を有する第3の接着材の層97を設けることで、先端硬質部45と光学部材83とを組み合わせる際に、第3の接着材の層97がこの寸法誤差を吸収する。よって、双方を容易に精度良く組み合わせることができる。
【0069】
また、第3の接着材に伸縮性(展性)を付与することで、発生する熱応力(熱歪み)を更に緩和することができる。伸縮性を付与するには、例えば粒度1〜100μmのフィラー用アルミニウム金属粉からなるアルミ合金フィラー(東洋アルミニウム製)、また、望ましくは電気絶縁された合金金属のフィラーを接着材に混入すればよい。更に、迷光防止のため、等方性黒鉛材等の黒色顔料を混合してもよい。
【0070】
第3の接着材の層97は、更に熱膨張係数の異なる複数の層から構成してもよい。つまり、接着層を4層以上の構造としてもよい。この場合には、両端の接着材の層以外の層に応力を集中させることができるため、各層にかかる応力を分散させることができ、3層のときと比較して更なる耐熱性及び耐久性向上を図ることができる。
【0071】
<第3の構成例>
次に、先端硬質部の開口孔に段付部を形成し、この段付部に光学部材を固定する構成について説明する。
図13は先端硬質部45の段付部111に、光学部材83を複数の接着層85を介して固定した概略的な断面図である。
本構成では、先端硬質部45の開口孔81における内周面の一端部に、段付により拡径する段付部111を形成している。段付部111には、開口孔81の開口側に対面する環状側面113と、拡径された内周部分に拡径内周面115が形成される。
【0072】
この段付部111により開口孔81が拡径された領域に、接着層85と光学部材83の外周縁部が配置される。光学部材83の外周面には第1の接着材の層87が全周にわたって形成され、段付部111の環状側面113と拡径内周面115には第2の接着材の層89が全周にわたって形成されている。
【0073】
第2の接着材の層89は、第1の接着材の層87と、環状側面113に対面する光学部材83の外周縁部83aに接合されている。つまり、環状側面113に対面する光学部材83の外周縁部83aが、外周縁部83aの全周にわたって第2の接着材の層89と接合され、先端硬質部45と光学部材83との密閉構造を形成している。
【0074】
また、光学部材83の外側面83bは、先端硬質部45の先端面45aと面一に配置され、光学部材83は、先端硬質部45に塑性変形可能に突出した係止爪117でカシメを行い、段付部111内に保持される。係止爪117は、図中矢印Kで示す加圧変形により、光学部材83を板厚方向に付勢する。係止爪117は、図14に光学部材83の正面図を示すように、先端硬質部45に少なくとも3箇所設けられ、光学部材83の脱落を防止している。この係止爪117により、光学部材83は安定して段付部111内に保持され、光学部材83を先端硬質部45の先端面45aに対して平坦に固定することを容易にしている。
【0075】
上記のように先端硬質部45の段付部111に光学部材83を固定する工程としては、前述の工程と同様であり、その一例を以下に示す。(1)光学部材83の外周面83cにペースト状の第1の接着材を塗布し、ガラス軟化点より低い温度の加熱により仮止めする。(2)先端硬質部の開口孔にペースト状の第2の接着材を塗布する。(3)第1の接着材の層87が形成された光学部材83を先端硬質部45の段付部111内に嵌め込む。(4)係止爪で光学部材83を支持する。(5)ガラス軟化点以上の温度でベーキングする。
【0076】
また、光学部材83としてサファイアプレートを用いる場合は、図15(A)〜(D)に示す工程とすることができる。(1)サファイアプレート83Aの外周面83cに第1の接着材のプリフォーム87Aを取り付け、加熱により仮止めする。(2)先端硬質部45の拡径内周面115にペースト状の第2の接着材を塗布する。(3)プリフォーム87Aが仮止めされたサファイアプレート83Aを、先端硬質部45の段付部111内に嵌め込む。これにより、第2の接着材が、先端硬質部45の環状側面113、及び環状側面113に対面するサファイアプレート83Aの外周縁部83aに広がる。(4)係止爪で光学部材83を支持する。(5)ガラス軟化点以上の温度でベーキングする。
【0077】
上記工程により形成された先端硬質部45と光学部材83(83A)との密閉構造によれば、光学部材83(83A)が、その外周面83c及び外周縁部83aの2面で先端硬質部45と接合されているため、密閉性、耐久性が向上する。
【0078】
なお、接着層を3層構造にする場合には、例えば、図15(A)においてプリフォーム87Aを形成した後、第1の接着材のプリフォーム87Aの外周面に第3の接着材のプリフォームを取り付け、加熱により仮止めする。そして、図15(B)以降の工程を行えばよい。
【0079】
上記密閉構造の効果について、図16を用いて説明する。図16は図13のR部を拡大して示す拡大説明図である。各部材に温度変化が生じた場合、各部材の熱膨張係数に応じた熱応力が発生する。熱膨張係数は、前述のように、光学部材83(83A)の熱膨張係数αOP < 第1の接着材の熱膨張係数α < 第2の接着材の熱膨張係数α < 先端硬質部45の熱膨張係数α の関係を有するので、温度上昇時には、光学部材83(83A)の半径方向に引張応力Pが発生すると共に、光学部材83(83A)の外周縁部83aに剪断応力Qが発生する。
【0080】
剪断応力Qは、光学部材83(83A)の外周縁部83aの全周にわたって発生し、光学部材83(83A)を開口孔81の外側から内側に向けて反らせようとする曲げモーメントMとして作用する。この曲げモーメントMの作用により、温度変化に伴う熱歪みは接着層85と光学部材83(83A)の全体に分散される。
【0081】
このときの全熱応力エネルギは、剪断応力Qにより曲げモーメントMを発生させるエネルギと、引張応力Pのエネルギとの総和であり、従って、図5に示すように光学部材の外周端部のみが接合される場合と比較して、全熱応力エネルギが剪断応力Qに分散されるだけ、引張応力Pが相対的に減少する。
【0082】
このため、引張応力Pと剪断応力Qは全熱応力エネルギの分散により、比較的低い応力レベルに抑制され、温度変化量が大きい場合でも破断や破損が生じにくくなる。
【0083】
また、上記の密閉構造とすることで、図16に示すV方向に観察したときに、光学部材83(83A)の外周縁部を通じて、接着層85に割れ等の欠陥が生じたかを視認できる。これにより、双方の接合状態を簡単に確認できる。
【0084】
以上説明した各構成例の内視鏡によれば、オートクレーブ洗浄に対応できる密閉性、耐熱性、耐薬品性、機械的耐久性が同時に得られる。オートクレーブ洗浄では、160℃〜180℃程度まで加熱され、2bar程度まで加圧され、殺菌消毒、薬剤洗浄される。洗浄処理開始から温度上昇に伴って熱歪みが増加して、設定温度到達時には、室温からの熱変形量が最大となる。このときの光学部材83と先端硬質部45との間の熱応力が最大となる。
【0085】
本構成では、光学部材83と先端硬質部45との間に、第1の接着材の層、第2の接着材の層等の複数の接着層を設け、各接着層の熱膨張係数を、一例として光学部材83から先端硬質部45にかけて階段状に増加する分布にしている。このため、オートクレーブ洗浄のような高温環境に内視鏡を晒しても、発生する熱応力は軽減され、各接着層の破壊、損傷や、光学部材83や先端硬質部45にヒビや変形を生じることが未然に防止できる。
【0086】
以上説明した熱応力は、内視鏡の環境温度の変化により生じる熱応力のみならず、先端硬質部45と光学部材83との焼結処理の加熱昇温時、降温時に生じる熱応力に対しても同様に軽減することができる。
【0087】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0088】
例えば、低融点ガラスは、ビスマス系ガラスの他、珪酸系ガラスで構成することもでき、熱膨張係数等を制御するために、酸化亜鉛、アルミナ、三酸化二硼素、シリカ等の添加物を加えることもできる。なお、リン酸塩やアルカリ・硼酸塩ガラスを用いる場合は、アルカリ土類を追加することで耐水性を良化できる。熱膨張係数の多い金属側に形成する接着層には、酸化マグネシウムを加えることで熱膨張係数を上げることができる。また、光学部材側に形成する接着層には、微量の酸化錫を加えることで熱膨張係数を下げることができる。
【0089】
以上、医療機器として内視鏡を例示して説明したが、本発明は、先端部に撮像素子等の電子部品を内蔵する医療用の内視鏡に限らず、硬性鏡、スコープ内視鏡、各種手術用機器等、各種の医療機器に対しても適用可能である。
【実施例1】
【0090】
図17に光学部材と先端硬質部との密閉構造の構成例1〜6の実験例を示した。以下、構成例1〜6の構成とその接着強度の評価を説明する。
【0091】
構成例1においては、先端硬質部は、熱膨張係数αが10.0[×10−6 −1]のステンレス鋼(SUS410)であり、光学部材は、熱膨張係数αOPが4.5[×10−6 −1]のサファイアプレートである。
【0092】
また、接着層は3層の積層構造である。第2の接着材の層は、Bi−ZnO−B 系ガラスフリットを含むガラスペースト(熱膨張係数α:11.5[×10−6 −1]、焼成温度450℃)の接着材をガラス軟化点以下の温度で形成した。第1の接着材の層は、Bi−ZnO−B 系ガラスフリットを含むガラスペースト(熱膨張係数α:8.5[×10−6 −1]、焼成温度450℃)の接着材をガラス軟化点以下の温度で形成した。第3の接着材の層は、Bi−ZnO−B 系ガラスフリットを含むガラスペースト(熱膨張係数α:8.8[×10−6 −1]、焼成温度480℃)の接着材を、第1、第2の接着材の層とまとめて焼成温度をやや超える温度で焼結させることで形成した。
【0093】
構成例2は、先端硬質部を、熱膨張係数αが17.3[×10−6 −1]のステンレス鋼(SUS304)とした以外は構成例1と同じ構成である。
【0094】
構成例3は、構成例1において、光学部材をL−LASFN(商品名:住田光学製)のガラスとし、第1の接着材の層を、熱膨張係数αが11.5[×10−6 −1]、焼成温度450℃の接着材で形成し、第2の接着材の層を、熱膨張係数αが8.8[×10−6 −1]、焼成温度450℃の接着材で形成し、第1の接着材の層と第2の接着材の層の間に第3の接着材の層を加えた構成である。第3の接着材の層は、熱膨張係数αが12.3[×10−6 −1]、焼成温度480℃のP−ZnO−R2O系ガラスフリットを含むガラスペーストで形成した構成である。
【0095】
構成例4は、構成例1において、先端硬質部を、熱膨張係数αが17.3[×10−6 −1]のステンレス鋼(SUS304)とし、第3の接着材の層を省略した構成である。接着層を構成する各接着材の層をガラスペーストの塗布後、ガラス軟化点以下の温度に加熱して形成し、その後に双方を組み合わせ、焼成温度をやや超える温度で焼結させた。
【0096】
構成例5は、先端硬質部をステンレス鋼(SUS410)、光学部材をL−LASFN17(商品名:住田光学製)のガラスとし、第2の接着材の層を設けずに、構成例1と同様の第1の接着材の層を単層として設けた構成である。
【0097】
構成例6は、構成例5において、先端硬質部をSUS304とし、第1の接着材の層を、熱膨張係数αが12.3[×10−6 −1]、焼成温度480℃のP−ZnO−R2O系ガラスフリットを含むガラスペーストで形成した構成である。
【0098】
上記の構成例1〜6に対して、滅菌処理500回実施の前後における窓(観察窓又は照射窓)の接着強度を評価した結果を図17に示す。
接着強度の評価は、初期状態からの強度変化が<5%(変化が見られない)の場合を+++、<10%の場合を++、<50%の場合を+、低融点ガラス部に曇りやクラックが入ったりした場合を−としている。
【0099】
構成例4と構成例5,6を比較して分かるように、接着材を2層構造とすることで、耐久性及び耐熱性を向上させることができる。
【0100】
構成例1〜3と構成例4を比較して分かるように、接着材を3層構造とすることで、耐久性及び耐熱性を更に向上させることができる。
【0101】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
開示された電子内視鏡装置は、光学部材と、該光学部材とは異なる熱膨張係数を有する材料からなり前記光学部材を保持する枠体とが、被検体内に挿入される挿入部の先端部に配置された電子内視鏡装置であって、前記先端部には、撮像素子を含む電子部品が内蔵されており、前記光学部材と前記枠体とが、互いに熱膨張係数の異なる3つ以上の接着層を介して接続されているものである。
【0102】
開示された電子内視鏡装置は、前記3つ以上の接着層が、それぞれ低融点ガラスからなるものである。
【0103】
開示された電子内視鏡装置は、前記低融点ガラスが、主にビスマス系ガラスで構成されるものである。
【0104】
開示された電子内視鏡装置は、前記3つ以上の接着層が、板状に形成された前記光学部材の外周面と、該外周面に対面する前記枠体の内周面との間に少なくとも形成されたものである。
【0105】
開示された電子内視鏡装置は、前記枠体の内周面の一端部に、段付により拡径する段付部が形成され、前記枠体の前記段付により形成された環状側面に、前記3つ以上の接着層のうちいずれかの層が全周にわたって設けられ、前記環状側面に対面する前記光学部材の外周縁部が、該外周縁部の全周にわたって前記いずれかの層と接合されたものである。
【0106】
開示された電子内視鏡装置は、前記枠体が、Ni,Coのうち少なくともいずれかを含むFe系材料からなるものである。
【0107】
開示された電子内視鏡装置は、前記光学部材が、サファイアからなるものである。
【0108】
開示された電子内視鏡装置の製造方法は、光学部材と、該光学部材とは異なる熱膨張係数を有する材料からなり、前記光学部材を保持する枠体とが、被検体内に挿入される挿入部の先端部に配置され、前記先端部に撮像素子を含む電子部品が内蔵された電子内視鏡装置の製造方法であって、前記光学部材と前記枠体とを、前記光学部材と前記枠体との隙間の厚み方向に積層され、互いに熱膨張係数の異なる3つ以上の接着層を介して接続する際に、前記光学部材側に、第1の接着材の層を形成する第1接着材層形成ステップと、前記枠体側に、第2の接着材の層を形成する第2接着材層形成ステップと、前記第1の接着材の層の外側と、前記第2の接着材の層の内側との少なくともいずれかに第3の接着材の層を形成する第3接着層形成ステップと、前記第1接着材層形成ステップ、前記第2接着材層形成ステップ、及び前記第3接着材層形成ステップの後、前記枠体に前記光学部材を挿入する挿入ステップと、前記挿入ステップの後、前記枠体と前記光学部材とを、前記第1の接着材と前記第2の接着材と前記第3の接着材を含む接着材層を介して焼結する焼結ステップと、を少なくとも実施するものである。
【0109】
開示された電子内視鏡装置の製造方法は、前記各接着材が、低融点ガラスフリットをフィラーとして含むものである。
【0110】
開示された電子内視鏡装置の製造方法は、前記第1接着材層形成ステップが、ペースト状の前記第1の接着材を前記光学部材に塗布した後、加熱によりガラスを焼成して前記第1の接着材の層を形成するステップであるものを含む。
【0111】
開示された電子内視鏡装置の製造方法は、前記第1接着材層形成ステップが、前記第1の接着材を環状に成形したプリフォームの内周面を前記光学部材の外周面に嵌装して前記第1の接着材の層を形成するステップであるものを含む。
【0112】
開示された電子内視鏡装置の製造方法は、前記第2接着層形成ステップが、ペースト状の前記第2の接着材を前記枠体に塗布した後、加熱によりガラスを焼成して前記第2の接着材の層を形成するステップであるものを含む。
【0113】
開示された電子内視鏡装置の製造方法は、前記第2接着層形成ステップが、前記第2の接着材を環状に成形したプリフォームの外周面を前記枠体の内周面に嵌装して前記第2接着材の層を形成するステップであるものを含む。
【0114】
開示された電子内視鏡装置の製造方法は、前記第2接着層形成ステップが、前記枠体の内周面の一端部に、段付により拡径する段付部が設けられ、該段付部の拡径された拡径内周面に前記第2の接着材の層を形成するものであり、前記第3接着層形成ステップが、前記第1の接着材の層の外側に第3の接着材の層を形成するものであり、前記挿入ステップでは、前記光学部材の外周面を、前記段付部の拡径内周面に形成された第2の接着材の層へ前記光学部材の挿入方向から押圧することで、前記第2の接着材の層を前記枠体の前記段付により形成された環状側面に延出させ、前記光学部材の外周面と該外周面に対面する前記段付部の拡径された拡径内周面との隙間、及び前記環状側面と該環状側面に対面する前記光学部材の外周縁部との隙間に対して、それぞれ全周にわたって前記第2の接着材の層を形成するものである。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の電子内視鏡装置によれば、オートクレーブ処理等の過酷な条件下における耐熱性及び耐久性を高めることができる。
【符号の説明】
【0116】
13 内視鏡挿入部
17 先端部
35 先端面
37 観察窓
36 対物レンズ
39A,39B 照射窓
45 先端硬質部
45a 先端面
47 開口孔
61 カバーガラス
69 開口孔
71 レンズ
73 光ファイババンドル
75 光ファイバ
81 開口孔
83 光学部材
83A サファイアプレート
83a 外周縁部
83b 外側面
83c 外周面
85 接着層
87 第1の接着材の層
87A プリフォーム
89 第2の接着材の層
89A プリフォーム
91 ケラレ
95 第1の接着材の層
97 第3の接着材の層
100 内視鏡
111 段付部
113 環状側面
115 拡径内周面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学部材と、該光学部材とは異なる熱膨張係数を有する材料からなり前記光学部材を保持する枠体とが、被検体内に挿入される挿入部の先端部に配置された電子内視鏡装置であって、
前記先端部には、撮像素子を含む電子部品が内蔵されており、
前記光学部材と前記枠体とが、互いに熱膨張係数の異なる3つ以上の接着層を介して接続されている電子内視鏡装置。
【請求項2】
請求項1記載の電子内視鏡装置であって、
前記3つ以上の接着層が、それぞれ低融点ガラスからなる電子内視鏡装置。
【請求項3】
請求項2記載の電子内視鏡装置であって、
前記低融点ガラスが、主にビスマス系ガラスで構成される電子内視鏡装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項記載の電子内視鏡装置であって、
前記3つ以上の接着層が、板状に形成された前記光学部材の外周面と、該外周面に対面する前記枠体の内周面との間に少なくとも形成された電子内視鏡装置。
【請求項5】
請求項4記載の電子内視鏡装置であって、
前記枠体の内周面の一端部に、段付により拡径する段付部が形成され、
前記枠体の前記段付により形成された環状側面に、前記3つ以上の接着層のうちいずれかの層が全周にわたって設けられ、前記環状側面に対面する前記光学部材の外周縁部が、該外周縁部の全周にわたって前記いずれかの層と接合された電子内視鏡装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか一項記載の電子内視鏡装置であって、
前記枠体が、Ni,Coのうち少なくともいずれかを含むFe系材料からなる電子内視鏡装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか一項記載の電子内視鏡装置であって、
前記光学部材が、サファイアからなる電子内視鏡装置。
【請求項8】
光学部材と、該光学部材とは異なる熱膨張係数を有する材料からなり、前記光学部材を保持する枠体とが、被検体内に挿入される挿入部の先端部に配置され、前記先端部に撮像素子を含む電子部品が内蔵された電子内視鏡装置の製造方法であって、
前記光学部材と前記枠体とを、前記光学部材と前記枠体との隙間の厚み方向に積層され、互いに熱膨張係数の異なる3つ以上の接着層を介して接続する際に、
前記光学部材側に、第1の接着材の層を形成する第1接着材層形成ステップと、
前記枠体側に、第2の接着材の層を形成する第2接着材層形成ステップと、
前記第1の接着材の層の外側と、前記第2の接着材の層の内側との少なくともいずれかに第3の接着材の層を形成する第3接着層形成ステップと、
前記第1接着材層形成ステップ、前記第2接着材層形成ステップ、及び前記第3接着材層形成ステップの後、前記枠体に前記光学部材を挿入する挿入ステップと、
前記挿入ステップの後、前記枠体と前記光学部材とを、前記第1の接着材と前記第2の接着材と前記第3の接着材を含む接着材層を介して焼結する焼結ステップと、を少なくとも実施する電子内視鏡装置の製造方法。
【請求項9】
請求項8記載の電子内視鏡装置の製造方法であって、
前記各接着材が、低融点ガラスフリットをフィラーとして含むものである電子内視鏡装置の製造方法。
【請求項10】
請求項9記載の電子内視鏡装置の製造方法であって、
前記第1接着材層形成ステップが、ペースト状の前記第1の接着材を前記光学部材に塗布した後、加熱によりガラスを焼成して前記第1の接着材の層を形成するステップである電子内視鏡装置の製造方法
【請求項11】
請求項8又は請求項9記載の電子内視鏡装置の製造方法であって、
前記第1接着材層形成ステップが、前記第1の接着材を環状に成形したプリフォームの内周面を前記光学部材の外周面に嵌装して前記第1の接着材の層を形成するステップである電子内視鏡装置の製造方法。
【請求項12】
請求項9記載の電子内視鏡装置の製造方法であって、
前記第2接着層形成ステップが、ペースト状の前記第2の接着材を前記枠体に塗布した後、加熱によりガラスを焼成して前記第2の接着材の層を形成するステップである電子内視鏡装置の製造方法。
【請求項13】
請求項8又は請求項9記載の電子内視鏡装置の製造方法であって、
前記第2接着層形成ステップが、前記第2の接着材を環状に成形したプリフォームの外周面を前記枠体の内周面に嵌装して前記第2接着材の層を形成するステップである電子内視鏡装置の製造方法。
【請求項14】
請求項8〜請求項13のいずれか一項記載の電子内視鏡装置の製造方法であって、
前記第2接着層形成ステップが、前記枠体の内周面の一端部に、段付により拡径する段付部が設けられ、該段付部の拡径された拡径内周面に前記第2の接着材の層を形成するものであり、
前記第3接着層形成ステップが、前記第1の接着材の層の外側に第3の接着材の層を形成するものであり、
前記挿入ステップでは、前記光学部材の外周面を、前記段付部の拡径内周面に形成された第2の接着材の層へ前記光学部材の挿入方向から押圧することで、前記第2の接着材の層を前記枠体の前記段付により形成された環状側面に延出させ、前記光学部材の外周面と該外周面に対面する前記段付部の拡径された拡径内周面との隙間、及び前記環状側面と該環状側面に対面する前記光学部材の外周縁部との隙間に対して、それぞれ全周にわたって前記第2の接着材の層を形成する電子内視鏡装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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