説明

電子写真トナー及びその製造方法

【課題】 加水分解処理した低分子量の生分解性樹脂を結着樹脂として用いても、良好な粉砕性、保存安定性、定着性及び臭気の問題のない電子写真トナー及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 結着樹脂として数平均分子量が20,000以下になるよう加水分解処理したポリ乳酸系樹脂と、着色剤とを少なくとも含む原料に、酸価調整剤を加えて溶融・混練・粉砕・分級して得られる電子写真トナーであって、得られるトナーの酸価を10以下に調整すべく前記酸価調整剤の使用量を設定してなることを特徴とする電子写真トナー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナー及びその製造方法に係り、特に、結着樹脂として生分解性樹脂を用いた電子写真トナー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式による画像形成は、静電荷像をトナーにより現像して可視化し、得られたトナー像を用紙に転写した後、熱と圧力により定着させることにより行う。このような画像形成に用いるトナーとしては、結着樹脂に着色剤や帯電制御剤などを配合した混合物を溶融・混練し、粉砕して所定の粒度分布に調整したものが使用される。
【0003】
従来、結着樹脂にはスチレン・アクリル樹脂や、ポリエステル樹脂などの石油由来の樹脂が使用されている。しかし、近年、環境への配慮から、廃棄時に環境への負荷の少ない生分解性樹脂をトナー用結着樹脂として用いる方法が提案されている。
【0004】
生分解性樹脂として現在最も有望な樹脂の一つがポリ乳酸である。しかしながら、汎用のポリ乳酸は融点が170℃程度、ガラス転移点が60℃程度、数平均分子量が10〜15万程度の結晶性ポリエステルであり、汎用のポリ乳酸をそのままトナー用樹脂として使用する場合、硬く、粉砕性が悪いことと、軟化温度が高く、低温定着に向かないという問題があった。
【0005】
そのような問題を解決するために、ポリ乳酸に植物系のワックスを多量に添加する提案がなされている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この提案では、ワックスを多量に添加することでトナーの軟化温度を下げることは可能となるが、ワックス成分によりトナーが凝集し易くなるため、分級効率の低下による生産性が悪化し、また、トナーの流動性が悪化することで、現像器内でのトナー搬送性が劣るなどの問題が発生する。
【0006】
また、ポリ乳酸系生分解性樹脂にテルペンフェノール共重合体と特定のワックスとを配合する提案がある(例えば、特許文献2参照)。この提案では、ポリ乳酸の強靭さと、樹脂強度は低いが低温定着性には有効であるテルペンフェノール共重合体をブレンドすることで、耐久性を損なうことなく、良好な低温定着性と粉砕性を両立させることができるとしている。
【0007】
しかしながら、ポリ乳酸系生分解性樹脂の配合量は30重量%程度が限界であり、これ以上配合量を増やすと、粉砕性が悪化し、トナーを作成することが困難となってしまう。また、溶融粘度も高くなり、低温定着性が悪化してしまう。
【0008】
また、特許文献3には、ポリ乳酸系生分解性樹脂を微細な粉体としてトナー用樹脂に使用できる旨記載があるが、その分子量等からみて、トナーが必要とする10μm以下の粒径に粉砕することは、極めて困難である。
【0009】
そこで、本願出願人は、使用するポリ乳酸の分子量を低分子量側にコントロールすることで、粉砕性や定着性を改善する提案をしているが、低分子量ポリ乳酸は末端のカルボキシル基が増えることや残存モノマーの影響などで、長期保存性が悪化したり、定着時に独特の臭気が発生するという更なる問題を確認している。従って、使用・選択できる低分子量側の範囲が狭かった。
【0010】
以上のように、生分解性樹脂をトナーの結着樹脂の主成分とするには課題が多く、その一部を置き換えた場合でも、配合量が限られており、良好な特性を維持しつつ、より多くの生分解性樹脂をトナーの結着樹脂として配合できることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第2597452号公報
【特許文献2】特許第3779221号公報
【特許文献3】特開2007−197602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、以上のような事情の下に為されたものであり、加水分解処理により低分子量化した生分解性樹脂を結着樹脂として用いても、良好な粉砕性、保存安定性、定着性及び臭気の問題のない電子写真トナー及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意研究を行った結果、加水分解処理した低分子量の生分解性樹脂を結着樹脂として使用するに当たり、該生分解性樹脂の酸価を調整することにより、粉砕性及び定着性が良好で、保存安定性や臭気の点で優れるトナーを得ることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明の第1の態様は、結着樹脂として所定の低分子量に加水分解処理した生分解性樹脂と、着色剤とを少なくとも含む原料に、酸価調整剤を加えて溶融・混練・粉砕・分級して得られる電子写真トナーであって、上記酸価調整剤に基づき酸価を10以下に調整して得られたことを特徴とする電子写真トナーを提供する。
【0015】
また、本発明の第2の態様は、所定の低分子量に加水分解処理した生分解性樹脂と、着色剤と、酸価調整剤とを含む原料混合物を、溶融しつつ混練して混練物を得る溶融・混練工程、前記混練物を粉砕し分級する粉砕・分級工程を具備し、得られるトナーの酸価を10以下に調整すべく上記酸価調整剤の使用量を設定することを特徴とする電子写真トナーの製造方法を提供する。
【0016】
そして、本発明の第3の態様は、所定の低分子量に加水分解処理した生分解性樹脂と、着色剤と、酸価調整剤とを含む原料混合物を、溶融しつつ混練して混練物を得る溶融・混練工程、上記混練物を粉砕し分級する粉砕・分級工程を具備し、得られるトナーの酸価を10以下に調整すべく上記酸価調整剤の使用量を設定することを特徴とする電子写真トナーの酸価調整方法を提供する。
【0017】
上記のような電子写真トナー、電子写真トナーの製造方法及び電子写真トナーの酸価調整方法において、上記生分解性樹脂がポリ乳酸系樹脂であり、上記所定の低分子量は、数平均分子量で20,000以下である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、結着樹脂として低分子量の生分解性樹脂を含むにもかかわらず、粉砕性及び定着性が良好で、保存安定性や臭気の点で優れる電子写真トナーが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の種々の実施形態について説明する。
本発明の第1の実施形態に係る電子写真トナーは、結着樹脂として所定の低分子量に加水分解処理した生分解性樹脂と、着色剤とを少なくとも含む原料に、酸価調整剤を加えて溶融・混練・粉砕・分級して得られる。
【0020】
本発明で使用される生分解性樹脂はポリ乳酸系樹脂であり、下記の構造式を有する。

【0021】
ここで、所謂ポリ乳酸は、乳酸がエステル結合により結合したポリマーであり、近年注目を集めている樹脂である。すなわち、自然界には、エステル結合を切断する酵素(エステラーゼ)が広く分布していることから、ポリ乳酸は環境中でこのような酵素により徐々に分解されて、単量体である乳酸に変換され、最終的には二酸化炭素と水になる。
【0022】
本発明で使用されるポリ乳酸の製造方法としては、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。原料となるとうもろこし等の澱粉を発酵し、乳酸を得た後、乳酸モノマーから直接脱水縮合する方法や、乳酸から環状二量体ラクチドを経て、触媒の存在下で開環重合によって合成する方法がある。そして、近年、ネイチャーワークス社がポリ乳酸樹脂を商業的に販売している。
【0023】
なお、市販されているポリ乳酸は、耐熱性向上等のため、より高分子量が得られる開環重合法により合成されたものであり、その数平均分子量は100,000以上のものが主流である。このような高分子量のポリ乳酸では、軟化点が高すぎて定着性が悪く、また粉砕性も悪い。そのため、樹脂を加水分解し、分子量を低減させる必要がある。
【0024】
本発明で使用される特定の低分子量のポリ乳酸は、重合時の反応条件を可変することで、任意に調整することができるが、ポリ乳酸の加水分解特性を利用し、例えば高温高湿化に市販のポリ乳酸を放置することによって、分子量を低減させたものを好適に使用できる。
【0025】
すなわち、本発明で使用するポリ乳酸は、数平均分子量で20,000以下に加水分解処理したものを用いる。
【0026】
なお、上述のように、低分子量ポリ乳酸は加水分解の際、末端のカルボキシル基が増えることや残存モノマーの影響などで、長期保存性が悪化したり、定着時に独特の樹脂臭気が発生する傾向があり、トナー用樹脂として用いるには、臭気は大きな問題であり課題となる。
【0027】
従って、本発明の第1の実施形態に係る電子写真トナーにおいては、加水分解処理した低分子量のポリ乳酸を結着樹脂として使用するに当たり、酸価調整剤を加えることで酸価を10以下に調整することにしている。
【0028】
このように分子量を低減することで従来粉砕が困難であったポリ乳酸が、比較的容易に粉砕可能となり、ポリ乳酸を高濃度で添加することが可能となる。また、低分子量化しすぎたポリ乳酸も酸価調整剤を加えることで利用可能としている。
【0029】
本発明の第2の実施形態に係る電子写真トナーの製造方法及び第3の実施形態に係る酸価調整方法においては、以下の従来公知の方法を採用することができる。
【0030】
例えば、結着樹脂、着色剤、酸価調整剤、必要に応じてその他添加剤を含む原料を混合した後、2軸混練機や加圧ニーダー、オープンロールなどの混練機で混練し、混練物を得る。この混練物を冷却した後、ジェットミル等の粉砕機で粉砕し、風力分級機等で分級することで、トナーを得ることができる。
【0031】
ここで、トナーの粒径は特に限定されないが、通常5〜10μmとなるように調整される。このようにして得られたトナーに対し、流動性向上、帯電性調整、耐久性向上のため、外添剤を添加することができる。
【0032】
外添剤としては、無機微粒子が一般的であり、シリカ、チタニア、アルミナ等が挙げられ、そのうち疎水化処理されたシリカ(日本アエロジル(株)、CABOT(株)より市販)が好ましい。無機微粒子の粒径は、1次粒子径として、7〜40nmのものが良く、機能向上のため、2種類以上を混ぜ合わせても良い。
【0033】
本実施形態の電子写真トナーで使用される着色剤としては、従来公知のものを使用できる。例えば、黒の着色剤としては、カーボンブラック、青系の着色剤としては、C.I.Pigment15:3、赤系の着色剤としては、C.I.Pigment57:1、122、269、黄色系の着色剤としては、C.I.Pigment74、180、185等が挙げられる。本発明の目的の一つである環境への影響を考慮すると、着色剤単体で安全性が高いものが好ましい。
【0034】
これら着色剤の含有量は、トナー全体に対して、1〜10質量%であることが好ましい。また、着色剤は、予め樹脂と着色剤を高濃度に分散したマスターバッチの形として用いても良い。
【0035】
本実施形態に係るトナーには、必要に応じて、従来公知の離型剤を添加することができる。そのような離型剤としては、例えば、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャートロプシュワックス等のオレフィン系ワックスや、カルナウバワックス、ライスワックス、カイガラムシワックス等の天然ワックス、合成エステルワックス等が挙げられる。
【0036】
低温定着性や高速印字性能を向上させるには、60〜100℃程度と比較的低い融点を有する離型剤が好ましく、具体的には、カルナウバワックスや、合成エステルワックスが好ましい。環境への影響を考慮すると、天然物系のカルナウバワックスがより好ましい。離型剤の配合量は、トナー全体に対して、1〜10質量%であることが好ましい。
【0037】
本実施形態に係るトナーには、必要に応じて、従来公知の正帯電又は負帯電の帯電制御剤を添加することができる。正帯電制御剤としては、例えば、4級アンモニウム塩、アミノ基を含有する樹脂等が挙げられ、負帯電制御剤としては、サルチル酸の金属錯塩、ベンジル酸の金属錯塩、カリックスアレン型のフェノール系縮合物、カルボキシル基を含有する樹脂などが挙げられる。帯電制御剤の配合量は、トナー全体に対して、0.1〜5質量%であることが好ましい。
【実施例】
【0038】
以下に本発明の実施例と比較例を示し、本発明についてより具体的に説明する。
1.実施例及び比較例で用いた成分の各物性値の測定方法
(トナー粒径の測定)
装置:マルチサイザーII(コールター(株)製)
試料:ビーカーに試料少量と精製水、界面活性剤を入れ、超音波洗浄器にて分散した。
測定:アパーチャーは100μmで行い、カウントは50,000個で行い、体積平均粒径を得た。
【0039】
(分子量の測定)
装置:GPC(島津製作所(株)製)、検出器RI
分子量Mnは、分子量既知のポリスチレン試料によって作成した検量線を標準としてGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)にて測定される数平均分子量である。
【0040】
2.実施例及び比較例で用いたポリ乳酸の作製
(低分子量ポリ乳酸の作製処理)
まずは、ポリ乳酸(海正生物化学(株)製:REVODE101B、分子量(Mn=120,000)を温度80℃、湿度80%RHに設定した恒温恒湿槽に入れ加水分解させた。その後、純水ですすぎ、熱風乾燥機(60℃設定)にて1時間乾燥させた。
【0041】
上記各加水分解の処理時間を下記表1に示す(参考例1〜8)ように可変し、分子量の異なるポリ乳酸を作製(樹脂No 1〜8)した。
【0042】
【表1】

【0043】
次に、この加水分解処理に関わる分子量の異なるポリ乳酸(樹脂No 1〜8)を各々結着樹脂として、上記表1参考例1〜8のトナーを作成した。
【0044】
すなわち、まず、下記の配合量の各成分をヘンシェルミキサー(標準羽装着、三井鉱山(株)製)に投入し、混合した。
【0045】
結着樹脂:樹脂No 1〜8のポリ乳酸 100 質量部
着色剤:カーボンブラック(CABOT(株)製MOGUL L) 4 質量部
離型剤:カルナウバワックス1号粉末(日本ワックス(株)製) 3 質量部
帯電制御剤:「LR−147」(日本カーリット(株)製) 1 質量部
得られた混合粉体を2軸押出機(スクリュウ径43mm、L/D=34)で溶融混練した後、この溶融混練物を圧延ロールの循環水を10℃に設定して延伸し冷却し、この冷却後の混練物をロートプレックス(ホソカワミクロン(株)製、2mmスクリーン)で粗砕した。その後、衝突式粉砕機(日本ニューマチック工業IDS−2)・風力分級機(日本ニューマチック工業DSX−2)にて、トナー平均粒径が9.0μmになるように粉砕及び分級を行い、微粒子を得た。
【0046】
得られた微粒子100質量部に外添剤として、「RY200」(日本アエロジル(株)製:疎水性シリカ、1次粒子径12nm)を2質量部添加し、ヘンシェルミキサー(撹拌強化羽装着、三井鉱山(株)製)で3分間撹拌混合し、トナーを得た。
【0047】
以上のようにして得られた参考例1〜8のトナーの粉砕性、保存安定性、定着性、臭気及び酸価について、下記の試験方法により試験し、評価・確認した。
【0048】
(試験1−粉砕性)
粉砕・分級工程にて混練粗砕物を粉砕分級する際、トナーの母体となる粒子の収率(質量%)より判断する。実状として、収率が70%以上であれば問題ない。また、この時トナーの体積平均粒径は9μm、微粉として3μm以下の個数割合が5%以下、粗粉として、16μm以上の体積割合が3%以下となるように粉砕条件を調整する。
【0049】
○:収率65%以上。
△:収率50%以上。
×:収率50%未満。
【0050】
(試験2−保存安定性)
50ccビーカーに30cc目盛まで、トナーを入れ(約15g)、40℃90%の恒温槽に30日間放置した後の固まり具合で評価する。上記30日間放置後の試料に対して針金が15mm進入した時の値をバネ秤を用い測定する。
【0051】
○:0.5N未満
×:0.5N以上(評価基準)
−:トナー化できず。
【0052】
(試験3−定着性)
非磁性一成分現像装置「カシオページプレストN−5」(カシオ計算機(株)製:カラープリンタ毎分29枚(A4横)機、プロセススピード129mm/sec)の定着部分の温度を可変できるように改造し、定着試験器とする。この装置で未定着画像を得た後、定着温度を100〜200℃の範囲で10℃毎に可変し、未定着画像を定着器に通した。画像サンプルのコールドオフセット、ホットオフセット、剥離爪跡を目視で評価し、非オフセット領域を求め、評価した。プロセス速度は129.3mm/sec、用紙はXEROX P紙A4サイズ(重量64g/m)で行った。また、定着器のオイル供給ロールは外して行った。
【0053】
○:非オフセット領域が20℃以上である。
×:非オフセット領域が10℃以下である。
−:トナー化できず。
【0054】
(試験4−臭気)
2.0gのトナーを密閉状態で180℃のオーブンに入れ、30分後取り出し、臭いを嗅いで評価する。
【0055】
○:臭いがしない。
×:特有の甘い臭いがする。
−:トナー化できず。
【0056】
(試験5−酸価(JIS:K−0070に準ずる))
試料をビーカーに量り採りクロロホルムを加えて試料が完全に溶けるまで振り混ぜた。この溶液に対し、電位差滴定装置(AT−500N:京都電子工業株式会社)を用いて水酸化カリウムエタノール標準液(0.1mol/L)で電位差滴定を行い、下記式(1)により求めた。
【0057】
酸価=5.611×A×f/B・・・・式(1)
A:滴定に用いた0.1mol/L水酸化カリウムエタノール標準液使用量(ml)
f:0.1mol/L水酸化カリウムエタノール標準液のファクター
B:試料採取量(g)
【0058】
上記表1に示す結果より、以下のことが判明する。すなわち、市販のポリ乳酸を加水分解処理により分子量を低分子量してゆく(参考例2〜参考例7)に連れて酸価が上昇(参考例1〜3は樹脂のみの酸価測定値)し、粉砕性も向上し、参考例4、5では粉砕性が収率50%以上の実用化レベルになると共に全般的評価で概ね良好な結果を得ている。
【0059】
そして、参考例4、5よりも更に低分子量していった参考例6、7では粉砕性がより一層向上する一方で、保存安定性、臭気の問題が発生した。
【0060】
因みに、参考例4、5と参考例6、7とを比較すると、参考例4、5では酸価が概ね10以下と推測された。
【0061】
なお、市販品の参考例1及び分子量が概ね50,000を超える値にしか調整しなかった参考例2、3では、粉砕性が悪く使用に耐えないものであった。一方、加水分解により分子量を5,000程度に低分子量化した参考例8では、ポリ乳酸の分子量が低過ぎ、トナー粉砕時に粉砕機内で融着が発生し、継続して粉砕を行うことができなかった。
【0062】
従って、まず粉砕性の観点から、加水分解により分子量を5,000〜50,000の範囲に調整したポリ乳酸を用いればトナー化の可能性が有ることが確認された。しかしながら、表1に示すトナー製造条件のままでは、参考例4、5の低分子量範囲でしかトナー化が困難であり、製造・設計の自由度が低い。
【0063】
そこで、本発明者らは、上記参考例4、5と参考例6、7との評価の違いに酸価が関わる旨推論し、上記参考例6、7について酸価を調整することにより保存性、臭気を改善できないかどうか検討し、本発明を達成するに至ったものである。
【0064】
3.実施例及び比較例の電子写真トナーの作製
(実施例1)
下記の配合量の各成分をヘンシェルミキサー(標準羽装着、三井鉱山(株)製)に投入し、混合した。
【0065】
結着樹脂:樹脂No 6のポリ乳酸(分子量20,000) 100 質量部
着色剤:カーボンブラック(CABOT(株)製MOGUL L) 4 質量部
離型剤:カルナウバワックス1号粉末(日本ワックス(株)製) 3 質量部
帯電制御剤:「LR−147」(日本カーリット(株)製) 1 質量部
酸価調整剤:「LA−1」(日清紡績(株)製カルボジライト) 1 質量部
得られた混合粉体を2軸押出機(スクリュウ径43mm、L/D=34)で溶融混練した後、この溶融混練物を圧延ロールの循環水を10℃に設定して延伸し冷却し、この冷却後の混練物をロートプレックス(ホソカワミクロン(株)製、2mmスクリーン)で粗砕した。その後、衝突式粉砕機(日本ニューマチック工業IDS−2)・風力分級機(日本ニューマチック工業DSX−2)にて、トナー平均粒径が9.0μmになるように粉砕及び分級を行い、微粒子を得た。
【0066】
得られた微粒子100質量部に外添剤として、「RY200」(日本アエロジル(株)製:疎水性シリカ、1次粒子径12nm)を2質量部添加し、ヘンシェルミキサー(撹拌強化羽装着、三井鉱山(株)製)で3分間撹拌混合し、トナーを得た。
【0067】
(実施例2〜4)
酸価調整剤:「LA−1」を下記表2に示す種々の値に設定したことを除いて、実施例1と同様にしてトナーを得た。
【0068】
(実施例5〜7)
酸価調整剤:「LA−1」を「UG−4040」(東亞合成(株)製アクリルポリマー)
に代えると共に下記表2に示す種々の値に設定したことを除いて、実施例1と同様にしてトナーを得た。
【0069】
(実施例8〜10)
結着樹脂として樹脂No 7のポリ乳酸(分子量10,000)を用いることに代え、酸価調整剤:「LA−1」を下記表2に示す種々の値に設定したことを除いて、実施例1と同様にしてトナーを得た。
【0070】
(実施例11〜12)
結着樹脂として樹脂No 7のポリ乳酸(分子量10,000)を用いることに代え、酸価調整剤:「LA−1」を「UG−4040」(東亞合成(株)製アクリルポリマー)に代えると共に下記表2に示す値に設定したことを除いて、実施例1と同様にしてトナーを得た。
【0071】
(比較例2)
酸価調整剤:「UG−4040」を1配合(部)に設定したことを除いて、実施例5と同様にしてトナーを得た。
【0072】
(比較例4)
酸価調整剤:「LA−1」を1配合(部)に設定したことを除いて、実施例8と同様にしてトナーを得た。
【0073】
(比較例5、6)
酸価調整剤:「UG−4040」を下記表2に示す値に設定したことを除いて、実施例11と同様にしてトナーを得た。
【0074】
以上のようにして得られた実施例1〜12及び比較例2、4〜6について、トナーの粉砕性、保存安定性、定着性、臭気及び酸価を、上記試験方法により試験し、評価した。
以上の結果を下記表2に示す。
【0075】
【表2】

【0076】
上記表2より、以下のことが明らかである。
すなわち、比較例1(上記参考例6を再掲)が、粉砕性、定着性に優れるものの、保存安定性、臭気で問題であったのに対して、酸価調整剤LA-1を1〜10配合(部)加えて酸価を10以下に調整した実施例1〜4に係るトナーは、いずれも、粉砕性、保存安定性、定着性及び臭気のすべての特性において優れた結果を示した。
【0077】
また、比較例3(上記参考例7を再掲)も、粉砕性、定着性に優れるものの、保存安定性、臭気で問題であったのに対して、酸価調整剤LA-1を3〜10配合(部)加えて酸価を10以下に調整した実施例1〜4に係るトナーは、いずれも、粉砕性、保存安定性、定着性及び臭気のすべての特性において優れた結果を示した。
【0078】
これに対して、比較例4は、酸価調整剤LA-1を1配合(部)加えたものの、酸価が14であったため、臭気が改善されていない。
【0079】
これらのことから、加水分解処理によって数平均分子量で20,000以下に低分子量化したポリ乳酸でも、酸価調整剤を適宜加えることでトナーに利用できることが判る。この場合、用いるポリ乳酸の分子量により酸価調整剤の添加量が異なるが、その添加量は酸価を10以下に調整する量であれば良いことになる。
【0080】
このことは、酸価調整剤を変更した実施例からも言える。すなわち、数平均分子量で20,000以下に低分子量化したポリ乳酸に対して酸価調整剤UG-4040を用いて、酸価を10以下に調整した実施例5〜7、実施例11、12に係わるトナーは、いずれも、粉砕性、保存安定性、定着性及び臭気のすべての特性において優れた結果を示した。これに対して、比較例2、比較例5、6は、酸価が13以上であり、臭気が改善されていない。
【0081】
このように、本発明によれば、低分子量化したポリ乳酸でも酸価を調整する事によって、トナーを製造する事ができる。
【0082】
なお、上記実施の形態において、酸価調整剤をカルボジライト(LA-1)やアクリルポリマー(UG―4040)で説明したが、カルボキシル基との反応があれば、これらに限定されないことは勿論である。
【0083】
例えば、そのような酸価調整剤として、中性〜弱塩基性のジイソシアネート、中性〜弱塩基性のジグリシジルエーテル、中性〜弱塩基性の酸無水物や、東亜合成株式会社の無官能基ポリマー「UP−1150」、OH基含有ポリマー「UH−2170」、エポキシ其含有ポリマー「UG−4035」等の無溶剤型アクリルポリマーを例示できる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、生分解性樹脂としてポリ乳酸系樹脂を結着樹脂として含む電子写真トナーに利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂として所定の低分子量に加水分解処理した生分解性樹脂と、着色剤とを少なくとも含む原料に、酸価調整剤を加えて溶融・混練・粉砕・分級して得られる電子写真トナーであって、
前記酸価調整剤に基づき酸価を10以下に調整して得られたことを特徴とする電子写真トナー。
【請求項2】
前記生分解性樹脂がポリ乳酸系樹脂であり、前記所定の低分子量は、数平均分子量で20,000以下であることを特徴とする請求項1に記載の電子写真トナー。
【請求項3】
所定の低分子量に加水分解処理した生分解性樹脂と、着色剤と、酸価調整剤とを含む原料混合物を、溶融しつつ混練して混練物を得る溶融・混練工程、前記混練物を粉砕し分級する粉砕・分級工程を具備し、得られるトナーの酸価を10以下に調整すべく前記酸価調整剤の使用量を設定することを特徴とする電子写真トナーの製造方法。
【請求項4】
前記生分解性樹脂がポリ乳酸系樹脂であり、前記所定の低分子量は、数平均分子量で20,000以下であることを特徴とする請求項3に記載の電子写真トナーの製造方法。
【請求項5】
所定の低分子量に加水分解処理した生分解性樹脂と、着色剤と、酸価調整剤とを含む原料混合物を、溶融しつつ混練して混練物を得る溶融・混練工程、前記混練物を粉砕し分級する粉砕・分級工程を具備し、得られるトナーの酸価を10以下に調整すべく前記酸価調整剤の使用量を設定することを特徴とする電子写真トナーの酸価調整方法。
【請求項6】
前記生分解性樹脂がポリ乳酸系樹脂であり、前記所定の低分子量は、数平均分子量で20,000以下であることを特徴とする請求項5に記載の電子写真トナーの酸価調整方法。