説明

電子写真感光体、プロセスカートリッジ、及び画像形成装置

【課題】オイルや炭化水素系有機溶剤等の化学物質に曝露される条件下でも感光体表面にクラックが生じず、かつ耐キズ性、耐摩耗性、接着性、電気特性の要求を満足する電子写真感光体、並びにそれを用いたプロセスカートリッジ、及び画像形成装置を提供する。
【解決手段】感光体の最表面層中に少なくとも、特定の構造式で表される繰返し単位を含むポリカーボネート樹脂と、前記とは別の特定の構造式で表される繰返し単位を含むポリカーボネート樹脂を共に含有させることにより、上記課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機やプリンター等に用いられる電子写真感光体、電子写真プロセスカートリッジ、及び画像形成装置に関するものである。より詳しくは、オイルや炭化水素系有機溶剤等の化学物質に曝露される条件下でも感光体表面にクラックが生じず、かつ耐キズ性、耐摩耗性、接着性、電気特性の要求を満足する電子写真感光体、並びにそれを用いたプロセスカートリッジ、及び画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真技術は、即時的に高品質の画像が得られることなどから、複写機、プリンター、印刷機として広く使われている。
電子写真技術の中核となる電子写真感光体(以下適宜「感光体」という)については、無公害で、安価大量製造が可能である等の利点を有する、有機系の光導電物質を使用した感光体が広く使用されている。
【0003】
感光体は、電子写真プロセスにおいて、様々な物理的、化学的負荷、外乱を受ける。一例としては、帯電プロセスからの放電負荷およびオゾン/窒素酸化物ガス等のコロナ放電生成物による化学的ダメージ、現像プロセスからのトナー成分付着、転写プロセスからの強電界負荷、クリーニングプロセス起因の摩耗やキズ等が挙げられる。
上記以外に、帯電ローラや現像ローラのように、感光体と常時接触して用いられる部材に使用されている高分子材料には、可塑剤としてオイル成分が用いられることがあり、そのような成分は、ローラからしみ出して感光体に移行し、その結果感光体の表面にクラックが入り、画像欠陥を引き起こす場合がある。ローラからのオイルのしみ出し以外に、感光体表面に直接指で触れたり、あるいは現像剤のキャリアとして、炭化水素系有機溶剤を使用する、いわゆる液体現像系(湿式現像系)でも同様なクラックが入ることが有り、感光体の化学物質、中でもオイル、可塑剤、炭化水素系溶剤等に対する耐久性も、安定な画像を形成するためには重要な性能となっている。
【0004】
前記のようなクラックが入るメカニズムは幾つか考えられるが、一つには、外部由来の化学物質によって、感光体表面近傍に含まれる電荷輸送材料のような低分子材料の一部が溶出することによって、感光体表面近傍にボイドが生じ、ボイド周囲のバインダー樹脂が内部歪み、あるいは外部負荷に耐えられなくなった時点でクラックが入ると推定できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平02−88634号公報
【特許文献2】特許第3144117号公報
【特許文献3】特開平08−220783号公報
【特許文献4】特開平06−075389号公報
【特許文献5】特開平09−204053号公報
【特許文献6】特許3629574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような、化学物質に対する安定性を高めるには、有機溶剤に対する溶解性が低い電荷輸送材料を使用したり、あるいは表面層に高分子電荷輸送材料を使用する等の対策が考えられる。しかし、溶解性が低い電荷輸送材料は塗布液中での結晶析出の問題が有り、高分子電荷輸送材料は、分子構造に制約が大きい上に、高分子特有の欠陥から電気特性に
ばらつきが有ったり、精製が困難等の問題が有る。また、特殊な高分子樹脂を表面層のバインダー樹脂に使用した場合には、電子写真用途としては溶解性や相溶性、電気特性に問題が有ったり、耐摩耗性、耐キズ性、基体との接着性に劣ることが有った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、感光体の最表面層に少なくとも二種類の特定のポリカーボネート樹脂を、バインダー樹脂として含有させることにより、電気特性に悪影響を与えることなく、化学物質に対する安定性が高い、すなわち感光体表面にクラックが生じず、かつ耐キズ性、および基体との接着性を同時に満足することを見出し、本発明の完成に至った。
本発明の要旨は、下記<1>〜<5>に存する。
<1>
最表面層中に少なくとも、下記一般式(1)で表される繰返し単位を含むポリカーボネート樹脂と、下記一般式(2)で表される繰返し単位を含むポリカーボネート樹脂を共に含有することを特徴とする電子写真感光体。
【0008】
【化1】

【0009】
(一般式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子または炭素数3以下のアルキル基を表し、Zは、結合する炭素原子を含めて炭素数5〜8の環状飽和脂肪族アルキル基を形成し、且つ該環状飽和脂肪族アルキル基は、1〜3個のメチル基を置換基として有する。a,bはモル共重合比率を表し、a:b=90:10〜10:90である)
【0010】
【化2】

【0011】
(一般式(2)中、R〜R8はそれぞれ独立に水素原子または炭素数3以下のアルキル
基を表し、Zは置換基を有さない環状脂肪族アルキル基を表す)
<2>
前記一般式(1)で表されるポリカーボネート樹脂が、下記式(3)で表される繰返し単位を含む、<1>記載の電子写真感光体。
【0012】
【化3】

【0013】
(式(3)中、m,nはモル共重合比率を表し、m:n=90:10〜10:90である)
<3>
前記一般式(2)で表されるポリカーボネート樹脂が、下記式(4)で表される繰返し単位を含む、<1>または<2>記載の電子写真感光体。
【0014】
【化4】

【0015】
<4>
<1>〜<3>に記載の電子写真感光体と、少なくとも帯電手段とクリーニング手段を備えることを特徴とする、プロセスカートリッジ。
<5>
<1>〜<3>に記載の電子写真感光体を用いて画像を形成する画像形成装置であって、前記電子写真感光体を帯電させる帯電手段と、帯電された前記電子写真感光体に対し露光を行ない静電潜像を形成する露光手段と、前記静電潜像をトナーで現像する現像手段と、前記トナーを被転写体に転写する転写工程と、クリーニング手段を有することを特徴とする、画像形成装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、オイルや炭化水素系有機溶剤等の化学物質に曝露されても表面にクラックが生じず、かつ耐キズ性、耐摩耗性、接着性、電気特性の要求を満足する電子写真感光体、並びにそれを用いた電子写真感光体カートリッジ、及び画像形成装置を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の画像形成装置の一実施態様の要部構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための実施の形態について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において任意に変形して実施することができる。
まず、本発明の電子写真感光体に使用されるポリカーボネート樹脂について説明する。
<ポリカーボネート樹脂>
本発明の電子写真感光体の最表面層中には、少なくとも、下記一般式(1)で表される繰返し単位を含むポリカーボネート樹脂と、下記一般式(2)で表される繰返し単位を含
むポリカーボネート樹脂を共に含有する。
【0019】
【化5】

【0020】
一般式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子または炭素数3以下のアルキル基を表す。このうち、溶解性および機械物性の観点から、水素原子またはメチル基が好ましい。Zは、結合する炭素原子を含めて炭素数5〜8の環状飽和脂肪族アルキル基を形成し、且つ該環状飽和脂肪族アルキル基は、1〜3個のメチル基を置換基として有する。該環状飽和脂肪族アルキル基にメチル基を導入することにより、シクロアルキル基の構造柔軟性が抑えられ、樹脂としての剛直性が適度に増す。また、非対称にメチル基を導入することによってより溶解性が増し、塗布液のゲル化等の不具合が抑えられるという利点もある。
【0021】
一般式(1)中、a,bはモル共重合比率を表し、a:b=90:10〜10:90が好ましい。bの割合が増えすぎると、ガラス転移点(Tg)が高くなり過ぎ、また溶解性、接着性も低下するので、より好ましくはa:b=90:10〜50:50である。なお、一般式(1)で表される樹脂は、一般にはランダム共重合体であるが、一部ブロック共重合体部分を含有してもよい。一般式(1)の好ましい例を下記に示す。
【0022】
【化6】

【0023】
また、一般式(1)で表される共重合体樹脂が、下記式(3)で表される場合が、特に好ましい。式(3)中、m,nはモル共重合比率を表し、一般式(1)中のa,b同様、m:n=90:10〜10:90が好ましい。nの割合が増えすぎると、ガラス転移点(Tg)が高くなり過ぎ、また溶解性も低下するので、より好ましくはa:b=90:10〜50:50、溶解性の観点からは、85:15〜55:45が最も好ましい。
【0024】
【化7】

【0025】
式(3)で表される構造は、メチル基置換によって、シクロヘキシル基の構造互変異性(舟形および椅子型間の変換)が抑制され、前述のように剛直性が高まり、ガラス転移点も高くなる。
次に、一般式(2)中、R〜R8はそれぞれ独立に水素原子または炭素数3以下のア
ルキル基を表し、製造の容易さ、機械物性の観点から、水素原子またはメチル基が好ましい。Zは置換基を有さない環状脂肪族アルキル基を表し、炭素数5〜8が好ましく、炭素数6が最も好ましい。一般式(2)の好ましい例を下記に示す。
【0026】
【化8】

【0027】
これらのうち、主に下記式(4)で表される繰返し単位からなるポリカーボネート樹脂が最も好ましい。
【0028】
【化9】

【0029】
また、一般式(2)で表される繰り返し単位と共重合してもよいビスフェノール成分の例を、下記に挙げる。共重合比としては、一般式(2)で表される繰り返し単位を50モル%以上含有することが好ましい。
【0030】
【化10】

【0031】
上記式(1)〜(4)で表される樹脂の好ましい分子量の範囲としては、重量平均分子量(ポリスチレン換算)で30,000以上、200,000以下、更に好ましくは、40,000以上、100,000以下である。粘度平均分子量では、好ましくは10,000以上、より好ましくは15,000以上、また、その上限は、好ましくは70,000以下、より好ましくは50,000以下であることが望ましい。粘度平均分子量の値が小さすぎる場合、機械的強度が不足する可能性があり、大きすぎる場合、感光層形成のた
めの塗布液の粘度が高すぎて生産性が低下する可能性がある。なお、粘度平均分子量は、例えばウベローデ型毛細管粘度計等を用いて測定することができる。
【0032】
<ポリカーボネート樹脂(1)と(2)の混合>
前記一般式(1)で表される繰返し単位を含むポリカーボネート樹脂(以下、「ポリカーボネート樹脂(1)」ということがある)は耐クラック性にやや劣るが、表面硬度が高く、基体との接着性が良好である。一方、前記一般式(2)で表される繰返し単位を含むポリカーボネート樹脂(以下、「ポリカーボネート樹脂(2)」ということがある)は耐クラック性に優れるものの、表面硬度が前記ポリカーボネート樹脂(1)と比較して低く、基体との接着性が不十分である。両者を混合することにより、両者の利点を生かしつつ欠点を低減する相乗効果が生じ、バランス良く性能を改良することができる。
【0033】
前記ポリカーボネート樹脂(1)と(2)の混合比(重量比)は、目的に応じて任意に設定できるが、通常、(1):(2)=5:95〜95:5、耐キズ性、耐摩耗性改良の観点からは20:80〜80:20が好ましく、更に耐クラック性改良する観点からは30:70〜80:20がより好ましい。
前記ポリカーボネート樹脂(1)と(2)の混合により、前述のような相乗効果が生じるメカニズムは必ずしも明らかではないが、アルキル基置換されたシクロアルキル基起因のフリーボリュームを、親和性の高い無置換シクロアルキル基が適度に埋めるため、互いの長所を生かしたまま、欠点を相補しているものと推定できる。
【0034】
本発明の上記ポリカーボネート樹脂(1)およびポリカーボネート樹脂(2)は、導電性支持体上に感光層を有する電子写真感光体の最表面となる層に含有されるが、感光層の上に保護層を設ける場合は、保護層に含有される。
次に、本発明の電子写真感光体について、他の構成要素を含め説明する。
[I.電子写真感光体]
本発明の感光体は、上記特定のポリカーボネート樹脂を含有する最表面層を備えるものである。本発明の感光体は、通常は導電性支持体(「導電性基体」あるいは単に「基体」ともいう)上に設けられる。
【0035】
[I−1.導電性支持体]
導電性支持体としては、例えばアルミニウム、アルミニウム合金等、特開2007−293319号公報に開示されている公知の材料を使用することが出来る。また、導電性支持体としてアルミニウム合金等の金属材料を用いた場合、特開2007−293319号公報に開示されているように、陽極酸化被膜を施してから用いてもよい。
【0036】
[I−2.下引き層]
導電性支持体と感光層との間には、接着性・ブロッキング性等の改善のため、下引き層を設けても良い。下引き層としては、特開2007−293319号公報に開示されている公知の例を使用することが出来る。
[I−3.感光層]
感光層は、上述の導電性支持体上に(前述の下引き層を設けた場合は下引き層上に)形成される。感光層の型式としては、電荷発生材料と電荷輸送材料とが同一層に存在し、それらがバインダー樹脂中に分散した単層構造のもの(以下適宜、「単層型感光層」という。)と、電荷発生材料がバインダー樹脂中に分散された電荷発生層、及び電荷輸送材料がバインダー樹脂中に分散された電荷輸送層を含む、二層以上の層からなる積層構造の機能分離型のもの(以下適宜、「積層型感光層」という)が挙げられるが、何れの形態であってもよい。
【0037】
また、積層型感光層としては、導電性支持体側から電荷発生層、電荷輸送層をこの順に
積層して設ける順積層型感光層と、逆に導電性支持体側から電荷輸送層、電荷発生層の順に積層して設ける逆積層型感光層とがあり、いずれを採用することも可能であるが、最もバランスの取れた光導電性を発揮できる順積層型感光層が好ましい。
本発明のポリカーボネート樹脂は、 感光層の型式にかかわらず、導電性支持体とは反
対側となる 感光層の「最表面」となる層に含まれる。
【0038】
電荷発生層と電荷輸送層を有する積層型感光体の電荷輸送層形成の際は、膜強度確保のためにバインダー樹脂が使用される。
積層型感光体の電荷輸送層の場合、電荷輸送物質とバインダー樹脂とを溶剤に溶解、あるいは分散して得られる塗布液、また、単層型感光体の場合、電荷発生物質と電荷輸送物質と前記バインダー樹脂を溶剤に溶解、あるいは分散して得られる塗布液を塗布、乾燥して得ることが出来る。
【0039】
<積層型感光体>
<電荷輸送層>
<バインダー樹脂>
本発明の電子写真感光体が順積層型感光体の場合、電荷輸送層のバインダー樹脂として、上述した二種のポリカーボネート樹脂(1)および(2)を含有する。また、バインダー樹脂は本発明の効果を損なわない範囲であれば、その他の樹脂を混合してもよく、他の樹脂としては、ブタジエン樹脂、スチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、メタクリル酸エステル樹脂、ビニルアルコール樹脂、エチルビニルエーテル等のビニル化合物の重合体及び共重合体、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、部分変性ポリビニルアセタール、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロースエステル樹脂、フェノキシ樹脂、シリコン樹脂、シリコン−アルキッド樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾール樹脂等が挙げられる。これらのバインダー樹脂は、適当な硬化剤を用いて熱、光等により架橋させて用いることもでき、ケイ素試薬などで修飾されていてもよい。その際、本発明のポリカーボネート樹脂(1)および(2)の合計の割合が、50重量%以上であることが好ましい。
【0040】
<電荷輸送材料>
本発明の電子写真感光体は、電荷輸送材料として、特開2007−293319号公報に開示されているような公知の例を使用することが出来る。
本発明に含有される電荷輸送材料の使用量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、少な過ぎると電荷輸送に不利となり、電機特性が悪化するため、感光層中のバインダー樹脂100重量部に対して、通常30重量部以上、好ましくは40重量部以上であり、また、多過ぎるとガラス点移転点(Tg)が下がり過ぎて耐摩耗性が劣化する、耐クラック性が低下するおそれがあるため、通常200重量部以下、好ましくは150重量部以下である。
【0041】
<電荷発生層>
積層型感光層(機能分離型感光層)の電荷発生層は、電荷発生材料を含有すると共に、通常はバインダー樹脂と、必要に応じて使用されるその他の成分とを含有する。このような電荷発生層は、例えば、電荷発生材料の微粒子及びバインダー樹脂を溶媒又は分散媒に溶解又は分散して塗布液を作製し、これを順積層型感光層の場合には導電性支持体上に(下引き層を設ける場合は下引き層上に)、また、逆積層型感光層の場合には電荷輸送層上に塗布、乾燥して得ることができる。
【0042】
<電荷発生材料>
電荷発生材料の例としては、特開2007−293319号公報に開示されている公知の材料を使用することが出来る。なお、これらの材料のうち、フタロシアニン環の中心に
金属を含有する含金属フタロシアニンが好ましく、含金属フタロシアニンの中でもA型(β型)、B型(α型)、D型(Y型)オキシチタニウムフタロシアニン、II型クロロガリウムフタロシアニン、V型ヒドロキシガリウムフタロシアニン、G型μ−オキソ−ガリウムフタロシアニン二量体等がより好ましく、A型(β型)、B型(α型)、D型(Y型)オキシチタニウムフタロシアニンが更に好ましい。
【0043】
特に、オキシチタニウムフタロシアニンは、CuKα特性X線による粉末X線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)27.2°に主たる明瞭な回折ピークを有する、あるいは/かつ、ブラッグ角(2θ±0.2°)9.0°〜9.7°に、明瞭な回折ピークを有することが好ましい。
電荷発生材料としてアゾ顔料を使用する場合には、各種公知のビスアゾ顔料、トリスアゾ顔料が好適に用いられる。
【0044】
電荷発生材料として使用される顔料としては、使用される露光波長により好ましい材料が決められる場合がある。露光波長が380nm〜500nm程度の短波長領域の場合には、上記アゾ顔料が好適に用いられる。一方、630〜780nm程度の近赤外光を使用する場合には、その領域にも高感度を有するフタロシアニン顔料と、一部のアゾ顔料が好適に使用される。一方、環境特性、例えば湿度依存性が小さいことが求められる場合も、CuKα特性X線による粉末X線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)9.0°〜9.7°に明瞭な回折ピークを有するオキシチタニウムフタロシアニンは湿度依存性が大きいため、上記アゾ顔料が好適に使用される。
【0045】
用いる電荷発生材料の粒子径は充分小さいことが望ましい。具体的には、通常1μm以下、好ましくは0.5μm以下である。
さらに、感光層内に分散される電荷発生材料の量は少なすぎると充分な感度が得られない可能性があり、多すぎると帯電性の低下、感度の低下、凝集による平滑性の低下などの弊害がある。よって、積層型感光層の電荷発生層内の電荷発生材料の量は、通常は20重量%以上、好ましくは40重量%以上、また、通常90重量%以下、好ましくは70重量%以下とする。
【0046】
<電荷発生層のバインダー樹脂>
積層型感光層を構成する電荷発生層に用いるバインダー樹脂は特に制限されないが、例えば、特開2007−293319号公報に開示されている公知の材料を使用することが出来る。
電荷発生層は、具体的に、上述のバインダー樹脂を有機溶剤に溶解した溶液に、電荷発生物質を分散させて塗布液を調整し、これを導電性支持体上に(下引き層を設ける場合は下引き層上に)塗布することにより形成される。
【0047】
<単層型感光層>
単層型感光層は、電荷発生物質と電荷輸送物質に加えて、機能分離型感光体の電荷輸送層と同様に、バインダー樹脂として上述した二種のポリカーボネート樹脂(1)および(2)を共に使用して形成する。また、バインダー樹脂は電荷輸送層と同様に、本発明の効果を損なわない範囲であれば、その他の樹脂を混合しても良い。単層型感光層は、電荷発生物質と電荷輸送物質と前記バインダー樹脂とを溶剤に溶解又は分散して塗布液を作成し、導電性支持体上(下引き層を設ける場合は下引き層上)に塗布、乾燥して得ることが出来る。
【0048】
電荷輸送物質およびバインダー樹脂の種類並びにこれらの使用比率は、積層型感光体の電荷輸送層について説明したものと同様である。これらの電荷輸送物質およびバインダー樹脂からなる電荷輸送媒体中に、さらに電荷発生物質が分散される。
電荷発生物質は、積層型感光体の電荷発生層について説明したものと同様のものが使用できる。但し、単層型感光体の感光層の場合、電荷発生物質の粒子径を十分に小さくする必要がある。具体的には、通常1μm以下、好ましくは0.5μm以下の範囲とする。
【0049】
単層型感光層内に分散される電荷発生物質の量は、少な過ぎると十分な感度が得られない一方で、多過ぎると帯電性の低下、感度の低下等の弊害があることから、単層型感光層全体に対して、通常0.5質量%以上、好ましくは1質量%以上、また、通常50質量%以下、好ましくは20質量%以下の範囲で使用される。
また、単層型感光層におけるバインダー樹脂と電荷発生物質との使用比率は、バインダー樹脂100質量部に対して電荷発生物質が通常0.1質量部以上、好ましくは1質量部以上、また、通常30質量部以下、好ましくは10質量部以下の範囲とする。
【0050】
次に、積層型/単層型感光層の他の構成成分について説明する。
<その他の構成成分>
さらに、感光層は、各種の添加剤を含有していても良い。これらの添加剤は成膜性、可撓性、機械的強度等を改良するために用いられるもので、例えば、可塑剤、紫外線等の短波長光吸収剤、酸化防止剤、残留電位を抑制するための残留電位抑制剤、分散安定性向上のための分散補助剤、塗布性を改善するためのレベリング剤(例えば、シリコ−ンオイル、フッ素系オイル等)、界面活性剤などが挙げられる。なお、添加剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0051】
<膜厚>
また、本発明の感光体において感光層の膜厚に制限は無く本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、単層型感光体の場合は、通常10μm以上、好ましくは15μm以上、また、通常50μm以下、好ましくは45μm以下である。積層型感光体の場合は、電荷発生層は好ましくは0.1μm以上1μm以下、より好ましくは0.2μm以上0.8μm以下であり、電荷輸送層は、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、また、通常40μm以下、好ましくは35μm以下である。当該電荷輸送層は、単一の層だけでなく、二層以上の異なる層から形成されていてもよい。
【0052】
<ユニバーサル硬度>
表面の傷発生を抑制するためには、感光層の表面硬度が高いことが好ましい。硬度は、電荷輸送材料、およびバインダー樹脂双方に依存し、またその相溶性によっても影響されるため、材料の組合せで好適な範囲となるように設計する必要が有る。感光層の好ましい表面硬度は、ユニバーサル硬度値として、下限は、通常、175N/mm以上、好ましくは180N/mm以上、より好ましくは190N/mm以上であり、上限は、通常、290N/mm以下、好ましくは270N/mm以下である。
【0053】
[I−4.その他の層]
感光層の上に、保護層を最表面層として設けても良い。この場合は、保護層に前記ポリカーボネート樹脂(1)および(2)を少なくも含有する。また、当該保護層には、適宜添加剤を加えてもよい。例えばフッ素系樹脂、シリコーン樹脂、架橋ポリスチレン樹脂等の樹脂粒子、アルミナ粒子、シリカ粒子等の無機粒子等が挙げられる。また、保護層の厚みが1μmより厚い場合は、その下層の影響よりも保護層の物性が表面機械物性をより強く支配するため、下層の感光層に用いられる材料には本発明で規定する範囲にとらわれず、任意の公知材料を使用してもよい。
【0054】
[I−5.各層の形成方法]
下引き層、感光層、保護層などの各層の形成方法に制限は無い。例えば、形成する層に含有させる材料を溶剤に溶解又は分散させて得られた塗布液を、導電性支持体の上に、直
接又は他の層を介して順次塗布するなどの公知の方法が適用できる。塗布後、乾燥により溶剤を除去することにより、感光層を形成する。
【0055】
この際、塗布方法は限定されず任意であり、例えば、浸漬塗布法、スプレー塗布法、ノズル塗布法、バーコート法、ロールコート法、ブレード塗布法などを用いることができる。この中でも、生産性の高さから浸漬塗布方法が好ましい。なお、これらの塗布方法は、1つの方法のみを行なうようにしてもよいが、2以上の方法を組み合わせて行なうようにしてもよい。
【0056】
[I−6.感光体の帯電型]
本発明の感光体は、後述する画像形成装置に用いられることにより、画像形成の用途に使用されるものである。本発明の積層型感光体は負帯電で使用し、単層型感光体は正帯電で使用する。
[I−7.感光体の露光波長]
本発明の感光体は、画像形成の際には、露光手段から書き込み光によって露光を行なわれて静電潜像を形成されることになる。この際に用いられる書き込み光は静電潜像の形成が可能である限り任意であるが、露光波長が通常380nm以上、中でも400nm以上、また、通常850nm以下の単色光を用いる。中でも480nm以下の単色光を用いると感光体を、より小さなスポットサイズの光で露光することができ、高解像度で高階調性を有する高品質の画像を形成することができることから、高品質の画像を得たい際に480nm以下の単色光で露光することが好ましい。
【0057】
[II.画像形成装置、プロセスカートリッジ]
次に、本発明の電子写真感光体を用いた画像形成装置(本発明の画像形成装置)の実施の形態について、装置の要部構成を示す図1を用いて説明する。但し、実施の形態は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り任意に変形して実施することができる。
【0058】
図1に示すように、画像形成装置は、電子写真感光体1、帯電装置(帯電手段)2、露光装置(露光手段;像露光手段)3及び現像装置(現像手段)4を備えて構成され、更に、必要に応じて転写装置(転写手段)5、クリーニングユニット6及び定着装置(定着手段)7が設けられる。
電子写真感光体1は、上述した本発明の電子写真感光体であれば特に制限はないが、図1ではその一例として、円筒状の導電性支持体の表面に上述した感光層を形成したドラム状の感光体を示している。この電子写真感光体1の外周面に沿って、帯電装置2、露光装置3、現像装置4、転写装置5及びクリーニングユニット6がそれぞれ配置されている。
【0059】
帯電装置2は、電子写真感光体1を帯電させるもので、電子写真感光体1の表面を所定電位に均一帯電させる。図1では帯電装置2の一例としてローラ型の帯電装置(帯電ローラ)を示しているが、他にもコロトロンやスコロトロン等のコロナ帯電装置、帯電ブラシ等の接触型帯電装置などがよく用いられる。
なお、電子写真感光体1、帯電装置2、およびクリーニングユニット6は、多くの場合、カートリッジ(本発明の電子写真感光体を含むプロセスカートリッジ。以下適宜、「プロセスカートリッジ」という)として、画像形成装置の本体から取り外し、交換可能となるように設計されている。例えば電子写真感光体1、帯電装置2、およびクリーニングユニット6が劣化した場合に、このプロセスカートリッジを画像形成装置本体から取り外し、別の新しいプロセスカートリッジを画像形成装置本体に装着することができるようになっている。また、後述するトナーについても、多くの場合、トナーカートリッジ中に蓄えられて、画像形成装置本体から取り外し可能に設計され、使用しているトナーカートリッジ中のトナーが無くなった場合に、このトナーカートリッジを画像形成装置本体から取り
外し、別の新しいトナーカートリッジを装着することができるようになっている。更に、電子写真感光体1、帯電装置2、クリーニングユニット6、トナーが全て備えられたプロセスカートリッジを用いることもある。
【0060】
露光装置3は、電子写真感光体1に対し露光(像露光)を行なって電子写真感光体1の感光面に静電潜像を形成することができるものであれば、その種類に特に制限はない。具体例としては、ハロゲンランプ、蛍光灯、半導体レーザーやHe−Neレーザー等のレーザー、LED(発光ダイオード)などが挙げられる。また、感光体内部露光方式によって露光を行なうようにしてもよい。露光を行なう際の光は任意であるが一般に単色光が好ましく、例えば、波長(露光波長)が700nm〜850nmの単色光、波長600nm〜700nmのやや短波長寄りの単色光、波長300nm〜500nmの短波長の単色光などで露光を行なえばよい。
【0061】
現像装置4は、露光した電子写真感光体1上の静電潜像を目に見える像に現像することができるものであれば、その種類に特に制限はない。具体例としては、カスケード現像、一成分導電トナー現像、二成分磁気ブラシ現像などの乾式現像方式や、湿式現像方式(液体現像方式)などの任意の装置を用いることができる。図1では、乾式現像方式に関わる構成を表したものである。現像装置4は、現像槽41、アジテータ42、供給ローラ43、現像ローラ44、及び、規制部材45からなり、現像槽41の内部にトナーTを貯留している構成となっている。また、必要に応じ、トナーTを補給する補給装置(図示せず)を現像装置4に付帯させてもよい。この補給装置は、ボトル、カートリッジなどの容器からトナーTを補給することが可能に構成される。
【0062】
供給ローラ43は、導電性スポンジ等から形成される。現像ローラ44は、鉄、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケルなどの金属ロール、又はこうした金属ロールにシリコーン樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂などを被覆した樹脂ロールなどからなる。この現像ローラ44の表面には、必要に応じて、平滑加工や粗面加工を加えてもよい。
現像ローラ44は、電子写真感光体1と供給ローラ43との間に配置され、電子写真感光体1及び供給ローラ43に各々当接している。ただし、現像ローラ44と電子写真感光体1とは当接せず、近接していてもよい。供給ローラ43及び現像ローラ44は、回転駆動機構(図示せず)によって回転される。供給ローラ43は、貯留されているトナーTを担持して、現像ローラ44に供給する。現像ローラ44は、供給ローラ43によって供給されるトナーTを担持して、電子写真感光体1の表面に接触させる。
【0063】
規制部材45は、シリコーン樹脂やウレタン樹脂などの樹脂ブレード、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、真鍮、リン青銅などの金属ブレード、又はこうした金属ブレードに樹脂を被覆したブレード等により形成されている。この規制部材45は、通常、現像ローラ44に当接し、ばね等によって現像ローラ44側に所定の力で押圧(一般的なブレード線圧は0.05〜5N/cm)される。必要に応じて、この規制部材45に、トナーTとの摩擦帯電によりトナーTに帯電を付与する機能を具備させてもよい。
【0064】
アジテータ42は必要に応じて設けられ、回転駆動機構によってそれぞれ回転されており、トナーTを攪拌するとともに、トナーTを供給ローラ43側に搬送する。アジテータ42は、羽根形状、大きさ等を違えて複数設けてもよい。
一方、液体現像方式に関しては、使用される液体現像剤は、炭化水素系有機溶剤のように絶縁性の高い有機溶剤中に、荷電性を付与した顔料、樹脂からなるトナーを分散したものである。液中で荷電したトナーが、現像電界に応じ電気泳動していく機構であるため、粘性を有する有機溶剤中のトナーの移動度などが関係する。一例として、濃度の低い現像液で現像を行い、続いて感光体上で余剰な現像液溶剤を近接したスクイズローラで搾り取ることで、感光体上に薄く均一で密度の高いトナー像を形成することができる。
【0065】
転写装置5は、その種類に特に制限はなく、コロナ転写、ローラ転写、ベルト転写などの静電転写法、圧力転写法、粘着転写法など、任意の方式を用いた装置を使用することができる。ここでは、転写装置5が電子写真感光体1に対向して配置された転写チャージャー、転写ローラ、転写ベルト等から構成されるものとする。この転写装置5は、トナーTの帯電電位とは逆極性で所定電圧値(転写電圧)を印加し、電子写真感光体1に形成されたトナー像を記録紙(用紙、媒体、被転写体)Pに転写するものである。
【0066】
クリーニングユニット6は、感光体1に付着している残留トナーをクリーニングブレード、クリーニングブラシ等で掻き落として回収容器に蓄え、残留トナーを回収するものである。クリーニングブレードは、弾性ゴム部材および支持部材からなり、当該弾性ゴム部材の感光体当接部には、必要に応じてエッジ部材を更に設けても良い。また、クリーニング性向上の観点からは、クリーニングブレードは感光体に対してカウンター当接することが好ましい。
【0067】
定着装置7は、上部定着部材(定着ローラ)71及び下部定着部材(定着ローラ)72から構成され、定着部材71又は72の内部には加熱装置73が備えられている。なお、図1では、上部定着部材71の内部に加熱装置73が備えられた例を示す。上部及び下部の各定着部材71,72は、ステンレス、アルミニウムなどの金属素管にシリコンゴムを被覆した定着ロール、更にテフロン(登録商標)樹脂で被覆した定着ロール、定着シートなどが公知の熱定着部材を使用することができる。更に、各定着部材71,72は、離型性を向上させる為にシリコーンオイル等の離型剤を供給する構成としてもよく、バネ等により互いに強制的に圧力を加える構成としてもよい。
【0068】
記録紙P上に転写されたトナーは、所定温度に加熱された上部定着部材71と下部定着部材72との間を通過する際、トナーが溶融状態まで熱加熱され、通過後冷却されて記録紙P上にトナーが定着される。
なお、定着装置についてもその種類に特に限定はなく、ここで用いたものをはじめ、熱ローラ定着、フラッシュ定着、オーブン定着、圧力定着など、任意の方式による定着装置を設けることができる。
【0069】
以上のように構成された電子写真装置では、感光体を帯電させる帯電工程と、帯電された感光体に対し露光を行ない静電潜像を形成する露光工程と、静電潜像をトナーで現像する現像工程と、トナーを被転写体に転写する転写工程とを行ない、画像の記録が行なわれる。即ち、まず感光体1の表面(感光面)が、帯電装置2によって所定の電位に帯電される(帯電工程)。この際、直流電圧により帯電させても良く、直流電圧に交流電圧を重畳させて帯電させてもよい。
【0070】
続いて、感光体に対して露光を行ない静電潜像を形成する(露光工程)。即ち、帯電された感光体1の感光面を、記録すべき画像に応じて露光装置3により露光し、感光面に静電潜像を形成する。
そして、その感光体1の感光面に形成された静電潜像の現像を、現像装置4で行なう(現像工程)。現像装置4は、供給ローラ43により供給されるトナーTを、規制部材(現像ブレード)45により薄層化するとともに、所定の極性(ここでは感光体1の帯電電位と同極性であり、正極性)に摩擦帯電させ、現像ローラ44に担持しながら搬送して、感光体1の表面に接触させる。現像ローラ44に担持された帯電トナーTが感光体1の表面に接触すると、静電潜像に対応するトナー像が感光体1の感光面に形成される。
【0071】
そしてこのトナー像は、転写装置5によって記録紙Pに転写される(転写工程)。この後、転写されずに感光体1の感光面に残留しているトナーが、クリーニングユニット6で
除去される。
トナー像の記録紙P上への転写後、定着装置7を通過させてトナー像を記録紙P上へ熱定着することで、最終的な画像が得られる。
【0072】
なお、画像形成装置は、上述した構成に加え、例えば除電工程を行なうことができる構成としても良い。除電工程は、電子写真感光体に露光を行なうことで電子写真感光体の除電を行なう工程であり、除電装置としては、蛍光灯、LED等が使用される。また除電工程で用いる光は、強度としては露光光の3倍以上の露光エネルギーを有する光である場合が多い。除電に用いる光の波長は、感光体が電荷発生する波長であれば特に制限無く、400〜800nmの任意の波長が選択でき、赤色LED、青色LED等の汎用LEDを使用することもできる。
【0073】
また、画像形成装置は更に変形して構成してもよく、例えば、前露光工程、補助帯電工程などの工程を行なうことができる構成としたり、オフセット印刷を行なう構成としたり、更には複数種のトナーを用いたフルカラータンデム方式の構成としてもよい。
【実施例】
【0074】
以下、実施例を示して本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。ただし、以下の実施例は本発明を詳細に説明するために示すものであり、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下に示した実施例に限定されるものではなく任意に変形して実施することができる。また、以下の実施例、及び比較例中の「部」の記載は、特に指定しない限り「重量部」あるいは「質量部」を示す。なお、実施例で使用する、一般式(1)のポリカーボネート樹脂(下記PC1〜PC3)は、商品名APECとしてバイエル社から市販されている樹脂であり、更に精製はせず入手したままの状態で使用した。
【0075】
[比較例1]
<下引き層形成用塗布液の製造>
平均一次粒子径40nmのルチル型酸化チタン(石原産業社製「TTO55N」)と、該酸化チタンに対して3質量%のメチルジメトキシシラン(東芝シリコーン社製「TSL8117」)とを、ヘンシェルミキサーにて混合して得られた表面処理酸化チタンを、メタノール/1−プロパノールの重量比が7/3の混合溶媒中でボールミルにより分散させることにより、表面処理酸化チタンの分散スラリーとした。該分散スラリーと、メタノール/1−プロパノール/トルエンの混合溶媒及び、ε−カプロラクタム[下記式(A)で表される化合物]/ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン[下記式(B)で表される化合物]/ヘキサメチレンジアミン[下記式(C)で表される化合物]/デカメチレンジカルボン酸[下記式(D)で表される化合物]/オクタデカメチレンジカルボン酸[下記式(E)で表される化合物]の組成モル比率が、60%/15%/5%/15%/5%からなる共重合ポリアミドのペレットとを加熱しながら撹拌、混合してポリアミドペレットを溶解させた後、超音波分散処理を行なうことにより、メタノール/1−プロパノール/トルエンの重量比が7/1/2で、表面処理酸化チタン/共重合ポリアミドを重量比3/1で含有する、固形分濃度18.0%の下引き層形成用塗布液を作製した。
【0076】
【化11】

【0077】
<電荷発生層形成用塗布液の製造>
まず、電荷発生物質として、CuKα線によるX線回折においてブラッグ角(2θ±0.2)が27.3゜に強い回折ピークを示す、Y型(別称D型)オキシチタニウムフタロシアニン20部と1,2−ジメトキシエタン280部とを混合し、サンドグラインドミルで1時間粉砕して微粒化分散処理を行なった。続いてこの微細化処理液に、ポリビニルブチラール(電気化学工業(株)製、商品名「デンカブチラール」#6000C)10部を、1,2−ジメトキシエタンの255部と4−メトキシ−4−メチル−2−ペンタノンの85部との混合液に溶解させて得られたバインダー液、及び230部の1,2−ジメトキシエタンを混合して電荷発生層形成用塗布液を調製した。
【0078】
<電荷輸送層形成用塗布液の製造>
下記の繰返し構造を有するポリカーボネート樹脂(1)(PC1)100部(前記式(3)のm:n=60:40(モル比)、重量平均分子量(Mw)=47,000、数平均分子量(Mn)=19,000、粘度平均分子量(Mv)=18,000)、電荷輸送材料として下記CT1で表される化合物を35部、酸化防止剤として、チバスペシャルティーケミカルズ社製、商品名IRGANOX1076を8部、及びレベリング剤としてシリコーンオイ
ル(信越シリコーン社製:商品名 KF96)0.05部を、テトラヒドロフラン(以下
適宜THFと略)/トルエン(8/2(重量比))の混合溶媒520部に溶解させて電荷輸送層形成用塗布液を調製した。
【0079】
【化12】

【0080】
<感光体の製造>
前記のようにして得られた下引き層形成用塗布液を、表面にアルミ蒸着したポリエチレンテレフタレートシート上に、乾燥後の膜厚が約1.3μmになるようにワイアバーで塗布、室温で乾燥して下引き層を設けた。
続いて、前記のようにして得られた電荷発生層形成用塗布液を、上記下引層上に、乾燥後の膜厚が約0.3μmになるようにワイアバーで塗布、室温で乾燥して電荷発生層を設けた。
【0081】
続いて、前記のようにして得られた電荷輸送層形成用塗布液を、上記電荷発生層上に、乾燥後の膜厚が約25μmになるようにアプリケーターで塗布し、125 ℃で20分間
乾燥して、比較感光体B1を作製した。
[実施例1]
比較例1の電荷輸送層形成に使用した樹脂として、PC1:100部に代えて、PC1:75部と下記構造単位を有するポリカーボネート樹脂(2)(PZ1,粘度平均分子量は20,000)25部を使用した以外は、比較例1と同様に感光体A1を作製し、後述の感光体評価を行なった。
【0082】
【化13】

【0083】
[実施例2]
比較例1の電荷輸送層形成に使用した樹脂として、PC1:100部に代えて、PC1:50部と前記PZ1:50部を使用した以外は、比較例1と同様に感光体A2を作製し、後述の感光体評価を行なった。
[実施例3]
比較例1の電荷輸送層形成に使用した樹脂として、PC1 100部に代えて、PC1:25部と前記PZ1:75部を使用した以外は、比較例1と同様に感光体A3を作製し、後述の感光体評価を行なった。
【0084】
[比較例2]
比較例1の電荷輸送層形成に使用した樹脂として、PC1:100部に代えて、前記PZ1:100部を使用した以外は、比較例1と同様に比較感光体B2を作製し、後述の感光体評価を行なった。
[比較例3]
比較例1の電荷輸送層形成に使用したポリカーボネート樹脂(1)として、PC1:100部に代えて、下記構造式のPC2(前記式(3)のm:n=67:33(モル比)、重量平均分子量(Mw)=55,000、数平均分子量(Mn)=21,000、粘度平均分子量(Mv)=20,000):100部を使用した以外は、比較例1と同様に比較感光体B3を作製し、後述の感光体評価を行なった。
【0085】
【化14】

【0086】
[実施例4]
比較例3の電荷輸送層形成に使用した樹脂として、PC2:100部に代えて、PC2:50部と前記PZ1:50部を使用した以外は、比較例3と同様に感光体A4を作製し、後述の感光体評価を行なった。
[比較例4]
比較例1の電荷輸送層形成に使用したポリカーボネート樹脂(1)として、PC1:100部に代えて、下記構造式のPC3(前記式(3)のm:n=80:20(モル比)、重量平均分子量(Mw)=50,000、数平均分子量(Mn)=20,000、粘度平均分子量(Mv)=19,000):100部を使用した以外は、比較例1と同様に比較感光体B4を作製し、後述の感光体評価を行なった。
【0087】
【化15】

【0088】
[実施例5]
比較例4の電荷輸送層形成に使用した樹脂として、PC3:100部に代えて、PC3:50部と前記PZ1:50部を使用した以外は、比較例4と同様に感光体A5を作製し、後述の感光体評価を行なった。
[実施例6]
比較例1の電荷輸送層形成に使用した樹脂として、PC1:100部に代えて、PC1:50部と、ポリカーボネート樹脂(2)として下記構造式のPZ2(粘度平均分子量(Mv)=21,000):50部を使用した以外は、比較例1と同様に感光体A6を作製し、後述の感光体評価を行なった。
【0089】
【化16】

【0090】
[比較例5]
比較例1の電荷輸送層形成に使用した樹脂として、PC1:100部に代えて、前記PZ2:100部を使用した以外は、比較例1と同様に比較感光体B5を作製し、感光体後述の評価を行なった。
[比較例6]
比較例1の電荷輸送層形成に使用した樹脂として、PC1:100部に代えて、PC1:75部と下記構造単位を有するポリカーボネート樹脂(PB1,粘度平均分子量は22,000)25部を使用した以外は、比較例1と同様に比較感光体B6を作製し、後述の感光体評価を行なった。
【0091】
【化17】

【0092】
[比較例7]
比較例1の電荷輸送層形成に使用した樹脂として、PC1:100部に代えて、PC1:50部と前記PB1:50部を使用した以外は、比較例1と同様に比較感光体B7を作製し、後述の感光体評価を行なった。
[比較例8]
比較例1の電荷輸送層形成に使用した樹脂として、PC1:100部に代えて、PC1:25部と前記PB1:75部を使用した以外は、比較例1と同様に比較感光体B8を作製し、後述の感光体評価を行なった。
【0093】
[比較例9]
比較例1の電荷輸送層形成に使用した樹脂として、PC1:100部に代えて、前記PB1:100部を使用した以外は、比較例1と同様に比較感光体B9を作製し、後述の感光体評価を行なった。
[比較例10]
比較例1の電荷輸送層形成に使用した樹脂として、PC1:100部に代えて、PC1:75部と下記構造単位を有するポリカーボネート樹脂(PB2,粘度平均分子量は20,000)25部を使用した以外は、比較例1と同様に比較感光体B10を作製し、後述の感光体評価を行なった。
【0094】
【化18】

【0095】
[比較例11]
比較例1の電荷輸送層形成に使用した樹脂として、PC1:100部に代えて、PC1:50部と前記PB2:50部を使用した以外は、比較例1と同様に比較感光体B11を作製し、後述の感光体評価を行なった。
[比較例12]
比較例1の電荷輸送層形成に使用した樹脂として、PC1:100部に代えて、PC1:25部と前記PB2:75部を使用した以外は、比較例1と同様に比較感光体B12を作製し、後述の感光体評価を行なった。
【0096】
[比較例13]
比較例1の電荷輸送層形成に使用した樹脂として、PC1:100部に代えて、前記PB2:100部を使用した以外は、比較例1と同様に比較感光体B13を作製し、後述の感光体評価を行なった。
[比較例14]
比較例1の電荷輸送層形成に使用した樹脂として、PC1:100部に代えて、下記構造単位を有するポリカーボネート樹脂(PB3,粘度平均分子量は30,000)100部を使用した以外は、比較例1と同様に比較感光体B14を作製し、後述の感光体評価を行なった。なお、塗布液を1週間室温で保管したところ、塗布液が濁ってきて、一部ゲル化し、塗布に適さなくなった。
【0097】
【化19】

【0098】
[比較例15]
比較例14の電荷輸送層形成に使用した樹脂として、PB3:100部に代えて、PB3:50部とPC1:50部を使用した以外は、比較例14と同様に比較感光体B15を作製し、後述の感光体評価を行なった。なお、塗布液を1週間室温で保管したところ、塗布液が濁ってきて、一部ゲル化し、塗布に適さなくなった。
【0099】
得られた感光体を以下の方法により評価した。
<耐クラック性試験>
感光体シートを1cm×20cmの短冊状の断片に切り取り、炭化水素系溶剤(商品名:アイソパーL、エクソン化学製)を表面全体に塗布して一晩放置した。翌日再度当該溶剤を塗布後、感光体断片を引張試験機(ORIENTEC社製 TENSILON RTM−100)で感光体断片の両端を把持しながら、約33Nの力で長辺方向に引張り、感光体の感光層のクラック発生を観察した。その際、感光体断片の短辺方向に、約半分幅(0.5cm)のクラックが入るまでの時間を計測した。クラックが入るまでの時間が長い
ほど、耐クラック性が良好であることを示す。結果を表1に示す。
【0100】
<ユニバーサル硬度>
ユニバーサル硬度を、Fischer社製微小硬度計FISCHERSCOPE H100Cを用いて、温度25℃、相対湿度50%の環境下で測定した。結果を表1に示す。
測定には対面角136°のビッカース四角錐ダイヤモンド圧子を用いる。測定条件は以下の通りに設定して行い、圧子にかかる荷重とその荷重下における押し込み深さとを連続的に読み取る。
・測定条件
最大押込み加重 5mN
負荷所要時間 10秒
除荷所要時間 10秒
上記のユニバーサル硬度は、押込み加重5mNまで押し込んだ時の値であり、その時の押込み深さから以下の式により定義される値である。
ユニバーサル硬度(N/mm)=試験荷重(N)/試験荷重下でのビッカース圧子の表面積(mm
<Tabor摩耗試験>
感光体フィルムを直径10cmの円状に切断し、テーバー摩耗試験機(東洋精機社製)により、摩耗評価を行った。試験条件は、23℃、50%RHの雰囲気下、摩耗輪CS−10Fを用いて、荷重500gで1000回回転後の摩耗量を、試験後の重量減量とした。結果を表1に示す。摩耗量が小さいほど耐摩耗性が良好であることを示す。
【0101】
<電気特性試験>
電子写真学会測定標準に従って製造された電子写真特性評価装置(続電子写真技術の基礎と応用、電子写真学会編、コロナ社、404〜405頁記載)を使用し、上記感光体を80rpmで回転させながら、初期表面電位が−700Vになるように帯電させ、ハロゲンランプの光を干渉フィルターで780nmの単色光としたものを、透過率の異なるNDフィルターを使用して光量を変化させて表面電位の減衰挙動を測定した。その際、各光量で露光後、いったん660nmのLED光を除電光として露光し、残存電荷の多くをキャンセルした。測定値としては、780nmの単色光を0.40μJ/cm2露光した際の
表面電位(明電位;VLと称する)を求めた。測定環境は25℃,50%RHで行なった。結果を表1に示す。
【0102】
<接着性試験>
セロハンテープ(ニチバン製)を100mm長に切り出し、未塗布領域のある感光体シートに於いて、感光層部分に50mm、未塗布部分に30mmを貼り付け、残りの20mm(未塗布部分に貼り付けた方に続いている)を持って斜め45゜上方に引き上げることで、感光層の接着性を試験した。切断部に剥離が見られたものを「×」、変化が無いものを「○」として、結果を表1に示す。
【0103】
【表1】

【0104】
表1から分かるように、比較例1,3,4,6,7,10,11の感光体は耐クラック性に劣り、比較例2,5,7,8,9,11,12,13,14,15の感光体は、硬度が十
分でなく、耐キズ性に不安がある。また、バインダー樹脂を一種類のみ用いた比較例1,3,4の感光体は耐摩耗性に劣り、比較例2,5の感光体は接着性に劣るため、当該バインダー樹脂単独での使用には制約が有ることが分かる。一方、実施例1〜6の感光体は、耐摩耗性、接着性良好でかつ電気特性、耐クラック性に問題無いため、耐クラック性が必要な用途に対して好適に使用できる。なお、比較例14,15の感光体は、塗布液が不安定であるため、量産使用には制約が有る。従って、本発明のポリカーボネート樹脂を併用した場合に限り、耐クラック性、耐キズ性、および接着性を同時に満足できる感光体が得られることがわかる。
【0105】
実施例7
<感光体シートの製造>
幅が500mmであり、膜中にシリカ粒子を含有させることで表面が粗面化(Ra=0.1μm)された厚み75μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタラートフィルムの表面に、70nmの厚さでアルミニウム蒸着膜を設け、巻き取り、長さ2000mのロールとした。
【0106】
次に、平均一次粒子径13nmの酸化アルミニウム粒子(日本アエロジル社製 Alu
minum Oxide C)を、メタノール/1−プロパノールの混合溶媒中で超音波により分散させることにより、酸化アルミニウムの分散スラリーとなし、該分散スラリーと、メタノール/1−プロパノール(重量比7/3)の混合溶媒、及び、実施例1で用いた共重合ポリアミドのペレットとを加熱しながら撹拌、混合してポリアミドペレットを溶解させた後、超音波分散処理を行うことにより、酸化アルミニウム/共重合ポリアミドを重量比1/1で含有する固形分濃度8.0%の分散液とした。
【0107】
この下引き層用塗布液を、アルミニウム蒸着ポリエチレンテレフタラートフィルムのロールを巻き出しながら、リバースコート法を用い、その上に乾燥後の膜厚が1.2μmとなるように塗布し、下引き層を設けた。
次に、CuKα線によるX線回折においてブラッグ角(2θ±0.2)が9.3゜、10.6゜、13.2゜、15.1゜、15.7゜、16.1゜、20.8゜、23.3゜、26.3゜、27.1゜に強い回折ピークを示すオキシチタニウムフタロシアニン10重量部と、4−メトキシ−4−メチル−2−ペンタノンを150重量部混合し、サンドグラインドミルにて粉砕分散処理を行い顔料分散液を製造した。この顔料分散液に、ポリビニルブチラール(電気化学工業(株)製、商品名デンカブチラール#6000C)の5重量% 1,2−ジメトキシエタン溶液50重量部、およびフェノキシ樹脂(ユニオンカーバイド社製、商品名PKHH)の5重量%1,2−ジメトキシエタン溶液50重量部を混合し、更に適量の1,2−ジメトキシエタンを加えて最終的に固形分濃度4.0%の分散液を調製した。
【0108】
このようにして得られた電荷発生層用塗布液を、上述の下引き層を形成したアルミニウム蒸着ポリエチレンテレフタラートフィルムのロールを巻き出しながら、リバースコート法を用い、その上に乾燥後の膜厚が0.4μmとなるように塗布し、電荷発生層を設けた。
次に、前記実施例2の感光体A2の製造で使用した電荷輸送層用塗布液を固形分濃度が2/3になるように希釈し、上述の下引き層及び電荷発生層を形成したアルミニウム蒸着ポリエチレンテレフタラートフィルムのロールを巻き出しながら、ダイコート法を用い、その上に乾燥後の膜厚が18μmとなるように塗布し、電荷輸送層を設けた。
【0109】
このようにして得られた感光層の塗布されたロール状シートを、連続式の断裁機を用いて353mm×584mmのサイズに切り出し、感光体シートを得た。さらにこのシートの両端から、アセトン及びエタノールを用いて、感光層をそれぞれ25mmの幅で剥離し、さらに片側は水酸化ナトリウム溶液を用いてアルミ蒸着層も除去した。このようにして、シート状感光体Cを得た。
【0110】
製造した感光体シートCについて以下の実機画像試験を行なった。
<画像試験>
市販の液体現像系電子写真方式の軽印刷機であるヒューレットパッカード社製TurboStreamに感光体シートCを装着し、画像評価を行なった。装着に於いては、機内のアルミニウムドラムに感光体シートを巻き付け、両端の未塗布領域を重ね合わせてドラム上に感光体シートCを保持した。片側のアルミニウム層を除去したことで、静電気によって容易に重ね合わせることができた。
【0111】
この感光体Cを用いて、ハーフトーン画像を1000枚連続で出力したが、感光体クラック起因の画像欠陥はなく、良好な画像を得た。さらに、機内で感光層が端部から剥がれる等のトラブルもなかった。
〔比較例16〕
前記実施例2の感光体A2で使用した電荷輸送層用塗布液に代えて、前記比較例1の感光体B1で使用した電荷輸送層用塗布液を使用した以外は、実施例7と同様に感光体シー
トC‘を作製し、画像試験を実施した。印刷初期から感光体表面にクラックが全面に発生し、印刷枚数が増えるに従って画像にスジ状欠陥として認識されるようになった。
【0112】
以上から、本発明に係るポリカーボネート樹脂を用いた場合に限り、電気特性、画像特性、接着性のいずれにも優れる感光体を得ることができることがわかる。
〔実施例8〕
<感光体ドラムの製造>
表面が粗切削仕上げされ、清浄に洗浄された外径30mm、長さ260.5mm、肉厚0.75mmのアルミニウム製シリンダー上に、実施例2の感光体A2製造に使用した下引き層形成用塗布液、電荷発生層形成用塗布液、電荷輸送層形成用塗布液を浸漬塗布法により順次塗布、乾燥し、乾燥後の膜厚がそれぞれ、1.3μm、0.4μm、25μmとなるように、下引き層、電荷発生層、電荷輸送層を形成し、感光体ドラムDを得た。なお、電荷輸送層の乾燥は、125℃で20分間行なった。
【0113】
<画像試験>
画像試験は、乾式現像系電子写真方式で、樹脂製帯電ローラ使用のヒューレットパッカード社製タンデム型カラーレーザープリンターHP Color LaserJet 4700dnを用いて行った。
作製した感光体ドラムD(同等品4本)をシアン、マゼンタ、イエロー、ブラック各色用のプロセスカートリッジに装着し、35℃で48時間保管した。この条件でも、帯電ローラ圧接起因の感光体表面のクラックは観察されなかった。このカートリッジを上記プリンターに装着し、温度25℃、湿度50%環境下で、8000枚の画像形成を行った。その結果、ゴースト、かぶり、濃度低下、フィルミング、クリーニング不良、傷等による画像不良が発生せず、良好な画像が得られた。
【0114】
〔比較例17〕
前記実施例2の感光体A2で使用した電荷輸送層用塗布液に代えて、前記比較例1の感光体B1で使用した電荷輸送層用塗布液を使用した以外は、実施例8と同様に感光体ドラムD‘を作製し、画像試験を実施した。画像試験前にカートリッジ内で帯電ローラに当接していた感光体表面部分に、クラックが多数発生し、画像にスジ状欠陥として認識された。
【符号の説明】
【0115】
1 感光体
2 帯電装置(帯電ローラ)
3 露光装置
4 現像装置
5 転写装置
6 クリーニング装置
7 定着装置
41 現像槽
42 アジテータ
43 供給ローラ
44 現像ローラ
45 規制部材
71 上部定着部材(加圧ローラ)
72 下部定着部材(定着ローラ)
73 加熱装置
T トナー
P 記録紙(用紙、媒体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最表面層中に少なくとも、下記一般式(1)で表される繰返し単位を含むポリカーボネート樹脂と、下記一般式(2)で表される繰返し単位を含むポリカーボネート樹脂を共に含有することを特徴とする電子写真感光体。
【化1】

(一般式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子または炭素数3以下のアルキル基を表し、Zは、結合する炭素原子を含めて炭素数5〜8の環状飽和脂肪族アルキル基を形成し、且つ該環状飽和脂肪族アルキル基は、1〜3個のメチル基を置換基として有する。a,bはモル共重合比率を表し、a:b=90:10〜10:90である)
【化2】

(一般式(2)中、R〜R8は、それぞれ独立に水素原子または炭素数3以下のアルキ
ル基を表し、Zは置換基を有さない環状脂肪族アルキル基を表す)
【請求項2】
前記一般式(1)で表されるポリカーボネート樹脂が、下記式(3)で表される繰返し単位を含む、請求項1記載の電子写真感光体。
【化3】

(式(3)中、m,nはモル共重合比率を表し、m:n=90:10〜10:90である)
【請求項3】
前記一般式(2)で表されるポリカーボネート樹脂が、下記式(4)で表される繰返し単位を含む、請求項1または2記載の電子写真感光体。
【化4】

【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の電子写真感光体と、少なくとも帯電手段とクリー
ニング手段を備えることを特徴とする、プロセスカートリッジ。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の電子写真感光体を用いて画像を形成する画像形成装置であって、前記電子写真感光体を帯電させる帯電手段と、帯電された前記電子写真感光体に対し露光を行ない静電潜像を形成する露光手段と、前記静電潜像をトナーで現像する現像手段と、前記トナーを被転写体に転写する転写手段と、クリーニング手段を有することを特徴とする、画像形成装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−208267(P2012−208267A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73098(P2011−73098)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】