説明

電子写真感光体、及びそれを用いた画像形成方法、画像形成装置、プロセスカートリッジ

【課題】繰り返し使用時の耐摩耗性が極めて高く、かつ優れた電気特性および耐ガス性を有し、シリカ等の外添剤が感光体に刺さることを防止することで、白斑点状の画像欠陥を抑制し、長期に亘って高画質な画像出力を維持することができる高耐久な電子写真感光体を提供することを目的とする。
【解決手段】導電性支持体上に、少なくとも感光層を有する電子写真感光体において、該感光層の最表面層が、芳香環を有する電荷輸送性化合物の芳香環にメチロール基を3個以上有する化合物と、下記一般式(1)で表される電荷輸送性化合物と、を酸触媒により重合した3次元架橋膜からなり、さらに、該最表面層に無機フィラーおよび酸性の分散剤を含有する電子写真感光体。


(式中、Ar1、Ar2は無置換のフェニル基または無置換のナフチル基を表し、Ar1、Ar2はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。R1は、メチル基を表し、aは0〜5の整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繰り返し使用時の耐摩耗性が極めて高く、かつ優れた電気特性および耐ガス性を有し、シリカ等の非常に硬度の高いトナー中の外添剤が感光体に刺さることを防止することで、白斑点状の画像欠陥を抑制し、長期に亘って高画質な画像出力を維持することができる高耐久な電子写真感光体(以下、「感光体」、「静電潜像担持体」、「像担持体」と称することもある)、並びに該電子写真感光体を用いた画像形成方法、画像形成装置、及びプロセスカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機感光体(OPC:Organic Photo Conductor)は良好な性能を有し、様々な利点から、無機感光体に代わって複写機、ファクシミリ、レーザープリンター及びこれらの複合機に多く用いられている。その理由としては、例えば、(1)光吸収波長域の広さ及び吸収量の大きさ等の光学特性、(2)高感度、安定な帯電特性等の電気的特性、(3)材料の選択範囲の広さ、(4)製造の容易さ、(5)低コスト、(6)無毒性、等が挙げられる。
【0003】
最近、画像形成装置の小型化を図るため、感光体の小径化が進み、更に、機械の高速化やメンテナンスフリーの動きも加わって、感光体の高耐久化が切望されるようになってきている。この観点からみると、有機感光体は、電荷輸送層が低分子電荷輸送性化合物と不活性高分子を主成分としているため、一般に柔らかく、電子写真プロセスにおいて繰り返し使用された場合、現像システムやクリーニングシステムによる機械的負荷により、摩耗が発生しやすいという欠点がある。このような感光体の摩耗は、感度の劣化、帯電性の低下などの電気的特性を劣化させ、画像濃度低下、地肌汚れ等の異常画像の原因となる。また、シリカなどトナー中に含まれる非常に硬度の高い外添剤が、感光体表面に容易に刺さり、それが原因となり白斑点状の画像欠陥をもたらす。
【0004】
このような白斑点状の画像欠陥を抑制するには、感光体表面の硬度を上げる必要があり、種々の改良が試みられている。例えば、高分子型電荷輸送物質を用いたものは(例えば、特許文献1参照)、低分子電荷輸送性化合物の分散を排除することができるが、硬度が低いことは改善されておらず、白斑点状の画像欠陥の抑制には至っていない。表面層に無機フィラーを分散させたものは(例えば、特許文献2参照)、無機フィラー部の硬度は高くなるものの、樹脂部が柔らかいために、白斑点状の画像欠陥の発生を抑制するには至っていない。一方、表面層に硬化性樹脂を用いたもの、その中でも多官能性モノマーを用いて架橋密度を高めた架橋樹脂は、感光体表面の硬度を高めることができ、白斑点状の画像欠陥の抑制に有効である(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
しかしながら、このような架橋樹脂を用いる場合、電子写真感光体としての良好な電気特性を発揮させるために電荷輸送性成分を架橋膜中に取り入れる必要がある。この点を改善するために、これまでに様々な方法が提案されている。例えば、アルコキシシラン類に電荷輸送性化合物を添加して硬化を行ったもの(特許文献4参照)は、電荷輸送性物質とシロキサン成分との相溶性が悪く、良好な電気特性が得られない。同一分子内に二つ以上の連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物を硬化した化合物を含有させたものは、正孔輸送性化合物の相分離は起こりにくくなるものの、ラジカル重合反応を進行させる際の光照射による電荷輸送性化合物の劣化が避けられないのが現状であり、電位安定性に問題がある(特許文献5参照)。ウレタン樹脂のような極性の高いユニットを含む樹脂中に、水酸基を有する電荷輸送性化合物を添加して熱硬化を行ったもの(特許文献6参照)は、誘電率が高いために電荷の移動度が低減すると共に、残留電位の上昇をも招く。また、極性の高い水酸基が残留することにより、画像濃度が低下しやすくなったり、帯電過程などで発生するNOxやオゾンガスなどの酸化性ガスが表面に吸着しやすくなり、結果として表面が低抵抗化し、画像ボケが発生するなど、満足する画像品質が得られなかった。
【0006】
一方、水酸基などの極性基を持つ電荷輸送性化合物を、メラミン化合物やグアナミン化合物などの反応活性樹脂と反応させたもの(特許文献7参照)は、相互の反応性が高く、未反応の極性基を低減でき、高密度な架橋膜を形成することができる。しかしながら、メラミン化合物やグアナミン化合物を添加すると残留電位が上昇する傾向にあるため、添加量を少なくする必要があり、そうした場合は水酸基などの極性基が残留してしまい、NOxなどの酸化性ガスの暴露による画像ボケの発生を抑制できていなかった。
【0007】
以上のことから、従来技術では、繰り返し使用時の耐摩耗性が極めて高く、かつ優れた電気特性および耐ガス性を有し、シリカ等の非常に硬度の高いトナー中の外添剤が感光体に刺さることを防止することで、白斑点状の画像欠陥を抑制し、長期に亘って高画質な画像出力を維持することができる高耐久な電子写真感光体の提供ができていなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであり、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、繰り返し使用時の耐摩耗性が極めて高く、かつ優れた電気特性および耐ガス性を有し、シリカ等の非常に硬度の高いトナー中の外添剤が感光体に刺さることを防止することで、白斑点状の画像欠陥を抑制し、長期に亘って高画質な画像出力を維持することができる高耐久な電子写真感光体、並びに該電子写真感光体を用いた画像形成方法、画像形成装置及びプロセスカートリッジを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は鋭意検討を行った結果、導電性支持体上に、少なくとも感光層を有する電子写真感光体において、該感光層の最表面層が、芳香環を有する電荷輸送性化合物の芳香環にメチロール基を3個以上有する化合物と、特定の電荷輸送性化合物と、を酸触媒により重合した3次元架橋膜からなり、さらに、該最表面層に無機フィラーおよび酸性の分散剤を含有することにより上記課題が解決されることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)導電性支持体上に、少なくとも感光層を有する電子写真感光体において、該感光層の最表面層が、芳香環を有する電荷輸送性化合物の芳香環にメチロール基を3個以上有する化合物と、下記一般式(1)で表される電荷輸送性化合物と、を酸触媒により重合した3次元架橋膜からなり、さらに、該最表面層に無機フィラーおよび酸性の分散剤を含有することを特徴とする電子写真感光体。
【化1】

(式中、Ar1、Ar2は無置換のフェニル基または無置換のナフチル基を表し、Ar1、Ar2はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。R1は、メチル基を表し、aは0〜5の整数を表す。)
(2)前記酸性の分散剤がポリカルボン酸化合物であることを特徴とする前記(1)に記載の電子写真感光体。
(3)前記無機フィラーが金属酸化物であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の電子写真感光体。
(4)前記金属酸化物がアルミナ、酸化チタンのいずれかであることを特徴とする前記(3)に記載の電子写真感光体。
(5)前記芳香環を有する電荷輸送性化合物の芳香環にメチロール基を3個以上有する化合物が、下記一般式(2)で表されることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の電子写真感光体。
【化2】

(式中、Xはメチレン基、エチレン基、又は酸素原子を表す。)
(6)前記一般式(1)で表される電荷輸送性化合物が、下記一般式(3)で表されることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の電子写真感光体。
【化3】

(式中、Ar3は無置換のフェニル基または無置換のナフチル基を表す。R2は、メチル基を表し、bは0〜5の整数を表す。)
(7)支持体と、該支持体上に少なくとも電荷発生層、電荷輸送層、及び架橋型電荷輸送層をこの順に有してなり、該架橋型電荷輸送層が、最表面層であることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれかに記載の電子写真感光体。
(8)電子写真感光体表面を帯電させる帯電工程と、帯電された電子写真感光体表面を露光して静電潜像を形成する露光工程と、前記静電潜像をトナーを用いて現像して可視像を形成する現像工程と、前記可視像を記録媒体に転写する転写工程と、前記記録媒体に転写された転写像を定着させる定着工程とを少なくとも有する画像形成方法であって、前記電子写真感光体が、前記(1)〜(7)のいずれかに記載の電子写真感光体であることを特徴とする画像形成方法。
(9)電子写真感光体と、該電子写真感光体表面を帯電させる帯電手段と、帯電された電子写真感光体表面を露光して静電潜像を形成する露光手段と、前記静電潜像をトナーを用いて現像して可視像を形成する現像手段と、前記可視像を記録媒体に転写する転写手段と、前記記録媒体に転写された転写像を定着させる定着手段とを少なくとも有する画像形成装置であって、前記電子写真感光体が、前記(1)〜(7)のいずれかに記載の電子写真感光体であることを特徴とする画像形成装置。
(10)電子写真感光体と、帯電手段、露光手段、現像手段、転写手段、クリーニング手段及び除電手段から選択される少なくとも1つの手段を有し、画像形成装置本体に着脱可能であるプロセスカートリッジにおいて、前記電子写真感光体が、前記(1)〜(7)のいずれかに記載の電子写真感光体であることを特徴とするプロセスカートリッジ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、従来における諸問題を解決することができ、繰り返し使用時の耐摩耗性が極めて高く、かつ優れた電気特性および耐ガス性を有し、シリカ等の非常に硬度の高いトナー中の外添剤が感体に刺さることを防止することで、白斑点状の画像欠陥を抑制し、長期に亘って高画質な画像出力を維持することができる高耐久な電子写真感光体、並びに該電子写真感光体を用いた画像形成方法、画像形成装置及びプロセスカートリッジを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】合成例1において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm-1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図2】合成例2において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm-1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図3】合成例3において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm-1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図4】合成例4において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm-1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図5】合成例5において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm-1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図6】合成例6において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm-1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図7】合成例7において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm-1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図8】合成例8において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm-1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図9】合成例9において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm-1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図10】合成例10において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm-1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図11】合成例11において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm-1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図12】合成例12において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm-1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図13】合成例13において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm-1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図14】合成例14において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm-1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図15】本発明の電子写真感光体の層構成の一例を示す概略図である。
【図16】本発明の電子写真感光体の層構成の別の一例を示す概略図である。
【図17】本発明の電子写真感光体の層構成のさらに別の一例を示す概略図である。
【図18】本発明の電子写真感光体の層構成のさらに別の一例を示す概略図である。
【図19】本発明の電子写真感光体の層構成のさらに別の一例を示す概略図である。
【図20】本発明の画像形成装置及び電子写真プロセスを説明する概略図である。
【図21】本発明のタンデム方式のフルカラー画像形成装置を説明する概略図である。
【図22】本発明のプロセスカートリッジの一例を説明する概略図である。
【図23】実施例で作製したチタニルフタロシアニン粉末のX線回折スペクトルの結果を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の電子写真感光体、及びそれを用いた電子写真方法、電子写真装置、ならびに電子写真用プロセスカートリッジの詳細を説明する。
本発明の電子写真感光体は、導電性支持体上に、少なくとも感光層を有する電子写真感光体において、該感光層の最表面層が、芳香環を有する電荷輸送性化合物の芳香環にメチロール基を3個以上有する化合物と、前記一般式(1)で表される電荷輸送性化合物と、を酸触媒により重合した3次元架橋膜からなり、さらに、該最表面層に無機フィラーおよび酸性の分散剤を含有することにより、繰り返し使用時の耐摩耗性が極めて高く、かつ優れた電気特性および耐ガス性を有し、シリカ等の非常に硬度の高いトナー中の外添剤が感体に刺さることを防止することで、白斑点状の画像欠陥を抑制でき、長期に亘って高画質な画像出力が可能な高耐久感光体を提供できる。ここで、酸性の分散剤とは、酸価を有する有機化合物を示し、酸価とは、1gの試料中のカルボキシル基を中和するのに要するKOHのミリグラム数である。
【0013】
上記効果が発現する理由としては、以下の要因が挙げられる。
本発明の感光体は、芳香環を有する電荷輸送性化合物の芳香環にメチロール基を3個以上有する化合物を用いるものであるが、ここで、芳香環を有する電荷輸送性化合物の芳香環にメチロール基を3個以上有する化合物と、一般式(1)で表される電荷輸送性化合物とを、酸触媒を用いることで、有機溶剤などに不溶で架橋密度の高い3次元架橋膜を形成できることを見出したのが本発明の基礎となっている。
【0014】
メチロール基は反応性が高く、メチロール基を有する電荷輸送性化合物を用いて高密度な3次元架橋膜が得られることは従来から知られており、例えば特開2009−229549号公報(前記特許文献7)にも記載されているが、反応性の官能基を有さない、一般式(1)の電荷輸送性化合物を同時に重合させた例はない。通常、反応性の官能基を有さない電荷輸送性化合物を架橋樹脂に添加した場合、電荷輸送性化合物が相分離し、結晶化してクラックの原因となったり、白濁したりする恐れがある。また、結晶化しなかった場合も、硬化に寄与しない成分を含有することで架橋密度が低下し、シリカが刺さりやすくなるなど、望みの機械特性が得られないことも多い。本発明における3次元架橋膜では、そのような電荷輸送性物質の相分離や架橋密度の低下は見られず、シリカなど高硬度のフィラーが刺さることによる白斑点状の画像欠陥を抑制することができ、一般式(1)で表される電荷輸送性化合物が、3次元架橋膜中に重合して取り込まれていることがわかった。
【0015】
電荷輸送性化合物の芳香環にメチロール基を3個以上有する化合物は、酸触媒の存在の下で架橋反応が進行する。詳細な架橋反応メカニズムは解明できていないが、以下のように推測される。メチロール基同士の縮合反応よりエーテル結合、若しくは更に縮合反応が進み、メチレン結合を形成したり、或いはメチロール基が一般式(1)で表される電荷輸送性化合物の、無置換のフェニル基、または無置換のナフチル基の水素原子との縮合反応により、メチレン結合を形成する。各々の分子間でこれらの縮合反応が起こることにより、非常に架橋密度の高い3次元架橋膜を得ることができる。
【0016】
さらに、本発明における3次元架橋膜は、NOxなど酸化性ガスの暴露による画像ボケが発生しにくいことがわかった。これは、電荷輸送性化合物の芳香環にメチロール基を3個以上有する化合物と一般式(1)で表される電荷輸送性化合物が相分離することなく、かつ、相互の反応性が高く、未反応のメチロール基を低減できたことによるものと考えられる。また、前記一般式(1)で表される電荷輸送性化合物は、電荷輸送能を有しているため、残留電位上昇など電気特性へ悪影響は見られなかった。
【0017】
さらに本発明の最表面層の形成においては、前記3次元架橋膜に無機フィラーが分散されている。硬度の高い無機フィラーを架橋樹脂に分散させることで、無機フィラーが脱離しにくくなり、高い耐摩耗性を実現できることは従来から知られており、シリカの刺さりを抑制するうえでも有効である。特開2009−229549号公報(特許文献7)の保護層にも、耐摩耗性向上のために粒子を添加してもよいことが記載されている。しかしながら、架橋樹脂部に起因して電気特性の低下が問題となったり、無機フィラーの表面に存在する電荷トラップなどにより残留電位が上昇しやすくなったりなど、機械的特性と電気特性を両立させることは難しかった。
【0018】
しかし、本発明においては、さらに酸性の分散剤を含有することにより、無機フィラーを含有することに起因する残留電位上昇を低減し、さらに無機フィラーの分散性を向上させることができ、非常に耐摩耗性が高くなるとともに、電気特性にも優れる。
【0019】
酸価が30〜400(mgKOH/g)の有機化合物を用いることにより、無機フィラーを含有することに起因する残留電位上昇を低減し、さらに無機フィラーの分散性を向上させることができることは、特許第3802787号公報に記載されている。しかしながら、酸価が30〜400(mgKOH/g)の有機化合物の化学構造に由来して、NOxやオゾンガスにより、画像ボケが発生しやすいという欠点があった。これは、酸化防止剤を添加することで、画像ボケの発生は抑制できるものの、酸化防止剤自体が電荷トラップとなるために、酸価が30〜400(mgKOH/g)の有機化合物の添加量を最小限にとどめる必要があった。
【0020】
一方、本発明においては、酸性の分散剤を用いた場合でも、画像ボケの副作用は認められなかった。この理由は明らかになってはいないが、以下のように推測する。
本発明の、芳香環を有する電荷輸送性化合物の芳香環にメチロール基を3個以上有する化合物と、一般式(1)で表される電荷輸送性化合物は、酸触媒により重合反応が進行する。ここで、無機フィラーの分散に寄与しない、余剰の酸性の分散剤が硬化反応に取り込まれることで、画像ボケの発生が抑制されたものと考えられる。
よって、本発明においては、酸性の分散剤を用いた場合でも、画像ボケの副作用が抑えられ、優れた機械的特性とともに、電気特性、耐ガス性を両立した高耐久感光体を提供できる。
【0021】
酸価が30〜400(mgKOH/g)の有機化合物による画像ボケを改善した例として、特定構造のポリカーボネートを用いたり(例えば、特開2004−233756号公報参照)、特定構造のアミノ化合物を添加したりするもの(例えば、特開2007−233425号公報参照)が開示されているが、これらはフィラーを熱可塑性樹脂に含有させた保護層に適した技術であり、フィラーを硬化性バインダーに含有させた保護層に単純に転用できるものではない。即ち、ポリカーボネートでは要求される耐摩耗性を得ることは難しく、硬化性バインダーを用いる場合は、硬化に寄与しないアミノ化合物を添加することで、膜強度の低下や、相分離による電気特性低下などの副作用を引き起こす恐れがあり、これらの技術を単純にフィラーを硬化性バインダーに含有した保護層に適用することは難しかった。フィラーを硬化性バインダーに含有させた保護層においては、本発明の、残留した酸性の分散剤を積極的に硬化反応に取り込むという考えが、機械的特性と電気的特性を両立させるうえで適している。
【0022】
また、酸性の分散剤による画像ボケの抑制効果が高いことから、高い酸価を有するものを使ったり、酸性の分散剤の量を増量でき、粒径の小さい無機フィラーや、塩基性の高い無機フィラーも分散できる。
以上のことから、繰り返し使用時の耐摩耗性が極めて高く、かつ優れた電気特性および耐ガス性を有し、シリカ微粒子等の非常に硬度の高いトナー中の外添剤が感体に刺さることを防止することで、白斑点状の画像欠陥を減らすことができ、長期間にわたり高画質を維持できる狙いの感光体の提供が可能となる。
【0023】
また、芳香環を有する電荷輸送性化合物の芳香環にメチロール基を3個以上有する化合物は、前記一般式(2)で表される電荷輸送性化合物であることが好ましい。
一般式(2)で表される化合物は、電荷輸送性を有するトリアリールアミン化合物の芳香環にメチロール基を4個有しており、且つ、非共役連結基のXを有することで適度な分子運動性をも有しており、前記一般式(1)の電荷輸送性化合物との重合反応により出来上がった3次元架橋膜の硬度特性や弾性特性のバランスが良く、強靱で耐傷性、耐摩耗性の両方に優れた3次元架橋膜の形成が可能になる。さらに、Xの構造性から分子の酸化電位が比較的大きく、酸化しにくい特性を有しており、オゾンガスやNOxガスのような酸化性ガスの暴露時にも比較的安定であり、耐ガス性にも強い感光体の提供が可能になる。
【0024】
前記一般式(1)で表される電荷輸送性化合物は、前記一般式(3)で表される電荷輸送性化合物であることがさらに好ましい。
一般式(3)の電荷輸送性化合物は、多環芳香族炭化水素であるナフチル基を有しているため、硬度が高い3次元架橋膜を形成しやすく、白斑点状の画像欠陥が起こりにくい感光体の提供が可能になる。
【0025】
本発明の電子写真感光体は、導電性支持体上の感光層が少なくとも電荷発生層、電荷輸送層、及び架橋型電荷輸送層をこの順に有してなり、該架橋型電荷輸送層が、前記3次元架橋膜である事が好ましい。
前記3次元架橋膜に無機フィラーと酸性の分散剤を含有することを特徴とする最表面層の電荷輸送性は、従来の架橋膜に比べて最高レベルの特性を有しているが、通常の分子分散型電荷輸送層に比べるとまだ低い。従って、電荷輸送層は従来型の分子分散型電荷輸送層を用い、その表面の保護層として使用する場合に、最高のパフォーマンスを発揮する。
すなわち比較的厚膜の通常の分子分散型電荷輸送層上に薄膜の架橋型電荷輸送層を形成することで、感度特性を低下させることなく本発明の特徴を有する電子写真感光体の提供が可能になる。その為に架橋型電荷輸送層の膜厚は1〜10μmが好ましい。
【0026】
本発明に係る画像形成方法は、電子写真感光体表面を帯電させる帯電工程と、帯電された電子写真感光体表面を露光して静電潜像を形成する露光工程と、前記静電潜像をトナーを用いて現像して可視像を形成する現像工程と、前記可視像を記録媒体に転写する転写工程と、前記記録媒体に転写された転写像を定着させる定着工程とを少なくとも有する画像形成方法であって、電子写真感光体として前記本発明の電子写真感光体を使用することを特徴とする。
これにより繰返し使用時の画像安定性が高く、かつ画像欠陥の少ない高画質を長期にわたって維持することができ、耐ガス性にも優れる画像形成方法が提供できる。
【0027】
本発明に係る画像形成装置は、電子写真感光体と、該電子写真感光体表面を帯電させる帯電手段と、帯電された電子写真感光体表面を露光して静電潜像を形成する露光手段と、前記静電潜像をトナーを用いて現像して可視像を形成する現像手段と、前記可視像を記録媒体に転写する転写手段と、前記記録媒体に転写された転写像を定着させる定着手段とを少なくとも有する画像形成装置であって、電子写真感光体として前記本発明の電子写真感光体を使用することを特徴とする。
これにより繰返し使用時の画像安定性が高く、かつ画像欠陥の少ない高画質を長期にわたって維持することができ、耐ガス性にも優れる画像形成装置が提供できる。
【0028】
本発明に係るプロセスカートリッジは、電子写真感光体と、帯電手段、露光手段、現像手段、転写手段、クリーニング手段及び除電手段から選択される少なくとも1つの手段を有し、画像形成装置本体に着脱可能であるプロセスカートリッジにおいて、電子写真感光体として前記本発明の電子写真感光体を用いることを特徴とする。これにより繰返し使用時の画像安定性が高く、かつ画像欠陥の少ない高画質を長期にわたって維持することができ、耐ガス性にも優れるプロセスカートリッジの提供が可能になる。
【0029】
以下、本発明の電子写真感光体、及びそれを用いた電子写真方法、電子写真装置、ならびに電子写真用プロセスカートリッジについて、更に詳細に説明する。
【0030】
(電子写真感光体)
本発明の電子写真感光体は、導電性支持体上に少なくとも感光層を有する電子写真感光体において、該感光層の最表面層が、芳香環を有する電荷輸送性化合物の芳香環にメチロール基を3個以上有する化合物と、前記一般式(1)で表される電荷輸送性化合物とが、酸触媒により重合した3次元架橋膜からなり、且つ、該表面層に無機フィラーおよび酸性の分散剤を含有することを特徴としており、更に必要に応じてその他の層を有してなる。
【0031】
<3次元架橋膜>
前記3次元架橋膜は、芳香環を有する電荷輸送性化合物の芳香環にメチロール基を3個以上有する化合物と、一般式(1)で表される電荷輸送性化合物に酸触媒を添加し、加熱することで重合反応させて得られる。
【0032】
芳香環を有する電荷輸送性化合物の芳香環にメチロール基を3個以上有する化合物について説明する。
電荷輸送性化合物としては従来から多くの材料が知られている。これら材料のほとんどには芳香環が存在している。例えばトリアリールアミン構造やアミノビフェニル構造やベンジジン構造やアミノスチルベン構造やナフタレンテトラカルボン酸ジイミド構造やベンズヒドラジン構造等においてはいずれも芳香環が存在している。これら芳香環を有する電荷輸送性化合物の芳香環にメチロール基が3個以上置換した化合物であればいずれも使用することができる。メチロール基は合計で3個以上置換していればよく、芳香環を有する電荷輸送性化合物が複数の芳香環を有する場合は、それらの芳香環に合計で3個以上のメチロール基が置換した化合物であればよい。メチロール基が2個以下の場合、架橋密度が低下し、硬化不良となったり、電荷輸送性化合物が析出して結晶化しやすくなる。芳香環を有する電荷輸送性化合物の芳香環にメチロール基を3個以上有する化合物としては、前記一般式(2)で表される化合物、下記化合物Cのような芳香環を有する電荷輸送性化合物の芳香環にメチロールを3個有する化合物、及び下記化合物Dのような芳香環を有する電荷輸送性化合物の芳香環にメチロールを4個有し、2つのトリフェニルアミン構造が共役で連結している化合物を挙げることができ、中でも、特に、前記一般式(2)で表される化合物は前記の特徴を持ち、好ましく使用することができる。
【化4】

【0033】
一般式(2)で表される電荷輸送性化合物の芳香環にメチロール基を3個以上有する化合物の具体例を以下に示すが、本発明は何らこれら例示の化合物に限定されるものではない。
【表1】

【0034】
上記、一般式(2)で表される電荷輸送性化合物の芳香環にメチロール基を3個以上有する化合物は、例えば、以下の手順でアルデヒド化合物を合成し、得られたアルデヒド化合物と水素化ホウ素ナトリウムなどの還元剤により反応させて、容易に合成することができる。
【0035】
合成原料となる電荷輸送性化合物は、ハロゲンを有するベンゼンと、アミノ化合物とをカップリング反応させて、容易に合成することができる。ハロゲンがヨード体の場合は、アミン化合物とハロゲン化合物をウルマン反応させることによりカップリングすることができる。また、クロロ体、ブロモ体の場合は、パラジウム触媒を用いた鈴木−宮浦反応などによりカップリングすることができる。
【0036】
<メチロール化合物の中間体電荷輸送性化合物の合成>
下記反応式に示すようにアミン化合物とハロゲン化合物を原料とし、これを従来知られている合成方法を用いて、メチロール化合物の中間体となる電荷輸送性化合物を合成することができる。
【化5】

(式中、Xはメチレン基、エチレン基、又は酸素原子を表す。X’は、ハロゲンを表す。)
すなわち、上記の具体的な合成方法としては、ウルマン反応等を用いた方法が有効であるが、本発明のメチロール基を有する電荷輸送性化合物の中間体となる化合物を得るための合成方法は、これらに限定されるものではない。具体的な合成例については後述の合成例に示す。
【0037】
<メチロール化合物の中間体アルデヒド化合物の合成>
下記反応式に示すようにトリフェニルアミン化合物を原料とし、これを従来知られている方法(例えばビルスマイヤー反応)を用いてホルミル化し、アルデヒド化合物を合成することができる。特許第3943522号記載のホルミル化等が挙げられる。
【化6】

すなわち、上記の具体的なホルミル化の方法としては、塩化亜鉛/オキシ塩化リン/ジメチルホルムアルデヒドを用いた方法が有効であるが、本発明の中間体であるアルデヒド化合物を得るための合成方法は、これらに限定されるものではない。具体的な合成例については後述の合成例に示す。
【0038】
<メチロール化合物の合成>
下記反応式に示すようにアルデヒド化合物を製造中間体とし、これを従来知られている還元方法を用いてメチロール化合物を合成することができる。
【化7】

すなわち、上記の具体的な還元方法としては、水素化ホウ素ナトリムを用いた方法が有効であるが、本発明のメチロール化合物を得るための合成方法は、これらに限定されるものではない。具体的な合成例については後述の合成例に示す。
【0039】
次に、一般式(1)で表される電荷輸送性化合物の具体例を以下に示すが、本発明は何らこれら例示の化合物に限定されるものではない。なお、B−7〜B−18は、一般式(3)で表される電荷輸送性化合物でもある。
【表2−1】

【0040】
【表2−2】

【0041】
上記具体例の、一般式(1)で表される電荷輸送性化合物は、ハロゲンを有する芳香族炭化水素と、アミノ化合物とをカップリング反応させて、容易に合成することができる。ハロゲンがヨード体の場合は、アミン化合物とハロゲン化合物をウルマン反応させることによりカップリングすることができる。また、クロロ体、ブロモ体の場合は、パラジウム触媒を用いた鈴木−宮浦反応などによりカップリングすることができる。
【0042】
<一般式(1)で表される電荷輸送性化合物の合成>
下記反応式に示すようにアミン化合物とハロゲン化合物を原料とし、これを従来知られている合成方法を用いて、一般式(1)で表される電荷輸送性化合物を合成することができる。
【化8】

(式中、Ar1、Ar2は、無置換のフェニル基、または無置換のナフチル基を表し、同一でも異なっていてもよい。R1はメチル基を表し、aは0〜5の整数を表す。X’はハロゲンを表す。)
すなわち、上記の具体的な合成方法としては、ウルマン反応等を用いた方法が有効であるが、本発明の一般式(1)で表される電荷輸送性化合物を得るための合成方法は、これらに限定されるものではない。具体的な合成例については後述の合成例に示す。
【0043】
本発明では、芳香環を有する電荷輸送性化合物の芳香環にメチロール基を3個以上有する化合物と、一般式(1)で表される電荷輸送性化合物と、を酸触媒により硬化させることにより、機械的特性と電気特性、および耐ガス性に優れた3次元架橋膜を形成することができる。さらに、無機フィラーおよび酸性の分散剤を含有することで、より優れた機械的特性を実現できる。すなわち、摩耗等の機械的耐久性や耐熱性の要求にも対応でき、しかもこれと両立して良好な電荷輸送特性を発揮することが可能である。このような優れた性質により、有機電子写真感光体、有機EL、有機TFT、有機太陽電池等各種有機半導体デバイス用の有機機能材料として極めて有用である。
【0044】
[合成例]
以下、合成例を挙げて詳細に説明するが、これらに限定されるものではない。
<メチロール基含有電荷輸送性化合物の合成例>
(合成例1)
メチロール基含有電荷輸送性化合物A−1の製造中間体アルデヒド化合物原料の合成
【化9】

4,4’−ジアミノジフェニルメタン:19.83g、ブロモベンゼン:69.08g、酢酸パラジウム:2.24g、ターシャルブトキシナトリウム:46.13g、o−キシレン:250mlを四つ口フラスコに入れる。アルゴンガス雰囲気下、室温にて撹拌。トリターシャルブチルホスフィン:8.09gを滴下。80℃にて1時間、還流にて1時間撹拌継続。トルエンにて希釈し、硫酸マグネシウム、活性白土、シリカゲルを入れ、撹拌。
濾過、洗浄、濃縮を行い、結晶物が得られた。メタノールにて分散し、濾過、洗浄、乾燥を行い、目的物を得た。(収量45.73g、薄黄色粉末、赤外吸収スペクトルを図1に示す)
【0045】
(合成例2)
メチロール基含有電荷輸送性化合物A−1の製造中間体アルデヒド化合物の合成
【化10】

中間体アルデヒド化合物原料:30.16g、N−メチルホルムアニリド:71.36g、o−ジクロロベンゼン:400mlを四つ口フラスコに入れる。アルゴンガス雰囲気下、室温にて撹拌。
オキシ塩化リン:82.01gを滴下。80℃に昇温し、撹拌。塩化亜鉛:32.71gを滴下。80℃にて撹拌を約10時間行ない、120℃にて約3時間撹拌継続。水酸化カリウム水溶液を加え、加水分解反応を行った。ジクロロメタンにて抽出し、硫酸マグネシウムにて脱水、活性白土にて吸着処理を行った。濾過、洗浄、濃縮を行ない、結晶物を得た。
シリカゲルカラム精製(トルエン/酢酸エチル=8/2)を行ない、単離した。得られた結晶物をメタノール/酢酸エチルにて再結晶し、目的物を得た。(収量27.80g、黄色粉末、赤外吸収スペクトルを図2に示す)
【0046】
(合成例3)
メチロール基含有電荷輸送性化合物A−1の合成
【化11】

中間体アルデヒド化合物:12.30g、エタノール:150mlを四つ口フラスコに入れる。室温下にて撹拌し、水素化ホウ素ナトリウム:3.63gを投下。そのまま4時間撹拌継続。酢酸エチルにて抽出し、硫酸マグネシウムにて脱水し、活性白土&シリカゲルにて吸着処理を行った。濾過、洗浄、濃縮により、アモルファス状物質が得られた。
n−ヘキサンにて分散し、濾過、洗浄、乾燥にて取り出し、目的物を得た。(収量12.0g、薄黄白色アモルファス、赤外吸収スペクトルを図3に示す)
【0047】
(合成例4)
メチロール基含有電荷輸送性化合物A−3の製造中間体アルデヒド化合物原料の合成
【化12】

4,4’−ジアミノジフェニルエーテル:20.02g、ブロモベンゼン:69.08g、酢酸パラジウム:0.56g、ターシャルブトキシナトリウム:46.13g、o−キシレン:250mlを四つ口フラスコに入れる。アルゴンガス雰囲気下、室温にて撹拌。
トリターシャルブチルホスフィン:2.02gを滴下。80℃にて1時間、還流にて1時間撹拌継続。トルエンにて希釈し、硫酸マグネシウム、活性白土、シリカゲルを入れ、撹拌。濾過、洗浄、濃縮を行い、結晶物が得られた。メタノールにて分散し、濾過、洗浄、乾燥を行い、目的物を得た。(収量43.13g、薄茶色粉体、赤外吸収スペクトルを図4に示す)
【0048】
(合成例5)
メチロール基含有電荷輸送性化合物A−3の製造中間体アルデヒド化合物の合成
【化13】

中間体アルデヒド化合物原料:30.27g、N−メチルホルムアニリド:71.36g、o−ジクロロベンゼン:300mlを四つ口フラスコに入れる。アルゴンガス雰囲気下、室温にて撹拌。
オキシ塩化リン:82.01gを滴下。80℃に昇温し、撹拌。塩化亜鉛:16.36gを滴下。80℃にて撹拌を1時間行い、120℃にて4時間、140℃にて3時間撹拌継続。水酸化カリウム水溶液を加え、加水分解反応を行なった。トルエン溶媒を用いて、抽出し、硫酸マグネシウムを入れ、濾過、洗浄、濃縮。トルエン/酢酸エチルにてカラム精製を行い、濃縮後結晶が得られた。メタノールにて分散し、濾過、洗浄、乾燥を行い、目的物を得た。(収量14.17g、薄黄色粉体、赤外吸収スペクトルを図5に示す)
【0049】
(合成例6)
メチロール基含有電荷輸送性化合物A−3の合成
【化14】

中間体アルデヒド化合物:6.14g、エタノール:75mlを四つ口フラスコに入れる。室温下にて撹拌し、水素化ホウ素ナトリウム:1.82gを投下。そのまま7時間撹拌継続。酢酸エチルにて抽出し、硫酸マグネシウムにて脱水し、活性白土&シリカゲルにて吸着処理を行なった。濾過、洗浄、濃縮により、アモルファス状物質が得られた。n−ヘキサンにて分散し、濾過、洗浄、乾燥にて取り出し、目的物を得た。(収量5.25g、白色アモルファス、赤外吸収スペクトルを図6に示す)
【0050】
(合成例7)
メチロール基含有電荷輸送性化合物A−5の製造中間体アルデヒド化合物原料の合成
【化15】

2,2’−エチレンジアニリン:21.23g、ブロモベンゼン:75.36g、酢酸パラジウム:0.56g、ターシャルブトキシナトリウム:46.13g、o−キシレン:250mlを四つ口フラスコに入れる。アルゴンガス雰囲気&室温下にて撹拌。トリターシャルブチルホスフィン:2.03gを滴下。還流撹拌にて、8時間継続。トルエンにて希釈し、硫酸マグネシウム、活性白土を加え、室温下で撹拌。濾過、洗浄、濃縮を行い、結晶物を得た。メタノールにて分散し、濾過、洗浄、乾燥を行い、目的物を得た。(収量47.65g、薄茶色粉末、赤外吸収スペクトルを図7に示す)
【0051】
(合成例8)
メチロール基含有電荷輸送性化合物A−5の製造中間体アルデヒド化合物の合成
【化16】

中間体アルデヒド化合物原料:31.0g、N−メチルホルムアニリド:71.36g、o−クロロベンゼン:400mlを四つ口フラスコに入れる。アルゴンガス雰囲気&室温下にて撹拌。オキシ塩化リン:82.01gをゆっくり滴下し、80℃に昇温。塩化亜鉛:32.71gを加え、80℃にて1時間、120℃にて約24時間継続。水酸化カリウム水溶液を加え、加水分解反応を行なった。トルエンにて希釈し、その後水洗し、油層を塩化マグネシウムにて脱水し、活性白土&シリカゲルにて吸着し、濾過、洗浄、濃縮を行い、目的物を得た。(収量22.33g、黄色液体、赤外吸収スペクトルを図8に示す)
【0052】
(合成例9)
メチロール基含有電荷輸送性化合物A−5の合成
【化17】

中間体アルデヒド化合物:9.43g、エタノール:100mlを四つ口フラスコに入れる。室温下にて撹拌し、水素化ホウ素ナトリウム:2.72gを投下。そのまま7時間撹拌継続。酢酸エチルにて抽出し、硫酸マグネシウムにて脱水し、活性白土&シリカゲルにて吸着処理を行なった。濾過、洗浄、濃縮により、アモルファス状物質が得られた。n−ヘキサンにて分散し、濾過、洗浄、乾燥にて取り出し、目的物を得た。(収量8.53g、白色アモルファス、赤外吸収スペクトルを図9に示す)
【0053】
(合成例10)
一般式(1)で表される電荷輸送性化合物B−2の合成
【化18】

ジフェニルアミン:7.78g、2−ブロモトルエン:6.15g、ビス(トリtert-ブトキシホスフィン)パラジウム:0.076g、ターシャルブトキシナトリウム:12.87g、o−キシレン:50mlを四つ口フラスコに入れる。アルゴンガス雰囲気下、室温にて攪拌した後、100℃に昇温し、1時間攪拌を継続した。
トルエンにて希釈し、硫酸マグネシウム、活性白土、シリカゲルを入れ、撹拌。濾過、洗浄、濃縮を行い、結晶物が得られた。メタノールにて分散し、濾過、洗浄、乾燥を行い、目的物を得た。(収量7.15g、薄茶色粉体、赤外吸収スペクトルを図10に示す)
【0054】
(合成例11)
一般式(1)で表される電荷輸送性化合物B−7の合成
【化19】

N−フェニル−1−ナフチルアミン:6.57g、ブロモベンゼン:5.65g、ビス(トリtert-ブトキシホスフィン)パラジウム:0.076g、ターシャルブトキシナトリウム:12.87g、o−キシレン:50mlを四つ口フラスコに入れる。アルゴンガス雰囲気下、室温にて攪拌した後、100℃に昇温し、1時間攪拌を継続した。
トルエンにて希釈し、硫酸マグネシウム、活性白土、シリカゲルを入れ、撹拌。濾過、洗浄、濃縮を行い、結晶物が得られた。メタノールにて分散し、濾過、洗浄、乾燥を行い、目的物を得た。(収量7.78g、薄茶色粉体、赤外吸収スペクトルを図11に示す)
【0055】
(合成例12)
一般式(1)で表される電荷輸送性化合物B−13の合成
【化20】

1,1’−ジナフチルアミン:8.08g、ブロモベンゼン:5.65g、ビス(トリtert-ブトキシホスフィン)パラジウム:0.076g、ターシャルブトキシナトリウム:12.87g、o−キシレン:50mlを四つ口フラスコに入れる。アルゴンガス雰囲気下、室温にて攪拌した後、100℃に昇温し、1時間攪拌を継続した。
トルエンにて希釈し、硫酸マグネシウム、活性白土、シリカゲルを入れ、撹拌。濾過、洗浄、濃縮を行い、結晶物が得られた。メタノールにて分散し、濾過、洗浄、乾燥を行い、目的物を得た。(収量9.68g、薄茶色粉体、赤外吸収スペクトルを図12に示す)
【0056】
(合成例13)
電荷輸送性化合物の芳香環にメチロール基を3個有する化合物Cの合成
【化21】

中間体アルデヒド化合物:3.29g、エタノール:50mlを四つ口フラスコに入れる。室温下にて撹拌し、水素化ホウ素ナトリウム:1.82gを投下。そのまま12時間撹拌継続。酢酸エチルにて抽出し、硫酸マグネシウムにて脱水し、活性白土&シリカゲルにて吸着処理を行なった。濾過、洗浄、濃縮により、結晶物が得られた。n−ヘキサンにて分散し、濾過、洗浄、乾燥にて取り出し、目的物を得た。(収量2.78g、白色結晶、赤外吸収スペクトルを図13に示す)
【0057】
(合成例14)
電荷輸送性化合物の芳香環にメチロール基を4個有する化合物Dの合成
【化22】

中間体アルデヒド化合物:4.40g、エタノール:50mlを四つ口フラスコに入れる。室温下にて撹拌し、水素化ホウ素ナトリウム:1.27gを投下。そのまま4時間撹拌継続。酢酸エチルにて抽出し、硫酸マグネシウムにて脱水し、活性白土&シリカゲルにて吸着処理を行なった。濾過、洗浄、濃縮により、アモルファス状物質が得られた。シクロヘキサンにて分散し、濾過、洗浄、乾燥にて取り出し、目的物を得た。(収量3.68g、白色アモルファス、赤外吸収スペクトルを図14に示す)
【0058】
<無機フィラー添加について>
本発明においては、前記3次元架橋膜に無機フィラーを分散させるものであるが、無機フィラーとしては、銅、スズ、アルミニウム、インジウムなどの金属粉末、シリカ、酸化錫、酸化亜鉛、酸化チタン、アルミナ、ジルコニア、酸化インジウム、酸化アンチモン、酸化ビスマス、酸化カルシウム、アンチモンをドープした酸化錫、錫をドープした酸化インジウムなどの金属酸化物、フッ化錫、フッ化カルシウム、フッ化アルミニウムなどの金属フッ化物、チタン酸カリウム、窒化硼素などの無機材料が挙げられる。これらの無機フィラーの中で、硬度や光散乱性の点から、特に金属酸化物を用いることが耐摩耗性あるいは高画質化に対し有利である。
【0059】
さらに、画像ボケが発生しにくい無機フィラーとしては、電気絶縁性が高い無機フィラーの方が好ましい。導電性フィラーを感光体の最表面に含有させた場合には、表面の抵抗が低下することによって電荷の横移動が起こり、画像ボケが発生しやすくなる。特に、無機フィラーの比抵抗が1010Ω・cm以上であることが解像度の点から好ましく、このようなフィラーとしては、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン、シリカなどが挙げられる。一方、導電性を示す無機フィラーとしては、酸化錫、酸化インジウム、酸化アンチモン、アンチモンをドープした酸化錫、錫をドープした酸化インジウムなどが挙げられるが、本発明においては画像ボケが発生しやすくなることから好ましくない傾向にある。但し、無機フィラーが同じ材質であっても、無機フィラーの比抵抗は異なる場合があるため、無機フィラーの材質によって完全に分類されるものではなく、無機フィラーの比抵抗によって決めることが重要である。なお、無機フィラーの比抵抗の測定は、例えば粉体用抵抗測定装置を用いて行うことができる。具体的には、セルの中に金属酸化物粉体を入れ電極で挟み、荷重をかけて厚さ約2mmになるように金属酸化物粉体量を調整し、その後電極間に電圧を印加し、その時に、流れる電流を測定することによって比抵抗を求めることができる。
【0060】
また、画像ボケの点から、塩基性の無機フィラーを用いることが好ましい。本発明の構成においては、無機フィラーとしては等電点におけるpHが、少なくとも5以上を示すものが画像ボケ抑制の点から好ましい。フィラーのpHは、ゼータ電位測定での等電点におけるpH値とし、ゼータ電位の測定は、大塚電子(株)製レーザーゼータ電位計にて測定できる。
【0061】
金属酸化物は、硬度や光透過性の点では優れるものの、表面に存在する水酸基などの高極性基により、酸化性ガスや酸性化合物を吸着しやすく、結果として感光体表面の抵抗が下がり、画像ボケ発生の原因となる。しかし、塩基性フィラーの場合、表面に酸化性ガスなどが吸着しても、電気的に中和されることで、感光体の表面抵抗が下がりにくくなるため、画像ボケが発生しにくくなる。本発明おいては、酸触媒を用いて硬化を行うものであるが、硬化後に残留した酸触媒により、画像ボケが発生する場合がある。塩基性フィラーを用いることによって、残存した酸触媒を効率的に中和することができ、さらに画像ボケに強い膜が得られる。
【0062】
塩基性の高い金属酸化物としては、前述の無機フィラーの中でも酸化チタン、アルミナは、塩基性が高く、好ましい。
さらに、これらのフィラーは少なくとも一種の表面処理剤で表面処理を施すことが可能である。フィラーへの表面処理によって、フィラーの分散性を改善する効果が得られる場合がある。
【0063】
フィラーの平均一次粒径は、0.05〜0.9μmであることが光透過性や耐摩耗性の点から好ましく、0.1〜0.6μmがより好ましい。フィラーの平均一次粒径がこれよりも小さい場合には、フィラーの凝集や耐摩耗性の低下などが起こりやすくなり、これよりも大きい場合にはフィラーの沈降性が促進されたり、画質劣化あるいは異常画像が発生したりする場合もある。
【0064】
また、フィラーの添加量としては、フィラーが含有される層に含まれる全固形分に対して、0.1質量%〜50質量%が好ましく、より好ましくは3質量%〜30質量%である。フィラーの添加量がこれよりも少ないと、要求される耐摩耗性が得られず、またフィラーの添加量がこれよりも多い場合には、残留電位の増加、画像ボケの発生、解像度の低下など、画質劣化の影響が増大する傾向がある。
【0065】
これらのフィラーが含有されることによって、耐摩耗性は向上するが、残留電位上昇の影響が増加する場合がある。これは、フィラー表面に電荷のトラップサイトが含まれていることに起因し、特に親水性で高抵抗の金属酸化物の場合にその影響が増大する傾向が見られる。この残留電位上昇を抑制するためには、酸性の分散剤の添加が有効である。
【0066】
酸性の分散剤とは、酸価をもった有機化合物であり、酸価とは、樹脂1g中に含まれるカルボキシル基を中和するのに必要な水酸化カリウムのミリグラム数で定義される。なお、本発明における酸性の分散剤は、不揮発分100%のものであっても、予め有機溶剤等に溶解されたものであってもよい。
【0067】
酸性の分散剤としては、一般に知られている有機脂肪酸や高酸価樹脂あるいは共重合体等を使用することができる。例えば、ラウリン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、アジピン酸、オレイン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、サリチル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ピロメリット酸等の飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸、芳香族カルボン酸等の如何なるカルボン酸をも使用することが可能である。しかし、この場合、残留電位低減効果は認められるものの、場合によって分散安定性が不十分であったり、画像ボケが発生しやすくなったりする場合が見られることがある。一方、飽和ポリエステル、不飽和ポリエステル、末端カルボン酸不飽和ポリエステル、またはアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸等、飽和もしくは不飽和の炭化水素を基本骨格とし少なくとも一つ以上のカルボキシル基が結合されたポリマーやオリゴマーあるいはコポリマーは、残留電位上昇を抑制する効果だけでなく、フィラーの分散性を向上させる効果が高いことから、有効に用いられる。
【0068】
その中でもポリカルボン酸化合物は、一つの分子中に親水基と疎水基を併せ持つ界面活性剤的な構造、つまり、親水基が無機フィラー表面の電荷トラップサイトでもある極性基に吸着し、疎水基がバインダー樹脂等と親和性を保持されることにより、無機フィラーへの濡れ性が向上する。さらに、無機フィラーに吸着した上記の分子は、電気的反発あるいは立体障害を生じさせ、無機フィラー同士の接触を防止することにより分散の安定化が向上することになる。ポリカルボン酸化合物は、無機フィラーへの吸着性が優れている上、立体傷害が得られやすい構造であることから分散安定性にも優れており、特に有効に用いることができる。
【0069】
酸性の分散剤としては、高酸価の材料が残留電位の低減に対しては特に有効であり、10(mgKOH/g)以上、700(mgKOH/g)以下の酸価を有する酸性の分散剤が特に好ましい。これよりも酸価が低くなると、残留電位低減効果が低減される傾向があり、酸価が必要以上に高いとフィラーへの吸着性が悪かったり、画像ボケが発生する場合がある。
【0070】
これらの酸性の分散剤の中でも、BYKケミー社より提供されている湿潤分散剤「BYK−P104」は、本発明の効果を得る上で特に適した材料である。これらの技術は、特開2007−233425号公報に開示されている。
【0071】
酸性の分散剤の添加量は、酸性の分散剤の添加量(質量基準)、酸性の分散剤の酸価(mgKOH/g)、無機フィラーの添加量(質量基準)との間に下記の関係式(I)を満たすことが好ましい。
0.1≦(酸性の分散剤の添加量×酸性の分散剤の酸価/無機フィラーの添加量)≦40
(I)
上式の範囲を下回る場合には、残留電位低減効果が得られなかったり、分散安定性が低下する傾向が見られる。一方、上式の範囲を上回る場合には、画像ボケが生じる場合がある。
【0072】
前記無機フィラー材料は、少なくとも有機溶剤、さらに必要であれば分散剤とともにボールミル、アトライター、サンドミル、超音波などの従来方法を用いて分散できる。
【0073】
酸性の分散剤は、塗工液中のフィラーの凝集、さらにはフィラーの沈降性を抑制し、フィラーの分散性が著しく向上させることから、フィラーや有機溶剤とともに分散前に添加することが好ましい。一方、芳香環を有する電荷輸送性化合物の芳香環にメチロール基を3個以上有する化合物と、一般式(1)で表される電荷輸送性化合物、および酸触媒は、分散前に添加することも可能であるが、その場合無機フィラーの分散性が若干低下する場合が見られる。したがって、芳香環を有する電荷輸送性化合物の芳香環にメチロール基を3個以上有する化合物と、一般式(1)で表される電荷輸送性化合物、および酸触媒は、有機溶剤に溶解された状態で分散後に添加することが好ましい。
【0074】
<膜作製方法について>
本発明の最表面層は、芳香環を有する電荷輸送性化合物の芳香環にメチロール基を3個以上有する化合物と、一般式(1)で表される電荷輸送性化合物、および酸触媒と、無機フィラーと酸性の分散剤とを含有する塗工液を、必要に応じて溶媒等で希釈調整し、該塗工液を感光体表面に塗工した後、加熱乾燥を行い、硬化することにより形成される。
ここで、一般式(1)で表される電荷輸送性化合物の芳香環を有する電荷輸送性化合物の芳香環にメチロール基を3個以上有する化合物に対する混合割合は任意に選択することができるが、あまり多すぎると架橋反応部が減少し、膜の機械的特性が弱くなったり、結晶化し易くなって感光体表面が白濁化する等の不具合が発生する。また、少なすぎると耐ガス性が低下したり、白斑点等の異常画像が発生する。通常は、5から60質量%になるように混合して3次元架橋膜を形成されるが、耐ガス性や白斑点等の異常画像の抑制のために20から50質量%になるように混合して3次元架橋膜を形成するのが更に好ましい。
【0075】
加熱温度としては80℃〜180℃の範囲が好ましく、さらに100℃〜160℃の範囲がより好ましい。触媒の種類や添加量によっても反応速度が変わるために処方条件によって任意に選択すれば良い。しかしながら、加熱温度が高いほど反応は速くなるが、架橋密度が上がりすぎると電荷輸送性の低下を引き起こして感光体の明部電位が上昇したり、感度低下したりという問題が生じてくる。また、感光体の他の層構成材料への加熱の影響が大きくなり、そこでも感光体特性を劣化させやすくなる。加熱温度が低すぎると反応速度が遅くなると共に長時間かけても十分な架橋密度まで到達できなくなる問題が生じる。
【0076】
酸触媒としては、有機スルホン酸や有機スルホン酸誘導体が好ましく用いられる。例えば、ビニルスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等が挙げられる。また、有機スルホン酸塩等も挙げられ、更に、一定以上の温度をかけることで酸性度が発現する所謂熱潜在性化合物も挙げられる。例えば、キングインダストリー社製のNACURE2500、NACURE5225、NACURE5543、NACURE5925等のアミンによりブロックさせた熱潜在性プロトン酸触媒や、三進化学社製のSI−60、旭電化社製のアデカオプトマーCP−66、CP−77等が挙げられる。
【0077】
これらの触媒は、塗工液の固形分濃度として0.02〜5質量%程度添加される。パラトルエンスルホン酸等の酸単独の場合は0.02〜0.2質量%程度で十分であり、多すぎる場合は塗工液の酸性度が上がり、塗工設備等の腐蝕を引き起こしたりするので好ましくない。逆に上記熱潜在性化合物の場合は、塗工液段階での腐蝕の問題は発生せず、添加量を上げることが可能であるが、ブロック剤としてのアミン化合物が残留すると残留電位等の感光体特性に悪影響するためあまり多量に添加するのは好ましくない。酸単独に比べると酸の含有量が少ないため触媒添加量としては0.2〜2質量%が適量である。
以上のように、触媒の種類と添加量を加味しながら加熱乾燥温度と時間を任意に選択することで種々の架橋密度を持った本発明の3次元架橋膜の形成が可能になる。
【0078】
前記溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール系、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、プロピルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコール 1−モノメチルエーテル 2−アセテートなどのエーテル系、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン系、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、セロソルブアセテートなどのセロソルブ系などが挙げられる。これらの溶媒は単独又は2種以上を混合して用いてもよい。溶媒による希釈率は組成物の溶解性、塗工法、目的とする厚みにより変わり、任意である。塗布は、浸漬塗工法やスプレーコート、ビードコート、リングコート法などを用いて行うことができる。
【0079】
更に、前記塗工液には、必要に応じてレベリング剤や酸化防止剤などの添加剤が含有できる。レベリング剤としては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル等のシリコーンオイル類や側鎖にパーフルオロアルキル基を有するポリマー、オリゴマー等が使用され、その使用量は全固形量に対して1質量%以下が好ましい。また、酸化防止剤も有効に使用することができる。例えば、フェノール系化合物、パラフェニレンジアミン類、ハイドロキノン類、有機硫黄化合物類、有機燐化合物類、ヒンダードアミン類等の従来公知の材料が使用でき、繰り返し使用に対する静電特性の安定化に有効である。添加量としては、全固形量に対して1質量%以下が好ましい。
【0080】
表面層形成の際に用いる塗工方法としては、一般に用いられている塗工方法であれば特に限定されない。塗工液の粘性、所望とする表面層の膜厚などによって適宜塗工方法を選択するとよい。例えば、浸漬塗工法やスプレーコート、ビードコート、リングコート法などが例示される。
【0081】
前記塗工液を塗布後、熱乾燥工程により、硬化を行う。硬化反応性の目安として有機溶剤による溶解性試験を実施した。溶解性試験とは、テトラヒドロフラン等の溶解性の高い有機溶媒に綿棒を浸し、硬化物表面を擦り、その表面を観察することを意味する。硬化反応していない場合は、塗膜は溶解する。また、硬化反応が不十分である場合は膨潤し、剥がれる。硬化反応が十分である場合は、不溶となる。
【0082】
本発明の目的を達成するためには、前記硬化物がテトラヒドロフランに不溶であることが好ましい。テトラヒドロフランに不溶であることは、架橋密度の高い3次元硬化膜が形成されていること示し、シリカなどの硬度の高いトナーの外添剤が刺さることを防止し、白斑点状の異常画像の発生を抑制することができる。
【0083】
<電子写真感光体の層構成>
次に、本発明の電子写真感光体の層構成について、図15〜図19に基づいて説明する。尚、図15〜図19は、電子写真感光体の断面図である。
図15は、最も基本的な積層感光体の構成例であり、導電性支持体(1)上に電荷発生層(2)、電荷輸送層(3)を順次積層したものである。負帯電で使用する場合は電荷輸送層にホール輸送性電荷輸送物質が使用され、正帯電で使用される場合は電荷輸送層に電子輸送性電荷輸送物質が使用される。
これらの場合、最表面層は電荷輸送層(3)であり、従って、本発明の電荷輸送性化合物の芳香環にメチロールを3個以上有する化合物と一般式(1)で表される電荷輸送性化合物と、が酸触媒により重合し、且つ、無機フィラーおよび酸性の分散剤を含有した3次元架橋膜は、この電荷輸送層に適用される。電荷輸送層に本発明の3次元架橋膜を適用する場合の好ましい膜厚は、10〜30μmであり、より好ましくは、15〜25μmである。薄すぎると地汚れが発生しやすくなり、厚すぎると解像度が低下したり、明部電位が上昇し易くなり安定した画像出力がしにくくなる。
【0084】
図16は、基本構成の積層感光体に下引き層(4)を形成した構成であり、最も実用化されている構成である。この場合も、最表面層は電荷輸送層(3)であり、従って、本発明の電荷輸送性化合物の芳香環にメチロールを3個以上有する化合物と一般式(1)で表される電荷輸送性化合物と、が酸触媒により重合し、且つ、無機フィラーおよび酸性の分散剤を含有した3次元架橋膜は、この電荷輸送層に適用される。
【0085】
図17は、さらに保護層として架橋型電荷輸送層(5)を最表面に設けた構成であり、従って、本発明の電荷輸送性化合物の芳香環にメチロールを3個以上有する化合物と一般式(1)で表される電荷輸送性化合物と、が酸触媒により重合し、且つ、無機フィラーおよび酸性の分散剤を含有した3次元架橋膜は、この架橋型電荷輸送層に適用される。架橋型電荷輸送層は、芳香環を有する電荷輸送性化合物の芳香環にメチロール基を3個以上有する化合物と、一般式(1)で表される電荷輸送性化合物、および酸触媒と、無機フィラーと酸性の分散剤とを含有する塗工液を、必要に応じて溶媒等で希釈調整し、該塗工液を感光体表面に塗工した後、加熱乾燥を行い、硬化することにより形成される。
ここで下引き層は必須ではないが、電荷リークの防止等に重要な機能を果たしており、通常は使用される。
この感光体構成の場合、電荷発生層から感光体表面までの電荷移動を電荷輸送層(3)と架橋型電荷輸送層(5)の二層で分担しており、主機能を分離することができる。例えば、電荷輸送性に優れる電荷輸送層と機械的強度に優れる架橋型電荷輸送層を組み合わせることで電荷輸送性にも優れ機械的強度にも優れた感光体の提供が可能になる。
【0086】
本発明の電荷輸送性化合物の芳香環にメチロールを3個以上有する化合物と一般式(1)で表される電荷輸送性化合物と、が酸触媒により重合し、且つ、無機フィラーおよび酸性の分散剤を含有した3次元架橋膜は、架橋膜の中では電荷輸送性に優れた膜であり、電荷輸送層(3)としての適用性も高いが、従来の分子分散型電荷輸送層に比べると電荷輸送性は劣る。従って、比較的薄膜で使用することが好ましく、この様な構成で使用するときが最も特性に優れた感光体を提供できる。
【0087】
架橋型電荷輸送層に本発明の3次元架橋膜を適用する場合の好ましい膜厚は、前述のように1〜10μmであり、より好ましくは、3〜8μmである。薄すぎると十分な高寿命化が図れず、厚すぎると感度低下や明部電位が上昇し易くなり安定した画像出力がしにくくなる。
【0088】
図18は、導電性支持体(1)上に、電荷発生物質と電荷輸送物質を主成分とする感光層(6)が設けられている。感光層(6)に本発明の電荷輸送性化合物の芳香環にメチロールを3個以上有する化合物と一般式(1)で表される電荷輸送性化合物と、が酸触媒により重合し、且つ、無機フィラーおよび酸性の分散剤を含有した3次元架橋膜を使用することができる。この場合には、架橋膜中に電荷発生物質を含有させることが必要であり、前記塗工液中に電荷発生物質を混合分散した塗工液を作製して、塗工後、加熱乾燥により重合反応させて3次元架橋膜を作製する。
【0089】
図19は、単層感光層(6)上に保護層(7)を設けた構成であり、この保護層(7)に本発明の電荷輸送性化合物の芳香環にメチロールを3個以上有する化合物と一般式(1)で表される電荷輸送性化合物と、が酸触媒により重合し、且つ、無機フィラーおよび酸性の分散剤を含有した3次元架橋膜が使用される。保護層(7)は前記架橋型電荷輸送層(5)と同様の構成とすることができる。
これら各層の構成要素は、本発明の3次元架橋膜を適用しない箇所において、全て従来公知のものを使用することができる。
【0090】
以下、その他の構成要素について詳細に説明する。
<導電性支持体>
前記導電性支持体としては、体積抵抗1010Ω・cm以下の導電性を示すものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルミニウム、ニッケル、クロム、ニクロム、銅、金、銀、白金等の金属;酸化スズ、酸化インジウム等の金属酸化物を蒸着又はスパッタリングにより、フィルム状もしくは円筒状のプラスチック、紙に被覆したもの、あるいはアルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ステンレスなどの板及びそれらを押し出し、引き抜きなどの工法で素管化後、切削、超仕上げ、研摩などの表面処理を施した管などを使用することができる。また、特開昭52−36016号公報に開示されたエンドレスニッケルベルト、エンドレスステンレスベルトも支持体として用いることができる。
【0091】
その他、前記支持体上に導電性粉体を適当な結着樹脂に分散して塗工した導電性層を設けたものについても、本発明の支持体として用いることができる。
前記導電性粉体としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、また、アルミニウム、ニッケル、鉄、ニクロム、銅、亜鉛、銀などの金属粉、あるいは導電性酸化スズ、ITOなどの金属酸化物粉体などが挙げられる。また、同時に用いられる結着樹脂には、ポリスチレン樹脂、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリアリレート樹脂、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、酢酸セルロース樹脂、エチルセルロース樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリビニルトルエン樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾール、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂などの熱可塑性、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂が挙げられる。
【0092】
前記導電性層は、これらの導電性粉体と結着樹脂を適当な溶剤、例えば、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、メチルエチルケトン、トルエンなどに分散して塗布することにより設けることができる。
更に、適当な円筒基体上にポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、塩化ゴム、テフロン(登録商標)などの素材に前記導電性粉体を含有させた熱収縮チューブによって導電性層を設けてなるものも、本発明の支持体として良好に用いることができる。
【0093】
<下引き層>
本発明の電子写真感光体においては、支持体と感光層との間に下引き層を設けることができる。該下引き層は一般には樹脂を主成分とするが、これらの樹脂はその上に感光層を溶剤で塗布することを考えると、一般の有機溶剤に対して耐溶剤性の高い樹脂であることが望ましい。該樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、カゼイン、ポリアクリル酸ナトリウム等の水溶性樹脂、共重合ナイロン、メトキシメチル化ナイロン等のアルコール可溶性樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド−メラミン樹脂、エポキシ樹脂等、三次元網目構造を形成する硬化型樹脂等が挙げられる。また、前記下引き層には、モアレ防止、残留電位の低減等を図るため、例えば、酸化チタン、シリカ、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化インジウム等の金属酸化物の微粉末顔料を添加することができる。
【0094】
前記下引き層には、Al23を陽極酸化にて設けたものや、ポリパラキシリレン(パリレン)等の有機物やSiO2、SnO2、TiO2、ITO、CeO2等の無機物を真空薄膜作製法にて設けたものも良好に使用できる。このほかにも公知のものを用いることができる。
前記下引き層は、後述の感光層の如く適当な溶媒及び塗工法を用いて形成することができる。更に本発明の下引き層として、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、クロムカップリング剤等を使用することもできる。前記下引き層の厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、0〜5μmが好ましい。
また、下引き層は上記種類の組合せで2層以上の積層としても良い。
【0095】
<電荷発生層>
前記電荷発生層は、少なくとも電荷発生物質を含んでおり、バインダー樹脂更に必要に応じてその他の成分を含んでなる。前記電荷発生物質としては、無機系材料と有機系材料を用いることができる。
【0096】
無機系材料としては、例えば、結晶セレン、アモルファス−セレン、セレン−テルル、セレン−テルル−ハロゲン、セレン−ヒ素化合物、アモルファス−シリコン等が挙げられる。アモルファス−シリコンにおいては、ダングリングボンドを水素原子、ハロゲン原子でターミネートしたものや、ホウ素原子、リン原子等をドープしたものが良好に用いられる。
前記有機系材料としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、金属フタロシアニン、無金属フタロシアニン等のフタロシアニン系顔料、アズレニウム塩顔料、スクエアリック酸メチン顔料、カルバゾール骨格を有するアゾ顔料、トリフェニルアミン骨格を有するアゾ顔料、ジフェニルアミン骨格を有するアゾ顔料、ジベンゾチオフェン骨格を有するアゾ顔料、フルオレノン骨格を有するアゾ顔料、オキサジアゾール骨格を有するアゾ顔料、ビススチルベン骨格を有するアゾ顔料、ジスチリルオキサジアゾール骨格を有するアゾ顔料、ジスチリルカルバゾール骨格を有するアゾ顔料、ペリレン系顔料、アントラキノン系又は多環キノン系顔料、キノンイミン系顔料、ジフェニルメタン及びトリフェニルメタン系顔料、ベンゾキノン及びナフトキノン系顔料、シアニン及びアゾメチン系顔料、インジゴイド系顔料、ビスベンズイミダゾール系顔料などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0097】
前記バインダー樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリビニルケトン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾール樹脂、ポリアクリルアミド樹脂などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0098】
また、電荷発生層のバインダー樹脂としては、上述のバインダー樹脂の他に、電荷輸送機能を有する高分子電荷輸送物質、例えば、(1)アリールアミン骨格やベンジジン骨格やヒドラゾン骨格やカルバゾール骨格やスチルベン骨格やピラゾリン骨格等を有するポリカーボネート、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリシロキサン、アクリル樹脂などの高分子材料、(2)ポリシラン骨格を有する高分子材料などを用いることができる。
【0099】
前記(1)の具体的な例としては、特開平01−001728号公報、特開平06−234840号公報、特開平08−269183号公報、特開平09−227669号公報、特開平09−328539号公報等に記載の電荷輸送性高分子材料が挙げられる。
また、前記(2)の具体例としては、例えば、特開昭63−285552号公報、特開平05−19497号公報、特開平05−70595号公報、特開平10−73944号公報等に記載のポリシリレン重合体が例示される。
【0100】
また、前記電荷発生層には、低分子電荷輸送物質を含有させることができる。前記低分子電荷輸送物質には、正孔輸送物質と電子輸送物質とがある。
前記電子輸送物質としては、例えば、クロルアニル、ブロムアニル、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、2,4,7−トリニトロ−9−フルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロキサントン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、2,6,8−トリニトロ−4H−インデノ〔1,2−b〕チオフェン−4−オン、1,3,7−トリニトロジベンゾチオフェン−5,5−ジオキサイド、ジフェノキノン誘導体などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0101】
前記正孔輸送物質としては、例えば、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、モノアリールアミン誘導体、ジアリールアミン誘導体、トリアリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、α−フェニルスチルベン誘導体、ベンジジン誘導体、ジアリールメタン誘導体、トリアリールメタン誘導体、9−スチリルアントラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、ジビニルベンゼン誘導体、ヒドラゾン誘導体、インデン誘導体、ブタジェン誘導体、ピレン誘導体等、ビススチルベン誘導体、エナミン誘導体等、その他公知の材料が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0102】
前記電荷発生層を形成する方法としては、真空薄膜作製法と溶液分散系からのキャスティング法とが大きく挙げられる。
前記真空薄膜作製法としては、例えば、真空蒸着法、グロー放電分解法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、CVD法等が用いられる。
前記キャスティング法としては、前記無機系もしくは有機系電荷発生物質、必要に応じてバインダー樹脂を、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン、トルエン、ジクロロメタン、モノクロロベンゼン、ジクロロエタン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、アニソール、キシレン、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル、酢酸ブチル等の溶媒を用いてボールミル、アトライター、サンドミル、ビーズミル等により分散し、分散液を適度に希釈して塗布することにより、形成できる。また、必要に応じて、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル等のレベリング剤を添加することができる。塗布は、浸漬塗工法やスプレーコート、ビードコート、リングコート法などを用いて行うことができる。
【0103】
前記電荷発生層の厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.01〜5μmが好ましく、0.05〜2μmがより好ましい。
【0104】
<架橋型電荷輸送層を最表面に設けた感光体における電荷輸送層>
前記架橋型電荷輸送層を最表面に設けた感光体における電荷輸送層は、帯電電荷を保持させ、かつ、露光により電荷発生層で発生分離した電荷を移動させて保持していた帯電電荷と結合させることを目的とする層である。帯電電荷を保持させる目的を達成するためには、電気抵抗が高いことが要求される。また、保持していた帯電電荷で高い表面電位を得る目的を達成するためには、誘電率が小さく、かつ、電荷移動性がよいことが要求される。
前記電荷輸送層は、少なくとも電荷輸送物質を含んでなり、バインダー樹脂、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
【0105】
前記電荷輸送物質としては、正孔輸送物質、電子輸送物質、高分子電荷輸送物質、などが挙げられる。
前記電子輸送物質(電子受容性物質)としては、例えば、クロルアニル、ブロムアニル、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、2,4,7−トリニトロ−9−フルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロキサントン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、2,6,8−トリニトロ−4H−インデノ〔1,2−b〕チオフェン−4オン、1,3,7−トリニトロジベンゾチオフェン−5,5−ジオキサイド、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0106】
前記正孔輸送物質(電子供与性物質)としては、例えば、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、トリフェニルアミン誘導体、9−(p−ジエチルアミノスチリルアントラセン)、1,1−ビス−(4−ジベンジルアミノフェニル)プロパン、スチリルアントラセン、スチリルピラゾリン、フェニルヒドラゾン類、α−フェニルスチルベン誘導体、チアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、フェナジン誘導体、アクリジン誘導体、ベンゾフラン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、チオフェン誘導体などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0107】
前記高分子電荷輸送物質としては、以下のような構造を有するものが挙げられる。
(a)カルバゾール環を有する重合体としては、例えば、ポリ−N−ビニルカルバゾール、特開昭50−82056号公報、特開昭54−9632号公報、特開昭54−11737号公報、特開平4−175337号公報、特開平4−183719号公報、特開平6−234841号公報に記載の化合物等が例示される。
(b)ヒドラゾン構造を有する重合体としては、例えば、特開昭57−78402号公報、特開昭61−20953号公報、特開昭61−296358号公報、特開平1−134456号公報、特開平1−179164号公報、特開平3−180851号公報、特開平3−180852号公報、特開平3−50555号公報、特開平5−310904号公報、特開平6−234840号公報に記載の化合物等が例示される。
(c)ポリシリレン重合体としては、例えば、特開昭63−285552号公報、特開平1−88461号公報、特開平4−264130号公報、特開平4−264131号公報、特開平4−264132号公報、特開平4−264133号公報、特開平4−289867号公報に記載の化合物等が例示される。
(d)トリアリールアミン構造を有する重合体としては、例えば、N,N−ビス(4−メチルフェニル)−4−アミノポリスチレン、特開平1−134457号公報、特開平2−282264号公報、特開平2−304456号公報、特開平4−133065号公報、特開平4−133066号公報、特開平5−40350号公報、特開平5−202135号公報に記載の化合物等が例示される。
(e)その他の重合体としては、例えば、ニトロピレンのホルムアルデヒド縮重合体、特開昭51−73888号公報、特開昭56−150749号公報、特開平6−234836号公報、特開平6−234837号公報に記載の化合物等が例示される。
【0108】
また、前記高分子電荷輸送物質としては、上記以外にも、例えば、トリアリールアミン構造を有するポリカーボネート樹脂、トリアリールアミン構造を有するポリウレタン樹脂、トリアリールアミン構造を有するポリエステル樹脂、トリアリールアミン構造を有するポリエーテル樹脂、などが挙げられる。前記高分子電荷輸送物質としては、例えば、特開昭64−1728号公報、特開昭64−13061号公報、特開昭64−19049号公報、特開平4−11627号公報、特開平4−225014号公報、特開平4−230767号公報、特開平4−320420号公報、特開平5−232727号公報、特開平7−56374号公報、特開平9−127713号公報、特開平9−222740号公報、特開平9−265197号公報、特開平9−211877号公報、特開平9−304956号公報、などに記載の化合物が挙げられる。
【0109】
また、電子供与性基を有する重合体としては、上記重合体だけでなく、公知の単量体との共重合体、ブロック重合体、グラフト重合体、スターポリマー、更には、例えば、特開平3−109406号公報に開示されているような電子供与性基を有する架橋重合体などを用いることもできる。
【0110】
前記バインダー樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、アルキッド樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、フェノキシ樹脂などが用いられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0111】
なお、前記電荷輸送層は、架橋性のバインダー樹脂と架橋性の電荷輸送物質との共重合体を含むこともできる。
前記電荷輸送層は、これらの電荷輸送物質及びバインダー樹脂を適当な溶剤に溶解ないし分散し、これを塗布、乾燥することにより形成できる。前記電荷輸送層には、更に必要に応じて、前記電荷輸送物質及びバインダー樹脂以外に、可塑剤、酸化防止剤、レベリング剤等などの添加剤を適量添加することもできる。
【0112】
前記電荷輸送層の塗工に用いられる溶媒としては前記電荷発生層と同様なものが使用できるが、電荷輸送物質及び結着樹脂を良好に溶解するものが適している。これらの溶剤は単独で使用しても2種以上混合して使用してもよい。また、電荷輸送層の形成は同様な塗工法が可能である。また、必要により可塑剤、レベリング剤を添加することもできる。
【0113】
前記可塑剤としては、例えば、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等の一般樹脂の可塑剤として使用されているものがそのまま使用でき、その使用量は、前記結着樹脂100質量部に対して0〜30質量部程度が適当である。
前記レベリング剤としては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル等のシリコーンオイル類や、側鎖にパーフルオロアルキル基を有するポリマーあるいはオリゴマーが使用され、その使用量は、結着樹脂100質量部に対して0〜1質量部程度が適当である。
前記電荷輸送層の厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、5〜40μmが好ましく、10〜30μmがより好ましい。
【0114】
本発明の電子写真感光体においては、電荷輸送層と架橋型電荷輸送層の間に、架橋型電荷輸送層への電荷輸送層成分の混入を抑える又は両層間の接着性を改善する目的で中間層を設けることが可能である。
このため、前記中間層としては、架橋型電荷輸送層塗工液に対し不溶性又は難溶性であるものが適しており、一般にバインダー樹脂を主成分として用いる。これら樹脂としては、ポリアミド、アルコール可溶性ナイロン、水溶性ポリビニルブチラール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。中間層の形成方法としては、前記塗工法が採用される。なお、前記中間層の厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、0.05〜2μmが好適である。
【0115】
<各層への酸化防止剤の添加について>
本発明の電子写真感光体においては、耐環境性の改善のため、とりわけ、感度低下、残留電位の上昇を防止する目的で、前記架橋型電荷輸送層、前記電荷輸送層、前記電荷発生層、前記下引き層、前記中間層等の各層に酸化防止剤を添加することができる。
前記酸化防止剤としては、例えば、フェノール系化合物、パラフェニレンジアミン類、ハイドロキノン類、有機硫黄化合物類、有機燐化合物類、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0116】
前記フェノール系化合物としては、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス−(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス−(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス−[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ビス[3,3’−ビス(4’−ヒドロキシ−3’−t−ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコ−ルエステル、トコフェロール類、などが挙げられる。
【0117】
前記パラフェニレンジアミン類としては、例えば、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジメチル−N,N’−ジ−t−ブチル−p−フェニレンジアミン、などが挙げられる。
前記ハイドロキノン類としては、例えば、2,5−ジ−t−オクチルハイドロキノン、2,6−ジドデシルハイドロキノン、2−ドデシルハイドロキノン、2−ドデシル−5−クロロハイドロキノン、2−t−オクチル−5−メチルハイドロキノン、2−(2−オクタデセニル)−5−メチルハイドロキノン、などが挙げられる。
【0118】
前記有機硫黄化合物類としては、例えば、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジテトラデシル−3,3’−チオジプロピオネート、などが挙げられる。
前記有機燐化合物類としては、例えば、トリフェニルホスフィン、トリ(ノニルフェニル)ホスフィン、トリ(ジノニルフェニル)ホスフィン、トリクレジルホスフィン、トリ(2,4−ジブチルフェノキシ)ホスフィン、などが挙げられる。
なお、これら化合物は、ゴム、プラスチック、油脂類などの酸化防止剤として知られており、市販品を容易に入手できる。
前記酸化防止剤の添加量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、添加する層の総質量に対し0.01〜10質量%が好ましい。
【0119】
<画像形成装置>
次に、図面を用いて本発明の電子写真方法、並びに、画像形成装置を詳しく説明する。
図20は、本発明の電子写真プロセス、及び画像形成装置を説明するための概略図であり、下記のような例も本発明の範疇に属するものである。
感光体(10)は図20中の矢印の方向に回転し、感光体(10)の周りには、帯電部材(11)、画像露光部材(12)、現像部材(13)、転写部材(16)、クリーニング部材(17)、除電部材(18)等が配置される。クリーニング部材(17)や除電部材(18)が省略されることもある。
【0120】
画像形成装置の動作は基本的に以下のようになる。帯電部材(11)により、感光体(10)表面に対してほぼ均一に帯電が施される。続いて、画像露光部材(12)により、入力信号に対応した画像光書き込みが行われ、静電潜像が形成される。次に、現像部材(13)により、この静電潜像に現像が行われ、感光体表面にトナー像が形成される。形成されたトナー像は、搬送ローラ(14)により転写部位に送られた転写紙(15)に、転写部材により、トナー像が転写される。このトナー像は、図示しない定着装置により転写紙上に定着される。転写紙に転写されなかった一部のトナーは、クリーニング部材(17)によりクリーニングされる。ついで、感光体上に残存する電荷は、除電部材(18)により除電が行われ、次のサイクルに移行する。
【0121】
図20に示すように、感光体(10)はドラム状の形状を示しているが、シート状、エンドレスベルト状のものであってもよい。帯電部材(11)、転写部材(16)には、コロトロン、スコロトロン、固体帯電器(ソリッド・ステート・チャージャ)のほか、ローラ状の帯電部材あるいはブラシ状の帯電部材等が用いられ、公知の手段がすべて使用可能である。
【0122】
一方、画像露光部材(12)、除電部材(18)等の光源には、蛍光灯、タングステンランプ、ハロゲンランプ、水銀灯、ナトリウム灯、発光ダイオード(LED)、半導体レーザー(LD)、エレクトロルミネッセンス(EL)などの発光物全般を用いることができる。これらの中でも半導体レーザー(LD)や発光ダイオード(LED)が主に用いられる。
所望の波長域の光のみを照射するために、シャープカットフィルター、バンドパスフィルター、近赤外カットフィルター、ダイクロイックフィルター、干渉フィルター、色温度変換フィルターなどの各種フィルターを用いることもできる。
【0123】
光源等は、光照射を併用した転写工程、除電工程、クリーニング工程、あるいは前露光などの工程を設けることにより、感光体(10)に光が照射される。但し、除電工程における感光体(10)への露光は、感光体(10)に与える疲労の影響が大きく、特に帯電低下や残留電位の上昇を引き起こす場合がある。
したがって、露光による除電ではなく、帯電工程やクリーニング工程において逆バイアスを印加することによっても除電することが可能な場合もあり、感光体の高耐久化の面から有効な場合がある。
【0124】
電子写真感光体(10)に正(負)帯電を施し、画像露光を行なうと、感光体表面上には正(負)の静電潜像が形成される。これを負(正)極性のトナー(検電微粒子)で現像すれば、ポジ画像が得られるし、また正(負)極性のトナーで現像すれば、ネガ画像が得られる。かかる現像手段には、公知の方法が適用されるし、また、除電手段にも公知の方法が用いられる。
【0125】
感光体表面に付着する汚染物質の中でも帯電によって生成する放電物質やトナー中に含まれる外添剤等は、湿度の影響を拾いやすく異常画像の原因となっているが、このような異常画像の原因物質には、紙粉もその一つであり、それらが感光体に付着することによって、異常画像が発生しやすくなるだけでなく、耐摩耗性を低下させたり、偏摩耗を引き起こしたりする傾向が見られる。したがって、上記の理由により感光体と紙とが直接接触しない構成であることが高画質化の点からより好ましい。
【0126】
現像部材(13)により、感光体(10)上に現像されたトナーは、転写紙(15)に転写されるが、すべてが転写されるわけではなく、感光体(10)上に残存するトナーも生ずる。このようなトナーは、クリーニング部材(17)により、感光体(10)から除去される。
このクリーニング部材は、クリーニングブレードあるいはクリーニングブラシ等公知のものが用いられる。また、両者が併用されることもある。
【0127】
本発明による感光体は、高光感度ならびに高安定化を実現したことから小径感光体に適用できる。したがって、上記の感光体がより有効に用いられる画像形成装置あるいはその方式としては、複数色のトナーに対応した各々の現像部に対して、対応した複数の感光体を具備し、それによって並列処理を行なう、いわゆるタンデム方式の画像形成装置に極めて有効に使用される。上記タンデム方式の画像形成装置は、フルカラー印刷に必要とされるイエロー(C)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の少なくとも4色のトナー及びそれらを保持する現像部を配置し、更にそれらに対応した少なくとも4本の感光体を具備することによって、従来のフルカラー印刷が可能な画像形成装置に比べ極めて高速なフルカラー印刷を可能としている。
【0128】
図21は、本発明のタンデム方式のフルカラー電子写真装置を説明するための概略図であり、下記するような変形例も本発明の範疇に属するものである。
図21において、感光体(10C(シアン)),(10M(マゼンタ)),(10Y(イエロー)),(10K(ブラック))は、ドラム状の感光体(10)であり、これらの感光体(10C,10M,10Y,10K)は、図中の矢印方向に回転し、その周りに少なくとも回転順に帯電部材(11C,11M,11Y,11K)、現像部材(13C,13M,13Y,13K)、クリーニング部材(17C,17M,17Y,17K)が配置されている。
【0129】
この帯電部材(11C,11M,11Y,11K)と、現像部材(13C,13M,13Y,13K)との間の感光体(10)の外側より、図示しない露光部材からのレーザー光(12C,12M,12Y,12K)が照射され、感光体(10C,10M,10Y,10K)に静電潜像が形成されるようになっている。
そして、このような感光体(10C,10M,10Y,10K)を中心とした4つの画像形成要素(20C、20M、20Y、20K)が、転写材搬送手段である転写搬送ベルト(19)に沿って並置されている。
【0130】
転写搬送ベルト(19)は、各画像形成ユニット(20C、20M、20Y、20K)の現像部材(13C,13M,13Y,13K)と、クリーニング部材(17C,17M,17Y,17K)との間で感光体(10C,10M,10Y,10K)に当接しており、転写搬送ベルト(19)の感光体(10)側の裏側に当たる面(裏面)には転写バイアスを印加するための転写部材(16C,16M,16Y,16K)が配置されている。各画像形成要素(20C、20M、20Y、20K)は現像装置内部のトナーの色が異なることであり、その他は全て同様の構成となっている。
図21に示す構成のカラー電子写真装置において、画像形成動作は次のようにして行なわれる。まず、各画像形成要素(20C、20M、20Y、20K)において、感光体(10C,10M,10Y,10K)が、感光体10と連れ周り方向に回転する帯電部材(11C,11M,11Y,11K)により帯電され、次に、感光体(10)の外側に配置された露光部(図示せず)でレーザー光(12C,12M,12Y,12K)により、作成する各色の画像に対応した静電潜像が形成される。
【0131】
次に現像部材(13C,13M,13Y,13K)により潜像を現像してトナー像が形成される。現像部材(13C,13M,13Y,13K)は、それぞれC(シアン),M(マゼンタ),Y(イエロー),K(ブラック)のトナーで現像を行なう現像部材で、4つの感光体(10C,10M,10Y,10K)上で作られた各色のトナー像は転写ベルト(19)上で重ねられる。
転写紙(15)は給紙コロ(21)によりトレイから送り出され、一対のレジストローラ(22)で一旦停止し、上記感光体上への画像形成とタイミングを合わせて転写部材(23)に送られる。転写ベルト(19)上に保持されたトナー像は転写部材(23)に印加された転写バイアスと転写ベルト(19)との電位差から形成される電界により、転写紙(15)上に転写される。転写紙上に転写されたトナー像は、搬送されて、定着部材(24)により転写紙上にトナーが定着されて、図示しない排紙部に排紙される。また、転写部で転写されずに各感光体(10C,10M,10Y,10K)上に残った残留トナーは、それぞれのユニットに設けられたクリーニング部材(17C,17M,17Y,17K)で回収される。
【0132】
図21に示したような、中間転写方式は、フルカラー印刷が可能な画像形成装置に特に有効であり、複数のトナー像を一度中間転写体上に形成した後に紙に一度に転写することによって、色ズレの防止の制御もしやすく高画質化に対しても有効である。
中間転写体には、ドラム状やベルト状など種々の材質あるいは形状のものがあるが、本発明においては従来公知である中間転写体のいずれも使用することが可能であり、感光体の高耐久化あるいは高画質化に対し有効かつ有用である。
【0133】
なお、図21の例では画像形成要素は転写紙搬送方向上流側から下流側に向けて、Y(イエロー),M(マゼンタ),C(シアン),K(ブラック)の色の順で並んでいるが、この順番に限るものでは無く、色順は任意に設定されるものである。また、黒色のみの原稿を作成する際には、黒色以外の画像形成要素(20C,20M,20Y)が停止するような機構を設けることは本発明に特に有効に利用できる。
【0134】
以上に示すような画像形成手段は、複写装置、ファクシミリ、プリンタ内に固定して組み込まれていてもよいが、プロセスカートリッジの形でそれら装置内に組み込まれてもよい。
前記プロセスカートリッジとは、図22に示すように、感光体(10)を内蔵し、他に帯電部材(11)、画像露光部材(12)、現像部材(13)、転写部材(16)、クリーニング部材(17)、及び除電部材を含んだ1つの装置(部品)である。
【0135】
上記のタンデム方式による画像形成装置は、複数のトナー像を一度に転写できるため高速フルカラー印刷が実現される。
しかし、感光体が少なくとも4本を必要とすることから、装置の大型化が避けられず、また使用されるトナー量によっては、各々の感光体の摩耗量に差が生じ、それによって色の再現性が低下したり、異常画像が発生したりするなど多くの課題を有していた。
【0136】
それに対し、本発明による感光体は、高光感度ならびに高安定化が実現されたことにより小径感光体でも適用可能であり、かつ残留電位上昇や感度劣化等の影響が低減されたことから、4本の感光体の使用量が異なっていても、残留電位や感度の繰り返し使用経時における差が小さく、長期繰り返し使用しても色再現性に優れたフルカラー画像を得ることが可能となる。
【実施例】
【0137】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中において使用する「部」は、すべて質量部を表す。
【0138】
(実施例1)
直径60mmの表面研磨したアルミニウムシリンダー上に、下記組成の下引き層塗工液、下記組成の電荷発生層塗工液、及び下記組成の電荷輸送層塗工液を順次、浸積塗布し、乾燥することにより、厚み3.5μmの下引き層、厚み0.2μmの電荷発生層、及び厚み22μmの電荷輸送層を形成した。
【0139】
〔下引き層塗工液の組成〕
・アルキッド樹脂
(ベッコゾール1307−60−EL、大日本インキ化学工業株式会社製)・・・6部
・メラミン樹脂
(スーパーベッカミンG−821−60、大日本インキ化学工業株式会社製)
・・・4部
・酸化チタン
(CREL、石原産業株式会社製) ・・・50部
・メチルエチルケトン ・・・50部
【0140】
〔電荷発生層塗工液の組成〕
・ポリビニルブチラール(XYHL、UCC社製) ・・・0.5部
・シクロヘキサノン ・・・200部
・メチルエチルケトン ・・・80部
・下記合成のチタニルフタロシアニン ・・・1.5部
【0141】
(チタニルフタロシアニン結晶の合成)
合成は、特開2004−83859号公報に準じた。即ち、1、3−ジイミノイソインドリン292部とスルホラン1800部を混合し、窒素気流下でチタニウムテトラブトキシド204部を滴下する。滴下終了後、徐々に180℃まで昇温し、反応温度を170℃〜180℃の間に保ちながら5時間撹拌して反応を行った。反応終了後、放冷した後、析出物を濾過し、クロロホルムで粉体が青色になるまで洗浄し、次にメタノールで数回洗浄し、更に80℃の熱水で数回洗浄した後乾燥し、粗チタニルフタロシアニンを得た。粗チタニルフタロシアニンを20倍量の濃硫酸に溶解し、100倍量の氷水に撹拌しながら滴下し、析出した結晶を濾過し、次いで、洗浄液が中性になるまでイオン交換水(pH:7.0、比伝導度:1.0μS/cm)により水洗いを繰り返し(洗浄後のイオン交換水のpH値は6.8、比伝導度は2.6μS/cmであった)、チタニルフタロシアニン顔料のウェットケーキ(水ペースト)を得た。
【0142】
得られたこのウェットケーキ(水ペースト)40部をテトラヒドロフラン200部に投入し、室温下でホモミキサー(ケニス、MARKIIfモデル)により強烈に撹拌(2000rpm)し、ペーストの濃紺色の色が淡い青色に変化したら(撹拌開始後20分)、撹拌を停止し、直ちに減圧濾過を行った。濾過装置上で得られた結晶をテトラヒドロフランで洗浄し、顔料のウェットケーキを得た。これを減圧下(5mmHg)、70℃で2日間乾燥して、チタニルフタロシアニン結晶8.5部を得た。前記ウェットケーキの固形分濃度は、15質量%であった。結晶変換溶媒は、前記ウェットケーキに対する質量比で33倍の量を用いた。得られたチタニルフタロシアニン粉末を、下記の条件によりX線回折スペクトル測定したところ、CuKα線(波長1.542Å)に対するブラッグ角2θが27.2±0.2°に最大ピークと最低角7.3±0.2°にピークを有し、更に9.4±0.2°、9.6±0.2°、24.0±0.2°に主要なピークを有し、かつ7.3°のピークと9.4°のピークの間にピークを有さず、更に26.3°にピークを有さないチタニルフタロシアニン粉末であった。その結果を図23に示す。
【0143】
<X線回折スペクトル測定条件>
X線管球:Cu
電圧:50kV
電流:30mA
走査速度:2°/分
走査範囲:3°〜40°
時定数:2秒
【0144】
〔電荷輸送層塗工液の組成〕
・ビスフェノールZポリカーボネート
(パンライトTS−2050、帝人化成株式会社製) ・・・10部
・テトラヒドロフラン ・・・100部
・1質量%シリコーンオイルのテトラヒドロフラン溶液
(KF50−100CS、信越化学工業株式会社製) ・・・0.2部
・下記構造式で表される低分子電荷輸送物質 ・・・10部
【化23】

【0145】
続いて、下記無機フィラー、酸性の分散剤、有機溶媒を、アルミナボールを用いたボールミルによって24時間分散した後、これを、下記電荷輸送性化合物の芳香環にメチロール基を3個以上有する化合物と一般式(1)で表される電荷輸送性化合物、および酸触媒を有機溶媒に溶解した溶液に加え、混合分散することにより、下記組成の架橋型電荷輸送層塗工液を作製した。
得られた電荷輸送層上に、下記組成の架橋型電荷輸送層塗工液をスプレー塗工し、135℃で30分間乾燥を行い、厚み5.0μmの架橋型電荷輸送層を設けた。以上により、実施例1の電子写真感光体を作製した。
【0146】
〔架橋型電荷輸送層塗工液の組成〕
・メチロール基含有化合物A−1 ・・・11部
・一般式(1)で表される電荷輸送性化合物B−7 ・・・9部
・パラトルエンスルホン酸・一水和物(酸触媒) ・・・0.02部
・α−アルミナ
(粒径約0.3μm、比抵抗1010Ω・cm以上、pH8〜9、
「スミコランダムAA−03」住友化学工業社製) ・・・2部
・湿潤分散剤
(不飽和ポリカルボン酸ポリマー溶液、酸価約180mgKOH/g、固形分50%、
「BYK−P104」BYKケミー社製) ・・・0.09部
・テトラヒドロフラン ・・・150部
・シクロヘキサノン ・・・35部
【0147】
(実施例2)
実施例1において、架橋型電荷輸送層塗工液の一般式(1)で表される電荷輸送性化合物B−7をB−13とした以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
(実施例3)
実施例1において、架橋型電荷輸送層塗工液の一般式(1)で表される電荷輸送性化合物B−7をB−1とした以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
(実施例4)
実施例1において、架橋型電荷輸送層塗工液の一般式(1)で表される電荷輸送性化合物B−7をB−2とした以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0148】
(実施例5)
実施例1において、架橋型電荷輸送層塗工液のメチロール基含有化合物A−1をA−3とした以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
(実施例6)
実施例1において、架橋型電荷輸送層塗工液のメチロール基含有化合物A−1をA−5とした以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0149】
(実施例7)
実施例1において、架橋型電荷輸送層塗工液の酸性の分散剤と添加量を下記のとおり変更した以外は、実施例1と同様にして、電子写真感光体を作製した。
湿潤分散剤
(不飽和ポリカルボン酸ポリマー、酸価約365mgKOH/g、
「BYK−P105」BYKケミー社製) ・・・0.10部
【0150】
(実施例8)
実施例1において、架橋型電荷輸送層塗工液の酸性の分散剤の添加量を下記のとおり変更した以外は、実施例1と同様にして、電子写真感光体を作製した。
湿潤分散剤
(不飽和ポリカルボン酸ポリマー溶液、酸価約180mgKOH/g、固形分50%、
「BYK−P104」BYKケミー社製) ・・・0.40部
【0151】
(実施例9)
実施例1において、架橋型電荷輸送層塗工液の酸性の分散剤と添加量を下記のとおり変更した以外は、実施例1と同様にして、電子写真感光体を作製した。
不飽和ポリカルボン酸ポリマー
(酸価約650mgKOH/g、藤沢薬品社製) ・・・0.04部
【0152】
(実施例10)
実施例1において、架橋型電荷輸送層塗工液の無機フィラーおよびその添加量を下記のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして、電子写真感光体を作製した。
酸化チタン
(粒径約0.3μm、比抵抗1010Ω・cm以上、pH6〜7、「CR−97」
石原産業社製) ・・・2部
【0153】
(実施例11)
実施例1において、架橋型電荷輸送層塗工液の酸性の分散剤を下記のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして、電子写真感光体を作製した。
スチレンアクリル樹脂
(酸価約200mgKOH/g、「FB−1522」三菱レイヨン社製)
・・・0.09部
【0154】
(実施例12)
実施例1において、架橋型電荷輸送層塗工液の無機フィラーおよびその添加量を下記のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして、電子写真感光体を作製した。
シリカ
(粒径約0.1μm、比抵抗1010Ω・cm以上、pH2〜3、「KMPX100」
信越シリコーン社製) ・・・1.6部
【0155】
(実施例13)
実施例1において、架橋型電荷輸送層塗工液のメチロール基含有化合物A−1を前記メチロール基を3個有する電荷輸送性化合物Cとした以外は、実施例1と同様にして、電子写真感光体を作製した。
(実施例14)
実施例1において、架橋型電荷輸送層塗工液のメチロール基含有化合物A−1を前記メチロール基を4個有する電荷輸送性化合物Dとした以外は、実施例1と同様にして、電子写真感光体を作製した。
【0156】
(比較例1)
実施例1において架橋型電荷輸送層塗工液を下記のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
〔架橋型電荷輸送層塗工液の組成〕
・メチロール基含有化合物A−1 ・・・10部
・パラトルエンスルホン酸 ・・・0.02部
・α−アルミナ
(粒径約0.3μm、比抵抗1010Ω・cm以上、pH8〜9、
「スミコランダムAA−03」住友化学工業社製) ・・・1部
・湿潤分散剤
(不飽和ポリカルボン酸ポリマー溶液、酸価約180mgKOH/g、固形分50%、
「BYK−P104」BYKケミー社製) ・・・0.05部
・テトラヒドロフラン ・・・95部
・シクロヘキサノン ・・・5部
【0157】
(比較例2)
実施例1において、架橋型電荷輸送層塗工液の酸性の分散剤を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、電子写真感光体を作製した。
【0158】
(比較例3)
実施例1において架橋型電荷輸送層塗工液を以下のように変えて実施した他は同様にして電子写真感光体を作製した。
〔架橋型電荷輸送層塗工液の組成〕
・メチロール基含有化合物A−1 ・・・11部
・一般式(1)で表される電荷輸送性化合物B−7 ・・・9部
・パラトルエンスルホン酸・一水和物(酸触媒) ・・・0.02部
・テトラヒドロフラン ・・・180部
【0159】
(比較例4)
実施例1において、架橋型電荷輸送層塗工液の一般式(1)で表される電荷輸送性化合物B−7を下記構造の電荷輸送性化合物Eとした以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【化24】

【0160】
(比較例5)
実施例1において架橋型電荷輸送層塗工液を下記のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
〔架橋型電荷輸送層塗工液の組成〕
・メチロール基含有化合物A−1 ・・・9.5部
・グアナミン樹脂ニカラックBL−60
(日本カーバイド社製) ・・・0.3部
・酸触媒 Nacure2500
(楠本化成社製) ・・・0.1部
・α−アルミナAA−03(住友化学工業社製) ・・・1.0部
・湿潤分散剤BYK−P104(BYKケミー社製) ・・・0.07部
・1−メトキシ−2−プロパノール ・・・100部
【0161】
(比較例6)
実施例1において、架橋型電荷輸送層塗工液のメチロール基含有化合物A−1を、下記構造のヒドロキシエチル基を4個有する電荷輸送性化合物Fに変更した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【化25】

【0162】
(比較例7)
実施例1において、架橋型電荷輸送層塗工液のメチロール基含有化合物A−1を、下記構造の芳香環にメチロール基を2個有する電荷輸送性化合物Gに変更した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【化26】

【0163】
<溶解性試験>
架橋型電荷輸送層に3次元架橋膜が形成されたかどうか調べるために、テトラヒドロフランで溶解性試験を行った。溶解性試験はテトラヒドロフランを浸した綿棒で感光体表面を擦り、変形の有無を目視で観察した。擦った後の痕跡が全く見られない場合を「不溶」、膜は残っているが痕跡の残る場合を「一部溶解」、膜が溶けてしまう場合を「溶解」として評価した。結果を表3に示す。
なお、酸性の分散剤を添加しなかった比較例2においては、無機フィラーの凝集が強く、塗工液を作製後、すみやかに無機フィラーが沈降してしまったため、塗工できなかった。
【0164】
【表3】

【0165】
本発明の、芳香環を有する電荷輸送性化合物の芳香環にメチロール基を3個以上有する化合物と、一般式(1)で表される電荷輸送性化合物を用いた実施例1〜14は、良好な反応性を示し、テトラヒドロフランに不溶な膜となった。一般式(1)で表される電荷輸送性化合物を添加しない比較例1、フィラーと酸性の分散剤を添加しない比較例3、また、一般式(1)で表される電荷輸送性化合物の代わりにグアナミン樹脂を添加した比較例5も、同様にテトラヒドロフランに不溶な膜となった。
一方、電荷輸送性化合物Eとの硬化膜である比較例4は、一部溶解し、架橋密度の高い膜が得られていないことがわかった。また、ヒドロキシエチル基を4個有する電荷輸送性化合物を硬化させた比較例6、および、メチロール基を2個有する電荷輸送性化合物Gを硬化させた比較例7は溶解した。
【0166】
(比較例8)
実施例1において、架橋型電荷輸送層層を設けない他は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0167】
(比較例9)
実施例1において架橋型電荷輸送層塗工液を以下のように変えて実施した他は同様にして電子写真感光体を作製した。
〔保護層塗工液の組成〕
・ポリカーボネート(Zポリカ、帝人化成社製) ・・・10部
・下記構造式で表される電荷輸送物質 ・・・8部
【化27】

・α−アルミナAA−03(住友化学工業社製) ・・・2.0部
・湿潤分散剤
(不飽和ポリカルボン酸ポリマー溶液BYK−P104(酸価180mgKOH/g、
固形分50%、BYKケミー社製) ・・・0.1部
・テトラヒドロフラン ・・・370部
・シクロヘキサノン ・・・110部
・下記構造の酸化防止剤 ・・・0.2部
【化28】

【0168】
(比較例10)
比較例9において、湿潤分散剤の添加量を下記のとおり変更した以外は、比較例9と同様に電子写真感光体を作製した。
湿潤分散剤
(酸価180mgKOH/g、固形分50%、「BYK−P104」BYKケミー社製)
・・・0.4部
【0169】
(比較例11)
比較例9において、湿潤分散剤とその添加量を下記のとおり変更した以外は、比較例9と同様に電子写真感光体を作製した。
不飽和ポリカルボン酸ポリマー(酸価650mgKOH/g、藤沢化学社製)
・・・0.05部
【0170】
<通紙試験>
実施例1〜14、および、比較例1、3〜5、8〜11の各電子写真感光体のうち、同様に作製したこれらの感光体及びシリカ外添剤入りトナー(体積平均粒径=9.5μm、平均円形度=0.91)を用いて、以下のようにして、A4サイズ10万枚の通紙試験を実施した。
まず、前記感光体をプロセスカートリッジに装着し、タンデム方式のフルカラーデジタル複写機imagio MPC7500(リコー社製)の改造機にて、書き込み率7%チャート(A4全面に対して、画像面積として7%相当の文字が平均的に書かれている)を用い、通算10万枚印刷する耐刷試験を行った。その際、初期及び耐刷試験後の露光部電位(VL)、画像品質及び摩耗量について評価を行った。さらに、10万枚複写後に黒ベタ画像を出力し、任意の10cm×10cmのエリア内における白斑点の個数を数え、以下の判定基準によってランク付けを行った。結果を表4に示す。
なお、前記溶解性試験にて溶解した比較例6及び7の電子写真感光体は、強固な3次架橋膜を有していないことが明瞭である。そのため、長期にわたって満足する耐摩耗性を得ることは困難であり、評価外とした。
【0171】
[白斑点状の異常画像ランク]
◎:白斑点がほとんど見られない(5個以下)
○:白斑点が多少見られる(6個〜20個)
△:白斑点が見られる(20個〜50個)
×:白斑点が非常に多く、カウントできない(50個以上)
【0172】
【表4】

【0173】
表4の結果から、本発明の電子写真感光体は、耐摩耗性が高く、明部電位の上昇が少ない優れた電気的特性を有していることがわかった。さらに、シリカの刺さりによって引き起こされる白斑点が発生しにくく、長期にわたって高画質な画像出力を維持できることがわかった。
酸性の分散剤として、ポリカルボン酸化合物以外を用いた実施例11においては、明部電位が高くなる傾向が見られた。また、化合物Cを用いた実施例13においては、画像には問題ない範囲であるが、僅かに明部電位が高くなり、白斑点が多少見られた。化合物Cは、一般式(2)の芳香環を有する電荷輸送性化合物の芳香環にメチロール基を3個以上有する化合物に比べ、分子量あたりのメチロール基が多く架橋密度が高くなりやすいが、そのために分子運動性が低下し、電気特性の低下に繋がったと考えられる。また、一般式(2)のメチロール化合物のように連結基を持たないことから分子の構造歪みが緩和されにくく、シリカが刺さりやすくなったと考えられる。
グアナミン樹脂を添加した比較例5は、耐摩耗性に優れ、白斑点数も少ないが、明部電位が高くなった。また、無機フィラーが含有されていてもバインダー樹脂として熱可塑性樹脂であるポリカーボネートを用いた比較例9〜11は、感光体の摩耗量が大きく、耐摩耗性が本発明の感光体に比べて劣っていることがわかった。
【0174】
<耐ガス性評価>
次に、10万枚の耐刷試験後の電子写真感光体を、NOxガス暴露器にNOガス5ppm/NO2ガス20ppmの条件で48時間暴露した後、出力画像の評価を行い、耐ガス性を評価した。耐ガス性評価は下記指標に従い、判定した。
[判定基準]
良好:画像劣化がほとんどない
解像度やや低下:画質劣化が若干認められるものの、問題ないレベル
解像度低下:明らかに画像劣化がみられる
画像ボケ発生:画像の判別が困難
【0175】
なお、地汚れが発生した比較例8については評価を取り止めとした。結果を表5に示す。
【0176】
【表5】

【0177】
NOxなどの酸化性ガスの暴露においても、本発明の電子写真感光体は画像ボケが発生しにくいことがわかった。しかしながら、酸性の無機フィラーであるシリカを用いた実施例12では、解像度が低下する傾向にあった。また、実施例14の、電荷輸送性化合物の芳香環にメチロール基を4つ有し、2つのトリフェニルアミン構造が共役で連結している化合物Dを用いた3次元架橋表面層を有する電子写真感光体は、耐摩耗性が高く、明部電位も低いものの、耐ガス性においては解像度の低下が見られた。2つのトリフェニルアミン構造が共役で連結している電荷輸送性化合物は、酸化電位が小さく、安定性に劣ると考えられる。
【0178】
無機フィラーおよび分散剤を含有しない比較例3において、耐ガス性評価にて解像度低下が見られる。これは、膜に残存する酸触媒に由来するものと考えられ、本発明においては、塩基性の無機フィラーがそれを吸着し、効率的に中和することにより、解像度低下が抑制されているものと推測される。また、一般式(1)で表される電荷輸送性化合物を含有しない比較例1も、解像度低下が見られた。
保護層のバインダー樹脂として、熱可塑性樹脂を用いた比較例9〜11においては、高酸価の分散剤を用いたり、分散剤の添加量を増量すると画像ボケが発生した。
【0179】
以上より、本発明の芳香環を有する電荷輸送性化合物の芳香環にメチロール基を3個以上有する化合物と、前記一般式(1)で表される電荷輸送性化合物と、を酸触媒により重合した3次元架橋膜からなり、且つ、該表面層に無機フィラーおよび酸性の分散剤を含有することを特徴とする電子写真感光体を用いた画像形成方法、及び画像形成装置、及び画像形成装置用プロセスカートリッジは、繰り返し使用時の耐摩耗性が極めて高く、かつ優れた電気特性および耐ガス性を有し、シリカ等の非常に硬度の高いトナー中の外添剤が感体に刺さることを防止することで、白斑点状の画像欠陥を抑制し、長期に亘って高画質な画像出力を維持することができることがわかった。
【符号の説明】
【0180】
1:導電性支持体
2:電荷発生層
3:電荷輸送層
4:下引き層
5:架橋型電荷輸送層
6:電荷発生物質と電荷輸送物質を両方含有する単層感光層
7:単層感光層用保護層
10、10Y、10M、10C、10K 感光体
11、11Y、11M、11C、11K 帯電部材
12、12Y、12M、12C、13K 画像露光部材
13、13Y、13M、13C、13K 現像部材
14 搬送ローラ
15 転写紙
16、16Y、16M、16C、16K 転写部材
17、17Y、17M、17C、17K クリーニング部材
18 除電部材
20Y、20M、20C、20K 画像形成要素
21 給紙コロ
22 レジストローラ
23 転写部材(二次転写部材)
24 定着部材
【先行技術文献】
【特許文献】
【0181】
【特許文献1】特開昭64−1728号公報
【特許文献2】特開平4−281461号公報
【特許文献3】特許第3262488号公報
【特許文献4】特開平6−118681号公報
【特許文献5】特開2000−66425号公報
【特許文献6】特開2007−293197号公報
【特許文献7】特開2009−229549号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性支持体上に、少なくとも感光層を有する電子写真感光体において、該感光層の最表面層が、芳香環を有する電荷輸送性化合物の芳香環にメチロール基を3個以上有する化合物と、下記一般式(1)で表される電荷輸送性化合物と、を酸触媒により重合した3次元架橋膜からなり、さらに、該最表面層に無機フィラーおよび酸性の分散剤を含有することを特徴とする電子写真感光体。
【化1】

(式中、Ar1、Ar2は無置換のフェニル基または無置換のナフチル基を表し、Ar1、Ar2はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。R1は、メチル基を表し、aは0〜5の整数を表す。)
【請求項2】
前記酸性の分散剤がポリカルボン酸化合物であることを特徴とする請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
前記無機フィラーが金属酸化物であることを特徴とする請求項1または2に記載の電子写真感光体。
【請求項4】
前記金属酸化物がアルミナ、酸化チタンのいずれかであることを特徴とする請求項3に記載の電子写真感光体。
【請求項5】
前記芳香環を有する電荷輸送性化合物の芳香環にメチロール基を3個以上有する化合物が、下記一般式(2)で表されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電子写真感光体。
【化2】

(式中、Xはメチレン基、エチレン基、又は酸素原子を表す。)
【請求項6】
前記一般式(1)で表される電荷輸送性化合物が、下記一般式(3)で表されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電子写真感光体。
【化3】

(式中、Ar3は無置換のフェニル基または無置換のナフチル基を表す。R2は、メチル基を表し、bは0〜5の整数を表す。)
【請求項7】
支持体と、該支持体上に少なくとも電荷発生層、電荷輸送層、及び架橋型電荷輸送層をこの順に有してなり、該架橋型電荷輸送層が、最表面層であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の電子写真感光体。
【請求項8】
電子写真感光体表面を帯電させる帯電工程と、帯電された電子写真感光体表面を露光して静電潜像を形成する露光工程と、前記静電潜像をトナーを用いて現像して可視像を形成する現像工程と、前記可視像を記録媒体に転写する転写工程と、前記記録媒体に転写された転写像を定着させる定着工程とを少なくとも有する画像形成方法であって、前記電子写真感光体が、請求項1〜7のいずれかに記載の電子写真感光体であることを特徴とする画像形成方法。
【請求項9】
電子写真感光体と、該電子写真感光体表面を帯電させる帯電手段と、帯電された電子写真感光体表面を露光して静電潜像を形成する露光手段と、前記静電潜像をトナーを用いて現像して可視像を形成する現像手段と、前記可視像を記録媒体に転写する転写手段と、前記記録媒体に転写された転写像を定着させる定着手段とを少なくとも有する画像形成装置であって、前記電子写真感光体が、請求項1〜7のいずれかに記載の電子写真感光体であることを特徴とする画像形成装置。
【請求項10】
電子写真感光体と、帯電手段、露光手段、現像手段、転写手段、クリーニング手段及び除電手段から選択される少なくとも1つの手段を有し、画像形成装置本体に着脱可能であるプロセスカートリッジにおいて、前記電子写真感光体が、請求項1〜7のいずれかに記載の電子写真感光体であることを特徴とするプロセスカートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2013−54088(P2013−54088A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190386(P2011−190386)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】