説明

電子写真感光体、電子写真感光体の製造方法、および画像形成装置

【課題】表面層を有する感光体の潤滑剤の塗布性の改良で高寿命化しプリントコスト低減をする事。
【解決手段】感光層と、非交差の溝を有する表面層を備え、溝は、幅60〜400μm、深さ0.2〜2μmで、深さの標準偏差が任意4カ所の平均値に対し1/10以下で、溝が主・副走査方向に対し斜行して形成され、溝で区画された領域は(1)表面粗さ輪郭形状測定機で測定し一次元データ配列を作成し(2)これを多重解像度解析によりウェーブレット変換し高周波乃至低周波数成分の6個に分離し(3)該6個の中で最低周波数成分の一次元データ配列に対し、配列数を1/10〜1/100にし一次元データ配列を作成し(4)多重解像度解析によってウェーブレット変換し高周波乃至低周波数成分の追加の6個に分離し(5)前記(2)と(4)で得られた12個の周波数成分個々の算術平均粗さについてWRa(LHH)/WRa(LMH)が2.0〜2.5である事。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真感光体および該電子写真感光体の製造方法、評価方法、並びに画像形成装置に関する。
また、本発明の画像形成装置は、複写機、ファクシミリ、レーザープリンター、ダイレクトデジタル製版機等に応用される。
【背景技術】
【0002】
複写機やレーザープリンターなどに応用される電子写真感光体は、かつてはセレン、酸化亜鉛、硫化カドミウム等の無機感光体が主流であったが、現在では、地球環境への負荷低減、低コスト化、および設計自由度の高さで無機感光体よりも有利な有機感光体(OPC)が主流になっている。現在、有機感光体は電子写真感光体総生産量の100%に肉薄する割合で利用されている。この有機感光体は、近年の地球環境保全の高まりを受けてサプライ製品(使い捨てされる製品)から機械部品への転換が求められている。
有機感光体の高耐久化は従来種々の試みがなされてきた。現在では架橋樹脂膜の感光体表面への成膜(例えば、特許文献1の特開2000−66424号公報)とゾル−ゲル硬化膜の感光体表面への成膜(例えば特許文献2の特開2000−171990号公報)が特に有望視されている。前者は電荷輸送性成分を配合してもワレやクラックが生じにくく生産上歩留まりが低減できるメリットを有する。なかでもラジカル重合性アクリル樹脂は強靱で感度特性の良好な感光体が得られやすく有利である。これらの架橋構造をとる二種の方策は複数の化学結合によって塗膜が形成されるため、塗膜がストレスを受けて化学結合の一部が切断しても直ちに摩耗へ進展することがない。
【0003】
最近、電子写真に用いられる現像用トナーは製造面のエコロジー性や高画質化に有利であるため、重合トナー(球形トナー)を使用することが主流となりつつある。
この重合トナー(球形トナー)は角張ったところがない球形状のトナーで、懸濁重合法、乳化凝集重合法、エステル伸長重合法、溶解懸濁法などの化学的製造法で製造される。重合トナーは製造方法によって形状に違いが有り、画像形成装置に使用される重合トナーは真球より少し形状をいびつにしている。一般的な特性値は平均円形度が0.95〜0.99、形状係数SF−1、SF−2は110〜140である。なお、平均円形度が1.0、形状係数SF−1、SF−2が100の時、真球を表す。
重合トナーは形状が揃っているため、保持する電荷も比較的揃いやすい。また、ワックス(5〜10%)などを内添させやすい。したがって、静電潜像からのはみ出しが殆どないため現像性が良く、シャープ性、解像度、階調性が優れており、転写効率も良い。また、定着時のオイルが不要等多くの利点がある。反面、この種のトナーはクリーニング性が困難であることや、オイルレス化に伴う外添剤を増量する必要の結果、感光体上にメダカ形状のフィルミングを来しやすいなどの不都合を有する。この対策に多くの検討がなされ、特許文献等に多数の提案が見られる。
重合トナーのクリーニング性を成立するために感光体は概して、その表面の摩擦係数が低くかつ繰り返し使用時も持続することが望まれている。例えば、感光体表面にステアリン酸亜鉛などの固形潤滑剤を塗布することで重合トナーのクリーニング性は改良されることが知られている(非特許文献1;百武信男,丸山彰久,重崎聡,奥山裕江,Japan Hardcopy Fall Meeting,24−27,2001)。
【0004】
上記のラジカル重合性アクリル架橋膜を積層する高耐久な電子写真感光体にステアリン酸亜鉛の様な固形潤滑剤を外部供給した場合、感光体表面に固形潤滑剤が十分に受容できない不具合がある。この種の感光体は平滑なものが多い。よって、この受容性の不良は感光体の表面平滑性が原因していると考えられる。
【0005】
これに対し、特許文献3の特開2007−121908号公報では潜像を担持する感光層の表面に潤滑剤被膜が形成された像担持体(感光体)について、潤滑剤被膜が、(A)脂肪酸金属塩と、(B)メラミンシアヌレート、ポリテトラフッ化エチレン、二硫化モリブデン、及び、脂肪酸アミドから選ばれる少なくとも1種の潤滑性物質からなる潤滑性粉体材料との混合物で構成されている。注目するべきは前記感光層と前記潤滑剤被膜との間に、表面に多数の凹凸を有する表面保護層が設けられていることである。特許文献1の標識番号0068に記述の通り、表面形状に凹凸を形成することで潤滑剤被膜の接着力を向上させたり、クリーニングブレードによる潤滑剤の削れ量を低減させたりすることが期待される。
しかし、表面凹凸の形状は測定長さ10μmの測定において、10nm<Rz<5000nm以外の説明が無いため、潤滑剤被膜の形成に対して感光体表面が平滑である不具合は理解されるものの具体的に如何なる凹凸形状を付与すればよいのか不明といえる。例えば表面粗さのRzは同一であっても、Rzが平均値として算出されるため多様な形状をとり得ることができる。このため実際的な定義とは言えない側面がある。また、潤滑剤と感光体の接着力を高める一方で劣化した潤滑剤の除去性が問題となりかねない。
【0006】
特許文献4の特開昭57−94772号公報では低表面エネルギー物質からなる潤滑剤を直接、或いは前記潤滑剤を乾式現像剤中に含有せしめて間接的に有機感光体表面に施すことにより、クリーニング効果を向上せしめる電子写真法において使用される前記有機電子写真感光体の表面を、直径13〜20μmのタングステン、モリブデン、ニッケル及びステンレススチールから選択される金属製ワイヤーで処理して前記表面に細線状のすじ溝を多数形成せしめることを特徴とする有機電子写真感光体の表面処理方法が提案されている。
感光体表面にすじ溝を形成する手法が金属製のワイヤーで感光体表面にキズを形成させるもので加工時の削り粉の処理や形状が成り行きによって形成されるため同一の表面形状を製造が困難と推認される。また、細線状のピッチが4μm〜9μmですりガラス状の凹凸ピッチであることから、感光体へ入力される潤滑剤が余程小径化されなければ、潤滑剤と感光体との接触が線接触となり、潤滑剤の感光体に対する付着力が不十分となりかねない。すなわち、潤滑剤が付着しがたい表面となりかねない。
【0007】
また、支持体上に光導電物質を付着形成させた感光体において、前記光導電物質層の表面に存在する微小凹部に選定材料を充填させ前記表面を平坦化させる考えが特許文献5の特開昭59−013241号公報に開示されている。
感光体表面に凹形状を設け、溝に潤滑剤の出し入れが可能になれば見かけ上、感光体は高潤滑性が持続されることが期待される。この特許文献5によれば、凹部に起因する異常画像を防止する為には凹部を形成する感光体表面と同程度の電気抵抗を有する物質をその凹部に埋入させることが提案されている。見方を変えると、電荷輸送層に一般に用いられるポリカーボネートと電荷輸送材料との固溶体のような高抵抗体に凹部を形成すると静電特性面の凹形状の影響を受けやすく異常画像を来しやすい。このため、その防止策が必要となる。有機感光体はこのような異常画像を防止するために強靱化を図る開発が営々と行われてきた経緯がある。
以上の特許文献3から特許文献5は特別な感光体表面形状と潤滑剤の組み合わせに係る従来技術である。
【0008】
ところで、電子写真プロセスには帯電工程によって潤滑剤が劣化することが知られている。劣化した潤滑剤が感光体表面に不必要に滞留すると感光体の駆動トルクを増大させたり、クリーニングブレードなどの感光体と摺擦する部材の故障の原因となったりする。感光体に供給される潤滑剤は感光体表面の入力と出力の適当な循環が必要であるが、従来技術はこの循環効率を高める技術としては不十分といえる。
【0009】
特許文献6の特開2006−11047号公報は、強靱化した感光体表面に互いに交差する無数の線状傷が均一に形成されていることを特徴とする電子写真感光体が開示されている。特許文献6の発明は元々、異常画像の防止を目的に表面加工を施す技術であり、目的の異なる潤滑剤の塗布性向上にそのまま展開することはできない。なぜなら、線状傷の幅の平均値が10μm以下であるため、特許文献4と同様、潤滑剤の定着性が不十分となることが懸念されるためである。また、特許文献6では、強靱な感光体表面を設けても感光体が程度差こそあれ、電子写真装置に供した場合に摩耗するプロセスで使用することから、電子写真装置内に表面形状の再生装置を設ける等の併用が望まれる方策が記されている。
【0010】
感光体表面に特別なパターン形状を施す手段は古くから知られてきた。たとえば特許文献7の特開昭51−129237号公報では金網や無数の小孔を穿った金属板、地紋状に打ち抜いた金属板、または照射パターンに対応した金属枠を透して電離性放射線を部分的に電離性放射線硬化性樹脂塗膜面に照射する方法がある。この場合、未硬化部分を溶解させる手間が必要となる。またマスク部へ電離性放射線が回りこまないような相応の設備が必要となる。
【0011】
特許文献8の特開昭63−106757号公報では感光体最表面にλ/4(但しλは干渉性の露光波長)以上の深さの凹部が複数設ける感光体のパターニングが提案されている。特定の周期で凹を形成することでモワレ異常画像の抑制を目的としている。単にモワレを防止するため、溝の深さのバラツキに対して注意されていない。また、パターン形成が比較的摩耗しやすいポリカーボネートへの形成であったり、金属ブラシによる形成であったりするため、持続性やパターニングの均質化に対しては不十分と言える。
【0012】
以上の特許文献6から特許文献8は感光体表面に特別な形状を形成する代表的な従来技術である。感光体表面の創傷による形状形成の場合、同一のパターン形成が難しい。更に溝で区画される面積を大きくする均質なパターン形成も困難である。
【0013】
特許文献9の特開昭60−202446号公報にはワンショットカラー電子写真用感光体として、3原色のモザイクフィルターを感光体上にインクジェットによって形成する方策が提案されている。モザイク模様は100μm幅1μm厚のラインパターンであると説明されている。インクジェット方式を応用する特別なコーティングの考え方が示されている。インクジェットによるコーティングを施す場合、下地とインクを適切に調整できなければ、インクジェットヘッドから液滴を吐出できなかったり、液滴が下地ではじいたりすることがある。インクジェット方式による塗布を実現することは簡単ではない。特に難溶の硬化性樹脂が下地で、表面にシリコーンオイルが付着する場合は後者のはじきが著しい。
【0014】
特許文献10の特開2006−337687号公報はインクジェット方式を用いる保護層形成について開示された技術である。2液が混合すると反応が進行してしまう熱硬化性塗料をインクジェット方式による塗工を用いることで塗料のポットライフの向上と製造効率の高さが示されている。薄膜形成で十分な保護層の成膜であることと高分子量体の含まれないモノマー成分だけで塗料を作製できるため、インクジェット方式による塗工が可能になる。
【0015】
特許文献11の特開2008−299261号公報は特許文献10と同じく硬化性樹脂を成膜する場合にインクジェット方式を用いる従来技術である。硬化させる2液を別々の液滴吐出ヘッドから噴射することで塗料のポットライフの向上が図れる。また、インクジェット方式を利用して2液の吐出量を制御することで、膜中で2液の含有比率を傾斜させる等の制御が実現できる。しかしインクジェットヘッドからの吐出を安定にする必要があるため、多分に空打ちを要する。このため、塗布効率は必ずしも高くならないという課題がある。
【0016】
以上の特許文献9から特許文献11はインクジェット方式による感光体表面の成膜技術に係る従来技術である。インクジェット方式による感光体表面層の製造に対して可能性を提示するものの従来技術はインクジェットヘッドから吐出される液滴のはじきや液滴そのものの吐出安定性について課題が残る。
【0017】
特許文献12の特許3938209号公報では、請求項1として、円筒状支持体および該円筒状支持体上に設けられた有機感光層を有する円筒状の電子写真感光体において、該電子写真感光体の周面がディンプル形状の凹部を複数有し、該電子写真感光体の周面の周方向に掃引して測定した十点平均粗さRzjis(A)が0.3〜2.5μmであり、該電子写真感光体の周面の母線方向に掃引して測定した十点平均粗さRzjis(B)が0.3〜2.5μmであり、該電子写真感光体の周面の周方向に掃引して測定した凹凸の平均間隔RSm(C)が5〜120μmであり、該電子写真感光体の周面の母線方向に掃引して測定した凹凸の平均間隔RSm(D)が5〜120μmであり、該凹凸の平均間隔RSm(D)の該凹凸の平均間隔RSm(C)に対する比の値(D/C)が0.5〜1.5であり、該ディンプル形状の凹部のなかで最長径が1〜50μmの範囲にあってかつ深さが0.1〜2.5μmの範囲にあるディンプル形状の凹部の個数が、該電子写真感光体の周面の10000μmあたり5〜50個であることを特徴とする電子写真感光体を示している。また、請求項2として、前記十点平均粗さRzjis(A)が0.4〜2.0μmであり、前記十点平均粗さRzjis(B)が0.4〜2.0μmであり、前記凹凸の平均間隔RSm(C)が10〜100μmであり、前記凹凸の平均間隔RSm(D)が10〜100μmであり、前記凹凸の平均間隔RSm(D)の前記凹凸の平均間隔RSm(C)に対する比の値(D/C)が0.8〜1.2である請求項1に記載の電子写真感光体を示している。また、請求項3として、前記電子写真感光体の周面の最大山高さRp(F)が0.6μm以下であり、前記電子写真感光体の周面の最大谷深さRv(E)の該最大山高さRp(F)に対する比の値(E/F)が1.2以上である請求項1または2に記載の電子写真感光体を示している。
【0018】
同様に、特許文献13の特許3938210号公報では、支持体および該支持体上に設けられた有機感光層を有する電子写真感光体において、該電子写真感光体の表面層の表面にディンプル形状の凹部が複数形成されており、該ディンプル形状の凹部のなかで最長径が1〜50μmの範囲にあってかつ深さが0.1μm以上であってかつ体積が1μm以上であるディンプル形状の凹部の個数が、該電子写真感光体の表面層の表面100μm四方当たり5〜50個であり、該表面層と該表面層の直下の層との間の界面に該表面層の表面に形成されているディンプル形状の凹部に対応する凹部が複数形成されていることを特徴とする電子写真感光体を示している。
【0019】
特許文献14の特開2005−345788号公報では、導電性支持体に感光層を設け、表面が露光されて静電潜像が形成される複数の像担持体と、該各複数の像担持体に対応して設けられた、前記静電潜像を現像剤にて現像する複数の現像装置と、前記複数の像担持体に対応して設けられた像担持体表面を摺擦して現像剤を除去するクリーニング手段と、を有し、該複数の現像装置のうち少なくとも一対の現像装置が同一色相かつ明度が異なる現像剤を収容する画像形成装置において、該各像担持体に対応する前記現像装置に収容される現像剤の明度に応じて、初期状態における表面の十点平均粗さRzが調整されることを特徴とする画像形成装置を示している。
【0020】
特許文献15の特開2004−258588号公報では、十点平均粗さRzが0.1μm以上1.5μm以下、もしくは最大高さRmaxが2.5μm以下の表面粗度を有し、かつJIS−A硬度70度以上80度以下、幅5mm、長さ325mm、厚さ2mm、自重4.58gのポリウレタン平型ベルトに100gの荷重を掛け、円周方向の接触長さを3mmおよび接触面積を15mmとしたときに測定される引っ張り荷重である摩擦抵抗Rfが、45gf<Rf<200gfとなる表面性を有する電子写真感光体を使用して画像形成を行う事を特徴とする画像形成装置を示している。
【0021】
特許文献16の特開2004−54001号公報では、電子写真感光体上に形成された潜像を現像剤により現像し、該現像により顕像化されたトナー像を中間転写体に転写する一次転写工程と、該中間転写体に転写されたトナー像を記録材に転写する二次転写工程とを備え、記録材にトナー像を転写後、電子写真感光体上の残留トナーを、クリーニング工程で除去する画像形成方法において、該電子写真感光体の表面粗さRaが0.02〜0.1μmであり、前記中間転写体の表面粗さRzが0.4μm〜2.0μmであり、該電子写真感光体の表面に、表面エネルギー低下剤を供給し、画像形成を行うことを特徴とする画像形成方法を示している。
【0022】
特許文献17の特開2003−270840号公報では、有機感光体は、表面凹凸の周期の平均値がトナーの体積平均粒径の10倍以上であることを特徴とする画像形成装置を示している。
【0023】
特許文献18の特開2003−241408号公報では、周速200mm/sec以上で回転する電子写真感光体およびクリーニング手段を備える電子写真装置において、前記電子写真感光体が導電性支持体上に感光層および表面保護層を有し、該表面保護層が保護層全質量に対し35.0〜45.0質量%のフッ素原子含有樹脂粒子を含有し、表面粗さが十点平均面粗さで0.1〜5.0μmであり、表面硬度がテーバー摩耗試験法で0.1〜10.0であり、かつ、表面摩擦係数が0.1〜0.7である電子写真感光体であり、該クリーニング手段がゴム弾性体ブレードであり、該ブレードの該電子写真感光体に対する線圧が0.294N〜0.441N/cmであり、使用するトナーのガラス転移点(Tg)が40℃〜55℃であり、該ブレード物性値である引張弾性率(ヤング率)が784N〜980N/cmであり、かつ、反発弾性値が35%〜55%であり、この基材表面にフッ素原子樹脂微粒子を含有することを特徴とする電子写真装置を示している。
【0024】
特許文献19の特開2003−131537号公報では、トナーの扁平度(d/t)(d:体積平均粒径、t:トナー粒子の厚さ)と、像形成体の表面粗さを算術平均粗さRa(μm)で表したとき、d/t×0.01≦Ra≦0.5の関係を有する像形成体を用いることを特徴とする画像形成方法を示している。
【0025】
特許文献20の特開2002−82468号公報では、周速200mm/sec以上で回転する電子写真感光体およびクリーニング手段を備える電子写真装置において、該電子写真感光体が導電性支持体上に感光層および表面保護層を有し、該表面保護層が保護層全質量に対し15.0〜40.0質量%のフッ素原子含有樹脂粒子を含有し、表面粗さが十点平均面粗さで0.1〜5.0μmであり、表面硬度がテーバー摩耗試験法で0.1〜20.0であり、かつ表面摩擦係数が0.001〜1.2である電子写真感光体を示している。
ところが、上記のいずれの表面粗さ測定法でも、小粒径トナーあるいは重合トナーを、使用した電子写真装置におけるクリーニング性能を評価しきれない問題があった。
すなわち、従来表面粗さ表現法として使用している表面粗さRa、Rmax、Rz等の方法では、表面粗さを正確に把握できない問題がある。
【0026】
以上の通り従来技術から感光体表面上の入出力される潤滑剤の循環性を高める方策は不十分であり、電子写真感光体の高度な高耐久化と電子写真装置のクリーニング安定化の両立は未だ獲得できていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
電子写真感光体の高耐久化は架橋型の樹脂膜を製膜することで飛躍的な向上が期待できる状況にある。一方で近年、現像剤の主流と言える重合トナーのクリーニング性が重大な技術課題となり、この課題解決の方策として潤滑剤の感光体表面への塗布が有利である。
ところが、架橋型の樹脂膜が最表面に設けられる電子写真感光体は潤滑剤の塗布性が悪く、このため潤滑剤が充分に塗布されずクリーニング性の悪化に伴う画像不良が発生してしまい、その優れる耐久性を使いこなすことができない状態にあった。
すなわち、潤滑剤が感光体表面に過剰に滞留すると劣化した潤滑剤が画像ノイズの直接的な影響を及ぼしたり、感光体と摺擦するクリーニングブレードの摩耗が進み、結果的にクリーニング不良を来したりするケースがある。また、潤滑剤の消費量を減量化出来なければその都度、交換作業を要する事となる。
【0028】
そこで本発明では架橋表面層を有する高耐久性電子写真感光体の潤滑剤の塗布性の改良を課題とし、これを解決することにより寿命の延命を獲得し、プリントコストの低減が達成された電子写真感光体および画像形成装置、並びに前記電子写真感光体の製造方法および評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
上記課題を解決するために本発明に係る電子写真感光体および該電子写真感光体の製造方法、評価方法、並びに画像形成装置は、具体的には下記(1)〜(10)に記載の技術的特徴を有する。
【0030】
(1):導電性支持体と、該導電性支持体上に順に積層されてなる感光層と、互いに交差しない溝を有する表面層と、を備え、前記溝は、幅が60μm以上400μm以下であり、深さが0.2μm以上2μm以下であり、深さの標準偏差が任意4カ所の測定値の平均値に対して1/10以下であり、且つ、溝の方向が当該電子写真感光体の主走査方向と副走査方向とに対して斜行するように形成されてなり、当該電子写真感光体表面の溝と溝とで区画された領域は、(I)表面粗さ・輪郭形状測定機により測定して一次元データ配列を作成し、(II)該一次元データ配列を、多重解像度解析によってウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至るまでの6個の周波数成分に分離し、(III)次いで、得られた6個の周波数成分の中で最低周波数成分の一次元データ配列に対して、データ配列数が1/10〜1/100に減少するように間引きして一次元データ配列を作成し、(IV)更に、多重解像度解析によってウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至るまでの、追加の6個の周波数成分に分離して、(V)前記(II)及び(IV)で得られた合計12個の周波数成分の個々の算術平均粗さについて、WRa(LMH)に対するWRa(LHH)の比(WRa(LHH)/WRa(LMH))が2.0以上2.5以下である、ことを特徴とする電子写真感光体である。
ここで、電子写真感光体のJIS−B0601:2001で定義される算術平均粗さ(略号;Ra)をウェーブレット変換により凹凸の一周期の長さについて周波数成分に分離した個々の帯域における算術平均粗さを以下のように表すものとする。
WRa(HHH):凹凸の一周期の長さが0.3μm〜3μmの帯域におけるRa
WRa(HHL):凹凸の一周期の長さが1μm〜6μmの帯域におけるRa
WRa(HMH):凹凸の一周期の長さが2μm〜13μmの帯域におけるRa
WRa(HML):凹凸の一周期の長さが4μm〜25μmの帯域におけるRa
WRa(HLH):凹凸の一周期の長さが10μm〜50μmの帯域におけるRa
WRa(HLL):凹凸の一周期の長さが24μm〜99μmの帯域におけるRa
WRa(LHH):凹凸の一周期の長さが26μm〜106μmの帯域におけるRa
WRa(LHL):凹凸の一周期の長さが53μm〜183μmの帯域におけるRa
WRa(LMH):凹凸の一周期の長さが106μm〜318μmの帯域におけるRa
WRa(LML):凹凸の一周期の長さが214μm〜551μmの帯域におけるRa
WRa(LLH):凹凸の一周期の長さが431μm〜954μmの帯域におけるRa
WRa(LLL):凹凸の一周期の長さが867μm〜1654μmの帯域におけるRa
なお、各周波数成分の算術平均粗さ(Ra)は、周波数分解された各曲線に対してJIS−B0601:2001の算術平均粗さの算出方法に準じて算定される。ただし、周波数分解された曲線に対して、再度、うねり成分を減じて粗さ曲線を求める操作は行わず、周波数分解された曲線に対して直接Raを算出する。
【0031】
(2):前記溝の底部と、前記溝と溝とで区画された領域と、のいずれもが電荷輸送性を有する架橋構造の樹脂で形成されてなることを特徴とする上記(1)に記載の電子写真感光体である。
【0032】
(3):前記表面層は、アクリル系レベリング剤を含有することを特徴とする上記(1)または(2)に記載の電子写真感光体である。
【0033】
(4):前記表面層は、アクリロイルオキシ基を有するアクリレート構造単位と、電荷輸送性構造単位と、を含有することを特徴とする上記(1)乃至(3)のいずれか1項に記載の電子写真感光体である。
【0034】
(5):前記溝の底部と、前記溝と溝とで区画された領域と、のいずれもが金属酸化物フィラーを含有していることを特徴とする上記(1)乃至(4)のいずれか1項に記載の電子写真感光体である。
【0035】
(6):前記表面層は、α−アルミナと、グラフトタイプまたはブロック共重合タイプの分散剤と、を含有してなることを特徴とする上記(1)乃至(5)のいずれか1項に記載の電子写真感光体である。
【0036】
(7):請求項1乃至6のいずれか1項に記載の電子写真感光体と、潤滑剤塗布手段と、を備える画像形成ユニットを一種有し、該潤滑剤塗布手段は、潤滑剤をブラシ状ローラで掻きとり前記電子写真感光体表面に転移させる手段と、転移した潤滑剤を前記電子写真感光体表面に均すブレードと、を有することを特徴とする画像形成装置である。
【0037】
(8):導電性支持体と、該導電性支持体上に順に積層されてなる感光層と互いに交差しない溝を有する表面層と、を備え、前記溝は、幅が60μm以上400μm以下であり、深さが0.2μm以上2μm以下であり、深さの標準偏差が任意4カ所の測定値の平均値に対して1/10以下であり、且つ、溝の方向が当該電子写真感光体の主走査方向と副走査方向とに対して斜行するように形成されてなる電子写真感光体の評価方法であって、当該電子写真感光体表面の溝と溝とで区画された領域を、(I)表面粗さ・輪郭形状測定機により測定して一次元データ配列を作成し、(II)該一次元データ配列を、多重解像度解析によってウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至るまでの6個の周波数成分に分離し、(III)次いで、得られた6個の周波数成分の中で最低周波数成分の一次元データ配列に対して、データ配列数が1/10〜1/100に減少するように間引きして一次元データ配列を作成し、(IV)更に、多重解像度解析によってウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至るまでの、追加の6個の周波数成分に分離して、(V)前記(II)及び(IV)で得られた合計12個の周波数成分の個々の算術平均粗さについて、WRa(LMH)に対するWRa(LHH)の比(WRa(LHH)/WRa(LMH))が2.0倍以上2.5倍以下である、こと満たすか否かを評価することを特徴とする電子写真感光体の評価方法。
ここで、電子写真感光体のJIS−B0601:2001で定義される算術平均粗さ(略号;Ra)をウェーブレット変換により凹凸の一周期の長さについて周波数成分に分離した個々の帯域における算術平均粗さを以下のように表すものとする。
WRa(HHH):凹凸の一周期の長さが0.3μm〜3μmの帯域におけるRa
WRa(HHL):凹凸の一周期の長さが1μm〜6μmの帯域におけるRa
WRa(HMH):凹凸の一周期の長さが2μm〜13μmの帯域におけるRa
WRa(HML):凹凸の一周期の長さが4μm〜25μmの帯域におけるRa
WRa(HLH):凹凸の一周期の長さが10μm〜50μmの帯域におけるRa
WRa(HLL):凹凸の一周期の長さが24μm〜99μmの帯域におけるRa
WRa(LHH):凹凸の一周期の長さが26μm〜106μmの帯域におけるRa
WRa(LHL):凹凸の一周期の長さが53μm〜183μmの帯域におけるRa
WRa(LMH):凹凸の一周期の長さが106μm〜318μmの帯域におけるRa
WRa(LML):凹凸の一周期の長さが214μm〜551μmの帯域におけるRa
WRa(LLH):凹凸の一周期の長さが431μm〜954μmの帯域におけるRa
WRa(LLL):凹凸の一周期の長さが867μm〜1654μmの帯域におけるRa
なお、各周波数成分の算術平均粗さ(Ra)は、周波数分解された各曲線に対してJIS−B0601:2001の算術平均粗さの算出方法に準じて算定される。ただし、周波数分解された曲線に対して、再度、うねり成分を減じて粗さ曲線を求める操作は行わず、周波数分解された曲線に対して直接Raを算出する。
【0038】
(9):上記(8)に記載の電子写真感光体の評価方法を用いて製造することを特徴とする電子写真感光体の製造方法である。
【0039】
(10):上記(1)乃至(6)のいずれか1項に記載の電子写真感光体を製造する電子写真感光体の製造方法であって、互いに交差しない溝を有する表面層を、液滴吐出ヘッドからインクジェット方式で塗布することにより形成することを特徴とする電子写真感光体の製造方法である。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、寿命の延命を獲得し、プリントコストの低減が達成された電子写真感光体および画像形成装置、並びに前記電子写真感光体の製造方法および評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】WRa(LHH)とすり抜けトナー量との関係を示すグラフである。
【図2】WRa(LMH)とすり抜けトナー量との関係を示すグラフである。
【図3】電子写真感光体に潤滑剤を供給する手段の構成を示す別の模式断面図である。
【図4】電子写真感光体上に潤滑剤が付着した状態を表す模式図である。
【図5】潤滑剤の感光体上への塗布性が不良である状態を表す図の一例である。
【図6】潤滑剤の感光体上への塗布性が不良である状態を表す更に別の図の一例である。
【図7】電子写真感光体の低周波数成分の凹凸が塗布ブレードの線圧を変動させる状態を表す模式図である。
【図8】本発明に係わる画像形成装置の更に別の構成例を示す模式断面図である。
【図9】表面粗さ・輪郭形状測定システムの構成図である。
【図10】ウェーブレット変換による多重解像度解析結果を表す図の一例である。
【図11】一回目の多重解像度解析における周波数帯域の分離の図である。
【図12】一回目の多重解像度解析での最低周波数データのグラフである。
【図13】二回目の多重解像度解析における周波数帯域の分離の図である。
【図14】粗さスペクトルの図の一例である。
【図15】本発明に係わる電子写真感光体の層構成を示す断面図である。
【図16】本発明に係わる電子写真感光体の別の層構成を示す断面図である。
【図17】電子写真感光体表面の溝の角度を示す一例図である。
【図18】本発明に係わる画像形成装置の構成例を示す模式断面図である。
【図19】本発明に係わる画像形成装置の別の構成例を示す模式断面図である。
【図20】本発明に係わる画像形成装置の更に別の構成例を示す模式断面図である。
【図21】本発明に係わる画像形成装置の更に別の構成例を示す模式断面図である。
【図22】本発明に係わる画像形成装置の更に別の構成例を示す模式断面図である。
【図23】図22に示す画像形成装置の具体的構成例を示す模式断面図である。
【図24】電子写真感光体に潤滑剤を供給する手段の構成を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明に係る電子写真感光体は、導電性支持体と、該導電性支持体上に順に積層されてなる感光層と、互いに交差しない溝を有する表面層と、を備え、前記溝は、幅が60μm以上400μm以下であり、深さが0.2μm以上2μm以下であり、深さの標準偏差が任意4カ所の測定値の平均値に対して1/10以下であり、且つ、溝の方向が当該電子写真感光体の主走査方向と副走査方向とに対して斜行するように形成されてなり、当該電子写真感光体表面の溝と溝とで区画された領域は、(I)表面粗さ・輪郭形状測定機により測定して一次元データ配列を作成し、(II)該一次元データ配列を、多重解像度解析によってウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至るまでの6個の周波数成分に分離し、(III)次いで、得られた6個の周波数成分の中で最低周波数成分の一次元データ配列に対して、データ配列数が1/10〜1/100に減少するように間引きして一次元データ配列を作成し、(IV)更に、多重解像度解析によってウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至るまでの、追加の6個の周波数成分に分離して、(V)前記(II)及び(IV)で得られた合計12個の周波数成分の個々の算術平均粗さについて、WRa(LMH)に対するWRa(LHH)の比(WRa(LHH)/WRa(LMH))が2.0以上2.5以下である、ことを特徴とする。
ここで、電子写真感光体のJIS−B0601:2001で定義される算術平均粗さ(略号;Ra)をウェーブレット変換により凹凸の一周期の長さについて周波数成分に分離した個々の帯域における算術平均粗さを以下のように表すものとする。
WRa(HHH):凹凸の一周期の長さが0.3μm〜3μmの帯域におけるRa
WRa(HHL):凹凸の一周期の長さが1μm〜6μmの帯域におけるRa
WRa(HMH):凹凸の一周期の長さが2μm〜13μmの帯域におけるRa
WRa(HML):凹凸の一周期の長さが4μm〜25μmの帯域におけるRa
WRa(HLH):凹凸の一周期の長さが10μm〜50μmの帯域におけるRa
WRa(HLL):凹凸の一周期の長さが24μm〜99μmの帯域におけるRa
WRa(LHH):凹凸の一周期の長さが26μm〜106μmの帯域におけるRa
WRa(LHL):凹凸の一周期の長さが53μm〜183μmの帯域におけるRa
WRa(LMH):凹凸の一周期の長さが106μm〜318μmの帯域におけるRa
WRa(LML):凹凸の一周期の長さが214μm〜551μmの帯域におけるRa
WRa(LLH):凹凸の一周期の長さが431μm〜954μmの帯域におけるRa
WRa(LLL):凹凸の一周期の長さが867μm〜1654μmの帯域におけるRa
なお、各周波数成分の算術平均粗さ(Ra)は、周波数分解された各曲線に対してJIS−B0601:2001の算術平均粗さの算出方法に準じて算定される。ただし、周波数分解された曲線に対して、再度、うねり成分を減じて粗さ曲線を求める操作は行わず、周波数分解された曲線に対して直接Raを算出する。
【0043】
次に、本発明に係る電子写真感光体についてさらに詳細に説明する。
尚、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な実施の形態であるから技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は以下の説明において本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
【0044】
この潤滑剤塗布性の改良は三つの要件がある。第一に電子写真感光体(以下、単に感光体とも称する。)表面への潤滑剤の収支バランスを均一に保つこと、第二に感光体表面の潤滑剤被覆率を100%に限りなく近づけること、第三に潤滑剤の消費量を低減することである。
【0045】
はじめに、潤滑剤塗布性の改良に係る潤滑剤の収支バランスの均一化(第一の要件)について説明する。
潤滑剤は感光体とトナーとの離型性を高めたり、帯電ハザードを潤滑剤に負わせたりする等の複数の機能をもつ。感光体へ供給する潤滑剤は入力量が不足すると潤滑剤の効果が不足する。他方、潤滑剤の入力量に対して除去する量が不足すると、感光体表面に劣化や分解した潤滑剤成分が堆積することになり、感光体表面の実効的な潤滑剤成分比率が減量し、同じく所期の効果が得られないことになる。潤滑剤を活用する電子写真プロセスでは潤滑剤の消費量のみを制御して所期の機能を保持している。ところが、潤滑剤の入出力する手段にトナーが介在すると手段系の能力が機能不全となる結果、入出力のバランスを崩してしまうことになる。そこで本発明者達は潤滑剤の収支バランスを均一に保つ要件として、潤滑剤の入出力手段にトナーの混入を抑制することが必要と考えた。
【0046】
次に、潤滑剤塗布性の改良に係る潤滑剤被覆率(第二の要件)について説明する。
潤滑剤を介する感光体と感光体当接部材の摩擦状態はストライベック曲線に準じて摩擦状態を推察することができる。ストライベック曲線の境界領域や混合領域では潤滑剤が摺動面を完全に覆わないため、部材同士が擦れあい高い摩擦を生じると考えられる。感光体とブレード部材同士が直接擦れあうと摩耗やブレードめくれを来してしまうことになる。そこで、感光体および感光体と接触する部材間の摩擦は潤滑剤を仲介する流体潤滑へもちこむ状態が理想と考えられる。感光体表面の潤滑剤のコーティングはコーティングブラシやコーティングブレードなどのコーティング手段を用いると被覆率を拡大したり、被覆速度を高めたりするなど被覆効率が格段に改良されることが一般的である。そこで本発明者達はこれらの潤滑剤をコーティングするコーティング手段の劣化を抑制することが有利であると考えた。
【0047】
最後に、潤滑剤塗布性の改良に係る潤滑剤の消費(第三の要件)について説明する。
潤滑剤の消費量は所望の効果の発現に応じて決定されるが、上述の第一の要件を満足するために潤滑剤の除去量に応じて決定されると考えることができる。潤滑剤の除去性が不良の場合は、本来、潤滑剤の入力量を制限する必要があるが、所期の効果を得るために消費量を増大させて除去不足を隠蔽することがある。この方策は潤滑剤の消費量を増大し望ましい状態とは言えない。そこで、潤滑剤の消費量を減量化する必要要件として潤滑剤の充分な除去能力が必要と考えた。
【0048】
更に、消費される潤滑剤の全てが実効的な潤滑剤にはなっていないことが類推される。即ち、ロス成分として、潤滑剤の均し不良でグレイン状に感光体表面に滞留するものや、コーティング手段に滞る潤滑剤や飛散するものがある。これらのロス成分は潤滑剤全消費量に対して強ち無視できない。そこで本発明者達は潤滑剤のロス成分の減量化が必要と考えた。
【0049】
第一の収支バランスの均一化に対しては、潤滑剤を塗布する条件下でもトナーのクリーニング性を高めることが必要であると考案した。本発明者達は感光体表面の断面曲線をウェーブレット変換して得られる12の周波数帯域における粗さ曲線の算術平均粗さ(WRa)の特徴からLHHバンドのWRa(略号をWRa(LHH)と記す。他の表記も同様に記す。)を大きくし、且つ、LMHバンドのWRa(略号;WRa(LMH))を小さくすると潤滑剤を塗布する条件下ですり抜けトナー量は抑制できる性質を得るに至った。この関係の一例を図1と図2に表す。クリーニングブレードでトナーを感光体から除去する場合、クリーニングブレードの摩耗や先端部分の損傷が進むとトナーを感光体から除去する機能が衰え、トナーのすり抜け量が増大する。本発明者達は、プリント試験を行った後のクリーニングブレードのエッジ部分を観察すると感光体表面形状に因って多様な摩耗や損傷を観察した。特に、感光体はWRa(LHH)が大きく、WRa(LMH)が小さい場合にクリーニングブレードの摩耗と荒れが小さいという特徴が得られた。クリーニングブレードの摩耗と荒れは感光体とクリーニングブレードとの摺擦状態を表すものと考えられ、感光体表面形状に影響されると思われる。すり抜けトナーについても同様の関係を示すと考えられる。
【0050】
第二の要件である被覆率の拡大に対して次の通り考案した。
潤滑剤は微量ずつ、粉体の形態で感光体表面に供給されるものであるが、その具体的な方法としては例えば特開2000−162881号公報に開示されているように、ブラシ等の塗布手段によりブロック上に固形潤滑剤を削り取って塗布する方法は装置構成が簡単で、かつ、感光体表面全面に安定に供給しやすいと考えられている。
【0051】
図3は、潤滑剤供給装置構成の一例である。回転するファーブラシ等の塗布ブラシ(3B)を介し、固形潤滑剤(3A)を感光体(31)へ塗布する。塗布ブラシ(3B)は固形潤滑剤(3A)と当接して回転し、その一部分を削ぎ取る。削ぎ取られた固形潤滑剤(3A)は塗布ブレード(3B)に付着して、回転し、感光体(31)に塗布される。感光体に塗布された固形潤滑剤は、塗布ブレード(39)によって感光体表面に広げられる。固形潤滑剤はブラシ等を介して感光体表面に塗布すると、感光体表面には粉体状の潤滑剤が塗布されるが、この状態のままでは潤滑性は十分に発揮されない。塗布ブラシ等により感光体表面に拡げることが重要である。この工程で潤滑剤が感光体表面を皮膜化させることで、その潤滑性が発揮されるようになる。
【0052】
次に潤滑剤の塗布プロセスにマッチする電子写真感光体の要件を検討した。
このような潤滑剤の塗布機構において、電子写真感光体は潤滑剤の入力に対して、感度よく付着されることが求められる。この固体潤滑の付着に関する感度は少なくとも、感光体(31)と潤滑剤との付着力や塗布ブレード(39)による潤滑剤の被膜化のしやすさが影響すると考えられる。
【0053】
元々、潤滑剤は付着性が弱く、種々の表面調整剤を感光体表面に含有させても両者の接着力は大きく変えることができなかった。そこで、本発明者達は別のファクターとして、接触面積から考案された感光体表面の粗面化効果について考えた。
【0054】
図4は表面形状の影響を考案した一例である。塗布ブラシから掻き取られた潤滑剤(3A)の粉体が凝集体や一個の固体形状として感光体表面(31)に付いている状態を表す。感光体が平滑であると、図5のように潤滑剤は塗布ブレード(3D)を通過できずに感光体表面を横滑りした後に感光体表面から脱離することが考えられる。一般的なドクターブレードを用いる塗料のコーティングと同様に、塗布ブレード(3D)によって潤滑剤(3A)を感光体表面(31)にコーティングするには適度なギャップを設ける必要がある。常時ギャップが生じているとクリーニング不良の原因となるため、塗布ブレードと感光体間のギャップは閉じたり開いたりする状態が望ましい。
【0055】
感光体表面の凹凸は適当な周期をもたせなければ、凹凸によって潤滑剤の横滑りを予防できても、図6のような潤滑剤の凝集体が凹凸の縁で点接触する結果、簡単に脱離することが考えられる。そこで、塗布ブレードが適度に線圧を増減させて潤滑剤をすり抜けさせたり、押しつけたりして感光体表面に引き延ばすような図7のように感光体表面に緩やかな凹凸をつけ、更に、潤滑剤の横滑りを予防する適度な高周波の凹凸を乗畳させることで潤滑剤の付着性は高められると考察した。
【0056】
以上は潤滑剤の感光体表面への付着性を高める考察である。本発明は更に潤滑剤の除去性を付与することで感光体上の固体潤滑剤の循環を促進させることを目的としている。
【0057】
次に、固体潤滑剤の除去について説明する。
従来、感光体表面に創傷によって表面加工を施す手段が開示されてきた。しかし、潤滑剤の除去性を目的とする加工ではないため、そのまま適用しても改善されない。上述の通り、表面加工によって形成される溝のピッチ間隔は10μm以下のものが多い。クリーニングブレードなどの感光体と摺擦する部材の多い電子写真プロセスで感光体が使用され続けると、このピッチに似た微細な摺擦キズが形成されるが、これによって潤滑剤の除去性が高められる知見は今のところ得られていない。
【0058】
感光体表面にフィラーを配合すると微細な凹凸が付与される。あたかも浴室の床のような微細な凹凸があるとスリップ性が防止される効果が得られる。この場合、排水性は必ずしも良好とは言えず、床の速乾性を得るために、多くは配水系路としての溝が形成されている。
本発明者達は潤滑剤の除去性を高める目的でこの知見を参考に感光体表面にパターン形成をすることが固体潤滑剤の除去性が高められると考案した。種々の検討を重ねた結果、感光体表面の溝の幅、溝深さ及び溝の方向のそれぞれについても重要な要素の一つであることを見出した。
溝の形成によって感光体表面を適度な小区画に分断することで、潤滑剤の付着力と除去性が変化する。また、感光体の主走査方向と副走査方向とに対して溝を斜交させると、感光体駆動による溝の進行方向へ潤滑剤のスムーズな流れを妨げることがない。主走査方向と平行に溝を形成すると、溝の周期に応じて感光体と摺擦する部材に振動を与えることができるが溝の縁に潤滑剤が残留しかねない。尚、感光体と摺擦する部材に振動を与えることでストレスを緩和させることができる。一方、副走査方向と平行に溝を形成すると、感光体と摺擦する部材に振動を付与できず、部材の劣化で装置の寿命を来してしまいかねない。
【0059】
本発明者達は、主走査方向と副走査方向とに斜行する溝が形成された電子写真感光体について、溝の形成による潤滑剤の循環性が高められることが確かめられ、本発明を完成するに至った。感光体表面に斜行溝を形成すると、ブレードエッジの感光体と最も強く当接する部分はドラムの回転に応じて主走査方向(感光体ドラム軸方向、横方向)にスライドさせることができる。この作用によりブレードエッジのストレスが緩和される。このため、塗布ブレードやクリーニングブレードなどの感光体と当接する部材の劣化速度を抑制できる。この観点から斜行角度は副走査方向と平行であったり、平行部分が多分に存在したりする乱雑な溝でなければ主走査方向に対して鋭角から鈍角までの種々の斜行について相応の効果が得られる。
【0060】
最後に、第三の要件である潤滑剤の消費量低減について次の通り考案した。
潤滑剤の消費量を低減する要件として、潤滑剤の除去性能の機能強化と、潤滑剤消費量のうち、その実効成分比率を高める必要から潤滑剤のロス成分の減量と、が求められる。
前者の除去性能の機能強化は上述の感光体表面への溝形成が効果的である。クリーニングブレードによって除去される潤滑剤は溝の方向で異なり、上記の斜行が特に有利である。更に斜行溝は感光体表面に観察されるグレイン状の潤滑剤も少なく潤滑剤消費量中のロス分の減量に対しても有利であった。
【0061】
潤滑剤を用いる電子写真装置の一例として、図8を用いて説明する。図8の装置では、潤滑剤(3A)は塗布ブラシ(3B)で感光体表面に入力され、次いで塗布ブレード(39)で均され、次にクリーニングブレード(17)で除去され、再び塗布ブラシ(3B)へ戻るサイクルを経る。感光体(11)表面には潤滑剤(3A)の他にトナーの入出力があるため、潤滑剤(3A)はトナーと混合される状態で存在する。
図8の場合、潤滑剤(3A)のロス成分がゼロになる状態を想定すると、少なくとも帯電手段(12)、塗布ブラシ(3B)、塗布ブレード部(39)、クリーニングブレード(17)の鏡面部分および感光体(11)表面にはトナーと潤滑剤(3A)との混合物の滞留は無い。また、潤滑剤(3A)を処方に含まないトナーを用いるとき、現像器内部のトナーは潤滑剤濃度がゼロとなる。すなわち、これらの滞留分と現像器内部の潤滑剤成分が潤滑剤のロス成分と見積もられる。
【0062】
これらはトナーのクリーニング性と密接な関係があり、上記する潤滑剤を供給する条件下におけるトナーのクリーニング性能を高めることで大きな改善が得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0063】
本発明では、潤滑剤を感光体表面へ外部供給する条件下において、トナーのクリーニング性を高めることが重要である。このために感光体表面は特別な粗面を呈する生地をもたせると有利であり、特にWRa(LMH)に対するWRa(LHH)の比(WRa(LHH)/WRa(LMH))が2.0以上2.5以下とするとクリーニング手段からのトナーのすり抜け量を減量化する効果が得られる。この関係の下限は効果具合から設定されるものであり、上限は大きいほど望ましいが本発明者達の検討では2.5倍の制御が限界であり制御可能な範囲として設定されている。
トナーのすり抜け量を抑え込むと、潤滑剤を外部供給する手段はトナーの混入による機能不全を回避することができ、安定性に優れた潤滑剤の感光体への外部供給が実現される。電子写真装置に潤滑剤の塗布ブレードを用いる場合は潤滑剤の被覆率を拡大することが容易になる。特別な感光体の粗面化が潤滑剤を塗布ブレードからを適度にすり抜けさせたりせき止めたりさせることができ、これが均質な潤滑剤の均しを可能にしていると考えられる。
【0064】
本発明では、感光体表面に形成する溝は潤滑剤が入り込みやすく、潤滑剤の流れるみちが途絶え難くするとよい。このため、溝幅は60μm以上400μm以下が適当である。溝幅を400μm以下にすることで溝部分に潤滑剤が固着するケースを激減することができる。溝幅を制限することで潤滑剤の循環を良好にすると考えられる。また、溝幅を60μm以上とすることで、溝がふさがるケースを抑制できる。製造面から、溝幅を60μm未満に狭めると溝が一部塞がったものが形成されることが多く、製造上の均質性に不足をもたらすことがある。
【0065】
溝の方向は感光体の主走査方向及び副走査方向と斜行するように形成する。溝の方向を碁盤目状にタテまたはヨコに設けるのではなく斜行させる理由は、感光体の上流から下流へ移動する方向に対して、粉体状で感光体表面に入力される潤滑剤が効率よく均され、かつ、適度に除去され易くするためである。例えば、塗布ブレードで潤滑剤を均す場合、感光体の移動方向と平行に溝を形成すると、ブレードが溝の全体を当接出来ず潤滑剤が均されずにすり抜けてしまう不具合が生じる。一方、感光体の移動方向に対して直行する様に溝を設けると、溝の縁に潤滑剤が滞留してしまい、やがては変質した潤滑剤までもが除去できずに感光体上に残ってしまう不具合を来してしまう。
【0066】
また、本発明は潤滑剤の循環効率を高めるため、潤滑剤が感光体表面に入力されるときの付着性、潤滑剤がスプレッドされる均し性、そして適時潤滑剤が感光体から系外へ排出される除去性の個々の性状を高めることを想定している。潤滑剤の均しは潤滑剤をスプレッドする塗布ブレードを用いる場合が多い。また、潤滑剤の排出はクリーニングブレードが負うケースが多い。それぞれのブレードは感光体との当接状態を安定化させることが極めて重要である。ブレードエッジを極端に引き込ませたりエッジをえぐれさせたりしては初期の目的が覚束ない。この当接状態を安定化させるために、溝の間隔と深さが重要となるが、加えて、溝の深さのバラツキを抑制し、均質な溝を感光体表面に設けることが重要である。
なお、従来技術は溝深さが平均値で規定されるものばかりである。溝の深さが同じ平均値を有しても深さのバラツキが多ければ、溝が機能するものと機能しないものとが生じる。
そこで本発明では、形成する全ての溝を機能させるために溝深さは0.2μm〜2μmでかつ標準偏差が平均値に対して1/10とすることで所期の効果が発現される。
【0067】
このような均質深さの溝を形成するにはインクジェット方式により表面形状を形成させると有利である。インクジェット方式は射出される液滴を精度良く飛翔させることができる。また、ノズル一つ一つの射出動作を制御できるため、溝の形成に極めて都合がよい。
【0068】
インクジェット方式による感光体表面のパターン形成を実現するためには適当なインクが必要となる。すなわちインク溶媒の揮発性、インクの粘度と界面張力、ないしインクの固形分濃度の調整が必要である。これらに対し架橋構造の樹脂材料はインク成分を低分子量のモノマーだけで作製できるため適当である。さらにパターン形成によって得られた表面は架橋構造の樹脂となるため強靱となり極めて有利である。
【0069】
感光体表面に溝を形成するのに際しインクジェット方式を用いる場合、ヘッドから吐出する液滴に対する下地の濡れ性を調整する必要がある。例えば、液滴を打ち込む下地表面が架橋樹脂のように溶解せず、且つ、シリコーンオイルが漂うと、下地表面が液滴をはじき、線形状や面形状のパターンを形成させようとしても独立したドット形状が得られることになる。シリコーンオイルはレベリング剤として使用されるため均質な製膜に必要とされる。これに対しシリコーンオイルフリーのアクリル系レベリング剤を用いることで、下地の塗膜品質の確保とインクジェット方式によるパターン形成の両立が得られるため感光体表面のパターン形成の高精度化が容易にできる。
【0070】
下地に耐摩耗性に優れる架橋構造の樹脂を用いることで耐摩耗性に優れる感光体表面が提供される。これに応じて表面形状の持続性が享受される。これは耐久劣化により、樹脂膜を形成する化学結合の一部が破断しても別の部位の化学結合が残存していれば摩耗を止められるためである。
【0071】
架橋構造の樹脂の中でもアクリル樹脂は、ポリカーボネートと電荷輸送物質との固溶体と比較して誘電率が大きいため、静電特性面の凹凸形状の影響が小さいメリットを奏する。
【0072】
表面層へフィラーを添加すると微細な凹凸形状を付与することができる。これにより、潤滑剤の循環効率を高める効果が得られやすい。フィラーを配合することで感光体表面にソフトフィールな生地を形成させることができ、以上のテクスチャー効果を更に高める手段として有効である。また、フィラーの配合による更なる耐摩耗性の向上が獲得でき、表面形状の持続性が一層有利となる。配合するフィラーは1次粒径がナノスケールのものが好ましく、アルミナ、酸化スズ、チタニア、シリカ、セリア等が有用である。
これらのフィラーは感光体表面を棘状にさせないため、感光体と摺動する部材に与えるダメージを低減できる。
【0073】
潤滑剤を感光体表面に塗布する画像形成装置について、潤滑剤をブラシで掻き取り、そのブラシで掻き取った潤滑剤を感光体表面に入力する機構を設けると、潤滑剤の消費量を簡単に制御できるのみならず、感光体全体に亘って潤滑剤を供給できるため有利である。更に、クリーニングブレードとは別に、上のブラシよりも下流で且つ、クリーニングブレードよりも上流に感光体と摺擦する塗布ブレードを設けることで感光体表面に供給された潤滑剤の量を規制したり、均しを促したりすることが可能となる。これらのブラシと塗布ブレードは潤滑剤の循環を調整する上で有効な手段となる。
【0074】
以下に、感光体断面曲線の多重解像度解析について説明する。
本発明では、はじめに電子写真装置用部品の表面の状態についてJIS B0601に定める断面曲線を求め、その断面曲線である一次元データ配列を得る。
この断面曲線である一次元のデータ配列は、表面粗さ・輪郭形状測定機からデジタル信号として得てもよく、あるいは表面粗さ・輪郭形状測定機のアナログ出力をA/D変換して得てもよい。
【0075】
本発明において、一次元データ配列を得るための断面曲線の測定長さはJIS規格に定める測定長さであることが好ましく、8mm以上、25mm以下が好ましい。
また、サンプリング間隔は、1μm以下がよく、好ましくは0.2μm以上、0.5μm以下がよい。例えば、測定長12mmをサンプリング点数30720点で測定する場合、サンプリング間隔は0.390625μmとなり、本発明を実施するのに好適である。
【0076】
前記のように、この一次元データ配列を、ウェーブレット変換(MRA−1)して高周波数成分(HHH)から低周波数成分(HLL)に至る複数の周波数成分(例えば(HHH)(HHL)(HMH)(HML)(HLH)(HLL)の6成分)に分離する多重解像度解析を行う。更に、ここで得た最低周波数成分(HLL)を間引きした一次元データ配列を作り、この間引きされた一次元データ配列に対して更にウェーブレット変換(MRA−2)を行って、高周波数成分から低周波数成分に至る複数の周波数成分(例えば(LHH)、(LHL)(LMH)(LML)(LLH)(LLL)の6成分)に分離する多重解像度解析を行い、得た各周波数成分(12成分)に対して、中心線平均粗さ(WRa)を求めたが、一般のRaと区別するために、本明細書ではこの粗さをWRaと称することとする。そして、本発明では、前記のように、少なくともWRa(LML)とWRa(LHH)に屈曲点(肩)または極大点をもつようにする。
【0077】
ここで、各周波数成分の個々の中心線平均粗さ(WRa)は電子写真感光体表面の凹凸形状を表面粗さ・輪郭形状測定機により測定して得た一次元データ配列を、ウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至る周波数成分に分離する前記多重解像度解析(MRA−1)、(MRA−2)を行って得られた一次元データ配列の中心線平均粗さを表す。本発明においては、実際のウェーブレット変換はソフトウエアMATLABを使用している。帯域幅の定義はソフトウエア上の制約であって、この定義する範囲に格別の意味はない。また、WRaは上記の理由(帯域幅の定義の理由)に因るため、帯域幅が変わればそれに応じてWRaは変化する。
【0078】
そして、HML成分とHLH成分、LHL成分とLMH成分、LMH成分とLML成分、LML成分とLLH成分、LLH成分とLLL成分の個々の帯域は、周波数帯域がオーバーラップしているが、オーバーラップの理由は、次のとおりである。
すなわち、ウェーブレット変換では、元の信号を一回目のウェーブレット変換(Level 1)でL(Low−pass Components)とH(High−pass Components)に分解し、更に、このLに関して、ウェーブレット変換を施すことでLLとHLに分解する。ここで、元の信号に含まれる周波数成分 f が、分離する周波数 F と一致した場合は、f は丁度分離の境界になるので、分離後は、LとHの両方の、それぞれに分離される。この現象は、多重解像度解析では不可避な現象である。そこで、観察したい周波数帯域がこのようにウェーブレット変換の際に分離されてしまわないように、元の信号に含まれる周波数を設定することも重要である。また、数段階のウェーブレット変換を行った後に、任意の段階で逆ウェーブレット変換を行って、複数の帯域に分離されてしまった信号を、復号する(元に戻す)ことも有効である。
【0079】
[ウェーブレット変換(多重解像度解析)、各周波数波の記号]
本発明では2回のウェーブレット変換を行うが、最初のウェーブレット変換を第一回目のウェーブレット変換(便宜上、MRA−1と記すことがある)、その後のウェーブレット変換を第二回目のウェーブレット変換(便宜上、MRA−2と記すことがある)と呼ぶことにする。一回目と二回目の変換を区別するため、便宜上、各周波数帯域の略号に接頭語として、H(一回目)とL(二回目)を付ける。
ここで、第一回目、および第二回目のウェーブレット変換に使用するマザーウェーブレット関数としては各種のウェーブレット関数が使用可能であり、例えば、ドビッシー(Daubecies)関数、ハール(haar)関数、メーヤー(Meyer)関数、シムレット(Symlet)関数、そしてコイフレット(Coiflet)関数等が使用可能である。ここでDaubeciesはドベシィまたはドブシーと表記することがある。本発明ではハール関数を用いているが、必ずしもこれに制約される必要はない。
【0080】
また、ウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至る複数の周波数成分に分離する多重解像度解析を行う場合、その成分数は4以上、8以下がよく、好ましくは6がよい。
【0081】
本発明において、第一回目のウェーブレット変換を行って、複数の周波数成分に分離し、ここで得た最低周波数成分を間引きしつつ取り出(サンプリング)して最低周波数成分データを反映した一次元データ配列を作り、この一次元データ配列に対して第二回目のウェーブレット変換を行って、高周波数成分から低周波数成分に至る複数の周波数成分に分離する多重解像度解析を行う。
【0082】
ここで、第一回目のウェーブレット変換(MRA−1)結果で得た最低周波数成分(HLL)に対して行う間引きは、データ配列数を、1/10から1/100にすることが特徴である。
ここで、データ間引きは、データの周波数を上げる(横軸の対数目盛幅を拡げる)効果があり、例えば、第一回目のウェーブレット変換結果で得た一次元配列の配列数が30000であった場合、1/10の間引きを行うと、配列数が3000になる。
この場合、間引きが1/10より小さいと、例えば、1/5であると、データの周波数を上げる効果が少なく、第2回のウェーブレット変換を行い、多重解像度解析を行ってもデータはよく分離されない。
【0083】
また、間引きが1/100より大きいと、例えば、1/200であると、データの周波数が高くなりすぎ、第2回のウェーブレット変換を行い、多重解像度解析を行ってもデータは高周波成分に集中してよく分離されない。
間引きの仕方は、例えば、間引きを1/100とする場合、100個のデータの平均値を求め、その平均値を代表の1点としている。
【0084】
図9は本発明に適用した、電子写真感光体の表面粗さ評価装置の一構成例を模式的に示す構成図である。図9中(41)は電子写真感光体であり、(42)は表面粗さを測定するプローブを取り付けた治具、(43)は上記治具(42)を測定対象に沿って移動させる機構、(44)は表面粗さ・輪郭形状測定機、(45)は信号解析を行うパーソナルコンピューターである。この図9において、パーソナルコンピューター(45)によって上記の多重解像度解析の計算が行われる。電子写真感光体がシリンダー形状の場合、感光体の表面粗さ測定は周方向でも長手方向でも適当な方向について計測することができる。
【0085】
この図9は一例として示したものであり、構成は他の構成によってもかまわない。例えば、多重解像度解析はパーソナルコンピューターではなく、専用の数値計算プロセッサで行ってもよい。また、この処理を表面粗さ・輪郭形状測定機自体で行ってもよい。結果の表示は各種の方法が使用可能であり、CRTや液晶画面に表示してもよく、あるいは印字出力を行ったりしてもよい。また、他の装置に電気信号として送信してもよく、USBメモリやMOディスクに保存してもよい。
【0086】
本発明者等の測定では、表面粗さ・輪郭形状測定機は東京精密社製Surfcom 1400Dを使用し、パーソナルコンピューターはIBM社製パーソナルコンピューターを使用し、Surfcom 1400DとIBM製パーソナルコンピューターの間はRS−232−Cケーブルで接続した。Surfcom 1400Dからパーソナルコンピューターに送られた表面粗さデータの処理とその多重解像度解析計算は、本発明者等がC言語で作成したソフトウエアで行った。
【0087】
次に、感光体表面形状の多重解像度解析の手順について具体例によって説明する。
はじめに、電子写真感光体の表面形状を東京精密製Surfcom 1400Dで測定した。
ここで、一回の測定長は12mmであり、総サンプリング点数は30720であった。一度の測定では、これを四カ所測定した。測定した結果はパーソナルコンピューターに取り込み、これを本発明者等の作成したプログラムにより第一回目のウェーブレット変換と、そこで得た最低周波数成分に対する1/40の間引き処理、そして、第二回目のウェーブレット変換を行った。
【0088】
このようにして得た第一回目、および第二回目の多重解像度解析結果に対し、中心線平均粗さRa、最大高さRmax、十点平均粗さRzを求めた。演算結果の一例を図10に示す。
【0089】
図10において、図10(a)のグラフはSurfcom 1400Dで測定して得た元のデータであり、粗さ曲線、あるいは断面曲線と呼ぶ場合もある。
図10には14個のグラフがあるが、縦軸は表面形状の変位であり単位はμmである。また横軸は長さであり、目盛は付けていないが測定長は12mmである。
従来の表面粗さ測定では図10(a)から中心線平均粗さRa、最大高さRmax、Rz等を求めていた。
【0090】
また、図10(b)の6個のグラフは第一回目の多重解像度解析(MRA−1)結果であり、最も上にあるのが最高周波成分(HHH)のグラフ、最も下にあるのが、最低周波数成分(HLL)のグラフである。
【0091】
ここで、図10(b)において最も上にあるグラフ(101)は一回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分であり、本発明ではこれをHHHと呼ぶ。
・グラフ(102)は、一回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より1つ低い周波数成分であり、本発明ではこれをHHLと呼ぶ。
・グラフ(103)は、一回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より2つ低い周波数成分であり、本発明ではこれをHMHと呼ぶ。
・グラフ(104)は、一回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より3つ低い周波数成分であり、本発明ではこれをHMLと呼ぶ。
・グラフ(105)は、一回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より4つ低い周波数成分であり、本発明ではこれをHLHと呼ぶ。
・グラフ(106)は、一回目の多重解像度解析結果の最低周波数成分であり、本発明ではこれをHLLと呼ぶ。
【0092】
本発明において、図10(a)のグラフはその周波数によって、図10(b)の6個のグラフに分離するが、その周波数分離の状態を図11に示す。
【0093】
図11において、横軸は凹凸の形状が正弦波とした場合の、長さ1mm当たりに出現する凹凸数である。また、縦軸は、各帯域に分離された場合の割合を示すものである。
【0094】
図11において、(121)は一回目の多重解像度解析(MRA−1)における最高周波成分(HHH)の帯域、(122)は一回目の多重解像度解析における最高周波成分より1つ低い周波数成分(HHL)の帯域、(123)は一回目の多重解像度解析における最高周波成分より2つ低い周波数成分(HMH)の帯域、(124)は一回目の多重解像度解析における最高周波成分より3つ低い周波数成分(HML)の帯域、(125)は一回目の多重解像度解析における最高周波成分より4つ低い周波数成分(HLH)の帯域、(126)は一回目の多重解像度解析における最低周波数成分(HLL)の帯域である。
【0095】
図11をより詳細に説明すると、1mm当たりの凹凸数が20個以下の場合は、すべてグラフ(126)に出現することを示す。例えば、凹凸数が1mm当たり110個の場合、グラフ(124)に最も強く出現し、これは図10(b)においてはHMLに出現する。また、凹凸数が1mm当たり220個の場合、グラフ(123)に最も強く出現し、これは図10(b)においては、HMHに出現することを示している。また、凹凸数が1mm当たり310個の場合、グラフ(122)と(123)に出現し、これは図10(b)においては、HHLとHMHの両方に出現することを示している。したがって、表面粗さの周波数によって、図10(b)の6本のグラフでどこに現われるか決まってくる。言い換えると、表面粗さにおいて、細かなザラツキは図10(b)において上の方のグラフに出現し、大きな表面うねりは図10(b)において下の方のグラフに出現する。
【0096】
本発明ではこのように、表面粗さをその周波数によって分解する。これをグラフとしたものが図10(b)であるが、この周波数帯域ごとグラフからそれぞれの周波数帯域での表面粗さを求める。ここで、表面粗さとしては、中心線平均粗さRa、最大高さ Rmax、十点平均粗さRzを計算することが可能である。
このようにして、図10(b)では、それぞれのグラフに、中心線平均粗さRa、最大高さ Rmax、十点平均粗さRzを数値で示している。
【0097】
本発明ではこのように表面粗さ・輪郭形状測定機で測定したデータその周波数によって複数のデータに分離するので、各周波数帯域における凹凸変化量を測定できる。
【0098】
さらに本発明では、このように周波数によって図10(b)のように分離したデータから、最も低い周波数、すなわちHLLのデータを間引きする。
【0099】
本発明は間引きをどのようにするか、すなわち何個のデータから取り出すか実験によって決めればよく、間引き数を最適にすることによって図11に示す多重解像度解析における周波数帯域分離を最適化することが可能となり、目的とする周波数をその帯域の中心にとることが可能になる。
【0100】
図10では40個から1個のデータを取る間引きを行った。
間引きした結果を図12に示す。図12では縦軸は表面凹凸であり、単位はμmである。また横軸に目盛は付けていないが、長さ12mmである。
【0101】
本発明では図8のデータを更に多重解像度解析する。すなわち二回目の多重解像度解析(MRA−2)を行う。
【0102】
図10(c)の6個のグラフは第二回目の多重解像度解析(MRA−2)結果であり、最も上にあるグラフ(107)は、二回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分であり、これをLHHと呼ぶ。
・グラフ(108)は、二回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より1つ低い周波数成分であり、これをLHLと呼ぶ。
・グラフ(109)は、二回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より2つ低い周波数成分であり、これをLMHと呼ぶ。
・グラフ(110)は、二回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より3つ低い周波数成分であり、これをLMLと呼ぶ。
・グラフ(111)は、二回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より4つ低い周波数成分であり、これをLLHと呼ぶ。
・グラフ(112)は、二回目の多重解像度解析結果の最低周波数成分であり、これをLLLと呼ぶ。
【0103】
本発明において、図10(c)では、その周波数によって、6個のグラフに分離しているが、その周波数分離の状態を図13に示す。
【0104】
図13において、横軸は凹凸の形状が正弦波とした場合の、長さ1mm当たりに出現する凹凸数である。また、縦軸は、各帯域に分離された場合の割合を示すものである。
【0105】
図13において、(127)は二回目の多重解像度解析における最高周波成分(LHH)の帯域、(128)は二回目の多重解像度解析における最高周波成分より1つ低い周波数成分(LHL)の帯域、(129)は二回目の多重解像度解析における最高周波成分より2つ低い周波数成分(LMH)の帯域、(130)は二回目の多重解像度解析における最高周波成分より3つ低い周波数成分(LML)の帯域、(131)は二回目の多重解像度解析における最高周波成分より4つ低い周波数成分(LLH)の帯域、(132)は二回目の多重解像度解析における最低周波数成分(LLL)の帯域である。
【0106】
図13をより詳細に説明すると、1mm当たりの凹凸数が0.2個以下の場合は、すべてグラフ(132)に出現することを示す。
【0107】
例えば、凹凸数が1mm当たり11個の場合、グラフ(128)が最も高くなっているが、これは、二回目の多重解像度解析における最高周波成分より1つ低い周波数成分の帯域に最も強く出現することを示しており、図10(c)においては、LMLに出現することを示している。
したがって、表面粗さの周波数によって、図10(c)の6本のグラフでどこに現われるか決まってくる。
【0108】
言い換えると、表面粗さにおいて、細かなザラツキは図10(c)において上の方のグラフに出現し、大きな表面うねりは図10(c)において下の方のグラフに出現する。
【0109】
本発明ではこのように、表面粗さをその周波数によって分解する。これをグラフとしたものが図10(c)であるが、この周波数帯域ごとグラフからそれぞれの周波数帯域での表面粗さを求める。ここで、表面粗さとしては、中心線平均粗さRa(WRa)、最大高さRmax(WRmax)、十点平均粗さRz(WRz)を計算することが可能である。
【0110】
このようにして電子写真感光体表面の凹凸形状を表面粗さ・輪郭形状測定機により測定して得た一次元データ配列を、ウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至る複数の周波数成分に分離する多重解像度解析を行い、更に、ここで得た最低周波数成分を間引きした一次元データ配列を作り、この一次元データ配列に対して更にウェーブレット変換を行って、高周波数成分から低周波数成分に至る複数の周波数成分に分離する多重解像度解析を行い、得た各周波数成分に対して、中心線平均粗さRa(WRa)、最大高さRmax(WRmax)、十点平均粗さRz(WRz)を求めた結果を表1に示す。
【0111】
【表1】

【0112】
先の図10 の断面曲線について、本発明の多重解像度解析結果から求めた表面粗さを各信号順にプロットして線で結ぶと、図14のプロファイルを得る。ここで、LHH成分は算術上、突出した値になるため、この帯域の多重解像度解析結果から求めた表面粗さを省略している。本発明ではこのプロファイルを表面粗さスペクトルまたは粗さスペクトルと称する。
【0113】
以下、図面を参照しつつ本発明の電子写真感光体について詳細に説明する。
図15は本発明の層構成を有する電子写真感光体の一例を模式的に示す断面図であり、導電性支持体(21)上に電荷発生層(25)と電荷輸送層(26)と架橋表面層(28)が設けられている。
【0114】
図16は本発明の更に別の層構成を有する電子写真感光体の一例を模式的に示す断面図であり、導電性支持体(21)と電荷発生層(25)の間に下引き層(24)が設けられ、電荷発生層(25)の上に電荷輸送層(26)と架橋表面層(28)が設けられている。
【0115】
−導電性支持体−
導電性支持体(21)としては、体積抵抗1010Ω・cm以下の導電性を示すもの、例えばアルミニウム、ニッケル、クロム、ニクロム、銅、銀、金、白金、鉄等の金属、酸化スズ、酸化インジウム等の酸化物を、蒸着またはスパッタリングによりフィルム状または円筒状のプラスチック、紙等に被覆したもの、あるいはアルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ステンレス等の板、および、それらを、Drawing Ironing法、Impact Ironing法、Extruded Ironing法、Extruded Drawing法、切削法等の工法により素管化後、切削、超仕上げ、研磨等により表面処理した管等を使用することができる。
【0116】
−下引き層(24)−
本発明に用いられる電子写真感光体には、導電性支持体と感光層(前記電荷発生層25と前記電荷輸送層26とが積層したもの)との間に下引き層(24)を設けることができる。下引き層は、接着性の向上、モアレの防止、上層の塗工性の改良、導電性支持体からの電荷注入の防止等の目的で設けられる。
【0117】
下引き層は通常、樹脂を主成分とする。通常、下引き層の上に感光層を塗布するため、下引き層に用いる樹脂は有機溶剤に難溶である熱硬化性樹脂が好ましい。特に、ポリウレタン、メラミン樹脂、アルキッド−メラミン樹脂は以上の目的を十分に満たすものが多く、特に好ましい材料である。樹脂はテトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、ジオキサン、ジクロロエタン、ブタノン等の溶媒を用いて適度に希釈したものを塗料とすることができる。
【0118】
また、下引き層には、伝導度の調節やモアレを防止するために、金属、または金属酸化物等の微粒子を加えてもよく、特に酸化チタンが好ましく用いられる。
【0119】
微粒子はテトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、ジオキサン、ジクロロエタン、ブタノン等の溶媒を用いてボールミル、アトライター、サンドミル等により分散し、分散液と樹脂成分を混合した塗料とする。
【0120】
下引き層は以上の塗料を浸漬塗工法、スプレーコート法、ビードコート法等で導電性支持体上に成膜する。必要な場合、加熱硬化することで形成される。
【0121】
下引き層の膜厚は2〜5μm程度が適当になるケースが多い。感光体の残留電位の蓄積が大きくなる場合、3μm未満にするとよい。
【0122】
本発明における感光層は、電荷発生層と電荷輸送層を順次積層させた積層型感光層が好適である。ただし、本発明における感光層は、電荷発生能と電荷輸送能とを兼ね備えた単層型感光層であってもよい。
【0123】
−電荷発生層(25)−
積層型感光体における各層のうち、電荷発生層(25)について説明する。
電荷発生層は、積層型感光層の一部を指し、露光によって電荷を発生する機能(電荷発生能)をもつ。この層は含有される化合物のうち、電荷発生物質を主成分とする。電荷発生層は必要に応じてバインダー樹脂を用いることもある。電荷発生物質としては、無機系材料と有機系材料を用いることができる。
【0124】
無機系材料としては、結晶セレン、アモルファス・セレン、セレン−テルル、セレン−テルル−ハロゲン、セレン−ヒ素化合物や、アモルファスシリコン等が挙げられる。アモルファスシリコンにおいては、ダングリングボンドを水素原子またはハロゲン原子でターミネートしたものや、ホウ素原子、リン原子等をドープしたものが好ましく用いられる。
【0125】
一方、有機系材料としては、公知の材料を用いることができ、例えば、チタニルフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン等の金属フタロシアニン、無金属フタロシアニン、アズレニウム塩顔料、スクエアリック酸メチン顔料、カルバゾール骨格を有する対称型もしくは非対称型のアゾ顔料、トリフェニルアミン骨格を有する対称型もしくは非対称型のアゾ顔料、フルオレノン骨格を有する対称型もしくは非対称型のアゾ顔料、ペリレン系顔料等が挙げられる。このうち、金属フタロシアニン、フルオレノン骨格を有する対称型もしくは非対称型のアゾ顔料、トリフェニルアミン骨格を有する対称型もしくは非対称型のアゾ顔料およびペリレン系顔料は電荷発生の量子効率が軒並み高く、本発明に用いる材料として好適である。これらの電荷発生物質は、単独でも二種以上の混合物として用いてもよい。
【0126】
電荷発生層に必要に応じて用いられるバインダー樹脂としては、ポリアミド、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリケトン、ポリカーボネート、ポリアリレート、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルケトン、ポリスチレン、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリアクリルアミド等が挙げられる。また、後述する高分子電荷輸送物質を用いることもできる。このうちポリビニルブチラールが使用されることが多く、有用である。これらのバインダー樹脂は、単独でも二種以上の混合物として用いてもよい。
【0127】
電荷発生層を形成する方法としては、大きく分けて真空薄膜作製法と溶液分散系からのキャスティング法がある。
【0128】
前者の方法には、真空蒸着法、グロー放電分解法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、CVD(化学気相成長)法等があり、上述した無機系材料や有機系材料からなる層が良好に形成できる。
【0129】
また、キャスティング法によって電荷発生層を設けるには、上述した無機系または有機系電荷発生物質を、必要ならばバインダー樹脂と共にテトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、ジオキサン、ジクロロエタン、ブタノン等の溶媒を用いてボールミル、アトライター、サンドミル等により分散し、分散液を適度に希釈して塗布すればよい。このうちの溶媒として、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノンは、クロロベンゼンやジクロロメタン、トルエンおよびキシレンと比較して環境負荷の程度が低いため好ましい。塗布は、浸漬塗工法、スプレーコート法、ビードコート法等により行うことができる。
【0130】
以上のようにして設けられる電荷発生層の膜厚は通常、0.01〜5μm程度が適当である。
残留電位の低減や高感度化が必要となる場合、電荷発生層は厚膜化するとこれらの特性が改良されることが多い。反面、帯電電荷の保持性や空間電荷の形成等帯電性の劣化を来すことも多い。これらのバランスから電荷発生層の膜厚は0.05〜2μmの範囲がより好ましい。
【0131】
また、必要により、電荷発生層中に後述する酸化防止剤、可塑剤、滑剤、紫外線吸収剤等の低分子化合物およびレベリング剤を添加することもできる。これらの化合物は単独または二種以上の混合物として用いることができる。低分子化合物およびレベリング剤を併用すると感度劣化を来すケースが多い。このため、これらの使用量は概して、0.1〜20phr、好ましくは、0.1〜10phr、レベリング剤の使用量は、0.001〜0.1phr程度が適当である。
【0132】
−電荷輸送層(26)−
電荷輸送層は電荷発生層で生成した電荷を注入、輸送し、帯電によって設けられた感光体の表面電荷を中和する機能(電荷輸送能)を担う積層型感光層の一部を指す。電荷輸送層の主成分は電荷輸送成分とこれを結着するバインダー成分ということができる。
【0133】
電荷輸送物質に用いることのできる材料としては、低分子型の電子輸送物質、正孔輸送物質および高分子電荷輸送物質が挙げられる。
【0134】
電子輸送物質としては、例えば非対称ジフェノキノン誘導体、フルオレン誘導体、ナフタルイミド誘導体等の電子受容性物質が挙げられる。これらの電子輸送物質は、単独でも二種以上の混合物として用いてもよい。
【0135】
正孔輸送物質としては、電子供与性物質が好ましく用いられる。その例としては、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、トリフェニルアミン誘導体、ブタジエン誘導体、9−(p−ジエチルアミノスチリルアントラセン)、1,1−ビス−(4−ジベンジルアミノフェニル)プロパン、スチリルアントラセン、スチリルピラゾリン、フェニルヒドラゾン類、α−フェニルスチルベン誘導体、チアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、フェナジン誘導体、アクリジン誘導体、ベンゾフラン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、チオフェン誘導体等が挙げられる。これらの正孔輸送物質は、単独でも二種以上の混合物として用いてもよい。
【0136】
また、以下に表される高分子電荷輸送物質を用いることができる。例えば、ポリ−N−ビニルカルバゾール等のカルバゾ−ル環を有する重合体、特開昭57−78402号公報等に例示されるヒドラゾン構造を有する重合体、特開昭63−285552号公報等に例示されるポリシリレン重合体、特開2001−330973号公報の一般式(1)〜一般式(6)に例示される芳香族ポリカーボネートが挙げられる。これらの高分子電荷輸送物質は、単独または二種以上の混合物として用いることができる。特に特開2001−330973号公報の例示化合物は静電特性面の性能が良好であり有用である。
【0137】
高分子電荷輸送物質は架橋表面層を積層する際、低分子型の電荷輸送物質と比べて、架橋表面層へ電荷輸送層を構成する成分の滲みだしが少なく、架橋表面層の硬化不良を防止するのに適当な材料である。また、電荷輸送物質の高分子量化により耐熱性にも優れる性状から架橋表面層を成膜する際の硬化熱による劣化が少なく有利である。
【0138】
電荷輸送層のバインダー成分として用いることのできる高分子化合物としては、例えば、ポリスチレン、ポリエステル、ポリビニル、ポリアリレート、ポリカーボネート、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂等の熱可塑性または熱硬化性樹脂が挙げられる。このうち、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアリレート、ポリカーボネートは電荷輸送成分のバインダー成分として用いる場合、電荷移動特性が良好な性能を示すものが多く、有用である。また、電荷輸送層はこの上層に架橋表面層が積層されるため、電荷輸送層は従来型の電荷輸送層に対する機械強度の必要性が要求されない。このため、ポリスチレン等、透明性が高いものの機械強度が多少低い材料で従来技術では適用が難しいとされた材料も、電荷輸送層のバインダー成分として有効に利用することができる。
【0139】
これらの高分子化合物は単独または二種以上の混合物として、あるいはそれらの原料モノマー二種以上からなる共重合体として、更には、電荷輸送物質と共重合化して用いることができる。
【0140】
電荷輸送層の改質に際して電気的に不活性な高分子化合物を用いる場合にはフルオレン等の嵩高い骨格をもつカルドポリマー型のポリエステル、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル、C型ポリカーボネートのようなビスフェノール型のポリカーボネートに対してフェノール成分の3,3’部位がアルキル置換されたポリカーボネート、ビスフェノールAのジェミナルメチル基が炭素数2以上の長鎖のアルキル基で置換されたポリカーボネート、ビフェニルまたはビフェニルエーテル骨格をもつポリカーボネート、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクトンの様な長鎖アルキル骨格を有するポリカーボネート(例えば、特開平7−292095号公報に記載)やアクリル樹脂、ポリスチレン、水素化ブタジエンが有効である。
【0141】
ここで電気的に不活性な高分子化合物とは、トリアリールアミン構造のような光導電性を示す化学構造を含まない高分子化合物を指す。これらの樹脂を添加剤としてバインダー樹脂と併用する場合、光減衰感度の制約から、その添加量は、電荷輸送層の全固形分に対して50wt%以下とすることが好ましい。
【0142】
低分子型の電荷輸送物質を用いる場合、その使用量は40〜200phr、好ましくは70〜100phr程度が適当である。また、高分子電荷輸送物質を用いる場合、電荷輸送成分100重量部に対して樹脂成分が0〜200重量部、好ましくは80〜150重量部程度の割合で共重合された材料が好ましく用いられる。
【0143】
また電荷輸送層に二種以上の電荷輸送物質を含有させる場合、これらのイオン化ポテンシャル差は小さい方が好ましく、具体的にはイオン化ポテンシャル差を0.10eV以下とすることにより、一方の電荷輸送物質が他方の電荷輸送物質の電荷トラップとなることを防止することができる。
このイオン化ポテンシャルの関係は電荷輸送層に含有する電荷輸送物質と後述する硬化性電荷輸送物質との関係についても同様にこれらの差は0.10eVにするとよい。なお、本発明における電荷輸送物質のイオン化ポテンシャル値は理研計器社製大気雰囲気型紫外線光電子分析装置AC−1により一般的な方法で計測して得られた数値である。
【0144】
高感度化を満足させるには電荷輸送成分の配合量を70phr以上とすることが好ましい。また、電荷輸送物質としてα−フェニルスチルベン化合物、ベンジジン化合物、ブタジエン化合物の単量体、二量体およびこれらの構造を主鎖または側鎖に有する高分子電荷輸送物質は電荷移動度の高い材料が多く有用である。
【0145】
電荷輸送層塗料を調製する際に使用できる分散溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチルセロソルブ等のエーテル類、トルエン、キシレン等の芳香族類、クロロベンゼン、ジクロロメタン等のハロゲン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類等を挙げることができる。このうち、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノンは、クロロベンゼンやジクロロメタン、トルエンおよびキシレンと比較して環境負荷の程度が低いため好ましい。これらの溶媒は単独としてまたは混合して用いることができる。
【0146】
電荷輸送層は電荷輸送成分とバインダー成分を主成分とする混合物ないし共重合体を適当な溶剤に溶解ないし分散し、これを塗布、乾燥することにより形成できる。塗工方法としては浸漬法、スプレー塗工法、リングコート法、ロールコータ法、グラビア塗工法、ノズルコート法、スクリーン印刷法等が採用される。
【0147】
電荷輸送層の上層には、架橋表面層が積層されているため、この構成における電荷輸送層の膜厚は、実使用上の膜削れを考慮した電荷輸送層の厚膜化の設計が不要である。電荷輸送層の膜厚は、実用上、必要とされる感度と帯電能を確保する都合、10〜40μm程度が適当であり、より好ましくは15〜30μm程度が適当である。
【0148】
また、必要により、電荷輸送層中に後述する酸化防止剤、可塑剤、滑剤、紫外線吸収剤等の低分子化合物およびレベリング剤を添加することもできる。これらの化合物は単独または二種以上の混合物として用いることができる。低分子化合物およびレベリング剤を併用すると感度劣化を来すケースが多い。このため、これらの使用量は概して、0.1〜20phr、好ましくは、0.1〜10phr、レベリング剤の使用量は、0.001〜0.1phr程度が適当である。
【0149】
−架橋表面層(28)−
架橋表面層は感光体表面に製膜される保護層を指す。この保護層は樹脂(モノマー)成分を含有する塗料がコーティングされた後、重縮合反応によって架橋構造の樹脂が製膜される。樹脂膜が架橋構造をもつため感光体各層のなかで最も耐摩耗性が強靱である。また、架橋の電荷輸送性の構造単位が含まれるため電荷輸送層と類似の電荷輸送性を示す。
これに対し本発明において、微小硬度計によるマルテンス硬さが160N/mm以上でかつ、弾性仕事率が35%以上の表面層は対象とし、これ以外は対象とされない。また、感光体の残留電位が300Vを越えないものを対象とする。後述する実施例は全てこの条件を満たしている。
【0150】
(溝形成)
次に、本発明に係る電子写真感光体における表面に形成された溝の形状について説明する。
本発明では少なくとも、感光体表面に互いに交差しない溝を有し、この溝は幅が60μm以上400μm以下であり、溝の深さが0.2μm以上2μm以下であり、さらに溝の深さの標準偏差が任意4カ所の測定値の平均値に対して1/10以下であり、溝の方向が感光体の主走査と副走査方向に対して斜行するように形成されていることが重要である。このような特別な形状を有する様に加工を施す必要があるが、その方法としてインクジェット方式が有効である。
【0151】
(粗面化)
本発明では感光体表面のWRa(LMH)に対するWRa(LHH)の比を2倍から3倍に設定させることが重要である。このための感光体表面の特別な粗面化が必要となる。この具体的な方策として、表面形状の制御が期待される試薬類の添加として、架橋表面層へのフィラーの配合、ゾル−ゲル系塗料の配合や種々ガラス転移点の異なる樹脂のポリマーブレンド、有機微粒子の添加、発泡剤の添加、シリコーンオイルの大量添加が挙げられる。また、表面層の製膜条件の制御として、塗料中に多量の水分を加えたり、種々沸点の異なる液体試薬を添加したりする手段が挙げられる。また、架橋表面層用塗料をコーティングした直後の未硬化前のウェット膜に対して、有機溶剤や水を散布する手段も考えられる。他に、架橋型樹脂膜を硬化した後、追加工として、サンドブラスト処理やラッピングフィルム等の研磨紙で表面研磨する手段も考えられる。
【0152】
感光体の粗面化は上述のとおり、種々の方法が考えられるものの、WRa(LMH)に対するWRa(LHH)の比を2倍から3倍に設定させることは容易ではない。
製膜条件のコントロールによって、多少の凹凸を変えることも可能であるが偶発性が高く生産に不向きである。このWRa(LMH)に対するWRa(LHH)の比を2倍から3倍に設定させる方策として、六方稠密構造のα−アルミナとグラフトタイプないしブロック共重合体タイプのフィラー分散剤を用いることで実現できた。この場合の分散剤は、感光体の残留電位を蓄積しやすく一般には使用しない。酸化スズが露光部電位を低減する効果と相殺し、この組み合わせで使用できたと考えられる。
六方稠密構造のα−アルミナは住友化学社からスミコランダムの商号で上市されているものが利用できるがこれに限らない。分散剤はビックケミー社のDisperBYKシリーズ、楠本化成社のDISPERLONシリーズ等が利用できる。
【0153】
(ラジカル重合性材料成分)
本発明では電子写真感光体表面に酸化スズ微粒子を用いることに起因する画像流れを解消する目的で特にトリメチロールプロパントリアクリレートを用いると良い。トリメチロールプロパンの利用は他に感光体表面の耐摩耗性の強化にも優れる。
【0154】
3官能以上のバインダー成分はカプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートないしジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを含有させるとよい。これにより架橋膜自体の耐摩耗性が向上したり、強靱性が増大したりすることが多い。
【0155】
電荷輸送性構造を有しない3官能以上のラジカル重合性モノマーはトリメチロールプロパントリアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが好ましい。
これらは東京化成社等の試薬メーカー、日本化薬社KAYARD DPCAシリーズ、同DPHAシリーズ等を入手することができる。
また、硬化を促進させたり、安定化させたりするためにチバ・スペシャリティ・ケミカルズ社イルガキュア184等の開始剤を全固形分に対して5〜10wt%程度加えてもよい。
架橋性の電荷輸送材料としては、アクリロイルオキシ基やスチレン基を有する連鎖重合系の化合物、水酸基やアルコキシシリル基、イソシアネート基を有する逐次重合系の化合物が挙げられ、電荷輸送構造を含み(メタ)アクリロイルオキシ基を一つ以上有する化合物が利用できる。また、電荷輸送構造を含まない(メタ)アクリロイルオキシ基を1つ以上有するモノマーやオリゴマーと併用した組成の構成にしても良い。少なくとも塗工液中にこのような化合物を含有させて表面層を形成し、熱、光、或いは電子線、γ線等の放射線によるエネルギーを与えて架橋し硬化させることで架橋表面層を形成できる。架橋性の電荷輸送材料としては、例えば、以下の一般式1にある電荷輸送性化合物が挙げられる。
【0156】
【化1】

【0157】
(一般式1中、d、e、fはそれぞれ0または1の整数、g、hは0〜3の整数を表す。R13は水素原子またはメチル基を表し、R14、R15はそれぞれ炭素数1〜6のアルキル基を表し、複数の場合は異なってもよい。Zは単結合、メチレン基、エチレン基、または下記式(2)〜(4)に示す2価基のいずれかを表す。)
【0158】
【化2】

【0159】
【化3】

【0160】
【化4】

【0161】
具体的な化合物として以下に示す構造式No.1乃至No.26のものが挙げられる。
【0162】
【表2】

【0163】
【表3】

【0164】
【表4】

【0165】
架橋表面層塗料を調製する際に使用する分散溶媒はモノマーを十分に溶解するものが好ましく、上述のエーテル類、芳香族類、ハロゲン類、エステル類の他、エトキシエタノールのようなセロソルブ類、1−メトキシ−2−プロパノールのようなプロピレングリコール類を挙げることができる。このうち、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、1−メトキシ−2−プロパノールは、クロロベンゼンやジクロロメタン、トルエンおよびキシレンと比較して環境負荷の程度が低いため好ましい。これらの溶媒は単独としてまたは混合して用いることができる。
【0166】
架橋表面層塗料のコーティングとして、浸漬法、スプレー塗工法、リングコート法、ロールコータ法、グラビア塗工法、ノズルコート法、スクリーン印刷法等が挙げられる。多くの場合、塗料はポットライフが長くないため、少量の塗料で必要な分量のコーティングができる手段が環境への配慮とコスト面で有利となる。このうちスプレー塗工法とリングコート法が好適である。更に本発明の特別な形状を付与するためにインクジェット方式を用いると良い。
【0167】
架橋表面層を製膜する際、主に紫外光に発光波長をもつ高圧水銀灯やメタルハライドランプ等のUV照射光源が利用できる。また、ラジカル重合性含有物や光重合開始剤の吸収波長に合わせ可視光光源の選択も可能である。照射光量は50mW/cm以上、1000mW/cm以下が好ましく、50mW/cm未満では硬化反応に時間を要する。1000mW/cmより強いと反応の進行が不均一となり、架橋型電荷輸送層表面に局部的な皺が発生したり、多数の未反応残基、反応停止末端が生じたりする。また、急激な架橋により内部応力が大きくなり、クラックや膜剥がれの原因となる。
【0168】
必要により、架橋表面層中に電荷発生層で記載した酸化防止剤、可塑剤、滑剤、紫外線吸収剤等の低分子化合物およびレベリング剤、また電荷輸送層で記載した高分子化合物を添加することもできる。これらの化合物は単独または二種以上の混合物として用いることができる。低分子化合物およびレベリング剤を併用すると感度劣化を来すケースが多い。このため、これらの使用量は概して塗料総固形分中の0.1〜20wt%、好ましくは0.1〜10wt%、レベリング剤の使用量は0.1〜5wt%程度が適当である。
【0169】
架橋表面層の膜厚は3〜15μm程度が適当である。下限は製膜コストに対する効果度合いから算定される値であり、上限は帯電安定性や光減衰感度等の静電特性と膜質の均質性から設定される。
【0170】
(斜行溝の形成)
本発明において感光体表面に互いに交差しない溝を有し、その溝の幅が60μm以上400μm以下であり、溝の深さが0.2μm以上2μm以下であり、さらに溝の深さの標準偏差が任意4カ所の測定値の平均値に対して1/10以下であり、溝の方向が感光体の主走査と副走査方向に対して斜行するように形成することが重要である。
本発明では感光体が移動する方向あるいは回転する方向を便宜上副走査方向と定義する。副走査方向の垂直線を主走査方向とし、例えばドラム上の感光体であればこの主走査方向はドラムの軸方向と一致する。溝の方向はこれらの副走査方向と主走査方向を基準に決定する。この関係の一例を図17に示す。この副走査方向に対する斜行溝の角度は感光体の線速やプロセス条件に応じて潤滑剤が感光体上に入力される量と排出される出力の効率が高くなる角度を決定すると良い。但し、主走査方向及び副走査方向と平行にしないことが重要である。これはいずれも潤滑剤の固着原因となるためである。また、本発明の場合、溝の交差がないため、感光体と摺擦する部材へダメージを与えることが少ない。
【0171】
このような感光体表面に特別なパターンを形成する方法としてインクジェット方式の利用は極めて都合が良い。
また、インクジェット方式を利用する場合、インクジェットヘッドから吐出される液滴がはじかれぬよう下地の表面を制御する必要がある。特に、下地にレベリング剤として汎用されるシリコーンオイルが存在すると所望の製膜が困難となる。これに対し、リコート性を可能にするアクリル系レベリング剤としてビックケミー社や共栄社化学社から上市されている。具体的にはBYK−350、BYK−355、BYK−356、BYK−358N、BYK−361N(以上、ビックケミー社)、ポリフローシリーズ(共栄社化学社)が有効である。
【0172】
(画像形成装置の形態)
以下、図面に沿って本発明で用いられる画像形成装置を説明する。本発明の画像形成装置には後述する潤滑剤を感光体表面に入力する手段が取り付けられる。簡単のため、この手段は画像形成装置の説明の後に別に説明する。
【0173】
図18は、本発明の画像形成装置を説明するための概略図であり、後述するような変形例も本発明の範疇に属するものである。
【0174】
図18において、感光体(11)は、架橋表面層を積層する電子写真感光体である。感光体(11)はドラム状の形状を示しているが、シート状、エンドレスベルト状のものであってもよい。
【0175】
帯電手段(12)は、コロトロン、スコロトロン、固体帯電器(ソリッド・ステート・チャージャー)、帯電ローラをはじめとする公知の手段が用いられる。帯電手段は、消費電力の低減の観点から、感光体に対し接触もしくは近接配置したものが良好に用いられる。なかでも、帯電手段への汚染を防止するため、感光体と帯電手段表面の間に適度な空隙を有する感光体近傍に近接配置された帯電機構が望ましい。転写手段(16)には、一般に上記の帯電器を使用できるが、転写チャージャーと分離チャージャーを併用したものが効果的である。
【0176】
露光手段(13)、除電手段(1A)等に用いられる光源には、蛍光灯、タングステンランプ、ハロゲンランプ、水銀灯、ナトリウム灯、発光ダイオード(LED)、半導体レーザー(LD)、エレクトロルミネッセンス(EL)等の発光物全般を挙げることができる。そして、所望の波長域の光のみを照射するために、シャープカットフィルター、バンドパスフィルター、近赤外カットフィルター、ダイクロイックフィルター、干渉フィルター、色温度変換フィルター等の各種フィルターを用いることもできる。
【0177】
現像手段(14)により感光体上に現像されたトナー(15)は、印刷用紙やOHP用スライド等の印刷メディア(18)に転写されるが、全部が転写されるわけではなく、感光体上に残存するトナーも生ずる。このようなトナーは、クリーニング手段(17)により、感光体より除去される。クリーニング手段は、ゴム製のクリーニングブレードやファーブラシ、マグファーブラシ等のブラシ等を用いることができる。
【0178】
電子写真感光体に正(負)帯電を施し、画像露光を行うと、感光体表面上には正(負)の静電潜像が形成される。これを負(正)極性のトナー(検電微粒子)で現像すれば、ポジ画像が得られるし、また正(負)極性のトナーで現像すれば、ネガ画像が得られる。かかる現像手段には、公知の方法が適用され、また、除電手段にも公知の方法が用いられる。印刷メディア(18)上に現像されたトナー画像は、感光体(11)と転写手段(16)との対向位置から定着手段(19)に搬送され、この定着手段(19)により印刷メディア(18)に定着される。
【0179】
図19には、本発明による電子写真プロセスの別の例を示す。図19において、感光体(11)は、架橋表面層を積層する電子写真感光体である。感光体(11)はベルト状の形状を示しているが、ドラム状、シート状、エンドレスベルト状のものであってもよい。感光体(11)は駆動手段(1C)により駆動され、帯電手段(12)による帯電、露光手段(13)による像露光、現像(図示せず)、転写手段(16)による転写、クリーニング前露光手段(1B)によるクリーニング前露光、クリーニング手段(17)によるクリーニング、除電手段(1A)による除電が繰返し行われる。図19においては、感光体(この場合は支持体が透光性である)の支持体側よりクリーニング前露光の光照射が行われる。
【0180】
以上の電子写真プロセスは、本発明における実施形態を例示するものであって、もちろん他の実施形態も可能である。例えば、図19において支持体側よりクリーニング前露光を行っているが、これは感光層側から行ってもよいし、また、像露光、除電光の照射を支持体側から行ってもよい。一方、光照射工程は、像露光、クリーニング前露光、除電露光が図示されているが、他に転写前露光、像露光のプレ露光、およびその他公知の光照射工程を設けて、感光体に光照射を行うこともできる。
【0181】
また、以上に示すような画像形成手段は、複写機、ファクシミリ、プリンター内に固定して組み込まれていてもよいが、プロセスカートリッジの形でそれら装置内に組み込まれてもよい。プロセスカートリッジの形状は多く挙げられるが、一般的な例として、図20に示すものが挙げられる。感光体(11)はドラム状の形状を示しているが、シート状、エンドレスベルト状のものであってもよい。
【0182】
図21には本発明による画像形成装置の別の例を示す。この画像形成装置では、感光体(11)の周囲に帯電手段(12)、露光手段(13)、ブラック(Bk)、シアン(C)、マゼンタ(M)、およびイエロー(Y)の色ごとの現像手段(14Bk、14C、14M、14Y)、中間転写体である中間転写ベルト(1F)、クリーニング手段(17)が順に配置されている。ここで、図21中に示す(Bk、C、M、Y)の添字は上記のトナーの色に対応し、必要に応じて添字を付けたり適宜省略する。感光体(11)は、架橋表面層を積層する電子写真感光体である。各色の現像手段(14Bk、14C、14M、14Y)は各々独立に制御可能となっており、画像形成を行う色の現像手段のみが駆動される。感光体(11)上に形成されたトナー像は中間転写ベルト(1F)の内側に配置された第1の転写手段(1D)により、中間転写ベルト(1F)上に転写される。第1の転写手段(1D)は感光体(11)に対して接離可能に配置されており、転写動作時のみ中間転写ベルト(1F)を感光体(11)に当接させる。各色の画像形成を順次行い、中間転写ベルト(1F)上で重ね合わされたトナー像は第2の転写手段(1E)により、印刷メディア(18)に一括転写された後、定着手段(19)により定着されて画像が形成される。第2の転写手段(1E)も中間転写ベルト(1F)に対して接離可能に配置され、転写動作時のみ中間転写ベルト(1F)に当接する。
【0183】
転写ドラム方式の画像形成装置では、転写ドラムに静電吸着させた印刷メディアに各色のトナー像を順次転写するため、厚紙にはプリントできないという印刷メディアの制限があるのに対し、図21に示すような中間転写方式の画像形成装置では中間転写体(1F)上で各色のトナー像を重ね合わせるため、印刷メディアの制限を受けないという特長がある。このような中間転写方式は図21に示す装置に限らず前述の図18、図19、図20および後述する図22(具体例を図23に記す。)に記すような画像形成装置に適用することができる。
【0184】
図22には本発明による画像形成装置の別の例を示す。この画像形成装置は、トナーとしてイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(Bk)の4色を用いるタイプとされ、色ごとに画像形成部が配設されている。また、各色の感光体(11Y、11M、11C、11Bk)が設けられている。この画像形成装置に用いられる感光体11は、架橋表面層を積層する電子写真感光体である。各感光体(11Y、11M、11C、11Bk)の周りには、帯電手段(12)、露光手段(13)、現像手段(14)、クリーニング手段(17)等が配設されている。また、直線上に配設された各感光体(11Y、11M、11C、11Bk)の各転写位置に接離する転写材担持体としての搬送転写ベルト(1G)が駆動手段(1C)にて掛け渡されている。この搬送転写ベルト(1G)を挟んで各感光体(1Y、1M、1C、1Bk)に対向する転写位置には転写手段(16)が配設されている。
【0185】
図22の形態のようなタンデム方式の画像形成装置は、色ごとに感光体(1Y、1M、1C、1Bk)をもち、各色のトナー像を搬送転写ベルト(1G)に保持された印刷メディア(18)に順次転写するため、感光体を一つしかもたないフルカラー画像形成装置に比べ、はるかに高速のフルカラー画像の出力が可能となる。印刷メディア(18)上に現像されたトナー画像は、感光体(11Bk)と転写手段(16Bk)との対向位置から定着手段(19)に搬送され、この定着手段(19)により印刷メディア(18)に定着される。
【0186】
(潤滑剤供給)
本発明では、図24に示すように固体潤滑剤(3A)を感光体表面に供給するための潤滑剤供給手段として、潤滑剤塗布装置(3C)を上記の画像形成装置の全てについて設けている。この潤滑剤塗布装置は、塗布部材としてのファーブラシ(3B)、潤滑剤(3A)、潤滑剤をファーブラシ方向に押圧するための加圧バネ(不図示)を有している。このときの潤滑剤(3A)はバー状に成型された潤滑剤である。ファーブラシ(3B)は感光体表面にブラシ先端が当接しており、軸を中心に回転することによって潤滑剤(3A)をいったんブラシに汲み上げ、感光体表面との当接位置までブラシ上に担持搬送して感光体表面に塗布する。ここで、本発明では、良質な潤滑剤塗布性を発現する条件として、支配的な周波数成分における電子写真感光体の凹凸が毎秒250個〜1000個の割合で塗布ブレードを通過する感光体線速条件を満足することが重要な条件となる。
【0187】
また、経時で潤滑剤(3A)がファーブラシ(3B)に掻き削られて減少してもファーブラシ(3B)に接触しなくならないように、加圧バネ(不図示)によって所定の圧力で潤滑剤(3A)がファーブラシ(3B)側に押圧されている。これによって、微量の潤滑剤(3A)でも常に均一にファーブラシ(3B)に汲み上げられる。
【0188】
また、感光体表面に付着した潤滑剤の定着性を高めるための潤滑剤定着手段を設けてもよい。この手段はクリーニングブレードのような板をトレーリング方式またはカウンター方式で感光体に押し合てる手段がある。
【0189】
潤滑剤(3A)としては、例えば、オレイン酸鉛、オレイン酸亜鉛、オレイン酸銅、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸コバルト、ステアリン酸鉄、ステアリン酸銅、パルミチン酸亜鉛、パルミチン酸銅、リノレン酸亜鉛等の脂肪酸金属塩類や、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリトリフルオロクロルエチレン、ジクロロジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−オキサフルオロプロピレン共重合体等のフッ素系樹脂が挙げられるが、特に感光体(1)の摩擦係数を低減する効果の大きいステアリン酸金属塩、更にはステアリン酸亜鉛が一層好ましい。
【実施例】
【0190】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこの実施例に何ら限定されるものではない。
【0191】
はじめに、本発明に関わる試験と測定方法について述べる。
(1)感光体表面形状の測定
表面粗さ・輪郭形状測定機(東京精密社、Surfcom 1400D)にて、電子写真感光体表面をピックアップ:E−DT−SH01Aを取り付けて、測定長さ12mm、測定速度;0.06mm/sの条件で一つの感光体につき4箇所測定した。
【0192】
(2)画像評価
画素密度が600dpi×600dpiで8×8のマトリクス中に4ドット×4ドットを描いたハーフトーンパターンと白紙パターンを交互に連続5枚ずつ印刷し、白紙パターンの地肌汚れを目視により、以下の基準で評価した。
【0193】
5; 極めて優れている
4; 優れている
3; 問題なし
2; 僅かにくすんだ感触を受けるが実際の使用では問題ない
1; くすんだ感触を受ける。
【0194】
(3)すり抜けトナー量評価
試験開始から2時間経過して時点における塗布ブラシの重量増加量からすり抜けトナー量の大小を見積もった。
【0195】
(4)塗布ブレード摩耗量
試験終了後に回収したクリーニングブレードのカット面のうち、感光体と接触する側の先端部分をコンフォーカル顕微鏡(レーザーテック社OPTELICS H1200)で観察した。クリーニングブレードのカット面は顕微鏡の対物レンズに対して水平に対向するようにした。コンフォーカル顕微鏡に付属する画像解析ソフトLMeyeにより、クリーニングブレードの先端部分の矩形領域(90μm×180μm)の主走査方向の面粗さを求めた。
【0196】
(実施例1)
肉厚0.8mm、長さ352mm、外径φ40mmのアルミニウムドラムに、下記組成の下引き層用塗料、電荷発生層用塗料、電荷輸送層用塗料、フィラー補強電荷輸送層用塗料を順次、塗布乾燥することにより、3.5μmの下引き層、0.2μmの電荷発生層、24μmの電荷輸送層、2.5μmのフィラー補強電荷輸送層を形成した。
【0197】
〔下引き層用塗料〕
・アルキッド樹脂溶液 12重量部
(ベッコライト M6401−50,大日本インキ化学工業社製)
・メラミン樹脂溶液 8重量部
(スーパーベッカミン G−821−60,大日本インキ化学工業社製)
・酸化チタン(CR−EL 石原産業社製) 40重量部
・メチルエチルケトン 200重量部
【0198】
〔電荷発生層用塗料〕
・下記構造式(5)のビスアゾ顔料(リコー社製) 5重量部
【0199】
【化5】

【0200】
・ポリビニルブチラール(XYHL、UCC社製) 1重量部
・シクロヘキサノン 200重量部
・メチルエチルケトン 80重量部
【0201】
〔電荷輸送層用塗料〕
・Z型ポリカーボネート(パンライトTS−2050、帝人化成社製) 10重量部
・下記構造式(6)の低分子電荷輸送物質 7重量部
【0202】
【化6】

【0203】
・テトラヒドロフラン 100重量部
・1%シリコーンオイル(KF50−100CS、信越化学工業社製)
テトラヒドロフラン溶液 1重量部
【0204】
〔フィラー補強電荷輸送層用塗工液〕
Z型ポリカーボネート(パンライトTS−2050、帝人化成社製) 5.4重量部
前記構造式(6)の低分子電荷輸送物質 3.8重量部
α−アルミナ(スミコランダムAA−03、
住友化学工業社製) 9重量部
固有抵抗低下剤(BYK−P104、
ビックケミー社製) 0.01重量部
シクロヘキサノン 80重量部
テトラヒドロフラン 280重量部
【0205】
この上に下記組成の架橋表面層インクをインクジェット方式で塗工後、このドラムとUV硬化ランプから120mm距離を置いて、ドラムを回転させながらUV硬化を施した。この位置でのUV硬化ランプ照度は550mW/cm(紫外線積算光量計UIT−150、ウシオ社製による測定値)であった。また、ドラムの回転速度は25rpmとした。UV硬化を行う際、アルミニウムドラム内に30℃の水を循環させて連続4分間、UV硬化した。その後、150℃にて30分間加熱乾燥した。結果、感光体表面に溝深さ0.2μm(標準偏差=0.02μm)、溝幅が110μm、溝と溝の間隔が390μmで感光体の副走査方向に対して溝が60度、感光体の主走査方向に対して溝が30度となる斜行の溝を設けた。
インクジェットはリコープリンティングシステム社GEN3E2ヘッドを用いた。描画周波数310Hz、ヘッドと感光体感の距離は1mmとした。また、パルス電圧を50Vとした。
【0206】
〔架橋表面層インク〕
・下記構造式(7)の架橋型電荷輸送物質 300重量部
【0207】
【化7】

【0208】
・トリメチロールプロパントリアクリレート 150重量部
(KAYARAD TMPTA、日本化薬社製)
・カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 150重量部
(KAYARAD DPCA−120、日本化薬社製)
・シリコーン系レベリング剤 0.6重量部
(BYK−UV3570、ビックケミー社製)
・1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン 30重量部
(イルガキュア184、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)
・α−アルミナ(スミコランダムAA−03、住友化学社製) 60重量部
・分散剤(ディスパロンDN900、楠本化成社製) 12重量部
・テトラヒドロフラン 2090重量部
・シクロヘキサノン 697重量部
【0209】
(実施例2)
実施例1のフィラー補強電荷輸送層用塗料の代わりに下記架橋表面層塗料を用いた他は実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。架橋表面層用塗料を塗布後、このドラムとUV硬化ランプから120mm距離を置いて、ドラムを回転させながらUV硬化を施した。この位置でのUV硬化ランプ照度は550mW/cm(紫外線積算光量計UIT−150、ウシオ社製による測定値)であった。また、ドラムの回転速度は25rpmとした。UV硬化を行う際、アルミニウムドラム内に30℃の水を循環させて連続4分間、UV硬化した。その後、130℃にて30分間加熱乾燥した。
架橋表面層の膜厚は溝と溝で区画される部分は2.2μmだった。架橋表面層インクを用いてインクジェットによる塗工を加えたため、溝深さ0.2μm(標準偏差=0.02μm)、幅60μm(標準偏差=0.6μm)の斜行溝が形成された。
【0210】
〔架橋表面層塗料〕
・前記構造式(7)の架橋型電荷輸送物質 300重量部
・トリメチロールプロパントリアクリレート 150重量部
(KAYARAD TMPTA、日本化薬社製)
・カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 150重量部
(KAYARAD DPCA−120、日本化薬社製)
・アクリル系レベリング剤 0.6重量部
(ポリフロー77、共栄社化学社)
・1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン 30重量部
(イルガキュア184、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)
・テトラヒドロフラン 3573重量部
【0211】
(実施例3)
実施例2の架橋表面層インクを以下のものに変え、実施例2の感光体表面に形成される60μmの溝幅を200μm(標準偏差=2μm)に変更した以外は実施例2と同様にして電子写真感光体を得た。溝深さは0.5μm(標準偏差=0.05μm)だった。
【0212】
〔架橋表面層インク〕
・前記構造式(7)の架橋型電荷輸送物質 300重量部
・トリメチロールプロパントリアクリレート 150重量部
(KAYARAD TMPTA、日本化薬社製)
・カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 150重量部
(KAYARAD DPCA−120、日本化薬社製)
・シリコーン系レベリング剤 0.6重量部
(BYK−UV3570、ビックケミー社製)
・1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン 30重量部
(イルガキュア184、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)
・α−アルミナ(スミコランダムAA−07、住友化学社製) 60重量部
・分散剤(ディスパロンDN900、楠本化成社製) 12重量部
・テトラヒドロフラン 2090重量部
・シクロヘキサノン 697重量部
【0213】
(実施例4)
実施例2の架橋表面層塗料と架橋表面層インクを以下のものに変え、実施例2の感光体表面に形成される60μmの溝幅を400μm(標準偏差=2μm)に変更した以外は実施例2と同様にして電子写真感光体を得た。溝深さは2μm(標準偏差=0.2μm)だった。
【0214】
〔架橋表面層塗料〕
・前記構造式(7)の架橋型電荷輸送物質 300重量部
・トリメチロールプロパントリアクリレート 150重量部
(KAYARAD TMPTA、日本化薬社製)
・カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 150重量部
(KAYARAD DPCA−120、日本化薬社製)
・アクリル系共重合物(ポリフロー77、共栄社化学社製) 0.6重量部

・1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン 30重量部
(イルガキュア184、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)
・α−アルミナ 60重量部
(AA−1、住友化学社製)
・分散剤 12重量部
(ディスパロン DN−900、楠本化成社製)
・テトラヒドロフラン 3573重量部
【0215】
〔架橋表面層インク〕
・前記構造式(7)の架橋型電荷輸送物質 300重量部
・トリメチロールプロパントリアクリレート 150重量部
(KAYARAD TMPTA、日本化薬社製)
・カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 150重量部
(KAYARAD DPCA−120、日本化薬社製)
・シリコーン系レベリング剤 0.6重量部
(BYK−UV3570、ビックケミー社製)
・1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン 30重量部
(イルガキュア184、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)
・α−アルミナ 60重量部
(AA−1、住友化学社製)
・分散剤 12重量部
(ディスパロン DN−900、楠本化成社製)
・テトラヒドロフラン 2090重量部
・シクロヘキサノン 697重量部
【0216】
(比較例1)
実施例2の架橋表面層インクを以下のものに変えた以外は実施例2と同様にして電子写真感光体を得た。得られた感光体表面の溝幅は60μm(標準偏差=2μm)、溝深さは0.3μm(標準偏差=0.02μm)だった。
【0217】
〔架橋表面層インク〕
・前記構造式(7)の架橋型電荷輸送物質 300重量部
・トリメチロールプロパントリアクリレート 150重量部
(KAYARAD TMPTA、日本化薬社製)
・カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 150重量部
(KAYARAD DPCA−120、日本化薬社製)
・シリコーン系レベリング剤 0.6重量部
(BYK−UV3570、ビックケミー社製)
・1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン 30重量部
(イルガキュア184、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)
・テトラヒドロフラン 2365重量部
・シクロヘキサノン 473重量部
【0218】
(比較例2)
実施例2の架橋表面層塗料と架橋表面層インクを以下のものに変えた以外は実施例2と同様にして電子写真感光体を得た。得られた感光体表面の溝幅は60μm(標準偏差=2μm)、溝深さは0.3μm(標準偏差=0.02μm)だった。
【0219】
〔架橋表面層塗料〕
・前記構造式(7)の架橋型電荷輸送物質 300重量部
・トリメチロールプロパントリアクリレート 150重量部
(KAYARAD TMPTA、日本化薬社製)
・カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 150重量部
(KAYARAD DPCA−120、日本化薬社製)
・アクリル系共重合物(ポリフロー77、共栄社化学社製) 0.6重量部
・1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン 30重量部
(イルガキュア184、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)
・疎水化アモルファスシリカ 15重量部
(KMPX−100、信越化学社製)
・球状シリカ 45重量部
(アドマファインSO−E2、信越石英社製)
・テトラヒドロフラン 3573重量部
【0220】
〔架橋表面層インク〕
・前記構造式(7)の架橋型電荷輸送物質 300重量部
・トリメチロールプロパントリアクリレート 150重量部
(KAYARAD TMPTA、日本化薬社製)
・カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 150重量部
(KAYARAD DPCA−120、日本化薬社製)
・アクリル系共重合物(ポリフロー77、共栄社化学社製) 0.6重量部
・1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン 30重量部
(イルガキュア184、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)
・疎水化アモルファスシリカ 15重量部
(KMPX−100、信越化学社製)
・球状シリカ 45重量部
(アドマファインSO−E2、信越石英社製)
・テトラヒドロフラン 1892重量部
・シクロヘキサノン 631重量部
【0221】
(比較例3)
実施例4の感光体表面に形成される400μmの溝幅を50μm(標準偏差=1μm)に変更した以外は実施例4と同様にして電子写真感光体を得た。溝深さは0.3μm(標準偏差=0.02μm)だった。
【0222】
(比較例4)
実施例4の感光体表面に形成される400μmの溝幅を410μm(標準偏差=2μm)に変更した以外は実施例4と同様にして電子写真感光体を得た。溝深さは0.5μm(標準偏差=0.05μm)だった。
【0223】
(比較例5)
実施例4の感光体表面に形成される斜行の溝を感光体の副走査方向に対して平行となるように溝の向きを変えた以外は実施例4と同様にして電子写真感光体を得た。得られた感光体表面の溝幅は400μm(標準偏差=2μm)、溝深さは0.3μm(標準偏差=0.02μm)だった。
【0224】
(比較例6)
実施例4の感光体表面に形成される2μmの溝深さを0.1μm(標準偏差=0.01μm)に変更した以外は実施例4と同様にして電子写真感光体を得た。得られた感光体表面の溝幅は400μm(標準偏差=2μm)だった。
【0225】
(比較例7)
実施例4の感光体表面に形成される2μmの溝深さを2.2μm(標準偏差=0.2μm)に変更した以外は実施例4と同様にして電子写真感光体を得た。得られた感光体表面の溝幅は400μm(標準偏差=2μm)だった。
【0226】
(比較例8)
実施例3の電子写真感光体に対して、表面層インクによるインクジェット方式の塗布を省略した以外は実施例3と同様にして電子写真感光体を得た。
【0227】
以上のようにして作製した実施例1〜実施例4および比較例1〜比較例8の直径φ40mmの感光体ドラムを実装用にした後、画像形成装置(IPSiO SP C811、リコー社製)のシアン現像ステーションに搭載し、画素密度が600dpi×600dpiで8×8のマトリクス中に4ドット×4ドットを描いたハーフトーンパターンと白紙パターンを交互に連続5枚ずつ印刷する条件で通算2.5万枚、コピー用紙(My Paper A4、NBSリコー社品)にプリントアウトした。トナーと現像剤はIPSiO SP C811純正品のシアン用トナーを使用した。トナーは重合トナーである。
試験では純正品である固形の潤滑剤(ステアリン酸亜鉛)を用いた。潤滑剤の消費速度はトナーが混入しない条件下で、感光体ドラムの走行距離に対して50mg/kmの割合で固形潤滑剤が重量減少する割合にあわせた。実際の試験ではトナーの混入によって、潤滑剤の消費量にバラツキが伴うが、特に条件変更は行わなかった。
感光体ユニットは純正品を使用した。帯電ローラの印加電圧はAC成分としてピーク間電圧1.5kV、周波数0.9kHzを選択した。また、DC成分は試験開始時の感光体の帯電電位が−700Vとなるようなバイアスを設定し、試験終了に至るまでこの帯電条件で試験を行った。また、現像バイアスは−580Vとした。なお、この装置において、除電手段は設けていない。また、クリーニング手段は純正品を印刷枚数が5万枚ごとに未使用品に変えて試験を行った。試験終了後、カラーテストチャートをPPC用紙TYPE−6200A3に複写印刷した。試験環境は25℃/55%RHであった。
【0228】
以上の実施例と比較例について、画像評価結果を表5に示す。
【0229】
【表5】

【0230】
実施例1から実施例4の電子写真感光体は比較例1から比較例8と比べて高品位なプリント画像が得られている。
試験による塗布ブレードの荒れ加減をみると、実施例1から実施例4の感光体は面粗さが小さく、大きな損傷を受けていない。他方、比較例1から比較例8は一段大きめの面粗さが示されており、感光体寿命はブレードの面粗さによって支配されることが示唆される。塗布ブレードの延命は感光体表面形状によって大きく異なり、本発明におけるWRa(LHH)/WRa(LMH)を大きくすることと、溝を加えることとで大きく寿命を延ばすことができる。
次に塗布ブラシの重量増加量を観測すると実施例1〜4は増加量が小さく、ブラシへのトナーの流出が小さいと推察される。塗布ブラシへは潤滑剤の含有量も含まれるものの、消費量やブラシの着色具合から大部分はトナーである。試験結果から潤滑剤を塗布する条件下において、トナーのクリーニング性は本発明におけるWRa(LHH)/WRa(LMH)を大きくすることと、斜行する溝を加えることとで大きく性能を高めることが可能となる。
【0231】
この試験では固形潤滑剤の消費量は通常の使用条件から格段に減量化した条件で行われているが、試験結果から、高品位なプリント出力を破綻させず且つ、感光体と接触する部材に及ぼすダメージも低減されている事が判る。すなわち、本発明の電子写真感光体とこの感光体を搭載する電子写真装置は潤滑剤が感光体表面に過剰に滞留する不具合を予防し、電子写真感光体および画像形成装置の寿命の延命を獲得できる実用的価値の高い発明である。
【0232】
以上の詳細かつ具体的な説明から明らかなように、本発明の電子写真感光体は潤滑剤の受容性と除去性に優れる電子写真感光体である。また、この電子写真感光体を用いた画像形成装置は、潤滑剤の電子写真感光体上に入出力される循環性の優れた画像形成装置である。すなわち、本発明の電子写真感光体を用いる画像形成装置は、架橋表面層の高い耐摩耗性と優れた重合トナークリーニング性が享受される実用的価値に優れたものである。
【符号の説明】
【0233】
<図18〜6について>
11 電子写真感光体
12 帯電手段
13 露光手段
14 現像手段
15 トナー
16 転写手段
17 クリーニング手段
18 印刷メディア(印刷用紙、OHP用スライド)
19 定着手段
1A 除電手段
1B クリーニング前露光手段
1C 駆動手段
1D 第1の転写手段
1E 第2の転写手段
1F 中間転写体
1G 搬送転写ベルト
<図15、図16について>
21 導電性支持体
24 下引き層
25 電荷発生層
26 電荷輸送層
28 架橋表面層
<図24について>
3A 潤滑剤
3B 塗布ブラシ
3C 潤滑剤供給手段
<図4〜16について>
3A 固体潤滑剤
3D 塗布ブレードのエッジ部分
31 感光体表面
<図8について>
1F 中間転写体
3A 固体潤滑剤
3B 塗布ブラシ
11 電子写真感光体
12 帯電手段
13 露光手段
14 現像手段
17 クリーニング手段
39 塗布ブレード
<図9について>
41 測定対象である電子写真感光体
42 表面粗さを測定するプローブを取り付けた治具
43 上記治具を測定対象に沿って移動させる機構
44 表面粗さ計
45 信号解析を行うパーソナルコンピューター
<図10について>
101 一回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分
102 一回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より一つ低い周波数成分
103 一回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より二つ低い周波数成分
104 一回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より三つ低い周波数成分
105 一回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より四つ低い周波数成分
106 一回目の多重解像度解析結果の最低周波数成分
107 二回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分
108 二回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より一つ低い周波数成分
109 二回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より二つ低い周波数成分
110 二回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より三つ低い周波数成分
111 二回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より四つ低い周波数成分
112 二回目の多重解像度解析結果の最低周波数成分
<図11について>
121 一回目の多重解像度解析における最高周波成分の帯域
122 一回目の多重解像度解析における最高周波成分より一つ低い周波数成分の帯域
123 一回目の多重解像度解析における最高周波成分より二つ低い周波数成分の帯域
124 一回目の多重解像度解析における最高周波成分より三つ低い周波数成分の帯域
125 一回目の多重解像度解析における最高周波成分より四つ低い周波数成分の帯域
126 一回目の多重解像度解析における最低周波数成分の帯域
<図13について>
127 二回目の多重解像度解析における最高周波成分の帯域
128 二回目の多重解像度解析における最高周波成分より一つ低い周波数成分の帯域
129 二回目の多重解像度解析における最高周波成分より二つ低い周波数成分の帯域
130 二回目の多重解像度解析における最高周波成分より三つ低い周波数成分の帯域
131 二回目の多重解像度解析における最高周波成分より四つ低い周波数成分の帯域
132 二回目の多重解像度解析における最低周波数成分の帯域
【先行技術文献】
【特許文献】
【0234】
【特許文献1】特開2000−66424号公報
【特許文献2】特開2000−171990号公報
【特許文献3】特開2007−121908号公報
【特許文献4】特開昭57−94772号公報
【特許文献5】特開昭59−013241号公報
【特許文献6】特開2006−11047号公報
【特許文献7】特開昭51−129237号公報
【特許文献8】特開昭63−106757号公報
【特許文献9】特開昭60−202446号公報
【特許文献10】特開2006−337687号公報
【特許文献11】特開2008−299261号公報
【特許文献12】特許3938209号公報
【特許文献13】特許3938210号公報
【特許文献14】特開2005−345788号公報
【特許文献15】特開2004−258588号公報
【特許文献16】特開2004−54001号公報
【特許文献17】特開2003−270840号公報
【特許文献18】特開2003−241408号公報
【特許文献19】特開2003−131537号公報
【特許文献20】特開2002−82468号公報
【非特許文献】
【0235】
【非特許文献1】Japan Hardcopy Fall Meeting,24−27,2001,百武信男,丸山彰久,重崎聡,奥山裕江

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性支持体と、
該導電性支持体上に順に積層されてなる感光層と、互いに交差しない溝を有する表面層と、を備え、
前記溝は、幅が60μm以上400μm以下であり、深さが0.2μm以上2μm以下であり、深さの標準偏差が任意4カ所の測定値の平均値に対して1/10以下であり、且つ、溝の方向が当該電子写真感光体の主走査方向と副走査方向とに対して斜行するように形成されてなり、
当該電子写真感光体表面の溝と溝とで区画された領域は、
(I)表面粗さ・輪郭形状測定機により測定して一次元データ配列を作成し、
(II)該一次元データ配列を、多重解像度解析によってウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至るまでの6個の周波数成分に分離し、
(III)次いで、得られた6個の周波数成分の中で最低周波数成分の一次元データ配列に対して、データ配列数が1/10〜1/100に減少するように間引きして一次元データ配列を作成し、
(IV)更に、多重解像度解析によってウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至るまでの、追加の6個の周波数成分に分離して、
(V)前記(II)及び(IV)で得られた合計12個の周波数成分の個々の算術平均粗さについて、WRa(LMH)に対するWRa(LHH)の比(WRa(LHH)/WRa(LMH))が2.0以上2.5以下である、
ことを特徴とする電子写真感光体。
ここで、電子写真感光体のJIS−B0601:2001で定義される算術平均粗さ(略号;Ra)をウェーブレット変換により凹凸の一周期の長さについて周波数成分に分離した個々の帯域における算術平均粗さを以下のように表すものとする。
WRa(HHH):凹凸の一周期の長さが0.3μm〜3μmの帯域におけるRa
WRa(HHL):凹凸の一周期の長さが1μm〜6μmの帯域におけるRa
WRa(HMH):凹凸の一周期の長さが2μm〜13μmの帯域におけるRa
WRa(HML):凹凸の一周期の長さが4μm〜25μmの帯域におけるRa
WRa(HLH):凹凸の一周期の長さが10μm〜50μmの帯域におけるRa
WRa(HLL):凹凸の一周期の長さが24μm〜99μmの帯域におけるRa
WRa(LHH):凹凸の一周期の長さが26μm〜106μmの帯域におけるRa
WRa(LHL):凹凸の一周期の長さが53μm〜183μmの帯域におけるRa
WRa(LMH):凹凸の一周期の長さが106μm〜318μmの帯域におけるRa
WRa(LML):凹凸の一周期の長さが214μm〜551μmの帯域におけるRa
WRa(LLH):凹凸の一周期の長さが431μm〜954μmの帯域におけるRa
WRa(LLL):凹凸の一周期の長さが867μm〜1654μmの帯域におけるRa
なお、各周波数成分の算術平均粗さ(Ra)は、周波数分解された各曲線に対してJIS−B0601:2001の算術平均粗さの算出方法に準じて算定される。ただし、周波数分解された曲線に対して、再度、うねり成分を減じて粗さ曲線を求める操作は行わず、周波数分解された曲線に対して直接Raを算出する。
【請求項2】
前記溝の底部と、前記溝と溝とで区画された領域と、のいずれもが電荷輸送性を有する架橋構造の樹脂で形成されてなることを特徴とする請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
前記表面層は、アクリル系レベリング剤を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の電子写真感光体。
【請求項4】
前記表面層は、アクリロイルオキシ基を有するアクリレート構造単位と、電荷輸送性構造単位と、を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項5】
前記溝の底部と、前記溝と溝とで区画された領域と、のいずれもが金属酸化物フィラーを含有していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項6】
前記表面層は、α−アルミナと、グラフトタイプまたはブロック共重合タイプの分散剤と、を含有してなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の電子写真感光体と、潤滑剤塗布手段と、を備える画像形成ユニットを一種有し、
該潤滑剤塗布手段は、潤滑剤をブラシ状ローラで掻きとり前記電子写真感光体表面に転移させる手段と、転移した潤滑剤を前記電子写真感光体表面に均すブレードと、を有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項8】
導電性支持体と、該導電性支持体上に順に積層されてなる感光層と互いに交差しない溝を有する表面層と、を備え、
前記溝は、幅が60μm以上400μm以下であり、深さが0.2μm以上2μm以下であり、深さの標準偏差が任意4カ所の測定値の平均値に対して1/10以下であり、且つ、溝の方向が当該電子写真感光体の主走査方向と副走査方向とに対して斜行するように形成されてなる電子写真感光体の評価方法であって、
当該電子写真感光体表面の溝と溝とで区画された領域を、
(I)表面粗さ・輪郭形状測定機により測定して一次元データ配列を作成し、
(II)該一次元データ配列を、多重解像度解析によってウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至るまでの6個の周波数成分に分離し、
(III)次いで、得られた6個の周波数成分の中で最低周波数成分の一次元データ配列に対して、データ配列数が1/10〜1/100に減少するように間引きして一次元データ配列を作成し、
(IV)更に、多重解像度解析によってウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至るまでの、追加の6個の周波数成分に分離して、
(V)前記(II)及び(IV)で得られた合計12個の周波数成分の個々の算術平均粗さについて、WRa(LMH)に対するWRa(LHH)の比(WRa(LHH)/WRa(LMH))が2.0倍以上2.5倍以下である、
こと満たすか否かを評価することを特徴とする電子写真感光体の評価方法。
ここで、電子写真感光体のJIS−B0601:2001で定義される算術平均粗さ(略号;Ra)をウェーブレット変換により凹凸の一周期の長さについて周波数成分に分離した個々の帯域における算術平均粗さを以下のように表すものとする。
WRa(HHH):凹凸の一周期の長さが0.3μm〜3μmの帯域におけるRa
WRa(HHL):凹凸の一周期の長さが1μm〜6μmの帯域におけるRa
WRa(HMH):凹凸の一周期の長さが2μm〜13μmの帯域におけるRa
WRa(HML):凹凸の一周期の長さが4μm〜25μmの帯域におけるRa
WRa(HLH):凹凸の一周期の長さが10μm〜50μmの帯域におけるRa
WRa(HLL):凹凸の一周期の長さが24μm〜99μmの帯域におけるRa
WRa(LHH):凹凸の一周期の長さが26μm〜106μmの帯域におけるRa
WRa(LHL):凹凸の一周期の長さが53μm〜183μmの帯域におけるRa
WRa(LMH):凹凸の一周期の長さが106μm〜318μmの帯域におけるRa
WRa(LML):凹凸の一周期の長さが214μm〜551μmの帯域におけるRa
WRa(LLH):凹凸の一周期の長さが431μm〜954μmの帯域におけるRa
WRa(LLL):凹凸の一周期の長さが867μm〜1654μmの帯域におけるRa
なお、各周波数成分の算術平均粗さ(Ra)は、周波数分解された各曲線に対してJIS−B0601:2001の算術平均粗さの算出方法に準じて算定される。ただし、周波数分解された曲線に対して、再度、うねり成分を減じて粗さ曲線を求める操作は行わず、周波数分解された曲線に対して直接Raを算出する。
【請求項9】
請求項8に記載の電子写真感光体の評価方法を用いて製造することを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の電子写真感光体を製造する電子写真感光体の製造方法であって、
互いに交差しない溝を有する表面層を、液滴吐出ヘッドからインクジェット方式で塗布することにより形成することを特徴とする電子写真感光体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−63494(P2012−63494A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206461(P2010−206461)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】