説明

電子写真感光体の表面加工方法、および電子写真感光体の製造方法

【課題】 表面層の材料成分が型部材へ付着することや、型部材の歪みといった型部材の劣化を抑制し、初期画像欠陥の少ない電子写真感光体を得ることができる電子写真感光体の表面加工方法を提供すること。
【解決手段】 電子写真感光体の表面層のガラス転移温度をTg、表面層が液体状態となる温度をT1としたとき、該電子写真感光体の表面に型部材の表面を接触させる部位よりも該電子写真感光体の回転方向上流側で該電子写真感光体の表面を加熱し、該型部材の表面と接触し始める際の該電子写真感光体の表面の温度T2が、Tg以上T1未満であり、該電子写真感光体の表面層に接触し始める際の該型部材の温度がT2未満であること特徴とする電子写真感光体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真感光体の表面加工方法、および表面に凹凸形状を有する電子写真感光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真プロセスにおいて、電子写真感光体の表面には、現像剤、帯電部材、クリーニングブレード、紙、転写部材などの種々のもの(以下「接触部材等」ともいう)が接触する。そのため、電子写真感光体は、これら接触部材等との接触ストレスによる画像劣化の発生を低減させることが求められ、電子写真感光体の表面の摩擦力を効果的に低減すること求められている。電子写真感光体の表面の摩擦力を効果的に低減するために、電子写真感光体の表面形状を精密に制御する方法がある。その電子写真感光体の表面加工方法として、特許文献1では、表面に凸凹形状を有する型部材を電子写真感光体の表面に接触させ圧縮成形加工する技術が提案されている。また、特許文献2では、温度制御と当接圧力の均一化の面で改良がされ、電子写真感光体の表面形状の均一性を高めた表面加工方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−66814号公報
【特許文献2】特開2007−233356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の表面加工方法では、電子写真感光体の凹凸形状の再現性が十分といえるものではなかった。
【0005】
一方、特許文献2では、電子写真感光体の表面形状(凹凸形状)の均一性や再現性に関して、一定の効果は有している。しかしながら、型部材の表面と電子写真感光体の表面とで接触、押圧、離間の工程が行われるため、加熱により軟化した電子写真感光体の表面層の材料成分が型部材に付着しやすい。そして、同一の型部材を用いて多数本連続で表面形状形成を行った場合、徐々に型部材へ表面層の材料成分の付着が進んで型部材が劣化し、複数の電子写真感光体間での表面形状の均一性と再現性が低下しやすい。表面層の材料成分の付着によって、表面形状形成が十分でなくなり、表面形状形成が十分ではない電子写真感光体において初期画像欠陥が発生しやすかった。また、加熱した型部材により表面層を軟化させながら型部材を接触、押圧するため、電子写真感光体の表面層と型部材の密着性が高い。そのため離間、押圧を繰り返すと、歪みといった型部材の劣化が発生しやすかった。
【0006】
本発明の目的は、同一の型部材を用いて多数本連続で電子写真感光体の表面に凹凸形状を形成する場合において、表面層の材料成分が型部材へ付着することや、型部材の歪みといった型部材の劣化を抑制し、初期画像欠陥の少ない電子写真感光体を得ることができる電子写真感光体の表面加工方法を提供することにある。
【0007】
また、本発明の別の目的は、前記電子写真感光体の表面加工方法によって、表面に凹凸形状を有する電子写真感光体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、以下の本発明によって達成される。
すなわち、本発明は、円筒状支持体、該円筒状支持体上に形成された表面層を有する電子写真感光体の表面に凸凹形状を有する型部材の表面を接触させ、回転させながら該表面層の表面に凹凸形状を有させる表面加工方法において、該電子写真感光体の該表面層のガラス転移温度をTg、該表面層が液体状態となる温度をT1としたとき、該電子写真感光体の表面に該型部材の表面を接触させる部位よりも該電子写真感光体の回転方向上流側で該電子写真感光体の表面を加熱し、該型部材の表面と接触し始める際の該電子写真感光体の表面の温度T2が、Tg以上T1未満であり、該電子写真感光体の表面に接触し始める際の該型部材の表面の温度がT2未満であること特徴とする電子写真感光体の表面加工方法に関する。
【0009】
また、本発明は、前記電子写真感光体の表面加工方法によって、前記表面層の表面に凹凸形状を形成する工程を有する表面に凹凸形状を有する電子写真感光体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、同一の型部材を用いて多数本連続で電子写真感光体の表面に凹凸形状を形成する場合において、表面層の材料成分が型部材に付着することや、型部材の歪みといった型部材の劣化が抑制され、初期画像欠陥の少ない電子写真感光体を得ることができる電子写真感光体の表面加工方法を提供することができる。また、本発明によれば、前記電子写真感光体の表面加工方法によって、表面に凹凸形状を有する電子写真感光体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の電子写真感光体の表面加工方法を実施するための表面加工装置の一例を説明する図である。
【図2】本発明の電子写真感光体の表面加工方法を実施するための表面加工装置の一例を説明する図である。
【図3】本発明の電子写真感光体の表面加工方法を実施するための表面加工装置の一例を説明する図である。
【図4】本発明の電子写真感光体の表面加工方法を実施するための表面加工装置の一例を説明する図である。
【図5】本発明の比較例1において電子写真感光体の表面加工方法を実施するための表面加工装置の一例を説明する図である。
【図6】(A)は実施例1〜5、7〜28において使用した型部材の凸凹形状を型部材の上から見た図、及び型部材の横から見た図である。(B)は実施例6において使用した型部材の凸凹形状を上から見た図、及び横から見た図である。
【図7】実施例29において使用した型部材の凸凹形状を型部材の上から見た図、及び型部材の横から見た図である。
【図8】実施例30において使用した型部材の凸凹形状を型部材の上から見た図、及び型部材の横から見た図である。
【図9】実施例31において使用した型部材の凸凹形状を型部材の上から見た図、及び型部材の横から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の電子写真感光体の表面加工方法は、円筒状支持体、該円筒状支持体上に形成された表面層を有する電子写真感光体の表面に凸凹形状を有する型部材の表面を接触させ、回転させながら該表面層の表面に凹凸形状を有させる表面加工方法において、該電子写真感光体の該表面層のガラス転移温度をTg、該表面層が液体状態となる温度をT1としたとき、該電子写真感光体の表面に該型部材の表面を接触させる部位よりも該電子写真感光体の回転方向上流側で該電子写真感光体の表面を加熱し、該型部材の表面と接触し始める際の該電子写真感光体の表面の温度T2が、Tg以上T1未満であり、該電子写真感光体の表面に接触し始める際の該型部材の表面の温度がT2未満であることを特徴とする。
【0013】
本発明者らは、本発明の電子写真感光体の表面加工方法が、表面層の材料成分が型部材へ付着することや、型部材の歪みといった型部材の劣化を抑制する理由を以下のように推測している。
【0014】
表面層の材料成分が型部材へ付着することや、型部材の歪みといった型部材の劣化を抑制するためには、電子写真感光体の表面と型部材の表面との密着性が重要となってくる。本発明においては、型部材の表面の温度をT2未満の温度にすることによって、表面層の微小な熱収縮が起こり、電子写真感光体表面の凹凸形状の形成時に、電子写真感光体の表面と型部材の表面との密着性を低減させることができる。これにより、型部材の表面と電子写真感光体の表面とが離間する際の型部材と電子写真感光体のストレスが減少し、上述の型部材の劣化を抑制することができると推測している。
【0015】
以下に、本発明の電子写真感光体の表面加工方法について詳しく説明する。
本発明において、型部材の表面と接触し始める際の電子写真感光体の表面の温度T2は、Tg以上T1未満である。電子写真感光体の表面を表面層が液体状態となる温度T1未満になるようにすることで、電荷輸送物質の析出などの発生を効果的に抑制することができる。電子写真感光体の表面が表面層のガラス転移温度Tg未満であると、十分な凹凸形状の形成がされず不十分である。
【0016】
また、本発明において、電子写真感光体の表面に型部材の表面が接触し始める際、型部材の表面の温度は、T2未満である。型部材の表面の温度が、T2以上であると、電子写真感光体の表面と型部材の表面とが接触したときに、表面層の熱収縮がおこらず、電子写真感光体の表面と型部材の表面との密着性を低減させることが不十分であり、上述の型部材の劣化の抑制効果が十分ではない。型部材の表面の温度と、T2との間に温度差を設けることにより、表面層の微小な熱収縮が起こり、密着性を低減することできる。特に、電子写真感光体に接触し始める際の型部材の表面の温度がTg未満であると、上述の型部材の劣化がより抑制されるため、好ましい。これは、型部材の表面と電子写真感光体の表面が接触する際に、電子写真感光体のごく表面が急激にTg付近の温度に下がることで、熱収縮の効率が良く、型部材の表面と電子写真感光体の表面が離間する際の型部材と電子写真感光体とのストレスがより減少するためである。
【0017】
さらには、電子写真感光体の表面と型部材の表面とが接触した後、型部材の表面と電子写真感光体の表面とが離間し始める際の電子写真感光体の表面の温度T3が、表面層のガラス転移温度Tg未満であると、効果的に型部材と電子写真感光体の表面層の密着性が低減され、より好ましい。
【0018】
型部材の表面と電子写真感光体の表面との密着性が高い場合には、電子写真感光体の凹凸形状形成時の押圧、離間を繰り返すことにより型部材の劣化が起こりやすく、凹凸形状形成が十分でなくなる。そして、凹凸形状形成が十分ではない電子写真感光体において初期画像欠陥が発生しやすい。型部材の劣化とは、加熱により軟化した電子写真感光体の表面層の材料成分が型部材に付着することや、凹凸形状形成を繰り返すことによって生じる型部材の歪み等をいう。
【0019】
以下、図面を参照し、例を挙げながら、本発明における電子写真感光体の表面加工方法を詳細に説明する。
図1は、本発明の電子写真感光体の表面加工方法を実施するための表面加工装置の一例を示す図である。
図1中、1は、被加工物である円筒状の電子写真感光体である。2は、加熱部材である。3は、型部材であり、型部材3の表面(加工面)は、接触点bで電子写真感光体1の表面(被加工面)に加圧接触(当接)する。図1において、加熱部材2は、円柱状の型部材3と電子写真感光体1の接触点bよりも電子写真感光体の回転方向上流側に設け、接触点aにおいて電子写真感光体1と接触し、接触点bでの電子写真感光体1の表面をTg(表面層のガラス転移温度)以上T1(表面層が液体状態となる温度)未満の温度になるよう加熱する。型部材3の表面(加工面)は、電子写真感光体1の表面(被加工面)に形成するべき凹凸形状に対応する凸凹形状が形成されている。型部材3の内部には温度制御装置(不図示)が設置され、型部材3の表面の温度は、T2未満(接触点bでの電子写真感光体の表面の温度)に制御されている。電子写真感光体1は、その内部に円柱状の保持部材5が挿入され、回転しながら、連続的にその表面(被加工面)が型部材3の表面(加工面)と加圧接触させる。
【0020】
図1に示す表面加工装置によれば、電子写真感光体1を従動または回転駆動させ、接触点aで、電子写真感光体の表面が加熱部材2と接して、接触点bでの電子写真感光体1の表面の温度T2がTg以上T1未満となるように加熱される。そして、接触点bで、連続的に電子写真感光体の表面(被加工面)がT2未満の温度にした型部材3の表面(加工面)と加圧接触することにより、電子写真感光体1の表面に型部材の凸凹形状と対応する凹凸形状が形成される。この表面加工装置で、多数本連続で表面加工を行った場合でも、表面層の材料成分が型部材へ付着することや、型部材の歪みといった型部材の劣化が抑制され、初期画像欠陥の少ない電子写真感光体が得られる。
【0021】
図2は、本発明の電子写真感光体の表面加工方法を実施するための表面加工装置の一例を示す図である。図2に示す表面加工装置において、電子写真感光体1、型部材3は、図1に示すものと同様である。図2において、加熱部材2は電子写真感光体1の支持体と接するように支持体内部に設けられた円柱状の保持部材5の内部に設置される。そして、加熱部材2は、接触点aで、接触点bにおいて電子写真感光体1の表面の温度をTg以上T1未満の温度になるように加熱する。6は、円柱状の支持部材であり、電子写真感光体1の表面に接し、電子写真感光体に従動して回転することにより電子写真感光体1を支持する。
【0022】
図2に示す表面加工装置によれば、電子写真感光体1を従動または回転駆動させ、接触点aで、電子写真感光体の表面が加熱部材2と接して、接触点bでの電子写真感光体1の表面の温度T2がTg以上T1未満となるように加熱される。そして、接触点bで、連続的に電子写真感光体の表面(被加工面)をT2未満の温度にした型部材3の表面(加工面)と加圧接触することにより、電子写真感光体1の表面に型部材の凸凹形状と対応する凹凸形状を形成させる。この表面加工装置で、多数本連続で表面加工を行った場合でも、表面層の材料成分が型部材へ付着することや、型部材の歪みといった型部材の劣化が抑制され、初期画像欠陥の少ない電子写真感光体が得られる。
【0023】
図3は、本発明の電子写真感光体の表面加工方法を実施するための表面加工装置の一例を示す図である。図3に示す表面加工装置において、電子写真感光体1、加熱部材2、保持部材5は、図1に示すものと同様である。図3において、型部材3は屈曲可能なシート状、もしくはベルト状であり、円柱状の加圧部材4上に設置され、接触点bにおいて電子写真感光体の表面と型部材3の表面が接触し加圧される。加圧部材4の内部には温度制御装置(不図示)が設置されており、接触点bにおける型部材3の表面の温度をT2未満となるように温度調節を行う。
【0024】
図3に示す表面加工装置によれば、電子写真感光体1を従動または回転駆動させ、接触点aで、電子写真感光体1の表面が加熱部材2と接して、接触点bでの電子写真感光体の表面の温度T2がTg以上T1未満となるように加熱される。そして、接触点bで、連続的に電子写真感光体の表面(被加工面)をT2未満の温度にした型部材3の表面(加工面)と加圧接触させることにより、電子写真感光体1の表面に型部材の凸凹形状と対応する凹凸形状を形成させる。この表面加工装置で、多数本連続で表面加工を行った場合でも、表面層の材料成分が型部材へ付着することや、型部材の歪みといった型部材の劣化が抑制され、初期画像欠陥の少ない電子写真感光体が得られる。
【0025】
図4は、本発明の電子写真感光体の表面加工方法を実施するための表面加工装置の一例を示す図である。図4に示す表面加工装置において、電子写真感光体1、加熱部材2、保持部材5は図1に示すものと同様である。図4において、型部材3はシート状、もしくはベルト状であり、平板状の加圧部材4上に設置され、接触点bにおいて電子写真感光体の表面と型部材3の表面が接触し加圧される。また、型部材3と加圧部材4と同一部材にして、加圧部材を兼ねる平板状の型部材3を用いることもできる。加圧部材4の内部には温度制御装置(不図示)が設置されており、接触点bにおける型部材3の表面の温度をT2未満となるように温度調節を行う。
【0026】
図4に示す表面加工装置によれば、電子写真感光体1を従動または回転駆動させ、接触点aで、電子写真感光体1の表面が加熱部材2と接して、接触点bでの電子写真感光体の表面の温度T2がTg以上T1未満となるように加熱される。そして、接触点bで、連続的に電子写真感光体の表面(被加工面)をT2未満の温度にした型部材3の表面(加工面)と加圧接触させることにより、電子写真感光体1の表面に型部材の凸凹形状と対応する凹凸形状を形成させる。この表面加工装置で、多数本連続で表面加工を行った場合でも、表面層の材料成分が型部材へ付着することや、型部材の歪みといった型部材の劣化が抑制され、初期画像欠陥の少ない電子写真感光体が得られる。
【0027】
以下に各部材の詳細を示す。
加熱部材2は、接触点bにおいて電子写真感光体1の表面の温度T2をTg以上T1未満となるように加熱させることができれば、電子写真感光体1に接触していてもよいし、非接触であっても良い。温度制御の方法として、加熱部材の内部に温度制御装置を設置する方法が挙げられる。また、加熱部材2の外部に温度制御装置を設置してもよい。温度制御装置としては、加熱装置が用いられ、セラミックヒーター、遠赤外線ヒーター、ハロゲンヒーター、カートリッジヒーター、電磁誘導加熱ヒーターなどが挙げられる。また、温度の均一性という観点から、熱電対を利用した温調器のような温度制御装置を併用することが好ましい。
【0028】
上記図1,2で説明した型部材3の内部の温度制御装置、上記図3,4で説明した加圧部材4の内部の温度制御装置としては、加熱装置および冷却装置が用いられる。加熱装置としては、セラミックヒーター、遠赤外線ヒーター、ハロゲンヒーター、カートリッジヒーター、電磁誘導加熱ヒーターなどが挙げられる。冷却装置としては、水冷装置、空冷装置などが挙げられる。また、温度の均一性を確保する観点から、熱電対を利用した温調器のような温度制御装置を併用することが好ましい。また、圧力均一性や温度均一性を向上させる観点から、図3のように内部に温度制御手段が設置された加圧部材が円柱状である場合、加圧部材の径は、弊害が発生しない範囲で大きい方が好ましい。
【0029】
型部材3は、シート状または円筒状の型部材であり、表面に凸凹形状を有する金属や、表面にレジストによりパターンニングされた凸凹形状を有する樹脂、金属、シリコンウエハー、粒子が分散された樹脂フィルムなどが挙げられる。また、表面に凸凹形状を有する樹脂フィルムに金属コーティングが施された型部材を用いることができる。また、シリコンウエハー上にフォトリソグラフィーや電子線により微細形状を描写した後、必要なエッチング処理を行って得られる型部材を用いることができる。また、ポリイミドなどの樹脂にレーザー加工などにより微細形状を描写したものを母型(マスター)としたニッケル電鋳法により得られる型部材を用いることもできる。
【0030】
電子写真感光体の表面に形成させる凹凸形状としては、円柱、角柱または半球形状の凸部が連続している形状が挙げられる。逆に、円柱、角柱または半球形状の凹部が連続している形状が挙げられる。また、一定またはランダムな間隔で、凸部または凹部の線形状が連続する形状も挙げられる。凸部または凹部の線形状の方向は、円筒状の電子写真感光体の周方向でも、回転軸方向でもよい。
【0031】
加圧部材4は、図3に示すような円柱状の加圧部材や、図4に示すような平板状の加圧部材を用いることができる。また、電子写真感光体の上方に円柱状または平板状の第二の加圧部材を設け、2つ以上の加圧部材を用いて電子写真感光体と型部材を挟みこむように加圧して、電子写真感光体と型部材を加圧接触させてもよい。また、円筒状の電子写真感光体の両端部と中央部付近での加圧力の不均衡が発生する場合には、これを解消するため、加圧部材に表面層として弾性層(ゴム層など)を設けることが好ましい。さらには、電子写真感光体の回転方向の加圧力の不均衡が発生する場合は、ロードセルによる圧力モニターを併用しながら、加圧力を随時調節する機構を設けることが好ましい。
【0032】
加圧部材の材質としては、金属、金属酸化物、プラスチック、ガラスなどが挙げられる。これらの中でも、機械的強度、寸法精度、耐久性の観点から、金属が好ましく、ステンレス鋼がより好ましく、さらにSUS304がより好ましい。
【0033】
本発明の電子写真感光体は、支持体、支持体上形成された感光層を有する。また、感光層は、電荷輸送物質と電荷発生物質を同一の層に含有する単層型感光層と、電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とに分離した積層型(機能分離型)感光層とが挙げられる。本発明においては、積層型感光層が好ましい。また、電荷発生層を積層構造としてもよく、電荷輸送層を積層構成としてもよい。また、電子写真感光体の耐久性を向上させることを目的として、感光層上に保護層を形成してもよい。
【0034】
〔支持体〕
本発明の電子写真感光体に用いられる支持体としては、導電性を有するもの(導電性支持体)が好ましく、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレスなどが挙げられる。ED管、EI管や、これらを切削、電解複合研磨、湿式または乾式ホーニング処理した支持体を用いることもできる。また、金属支持体、樹脂支持体上にアルミニウム、アルミニウム合金、または酸化インジウム−酸化スズ合金等の導電材料の薄膜を形成したものも挙げられる。支持体の表面は、切削処理、粗面化処理、アルマイト処理などを施してもよい。
【0035】
また、カーボンブラック、酸化スズ粒子、酸化チタン粒子、銀粒子のような導電性粒子を樹脂に含浸した支持体や、導電性結着樹脂を有するプラスチックを用いることもできる。
【0036】
本発明の電子写真感光体において、支持体上に導電性粒子と結着樹脂を有する導電層を形成してもよい。導電性粒子および結着樹脂を有する導電層を支持体上に形成する方法では、導電層中に導電性粒子を含む粉体が含有される。導電性粒子としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、アルミニウム、ニッケル、鉄、ニクロム、銅、亜鉛、銀などの金属粉や、導電性酸化スズ、ITOなどの金属酸化物粉体が挙げられる。
【0037】
導電層に用いられる結着樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリウレタン、セルロース樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、アルキッド樹脂およびエポキシ樹脂などが挙げられる。
【0038】
導電層の膜厚は、0.2μm以上40μm以下であることが好ましく、1μm以上35μm以下であることがより好ましい。更には5μm以上30μm以下であることがより好ましい。
【0039】
本発明の電子写真感光体において、支持体または導電層と、感光層(電荷発生層)との間に中間層を形成してもよい。中間層は、樹脂を含有する中間層用塗布液を支持体上、または導電層上に塗布し、これを乾燥または硬化させることによって形成することができる。
【0040】
中間層に用いられる樹脂としては、ポリアクリル酸類、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド酸、メラニン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタンなどが挙げられる。中間層に用いられる樹脂は熱可塑性樹脂が好ましく、具体的には、熱可塑性のポリアミドが好ましい。ポリアミドとしては、溶液状態で塗布できるような低結晶性または非結晶性の共重合ナイロンが好ましい。
【0041】
中間層の膜厚は0.05μm以上40μm以下であることが好ましく、0.1μm以上7μm以下であることがより好ましい。また、中間層には、半導電性粒子、電子輸送物質、あるいは電子受容性物質を含有させてもよい。
【0042】
〔感光層〕
本発明の電子写真感光体では、支持体、導電層または中間層上には、感光層(電荷発生層、電荷輸送層)が形成される。
【0043】
本発明の電子写真感光体に用いられる電荷発生物質として、ピリリウム、チアピリリウム系染料、フタロシアニン顔料、アントアントロン顔料、ジベンズピレンキノン顔料、ピラントロン顔料、アゾ顔料、インジゴ顔料、キナクリドン顔料、キノシアニン顔料が挙げられる。これら電荷発生物質は1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。これらの中でも、フタロシアニン顔料が好ましく、特にオキシチタニウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニンなどが高感度であるため好ましい。
【0044】
積層型感光層において、本発明の電荷発生層に用いられる結着樹脂としては、ポリカーボネート、ポリエステル、ブチラール樹脂、ポリビニルアセタール、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂および尿素樹脂が挙げられる。より好ましくは、ブチラール樹脂である。これらは単独、混合または共重合体として1種または2種以上用いることができる。
【0045】
電荷発生層は、電荷発生物質を結着樹脂および溶剤とともに分散して得られる電荷発生用塗布液を塗布し、これを乾燥させることによって形成することができる。また、電荷発生層は、電荷発生物質の蒸着膜としてもよい。
【0046】
分散方法としては、たとえば、ホモジナイザー、超音波、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミルを用いた方法が挙げられる。
【0047】
電荷発生物質と結着樹脂との割合は、電荷発生物質1質量部に対して、結着樹脂が0.3質量部以上4質量部以下が好ましい
電荷発生層の膜厚は、0.01μm以上5μm以下であることが好ましく、0.1μm以上2μm以下であることがより好ましい。また、電荷発生層には、種々の増感剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤などを必要に応じて添加することもできる。また、電荷発生層において電荷の流れが滞らないようにするために、電荷発生層には、電子輸送物質、または電子受容性物質を含有させてもよい。
【0048】
本発明の電子写真感光体の感光層および電荷輸送層に用いられる電荷輸送物質は、ピレン化合物、トリアリールアミン系化合物、ヒドラゾン化合物、ピラゾリン系化合物、スチリル系化合物、スチルベン化合物、オキサゾール系化合物、トリアリルメタン系化合物などが挙げられる。これらの電荷輸送物質は1種のみ用いてもよく、2種以上を組合わせて用いてもよい。
【0049】
積層型感光層において、電荷輸送層に用いられる結着樹脂としては、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸エステル、ポリアリレート、ポリサルホン、ポリスチレンなどが挙げられる。これらの中で、ポリカーボネートやポリアリレートが特に好ましい。これらの樹脂は単独でも、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0050】
電荷輸送層は、電荷輸送物質と結着樹脂および溶剤とともに分散して得られる電荷輸送層用塗布液を塗布し、これを乾燥させることによって形成することができる。
【0051】
分散方法としては、たとえば、ホモジナイザー、超音波、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミルを用いた方法が挙げられる。
【0052】
電荷輸送物質と結着樹脂との割合は、結着樹脂1質量部に対して、電荷輸送物質が0.4質量部以上2質量部以下が好ましく、0.5質量部以上1.2質量部以下がより好ましい。
【0053】
電荷輸送層の膜厚は、5μm以上50μm以下であることが好ましく、10μm以上35μm以下であることがより好ましい。また、電荷輸送層には、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤などを必要に応じて添加することもできる。また、フッ素原子含有樹脂やシリコーン含有樹脂などを含有させても良い。また前記樹脂により構成される微粒子、金属酸化物微粒子や無機微粒子を含有してもよい。
【0054】
本発明の電子写真感光体においては、上述の電荷輸送層を表面層として形成してもよい。また、上述の電荷輸送層上に第二電荷輸送層または保護層として表面層を形成することもできる。硬化性樹脂を用いた表面層を形成してもよい。
【0055】
硬化性樹脂としては、重合性および/または架橋性のモノマーやオリゴマーが好ましい。重合性および/または架橋性のモノマーやオリゴマーとしては、アクリロイルオキシ基やスチリル基などの連鎖重合性官能基を有する化合物や、水酸基やアルコキシシリル基やイソシアネート基などの逐次重合性官能基を有する化合物が挙げられる。これらの中でも、電荷輸送性基及びアクリロイルオキシ基を1分子内に有する化合物が好ましい。硬化性樹脂を硬化させる手段としては、光や、電子線などの放射線などが挙げられる。
【0056】
上述の電荷輸送層上に第二の電荷輸送層または保護層として表面層を形成する場合の膜厚は、0.1μm以上30μm以下であることが好ましく、1μm以上10μm以下であることが好ましい。
【0057】
本発明の電子写真感光体の表面層(電荷輸送層または保護層)の熱物性は、表面層のガラス転移温度と融点を測定することで熱物性を評価することができる。具体的には、表面層を構成する結着樹脂および電荷輸送物質のガラス転移温度、電荷輸送物質の融点、または表面層としてのガラス転移温度として測定することである。ガラス転移温度、および融点は、例えば、セイコー電子工業(株)製のSSC5200Hの熱分析装置を用いて測定することができる。具体的には、20℃から280℃まで、10℃/minの昇温速度で測定を行い、得られたチャートの固体側接線と転移温度域の急峻な位置の接線との交点を融点またはガラス転移温度とした。
【0058】
本発明における表面層が液体状態となる温度T1とは、基本的には表面層の融点を示す。ただし、表面層が複数の材料からなり、その構成材料の低融点材料が加熱により融解し、その融解した材料に、表面層を構成する他の材料が溶解するような場合には、その低融点材料の融点をT1とする。以下の実施例においては、融解した電荷輸送物質に結着樹脂が溶解するため、電荷輸送物質の融点を表面層が液体状態となる温度T1として示した。
【実施例】
【0059】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより詳細に説明する。なお、実施例中の「部」は「質量部」を意味する。
【0060】
(実施例1)
直径30mm、長さ357.5mm、肉厚1mmのアルミニウムシリンダーを円筒状支持体(導電性支持体)とした。
【0061】
次に、酸化スズで被覆されている硫酸バリウム粒子(商品名:パストランPC1、三井金属鉱業(株)製)60部、酸化チタン粒子(商品名:TITANIXJR、テイカ(株)製)15部、レゾール型フェノール樹脂43部(商品名:フェノライトJ−325、大日本インキ化学工業(株)製、固形分70質量%)、シリコーンオイル(商品名:SH28PA、東レシリコーン(株)製)0.015部、シリコーン樹脂粒子(商品名:トスパール120、東芝シリコーン(株)製)3.6部、および、2−メトキシ−1−プロパノール50部/メタノール50部の混合溶剤を混合し、ボールミルで20時間分散して導電層用塗布液を調製した。円筒状支持体上に、この導電層用塗布液を浸漬塗布し、140℃で1時間加熱硬化させることによって、膜厚が15μmの導電層を形成した。
【0062】
次に、共重合ナイロン(商品名:アミランCM8000、東レ(株)製)10部およびN−メトキシメチル化6ナイロン(商品名:トレジンEF−30T、帝国化学(株)製)30部を、メタノール400部/n−ブタノール200部の混合溶剤に溶解させることによって中間層用塗布液を調製した。この中間層用塗布液を導電層上に浸漬塗布し、100℃で30分間乾燥させることによって、膜厚が0.45μmの中間層を形成した。
【0063】
次に、CuKα特性X線回折におけるブラッグ角2θ±0.2°の7.4°及び28.1°に強いピークを有する結晶形のヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶(電荷発生物質)20部、下記構造式(1)で示されるカリックスアレーン化合物0.2部、ポリビニルブチラール(商品名:エスレックBX−1、積水化学工業(株)製)10部および、シクロヘキサノン600部を、直径1mmガラスビーズを用いたサンドミル装置で23±3℃の雰囲気下で4時間分散処理した。分散処理後、酢酸エチル700部を加えて電荷発生層用塗布液を調製した。この電荷発生層用塗布液を中間層上に浸漬塗布し、温度80℃で15分間乾燥させることによって、膜厚が0.17μmの電荷発生層を形成した。
【0064】
【化1】

【0065】
次に、下記構造式(2)で示されるアミン化合物(電荷輸送物質)70部および、ポリカーボネート(商品名:ユーピロンZ400、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)社製)100部を、モノクロロベンゼン600部/メチラール200部の混合溶剤に溶解させることによって、電荷輸送層用塗布液を調製した。この電荷輸送層用塗布液を、電荷発生層上に浸漬塗布し、温度100℃で30分間乾燥させることによって、膜厚が15μmの電荷輸送層を形成した。
【0066】
【化2】

【0067】
このようにして、支持体、導電層、中間層、電荷発生層および電荷輸送層を有する電子写真感光体を製造した。
【0068】
得られた電子写真感光体を25℃の環境下において、図1に示す構成の表面加工装置に設置した。加熱部材2と円柱状の型部材3は、材質がSUS304製のものを用い、加熱部材2の内部には、加熱用のヒーターを設置し、型部材3の内部には温度制御装置(不図示)を設置した。表面加工に際しては、円柱状の型部材3を図1の矢印の方向(反時計回り)に回転させ、電子写真感光体1を図1の時計回りに回転させるようにして電子写真感光体1の表面(被加工面)に型部材3の表面(加工面)を連続的に加圧接触させるようにした。また、加熱部材2については、型部材3によって凹凸形状が形成された電子写真感光体1の表面が接触点aに達したときに、電子写真感光体1の表面を加熱しないように離間させた。
【0069】
型部材3としては、図6(A)に示すような円柱状の凸部が連続している形状の表面(加工面)を有する型部材を使用した。型部材3の表面(加工面)の円柱の直径φは5μm、円柱の高さZは2μm、円柱のピッチ(凹部の幅)Y1、Y2は10μmとした。電子写真感光体1の支持体の内部には、支持体の内径と略同直径を有するSUS304製の円筒状の保持部材5を挿入した。このとき、保持部材5の温度制御は行わなかった。以上のような構成の表面加工装置を用い、表1に示す表面加工条件で電子写真感光体の凹凸形状形成を100本連続で行った。また、表1には、別途測定した電荷輸送層のガラス転移温度および電荷輸送物質の融点を示す。
【0070】
また、各種温度測定は以下の方法により行った。加熱部材2および型部材3の温度は、テープ接触型の熱電対(商品名:ST−24K−008−TS1.5−ANP、安立計器(株)製)を加熱部材および型部材の表面に接触させることにより測定した。表面加工中における電荷輸送層の温度は、温度測定用の電子写真感光体を別途作製し、測定を行った。温度測定用の電子写真感光体は以下のように作製した。
【0071】
まず、表面加工用の電子写真感光体と同様に膜厚が15μmの表面層(電荷輸送層)を形成した後、先端径25μmの極細熱電対(商品名:KFT−25−100、(株)アンベエスエムティ製)を表面層の表面の4箇所(円筒状の電子写真感光体の長手方向に4等分)に銀ペーストで固定した。その熱電対上に別途形成した膜厚2μmの電荷輸送層の単独膜(1cm四方)を被せ、固定したものを温度測定用の電子写真感光体とした。
【0072】
以上により得られた温度測定用の電子写真感光体を使用し、凹凸形状形成を行いながら、凹凸形状形成中の温度変化を連続的にモニターすることにより測定した。なお、電子写真感光体の表面(被加工面)と加熱部材との接触点aの温度は、電子写真感光体の表面と加熱部材の表面が接触した際に生じるニップ部分の通過時における電子写真感光体の表面の温度の最大値とした。また、電子写真感光体の表面と型部材の表面が加圧接触し始める際の温度は、電子写真感光体の表面と加熱部材の表面とが離間し始めてから電子写真感光体の表面と型部材の表面が加圧接触した際に生じるニップ部分に侵入し始めるまでの区間における電子写真感光体の表面の温度の最小値をT2とした。また、電子写真感光体の表面と型部材の表面が離間し始めた際の電子写真感光体(表面層)の表面の温度T3は、電子写真感光体の表面と型部材の表面が加圧接触した際に生じるニップ部分の通過後の電子写真感光体の表面の温度の最大値とした。
【0073】
100本の電子写真感光体の表面に凹凸形状を形成した後の型部材の劣化の評価は、レーザー顕微鏡(商品名:VK8500、キーエンス(株)製)を用いて、表面層の材料成分の型部材への付着についての評価を行った。
【0074】
材料成分の付着の確認は、型部材の測定位置として、電子写真感光体の表面層(電荷輸送層)の塗膜の塗布上方端部を加工した端部から中央に向けて50mm位置を位置No.1とし、中央部を位置No.2とし、塗膜の塗布下方端部を加工した端部から中央部に向けて50mm位置を位置No.3とした。さらに、No.1、No.2、No.3のそれぞれの位置において、電子写真感光体の周方向に対して90°ごとに4点、電子写真感光体の合計12点について、それぞれの電子写真感光体の位置に対する型部材の表面の12点を評価した。これら12点の位置において、100μm四方あたりの観察における表面層を形成する材料成分の付着箇所を個数として計測し、12点の位置における平均個数を算出し、以下のように評価した。結果を、表1に示す。
【0075】
A:材料成分の付着が10箇所以下
B:材料成分の付着が11箇所以上20箇所以下
C:材料成分の付着が21箇所以上50箇所以下
D:材料成分の付着が51箇所以上。
【0076】
電子写真感光体の初期画像欠陥の評価を以下のように行った。評価装置としては、キヤノン(株)製のレーザービームプリンター(商品名:LBP−2510)を用いた。上記した凹凸形状形成により連続して電子写真感光体を100本表面加工したのち、100本目に凹凸形状形成した電子写真感光体をシアン色用のプロセスカートリッジのステーションに装着した。温度23℃、湿度50%RH環境下で、ドラム表面電位は、初期暗部電位(Vd)が−500V、初期明部電位(Vl)が−100Vになるように設定した。電子写真感光体の表面電位の測定は、カートリッジを改造し、現像位置に電位プローブ(model6000B−8、トレック・ジャパン社製)を装着し、ドラム中央部の電位を表面電位計(model344、トレック・ジャパン社製)を使用して測定した。この評価装置に、ハーフトーン画像を連続で10枚出力し、出力した画像とそれに対応する電子写真感光体の表面を観察し、表面層の材料成分が付着した型部材による不十分な凹凸形状形成に起因する初期画像欠陥(黒ポチ)を下記のように評価した。結果を表1に示す。
【0077】
A:黒ポチが0個
B:黒ポチが1個以上3個以内
C:黒ポチが4個以上。
【0078】
(実施例2)
表面加工装置として図1に示す構成の表面加工装置を使用し、表面加工条件を表1のように変更した以外は、実施例1と同様に凹凸形状を有する電子写真感光体を製造し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0079】
(実施例3〜4)
表面加工装置として図3に示す構成の表面加工装置を使用し、表面加工条件を表1のように変更した以外は、実施例1と同様に凹凸形状を有する電子写真感光体を製造し、評価を行った。結果を表1に示す。なお、実施例3〜4では、シート状の型部材3を用い、内部に冷却装置を設けたSUS304製の円柱状の加圧部材4を設けた。加圧部材4は、加圧部材4の軸が電子写真感光体の回転中心軸に対して略平行になるように回転可能に設けた。電子写真感光体1の表面の凹凸形状の形成については、温度制御装置(不図示)を内部に備えた円筒状の加圧部材4を図3の矢印の方向(反時計回り)に回転させ、電子写真感光体1を図3の時計回りに回転させるようにして電子写真感光体1の表面に型部材3の表面を連続的に加圧接触させるようにした。また、加熱部材2については、型部材3によって凹凸形状が形成された電子写真感光体1の表面が接触点aに達したときに、電子写真感光体1の表面を加熱しないように離間させた。
【0080】
(実施例5)
表面加工装置として図1に示す構成の表面加工装置を使用し、表面加工条件を表1のように変更した以外は、実施例1と同様に凹凸形状を有する電子写真感光体を製造し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0081】
(実施例6)
表面加工装置として図1に示す構成の表面加工装置を使用し、表面加工条件を表1のように変更し、図6(B)に示す型部材を用いた以外は、実施例1と同様に凹凸形状を有する電子写真感光体を製造し評価を行った。結果を表1に示す。
【0082】
(実施例7〜11)
表面加工装置として図1に示す構成の表面加工装置を使用し、表面加工条件を表1のように変更した以外は、実施例1と同様に凹凸形状を有する電子写真感光体を製造し評価を行った。結果を表1に示す。
【0083】
(実施例12〜13)
表面加工装置として図3に示す構成の表面加工装置を使用し、表面加工条件を表1のように変更した以外は、実施例3と同様に凹凸形状を有する電子写真感光体を製造し評価を行った。結果を表1に示す。
【0084】
(実施例14〜18)
上記構造式(2)で示されるアミン化合物を下記構造式(3)の化合物に変更し、表面加工装置として図1に示す構成の表面加工装置を使用し、表面加工条件を表1のように変更した以外は、実施例1と同様に凹凸形状を有する電子写真感光体を製造し評価を行った。結果を表1に示す。
【0085】
【化3】

【0086】
(実施例19〜22)
表面加工装置として図3に示す表面加工装置を使用し、表面加工条件を表1のように変更した以外は、実施例14と同様に凹凸形状を有する電子写真感光体を製造し評価を行った。結果を表1に示す。
【0087】
(実施例23〜25)
表面加工装置として図1に示す構成の表面加工装置を使用し、表面加工条件を表1のように変更した以外は、実施例14と同様に凹凸形状を有する電子写真感光体を製造し評価を行った。結果を表1に示す。
【0088】
(実施例26)
実施例1と同様に支持体上に導電層、中間層、電荷発生層、電荷輸送層を形成した。次に、アルミナ微粒子(平均粒径0.1μm、商品名:LS−231、日本軽金属製)10部、およびクロロベンゼン90部を加えた溶液を、高圧分散機(商品名:マイクロフルイダイザーM−110EH、Microfluidics社製)で600kgf/cmの圧力で3回の処理を施し、均一に分散させた。さらに、上記分散処理を行った溶液をポリフロンフィルター(商品名:PF−040、アドバンテック東洋(株)社製)で濾過を行い、分散液を調製した。次に上記構造式(2)で示される構造を有するアミン化合物(電荷輸送物質)70部、ポリカーボネート樹脂(商品名:ユーピロンZ400、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)社製)100部、上記分散液を200部、モノクロロベンゼン400部、メチラール200部を加えて電荷輸送物質を含有する保護層用塗布液を調製した。得られた保護層用塗布液を前記電荷輸送層上にスプレー塗工により塗布し、130℃で20分間加熱して、乾燥し、膜厚5μmの保護層(表面層)を形成した。以上のように製造した電子写真感光体を用い、表面加工装置として図1に示す構成の表面加工装置を使用し、表面加工条件を表1のように変更した以外は、実施例1と同様に凹凸形状を有する電子写真感光体を製造し評価を行った。結果を表1に示す。
【0089】
(実施例27)
実施例1と同様に支持体上に導電層、中間層、電荷発生層を形成した。電荷輸送層(表面層)に用いたポリカーボネートを下記式(4)に示されるポリアリレート(重量平均分子量:130000、フタル酸骨格はテレフタル酸:イソフタル酸=1:1(モル比))に変更した。表面加工装置として図1に示す構成の表面加工装置を使用し、表面加工条件を表1のように変更した以外は、実施例1と同様に凹凸形状を有する電子写真感光体を用い、評価を行った。結果を表1に示す。
【0090】
【化4】

【0091】
(実施例28)
電荷輸送物質として上記構造式(3)の化合物に変更し、表面加工装置として図1に示す構成の表面加工装置を使用し、表面加工条件を表1のように変更した以外は、実施例27と同様に凹凸形状を有する電子写真感光体を製造し評価を行った。結果を表1に示す。
【0092】
(実施例29)
表面加工装置として図3に示す表面加工装置を使用し、図7に示すような円柱状の凸部が連続している形状の表面(加工面)を有する型部材(円柱の直径φは3μm、円柱の高さZは2μm、円柱のピッチ(凹部の幅)Y1、Y2は2μm)を用い、表面加工条件を表1のように変更した以外は、実施例3と同様に凹凸形状を有する電子写真感光体を製造し評価を行った。結果を表1に示す。
【0093】
(実施例30)
表面加工装置として図3に示す表面加工装置を使用し、図8に示すような凸の線形状(線形状の方向は円筒状の電子写真感光体の周方向と同じ)が連続する形状の表面(加工面)を有する型部材(凸部の幅Xは20μm、凸部の高さZは2μm、線形のピッチ(凹部の幅)Yは20μm)を用い、表面加工条件を表1のように変更した以外は、実施例3と同様に凹凸形状を有する電子写真感光体を製造し評価を行った。結果を表1に示す。
【0094】
(実施例31)
表面加工装置として図3に示す表面加工装置を使用し、図9に示すような凸の線形状(線形状の方向は円筒状の電子写真感光体の周方向と同じ)が連続する形状の表面(加工面)を有する型部材(凸部の幅Xは10μm、凸部の高さZは2μm、線形のピッチ(凹部の幅)Yは1μm)を用い、表面加工条件を表1のように変更した以外は、実施例3と同様に凹凸形状を有する電子写真感光体を製造し評価を行った。結果を表1に示す。
【0095】
(比較例1)
表面加工装置として図5に示す表面加工装置を用い、表面加工条件を表1のように変更した以外は、実施例1と同様に電子写真感光体を製造し評価を行った。結果を表1に示す。なお、図5に示す表面加工装置において、内部に加熱装置を設けた円柱状の型部材3により電子写真感光体1の表面を加熱し、電子写真感光体1の表面(被加工面)と型部材3の表面(加工面)を加圧接触させ、電子写真感光体1の表面に凹凸形状を形成させる。円柱状の型部材3は、型部材3の軸が電子写真感光体の回転中心軸に対して略平行になるように回転可能に設けた。電子写真感光体1の表面への凹凸形状の形成については、円柱状の型部材3を図5の矢印の方向(反時計回り)に回転させ、電子写真感光体1を図5の時計回りに回転させるようにして電子写真感光体1の表面(被加工面)に型部材2の表面(加工面)を連続的に加圧接触させるようにした。
【0096】
(比較例2)
表面加工装置として図1に示す表面加工装置を使用し、表面加工条件を表1のように変更した以外は、実施例1と同様に電子写真感光体を製造し評価を行った。結果を表1に示す。
【0097】
(比較例3)
表面加工装置として図1に示す表面加工装置を使用し、表面加工条件を表1のように変更した以外は、実施例1と同様に電子写真感光体を製造し評価を行った。結果を表1に示す。
【0098】
(比較例4)
表面加工装置として図1に示す表面加工装置を使用し、表面加工条件を以下のように変更した以外は、実施例1と同様に電子写真感光体を製造し評価を行った。凸凹形状がほとんど転写されなかったため、100本連続の電子写真感光体表面への凹凸形状の形成は行わなかった。表面加工条件は、加熱部における表面層の温度が70℃、型部材に接触する際の表面の温度T2が68℃、加圧接触部位における型部材の温度が25℃、離型点における表面の温度T3が50℃、乾燥工程時の表面層の最大温度が100℃、加工圧力20MPa、加工速度が0.8mm/sであった。なお、表面層のガラス転移温度は、75℃であり、電荷輸送層の融点T1は、141℃である。
【0099】
【表1】

【0100】
表1と比較例4において、「電荷輸送層の融点T1」は、「表面層が液体状態となる温度T1」を意味する。「型部材に接触する際の表面の温度T2」は、「型部材の表面と接触し始める際の電子写真感光体の表面の温度T2」を意味する。「加圧接触部位における型部材の温度」は、「電子写真感光体の表面に接触し始める際の型部材の温度」を意味する。「離型点における表面の温度T3」は、「電子写真感光体の表面と型部材の表面とが接触した後、電子写真感光体の表面と型部材の表面とが離間し始めた際の電子写真感光体の表面の温度T3」を意味する。
【0101】
(実施例32)
実施例1と同様に支持体上に導電層、中間層、電荷発生層、電荷輸送層を形成した。次に、下記構造式(5)で示される化合物(電荷輸送物質)35部、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン35部、および、1−プロパノール35部の混合溶剤に溶解させた後、ポリフロンフィルター(商品名:PF−020、アドバンテック東洋(株)製)を用いて濾過することによって、保護層(表面層)用塗布液を調製した。この保護層用塗布液を電荷輸送層上に塗布し、得られた塗膜を大気中において10分間50℃で乾燥させた。その後、窒素中において加速電圧150kV、ビーム電流3.0mAの条件でシリンダーを200rpmで回転させながら1.6秒間電子線を塗膜に照射し、引き続き窒素中において25℃から125℃まで30秒かけて昇温させながら、塗膜の硬化反応を行った。このときの電子線の吸収線量を測定したところ15kGyであった。また、電子線照射および加熱硬化反応の雰囲気の酸素濃度は15ppmであった。その後、大気中において塗膜を25℃まで冷却させ、大気中において30分間100℃で乾燥させることによって、膜厚が5μmの保護層(表面層)を形成した。表面加工装置として図1に示す構成の表面加工装置を使用し、実施例1と同様の表面加工条件で凹凸形状を有する電子写真感光体を製造した。
【0102】
【化5】

【0103】
100本の電子写真感光体の表面に凹凸形状を形成した後の型部材の劣化の評価は、型部材の歪みについて評価と、型部材への表面層の材料成分の付着についての評価を行った。型部材への表面層の材料成分の付着については、実施例1と同様に評価し、結果を以下に示す。型部材の歪みの確認は目視により型部材全面を観察して行い、以下のように評価し、結果を以下に示す。
【0104】
○:型部材の歪みがない
×:型部材の歪みが観察される。
【0105】
実施例32の評価結果
型部材の歪み:○
型部材への表面層の材料成分の付着:A。
【0106】
(比較例5)
実施例32と同様に支持体上に導電層、中間層、電荷発生層、電荷輸送層、保護層(表面層)を形成した電子写真感光体に対して、表面加工装置として図1に示す表面加工装置を使用し、表面加工条件は比較例3と同様に凹凸形状形成を行い、電子写真感光体を製造し評価を行った。評価結果を以下に示す。
【0107】
比較例5の評価結果
型部材の歪み:×
型部材への表面層の材料成分の付着:A。
【符号の説明】
【0108】
1 電子写真感光体
2 加熱部材
3 型部材
4 加圧部材
5 保持部材
6 支持部材
a 加熱部材との接触点
b 型部材との接触点


【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状支持体、該円筒状支持体上に形成された表面層を有する電子写真感光体の表面に凸凹形状を有する型部材の表面を接触させ、回転させながら該表面層の表面に凹凸形状を有させる表面加工方法において、
該電子写真感光体の該表面層のガラス転移温度をTg、該表面層が液体状態となる温度をT1としたとき、
該電子写真感光体の表面に該型部材の表面を接触させる部位よりも該電子写真感光体の回転方向上流側で該電子写真感光体の表面を加熱し、該型部材の表面と接触し始める際の該電子写真感光体の表面の温度T2が、Tg以上T1未満であり、
該電子写真感光体の表面に接触し始める際の該型部材の表面の温度がT2未満であること特徴とする電子写真感光体の表面加工方法。
【請求項2】
前記電子写真感光体の表面に接触し始める際の前記型部材の表面の温度が前記表面層のガラス転移温度Tg未満である請求項1に記載の電子写真感光体の表面加工方法。
【請求項3】
前記電子写真感光体の表面と前記型部材の表面とが接触した後、前記電子写真感光体の表面と前記型部材の表面とが離間し始めた際の前記電子写真感光体の表面の温度T3が、前記表面層のガラス転移温度Tg未満である請求項1または2に記載の電子写真感光体の表面加工方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に電子写真感光体の表面加工方法によって、前記表面層の表面に凹凸形状を形成する工程を有する表面に凹凸形状を有する電子写真感光体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−226149(P2012−226149A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94159(P2011−94159)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】