説明

電子写真感光体の製造方法、電子写真感光体、及びこれを用いた画像形成方法、画像形成装置、プロセスカートリッジ

【課題】長期使用による表面層の剥離を抑制し、優れた耐久性をより長期間にわたり実現した電子写真感光体の製造方法の提供。
【解決手段】導電性支持体上に少なくとも感光層と表面層とが積層された電子写真感光体の製造方法であって、前記表面層の形成において、1つ目のスプレーガン24で溶媒25を感光層に塗布する工程と、溶媒を塗布した感光層に2つ目のスプレーガン22で表面層塗工液23を塗布する工程を含むことを特徴とする電子写真感光体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真感光体の製造方法、電子写真感光体、及びこれを用いた画像形成方法、画像形成装置、プロセスカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機感光体(OPCとも略称される。)は、下記のような良好な性能様々な利点から、無機感光体に代わり複写機、ファクシミリ、レーザープリンタ及びこれらの複合機に多く用いられている。すなわち、(1)光吸収波長域の広さ及び吸収量の大きさ等の光学特性、(2)高感度、安定な帯電特性等の電気的特性、(3)材料の選択範囲の広さ、(4)製造の容易さ、(5)低コスト、(6)無毒性、等が挙げられる。
【0003】
最近、画像形成装置の小型化の要望から感光体の小径化が進み、機械の高速化やメンテナンスフリーの動きも加わり感光体の高耐久化が切望されるようになってきた。有機感光体は、表面層が低分子電荷輸送材料と不活性高分子を主成分としているため一般に柔らかく、電子写真プロセスにおいて繰り返し使用された場合、現像システムやクリーニングシステムによる機械的な負荷により摩耗が発生しやすいという欠点を有している。加えて高画質化の要求からトナー粒子の小粒径化に伴いクリーニング性を上げる目的でクリーニングブレードのゴム硬度の上昇と当接圧力の上昇が余儀なくされ、このことも感光体の摩耗を促進する要因となっている。この様な感光体の摩耗は、感度の劣化、帯電性の低下など電気的特性を劣化させ、画像濃度低下、地肌汚れ等の異常画像の原因となる。また摩耗が局所的に発生した傷は、クリーニング不良によるスジ状汚れ画像をもたらす。現状では感光体の寿命はこの摩耗や傷が原因となり、交換に至っている。
【0004】
感光体の高耐久化には、前述の摩耗量を低減することが第一の課題である。感光層の耐摩耗性を改良する技術としては、(1)表面層に硬化性バインダーを用いたもの(例えば、特許文献1参照。)、(2)高分子型電荷輸送物質を用いたもの(例えば、特許文献2参照。)、(3)表面層に無機フィラーを分散させたもの(例えば、特許文献3参照。)等が挙げられる。これらの技術のうち、(1)の硬化性バインダーを用いたものは、電荷輸送物質との相溶性が悪いためや重合開始剤、未反応残基などの不純物により残留電位が上昇し画像濃度低下が発生し易い傾向がある。また、(2)の高分子型電荷輸送物質を用いたものは、ある程度の耐摩耗性向上が可能であるものの、最近の有機感光体に求められている耐久性を十分に満足させるまでには至っていない。また、高分子型電荷輸送物質は材料の重合、精製が難しく高純度なものが得にくいため材料間の電気的特性が安定しにくい。更に塗工液が高粘度となる等の製造上の問題もある。(3)の無機フィラーを分散させたものは、通常の低分子電荷輸送物質を不活性高分子に分散させた感光体に比べ高い耐摩耗性が発揮できるが、無機フィラー表面に存在するトラップにより残留電位が上昇し、画像濃度低下が発生し易い傾向にある。また、感光体表面の無機フィラーとバインター樹脂の凹凸が大きい場合には、クリーニング不良が発生し、トナーフィルミングや画像流れの原因となることがある。これら(1)、(2)、(3)に示した技術では、有機感光体に求められる電気的な耐久性、機械的な耐久性をも含めた総合的な耐久性を十分に満足するには至っていない。
【0005】
更に、(1)の耐摩耗性と耐傷性を改良するために多官能の硬化型アクリレートモノマーを含有させた感光体が知られている(特許文献4)。この感光体においては、感光層上に設けた保護層にこの多官能の硬化型アクリレートモノマーを含有させている。保護層においては電荷輸送物質を含有せしめてもよいと記載されているが、単に表面層に低分子の電荷輸送物質を含有させた場合には、上記硬化物との相溶性の問題があり、これにより、低分子電荷輸送物質の析出、クラックの発生が起こり、機械強度も低下してしまう恐れがある。また相溶性向上のためにポリカーボネート樹脂を含有させる記載もあるが、硬化型アクリルモノマー含有量が減少し、結果的には十分な耐摩耗性を達成できていない。表面層に電荷輸送物質を含まない感光体については、露光部電位低下のために表面層を薄膜とすればよいが、膜が薄いために感光体の寿命が短くなる。帯電電位や露光部電位の環境安定性が悪く温湿度環境の影響によりその値は大きく変動し、十分な値を維持するには至っていないのが現状である。
【0006】
これらに換わる感光層の耐摩耗技術として、炭素−炭素二重結合を有するモノマーと、炭素−炭素二重結合を有する電荷輸送材、及びバインダー樹脂を含有させて硬化させた電荷輸送層を設けることが知られており(例えば、特許文献5参照。)、このバインダー樹脂には、炭素−炭素二重結合を有し、上記電荷輸送剤に対して反応性を有するものと、上記二重結合を有せず反応性を有しないものが含まれる。
【0007】
この感光体は耐摩耗性と良好な電気的特性を両立させており注目されるが、バインダー樹脂として反応性を有しないものを使用した場合においては、バインダー樹脂と、上記モノマーと電荷輸送物質との反応により生成した硬化物との相溶性が悪く、層分離から架橋時に表面凹凸が生じ、クリーニング不良を引き起こす傾向が見られた。また、上記のように、この場合バインダー樹脂がモノマーの硬化を妨げるほか、この感光体において使用される上記モノマーとして具体的に記載されているものは2官能性のものであり、この2官能性モノマーでは官能基数が少なく充分な架橋密度が得られず、耐摩耗性の点では未だ満足するには至らなかった。また、反応性を有するバインダーを使用した場合においても、上記モノマーおよび上記バインダー樹脂に含有される官能基数の少なさから、上記電荷輸送物質の結合量と架橋密度との両立は難しく、電気特性及び耐摩耗性も充分とは言えないものであった。
【0008】
また、同一分子内に二つ以上の連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物を硬化した化合物を含有する感光層も知られている(特許文献6)。しかし、この感光層は嵩高い正孔輸送性化合物が二つ以上の連鎖重合性官能基を有するため硬化物中に歪みが発生し内部応力が高くなり、表面層の荒れや経時におけるクラックが発生しやすい場合があり、十分な耐久性を有していない。
【0009】
さらに、電荷輸送性構造を有しない3官能以上のラジカル重合性モノマーと電荷輸送性構造を有する1官能のラジカル重合性化合物を硬化させた架橋型電荷輸送層も知られており(特許文献7、特許文献8、特許文献9)、電荷輸送性構造を有する1官能のラジカル重合性化合物を用い、表面層を硬化することで、機械的および電気的な耐久性と同時に感光層のクラックを抑制している。
【0010】
このようにさまざまな形の表面層がこれまで検討されているが、これらは感光層上に耐摩耗性の優れた表面層を形成する場合が多く、長期の使用により表面層の摩耗が進んでいくと、表面層の剥離が発生することがあり、剥離により異常画像を引き起こす場合があった。このような剥離を抑制するためには、十分な摩耗しろが必要であり、そのために余分に膜厚を厚くする必要があった。また、特許文献10では感光層と表面層の間に接着層を設けることで表面層の剥離を制御している。
【特許文献1】特開昭56−48637号公報
【特許文献2】特開昭64−1728号公報
【特許文献3】特開平4−281461号公報
【特許文献4】特許第3262488号公報
【特許文献5】特許第3194392号公報
【特許文献6】特開2000−66425号公報
【特許文献7】特開2004−302450号公報
【特許文献8】特開2004−302451号公報
【特許文献9】特開2004−302452号公報
【特許文献10】特開2007−17633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように感光体の耐摩耗性の向上には、感光層の保護用の表面層が有効であるが、表面層自身の摩耗や、剥離と言った問題がある。さらに、表面層と感光村を接着層で密着させることも提案されているが、接着層を設けることで各層の界面が増え、電荷トラップが多くなり、電気特性の低下を招く場合があった。以上のようなことから、これら従来技術における表面層を有する感光体では、耐摩耗性、接着性、電気特性を十分に満足しているとは言えなかった。
【0012】
本発明の目的は、上記の問題点に鑑み、表面層を有する電子写真感光体において、感光体の長期使用による表面層の剥離を抑制し、優れた耐久性をより長期間にわたり実現した電子写真感光体の製造方法と電子写真感光体を提供することにある。また、本発明のもう1つの目的は、上記の長寿命、高性能感光体を使用した画像形成方法、画像形成装置及び画像形成装置用のプロセスカートリッジを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため本発明者等は、以下の発明を完成した。
本発明は、導電性支持体上に少なくとも感光層と表面層とが積層された電子写真感光体の製造方法であって、前記表面層の形成において、1つ目のスプレーガンで溶媒を感光層に塗布する工程と、2つ目のスプレーガンで溶媒を塗布した感光層に表面層塗工液を塗布する工程を含むことを特徴とする電子写真感光体の製造方法である。
【0014】
好ましい本発明は、前記感光層に塗布する溶媒が、感光層を形成する樹脂に対して溶解性を有することを特徴とする前記電子写真感光体の製造方法である。
【0015】
好ましい本発明は、前記感光層に塗布する溶媒と、感光層塗工液の溶媒とは、同一の成分を含むことを特徴とする前記電子写真感光体の製造方法である。
【0016】
好ましい本発明は、前記表面層塗工液が、電荷輸送性構造を有しない3官能以上のラジカル重合性モノマー(イ)と、電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)を含む溶液であることを特徴とする前記電子写真感光体の製造方法である。
【0017】
好ましい本発明は、前記ラジカル重合性化合物(ロ)が、トリアリールアミン構造、ヒドラゾン構造、ピラゾリン構造およびカルバゾール構造よりなる群から選ばれたいずれかの構造を有することを特徴とする前記電子写真感光体の製造方法である。
【0018】
好ましい本発明は、前記ラジカル重合性化合物(ロ)の電荷輸送性構造が、トリアリールアミン構造であることを特徴とする前記電子写真感光体の製造方法である。
【0019】
好ましい本発明は、前記ラジカル重合性化合物(ロ)が、アクリロイルオキシ基又はメタクリルロイルオキシ基を有することを特徴とする前記電子写真感光体の製造方法である。
【0020】
好ましい本発明は、前記ラジカル重合性化合物(ロ)のラジカル重合性官能基の数が1つであることを特徴とする前記電子写真感光体の製造方法である。
【0021】
好ましい本発明は、前記3官能以上のラジカル重合性モノマー(イ)が、アクリロイルオキシ基及びメタクリロイルオキシ基を合計で3個以上有するものであることを特徴とする前記電子写真感光体の製造方法である。
【0022】
好ましい本発明は、前記塗布された表面層塗工液が熱または光エネルギーにより架橋されることを特徴とする前記電子写真感光体の製造方法である。
【0023】
本発明は、前記電子写真感光体の製造方法により製造されたことを特徴とする電子写真感光体である。
【0024】
本発明は、少なくとも感光体表面への帯電、帯電した感光体表面への画像露光による潜像形成、形成した潜像の現像、現像の記録媒体への転写を行う画像形成方法であって、感光体は前記本発明の電子写真感光体であることを特徴とする画像形成方法である。
【0025】
本発明は、感光体と、感光体表面を帯電する帯電手段と、帯電した感光体表面への画像露光により潜像形成する露光手段と、形成した潜像を現像する現像手段と、現像を記録媒体へ転写する転写手段とを備えた画像形成装置であって、感光体は前記本発明の電子写真感光体であることを特徴とする画像形成装置である。
【0026】
本発明は、感光体、並びに感光体表面へ帯電する帯電手段、帯電した感光体表面へ画像露光により潜像形成する露光手段、形成した潜像を現像する現像手段、現像を記録媒体へ転写する転写手段、転写後の感光体を清浄にするクリーニング手段、及び転写後の感光体を除電する除電手段からなる群から選ばれた少なくとも一つの手段を有し、画像形成装置本体に着脱可能なプロセスカートリッジであって、感光体は前記本発明の電子写真感光体であることを特徴とする画像形成装置用のプロセスカートリッジである。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、表面層を有する電子写真感光体において、表面層と感光層の接着性を向上させることで、長期使用による表面層の剥離を抑制し、優れた耐久性をより長期間にわたり実現した電子写真感光体とその製造方法を提供することができる。また、もう1つの本発明によれば、優れた耐久性をより長期間にわたり実現した画像形成方法、画像形成装置及び画像形成装置用のプロセスカートリッジを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明を実施するための最良の形態を必要に応じて図面を参照にして説明する。なお、いわゆる当業者は特許請求の範囲内における本発明を変更・修正をして他の実施形態をなすことは容易であり、これらの変更・修正はこの特許請求の範囲に含まれるものであり、以下の説明はこの発明の好ましい形態における例であって、この特許請求の範囲を限定するものではない。
【0029】
本発明の電子写真感光体の製造方法は、導電性支持体上に少なくとも感光層と表面層を積層した電子写真感光体に関するものである。そして、表面層の形成工程において2つ以上のスプレーガンを使用し、1つ目のスプレーガンで溶媒のみを感光層に塗布し、溶媒を塗布した感光層に2つ目以降のスプレーガンで表面層塗工液を塗布する工程を含む製造方法である。塗工液を塗布する前に、感光層に溶媒を塗布することで、感光層表面を溶媒に若干溶解させ、その上に表面層塗工液を塗布することにより感光層と表面層との界面での接着性が向上する。なお、本発明の電子写真感光体の製造方法においては、支持体への感光層の形成及び表面層塗工液を塗布された後の表面層の硬化工程は、公知の感光体の製造方法を利用できる。
【0030】
本発明で使用されるスプレーガンはどのような形式でもよく、エアスプレー、エアレススプレー、静電スプレーなどが挙げられる。また、スプレーは縦型でも横型でもよい。図1に本発明のスプレー塗工の概略を示す。符号22、24はスプレーガンを示し、符号21は塗布される基体を示す。図1において基体21は、支持体に感光層を塗工した感光体製造段階品を示し、支持体には円筒状のものを使用している。基体21は駆動手段により矢印方向に回転されており、スプレーガン24は溶媒25のみを基体21に吹き付け、スプレーガン22が基体上に表面層塗工液23を霧化しながら塗布している。スプレーガン22、24は、基体21の左端から矢印方向にゆっくり移動し、溶媒25および表面層塗工液23をこの順で基体21全面に塗工する。表面層塗工液23の塗工回数は任意であるが、2回目の塗工では溶媒の吹き付けを行わなくてよい。
【0031】
表面層塗工液23は、感光層の一部が溶媒25に溶解している間に塗布することが好ましく、溶媒が乾燥しない間に表面層塗工液23が塗布されるように、スプレーガン24とスプレーガン22の間隔は10cm以下が好ましい。スプレーガンの移動速度と支持体の回転数は任意であるが、塗工ムラ発生を抑制する点から、スプレーガンの移動速度は10mm/s以下、支持体の回転数は80rpm以上が好ましい。また、図1では2つのスプレーガンを図示したが、本発明では一つ目のスプレーガンにて溶媒を吹き付けることが必要であるが、スプレーガンの数は2以上ならいくつでもよい。表面層塗工液吹き付け用のスプレーガンを複数使用して、表面層塗工液の複数回塗りをしてもよい。
【0032】
溶媒を吹き付ける量は、0.02〜0.20ml/sが好ましい。吹き付け用溶媒と樹脂の溶解性にもよるが、0.02ml/s以下では感光層樹脂の溶解が少なく、接着性の向上は期待できない。また0.20ml/s以上では、樹脂の溶解量が過多となり、表面層塗工液塗布時に膜厚ムラが発生する場合や、架橋性表面層では硬化不良が発生する場合がある。
【0033】
一つ目のスプレーで用いる吹き付け用の溶媒は、感光層を形成する樹脂に対し可溶であるものが好ましく、また、感光層塗工液に用いられる溶剤と同一又は同一成分を含むことがより好ましい。また、表面層塗工液の溶媒と相溶性があることが好ましい。表面層塗工液を塗布する前に、このような溶媒を塗布することにより、感光層の樹脂の一部を溶解し、感光層塗工液とも容易に相溶するので、硬化した後の表面層と感光層の接着性が向上しやすい。具体的な吹き付け用の溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール系、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系、テトラヒドロフラン、ジオキサン、プロピルエーテルなどのエーテル系、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン系、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、セロソルブアセテートなどのセロソルブ系などが挙げられるが、これらに限定されない。また、これらの溶媒は単独または2種以上を混合して用いてもよい。
【0034】
本発明の製造方法に適用される表面層は、いかなるものでも構わないが、耐摩耗性向上の点から架橋性の表面層であることが好ましい。特に高い耐摩耗性と安定した電気特性を持続可能な、電荷輸送性構造を有しない3官能以上のラジカル重合性モノマー(イ)と、電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)から架橋して形成された架橋表面層であることが好ましい。表面層塗工液に電荷輸送性構造を有しない3官能以上のラジカル重合性モノマー(イ)を用いることにより3次元の網目構造が発達し、架橋密度が非常に高い高硬度架橋表面層が得られ、高い耐摩耗性が達成される。また、表面層塗工液が電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)を含有することで、これらが同時に短時間で重合、硬化し、高硬度の架橋結合を構成し、耐久性の向上が達成される。更に、反応性官能基が多く、硬化速度の速い、電荷輸送性構造を有しない3官能以上のラジカル重合性モノマー(イ)と電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)を硬化することで架橋層中に歪みの少ない均一な架橋膜を形成することが可能となり、この結果、架橋表面層中において電荷輸送物質の未反応部分が減少し、架橋膜内部の均質性が大きく改善される。これにより耐摩耗性の向上と同時に安定した静電特性およびクラックの発生しない電子写真感光体の両立が実現される。さらに本発明の製造方法でこの架橋表面層を形成することで、この耐摩耗性が表面層の界面付近まで維持され、より高い耐摩耗性と安定した電気特性が実現される。
【0035】
<表面層塗工液>
以下に本発明で用いた、電荷輸送性構造を有しない3官能以上のラジカル重合性モノマー(イ)と電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)を含有する架橋表面層塗布液の構成材料について説明する。
(ラジカル重合性モノマー(イ))
電荷輸構送造を有しない3官能以上のとしては、例えば、トリアリールアミン、ヒドラゾン、ピラゾリン、カルバゾールなどの正孔輸送性構造、例えば縮合多環キノン、ジフェノキノン、シアノ基やニトロ基を有する電子吸引性芳香族環などの電子輸送構造を有しておらず、かつラジカル重合性官能基を3個以上有するモノマーを指す。このラジカル重合性官能基とは、炭素−炭素2重結合を有し、ラジカル重合可能な基であれば何れでもよい。これらラジカル重合性官能基としては、例えば、下記に示す1−置換エチレン官能基、1,1−置換エチレン官能基等が挙げられる。
【0036】
1−置換エチレン官能基としては、例えば、下記一般式(1)で表される官能基が好適に挙げられる。
CH=CH−X− ・・・一般式(1)
ただし、前記一般式(1)中、X1は、置換基を有していてもよいフェニレン基、ナフチレン基等のアリーレン基、置換基を有していてもよいアルケニレン基、−CO−基、−COO−基、−CON(R30)−基(ただし、R30は、水素原子、メチル基、エチル基等のアルキル基、ベンジル基、ナフチルメチル基、フェネチル基等のアラルキル基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基を表す。)、又は−S−基を表す。
これらの置換基としては、具体的には、ビニル基、スチリル基、2−メチル−1,3−ブタジエニル基、ビニルカルボニル基、アクリロイルオキシ基、アクリロイルアミド基、ビニルチオエーテル基、等が挙げられる。
【0037】
1,1−置換エチレン官能基としては、例えば、下記一般式(2)で表される官能基が好適に挙げられる。
CH2=C(Y)−X2− ・・・一般式(2)
ただし、前記一般式(2)中、Yは、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基等のアリール基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、メトキシ基あるいはエトキシ基等のアルコキシ基、−COOR31基(ただし、R31は、水素原子、置換基を有していてもよいメチル基、エチル基等のアルキル基、置換基を有していてもよいベンジル、フェネチル基等のアラルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基等のアリール基、)又は−CONR3233(ただし、R32及びR33は、水素原子、置換基を有していてもよいメチル基、エチル基等のアルキル基、置換基を有していてもよいベンジル基、ナフチルメチル基、あるいはフェネチル基等のアラルキル基、又は置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基等のアリール基を表し、互いに同一又は異なっていてもよい。)、また、X2は前記一般式(1)のX1と同一の置換基及び単結合、アルキレン基を表す。ただし、Y,X2の少なくとも何れか一方がオキシカルボニル基、シアノ基、アルケニレン基、及び芳香族環である。
【0038】
これらの置換基としては、例えば、α−塩化アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、α−シアノエチレン基、α−シアノアクリロイルオキシ基、α−シアノフェニレン基、メタクリロイルアミノ基、等が挙げられる。
【0039】
なお、これらX1、X2、Yについての置換基に更に置換される置換基としては、例えばハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、メチル基、エチル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基等のアリールオキシ基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基、などが挙げられる。
【0040】
これらのラジカル重合性官能基の中では、特にアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基が有用であり、3個以上のアクリロイルオキシ基を有する化合物は、例えば、水酸基がその分子中に3個以上ある化合物とアクリル酸(塩)、アクリル酸ハライド、アクリル酸エステルを用い、エステル反応あるいはエステル交換反応させることにより得ることができる。また、3個以上のメタクリロイルオキシ基を有する化合物も同様にして得ることができる。また、ラジカル重合性官能基を3個以上有する単量体中のラジカル重合性官能基は、同一でも異なってもよい。
【0041】
電荷輸送性構造を有しない3官能以上のラジカル重合性モノマー(イ)の具体例としては、以下のものが例示されるが、これらの化合物に限定されるものではない。
本発明において使用する上記ラジカル重合性モノマー(イ)としては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、トリメチロールプロパントリメタクリレート、HPA変性(アルキレン変性)トリメチロールプロパントリアクリレート、EO変性(エチレンオキシ変性)トリメチロールプロパントリアクリレート、PO変性(プロピレンオキシ変性)トリメチロールプロパントリアクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリアクリレート、HPA変性トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA)、グリセロールトリアクリレート、ECH変性(エピクロロヒドリン変性)グリセロールトリアクリレート、EO変性グリセロールトリアクリレート、PO変性グリセロールトリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジメチロールプロパンテトラアクリレート(DTMPTA)、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、EO変性リン酸トリアクリレート、2,2,5,5,−テトラヒドロキシメチルシクロペンタノンテトラアクリレートなどが挙げられ、これらは、単独又は2種類以上を併用しても差し支えない。前記変性を行なった理由はモノマーの粘度を下げ、扱い易くするためである。
【0042】
本発明に用いられる電荷輸送性構造を有しない3官能以上のラジカル重合性モノマー(イ)は、架橋表面層中に緻密な架橋結合を形成するために、該モノマー中の官能基数に対する分子量の割合(分子量/官能基数)は250以下が望ましい。また、この割合が250より大きい場合、架橋表面層は柔らかく耐摩耗性が幾分低下するため、上記例示したモノマー等中、HPA、EO、PO等の変性基を有するモノマーにおいては、極端に長い変性基を有するものを単独で使用することは好ましくはない。
【0043】
架橋表面層に用いられる電荷輸送性構造を有しない3官能以上のラジカル重合性モノマー(イ)の成分割合は、架橋表面層全量に対し20〜80質量%、好ましくは30〜70質量%である。モノマー成分が20質量%未満では架橋表面層の3次元架橋結合密度が少なく、従来の熱可塑性バインダー樹脂を用いた場合に比べ飛躍的な耐摩耗性向上が達成されない。また、80質量%以上では電荷輸送性化合物の含有量が低下し、電気的特性の劣化が生じる。使用されるプロセスによって要求される耐摩耗性や電気特性が異なるため一概には言えないが、両特性のバランスを考慮すると30〜70質量%の範囲が最も好ましい。
【0044】
(ラジカル重合性化合物(ロ))
本発明に用いられる電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)は、例えばトリアリールアミン構造、ヒドラゾン構造、ピラゾリン構造、カルバゾール構造などの正孔輸送性構造、例えば縮合多環キノン、ジフェノキノン、シアノ基やニトロ基を有する電子吸引性芳香族環などの電子輸送構造を有しており、且つラジカル重合性官能基を有する化合物を指す。このラジカル重合性官能基としては、先にラジカル重合性モノマーで示したものが挙げられ、特にアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基が有用である。また、電荷輸送性構造としてはトリアリールアミン構造が、効果が高い。
【0045】
更に、下記一般式(3)又は(4)の構造で示される化合物を用いた場合、感度、残留電位等の電気的特性が良好に持続される。
【0046】
【化1】

【0047】
【化2】

一般式(3)、(4)中、R1は水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基、置換基を有してもよいアリール基、シアノ基、ニトロ基、アルコキシ基、−COOR2(R2は水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基又は置換基を有してもよいアリール基)、ハロゲン化カルボニル基若しくはCONR34(R3及びR4は水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基又は置換基を有してもよいアリール基を示し、互いに同一であっても異なっていてもよい)を表わし、Ar1、Ar2は置換もしくは未置換のアリーレン基を表わし、同一であっても異なってもよい。Ar3、Ar4は置換もしくは未置換のアリール基を表わし、同一であっても異なってもよい。Xは単結合、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のシクロアルキレン基、置換もしくは無置換のアルキレンエーテル基、酸素原子、硫黄原子、ビニレン基を表わし、Zは置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアルキレンエーテル基、アルキレンオキシカルボニル基を表わし、mとnは0〜3の整数を表わす。
【0048】
前記一般式(3)、(4)において、R1における、アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等、アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が、アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基が、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等がそれぞれ挙げられ、これらは、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、メチル基、エチル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基等のアリールオキシ基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基等により置換されていても良い。R1のうち、特に好ましいものは水素原子、メチル基である。
【0049】
Ar3、Ar4は置換もしくは未置換のアリール基を表す。本発明においては該アリール基としては、縮合多環式炭化水素基、非縮合環式炭化水素基及び複素環基を含むものであり、以下の基が挙げられる。
【0050】
縮合多環式炭化水素基としては、好ましくは環を形成する炭素数が18個以下のもの、例えば、ペンタニル基、インデニル基、ナフチル基、アズレニル基、ヘプタレニル基、ビフェニレニル基、As−インダセニル基、s−インダセニル基、フルオレニル基、アセナフチレニル基、プレイアデニル基、アセナフテニル基、フェナレニル基、フェナントリル基、アントリル基、フルオランテニル基、アセフェナントリレニル基、アセアントリレニル基、トリフェニレル基、ピレニル基、クリセニル基、及びナフタセニル基等が挙げられる。
【0051】
非縮合環式炭化水素基としては、ベンゼン、ジフェニルエーテル、ポリエチレンジフェニルエーテル、ジフェニルチオエーテル及びジフェニルスルホン等の単環式炭化水素化合物の1価基、あるいはビフェニル、ポリフェニル、ジフェニルアルカン、ジフェニルアルケン、ジフェニルアルキン、トリフェニルメタン、ジスチリルベンゼン、1,1−ジフェニルシクロアルカン、ポリフェニルアルカン、及びポリフェニルアルケン等の非縮合多環式炭化水素化合物の1価基、あるいは9,9−ジフェニルフルオレン等の環集合炭化水素化合物の1価基が挙げられる。
複素環基としては、カルバゾール、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、オキサジアゾール、及びチアジアゾール等の1価基が挙げられる。
【0052】
Ar、Arで表わされるアリール基は例えば以下に示すような置換基を有してもよい。
(1)ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基等。
(2)アルキル基、好ましくは、C1〜C12とりわけC1〜C8、更に好ましくはC1〜C4の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、これらのアルキル基には更にフッ素原子、水酸基、シアノ基、C1〜C4のアルコキシ基、フェニル基又はハロゲン原子、C1〜C4のアルキル基もしくはC1〜C4のアルコキシ基で置換されたフェニル基を有していてもよい。具体的にはメチル基、エチル基、n−ブチル基、i−プロピル基、t−ブチル基、s−ブチル基、n−プロピル基、トリフルオロメチル基、2−ヒドロキシエチル基、2−エトキシエチル基、2−シアノエチル基、2−メトキシエチル基、ベンジル基、4−クロロベンジル基、4−メチルベンジル基、4−フェニルベンジル基等が挙げられる。
(3)アルコキシ基(−ORa)であり、Raは(2)で定義したアルキル基を表わす。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、t−ブトキシ基、n−ブトキシ基、s−ブトキシ基、i−ブトキシ基、2−ヒドロキシエトキシ基、ベンジルオキシ基、トリフルオロメトキシ基等が挙げられる。
(4)アリールオキシ基であり、アリール基としてはフェニル基、ナフチル基が挙げられる。これは、C1〜C4のアルコキシ基、C1〜C4のアルキル基またはハロゲン原子を置換基として含有してもよい。具体的には、フェノキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基、4−メトキシフェノキシ基、4−メチルフェノキシ基等が挙げられる。
(5)アルキルメルカプト基またはアリールメルカプト基であり、具体的にはメチルチオ基、エチルチオ基、フェニルチオ基、p−メチルフェニルチオ基等が挙げられる。
【0053】
(6)
【0054】
【化3】

式中、R10及びR11は各々独立に水素原子、前記(2)で定義したアルキル基、またはアリール基を表わす。アリール基としては、例えばフェニル基、ビフェニル基又はナフチル基が挙げられ、これらはC1〜C4のアルコキシ基、C1〜C4のアルキル基またはハロゲン原子を置換基として含有してもよい。R10及びR11は共同で環を形成してもよい。
具体的には、アミノ基、ジエチルアミノ基、N−メチル−N−フェニルアミノ基、N,N−ジフェニルアミノ基、N,N−ジ(トリール)アミノ基、ジベンジルアミノ基、ピペリジノ基、モルホリノ基、ピロリジノ基等が挙げられる。
【0055】
(7)メチレンジオキシ基、又はメチレンジチオ基等のアルキレンジオキシ基又はアルキレンジチオ基等が挙げられる。
(8)置換又は無置換のスチリル基、置換又は無置換のβ−フェニルスチリル基、ジフェニルアミノフェニル基、ジトリルアミノフェニル基等。
【0056】
前記Ar1、Ar2で表わされるアリーレン基としては、前記Ar3、Ar4で表されるアリール基から誘導される2価基である。
【0057】
Xは単結合、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のシクロアルキレン基、置換もしくは無置換のアルキレンエーテル基、酸素原子、硫黄原子、ビニレン基を表わす。
【0058】
Xにおけるアルキレン基としては、C1〜C12、好ましくはC1〜C8、更に好ましくはC1〜C4の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、これらのアルキレン基には更にフッ素原子、水酸基、シアノ基、C1〜C4のアルコキシ基、フェニル基又はハロゲン原子、C1〜C4のアルキル基もしくはC1〜C4のアルコキシ基で置換されたフェニル基を有していてもよい。具体的にはメチレン基、エチレン基、n−ブチレン基、i−プロピレン基、t−ブチレン基、s−ブチレン基、n−プロピレン基、トリフルオロメチレン基、2−ヒドロキシエチレン基、2−エトキシエチレン基、2−シアノエチレン基、2−メトキシエチレン基、ベンジリデン基、フェニルエチレン基、4−クロロフェニルエチレン基、4−メチルフェニルエチレン基、4−ビフェニルエチレン基等が挙げられる。
【0059】
Xにおけるシクロアルキレン基としては、C5〜C7の環状アルキレン基であり、これらの環状アルキレン基にはフッ素原子、水酸基、C1〜C4のアルキル基、C1〜C4のアルコキシ基などの置換基を有していても良い。具体的なシクロアルキレン基としてはシクロヘキシリデン基、シクロへキシレン基、3,3−ジメチルシクロヘキシリデン基等が挙げられる。
【0060】
Xにおけるアルキレンエーテル基としては、エチレンオキシ、プロピレンオキシ、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコールを表わし、アルキレンエーテル基のアルキレン基はヒドロキシル基、メチル基、エチル基等の置換基を有してもよい。
【0061】
Xにおけるビニレン基は、下記の2つの構造式で表される。
【0062】
【化4】

ただし、R12は水素、アルキル基〔前記(2)で定義されるアルキル基と同じ〕、アリール基(前記Ar3、Ar4で表わされるアリール基と同じ)、aは1または2、bは1〜3を表わす。
【0063】
Zは、置換もしくは未置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアルキレンエーテル基、アルキレンオキシカルボニル基を表わす。置換もしくは未置換のアルキレン基としては、前記Xのアルキレン基と同様なものが挙げられる。置換もしくは無置換のアルキレンエーテル基としては、前記Xのアルキレンエーテル基が挙げられる。アルキレンオキシカルボニル基としては、カプロラクトン変性基が挙げられる。
【0064】
本発明の電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)として更に好ましくは、下記一般式(5)の構造の化合物が挙げられる。
【0065】
【化5】

式中、p、q、oはそれぞれ0又は1の整数、Rは水素原子、メチル基を表わし、R6、R7は水素原子以外の置換基で炭素数1〜6のアルキル基を表わし、複数の場合は異なっても良い。s、tは0〜3の整数を表わす。Z2は単結合、メチレン基、エチレン基、
【0066】
【化6】

のいずれかを表わす。
上記一般式(5)で表わされる化合物としては、R6、R7の置換基として、特にメチル基、エチル基である化合物が好ましい。
【0067】
本発明で用いる上記一般式(3)及び(4)特に(5)で表される電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)は、炭素−炭素間の二重結合が両側に開放されて重合するため、末端構造とはならず、連鎖重合体中に組み込まれ、3官能以上のラジカル重合性モノマーとの重合で架橋形成された重合体中では、高分子の主鎖中に存在し、かつ主鎖−主鎖間の架橋鎖中に存在(この架橋鎖には1つの高分子と他の高分子間の分子間架橋鎖と、1つの高分子内で折り畳まれた状態の主鎖のある部位と主鎖中でこれから離れた位置に重合したモノマー由来の他の部位とが架橋される分子内架橋鎖とがある)するが、主鎖中に存在する場合であってもまた架橋鎖中に存在する場合であっても、鎖部分から懸下するトリアリールアミン構造は、窒素原子から放射状方向に配置する少なくとも3つのアリール基を有し、バルキーであるが、鎖部分に直接結合しておらず鎖部分からカルボニル基等を介して懸下しているため立体的位置取りに融通性ある状態で固定されているので、これらトリアリールアミン構造は重合体中で相互に程よく隣接する空間配置が可能であるため、分子内の構造的歪みが少なく、また、電子写真感光体の表面層とされた場合に、電荷輸送経路の断絶を比較的免れた分子内構造をとりうるものと推測される。
【0068】
また本発明においては下記一般式(6)で示した特定のアクリル酸エステル化合物も電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物として良好に用いることができる。
−Ar−CH=CH−Ar−B ・・・一般式(6)

Ar5は置換基を持つ又は無置換の芳香族炭化水素骨格からなる一価基または二価基を表す。芳香族炭化水素骨格としては、ベンゼン、ナフタレン、フェナントレン、ビフェニル、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン等が挙げられる。置換基としては、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、ベンジル基、ハロゲン原子が挙げられる。また、上記アルキル基、アルコキシ基は、さらにハロゲン原子、フェニル基を置換基として有していても良い。
【0069】
Ar6は、少なくとも1個の3級アミノ基を有する芳香族炭化水素骨格からなる一価基または二価基、もしくは少なくとも1個の3級アミノ基を有する複素環式化合物骨格からなる一価基または二価基を表すが、ここで、3級アミノ基を有する芳香族炭化水素骨格とは下記一般式(7)で表される。
【0070】
【化7】

式中、R13、R14はアシル基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表す。Ar7はアリール基を表す。wは1〜3の整数を表す。
13、R14のアシル基としてはアセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
13、R14の置換もしくは無置換のアルキル基はAr5の置換基で述べたアルキル基と同様である。
13、R14の置換もしくは無置換のアリール基は、フェニル基、ナフチル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ピレニル基、フルオレニル基、9,9−ジメチル−2−フルオレニル基、アズレニル基、アントリル基、トリフェニレニル基、クリセニル基に加えて下記一般式(8)で表される基を挙げることができる。
【0071】
【化8】

式中、Bは−O−、−S−、−SO−、−SO2−、−CO−及び以下の二価基から選ばれる。
【0072】
【化9】

ここで、R21は、水素原子、Ar5で定義された置換もしくは無置換のアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、R13で定義された置換もしくは無置換のアリール基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基を表し、R22は、水素原子、Ar5定義された置換もしくは無置換のアルキル基、R13で定義された置換もしくは無置換のアリール基を表し、iは1〜12の整数、jは1〜3の整数を表す。
【0073】
21のアルコキシ基の具体例としてはメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基、2−ヒドロキシエトキシ基、2−シアノエトキシ基、ベンジルオキシ基、4−メチルベンジルオキシ基、トリフルオロメトキシ基等が挙げられる。
21のハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
21のアミノ基としては、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ジベンジルアミノ基、4−メチルベンジル基等が挙げられる。
【0074】
Ar7のアリール基としてはフェニル基、ナフチル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ピレニル基、フルオレニル基、9,9−ジメチル−2−フルオレニル基、アズレニル基、アントリル基、トリフェニレニル基、クリセニル基を挙げることができる。
【0075】
Ar7、R13、R14は、Ar5で定義されたアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子を置換基として有していても良い。
【0076】
3級アミノ基を有する複素環式化合物骨格としては、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、ジオキサゾール、インドール、イソインドール、ベンズイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾイソキサジン、カルバゾール、フェノキサジン等のアミン構造を有する複素環化合物が挙げられる。これらは、Ar5で定義されたアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子を置換基として有していても良い。
【0077】
1、B2はアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ビニル基、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基又はビニル基を有するアルキル基、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基又はビニル基を有するアルコキシ基を表す。アルキル基、アルコキシ基は、Ar5で述べたものが同様に適用される。これらB、Bはどちらか一方のみが存在し、両方の存在は除外される。
【0078】
一般式(6)のアクリル酸エステル化合物においてより好ましい構造として下記一般式(9)の化合物を挙げることができる。
【0079】
【化10】

式中、R8、R9は、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、ハロゲン原子を表し、Ar7、Ar8は、置換もしくは無置換のアリール基またはアリレン基、置換又は無置換のベンジル基をあらわす。アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子は前記Ar5で述べたものが同様に適用される。
アリール基は、一般式(7)におけるR13、R14で定義されたアリール基と同様である。アリレン基は、そのアリール基から誘導される二価基である。
1〜B4は、一般式(6)におけるB1、B2と同様である。uは0〜5の整数、vは0〜4の整数を表す。
【0080】
特定のアクリル酸エステル化合物は次のような特徴を有する。スチルベン型共役構造を有した三級アミン化合物であり、発達した共役系を有している。こういった共役系の発達した電荷輸送性化合物を用いることで、架橋層界面部分での電荷注入性が非常に良好となり、さらに架橋結合間に固定化された場合でも分子間相互作用が阻害されにくく、電荷移動度に関しても良好な特性を有する。また、ラジカル重合性の高いアクリロイルオキシ基、又はメタクリロイルオキシ基を分子中に有しており、ラジカル重合時に速やかにゲル化するとともに過度な架橋歪を生じない。分子中のスチルベン構造部の二重結合が部分的に重合に参加し、しかもアクリロイルオキシ基、又はメタクリロイルオキシ基よりも重合性が低いために架橋反応に時間差が生じることで歪みを最大に大きくする事が無く、しかも分子中の二重結合を使用する為に分子量当りの架橋反応数を上げることが出来る為に、架橋密度を高めることができ、耐摩耗性のさらなる向上が実現可能となった。また、この二重結合は、架橋条件により重合度を調整することができ、容易に最適架橋膜を作製できる。この様なラジカル重合への架橋参加は、アクリル酸エステル化合物の特異的な特徴であり、前述したようなα−フェニルスチルベン型の構造では起こらない。
【0081】
以上のことから、一般式(6)特に一般式(9)に示したラジカル重合性官能基を有する電荷輸送性化合物を用いることで良好な電気特性を維持しつつ、且つ、クラック等の発生を起さずに架橋密度の極めて高い膜を形成することができ、それにより感光体の諸特性を満足し、且つシリカ微粒子等が感光体に刺さることを防止し、白斑点等の画像欠陥を減らすことができる。
【0082】
ラジカル重合性官能基の数については架橋構造の均一性については官能基数の少ないものが好ましく、耐摩耗性については官能基数の多いものが好ましい。本発明においては両者のバランスから良好に選択して使用することが可能である。
【0083】
以下に本発明において用いられる電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物の具体例を示すが、これらの構造の化合物に限定されるものではない。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

【0086】
【表3】

【0087】
【表4】

【0088】
【表5】

【0089】
【表6】

【0090】
【表7】

【0091】
【表8】

【0092】
【表9】

【0093】
【表10】

【0094】
【表11】

【0095】
【表12】

本発明に用いられる電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)は、架橋表面層の電荷輸送性能を付与するために重要で、この成分は架橋表面層全量に対し20〜80質量%、好ましくは30〜70質量%になるように塗工液成分の含有量を調整する。この成分が20質量%未満では架橋表面層の電荷輸送性能が充分に保てず、繰り返しの使用で感度低下、残留電位上昇などの電気特性の劣化が現れる。また、80質量%を超えると電荷輸送構造を有しない3官能以上のラジカル重合性モノマーの含有量が低下し、架橋結合密度の低下を招き高い耐摩耗性が発揮されない。使用されるプロセスによって要求される電気特性や耐摩耗性が異なるため一概には言えないが、両特性のバランスを考慮すると30〜70質量%の範囲が最も好ましい。
【0096】
本発明で用いられる架橋表面層は、電荷輸送性構造を有しない3官能以上のラジカル重合性モノマー(イ)と電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)を反応させて硬化することにより形成されるが、これ以外に塗工時の粘度調整、架橋表面層の応力緩和、低表面エネルギー化や摩擦係数低減などの機能付与の目的で1官能及び2官能のラジカル重合性モノマー、機能性モノマー及びラジカル重合性オリゴマーを併用することができる。これらのラジカル重合性モノマー、オリゴマーとしては、公知のものが利用できる。
【0097】
1官能のラジカル重合性モノマーとしては、例えば、2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2−エチルヘキシルカルビトールアクリレート、3−メトキシブチルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、イソアミルアクリレート、イソブチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールアクリレート、セチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、ステアリルアクリレート、スチレンモノマーなどが挙げられる。
【0098】
2官能のラジカル重合性モノマーとしては、例えば、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ビスフェノールA−EO変性ジアクリレート、ビスフェノールF−EO変性ジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレートなどが挙げられる。
【0099】
機能性モノマーとしては、例えば、オクタフルオロペンチルアクリレート、2−パーフルオロオクチルエチルアクリレート、2−パーフルオロオクチルエチルメタクリレート、2−パーフルオロイソノニルエチルアクリレートなどのフッ素原子を置換したもの、特公平5−60503号公報、特公平6−45770号公報記載のシロキサン繰り返し単位:20〜70のアクリロイルポリジメチルシロキサンエチル、メタクリロイルポリジメチルシロキサンエチル、アクリロイルポリジメチルシロキサンプロピル、アクリロイルポリジメチルシロキサンブチル、ジアクリロイルポリジメチルシロキサンジエチルなどのポリシロキサン基を有するビニルモノマー、アクリレート及びメタクリレートが挙げられる。
【0100】
ラジカル重合性オリゴマーとしては、例えば、エポキシアクリレート系、ウレタンアクリレート系、ポリエステルアクリレート系オリゴマーが挙げられる。
【0101】
1官能及び2官能のラジカル重合性モノマーやラジカル重合性オリゴマーを多量に含有させると架橋表面層の3次元架橋結合密度が実質的に低下し、耐摩耗性の低下を招くことがある。このためこれらのモノマーやオリゴマーの含有量は、3官能以上のラジカル重合性モノマー100質量部に対し50質量部以下、好ましくは30質量部以下に制限することが好ましい。
【0102】
本発明で用いた架橋表面層は、電荷輸送性構造を有しない3官能以上のラジカル重合性モノマーと電荷輸送性構造を有する1官能のラジカル重合性化合物を含有する単量体混合物の溶媒溶液組成物(塗工液)を塗布し、これを重合、硬化することにより形成されるものであるが、必要に応じてこの架橋反応を効率よく進行させるために該溶媒溶液組成物中に重合開始剤(例えば熱重合開始剤や光重合開始剤)を使用してもよい。
【0103】
熱重合開始剤としては、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(パーオキシベンゾイル)ヘキシン−3、ジ−t−ブチルベルオキサイド、t−ブチルヒドロベルオキサイド、クメンヒドロベルオキサイド、ラウロイルパーオキサイドなどの過酸化物系開始剤、アゾビスイソブチルニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル、アゾビスイソブチルアミジン塩酸塩、4,4′−アゾビス−4−シアノ吉草酸などのアゾ系開始剤が挙げられる。
【0104】
光重合開始剤としては、ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−メチル−2−モルフォリノ(4−メチルチオフェニル)プロパン−1−オン、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、などのアセトフェノン系またはケタール系光重合開始剤、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、などのベンゾインエーテル系光重合開始剤、ベンゾフェノン、4−ヒドロキシベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、2−ベンゾイルナフタレン、4−ベンゾイルビフェニル、4−ベンゾイルフェニールエーテル、アクリル化ベンゾフェノン、1,4−ベンゾイルベンゼン、などのベンゾフェノン系光重合開始剤、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、などのチオキサントン系光重合開始剤、その他の光重合開始剤としては、エチルアントラキノン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルエトキシホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、メチルフェニルグリオキシエステル、9,10−フェナントレン、アクリジン系化合物、トリアジン系化合物、イミダゾール系化合物、が挙げられる。また、光重合促進効果を有するものを単独または上記光重合開始剤と併用して用いることもできる。例えば、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、安息香酸(2−ジメチルアミノ)エチル、4,4′−ジメチルアミノベンゾフェノン、などが挙げられる。
【0105】
これらの重合開始剤は1種又は2種以上を混合して用いてもよい。重合開始剤の含有量は、ラジカル重合性を有する総含有物100質量部に対し、0.5〜40質量部、好ましくは1〜20質量部である。
【0106】
更に、本発明における塗工液は必要に応じて各種可塑剤(応力緩和や接着性向上の目的)、レベリング剤、ラジカル反応性を有しない低分子電荷輸送物質などの添加剤が含有できる。これらの添加剤は公知のものが使用可能であり、可塑剤としてはジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等の一般の樹脂に使用されているものが利用可能で、その使用量は塗工液の総固形分に対し20質量%以下、好ましくは10質量%以下に抑えられる。また、レベリング剤としては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル等のシリコーンオイル類や、側鎖にパーフルオロアルキル基を有するポリマーあるいはオリゴマーが利用でき、その使用量は塗工液の総固形分に対し3質量%以下が適当である。
【0107】
本発明で用いた架橋表面層は、電荷輸送性構造を有しない3官能以上のラジカル重合性モノマーと、電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物を含有する塗工液をスプレーにより塗布し、外部エネルギーを与えることで硬化し、形成される。塗工液は溶媒により希釈して塗布することも可能である。このとき用いられる溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール系、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系、テトラヒドロフラン、ジオキサン、プロピルエーテルなどのエーテル系、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン系、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、セロソルブアセテートなどのセロソルブ系などが挙げられる。これらの溶媒は単独または2種以上を混合して用いてもよい。溶媒による希釈率は組成物の溶解性、目的とする膜厚により変わり、任意である。
【0108】
本発明の架橋表面層は、かかる表面層塗工液を塗布後、外部からエネルギーを与え硬化させ、架橋表面層を形成するものであるが、このとき用いられる外部エネルギーとしては熱、光、放射線がある。熱のエネルギーを加える方法としては、空気、窒素などの気体、蒸気、あるいは各種熱媒体、赤外線、電磁波を用い塗工表面側あるいは支持体側から加熱することによって行なわれる。加熱温度は100℃以上、170℃以下が好ましく、100℃未満では反応速度が遅く、完全に反応が終了しない。170℃より高温では反応が不均一に進行し架橋表面層中に大きな歪みが発生する。硬化反応を均一に進めるために、100℃未満の比較的低温で加熱後、更に100℃以上に加温し反応を完結させる方法も有効である。光のエネルギーとしては主に紫外光に発光波長をもつ高圧水銀灯やメタルハライドランプなどのUV照射光源が利用できるが、ラジカル重合性含有物や光重合開始剤の吸収波長に合わせ可視光光源の選択も可能である。照射光量は50mW/cm以上、好ましくは500mW/cm以上、より好ましくは1000mW/cm以上である。1000mW/cmより強い照度の照射光を用いることで、重合反応の進行速度が大幅に大きくなり、より均一な架橋表面層を形成することが可能となる。放射線のエネルギーとしては電子線を用いるものが挙げられる。これらのエネルギーの中で、反応速度制御の容易さ、装置の簡便さから熱及び光のエネルギーを用いたものが有用である。
【0109】
<電子写真感光体の層構造>
本発明で製造される電子写真感光体を図2に基づいて説明する。
【0110】
図2は、電子写真感光体の層構造を表わす部分断面図である。図2−Aは導電性支持体(31)上に、電荷発生機能と電荷輸送機能を同時に有する感光層(32)が設けられた単層構造の感光層に、表面層(33)が積層した感光体である。図3−Bは、導電性支持体(31)上に、電荷発生機能を有する電荷発生層(34)と、電荷輸送物機能を有する電荷輸送層(35)とが積層された積層構造の感光層に、表面層(36)が積層した感光体である。
【0111】
(導電性支持体)
導電性支持体(31)としては、体積抵抗1010Ω・cm以下の導電性を示すもの、例えば、アルミニウム、ニッケル、クロム、ニクロム、銅、金、銀、白金などの金属、酸化スズ、酸化インジウムなどの金属酸化物を蒸着またはスパッタリングにより、フィルム状もしくは円筒状のプラスチック、紙に被覆したもの、あるいはアルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ステンレスなどの板およびそれらを押し出し、引き抜きなどの工法で素管化後、切削、超仕上げ、研摩などの表面処理を施した管などを使用することができる。また、特開昭52−36016号公報に開示されたエンドレスニッケルベルト、エンドレスステンレスベルトも導電性支持体(31)として用いることができる。
【0112】
この他、上記支持体上に導電性粉体を適当な結着樹脂に分散して塗工したものについても、本発明の導電性支持体(31)として用いることができる。この導電性粉体としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、また、アルミニウム、ニッケル、鉄、ニクロム、銅、亜鉛、銀などの金属粉、あるいは導電性酸化スズ、ITOなどの金属酸化物粉体などが挙げられる。また、同時に用いられる結着樹脂には、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアリレート樹脂、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート、酢酸セルロース樹脂、エチルセルロース樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルトルエン、ポリ−N−ビニルカルバゾール、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂などの熱可塑性、熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂が挙げられる。このような導電性層は、これらの導電性粉体と結着樹脂を適当な溶剤、例えば、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、メチルエチルケトン、トルエンなどに分散して塗布することにより設けることができる。
【0113】
さらに、適当な円筒基体上にポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、塩化ゴム、テフロン(登録商標)などの素材に前記導電性粉体を含有させた熱収縮チューブによって導電性層を設けてなるものも、本発明の導電性支持体(31)として良好に用いることができる。
【0114】
(感光層)
次に感光層について説明する。感光層は積層構造でも単層構造でもよい。積層構造の場合には、感光層は電荷発生機能を有する電荷発生層と電荷輸送機能を有する電荷輸送層とから構成される。また、単層構造の場合には、感光層は電荷発生機能と電荷輸送機能を同時に有する層である。以下、積層構造の感光層及び単層構造の感光層のそれぞれについて述べる。
【0115】
(積層構造の感光層)
(電荷発生層)
電荷発生層(34)は、電荷発生機能を有する電荷発生物質を主成分とする層で、必要に応じてバインダー樹脂を併用することもできる。電荷発生物質としては、無機系材料と有機系材料を用いることができる。
【0116】
無機系材料には、結晶セレン、アモルファス・セレン、セレン−テルル、セレン−テルル−ハロゲン、セレン−ヒ素化合物や、アモルファス・シリコン等が挙げられる。アモルファス・シリコンにおいては、ダングリングボンドを水素原子、ハロゲン原子でターミネートしたものや、ホウ素原子、リン原子等をドープしたものが良好に用いられる。
【0117】
有機系材料としては、公知の材料を用いることができる。例えば、金属フタロシアニン、無金属フタロシアニン等のフタロシアニン系顔料、アズレニウム塩顔料、スクエアリック酸メチン顔料、カルバゾール骨格を有するアゾ顔料、トリフェニルアミン骨格を有するアゾ顔料、ジフェニルアミン骨格を有するアゾ顔料、ジベンゾチオフェン骨格を有するアゾ顔料、フルオレノン骨格を有するアゾ顔料、オキサジアゾール骨格を有するアゾ顔料、ビススチルベン骨格を有するアゾ顔料、ジスチリルオキサジアゾール骨格を有するアゾ顔料、ジスチリルカルバゾール骨格を有するアゾ顔料、ペリレン系顔料、アントラキノン系または多環キノン系顔料、キノンイミン系顔料、ジフェニルメタン及びトリフェニルメタン系顔料、ベンゾキノン及びナフトキノン系顔料、シアニン及びアゾメチン系顔料、インジゴイド系顔料、ビスベンズイミダゾール系顔料などが挙げられる。これらの電荷発生物質は、単独または2種以上の混合物として用いることができる。
【0118】
電荷発生層(34)に必要に応じて用いられるバインダー樹脂としては、ポリアミド、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリケトン、ポリカーボネート、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルケトン、ポリスチレン、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリアクリルアミドなどが挙げられる。これらのバインダー樹脂は、単独または2種以上の混合物として用いることができる。また、電荷発生層のバインダー樹脂として上述のバインダー樹脂の他に、電荷輸送機能を有する高分子電荷輸送物質、例えば、アリールアミン骨格やベンジジン骨格やヒドラゾン骨格やカルバゾール骨格やスチルベン骨格やピラゾリン骨格等を有するポリカーボネート、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリシロキサン、アクリル樹脂等の高分子材料やポリシラン骨格を有する高分子材料等を用いることができる。
【0119】
前者の具体的な例としては、特開平01−001728号公報、特開平01−009964号公報、特開平01−013061号公報、特開平01−019049号公報、特開平01−241559号公報、特開平04−011627号公報、特開平04−175337号公報、特開平04−183719号公報、特開平04−225014号公報、特開平04−230767号公報、特開平04−320420号公報、特開平05−232727号公報、特開平05−310904号公報、特開平06−234836号公報、特開平06−234837号公報、特開平06−234838号公報、特開平06−234839号公報、特開平06−234840号公報、特開平06−234841号公報、特開平06−239049号公報、特開平06−236050号公報、特開平06−236051号公報、特開平06−295077号公報、特開平07−056374号公報、特開平08−176293号公報、特開平08−208820号公報、特開平08−211640号公報、特開平08−253568号公報、特開平08−269183号公報、特開平09−062019号公報、特開平09−043883号公報、特開平09−71642号公報、特開平09−87376号公報、特開平09−104746号公報、特開平09−110974号公報、特開平09−110976号公報、特開平09−157378号公報、特開平09−221544号公報、特開平09−227669号公報、特開平09−235367号公報、特開平09−241369号公報、特開平09−268226号公報、特開平09−272735号公報、特開平09−302084号公報、特開平09−302085号公報、特開平09−328539号公報等に記載の電荷輸送性高分子材料が挙げられる。
【0120】
後者の具体例としては、例えば特開昭63−285552号公報、特開平05−19497号公報、特開平05−70595号公報、特開平10−73944号公報等に記載のポリシリレン重合体が例示される。
【0121】
電荷発生層(34)には低分子電荷輸送物質を含有させることができる。電荷発生層(34)に併用できる低分子電荷輸送物質には、正孔輸送物質と電子輸送物質とがある。
【0122】
電子輸送物質としては、たとえばクロルアニル、ブロムアニル、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、2,4,7−トリニトロ−9−フルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロキサントン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、2,6,8−トリニトロ−4H−インデノ〔1,2−b〕チオフェン−4−オン、1,3,7−トリニトロジベンゾチオフェン−5,5−ジオキサイド、ジフェノキノン誘導体などの電子受容性物質が挙げられる。これらの電子輸送物質は、単独または2種以上の混合物として用いることができる。
【0123】
正孔輸送物質としては、以下に表わされる電子供与性物質が挙げられ、良好に用いられる。正孔輸送物質としては、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、モノアリールアミン誘導体、ジアリールアミン誘導体、トリアリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、α−フェニルスチルベン誘導体、ベンジジン誘導体、ジアリールメタン誘導体、トリアリールメタン誘導体、9−スチリルアントラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、ジビニルベンゼン誘導体、ヒドラゾン誘導体、インデン誘導体、ブタジェン誘導体、ピレン誘導体等、ビススチルベン誘導体、エナミン誘導体等、その他公知の材料が挙げられる。これらの正孔輸送物質は、単独または2種以上の混合物として用いることができる。
【0124】
電荷発生層(34)を形成する方法には、真空薄膜作製法と溶液分散系からのキャスティング法とが大きく挙げられる。
【0125】
真空薄膜作製法には、真空蒸着法、グロー放電分解法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、CVD法等が用いられ、上述した無機系材料、有機系材料が良好に形成できる。
【0126】
溶液分散系からのキャスティング法によって電荷発生層を設けるには、上述した無機系もしくは有機系電荷発生物質を必要ならばバインダー樹脂と共にテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン、トルエン、ジクロロメタン、モノクロロベンゼン、ジクロロエタン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、アニソール、キシレン、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル、酢酸ブチル等の溶媒を用いてボールミル、アトライター、サンドミル、ビーズミル等により分散し、分散液を適度に希釈して塗布することにより、形成できる。また、必要に応じて、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル等のレベリング剤を添加することができる。塗布は、浸漬塗工法やスプレーコート、ビードコート、リングコート法などを用いて行なうことができる。
【0127】
以上のようにして設けられる電荷発生層の膜厚は、0.01〜5μm程度が適当であり、好ましくは0.05〜2μmである。
【0128】
(電荷輸送層)
電荷輸送層(35)は電荷輸送機能を有する層であり、電荷輸送機能を有する電荷輸送物質および結着樹脂を適当な溶剤に溶解ないし分散し、これを電荷発生層(34)上に塗布、乾燥することにより形成する。電荷輸送物質としては、前記電荷発生層(34)で記載した電子輸送物質、正孔輸送物質及び高分子電荷輸送物質を用いることができる。
【0129】
(結着樹脂)
結着樹脂としては、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアリレート樹脂、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート、酢酸セルロース樹脂、エチルセルロース樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルトルエン、ポリ−N−ビニルカルバゾール、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂等の熱可塑性または熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0130】
電荷輸送物質の量は結着樹脂100質量部に対し、20〜300質量部、好ましくは40〜150質量部が適当である。但し、高分子電荷輸送物質を用いる場合は、単独でも結着樹脂との併用も可能である。
【0131】
電荷輸送層の塗工に用いられる溶媒としては前記電荷発生層と同様なものが使用できるが、電荷輸送物質及び結着樹脂を良好に溶解するものが適している。これらの溶剤は単独で使用しても2種以上混合して使用しても良い。また、電荷輸送層の形成には電荷発生層(34)と同様な塗工法が可能である。
【0132】
(その他の添加剤)
電荷輸送層には、必要により可塑剤、レベリング剤を添加することもできる。電荷輸送層に併用できる可塑剤としては、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等の一般の樹脂の可塑剤として使用されているものがそのまま使用でき、その使用量は、結着樹脂100質量部に対して0〜30質量部程度が適当である。
【0133】
電荷輸送層に併用できるレベリング剤としては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル等のシリコーンオイル類や、側鎖にパーフルオロアルキル基を有するポリマーあるいはオリゴマーが使用され、その使用量は、結着樹脂100質量部に対して0〜1質量部程度が適当である。
【0134】
電荷輸送層の膜厚は、5〜40μm程度が適当であり、好ましくは10〜30μm程度が適当である。
【0135】
(単層構造の感光層)
単層構造の感光層(32)は、電荷発生機能と電荷輸送機能を同時に有する層であり、感光層は電荷発生機能を有する電荷発生物質と電荷輸送機能を有する電荷輸送物質と結着樹脂を適当な溶媒に溶解ないし分散し、これを塗布、乾燥することによって形成できる。また、必要により可塑剤やレベリング剤等を添加することもできる。電荷発生物質の分散方法、それぞれ電荷発生物質、電荷輸送物質、可塑剤、レベリング剤は前記電荷発生層(34)、電荷輸送層(35)において既に述べたものと同様なものが使用できる。結着樹脂としては、先に電荷輸送層(35)の説明で挙げた結着樹脂のほかに、電荷発生層(34)で挙げたバインダー樹脂を混合して用いてもよい。単層構造の感光層中に含有される電荷発生物質は感光層全量に対し1〜30質量%が好ましく、感光層に含有される結着樹脂は全量の20〜80質量%、電荷輸送物質は10〜70質量%が良好に用いられる。また、かかる感光層の膜厚は、5〜30μm程度が適当であり、好ましくは10〜25μm程度が適当である。
【0136】
なお、感光層が電荷発生層と電荷輸送層からなる場合、単層からなる場合のどちらにおいても、本発明における表面層の形成には、2つ以上のスプレーガンを用い、一つ目のスプレーガンにより感光層上に溶媒のみを吹き付け、2つ目以降のスプレーにより表面層塗工液を塗布する。
【0137】
(下引き層)
本発明の感光体の製造方法においては、導電性支持体(31)と感光層との間に下引き層を設けることができる。下引き層は一般には樹脂を主成分とするが、これらの樹脂はその上に感光層を溶剤で塗布することを考えると、一般の有機溶剤に対して耐溶剤性の高い樹脂であることが望ましい。このような樹脂としては、ポリビニルアルコール、カゼイン、ポリアクリル酸ナトリウム等の水溶性樹脂、共重合ナイロン、メトキシメチル化ナイロン等のアルコール可溶性樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド−メラミン樹脂、エポキシ樹脂等、三次元網目構造を形成する硬化型樹脂等が挙げられる。また、下引き層にはモアレ防止、残留電位の低減等のために酸化チタン、シリカ、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化インジウム等で例示できる金属酸化物の微粉末顔料を加えてもよい。
【0138】
これらの下引き層は、前述の感光層の如く適当な溶媒及び塗工法を用いて形成することができる。更に本発明の下引き層として、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、クロムカップリング剤等を使用することもできる。この他、本発明の下引き層には、Al23を陽極酸化にて設けたものや、ポリパラキシリレン(パリレン)等の有機物やSiO2、SnO2、TiO2、ITO、CeO2等の無機物を真空薄膜作成法にて設けたものも良好に使用できる。このほかにも公知のものを用いることができる。下引き層の膜厚は0〜5μmが適当である。
【0139】
<酸化防止剤>
本発明においては、耐環境性の改善のため、とりわけ、感度低下、残留電位の上昇を防止する目的で、表面架橋層、感光層、電荷発生層、電荷輸送層、下引き層、中間層等の各層に酸化防止剤を添加することができる。本発明に用いることができる酸化防止剤として、下記のものが挙げられる。
【0140】
(フェノール系化合物)
2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2'−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2'−メチレン−ビス−(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4'−チオビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4'−ブチリデンビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス−(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス−[メチレン−3−(3',5'−ジ−t−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ビス[3,3'−ビス(4'−ヒドロキシ−3'−t−ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコールエステル、トコフェロール類など。
【0141】
(パラフェニレンジアミン類)
N−フェニル−N'−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N'−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、N,N'−ジ−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N'−ジメチル−N,N'−ジ−t−ブチル−p−フェニレンジアミンなど。
【0142】
(ハイドロキノン類)
2,5−ジ−t−オクチルハイドロキノン、2,6−ジドデシルハイドロキノン、2−ドデシルハイドロキノン、2−ドデシル−5−クロロハイドロキノン、2−t−オクチル−5−メチルハイドロキノン、2−(2−オクタデセニル)−5−メチルハイドロキノンなど。
【0143】
(有機硫黄化合物類)
ジラウリル−3,3'−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3'−チオジプロピオネート、ジテトラデシル−3,3'−チオジプロピオネートなど。
【0144】
(有機燐化合物類)
トリフェニルホスフィン、トリ(ノニルフェニル)ホスフィン、トリ(ジノニルフェニル)ホスフィン、トリクレジルホスフィン、トリ(2,4−ジブチルフェノキシ)ホスフィンなど。
【0145】
これら化合物は、ゴム、プラスチック、油脂類などの酸化防止剤として知られており、市販品を容易に入手できる。本発明における酸化防止剤の添加量は、添加する層の総質量に対して0.01〜10質量%である。
【0146】
<画像形成方法及び画像形成装置>
次に図3に基づいて本発明の画像形成方法ならびに画像形成装置を詳しく説明する。本発明の画像形成方法ならびに画像形成装置とは、上述の本発明の製造方法で製造した感光体を用い、例えば少なくとも感光体に帯電、画像露光、現像の過程を経てトナー画像を形成した後、画像保持体(転写紙)へのトナー画像の転写、定着及び必要に応じて感光体表面のクリーニングというプロセスよりなる画像形成方法、並びにこれらの工程を実現する手段を備えた画像形成装置である。場合により、静電潜像を直接転写体に転写し現像する画像形成方法等では、感光体に配した上記プロセスを必ずしも有するものではない。
【0147】
図3は、画像形成装置の一例を示す概略図である。感光体1を平均的に帯電させる手段として、帯電チャージャ3が用いられる。この帯電手段としては、コロトロンデバイス、スコロトロンデバイス、固体放電素子、針電極デバイス、ローラー帯電デバイス、導電性ブラシデバイス等が用いられ、公知の方式が使用可能である。
【0148】
特に本発明の画像形成装置の構成は、接触帯電方式又は非接触近接配置帯電方式のような帯電手段からの近接放電により感光体組成物が分解する様な帯電手段を用いた場合に有効である。ここでいう接触帯電方式とは、感光体に帯電ローラー、帯電ブラシ、帯電ブレード等が直接接触する帯電方式である。一方の近接帯電方式とは、例えば帯電ローラーが感光体表面と帯電手段との間に200μm以下の空隙を有するように非接触状態で近接配置したタイプのものである。この空隙は、大きすぎた場合には帯電が不安定になりやすく、また、小さすぎた場合には、感光体に残留したトナーが存在する場合に、帯電部材表面が汚染されてしまう可能性がある。したがって、空隙は10〜200μm、好ましくは10〜100μmの範囲が適当である。
【0149】
次に、均一に帯電された感光体1上に静電潜像を形成するために画像露光部5が用いられる。この光源には、蛍光灯、タングステンランプ、ハロゲンランプ、水銀灯、ナトリウム灯、発光ダイオード(LED)、半導体レーザー(LD)、エレクトロルミネッセンス(EL)などの発光物全般を用いることができる。そして、所望の波長域の光のみを照射するために、シャープカットフィルター、バンドパスフィルター、近赤外カットフィルター、ダイクロイックフィルター、干渉フィルター、色温度変換フィルターなどの各種フィルターを用いることもできる。
【0150】
次に、感光体1上に形成された静電潜像を可視化するために現像ユニット6が用いられる。現像方式としては、乾式トナーを用いた一成分現像法、二成分現像法、湿式トナーを用いた湿式現像法がある。感光体に正(負)帯電を施し、画像露光を行なうと、感光体表面上には正(負)の静電潜像が形成される。これを負(正)極性のトナー(検電微粒子)で現像すれば、ポジ画像が得られるし、また正(負)極性のトナーで現像すれば、ネガ画像が得られる。
【0151】
次に、感光体上で可視化されたトナー像を転写体9上に転写するために転写チャージャ10が用いられる。また、転写をより良好に行なうために転写前チャージャ7を用いてもよい。これらの転写手段としては、転写チャージャ、バイアスローラーを用いる静電転写方式、粘着転写法、圧力転写法等の機械転写方式、磁気転写方式が利用可能である。静電転写方式としては、前記帯電手段が利用可能である。
【0152】
次に、転写体9を感光体1から分離する手段として分離チャージャ11、分離爪12が用いられる。その他分離手段としては、静電吸着誘導分離、側端ベルト分離、先端グリップ搬送、曲率分離等が用いられる。分離チャージャ11としては、前記帯電手段が利用可能である。
【0153】
次に、転写後感光体上に残されたトナーをクリーニングするためにファーブラシ14、クリーニングブレード15が用いられる。また、クリーニングをより効率的に行なうためにクリーニング前チャージャ13を用いてもよい。その他クリーニング手段としては、ウェブ方式、マグネットブラシ方式等があるが、それぞれ単独又は複数の方式を一緒に用いてもよい。
【0154】
次に、必要に応じて感光体上の潜像を取り除く目的で除電手段が用いられる。除電手段としては除電ランプ2、除電チャージャが用いられ、それぞれ前記露光光源、帯電手段が利用できる。
【0155】
その他、感光体に近接していない原稿読み取り、給紙、定着、排紙等のプロセスは公知のものが使用できる。
【0156】
本発明は、このような画像形成手段に本発明に係る電子写真感光体を用いる画像形成方法及び画像形成装置である。この画像形成手段は、複写装置、ファクシミリ、プリンタ内に固定して組み込まれていてもよいが、プロセスカートリッジの形態でそれら装置内に組み込まれ、着脱自在としたものであってもよい。プロセスカートリッジの一例を図4に示す。
【0157】
画像形成装置用プロセスカートリッジとは、感光体101を内蔵し、他に帯電手段102、現像手段104、転写手段106、クリーニング手段107、除電手段(図示せず)の少なくとも一つを具備し、画像形成装置本体に着脱可能とした装置(部品)である。図4に例示される装置による画像形成プロセスについて示すと、感光体101は、矢印方向に回転しながら、帯電手段102による帯電、露光手段103による露光により、その表面に露光像に対応する静電潜像が形成され、この静電潜像は、現像手段104でトナー現像され、該トナー現像は転写手段106により、転写体105に転写され、プリントアウトされる。次いで、像転写後の感光体表面は、クリーニング手段107によりクリーニングされ、さらに除電手段(図示せず)により除電されて、再び以上の操作を繰り返すものである。
【0158】
以上の説明から明らかなように、本発明の電子写真感光体は電子写真複写機に利用するのみならず、レーザービームプリンター、CRTプリンター、LEDプリンター、液晶プリンター及びレーザー製版等の電子写真応用分野にも広く用いることができるものである。
【0159】
<電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物の合成例>
本発明における電荷輸送性構造を有する化合物は、例えば特許第3164426号公報記載の方法にて合成される。下記に電荷輸送性構造を有する化合物の製造方法の一例を示す。
【0160】
(トリアリールアミン構造を有するラジカル重合性化合物の合成)
(1)ヒドロキシ基置換トリアリールアミン化合物(下記構造式B)の合成
メトキシ基置換トリアリールアミン化合物(下記構造式A)113.85g(0.3mol)と、ヨウ化ナトリウム138g(0.92mol)にスルホラン240mlを加え、窒素気流中で60℃に加温した。この液中にトリメチルクロロシラン99g(0.91mol)を1時間で滴下し、約60℃の温度で4時間半撹拌し反応を終了させた。この反応液にトルエン約1.5Lを加え室温まで冷却し、水と炭酸ナトリウム水溶液で繰り返し洗浄した。その後、このトルエン溶液から溶媒を除去し、カラムクロマト処理(吸着媒体:シリカゲル、展開溶媒:トルエン:酢酸エチル=20:1)にて精製した。得られた淡黄色オイルにシクロヘキサンを加え、結晶を析出させた。このようにして下記構造式Bの白色結晶88.1g(収率=80.4%、融点:64.0〜66.0℃、元素分析値(%):表13に示す。)を得た。
【0161】
【表13】

【0162】
【化11】

【0163】
【化12】

(2)トリアリールアミノ基置換アクリレート化合物(表1中の例示化合物NO.54)の合成
上記(1)で得られたヒドロキシ基置換トリアリールアミン化合物(構造式B)82.9g(0.227mol)をテトラヒドロフラン400mlに溶解し、窒素気流中で水酸化ナトリウム水溶液(NaOH:12.4g,水:100ml)を滴下した。この溶液を5℃に冷却し、アクリル酸クロライド25.2g(0.272mol)を40分かけて滴下した。その後、5℃で3時間撹拌し反応を終了させた。この反応液を水に注ぎ、トルエンにて抽出した。この抽出液を炭酸水素ナトリウム水溶液と水で繰り返し洗浄した。その後、このトルエン溶液から溶媒を除去し、カラムクロマト処理(吸着媒体:シリカゲル、展開溶媒:トルエン)にて精製した。得られた無色のオイルにn−ヘキサンを加え、結晶を析出させた。このようにして例示化合物NO.54の白色結晶80.73g(収率=84.8%、融点:117.5〜119.0℃)を得た。元素分析結果(%)を以下に示す。
【0164】
【表14】

(アクリル酸エステル化合物の合成例)
(1)2−ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチルの調製
かき混ぜ装置、温度計、滴下漏斗をつけた反応容器に、2−ヒドロキシベンジルアルコール(東京化成品製)38.4g、o−キシレン80mlを入れ、窒素気流下、亜リン酸トリエチル(東京化成品製)62.8gを80℃でゆっくり滴下し、さらに同温度で1時間反応を行った。その後、減圧蒸留により、生成したエタノール、溶媒のo−キシレン、未反応の亜リン酸トリエチルを除去し、66gの2−ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチルを得た(沸点 120.0℃/1.5mmHg)(収率90%)。
【0165】
(2)2−ヒドロキシ−4'−(N,N−ビス(4−メチルフェニル)アミノ)スチルベンの調製
かき混ぜ装置、温度計、滴下漏斗をつけた反応容器に、カリウム−tert−ブトキサイド14.8g、テトラヒドロフラン50mlを入れ、窒素気流下、2−ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチル9.90gと4−(N,N−ビス(4−メチルフェニル)アミノ)ベンズアルデヒド5.44gとをテトラヒドロフランに溶解させた溶液を室温でゆっくり滴下し、その後、同温度で2時間反応させた。その後、水冷下、水を加え、次いで2規定の塩酸水溶液を加えて酸性化したのち、テトラヒドロフランをエバポレーターにより除き、粗生成物をトルエンで抽出した。トルエン相を水、炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順に洗浄し、硫酸マグネシウムを加えて脱水した。ろ過後、トルエンを除いてオイル状の粗収物を得、さらにシリカゲルによりカラム精製を行った後、ヘキサン中で晶析させ、5.09gの2−ヒドロキシ−4'−(N,N−ビス(4−メチルフェニル)アミノ)スチルベンを得た(収率72%、融点136.0〜138.0℃)。
【0166】
(3)4'−(N,N−ビス(4−メチルフェニル)アミノ)スチルベン−2−イルアクリレートの調製
かき混ぜ装置、温度計、滴下漏斗をつけた反応容器に、2−ヒドロキシ−4'−(N,N−ビス(4−メチルフェニル)アミノ)スチルベン14.9g、テトラヒドロフラン100ml、12%濃度の水酸化ナトリウム水溶液21.5gを入れ、窒素気流下、5℃でアクリル酸クロリド5.17gを30分かけて滴下した。その後、同温度で3時間反応させた。反応液を水にあけ、トルエンで抽出した後、濃縮してシリカゲルによるカラム精製を行った。得られた粗収物をエタノールで再結晶し、黄色針状晶の4'−(N,N−ビス(4−メチルフェニル)アミノ)スチルベン−2−イルアクリレート(例示化合物NO.109)13.5gを得た。(収率79.8%、融点104.1〜105.2℃)元素分析(%)結果を以下に示す。
【0167】
【表15】


【0168】
以上の様に、2−ヒドロキシベンジルホスホン酸エステル誘導体と種々のアミノ置換ベンズアルデヒド誘導体を反応させることにより数多くの2−ヒドロキシスチルベン誘導体を合成し、そのアクリル化またはメタクリル化を行なう事で種々のアクリル酸エステル化合物を合成することができる。
【0169】
(実施例)
実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中において使用する「部」は、特に断らない限りすべて質量部を表わす。
(実施例1)
φ30mmのアルミニウムシリンダー上に、下記組成の下引き層用塗工液、電荷発生層用塗工液、電荷輸送層用塗工液を順次、塗布、乾燥することにより、3.0μmの下引き層、0.2μmの電荷発生層、20μmの電荷輸送層を形成した。
[下引き層用塗工液]
アルキッド樹脂: 6部
(ベッコゾール1307−60−EL、大日本インキ化学工業製)
メラミン樹脂: 4部
(スーパーベッカミン G−821−60、大日本インキ化学工業製)
酸化チタン: 40部
メチルエチルケトン: 50部
[電荷発生層用塗工液]
下記構造式(I)のビスアゾ顔料: 2.5部
ポリビニルブチラール(XYHL、UCC製): 0.5部
シクロヘキサノン: 200部
メチルエチルケトン: 80部
【0170】
【化13】

[電荷輸送層用塗工液]
ビスフェノールZポリカーボネート: 10部
(パンライトTS−2050、帝人化成製)
下記構造式(II)の低分子電荷輸送物質: 7部
テトラヒドロフラン: 100部
1%シリコーンオイルのテトラヒドロフラン溶液: 0.2部
(KF50−100CS、信越化学工業製)
【0171】
【化14】

電荷輸送層上には、下記構成の表面層塗工液をスプレー塗工した。塗工液は以下の構成のものを使用した。
[架橋表面層用塗工液]
電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物: 10部
例示化合物NO.54(分子量:419、官能基数:1官能)
電荷輸送性構造を有さない3官能以上のラジカル重合性モノマー: 10部
トリメチロールプロパントリアクリレート
(日本化薬製、KAYARAD TMPTA、分子量:296、官能基数:3官能)
光重合開始剤: 1部
イルガキュア184(日本化薬製、分子量:204)
溶媒: 120部
テトラヒドロフラン(沸点:66℃、飽和蒸気圧:181.7mmHg/20℃)
本発明では表面層の塗工ではエアスプレー式のスプレーガンを使用し、2つのスプレーガンを取り付けたスプレー塗工装置を用い、一つ目のスプレーにて溶媒を感光層に吹き付け、2つ目のスプレーにて表面層塗工液を塗布した。溶媒としてはテトラヒドロフランを用いた。2つのスプレーガンの間隔は5cmとし、スプレーガンと基体との距離は7cmとした。溶媒の吹き付け量は0.07ml/sとし、ガン先の霧化圧は1.0kg/cmとした。また、表面層塗工液の吐出量は0.16ml/sとし、ガン先の霧化圧は1.0kg/cmとした。塗工時の基体の回転数は100rpmとし、スプレーガンの移動速度は4.0mm/sとした。
【0172】
塗工後、紫外線照射装置Fusion製UVランプシステムを用い、支持体を30rpmで回転させながら紫外線照射を行った。紫外線照射はメタルハライドランプを使用し、紫外線ランプと感光体表面の距離を50mm、照射強度を1000mW/cm2とし、30秒間の紫外線照射を行い、塗布膜を硬化させた。紫外線照射後は、90℃10分の乾燥を加え、膜厚8μmの表面層を設け、本発明の電子写真感光体を得た。
【0173】
(実施例2)
実施例1において、表面層塗工液の重合開始剤を以下の熱重合開始剤に変更し、塗布後は130℃にて30分の乾燥を行い、表面層を設け、本発明の電子写真感光体を得た。
【0174】
(実施例3)
実施例1において、表面層を特開2004−117766号公報の実施例15の記載に基づいて形成し、表面層膜厚が7.5μmの電子写真感光体を得た。但し、スプレーによる表面層塗工液の塗布方法は本発明の実施例1と同様にして行った。
【0175】
(実施例4)
実施例1において、表面層を特開2004−264788号公報の実施例1の記載に基づいて形成し、表面層膜厚が4μmの電子写真感光体を得た。但し、スプレー方法は本発明の実施例1と同様にして行った。
【0176】
(実施例5)
実施例1において、スプレー塗工時の吹き付け溶媒としてシクロヘキサノンを使用し、紫外線照射後の乾燥を150℃10分とした以外は全て実施例1と同様にして表面層を設け、本発明の電子写真感光体を得た。
【0177】
(実施例6)
実施例1において、スプレー塗工時の吹き付け溶媒としてアセトンとした以外は全て実施例1と同様にして表面層を設け、本発明の電子写真感光体を得た。
【0178】
(実施例7)
実施例1において、表面層の膜厚を5μmとした以外は全て実施例1と同様にして表面層を設け、本発明の電子写真感光体を得た。
【0179】
(実施例8)
実施例1において、溶媒の吹き付け量を0.03ml/sとした以外は全て実施例1と同様にして表面層を設け、本発明の電子写真感光体を得た。
【0180】
(実施例9)
実施例1において、表面層塗工液の溶媒をテトラヒドロフラン80部とアセトン40部の混合溶媒とした以外は全て実施例1と同様にして表面層を設け、本発明の電子写真感光体を得た。
【0181】
(比較例1)
実施例1において、溶媒の吹き付けをなくし、表面層塗工液を塗布した以外は全て実施例1と同様にして表面層を設け、電子写真感光体を得た。
【0182】
(比較例2)
実施例2において、溶媒の吹き付けをなくし、表面層塗工液を塗布した以外は全て実施例2と同様にして表面層を設け、電子写真感光体を得た。
【0183】
(比較例3)
実施例3において、溶媒の吹き付けをなくし、表面層塗工液を塗布した以外は全て実施例3と同様にして表面層を設け、電子写真感光体を得た。
【0184】
(比較例4)
実施例4において、溶媒の吹き付けをなくし、表面層塗工液を塗布した以外は全て実施例4と同様にして表面層を設け、電子写真感光体を得た。
【0185】
比較例5
実施例9において、溶媒の吹き付けをなくし、表面層塗工液を塗布した以外は全て実施例9と同様にして表面層を設け、電子写真感光体を得た。
【0186】
比較例6
実施例1において、架橋表面層用塗工液の溶媒であるテトラヒドロフランを30質量部に変更し、架橋表面層をリングコートにより塗工した以外は全て実施例1と同様にし、架橋表面層膜厚10μmの電子写真感光体を作製した。
【0187】
(比較例7)
実施例1において、電荷輸送層の膜厚を28μmにし、表面層を設けずに電子写真感光体を得た。
【0188】
以下に本発明で行った試験方法について示す。
<剥離強度測定>
表面層の剥離強度の評価方法として、サイカス(SAICAS)装置DN−20型(ダイプラ・ウィンテス製)を用い、刃幅0.5mmの切刃を用い、水平切り込み速度:0.1μm/s、垂直切り込み速度:0.01μm/sの切り込み速度一定モードで測定を行った。また試験する切り込み深さは表面層の膜厚よりも大きな値となるように試験時間を決定した。剥離強度としては表面層膜厚に相当する切込み深さの水平荷重を刃幅で割ることで算出した。温度22℃、相対湿度55%の環境条件下で測定を行った。
【0189】
<耐久性試験>
粒度3.0μmのラッピングフィルム(住友3M社製)を用いて感光体の任意の位置において感光体の軸方向10cm幅の表面層が残り2μm程度になるまで加速摩耗させた。但し、比較例7では表面層を設けていないため、膜厚の減少量が10μmになるよう加速摩耗した。そして感光体の加速摩耗した部分を超深度形状測定顕微鏡VK−8500(キーエンス社製)にて表面観察を行い、剥離の有無を確認した。次にこの感光体を電子写真装置用プロセスカートリッジに装着し、画像露光光源として655nmの半導体レーザーを用い、クリーニングブレードの当接圧力を1.5倍になるように改造したリコー製imagio MF 2200改造機にて架橋表面をラッピングフィルムで加速摩耗させていない部分において暗部電位を−700Vに設定し、未摩耗部分と加速摩耗部分の画像評価および未加速摩耗部分の明部電位測定を行った。その後A4サイズ2.5万枚通紙、さらに5万枚の通紙を行い、各通紙後に画像評価、表面観察を行った。また5万枚通紙後は明部電位測定も行い、初期同様に暗部電位を未加速摩耗部分で−700Vに設定して測定を行った。さらに初期及び5万枚通紙後に膜厚測定を行い、通紙による摩耗量を測定した。なお感光体の膜厚は渦電流式膜厚測定装置(フィッシャーインスツルメント製)を用いて測定した。
【0190】
次に、実施例1〜9および比較例1〜7について、剥離強度測定、耐久性試験を行った結果を下表に示す。
【0191】
尚、表中、画像評価結果は、以下のように示した。
(画像評価)
○:良好
A:画像濃度低下が一部発生 AA:画像濃度低下が全面に発生
B:スジ状汚れが一部発生 BB:スジ状汚れが全面に発生
【0192】
【表16】

通紙試験の結果より、本発明の製造方法により形成された表面層を有する実施例1〜9は剥離強度が高く、耐久性試験では加速摩耗した部分においても表面層の剥離が見られなかった。一方、比較例1〜5は剥離強度が低く、耐久性試験では加速摩耗部分において表面層の剥離が発生し、出力画像にはスジ状汚れが発生していた。また、リングコートにより作製した比較例6では未摩耗部分においてもスジ状汚れが発生していた。また表面層を形成しなかった比較例7では、異常画像は見られなかったが、摩耗量が多く、高い耐久性は期待できない。
【0193】
従って、本発明の製造方法による電子写真感光体である導電性支持体上に少なくとも感光層と表面層を積層させた感光体であり、表面層が2つ以上のスプレーガンを使用して塗布され、1つ目のスプレーガンで溶媒のみを感光層に吹き付け、2つ目以降のスプレーガンで表面層塗工液を塗布し、これを硬化させて表面層が形成された感光体は、表面層の剥離がなく、長期に渡る高い耐久性を有する。また、本発明の製造方法による感光体を用いた画像形成プロセス、画像形成装置および画像形成装置用プロセスカートリッジが高性能、高信頼性を有していることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0194】
【図1】スプレーガン塗工のイメージ図である。
【図2】本発明の電子写真感光体の断面図の例である。Aは単層構造の感光層タイプ、Bは積層構造の感光層タイプである。
【図3】本発明の画像形成装置の一例を示す概略図である。
【図4】本発明の画像形成装置用プロセスカートリッジの一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0195】
1 感光体(電子写真感光体)
2 除電ランプ(除電手段)
3 帯電チャージャ(帯電手段)
4 イレーサ
5 画像露光部
6 現像ユニット(現像手段)
7 転写前チャージャ
8 レジストローラ
9 転写紙(記録媒体、又は転写体)
10 転写チャージャ(転写手段)
11 分離チャージャ
12 分離爪
13 クリーニング前チャージャ
14 ファーブラシ
15 クリーニングブレード(クリーニング手段)
16 定着手段
31 導電性支持体
32 感光層
33 表面層(架橋表面層)
34 電荷発生層
35 電荷輸送層
36 表面層(架橋表面層)
101 感光ドラム(感光体、又は電子写真感光体)
102 帯電装置(帯電手段)
103 露光
104 現像装置(現像手段)
105 転写体(記録媒体)
106 転写装置(転写手段)
107 クリーニングブレード(クリーニング手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性支持体上に少なくとも感光層と表面層とが積層された電子写真感光体の製造方法であって、
前記表面層の形成において、1つ目のスプレーガンで溶媒を感光層に塗布する工程と、溶媒を塗布した感光層に2つ目のスプレーガンで表面層塗工液を塗布する工程を含むことを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
【請求項2】
前記感光層に塗布する溶媒が、感光層を形成する樹脂に対して溶解性を有することを特徴とする請求項1に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項3】
前記感光層に塗布する溶媒と、感光層塗工液の溶媒とは、同一の成分を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項4】
前記表面層塗工液が、電荷輸送性構造を有しない3官能以上のラジカル重合性モノマー(イ)と、電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)を含む溶液であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項5】
前記ラジカル重合性化合物(ロ)が、トリアリールアミン構造、ヒドラゾン構造、ピラゾリン構造およびカルバゾール構造よりなる群から選ばれたいずれかの構造を有することを特徴とする請求項4記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項6】
前記ラジカル重合性化合物(ロ)の電荷輸送性構造が、トリアリールアミン構造であることを特徴とする請求項4又は5に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項7】
前記ラジカル重合性化合物(ロ)が、アクリロイルオキシ基又はメタクリルロイルオキシ基を有することを特徴とする請求項4〜6のいずれか一項に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項8】
前記ラジカル重合性化合物(ロ)のラジカル重合性官能基の数が1つであることを特徴とする請求項4〜7のいずれか一項に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項9】
前記ラジカル重合性モノマー(イ)が、アクリロイルオキシ基及びメタクリロイルオキシ基を合計で3個以上有するものであることを特徴とする請求項4〜8のいずれか一項に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項10】
前記塗布された表面層塗工液が熱または光エネルギーにより架橋されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の電子写真感光体の製造方法により製造されたことを特徴とする電子写真感光体。
【請求項12】
少なくとも感光体表面への帯電、帯電した感光体表面への露光による潜像形成、形成した潜像の現像、現像の記録媒体への転写を行う画像形成方法であって、感光体は請求項11に記載の電子写真感光体であることを特徴とする画像形成方法。
【請求項13】
感光体と、感光体表面を帯電する帯電手段と、帯電した感光体表面への露光により潜像形成する露光手段と、形成した潜像を現像する現像手段と、現像を記録媒体へ転写する転写手段とを備えた画像形成装置であって、感光体は請求項11に記載の電子写真感光体であることを特徴とする画像形成装置。
【請求項14】
感光体、並びに感光体表面を帯電する帯電手段、帯電した感光体表面への露光により潜像形成する露光手段、形成した潜像を現像する現像手段、現像を記録媒体へ転写する転写手段、転写後の感光体を清浄にするクリーニング手段、及び転写後の感光体を除電する除電手段からなる群から選ばれた少なくとも一つの手段を有し、画像形成装置本体に着脱可能なプロセスカートリッジであって、感光体請求項11に記載の電子写真感光体であることを特徴とする画像形成装置用のプロセスカートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−275941(P2008−275941A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−120219(P2007−120219)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】