説明

電子写真機器用ロール及び電子写真機器用ロールの製造方法

【課題】被当接物に対し均一に当接できるクラウン形状にロール体を形成することが可能な電子写真機器用ロール及び該ロールの製造方法を提供する。
【解決手段】ロール体6の軸方向の端部からの任意の距離xの外径(Dx)と軸方向の端部の外径(De)との差(Dx−De)をクラウン量yとした場合、クラウン量yが下記(1)式に示す値となるようにロール1を形成した。
y=(P/9)Rx(x−2Lx+L)/(6EIL)・・・(1)
但し(1)式において、Pは軸体2の外径、Lはロール体6の軸方向の長さ、Eは軸体2の縦弾性係数、Iは軸体の断面二次モーメント、Rはロール1を被当接物に押し当てる片側荷重である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真機器用ロール及び該ロールの製造方法に関するものであり、更に詳しくは、中央部が端部よりも厚肉に形成された中高のロールにおいて、均一帯電性能に優れた電子写真機器用ロール及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真方式を利用した複写機、プリンター、ファクシミリ等の電子写真機器において、各種のロールが電子写真機器用ロールとして用いられている。このようなロールの一つとして、例えば、像担持体面となる感光ドラム等の感光体に接触して該感光体を帯電させるために、半導電性のゴムローラ型の帯電ロールが用いられている。帯電ロールは、感光ドラム等に対して密着させて均一な帯電を行うために、金属製芯金等の軸体の外周面上にゴムの組成物からなる弾性層を有するロール体が設けられている。
【0003】
帯電ロール(以下単にロールという)は、感光ドラム等の被当接物に当接させる場合、ロールの両端の芯金に対して荷重を加えて、被当接物に押し当てる様にする方法が一般的である。被当接物とロールの当接幅を軸方向に対して均一とする為に、ロール体の外径を軸方向で変化させて、ロール体の中央が最大となり、両端部側に行くに従って徐々に外径が小さくなるように、中高形状に形成してなる形状が公知である(例えば特許文献1〜4参照。)。このようなロールの外径が中高となる形状は、通常、クラウン形状と呼ばれている。
【0004】
特許文献1には、帯電部材の両端部の外径と中央部の外径を特定の関係に形成することが記載されている。また特許文献2に記載された帯電ローラは、長手方向の一方の中央部よりも両端部の直径を小さく形成したクラウン形状に形成されている。また特許文献3には、中央部の直径が端部の直径より大きいクラウン形状の帯電ローラにおいて、中央部と端部の直径差(クラウン量)が、0.0%より大きく1.5%以下に形成することが記載されている。また特許文献4には、ローラ長さ方向断面において、長さ方向中央を端部より突出させ、その突出の程度を表すクラウン量が45〜120μmとなるように形成してなる帯電ロールが記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平11−125953号公報(請求項2〜4)
【特許文献2】特開2000−206762号公報(0042)
【特許文献3】特開2006−323163号公報(請求項1)
【特許文献4】特開2007−121445号公報(請求項2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1〜4に記載の従来のロールは、両端部及び中央部の3点、あるいは任意の3点等のように、ロール体の軸方向の任意の数点(特定点)の外径が規定された中高形状のロールである。しかしながら、これらの特定点の中間等のように、特定点以外の点(中間点)においては、ロール体の外径は特に規定されていなかった。従来、被当接物に対して均一に当接可能なクラウン形状を得るために、ロール体の中間点の外径は、経験と勘等によって試行錯誤的に決められていた。
【0007】
従来のロール体の中間点の外径決定手法は、中央と両端部の3点の外形を設定して、この3点を通る円弧を求め、この円弧形状に沿った形状として基準外径とし、この基準外径に対し大きくしたり小さくして、種々の外径のロール体を有するロールを実際に作製し、このロールの特性を実験により確認し、その結果に応じてロールの作製と接地性の実験を繰り返し行うことで、中間点の外径を決めていた。
【0008】
電子写真機器等が設計変更すると、それに合わせて、ロールを新規に設計する必要がある。その場合、毎回試行錯誤によりロール体のクラウン量を決めてクラウン形状を最適化するには、ロールの試作と電子写真機器に組み込んだ試験とを繰り返し行う必要がある。しかしながら、限られた開発時間では、必ずしも十分な試行錯誤を行ってクラウン形状を決定することができない。ロール体のクラウン形状が不適切な形状であると、被当接物に対してロールを確実に押し当てることができずに、当接状態が不安定になってしまう。ロールと被当接物との当接状態が不安定になると、電子写真機器において形成される画像の画質が低下することになり、電子写真機器の高画質化を図ることができない。
【0009】
一方、試行錯誤を十分繰り返して適切なクラウン形状を決定し、ロールの端から端迄、全長にわたり当接状態を良好としたロールが得られたとしても、試行錯誤に時間が取られるために、製品の企画から完成までの期間(リードタイムということもある)が長くなってしまう。更にリードタイムが長くなると、当然、開発に係る費用も増大してしまう。
【0010】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、被当接物に対して均一に当接可能なクラウン形状が得られる電子写真機器用ロール及び該ロールの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の電子写真機器用ロールは、
軸体と該軸体の外周に形成されたロール体とを備え、該ロール体の軸方向中央部の外径が軸方向端部の外径よりも大きく形成されたクラウン形状の電子写真機器用ロールにおいて、
前記ロール体における軸方向の端部からの距離xの位置の外径(Dx)と軸方向の端部の外径(De)との差(Dx−De)をクラウン量yとした場合、前記ロール体のクラウン量yが下記(1)式に示す値を有するクラウン形状に形成されていることを要旨とする。
y=(P/9)Rx(x−2Lx+L)/(6EIL)・・・(1)
但し上記(1)式において、
Pは軸体の外径、
Rはロールを相手部材に押し当てる片側荷重、
Lはロール体の軸方向の長さ、
Eは軸体の縦弾性係数、
Iは軸体の断面二次モーメントである。
【0012】
本発明の電子写真機器用ロールの製造方法は、
軸体の外周に、軸方向中央部の外径が軸方向端部の外径よりも大きく形成されたクラウン形状のロール体を製造する際に、
前記ロール体における軸方向の端部からの距離xの位置の外径(Dx)と軸方向の端部の外径(De)との差(Dx−De)をクラウン量yとした場合、前記ロール体のクラウン量yが下記(1)式に示す値を有するクラウン形状に形成することを要旨とする。
y=(P/9)Rx(x−2Lx+L)/(6EIL)・・・(1)
但し上記(1)式において、
Pは軸体の外径、
Rはロールを相手部材に押し当てる片側荷重、
Lはロール体の軸方向の長さ、
Eは軸体の縦弾性係数、
Iは軸体の断面二次モーメントである。
【0013】
上記電子写真機器用ロールの製造方法において、前記ロール体の前記クラウン形状に対応した金型を用いて、ロール体を金型で成形する際にクラウン形状を賦型することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、電子写真機器用ロールがロール体のロール軸方向の端部からの距離xにおけるクラウン量yが上記(1)式を満足するクラウン形状に形成されていることにより、従来のような試行錯誤により形状を決定する作業を行うことなく、被当接物に対して均一に当接することが可能なロール体を得ることができる。
【0015】
更に、両端部と中央部のみのクラウン量を規定して、両端と中央の中間の形状は円弧形状とした従来のロールと比較して、本発明では端部からの距離xにおけるクラウン量を連続的に算出できるので、ロール体の中央部と端部の間の外径を更に適切な値とすることができる。
【0016】
このように本発明のロールは、軸方向に対し連続的にクラウン量を設定したクラウン形状のロール体を備えることから、当接物に対する接地均一性が良好であり、印刷画質の高画質化を図ることができる。更に、新しい仕様のロールを開発、製造する際に、クラウン形状を容易に且つ精度良く設計することができるので、短いリードタイムで新規ロールの開発、製造を行うことができるという利点がある。
【0017】
特に、近年、電子写真システムにおいて、高画質化・高速化が進み、各部位で使用されるロールの接地均一性が重要になってきている。本発明によれば、このようなロールの接地均一性を更に均一化することができ、印刷画像の高画質化・高速化に大きく寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明の電子写真機器用ロールの一例として帯電ロールの例を示し、(a)は、周方向断面図であり、(b)は軸方向断面図である。図1(a)、(b)に示すように電子写真機器用帯電ロール1(以下、単に帯電ロールという)は、円柱状の芯金からなる軸体2の表面外周に、弾性体からなる弾性層3、電気抵抗を調節するための抵抗調整層4及び表層5が順次積層され、軸方向の全長が前記軸体2の全長よりも短いロール状に形成された同図(b)に示すロール体6が設けられて構成されている。
【0019】
図2は本発明のロールの形状を説明するための断面図である。図2に示すようにロール1は、軸体2の外周のロール体6の軸方向中央部の外径が軸方向端部の外径よりも最も大きくなる中高形状に形成された、いわゆるクラウン形状を有するロールである。そしてロール体6における軸方向の端部からの任意の距離x〔mm〕の位置の外径(Dx)〔mm〕と軸方向の端部の外径(De)〔mm〕との差(Dx−De)〔mm〕をクラウン量y〔mm〕とした場合、前記ロール体6のクラウン量y〔mm〕が下記(1)式に示す値となるように形成されている。
y=(P/9)Rx(x−2Lx+L)/(6EIL)・・・(1)
【0020】
図2に示すように(1)式においてPは軸体2の外径〔mm〕である。Eは軸体2の縦弾性係数〔N/mm〕であり、軸体2の材質により定まるものである。Iは軸体2の断面二次モーメント〔mm〕であり、軸体2の断面形状により定まるものである。Lはロール体6の軸方向の長さ〔mm〕である。図3はロールを被当接物に押し当てた状態を示す平面図である。図3に示すように、(1)式において、Rはロール1を被当接物10に対して押し当てる際の片側荷重〔N〕である。
【0021】
このようにロール1の軸体2の材質、外径、断面形状、ロール体6の軸方向の長さ、ロール1を被当接物に押し当てる荷重(設計値)等が定まれば、ロール体6の端部からの距離xに応じたクラウン量yを求めることができる。
【0022】
上記(1)式より明らかなように、ロール体6の端部からの距離xがロール体6の端部と中央部との間のどの位置であっても、(1)式からクラウン量yの値を得ることができる。その結果、ロール体6のクラウン量は、ロール体6の一方の端部から他方の端部までの軸方向の全域に亘って連続的に、個々にクラウン量yの値が得られる。
【0023】
ロール体6のクラウン量yは、両端部が0(ゼロ)であり、軸方向中央が最大値となるように形成されている。ロール体6の外径は、軸方向中央部を最大径として、両端部に向かって漸次小さくなり両端部でゼロとなるように変化する。ロール体6はクラウン量が軸方向中央部に対し左右両側で対称となるように形成されている。すなわちロール体6は、左側端部からの距離xと右側端部からの距離xが同じであれば、同じクラウン量となるように形成されている。
【0024】
ロール体6の軸方向の端部からの位置xにおけるクラウン量yを、上記(1)式に示す値とすることで、被当接物に対して均一に当接可能なクラウン形状が得られる。以下、上記(1)式の技術的意義について説明する。
【0025】
図1に示すように、帯電ロール1は、剛性のある円柱や円筒等の棒状で軸方向で全体に均一な直径に形成された軸体2の外周に、弾性を有し中央部の外径が太いクラウン形状に形成されたロール体6が積層されて構成されている。図4は、ロールを被当接物に押し当てた際にロールに作用する力を示すものであり、(a)はロールを被当接物に押し当てた状態を示す模式図であり、(b)は(a)のF.B.D.であり、(c)はせん断力分布図であり、(d)は曲げモーメント分布図である。図4に示すように、帯電ロール1の軸体2の両端に片側荷重Rをそれぞれ加えて、帯電ロール1を感光ドラム等の被当接物10に押し当てる場合、軸体2がたわんだ状態で、ロール体6が被当接物10に押し当てられる。被当接物10の表面が平坦であれば、軸体2は両端部のたわみが最も大きく、中央部のたわみが最も小さくなる。ロール体6のクラウン量は、この軸体のたわみ量に対応する量に形成すれば、平坦な被当接物10の表面に均一に当接した状態が得られる。軸体2は断面の幅(すなわち軸体2の太さ)が均一に形成されているので、軸体2には軸方向のどの部分でも均一に荷重が加わっているものと考えられる。すなわち軸体2に、等分布荷重が加わるとみなすことができる。そうすると、軸体2のたわみ量は、材料力学的に求めることができる。すなわち上記(1)式は、軸体を一つの梁としてモデル化し、梁に作用する力を材料力学的な手法で解析する手法を利用して、軸体のたわみ量を求める式として得たものである。以下、(1)式が導き出された経緯を説明する。
【0026】
まず図4(b)に示すように、梁(軸体)の長さをLとし、軸体の両端にそれぞれRの外力が加わる場合、軸体の端部からxの距離の位置の単位長さ当たりに加わる荷重をw〔N/m〕とすると、軸体に加わる力は、A点周りのモーメントの平衡より、下記(3)式で表すことができる。
RL=wL/2・・・(2)
w=2R/L・・・(3)
この軸体に加わるせん断力は図4(c)に示すように、下記(4)式で表される。
Fx=R−wx・・・(4)
また軸体に加わる曲げモーメントは図4(d)に示すように、下記(5)式で表される。
Mx=Rx−(w/2)x・・・(5)
(5)式は、上記(3)式より下記(6)式で表される。
Mx=Rx−(R/L)x=(R/L)(−x+Lx)・・・(6)
【0027】
ここで、軸体のたわみ量をY(mm)とすると下記の(7)式で表される。上記式よりYは下記の(9)式で示される。なお(7)式において、Eは軸体の縦弾性係数であり、Iは軸体の断面二次モーメントである。
Y/dx=−Mx/EI=(R/EIL)(x−Lx)・・・(7)
dY/dx=(R/EIL)(x/3−L/2・x+c)・・・(8)
Y=(R/EIL)〔(x/12)−(L/6)x+cx+c〕・・・(9)
ロール体の一方の端部は、x=0であり、Y=0であるから、上記(9)式は(10)式で表される。
0=(R/EIL)c・・・(10)
∴c=0・・・(11)
またロール体の他方の端部は、x=Lであり、Y=0であるから、上記(9)式は、(12)式で表される。
0=(R/EIL)〔(L/12)−(L/6)+cL〕・・・(12)
∴cL=−(L/12)+(L/6)=L/12・・・(13)
=L/12・・・(14)
【0028】
上記c、cを(9)式に代入すると、下記(15)式となる。
Y=(R/EIL)〔(x/12)−(L/6)x+(L/12)x〕
=(R/12EIL)x(x−2Lx+L)・・・(15)
上記たわみ量Yは、ロール体の半径の幅に対するたわみ量であるのに対し、クラウン量yはロール体の直径に対する外径差でありy=2Yであるから、(15)式は(16)式で表すことができる。
y=(R/6EIL)x(x−2Lx+L)・・・(16)
上記(16)式に対し、軸体2の外径Pに関する補正係数(P/9)を掛けることで(1)式が得られる。
y=(P/9)Rx(x−2Lx+L)/(6EIL)・・・(1)
【0029】
(1)式の係数(P/9)は、軸体の外径(P)がφ9mmの場合には、係数が1となり、軸体のたわみ量を補正する必要がないが、軸体の外径がそれよりも大きいφ10mm、φ12mmの場合や、それよりも小さいφ6mm、φ8mmの場合には、補正する必要がある。この係数は経験的に求めたものである。
【0030】
以下、上記ロールの製造方法を説明する。上記の特定のクラウン形状を有する帯電ロール1を製造するには、先ず上記(1)式を用いてロール体6の軸方向の全域に亘り連続的にクラウン量を計算して、ロール体6のクラウン形状を求める。次に金型成形方法、研磨法、コーティング等の方法を用いて、ロール体16の表面にクラウン形状を形成することで、帯電ロール1が得られる。
【0031】
上記金型成形方法でロール体の表面にクラウン形状を形成するには、このロール体6の弾性層成形用金型として、上記クラウン形状に対応した形状の中空部が形成されたロール体成形用金型を製造する。そして、上記ロール体成形用金型の中空部に軸体2を同軸的に設置し弾性層組成物を注入して、加熱・硬化させた後、脱型することで、軸体2の外周に所望のクラウン形状が賦型された弾性層3が形成されたロールが得られる。このロールに、抵抗調整層4及び表層5を順次形成することで、帯電ロール1が得られる。この場合抵抗調整層4及び表層5は、均一な厚みに形成し、表面は下層の弾性層3のクラウン形状に沿った形状に形成される。金型成形方法によりクラウン形状を形成する方法は、所望のクラウン形状を精度良く安定して製造することができるという利点がある。
【0032】
また研磨法でロール体6の表面にクラウン形状を形成するには、先ず、押出し成形や金型成形等で、軸体2の外周に、クラウン形状ではない太さの均一な円柱状の弾性層を形成したロールを製造する。次いで、このロールの弾性層を(1)式を用いて求めたクラウン形状に研磨することで、弾性層3の表面に所望のクラウン形状が賦型されたロールが得られる。そして上記成形法の場合と同様に、抵抗調整層及び表層を順次形成することで、帯電ロール1が得られる。
【0033】
コーティング法でロール体6の表面にクラウン形状を形成するには、先ず、上記の研磨法と同様に、押出し成形や金型成形等で、軸体2の外周に、クラウン形状ではない太さの均一な円柱状の弾性層を形成したロールを製造する。次いで、このロールの弾性層3の表面に、抵抗調整層4及び表層5をコーティングにより順次形成する際に、軸方向におけるコーティングの膜厚をクラウン量に対応するように変化させることで、ロール体6の外径が所望のクラウン量に形成されたクラウン形状の帯電ロール1が得られる。このような軸方向の膜厚を変化させるコーティング法としては、特開平6ー39948号公報等に記載された方法を用いることができる。
【0034】
帯電ロール1に用いられる軸体2は、アルミニウム、ステンレスなどの金属製の中実体よりなる芯金、内部を中空にくり抜いた金属製の円筒体、又はこれらにめっきが施された導電性シャフトが用いられる。また必要に応じ、軸体2表面に接着剤、プライマーなどを塗布してもよい。上記接着剤、プライマーなどには、必要に応じて導電化を行ってもよい。
【0035】
弾性層3は、弾性を有する材料により非発泡体(ソリッド状)に形成される。弾性層3の厚みは、通常、1〜10mm程度に形成される。弾性層3の形成材料としては、例えば、ポリノルボルネンゴム、シリコーンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム(H−NBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、天然ゴム(NR)等が挙げられる。これらは1種又は2種以上混合されていても良い。
【0036】
また、弾性層3には、導電性付与のため、カーボンブラック、グラファイト、チタン酸カリウム、酸化鉄、c−TiO2 、c−ZnO、c−SnO2 、イオン導電剤(四級アンモニウム塩、ホウ酸塩、界面活性剤等)等の従来公知の導電剤を、上記材料中に適宜添加することができる。さらに、必要に応じて、発泡剤、架橋剤、架橋促進剤、オイル等を適宜添加することができる。
【0037】
軸体2の外周に弾性層3を形成するには、軸体2の表面に上記の弾性層3を構成する各成分を配合した弾性層組成物を押出成形する方法や、軸体2をロール成形用金型の中空部に同軸的に設置し、金型に弾性層組成物を注入して、加熱・硬化させた後、脱型する方法等を用いることができる。
【0038】
抵抗調整層4は、イオン導電性ポリマーを主成分として形成され、粗さ形成用粒子等を含有させても良い。抵抗調整層組成物には、上記成分以外に、導電剤(電子導電剤及び/又はイオン導電剤)、増量剤、補強剤、加工助剤、硬化剤、加硫促進剤、架橋剤、架橋助剤、酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、オイル、滑剤、助剤、界面活性剤などの各種添加剤を1種又は2種以上含有していても良い。
【0039】
抵抗調整層4の上記イオン導電性ポリマーとしては、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、又はエピクロルヒドリンゴムを用いる。上記エピクロルヒドリンゴムは、エピクロルヒドリンの単独重合体(CO)、エピクロルヒドリンとエチレンオキシドとの共重合体(ECO)、エピクロルヒドリンとアリルグリシジルエーテルとの共重合体(GCO)、エピクロルヒドリンとエチレンオキシドとアリルグリシジルエーテルとの共重合体(GECO)等が挙げられる。これらのイオン導電性ゴムは単独で使用しても、あるいは2種以上混合して使用しても良い。抵抗調整層4は、主成分として上記のイオン導電性ゴムを用いることにより、低へたり性、導電性、柔軟性などの優れた特性を備えるものである。
【0040】
抵抗調整層4に用いる粗さ形成用粒子としては、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂などの絶縁性の有機粒子、炭酸カルシウム、クレー、タルク、シリカなどの絶縁性の無機粒子等が挙げられる。抵抗調整層4は、抵抗調整層4の組成物に添加されている粗さ形成用粒子(樹脂粒子)の種類、粒子径、添加量等を適宜調節することで、所望の表面粗さに形成することができる。抵抗調整層4の表面粗さ(Rz)は、2〜20μmの範囲となるように形成するのが好ましい。表面粗さ(Rz)は、JIS−B−0601の表面粗さの測定方法に準じて測定することができる。
【0041】
表層5は、抵抗調整層4の外周に沿って、厚みが3〜20μmの表面保護層として形成されている。表層5は、ポリマーに、カーボンブラックや導電性金属酸化物等の導電剤を配合してなる表層組成物を、ロールコーティング法、ディッピング法、スプレーコート法等でコーティングし、硬化させることで設けられる。表層組成物は、形成された表層5の体積抵抗率が1×10〜1×1010Ω・cmになるように構成されている。
【0042】
表層組成物に用いられるポリマーとしては、例えば、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート、ポリアミド系樹脂、ウレタン系樹脂などの樹脂、アクリルニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、エピクロルヒドリンゴムなどのゴム、これら樹脂やゴムをシリコーン、フッ素などで変性した変性物等が挙げられる。これらは1種又は2種以上含まれていてもよい。
【0043】
表層組成物には、導電剤(カーボンブラックなどの電子系導電剤、及び/又は、第4級アンモニウム塩などのイオン系導電剤)、離型剤、硬化剤などの添加剤を1種又は2種以上配合してもよい。
【0044】
上記実施態様では、帯電ロールを例に説明したが、本発明のロールは、帯電ロール以外に、電子写真方式の複写機やプリンタ等の、現像ロール、転写ロール、定着ロール等のように、軸体の両端部がばね等にて押圧されることにより、被当接ロールに対し当接して被当接ロールに追従して回転して使用されるものであれば、適用することができる。この場合、ロール1は少なくとも軸体2とその外周の弾性層を有するロール体6とから構成されていて、ロール体のクラウン形状が(1)式に示す値のクラウン量を有するものであれば、他の構成はロールの使用形態や用途等に応じて適宜、変更可能である。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明する。
実施例1、比較例1
下記の構成及び寸法の材料を用い、芯金を金型にセットし、金型の空隙部に弾性層組成物を注型した後、金型に蓋をし、180℃で30分間加熱して弾性層組成物を架橋し、脱型後、弾性層の表面に抵抗調整層組成物を塗工し、160℃で30分間加熱して架橋し、抵抗調整層の表面に表層組成物を塗工し、120℃で50分間加熱して、芯金の外周に、弾性層、抵抗調整層及び表層が順次積層されたロール体が設けられた帯電ロールを得た。実施例1の帯電ロールは、ロール体の弾性層の成形用金型として、前記(1)式より算出したクラウン量を持つクラウン形状となるように形成された金型を用いた。また比較例1の帯電ロールは、ロール体の弾性層の成形用金型として、軸方向中央部のクラウン量を実施例1と同じ0.096mmとして両端部と中央部とを結ぶ円弧形状を持つクラウン形状に形成された金型を用いた。実施例1及び比較例1のクラウン量を表1に示す。尚、ロール体は弾性層の外周に抵抗調整層及び表層が積層されているが、これらの層は弾性層の表面形状に追随するように形成され、弾性層のクラウン形状とロール体のクラウン形状はほぼ一致している。
【0046】
〔構成及び寸法〕
・ロール外径:φ14mm
・芯金長さ:331mm
・芯金径(P):φ9mm
・芯金材質:鉄鋼(E=2.06×10N/mm、I=322mm
・ロール体長さ(L):315mm
・被当接物への押し当て荷重(R):3.9N
・弾性層の厚み:2.5mm
・抵抗調整層の膜厚:150μm
・表層の膜厚:10μm
【0047】
〔弾性層組成物の配合組成〕
・スチレン−ブタジエンゴム 100質量部
・カーボンブラック 25質量部
・酸化亜鉛 5質量部
・ステアリン酸 1質量部
・プロセスオイル 130質量部
・硫黄 0.3質量部
・ジベンゾチアゾールジスルフィド(加硫促進剤) 1.5質量部
・テトラメチルチウラムモノサルファイド(加硫促進剤)0.6質量部
【0048】
〔抵抗調整層組成物の配合組成〕
・エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド共重合ゴム 100質量部
・トリメチルオクタデシルアンモニウムパークロレート 0.2質量部
・ステアリン酸 1質量部
・クレー 30質量部
・鉛丹 5質量部
・エチレンチオウレア 1.5質量部
【0049】
〔表層組成物の配合組成〕
・N−メトキシメチル化ナイロン 100質量部
・導電性酸化スズ 60質量部
・クエン酸 1質量部
【0050】
得られた実施例1及び比較例1の帯電ロールについて、下記の試験方法によりニップ幅ばらつき試験とプリント画像試験を行った。その結果、クラウン形状を円弧形状とした帯電ロールを用いた比較例1のニップ幅ばらつきが20%であったのに対し、本発明の特定のクラウン形状とした帯電ロールを用いた実施例1は3%であり、ニップ幅ばらつきの小さいものであった。またプリント画像についても、比較例1の帯電ロールは濃度ムラが見られたが、実施例1の帯電ロールは濃度ムラがなく良好なものであった。
【0051】
表1に示すように、上記(1)式より求めた実施例1のクラウン量の値と、円弧形状を用いた比較例1のクラウン量の値は、ロール体の軸方向端部近傍において大きな相違が見られる。比較例1のように端部近傍のクラウン量が大きくなると曲率が大きくなって、被当接物に対して当接が不十分となり易い。そうすると帯電ロールと感光ドラムが十分接することができず、ニップ幅ばらつきが大きくなる。その結果、感光ドラムの帯電が不十分になって、画像の画質が低下するおそれがある。これに対し実施例1のように端部近傍のクラウン量が小さくなれば、曲率も小さくなって被当接物に対する当接が良好となって、ニップ幅ばらつきが小さくなり、帯電が良好で、画質を低下させるおそれがない。
【0052】
〔ニップ幅ばらつき試験方法〕
ニップ幅ばらつきの試験方法は、図3に示すように帯電ロール1を所定の荷重を加えて感光ドラムに10に押し当て、帯電ロール1を回転させずに帯電ロール1に電圧を印加して帯電ロール1と感光ドラム10との間に放電を起こし、感光ドラム10上に放電跡11が残るまで電圧印加を継続した後、電圧印加を止めて帯電ロール1を取外した。図5はニップ幅ばらつき試験後の感光ドラム表面を示す説明図であり、感光ドラム表面を図3の矢印F方向から見た図である。図5に示すように、感光ドラム10表面の放電跡11の幅について、ロール体の最大幅Wmaxと最小幅Wminを測定した。ニップ幅ばらつきは、下記の計算式より求めた。尚、図5に示すように、一般に放電跡は、ロール体の中央部の幅がWmaxで均一であるのに対し、ロール体の端部の幅が小さくなる。前記放電跡において、ロール体の端部側の幅が小さくなると、ニップ幅ばらつきの数値が大きくなり、帯電不良となる部分が増えることになる。これに対し、放電跡のロール体端部の幅が大きくなる程、ニップ幅ばらつきが小さくなり、帯電不良となる部分が小さくなる。
ニップ幅ばらつき(%)=(Wmax−Wmin)/Wmax×100
【0053】
〔画像評価方法〕
試験方法は、富士ゼロックス社のプリンター(商品名:DocuPrintC3530)のドラムカートリッジに、実施例又は比較例の帯電ロールを組み付けて、23℃53%RHの環境でマゼンタ色ハーフトーンの画像をプリントしたときに、帯電ロールの周長(約44mm)ピッチで濃度ムラのスジの有無を観察した。評価基準は、試験の結果、濃度ムラのスジが、発生していない場合を○とし、不明瞭ながら発生していれば△とし、明瞭に発生していれば×とした。
【0054】
【表1】

【0055】
実施例2、比較例2
下記の構成及び寸法とした以外は、実施例1、比較例1と同様の弾性層組成物、抵抗調整層組成物及び表層組成物を用いて、実施例1、比較例1と同様に弾性層、抵抗調整層及び表層を形成して帯電ロールを得た。実施例2の帯電ロールは、ロール体の弾性層の成形用金型として、前記(1)式より算出したクラウン量を持つクラウン形状となるように形成された金型を用いた。比較例2の帯電ロールは、ロール体の弾性層の成形用金型として、軸方向中央部のクラウン量を実施例2と同じ0.106mmとし、両端部と中央部とを結ぶ円弧形状を持つクラウン形状となるように形成された金型を用いた。実施例2及び比較例2のロール体のクラウン量を表2に示す。得られた実施例2及び比較例2の帯電ロールについて、実施例1と同様にニップ幅ばらつき試験を行った。その結果、クラウン形状が円弧形状とした帯電ロールを用いた比較例2のニップ幅ばらつきが24%であったのに対し、本発明の特定のクラウン形状とした帯電ロールを用いた実施例2は5%であり、ニップ幅ばらつきの小さいものであった。
【0056】
〔構成及び寸法〕
・ロール外径:φ12mm
・芯金長さ:331mm
・芯金径(P):φ8mm
・芯金材質:鉄鋼(E=2.06×10N/mm、I=322mm
・ロール体長さ(L):315mm
・被当接物への押し当て荷重(R):3.43N
・弾性層の厚み:2mm
・抵抗調整層の膜厚:150μm
・表層の膜厚:10μm
【0057】
【表2】

【0058】
実施例3、比較例3
下記の構成及び寸法とした以外は、実施例1、比較例1と同様の弾性層組成物、抵抗調整層組成物及び表層組成物を用いて、実施例1、比較例1と同様に弾性層、抵抗調整層及び表層を形成して帯電ロールを得た。実施例3の帯電ロールは、ロール体の弾性層の成形用金型として、前記(1)式より算出したクラウン量を持つクラウン形状となるように形成された金型を用いた。比較例3の帯電ロールは、ロール体の弾性層の成形用金型として、軸方向中央部のクラウン量を実施例3と同じ0.059mmとし、両端部と中央部とを結ぶ円弧形状を持つクラウン形状となるように形成された金型を用いた。実施例3及び比較例3のロール体のクラウン量を表3に示す。得られた実施例3及び比較例3の帯電ロールについて、実施例1と同様にニップ幅ばらつき試験を行った。その結果、クラウン形状が円弧形状とした帯電ロールを用いた比較例3はニップ幅ばらつきが23%であったのに対し、本発明の特定のクラウン形状とした帯電ロールを用いた実施例3は4%であり、ニップ幅ばらつきの小さいものであった。
【0059】
〔構成及び寸法〕
・ロール外径:φ12mm
・芯金長さ:249.5mm
・芯金径(P):φ6mm
・芯金材質:鉄鋼(E=2.06×10N/mm、I=322mm
・ロール体長さ(L):225mm
・被当接物への押し当て荷重(R):2.94N
・弾性層の厚み:3mm
・抵抗調整層の膜厚:130μm
・表層の膜厚:10μm
【0060】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の電子写真機器用ロールの一例として帯電ロールの例を示し、(a)は、周方向断面図であり、(b)は軸方向断面図である。
【図2】本発明のロールの形状を説明するための断面図である。
【図3】ロールを被当接物に押し当てた状態を示す平面図である。
【図4】ロールに作用する力の分布図である。
【図5】ニップ幅ばらつき試験後の感光ドラム表面を示す説明図である。
【符号の説明】
【0062】
1 帯電ロール
2 軸体
6 ロール体
10 被当接物(感光ドラム)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸体と該軸体の外周に形成されたロール体とを備え、該ロール体の軸方向中央部の外径が軸方向端部の外径よりも大きく形成されたクラウン形状の電子写真機器用ロールにおいて、
前記ロール体における軸方向の端部からの距離xの位置の外径(Dx)と軸方向の端部の外径(De)との差(Dx−De)をクラウン量yとした場合、前記ロール体のクラウン量yが下記(1)式に示す値を有するクラウン形状に形成されていることを特徴とする電子写真機器用ロール。
y=(P/9)Rx(x−2Lx+L)/(6EIL)・・・(1)
但し上記(1)式において、
Pは軸体の外径、
Rはロールを相手部材に押し当てる片側荷重、
Lはロール体の軸方向の長さ、
Eは軸体の縦弾性係数、
Iは軸体の断面二次モーメントである。
【請求項2】
軸体の外周に、軸方向中央部の外径が軸方向端部の外径よりも大きく形成されたクラウン形状のロール体を製造する際に、
前記ロール体における軸方向の端部からの距離xの位置の外径(Dx)と軸方向の端部の外径(De)との差(Dx−De)をクラウン量yとした場合、前記ロール体のクラウン量yが下記(1)式に示す値を有するクラウン形状に形成することを特徴とする電子写真機器用のロールの製造方法。
y=(P/9)Rx(x−2Lx+L)/(6EIL)・・・(1)
但し上記(1)式において、
Pは軸体の外径、
Rはロールを相手部材に押し当てる片側荷重、
Lはロール体の軸方向の長さ、
Eは軸体の縦弾性係数、
Iは軸体の断面二次モーメントである。
【請求項3】
前記ロール体の前記クラウン形状に対応した金型を用いて、ロール体を金型で成形する際にクラウン形状を賦型することを特徴とする請求項2記載の電子写真機器用ロールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−80300(P2009−80300A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249543(P2007−249543)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】