説明

電子写真機器用帯電ロール

【課題】像担持体と接触された状態で組み付けされた場合にも、像担持体との摺擦による摩擦帯電の発生を効果的に抑制して、これによる画像不具合を抑制することが可能な電子写真機器用帯電ロールを提供すること。
【解決手段】電子写真機器のドラムカートリッジ内に、像担持体表面に接触させて組み付けされる電子写真機器用帯電ロールであり、軸方向に沿って突条12aが形成された導電性シャフト12の外周に、低摩擦層14と弾性層16と表層18とがこの順で積層されている。このとき、μ1>μ4、かつ、μ2>μ3の関係を満たしている。但し、μ1:像担持体の静摩擦係数、μ2:表層18の静摩擦係数、μ3:低摩擦層14の静摩擦係数、μ4:導電性シャフト12の静摩擦係数とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真機器用帯電ロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、電子写真方式を採用する複写機、プリンター、ファクシミリなどの電子写真機器には、像担持体である感光ドラムの周囲に帯電ロールが組み付けされた、いわゆるドラムカートリッジが組み込まれている。この種の電子写真機器においては、接触帯電方式が良く用いられている。接触帯電方式においては、像担持体表面に帯電ロール表面を接触させることにより像担持体表面を帯電させている。
【0003】
この種のドラムカートリッジにおいては、従来、使用前には、像担持体表面と帯電ロール表面とが離間された状態で帯電ロールが組み込まれていた。そして、電子写真機器の使用時に、像担持体表面と帯電ロール表面とを接触させる構成とされていた。ところが最近では、ドラムカートリッジの製造コスト低減を図るなどの観点から、初めから像担持体表面と帯電ロール表面とが接触されて組み付けされたドラムカートリッジが製造されるようになってきている。
【0004】
ドラムカートリッジは複数の部品で構成されており、各部品には寸法公差が設けられている。そのため、帯電ロールのロール全長とその軸受け位置との寸法公差により、帯電ロールの軸端部と軸受けとの間にはクリアランスが生じている。したがって、このようなドラムカートリッジは、ドラムカートリッジ内で帯電ロールが軸方向に動く可能性のある構成になっている。そうすると、例えばドラムカートリッジが搬送される際に振動を受けると、ドラムカートリッジ内で帯電ロールが軸方向に動く場合がある。
【0005】
特に、トナー外添剤の付着を防止するなどの観点から、帯電ロールの表層に、フッ素含有ポリマーやシリコーン含有ポリマーなどの高離型性の材料を用いた場合には、帯電ロールのタック性が低下する。この場合には、像担持体と帯電ロールとの間の摩擦係数が小さくなり、より一層、帯電ロールは動きやすくなる。
【0006】
ドラムカートリッジ内で帯電ロールが軸方向に動くと、像担持体と帯電ロールとが摺擦される。これにより、像担持体が摩擦帯電される。このときに、像担持体上の摺擦された部分にプラス電荷が残る。そのため、出力画像上にドラムピッチの色スジが発生することが問題となっていた。
【0007】
そこで、上記問題を解決すべく、従来、種々の提案がなされている。例えば、カートリッジの搬送時に像担持体と帯電ロールとの間で摩擦が生じないように、像担持体と帯電ロールとの間にフィルム状の部材を介在させることが知られている。また、特許文献1には、カートリッジの搬送時に帯電ロールが回転しないようにするための取り外し可能な固定部材を用いて、像担持体と帯電ロールとを離間させることが開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2007−57830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、そのような別部材を用いると、ドラムカートリッジの製造コストは必然的に上昇することになる。したがって、従来の提案とは別の視点から、上述する摩擦帯電の発生を効果的に抑制する新規な帯電ロールの開発が望まれていた。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、像担持体と接触された状態で組み付けされた場合にも、像担持体との摺擦による摩擦帯電の発生を効果的に抑制して、これによる画像不具合を抑制することが可能な電子写真機器用帯電ロールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため本発明に係る電子写真機器用帯電ロールは、像担持体表面に接触される電子写真機器用帯電ロールであって、軸方向に沿って突条または溝部が形成された軸体と、前記軸体の外周に沿って形成された低摩擦層と、前記低摩擦層の外周に1または2以上の層を介して形成された表層とを備え、以下の関係を満たすことを要旨とするものである。
μ1>μ4、かつ、μ2>μ3
但し、
μ1:像担持体の静摩擦係数
μ2:表層の静摩擦係数
μ3:低摩擦層の静摩擦係数
μ4:軸体の静摩擦係数
【0012】
このとき、前記表層は、フッ素含有ポリマーおよびシリコーン含有ポリマーから選択された1種または2種以上を含有していると良い。
【0013】
また、前記低摩擦層は、その外周に形成された層の体積抵抗率よりも低い体積抵抗率を有すると良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る電子写真機器用帯電ロールは、軸方向に沿って突条または溝部が形成された軸体の外周に低摩擦層を備え、帯電ロール表面に接触される像担持体の静摩擦係数と、表層の静摩擦係数と、この低摩擦層の静摩擦係数と、軸体の静摩擦係数とが特定の関係を満たしている。したがって、この帯電ロールを像担持体と接触させた状態でドラムカートリッジ内に組み込んだ場合に、搬送等によりこのドラムカートリッジに振動が加えられたときには、軸体と低摩擦層との間で軸方向に滑るため、像担持体と表層との間での摺擦を抑制することができる。これにより、像担持体が摩擦帯電されるのを防止して、画像不具合を抑制することができる。
【0015】
このとき、軸方向に沿って形成された突条または溝部がガイドとなって、軸体と低摩擦層との間で軸方向に滑る。一方で、この突条または溝部は、軸体と低摩擦層との間で、周方向への滑りに対して抵抗となる。そのため、軸体と低摩擦層との間で周方向に滑るのを抑制することができる。また、これにより、軸体から低摩擦層およびその上層への回転駆動は確実に伝達される。したがって、使用時における帯電ロールの回転不良を防止して、画像不具合を抑制することができる。
【0016】
そして、表層が、フッ素含有ポリマーやシリコーン含有ポリマーを含有する組成物よりなる場合には、離型性に優れる。このような離型性に優れる材料は、帯電ロールのタック性を低下させやすい。そのため、像担持体との間でより一層滑りやすくなる。また、像担持体を形成する材料との帯電列の差が大きい傾向にある。そのため、摺擦により像担持体上に発生するプラス電荷が大きくなる傾向にある。本発明に係る電子写真機器用帯電ロールによれば、上記構成の表層においても、上記作用効果を奏することができる。
【0017】
さらに、低摩擦層が、その外周に形成された層の体積抵抗率よりも低い体積抵抗率を有する場合には、低摩擦層を設けたことによる抵抗上昇が生じないため、抵抗ムラを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明に係る電子写真機器用帯電ロール(以下、帯電ロールということがある。)について、図を参照して詳細に説明する。図1は、一実施形態に係る帯電ロールを表す軸方向の断面図である。帯電ロールは、電子写真方式を採用する複写機、プリンター、ファクシミリなどの電子写真機器に組み込まれる。
【0019】
図1に示すように、帯電ロール10は、軸体である導電性シャフト12と、導電性シャフト12の外周に形成された低摩擦層14と、低摩擦層14の外周に形成された弾性層16と、弾性層16の外周に形成された表層18とを備えている。帯電ロール10においては、導電性シャフト12と低摩擦層14とが非接着の状態にある。
【0020】
帯電ロール10は、図2に示すように、電子写真機器の像担持体である感光ドラム20と接触されて用いられる。この場合、帯電ロール表層18の表面は、感光ドラム20の表面(外周面)と接触する。また、導電性シャフト12の表面(外周面)は、低摩擦層14の内周面と接触している。
【0021】
ここで、感光ドラム(像担持体)20の静摩擦係数をμ1、表層18の静摩擦係数をμ2、低摩擦層14の静摩擦係数をμ3、導電性シャフト(軸体)12の静摩擦係数をμ4とすると、帯電ロール10においては、μ1>μ4、かつ、μ2>μ3の関係を満たしている。すなわち、導電性シャフト12の静摩擦係数μ4が感光ドラム20の静摩擦係数μ1よりも小さく、かつ、低摩擦層14の静摩擦係数μ3が表層18の静摩擦係数μ2よりも小さくなっている。そのため、帯電ロール10においては、感光ドラム20と表層18との間よりも、導電性シャフト12と低摩擦層14との間が滑りやすくなっている。
【0022】
図2に示すように、例えば帯電ロール10を感光ドラム20に接触させて組み付けてドラムカートリッジを構成した場合において、帯電ロール10に軸方向への力が作用すると、帯電ロール10が軸方向に移動しようとする。このとき、帯電ロール10においては、感光ドラム20と表層18との間よりも、導電性シャフト12と低摩擦層14との間が滑りやすくなっている。そのため、導電性シャフト12と低摩擦層14との間で軸方向に滑る。これにより、感光ドラム20と表層18との間で摺擦されるのを抑制することができる。
【0023】
帯電ロール10において、導電性シャフト12としては、例えば、ステンレス、アルミニウム、鉄、またはこれらの合金等の金属製の中実体よりなる芯金、内部を中空にくり抜いた金属製の円筒体、またはこれらにめっきが施されたものなどが挙げられる。また、導電性樹脂よりなる中実体や円筒体を用いることもできる。さらに、基材には導電性または非導電性の樹脂等よりなる中実体や円筒体を用い、これに金属めっきしたものを用いることもできる。より好ましくは、ステンレス、アルミニウム等の金属製の中実体、円筒体である。
【0024】
これに対し、感光ドラム20の表面を形成する主材料としては、例えばポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂等を例示することができる。
【0025】
導電性シャフト12には金属製材料が用いられることが多い。これに対し、像担持体である感光ドラム20の表面にはポリカーボネートなどの樹脂材料が用いられることが多い。導電性シャフト12および感光ドラム20について、このような材料選択をする場合には、μ1>μ4の関係を満たすことができる。
【0026】
また、低摩擦層14を形成する主材料としては、例えば、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート、ウレタン系樹脂、メラミン樹脂などの樹脂、ニトリルゴム(NBR)、ヒドリンゴム(CO、ECO等)などのゴム、これら樹脂やゴムをシリコーン、フッ素などで変性した変性物などを例示することができる。より好ましくは、フッ素変性(メタ)アクリレート、シリコーン変性(メタ)アクリレートである。これらは1種または2種以上混合されていても良い。
【0027】
低摩擦層14は、上記主材料とともに、導電剤を含有していることが好ましい。導電剤としては、カーボンブラックなどの電子導電剤や、四級アンモニウム塩などのイオン導電剤などが挙げられる。このとき、低摩擦層14は、導電剤を配合させるなどして、弾性層16よりも体積抵抗率が低いことが好ましい。低摩擦層14は、導電性シャフト12と弾性層16との間に設けられているため、弾性層16よりも高抵抗であると、低摩擦層14を設けたことによる抵抗上昇が生じるからである。このように、高抵抗層があると、抵抗ムラが生じやすくなる。そのため、低摩擦層14の体積抵抗率を弾性層16よりも低く抑えることが好ましい。このような観点から、上記導電剤は、上記主材料100質量部に対して、5〜100質量部の範囲内であることが好ましい。より好ましくは、10〜30質量部の範囲内である。そして、低摩擦層14の体積抵抗率は、好ましくは、10Ω・cm以下である。
【0028】
低摩擦層14は、その他にも、必要に応じて、充填剤、増量剤、補強剤、加工助剤、硬化剤、加硫促進剤、架橋剤、架橋助剤、酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、顔料、シリコーンオイル、助剤、界面活性剤などの各種添加剤が適宜添加される。
【0029】
一方、表層18を形成する主材料としては、例えば、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート、ウレタン系樹脂、メラミン樹脂などの樹脂、ニトリルゴム(NBR)、ヒドリンゴム(CO、ECO等)などのゴム、これら樹脂やゴムをシリコーン、フッ素などで変性した変性物などを例示することができる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。このうち、トナー外添剤の付着を防止するなどの観点から、離型性に優れるフッ素変性(メタ)アクリレート、シリコーン変性(メタ)アクリレートが好ましい。
【0030】
表層18中には、導電剤(カーボンブラックなどの電子系導電剤、第4級アンモニウム塩などのイオン系導電剤)、離型剤、硬化剤などの添加剤が1種または2種以上含有されていても良い。導電剤の配合量としては、導電性を確保するなどの観点から、上記主材料100質量部に対して、10〜50質量部の範囲内にあることが好ましい。
【0031】
低摩擦層14の材料としては、表層18材料よりも静摩擦係数の小さい材料であることが好ましい。μ2>μ3の関係を満たすように、低摩擦層14の材料と、表層18の材料をそれぞれ調製する。
【0032】
このとき、例えば、帯電ロール10の表層18に高離型性の材料を用いた場合には、帯電ロール10のタック性が低下する。この場合には、感光ドラム20と帯電ロール10との間の摩擦係数が小さくなり、より一層、帯電ロール10は動きやすくなる。また、感光ドラム20を形成する材料との帯電列の差が大きい傾向にある。そのため、摺擦により感光ドラム20上に発生するプラス電荷が大きくなる傾向にある。このような場合においても、μ2>μ3の関係を満たすようにすることにより、感光ドラム20の表面と帯電ロール表層18との間で滑るのを抑えて、この間で摺擦されることによる画像不具合の発生を抑えることができる。
【0033】
弾性層16を形成する主材料としては、例えば、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリノルボルネンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム(H−NBR)、ヒドリンゴム(CO、ECO等)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、天然ゴム(NR)、シリコーンゴム等を例示することができる。より好ましくは、ヒドリンゴム、NBRである。これらは1種または2種以上併用することができる。弾性層16は、発泡体であっても良いし、充実体であっても良い。
【0034】
弾性層16中には、導電性付与のため、カーボンブラック、グラファイト、チタン酸カリウム、酸化鉄、c−TiO、c−ZnO、c−SnO等の電子導電剤や、四級アンモニウム塩、ホウ酸塩、界面活性剤等のイオン導電剤等の従来公知の導電剤が適宜添加される。さらに、必要に応じて、発泡剤、架橋剤、架橋促進剤、オイル等を適宜添加してもよい。
【0035】
弾性層16の体積抵抗率は、1×10〜1×10Ω・cmの範囲内にあることが好ましい。弾性層16の体積抵抗率が1×10Ω・cm未満では、導電剤の体積比率が増大し、十分な耐圧が得られにくい。一方、体積抵抗が1×10Ω・cmを超えると、導電剤の体積比率が低減し、抵抗のムラが生じやすい。
【0036】
各部材の静摩擦係数は、静動摩擦係数計を用いて測定することができる。各部材の静摩擦係数は、例えば、各部材を形成する組成物をそれぞれシート状に成形した試験片を作製し、試験片の表面の静摩擦係数を測定することにより求めることができる。また、例えば、製品としての帯電ロールを用いても、各部材の静摩擦係数を測定することができる。
【0037】
上述するように、導電性シャフト12と低摩擦層14との間は非接着の状態にある。そのため、帯電ロール10から導電性シャフト12を抜くことが可能である。そうすると、導電性シャフト12の外周面と低摩擦層14の内周面とが現れる。これにより、それぞれの表面について、静動摩擦係数計を用いて静摩擦係数を測定することができる。また、感光ドラム20と帯電ロールの表層18は最初から現れているので、同様に、それぞれの表面について、静動摩擦係数計を用いて静摩擦係数を測定することができる。
【0038】
静動摩擦係数計としては、例えば、協和界面科学株式会社製「DFPM−S」などを例示することができる。静摩擦係数は、各部材の表面に、荷重100gの条件にて静動摩擦係数計の触針を接触させ、スピード65の条件にて触針をスライドさせたときに測定される値である。
【0039】
ここで、導電性シャフト12には、図3に示すように、軸方向に沿って突条12aが形成されている。この突条12aは、周方向に4箇所、等間隔に形成されている。突条12aは、導電性シャフト12と低摩擦層14との間で軸方向に滑る際のガイドとなる。そのため、軸方向への滑りに対しては、妨げにはなっていない。
【0040】
一方で、この突条12aは、導電性シャフト12と低摩擦層14との間で、周方向への滑りに対して抵抗になっている。そのため、導電性シャフト12と低摩擦層14との間で周方向に滑るのを抑制することができる。また、これにより、導電性シャフト12から低摩擦層14およびその上層への回転駆動は確実に伝達される。したがって、使用時における帯電ロール10の回転不良を防止して、画像不具合を抑制することができる。
【0041】
このような機能を有する他の形態の導電性シャフトとしては、図4に示すように、軸方向に沿って溝部12bが形成された導電性シャフト12を示すことができる。このものは、同様に、周方向への滑りのみを抑えて、軸方向への滑りを抑制しない。また、突条12aと溝部12bの両方を備えたものであっても良い。また、突条12aや溝部12bの形状や数なども特に限定されるものではない。すなわち、周方向への滑りのみを抑えて、軸方向への滑りを抑制しないものであれば良い。
【0042】
このような形状の導電性シャフト12は、例えば、線材を引抜き加工する際のダイス形状を変更することにより容易に形成することができる。
【0043】
導電性シャフト12の外周に形成される低摩擦層14の厚みは、特に限定されるものではないが、5〜30μmの範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、10〜20μmの範囲内である。また、弾性層16の厚みは、0.1〜10mmの範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、1〜5mmの範囲内である。また、表層18の厚みは、特に限定されるものではないが、10〜30μmの範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、12〜20μmの範囲内である。
【0044】
低摩擦層14を形成するには、例えば、まず、低摩擦層14を構成する成分を混合し、溶剤等により液状にして塗工液を調製する。次いで、塗工液を導電性シャフト12の外周面に塗工した後、乾燥、加熱架橋処理すれば、低摩擦層14を形成することができる。コーティング方法は、特に制限されるものではなく、ディッピング法、スプレー法、ロールコート法などの一般的な方法を適用することができる。溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン(MEK)、メタノール、トルエン、イソプロピルアルコール、メチルセロソルブ、ジメチルホルムアミド等があげられる。これらは1種または2種以上併用することができる。特に、材料各成分の溶解性などの観点で、MEKが好ましい。溶剤を用いる場合には、塗工しやすい粘度に調整して塗工性を高めるなどの観点から、溶液濃度を5〜30質量%の範囲内にすることが好ましい。また、表層18は、上記低摩擦層14の形成方法に準じて行なうことができる。
【0045】
弾性層16を形成するには、例えば、まず、弾性層16を構成する成分をニーダー等の混練機で混練して形成材料を調製する。その後、低摩擦層14を形成した導電性シャフト12を円筒状金型の中空部にセットし、形成材料を注型した後、金型に蓋をし、加熱して、形成材料を架橋させる。その後、上記円筒状金型から脱型することにより、低摩擦層14の外周に弾性層16を形成することができる。
【0046】
本発明に係る帯電ロールとしては、図1に示す層構成の帯電ロール10に限定されるものではない。例えば、弾性層16と表層18との間に、1層以上の中間層が介在されていても良い。中間層としては、例えば、軟化剤移行防止層や、抵抗調整層などが挙げられる。中間層としては、軟化剤移行防止層のみであっても良いし、抵抗調整層のみであっても良い。また、両層を備えた構成であっても良い。層構成としては、例えば、低摩擦層の上に、弾性層、軟化剤移行防止層、抵抗調整層、表層がこの順に積層されたものなどを示すことができる。
【0047】
軟化剤移行防止層の形成材料としては、例えば、N−メトキシメチル化ナイロン等のポリアミド樹脂やポリエステル等の主材料に、カーボンブラック等の導電剤を配合したものが挙げられる。また、抵抗調整層の形成材料としては、例えば、ヒドリンゴム、EPDM、SBR、NBR、H−NBR、ポリウレタン系エラストマー等に、カーボンブラック、金属酸化物、四級アンモニウム塩、ホウ酸塩、過塩素酸リチウム等の導電剤を配合したものが挙げられる。これらは単独であるいは二種以上併せて用いることができる。
【0048】
軟化剤移行防止層の厚みとしては、3〜30μmの範囲内にあることが好ましい。また、抵抗調整層の厚みとしては、10〜800μmの範囲内にあることが好ましい。軟化剤移行防止層および抵抗調整層を形成する方法としては、特に限定されるものではないが、塗工方法が好ましい。塗工の場合には、低摩擦層14と同様の方法によって形成することができる。
【0049】
帯電ロール10の体積抵抗は、1×10〜1×10Ωの範囲内にあることが好ましい。体積抵抗が1×10Ω未満では、導電剤の体積比率が増大し、十分な耐圧が得られにくい。一方、体積抵抗が1×10Ωを超えると、導電剤の体積比率が低減し、抵抗のムラが生じやすい。
【0050】
上記構成を備えた帯電ロール10を製造工程の面から見たとき、従来と比較して、低摩擦層14を形成する工程が増加している。しかしながら、従来の接着層を形成する工程を有していない。したがって、接着層を形成する工程から低摩擦層14を形成する工程に変更するのみで良い。そのため、工程数を増加させることもない。
【0051】
そして、帯電ロール10を用いたドラムカートリッジの構成を見ると、従来のようにドラムカートリッジを搬送する際において像担持体と帯電ロール10とを離間させるような別部材を用いる構成ではない。そして、このような別部材は、一般に製造コストを上昇させるものであるが、本発明においては、これを省くことができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0053】
[原材料]
・フッ素変性アクリルポリマー(大日本インキ化学工業社製、「ディフェンサTR−230K」)
・シリコーン変性アクリルポリマー(根上工業社製、「パラクロンW−197C」)
・N−メトキシメチル化ナイロン(帝国化学社製、「トレジンEF30T」)
・ポリフッ化ビニリデン樹脂(アトフィナジャパン社製、「カイナーSL」)
・SBR(日本エラストマー社製、「商品名「ソルプレン1206」)
・NBR(日本ゼオン社製、「ニポールDN401」)
・カーボンブラック(ケッチェンブラック・インターナショナル社製「ケッチェンブラックEC」)
・アセチレンブラック(電気化学工業社製、「デンカブラックHS−100」)
・四級アンモニウム塩(和光純薬社製、「TBAHS」)
・ステアリン酸(花王社製、「ルナックS30」)
・亜鉛華(堺化学工業社製)
・加硫助剤(1)(三新化学社製、「サンセラーCZ−G」)
・加硫助剤(2)(大内新興化学社製、「ノクセラーBZ−P」)
・硫黄(鶴見化学工業社製、「サルファックスPTC」)
【0054】
<低摩擦層塗工液の調製>
表1に記載の低摩擦層成分100質量部と、カーボンブラック20質量部と、溶剤(ディフェンサ、パラクロンの場合:MEK、トレジンの場合:メタノール)400質量部とを混合することにより、低摩擦層塗工液を調製した。
【0055】
<弾性層組成物の調製>
SBR100質量部と、カーボンブラック10質量部とを混合し、ニーダー等の混練機により混練することにより弾性層組成物を調製した。
【0056】
<軟化剤移行防止層塗工液の調製>
N−メトキシメチル化ナイロン100質量部と、カーボンブラック20質量部と、メタノール400質量部とを混合することにより軟化剤移行防止層塗工液を調製した。
【0057】
<抵抗調整層塗工液の調製>
NBR100質量部と、四級アンモニウム塩1質量部と、アセチレンブラック30質量部と、ステアリン酸0.5質量部と、亜鉛華5質量部と、加硫助剤(1)1.07質量部と、加硫助剤(2)0.49質量部と、硫黄1質量部と、MEK400質量部とを混合することにより抵抗調整層塗工液を調製した。
【0058】
<表層塗工液の調製>
表1に記載の表層成分100質量部と、カーボンブラック8質量部とを、溶剤(ディフェンサ、パラクロンの場合:MEK、トレジンの場合:メタノール)400質量部に加え、混合することにより、表層塗工液を調製した。
【0059】
<帯電ロールの作製>
(実施例1、3、5、7)
引抜き加工により、軸方向に沿って表面に突条(突条高さ500μm)が形成された導電性シャフト(φ8mm、SUS304製)を作製した。この導電性シャフトの表面に、ディッピング法により低摩擦層塗工液をコーティングした後、100℃で30分熱処理することにより、15μm厚の低摩擦層を形成した。次いで、低摩擦層が形成された導電性シャフトを同軸にセットした円筒状金型内に弾性層組成物を注入し、180℃で50分間加熱した後、冷却、脱型した。これにより、導電性シャフトの外周に3mm厚の弾性層を有するロール体を作製した。次いで、このロール体の表面に、ロールコート法により、各塗工液を順次コーティングして、順次、軟化剤移行防止層(5μm厚)、抵抗調整層(150μm厚)、および、表層(14μm厚)を形成した。以上のようにして、実施例1、3、5、7に係る各帯電ロールを作製した。
【0060】
(実施例2、4、6、8)
引抜き加工により、軸方向に沿って表面に溝部(溝部深さ500μm)が形成された導電性シャフト(φ8mm、SUS304製)を作製した。この溝部を有する導電性シャフトを用いた点以外、実施例1と同様にして、実施例2、4、6、8に係る各帯電ロールを作製した。
【0061】
(比較例1)
断面丸形状の導電性シャフト(φ8mm、SUS304製)を用いた点、、その外周面に接着剤を塗布した点、および、低摩擦層を形成しなかった点以外、実施例1と同様にして、比較例1に係る帯電ロールを作製した。
【0062】
(比較例2)
断面丸形状の導電性シャフト(φ8mm、SUS304製)を用いた点以外、実施例1と同様にして、比較例2に係る帯電ロールを作製した。
【0063】
(比較例3〜5)
実施例1と同様にして、比較例3〜5に係る各帯電ロールを作製した。
【0064】
<各導電性ロールの評価>
実施例および比較例に係る各帯電ロールについて、低摩擦層および弾性層の体積抵抗率をそれぞれ測定した。また、導電性シャフト、低摩擦層、表層、感光ドラムの静摩擦係数を測定した。そして、以下の評価方法に基づいて画像評価を行なった。その結果を表1および表2に示す。
【0065】
(体積抵抗率)
各帯電ロールについて、低摩擦層材料および弾性層材料をそれぞれ直径100mm、厚さ2mmに成形した。次いで、JIS K6911に準じて、成形したサンプルの体積抵抗率を測定した。
【0066】
(静摩擦係数)
静動摩擦係数計(協和界面科学社製、「DFPM−S」)を用いて、各部材表面に、荷重100gで静動摩擦係数計の触針を接触させ、スピード65で触針をスライドさせて静動摩擦係数を測定した。各帯電ロールの表層と感光ドラムについては、現れている表面で測定し、各帯電ロールの導電性シャフトおよび低摩擦層については、各帯電ロールから導電性シャフトを抜いたときに現れる導電性シャフト表面および低摩擦層内周面で測定した。
【0067】
(画像評価)
各帯電ロールを市販のドラムカートリッジ(富士ゼロックス社製、「CT350376」)に組み付け、振動加速度7.35m/s、振動数50Hz、時間1時間の条件(JIS Z0200を参考に条件設定した。)で、ドラムカートリッジに軸方向に振動を与えた。加振後、このドラムカートリッジを市販のレーザープリンター(富士ゼロックス社製、「DocuPrintC3540」)にセットし、15℃×10%RH環境下でハーフトーン画像出しを行なった。その結果、画像スジ(色スジ)が発生しなかったものを「○」、画像スジ(色スジ)が発生したものを「×」とした。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
比較例1では、従来良くある構成の帯電ロールを用いている。すなわち、丸形状の断面を有する導電性シャフトを用いている。また、導電性シャフトの外周には低摩擦層を設けていない。さらに、導電性シャフトの外周に形成した弾性層と導電性シャフトとの間を接着剤により接着している。そのため、ドラムカートリッジに加えた振動によりドラムカートリッジ内で帯電ロールが動いたときに、帯電ロール表層と感光ドラム表面とが摺擦された。その結果、画像評価において画像スジ(色スジ)の発生が確認された。
【0071】
比較例2では、導電性シャフトの外周に低摩擦層を設けている。このとき、表層の静摩擦係数μ2と低摩擦層の静摩擦係数μ3とが、μ2>μ3の関係を満たしている。また、導電性シャフトと低摩擦層との間は接着されていない。そのため、ドラムカートリッジに加えた振動によりドラムカートリッジ内で帯電ロールが動いたときに、導電性シャフトと低摩擦層との間で滑っている。このため、帯電ロール表層と感光ドラム表面とは摺擦されていない。しかしながら、丸形状の断面を有する導電性シャフトを用いているため、画像出しする際に、導電性シャフトと低摩擦層との間で滑って、これらが連れ回りしなかった。これにより、画像出力することができなかった。
【0072】
比較例3〜5では、導電性シャフトの外周に低摩擦層を設けている。また、導電性シャフトと低摩擦層との間は接着されていない。さらに、軸方向に沿って突条が形成され、凸形状の断面を有する導電性シャフトを用いている。しかしながら、表層の静摩擦係数μ2と低摩擦層の静摩擦係数μ3とが、μ2>μ3の関係を満たしていない。そのため、ドラムカートリッジに加えた振動によりドラムカートリッジ内で帯電ロールが動いたときに、導電性シャフトと低摩擦層との間では滑らず、表層と感光ドラム表面とが摺擦された。その結果、画像評価において画像スジ(色スジ)の発生が確認された。
【0073】
これに対し、実施例に係る各帯電ロールでは、導電性シャフトの外周に低摩擦層を設けている。このとき、表層の静摩擦係数μ2と低摩擦層の静摩擦係数μ3とが、μ2>μ3の関係を満たしている。また、導電性シャフトと低摩擦層との間は接着されていない。さらに、軸方向に沿って突条または溝部が形成され、凸形状または凹形状の断面を有する導電性シャフトを用いている。
【0074】
そのため、ドラムカートリッジに加えた振動によりドラムカートリッジ内で帯電ロールが動いたときに、導電性シャフトと低摩擦層との間で滑っている。このため、帯電ロール表層と感光ドラム表面とは摺擦されていない。また、画像出力も可能であった。そして、画像評価においては、画像スジ(色スジ)の発生が確認されなかった。したがって、実施例に係る各帯電ロールによれば、感光ドラムと接触された状態で組み付けされた場合にも、感光ドラムとの摺擦による摩擦帯電の発生を抑制でき、これによる画像不具合を抑制できることが確認できた。
【0075】
また、各実施例に係る帯電ロールにおいては、低摩擦層が、弾性層の体積抵抗率よりも低い体積抵抗率を有するため、低摩擦層を設けたことによる抵抗上昇が生じていない。その結果、抵抗ムラも生じていない。
【0076】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】一実施形態に係る電子写真機器用帯電ロールを表す軸方向断面図である。
【図2】帯電ロールと感光ドラムとを接触させた状態を表す周方向断面図である。
【図3】一実施形態に係る電子写真機器用帯電ロールを表す周方向断面図である。
【図4】他の実施形態に係る電子写真機器用帯電ロールを表す周方向断面図である。
【符号の説明】
【0078】
10 電子写真機器用帯電ロール
12 導電性シャフト
12a 突条
12b 溝部
14 低摩擦層
16 弾性層
18 表層
20 感光ドラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
像担持体表面に接触される電子写真機器用帯電ロールであって、
軸方向に沿って突条または溝部が形成された軸体と、
前記軸体の外周に沿って形成された低摩擦層と、
前記低摩擦層の外周に1または2以上の層を介して形成された表層とを備え、
以下の関係を満たすことを特徴とする電子写真機器用帯電ロール。
μ1>μ4、かつ、μ2>μ3
但し、
μ1:像担持体の静摩擦係数
μ2:表層の静摩擦係数
μ3:低摩擦層の静摩擦係数
μ4:軸体の静摩擦係数
【請求項2】
前記表層は、フッ素含有ポリマーおよびシリコーン含有ポリマーから選択された1種または2種以上を含有していることを特徴とする請求項1に記載の電子写真機器用帯電ロール。
【請求項3】
前記低摩擦層は、その外周に形成された層の体積抵抗率よりも低い体積抵抗率を有することを特徴とする請求項1または2に記載の電子写真機器用帯電ロール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−223207(P2009−223207A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−70000(P2008−70000)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】