説明

電子写真用感光体

【課題】電子写真用感光体用の電荷輸送材料として十分な感度を有し、しかも電子写真用感光体を作製する際に使用する溶剤に対する溶解性、バインダー樹脂との相溶性が十分な材料を提供する。
【解決手段】分子構造式中、ジフェニルアミノフェニル基、チオフェニレン基、ビニレン基、シアノカルボキシルビニリデン基を含有する特定のスチルベンアミン誘導体を含有する電子写真用感光体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真用感光体に関する。さらに詳しくは、特定のスチルベンアミン誘導体を電荷輸送材料として含有する電子写真用感光体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真用感光体に用いる材料として、有機系の光導電性材料および無機系の光導電性材料が開発されている。中でも、有機系の光導電性材料を用いた電子写真用感光体は、無機系の光導電性材料を用いる場合と比較して製造が容易であり、安価に製造できる利点があり、広く用いられている。
【0003】
有機系の光導電性材料を用いる電子写真用感光体は、電荷発生材料、電荷輸送材料、バインダー樹脂等から構成されている。電荷輸送材料には、正孔輸送材料と電子輸送材料がある。
【0004】
これらの構成材料は、感光体に求められる特性を考慮して組み合わされる。感光体に求められる特性としては、(1)暗所において、コロナ放電による電荷の帯電性が高いこと、(2)暗所において、コロナ放電により帯電した電荷の減衰が少ないこと、(3)光照射により電荷が速やかに散逸すること、(4)光照射後の残留電荷が少ないこと、(5)繰り返し使用時に、残留電位の増加や初期電位の減少が少ないこと、(6)気温及び湿度により電子写真特性の変化が少ないこと、などが挙げられる。
【0005】
これまでに、このような特性向上を目的として、電荷輸送材料についても各種の化合物が提案されている。
【0006】
特許文献1には、電子写真用感光体に用いる電荷輸送材料として、特定のスチルベンアミン誘導体が記載されている。
【0007】
しかしながら、このアミン誘導体では電子写真用感光体用の電荷輸送材料として感度が十分でないという問題がある。すなわち、特許文献1に開示の電荷輸送材料は、電子写真用感光体を作製する際に使用する溶剤(たとえばテトロヒドロフラン等)に対する溶解性、バインダー樹脂との相溶性が低いことから、感光層中に均一に分散されず、電荷移動が生じにくい。そのため、これを電荷輸送剤として感光体に使用した際には、その特性が十分に発揮できず、長期の使用においては感光体の残留電位が高くなり、光感度が不十分になる。
【特許文献1】特開2002−275176号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであって、電子写真用感光体を作製する際に使用する溶剤に対する溶解性、バインダー樹脂との相溶性に優れた電荷輸送剤を用いて、感度特性に優れた電子写真感光体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定のスチルベンアミン誘導体が電子写真用感光体を作製する際に使用する溶剤に対する溶解性、バインダー樹脂との相溶性に優れており、そのため感光層中での結晶の析出を防止して高感度の電子写真感光体を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、一般式(1a)または(1b)で表されるスチルベンアミン誘導体を含有する電子写真用感光体に関する。
【0011】
【化1】

【0012】
(式(1a)及び(1b)中、R〜R12は同一または異なって、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、ハロゲン原子またはアラルキル基、またはアルケニル基を表す。)
【発明の効果】
【0013】
本発明における上記一般式(1a)または(1b)で表されるスチルベンアミン誘導体は、電子写真用感光体を作製する際に使用する溶剤への溶解性、バインダー樹脂との相溶性が十分であり、電子写真用感光体用の電荷輸送材料、特に正孔輸送材料として十分な感度を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の電子写真用感光体は、一般式(1a)または(1b)で表されるスチルベンアミン誘導体を感光層に含有するものである。
【0015】
〜R12で表されるアルキル基、アリール基、アルコキシ基、ハロゲン原子、またはアラルキル基としては次のものが挙げられる。
【0016】
アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基等の炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のアルキル基等が挙げられる。
【0017】
アリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0018】
アルコキシ基としては、例えばメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、s−ブトキシ、t−ブトキシ、ペンチルオキシ、イソペンチルオキシ、ネオペンチルオキシ、ヘキシルオキシ等の炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のアルコキシ基等が挙げられる。
【0019】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0020】
アラルキル基としては、例えばベンジル、α−メチルベンジル、フェネチル、スチリル、シンナミル、3−フェニルプロピル、4−フェニルブチル、5−フェニルペンチル、6−フェニルヘキシル等の炭素数6〜20のアラルキル基が挙げられる。
上記アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アラルキル基は置換基を有していてもよく、置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基、カルボキシ基、エステル基、アシル基、アミノ基、アルキルアミノ基、ニトロ基、メルカプト基、アリール基などが挙げられる。
【0021】

本発明に係る一般式(1a)または(1b)で表されるスチルベンアミン誘導体としては次のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
【化2】

【0023】
(合成方法)
本発明における式(1a)に含まれるスチルベンアミン誘導体は、いずれも公知の製造方法によって合成することができ、例えば(HT−1)は、次に示すスキームにより得ることができる。
【0024】
【化3】

【0025】
(反応工程a)
即ち、まず、反応容器内にて化合物(A−1)と化合物(A−2)のWiitig反応を行う。反応後、反応溶液を冷水にあけ、有機溶媒にて抽出し、有機層を乾燥後して中間化合物が得られる。
【0026】
その中間化合物をTFF中−78℃下で、n−BuLiとDMFにてホルミル化を行い、化合物(A−3)を得る。
(反応工程b)
得られた化合物(A−3)を用いて、反応工程aと同様の方法にて化合物(A−4)が得られる。
(反応工程c)
上記にて得られた化合物(A−4)と化合物(A−6)をピペリジン中にて加熱還流を行って脱水反応を行い、シリカゲルカラムにて精製にて化合物(HT-1)が得られる。
【0027】
本発明における式(1b)に含まれるスチルベンアミン誘導体は、いずれも公知の製造方法によって合成することができ、例えば(HT−2)は、次に示すスキームにより得ることができる。
【0028】
【化4】

【0029】
(反応工程a´)
化合物(B−1)と化合物(B−2)をパラジウム触媒中、鈴木カップリングにて化合物(B−3)を得る。
(反応工程b)得られた化合物(B−3)を用いて、上記反応工程bと同様の方法にて化合物(B−4)が得られる。
(反応工程c)
上記にて得られた化合物(B−4)を用いて、上記反応工程cと同様の方法にて化合物(HT−2)が得られる。
【0030】
本発明の電子写真用感光体は、電荷輸送材料、特に正孔輸送材料として本発明に係る前記ジアミン誘導体を感光層に含有するものである。感光層には、本発明に係る前記ジアミン誘導体が単独または複数含有され、さらに他の電荷輸送材料と組み合わされてもよい。
【0031】
電子写真用感光体は、導電性基体と、導電性基体上に形成された感光層とを有するが、感光層は単層であっても、積層であってもよい。
【0032】
電子写真用感光体における導電性基体としては、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、亜鉛、ステンレス、チタン等の金属製ドラムおよびシート;ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリスチレン等の高分子材料、硬質紙、またはガラス上に、金属箔ラミネートや金属蒸着処理を施したドラムおよびシート;ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリスチレン等の高分子材料、硬質紙、またはガラス上に、導電性高分子、酸化スズ、または酸化インジウム等の導電性化合物の層を蒸着もしくは塗布したドラムおよびシートなどが挙げられる。
【0033】
感光層は、前述のように単層であってもよいし、積層であってもよい。感光層の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは5〜100μm、より好ましくは10〜50μmである。感光層が積層である場合の一実施形態としては、導電性基体上に、電荷発生層および電荷輸送層が形成された電子写真用感光体が挙げられる。電荷発生層および電荷輸送層が形成される場合には、電荷発生層および電荷輸送層は、どちらを上層としてもよい。
【0034】
感光層が積層である場合には、各層を形成するための塗液をそれぞれ調製し、導電性基体上に順に塗布すればよい。感光層が単層である場合には、必要な構成要素を含む塗液を調製し、導電性基体上に塗布すればよい。
【0035】
まず、導電性基体上に、電荷発生層および電荷輸送層が順次形成される積層型の実施形態について説明する。
【0036】
電荷発生層には電荷発生材料が含まれる。電荷発生材料としては、特に限定されず、各種公知の電荷発生材料が使用できる。例えば、無金属フタロシアニン(X型無金属フタロシアニン等)、チタニルフタロシアニン等のフタロシアニン系顔料;モノアゾ、ビスアゾ、及びトリスアゾ系顔料;インジゴ、チオインジゴ等のインジゴ系顔料;キナクリドン等のキナクリドン系顔料;ペリレンイミド、ペリレン酸無水物等のペリレン系顔料;アントラキノン、ピレンキノン等の多環キノン系顔料;スクアリリウム色素;ピリリウム塩;チオピリリウム塩類;トリフェニルメタン系色素等が用いられうる。電荷発生材料は単独で用いても、2種類以上組み合わせて用いてもよい。好ましくは、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、インジゴ系顔料、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、多環キノン系顔料の中から、単独もしくは、2種以上組み合わせて選ばれる。
【0037】
電荷発生層は、バインダー樹脂を含む混合溶液中に電荷発生材料を分散させ、これを導電性基体上に塗布することによって形成される。電荷発生材料の分散手段としては、ボールミル、振動ミル、ペイントシェーカー及び超音波分散機などが用いられる。
【0038】
その際に用いられるバインダー樹脂としては、特に限定されないが、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアレート樹脂、ポリブチラール樹脂等が挙げられる。バインダー樹脂は、これらに限定されるものではなく、単独または2種類以上混合して使用することができる。
【0039】
電荷発生層を形成する際に用いられる溶剤としては、塩化メチレン、二塩化エタン等のハロゲン化炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ジメトキシエタン等のセルソルブ類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N,−ジメチルアセトアミド等の非プロトン性極性溶媒;ならびに、これらの混合溶剤などを用いることができる。
【0040】
電荷発生材料とバインダー樹脂との配合比は、特に限定されないが、電荷発生材料の割合が10〜99質量%の範囲が好ましい。
【0041】
電荷発生層(電荷輸送層についても同様)には、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を必要に応じて適量添加してもよい。酸化防止剤及び紫外線吸収剤としては、たとえば2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,4−ビス(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、1,3,5−トリメチル−2.4.6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2−(5−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α―ジメチルベンジル)フェニル]−2Hベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0042】
電荷発生物質およびバインダー樹脂を含む混合溶液は、導電性基体上に塗布される。その際には、スプレー法、バーコート法、ロールコート法、ブレード法、浸漬塗布法等が用いられる。形成される電荷発生層の膜厚は、好ましくは0.05μm以上5μm以下、より好ましくは、0.1μm以上1μm以下である。
【0043】
電荷発生層上には、電荷輸送層が形成される。電荷輸送層中には、電荷輸送材料が含まれ、少なくとも本発明に係る一般式(1a)または(1b)で表されるスチルベンアミン誘導体の1種以上が含まれる。必要であれば、電荷輸送層には、従来公知の種々の正孔輸送剤を感光層中に含有させてもよい。かかる他の正孔輸送剤としては、例えばカルバゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、イミダゾロン誘導体、イミダゾリジン誘導体、ビスイミダゾリジン誘導体、スチリル化合物、ヒドラゾン化合物、多環芳香族化合物、インドール誘導体、ピラゾリン誘導体、オキサゾリン誘導体、ベンズイミダゾ―ル誘導体、キナゾリン誘導体、ベンゾフラン誘導体、アクリジン誘導体、フェナジン誘導体、アミノスチルベン誘導体、トリアリールアミン誘導体、トリアリールメタン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、ベンジジン誘導体等が挙げられる。
【0044】
また、電子輸送材料としては、例えばジフェノキノン誘導体、ベンゾキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、アントラキノン誘導体、マロノニトリル誘導体、チオピラン誘導体、チオキサントン誘導体(2,4,8−トリニトロチオキサントン等)、フルオレノン誘導体(3,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン誘導体等)、アントラセン誘導体、アクリジン誘導体、ジニトロベンゼン、ジニトロアントラセン、ジニトロアクリジン、無水コハク酸誘導体、無水マレイン酸誘導体、ジブロモ無水マレイン酸誘導体などの、電子受容性を有する化合物が挙げられる。
【0045】
電荷輸送層は、バインダー樹脂を含む混合溶液中に電荷輸送材料を溶解させ、これを電荷発生層上に塗布することによって形成される。電荷輸送材料の分散手段としては、ボールミル、振動ミル、ペイントシェーカー、超音波分散等が用いられる。
【0046】
その際に用いられるバインダー樹脂としては、電荷輸送材料と相溶性を有するものが好ましい。例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等のビニル重合体及びその共重合体、ならびに、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、ポリアレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。バインダー樹脂は、これらに限定されるものではなく、単独または2種類以上混合して使用することができる。
【0047】
電荷輸送層を形成する際に用いられる溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、モノクロルベンゼン等の芳香族炭化水素;塩化メチレン、二塩化エタン等のハロゲン化炭化水素;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;メトキシメチルエーテル;ジメチルホルムアミド;および、これらの混合溶媒などが用いられうる。必要に応じて、アルコール類、アセトニトリル、メチルエチルケトン等の溶剤が併用されてもよい。
【0048】
電荷輸送材料とバインダー樹脂との配合比は、特に限定されないが、電荷輸送材料/バインダー樹脂の質量比が10/12〜10/25の範囲であることが好ましい。
【0049】
電荷輸送材料およびバインダー樹脂を含む混合溶液は、導電性基体上に塗布される。その際には、スプレー法、バーコート法、ロールコート法、ブレード法、浸漬塗布法等が用いられる。形成される電荷輸送層の膜厚は、好ましくは5〜50μm、より好ましくは10〜40μmである。
【0050】
必要に応じて、他の層が形成されてもよい。例えば、導電性基体と感光層との間に、下引き層が形成されてもよいし、表面に保護層が形成されてもよい。下引き層は、導電性基体から感光層への不要な電荷の注入防止、基体表面の欠陥被覆、導電性基体と感光層との接着性の向上などの目的のために形成される。下引き層は、目的に応じて選択される成分およびバインダー樹脂を含む混合溶液を、塗布することによって形成される。
【0051】
下引き層の形成に用いられるバインダー樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアレート樹脂、ポリブチラール樹脂ポリメチルメタクリレート、ポリエステルカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。2種以上のバインダー樹脂を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
下引き層の形成に用いられるバインダー樹脂中には、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化アルミニウム等の金属酸化物、硫酸バリウム、硫酸カルシウム等の金属硫酸塩、金属酸化物微粒子等を含有させてもよい。これらの含有量は、層を形成できる範囲で任意に設定することができる。
【0053】
下引き層は一層でもよいが、異なる種類の層を二層以上積層させてもよい。下引き層の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは、0.1〜10μmである。
【0054】
次に、導電性基体上に、単層型の感光層が形成される実施形態について説明する。
【0055】
単層型の感光層は、電荷発生材料、正孔輸送材料、電子輸送材料などの感光層を構成する物質を、バインダー樹脂中に分散させて単層型感光層塗液を調製し、単層型感光層塗液を導電性基体上に塗布することによって形成可能である。その際に用いられる電荷発生材料、正孔輸送材料、電子輸送材料、バインダー樹脂、分散手段、溶剤、塗布方法等を決定する際には、前記説明や公知技術が適宜参酌される。これらの具体例については、既に説明したので、ここでは説明を省略する。また、積層型の感光層と同様、必要に応じて下引き層や保護層などの他の層が形成されてもよい。
【実施例】
【0056】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
製造例1(HT−1の製造)
前記した反応式(1−1)のスキームにしたがって、スチルベンアミン誘導体HT−1を製造した。
(反応工程a)
即ち、まず、反応容器内に化合物(A−1)(0.12g、0.45mmol)とt−BuOK(65mg、0.58mol)を加え、それらをTHF(22ml)に溶解し、窒素気流下にて1時間攪拌した。そこに化合物(A−2)(0.246g、10.2mmol)のTHF溶液を滴下した。反応溶液を室温にて1時間攪拌した後、5時間加熱還流を実施し、反応後、反応溶液を冷水にあけ、クロロホルムにて抽出した。有機層を乾燥後、得られた中間化合物(0.5mg,0.11mmol)をTHF(15ml)に溶解し、−78℃にてn−BuLi(0.2ml、1.6Mヘキサン溶液)を滴下し、1時間―78℃にて攪拌後、さらに反応溶液を0℃にて30分攪拌した。反応溶液を再度―78℃に冷却後、DMF(0.15mL,1.94mmol)を加え2時間攪拌した。その後、反応溶液に10%塩酸水溶液(50mL)を加え、クロロホルムにて抽出し、有機溶媒を乾燥後、溶媒を除去後シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製を行い、化合物(A−3)黄色固体(30mg)を得た。(収率64%)
(反応工程b)
反応容器内に得られた化合物(A−3)(0.17g、0.45mmol)とt−BuOK(65mg、0.58mol)を加え、THF(22ml)に溶解し、窒素気流下にて1時間攪拌した。そこに化合物(A−2)(0.246g、10.2mmol)のTHF溶液を滴下した。反応溶液を室温にて1時間攪拌した後、5時間加熱還流を実施した。反応溶液を冷水にあけ、クロロホルムにて抽出した。有機層を乾燥後、得られた中間化合物(0.5mg,0.11mmol)をTHF(15ml)に溶解し、−78℃にてn−BuLi(0.2ml、1.6Mヘキサン溶液)を滴下し、1時間―78℃にて攪拌後、さらに反応溶液を0℃にて30分間攪拌した。反応溶液を再度―78℃に冷却後、DMF(0.15mL,1.94mmol)を加え2時間攪拌した。その後、反応溶液に10%塩酸水溶液(50mL)を加え、クロロホルムにて抽出し、有機溶媒を乾燥、溶媒後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製を行い、化合物(A−4)赤色固体(34mg)を得た。(収率64%)
(反応工程c)
化合物(A−6)(0.52g、1.77mmol)と上記にて得られた化合物(A−4)をピペリジン中、3時間加熱還流攪拌した。
反応溶液から溶媒を留去後、クロロホルムにて抽出を行い、クロロホルムを留去後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物(HT−1)を得た。(78mg、72%)
製造例2(HT−2の製造)前記した反応式(1−2)のスキームにしたがって、スチルベンアミン誘導体HT−2を製造した。
即ち、製造例1において、化合物(A−3)の代わりに、下記反応工程a´で得られた下記化合物(B−3)を用いた以外は、製造例1と同様に行い、化合物(HT−2)を得た。(収率74%)
反応工程a´は以下のように行った。
(反応工程a´)
化合物(B−1)(200mg,0.617mmol)とPdCl(dppf)(51mg、0.06mmol)の乾燥トルエン溶液に、化合物(B−2)(192mg、1.23mmol)と炭酸カリウム3.01mmolの乾燥メタノール溶液を加えた。反応混合物を70℃で10分間攪拌した後、反応溶液に水30mlを加え、ジクロロメタンにて抽出した。得られた溶液を硫酸ナトリウムにて乾燥後、溶媒を留去し、カラムクロマトグラフィーにて精製し、黄色オイル状の化合物(B−3)を得た。収率75%
[実施例1〜4]
[比較例1〜2]
<電子写真感光体の作製>
上記の正孔輸送剤、電荷発生剤、バインダ樹脂および電子輸送剤を表1に示す組み合わせで用いた。すなわち、溶媒であるテトラヒドロフラン800質量部に対して、バインダ樹脂(Resin−1:粘度平均分子量50,000のビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂)100重量部、表1に示す正孔輸送剤(H−1〜2、1−1)50重量部、表1に示す電荷発生剤(X−H2PcまたはY−TiOPc)3重量部、および表1に示す電子輸送剤(ET−1)50重量部を添加した。この混合物を超音波分散機で1時間混合分散して、単層型感光層用の分散液を作製した。ついで、得られた分散液を導電性基材(アルミニウム素管)上にディップコート法にて塗布し、100℃で30分間熱風乾燥して、膜厚30μmの単層型感光層を有する電子写真感光体を得た。
【0057】
次に、上記で得られた電子写真感光体の感度特性を以下のようにして評価した。すなわち、電子写真感光体について、ドラム感度試験機(GENTEC社製)を用いて、700Vになるように帯電させ、ついでハロゲンランプの光からバンドパスフィルターを用いて取り出した波長780nmの単色光(半値幅:20nm、光量:1.5μJ/cm2)を露光[照射時間:0.08秒(80msec)]した。そして、露光開始から0.33秒(330msec)経過した時点での表面電位(残留電位)を測定し、それを感度とした。結果を表1に示す。
【0058】
【化5】

【0059】
【表1】

【0060】
表1に示される結果から明らかなように、電荷輸送材料として本発明の一般式(1)で表されるスチルベンアミン誘導体を用いた電子写真用感光体は、従来の電荷輸送材料(1−1)を用いた電子写真用感光体に比べて、高感度であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1a)または(1b)で表されるスチルベンアミン誘導体を含有する電子写真用感光体。
【化1】


(式(1a)及び(1b)中、R〜R12は同一または異なって、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、ハロゲン原子またはアラルキル基、またはアルケニル基を表す。)

【公開番号】特開2010−20259(P2010−20259A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−183241(P2008−183241)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】