説明

電子写真装置用帯電ローラならびに電子写真装置

【課題】本発明は、電子写真装置の印刷品質の低下を防止させ得る電子写真装置用帯電ローラならびに優れた印刷品質を長期間維持させ得る電子写真装置を提供することを課題としている。
【解決手段】電子写真感光体の表面を帯電させるべく、外周面を前記電子写真感光体に接触させて用いられる電子写真装置用帯電ローラであって、JIS A 硬度で30度以上58度以下の硬さに形成された弾性体層が導電性軸心の外側に設けられており、該弾性体層のさらに外側には、前記電子写真感光体に接触される表面層が設けられており、該表面層が内側にイオン注入層をともなうダイヤモンドライクカーボン被膜で形成されており、該ダイヤモンドライクカーボン被膜の厚みが20nm以上1μm以下であることを特徴とする電子写真装置用帯電ローラなどを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真装置用帯電ローラならびに電子写真装置に関し、より詳しくは、電子写真感光体の表面を帯電させるべく、外周面を前記電子写真感光体に接触させて用いられる電子写真装置用帯電ローラと、このような電子写真装置用帯電ローラが備えられている電子写真装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真装置用感光体(以下、単に「感光体」ともいう)の表面を帯電処理する手段として、導電性の帯電部材をかかる感光体の表面に接触させる接触帯電方式が採用されている。
この接触帯電方式においては、導電性の帯電部材として電子写真装置用帯電ローラ(以下、単に「帯電ローラ」ともいう)が用いられており、この帯電ローラを感光体に加圧接触させ、ある種の閾値電圧を超える電圧を印加することによって感光体を帯電させることが行われている。
【0003】
この帯電ローラにおいては、使用期間中に発生する問題点として“表面汚れ”と呼ばれる現象が知られている。
この“表面汚れ”とは、例えば、感光体の表面に付着しているカーボントナーなどがクリーニングブレードをすり抜け、感光体と帯電ローラとの接触箇所に到達して帯電ローラの表面に圧接されることによってその表面に付着してしまう現象であり、このような付着物が帯電ローラの表面に形成されると電子写真装置の印刷品質を低下させることから、この“表面汚れ”を防止することが強く求められている。
【0004】
このような問題に対し、近年、導電性軸心の外側に設けられた弾性体層に、フッ素系樹脂が用いられてなるシームレスチューブを外嵌させて帯電ローラを形成させることが検討されたりしている(例えば、下記特許文献1)。
すなわち、フッ素系樹脂によって表面層を形成させることにより、汚れの原因となる物質が帯電ローラの表面に付着すること防止すると共に、仮に付着しても帯電ローラの表面から脱落しやすくさせることで電子写真装置の印刷品質の低下を防止することが検討されている。
【0005】
また、このようなシームレスチューブを用いた方法に加えて、フッ素系樹脂が用いられたコーティング剤によって表面層を形成させる方法や、弾性体層の表面に紫外線照射を行って表面改質させる方法などが検討されている。
この内、フッ素系樹脂を用いる場合には、帯電ローラの表面のすべり性、非粘着性を向上させることができ、汚れの原因となる物質が付着することを防止し得るもののフッ素系樹脂は、一般に軟質であることから表面に傷を発生させやすく、この傷を原因とした印刷品質の低下を招くおそれを有する。
また、弾性体層の表面を紫外線で改質する方法は、帯電ローラの表面のすべり性、非粘着性を十分向上させることが困難で、“表面汚れ”を十分防止することができずに電子写真装置の印刷品質を低下させるおそれを有する。
すなわち、従来の帯電ローラは、電子写真装置の印刷品質の低下を防止することが困難であるという問題を有している。
したがって、従来の電子写真装置は、優れた印刷品質を長期間維持することが困難であるという問題を有している。
【0006】
【特許文献1】特開平9−325571号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、電子写真装置の印刷品質の低下を防止させ得る電子写真装置用帯電ローラならびに優れた印刷品質を長期間維持させ得る電子写真装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、電子写真感光体の表面を帯電させるべく、外周面を前記電子写真感光体に接触させて用いられる電子写真装置用帯電ローラであって、JIS A 硬度で30度以上58度以下の硬さに形成された弾性体層が導電性軸心の外側に設けられており、該弾性体層のさらに外側には、前記電子写真感光体に接触される表面層が設けられており、該表面層が内側にイオン注入層をともなうダイヤモンドライクカーボン被膜で形成されており、該ダイヤモンドライクカーボン被膜の厚みが20nm以上1μm以下であることを特徴とする電子写真装置用帯電ローラを提供する。
【0009】
また、本発明は、電子写真感光体と、該電子写真感光体の表面を帯電させるべく外周面を前記電子写真感光体に接触させて用いられる電子写真装置用帯電ローラとが備えられている電子写真装置であって、前記帯電ローラは、JIS A 硬度で30度以上58度以下の硬さに形成された弾性体層を導電性軸心の外側に有し、該弾性体層のさらに外側に、前記電子写真感光体に接触される表面層が設けられており、該表面層が内側にイオン注入層をともなうダイヤモンドライクカーボン被膜で形成され、該ダイヤモンドライクカーボン被膜の厚みが20nm以上1μm以下であることを特徴とする電子写真装置を提供する。
【0010】
なお、本明細書中における、“ダイヤモンドライクカーボン”との用語は、炭素と水素とを主たる成分とし、炭素−炭素の結合状態がダイヤモンド構造とグラファイト構造とが混在するアモルファスな状態に形成されているものを意味しており、炭素と水素のみを成分とするもののみならず、これらに加えて窒素原子、フッ素原子あるいは金属原子などを含有するものも含む意味で用いている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電子写真装置用帯電ローラには、ダイヤモンドライクカーボン被膜によって形成された表面層が備えられている。
このダイヤモンドライクカーボン被膜は、通常、優れたすべり性ならびに非粘着性を示し、しかも、フッ素系樹脂に比べて十分硬質なものである。
したがって、“表面汚れ”ならびに“傷”が帯電ローラの表面に形成されることを抑制し得る。
しかも、単なるダイヤモンドライクカーボン被膜によって形成された表面層を弾性体層の外側に設けるだけでは、帯電ローラの表面にシワが発生して印刷品質の低下を招くおそれがあるところ、本発明においては、内側にイオン注入層をともなうダイヤモンドライクカーボン被膜によって表面層が形成され、しかも、JIS A 硬度で30度以上58度以下の硬さに形成された弾性体層の外側に前記ダイヤモンドライクカーボン被膜が20nm以上1μm以下の厚みで形成されていることからシワの発生も抑制させ得る。
すなわち、本発明によれば電子写真装置の印刷品質が低下することを防止し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について図を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態の帯電ローラの概略構成を示す斜視図である。
図2は、本実施形態の帯電ローラの側面図である。
【0013】
図中の符号1は、電子写真感光体(図示せず)の表面を帯電させるべく、その外周面を前記電子写真感光体に接触させて電子写真装置に用いられる帯電ローラ(電子写真装置用帯電ローラ)を示している。
前記帯電ローラ1は、細長円柱状に形成されており、該円柱形状の中心軸方向に沿って延在する軸体(以下「導電性軸心2」ともいう)を有し、電子写真感光体の回転時に外周面を電子写真感光体の表面に接触させつつ中心軸周りに回転させ得るように前記導電性軸心2の両端部が支持されて電子写真装置に備えられる。
【0014】
この帯電ローラ1には前記導電性軸心2の外側に弾性体層3が備えられており、該弾性体層3のさらに外側に帯電ローラ1の外周面をなす表面層4が備えられている。
本実施形態の帯電ローラ1は、“表面汚れ”や“傷”を抑制し得るように、前記表面層4がダイヤモンドライクカーボン被膜によって形成されている。
また、本実施形態の帯電ローラ1には、前記表面層4と前記弾性体層3との間に中間層5が備えられている。
前記弾性体層3は、その内周面を前記導電性軸心2の外周面に接触させており、前記中間層5は、その内周面を前記弾性体層3の外周面に接触させている。
前記中間層5と前記表面層4とは、該表面層4を構成するダイヤモンドライクカーボン被膜の成分が前記中間層5を構成する成分中に注入されてなるイオン注入層(図示せず)を介して積層されている。
すなわち、本実施形態の帯電ローラ1には、導電性軸心2から外周面側に向けて、弾性体層3、中間層5、イオン注入層、表面層4(ダイヤモンドライクカーボン被膜)の順となる4層の積層構造が形成されている。
【0015】
前記導電性軸心2は、本実施形態においては、導電性を有する材料によって中空又は中実の丸棒状の外形となるように形成されている。
前記導電性の材料としては、例えば、銅、鉄、アルミニウム、ニッケル等の金属及びその合金が挙げられる。
なお、要すれば、前記帯電ローラ1の導電性軸心2として、前記弾性体層3と接する表面に溶融めっき、電解めっき、無電解めっきなどめっきが施されてなるものを用いることも可能である。
特に、強度、耐久性に優れるステンレス鋼に、導電性向上と、弾性体層との密着性向上とを図るべく無電解ニッケルめっきが施されたものが導電性軸心2として好適である。
【0016】
前記弾性体層3は、カーボンブラックを含む導電性のポリマー組成物により形成されている。
しかも、JIS A 硬度で30度以上58度以下のいずれかの硬度となるように前記ポリマー組成物によって形成されている。
この弾性体層3を形成するポリマー組成物としては、ベースポリマーに、前記カーボンブラックとともに、各種添加剤を含むものが挙げられる。
【0017】
この弾性体層3を形成するポリマー組成物のベースポリマーとしては、ポリウレタン、天然ゴム、クロロプレンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体(EPDM)、ブチルゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(NBR)、イソプレンゴム、シリコンゴム、エピクロルヒドリンゴム、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド共重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル共重合体などを挙げることができ、これらの内の複数を組み合わせて用いることもできる。
なかでも、EPDMは、熱老化特性などの物性面において優れており好適である。
【0018】
前記カーボンブラックとしては、配合することによって弾性体層3の導電性を向上させうるものであれば特に限定されず、各種のカーボンブラックを使用することができる。市販のカーボンブラックとしては、例えば、商品名「ケッチェンブラックEC」(ライオンアクゾ社製)を使用することができる。
このカーボンブラックは、弾性体層3の体積抵抗率の値が、通常、103〜109Ω・cmのいずれかとなる量で前記ポリマー組成物に配合される。
【0019】
前記添加剤としては、架橋剤、加工助剤、酸化防止剤等の機能性薬剤や、充填剤、顔料などといった一般にゴム、プラスチックスに用いられている配合剤を適宜選択して用いることができる。
【0020】
なお、前記弾性体層3のJIS A 硬度が上記のように30度以上とされているのは、弾性体層3が30度未満の硬度では柔軟過ぎて電子写真装置用として求められる強度を帯電ローラ1に付与とすることが困難になるばかりでなく、表面層4にシワを発生させるおそれを有するためである。
このシワの発生を、より確実に防止し得る点において、前記弾性体層3のJIS A 硬度は、45度以上であることが好適である。
一方で、弾性体層3のJIS A 硬度が58度以下とされているのは、弾性体層3が58度を超える硬度であると電子写真装置用として求められる柔軟性を帯電ローラに付与することが困難になるばかりでなく、感光体の外周面に対する追従性が低下して十分な接触状態を確保することが困難となるためである。
【0021】
なお、本明細書中における“JIS A 硬度”との用語は、JIS K 7312に準じて、スプリング式タイプA硬さ試験機により標準的な環境下(例えば、温度23±2℃、相対湿度50±10%)において測定される瞬時値を意図している。
そして弾性体層3がJIS A 硬度でどのような硬度を有しているかについては、実際の帯電ローラ1から硬度測定用の試料を採取して測定してもよく、帯電ローラ1から硬度測定用の試料の採取が困難な場合には、弾性体層3の形成に用いられるポリマー組成物を用いてシート状のテストピースを別途作製して測定することも可能である。
【0022】
前記中間層5は、熱可塑性樹脂がマトリックス樹脂に用いられた電気伝導性を有する樹脂組成物により体積抵抗率が104〜1010Ω・cmのいずれかとなるように形成されており、通常、5〜50μmの厚みで前記ダイヤモンドライクカーボン被膜の下地を構成すべく本実施形態の帯電ローラ1に設けられている。
この熱可塑性樹脂が用いられた中間層5(以下「導電性熱可塑性樹脂層5」ともいう)を構成する樹脂組成物には、粒径5μm以上の粒子が分散されており、該粒子は、導電性熱可塑性樹脂層5の外周面に突起部を形成させ、該突起部を有する導電性熱可塑性樹脂層5の上に前記イオン注入層をともなうダイヤモンドライクカーボン被膜を形成させて前記イオン注入層及び前記表面層4を形成させることにより、帯電ローラ1(表面層4)の表面全体に微細な凹凸を形成させて感光体への放電ポイントが帯電ローラ1の表面に一様に形成されるように前記樹脂組成物中に分散されている。
【0023】
この放電ポイントを帯電ローラ1の外周面に一様に形成させうる点において、前記導電性熱可塑性樹脂層5は、その外周面1mm2の範囲に粒径5〜20μmの粒子が25〜250個含有され、且つ20μmを超える粒径を有する粒子の含有量が5個以下となるように形成されていることが好ましい。
また、帯電ローラ1の表面に他に比べて大きな凹凸形状が形成されると、その箇所においてより多くの放電が生じ、結果、放電ポイントに偏り生じてしまうこととなる。
このような点において、前記導電性熱可塑性樹脂層5を構成する樹脂組成物中には、30μmを超える粒径の粒子を含有させないことが好ましい。
【0024】
なお、この粒径および個数については、シスメックス社製のフロー式粒子像分析装置FPIA−2100を用い、フロー式画像解析法によって測定することができる。
なお、フロー式画像解析法では、粒子を溶媒中に凝集を起こさずに分散させることが必要であり、粒子の材料に応じて、水、アルコール等を溶媒として選択することが好ましい。
また、粒子の画像は、通常、得られる画像が鮮明となるような撮影条件下に、対物レンズを通してCCDカメラで静止画像として得ることができ、粒子の画像を画像解析して、投影面積と周囲長とから円相当径(面積基準)および円形度が算出される。
このようにして得られた円相当径および円径度を用い、二次元スキャッタグラムとして表示し、粒子の個数を計数し得る。
【0025】
本実施形態においては、前記粒子として、無機物粒子または有機物粒子のいずれも採用することができ、例えば、無機物粒子としては、炭酸カルシウム粒子、二酸化ケイ素粒子、水酸化マグネシウム粒子などが挙げられ、有機物粒子としては、樹脂粒子などが挙げられる。
【0026】
前記樹脂粒子としては、付加重合系ポリマー、重付加系ポリマー、重縮合系ポリマーまたは付加縮合系ポリマーが単独または複数混合された状態で用いられてなる粒子を例示することができる。
前記付加重合系ポリマーとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、フッ素系樹脂、ポリアセタール、ポリエーテル系プラスチックが挙げられる。
前記重付加系ポリマーとしては、例えば、エポキシ樹脂、ポリウレタン、特に熱可塑性ポリウレタンが挙げられる。
前記重縮合系ポリマーとしては、例えば、アルキッド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、ポリスルホン系樹脂が挙げられる。
前記付加縮合系ポリマーとしては、フェノール樹脂、キシレン樹脂、アミノ樹脂が挙げられる。以上のポリマーは、単独の形態または混合物の形態で使用することができる。
なかでも、有機物粒子の構成材料として好適に使用しうるポリマーは、特にポリウレタン系ポリマー、ポリカーボネートポリマー、ポリエステルポリマーであって、これらのポリマーからなる粒子は、球形に近い粒子が得られ粒度分布が均一となるような重合様式((例えば、溶液重合、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、界面重合)が工業的に確立されていることから均質なものを得ることが容易である。
【0027】
また、ポリマー自体が導電性を示す導電性ポリマーを、粒子を構成する材料として使用することができる。
導電性ポリマーには、一次元π電子共役系が連続する化学構造からなるポリマーに、適切なドーパントを添加したものや、適切なポリマーフィルムまたは繊維を不活性気体中で熱分解させることによりグラファイトのような二次元または三次元π電子共役系を形成したものが挙げられる。
一次元π電子共役系が連続する化学構造からなるポリマーとドーパントとの組合せとしては、ポリアセチレン(AsF3)、ポリピロール(ClO4)、ポリ(N−メチルピロール)(BF4)、ポリ(3−メチルピロール)(BF4)、ポリフラン(BF4)、ポリチオフェン(ClO4)、ポリ(3−メチルチオフェン)(ClO4)、ポリ(p−フェニレンスルフィド)(AsF5)、ポリ(p−フェニレンセレニド)(AsF5)、ポリ(p−フェニレン)(AsF5)、ポリ(p−フェニレンビニレン)(AsF5)などを例示することができる。
また、二次元または三次元π電子共役系を形成したものとしては、アセトニトリルのプラズマ重合膜熱処理物、ポリイミドの熱処理物、ポリオキサジアゾールの熱処理物などを例示することができる。
【0028】
このような粒子を分散させるマトリックス樹脂(熱可塑性樹脂)は、熱可塑性ポリウレタン、ポリアミド樹脂(特に脂肪族ポリアミド樹脂、例えばアルコール可溶性のポリアミド)、フッ素系樹脂(例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)/フッ素化オレフィン共重合体樹脂)などが好ましい。
【0029】
また、前記導電性熱可塑性樹脂層5の形成に用いる樹脂組成物には、前記粒子および前記マトリックス樹脂以外に、カーボンブラック、金属酸化物(例えば酸化スズ、酸化チタンなど)、イオン性導電剤(例えば四級アンモニウム塩など)を含有させ得る。
前記カーボンブラックは、導電性熱可塑性樹脂層5に対する導電性付与を目的として含有されるものであり、例えば、ファーネストブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどを挙げることができる。
このカーボンブラックなどは、通常、導電性熱可塑性樹脂層5の体積抵抗率を104〜1010Ω・cmのいずれかとさせうるように樹脂組成物に含有される。
【0030】
前記イオン注入層は、前記導電性熱可塑性樹脂層5のマトリックス樹脂中に、前記ダイヤモンドライクカーボン被膜の成分を拡散させて形成されており、表面層4を形成するダイヤモンドライクカーボン被膜を、例えば、プラズマイオン注入法などによって形成させることにより該ダイヤモンドライクカーボン被膜とともにその内側に形成されうる。
該イオン注入層は、前記導電性熱可塑性樹脂層5と前記表面層4との中間的性質を有することから、通常、高硬度に形成されるダイヤモンドライクカーボン被膜と、柔軟に形成される前記導電性熱可塑性樹脂層5との間における緩衝層として作用し、前記表面層4を形成するダイヤモンドライクカーボン被膜にシワが発生することを防止するための必須の構成である。
【0031】
なお、厳密には、樹脂が用いられて形成された下地材の表面にダイヤモンドライクカーボン被膜を形成させると、通常の方法であれば少なくとも下地表面の極浅い部分にその成分が侵入することにはなるが、本発明においては、このようなものまでをもイオン注入層として含めることは意図していない。
本発明におけるイオン注入層とは、緩衝作用に実質上機能させうるものを意図しており、通常、数nm以上(例えば、5nm以上)程度の厚みであれば、緩衝作用に実質上の機能を発揮させ得る。
その緩衝作用をより効果的に発揮させ得る点において、前記イオン注入層は、20nm以上の厚みに形成されることが好ましい。
一方で、所定以上にイオン注入層の厚みを増大させても、緩衝作用をそれまで以上に発揮させることが困難となるばかりでなく、帯電ローラ1の製造に多大な手間を発生させるおそれを有する点において、最大でも150nmの厚みとされることが好ましい。
このイオン注入層の厚みについては、例えば、ダイヤモンドライクカーボン被膜がプラズマイオン注入法によって形成されるような場合においては、プラズマ状態とされたダイヤモンドライクカーボン被膜の成分を下地(導電性熱可塑性樹脂層5)に向けて加速させる加速電圧などの電気的条件や、温度条件によって調整することができる。
【0032】
このイオン注入層の厚みについては、例えば、その厚みが数mm〜数cmとなるような倍率を選定して、走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡を用いて断面観察を実施し、任意に10箇所程度の厚み測定を実施し、その算術平均によって求めることができる。
例えば、図4、図5は、中間層(導電性熱可塑性樹脂層)から表面層にかけての断面を透過型電子顕微鏡で観察した写真であり、この写真中央部を上下に縦断する濃色部分がイオン注入層である。
したがって、この濃色部分の幅を測定することでイオン注入層の厚みを求めることができる。
【0033】
前記表面層4は、ダイヤモンドライクカーボン被膜によって形成されており、20nm以上1μm以下の範囲の内のいずれかの厚みとなるように形成されている。
この表面層4を形成するダイヤモンドライクカーボンは、その成分が特に限定されるものではなく、摺動部材などに用いられている一般的なダイヤモンドライクカーボンと同様の炭素原子と水素原子との組成比を有するものを用いることができる。
また、炭素原子と水素原子以外に窒素原子やフッ素原子あるいは金属原子などが含有されたダイヤモンドライクカーボンも前記表面層4の形成に採用可能である。
ただし、炭素原子と水素原子以外の成分をあまり多く含有させると表面に十分なすべり性を付与することが困難となるおそれを有する。
このような点において、炭素原子と水素原子以外に含有される他の原子は、その含有量が合計で40mol%以下であることが好適である。
【0034】
なお、炭素原子と水素原子以外の成分としては、表面層4に対して適度な柔軟性を付与し得るとともに帯電ローラ表面の非粘着性をより向上させうる点においてフッ素原子が好適である。
また、フッ素原子を導入することで水などの液体に対する表面層4の接触角を調整させることもできる。
【0035】
前記表面層4が、ダイヤモンドライクカーボンによって20nm以上の厚みとなるよう形成されているのは、20nm未満の厚みでは帯電ローラ1の外周面に十分なすべり性、非粘着性を付与することができず、短期間に“表面汚れ”が発生するおそれを有するためである。
一方で表面層4の厚みが1μm以下とされているのは、1μmを超える厚みとすると帯電ローラ1の外周面(表面層の表面)にシワや割れが形成されやすくなり放電安定性の低下による印刷品質の低下を電子写真装置に発生させるおそれを有するためである。
なお、この表面層4の厚みについては、前記イオン注入層と同様に測定することができ、例えば、その厚みが数mm〜数cmとなるような倍率を選定して、走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡を用いて断面観察を実施し、任意に10箇所程度の厚み測定を実施し、その算術平均によって求めることができる。
【0036】
以上のごとく構成されている帯電ローラ1は、ダイヤモンドライクカーボン被膜によって表面層4が形成されていることから表面のすべり性、非粘着性に優れ、仮に、クリーニングブレードにより電子写真感光体の表面のクリーニングがなされている箇所をトナーなどが通過して、当該帯電ローラ1と電子写真感光体との接触箇所に到達したとしてもこのトナーなどによる付着物が帯電ローラ1の表面に形成されることを抑制させ得る。
したがって、帯電ローラに“表面汚れ”が発生することを防止することができ、この“表面汚れ”によって電子写真装置の印刷品質が低下してしまうことを抑制させ得る。
しかも、このダイヤモンドライクカーボン被膜が、所定の硬度を有する弾性体層3の外側にイオン注入層を介して所定厚みに形成されていることにより、外周面にシワなどが発生されて帯電特性にバラツキが生じたりすることを抑制させ得る。
さらには、本実施形態の帯電ローラ1には、マトリックス樹脂に粒子が分散されてなる中間層5(導電性熱可塑性樹脂層5)が、前記表面層4と前記弾性体層3との間にさらに設けられており、前記中間層5が、1mm2の範囲に粒径5〜20μmの粒子が25〜250個含有され、且つ20μmを超える粒径を有する粒子の含有量が5個以下となるように形成されていることから放電ポイントの偏りが抑制されうる。
したがって、本実施形態の帯電ローラによれば、優れた印刷品質を長期持続可能な電子写真装置を提供し得る。
【0037】
次いで、本実施形態の電子写真装置用帯電ローラの製造方法について説明する。
この電子写真装置用帯電ローラの弾性体層3は、一般的なゴム製ローラの製造方法と同様の方法を採用することができ、例えば、EPDMなどのベースポリマーにカーボンブラックなどの材料を定められた配合量で配合して未加硫状態のポリマー組成物を作製し、該ポリマー組成物を導電性軸心上に押し出し被覆して予備成形品を作製し、該予備成形品を加硫した後に表面研磨してその表面性状を均一化させることで形成することができる。
【0038】
前記導電性熱可塑性樹脂層5の形成方法としては、前記マトリックス樹脂を溶解可能な溶媒中に前記樹脂組成物を分散させて塗工液を作製して、該塗工液を前記弾性体層3上にコーティングした後に乾燥させる方法等が挙げられる。
例えば、マトリックス樹脂と粒子などとを、前記溶媒とともに撹拌混合して塗工液を作製し、しかも、この塗工液の粘度が、例えば、50〜300mPa・s程度となるように調節した後に、該塗工液を塗布、乾燥(例えば熱風乾燥)して溶媒を除去して、導電性熱可塑性樹脂層5を形成することができる。
前記塗工液の塗布方法としては、ロールコーターを用いるロール塗装法、ディッピング塗装法およびスプレー塗装(エアスプレーまたはエアレススプレー塗装)法、カーテンフロー塗装、ハケ塗り等が挙げられる。
【0039】
さらに、前記イオン注入層は、前記導電性熱可塑性樹脂層上に、例えば、プラズマイオン注入法などによってダイヤモンドライクカーボン被膜を形成させることにより該ダイヤモンドライクカーボン被膜にともなわせて形成させることができ、前記表面層4と同時に形成させることができる。
【0040】
すなわち、プラズマイオン注入法においては、ダイヤモンドライクカーボン被膜の下地となる層にイオンが注入されて下地の表面近傍にイオン注入層が形成されることから導電性熱可塑性樹脂層上にダイヤモンドライクカーボン被膜を形成することにより導電性熱可塑性樹脂層の表面側をイオン注入層に変化させつつダイヤモンドライクカーボン被膜を形成させることにより、イオン注入層と表面層4とを同時に形成させることができる。
【0041】
このプラズマイオン注入法は、イオン注入層の形成によるダイヤモンドライクカーボン被膜のシワ防止のみならずダイヤモンドライクカーボン被膜の剥離強度の向上にも有効である。
特に、下地がダイヤモンドライクカーボンと大きく硬度が異なる導電性熱可塑性樹脂層や弾性体層である場合などの、他の形成方法では剥離が生じやすい場合において前記プラズマイオン注入法は好適な成膜方法であるといえる。
しかも、表面の凹凸などに対する追従性にも優れていることから、導電性熱可塑性樹脂層5の外周面に形成されている突起部の形状を帯電ローラ1の表面状態に反映させやすい。
したがって、帯電ローラ1の表面全体に放電ポイントが一様に形成されるという効果も奏する。
【0042】
このプラズマイオン注入法の中でも、特に、炭素や水素などの正イオンを含むプラズマを発生させた状態で、ダイヤモンドライクカーボン被膜を形成させる対象物(以下「被加工体」ともいう)に対して正のパルス電圧を印加し、引き続き負のパルス電圧を印加することで前記正イオンを被加工体に注入させてイオン注入層を形成しつつダイヤモンドライクカーボン被膜を形成させる方法が特に好適である。
【0043】
このような正負パルス電圧を印加してダイヤモンドライクカーボン被膜を形成させる方法について、図3を参照しつつさらに詳しく説明する。
図3は、本実施形態の帯電ローラの製造に用いるのに好適なプラズマイオン注入成膜装置の概略図であり、このプラズマイオン注入成膜装置は、ダイヤモンドライクカーボン被膜が施される前の帯電ローラの半製品1x(導電性軸心上に導電性熱可塑性樹脂層まで形成されたもの)が収容され、該半製品1xにイオン注入層をともなうダイヤモンドライクカーボン被膜を形成させるための真空チャンバー100、前記半製品1xに対して正負パルス電圧を印加すべく導電性軸心に対して電気的に接続される正負パルス電圧印加ライン200、真空チャンバー100内にダイヤモンドライクカーボンの形成原料となる原料ガスをプラズマ状態にさせるべく設けられたプラズマ励起用アンテナ300、前記半製品1xの周囲に高密度のプラズマ及び高濃度のラジカルを発生させるべく半製品1xとプラズマ励起用アンテナ300との間に設けられ、しかも、半製品1xに接触しないように僅かに離間した位置に配された高電圧パルス印加電極400、及び前記高電圧パルス印加電極400に高電圧の負のパルス電圧を印加するための高電圧パルス印加ライン500とを有している。
【0044】
このようなプラズマイオン注入成膜装置を用いてダイヤモンドライクカーボン被膜を半製品1x上に形成させて帯電ローラを完成させるには、例えば、導電性軸心に正負パルス電圧印加ライン200を接続した状態で真空チャンバー100内に半製品1xを収容させ、導電性熱可塑性樹脂層の表面にクリーニング処理工程を行った後に、ダイヤモンドライクカーボン被膜形成工程を行う方法を採用しうる。
【0045】
このクリーニング処理工程は、真空チャンバー100の内部が、例えば0.01Pa以下の高真空となるように排気を行った後、水素ガスとアルゴンガスとの混合ガス(例えば、水素ガス/アルゴンガス=20/80の比率で混合された混合ガス)を導入して真空チャンバー100内の圧力が0.1〜1.0Pa程度となるように調整し、周波数が数MHz〜数十MHz、出力が0.1kW〜数kW、持続時間が数マイクロ秒〜100マイクロ秒のラジオ波(RF)をプラズマ励起用アンテナ300に印加して放電プラズマを励起させ、その直後に高電圧パルス印加用電極に10kV〜30kV程度の高電圧パルスを印加して半製品1xの表面に高密度プラズマを発生させるとともに、導電性軸心に数kV程度の負のパルス電圧を印加して実施することができる。
【0046】
また、ダイヤモンドライクカーボン被膜形成工程は、前記クリーニング工程後、真空チャンバー100の内部を再び圧力が0.01Pa以下となるように排気を実施した後、原料ガスを導入して実施されうる。
なお、この原料ガスとしては、特に限定されるものではなく、例えば、アセチレン、メタン、エタン、ベンゼン、トルエンなどの炭化水素系ガスや、二フッ化炭素、四フッ化炭素、フッ化アルゴンなどのフッ素含有ガスなどを単独または複数混合して用いることができる。
そして、この原料ガスを導入させた状態で真空チャンバー100の内部の圧力を0.5〜1Pa程度に保持して、プラズマ励起用アンテナ300によって原料ガスをプラズマ状態にさせるとともに、高電圧パルス印加電極400によって前記半製品1xの周囲に高密度のプラズマ及び高濃度のラジカルを発生させつつ正負パルス電圧印加ライン200で芯金に正負パルス電圧を印加することにより炭素、水素、フッ素などの原料ガスに含有されている成分による正イオンを高エネルギーで導電性熱可塑性樹脂層に注入させてイオン注入層を形成させるとともにダイヤモンドライクカーボン被膜を形成させることができる。
【0047】
なお、このときの高電圧パルス印加電極400には、例えば、高電圧パルス印加ライン500によって、高電圧パルスとしてパルス波高が5kV〜30kV程度(例えば、15kV)、パルス幅が1マイクロ秒〜数十マイクロ秒(例えば、10マイクロ秒)の負のパルス電圧を印加させることで高密度のプラズマを発生させうる。
【0048】
また、導電性軸心に対しては、例えば、正負パルス電圧印加ライン200によって、パルス波高が1kV〜5kV(例えば、2kV)、パルス幅1マイクロ秒〜数十マイクロ秒(例えば、10マイクロ秒)の正のパルス電圧を印加した後、瞬時に反転するパルス波高が1kV〜5kV(例えば、2kV)、パルス幅が1マイクロ秒〜数十マイクロ秒(例えば、10マイクロ秒)の負のパルス電圧を印加し、この一対の正負パルス電圧を繰り返し周期1ミリ秒程度で所定の時間印加することで均質で剥離強度の高いダイヤモンドライクカーボン被膜をイオン注入層を介して導電性熱可塑性樹脂層の上に形成させうる。
なお、正負パルス電圧の印加については、正パルス電圧と、負パルス電圧とをそれぞれ所定の間隔を設けて繰り返し印加させる方法や、一波長分の正弦波パルス電圧を所定間隔を設けて繰り返し印加させる方法を採用することができる。
【0049】
この正のパルス電圧に引き続き負のパルス電圧を半製品に印加してイオン注入層をともなうダイヤモンドライクカーボン被膜を形成させる方法は、特に、本実施形態の電子写真装置用帯電ローラの弾性体層、導電性熱可塑性樹脂層のごとく体積抵抗率が比較的高い材質のものの表面にダイヤモンドライクカーボン被膜を成膜する場合に有効である。
例えば、帯電ローラの弾性体層は、通常、先述のような体積抵抗率となるように形成されていることから正のパルス電圧を印加することでこの弾性体層の上に形成されている導電性熱可塑性樹脂層の表面近傍のプラズマから電子を加速させた状態で導電性熱可塑性樹脂層に入射させることができ表面を負帯電させることができる。
そして、引き続いて実施される負のパルス電圧の印加によって、導電性熱可塑性樹脂層の表面近傍のプラズマから正イオンが加速されて導電性熱可塑性樹脂層に入射してイオン注入層が形成されることとなる。
したがって、正負パルス電圧対を印加することによって、はじめの正のパルス電圧の印加時に導電性熱可塑性樹脂層の表面に生じた負帯電の分だけ大きなエネルギーで正イオンを導電性熱可塑性樹脂層に注入させることができる。
このことにより、他のダイヤモンドライクカーボン成膜形成方法に比べて弾性体層や導電性熱可塑性樹脂層が低温となる状態でダイヤモンドライクカーボン被膜を形成させることができ、ダイヤモンドライクカーボンによる表面層の形成時と電子写真装置内での運転時との温度差を減少させることができる。
このことによって熱による膨張、収縮が抑制されることとなり、ダイヤモンドライクカーボン被膜にシワなどが形成されることがよりいっそう抑制される。
しかも、正負パルス電圧対を印加することにより、負パルス電圧のみを印加する場合に比べて局所的な電荷の偏りを防止することができ均質なダイヤモンドライクカーボン被膜を形成させうる。
【0050】
なお、本実施形態においては、表面層(ダイヤモンドライクカーボン被膜)を優れた剥離強度で形成させうることから、プラズマイオン注入法の中でも、特に、炭素や水素などの正イオンを含むプラズマを発生させた状態で、ダイヤモンドライクカーボン被膜を形成させる対象物に対して正のパルス電圧を印加し、引き続き負のパルス電圧を印加することで前記正イオンを被加工体に注入させてイオン注入層を形成しつつダイヤモンドライクカーボン被膜を形成させる方法を例示しているが、本発明においては、ダイヤモンドライクカーボンによって表面層を形成させる方法を上記のような方法に限定するものではない。
【0051】
また、本実施形態においては、イオン注入層をともなうダイヤモンドライクカーボン被膜が導電性熱可塑性樹脂層上に形成された帯電ローラを例示しているが、例えば、弾性体層上にイオン注入層を介してダイヤモンドライクカーボン被膜(表面層)が形成された帯電ローラも本発明の意図する範囲である。
【0052】
なお、本発明の電子写真装置は、このダイヤモンドライクカーボン被膜によって表面層が形成されている帯電ローラに加えて、現像ローラや感光体といった従来公知の構成を採用して形成することができ、このような帯電ローラを備えていることによって使用開始直後の優れた印刷品質を長期間にわたって維持させうる。
【実施例】
【0053】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1〜8、比較例1〜10)
(帯電ローラの形成)
(弾性体層の形成)
EPDMがベースポリマーとして用いられたポリマー組成物を押出し機によって押出して、該押出し機の先端部に設けられたクロスヘッドを、直径6mmの導電性軸心を通過させて導電性軸心の外側にポリマー組成物を被覆し、金型を用いた加硫を実施した後に、表面を円筒研削盤にて外径が8.5mmとなるように研削し弾性体層を形成させた。
なお、各実施例、比較例の帯電ローラの弾性体層は、その配合を調整することにより表1、2に示す硬度(JIS A 硬度)となるように作製した。
【0054】
(導電性熱可塑性樹脂層の形成)
(塗工液の調整)
まず、下記の配合によって塗工液を作製した。
<配合>
熱可塑性ポリウレタン塗料:100重量部
カーボンブラック:20重量部
有機物粒子:4重量部
溶媒(ジメチルフォルムアミド): 適宜
なお、「熱可塑性ポリウレタン塗料」には、大日精化工業社製の商品名「ME−8115LP」(樹脂分30重量%)を用い、カーボンブラックには、東海カーボン社製の商品名「トーカブラックTB5500」を用い、「有機物粒子」には、大日精化工業社製のポリマー粒子(商品名「ダイニックビーズUCN−5150クリヤー」、粒度調整品(5μm以下及び20μm以上の粒子をカット))を用いた。
(塗布、乾燥)
導電性軸心上に弾性体層を形成させたものに前記塗工液をディップコートし、70℃×10分間の一次乾燥の後、100℃×30分の二次乾燥を実施し、さらに、150℃×20分間の三次乾燥を実施して乾燥後の厚みが40μmの導電性熱可塑性樹脂層を形成させた。
なお、この導電性熱可塑性樹脂層の厚みの調整は、塗工液の粘度を溶媒(ジメチルフォルムアミド)で調整することにより実施した。
【0055】
(表面層の形成)
さらに、実施例1〜8、及び、比較例2〜5においては、この導電性熱可塑性樹脂層の表面に、正負パルス電圧対を印加するプラズマイオン注入法により表1、2に示す厚みとなるようにダイヤモンドライクカーボン被膜を設けて表面層を形成させた。
このとき原料ガスを調整してダイヤモンドライクカーボン中のフッ素原子含有量(フッ素導入量)を表1、2の割合(「フッ素含有量」、単位:mol%)となるよう調整した。
なお、この実施例1〜8、及び、比較例2〜5の帯電ローラには、イオン注入層が約60nmの厚みで形成されていることが電子顕微鏡による観察によって確認された。
【0056】
一方で、比較例6、7の帯電ローラは、イオン注入層を形成させることなくダイヤモンドライクカーボン被膜を形成し、比較例1、8〜10の帯電ローラには、ダイヤモンドライクカーボン被膜を形成させなかった。
この内、比較例1、8は表面層自体を設けずに導電性熱可塑性樹脂層が最表面側となるようにした。ただし、比較例8は、この導電性熱可塑性樹脂層の表面の非粘着性を向上させるべく紫外線処理を実施した。
【0057】
また、比較例9の帯電ローラについては、ダイヤモンドライクカーボン被膜に代えて導電性熱可塑性樹脂層の表面にフッ素樹脂系コーティング剤(大日本インキ社製、商品名「ディフェンサ TR−306」)を用いたコーティング被膜を設けて表面層を形成させた。
より詳しくは、下記配合による塗工液を調整して実施例1〜8の帯電ローラにおける導電性熱可塑性樹脂層の形成と同様にディップコートし、同条件による乾燥を実施して40μmの厚みの層を形成させた。
<比較例9の表面層配合>
コーティング剤:100重量部
カーボンブラック:15重量部
有機物粒子:3重量部
溶媒(メチルエチルケトン): 適宜
なお、「コーティング剤」には、上記に示したように大日本インキ社製、商品名「ディフェンサ TR−306」(樹脂分20重量%)を用い、カーボンブラックには、東海カーボン社製の商品名「トーカブラックTB5500」を用い、「有機物粒子」には、大日精化工業社製のポリマー粒子(商品名「ダイニックビーズUCN−5150クリヤー」、粒度調整品(5μm以下及び20μm以上の粒子をカット))を用いた。
【0058】
さらに、比較例10の帯電ローラについては、ダイヤモンドライクカーボン被膜の形成に代えて、テトラフロロエチレン−パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)が用いられてなる導電性のチューブ(厚み100μm)を導電性熱可塑性樹脂層に外嵌させて表面層を形成した。
【0059】
(評価)
(外観評価)
このようにして形成された各実施例、比較例の帯電ローラの表面における“シワ”、“割れ”などの発生状況を目視にて観察した。
結果を、表1、2に示す。
【0060】
(水接触角評価)
各実施例、比較例の帯電ローラの表面の水接触角をJIS R 3257(1999)に準拠して求めた。
結果を表1、2に示す。
【0061】
(電気抵抗値の測定)
帯電ローラの表面に接着させた箔電極と導電性軸心との間に直流電圧(500V)を印加して各実施例、比較例の帯電ローラの導電性軸心から表面にいたるまでの体積抵抗率を求めた。
結果を表1、2に示す。
【0062】
(実機評価)
各実施例、比較例の帯電ローラを実際の電子写真装置(HP社製カラーレーザープリンタ「Color Laser Jet 3500」の黒カートリッジ)に装着させて“表面汚れ”の発生状況、ならびに、印刷品質の低下状況についての評価試験を実施した。
なお両評価試験は、帯電バイアス直流電圧を調整して電子写真感光体の表面に−450Vの表面電位が発生するようにし、電子写真装置を常温低湿度環境下(23℃、相対湿度10%)に設置して、A4上質紙に対して5%画像濃度にて連続印刷して実施した。
また、両両評価試験とも、評価中にトナー切れが生じた際には、そのカートリッジから帯電ローラと感光体とを取り外して新たなカートリッジに移設して試験を継続させた。
【0063】
(“表面汚れ”の評価試験)
“表面汚れ”の評価においては、印刷枚数3000枚ごとに12000枚まで、帯電ローラの表面を目視にて観察し、汚れが殆ど見られない場合を「◎」、表面がやや白化している場合あるいは印刷画像に影響しない白スジがごく薄く観察された場合を「○」、表面全体が白化している場合あるいは印刷画像に影響しない白スジが部分的に観察された場合を「△」、表面が顕著に白化している場合あるいは画像に影響が出る白スジが観察された場合を「×」として判定した。
この判定結果ならびに評価終了後の帯電ローラの表面の状態(途中で評価を終えたものは、その際の表面状態、その他は、12000枚印刷後の表面状態)を表1、2に示す。
【0064】
(印刷品質の評価試験)
印刷画像の品質を、印刷開始直後、ならびに、印刷枚数3000枚ごとに12000枚まで目視にて観察した。
結果を表1、2に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
この表からも、本発明の帯電ローラによれば電子写真装置の印刷品質の低下を防止させ得ることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】一実施形態の電子写真装置用帯電ローラを示す斜視図。
【図2】同帯電ローラの側面図。
【図3】ダイヤモンドライクカーボン被膜(表面層)形成方法を示す概略図。
【図4】中間層/イオン注入層/ダイヤモンドライクカーボン被膜(表面層)の断面の様子を示す図(SEM写真)。
【図5】中間層/イオン注入層/ダイヤモンドライクカーボン被膜(表面層)の断面の様子を示す図(SEM写真)。
【符号の説明】
【0069】
1:電子写真装置用帯電ローラ、2:導電性軸心、3:弾性体層、4:表面層(ダイヤモンドライクカーボン被膜)、5:導電性熱可塑性樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子写真感光体の表面を帯電させるべく、外周面を前記電子写真感光体に接触させて用いられる電子写真装置用帯電ローラであって、
JIS A 硬度で30度以上58度以下の硬さに形成された弾性体層が導電性軸心の外側に設けられており、該弾性体層のさらに外側には、前記電子写真感光体に接触される表面層が設けられており、該表面層が内側にイオン注入層をともなうダイヤモンドライクカーボン被膜で形成されており、該ダイヤモンドライクカーボン被膜の厚みが20nm以上1μm以下であることを特徴とする電子写真装置用帯電ローラ。
【請求項2】
マトリックス樹脂に粒子が分散されてなる中間層が、前記表面層と前記弾性体層との間にさらに設けられており、前記中間層が、1mm2の範囲に粒径5〜20μmの粒子が25〜250個含有され、且つ20μmを超える粒径を有する粒子の含有量が5個以下となるように形成されている請求項1記載の電子写真装置用帯電ローラ。
【請求項3】
前記イオン注入層が20nm以上150nm以下の厚みに形成されている請求項1又は2記載の帯電ローラ。
【請求項4】
前記ダイヤモンドライクカーボン被膜が、炭素と水素に加えてフッ素が含有されて形成されている請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電子写真装置用帯電ローラ。
【請求項5】
電子写真感光体と、該電子写真感光体の表面を帯電させるべく外周面を前記電子写真感光体に接触させて用いられる電子写真装置用帯電ローラとが備えられている電子写真装置であって、
前記帯電ローラは、JIS A 硬度で30度以上58度以下の硬さに形成された弾性体層を導電性軸心の外側に有し、該弾性体層のさらに外側に、前記電子写真感光体に接触される表面層が設けられており、該表面層が内側にイオン注入層をともなうダイヤモンドライクカーボン被膜で形成され、該ダイヤモンドライクカーボン被膜の厚みが20nm以上1μm以下であることを特徴とする電子写真装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−258536(P2009−258536A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−109995(P2008−109995)
【出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】