説明

電子写真装置用部材

【課題】表面処理や表面層の製造を不要とし、弾性層が表面をなしていても、トナー等の汚れの付着を抑制できる低摩擦の弾性層を有し、良好な画像形成を長期に亘って可能とする電子写真装置用部材や、その製造方法を提供する。
【解決手段】軸芯体と、表面をなす弾性層とを有する電子写真装置用部材であって、該弾性層は、ゴム成分と、該ゴム成分100質量部に対し、炭素粒子を5質量部以上、20質量部以下の範囲で含有する。該炭素粒子は、コアシェル構造を有し、弾性層の表面領域に偏在している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真装置用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
感光体と接触した状態で使用するゴム弾性を有する帯電ローラの表面には、現像剤に含まれるトナーやトナー外添材等が付着することがある。特許文献1には、帯電ローラへのトナー等の付着を抑制するため、ゴム表面を改質し、帯電ローラの表面摩擦を低減する方法が開示されている。また、特許文献2には、ゴム層上に低摩擦樹脂の表面層を形成しゴム層を被覆する方法が開示されている。
【0003】
しかしながら、上記方法でローラの低摩擦化を実現する場合には、表面処理装置や、表層を形成するための工程が必要となり、コスト面や、工程管理の観点からも、より簡易にゴムローラ表面の低動摩擦化を図ることができる方法が要請されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−113115
【特許文献2】特開平10−331840
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、表面処理や表面層の製造を不要とし、弾性層が表面をなしていても、トナー等の汚れの付着を抑制できる低摩擦の弾性層を有し、良好な画像形成を長期に亘って可能とする電子写真装置用部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、電子写真装置用部材の弾性層の表面の低摩擦化を達成するため、弾性層のゴム成分の含有量を従来の含有量より低減し、これに変えて低摩擦性の物質を含有させることにより、弾性層の表面の低摩擦化が得られると考えた。そして、電子写真装置用部材の弾性層に必要な弾性や特性を維持しつつ、摩擦係数を低減できる、ゴムに変えて含有させ得る物質の検討を行った。
【0007】
ゴムに変えて含有させる物質として、まず、カーボンブラック等について検討した。しかしながら、カーボンブラック等の含有量が増加すると、弾性層の成形性が低下すると共に、得られる弾性層の硬度が上昇する。ゴム成分に匹敵する適度な柔軟性を有し、且つ、低摩擦性と電子写真装置用部材としての特性を有する材料を見出すことは困難である。
【0008】
一般に、ゴム成形品を押出成形する場合、図1に示すように、押し出される未加硫ゴム混合物31に押出金型32によりせん断力aが負荷され、これによりゴム混合物内に流動bが生じ、ゴム混合物に含まれる低分子量の成分が表面に移動することが知られている。低密度の炭素粒子を含有する未加硫ゴム混合物を用い、成形時にこのせん断力により生じる流動を利用して、低密度の炭素粒子を未加硫ゴム混合物の表面領域に移動させることにより、ゴム弾性層の摩擦係数を低減できるのではないかと考えた。
【0009】
更に、炭素粒子を小径の粒子にすることにより、せん断力が負荷された未加硫ゴム混合物内に生じる流動による移動が阻害されず、低分子量物質として表面へ移動させ得るとの知見を得た。
【0010】
そして、コアシェル構造を有する炭素粒子は、せん断力が負荷された未加硫ゴム混合物内に生じる流動によって、未加硫ゴム混合物表面に移動し、表面に偏在し得ることを見出した。この炭素粒子を表面領域に偏在させた弾性層は、表面領域ではゴム成分の含有割合を低下させ、表面摩擦を低下させることができ、中心部では炭素粒子の含有量の増加によるゴム硬度の上昇を抑制し、電子写真装置用部材の特性の低下を抑制できることを見出した。かかる知見に基き本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、軸芯体と、表面をなす弾性層とを有する電子写真装置用部材であって、
該弾性層は、ゴム成分と、該ゴム成分100質量部に対し、炭素粒子を5質量部以上、20質量部以下の範囲で含有し、該炭素粒子は、コアシェル構造を有し、弾性層の表面領域に偏在していることを特徴とする電子写真装置用部材に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、表面処理や表面層の製造を不要とし、弾性層が表面をなしていても、トナー等の汚れの付着を抑制することができ、良好な画像形成を長期に亘って可能とする電子写真装置用部材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の電子写真装置用部材の構成を示す説明図である。
【図2】本発明の電子写真装置用部材に含まれる炭素粒子の断面を示す図である。
【図3】本発明の電子写真装置用部材の動摩擦係数の測定装置を示す構成図である。
【図4】本発明の電子写真装置用部材の製造に用いる押出成形機の構成図である。
【図5】本発明の電子写真装置用部材の製造に用いる研削機の構成図である。
【図6】本発明の電子写真装置用部材の断面図である。
【図7】本発明の電子写真装置用部材を適用した電子写真装置の構成図である。
【図8】電子写真装置用部材の電気抵抗値を測定する測定装置を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の電子写真装置用部材は、軸芯体と、表面をなす弾性層とを有する。
[軸芯体]
上記軸芯体は、弾性層の支持部材として機能するものであればよく、電子写真装置用部材が導電性部材として用いられる場合は電極として機能する導電性を有するものであることが好ましい。軸芯体に用いる材質としては、例えば鉄、銅、ステンレス、アルミニウム、又はニッケル等の金属、又はこれらの合金、クロム、ニッケル等で鍍金処理を施した鉄や、合成樹脂等を挙げることができる。更に、これらの表面に良導電性を失わない範囲で、防錆性や耐傷性の付与を目的としてメッキ処理を施してもよく、弾性層との接着を目的とした厚さ1μm以上、20μm以下の接着剤を塗布して用いることもできる。
【0015】
軸芯体の形状としては、電子写真装置用部材の形状に応じて選択すればよく、例えば、円柱状、円筒状、あるいは、板状等を挙げることができる。軸芯体が円柱状、円筒状の場合、外径は例えば、4〜10mmの範囲を挙げることができる。
【0016】
[弾性層]
上記弾性層は、ゴム成分と炭素粒子とを含有するものであり、電子写真装置用部材の使用目的に応じて所望の硬度や、電気抵抗を有するように、ゴム成分を選択することができる。弾性層を構成するゴム成分としては、ゴムの他、熱可塑性エラストマーを用いることができる。かかるゴムとしては、例えば、以下のものを挙げることができる。ポリウレタンゴム、シリコーンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム。スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、ポリノルボルネンゴム、スチレン−ブタジエン−スチレンゴム、アクリルニトリルブタジエンゴム、エピクロルヒドリンゴム。
【0017】
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマーを挙げることができる。これらは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができるが、熱可塑性エラストマーに比べ、架橋ゴムの成形体の方が圧縮永久歪が小さいため、好ましい。これらのうち、特に、アクリルニトリルブタジエンゴムは、圧縮永久歪が小さいことに加え、得られる弾性層がトナー等による汚染が少なく、画像不良の発生を抑制することができ、好ましい。
【0018】
上記弾性層に含まれる炭素粒子は、コアシェル構造を有する。かかるコアシェル構造は、中心部のコア部分が空洞あるいは密度が低く、外郭のシェル部分の密度が高いものが好ましい。炭素粒子がコアシェル構造を有することにより、炭素粒子の比重を低減することができ、せん断力を加えて弾性層を成形する際、未加硫ゴム混合物中に生じる流動によって表面に移動させることができる。コアシェル構造は、透過型電子顕微鏡(TEM)の観察により、中心部と外郭部とが認められる程度であればよい。
【0019】
コアシェル構造を有する炭素粒子の一例として、図2のTEM写真画像で示される炭素粒子を挙げることができる。図2に示される像において、炭素粒子は電子線の透過量が少ない外郭部と、透過量が多い、即ち中空に近い状態の中心部とが認められる。
【0020】
上記炭素粒子の好ましい平均粒子径は20nm以上、60nm以下である。炭素粒子の平均粒子径が20nm以上であれば、弾性層の成形時においてゴム成分との混練時に炭素粒子が飛散するのを抑制し、ゴム成分へ均一に分散させることが容易であり、弾性層を容易に成形することができる。また、炭素粒子の平均粒子径が60nm以下であれば、コアシェル構造と相俟って、せん断力を加えて弾性層を成形する際、未加硫ゴム混合物中に生じる流動により表面に移動させることができる。
【0021】
炭素粒子の平均粒子径は、TEM写真画像において100個の炭素粒子の円相当径の算術平均値として求めることができる。
【0022】
上記炭素粒子の好ましい吸油量は130cm3/100g以下であることが好ましい。炭素粒子のDBP吸油量は、炭素粒子100g当りのDBPの吸収量を示し、炭素粒子が鎖状に連なって形成されるストラクチャーの大きさによってDBPの吸収量が変化する。炭素粒子のストラクチャーはせん断力を負荷された未加硫ゴム混合物中を移動して表面領域への移動に影響を及ぼすことから、炭素粒子のDBP吸油量は未加硫ゴム混合物中の炭素粒子の移動の容易性を示すものといえる。炭素粒子のDBP吸油量が130cm3/100g以下であれば、炭素粒子は未加硫ゴム混合物の成形時に負荷されるせん断力により表面への移動を可能とするストラクチャーを有するものとなる。炭素粒子のDBP吸油量は、110cm2/100g以下であることがより好ましい。また、炭素粒子の吸油量は50cm2/100g以上であることが、弾性層の作製時にゴム成分との混合が容易であり、分散性を向上させ効率よく行うことができることから好ましい。
【0023】
炭素粒子の吸油量は、吸収量測定機S−410(あさひ総研(株)製)を用い、JISK6217:1997の規定に準じて測定した値を採用することができる。
【0024】
このような炭素粒子としては、ナノポーラスカーボン(Easy−N社製)等のナノポーラスカーボンを用いることができる。
【0025】
上記炭素粒子の弾性層中の好ましい含有量は、弾性層中、ゴム成分100質量部に対し、5質量部以上、20質量部以下である。炭素粒子が5質量部以上であれば、弾性層の低摩擦化を図ることができ、20質量部以下であれば、弾性層の高硬度化を抑制することができ、加工性が低下するのを抑制することができる。弾性層中、炭素粒子が偏在し濃度が高い表面領域と、濃度が低くなる中心部の境界は明確ではないが、最大濃度差は、2.0〜3.0倍程度、表面領域は、例えば、弾性層の厚さに対し、50μm〜200μmの厚さの領域とすることができる。炭素粒子の弾性層中の含有量は8質量部以上、15質量部以下であることが好ましい。
【0026】
上記弾性層は電子写真装置用部材として必要な導電性を付与するため、導電剤が含有されることが好ましい。導電剤として、例えば、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、両性イオン界面活性剤、帯電防止剤、電解質等を用いることができる。
【0027】
上記導電剤の含有量は、適用する電気写真装置用部材に応じて、適当な導電性を有するように選択することができる。電気写真装置用部材が、例えば帯電ローラの場合、弾性層の電気抵抗値は102Ω以上、108Ω以下が好ましく、より好適な範囲は103Ω以上、106Ω以下であり、所望の電気抵抗値が得られるように、導電剤の含有量を選択することが好ましい。
【0028】
電気抵抗値は、図8に示す測定装置により測定した値を採用することができる。電子写真装置用部材1は軸芯体11の両端部を不図示の押圧手段で直径30mmの円柱状のアルミドラム41に圧接され、アルミドラム41の回転駆動に伴い従動回転する。この状態で、電子写真装置用部材1の軸芯体11に電源42を用いて直流電圧を印加し、アルミドラム41に直列に接続した基準抵抗43にかかる電圧を測定する。電子写真装置用部材1の電気抵抗は、測定された基準抵抗43の電圧から、回路に流れる電流値を求めることによって算出できる。
【0029】
上記弾性層には、電子写真装置用部材として更に、必要に応じて、無機又は有機の架橋剤、加工助剤、架橋促進剤、架橋促進助剤、架橋遅延剤、分散剤、発泡剤、滑剤、充填剤、老化防止剤、オゾン劣化防止剤、又は酸化防止剤等を含有してもよい。充填剤としては、例えば、シリカ(ホワイトカーボン)、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、クレー、タルク、ゼオライト、アルミナ、硫酸バリウム、硫酸アルミニウム等を挙げることができる。
【0030】
このような弾性層は、後述する方法により上記炭素粒子を表面に偏在させて含有することにより、表面の低摩擦化を図ることができる。弾性層の低摩擦化としては、具体的には、動摩擦係数が、0.1以上、1.5以下とすることが好ましい。弾性層の動摩擦係数が0.1以上であれば、当接物に対しスリップすることを抑制することができ、1.5以下であれば、トナー付着等の汚れを抑制することができる。
【0031】
弾性層の動摩擦係数は、図3に示す測定装置による測定値から求めた値を採用することができる。図3に示す測定装置に、一端をロードセル又はテンションゲージ71に接続し、他端に一定荷重72を懸架したシート73(例えば、ステンレス等の金属フィルムやPET等のプラスチックフィルム)に所定角θで接触するように、被測定体のローラKを軸支する。ローラKを矢印方向に一定速度で回転させることによりシート73がローラKの表面を摺動するときの張力Tをローラ摩擦係数測定機で測定する。得られた張力Tを、次のオイラーの式に適用して動摩擦係数μを求める。
【0032】
μ=(1/θ)・ln(T/W)
μ:動摩擦係数
θ:巻付け角(ラジアン)
W:荷重(g)
T:張力(g)
具体的には、PETフィルム(厚さ25μm、幅30mm)を用い、23.5℃/60%の環境において、荷重Wは100g、ローラ回転数は30rpm、巻付け角90°の条件で測定する。PETシートによる動摩擦抵抗測定値は、電子写真形成装置に用いられるゴムローラのトナー汚れとの相関がよいものとなる。
【0033】
弾性層の厚さは、適用する電子写真装置用部材に応じて、適宜選択することができ、帯電ローラであれば、例えば、1.0mm〜4.0mmを挙げることができる。
【0034】
[電子写真装置部材の製造方法]
上記電子写真装置部材の製造方法は、上記未加硫ゴムと、未加硫ゴム100質量部に対し5質量部以上、20質量部以下の割合で炭素粒子とを混合して得られる未加硫ゴム混合物を、せん断力を負荷して成形した後、加硫して、弾性層を成形する。ゴム成分と炭素粒子とを混合して未加硫ゴム混合物を得る方法は、まず、未加硫ゴム成分と上記炭素粒子と、必要に応じて導電剤、架橋剤、他の充填剤等を混合し、未加硫ゴム混合物を調製する。混合には、バンバリーミキサーやインターミックスや加圧式ニーダー等の密閉型混練機や、オープンロールのような開放型の混練機を使用することができる。
【0035】
未加硫ゴム混合物にせん断力を負荷して成形する方法は、成形型を使用して未加硫ゴム混合物を成形する方法である。未加硫ゴム混合物が成形型に接触することにより、ゴム混合物内部にずれを生じるせん断力が負荷され、これにより生じる流動により炭素粒子を表面に移動させる方法である。成形型を使用して未加硫ゴム混合物を成形する具体的な方法としては、射出成形、又は押出成形を挙げることができる。射出成形は、未加硫ゴム混合物を射出圧を加えて金型に押し込み、金型を充填して金型の形に成形する方法である。
【0036】
成形金型として、平板状の金型を用い、平板状に成形した未加硫ゴム混合物を、接着剤を塗布した軸芯体に巻き付け弾性層を形成してもよいが、円筒金型を用いることが、工程数が少なく、効率のよい製造を行うことができるため、好ましい。円筒金型を用いて、未加硫ゴム混合物をチューブ状に成形し、その後軸芯体をチューブに挿入してもよいが、円筒金型に同心状に配置した軸芯体の周囲に未加硫ゴム混合物を注入し、軸芯体と一体的に成形してもよい。
【0037】
押出成形は、未加硫ゴム混合物をスクリュで混練し、先端の押出金型(ダイ)を通過させ連続成形する方法である。押出成形の場合も、押出金型に、円筒状ダイを用いて、未加硫ゴム混合物をチューブ状に押出成形し、後工程においてチューブに軸芯体を挿入してもよい。押出金型にクロスヘッドを用いて、軸芯体と、未加硫ゴム混合物と軸芯体をクロスヘッドに同時に供給して、軸芯体の周囲に未加硫ゴム混合物を直接押出し、軸芯体と一体的に成形してもよい。クロスヘッドを用いて押出成形する方法は、軸芯体に接触する領域より、ダイに接触して成形される表面領域により大きいせん断が負荷され、表面領域への炭素粒子の移動が促進されることから、好ましい。
【0038】
上記押出成形を行う押出機の一例を図4の模式図に示す。図4に示す押出成形機は、軸芯体53を図において垂直方向に搬送する複数対の送りローラ52と、未加硫ゴム混合物を加熱混練し、水平方向に押し出す押出スクリュー54が、クロスヘッド51にそれぞれ連結されて設けられる。送りローラ52によって軸芯体53が間隙を置かず順次、垂直方向にクロスヘッドに搬送されると、押出スクリュー54から未加硫ゴム混合物が水平向から順次押し出され、軸芯体の周囲に未加硫ゴム混合物が成形されたローラが連続して押し出される。成形された未加硫ゴム混合物が切断機55によって各軸芯体の長さに切断され、更に端部が切断除去され、円筒状の未加硫ゴムローラ56を得る。
【0039】
成形後の未加硫ゴム混合物の加硫方法としては、加熱、冷却等の温度制御により加硫を行う方法であれば、特に条件は問わないが、例えば、加熱オーブン、加硫缶、極超短波電磁波照射(UHF)、電子線照射、熱溶融塩槽(LCM)等を使用することができる。
【0040】
加硫して形成された弾性層は、研削し、所望の形状、表面粗さに形成することができる。弾性層の形状は、適用する電子写真装置用部材が駆動回転する感光体に従動回転して用いられる場合、感光体に弾性層が均一の押圧力で当接するように、中央部の最大径から、両端部の最小径へ徐々に細くなる形状、いわゆるクラウン形状が好ましい。感光体にローラを当接させる場合両端の軸芯体を支持して当接させることから、感光体に負荷される押圧力は中央部が小さく、両端部ほど大きくなり、中央部と両端部が同径であると、中央部と両端部に対応する画像に濃度ムラが生じる。クラウン形状は中央部と両端部の押圧力の差を相殺することができる。
【0041】
研削は砥石を用いて、トラバース方式、又は幅広研削方式を適宜選択して行うことができる。トラバース方式はローラの長手方向の長さ(ローラ幅)より短い砥石を相対的に移動してローラを研削する方法であり、幅広研削方式は、ローラ幅より広幅の砥石をローラに押し当て、僅かな時間でローラを研削する方式である。作業効率から幅広研削方式が好ましい。弾性層の研磨による研削量(取りしろ幅)は、炭素粒子の偏在する表面領域が除去されない範囲とする必要から、弾性層の厚さとして0.3mm以下であることが好ましく、0.1mm以下であることがより好ましい。
【0042】
幅広研削方式の研削機の一例を、図5の構成図に示す。この円筒研削機は、被研削ローラ612を軸支する支持部と、支持した被研削ローラ612の研削を行う研削部とを有する。支持部は、主軸を支持する主軸台ユニット601と、心押軸を支持する心押軸台ユニット606とを有し、主軸と心押軸とが一直線上に支持されるように、これらが対向して、スイベルテーブル611上に固定される。
【0043】
主軸台ユニット601には、先端に係合チャック603が固定された主軸を回転可能に支持する主軸受け部602と、プーリ及びベルト604を介して主軸を回転駆動するモータ605とが備えられる。心押軸台ユニット606には、先端に心押軸センタ608が固定された心押軸を回転可能に支持する心押軸受け部607と、心押軸受け部607をリニアガイドに沿って直線往復運動させ、所望の位置に配置させるシリンダ609とが備えられる。
【0044】
主軸台ユニット601の係合チャック603と、心押軸受け部607の心押軸センタ608とが、被研削ローラ612の軸芯体の端部612a、612bにそれぞれ係合し、被研削ローラ612を押圧軸支するように、心押軸受け部607を移動配置させる。軸支された被研削ローラ612は、主軸台ユニット601のモータ605の回転により回転する主軸の回転に伴い、心押軸と共に回転される。
【0045】
研削部は、ローラ状の研削砥石613と、研削砥石613を回転可能に支持する砥石軸受け部620と、プーリ及びベルト621を介して研削砥石613を回転駆動する砥石用モータ622とが砥石台615に固定されて設けられる。研削砥石613の外形は、被研削ローラの研削形状に対向する形状であり、例えば、逆クラウン形状のものを選択することができる。
【0046】
更に、砥石台615をXY方向、即ち、図上、被研削ローラの中心軸に直交する方向のB方向と、被研削ローラの中心軸に平行なC方向に移動させる移動装置とを有する。移動装置には、砥石台615をB方向に往復直線移動可能なリニアガイドを介して載置する受け台614と、受け台614を固定載置するスラスト移動台617をC方向に往復直線移動可能なリニアガイド618が図示しないベース本体上に設けられる。
【0047】
砥石台615と受け台614、スラスト移動台617とベース本体は、それぞれ、切込用モータ616、619の回転軸に接続されるボールネジによって連結され、切込用モータの回転によってボールネジが回転され、砥石台とスラスト移動台の移動量が制御される。これにより、砥石台615上の研削砥石613は被研削ローラ612に対向する所望のXY位置に位置決め配置され、研削砥石613の回転により被研削ローラが研削されるに伴い、研削砥石613をB方向へ移動、停止して、研削量(切込量)を制御する。
【0048】
心押軸受け部607に固定されるダイヤモンドドレッサー610を砥石台615の側面、即ち、研削砥石613の研削面に当接するように取り付け、スラスト移動台をC方向に移動させることにより、被研削ローラにクラウン形状を形成することもできる。
【0049】
更に、研削後、弾性層に表面処理を行い、動摩擦係数を所望の値にしてもよい。表面改質の方法としては、紫外線照射、電子線照射、プラズマ処理、コロナ放電処理等を用いることができ、これらの表面処理を組み合わせて行うこともできる。
【0050】
このようにして得られる電子写真装置用部材は、弾性層の表面領域に上記炭素粒子が偏在することにより、動摩擦係数が低く、トナー等の汚れの付着を抑制することができ、良好な画像を長期に亘って形成することができる。
【0051】
本発明の電子写真装置用部材の一例として、図6に示す帯電ローラを挙げることができる。図1に示す帯電ローラ14は、中心に軸芯体11と、該軸芯体の外周に、弾性層12を有している。
【0052】
[電子写真装置]
本発明の電子写真装置用部材を帯電ローラとして適用した電子写真装置を図7に示す。図7に示す電子写真装置は、電子写真方式により静電潜像が形成される感光体21、静電潜像形成に必要な帯電量に感光体を帯電するため、帯電電圧S1が印加される帯電ローラ22、感光体に静電潜像を形成するための静電潜像形成装置23を有する。更に、静電潜像にトナーを付着させて可視化させる現像ローラ24a、現像ローラにトナー容器内のトナーを供給するトナー供給ローラ24b、現像ローラ上のトナーを一定厚に形成するブレード24cを備える現像装置24が設けられる。
【0053】
さらに、感光体上のトナー像を転写紙Pの裏面から押圧し、印加された転写電圧S2によりトナー像を転写紙上に転写する転写ローラ25が設けられる。トナー像転写後の感光体に残留する電荷を除去する除電装置27、感光体21上に残存するトナーを除去するクリーニングブレード26が設けられる。トナー像が転写された転写紙は、定着装置により定着処理され、装置外に排紙されプリント動作が終了する。
【実施例】
【0054】
以下、本発明の電子写真装置用部材を具体的に説明する。
[実施例1]
以下の材料を加圧式ニーダーで15分間混練した。
ゴム成分としてアクリルニトリルブタジエンゴム 100質量部
(NIPOLN 230SV:JSR(株)製)
導電剤として中実カーボン 40質量部
(トーカブラック#7360SB:東海カーボン製、DBP吸油量87cm3/100g)
コアシェル構造の炭素粒子 10質量部
(ナノポーラスカーボン:Easy−N社製 DBP吸油量105cm3/100g)
ステアリン酸亜鉛 1質量部
酸化亜鉛 5質量部
炭酸カルシウム(ナノックス#30:丸尾カルシウム(株)製)20質量部
更に、以下の材料を加えて、15分間オープンロールで混練した。
テトラベンジルチウラムジスルフィド 4.5質量部
(ノクセラーTBzTD:大内新興化学(株)製)
加硫剤として硫黄 1.2質量部
この混練物を図4に示す押出成形機によって、直径6mm、長さ256mmの鋼製円柱体にニッケルメッキを施した軸芯金の周囲に押出し、外径8.7mmの未加硫ゴムローラを得た。この未加硫ゴムローラを熱風オーブンに入れ160℃で60分間加熱し、加硫ゴムローラを得た。この加硫ゴムローラを、図5に示す研削機を用いて、研磨による取りしろを全長手方向において0.2mm以下とし、砥石とワークの回転方向を同方向にするアッパーカット方式により研削し、ローラを得た。研磨機の設定条件は、以下のとおりである。
砥石粗さ #80粒度(テイケン社製多孔砥石)
研磨時間 切込み開始から終了まで8秒
砥石回転数 2050rpm
加硫ゴムローラ回転数 350rpm
中心外径 8.5mm
[動摩擦係数]
得られたローラについて、図3に示す測定具を用い、PETフィルム(厚さ25μm、幅30mm)を用い、23.5℃/60%の環境において、荷重W100g、ローラ回転数30rpm、巻付け角90°の条件で、張力Tを測定し、動摩擦係数を求めた。結果を表1に示す。
【0055】
[加工性]
混練物をクロスヘッド押出しを行い、表面に形成される凸部により、以下の基準により評価した。結果を表1に示す。
A:凸部の高さが0.5mm以下
B:凸部の高さが0.5mmを超え2.0mm以下
C:凸部の高さが2.0mmを超える。
【0056】
[実施例2]
混練物の成形方法を、以下の成形方法に変更した以外は、実施例1と同様にしてローラを作製し、動摩擦係数、加工性について評価した。結果を表1に示す。
ゴム押出機(三葉製作所製、スクリュー径45mm、L/D=20ゴム用ベント式押出機)で、外径8.7mm、内径5.5mmの円筒形に押出し、250mmの長さに裁断し、加硫缶で、160℃の水蒸気で60分間1次加硫し、1次加硫チューブを得た。この1次加硫チューブに、直径6mm、長さ256mmの鋼製円柱体にニッケルメッキを施した軸芯体を挿入した。
【0057】
[実施例3]
混練物へのコアシェル構造の炭素粒子の添加量を20質量部に変更した以外は、実施例1と同様にしてローラを作製し、動摩擦係数、加工性について評価した。結果を表1に示す。
【0058】
[実施例4]
混練物へのコアシェル構造の炭素粒子の添加量を5質量部に変更した以外は、実施例1と同様にしてローラを作製し、動摩擦係数、加工性について評価した。結果を表1に示す。
【0059】
[実施例5]
混練物の成形方法を、射出成形に変更し、外径8.8mmに成形した以外は、実施例1と同様にしてローラを作製し、動摩擦係数、加工性について評価した。結果を表1に示す。
【0060】
[実施例6]
混練物に用いるゴム成分として、アクリルニトリルブタジエンゴムに替えてSBR(JSR1507:JSR(株)製)を用いた以外は、実施例1と同様にしてローラを作製し、動摩擦係数、加工性について評価した。結果を表1に示す。
【0061】
[実施例7]
混練物に用いるゴム成分として、アクリルニトリルブタジエンゴム100質量部に替えてエチレンプロピレンジエン三元共重合体(EPT8075E:三井石油化学(株)製)120質量部とした。それ以外は、実施例1と同様にしてローラを作製し、動摩擦係数、加工性について評価した。結果を表1に示す。
【0062】
[実施例8]
実施例1で得られたローラに紫外線照射を行った。紫外線照射は、回転するローラに、低圧水銀ランプからの積算光量が254nmセンサーで800mJ/cm2となるまで行った。積算光量は、紫外線強度(mW/cm2)に照射時間(sec)を乗じた値である。得られたローラについて、動摩擦係数、加工性について評価した。結果を表1に示す。
【0063】
[比較例1]
混練物へのコアシェル構造の炭素粒子の添加量を3質量部に変更した以外は、実施例1と同様にしてローラを作製し、動摩擦係数、加工性について評価した。結果を表2に示す。
【0064】
[比較例2]
混練物へのコアシェル構造の炭素粒子の添加量を30質量部に変更した以外は、実施例1と同様にしてローラを作製し、動摩擦係数、加工性について評価した。結果を表2に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の電子写真装置用部材は、電子写真プロセスを利用した複写機、プリンター、ファクシミリの受信装置等の電子写真装置に適用し、長寿命であり、長期に亘って良好な画像形成を行うことができ、極めて有効である。
【符号の説明】
【0068】
11、53 軸芯体
12 弾性層
14 帯電ローラ(電子写真装置用部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸芯体と、表面をなす弾性層とを有する電子写真装置用部材であって、
該弾性層は、ゴム成分と、該ゴム成分100質量部に対し、炭素粒子を5質量部以上、20質量部以下の範囲で含有し、
該炭素粒子は、コアシェル構造を有し、弾性層の表面領域に偏在していることを特徴とする電子写真装置用部材。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−53128(P2012−53128A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193525(P2010−193525)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】