説明

電子制御モジュール

【課題】車載用途の厳しい環境下でも、セラミック基板とパッケージ型半導体のはんだ接合部に、熱応力によるはんだクラックが発生するのを防ぎ、かつ小型・軽量で低コストな電子制御モジュールを提供する。
【解決手段】当該電子制御モジュールは、セラミック基板上に配置され半導体素子を樹脂で覆ったパッケージと、パッケージの外側の単一方向、もしくは、対向方向に伸展したリードフレームと、セラミック基板の表面に形成された導体パターンと、を備え、リードフレームは、セラミック基板とはんだを介して電気的に装着され、リードフレームの上面から、セラミック基板までの空間部のみが樹脂で封止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用電子制御モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
環境温度の厳しいエンジンルーム内に設置される電子制御モジュールは、セラミック基板にベアチップを実装した構造が一般的に用いられる。この構造はベアチップと外部電極と接続するワイヤボンディングごと樹脂封止するものであり、信頼性が高い。このように、樹脂封止は車載用電子制御モジュールの信頼性を向上させるための技術として行われている。
【0003】
樹脂封止の手法は上記の他に、パッケージ型半導体が実装された配線基板前面をトランスファモールドにより樹脂封止する技術がある(特許文献1参照)。
【0004】
又、半導体を配線基板にフリップチップ実装する際に、半導体と配線基板の隙間にある接続用のはんだバンプ部のみをアンダーフィル材と称される樹脂で封止する技術がある(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2005/004563号公報
【特許文献2】特許第4049145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、セラミック基板にベアチップではなく、パッケージの側面より外に突出した外部接続端子を持つパッケージ型半導体を実装する構造は、はんだの接続信頼性が低いため、これまでに例がない。
【0007】
セラミック基板にパッケージ型半導体を実装した構造を成立させるために、樹脂封止技術によりはんだ接続部の信頼性を向上させたいが、樹脂封止技術には、下記のような課題があった。
【0008】
特許文献1によれば、半導体21のパッケージ上面にも樹脂22があるため(図6)、基板23の厚さ方向の高さが増加し、電子制御モジュール自体が大きくなってしまうとともに、使用する樹脂22の量も多くコストがかかるという課題がある。
【0009】
又、特許文献2によれば、アンダーフィル材となる樹脂31の充填は、半導体パッケージ32と配線基板33の対向した隙間のみを埋めるものであり、パッケージの裏面に外部接続端子があり、はんだバンプ34のようなBGA(Ball Grid Array)等を対象にしており(図7)、パッケージの側面より外に突出した外部接続端子は対象ではない。
【0010】
そこで、本発明の目的は、温度が広範囲に変化しても、パッケージの側面より外に突出した外部接続端子を持つパッケージ型半導体とセラミック基板のはんだ接合部におけるクラックの発生を抑制した車載用の電子制御モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の望ましい態様の1つは次の通りである。
【0012】
当該電子制御モジュールは、セラミック基板上に配置され半導体素子を樹脂で覆ったパッケージと、パッケージの外側の単一方向、もしくは、対向方向に伸展したリードフレームと、セラミック基板の表面に形成された導体パターンと、を備え、リードフレームは、セラミック基板とはんだを介して電気的に装着され、リードフレームの上面から、セラミック基板までの空間部のみが樹脂で封止される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、温度が広範囲に変化しても、パッケージの側面より外に突出した外部接続端子を持つパッケージ半導体と基板のはんだ接合部におけるクラックの発生を抑制した車載用の電子制御モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】電子制御モジュールの実施例1の外観を示す鳥瞰図。
【図2】図1に示される電子制御モジュールの一部断面図。
【図3】図1に示される電子制御モジュールの一部断面図で、樹脂の塗布高さを説明するための図。
【図4】実施例1のセラミック基板の印刷工程を示す概略図。
【図5】電子制御モジュールの実施例2の一部断面図。
【図6】従来のトランスファモールドにより樹脂封止された電子制御モジュールの一例を示す一部断面図。
【図7】従来のアンダーフィル剤により封止された電子制御モジュールの一例を示す一部断面図。
【図8】熱サイクル試験後の、実施例1と比較例のはんだ接合部の状態を示す拡大断面写真。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、電子制御モジュールの実装構造の実施例を、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0016】
先ず、実施例1について、図1,図2を用いて説明する。
【0017】
電子制御モジュール1は、セラミック基板2、パッケージの外側の対向方向に伸展したリードフレーム3、セラミック基板上に配置され半導体素子を樹脂で覆ったパッケージ(パッケージ型半導体)4、及び、リードフレーム3の上面からセラミック基板までの空間部のみを封止する樹脂5とから構成されている。
【0018】
セラミック基板2はアルミナ粉末を主原料とし、これを成形した後、1500℃〜1600℃の高温で焼成して得られた、アルミナ純度96%以上の基板である。セラミック基板の材質は、アルミナ(Al23),シリカ(SiO2),窒化シリコン(Si34),窒化アルミ(AlN)のいずれを用いてもよく、又、単層基板であっても、積層基板(多層基板)であってもよい。本実施例では、アルミナの単層基板を使用している。セラミック基板の寸法は20×30mmで、厚さが1.0mmである。放熱の面からもセラミック基板は薄いほうが好ましいが、薄すぎると強度の低下,反り等の問題が生じる。この場合、厚さは、0.8〜2.0mm程度が好ましい。
【0019】
このセラミック基板2にスクリーン印刷法によって、回路パターンを印刷し、配線する。この印刷工程の概略を図3に示す。
【0020】
導体ペーストの印刷には、銀と白金の合金からなる導体ペーストを使用し、印刷後、乾燥工程を経て、860℃で焼成することによりセラミック基板2上に導体パターンが形成される。
【0021】
導体ペーストは、銀と白金の合金に限られず、銀とパラジウムからなる合金、又は、銅などでもよい。尚、セラミック基板で、グリーンシート同時焼成の場合は1500〜1700℃の温度で焼成を行うため、導体としては多少抵抗が増えるが、高融点金属タングステン,モリブデンなどを用いることになる。
【0022】
上記のように、セラミック基板2の表層に形成した導体パターン上のはんだ接続箇所となる以外は、水分や腐食性ガス等の保護とはんだレジストの目的で、ガラスペーストからなるガラスコート材を印刷し、乾燥工程を経て焼成させる。
【0023】
本実施例では、ガラスコート材に旭硝子(株)製のAP5346Vを使用した。このガラスペーストは、常温で粘度90〜150Pa・sで510℃の焼成後の外観は、緑色である。ガラスペーストは、ガラス等の無機物以外に樹脂等の絶縁できるものであればよい。次に、セラミック基板2に配線された回路パターンに部品実装を行う。まず、錫,銀,銅の組成からなる鉛フリーのはんだ10を印刷する。はんだは、鉛入りの高温はんだでも、銀ペースト等の導電性のペーストでもよい。
【0024】
パッケージ型半導体4は、パワー系と小信号系半を1チップ化した素子を、パッケージ化したものであり、パッケージの長辺の両側面からリードフレーム3が突出した、2OピンのSOP(Small Outline Package)を使用した。各ピンのピッチ間寸法は、約1.3mmと狭ピッチである。更に、このパッケージ型半導体4は放熱板となる銅のヒートスプレッタ6を備え、セラミック基板2とはんだ10で接合され、放熱経路が形成されている。
【0025】
パッケージ型半導体4は、表面実装タイプでかつ、パッケージの一側面,二側面,四側面のいずれかからリードフレームが突出したものが用いられ、例えば、マイコン等で使用されるQFP(Quad Flat package)でもよい。
【0026】
また、本実施例では図1に示されるように、セラミック基板2の表層には、EMI対策用となる、1608(1.6×0.8)サイズのチップコンデンサ7が搭載されている。その他、図示はしないが、抵抗等の受動素子やダイオード等の能動素子が搭載されていてもよい。
【0027】
更に、このように回路構成された電子制御モジュール1が外部と電気的に接続するために、アルミワイヤが溶接される溶接パッド8が搭載され、溶接パッドの材料としては、セラミック基板の線膨張係数に近い、鉄とニッケルの合金である42アロイや鉄とニッケルとコバルトの合金であるコバールが最適であり、はんだ付け性を向上させるのに、溶接パッド8のはんだ接合面に銅を熱圧着したクラッド材が用いられる。これら部品搭載後、240℃〜260℃リフロー炉内に通過してはんだ接合を行う。
【0028】
そして、図2に示されるように樹脂5により、リードフレーム3とセラミック基板2のはんだ10による接続個所を覆うように、リードフレーム3の上面から、セラミック基板2までの空間部のみが封止されており、少なくとも、はんだ10による接合箇所は完全に覆うことが望ましい。尚、図3に示すように、樹脂5の塗付高さ(L)は、セラミック基板表面からパッケージ上面の高さ(h)以下(L≦h)であり、パッケージ上面より樹脂5が出ない。従って、この電子制御モジュール1の高さは、搭載される部品の高さにより決まるので、塗布される樹脂5によって電子制御モジュール1の高さが大きくなることはない。
【0029】
樹脂5は、例えば、熱硬化性の樹脂組成物や光硬化型の樹脂組成物でもよく、樹脂ポッティングなどにより塗布される。本実施例では、樹脂5にヘンケル(株)性のエポキシ樹脂である、Hysol CB011R−3を使用した。この樹脂5は、常温で粘度が約75〜130Pa・sの一液性エポキシ樹脂であり、事前に真空脱法や樹脂を温め粘度を下げることなく、ディスペンサにて直接塗布した。その後、150℃で2時間の恒温槽内に放置し、塗付した樹脂5を硬化させた。その結果、塗付性が良好であり、大きくセラミック基板2上にだれることなく、はんだ10による接合部を封止することができた。
【0030】
尚、硬化後の樹脂5の物性値は、ガラス転移温度が約160℃、線膨張係数が約10×10-6/℃である。
【0031】
実施例1の電子制御モジュール1を対象に、熱サイクル試験を行った結果を図7に示す。熱サイクルの条件は、−55℃⇔150℃(ΔT=205℃)で1サイクルを60分とし、1000サイクル終了後に断面観察を行った。比較例として、実施例1で樹脂5の塗布を行わないが、それ以外の構造・製造方法は実施例1に同じ電子制御モジュールの結果も示す。
【0032】
実施例1では、はんだ接合部にクラックは確認されなかったが、比較例においては、はんだ接合部に大きなクラックを生じていた。この結果より、本実施例1の構造によれば、−55℃⇔150℃の非常に過酷な環境下においても1000サイクル以上の信頼性があり、エンジン直付けの電子制御モジュールとして十分な信頼性があることがわかった。即ち、パッケージ型半導体全体を樹脂封止しなくとも、十分な信頼性が得られることが立証できた。
【0033】
以上、実施例1の構造によれば、広い温度範囲で温度が変化しても、はんだ接合部にクラックの発生を防止することができ、小型・軽量化に対応できる電子制御モジュールが得られる。
【実施例2】
【0034】
次に、実施例2について、図5を用いて説明する。
【0035】
実施例1との相違点は、樹脂5の流れ防止用に、セラミック基板2上にダム形状に形成された形成物9を設けた点である。特に、説明しない構成については、実施例1と同様である。ダム形状に形成された形成物9は、ガラスペーストAP5346Vを使用し、図4のガラスペースト印刷工程において、同時に形成される物である。
【0036】
即ち、通常、ガラスペースト焼成後の膜厚は、10〜20μmだが、ダム形状に形成された形成物9は、焼成後の膜厚が50〜100μm程度になるよう印刷される。ダム形状に形成された形成物9は、リードフレーム3と接触しない外周であれば、セラミック基板上のどの位置にあってもよく、使用する樹脂、その塗布量、更に回路パターンに応じて適宜配置すればよい。
【0037】
又、ダム形状に形成された形成物9は、予め接着剤等でダムの形状に形成し、セラミック基板2上に接着することによりダムを形成してもよいが、ガラスペーストによりダム形状の形成物9を設けた方が、新たに材料や製造工程を追加することがないので、製造上よいのは明らかである。ダム形状の形成物9により、樹脂5の流れを防止できるので、粘度の低い樹脂も使用することができるようになる。
【0038】
更に、樹脂のセラミック基板上の塗布領域が明確になるので、塗布領域を規定できる上、量産時にも安定して樹脂を塗布することができるようになる。従って、実施例2の構造によれば、はんだ接合部にクラックの発生を防止することができ、小型・軽量化に対応できる電子制御モジュールの製造が容易になる。
【0039】
以上、実施例1及び2によれば、リードフレームの上面から、セラミック基板までの空間部のみが樹脂で封止される構成としたため、高い信頼性が必要最小限の封止樹脂量で得られるとともに、低コストで小型化・軽量化された電子制御モジュールの構造とすることができ、特に、過酷な環境下で使用されるにもかかわらず、高い信頼性が要求される車載用途に有用な技術となる。
【0040】
又、上記空間部のみを樹脂で封止する際の樹脂高さをL、セラミック基板表面からパッケージ上面までの高さをhとした際、L≦hとすることにより、高背のパッケージ上面より樹脂が外に出ない。よって、薄型化につながる。電子制御モジュールは、樹脂や金属からなるケースに搭載されるが、電子制御モジュールが薄型化されているので、このケースにも小型化できる。
【0041】
又、パッケージは、金属からなるヒートスプレッダを具備するので、あまり発熱しない制御系の半導体のみならず、パワー系のパッケージ型半導体を使用しても、その接続信頼性を高くすることができる。
【0042】
又、半導体素子は、発熱するパワー系半導体と前記パワー系半導体よりも発熱しない制御回路を1つにして形成されるので、部品点数の削減と小型化を図るととともに、パッケ−ジ型半導体の汎用性を高くすることができ、その接続信頼性を高くすることができる。
【0043】
又、セラミック基板上のリードフレームが接触しない外周、あるいは、当該外周の一部に、ダムを有するように形成したため、塗布した樹脂が基板上に流れ広がることを抑制することができ、製造性にも優れた信頼性の高い電子制御モジュールを得ることができる。更に、セラミック基板は、導体パターンの保護やはんだレジストとなるガラスコート材を使用するが、ガラスコート材の焼成後の膜厚を増すことで、簡易に前記ダム部を形成することができる。更に、封止することが難しい粘度の低い樹脂でも、セラミック基板上に広がる領域をコントロールできるので、使用できる樹脂の範囲も広がるメリットがある。
【0044】
尚、上記電子制御モジュールの実装構造は、例えば、車両用交流発電機(オルタネータ)等の電圧調整器として用いるICレギュレータに用いられるものであるが、その他、電子制御用途であってもよい。又、上記電子制御モジュールの実装構造は、片面実装であったが両面実装でもよい等、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0045】
1 電子制御モジュール
2 セラミック基板
3 リードフレーム
4 パッケージ型半導体
5 樹脂
6 ヒートスプレッタ
7 チップコンデンサ
8 溶接パッド
9 形成物
10 はんだ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック基板上に配置され半導体素子を樹脂で覆ったパッケージと、
前記パッケージの外側の単一方向、もしくは、対向方向に伸展したリードフレームと、
前記セラミック基板の表面に形成された導体パターンと、を備え、
前記リードフレームは、前記セラミック基板とはんだを介して電気的に装着され、
前記リードフレームの上面から、前記セラミック基板までの空間部のみが樹脂で封止される、電子制御モジュール。
【請求項2】
前記空間部のみを樹脂で封止する際の樹脂高さをL、前記セラミック基板表面から前記パッケージ上面までの高さをhとすると、L≦hである、請求項1記載の電子制御モジュール。
【請求項3】
前記パッケージは、金属からなるヒートスプレッダを具備する、請求項1又は2記載の電子制御モジュール。
【請求項4】
前記半導体素子は、発熱するパワー系半導体と前記パワー系半導体よりも発熱しない制御回路を1つにして形成されたものである、請求項1乃至3何れか一に記載の電子制御モジュール。
【請求項5】
前記セラミック基板上の前記リードフレームが接触しない外周、あるいは、前記外周の一部に、ダムを有する、請求項1乃至4何れか一に記載の電子制御モジュール。
【請求項6】
前記ダムは、前記セラミック基板表面に無機物あるいは、絶縁部材を印刷し焼成することで形成される、請求項5記載の電子制御モジュール。
【請求項7】
前記ダムは、予め前記ダムの形状に形成された形成物を接着することに形成される、請求項5記載の電子制御モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−176071(P2011−176071A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−38107(P2010−38107)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)