説明

電子天秤用コイルとその防湿方法

【課題】湿度の影響が回避できる電子天秤用コイルを提供する。
【解決手段】真空含浸によりコイル電線間の空間を液状の樹脂で満たした後、この樹脂を硬化させ、次に、このコイルの表面に樹脂をコーティングして平滑面31を形成する。湿気は、コイル内部に侵入できず、また、コイル表面の平滑面には、水滴も付着しにくい。そのため、湿度によるコイル質量の変化が生じない。このコイルを用いて湿度の影響を受けない高精度の電子天秤を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁平衡式の電子天秤の電磁部で使用されるコイルと、その防湿方法に関し、電子天秤用コイルの防湿性能の向上を図るものである。
【背景技術】
【0002】
電磁平衡式の電子天秤は、支点を間に挟んで、一方の側に被計量物の荷重が加えられ、他方の側に電磁力を発生するコイルが取り付けられるビームを備えている。コイルは、永久磁石の磁界が作用する電磁部に収容され、電磁力でビームがバランスするようにコイルに電流が供給され、その電流値から被計量物の荷重が算出される。
【0003】
コイルは、図1に示すように、ボビン10の回りにコイル導線20が何重にも巻かれて構成されている。
接触するコイル導線20の間には空間21が存在し、この空間の吸湿の具合でコイルの質量が変化する。これは、電子天秤の精度を低下させる原因になる。
そのため、コイルの周囲を金属箔で被覆して防湿を図ったり、外気に露出しているコイル部分に射出成型等で防湿層を形成したりすることが行われている。
【0004】
回転電機などのコイルに樹脂を真空含浸し、コイル内の空間を樹脂で満たすことは、例えば下記特許文献1に記載されているように、古くから行われている。
この方法を応用すれば、電子天秤用コイルの内部を効果的に防湿することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−327144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、実際に実施してみると、次のような課題が見出された。
電子天秤用コイルにワニスを真空含浸させると、図2に示すように、コイル内部の空間は完全に含浸樹脂30で充填されるが、巻回されたコイル導線20の表面の一部がコイル表面に露出し、この露出した表面部分の連なりのために、コイル表面が凸凹になる。
このようにコイル表面に凸凹が存在すると、湿度の高い環境で計量を行う場合に、湿気から変化した水滴がコイル表面の凹部に留まり、そのためにコイルの質量が変化して、高精度の計量ができなくなる。
【0007】
本発明は、こうした事情を考慮して創案したものであり、湿度の影響が回避できる電子天秤用コイルを提供し、そのための防湿方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、電子天秤に用いるコイルであって、コイル電線間の空間が真空含浸された樹脂で満たされ、コイル表面が、コーティングされた樹脂によって平滑化していることを特徴とする。
コイル電線間の空間は真空含浸された樹脂で完全に満たされ、また、コイル表面には、コーティングした樹脂で平滑面が形成される。そのため、湿気は、コイル内部に侵入できず、また、コイル表面の平滑面には水滴も付着し難い。それ故、湿度によるコイル質量の変化が生じない。
【0009】
また、本発明の電子天秤用コイルでは、真空含浸する樹脂にポリイミド樹脂を用い、コイル表面にコーティングする樹脂にポリイミド樹脂を用いることができる。
【0010】
また、本発明の電子天秤用コイルでは、真空含浸する樹脂にポリイミド樹脂を用い、コイル表面にコーティングする樹脂にブチルゴムを用いることができる。
ブチルゴムのコーティングでコイル表面が平滑化する。また、ブチルゴムは、ポリイミド樹脂の僅かな吸湿を防ぐ作用も有している。
【0011】
また、本発明は、電子天秤に用いるコイルの防湿方法であって、真空含浸によりコイル電線間の空間を液状の樹脂で満たした後、該樹脂を硬化させる第1のステップと、第1のステップの処理が終了したコイルの表面に樹脂をコーティングして平滑面を形成する第2のステップと、を備えることを特徴とする。
第1のステップで、コイル電線間の空間が樹脂で満たされ、第2のステップで、コイル表面に平滑面が形成される。そのため、湿気は、コイル内部に侵入できず、また、コイル表面が平滑面であるため、水滴が付着し難くなる。
【0012】
また、本発明の電子天秤用コイルの防湿方法では、第1のステップ及び第2のステップにおいて、有機溶剤で溶解したポリイミド樹脂を用いることができる。
【0013】
また、本発明の電子天秤用コイルの防湿方法では、第1のステップにおいて、有機溶剤で溶解したポリイミド樹脂を用い、第2のステップにおいて、非加硫ブチルゴムを使用することができる。
ブチルゴムのコーティングでコイル表面が平滑化する。また、ブチルゴムは、ポリイミド樹脂の僅かな吸湿を防ぐ作用も有している。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、湿度によって質量が変動しないコイルを得ることができ、このコイルを用いて湿度の影響を受けない、安定した特性の電子天秤を製造することができる。
また、本発明の電子天秤用コイルは、成熟した技術である真空含浸方法及びコーティング方法により得られるため、製造が容易であり、低コストでの製造が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】電子天秤用のコイルの断面図
【図2】図1のコイルにワニスを含浸させた状態を示す図
【図3】図2のコイルの表面にコーティングを施した状態を示す図
【図4】湿度によるコイル重量の変化を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の電子天秤用コイルは、コイル電線間の空間に液状の樹脂を真空含浸し、この樹脂を硬化した後、コイル表面に樹脂をコーティングして平滑面を形成する。
真空含浸した樹脂を硬化した状態のコイルは、図2に示すように、巻回されたコイル導線20の表面の一部がコイル表面に露出して、コイル表面に凸凹が存在しているが、このコイル表面に樹脂をコーティングして、図3に示すように、コイル表面に平滑面31を形成する。
このようにコイル表面を平滑化すると、水滴がコイル表面に付着し難くなり、コイルの質量の変化が回避できる。
【0017】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
ポリイミドをケトン系溶媒や芳香族炭化水素系溶媒、エステル系溶媒などで溶解したポリイミドワニスを開口容器に入れ、この容器と、ボビン上にコイル電線を巻回したコイルとを真空容器内に置き、真空容器内の空気を抜いてコイル内に含まれる空気を脱気した。次いで、真空状態を保った真空容器内で、コイルをポリイミドワニスに浸け、ポリイミドワニスをコイルの内部まで含浸させた。その後、真空容器から取り出したコイルを240℃、60分加熱して含浸したポリイミド樹脂を硬化した。
次に、ポリイミドワニスをコイル表面に塗布し、240℃、60分加熱して、コーティングしたポリイミド樹脂を硬化した。
得られたコイルの表面は、コーティングしたポリイミド樹脂により平滑化していた。
【0018】
(実施例2)
実施例2では、実施例1と同様の真空含浸手順でコイル内部の空間をポリイミド樹脂で満たした後、コイル表面を非加硫ブチルゴムでコーティングした。
得られたコイルの表面は、コーティングしたブチルゴムにより平滑化していた。
また、コイル表面にコーティングしたブチルゴムは、ポリイミド樹脂の吸湿を防ぐ作用も有している。
【0019】
図4は、真空含浸後のコイル表面にコーティングを施した本発明の電子天秤用コイルと、コーティングを施さないコイルの「湿度によるコイル重量の変化」を示している。
この図から分かるように、真空含浸後のコイル表面にコーティングを施すことで、「湿度によるコイル重量の変化」が大幅に改善できる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の電子天秤用コイルを組み込んだ電子天秤は、高湿度環境下でも高精度の計量が可能であり、そうした環境での計量作業を必要としている製造工場や物流施設、輸送施設などを始めとして、各分野で幅広く利用することができる。
【符号の説明】
【0021】
10 ボビン
20 コイル導線
21 空間
30 含浸樹脂
31 コーティング面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子天秤に用いるコイルであって、
コイル電線間の空間が真空含浸された樹脂で満たされ、コイル表面が、コーティングされた樹脂によって平滑化していることを特徴とする電子天秤用コイル。
【請求項2】
請求項1に記載の電子天秤用コイルであって、コイル電線間の空間に真空含浸された樹脂、及び、コイル表面にコーティングされた樹脂が、共にポリイミド樹脂であることを特徴とする電子天秤用コイル。
【請求項3】
請求項1に記載の電子天秤用コイルであって、コイル電線間の空間に真空含浸された樹脂がポリイミド樹脂であり、コイル表面にコーティングされた樹脂がブチルゴムであることを特徴とする電子天秤用コイル。
【請求項4】
電子天秤に用いるコイルの防湿方法であって、
真空含浸によりコイル電線間の空間を液状の樹脂で満たした後、該樹脂を硬化させる第1のステップと、
前記第1のステップの処理が終了したコイルの表面に樹脂をコーティングして平滑面を形成する第2のステップと、
を備えることを特徴とする電子天秤用コイルの防湿方法。
【請求項5】
請求項1に記載の電子天秤用コイルの防湿方法であって、前記第1のステップ及び第2のステップで、有機溶剤で溶解したポリイミド樹脂を用いることを特徴とする電子天秤用コイルの防湿方法。
【請求項6】
請求項1に記載の電子天秤用コイルの防湿方法であって、前記第1のステップで、有機溶剤で溶解したポリイミド樹脂を用い、前記第2のステップで非加硫ブチルゴムを用いることを特徴とする電子天秤用コイルの防湿方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−11488(P2013−11488A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143376(P2011−143376)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(390041346)新光電子株式会社 (38)