説明

電子放出特性の解析システム及び解析方法

【課題】電子放出特性の解析システム及び解析方法において、形成遅れ時間と統計遅れ時間を高精度に分離し、並びに、一つまたは複数の電子放出源のエネルギー状態密度を同定することができる技術を提供する。
【解決手段】休止時間t、温度Tに対するアドレス放電遅れ時間tの計測データを入力する。計測データの累積数から放電確率頻度と既放電確率を算出する。プライミング電子の電子放出時定数texp(t,T)を算出する。電子放出源のエネルギー状態密度の関数を設定し、活性化エネルギーの平均値、分散値、実効数の探索範囲、探索幅を設定する。電子放出源のエネルギー状態密度とウインドウ関数の重なり積分によりプライミング電子の電子放出時定数tsth(t,T)を算出する。texp(t,T)とt th(t,T)の平均二乗誤差が最小となる活性化エネルギーの平均値、分散値、実効数を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子放出特性の解析技術に関し、特に、プラズマディスプレイパネル(以下、「PDP」と称する)や不純物準位の計測装置における酸化膜材料(MgO等)、イオン結晶材料、及び半導体材料等の電子放出源に対する電子放出特性の解析システム及び解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大画面薄型カラー表示装置として、PDPの開発が進められている。
【0003】
例えば、図18に示すように、3電極構造のAC面放電型PDPが広く開発されている。AC面放電型PDPでは、2枚のガラス基板、即ち、前面基板1501および背面基板1508が対向配置され、それらの間隙が放電空間1513となる。放電空間1513には、放電ガスとなるHe、Ne、Xe、Ar等の混合ガスが数百〜6百Тorr以上の圧力で封入されている。表示面側になる前面基板1501の下面には、並置されたX電極1502とY電極1503からなる維持放電電極対が形成され、駆動電圧を繰り返し印加して継続的な発光を行うために用いられる。通常、X電極、Y電極は、透明電極と透明電極の導電性を補う不透明電極から構成される。即ち、X電極は、X透明電極1502−1,1502−2……と、不透明なXバス電極1504−1,1504−2……とから構成され、Y電極は、Y透明電極1503−1,1503−2……と、不透明なYバス電極1505−1,1505−2……とから構成される。
【0004】
これらの維持放電電極は、前面誘電体1506によって被覆され、誘電体表面には酸化マグネシウム(MgO)等の保護膜1507が形成される。MgOは、二次電子放出係数が高いため、放電により発生したHe、Ne、Xe、Ar等のイオンがMgOに衝突すると電子が放出され、放電を強める働きがあり、放電開始電圧を低下させる。また、MgOは、耐スパッタ性に優れており、放電により発生したHe、Ne、Xe、Ar等のイオンが前面誘電体1506に直接衝突してダメージを与えることから前面誘電体1506を保護する役割がある。
【0005】
一方、背面基板1508の上面には、維持放電電極と直交方向に、アドレス放電のためのアドレス電極またはアドレス電極(以下、単に、「A電極」と称する)1509が設けられている。このA電極1509は背面誘電体1510によって被覆され、この背面誘電体1510の上には隔壁1511がA電極1509を挟み込むように設けられている。さらに、隔壁1511の壁面と背面誘電体1510の上面によって形成される凹領域内には蛍光体1512が塗布されている。
【0006】
これらの構成において、維持放電電極対とA電極との交差部が1つの放電セル空間に対応しており、この放電セルは二次元状に約2000×2000のマトリックス構造に配列されている。カラー表示の場合には、赤、緑、青色蛍光体が塗布された3種の放電セルを一組として1画素を構成する。
【0007】
次に、PDPの動作について説明する。
【0008】
PDPの発光の原理は、放電ガスからX、Y電極間に印加する駆動電圧によって電子とイオンからなるプラズマを発生させて、その電子が基底状態にある放電ガスを励起状態に叩き上げ、その励起状態にある放電ガスから発生する紫外線を蛍光体によって可視光に変換するというものである。
【0009】
図19のブロック図に示すように、PDP1600は、プラズマディスプレイ装置1602に組み込まれる。映像源1603から駆動回路1601へ表示画面の信号を送り、駆動回路1601はその信号を受け取って駆動電圧に変換してPDP1600の各電極に供給する。
【0010】
図20(A)は、図19に示したPDP1600に1枚の画像を表示するのに要する1ТVフィールド期間の駆動電圧のタイムチャートを示す図である。図中の(I)に示すように、1ТVフィールド期間1700は維持電圧パルスの印加回数が異なるサブフィールド1701〜1708に分割されている。各サブフィールド毎の維持電圧パルス印加回数、即ち、維持放電により生じる発光強度を調整して階調を表現する。2進法に基づく発光強度の重みをもった8個のサブフィールドを設けた場合、3原色表示用放電セルはそれぞれ2(=256)階調の輝度表示が得られ、約1678万色の色表示ができる。各サブフィールドは、図中(II)に示すように放電セルを初期状態に戻すリセット放電期間1709、発光する放電セルを選択するアドレス放電期間1710、発光表示を行う維持放電期間1711から構成される。
【0011】
図20(B)は、図20(A)に示したアドレス放電期間1710においてA電極1509、X電極、およびY電極に印加される電圧波形を示す図である。波形1712はアドレス放電期間1710における1本のA電極1509に印加する電圧波形、1713と1714はY電極のi番目と(i+1)番目に印加する電圧波形、波形1717はX電極に印加する電圧波形であり、それぞれの電圧はV0、V21、V21、およびV1である。図20(B)に示すように、Y電極のi行目にスキャンパルス1715が印加された時、電圧V0のA電極1509との交点に位置するセルではY電極とA電極の間で放電が発生し、その放電はY電極とX電極の間に移り変わりアドレス放電が起こる。Y電極のi行目と電圧V0が印加されていないA電極1509との交点に位置するセルでは、アドレス放電は起こらない。Y電極の(i+1)行目にスキャンパルス1716が印加された場合も同様である。アドレス放電が起こった放電セルでは、放電で生じた電荷が壁電荷としてX、Y電極を覆う誘電体および保護膜1507の表面に形成され、X、Y電極間に壁電圧Vwが発生する。この壁電荷の有無が、次に続く維持放電期間1711での維持放電の有無を決める。
【0012】
図21は、アドレス放電期間1710において、Y電極に印加する電圧波形1801とA電極1509に印加する電圧波形1802、及び、アドレス放電電流1803を示した図である。A電極1509に電圧Vaを印加後に、アドレス放電電流がピークに至る時間をアドレス放電遅れ時間tとする。また、図21に、維持放電期間1711において、維持放電電極であるX電極とY電極の間に一斉に印加される駆動電圧波形を示す。Y電極には駆動電圧波形1804の矩形波型の駆動電圧が、X電極には矩形波型の駆動電圧波形1805の駆動電圧が繰り返し印加される。この矩形波型の駆動電圧がY電極とX電極に交互に印加される。この維持放電電圧Vsusの電圧値は、アドレス放電によるY電極とX電極の相対電位差である壁電圧Vwの有無で維持放電の有無が決まるように設定される。アドレス放電が生じた放電セルでは、壁電圧Vwと維持放電電圧Vsusの和が放電開始電圧を上回り、アドレス放電の生じていない放電セルでは、維持放電電圧Vsusが放電開始電圧を下回るように設定されている。維持放電駆動電圧の1周期が終わると、アドレス放電が生じた放電セルでは、Y電極とX電極の相対電位は反転する。その維持電極間に維持放電駆動電圧の2周期目が印加されると、再び、壁電圧Vwと維持放電電圧Vsusの和が放電開始電圧を上回り、放電が繰り返される。このように、アドレス放電を起こした放電セルでは、維持放電駆動電圧を印加した時間の発光が生じ、逆に、アドレス放電を起こさなかった放電セルでは発光は生じない。維持放電期間1711経過後、アドレス放電期間1710において、各A電極1509に電圧印加するまでの時間を休止時間tiとする。
【0013】
なお、このようなPDPに関する技術としては、例えば、特許文献1に記載される技術などが挙げられる。
【特許文献1】特開2007−109541号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、前記のようなPDPの技術について、本発明者が検討した結果、以下のようなことが明らかとなった。
【0015】
例えば、PDPでは、大画面フルハイビジョン化が進められており、1パネル内の放電セル数と、アドレス放電期間1710中にスキャンすべきX電極1502とY電極1503のライン数が増加傾向にある。したがって、一つの放電セルに印加するスキャンパルス1715や1716に対して、アドレス放電に要する時間、即ち、アドレス放電遅れ時間tを短縮し、高速動作を実現することが重要課題である。
【0016】
アドレス放電遅れ時間tは、Y電極、X電極とA電極の印加電圧とリセット放電後の残留壁電荷に依存する形成遅れ時間t、並びに、放電の種火となる電子(プライミング電子)がMgOから放出されるまでの統計遅れ時間tの和で構成される。リセット放電後の残留壁電荷量に揺らぎが存在するとすれば、形成遅れ時間tに揺らぎが生じる。
【0017】
また、図22に示すように、MgOでは、立方晶構造のMg原子1901または酸素原子1902が抜けたMg欠損や酸素欠損、または、酸素欠損にプロトンが捕獲された置換構造1903に電子を捕獲した電子放出源が存在する。この電子放出源からプライミング電子が放電セル空間に放出されることは、統計現象のため、統計遅れ時間に揺らぎが生じる。
【0018】
図23は、同一放電セルにおけるアドレス放電遅れ時間を繰り返し計測した計測データを、アドレス放電遅れ時間毎に累積数で表示した放電遅れ時間の頻度分布である。同一放電セルにもかかわらず、約500nsをピークに、放電時間が早い場合は400ns、放電時間が遅い場合は1000ns以上を示しており、左右非対称な形状を示している。
【0019】
図24は、従来の電子放出特性の解析システム及び解析方法として、アドレス放電遅れ時間の計測データtを入力し、形成遅れ時間と統計遅れ時間を解析するシステムと方法を示した図であり、以下の手順で実行される。
【0020】
(1)アドレス放電遅れ時間tと累積数の計測データを入力する。
【0021】
(2)アドレス放電遅れ時間tに対する累積数を計算し、アドレス放電遅れ時間tに対する既放電確率を算出する。
【0022】
(3)既放電確率が1%になる時間t1%と95%になる時間t95%を算出する。
【0023】
(4)形成遅れ時間t=t1%、統計遅れ時間t=t95%−t1%を算出する。
【0024】
しかし、以上の現象論的な解釈は、形成遅れ時間と統計遅れ時間を混同して算出しており、解析法として不適当である。アドレス放電の高速動作に対する設計指針を定める際に、形成遅れ時間と統計遅れ時間を高精度に分離することが困難である。また、統計遅れ時間の決定要因である電子放出源の電子放出特性、例えば、電子放出源のエネルギー状態密度を同定することが困難である。さらに、複数種の電子放出源が存在する場合に、各電子放出源に対するエネルギー状態密度を同定することが不可能である。
【0025】
そこで、本発明の1つの目的は、電子放出特性の解析システム及び解析方法において、形成遅れ時間と統計遅れ時間を高精度に分離し、並びに、一つまたは複数の電子放出源のエネルギー状態密度を同定することができる技術を提供することにある。
【0026】
本発明の前記並びにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本願において開示される実施例のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0028】
すなわち、代表的な実施例による電子放出特性の解析システム及び解析方法は。下記の手順を用いて、一つまたは複数の電子放出源のエネルギー状態密度を解析するものである。
【0029】
(1)サスティン電圧印加後からアドレス電圧印加までの休止時間t、温度Tの計測条件に対するアドレス放電遅れ時間tの計測データを入力する。
【0030】
(2)各休止時間tと温度Tに対する計測データをもとに、アドレス放電遅れ時間毎の累積数を計算し、放電確率頻度と既放電確率を算出する。
【0031】
(3)プライミング電子の電子放出時定数texp(t,T)を算出する。
【0032】
(4)電子放出源のエネルギー状態密度の関数を設定し、エネルギー状態密度に対する活性化エネルギーの平均値、分散値と実効数の探索範囲と探索幅を設定する。
【0033】
(5)電子放出源のエネルギー状態密度とウインドウ関数のエネルギーに対する重なり積分によりtsth(t,T)を算出する。
【0034】
(6)休止時間tと温度Tの計測条件の総数に対して、計測データから求めたtexp(t,T)と計算から求めたtth(t,T)の平均二乗誤差が最小となる活性化エネルギーの平均値、分散値と実効数を決定する。
【発明の効果】
【0035】
代表的な実施例によれば、サスティン電圧印加後からアドレス電圧印加までの休止時間tと酸化膜(MgO等)の温度Tに対するアドレス放電遅れ時間tの計測データを用いて、一つまたは複数の電子放出源のエネルギー状態密度に対する活性化エネルギーの平均値、分散値と実効数を求めることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0037】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1による電子放出特性の解析システム及び解析方法において、その構成及び手順の一例を示すブロック図、図2はその解析システムのハードウエア構成の一例を示すブロック図である。
【0038】
まず、図1及び図2により、本実施の形態1による電子放出特性の解析システムの構成を説明する。本実施の形態1の解析システムは、例えば、PDPにおける酸化膜材料(MgO等)の電子放出源に対する電子放出特性の解析システムとされ、パーソナルコンピュータ2200と、計算装置102などから構成されている。パーソナルコンピュータ2200は、記憶装置を含む入力装置101と、画像処理装置を含む出力装置103などから構成される。計算装置102は、CPU装置2201と、記憶装置2202などから構成され、CPU装置2201と記憶装置2202は、データ転送用結合バス2204により接続されている。
【0039】
なお、図2では、複数の計算装置102が、データ転送用結合バス2205によりマトリクス状に接続される構成となっているが、これに限定されず、計算装置102は1つであってもよく、また、パーソナルコンピュータ2200内に設けてもよい。
【0040】
次に、図1及び図2により、本実施の形態1による電子放出特性の解析システムについて、その動作例を説明する。計算装置102において、記憶装置2202には電子放出特性の解析プログラムが記憶(保持)されており、パーソナルコンピュータ2200からの指示により、CPU装置2201がそのプログラムを読み出して演算処理を行う。その演算処理の結果は、記憶装置2202に保存される。演算処理に必要なデータ類は、パーソナルコンピュータ2200から、データ転送用結合バス2205を介して送信される。また、計算装置102における演算処理の結果は、データ転送用結合バス2205を介して、パーソナルコンピュータ2200に送信される。また、パーソナルコンピュータ2200において、演算処理に必要なデータは入力装置101から入力され、演算処理の結果は出力装置103で出力・表示される。
【0041】
図1に示すように、計算装置102における演算処理は、以下の手順で実行される。
【0042】
まず、ステップS102−1において、PDPパネルに対して計測した、サスティン電圧印加後からアドレス電圧印加までの休止時間tとMgOの温度Tに対するアドレス放電遅れ時間tの計測データを、入力装置101から計算装置102に入力する。
【0043】
次に、ステップS102−2において、計算装置102では、各休止時間tとMgOの温度Tに対する計測データをもとに、アドレス放電遅れ時間毎の累積数を計算し、放電確率頻度P(t)を算出する。
【0044】
図3に、放電確率頻度の最大値を1に規格化した放電確率頻度P(t)201を示した。放電確率頻度P(t)は、短時間側ではガウス関数型であるが、長時間側はテールを引いた非対称な形状である。この放電確率頻度P(t)と式(1)を用いて、既放電確率G(t)を算出する。図3には、既放電確率G(t)202を示した。既放電確率G(t)は、下に凸から上に凸の形状を示し、長時間側で傾きはなだらかになっている。
【0045】
【数7】

【0046】
ステップS102−3において、形成遅れ時間tの揺らぎを取り除き、プライミング電子の電子放出時定数texpを求めるために、
【0047】
【数8】

【0048】
を満たす長時間領域における既放電確率G(t)とその時刻tを用いる。ここで、taveは形成遅れ時間tの平均値、σtfは形成遅れ時間tの分散値である。形成遅れ時間の平均値taveと形成遅れ時間の分散値σtfは、アドレス電圧印加時にプライミング電子が存在するような短い休止時間tの計測データに対して、そのアドレス放電遅れ時間の平均値と分散値から求めることができる。図3に示すように、
【0049】
【数9】

【0050】
の長時間領域203を満たすta、tb、その既放電確率G(ta)とG(tb)、並びに、式(2)を用いて、プライミング電子の電子放出時定数texpを算出する。
【0051】
【数10】

【0052】
例えば、t=0.1ms、T=25℃の短い休止時間に対するアドレス放電遅れ時間の計測データでは、アドレス放電遅れ時間の平均値tave=0.59μs、分散値σtf=0.09μsである。そして、解析対象の計測条件t=50ms、T=25℃における既放電確率G(t)が63.2%と95%となる時刻t63.2とt95は夫々に0.84μsと1.45μsである。式(2)を用いて得られたtexp(t=50ms、T=25℃)は0.31μsである。よって、
【0053】
【数11】

【0054】
は0.71μsになることから、
【0055】
【数12】

【0056】
の長時間領域の条件を満たすことが分かる。
【0057】
同様にして、図4には、t=1ms、10ms、50msとT=−10℃、10℃、25℃、60℃の12個の計測条件に対する計測データから求めたプライミング電子の電子放出時定数texpをプロット301で示した。このようにして、休止時間tとMgOの温度Tにおける電子放出時定数texpを求めることができる。
【0058】
次に、電子放出源の種類jのエネルギー状態密度D(E)を解析する方法を述べる。計算から求められるプライミング電子の電子放出時定数tthは、次式(3)と(4)によりエネルギー状態密度D(E)と関係付けられる。
【0059】
【数13】

【0060】
【数14】

【0061】
ここで、fphは電子放出源のフォノン振動数、kはボルツマン定数である。また、W(E,t,T)は、休止時間tとMgOの温度Tの計測条件に対して、
【0062】
【数15】

【0063】
を中心に最大値e-1-1とエネルギー幅±数kTを有するウインドウ関数である。計測条件として、休止時間tを一定、MgOの温度Tを変化させた計測では、ウインドウ関数は、最大値e-1-1を一定としてエネルギーE(t,T)が推移する。一方、MgOの温度Tを一定、休止時間tを変化させた計測では、E(t,T)が推移しながら、最大値e-1-1も変化する。
【0064】
図5に、休止時間t=0.01ms、0.1ms、1ms、10ms、100ms、1000msとMgOの温度T=−10℃、0℃、10℃、20℃、30℃、40℃、60℃におけるウインドウ関数が最大となるエネルギー
【0065】
【数16】

【0066】
を示した。ここで、電子放出源のフォノン振動数fphは3.1×1013Hzとした。休止時間t=0.01msとMgOの温度T=−10℃では、ウインドウ関数が最大となるエネルギーは443meVである。また、休止時間t=1000msとMgOの温度T=60℃では、ウインドウ関数が最大となるエネルギーは892meVを表している。
【0067】
図6に示すように、電子放出時定数tthの逆数は、未知なる電子放出源のエネルギー状態密度Dj(E)401と計測条件で決定するウインドウ関数W(E,t,T)402のエネルギーに対する重なり積分を計算し、全電子放出源の種類jについて和を取ることに等しいことが分かる。
【0068】
ステップS102−4において、電子放出源のエネルギー状態密度Dj(E)として、式(5)のガウス関数を設定した場合において、図7の条件に従って、一つの電子放出源の種類jに対して、実効数Nee,j、活性化エネルギーの平均値ΔEa,j、活性化エネルギーの分散値σE,jを求める。このとき、これらパラメータ値を探索するために入力すべき探索範囲と探索幅、及び、個数について述べる。
【0069】
【数17】

【0070】
計測条件t=1ms、10ms、50ms、T=−10℃、10℃、25℃、60℃に対して、ウインドウ関数が最大となるエネルギーは526meV〜778meVの範囲となる。ウインドウ関数のエネルギー幅の3kTは約75meVなので、エネルギー領域は451meV〜853meVとなる。そこで、活性化エネルギーの平均値ΔEa,jの探索範囲として、計測条件により決定するE(t,T)の最小値−3kTからE(t,T)の最大値+3kTを包含する400meV〜900meVとした。また、計測条件により決定するE(t,T)のエネルギー間隔は、最小間隔は10.1meV、最大間隔は52.2meV、平均間隔は31.5meVなので、実験精度は高々30meV程度である。そこで、活性化エネルギーの平均値ΔEa,jと活性化エネルギーの分散値σE,jのエネルギーの探索幅を、E(t,T)のエネルギー間隔の平均値以下の10meVとした。さらに、実効数Nee,jは、計測条件tの時間オーダー幅が2桁程度なので、実効数の探索範囲はその時間オーダー幅である2桁として、1×10個/セル〜1×107個/セルとした。そこで、実効数Nee,jの探索点として、1×10個/セル、1.1×10個/セル、、2×10個/セル、2.1×10個/セル、、1×106個/セル、1.1×106個/セル、、2×106個/セル、2.1×106個/セル、、1×10個/セルの201個とした。以上より、活性化エネルギーの平均値ΔEa,jに対する探索範囲は400meV〜900meVを10meV幅で離散化した51個の探索点、活性化エネルギーの分散値σE,jに対する探索範囲は5〜100meVを10meV幅で離散化した10個の探索点、実効数Nee,jに対する探索範囲は1×10個/セル〜1×107個/セルを離散化した201個の探索点から構成され、探索範囲と探索幅、及び、全ての組み合わせとして約1×10個のパラメータ値を入力する。
【0071】
ステップS102−5において、活性化エネルギーの平均値ΔEa,j、活性化エネルギーの分散値σE,jと実効数Nee,jの各パラメータ値を設定した式(5)を式(3)に代入し、電子放出源のエネルギー状態密度Dj(E)とウインドウ関数W(E,t,T)のエネルギーに対する重なり積分を計算し、その逆数からtth(t,T)を求めることができる。ここで、一つの電子放出源の種類jのフォノン振動数を1.19×1013Hzとした。
【0072】
ステップS102−6において、休止時間tとMgOの温度Tの計測条件の総数N=12個に対して、式(6)で表された計測データから求めたtexp(t、T)と計算から求めたtth(t,T)の平均二乗誤差RMSDが最小となる活性化エネルギーの平均値ΔEa,j、活性化エネルギーの分散値σE,j、実効数Nee,jを求める。
【0073】
ΣN=12 {texp(t,T)-tth(t,T)} (6)
図8に、計測データから求めたtexp(t,T)をプロット301で、計算から求めたtth(t,T)を実線501で示した。両者は極めて良い一致を示している。結果的に、平均二乗誤差RMSDは最小値165nsであり、活性化エネルギーの平均値ΔEa,j=760meV、活性化エネルギーの分散値σE,j=55meV、実効数Nee,j=1.3×10個/セルであることが求められた。
【0074】
このようにして、図9に示すように、未知の電子放出源のエネルギー状態密度Dj(E)601として、活性化エネルギーの平均値ΔEa,j=760meV、活性化エネルギーの分散値σE,j=55meV、実効数Nee,j=1.3×10個/セルを出力装置103から出力・表示する。
【0075】
(実施の形態2)
図10は本発明の実施の形態2による電子放出特性の解析システム及び解析方法において、その構成及び手順の一例を示すブロック図である。
【0076】
本実施の形態2による電子放出特性の解析システムのハードウエア構成、及びその動作例は、前記実施の形態1と同じであるので、その説明を省略する。
【0077】
図10に示すように、本実施の形態2による計算装置102における演算処理は、以下の手順で実行される。
【0078】
ステップS102−1〜S102−3は、前記実施の形態1と同じである。ステップS102−1において、PDPパネルに対して計測した、休止時間tとMgOの温度Tに対するアドレス放電遅れ時間tの計測データを入力装置101から計算装置102に入力する。ステップS102−2において、各休止時間tとMgO温度Tに対する計測データをもとに、アドレス放電遅れ時間毎の累積数を計算し、放電確率頻度P(t)と既放電確率G(t)を算出する。ステップS102−3において、
【0079】
【数18】

【0080】
の長時間領域を満たすta、tb、その既放電確率G(ta)とG(tb)、並びに、式(2)を用いて、プライミング電子の電子放出時定数texpを算出する。
【0081】
図11に、計測条件t=1ms、10ms、50ms、T=−10℃、0℃、10℃、25℃、40℃、60℃において、18個の計測条件に対する計測データから求めたプライミング電子の電子放出時定数texpをプロット801で示した。
【0082】
ステップS102−4において、第1種の電子放出源のエネルギー状態密度D(E)として、次式(7)のガウス関数を設定した場合において、図7に従って、実効数Nee,1、活性化エネルギーの平均値ΔEa,1、活性化エネルギーの分散値σE,1を求める。このとき、これらパラメータ値を探索するために入力すべき探索範囲と探索幅、及び、個数について述べる。
【0083】
【数19】

【0084】
計測条件t=1ms、10ms、50ms、T=−10℃、0℃、10℃、25℃、40℃、60℃に対して、ウインドウ関数のエネルギー領域は451meV〜853meVの範囲となる。前記実施の形態1と同様に、活性化エネルギーの平均値ΔEa,1の探索範囲として、400meV〜900meVとした。また、計測条件により決定するE(t,T)のエネルギー間隔は、最小間隔は0.5meV、最大間隔は46.2meV、平均間隔は14.8meVなので、実験精度は高々10meV程度である。そこで、活性化エネルギーの平均値ΔEa,1と活性化エネルギーの分散値σE,1のエネルギーの探索幅を、E(t,T)のエネルギー間隔の平均値以下の5meVとした。
【0085】
次に、実効数Nee,1は、計測条件の時間オーダー幅が2桁程度なので、実効数の探索範囲はその時間オーダー幅である2桁として、1×10個/セル〜1×107個/セルを離散化した201個とした。以上より、活性化エネルギーの平均値ΔEa,1に対する探索範囲は400meV〜900meVを5meV幅で離散化した101個の探索点、活性化エネルギーの分散値σE,1に対する探索範囲は5〜100meVを5meV幅で離散化した20個の探索点、実効数Nee,1に対する探索範囲は1×10個/セル〜1×107個/セルを離散化した201個の探索点から構成され、探索範囲と探索幅、及び、全ての組み合わせとして約4.1×10個のパラメータ値を入力する。
【0086】
ステップS102−5では、活性化エネルギーの平均値ΔEa,1、活性化エネルギーの分散値σE,1と実効数Nee,1の各パラメータ値を設定した式(7)を式(3)に代入し、電子放出源のエネルギー状態密度D(E)とウインドウ関数W(E,t,T)のエネルギーに対する重なり積分を計算し、その逆数からt1,sth(t,T)を求めることができる。ここで、第1種の電子放出源のフォノン振動数を1.19×1013Hzとした。
【0087】
ステップS102−6において、休止時間tとMgOの温度Tの計測条件の総数N=18に対して、式(8)で表された計測データから求めたtexp(t,T)と計算から求めたt1,s th(t,T)の平均二乗誤差RMSDが最小となる活性化エネルギーの平均値ΔEa,1、活性化エネルギーの分散値σE,1、実効数Nee,1を求める。
【0088】
ΣN=18 {texp(t,T)-t1,s th(t,T)} (8)
図12に、計測データから求めたtexp(t,T)をプロット801、計算から求めたt1,s th(t,T)を実線901で示した。両者は比較的良い一致を示している。結果的に、平均二乗誤差RMSDは最小値115nsであり、活性化エネルギーの平均値ΔEa,1=780meV、活性化エネルギーの分散値σE,1=95meV、実効数Nee,1=1.0×10個/セルであることが求められた。
【0089】
このようにして、図13に示すように、第1種の電子放出源のエネルギー状態密度D(E)の実線1001に対して、活性化エネルギーの平均値ΔEa,1=780meV、活性化エネルギーの分散値σE,1=95meV、実効数Nee,1=1.0×10個/セルを出力装置103から出力・表示する。
【0090】
次に、新しい電子放出源が存在すると考えられる場合は、図10に示したステップS102−7に従って、ステップS102−4に戻り、第2種の電子放出源のエネルギー状態密度D(E)として、次式(9)のガウス関数を設定した場合において、図7に従って、実効数Nee,2、活性化エネルギーの平均値ΔEa,2、活性化エネルギーの分散値σE,2を求める。このとき、これらパラメータ値を探索するために入力すべき探索範囲と探索幅、及び、個数について述べる。
【0091】
【数20】

【0092】
計測条件t=1ms、10ms、50ms、T=−10℃、0℃、10℃、25℃、40℃、60℃に対して、第1種の電子放出源に対して述べたと同様に、活性化エネルギーの平均値ΔEa,2に対する探索範囲は400meV〜900meVを5meV幅で離散化した101個の探索点、活性化エネルギーの分散値σE,2に対する探索範囲は5〜100meVを5meV幅で離散化した20個の探索点、実効数Nee,2に対する探索範囲は1×10個/セル〜1×107個/セルを離散化した201個の探索点から構成され、探索範囲と探索幅、及び、全ての組み合わせとして約4.1×10個のパラメータ値を入力する。
【0093】
ステップS102−5において、活性化エネルギーの平均値ΔEa,2、活性化エネルギーの分散値σE,2と実効数Nee,2の各パラメータ値を設定した式(9)を式(3)に代入し、電子放出源のエネルギー状態密度D(E)とウインドウ関数W(E,t,T)のエネルギーに対する重なり積分を計算し、その逆数からt2,sth(t,T)を求めることができる。ここで、第2種の電子放出源のフォノン振動数を3.1×1013Hzとした。
【0094】
ステップS102−6において、休止時間tとMgOの温度Tの計測条件の総数N=18個に対して、式(10)で表された計測データから求めたtexp(t、T)と計算から求めたt1,s th(t,T)とt2,sth(t,T)の和に対する平均二乗誤差RMSDが最小となる活性化エネルギーの平均値ΔEa,2、活性化エネルギーの分散値σE,2、実効数Nee,2を求める。
【0095】
ΣN=18 {texp(t,T)-t1,s th(t,T)-t2,s th(t,T)} (10)
図14に、計測データから求めたtexp(t,T)をプロット801、計算から求めたt th(t,T)=t1,s th(t,T)+t2,s th(t,T)を実線1001で示した。両者は極めて良い一致を示している。結果的に、平均二乗誤差RMSDは最小値95nsに減少しており、活性化エネルギーの平均値ΔEa,2=550meV、活性化エネルギーの分散値σE,2=20meV、実効数Nee,2=2.0×10個/セルであることが求められた。
【0096】
このようにして、図15に示すように第1種と第2種の電子放出源のエネルギー状態密度D(E)の実線1001と、D(E)の実線1201に対して、活性化エネルギーの平均値ΔEa,1=780meV、活性化エネルギーの分散値σE,1=95meV、実効数Nee,1=1.0×10個/セル、並びに、活性化エネルギーの平均値ΔEa,2=550meV、活性化エネルギーの分散値σE,2=20meV、実効数Nee,2=2.0×10個/セルを出力装置103から出力・表示する。
【0097】
(実施の形態3)
図16は本発明の実施の形態3による電子放出特性の解析システム及び解析方法において、その構成及び手順の一例を示すブロック図である。
【0098】
本実施の形態3による電子放出特性の解析システムのハードウエア構成、及びその動作例は、前記実施の形態1と同じであるので、その説明を省略する。
【0099】
図16に示すように、本実施の形態3による計算装置102における演算処理は、以下の手順で実行される。
【0100】
ステップS102−1〜S102−3は、前記実施の形態1と同じである。ステップS102−1において、PDPパネルに対して計測した、休止時間tとMgOの温度Tに対するアドレス放電遅れ時間tの計測データを入力装置101から計算装置102に入力する。ステップS102−2において、各休止時間tとMgOの温度Tに対する計測データをもとに、アドレス放電遅れ時間毎の累積数を計算し、放電確率頻度P(t)と既放電確率G(t)を算出する。ステップS102−3において、
【0101】
【数21】

【0102】
の長時間領域を満たすta、tb、その既放電確率G(ta)とG(tb)、並びに、式(2)を用いて、プライミング電子の電子放出時定数texpを算出する。
【0103】
図17に、計測条件t=16ms、T=−10℃、−5℃、0℃、5℃、10℃、20℃において、6個の計測条件に対する計測データから求められたプライミング電子の電子放出時定数texpをプロット1401で示した。
【0104】
ステップS1302−4において、第1種の電子放出源のエネルギー状態密度D(E)として、式(11)のδ関数を設定した場合において、実効数Neeと活性化エネルギーの平均値ΔEを求める方法について述べる。
【0105】
【数22】

【0106】
式(3)と式(11)を用いて、次式(12)が与えられる。
【0107】
【数23】

【0108】
ステップS1302−5において、横軸1/kT、縦軸
【0109】
【数24】

【0110】
を取る。ここで、電子放出源のフォノン振動数を3.1×1013Hzとした。
【0111】
ステップS1302−6において、ある活性化エネルギーの平均値ΔEを仮定し得られた各温度Tに対する
【0112】
【数25】

【0113】
の値を計算し、最小二乗誤差でフィットした直線1402の傾きはΔEである。そのΔEをもとに、再度、各温度Tに対する
【0114】
【数26】

【0115】
の値を計算し、最小二乗誤差でフィットした直線1402の傾きΔEを求める。この反復計算に対する収束値から、傾きΔEと切片ln(fphee)からNeeを求めることができる。
【0116】
図17に示したように、最小二乗フィットしたときの相関係数は約0.96と極めて高い相関関係を得ており、活性化エネルギーの平均値ΔEは661meV、実効数Neeは6.2×10個/セルであることが求められた。このようにして、電子放出源のエネルギー状態密度D(E)として、活性化エネルギーの平均値ΔE=661meV、実効数Nee=6.2×10個/セルを出力装置103から出力・表示する。
【0117】
(実施の形態1〜3の効果)
したがって、前記実施の形態1〜3による電子放出特性の解析システム及び解析方法によれば、サスティン電圧印加後からアドレス電圧印加までの休止時間tと酸化膜(MgO等)の温度Tに対するアドレス放電遅れ時間tの計測データを用いて、一つまたは複数の電子放出源のエネルギー状態密度に対する活性化エネルギーの平均値、分散値と実効数を求めることが可能になる。
【0118】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。また、前記実施の形態1〜3をそれぞれ適宜組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明は、PDPや不純物準位の計測装置における酸化膜材料(MgO等)、イオン結晶材料、及び半導体材料等の電子放出源に対する電子放出特性の解析に効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】本発明の実施の形態1による電子放出特性の解析システム及び解析方法において、その構成及び手順の一例を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態1による電子放出特性の解析システム及び解析方法において、その解析システムのハードウエア構成の一例を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態1による電子放出特性の解析システム及び解析方法において、既放電確率を用いたプライミング電子の電子放出時定数解析の説明図である。
【図4】本発明の実施の形態1による電子放出特性の解析システム及び解析方法において、計測データから求めたプライミング電子の電子放出時定数を示すプロット図である。
【図5】本発明の実施の形態1による電子放出特性の解析システム及び解析方法において、休止時間tと温度Tに対するウインドウ関数が最大となるエネルギーを示す図である。
【図6】本発明の実施の形態1による電子放出特性の解析システム及び解析方法において、電子放出源のエネルギー状態密度とウインドウ関数のエネルギー重なり積分の説明図である。
【図7】本発明の実施の形態1による電子放出特性の解析システム及び解析方法において、活性化エネルギーの平均値、分散値と実効数の探索範囲と探索幅を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態1による電子放出特性の解析システム及び解析方法において、電子放出源に対して計算(実線)から求めたプライミング電子の電子放出時定数と計測データ(プロット)から求めたプライミング電子の電子放出時定数の比較図である。
【図9】本発明の実施の形態1による電子放出特性の解析システム及び解析方法において、電子放出源のエネルギー状態密度を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態2による電子放出特性の解析システム及び解析方法において、その構成及び手順の一例を示すブロック図である。
【図11】本発明の実施の形態2による電子放出特性の解析システム及び解析方法において、計測データから求めたプライミング電子の電子放出時定数を示すプロット図である。
【図12】本発明の実施の形態2による電子放出特性の解析システム及び解析方法において、第1種の電子放出源に対して計算(実線)から求めたプライミング電子の電子放出時定数と計測データ(プロット)から求めたプライミング電子の電子放出時定数の比較図である。
【図13】本発明の実施の形態2による電子放出特性の解析システム及び解析方法において、第1種の電子放出源に対するエネルギー状態密度を示す図である。
【図14】本発明の実施の形態2による電子放出特性の解析システム及び解析方法において、第1種と第2種の電子放出源に対して計算(実線)から求めたプライミング電子の電子放出時定数と計測データ(プロット)から求めたプライミング電子の電子放出時定数の比較図である。
【図15】本発明の実施の形態2による電子放出特性の解析システム及び解析方法において、第1種と第2種の電子放出源に対するエネルギー状態密度を示す図である。
【図16】本発明の実施の形態3による電子放出特性の解析システム及び解析方法において、その構成及び手順の一例を示すブロック図である。
【図17】本発明の実施の形態3による電子放出特性の解析システム及び解析方法において、プライミング電子放出時定数の温度依存性を用いた電子放出源の活性化エネルギーと実効数の解析図である。
【図18】本発明の前提として検討した3電極構造のAC面放電型プラズマディスプレイパネルの一部の構造を示す斜視図である。
【図19】本発明の前提として検討したプラズマディスプレイ装置の概略構成を示すブロック図である。
【図20】(A),(B)は、本発明の前提として検討したプラズマディスプレイ装置において、プラズマディスプレイパネルに画像を表示する1ТVフィールド期間の駆動回路の動作を説明するための図である。
【図21】本発明の前提として検討したプラズマディスプレイ装置のプラズマディスプレイパネルの電圧シーケンスと放電電流波形を示す図である。
【図22】本発明の前提として検討したMgOと電子放出源の結晶構造を示す図である。
【図23】本発明の前提として検討したアドレス放電遅れ時間の計測データに対する累積数、及び、既放電確率を用いた統計遅れ時間tと形成遅れ時間tfの解析方法を示す図である。
【図24】本発明の前提として検討した電子放出特性の解析システム及び解析方法において、その構成及び手順の一例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0121】
101 入力装置
102 計算装置
103 出力装置
201 放電確率頻度
202 既放電確率
203 長時間領域
301,801,1401 プロット
501,901,1001,1201 実線
1402 直線
401,601 電子放出源のエネルギー状態密度
402 ウインドウ関数
1501 前面基板
1502 X電極
1503 Y電極
1504 Xバス電極
1505 Yバス電極
1506 前面誘電体
1507 保護膜
1508 背面基板
1509 アドレス電極(A電極)
1510 背面誘電体
1511 隔壁
1512 蛍光体
1513 放電空間
1600 プラズマディスプレイパネル(PDP)
1601 駆動回路
1602 プラズマディスプレイ装置
1603 映像源
1700 1ТVフィールド期間
1701〜1708 サブフィールド
1709 リセット放電期間
1710 アドレス放電期間
1711 維持放電期間
1801 Y電極に印加する電圧波形
1802 A電極に印加する電圧波形
1803 アドレス放電電流
1804,1805 駆動電圧波形
1803 サスティン放電電流
1901 Mg原子
1902 酸素(O)原子
1903 置換構造
2200 パーソナルコンピュータ
2201 CPU装置
2202 記憶装置
2204,2205 データ転送用結合バス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
演算処理を実行するCPUと、前記CPUが実行するプログラム及びデータを保持する記憶装置と、前記CPUと前記記憶装置を結合するバスと、を有する計算装置と、
前記データを入力するための入力装置と、
前記計算装置における演算結果を出力するための出力装置と、を有し、
前記プログラムは、一つまたは複数の電子放出源のエネルギー状態密度を解析するプログラムであり、
サスティン電圧印加後からアドレス電圧印加までの休止時間tと温度Tとの計測条件に対するアドレス放電遅れ時間tの計測データを入力する第1ステップと、
前記休止時間tと前記温度Tとに対する前記計測データをもとに、アドレス放電遅れ時間毎の累積数を計算し、放電確率頻度と既放電確率とを算出する第2ステップと、
前記既放電確率をもとに、プライミング電子の第1電子放出時定数texp(t,T)を算出する第3ステップと、
前記電子放出源のエネルギー状態密度の関数を設定し、エネルギー状態密度に対する活性化エネルギーの平均値と分散値と、実効数の探索範囲と探索幅とを設定する第4ステップと、
前記電子放出源のエネルギー状態密度とウインドウ関数とのエネルギーに対する重なり積分により、プライミング電子の第2電子放出時定数tsth(t,T)を算出する第5ステップと、
前記休止時間tと前記温度Tとの計測条件の総数に対して、前記第1電子放出時定数texp(t,T)と前記第2電子放出時定数t th(t,T)との平均二乗誤差が最小となる活性化エネルギーの平均値と分散値と実効数とを決定する第6ステップと、を有することを特徴とする電子放出特性の解析システム。
【請求項2】
請求項1記載の電子放出特性の解析システムにおいて、
前記第3ステップにおいて、
【数1】

を満たす長時間領域における既放電確率G(t)とその時刻tとを用いて、前記第1電子放出時定数texp(t,T)を算出し、
アドレス電圧印加時にプライミング電子が存在するような短い休止時間tの計測データに対して、taveはアドレス放電遅れ時間の平均値、σtfはアドレス放電遅れ時間の分散値であることを特徴とする電子放出特性の解析システム。
【請求項3】
請求項2記載の電子放出特性の解析システムにおいて、
前記第3ステップにおいて、
既放電確率G(t)が63.2%以上であるG(t)とその時刻tを用いて、前記第1電子放出時定数texp(t,T)を算出することを特徴とする電子放出特性の解析システム。
【請求項4】
請求項1記載の電子放出特性の解析システムにおいて、
前記第4ステップにおいて、
前記電子放出源のエネルギー状態密度としてガウス関数を設定し、一つの電子放出源の種類jに対して、実効数Nee,j、活性化エネルギーの平均値ΔEa,j、活性化エネルギーの分散値σE,jのパラメータ値を探索するときに、入力すべき探索範囲と探索幅を設定することを特徴とする電子放出特性の解析システム。
【請求項5】
請求項4記載の電子放出特性の解析システムにおいて、
前記第4ステップにおいて、
前記電子放出源のエネルギー状態密度としてガウス関数を設定し、活性化エネルギーの平均値ΔEa,jの探索範囲として、計測条件により決定するE(t,T)の最小値−3kTからE(t,T)の最大値+3kTを包含するエネルギー範囲を設定し、
【数2】

およびfphは電子放出源のフォノン振動数、kはボルツマン定数であることを特徴とする電子放出特性の解析システム。
【請求項6】
請求項4記載の電子放出特性の解析システムにおいて、
前記第4ステップにおいて、
前記電子放出源のエネルギー状態密度としてガウス関数を設定し、活性化エネルギーの平均値ΔEa,jと活性化エネルギーの分散値σE,jのエネルギーの探索幅を、E(t,T)のエネルギー間隔の平均値以下に設定することを特徴とする電子放出特性の解析システム。
【請求項7】
請求項4記載の電子放出特性の解析システムにおいて、
前記第4ステップにおいて、
前記電子放出源のエネルギー状態密度としてガウス関数を設定し、実効数Nee,jの探索範囲として、前記休止時間tの時間オーダー幅を設定することを特徴とする電子放出特性の解析システム。
【請求項8】
請求項1記載の電子放出特性の解析システムにおいて、
第1種の電子放出源のエネルギー状態密度に対するプライミング電子の第3電子放出時定数t1,sth(t,T)を算出し、実効数Nee,1、活性化エネルギーの平均値ΔEa,1、活性化エネルギーの分散値σE,1を決定した後、前記第4ステップに戻り、第2種の電子放出源のエネルギー状態密度としてガウス関数を設定し、プライミング電子の第4電子放出時定数t2,sth(t,T)を算出し、前記休止時間tと前記温度Tの計測条件の総数に対して、前記第1電子放出時定数texp(t,T)と前記第3電子放出時定数t1,sth(t,T)+前記第4電子放出時定数t2,sth(t,T)との平均二乗誤差が最小となる実効数Nee,2、活性化エネルギーの平均値ΔEa,2、活性化エネルギーの分散値σE,2を決定することを特徴とする電子放出特性の解析システム。
【請求項9】
請求項4記載の電子放出特性の解析システムにおいて、
前記電子放出源のエネルギー状態密度としてδ関数を設定し、横軸に1/kT、縦軸に
【数3】

を取り、最小二乗誤差でフィットした直線の傾きΔEと切片ln(fphee)とからNeeを決定することを特徴とする電子放出特性の解析システム。
【請求項10】
一つまたは複数の電子放出源のエネルギー状態密度を解析する電子放出特性の解析方法であって、
サスティン電圧印加後からアドレス電圧印加までの休止時間tと温度Tとの計測条件に対するアドレス放電遅れ時間tの計測データを入力する第1ステップと、
前記休止時間tと前記温度Tとに対する前記計測データをもとに、アドレス放電遅れ時間毎の累積数を計算し、放電確率頻度と既放電確率とを算出する第2ステップと、
前記既放電確率をもとに、プライミング電子の第1電子放出時定数texp(t,T)を算出する第3ステップと、
前記電子放出源のエネルギー状態密度の関数を設定し、エネルギー状態密度に対する活性化エネルギーの平均値と分散値と、実効数の探索範囲と探索幅とを設定する第4ステップと、
前記電子放出源のエネルギー状態密度とウインドウ関数とのエネルギーに対する重なり積分により、プライミング電子の第2電子放出時定数tsth(t,T)を算出する第5ステップと、
前記休止時間tと前記温度Tとの計測条件の総数に対して、前記第1電子放出時定数texp(t,T)と前記第2電子放出時定数tth(t,T)との平均二乗誤差が最小となる活性化エネルギーの平均値と分散値と実効数とを決定する第6ステップと、を有することを特徴とする電子放出特性の解析方法。
【請求項11】
請求項10記載の電子放出特性の解析方法において、
前記第3ステップにおいて、
【数4】

を満たす長時間領域における既放電確率G(t)とその時刻tとを用いて、前記第1電子放出時定数texp(t,T)を算出し、
アドレス電圧印加時にプライミング電子が存在するような短い休止時間tの計測データに対して、taveはアドレス放電遅れ時間の平均値、σtfはアドレス放電遅れ時間の分散値であることを特徴とする電子放出特性の解析方法。
【請求項12】
請求項11記載の電子放出特性の解析方法において、
前記第3ステップにおいて、
既放電確率G(t)が63.2%以上であるG(t)とその時刻tを用いて、前記第1電子放出時定数texp(t,T)を算出することを特徴とする電子放出特性の解析方法。
【請求項13】
請求項10記載の電子放出特性の解析方法において、
前記第4ステップにおいて、
前記電子放出源のエネルギー状態密度としてガウス関数を設定し、一つの電子放出源の種類jに対して、実効数Nee,j、活性化エネルギーの平均値ΔEa,j、活性化エネルギーの分散値σE,jのパラメータ値を探索するときに、入力すべき探索範囲と探索幅を設定することを特徴とする電子放出特性の解析方法。
【請求項14】
請求項13記載の電子放出特性の解析方法において、
前記第4ステップにおいて、
前記電子放出源のエネルギー状態密度としてガウス関数を設定し、活性化エネルギーの平均値ΔEa,jの探索範囲として、計測条件により決定するE(t,T)の最小値−3kTからE(t,T)の最大値+3kTを包含するエネルギー範囲を設定し、
【数5】

およびfphは電子放出源のフォノン振動数、kはボルツマン定数であることを特徴とする電子放出特性の解析方法。
【請求項15】
請求項13記載の電子放出特性の解析方法において、
前記第4ステップにおいて、
前記電子放出源のエネルギー状態密度としてガウス関数を設定し、活性化エネルギーの平均値ΔEa,jと活性化エネルギーの分散値σE,jのエネルギーの探索幅を、E(t,T)のエネルギー間隔の平均値以下に設定することを特徴とする電子放出特性の解析方法。
【請求項16】
請求項13記載の電子放出特性の解析方法において、
前記第4ステップにおいて、
前記電子放出源のエネルギー状態密度としてガウス関数を設定し、実効数Nee,jの探索範囲として、前記休止時間tの時間オーダー幅を設定することを特徴とする電子放出特性の解析方法。
【請求項17】
請求項10記載の電子放出特性の解析方法において、
第1種の電子放出源のエネルギー状態密度に対するプライミング電子の第3電子放出時定数t1,sth(t,T)を算出し、実効数Nee,1、活性化エネルギーの平均値ΔEa,1、活性化エネルギーの分散値σE,1を決定した後、前記第4ステップに戻り、第2種の電子放出源のエネルギー状態密度としてガウス関数を設定し、プライミング電子の第4電子放出時定数t2,sth(t,T)を算出し、前記休止時間tと前記温度Tの計測条件の総数に対して、前記第1電子放出時定数texp(t,T)と前記第3電子放出時定数t1,sth(t,T)+前記第4電子放出時定数t2,sth(t,T)との平均二乗誤差が最小となる実効数Nee,2、活性化エネルギーの平均値ΔEa,2、活性化エネルギーの分散値σE,2を決定することを特徴とする電子放出特性の解析方法。
【請求項18】
請求項13記載の電子放出特性の解析方法において、
前記電子放出源のエネルギー状態密度としてδ関数を設定し、横軸に1/kT、縦軸に
【数6】

を取り、最小二乗誤差でフィットした直線の傾きΔEと切片ln(fphee)とからNeeを決定することを特徴とする電子放出特性の解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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