説明

電子機器、その調整値設定方法、および製造治具

【課題】電子機器の製造工程毎に必要な処理が当該電子機器内部で明確になるようにするとともに、各製造工程での最適な待ち時間の調整を不要にする。
【解決手段】移動機などの電子機器内に、その製造段階における複数の工程の工程毎にタスク生成順序を定めたタスク生成順序情報、および、どのタスクの生成後に工程開始指示を出力するかを定めた必要タスク指定情報を含むデータテーブルを不揮発的に保存する。電子機器の電源ON時に、指定された工程に対応するデータテーブルを参照して当該データテーブルに定められたタスク生成順序にタスクを生成する。必要タスク指定情報で指定されたタスクの生成完了時に工程開始指示を製造治具に送出する。電子機器は、製造治具からの指示に応じて当該工程に対応した処理を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話端末等の電子機器に係り、特に、電子機器の製造段階に製造治具から調整値を設定する電子機器の調整値設定方法、およびそのための製造治具に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話端末(移動機ともいう)は、通話、電子メール、ウェブ閲覧、個人情報管理、メモ、カメラ撮影、GPS、電子マネー、音楽再生、等種々の機能を有し、現在では広く普及している。
【0003】
このような機能の多寡によらず、すべての携帯電話端末はコンピュータプログラム(広義にはソフトウェア)により制御されている。そのようなコンピュータプログラムは、携帯電話端末に内蔵されたメモリ内に不揮発的に格納されている。
【0004】
携帯電話端末の製造工程において、不揮発性メモリ(NV(non volatile)メモリ)へ調整値を書き込む工程が存在する(特許文献1参照)。
【0005】
携帯電話端末では、電源ON後に待ち受け状態に遷移したことで、製造工程で使用される治具からコマンドを受理することが可能となる。そのために各端末メーカは独自にコマンドを定義し、UARTやUSBなどの通信インタフェースを介して、不揮発性メモリへ調整値を書き込んでいる。
【0006】
不揮発性メモリへの調整値の書込の方法として、携帯電話端末が待ち受けに移行した時点で、移動機からシリアルコマンドを出力し、後位端末や製造治具へ、移動機が待ち受けに遷移したことを通知する。他方、後位端末や治具は、当該シリアルコマンド(待ち受け遷移完了コマンドと記す)を受信したことを契機として、所定のコマンド(工程対応処理実行要求と記す)を移動機に送出し、各製造工程で必要とされる処理を開始する。
【0007】
複数の機能からなる電子機器の工程検査装置において、エラーを多く検出した検査項目を早い順に検査するように検査の順序を入れ替える技術が提案されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平7−264123号公報
【特許文献2】特開2000−315715号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年では移動機のメモリ容量が肥大化し、電源ONから待ち受けに遷移するまで50秒程度の時間が必要であり、生産性が低下してしまうという問題が生じた。この為、製造工程では待ち受け状態に完全に遷移していない状態でもシリアルコマンドが送出できる状態になった時点で、待ち受け遷移完了コマンドを送出することが考えられる。この時点は、移動機内部ではまだタスク(Task)生成などの初期化が完全に完了していない段階である。
【0009】
しかし、各製造工程では移動機が持っているすべての機能を必要とするとは限らない。この為、製造工程の治具側で時間待ちを行い、各工程で必要とされる機能が立ち上がるであろう時間だけ待機(時間待ち)を行った後で、工程対応処理実行要求コマンドを発行して製造工程処理を実施している。
【0010】
製造工程では、モデル開発における各試作のマイルストーンで工程設計を実施し、この最適な待ち時間を決定している。各試作マイルストーンではソフトウェアが変更になっていることが通常である。よって、この待ち時間は移動機のソフトウエアが変更になることで、最適値を調整する必要が生じ、製造工程での煩雑な作業が発生してしまっている。
【0011】
本発明は、このような背景においてなされたものであり、移動機等の電子機器の製造工程毎に必要な処理が当該電子機器内部で明確になるようにするとともに、各製造工程での最適な待ち時間の調整を不要にしようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による電子機器は、電子機器の製造段階における複数の工程を実行するための製造治具と通信を行う接続手段と、前記複数の工程の工程毎にタスク生成順序を定めたタスク生成順序情報、および、どのタスクの生成後に工程開始指示を出力するかを定めた必要タスク指定情報を含むデータテーブルを保存する不揮発性メモリと、電源ON時に、指定された工程に対応するデータテーブルを参照して当該データテーブルに定められたタスク生成順序にタスクを生成するタスク生成手段と、前記必要タスク指定情報で指定されたタスクの生成完了時に工程開始指示を前記製造治具に送出する手段と、前記製造治具からの指示に応じて当該工程に対応した処理を実行する手段とを備えたものである。
【0013】
製造対象の電子機器内の不揮発性メモリに、予め工程毎にタスク生成順序を定めたタスク生成順序情報、および、どのタスクの生成後に工程開始指示を出力するかを定めた必要タスク指定情報をデータテーブルとして、に保存しておく。これにより、実行する工程毎に、データテーブルを参照してその工程の実行に必要となるタスクを先行して生成することが可能となる。また、その工程の必要タスク指定情報により、どのタスクを生成した段階で工程開始指示を発行すればよいかが、工程毎に定まる。これにより、個々の工程について、待ち時間を調整する必要なく、適正なタイミングで工程を開始することができる。
【0014】
電子機器は、ある工程の完了後に次に実行すべき工程を指定する工程指定情報を前記製造治具から受信したとき、当該工程指定情報を不揮発的に保存した後に電源をOFFする。これにより、前記タスク生成手段は、次の電源ON時に当該保存された工程指定情報に基づいて実行すべき工程および対応するデータテーブルを指定することができる。
【0015】
前記複数の工程の各々は、例えば、前記電子機器の複数のデバイスに初期的に設定することが必要なデータを不揮発的に記憶することを含む。
【0016】
本発明による電子機器の調整値設定方法は、電子機器においてその製造段階に製造治具から調整値を設定する電子機器の調整値設定方法であって、製造段階の複数の工程の工程毎にタスク生成順序を定めたタスク生成順序情報、および、どのタスクの生成後に工程開始指示を出力するかを定めた必要タスク指定情報を含むデータテーブルを不揮発的に保存するステップと、製造治具から、次に実行する工程に対応するデータテーブルを指定する情報を受信するステップと、電源ON時に前記指定されたデータテーブルを参照し、当該工程に対応するタスク生成順序情報および必要タスク指定情報を確認するステップと、確認された順序でタスクの生成を行うステップと、前記必要タスク指定情報で指定されたタスクの生成が完了した時点で電子機器が工程開始指示を製造治具に送出するステップと、製造治具からの指示に応じて当該工程に対応した処理を実行するステップとを備えたものである。
【0017】
また、本発明による製造治具は、電子機器の製造段階に調整値を設定する製造治具であって、電子機器に対して次に実行する工程に対応するデータテーブルを指定する情報を前記電子機器へ送信する手段と、前記電子機器から工程開始指示を受信する手段と、前記工程開始指示に応じて当該工程を実行し、前記調整値を前記電子機器へ設定する手段とを備えたものである。
【0018】
これらの以外の本発明の構成および作用効果については以下の記載から明かとなろう。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、電子機器の製造段階での工程毎にタスク生成順序情報および必要タスク指定情報を含むデータテーブルを用いることにより、電子機器の電源ONから工程処理を開始できる適正なタイミングを電子機器内部で生成することができる。これによって、製造治具との効率的インタフェースを実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。ここでは、本発明の電子機器の一例として携帯電話端末(以下、移動機ともいう)について説明する。
【0021】
図1に、移動機100および製造治具200の概略のハードウェア構成例を示す。
【0022】
移動機100は、制御部10、RF部11、操作部12、表示部13、不揮発性メモリ14、RAM15、音声処理部16、マイク17、スピーカ18、通信インタフェース(I/F)19等を備えている。移動機100は、UARTやUSBなどの通信インタフェース19を介して製造治具200に接続される。製造治具200は、移動機の複数のデバイスに初期的に設定することが必要なデータを不揮発的に記憶する工程を行うために利用される外部装置である。製造治具200は、後位端末や製造治具などの外部機器であり、代表して「製造治具」という。
【0023】
制御部10は、CPUやDSPなどのプロセッサを有し、移動機100の各部の制御を司る。
【0024】
RF部11は、制御部10の制御下で、アンテナ(図示せず)を介して基地局(図示せず)と無線による送受信を行う部位である。
【0025】
操作部12は、テンキーや各種の操作キー等を有し、ユーザによる指示や情報を制御部10に入力する機能を有する。
【0026】
表示部13は、例えばLCD、有機EL等の表示デバイスを有し、ユーザに対してテキスト、画像(静止画、動画)等の可視情報を表示する機能を有する。
【0027】
不揮発性メモリ14は、プログラムやデータを記憶する再書き込み可能なメモリであり、本実施の形態ではNAND型のフラッシュ(Flash)メモリを用いている。不揮発性メモリ14には、ブートプログラムを格納するブート領域、プログラム本体のコード(プログラムコード)を格納するプログラムと、その他必要なデータやプログラムを格納するためのストレージ(Storage)領域が存在する。ストレージ領域には、プログラムの他、例えば、電話帳、電子メール、ウェブコンテンツ、音楽、画像、等の各種のデータを格納することができる。本実施の形態では、後述するタスクテーブル600(図6)、処理パラメータであるn値も不揮発性メモリ14に保存される。
【0028】
RAM15はプログラムやデータを一時的に格納し、制御部10により利用されるメモリであり、たとえばSDRAM(Synchronous Dynamic Random Access Memory)である。
【0029】
音声処理部16は制御部10の制御下で通話や音楽再生等の音声処理を行い、マイク17からの音声入力、スピーカ18への音声出力を行う。
【0030】
その他、図示しないが、カメラ部、GPS部、非接触ICカード部、外部メモリ部、等を備えてもよい。電源回路については図示省略している。
【0031】
製造治具200は、基本的にはコンピュータ装置であり、CPU等の制御部20、移動機100の通信I/F19と通信を行う通信I/F21、キーボードなどの操作部22、LCD、有機EL等などの表示部23、メモリ、HDDなどの記憶装置を含みうる記憶部24を備えて構成される。電源回路については図示省略している。
【0032】
図2に示すように、移動機100の不揮発性メモリ14には製造段階でプログラム30がロードされる。さらに、電源ON後、NAND−Boot方式で起動される。すなわち、不揮発性メモリ14内のプログラム30はブートプログラムによるブート時にRAM15aへ実行可能コードとして展開され、RAM15上で実行される。より具体的には、制御部10およびRAM15に電源が供給されると、制御部10の組み込みロジックによって不揮発性メモリ14のブート領域の内容が制御部内蔵のメモリ領域(図示せず)に読み込まれて実行される。
【0033】
なお、NAND−Boot方式による起動は本発明において必須ではないが、起動時に相応の時間を要するので、本発明はこのような方式に適用して好適である。
【0034】
図3(a)(b)は移動機の起動時の処理として、本発明前の通常起動時と工程対応起動時の二つの処理を示している。
【0035】
電源ON(投入)後、上記の方式でブートプログラムによるブート処理が実行された後、ハードウェア(HW)が初期化される。その後、タスク1(Task1)からタスクN(TaskN)までを順番に生成(起動)していく。なお、タスクとは、一般にOSから見た処理の実行単位である。また、本実施の形態における工程とは、例えばRF部11、表示部13、カメラ部等の各デバイスに関連した調整値の設定等を行うRF工程、LCD工程、カメラ工程、等である。移動機は、すべてのタスクの生成が完了したときに、待ち受け状態に遷移完了した旨(すなわち移動機が動作可能であること)を示す待ち受け遷移完了コマンドを出力する。このコマンドは本発明における「工程開始指示」として外部の製造治具200へ出力され、所定の工程の開始の契機となる。
【0036】
しかしながら、近年の移動機はそのメモリサイズが増大していることより、完全に待ち受け状態に遷移するまで、相応の時間(約50秒程度)を要している。調整値の設定を行う製造工程での50秒の待ち時間は生産性を著しく低下させる。特に、異なる工程毎に移動機を再起動させる場合には再起動毎に待ち時間が発生する。したがって、再起動が必要な工程数が多いほどこの問題はより顕著となる。
【0037】
そこで、この図3(b)に示すように、すべてのタスクの生成が完了する前にシリアル信号が送出可能となった時点(例えばTask1,Task2の生成完了時点)で、移動機から待ち受け遷移完了コマンドを出力する。ただし、この時点ではシリアル信号が送出可能となっただけであり、移動機のソフトウエアが完全に起動したわけではない。後位端末や製造治具などの外部機器(代表して「製造治具」という)は、待ち受け遷移完了コマンドを受信後、その工程Xで移動機内部処理を実行するのに必要とされる待ち時間を待機(Wait)した後、工程Xの処理を実行する。すなわち、図3(b)に示した例のようにTask2の生成後にシリアル信号の送出が可能であっても、実行対象の工程Xで仮にTask5が生成されていることが必要であった場合は、図4に示すように、待ち受け遷移完了コマンドを受信後、移動機側でTask5が生成されるであろう時間T(秒)を製造治具で待機(Wait T)する。T秒間のWait実行後、製造治具はその工程Aでの処理を開始するために、製造調整用の工程A対応処理を実行するためのコマンドを移動機に対して送出する。
【0038】
しかし、製造治具側の調整処理が移動機ソフトウエアに依存する為、移動機ソフトウエアが変更となる毎に製造治具での調整が必要になる。また、製造治具側では、図4に示すT秒間のWaitはトライアル&エラーの結果、設定できるものであり、T秒間が本当に最適値であるかどうかは判断することができない。
【0039】
次に本発明の原理を説明する。図5は、移動機の製造工程の概略の手順を示している。
【0040】
まず、ソフトウエアを移動機内部に不揮発性メモリ上にロードし、逐次、複数の製造調整のための工程(ここでは工程A,B,C,D)の処理が続く。また、各製造工程では、移動機の再起動(電源off/on)が必要になっている。製造工程では、RF、カメラ、LCDなどの各種デバイスに対して、調整値を書き込む必要がある。その大部分はOSの起動が出来ていれば、全てのタスクが生成されている必要はなく、それぞれのデバイスを制御する為のタスクが生成されていれば足りる。
【0041】
移動機に実装されているタスクの数はその機能に準じて増大するが、ここでは一例として全タスクの数を10と仮定する。工程A(RF工程)、工程B(カメラ工程)、工程C(LCD工程)等において調整を行うものとする。
【0042】
それぞれの工程で調整を実行するために必要とされるタスクを、それぞれ、工程AではTask1とTask2とTask4、工程BではTask1とTask2とTask5とTask6、工程CではTask1とTask2とTask7とTask8とする。そこで、各工程では、その工程で必要とされるTaskを先行して生成することにより、工程実行に要する時間の短縮が期待できることになる。
【0043】
この為、移動機内部にタスク生成順序を規定するデータテーブルであるタスクテーブルを設け、各工程の終了時に次の起動時のタスク生成順序を指定するコマンド(Task_TBLn要求コマンド)をシリアル信号として製造治具から移動機に送出する。これにより、移動機のタスク生成順序を変更し、各工程に最適なタスク生成の構成を提供することが出来る。また各工程で実施する内容は、各工程依存である為、各工程で必要とされる最適なタスク生成順序は既知である。
【0044】
図6に、タスク生成順序を定めるデータテーブルとしてのタスクテーブル600の一例を示す。このタスクテーブル600は不揮発性メモリ14上に確保される。タスクテーブル600は、タスク生成順序の異なる工程毎に別途設けられる。各タスクテーブル600は、当該工程におけるタスク生成順序を定める順序指定部分601と、その順序の中で当該工程の実行に必要なタスクを示す必要タスク指定部分602を規定している
【0045】
Task_TBL1は、工程A向けの生成順序を定めるものであり、Task1→Task2→Task4が先行して生成され、その後、Task3→Task5→Task6→Task7→Task8→Task9→Task10を生成するように定義されている。
【0046】
また同様に、Task_TBL2は、工程B向けの生成順序を定めるものであり、Task_TBL3は工程C向けのタスク生成順序となる。デフォルトのテーブルとしてタスク生成順序が通常起動と同じ状態(Task_TBL_Default)も定義しておく。デフォルトのタスクテーブルについては、必要タスク指定部分602は最後のタスクなので、必要タスク指定部分602はなくてもよい。
【0047】
なお、実質的にこれらの各部分の機能が達成できれば、タスクテーブルの構成は図示の構成に限定されるものではない。
【0048】
ところで、タスク相互間で依存関係が存在する場合がある。たとえば上記の例でTask7を生成する為にはTask6の生成が必須といった関係である。そのような場合、Task7の機能のみが必要であっても、事前にTask6を生成するようなテーブルを作成すればよい。また、タスクテーブルは製造工程専用の動作に関するものであり、原則的に出荷後には必要なくなる。そこで、図示しないが、製造工程中にフラグがONとなる、製造工程中であることを示す“製造工程中フラグ”を設け、電源ON後にこのフラグがONか否かを判断することで、製造工程完了後はタスク生成順序の変更処理を無効とすることが可能となる。すなわち、製造工程の完了後にこのフラグをOFFにすることにより、一般ユーザが使用するモードではタスクテーブルの機能は無効とすることができる。
【0049】
また、製造工程では途中でNGが発生した場合、リトライなどの実施により再度同じ工程を実行する場合がある。この為、同一工程において一回目がNGだった場合、続けて同一処理を実施する場合はタスクテーブルの変更は不要である。しかし、このような場合、再投入された工程とタスクテーブルの不整合が発生し、問題が生じる可能性がある。
【0050】
この為、工程NGが発生した場合でリトライを実施する場合は、製造治具から、同一のタスク生成順序を要求するコマンド(同一タスクテーブル要求コマンド)を発行する。このコマンドを移動機で受理後、次の電源ONにより、当該製造工程と同一のタスク生成順序で起動する。すなわち工程Aにおいて、同一タスクテーブル要求コマンドを受信した場合は、再度Task_TBL1を次回起動時も利用することになる。またリトライを実施しない場合は、タスク生成順序を要求するコマンドを発行しないこととする。
【0051】
製造治具から、タスクテーブルの選択要求が来ない場合は、デフォルトのタスク生成順序で起動させるものとする(Task_TBL_defaultを選択)。デフォルトのタスク生成順序とは、上記の様にタスクが10個の場合はTask1から順番にTask10を生成させることをさす。これは通常のタスク起動と同一である。製造治具からタスク生成順序を指定するコマンドが来ない場合、移動機はデフォルトのタスク生成順序で起動を行うことにより、直前に実行された工程中にNGが発生し、異なる工程へ再投入された場合でも、タスク生成の整合性が確保される。
【0052】
図7により本発明における工程対応起動時の処理例を説明する。ここでは工程Aの例を示している。
【0053】
図4と対比して分かるように、本発明では個々の工程に応じてタスクテーブルによりタスク生成順序と必要タスクとを指定するので、移動機は待ち受け遷移完了コマンドを適正なタイミングで送出することができる。したがって、この待ち受け遷移完了コマンドを受けた製造治具はWaitを行う必要なく、直ちに当該工程を開始することができる。
【0054】
図8に、本実施の形態における移動機の電源ON時の動作例を表すフローチャートを示す。この処理は制御部10の処理により実現される。移動機には通信インタフェースを介して製造治具が接続されているものとする。
【0055】
まず、ハードウェアの初期化を行う(S11)。ついで、n値を参照して対応するタスクテーブルを取得する(S12)。「n値」とはタスクテーブル、ひいては工程を識別するための情報であり、ここでは製造治具200から移動機100へ送信されるTask_TBLn要求コマンドにより指定される。nの初期値はデフォルトを表す数値(例えば0)である。
【0056】
その後、当該タスクテーブル600の順序指定部分601に指定された順序でタスクを生成する(S13)。必要なタスクの生成が完了したら(S14,Yes)、待ち受け遷移完了コマンドを製造治具に送出する(S15)。必要なタスクの生成が完了したか否かの判定は、当該タスクテーブル600の必要タスク指定部分602に指定されたタスクが生成された否かで判断できる。その後、残りのタスクがあれば、それらのタスクを生成する(S16)。
【0057】
また、製造治具からの指示があれば、その指示にしたがって当該工程に対応する処理を実行する(S17)。この処理は、「残りのタスク」の生成処理と並行して実行可能である。
【0058】
工程処理の完了後、タスクテーブル要求コマンドを受信した場合(S18,Yes)、それが現在保存しているn値と同じn値の「同一タスクテーブル要求コマンド」かどうかをチェックする(S19)。同一タスクテーブル要求コマンドを受信した場合は、工程NGかつ同一工程のリトライと判断し、現在のタスク生成順序、すなわち現在保持しているn値を維持して(S23)、電源をOFFする(S21)。同じでなければ、新たなn値を不揮発的に記憶する(S20)。次の電源ONによる立ち上がりでTask_TBLnで指定されるタスク生成順序に従って移動機が起動される。
【0059】
ステップS18で、タスクテーブル要求コマンドを受信しなかったと判断された場合、デフォルトのタスクテーブルを指定して(S22)、電源をOFFする(S21)。タスクテーブル要求コマンドを受信しなかったことの判断は、次のように行うことができる。例えば、製造治具とのインタフェースにおいて工程完了を示す工程完了コマンドを定義し、製造治具から工程完了コマンドを受信したことで、その工程が終了したと判断する。このときまでにタスクテーブル要求コマンドを受信していなければ、「受信しなかった」と判断する。一方、ステップS17の実行後にタイマ(制御部10内)を起動し、工程完了コマンドを受信する前であってもタスクテーブル要求コマンドを受信する前にこのタイマが満了したとき、「受信しなかった」と判断する。タスク生成順序をデフォルトへ復旧させることにより、製造工程において、どの工程に再投入されても問題がないことが保証出来る。
【0060】
電源OFF後は、再度電源ONされて次の工程へ移行する。
【0061】
図9に、図5の例に対応する移動機と製造治具の具体的な処理のシーケンスを表した図を示す。
【0062】
まず、移動機の不揮発性メモリに対して通信インタフェースを介してソフトウェアをロードする(S31)。その後、電源OFFして再度電源ONすることにより、再起動を行う(S32)。この時点でn=0なので、デフォルトのタスクテーブルが選択され、すべてのタスク1〜10がその順番に生成される(S33)。タスク10の生成後に待ち受け遷移完了コマンドが製造治具へ送信される(S34)。
【0063】
これに応じて製造治具は工程0対応処理実行要求コマンドを移動機に対して送信するとともに(S61)、工程0の実行を開始する(S62)。工程0は、移動機へのソフトウェアロード完了後にアプリケーションが扱うパラメータ(NANDメモリ上)などを初期化する処理を実行するものである。また、ファイルシステムの初期化など、初回の1回目起動時のみ必要な処理も工程0に含まれる。このコマンドを受信した移動機は工程0に対応した処理を実行する(S35)。製造治具は、工程0の実行後に次のタスクテーブル(ここではTask_TBL1)を要求するタスクテーブル要求コマンドを移動機へ送信する(S63)。タスクテーブル要求コマンドは工程対応のタスクテーブルを指定するので、このコマンドは本発明の「工程指定情報」としても機能する。移動機はこのコマンドに応じてn値を1として不揮発的に記憶する(S36)。その後、移動機の再起動のための電源OFF/ONが行われる(S37)。
【0064】
この電源再投入によりn値が確認され、このn値に対応するタスクテーブルが選択され、このテーブルに規定されたタスクの順序でタスクが生成される(S38)。この例ではn=1なのでTask_TBL1が選択され、Task1,2,4が先行して生成される。Task4が生成された時点で待ち受け遷移完了コマンドが製造治具に送信される(S39)。これに応じて、製造治具は、Task_TBL1に対応する工程Aの対応処理を実行するよう移動機へ要求する(S64)。製造治具は工程Aを実行し(S65)、これに応じた処理を移動機が実行する(S40)。この工程Aは上述したように例えばRF部に対する調整値の決定および書込等の処理である。製造治具は工程Aの実行後に次の工程に対応したタスクテーブル(ここではTask_TBL2)を要求するコマンドを移動機へ送信する(S66)。移動機はこのコマンドに応じてn値を2として不揮発的に記憶する(S41)。その後、移動機の再起動のための電源OFF/ONが行われる(S42)。
【0065】
この電源再投入によりn値が確認され、このn値に対応するタスクテーブルが選択され、このテーブルに規定されたタスクの順序でタスクが生成される(S43)。この例ではn=2なのでTask_TBL2が選択され、Task1,2,5,6が先行して生成される。Task6が生成された時点で待ち受け遷移完了コマンドが製造治具に送信される(S44)。これに応じて、製造治具は、Task_TBL2に対応する工程Bの対応処理を実行するよう移動機へ要求する(S67)。製造治具は工程Bを実行し(S68)、これに応じた処理を移動機が実行する(S45)。この工程Bは上述したように例えばカメラ部に対する調整値の決定および書込等の処理である。製造治具は工程Bの実行後に次の工程に対応したタスクテーブル(ここではTask_TBL3)を要求するコマンドを移動機へ送信する(S69)。移動機はこのコマンドに応じてn値を3として不揮発的に記憶する(S46)。その後、移動機の再起動のための電源OFF/ONが行われる(S47)。
【0066】
さらに、この電源再投入によりn値が確認され、このn値に対応するタスクテーブルが選択され、このテーブルに規定されたタスクの順序でタスクが生成される(S48)。この例ではn=3なのでTask_TBL3が選択され、Task1,2,7,8が先行して生成される。Task8が生成された時点で待ち受け遷移完了コマンドが製造治具に送信される(S49)。これに応じて、製造治具は、Task_TBL3に対応する工程Cの対応処理を実行するよう移動機へ要求する(S70)。製造治具は工程Cを実行し(S71)、これに応じた処理を移動機が実行する(S50)。この工程Cは上述したように例えばLCD部に対する調整値の決定および書込等の処理である。製造治具は工程Cの実行後に次の工程に対応したタスクテーブル(ここではTask_TBL4)を要求するコマンドを移動機へ送信する(S72)。移動機はこのコマンドに応じてn値を4として不揮発的に記憶する(S51)。その後、移動機の再起動のための電源OFF/ONが行われる(S52)。
【0067】
同様にして最後の工程まで処理が継続する。
【0068】
以上説明した実施の形態によれば、各工程で要求される処理に準じて移動機の起動時のタスク生成順序を制御して待ち受け遷移完了コマンドを製造治具に送信することによって、より適正なタイミングで製造治具による各工程での処理を開始できる。また、各工程におけるタクト(処理時間)も最適にすることが可能となる。現状の擬似待ち受け遷移完了コマンドにおいては、Wait時間含めて工程処理の開始までに30−40秒の時間待ちが必要であったが、本実施の形態では電源ONから製造調整処理を開始できるまでの時間は10−30秒程度に短縮させることが可能となる。
【0069】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、上記で言及した以外にも種々の変形、変更を行うことが可能である。例えば、電子機器として携帯電話端末のみについて説明したが、本発明は、同様の課題がある他の任意の電子機器に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施の形態における移動機および製造治具の概略のハードウェア構成例を示した図である。
【図2】図1に示した移動機のNAND−Boot方式の説明図である。
【図3】移動機の起動時の処理として、本発明前の通常起動時と工程対応起動時の二つの処理を示した図である。
【図4】本発明前の工程対応起動時の処理の説明図である。
【図5】移動機の製造工程の概略の手順を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態におけるタスクテーブルの一例を示した図である。
【図7】本発明における工程対応起動時の処理例の説明図である。
【図8】本発明の実施の形態における移動機の電源ON時の動作例を表すフローチャートである。
【図9】図5の例に対応する移動機と製造治具の具体的な処理のシーケンスを表した図である。
【符号の説明】
【0071】
10…制御部、11…RF部、12…操作部、13…表示部、14…不揮発性メモリ、15…RAM、16…音声処理部、17…マイク、18…スピーカ、19…通信インタフェース、20…制御部、21…通信インタフェース、22…操作部、23…表示部、24…記憶部、100…移動機、200…製造治具、600…タスクテーブル、601…順序指定部分、602…必要タスク指定部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子機器の製造段階における複数の工程を実行するための製造治具と通信を行う接続手段と、
前記複数の工程の工程毎にタスク生成順序を定めたタスク生成順序情報、および、どのタスクの生成後に工程開始指示を出力するかを定めた必要タスク指定情報を含むデータテーブルを保存する不揮発性メモリと、
電源ON時に、指定された工程に対応するデータテーブルを参照して当該データテーブルに定められたタスク生成順序にタスクを生成するタスク生成手段と、
前記必要タスク指定情報で指定されたタスクの生成完了時に工程開始指示を前記製造治具に送出する手段と、
前記製造治具からの指示に応じて当該工程に対応した処理を実行する手段と
を備えた電子機器。
【請求項2】
ある工程の完了後に次に実行すべき工程を指定する工程指定情報を前記製造治具から受信したとき、当該工程指定情報を不揮発的に保存した後に電源をOFFする手段を備え、
前記タスク生成手段は、次の電源ON時に当該保存された工程指定情報に基づいて実行すべき工程および対応するデータテーブルを指定する
請求項1に記載の電子機器。
【請求項3】
工程指定情報が受信されてない場合にはデフォルトのタスク生成順序でタスクの起動を行う請求項1または2に記載の電子機器。
【請求項4】
前記複数の工程の各々は、前記電子機器の複数のデバイスに初期的に設定することが必要なデータを不揮発的に記憶することを含む請求項1に記載の電子機器。
【請求項5】
電子機器においてその製造段階に製造治具から調整値を設定する電子機器の調整値設定方法であって、
製造段階の複数の工程の工程毎にタスク生成順序を定めたタスク生成順序情報、および、どのタスクの生成後に工程開始指示を出力するかを定めた必要タスク指定情報を含むデータテーブルを不揮発的に保存するステップと、
製造治具から、次に実行する工程に対応するデータテーブルを指定する情報を受信するステップと、
電源ON時に前記指定されたデータテーブルを参照し、当該工程に対応するタスク生成順序情報および必要タスク指定情報を確認するステップと、
確認された順序でタスクの生成を行うステップと、
前記必要タスク指定情報で指定されたタスクの生成が完了した時点で電子機器が工程開始指示を製造治具に送出するステップと、
製造治具からの指示に応じて当該工程に対応した処理を実行するステップと
を備えた電子機器の調整値設定方法。
【請求項6】
電子機器の製造段階に調整値を設定する製造治具であって、
電子機器に対して次に実行する工程に対応するデータテーブルを指定する情報を前記電子機器へ送信する手段と、
前記電子機器から工程開始指示を受信する手段と、
前記工程開始指示に応じて当該工程を実行し、前記調整値を前記電子機器へ設定する手段と
を備えた製造治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−45482(P2010−45482A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−206725(P2008−206725)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【出願人】(501431073)ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ株式会社 (810)
【Fターム(参考)】