説明

電子秤の防風・防湿・防滴・防塵構造

【課題】 主として分離型質量計測装置の計量部における秤量皿部分の防風・防湿・防滴・防塵を効果的に行う構造の提案。
【解決手段】 計量部本体1に設けられた荷重伝達部材2に対してダイヤフラム3を配置して計量部本体1内の計量機構に対する防塵・防湿・防滴を行い、ダイヤフラム3にはダイヤフラムカバー4を配置し、ダイヤフラムカバー4の上部に風防部材5を配置して計量時の空気の流動による悪影響を防止し、ダイヤフラムカバー4の開口4A、風防部材5の開口5Daを経て風防部材5内に露出している荷重伝達部材2に対して皿受け計量部6を接続し、この皿受け部材6に対して秤量皿7を載置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は質量計測装置の防風(風除け)・防湿・防滴・防塵構造に係り、特に計量対象物の質量を計測する計量部と、計量部で計測した計測データを表示する表示部とが分離されている分離型質量計測装置に好適な防風・防塵・防滴・防湿構造に関する。
【背景技術】
【0002】
電子天秤と通称される電磁平衡式秤、或いはロードセル秤(以下これらの質量計を総称して「電子秤」とする)等においては最小の計量値が1μgのものも提供されている。このような微量を計測できる電子秤においては、測定環境の影響も受けやすく、例えば最小表示が10mg以下の電子秤の場合にはエアコン、人の移動等に伴う空気の流動により秤量皿が煽られて計量値が安定しなかったり或いは計量作業自体が不可能になったりする事態が生じている。
【0003】
このような観点から下記特許文献記載のような風防構造、防湿構造、防塵構造等が提案されている。
【特許文献1】特開2009−036583
【特許文献2】特開平9−043041
【特許文献3】特開平8−166280
【特許文献4】特開2006−071391
【特許文献5】特開2008−116224
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献のうち1乃至3は主として風防構造に関する発明であり、かつ4及び5は主として防水、防塵構造に関する発明である。
また上記の全ての発明に共通な技術的事項として、こらの発明を実施する対象の装置は、従来から提案されている単一型の電子秤、即ち計量機構とこの計量機構の計測結果を表示したり、各種設定を行う表示部が一体的な単一の装置として構成されている電子秤である。
【0005】
ここで、電子秤において、対象物の質量を計測する計量部と、この計量部で計測した計測データを表示したり、風袋引き等の計測に伴う各種設定を行なう入力部を設けた表示部とが個々に分離して構成され、両者を信号ケーブルで接続した質量計測装置(以下「分離型質量計測装置」とする)が提案され、かつ実際に使用されている。
【0006】
分離型質量計測装置の用途としては温度、湿度、気圧(圧力)等の計測環境が整えられた空間に計量部のみを配置し、表示部はこの環境外に置くことにより、整った計測環境空間の容量を小さくして計測環境空間保持のコストを低減したり、或いは逆に計量対象が放射性物質等の危険物である場合、計量部のみを密閉空間に配置して計量時の安全性を図る等の際に有効に利用される。
【0007】
また、最近では各種の製造ラインに設置されて所定の試料を自動的に計測する装置として利用されている。
この場合、製造ラインに対して十数台或いは数十台の計量部が近接配置され、作業の効率化が図られている。このため計量部の形状は後述する実施例で用いる図1の如く略直方体等の小型かつ単純な形状に構成されている。
【0008】
製造ラインに配置された分離型質量計測装置の計量部においては、ロボットのアームを用いたり、特別な滴下装置を用いたりする等、試料の計測が特定の機構を用いて行われている。このため扉を有する風防室を設ける構造は人手による丁寧な開閉動作を必要とするため事実上使用不可能であり、秤量皿が開放された状態でロボットのアーム等による動作を可能にする風防構造とする必要がある。
【0009】
また、ロボット等の機器による動作に対しては人間の繊細な動作を要求することは困難であり、これらの機器の作動時に粉体、或いは液体の質量をこぼした場合を想定して高い防湿、防塵性を有し、かつ後刻容易に清掃が可能な構造とする必要がある。
【0010】
上記の点に関して、ロボット等の自動装置による操作を全く前提としていない前記特許文献記載の各発明において、装置は当然人手による操作を前提とするため、操作に高度の繊細性が要求されたり、あるいは風防構造が大型であったり、清掃に難点があるなど、何れも製造ライン等で実施することは困難な構造となっている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記の問題点に鑑み構成されたものである。
即ち、本願発明は特に分離型質量計測装置の計量部に対して有効に実施できる防風・防湿・防滴・防塵構造であることを特徴とする。
【0012】
具体的には計量部内部の計量機構に対して試料の荷重を伝達し、かつ計量部内部と計量部外部を貫通する貫通部を有する荷重受けの当該貫通部をシールするダイヤフラムと、このタイヤフラムを防護するカバー部材と、このカバー部材の上部に取り付けられる風防部材と、この風防部材を周囲に配した荷重受けと接続する皿受け部材と、この皿受け部材に載置される秤量皿とからなることを特徴とす電子秤の防風・防湿・防滴・防塵機構であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
ダイヤフラムは荷重受けの貫通部を中心としてシールを行うことにより液体や粉体である試料が計量部内に進入するのを効果的に防止することができる。
【0014】
また、極力肉厚を薄くしたダイヤフラムを用いることにより秤の性能を阻害しないように構成しすると共に、このダイヤフラムはカバー部で覆われるため薄肉のダイヤフラムの脆弱性を防護することができる。
【0015】
秤量皿の周囲は風防部材の壁面により囲われ、秤量皿の横面に対する防風対策がほどこされ、かつ秤量皿の上部は開放されているので、計量部を製造ラインに設置してもロボットのアーム等の機器は扉の開閉等の複雑な動作をすることなく秤量皿に対して試料を容易に出し入れすることが可能となる。
【実施例1】
【0016】
以下本発明の実施例を図1を参考に具体的に説明する。
図1において、符号1は分離型質量計測装置のうち、ケーシング内部に計量機構を内蔵する計量部本体を示す。以下「計量部本体」の語は特に断らない限りケーシング及びケーシング内に収納された計量機構を含むものとする。この計量部本体1は図示しない表示部と通信ケーブルで接続し、計量部本体1で計測された試料の計量値が通信ケーブルを介して表示部に出力され表示される構成となっている。製造ラインに分離型質量計測装置が用いられる場合には、計量部本体1のみが製造ラインに多数配置され、試料が自動的に計測される。
【0017】
2は荷重伝達部材であり、符号2Aはこの荷重伝達部材2に接続すると共に、計量部本体1の内部に設けられた荷重計測機構(図示せず)に接続している。3は防湿・防滴・防塵部材としてのダイヤフラムであって、ウレタンゴム等の可撓性、伸縮性を有する材料により形成されると共にに、その弾性が荷重の計測に影響を与えないよう薄型に形成されている。このダイヤフラム3は伸縮性に富むため、中心に形成された開口部3Aを広げることより、計量部本体1側に予め取り付けれている荷重伝達部材2を挿通し、この開口部3Aが挿通部材2Aの周囲を覆うようにしてダイヤフラム取り付け面1Aに対してこのダイヤフラム3を密着させる。
【0018】
ダイヤフラム3がダイヤフラム密着面1Aに密着配置されたならば、ダイヤフラムカバー4をこのダイヤフラム3の上面に配置し、ダイヤフラムカバー4の挿通孔4a、ダイヤフラム3の挿通孔3aを介して図示しないビスを計量部本体1に形成したネジ孔1aに螺合させることよりダイヤフラムカバー4を介してダイヤフラム3を計量部本体1に固定し、かつこのダイヤフラム3をダイヤフラムカバー4により防護する。ダイヤフラムカバー4を設けることにより、ダイヤフラム3はその脆弱性を考慮することなく、専ら電子秤の性能確保のため薄型に形成することが可能となる。
【0019】
5は風防部材である。風防部材5は図2及び図3も含めて、四囲に壁面が形成された構造となっている。このうち5A、5Aは対向する一対の壁面であって下端縁が計量部本体1の上面に位置する壁面であり、かつ他の対向する壁面5B、5Bは計量部本体1の対向する側壁1B、1Bに沿った壁面であって、下部が前記計量部本体1の上面から下垂するよう構成され、このため前記壁面5A、5Aよりも上下方向において幅広に形成されている。
【0020】
5Cは壁面5A、5Aのうちの一方の壁面5Aから風防部材5の外部に展出している部材(以下「固定部材」とする)であって、当該固定部材5Cの挿通孔5Caを挿通したネジ8を計量部1に形成されたネジ孔1Cに螺合させることにより風防部材5を計量部本体1に固定するよう構成されている。また固定用のネジ8を図示の如く人手で回せるネジとしておけば、特別な工具を用いることなく風防部材5を計量部本体1に対して容易に着脱することができる。
【0021】
符号5Dは4つの壁面5A、5Bにより形成された風防部材5の内部において壁面5B、5Bに差し渡し配置されたカバー部であって、平面略十字状に形成され、かつ中央には開口5Daが形成されている(図2も併せて参照)。
【0022】
また前記十字型カバー部のうち壁面5B、5Bと接続する側は開口5Daを頂点として壁面5B、5Bに向かって下降する斜面部5Db、5Dbとなっている(図3参照)。
【0023】
次に図1に戻って、風防部材5を前記の要領で計量部本体1に取り付けることにより、予め計量部本体1側に取付られている荷重伝達部材2は、ダイヤフラムカバー4の開口4A、風防部材5の開口5Daを介して風防部材5内に露出している。この状態で皿受け部材6の裏面に突出した係合突部6Aを風防部材5の開口5Daを経て露出している荷重伝達部材2の係合穴2Bに挿入係合することにより、皿受け部材6と荷重伝達部材2を一体化させる。
【0024】
皿受け部材6の荷重伝達部材2に対する取り付けは前記係合突部6Aを荷重伝達部材2の係合穴2Bに挿入係合するだけで達成可能であるが、皿受け部材6の取り付けをより強固かつ確実にするには、皿受け部材6に形成された挿通穴6a、6aを介してビス(図示せず)を荷重伝達部材2のネジ孔2a、2aに螺合する。
【0025】
この状態で秤量皿7を皿受け部材6に載置することにより、防風・防湿・防滴・防塵機能を有し、かつ計量部本体1に対する試料の荷重を計量機構に伝達する機構が完成する。
【0026】
上記の完成状態においては図4及び図5に示すように、風防部材5のカバー部5Dの殆どは秤量皿7に覆われるが、液体の試料がこぼれても、この試料は風防部材5の各壁面5A、5Bの間に形成された空間部を介して風防部材5の下部、即ちダイヤフラムカバー4に滴下し、かつ風防部材5の壁面5B、5Bと計量部本体1の側壁1Bとの間には僅かな隙間が形成されているため、この隙間を介して流れ落ちる。また万一ダイヤフラムカバー4の開口4Aを経て試料の一部が滴下しても、ダイヤフラム3により液体は計量部本体1内に侵入するのが阻止される。
【0027】
試料が粉体の場合はより防御はし易く、粉体がこぼれても通常はダイヤフラムカバー4の表面に落下するのみであるため、製造ライン停止時等の時期を見て皿受け部材6を取り外し、かつネジ6を外して風防部材5を取り外すことより粉体を容易に掃除することができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
以上本発明を分離型質量計測装置を例に説明したが、計量部と表示部が一体的に構成された質量計測装置に対しても当然のことながら実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施例を示す計量部本体に対する防風・防湿・防滴・防塵構造の分解斜視図である。
【図2】風防部材の平面図である。
【図3】図2のA−A線による断面図である。
【図4】防風・防湿・防滴・防塵構造を施した計量部本体の側面図である。
【図5】防風・防湿・防滴・防塵構造を施した計量部本体の平面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 (分離型質量計測装置の)計量部本体
1A(計量部本体の)ダイヤフラム載置面
1a(ダイヤフラムカバー取り付け用)ネジ孔
1B(計量部本体の)側壁
1C(風防部材体取り付け用)ネジ孔
2 荷重伝達機構
2A(荷重伝達機構の)挿通部材
2a(皿受け部材取り付け用の)ネジ孔
2B(荷重伝達機構の)係合穴
3 ダイヤフラム
3A(ダイヤフラムの)開口部
3a(ダイヤフラムの)ネジ挿通孔
4 ダイヤフラムカバー
4A(ダイヤフラムカバーの)開口
4a(ダイヤフラムカバーの)ネジ挿通孔
5 風防部材
5A(風防部材の)壁面
5B(風防部材の)壁面(計量部本体1Bに接触する壁面)
5C(風防部材の)固定部材
5D(風防部材の)カバー部
5Da(カバー部の)開口
5Db(カバー部の)斜面部
6 皿受け部材
6A(皿受け部材の)係合突部
6a(皿受け部材の)ネジ挿通孔
7 秤量皿

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷重伝達部材及びこの荷重伝達部材の一部を成す挿通部材を介して秤量皿に載置された試料の荷重をケーシング内の計量機構に伝達する電子秤において、荷重伝達部材2の挿通部材2Aにはこの挿通部材2Aを囲むようダイヤフラム3が配置され、ダイヤフラム3の上部にはダイヤフラムカバー4が配置され、かつダイヤフラムカバー4の上部には風防部材5が配置され、風防部材5を周囲に配して上端が露出した荷重伝達部材2には皿受け部材6が接続し、皿受け部材6に対して秤量皿7が載置されるよう構成したことを特徴とする電子秤の防風・防湿・防滴・防塵構造。
【請求項2】
前記計量機構を内蔵するケーシングは分離型質量計測装置の一部を成す計量部本体1であって、前記風防部材5の四囲は対向する壁面5A、5A及び5B、5Bとして構成され、計量部本体1の側壁1Bに沿った壁面5B、5Bはその下端が計量部本体1の側壁1Bに下垂し、かつ下垂部と計量部本体側壁1Bとの間には僅かな隙間が形成されていることを特徴とする請求項1記載の電子秤の防風・防湿・防滴・防塵構造。
【請求項3】
前記風防部材5内にはカバー部5Dが配置され、かつカバー部5Dの略中央には荷重伝達部材2の上端が露出する開口5Daが形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の電子秤の防風・防湿・防滴・防塵構造。
【請求項4】
前記カバー部5Dは平面略十字形に形成され、かつ壁面5B、5Bに接続する側は開口5Daを頂点として壁面5B、5Bに向かって下降する斜面5Db、5Dbとして構成されていることを特徴とする請求項3記載の電子秤の防風・防湿・防滴・防塵構造。
【請求項5】
風防部材5の一方の壁面5Aからは風防部材5の外側に向かって固定部材5Cが展出し、この固定部材5Cの挿通孔5Caを介してネジを計量部本体1に形成されたネジ孔1Cに螺合することにより、当該風防部材5を計量部本体1に固定するよう構成したことを特徴とする請求項2乃至3の何れかに記載の電子秤の防風・防湿・防滴・防塵構造。
【請求項6】
前記風防部材5を固定するねじは人手で回転可能なねじとし、工具を使うことなく風防部材5の着脱を行うことを可能としたことを特徴とする請求項5記載の電子秤の防風・防湿・防滴・防塵構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−7608(P2011−7608A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−151017(P2009−151017)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(000127570)株式会社エー・アンド・デイ (136)