説明

電子素子及びその製造方法

【課題】希土類鉄酸化物を用いた電子素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】第1の半導体層と第2の半導体層とを接合させて形成したPN接合を備えた電子素子において、第1の半導体層を、酸化銅で形成した酸化物半導体層とし、第2の半導体層を、希土類鉄酸化物で形成した酸化物半導体層とする。第1の半導体層及び第2の半導体層の形成は、銅または銅合金で形成した導電層の表面に粉末状とした希土類鉄酸化物を被着させて被膜を形成する成膜工程と、熱処理することにより前記被膜から前記第2の半導体層を生成するとともに、前記導電層と前記第2の半導体層との間に前記第1の半導体層を生成する熱処理工程とにより行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子素子及びその製造方法に関するものであり、特に、少なくとも一方の半導体層を希土類鉄酸化物で形成しているPN接合を備えた電子素子及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的にPN接合を形成する場合には、シリコンやガリウムヒ素などの半導体材料、あるいは2-(4-tert-ブチルファエニル)-5-(4-ビフェニリ)-1,3,4-オキサジアゾールなどの有機半導体材料が用いられている。
【0003】
本発明者らは、三角格子の結晶構造を有する希土類鉄酸化物の研究を行っており、これらの希土類鉄酸化物では、微小な電場を印加することにより内部の電子状態が変化して、電気伝導度が変化することを見出し、この特性を利用することにより既存の電子素子よりも高特性の電子素子が提供できるものと考えている。
【0004】
そして、希土類鉄酸化物を層状に設けることにより光センサや太陽電池として使用する形態や(例えば、特許文献1参照。)、トランジスタ素子やメモリ素子として使用する形態(例えば、特許文献2参照。)についての提案を行った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2009/028424号
【特許文献2】国際公開第2009/028426号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、PN接合を形成するために希土類鉄酸化物を層状に設けた酸化物半導体層を形成した後、もう一方の半導体層を形成したり、電極などのその他の構造を形成したりする際に1000℃を超えるような高温の過熱状態とすると、希土類鉄酸化物からなる酸化物半導体層において鉄イオンの酸化数の変化が生じたり、あるいは酸素イオンの欠損が生じたりして、希土類鉄酸化物が有していた特性が消失するおそれがあった。
【0007】
したがって、希土類鉄酸化物からなる酸化物半導体層を有する電子素子を形成する場合には、当該酸化物半導体層の形成後に、高温状態となることを回避することが望ましく、比較的低温の加熱条件で電子素子を形成することが望ましいという問題があった。
【0008】
そこで、本発明者らは、比較的低温で形成できる半導体材料として有機物半導体に注目していたが、例えば有機物半導体を用いて太陽電池を形成した場合には、有機物半導体層部分が紫外線によって劣化しやすいという問題の解消が困難であり、必ずしも最良の解決手段とは言えなかった。
【0009】
このような状況下で、本発明者らは、銅を利用して半導体層を形成することによって上記の問題点を解決できることを知見し、本発明を成すに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の電子素子では、第1の半導体層と第2の半導体層とを接合させて形成したPN接合を備えた電子素子において、第1の半導体層を、酸化銅で形成した酸化物半導体層とし、第2の半導体層を、希土類鉄酸化物で形成した酸化物半導体層とした。
【0011】
さらに、本発明の電子素子では、第1の半導体層を、銅または銅合金で形成した導電層と第2の半導体層との間に設けることにも特徴を有するものである。
【0012】
また、本発明の電子素子の製造方法では、酸化銅で構成された酸化物半導体層からなる第1の半導体層と、希土類鉄酸化物で構成された酸化物半導体層からなる第2の半導体層とを接合させて形成したPN接合を備えた電子素子の製造方法であって、銅または銅合金で形成した導電層の表面に粉末状とした希土類鉄酸化物を被着させて被膜を形成する成膜工程と、熱処理することにより被膜から第2の半導体層を生成するとともに、導電層と第2の半導体層との間に第1の半導体層を生成する熱処理工程とを有することとした。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、酸化銅で形成した酸化物半導体層と、希土類鉄酸化物で形成した酸化物半導体層とを接合させてPN接合を形成した電子素子としたことにより、希土類鉄酸化物で形成した酸化物半導体層において鉄イオンあるいは酸素イオンの欠損を少なくすることができ、良質な酸化物半導体層が形成できることにより、良好な特性を有する電子素子を提供できる。
【0014】
特に、酸化銅で構成する酸化物半導体層は、銅または銅合金で形成した導電層の表面に粉末状とした希土類鉄酸化物を被着させて熱処理することにより希土類鉄酸化物で構成される酸化物半導体層を形成すると同時に形成できるので、酸化銅で構成される酸化物半導体層の形成工程を不要として、電子素子の製造コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態の電子素子の概略断面図である。
【図2】電流電圧計測結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明では、PN接合を備えた電子素子及びその製造方法において、PN接合を構成する一方の半導体層を希土類鉄酸化物で構成した酸化物半導体層とする一方、PN接合を構成する他方の半導体層を酸化銅で構成した酸化物半導体層としているものである。
【0017】
このように、酸化銅を用いてPN接合を形成することにより、有機半導体などのような紫外線劣化のおそれがなく、太陽電池や光センサとして使用した場合に紫外線劣化の影響を受けにくい太陽電池や光センサとすることができる。
【0018】
ここで、希土類鉄酸化物とは、Rを、In,Sc,Y,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Ti,Ca,Sr,Ce,Sn,Hfから選ばれる少なくとも1種類の元素とし、nを1以上の整数、mを0以上の整数、δを0以上0.2以下の実数として、(RFeO3-δ)n(FeO)mとして表される層状三角格子構造を有する酸化物である。なお、上記Rには希土類以外の元素を含んでいるが、便宜上、「希土類鉄酸化物」と呼ぶこととする。
【0019】
なお、鉄(Fe)の代わりに、Ti,Mn,Co,Cu,Ga,Zn,Al,Mg,Cdを用いた酸化物とすることも可能ではあるが、今のところ希土類鉄酸化物が最も効果的であるように思われる。Feの代わりにTi,Mn,Co,Cu,Ga,Zn,Al,Mg,Cdを用いて同様の効果が得られる場合には、当該酸化物は本発明でいう「希土類鉄酸化物」に含まれるものとする。
【0020】
以下において、具体的な実施例を詳説する。なお、本実施例では、希土類鉄酸化物としてはYbFe2O4を用いている。特に、YbFe2O4は粉末化しており、共沈法を利用して形成している。また、以下においては、電子素子は太陽電池として説明する。なお、本発明の電子素子は太陽電池に限定されるものではなく、PN接合を備えた電子素子であれば何であってもよい。
【0021】
本実施形態の電子素子は、図1に示すように、銅板からなる導電層11の上面に、酸化銅で構成した酸化物半導体層からなる第1導体層12と、希土類鉄酸化物で構成した酸化物半導体層からなる第2半導体層13と、透明電極層14とを順次積層させて構成している。
【0022】
ここで、第1導体層12はn型半導体層として機能し、第2半導体層13はp型半導体層として機能して、互いに接合させた第1導体層12と第2半導体層13とでPN接合を構成している。そして、導電層11を一方の電極とし、透明電極層14を他方の電極として、太陽電池として機能するようにしている。
【0023】
導電層11は、本実施形態では厚さ0.7mmの銅板で構成しており、単なる導電体として機能するだけでなく、支持基板の機能を兼ねるものとしている。なお、本実施形態では、銅板は、10mm×10mmの矩形板状としている。
【0024】
さらに、導電層11は導電体として機能するだけでなく、後述するように、酸化銅層を形成するための基材としても機能させることとしている。なお、導電層11は銅板製に限定するものではなく、銅合金製であってもよく、後述するように酸化銅層が形成できればよい。
【0025】
本実施形態では、製造効率の観点から、銅板を用いて導電層11を構成しているが、必ずしも銅板製あるいは銅合金板製である必要はなく、適宜の金属板製あるいはセラミックスなどの絶縁基板製の支持基板を用いるとともに、この支持基板の上面に銅被膜あるいは銅合金被膜を設けて導電層11としてもよい。支持基板は、後述する熱処理工程の関係上、900℃程度までの加熱に対して耐性を有していることが望ましい。
【0026】
第1導体層12は、酸化銅で構成される酸化物半導体層であり、後述するように熱処理によって第2導体層13を形成する際に同時に形成されるものである。第1導体層12の厚みは、10nm以上であればよく、第2導体層13の熱処理条件によって適宜調整できる。
【0027】
なお、第1導体層12は、導電層11の表面の銅または銅合金を酸化させてあらかじめ形成したり、あるいはCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いたりしてあらかじめ形成してもよい。ただし、第1導体層12のみ形成する工程を設けた場合には、製造工程が増えることにより製造コストが大きくなるため、第2導体層13と同時に形成する方が望ましい。
【0028】
第2導体層13は、粉末化したYbFe2O4をAD(Aerosol Deposition)法で導電層11の表面に吹き付けてYbFe2O4粉末の被膜を形成し、この被膜を熱処理によって多結晶性の薄膜として形成している。第2導体層13の厚みは、10nm以上であればよく、好適には50〜3000nmである。
【0029】
YbFe2O4粉末による被膜の形成は、AD法に限定するものではなく、YbFe2O4粉末を含有するペースト状のYbFe2O4粉末液を導電層11の表面に塗布して形成してもよく、適宜の方法で、導電層11の表面にYbFe2O4粉末の被膜を形成してよい。
【0030】
透明電極層14は、本実施形態では透明電極膜として既知の酸化亜鉛(ZnO)膜としている。なお、透明電極層14はn型ワイドギャップ半導体であることが望ましく、可視光に対して透明であればさらによい。
【0031】
以下において、本実施形態の電子素子の製造方法を詳説する。
【0032】
本実施形態の製造方法では、まず、成膜工程としてAD成膜装置を用いて導電層11の表面にYbFe2O4粉末の被膜を形成している。
【0033】
なお、YbFe2O4粉末の被膜が形成される導電層11の表面は、できるだけ清浄としておくことが望ましく、アルカリ洗浄あるいはアルコール洗浄等によって脱脂処理し、必要に応じてウエットエッチング処理またはドライエッチング処理などによって表面の酸化膜を除去しておくことが望ましい。
【0034】
AD成膜装置では、導電層11を構成する銅板をチャンバー内の所定位置に装着し、チャンバー内を減圧して、ヘリウムガスからなる搬送ガス中にYbFe2O4粉末を混合させてエアロゾルを生成し、このエアロゾルを導電層11の表面に吹き付けている。
【0035】
特に、AD成膜装置では、エアロゾルを吹き出しているノズルに対して銅板を移動させることにより、または、ノズルの方を移動させることにより、導電層11の表面に平面状にYbFe2O4粉末の被膜を形成している。
【0036】
YbFe2O4粉末の被膜の膜厚は、ノズルに対する銅板の移動速度を調整することにより調整可能であり、本実施形態では、1000nm程度の膜厚としている。ここで、YbFe2O4粉末は、粒径を10〜1000nm程度としており、エアロゾルを約100〜400m/s程度の流速として吹き付けを行っている。
【0037】
YbFe2O4粉末の被膜の形成後、AD成膜装置のチャンバーから銅板を取り出し、熱処理工程として加熱炉を用いて熱処理を行っている。
【0038】
ここで、加熱炉は、熱処理中の酸素分圧を制御可能としており、窒素雰囲気中で酸素分圧を10-12〜500Paに制御しながら、銅板を200〜900℃に加熱している。
【0039】
熱処理中の酸素分圧を500Pa以下とすることにより、YbFe2O4粉末の焼結の際に酸素欠損を生じることなく焼結させることができ、良質のYbFe2O4多結晶被膜からなる酸化物半導体層の第2導体層13を形成することができる。
【0040】
なお、酸素分圧の調整は、加熱炉中に送給する一酸化炭素ガスと二酸化炭素ガスの送給量を調整することにより、容易に調整できる。あるいは、水素ガスと二酸化炭素ガスとを用いて酸素分圧を調整したり、酸素ポンプを用いて調整したりしてもよい。
【0041】
YbFe2O4粉末は、200℃以上で熱処理することができ、900℃以上であっても問題なく熱処理できるが、製造コストとの兼ね合いから、加熱温度を200〜900℃としている。
【0042】
本実施形態では、酸素分圧を約100Paとし、900℃で熱処理しており、特に800℃以上の状態を5分間維持して熱処理を行った。熱処理時間は、数分程度であれば十分であり、500℃以上の状態を少なくとも10分間以上持続させるだけで、第2導体層13を形成することができる。
【0043】
特に、熱処理工程では、YbFe2O4粉末の被膜から第2導体層13を形成すると同時に、導電層11と第2半導体層13との間に酸化銅を膜状に生成させて酸化物半導体層からなる第1半導体層12を形成している。特に、本実施形態では、第1半導体層12はCu2Oとなっている。
【0044】
このように、第1半導体層12は、熱処理によるYbFe2O4粉末の被膜からの第2導体層13の形成にともなって形成できるので、第1半導体層12の形成工程を不要とすることができ、工程削減による製造コストの低減をはかることができる。
【0045】
第1半導体層12の厚みは、熱処理工程中の酸素濃度、加熱温度、加熱時間によって適宜調整でき、本実施形態では1000nm程度としている。
【0046】
熱処理工程によって第1半導体層12及び第2導体層13を形成した後、本実施形態では、第1半導体層12及び第2導体層13が形成された銅板をスパッタ成膜装置の所定位置に配置して、スパッタ法によって第2導体層13の表面にZnO膜からなる透明電極層14を形成して、電子素子としている。
【0047】
なお、図2に、透明電極層14の形成前の状態で、電子素子の電流電圧計測を行った結果を示す。図2に示すように、PN接合の特徴である整流特性が見られることから、第1半導体層12と第2導体層13とでPN接合が形成されていることがわかる。
【0048】
本実施形態では、それぞれの工程で使用する装置内に収容可能とするために、電子素子となる銅板を所定の大きさのものとしているが、例えば一方向に延伸させた帯状の銅板を用い、銅板の長手方向に沿って、AD成膜装置と、加熱炉と、透明電極配設装置とを配置して、銅板を順次通過させることにより、電子素子を連続的に製造することができる。
【符号の説明】
【0049】
11 導電層
12 第1半導体層
13 第2半導体層
14 透明電極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の半導体層と第2の半導体層とを接合させて形成したPN接合を備えた電子素子において、
前記第1の半導体層を、酸化銅で形成した酸化物半導体層とし、
前記第2の半導体層を、希土類鉄酸化物で形成した酸化物半導体層とした電子素子。
【請求項2】
前記第1の半導体層は、銅または銅合金で形成した導電層と前記第2の半導体層との間に設けている請求項1に記載の電子素子。
【請求項3】
酸化銅で構成された酸化物半導体層からなる第1の半導体層と、希土類鉄酸化物で構成された酸化物半導体層からなる第2の半導体層とを接合させて形成したPN接合を備えた電子素子の製造方法であって、
銅または銅合金で形成した導電層の表面に粉末状とした希土類鉄酸化物を被着させて被膜を形成する成膜工程と、
熱処理することにより前記被膜から前記第2の半導体層を生成するとともに、前記導電層と前記第2の半導体層との間に前記第1の半導体層を生成する熱処理工程と
を有する電子素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−198972(P2011−198972A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63624(P2010−63624)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人日本物理学会、日本物理学会講演概要集、第65巻、第1号第3分冊、平成22年3月1日発行
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】