説明

電子線照射装置および電子線照射システム

【課題】電子線の線量分布の平坦化を図る。
【解決手段】電子線照射装置100の電子銃110は、電子線EBを放出し、加速器118は、電子銃から放出された電子線を加速し、スキャンホーン120は、加速器で加速された電子線の照射方向を制御する。また、スキャンホーンは、被照射物Wに対して少なくとも一方向の走査処理を実行し、走査処理の折り返しにおいて、電子線の照射を所定時間滞留させる。こうして、被照射物の幅方向端部における線量不足を補い、被照射物に満遍なく電子線を照射して電子線の線量分布の平坦化を図ることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被照射物に電子線を照射する電子線照射装置および電子線照射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療器具や食品等の滅菌、樹脂の架橋や硬化、悪性腫瘍等の病巣の除去等、様々な分野で利用されている電子線照射装置(例えば、特許文献1、2)が知られている。このような電子線照射装置は、電子銃と加速器を備えており、電子銃中のカソード電極を高温に熱することで熱電子を生成し、その熱電子を加速器で加速して被照射物に照射する。
【0003】
被照射物は、例えば、コンベア等の搬送装置によって搬送され、電子線照射装置の照射領域において電子線の照射を受ける。電子線照射装置は、被照射物が照射領域を通過している間に、スキャンホーン中のスキャン電磁石によってコンベアの幅方向に電子線を走査することで、被照射物に満遍なく電子線を照射する。
【0004】
かかる電子線の走査は、コンベア幅方向の単純な往復運動(三角波電流)によって為される。また、三角波電流の振幅および繰り返し周期を変化させて被照射物に照射する電子線線量の総量を制御する技術が開示されている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−349998号公報
【特許文献2】特開2003−139898号公報
【特許文献3】特開2003−156600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述したような三角波の波形に基づく走査では、被照射物の幅方向(コンベア幅方向)端部における線量が不足し、平坦な線量分布を得ることができなかった。
【0007】
そこで本発明は、このような課題に鑑み、簡易な構成で被照射物に満遍なく電子線を照射し、電子線の線量分布の平坦化を図ることが可能な電子線照射装置および電子線照射システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の電子線照射装置は、電子線を放出する電子銃と、電子銃から放出された電子線を加速する加速器と、加速器で加速された電子線の照射方向を制御するスキャンホーンと、を備え、スキャンホーンは、被照射物に対して少なくとも一方向の走査処理を実行し、走査処理の折り返しにおいて、電子線の照射を所定時間滞留させることを特徴とする。
【0009】
スキャンホーンにおけるスキャン電磁石に印加する時間対電流波形は台形形状であってもよい。
【0010】
スキャンホーンは、被照射物の高さおよび一方向の幅の少なくとも一方に基づいて滞留時間を決定してもよい。
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の電子線照射システムは、電子線を放出する電子銃と、電子銃から放出された電子線を加速する加速器と、加速器で加速された電子線の照射方向を制御し、被照射物に対して少なくとも一方向の走査処理を実行するスキャンホーンとを有する電子線照射装置と、被照射物を一方向と垂直な方向に搬送する搬送装置と、を備え、スキャンホーンは、走査処理の折り返しにおいて、電子線の照射を所定時間滞留させ、搬送装置は、被照射物の高さおよび一方向の幅の少なくとも一方に基づいて被照射物の搬送速度を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、走査処理の折り返しにおいて電子線の照射を所定時間滞留させることで、被照射物の幅方向端部における線量不足を補い、被照射物に満遍なく電子線を照射して電子線の線量分布の平坦化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】電子線照射システムの外観斜視図である。
【図2】図1におけるY軸方向から電子線照射装置を観察した図である。
【図3】加速器の動作原理を説明するための説明図である。
【図4】スキャンホーンの走査処理を説明するための説明図である。
【図5】スキャンホーンの走査処理を説明するための説明図である。
【図6】スキャンホーンの走査処理を説明するための説明図である。
【図7】スキャンホーンの走査処理の他の例を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
(電子線照射システム1)
図1は、電子線照射システム1の外観斜視図であり、図2は、図1におけるY軸方向から電子線照射システム1を観察した図である。
【0016】
本実施形態における電子線照射システム1は、電子線を照射する電子線照射装置100と、当該電子線照射装置100に被照射物を搬送する搬送装置200とを含んで構成される。電子線照射システム1では、被照射物に対する電子線の照射態様を工夫することで、被照射物に対する電子線の線量分布の歪みを改善することを目的としている。ここでは、まず、前提となる電子線照射システム1の電子線照射装置100および搬送装置200の具体的な構成を簡単に述べ、その後、上記電子線の線量分布の歪み改善を実現する詳細な構成を説明する。
【0017】
(電子線照射装置100)
図1および図2に示すように、電子線照射装置100は、電子銃110と、高周波電源112と、導波管114と、プリバンチャ116と、加速器118と、スキャンホーン120とを備えて構成されている。なお、電子銃110、プリバンチャ116、加速器118、スキャンホーン120は、内部空間(真空室)が連続しており、この内部空間は、イオンポンプ等の真空ポンプ102で高真空状態から超高真空状態(例えば、10E−5Pa以下)に維持される。電子線照射装置100において、電子銃110から放出された熱電子は、プリバンチャ116、加速器118で加速され、スキャンホーン120を通過して、搬送装置200上の被照射物Wに向かって図1中Z軸方向に照射される。なお、図1では、理解を容易にするために電子線照射装置100を支持する支持機構を省略している。以下、電子線照射装置100の各機能部について詳述する。
【0018】
(電子銃110)
電子銃110は、例えば、三極管電子銃で構成され、交流電源104から供給された電力により、カソード電極を加熱して熱電子を生成し、グリッドパルス電圧によって間欠的に電子を引き出すと共に、カソード電極とアノード電極との間に高電圧のパルス電圧を印加して、引き出した電子をプリバンチャ116方向に加速する。
【0019】
(高周波電源112)
高周波電源112は、クライストロン等で構成される高周波増幅器112aと、高周波増幅器112aに電力を供給する高周波電源(電力供給部)112bと、パルストランス112cとを含んで構成され、導波管114を通じてプリバンチャ116および加速器118に、例えばSバンドに相当する3GHzのパルス状の高周波電力を供給する。
【0020】
(導波管114)
導波管114は、高周波電源112から供給される高周波の電圧を加速器118に供給する。導波管114には、六フッ化硫黄(SF)等の絶縁ガスが充填されており、高周波電源112から出力された電圧によって導波管114が放電してしまう事態を回避する。なお、導波管114の端部には、SFと真空とを隔て、SFを密閉するためのRF窓114a、114bが設けられている。
【0021】
(プリバンチャ116)
プリバンチャ116は、電子銃110と加速器118の間に設けられ、導波管114を通じて高周波電源112に接続されている。プリバンチャ116は、電子銃110から入射された電子線をバンチング(密度圧縮(速度変調))して、加速器118に送出する。具体的に説明すると、プリバンチャ116内は、高周波電源112から供給された高周波の電圧によって高周波電界が形成されており、プリバンチャ116を通過した電子線は、その高周波電界にバンチングされる。プリバンチャ116で電子線をバンチングすることにより、加速器118で加速された電子線のエネルギーの分散を小さくすることができ、電子線のエネルギーの均一性を向上させることが可能となる。
【0022】
ここで、プリバンチャ116によって圧縮された電子線の加速器118への入射タイミングと、加速器118における高周波の正位相とが同期すると、電子線は加速器118で効率よく加速される。したがって、プリバンチャ116から加速器118への電子線の入射タイミングを調整するために、プリバンチャ116の高周波導入部116aには、不図示の位相調整手段が設けられている。なお、電子線の圧縮率(バンチングされた電子線の長さ/バンチング前の電子線の長さ)も加速器118による加速効率に影響し、電子線の長さが短い程、加速化効率が向上する。したがって、供給する高周波の強度を調整して電子線の長さを調整するために、プリバンチャ116の高周波導入部116aには、不図示の減衰(アッテネータ)手段が設けられている。
【0023】
(加速器118)
図3は、加速器118の動作原理を説明するための説明図である。本実施形態では、加速器118として、定在波型の線形(リニアック)加速器を採用しているが、電子を加速できればよく、進行波型の線形加速器や、シンクロトロン、サイクロトロン等の円形加速器を採用することもできる。
【0024】
図3に示すように、電子銃110は、図3中、黒い塗りつぶしで示すように、電子線をZ軸方向に伸長した状態でプリバンチャ116の内部空間に放出する。そして、プリバンチャ116によるバンチング機能により、電子線は、Z軸方向に圧縮されて加速器118に入射される。
【0025】
加速器118は、内部に複数の加速空間130a、130b、130c(以下、130a、130b、130cを纏めて130で示す場合もある。)を有している。図3では理解を容易にするために、加速空間130として3つしか挙げていないが、本実施形態の加速器118は30程度の加速空間130を有する。なお、電子銃110から所定数の加速空間130の距離L(加速空間130における電子線の進行方向(図3中Z軸方向)の距離)は、電子銃110から遠ざかるに従って徐々に長くなるように構成され、所定の加速空間130以降の加速空間130の距離Lは、所定の長さに維持されるように構成される。
【0026】
高周波電源112から加速器118に高周波の電圧(例えば、3GHz)が供給されると、図3(a)に示すように、複数の加速空間130が空間共振器として機能し、空間共振器内に時間に伴って変化する電界が生じる。そして、このような時間に伴って変化する電界を通じて時限的に電子線を加速する。
【0027】
具体的に説明すると、加速器118の加速空間130は、高周波電源112から導入される高周波の電圧によって、例えば、図3(a)および図3(b)に示すように、Z軸方向に隣接する加速空間130に交互に正位相(進行方向に正(+)の空間電荷)と負位相(進行方向に負(−)の空間電荷)とが生じる。プリバンチャ116から放出された負の電荷を帯びている電子線は、図3(a)に示すように、時刻t0に加速空間130aに位置し、正(+)の空間電荷によってZ軸方向に加速される。そして、図3(b)に示すように、時刻t1において、隣接する加速空間130bに位置し、同様に正(+)の空間電荷によってZ軸方向に加速される。このように電子線の移動タイミングに、正(+)の空間電荷と負(−)の空間電荷との切換タイミングを同期させることで、電子線は加速器118内で徐々に加速され、最終的には、例えば10MeV程度まで加速されて、スキャンホーン120に入射される。
【0028】
(スキャンホーン120)
スキャンホーン120は、その内部空間が加速器118と連結され、加速器118の出口に対応した位置に設けられたスキャン電磁石120aと、加速器118と連結する端部と対向する端部に設けられた電子線取出部120bとを含んで構成され、電子線の照射方向を制御する(図1、図2参照)。
【0029】
スキャン電磁石120aは、ヨークとヨークに巻回したコイル(図示せず)で構成され、コイルに流れる電流値を調整することで交番磁界を発生し、加速器118からヨークギャップに入射された電子線を水平方向(図1中X軸方向)に走査(スキャン)する。電子線の進行方向は大凡鉛直方向(図1中Z軸方向)であるため、スキャン電磁石120aが鉛直方向に進行する電子線を水平面内の一方向(X軸方向)に走査することにより、被照射物Wの一方向に連続して電子線を照射することができる。電子線取出部120bは、例えば、50μm程度の厚みのTi箔で構成され、内部空間と大気とを隔てつつ、加速された電子線を大気中に通過させる。
【0030】
こうして、電子銃110で放出された電子線は、加速器118で加速されて、被照射物Wに照射される。
【0031】
(搬送装置200)
搬送装置200は、被照射物WをY軸方向に搬送するコンベア200aと、コンベア200aを移動自在に支持する支持体200bとを含んで構成される。ここでは、コンベア200aによって被照射物Wが照射領域Rを通過している間に、スキャンホーン120がコンベアの幅方向(X軸方向)に電子線を走査することで、被照射物Wに満遍なく電子線が照射されることとなる。
【0032】
(スキャンホーン120おける走査処理)
続いて、図4および図5を用いて、スキャンホーン120の走査処理を説明する。図4(a)および図5(a)において白抜き矢印で示すように、スキャンホーン120は、スキャン電磁石120aの電流値を制御して、電子線を搬送装置200の搬送方向に垂直な方向(X軸方向)に走査し、被照射物Wに満遍なく電子線を照射する。
【0033】
このとき、スキャン電磁石120aに図4(b)のような三角波電流を印加すると、電子線EBは被照射物WのX軸方向を往復することとなる。したがって、三角波電流の傾きが一定であれば、図4(c)に破線で示したように、被照射物Wに照射される電子線EBの線量は均一化され、その線量分布は平坦になるはずである。しかし、実際は、照射方向や被照射物Wまでの距離に応じてエネルギーの減衰量が異なるため、図4(c)の実線のように、被照射物WのX軸方向端部における線量が不足し、平坦な線量分布を得ることができない。
【0034】
そこで、本実施形態において、スキャンホーン120は、図5(b)の実線の如く、被照射物Wに対しX軸方向の走査処理を実行する際、走査処理の折り返し位置Kにおいて、電子線EBを所定時間滞留させる。ここでは、折り返し位置Kにおいて電流値を上限値または下限値でクリッピング(飽和)させているので、結果的に、スキャン電磁石120aに印加する時間対電流波形が台形形状となる(台形波)。ただし、ここでは、説明の便宜上、滞留時間が長いかのように表現しているが、実際は繰り返し周期に対して数%の長さほどしかない。
【0035】
このように、走査処理の折り返し位置Kにおいて走査自体を一時的に滞留(停止)することで、被照射物Wの両端部において電子線EBが比較的長時間照射され、三角波では、図5(c)中、一点鎖線で示したように被照射物Wの幅方向の端部において線量が不足していたところ、台形波では、図5(c)に実線で示したように、端部において線量が盛り上がるので、結果的に平坦(フラット)な線量分布を実現することが可能となる。
【0036】
ここでは、線量の平坦性に言及しているが、被照射物Wに電子線EBの線量を必要量以上満遍なく供給できれば足り、例えば、完全な平坦に対して±5%の線量が保証されればよい。
【0037】
ただし、図4(b)と図5(b)とを比較して理解できるように、本実施形態の走査処理において用いられる波形は三角波(図4(b)参照)と台形波(図5(b)参照)とで異なるものの、その周波数(繰り返し周期)やエネルギーは、図4(b)および図5(b)共に、例えば、19.1Hz、10MeVといったように所定の値が維持されている。これは周波数が高くなることによりインダクタンスが増大するのを回避すると共に、ある程度高い照射線エネルギーを確保するためである。
【0038】
(被照射物Wの高さおよび幅に応じた走査処理)
また、上述した三角波を通じた被照射物Wの幅方向端部における線量の不足は、電子線EBの照射元から被照射物Wとの相対距離によってその態様が異なる。すなわち、電子線EBの照射元から被照射物W表面までの距離が遠いほど(被照射物Wの高さが低いほど、または、被照射物Wの走査方向の幅が広いほど)、幅方向端部における線量の不足が大きい。これは相対距離が大きいほどエネルギーの減衰量が大きくなり、かつ、電子線EBが周辺に広がりやすく、線量もそのぶん分散されるからである。
【0039】
例えば、図6(a)のように、被照射物WのZ軸方向の高さhが、実線の如く図5の例より低い場合を検討する。この場合、電子線EBの照射元から被照射物Wとの相対距離が遠くなるので、走査処理を三角波で行った場合、図6(b)の実線のように、被照射物Wの幅方向端部における線量の不足が大きくなり、その平坦性がさらに損なわれることとなる。ここでは、図6(c)のように、時間対電流値の波形を台形形状とするのみならず、走査処理の折り返し位置Kにおいて、図5の例(図6(c)中、破線で示す。)と比較して、実線で示したように電子線EBの滞留時間を長くする。換言すれば、繰り返し周期(周波数)を維持するので台形形状の側辺の傾きが大きくなり、走査処理における電子線EBの移動速度が高くなる。こうすることで、図5(c)同様、平坦な線量分布を実現することが可能となる(図6(d)参照)。
【0040】
また、被照射物Wの走査方向(X軸方向)の幅に関しても、広いほど幅方向端部における線量の不足が大きいので、その分、走査処理の折り返し位置Kにおいて、電子線EBの滞留時間を長くとるとよい。したがって、電子線EBの滞留時間は、被照射物Wの高さおよび被照射物Wの走査方向の幅の関数(例えば一次関数)で表すことができ、被照射物Wの高さおよび被照射物Wの走査方向の幅の少なくとも一方が決定すれば、それに応じて走査処理の波形が決定される。こうして、被照射物Wの形状に拘わらず、被照射物Wの幅方向端部における線量不足を補い、被照射物Wに満遍なく電子線EBを照射して電子線EBの線量分布の平坦化を図ることが可能となる。
【0041】
また、通常、被照射物Wはロット毎にその高さや幅が決定されるので、電子線EBの滞留時間もロット毎に決定することができる。しかし、かかる場合に限らず、被照射物Wの高さや幅が逐次変化する場合、照射領域Rの前段において被照射物Wの高さや幅を、不図示の検出装置を介して検出し、それに応じてリアルタイムに電子線EBの滞留時間を変化させるとしてもよい。検出装置としては、レーザレーダ測距装置等、既知の様々な距離測定装置を用いることができる。例えば、レーザレーダ測距装置を被照射物WのX軸方向に2つおよびZ軸方向上方に1つ準備し、被照射物Wにレーザビームを投射し、このレーザビームが被照射物Wに当たって反射してくる光を受光し、この所要時間から被照射物Wまでの距離を測定して最終的に被照射物Wの高さおよび幅を導出する。
【0042】
(搬送装置200の制御)
しかし、上述したように、走査処理の折り返し位置Kにおいて、電子線EBの滞留時間を長くした場合であっても、周波数(繰り返し周期)およびエネルギーを固定としているので、走査処理における電子線EBの移動速度は高くなり、線量分布が全体的に低下する。そこで、搬送装置200は、被照射物Wの高さおよび一方向(X軸方向)の幅の少なくともいずれか一方に基づいて、または、電子線EBの滞留時間に基づいて、コンベア200aの速度を変化させ、必要な線量を確保する。具体的に、電子線EBの滞留時間が長くなるほど、コンベア200aの搬送速度を下げる漸減関数を用いる。
【0043】
かかる構成により、周波数(繰り返し周期)やエネルギーを維持しつつ、被照射物Wに満遍なく電子線EBを照射して、電子線EBの線量分布の全体量を確保すると共に線量分布の平坦化を図ることが可能となる。
【0044】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0045】
例えば、上述した実施形態においては、被照射物Wの搬送方向と垂直な方向に電子線EBを照射する機能をスキャンホーン120が担い、搬送装置200が搬送方向に被照射物Wを移動することで、被照射物Wの搬送方向にも電子線EBを満遍なく照射させていた。しかし、被照射物Wへの電子線EBの照射態様は、かかる場合に限らず、既存の様々な照射方法を採用することができる。例えば、スキャンホーン120におけるスキャン電磁石120aをさらにY軸方向にも傾けることで、電子線EBをY軸方向に移動させ、固定した被照射物Wに対して幅および長さ方向に走査するとしてもよい。
【0046】
また、上述した実施形態では、折り返し位置Kにおいて電流をクリッピングさせる例を挙げているが、かかる場合に限らず、走査処理における電子線EBの移動速度より低い変位の移動であれば足りる。例えば、図7(a)のように、折り返し位置Kの折り返し速度差Δvが小さくなるような波形であったり、図7(b)のように、折り返し速度の変化を一次曲線にして、緩やかに折り返す波形とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、被照射物に電子線を照射する電子線照射装置および電子線照射システムに利用することができる。
【符号の説明】
【0048】
EB …電子線
W …被照射物
1 …電子線照射システム
100 …電子線照射装置
110 …電子銃
112 …高周波電源
114 …導波管
116 …プリバンチャ
118 …加速器
120 …スキャンホーン
200 …搬送装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を放出する電子銃と、
前記電子銃から放出された電子線を加速する加速器と、
前記加速器で加速された電子線の照射方向を制御するスキャンホーンと、
を備え、
前記スキャンホーンは、被照射物に対して少なくとも一方向の走査処理を実行し、
前記走査処理の折り返しにおいて、前記電子線の照射を所定時間滞留させることを特徴とする電子線照射装置。
【請求項2】
前記スキャンホーンにおけるスキャン電磁石に印加する時間対電流波形は台形形状であることを特徴とする請求項1に記載の電子線照射装置。
【請求項3】
前記スキャンホーンは、前記被照射物の高さおよび前記一方向の幅の少なくとも一方に基づいて電子線の滞留時間を決定することを特徴とする請求項1または2に記載の電子線照射装置。
【請求項4】
電子線を放出する電子銃と、該電子銃から放出された電子線を加速する加速器と、該加速器で加速された電子線の照射方向を制御し、被照射物に対して少なくとも一方向の走査処理を実行するスキャンホーンとを有する電子線照射装置と、
前記被照射物を前記一方向と垂直な方向に搬送する搬送装置と、
を備え、
前記スキャンホーンは、前記走査処理の折り返しにおいて、前記電子線の照射を所定時間滞留させ、
前記搬送装置は、前記被照射物の高さおよび前記一方向の幅の少なくとも一方に基づいて該被照射物の搬送速度を制御することを特徴とする電子線照射システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−47616(P2013−47616A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185507(P2011−185507)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)