説明

電子線照射装置及び電子線透過ユニット

【課題】 窓部材が劣化するのを抑制することができる電子線照射装置及び電子線透過ユニットを提供する。
【解決手段】 電子線透過ユニット50は、電子線を発生する電子銃と、電子銃が発生した電子線を通過させる電子線通過孔が設けられた筐体と、を具備する電子線照射装置において、電子線通過孔の出射側開口部に配置されて、電子線通過孔を通過した電子線を透過させるためのものである。電子線透過ユニット50は、出射側開口部に取り付けられるための窓枠体50Aと、窓枠体50Aの内側に配置されたメッシュ部52bを有する支持部材52と、メッシュ部52b上に支持された窓部材55と、メッシュ部52bと窓部材55との間に配置された介在層59と、を備えている。窓部材55は、炭素を含む材料からなり、メッシュ部52bは、鉄を含む材料からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線照射装置、及びそれに用いられる電子線透過ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電子線照射装置として、真空引きされるチャンバと、チャンバ内に配置された電子銃と、チャンバに取り付けられた電子線透過ユニットと、を備えるものが知られている。このような電子線照射装置では、電子銃が発生した電子線がチャンバ内から電子線透過ユニットの窓部材を透過して外部に出射する。
【0003】
ところで、電子線の透過効率を高める観点からは、窓部材を薄膜化することが望ましいが、窓部材を薄膜化すると、窓部材の強度が低下してしまう。そこで、窓部材を窓枠体の内側において支持するための支持構造が種々提案されている(例えば特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−79891号公報
【特許文献2】特開2005−241588号公報
【特許文献3】特表平8−501651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような電子線照射装置においては、連続動作時の窓部材及び支持構造の高温化等によって、窓部材が劣化するおそれがある。
【0006】
本発明は、窓部材が劣化するのを抑制することができる電子線照射装置及び電子線透過ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電子線照射装置は、電子線を発生する電子銃と、電子銃が発生した電子線を通過させる電子線通過孔が設けられた筐体と、電子線通過孔の出射側開口部に配置された電子線透過ユニットと、を備え、電子線透過ユニットは、出射側開口部に取り付けられた窓枠体と、窓枠体の内側に配置されたメッシュ部を有する支持部材と、メッシュ部上に支持され、電子線通過孔を通過した電子線を透過させる窓部材と、メッシュ部と窓部材との間に配置された介在層と、を有し、窓部材は、炭素を含む材料からなり、メッシュ部は、鉄を含む材料からなる。
【0008】
本発明の電子線透過ユニットは、電子線を発生する電子銃と、電子銃が発生した電子線を通過させる電子線通過孔が設けられた筐体と、を具備する電子線照射装置において、電子線通過孔の出射側開口部に配置されて、電子線通過孔を通過した電子線を透過させるための電子線透過ユニットであって、出射側開口部に取り付けられるための窓枠体と、窓枠体の内側に配置されたメッシュ部を有する支持部材と、メッシュ部上に支持された窓部材と、メッシュ部と窓部材との間に配置された介在層と、を備え、窓部材は、炭素を含む材料からなり、メッシュ部は、鉄を含む材料からなる。
【0009】
本発明者らは、炭素を含む窓部材と鉄を含むメッシュ部との接触が窓部材の劣化の原因の一つとなっていることを突き止めた。つまり、電子線照射装置の連続動作等によって生じた窓部材の破損状況の分析の結果、炭素を含む窓部材と鉄を含むメッシュ部との接触部にピンホール等の損傷が生じていることが分かった。対して、これらの電子線照射装置及び電子線透過ユニットでは、メッシュ部と窓部材との間に介在層が配置されているため、窓部材が炭素を含む材料からなり、メッシュ部が鉄を含む材料からなっても、窓部材にピンホール等の損傷が生じるのを防止することができる。そして、窓部材が炭素を含む材料からなるため、窓部材の熱伝導率を高め、窓部材が高温になるのを抑制することができる。更に、メッシュ部が鉄を含む材料からなるため、メッシュ部の強度や加工性、耐熱性を向上させることができ、その結果、メッシュ部を構成する線材の小径化を図り、電子線を通過させ易くすることができる。以上のように、これらの電子線照射装置及び電子線透過ユニットによれば、窓部材が劣化するのを抑制することができる。
【0010】
また、介在層の熱伝導率は、メッシュ部の熱伝導率よりも高くなっていてもよい。この構成によれば、メッシュ部から介在層を介して窓部材に効率良く熱が伝播することになるため、メッシュ部が高温になるのをより一層抑制することができる。
【0011】
また、介在層の電気伝導率は、メッシュ部の電気伝導率よりも高くなっていてもよい。この構成によれば、窓部材とメッシュ部とを同電位にしやすいため、電子線照射特性の不安定化を抑制することができる。
【0012】
また、介在層は、金属材料からなってもよい。この構成によれば、介在層が高温になっても、介在層が安定に維持されるため、電子線照射特性の安定化を図ることができる。
【0013】
また、介在層は、メッシュ部に形成されていてもよい。この構成によれば、介在層とメッシュ部との間において熱及び電荷をより確実に伝播させることができる。また、介在層は、窓部材に形成されていてもよい。或いは、介在層は、メッシュ部及び窓部材と別体の膜であってもよい。これらの構成によれば、窓部材とメッシュ部との接触をより確実に防止することができる。
【0014】
また、窓枠体は、電子線通過孔の出射側開口部に固定された枠状の固定部材と、固定部材に対して少なくとも窓部材を押圧した状態で固定部材に固定された枠状の押圧部材と、を有し、支持部材は、内側にメッシュ部が張られた平板状の枠部を更に有し、固定部材及び押圧部材は、枠部において少なくとも窓部材を挟持していてもよい。この構成によれば、メッシュ部において窓部材が挟持される場合に比べ、固定部材及び押圧部材による挟持部分の封止を確実化することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、窓部材が劣化するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態の電子線照射装置の縦断面図である。
【図2】図1の電子線照射装置の電子線透過ユニットの分解断面図である。
【図3】図1の電子線照射装置の電子線透過ユニットの分解斜視図である。
【図4】本発明の他の実施形態の電子線透過ユニットの分解断面図である。
【図5】本発明の他の実施形態の電子線透過ユニットの分解断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
図1に示されるように、電子線照射装置1は、電子線通過孔20を形成するチャンバ(筐体)30と、電子線通過孔20の後端20aを塞ぐようにチャンバ30に気密に取り付けられた電子銃40と、電子線通過孔20の前端20bを塞ぐようにチャンバ30に気密に取り付けられた電子線透過ユニット50と、を備えている。電子銃40が発生した電子線EBは、電子線通過孔20をZ軸方向前側に進行し、電子線透過ユニット50を透過して外部に出射する。このような電子線照射装置1は、ライン上を搬送される照射対象物への電子線EBの照射によって、当該照射対象物の乾燥、殺菌、表面改質等を行うために使用される。なお、電子線照射装置1によって電子線EBが照射される側を前側、その反対側を後側とする。
【0019】
チャンバ30は、電子線を発生する電子銃40が取り付けられた筐体31を有している。筐体31は、金属により円柱状に形成されている。電子線通過孔20のうち筐体31によって形成される部分である電子線通過孔21の断面は、円形状となっており、電子線通過孔21は、前側の小径部と後側の大径部とが接続された形状となっている。
【0020】
電子銃40は、金属により直方体状に形成されたケース41を有している。ケース41は、筐体31の後端部に気密に固定されている。ケース41の前壁には、ケース41内と筐体31内とを連通させる開口41aが設けられている。ケース41の側壁には、コネクタ43を取り付けるための開口41bが設けられている。
【0021】
ケース41内には、絶縁性材料(例えば、エポキシ樹脂等)からなる絶縁ブロック42が配置されている。絶縁ブロック42は、ケース41内に収容された基部42aと、基部42aからZ軸方向前側に突出する突出部42bと、を有している。突出部42bは、基部42aから開口41aを介して電子線通過孔21の大径部内に突出しており、突出部42bの前端部は、Z軸方向において電子線通過孔21の小径部の後端に対向している。基部42aは、ケース41の開口41a側及び開口41b側の内面と接触している。基部42aにおいてケース41の内面と接触しない部分には、導電性材料からなるフィルム45が貼り付けられており、フィルム45は、ケース41と電気的に接続されている。これにより、絶縁ブロック42の表面電位を接地電位として、電子銃40の動作の安定性を向上させることができる。
【0022】
コネクタ43は、外部の電源装置から、カソードであるフィラメント44に高電圧を供給するためのものである。コネクタ43の基端部は、ケース41の側壁の開口41bを介して外部に突出しており、コネクタ43の先端部は、絶縁ブロック42に埋設されている。コネクタ43の先端部には、一対の内部配線46,46が接続されている。一対の内部配線46,46は、突出部42bの前端部まで延在しており、一対の給電用ピン47,47にそれぞれ接続されている。一対の給電用ピン47,47の先端部には、フィラメント44が掛け渡されている。突出部42bには、給電用ピン47及びフィラメント44を包囲するように、グリッド電極48が固定されている。
【0023】
筐体31には、電子線通過孔21の小径部を挟んで対になるようにアライメントコイル2及び集束コイル3が設けられている。電子銃40から出射して電子線通過孔21を通過する電子線EBは、アライメントコイル2によって、電子線EBの中心線が電子線通過孔20の中心線CLに一致するように調整された後、集束コイル3によって、電子線透過ユニット50に集束される。なお、筐体31には、電子線通過孔21と真空ポンプとを接続する排気管4が設けられており、これにより、チャンバ30内(すなわち、電子線通過孔20)が真空引きされる。
【0024】
また、チャンバ30は、筐体31の前端面に固定された偏向管(筐体)32を有している。偏向管32は、オーステナイト系ステンレス(Fe/Ni/Crを含む合金)からなり、四角柱状の外形を有している。偏向管32には、電子銃40が発生した電子線EBを入射させる入射側開口部32a、及び電子線EBを出射させる出射側開口部32bが設けられている。電子線通過孔20のうち偏向管32によって形成される部分である電子線通過孔22の断面は、Y軸方向を長手方向とする長方形状となっている。偏向管32の外側には、偏向管32の内側を通過する電子線EBを偏向する偏向コイル5が取り付けられている。集束コイル3によって集束されて電子線通過孔22を通過する電子線EBは、偏向コイル5によってY軸方向に偏向される。
【0025】
更に、チャンバ30は、偏向管32の前端面に固定された走査管(筐体)33を有している。走査管33は、アルミニウム合金(アルミニウムを含む材料)、例えばAl−Mg系アルミニウム合金からなり、前側に向かって末広がりの四角柱状の外形を有している。走査管33には、電子銃40が発生した電子線EBを入射させる入射側開口部33a、及び電子線EBを出射させる出射側開口部33b(電子線通過孔20の出射側開口部)が設けられている。電子線通過孔20のうち走査管33によって形成される部分である電子線通過孔23の断面は、Y軸方向を長手方向とする長方形状となっている。走査管33の外表面(外部に露出する表面)には、外部への放熱性を高める観点から、走査管33の内部よりも熱放射率の高い放熱膜34が設けられている。放熱膜34は、走査管33の外表面にアルマイト処理を施すことにより形成されたアルマイト層である。
【0026】
なお、偏向管32の後端部には、フランジ35が設けられており、偏向管32の前端部には、フランジ36が設けられている。また、走査管33の後端部には、フランジ37が設けられており、走査管33の前端部には、フランジ38が設けられている。偏向管32と走査管33とは、フランジ36とフランジ37とがOリング6を介して接触した状態で、複数のボルト7により気密に固定されている。これにより、偏向管32は、電子銃40が発生した電子線EBが内側を通過するように、走査管33の入射側開口部33aに接続されることになる。電子線照射装置1は、偏向管32の後端部に設けられたフランジ35を介して、適用先の設備の所定箇所に取り付けられる。
【0027】
電子線透過ユニット50は、走査管33の出射側開口部33bに配置されている。走査管33と電子線透過ユニット50とは、フランジ38と窓枠体50AとがOリング6を介して接触した状態で、複数のボルト7により気密に固定されている。図2及び図3に示されるように、電子線透過ユニット50は、走査管33の出射側開口部33bに取り付けられた窓枠体50Aを有している。窓枠体50Aの内側には(つまり、窓枠体50Aを前側から見た場合に窓枠体50A内に収まるように)、支持部材52及び窓部材55が配置されている。
【0028】
窓枠体50Aは、走査管33の出射側開口部33bに固定された固定部材51と、固定部材51に対して窓部材55を押圧した状態で、複数のボルトにより固定部材51に固定された押圧部材57と、を有している。固定部材51及び押圧部材57は、無酸素銅(銅を含む材料)からなり、Y軸方向を長手方向とする長方形枠状の外形を有している。固定部材51は、入射側開口51aを有しており、押圧部材57は、Z軸方向において入射側開口51aと対向する出射側開口57aを有している。固定部材51及び押圧部材57の外表面(外側に露出する表面)には、外部への放熱性を高める観点から、固定部材51及び押圧部材57の内部よりも熱放射率の高い放熱膜58が設けられている。放熱膜58は、固定部材51及び押圧部材57にニッケルめっきを施すことにより形成されたニッケル層である。
【0029】
支持部材52は、平板状の枠部52aと、枠部52aの内側に張られたメッシュ部52bと、を有している。なお、メッシュ部52bは、網状に限らず、桟状にしてもよい。支持部材52は、オーステナイト系ステンレス(鉄を含む材料)からなり、その表面には、介在層59が設けられている。介在層59は、支持部材52にニッケルめっきを施すことにより形成された厚さ数μm程度のニッケル膜である。これにより、介在層59は、メッシュ部52bに形成されて、メッシュ部52bと窓部材55との間に、窓部材55と接触した状態で配置されることになる。枠部52aは、メッシュ部52bが固定部材51の入射側開口51aに臨んだ状態で、ロウ付け等により固定部材51の前面に固定されている。なお、固定部材51の前面において枠部52aが固定される領域の外側には、入射側開口51aを包囲するように延在する溝51bが設けられており、溝51b内には、Oリング53が配置されている。
【0030】
窓部材55は、グラファイト(炭素を含む材料)からなる薄膜状の部材である。窓部材55は、支持部材52及びOリング53を覆うように、固定部材51の前面に配置されている。これにより、窓部材55は、メッシュ部52b上に支持され、走査管33の内側を通過した電子線EBを透過させることになる。なお、窓部材55と支持部材52の枠部52aとの間には、Z軸方向から見て入射側開口51aを包囲するように枠状に形成された保護シート54が配置されおり、窓部材55と押圧部材57との間には、保護シート54と略同等の形状に形成された保護シート56が配置されている。保護シート54,56は、窓部材55と同一の材料からなる薄膜状の部材であり、枠部52aや押圧部材57が窓部材55に直接接触して窓部材55が損傷するのを防止するものである。
【0031】
電子線透過ユニット50においては、押圧部材57が、支持部材52の枠部52a及びOリング53を介して、固定部材51に窓部材55を押圧している。そして、この状態で、固定部材51と押圧部材57とが、複数のボルト(押圧部材57に設けられた複数の貫通孔57bに挿通されて、固定部材51に設けられた複数のねじ孔51dに螺合されるボルト)により気密に固定されている。これにより、固定部材51及び押圧部材57は、支持部材52の枠部52aにおいて窓部材55を挟持することになる。なお、固定部材51には、電子線透過ユニット50を走査管33のフランジ38に固定するためのボルト7が挿通される複数の貫通孔51cが設けられている。
【0032】
以上のように構成された電子線照射装置1の動作について説明する。排気管4を介して真空ポンプによってチャンバ30内(すなわち、電子線通過孔20)が真空引きされ、フィラメント44に高電圧が印加されると、フィラメント44から電子が放出される。フィラメント44から放出された電子は、グリッド電極48によって形成された電界により加速及び集束され、これにより、電子線EBがZ軸方向前側に出射する。
【0033】
電子銃40から出射して電子線通過孔21を通過する電子線EBは、アライメントコイル2によって、電子線EBの中心線が電子線通過孔20の中心線CLに一致するように調整された後、集束コイル3によって、電子線透過ユニット50に集束される。集束コイル3によって集束されて電子線通過孔22を通過する電子線EBは、偏向コイル5によってY軸方向に偏向される。つまり、電子線通過孔23を通過する電子線EBの中心線がY軸方向に沿って線状に繰り返し振られる。
【0034】
偏向コイル5によってY軸方向に偏向された電子線EBは、電子線透過ユニット50の窓部材55を透過して外部に出射する。外部に出射した電子線EBは、照射対象物の乾燥、殺菌、表面改質等のために、ライン上を搬送される当該照射対象物に照射される。
【0035】
以上説明したように、電子線照射装置1及び電子線透過ユニット50では、窓部材55がグラファイトからなっている。これにより、窓部材55の熱伝導率を高め、窓部材55が高温になるのを抑制することができる。更に、支持部材52のメッシュ部52bがオーステナイト系ステンレスからなっている。これにより、メッシュ部52bの強度や加工性、耐熱性を向上させることができ、その結果、メッシュ部52bを構成する線材の小径化を図り、電子線EBを通過させ易くすることができる。そして、メッシュ部52bと窓部材55との間に介在層59が配置されている。これにより、窓部材55が炭素を含むグラファイトからなっており、メッシュ部が鉄を含むオーステナイト系ステンレスからなっていても、窓部材55にピンホール等の損傷が生じるのを防止することができる。よって、電子線照射装置1及び電子線透過ユニット50によれば、窓部材55が劣化するのを抑制することができる。
【0036】
また、介在層59の熱伝導率は、メッシュ部52bの熱伝導率よりも高くなっている(下記の表1参照)。これにより、メッシュ部52bの熱が介在層59から窓部材55に効率良く熱が伝播することになる。つまり、窓部材55を介して放熱しやすいため、メッシュ部52bが高温になるのをより一層抑制することができる。
【0037】
また、介在層59の電気伝導率は、メッシュ部52bの電気伝導率よりも高くなっている(下記の表1参照)。これにより、窓部材55とメッシュ部52bとを同電位にしやすいため、電子取り出し部近傍の電位がより安定化し、その結果、電子線照射特性の不安定化を抑制することができる。
【0038】
また、介在層59が金属材料(鉄を含まない金属材料)からなっているため、介在層59が高温になっても、介在層59を安定に維持して、電子線照射特性の安定化を図ることができる。また、介在層59がメッシュ部52bに形成されているため、介在層59とメッシュ部52bとの間において熱及び電荷をより確実に伝播させることができる。
【0039】
また、窓枠体50Aでは、固定部材51及び押圧部材57が支持部材52の枠部52aにおいて窓部材55を挟持している。これにより、支持部材52のメッシュ部52bにおいて窓部材55が挟持される場合に比べ、固定部材51及び押圧部材57による挟持部分の封止を確実化することができる。
【0040】
表1に、各種材料の特性を示す。介在層59の材料には、上述したように、その構成材料に鉄を含まないこと、メッシュ部52bの熱伝導率よりも高いこと、メッシュ部52bの電気伝導率よりも高いことが要求される。また、形成しやすさや環境性等を考慮すると、ニッケル、銅が特に好適である。
【表1】

【0041】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、介在層が、支持部材にニッケルめっきを施すことにより形成されたニッケル膜であったが、介在層は、少なくとも、支持部材のメッシュ部における窓部材側の表面に形成されたものであればよい。また、介在層をメッシュ部に形成する方法としては、めっきの他、蒸着やスパッタ等がある。
【0042】
また、図4に示されるように、固定部材51と押圧部材57との間にシート状のシール材61を配置し、固定部材51及び押圧部材57に窓部材55を挟持させた状態で、シール材61を溶融・再固化させることにより、固定部材51と押圧部材57とを気密に固定してもよい。この場合、上述したOリング53や、固定部材51に押圧部材57を固定するためのボルトが不要となる。更に、当該ボルトを挿通するための貫通孔57bの加工や、当該ボルトを螺合するためのねじ孔51dの加工も不要となる。
【0043】
また、図5に示されるように、介在層59は、支持部材52のメッシュ部52b及び窓部材55と別体の膜であってもよい。或いは、介在層59は、窓部材55に形成されていてもよい。これらによれば、窓部材55とメッシュ部52bとの接触をより確実に防止することができる。
【0044】
また、電子線照射装置及び電子線透過ユニットの各構成部材の材料及び形状には、上述した材料及び形状に限らず、様々な材料及び形状を適用することができる。一例として、介在層は、炭素を含む窓部材と鉄を含むメッシュ部とを離間させることができれば、膜状に限定されないし、鉄を含まない金属材料に限定されない。
【符号の説明】
【0045】
1…電子線照射装置、20,21,22,23…電子線通過孔、30…チャンバ(筐体)、31…筐体、32…偏向管(筐体)、33…走査管(筐体)、33b…出射側開口部、40…電子銃、50…電子線透過ユニット、50A…窓枠体、51…固定部材、52…支持部材、52a…枠部、52b…メッシュ部、55…窓部材、57…押圧部材、59…介在層、EB…電子線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を発生する電子銃と、
前記電子銃が発生した前記電子線を通過させる電子線通過孔が設けられた筐体と、
前記電子線通過孔の出射側開口部に配置された電子線透過ユニットと、を備え、
前記電子線透過ユニットは、
前記出射側開口部に取り付けられた窓枠体と、
前記窓枠体の内側に配置されたメッシュ部を有する支持部材と、
前記メッシュ部上に支持され、前記電子線通過孔を通過した前記電子線を透過させる窓部材と、
前記メッシュ部と前記窓部材との間に配置された介在層と、を有し、
前記窓部材は、炭素を含む材料からなり、前記メッシュ部は、鉄を含む材料からなる、電子線照射装置。
【請求項2】
前記介在層の熱伝導率は、前記メッシュ部の熱伝導率よりも高くなっている、請求項1記載の電子線照射装置。
【請求項3】
前記介在層の電気伝導率は、前記メッシュ部の電気伝導率よりも高くなっている、請求項1又は2記載の電子線照射装置。
【請求項4】
前記介在層は、金属材料からなる、請求項1〜3のいずれか一項記載の電子線照射装置。
【請求項5】
前記介在層は、前記メッシュ部に形成されている、請求項1〜4のいずれか一項記載の電子線照射装置。
【請求項6】
前記介在層は、前記窓部材に形成されている、請求項1〜4のいずれか一項記載の電子線照射装置。
【請求項7】
前記介在層は、前記メッシュ部及び前記窓部材と別体の膜である、請求項1〜4のいずれか一項記載の電子線照射装置。
【請求項8】
前記窓枠体は、前記電子線通過孔の前記出射側開口部に固定された枠状の固定部材と、前記固定部材に対して少なくとも前記窓部材を押圧した状態で前記固定部材に固定された枠状の押圧部材と、を有し、
前記支持部材は、内側に前記メッシュ部が張られた平板状の枠部を更に有し、
前記固定部材及び前記押圧部材は、前記枠部において少なくとも前記窓部材を挟持している、請求項1〜7のいずれか一項記載の電子線照射装置。
【請求項9】
電子線を発生する電子銃と、前記電子銃が発生した前記電子線を通過させる電子線通過孔が設けられた筐体と、を具備する電子線照射装置において、前記電子線通過孔の出射側開口部に配置されて、前記電子線通過孔を通過した前記電子線を透過させるための電子線透過ユニットであって、
前記出射側開口部に取り付けられるための窓枠体と、
前記窓枠体の内側に配置されたメッシュ部を有する支持部材と、
前記メッシュ部上に支持された窓部材と、
前記メッシュ部と前記窓部材との間に配置された介在層と、を備え、
前記窓部材は、炭素を含む材料からなり、前記メッシュ部は、鉄を含む材料からなる、電子線透過ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−24558(P2013−24558A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155993(P2011−155993)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)