説明

電子線装置

【課題】2個のOリングからなる二重シール構造のOリング間の真空引きを低コストに行うことのできる電子線装置を提供する。
【解決手段】電子銃部16を排気するための第1の真空ポンプRP2と、試料室12を排気するための第2の真空ポンプDPとを設けると共に、電子銃部16の開閉箇所をシールする二重シール構造の二重Oリング空間S1と第1の真空ポンプRP2を繋ぐ第1の排気経路D7、D4と、二重Oリング空間S1と試料室12を繋ぐ第2の排気経路D6とを設け、電子銃部16を開放する際には、第2の排気経路D6を遮断し、電子銃部16の閉鎖直後は、第1の排気経路D7、D4を連通させて二重Oリング空間S1及び電子銃部16を第1の真空ポンプRP2で粗引きし、その後、第1の排気経路D7、D4を遮断して第2の排気経路D6を連通させ、二重Oリング空間S1を試料室12経由で第2の真空ポンプDPにより排気する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料を配置するための試料室と該試料に対して電子線を照射するための電子銃とを備えた電子線装置に関し、特に該電子線装置の真空排気機構に関する。
【背景技術】
【0002】
電子線プローブ微小分析装置(Electron Probe MicroAnalyser:EPMA)では、高エネルギーを有する微小径の電子線を励起線として試料に照射し、それによって試料の含有成分の内殻電子が励起された際に外部に放出される固有X線を検出、測定することにより、元素の同定や定量を行ったり、元素の分布を調べたりする(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
前記EPMAは、試料を配置するための試料室と、該試料に対して電子線を照射するための電子銃を収容する電子銃部とを含んでおり、該試料室及び電子銃部の内部は、真空ポンプによってそれぞれ所定の真空度に維持される。
【0004】
従来、EPMAの電子銃においては、電子源としてタングステン製のフィラメントを用いるのが一般的であったが、近年では、CeBカソードをはじめとする結晶タイプのカソードも広く用いられるようになっている。結晶タイプのカソードは、タングステン製フィラメントに比べて長寿命であり、高い分解能が得られるという特徴があるが、その反面、安定して作動させるためには高い真空度が要求される。具体的には、タングステン製フィラメントを用いる場合、電子銃部内は1×10−3Pa程度以下の真空度でよいのに対し、結晶タイプのカソードを用いる場合には1×10−6Pa程度以下の真空度とする必要がある。
【0005】
従来のタングステン製フィラメントを用いるEPMAでは、電子銃部周辺の可動部や開閉部における気密性確保のためのシール機構として、エラストマーから成るOリングが用いられていた。しかし、こうしたエラストマー製Oリングは、より高い真空度が求められる結晶タイプのカソードを備えたEPMAにおいてはシール性が不十分な場合があった。一方、前記シール機構として金属製のOリング(メタルシール)や金属ベローズを用いれば高真空化に対応できるが、その場合、該開閉部や可動部の構造が複雑になる。特に、前記開閉部にメタルシールを用いる場合には、前記開閉部をボルト等によって固定する必要が生じるため、電子銃部の開閉や位置調整等を行う際にスパナ等の工具が必要となり、ユーザの作業負担が増大するという問題があった。
【0006】
そこで、本願発明者らは、こうした電子銃部周辺の開閉部や可動部におけるシール機構として、2個のエラストマー製Oリングを同心円状に配置した二重シール構造を採用することを提案した(特願2009-191656)。これによれば、開閉部の開閉や可動部における位置調整等の作業効率を低下させることなく、高真空下においても良好なシール性能を達成することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-127511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、従来のEPMAでは、試料室と電子銃部とをそれぞれ真空ポンプで排気しているが、このような電子線装置に上記のような二重シール構造を採用した場合、更に、2個のOリング間の空間についても真空引きを行う必要が生じる。しかし、このような2個のOリング間の空間の真空引きのために新たに真空ポンプを設けた場合、電子線装置の製造コストやランニングコストが増大するという問題がある。更に、このような場合、前記の空間用に設けた真空ポンプの動作を試料室用や電子銃部用の真空ポンプの起動及び停止に同期させて制御する必要があり、ポンプの制御が複雑化するという問題もあった。
【0009】
本発明は上記のような点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、大幅なコストの増大や制御の複雑化を招来することなく2個のOリング間の空間の真空引きを行うことのできる電子線装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明に係る電子線装置は、
試料が収容される試料室と、
前記試料室に収容された試料に照射するための電子線を発生する電子銃を内部に含む電子銃部と、
前記電子銃部を排気するための第1の真空ポンプと、
前記試料室を排気するための第2の真空ポンプと、
を備えた電子線装置において、
前記電子銃部が、電子銃を収容する筒状の容器本体と、該容器本体の一端の開口を開閉する蓋部と、前記容器本体と前記蓋部との間に設けられ、前記容器本体の軸方向及び軸方向と直交する径方向の少なくとも一方向に離れて配置された2個のOリングから成る容器シール機構とを有するものであって、
前記蓋部を閉鎖した直後は、前記容器シール機構の2個のOリング間の空間を前記第1の真空ポンプで排気して第1の真空度とし、その後、前記容器シール機構の2個のOリング間の空間を前記第2の真空ポンプで排気して前記第1の真空度より高い第2の真空度とすることを特徴としている。
【0011】
なお、容器本体は円筒状に限らないが、本発明では便宜上、軸方向と直交する方向を径方向と称する。
【0012】
前記第1の真空ポンプとしては、電子銃部の粗引き用ポンプとして従来から電子銃装置に設けられているものを利用することができ、前記第2の真空ポンプは試料室の本引き用ポンプとして従来から設けられているものを利用することができる。そのため、上記構成によれば、電子線装置に従来から設けられているポンプを利用して2個のOリング間の空間の粗引き及び本引きを行うことができ、大幅なコスト増大を招来することなく、前記容器シール機構の2個のOリング間の空間を高い真空度にして良好なシール性を達成することができる。
【0013】
なお、前記第1の真空ポンプとしては、例えば、ロータリポンプ等を使用することができ、前記第2の真空ポンプとしては、前記第1の真空ポンプよりも排気能力が高い(即ち、到達真空度が高い)ポンプ、例えば、拡散ポンプ、ターボ分子ポンプ等を用いることができる。また、前記第1の真空ポンプは前記試料室の粗引き用ポンプを兼ねたものであってもよい。
【0014】
また、上記本発明に係る電子線装置は、
前記容器シール機構の2個のOリング間の空間と前記第1の真空ポンプを繋ぐ第1の排気経路と、
前記容器シール機構の2個のOリング間の空間と前記試料室を繋ぐ第2の排気経路と、を備え、
前記蓋部を開放する際及び該蓋部の閉鎖直後は、前記第2の排気経路を閉鎖するものとすることが望ましい。
【0015】
このように、前記容器シール機構の2個のOリング間の空間と試料室を繋ぐ第2の排気経路を設け、前記試料室を介して前記第2の真空ポンプによる前記2個のOリング間の空間の排気を行う構成とすることにより、該第2の真空ポンプによる2個のOリング間の空間の真空排気のために設ける配管を短くすることができ、該空間を短時間で排気することが可能となる。また、上記のように、蓋部を開放する際及び該蓋部の閉鎖直後には、第2の排気経路を閉鎖することにより、大気圧又は低真空状態にある2個のOリング間の空間を前記試料室から切り離すことができ、該試料室内の真空度が低下するのを防止することができる。
【0016】
また、前記本発明に係る電子線装置は、
前記蓋部が、筒状の蓋本体と、前記蓋本体の内周部に位置調節可能に取り付けられ、前記蓋本体の内周部を閉塞すると共に前記電子銃を支持する支持板と、前記支持板と前記蓋本体との間に設けられ、前記蓋本体の軸方向及び軸方向と直交する径方向の少なくとも一方向に離れて配置された2個のOリングから成る蓋シール機構とを有するものであって、
前記蓋本体に形成され、前記容器シール機構の2個のOリング間の空間と前記蓋シール機構の2個のOリング間の空間とを繋ぐバイパス通路を備えたものとしてもよい。
【0017】
なお、蓋本体は円筒状に限らないが、本発明では便宜上、軸方向と直交する方向を径方向と称する。
【0018】
このような構成によれば、前記容器シール部の2個のOリング間の空間と蓋シール部の2個のOリング間の空間が前記バイパス経路によって連通した状態となるため、前記第1の真空ポンプ又は前記第2の真空ポンプによって前記容器シール部の2個のOリング間の空間を真空排気する際に、同時に前記蓋シール部の2個のOリング間の空間をも真空排気することができる。
【0019】
なお、電子線装置の電子銃部は、前記蓋部が設けられた開口の他に電子線を出射させるための開口を有しており、この開口の周りにも二重Oリング機構から成るシール機構を設けることが望ましい。そこで、本発明に係る電子線装置は、更に、
前記電子銃部の容器本体の他端の開口と、
前記他端の開口から出射された電子線を前記試料室へ導くための電子線通過部と、
前記電子線通過部と前記電子銃部の容器本体との間に前記他端の開口を囲むように設けられ、前記容器本体の軸方向及び軸方向と直交する径方向の少なくとも一方向に離れて配置された2個のOリングから成る通路シール機構と、
前記通路シール機構の2個のOリング間の空間と前記試料室とを繋ぐ第3の排気経路と、
を備えるものとすることが望ましい。
【0020】
このような構成とすることにより、前記通路シール機構の2個のOリング間の空間についても専用のポンプを設けることなく真空排気することができる。なお、該通路シール機構の2個のOリング間の空間は、電子銃部の蓋部の開閉に拘わらず、常時、試料室を介して第2の真空ポンプにより真空排気される。
【発明の効果】
【0021】
以上で説明したように、本発明に係る電子線装置によれば、2個のOリング間の空間の排気のために新たに真空ポンプを設ける必要がないため、大幅なコストの増大や制御の複雑化を招来することなく2個のOリング間の空間の真空引きを行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施例に係るEPMAの概略構成を示す模式図。
【図2】同実施例に係るEPMAの電子銃部周辺の構造を示す縦断面図。
【図3】蓋を開放した状態で示す図2相当図。
【図4】電子銃部の2個のシール機構を拡大して示す縦断面図。
【図5】本発明に係るEPMAの他の構成例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明をEPMAに適用した一実施例について図面を参照しながら説明する。図1は本発明の一実施例に係るEPMAの概略構成を真空排気系統を中心に記載した模式図であり、図2は電子銃部16の内部構成を示す縦断面図である。
【0024】
本実施例に係るEPMAは、電子銃14を収容した電子銃部16と、電子銃部16から出射された電子線を通過させる電子線通路E1を有するコンデンサレンズ部18と、被測定試料が配置される試料室12とを備えている。なお、ここでは図示を省略しているが、試料室12内には、試料を支持する試料台、試料から放射されるX線を波長別に分光する分光素子と分光された特性X線を検出するX線検出器等が収容されている。また、本実施例に係るEPMAは、更に、前記試料室12や電子銃部16等を所定の真空度に維持するための排気管やポンプ等から成る真空排気系統、及び前記各部の動作を制御する制御部100を備えている。
【0025】
電子銃14は電子発生部材を有するカソード20を備えている。本実施例のEPMAでは、電子発生部材として結晶タイプのカソードのひとつであるCeBカソードが用いられている。コンデンサレンズ部18(本発明の電子線通過部に相当)は、電磁偏向レンズとして機能する筒状のコイル(図示略)と、該コイル部の中心を通る筒状の電子線通路E1を有している。電子銃14から放射された電子線は電子線通路E1を通って試料室12内の試料に照射される。
【0026】
次に、電子銃部16の構成について図2〜図4を参照して説明する。電子銃部16はコンデンサレンズ部18の上端部に取り付けられており、円筒型の容器40と、容器40内に収容された電子銃14とを有する。
【0027】
コンデンサレンズ部18の上端面には環状凹部42が形成されており、電子銃部16の下面には前記環状凹部42内に配置される環状凸部44が形成されている。コンデンサレンズ部18の電子線通路E1は前記環状凹部42の内周の凸部の中心から軸方向(上下方向)に延びている。
環状凸部44は環状凹部42内を移動できるように構成されている。コンデンサレンズ部18の上部には外周面から環状凹部42に向かって延びる複数の孔が形成されており、前記孔にビス47を螺挿し、その先端で環状凸部44を押圧することにより環状凸部44、つまり電子銃部16が水平方向に移動されるようになっている。これにより、電子線通路E1の中心軸線と電子線の照射軸線との位置合わせをすることができる。
【0028】
容器40は、容器本体401と、この容器本体401にヒンジ402を介して連結された、該容器本体401の上部開口を開閉する蓋部404とから構成されている。容器本体401内の下部には該容器本体401の内部を電子銃室405とその下のバルブ室406とに仕切る仕切板407が設けられている。仕切板407の中央には導入孔50aを有する電子導入部材50が取り付けられている。電子銃14から放射された電子線は導入孔50aを通ってバルブ室406内に導入される。
バルブ室406の下面の中央には開口408が形成されており、該バルブ室406内には前記開口408を開閉する弁部材52が移動可能に収容されている。弁部材52は電子銃部16の外部に設けられたピストン54によって移動される。コンデンサレンズ部18の電子線通路E1の上端は前記開口408内に突出しており、弁部材52によって開口408が閉鎖されていないときはバルブ室406を介して電子線通路E1と導入孔50a(電子銃室405)とが連通する。
【0029】
蓋部404は、中央に開口409aを有するフランジ部409と、前記開口409aを塞ぐようにフランジ部409の上部に取り付けられたカバー410とから成る。また、フランジ部409の開口409a内には電子銃14を支持する支持板411が取り付けられている。電子銃14はコネクタ部141を介して高圧ケーブル(一点鎖線で図示)と接続されており、その下端部にカソード20が交換可能に取り付けられている。なお、図示しないが、フランジ部409には外周面から開口409aに向かって延びる複数の孔が形成されている。これらの孔にビスを螺挿して支持板411を押圧することにより該支持板411が水平方向に移動され、もって電子銃14のカソード20の位置合わせが成される。
【0030】
蓋部404を開いた様子を図3に示す。蓋部404はヒンジ402を支点として回動する。蓋部404を上方に回動させることにより蓋部404に固定された電子銃14も上方に移動し、電子銃14の先端のカソード20を交換することができる。
【0031】
上記構成のEPMAは、可動部である電子銃部16とコンデンサレンズ部18との間、電子銃部16の開閉部である蓋部404と容器本体401との間、可動部である支持板411とフランジ部409との間に、それぞれ特徴的なシール機構を備えている。以下、これらシール機構について順に説明する。
【0032】
〔電子銃部とコンデンサレンズ部との間のシール機構〕
図2に示すように、電子銃部16とコンデンサレンズ部18との間のシール機構60(本発明の通路シール機構に相当)は直径寸法が異なる2個のOリング61、62を備えている。これらOリング61、62はいずれもエラストマー製で、電子線通路E1の中心軸線を中心とする同心円から成る。一方のOリング61は、コンデンサレンズ部18の環状凹部42と電子銃部16の環状凸部44の間に配置されており、他方のOリング62は、コンデンサレンズ部18の環状凹部42で囲まれた凸部の上面と電子銃部16の下面との間に配置されている。いずれのOリング61、62も電子銃部16の下面に形成された環状溝部63、64に収容されている。これら大小2個のOリング61、62からなる二重シール構造により電子銃部16とコンデンサレンズ部18との間の間隙が気密に封止される。
【0033】
また、コンデンサレンズ部18には、環状凹部42のうち環状凸部44が位置しない領域の下面からコンデンサレンズ部18の外周部に向かって延びる排気通路65が形成されており、この排気通路65は排気管66に接続されている。
【0034】
〔電子銃部の容器本体と蓋部との間のシール機構〕
図2〜図4に示すように、電子銃部16の容器本体401と蓋部404との間のシール機構70(本発明の容器シール機構に相当)は直径寸法が異なる2個のエストラマー製のOリング71、72を備えている。容器本体401の周壁部の上端面は内周側が外周側よりも低い段違い面73になっており、これに対応して蓋部404(フランジ部409)の下面にも段違い面74が設けられている。2個のOリング71、72は容器本体401の段違い面73と蓋部404の段違い面74の間に配置されている。具体的には、一方のOリング71は、容器本体401の段違い面73の上段に形成された環状溝部75に収容されており、他方のOリング72は段違い面73の下段に形成された環状溝部76に収容されている。段違い面73の上段及び下段に環状溝部75、76を形成したことにより、大小2個のOリング71、72は容器本体401の内外方向及び上下方向に離れて配置される。これら大小2個のOリング71、72からなる二重シール構造により容器本体401と蓋部404との間の間隙が気密に封止される。
【0035】
また、容器本体401の段違い面73の下段と上段との間には環状の排気溝77が形成されている。容器本体401の周壁部には前記排気溝77と外部とを連通する排気通路78が形成されており、該排気通路78は排気管79、及び排気管80に接続されている。
【0036】
〔蓋部のフランジ部と支持板との間のシール機構〕
図2〜図4に示すように、蓋部404のフランジ部409と支持板411との間のシール機構81(本発明の蓋シール機構に相当)は直径寸法が異なる2個のエストラマー製のOリング82、83を備えている。フランジ部409の内周面には全周にわたって凹溝84が形成されており、この凹溝84よりも下部には内周に向かって突出する突出部85が設けられている。支持板411は、その周縁部が凹溝84に入り込んだ状態で突出部85の上面に支持されている。
【0037】
突出部85の上面は、内周部が低い段違い面86になっており、これに対応して、支持板411の外周部の下面にも段違い面87が形成されている。2個のOリング82、83は突出部85の段違い面86と支持板411の段違い面87の間に配置されている。具体的には、一方のOリング82は、突出部85の段違い面86の上段に形成された環状溝部88に収容されており、他方のOリング83は段違い面86の下段に形成された環状溝部89に収容されている。段違い面86の上段及び下段に環状溝部88、89を形成したことにより、大小2個のOリング82、83は蓋部404の内外方向及び上下方向に離れて配置される。これら大小2個のOリング82、83からなる二重シール構造により蓋部404のフランジ部409と支持板411との間の間隙が気密に封止される。
【0038】
また、フランジ部409の段違い面86の下段と上段との間には環状の排気溝90が形成されている。さらに、フランジ部409には、前記排気溝90と容器本体401の排気溝77とを繋ぐバイパス通路91が形成されている。前記バイパス通路91により、排気溝90は排気管79及び排気管80に接続される。
【0039】
なお、本実施例では、各シール機構60、70、81を構成する2個Oリングを容器本体401や蓋部404の内外方向及び上下方向に離れて配置した。特に、外周側のOリングを内周側のOリングよりも高い位置に設けたため、Oリング間の空間を排気するための排気通路を、該空間から容器本体401の外周部に向かって直接延ばすことができる。従って、容器本体401に排気通路を容易に加工することができる。
【0040】
次に、本実施例のEPMAにおける真空排気系統の構成について図1を参照して説明する。なお、以下では、排気溝90、バイパス通路91、及び排気溝77を一括して上側の二重Oリング空間S1と呼び、環状凹部42と環状凸部44で囲まれる空間を下側の二重Oリング空間S2と呼ぶ。
【0041】
試料室12は、排気経路D1を介してメインポンプである拡散ポンプDPに接続されており、該拡散ポンプDPの背圧側は、更に排気経路D2を介して補助真空ポンプであるロータリポンプRP1に接続されている。なお、排気経路D1上には該排気経路D1を開閉するためのメインバルブV7が設けられている。なお、前記メインポンプとしては、前記のような拡散ポンプの代わりにターボ分子ポンプ等を使用してもよい。
【0042】
電子銃部16は、排気経路D3を介してイオンポンプIPに接続されると共に、排気経路D4を介して粗引き用ポンプであるロータリポンプRP2に接続されている。前記排気経路D4上には、電子銃部16内を大気圧に戻すためのベントバルブLV1と、排気経路D4を開閉するための電子銃部用第一予備排気バルブV1及び電子銃部用第二予備排気バルブV2とが、電子銃部16側からロータリポンプRP2側に向かってこの順序で配設されている。また更に、排気経路D4上の電子銃部16とベントバルブLV1の間には接続点P1が設けられ、該接続点P1と試料室12との間に両者を接続する排気経路D5が設けられている。そして、この排気経路D5上には該排気経路D5を開閉するためのバイパスバルブV5が設けられている。
【0043】
電子銃部16と試料室12は、電子銃14から放射された電子線を試料室12へと導くための電子線通路E1によって接続されている。該電子線通路E1には、図示しないオリフィスが設けられており、これが抵抗となって電子銃部16と試料室12の間の圧力差が維持される。また、電子線通路E1は、上述のバルブ室406、弁部材52、及びピストン54を含むカラムバルブV6によって開閉できる構成となっている。
【0044】
上側の二重Oリング空間S1は、排気通路78と排気管79を含む排気経路D6を介して試料室12に接続されており、この排気経路D6上には該排気経路D6を開閉するための二重Oリング空間用メイン排気バルブV4が設けられている。また、上側の二重Oリング空間S1は、更に、排気通路78と排気管80を含む排気経路D7を介して、排気経路D4上の電子銃部用第一予備排気バルブV1と電子銃部用第二予備排気バルブV2の間に設けられた接続点P2にも接続されており、この排気経路D7上には該排気経路D7を開閉するための二重Oリング空間用予備排気バルブV3が設けられている。
【0045】
一方、下側の二重Oリング空間S2は、排気通路65と排気管66を含む排気経路D8を介して、排気経路D5上のバイパスバルブV5と試料室12との間に設けられた接続点P3に接続されている。
【0046】
なお、本実施例においては、ロータリポンプRP2が本発明における第1の真空ポンプに相当し、拡散ポンプDPが本発明における第2の真空ポンプに相当する。
また、本実施例における排気経路D7、接続点P2、及び排気経路D4が本発明における第1の排気経路に、排気経路D6が本発明における第2の排気経路に、排気経路D8、接続点P3、及び排気経路D5が本発明における第3の排気経路に相当する。
【0047】
以下、本実施例のEPMA装置の真空排気系統における制御部100の動作について説明する。
【0048】
(1)通常の動作時
通常の動作時(例えば、試料の分析時)には、バルブV1、V2、V3、V5が閉鎖され、バルブV4、V6、V7が開放される。これにより、試料室12は拡散ポンプDPによって排気され、10−4Pa程度の真空度に維持される。なお、拡散ポンプDPの背圧側はロータリポンプRP1によって排気される。また、電子銃部16はイオンポンプIPによって排気され、10−6Pa程度の真空度に維持される。更に、上側の二重Oリング空間S1は、排気経路D6及び試料室12を介して拡散ポンプDPによって排気され、下側の二重Oリング空間S2は、排気経路D8、接続点P3、排気経路D5、及び試料室12を介して拡散ポンプDPにより排気される。これにより、各二重Oリング空間S1、S2は、試料室12と同程度の真空度に維持される。
【0049】
(2)蓋部の開放時
電子銃14のメンテナンス(例えば、カソードの交換等)のために蓋部404を開く際には、まず、上記通常の動作時の状態から、バルブV4、V6を閉鎖することにより、電子銃部16及び上側の二重Oリング空間S1を試料室12から切り離す。続いて、バルブV1、V3及びベントバルブLV1を開放し、ベントバルブLV1から空気を導入することにより、電子銃部16と上側の二重Oリング空間S1の内部を大気圧とする。その後、ユーザが電子銃部16の蓋部404を開けて電子銃14のメンテナンスを行う。なお、電子銃部16及び上側の二重Oリング空間S1が大気開放されている間も、下側の二重Oリング空間S2は、引き続き試料室12経由で拡散ポンプDPにより真空排気される。
【0050】
(3)蓋部の閉鎖直後
電子銃14のメンテナンスが完了すると、ユーザによって電子銃部16の蓋部404が閉鎖される。この時点では、電子銃部16及び上側の二重Oリング空間S1は大気圧となっているため、これらを再び試料室12に接続する前に、まず、バルブV1、V2、V3を開放し、ベントバルブLV1を閉鎖した状態で、粗引き用のロータリポンプRP2により電子銃部16及び上側の二重Oリング空間S1の粗引きを行う。その後、粗引きが終了した時点、即ち電子銃部16及び/又は上側の二重Oリング空間S1が所定の真空度に達した時点(又は粗引きの開始から所定時間が経過した時点)で、バルブV1、V2、V3を閉鎖してロータリポンプRP2を停止する。そして、バルブV4、V5、V6を開放することにより電子銃部16及び上側の二重Oリング空間S1を再び試料室12と接続する。
【0051】
これにより、以降は上側の二重Oリング空間S1が排気経路D6及び試料室12を介して拡散ポンプDPにより真空排気されることとなり、該二重Oリング空間S1は試料室12と同程度の真空度(10−4Pa程度)に到達・維持される。また、電子銃部16は、排気経路D4、接続点P1、排気経路D5、及び試料室12を介して拡散ポンプDPにより試料室12と同程度の真空度まで排気され、その後、バイパスバルブV5を閉鎖してイオンポンプIPによる真空排気を行うことにより、10−6Pa程度の真空度に到達・維持される。
【0052】
以上のように、本実施例に係るEPMAでは、電子銃部16の蓋部404が閉鎖された直後は、ロータリポンプRP2によって上側の二重Oリング空間S1を電子銃部16と共に粗引きし、粗引きが完了した時点で、バルブ切替によって該二重Oリング空間S1を試料室12に連通させ、試料室12を介して拡散ポンプDPで本引きする。
【0053】
ロータリポンプRP2は、電子銃部16及び試料室12用の粗引き用ポンプとして従来よりEPMA装置に設けられているものであり、拡散ポンプDPも、試料室12の本引き用ポンプとして従来よりEPMA装置に設けられているものである。従って、本実施例に係るEPMA装置によれば、二重Oリング空間用に新たに専用のポンプを設けことなく該二重Oリング空間の真空排気を行うことができる。
【0054】
また、上記のようにロータリポンプRP2による粗引きを行ってから上側の二重Oリング空間S1を試料室12に連通させるため、試料室12の真空度を低下させるおそれがない。また、上側の二重Oリング空間S1を試料室12に連通させた後は、排気能力の高い拡散ポンプDPによって該上側の二重Oリング空間S1が真空引きされるため、上側の二重Oリング空間S1を高い真空度に維持して良好なシール性を得ることができる。なお、下側の二重Oリング空間S2は、常時、試料室12を介して拡散ポンプDPによって真空引きされるため、該下側の二重Oリング空間S2についても良好なシール性を得ることができる。
【0055】
また更に、上側の二重Oリング空間S1を試料室に連通させた後はロータリポンプRP2を停止させることができ、以降は、試料室と共通の拡散ポンプDPで上側の二重Oリング空間S1が真空引きされるため、上側の二重Oリング空間S1用に別途ポンプを設ける場合に比べてランニングコストを抑えることもできる。
【0056】
以上、実施例を用いて本発明を実施するための形態について説明を行ったが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲で適宜変更が許容されるものである。例えば、上記の実施例では、拡散ポンプDPの補助ポンプとして機能するロータリポンプRP1と、試料室12、電子銃部16及び上側の二重Oリング空間S1の粗引き用のポンプとして機能するロータリポンプRP2とを個別に設ける構成としたが、前記ロータリポンプRP1が粗引き用のロータリポンプの役割を兼ねる構成としてもよい。この場合、図5に示すように、拡散ポンプDPとロータリポンプRP1の間の排気経路D2上に接続点P4を設け、電子銃部16に接続された排気経路D4を前記接続点P4に接続する。
【0057】
なお、上記実施例では本発明をEPMAに適用した例を示したが、本発明は、その他の電子線装置、例えば、走査電子顕微鏡(SEM)、透過電子顕微鏡(TEM)、電子線描画装置等にも同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0058】
12…試料室
14…電子銃
16…電子銃部
18…コンデンサレンズ部
DP…拡散ポンプ
RP1、RP2…ロータリポンプ
IP…イオンポンプ
100…制御部
S1、S2…二重Oリング空間
D1〜D8…排気経路
V1〜V7…バルブ
LV1…ベントバルブ
E1…電子線通路
401…容器本体
404…蓋部
60、70、81…シール機構
61、62、71、72、82、83…Oリング
77、90…排気溝
91…バイパス通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料が収容される試料室と、
前記試料室に収容された試料に照射するための電子線を発生する電子銃を内部に含む電子銃部と、
前記電子銃部を排気するための第1の真空ポンプと、
前記試料室を排気するための第2の真空ポンプと、
を備えた電子線装置において、
前記電子銃部が、電子銃を収容する筒状の容器本体と、該容器本体の一端の開口を開閉する蓋部と、前記容器本体と前記蓋部との間に設けられ、前記容器本体の軸方向及び軸方向と直交する径方向の少なくとも一方向に離れて配置された2個のOリングから成る容器シール機構とを有するものであって、
前記蓋部を閉鎖した直後は、前記容器シール機構の2個のOリング間の空間を前記第1の真空ポンプで排気して第1の真空度とし、その後、前記容器シール機構の2個のOリング間の空間を前記第2の真空ポンプで排気して前記第1の真空度より高い第2の真空度とすることを特徴とする電子線装置。
【請求項2】
前記容器シール機構の2個のOリング間の空間と前記第1の真空ポンプを繋ぐ第1の排気経路と、
前記容器シール機構の2個のOリング間の空間と前記試料室を繋ぐ第2の排気経路と、を備え、
前記蓋部を開放する際及び該蓋部の閉鎖直後は、前記第2の排気経路を閉鎖することを特徴とする請求項1に記載の電子線装置。
【請求項3】
前記蓋部が、筒状の蓋本体と、前記蓋本体の内周部に位置調節可能に取り付けられ、前記蓋本体の内周部を閉塞すると共に前記電子銃を支持する支持板と、前記支持板と前記蓋本体との間に設けられ、前記蓋本体の軸方向及び軸方向と直交する径方向の少なくとも一方向に離れて配置された2個のOリングから成る蓋シール機構とを有するものであって、
前記蓋本体に形成され、前記容器シール機構の2個のOリング間の空間と前記蓋シール機構の2個のOリング間の空間とを繋ぐバイパス通路を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の電子線装置。
【請求項4】
前記電子銃部の容器本体の他端の開口と、
前記他端の開口から出射された電子線を前記試料室へ導くための電子線通過部と、
前記電子線通過部と前記電子銃部の容器本体との間に前記他端の開口を囲むように設けられ、前記容器本体の軸方向及び軸方向と直交する径方向の少なくとも一方向に離れて配置された2個のOリングから成る通路シール機構と、
前記通路シール機構の2個のOリング間の空間と前記試料室とを繋ぐ第3の排気経路と、
を更に備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電子線装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−44343(P2011−44343A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191978(P2009−191978)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】