説明

電子聴診器

【課題】高周波音を明瞭に聴取できる電子聴診器を提供する。
【解決手段】遮断周波数が300Hz以上かつ遮断特性が12dB/OCT以上のハイパスフィルタを設ける。
【効果】遮断周波数が300Hz以上かつ遮断特性が12dB/OCT以上のハイパスフィルタを設けることにより、共振周波数以上の帯域において遮断周波数以下の感度を遮断周波数付近の感度より小さくすることができ、遮断周波数以上の聴診音が、遮断周波数以下の音に邪魔されることなく明瞭に聴取できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子聴診器に関し、特に高音域を聴診し易い小型電子聴診器に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内で生じる音を取得し診断する装置として聴診器が広く一般に使われている。一般的に聴診器は身体表面から発せられる聴診音(すなわち、体内音)を受信するチェストピースと、これに接続され聴診音を音波として伝達する中空のチューブと、両耳用に2つに分岐した中空のチューブの先端に取り付けられたイヤーチップとから構成されている(例えば、非特許文献1参照)。
最近では、聴診音を一旦、電気信号に変換し電気回路により信号処理を施し、再度、音波に変換された聴診音を耳で聴取できる電子聴診器がある(例えば、非特許文献2参照)。さらに、聴診音を耳で聴取するだけでなく、信号処理装置により聴診音のデータ解析できるものもある。
【0003】
従来の一般的な聴診器はチェストピースからイヤーチップまで空洞を伝播する音波を耳で聴取するため、その音の大きさや周波数特性はチェストピースの形状や空洞の体積に依存する。特に、チェストピースは皮膚表面に接触させるため、聴取される音の大きさはチェストピースの大きさに依存する。新生児や乳幼児を聴診する時は聴診部位が小さいため、よりサイズの小さいチェストピースを使用するのが望ましい。しかしながら、サイズの小さいチェストピースを使用する場合、聴取する音も小さくなり聞こえ難くなる。
【0004】
ところで、電子聴診器は電気信号により信号処理を施すことができるため、信号を増幅して聴診することは可能である。電子聴診器の多くは、形状や大きさが昔ながらのアコースティック聴診器に類似しており、狭い部位の聴診には適さない。アコースティック聴診器に類似したチェストピースに一般的なマイクロフォンを装着した電子聴診器も知られている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、その電子聴診器は、チェストピースの空洞の構造は一般的な聴診器と同じで、マイクロフォン装着部には大きい空洞がある。
【0005】
ここで、アコースティック聴診器には、低周波音を聞き易くしたべルモードとこれより高周波音を聞き易くしたダイアフラムモードがあり、チェストピースの構造でこれら二つの周波数特性を調整している。電子聴診器においては電子回路によるハイパスフィルタおよびローパスフィルタにより、アコースティック聴診器に近い周波数特性に調整している。
【0006】
一般的に、聴診器は生体内で生じた音を、チェストピースを生体表面に接触させて聴取する。この時の周波数特性は弾性体である生体とチェストピースの構成により決まる。チェストピースの質量と生体等の弾性定数により共振周波数が存在し、この共振周波数以上では聴取される音は周波数が高くなるほど減衰する。生体内で生じる音は言い換えれば、生体内で生じる振動である。例えば、その振動が周波数に対して一定の大きさ(加速度)であったとしても、聴診器で聴取される音の大きさは、共振周波数以下であれば、質量に依存し、共振周波数以上では質量に依存せず、振動の振幅に依存する。振動の振幅は周波数の2乗に反比例するため、生体内で生じる振動が周波数に対して一定の大きさをもっていたとしても、共振周波数以上で周波数の2乗に反比例して減衰する。さらに、アコースティック聴診器では、チェストピースとイヤーチップとの間にチューブが存在するため、さらに周波数の高い音は減衰する。一般的な聴診器の生体を聴診する系での共振周波数は数100Hzであり、これ以上の周波数では感度が急激に減衰する。
したがって、心音のような、主に300Hz以下の帯域にあるような音については、聴診器を重くすることで、共振周波数以下の感度が増え、聴診しやすくなる。また、呼吸音等は実際には高い周波数の振動を含んでおり、共振周波数以上では感度が急激に滅衰するため、耳で聴診する場合、高周波音は低周波音にマスキングされ、聞き取ることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表平8−506495号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】3M Littmann CLASSIC II S.E. STETHOSCOPE 、[online]、スリーエムヘルスケア株式会社、[平成21年2月24日検索]、インターネット<URL:http://www.mmm.co.jp/hc/littmann/classic2se.html>
【非特許文献2】3M Littmann ELECTRONICS TETHOSCOPE MODEL4100、[online]、スリーエムヘルスケア株式会社、[平成21年2月24日検索]、インターネット<URL:http://www.mmm.co.jp/hc/littmann/es-4000.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように従来のアコースティック聴診器は数100Hzの共振周波数以上の音は高い周波数になるほど感度が減衰するため、共振周波数以上の周波数帯域の音は低周波音にマスキングされ十分聴取できていなかった。また従来の電子聴診器も聴診器が共振周波数以上で感度が減衰するという特性に着目せず、アコースティック聴診器の周波数特性に合わせていたため、高周波音を明瞭に聴取できていなかった。
本発明は、上述した従来技術の問題を解決するためになされたものであり、その目的は従来聴診することができなかった共振周波数以上の高周波音を明瞭に聴取できる電子聴診器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明による電子聴診器は、体表に接触させて音を採取するためのチェストピースを備えた電子聴診器であって、
1つ以上のハイパスフィルタを有し、遮断周波数の最も高いハイパスフィルタの遮断周波数が300Hz以上かつ遮断特性が12dB/OCT以上であることを特徴とする。この構成によれば、共振周波数以上で−12dB/OCTで感度が減衰し、聞き取り難かった高い周波数の音を明瞭に聴診することができる。さらに複数のハイパスフィルタを設けることにより、より低音域の不要な音を低減し、高い周波数の音を明瞭に聴診することができる。
【0011】
また、上記電子聴診器において、前記遮断周波数の最も高いハイパスフィルタの遮断周波数よりも高い遮断周波数を有するローパスフィルタを含んでいてもよい。この構成によれば、高周波側の不要な音をさらに低減することができ、所望の周波数帯域の音のみを聴診することができる。
さらに、上記電子聴診器において、前記遮断周波数を調整する遮断周波数調整手段を有してもよい。この構成によれば、聴診したい音の周波数に応じて、聴診器の感度特性を調整することができる。
【0012】
また、上記電子聴診器において、前記チェストピースは、その内部に、マイクロフォンを有してもよい。マイクロフォンを採用することにより、密閉空間の体積に対する、体表との接触面積の値を適切に設定でき、生体音を良好に取得することができる。
さらに、上記電子聴診器において、前記チェストピースは、接触する体表と共に密閉空間を形成するための開口部を有していてもよい。この構成によれば、チェストピースを生体表面に接触させることによって、生体音を良好に取得することができる。
【0013】
また、上記電子聴診器において、前記チェストピースは、体表に接触する振動板を有し、前記振動板と共に密閉空間を形成してもよい。この構成によれば、チェストピースを生体表面に接触させることによって、生体音を良好に取得することができる。
さらに、上記電子聴診器において、前記密閉空間内の前記開口部に設けられ前記チェストピースが前記体表に接触している時に前記密閉空間の体積の変化を抑えるための凸部を有してもよい。この構成によれば、チェストピースを生体表面に接触させたとき、体表あるいは振動板が撓むことによる密閉空間の体積の変化を抑え、密閉空間の体積に対する、体表との接触面積の値を適切に設定でき、生体音を良好に取得することができる。
【0014】
さらに、上記電子聴診器において、棒状の筐体を有し、チェストピースは、前記棒状の筐体の端部に設けられていることが望ましい。この構成によれば、棒状筐体の先端部を生体表面に接触させることによって、生体音を良好に取得することができ、しかも聴診する医師の手や腕の姿勢が自然になり、手や腕の疲れが少なくなる。
なお、上記電子聴診器において、前記マイクロフォンはMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)素子で構成されていることが望ましい。この構成によれば、チェストピースの音を採取する時の密閉空間の体積に対する、体表との接触面積の値を適切に設定することができ、生体音を良好に取得することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、チェストピースを備えた電子聴診器において、遮断周波数が300Hz以上かつ遮断特性が12dB/OCT以上であるハイパスフィルタを備えることにより、共振周波数以上の帯域において遮断周波数以下の感度を遮断周波数付近の感度より小さくすることができ、遮断周波数以上の聴診音が、遮断周波数以下の音に邪魔されることなく明瞭に聴取できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態による電子聴診器の信号処理回路の構成例を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態による電子聴診器の周波数特性を示す図である。
【図3】本発明の実施形態による電子聴診器の信号処理回路の別の構成例を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施形態による電子聴診器の外観を示す斜視図である。
【図5】本発明の電子聴診器のチェストピースの構成例を示す図である。同図(a)は断面図、同図(b)は外側から見た図である。
【図6】本発明の電子聴診器のチェストピースの構成例を示す図である。同図(a)は断面図、同図(b)は外側から見た図である。
【図7】本発明の電子聴診器のチェストピースの構成例を示す図である。同図(a)は断面図、同図(b)は外側から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、以下の説明において参照する各図では、他の図と同等部分は同一符号によって示されている。本実施形態においては人体の任意の皮膚表面に接触させて聴診に使用する電子聴診器について説明する。
(概要)
発明者は、電子聴診器の信号処理回路に遮断周波数が300Hz以上かつ遮断特性が12dB/OCT以上のハイパスフィルタをもうけることにより、共振周波数以上で−12dB/OCTで減衰し、聞き取りにくい高い周波数の音を明瞭に聴診できることを可能にした。
従来の電子聴診器は、コンデンサマイクロフォンが使用されていたが、本発明ではチェストピースの小型化のため、MEMS素子、すなわちシリコンマイクロフォンを使用している。
チェストピース内の密閉空間を所定の高さとすることで、皮膚表面からの生体音の振幅を可聴域で、十分な音圧とすることができる。
【0018】
(信号処理回路の構成例)
図1は、本発明による電子聴診器の実施形態に用いる信号処理回路の構成例を示すブロック図である。この信号処理回路は、チェストピース内のマイクロフォンで収集した生体音を信号処理する回路である。同図に示されているように、この信号処理回路は、チェストピースに内蔵され生体音を電気信号へ変換するマイクロフォン10と、第1および第2のハイパスフィルタ11および12と、電気信号を所望のレベルに増幅するパワーアンプ13と、電気信号を音声信号へ変換するイヤフォン14と、ハイパスフィルタ11および12の遮断周波数を制御する遮断周波数調整部15と、パワーアンプ13からイヤフォン14へ出力される音量を調整する音量調整部16とを備えている。
【0019】
マイクロフォン10はコンデンサマイクロフォン、コンタクトマイクロフォン等、皮膚表面の振動を電気信号へ変換できるものであれば何でも良い。マイクロフォン10からの信号は遮断周波数が変更可能な第1のハイパスフィルタ11へ入力され、生体音の低周波成分が減衰される。さらに第1のハイパスフィルタ11より低い遮断周波数を有する第2のハイパスフィルタ12へ信号が入力され、さらに低周波成分が減衰される。これらハイパスフィルタ11および12を通った電気信号はパワーアンプ13により所望のレベルに増幅され、電気信号を音声信号へ変換するイヤフォン14へ入力される。
【0020】
ここで、電子聴診器から出力される音の周波数特性を図2に示す。同図において、生体音は体内の音源から弾性体である生体組織を介して電子聴診器により聴取されるため、ここでは音源を周波数に対して一定の大きさの加速度を有する振動源として、そのときの電子聴診器から出力される音の周波数特性を示している。
同図中の曲線41はフィルタによる濾波を行わない場合の周波数特性である。この周波数特性では共振周波数42を有する。この共振周波数は電子聴診器の質量と生体組織等の弾性体とにより決定されるものであり、一般的な聴診器では数100Hz程度である。共振周波数以上では−12dB/octで減衰する。また、一般的なアコースティック聴診器ではチェストピースからさらにチューブ内を音が伝播するので、さらに周波数が高くなるほど減衰する。
【0021】
数100Hzから高周波数域にわたって生体音がある場合、高周波音は減衰されるため、低周波数音にマスキングされ十分聞き取ることができない。
同図中の曲線43は遮断周波数44のハイパスフィルタ11による濾波と、遮断周波数45のハイパスフィルタ12による濾波とを行った場合の周波数特性である。曲線41が共振周波数以上で−12dB/octで減衰するため、ハイパスフィルタ11の遮断特性を12dB/octにすることにより、共振周波数42より高い遮断周波数44以下の感度を平坦にすることができる。さらに遮断特性が12dB/octのハイパスフィルタ12により遮断周波数45以下の周波数の音をさらに低減させることができる。
【0022】
さらに遮断周波数調整部15により、ハイパスフィルタ11および12の遮断周波数を所望の生体音の周波数に設定することにより、所望の生体音を低周波帯域の音にマスキングされることなく明瞭に聴診することができる。なお、ハイパスフィルタ11および12の遮断特性は−12dB/oct以下で、望ましくは−24dB/octである。
また、図3のブロック図に示すように、ハイパスフィルタ11と、遮断周波数がハイパスフィルタ11の遮断周波数より高いローパスフィルタ17とを配置しても良い。ハイパスフィルタ11とローパスフィルタ17とを組み合わせることにより、特定の周波数帯域のみの音を明瞭に聴診することができる。
【0023】
(装置本体の構成)
図4は、本発明の実施形態による電子聴診器1の外観を示す斜視図である。同図において、電子聴診器1は、円柱ないし円筒形の筐体を有しており、その一端には生体の皮膚表面(図示せず)に接触させて音を採取するためのチェストピース2が設けられている。
また、電子聴診器1の筐体側面には、表示・操作部3が設けられている。電子聴診器1の電源の入り切り、音量の調整、モードの切替および表示が、この表示・操作部3によって行われる。
【0024】
さらに、電子聴診器1の筐体の他端には、生体音信号をヘッドホン、イヤフォン等の生体音再生装置へ伝達するための配線4が接続されている。なお、図示されていないが、電子聴診器1の筐体内部には、聴診音信号について処理を行うための信号処理回路や、信号処理回路へ電力を供給するバッテリーなどが設けられている。
電子聴診器1によって皮膚表面から取得される生体音の周波数特性は、チェストピース2の皮膚との接触面積と電子聴診器1の質量とに依存する。そして、接触面積に対する質量の値を大きくするほど共振周波数は低くなり、共振周波数以下の低音の感度が増加する。
【0025】
(チェストピースの第1の構成例)
図5は、図4の電子聴診器1に設けられているチェストピース2の第1の構成例を示す図である。同図(a)はチェストピースの断面図、同図(b)はチェストピースを同図(a)の矢印Yの方向から見た外観構成を示す図である。
図5を参照すると、プリント基板23にマイクロフォンパッケージ21が実装されている。マイクロフォンパッケージ21の中にはMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)素子であるマイクロフォンチップ22が内蔵されている。マイクロフォンパッケージ21の下側には音孔210が設けられており、さらにプリント基板23の同じ位置にも音孔230が設けられている。プリント基板23はチェストピースの外側筐体24の内側に設けられている。
【0026】
外側筐体24には、開口部25が設けられている。音孔230および210の位置が開口部25の範囲に含まれるように、プリント基板23が外側筐体24の内側に設けられている。外側筐体24の開口部25の部分を、人体の任意の皮膚表面に接触させることにより、音孔230および210を介して、マイクロフォンチップ22によって生体音が取得される。
【0027】
ここで、同図(b)を参照すると、生体音聴診時に、チェストピースは皮膚表面に接し、マイクロフォンパッケージ21、プリント基板23、筐体24と皮膚とで密閉空間26が形成される。密閉空間26内の音圧は、密閉空間の体積と開口部25の皮膚表面の振幅との比によって決定される。皮膚表面での生体音の振幅は、可聴域では呼吸時で0.3μm程度である。この場合、開口部25の単位面積当たりの密閉空間の高さを3mmとすると、生体音による音圧は10Paとなる。一般的なマイクロフォンの最大入力音圧は10〜20Pa程度であり、密閉空間の体積を制限することにより、生体音を歪ませること無く高感度に取得することができる。
【0028】
MEMS素子によるマイクロフォンは、マイクロフォンパッケージ21の体積が小さい。例えば、Knowles社製、SP0208LE5では外形体積が28.9mm3である。このため、MEMS素子によるマイクロフォンを利用することにより、チェストピースの開口部の直径が3mm程度でも密閉空間26の音圧を十分確保できる。このため、チェストピースの外径を、従来にない大きさに小型化しても良好に聴診できる。
なお、筐体24の材質は特に限定されるものではなく、硬質の樹脂でも良い。もっとも皮膚との密着性を高めるには、シリコンゴムのような弾性材料が望ましい。
【0029】
(チェストピースの第2の構成例)
図6は、図4の電子聴診器1に設けられているチェストピースの第2の構成例を示す図である。同図(a)はチェストピースの断面図、同図(b)はチェストピースを同図(a)の矢印Yの方向から見た外観構成を示す図である。
図6に示されているチェストピースの基本構成は、図5の場合と同じである。ただし、図6に示されているチェストピース2においては、振動板(ダイヤフラム)37が設けられている点が図5の場合と異なる。チェストピース2の外側筐体34に、凹部が設けられている。そして、外側筐体34の開口部35を塞ぐように、この凹部に振動板37が嵌合されている。振動板37は、電子聴診器の使用時に、体表に接触し、生体音をチェストピース2の内部に伝達する。
【0030】
振動板37が設けられていることにより、密閉空間36が構成される。この振動板37を設けることにより、振動板37が設けられていない場合よりも、密閉空間36の体積を制限することができる。このような構成により、生体音を歪ませること無く高感度に取得することができる。
振動板37の材質は特に限定されるものではない。ただし、ガラスエポキシ板のような硬質板を振動板37として用いる場合、チェストピース2において振動板37の周辺部340はシリコンゴムのような弾性材料で形成する必要がある。望ましくは、外側筐体34、振動板37は一体のシリコンゴムとし、電子聴診器の筐体から脱着可能なものとする。
【0031】
(チェストピースの第3の構成例)
図7は、図4の電子聴診器1に設けられているチェストピースの第3の構成例を示す図である。同図(a)はチェストピースの断面図、同図(b)はチェストピースを同図(a)の矢印Yの方向から見た外観構成を示す図である。
図7に示されているチェストピースの基本構成は、図6の場合と同じである。ただし、図7に示されているチェストピース2においては、密閉空間36内の開口部35に凸部38が設けられている。本例では、一端がプリント基板23に接触し、かつ、他端が振動板37に接触する位置に、凸部38が設けられている。そして、本例では、音孔230の位置を囲むように、円柱形の凸部38が4個設けられている。
【0032】
凸部38が設けられることによりチェストピース2を体表に強く押し付けたとき、振動板37が撓んで音孔230を塞ぎ、感度が低下するのを防ぐことができる。
なお、凸部38は振動板37と一体で形成しても良いし、プリント基板23と一体で形成しても良い。また、凸部38は、本例の場合に限定されるものではなく、体表あるいは振動板が撓むことによる密閉空間の体積の変化を抑えることができるように、その位置や個数、形状を適宜調整すればよい。
【符号の説明】
【0033】
1 電子聴診器
2 チェストピース
3 表示・操作部
4 配線
10 マイクロフォン
11、12 ハイパスフィルタ
13 パワーアンプ
14 イヤフォン
15 遮断周波数調整部
16 音量調整部
17 ローパスフィルタ
21 マイクロフォンパッケージ
22 マイクロフォンチップ
23 プリント基板
24、34 筐体
25、35 開口部
26、36 密閉空間
37 振動板
38 凸部
210、230 音孔
340 周辺部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体表に接触させて音を採取するためのチェストピースを備えた電子聴診器であって、
1つ以上のハイパスフィルタを有し、遮断周波数の最も高いハイパスフィルタの遮断周波数が300Hz以上かつ遮断特性が12dB/OCT以上であることを特徴とする電子聴診器。
【請求項2】
請求項1に記載の電子聴診器において、前記遮断周波数の最も高いハイパスフィルタの遮断周波数よりも高い遮断周波数を有するローパスフィルタを含むことを特徴とする電子聴診器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電子聴診器において、前記遮断周波数を調整する遮断周波数調整手段を有することを特徴とする電子聴診器。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の電子聴診器において、前記チェストピースは、その内部に、マイクロフォンを有することを特徴とする電子聴診器。
【請求項5】
請求項4に記載の電子聴診器において、前記チェストピースは、接触する体表と共に密閉空間を形成するための開口部を有することを特徴とする電子聴診器。
【請求項6】
請求項4に記載の電子聴診器において、前記チェストピースは、体表に接触する振動板を有し、前記振動板と共に密閉空間を形成することを特徴とする電子聴診器。
【請求項7】
請求項5または6のいずれか1項に記載の電子聴診器において、前記密閉空間内の前記開口部に設けられ前記チェストピースが前記体表に接触している時に前記密閉空間の体積の変化を抑えるための凸部を有することを特徴とする電子聴診器。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項に記載の電子聴診器において、棒状の筐体を有し、前記チェストピースは、前記棒状の筐体の端部に設けられていることを特徴とする電子聴診器。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の電子聴診器において、前記マイクロフォンがMEMS素子で構成されていることを特徴とする電子聴診器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−83372(P2011−83372A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−237438(P2009−237438)
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)